ここだけナツが黒服の実験体 Part2

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:25:50

    キヴォトスのどこかの学園をドロップアウトした不良が黒服との契約と実験によって

    「柚鳥ナツ」の名前と立場を与えられた世界


    以下前スレのダイス結果反映

    ここだけナツが黒服の実験体|あにまん掲示板キヴォトスのどこかの学園をドロップアウトした不良が黒服との契約と実験によって「柚鳥ナツ」の名前と立場を与えられた世界かつての不良としての記憶はそのまま古風だったり妙に博識なのは黒服からの影響とするスイ…bbs.animanch.com

    かつての不良としての記憶は摩耗しておりほとんど覚えていないが実験のリスクで執着だけは覚えている

    黒服にはどん底から願望(ロマン)を満たす契約を結んでくれて感謝し、悪い大人だとは理解しているが恩義と情から裏切れない

    ……だったが幾度となく手を汚させられロマンを見つけたので縁を切りたいが契約は絶対で縛られている

    古風だったり妙に博識なのは黒服からの影響とする、スイーツ部に所属しているのも変わらない


    実験体になった理由は困窮からトリニティのお嬢様の生活に憧れていたから

    出目がダブったので執着が2乗

    普段はトリニティで学生生活を送っているが、「契約」で有事には正体を隠して黒服の部下として動く


    戦闘能力はホシノ*テラー/暁のホルスの6割


    スレ画は実験後の本来の姿

    普段は原作ナツの姿に偽装し有事に動く際はゲマトリア産の道具で認識を阻害している

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:26:37

    立て乙です

  • 3二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:27:03

    待ってた
    SS楽しみ

  • 4二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:27:19

    このスレ立てもまたロマンだね
    感謝あ

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:27:58

    アイデンティティクライシスしそうなナツ好き

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:28:17

    かんしゃあ

    >>4

    ナツにとっては悪夢だよ

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:28:45

    生きながら緩やかに緩やかに拷問されてるナツ好き

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:29:31

    たて乙

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:29:32

    たておつ

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:30:22

    全部捨てるのは怖いよね

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:33:04

    仕事の関係で、今夜はSS書けそうになさそうです
    ごめんなさいね…
    明日帰った後に休んだら書き始めるんで、どうかお待ちくだされ

    因みにSSと言ったけど、裏でコツコツ書いてたら3万字超えてしまったんで、もうSSじゃないかも…w

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:33:23

    数多の糸に繋がれ眠る嬢……友か敵かわからぬシュレディンガー……これも…………ロマンなのかな………

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:36:04

    >>11

    一気に発表してくれるのを期待しておくね

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:36:35

    >>12

    こんな……

    こんな…ロマンなんて要らないよ……

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 18:38:09

    >>1に横から補足しておくとナツのように実験を受けて失敗した不良達が昏睡状態で

    ナツが黒服との取引で得た資金を出して生かしているんだよね

    これもまた過去に縛られるノットロマンだね

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 20:22:39

    >>15

    暗黒のロマンだね…

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 21:10:45

    覚えてもいない過去が忘れるなと言わんばかりに足を引っ張ってくるのいいよね……

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 21:18:47

    それ以外に大切なものを得てもトリニティや豊かな生活に対する執着が消えないのが酷い
    だってただの不良のままだったらいつ内臓売り飛ばされてもおかしくない日々だったからね

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 21:28:20

    黒服の取引に応じたメリットは凄まじかったよね
    奇襲や1:1なら誰にでも負けなさそうだし豊かな生活を約束された
    黒服にパシられるんだけどな

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 00:08:20

    ゆとりのない人生を送るナツはかわいいですね

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 04:41:02

    ロマンがゲシュタルト崩壊してなんだかマロンスイーツが食べたくなってきたね
    栗村アイリ、おすすめのマロンスイーツを紹介してくださらないか

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 04:41:59

    >>11

    三万字はすごいなあ……文庫本の1/3~1/4と考えたら一つの作品としてはすごく読み応えあり

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 07:46:32

    BADENDでこの世界にロマンなんかなかったんだねって言い残してダイブしてほしい

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 09:31:47

    >>23

    悲しすぎる

  • 25二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 10:04:46

    >>21

    安直に…チョコミントマロンアイスとかどうかな?

  • 26二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:28:31

    >>11

    お待たせしました、それではSSを開始する!


    因みに自分の把握度は

    ・メインはパヴァーヌ2章まで(現在最終編)

    ・放課後スイーツ部のイベ2つは履修済み

    ・ナツ、臨戦ホシノ絆ストーリー履修済み


    以上を踏まえた上で読んでいただければと。

    かなり曇るとは思いますが、最後は晴れて終わりたいと思っておりますので、そんな感じで。

  • 27二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:35:04

    >>26

    身体が──熱い。

    命を焦がす、地獄の炎に焼かれ続けていたような。

    そんな時間を過ごしていた気がする。


    あまりにも重たい瞼を、それでもゆっくりと開ける。どこかの台座の上で、寝そべっているような感じを覚える。

    腕や足は、何かに括りつけられたように動かない。そもそも、現状の体力で動かせそうにもなかった。

    ふと声を出そうとして気づく。喉が、枯れている。気管支の奥の方に、痰が絡む。


    「────」


    言葉にならない喘ぐような声が、喉の奥から響く。

    その後、数回咳き込んで、自分が今どうなっているのかと周りを見る。

    首にも何かがついてるような感覚を覚えたが、一先ず周囲を確認しなければと、隣を見る。

    そして──戦慄する。


    誰かが、自分と同じく寝かされており──血反吐を吐いて、そこに横たわっていた。


    「ッ────」

    目を逸らそうとして、反対方向に向き直って──再び、私は驚愕する。

    要因は違えど、同じく死に体で横たわる者が、そちらにも2名いたからだ。

    「ハァッ・・・ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・」

    呼吸が荒くなる。炎症を起こしたかのように痛む胸に、無理やりにでも身体が酸素を注ぎ込む。

    一体、ここはどこなのか。彼らは誰なのか。何故、私はこんなところにいるのか。その一切が不明だった。

  • 28二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:37:35

    >>27

    「──おはよう、目覚めましたか」

    どこからか声がする。黒い天井に、ぼんやりとディスプレイが浮かぶ。黒い頭部に、ひびの入った異形の男がそこにいた。

    「実験は成功です。あなたの”神秘”──名づけるのなら、『再生』とでもしましょうか。火の鳥のように、再び貴方は生を獲得しました。私としても、喜ばしいことです」


    ──実験?神秘?

    何だ、何がどうなっている。


    「貴方は──誰・・・?私は、誰なの・・・?」

    「ほう?これは、想定外でしたね──実験の副作用とでも言いましょうか。どうやら、記憶を処理する部分に、少なからずダメージが入ったのでしょう。ですが──神秘は生きている。ならば、依然対応は変わりませんね」

    「ね、ねぇ・・・?一体、何が起こったの──」

    灼ける痛みを無理やり呑み下し、私は彼に質問をした。暫しの沈黙の後──彼は答えた。


    「あなたは、過去に私と”契約”をした実験体──そして、私の実験を受け、唯一目を覚ました者です。今は、その過去も名前も、死に絶えていますが」

    「新たに名前を授けましょう。そうですね──では、『柚鳥ナツ』」

    「貴方は、あるものを得るために私と契約を交わしました。そのものを与える代わりに──私の手足となって動いて下さい」

    「詳しい話は、また後ほど。では、よろしくお願いしますね──『柚鳥ナツ』」

  • 29二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:39:16

    >>28

    ──それが、私が目覚めてから最初に手に入れた、記憶の中身だった。

  • 30二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:42:03

    >>29

    「ロマン」という言葉を聞いた時、君は何を想像するだろう。


    例えば、駆け落ちをする為に、全てを捨て切って先へ進む二人の恋人。

    例えば、己が持つ矜持が故に、敗北濃厚の戦いに身を投じる戦士。

    例えば、あてのない冒険の先に、とてつもない秘宝を見つける流浪者。


    形はない。ルールもない。

    ロマンは、とても遠くにあるようでいて、その実はどこにでも転がっている。

    君の側にも。私の側にも。

    それは、飽くなき探究の先にある、数多の『理想』なのだ。


    かくなる私も、そんなロマンを求めている。

    求めてしまっている。





    それが────いつかは潰え、二度と手に入れる資格を与えられない、刹那の幻だとしても。

  • 31二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:43:22

    >>30

    おや、自己紹介が遅れていたね。

    では、改めて──



    私は「柚鳥ナツ」。



    そういう名前を与えられ、望んだ「日常」を過ごす為に──「黒服」という名の大人に選ばれた実験体。


    仮初で儚い、虚しい日常のロマンを、それでも求め続けてしまう、過去の憶え無き罪人だ。

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:46:24

    >>31

    私は今、トリニティ総合学園の1年生として、学園生活を過ごしている。

    そして私には、この学園で一緒に行動している「友達」がいる。


    杏山カズサ、栗村アイリ、伊原木ヨシミ──「放課後スイーツ部」と呼称し、私を含めた四人組で、よく一緒に動く。

    それから、もう一人。

    杏山カズサに因んでやってくる、トリニティ自警団の宇沢レイサ。彼女もまた、よく絡まることが多い。


    そうして、四人、時には五人で、街中のスイーツ店を巡ったり、時にはスイーツそのものを作ったりして、和気藹々とした時間を過ごす。

    一般的には──これが、私の「日常」だ。


    文字通り、私にとっては、今目に映る「日常」全てが、ロマンに溢れたものだ。

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:48:36

    >>32

    「ナツ?どうしたの、なんか遠くを見つめるようにして」

    「…はて?」


    そこで、声をかけられて向き直る。

    焼きたてのアップルパイを買って、部室で三人と分け合っていた中で、私はどうやらぼーっとしていたらしい。

    カズサに声をかけられて、私はふとモノローグをやめる。


    「遠くも何も部屋の中じゃない…寝不足だったりするの?」

    ヨシミがそう聞いてきて、私は昨夜のことが思い当たっていた。その指摘は図星で、確かな理由はあるのだが──その場は別の理由にする事でごまかす。


    「ふふ、浸っていたのだよ…甘ーい甘ーい、甘味というさざ波の中にね」

    「そ、そう…?いやまぁ、確かにあんたのスイーツへの執念は凄いとは思うけど」

  • 34二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:50:22

    >>33

    「ナツちゃんは時々、本当に味わって食べてる時あるよね。凄い勢いでパクパクしてることもあるけど」

    「それはそうだよ。一つ一つのお菓子の作られた意味や哲学を、出来る限り噛み締めるように食べること。感謝は大事だよ、アイリ」

    「うん、そうだね。作ってくれた人には感謝しなきゃ」

    「ナツのロマンというか、哲学というか…小難しいけど、時々的を得てるものあるよね」

    「にへ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか、カズサ」

    そうして、側にあった紙パックに入っている、牛乳をストローで吸う。


    作られたものを出来る限り味わう──それはそうだ。この「日常」でさえ、私にとってはそういうものだから。

    最も──その余裕がある、今だけの話ではあるのだが。

  • 35二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:52:21

    >>34

    そうして食べ終わり、帰り道で3人と別れた後、乗っていた電車から降りた後のことだ。



    スマートフォンから、新しい連絡が来た音が告げられる。確認しようと開いて、私は溜息をついた。

    「…降りたばかりなんだけどなぁ」

    そうして、今さっき出てきた駅へと引き返す。乗り込む電車の先は、先ほどとは別の目的地だ。


    キヴォトス某地の、高層ビル。

    夜の街中の灯りが下に見える、高い階層のとある一室。

    オフィスのような空間で、私は彼に相対した。



    「来たよ、黒服──それにしても、慣れない呼び方だね」

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:54:57

    >>35

    デスクに座っている、黒を基調とした服装の男──私が「黒服」と呼んだ男は、椅子から立ち上がった。


    「えぇ、お待ちしておりましたよ、柚鳥ナツ。呼び名に関しては、結構気に入っておりましてね」

    「小鳥遊ホシノが最初に呼んだものなのに、自分から取り入れ続けるなんて、貴方も随分と物好きだね」

    「それはそうでしょう──何せ、貴方と契約をした時から、私も自覚はしていましたがね。あの先生程ではありませんが」

    それを聴きながら、私はふーんと澄ました顔をしてみせた。この男、どうやら連邦生徒会直轄の組織、シャーレの先生をえらく高く買っているようなのだ。

    まぁ確かに、あの先生は色んな生徒に慕われる通り、非常に人間性が好まれる性格ではあるとは思うが──向こうはこちらをよくは思ってはいないらしいのに、やはり単なる合理で動く訳ではないのがこの男らしいというべきか。


    でも、気持ちは分かる。あの人は、生徒が大事にする部分を決して否定しない。かくいう私も、一部見せたロマンをあの人に肯定されたことがある。根っからのお人好しなのだろう。


    「それで、今日は何かな。昨日に引き続き、戦闘関係?」

    「えぇ、貴方を介しての実験も、ある程度段階を踏まえてきました。そろそろ──彼女にどれくらい近づいたか、試してもよろしいでしょう」

  • 37二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:55:15

    (合いの手を入れるのもためらわれる投下数)
    (後にテレグラフか何かにまとめていただけたら助かる)

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:57:58

    >>37

    (最後まで書き終えたら、pixivに投稿する予定ではあるけど、それでも大丈夫かな?)

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 14:59:14

    >>38

    (大丈夫です)

    (まとめて読んだら感想書くからそれまでは♡だけ押させてもらう)

    (スレが埋まらないか心配)

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:02:10

    >>36

    「…小鳥遊ホシノにかな?」

    「並ぶとは言えませんが、善戦はできるでしょう。彼女の神秘も魅力的でしたが──実験を介して、あなたの神秘も目覚め始めました」


    そこで私は、手元から小さな牛乳入りの紙パックを取り出し、ストローを差し込む。

    「文字通り、体そのものが生まれ変わる神秘──不完全ながら貴方が得た、『再生』の神秘です」

    「我ながら、何とも奇妙な力だと思うけどね。外から見れば、非常にコミカルだよ」

    「えぇ。しかしながら、『再生』というのが非常に興味深いものです。『超回復』でも、『剛体』でもなく、『再生』なのですから」

    そこで私は、かつて黒服から聞いた、私の名前についてのことを思い出す。

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:03:13

    >>40

    実験で、『再生』が私の隠れた神秘と知った時、彼はフェニックス──火の鳥というものをイメージしたそうだ。

    炎をその身に纏い、死んだ後にその灰の中から復活する──生まれ変わる事によって不死身を得る鳥。


    「柚」はその名の通りの柑橘類であるが、近世では大小二種類の内、大きい方を「朱欒(しゅらん、ザンボ)」と呼んでいたそうだ。

    「ナツ」は文字通り「夏」、熱を帯びた季節。

    「朱」を含む別名がある果実の漢字と、炎のような熱さを想起させる季節からきた名前、そして間に挟まる「鳥」──辿り着くのは、「火の鳥」となるのだろうか。


    「だからって、この名前はこじつけがすぎるんじゃないかな?」

    「おや、不服でしたか。それならそれで構いませんが。ほとんど名前も失った貴方への手向けと思ったのですがね」

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:04:34

    >>41

    「まぁ、貴方から貰ったものだし、私は気に入ってるから良いけど。それと──その話は、私にはもう分からないと前にも伝えたはずだよ」

    「おっと──これは失礼しました」


    そう、神秘の活性化の実験の代償もまた、同時に生まれてしまっていた。


    実験や彼の要望に応える代わりに、彼からの供給によって私はトリニティでの生活を保証してもらう──これが、彼と私の間にあった「らしい」契約の内容だった。

    「らしい」というのには実験の副作用が絡んでいる。

    どういう訳か──私は、トリニティに編入するまでの記憶を、一切失ってしまっているのだ。

    その為、どういった経緯で私が彼と契約に至ったか、何を思ってその契約を結んだか──その過程全ては謎のヴェールに包まれている。


    最も、他に手段はいくらでもあっただろうに──その保証された生活を、私は未だに手放せず、そして手放せないところまで来ていた。

    その執着だけは──何故か切り離せずにいた。

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:05:57

    >>42

    「しかし、いくら強力な神秘とはいえ、姿が変わっていくのは、貴方にとってもやり辛いものがあるでしょう。我々の作ったもので、現状は隠せてはいますが」

    「そうだね。この姿がバレるのも、時間の問題だろうね」


    私はそこで、耳にかけていた装置を指で軽く叩く。そうして、皆の知る『柚鳥ナツ』は──その場から姿を消す。


    代わりに現れたのは──オッドアイを持つ、執事服のような恰好をした、名もなき少女の姿だった。


    「この服装も、貴方なりの拘りあってのことかな、黒服?」

    「さぁ、どうでしょうか──少なくとも、君は私の管轄内に置かれた存在。なら、最低限の礼節としての格好は重要と思ったまでですよ」

    個人的には、これで戦闘するというのも難しいのだが、こういう訳で他の衣服を着るわけにもいかないらしい。仮にも、彼は私の雇用主であり、一応の立場としては『保護者』に該当するのだから。


    「それに、その格好は謂わば大人の階段を上る最中の過程行事の一つ。あなたは、既に『契約』をした以上──その『契約』を違うことはできない。かの先生も言っていましたが、大人は『責任を負う存在』のようですからね。最も、私には分かりかねない概念ですが」

    「・・・・・・」

  • 44二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:07:15

    >>43

    責任──ふと、今までしてきたことを思い出す。



    表向きでは、私はトリニティ総合学園にいる、平和な日常に溶け込んだ一人の生徒。その裏で──彼の依頼という指示の元、仕事の助力活動をしていた。

    アビドス高等学校の小鳥遊ホシノを手に入れようと彼が動いたときは、カイザーPMCとの交渉時の護衛として付き添った。

    エデン条約が締結されようとした際は、ゲヘナやトリニティの学生に扮して、互いの不和を引き起こす為の工作活動をした。

    アリウス分校襲撃時は、ベアトリーチェという他のゲマトリアへの協力の形として、物資を支援する際の連絡員だった。

    そのいずれも──今私がいる表世界にとっては、世界に仇を為す行為でしかなかった。正直、そこに躊躇いや後悔が無かった訳ではない。


    特に、アリウス分校の件に関しては、ずっと心の中がぐちゃぐちゃになったままだった。

    自分にとって大事な日常を、自分の手で非日常に包む──火の海になりかけたトリニティを見た時、本当に自分が火の鳥になってしまったかのような、異様な恐怖に心を締め付けられた。


    それでも──彼らと過ごすあの日々は、何を持っても変えられない。誰かにとっての当たり前は、私にとってのロマン──『理想』なのだから。



    「分かってる。契約が締結された以上、私は貴方に従う必要がある。それに、私の今手に入れてる生活が成り立つのは、貴方の支援あってのもの。そこに対する恩義は返すつもりだよ」

    「良い心構えです、私も貴方を見つけた甲斐があったというもの──では、始めましょう」

  • 45二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:08:21

    >>44

    「今回に関しては、ある程度の実力確認です。神秘のスペックを引き出すためにも、認識阻害はかけなくて構いません。アビドスの砂漠にて、小鳥遊ホシノ──暁のホルスへと、挑んでください。


    柚鳥ナツ──『朱羽』」



    「──了解」

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:09:25

    >>45

    -小鳥遊ホシノ視点-


    夜。アビドスの街の近くのとある砂漠付近の廃墟にて。


    「すっかり日が暮れちゃったねぇ」

    私こと小鳥遊ホシノは、アビドス近郊のパトロールに出ていた中だった。

    今回は少し遠出ということもあり、1日はどこかで野宿が必要になるだろうと考えていた。事前にグループトークにて、後輩たちには明日まで帰らないことは伝えておいた。


    「しょうがない、寝る準備でもしようか。とはいえ、夜の砂漠は冷え込むから気をつけないと」

    慣れてるとはいえ、改めて1人は寂しいものだと感じる。

    前に先生と一緒に過ごした時は、とても心地よい夜だったなぁと、ふとぼやきたくなる。明日にでも、久々に本音で話すのも悪くないかもしれない。

    そう思いながら寝具や食料等々を取り出そうとして──

  • 47二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:11:02

    >>46

    私は、側にあったショットガンの銃身を掴んだ。



    「…出てきなよ。いるのは分かってるよ」



    私の声に反応するかのように、コツ、コツという革靴の音が廃墟の奥から響く。

    次第に音が大きくなるにつれ──音の主は、姿を露わにし始めた。

    身だしなみの整った執事服のような姿をした、オッドアイの少女。どこか柔らかな印象を与える顔立ちとは裏腹に──醸し出す雰囲気は真逆のものを思わせた。

    その姿に、どこか自分っぽさと、それとは別のある人物を思い出し──私は、少々気分を害された気がした。


    「うわぁ…何かの当てつけみたいだねぇ…偶然かなぁ?」

    「いや──偶然ではないと思うよ。小鳥遊ホシノ」


    穏やかな口調ながら、その相手は私の思惑に介入してきた。

  • 48二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:11:55

    >>47

    「へぇ──ということは、ゲマトリアかな?」

    「一応はそうなるね。少し違う点もあるけど」

    「ほほ〜…例えば?」

    「第一に、私は彼らのうちの一人の部下でしかない。第二に──」


    そこで来訪者は、エンブレムのない無機質な盾と、装飾のない無地のサブマシンガンを構える。

    「私は、自分の体が武器だから」


    「…そりゃ助かるよ。おじさんとしても、腹の底の読み合いは苦手でねぇ」

    愛銃のショットガンと、展開式の盾をこちらも手に取る。


    「こっちのやり方でやれるなら、余計な手間も要らないしね」

    「話が早くて助かるよ、暁のホルス──それじゃ、少し付き合ってもらうね」

  • 49二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:12:44

    >>48

    「因みにお嬢ちゃん。君の名前とかは名乗らないの?

    私が君から思い出した奴は、私の呼び方を何故か気に入ってたりしてたけど。君にもつけてあげようか?」

    「…知りたいなら、私を倒せば良いと思うよ。もしもらえるなら──ロマンのあるものにしてほしいね」

    「成る程ねぇ。──教えてもらう方が早そうだ」




    そして、暫しの沈黙の後──挑戦者は仕掛けてきた。

  • 50二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:14:21

    >>49

    盾ごと近づいてくるのかと思いきや──いきなり、彼女は盾を水平に投げ飛ばしてきた。

    それをこちらの盾で弾こうと思えば、その隙に身軽になった体で一気に懐に迫ってきた。

    (──早い)

    ばら撒かれたサブマシンガンの弾丸を身を屈めて回避する。こちらも屈んだ体からショットガンを放つが、彼女もまた横に身を翻す。

    そのまま、先ほど投げ飛ばした盾を回転した体の左手で回収し、勢いで振り回してきたので、バックステップで距離をとりつつ、散弾を放つ。

    が、振り回された盾に、上手く弾かれた。


    「最近の若い子は、随分と元気がいいねぇ。秘訣でもあるのかな?」


    排出された薬莢が、カランコロンと音を立てる。互いに、有効射程が短めの短距離タンク型構成。タフなもの同士の、力と力の押し合いだ。


    「寝る子はよく育つ。かくいう私も、よく夢を見るからね」

    「夢、かぁ──全く、草臥れたおじさんには耳の痛い話だよ。それとも──君のいう夢というのは、別の事なのかな?」

    「さて、どうだろう。小鳥遊ホシノ──君は、現実でも夢を見るのかな?」

    「どうだろうねぇ、前だったら違かったかもだけど」


    互いの銃口から放たれる弾丸と、それを弾き合う二つの盾。時々混ぜ込まれる体術も含めながら、私と彼女は意味のあるともないとも取れる、着地点のない会話を続ける。

  • 51二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:16:15

    >>50

    「今は、一人で夢を見ないように気をつけてるからね」


    そして、展開式の盾をわざと仕舞い──回転させながら再展開して振りかぶる。

    彼女からすれば、突然リーチが広がったような感覚を覚えただろう。届かないと思っていたはずの攻撃が届き、彼女の盾が大きく弾かれた。

    そのガラ空きの体に──すかさず弾を打ち込んだ。

    ショットガン特有の爆発的な破壊力は、至近距離で食らえば絶大な威力だ。無論、彼女もまた、致命的なダメージを受けたように、後ろに吹き飛んだ。


    「良いのが入ったかな。さて──」


    そうして彼女の状態を確認しようと、飛んでいった先に向かえば──奥から、小さな石が転がる音が聞こえる。

    煙の奥から、おぼつかぬ足取りで彼女が立ち上がったようだ。

    すかさず、私は空薬莢を排出し、次弾を装填する。


    「あまり無理しない方がいいよ、お嬢ちゃん。これ以上動くなら、もう1発大きいのを入れないといけないからね」

  • 52二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:17:22

    >>51

    「──『朱羽』」

    「ん?」

    「ゲマトリアでの、私の呼称。それが『朱羽』だよ、小鳥遊ホシノ」

    「そっか、『朱羽』ちゃんか。でも、その割には、君の体にその名前の由来は見えないけどねぇ」

    「──すぐに分かるよ」


    そう言ったかと思うと、彼女は懐から、白濁した液体の入った小瓶を取り出した。


    「えっと…?」

    「気にしなくていいよ。これはただの──通過儀礼だ」


    そういうと、彼女はその瓶の栓を開け──喉に流し込むように飲み干した。




    瞬間──彼女の体が、全身が燃え上がる。

  • 53二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:19:04

    >>52

    「!?」


    あまりにも激しい熱に、思わず手で顔を覆う。

    その奥で、包まれた当人の体は、徐々に黒くなっていき──姿が、見えなくなった。


    かと思えば──消えた炎から、再び彼女が姿を現した。

    しかし、異様なのは──体にあったはずの多大なる損傷が、跡形もなくなっていた事だ。


    「瞬間回復──いや、どこか違う。これは──」

    「勘が鋭いね、暁のホルス。これは受胎──生まれ変わりさ。私の体は、『再生』したんだ。一度死んで生まれ変わったんだよ」


    それを聞いて、正直私は引かざるを得なかった。

    「えぇ〜…そんなのってアリなの〜…?というか、途中燃えてたけど辛くない?」

    「勿論、辛いとも。文字通り、一度死んで灰になり──再び生まれる訳だからね。だけど、もう慣れてしまったことだよ」

  • 54二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:20:30

    >>53

    「…随分と、お労しい気がするのは、おじさんの気のせいかなぁ?」

    「最初から神秘を身に宿してる、君にそれを言われると複雑だね、小鳥遊ホシノ。この力は望んで手に入れたものじゃないけど、望まずとも手に入れなきゃいけなかったものだからね」

    「──実験かなぁ?」

    「さて、どうだか。推測も洞察も、あくまで机上の空論さ」


    二度目の戦闘──そう思って構えた私だったが、彼女は意外にもくるりと背を向けてきた。どうやら、帰ろうとしているようだ。


    「…終わり?」

    「今日はこれで。突然押しかけてすまなかったね」


    元々、私も戦闘はめんどくさい性分だから、そこで終わるなら有難い話ではある。

    だけど、はいそうですかと終わるわけにはいかない。

    私にも──彼女に疑問ができた。

  • 55二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:22:14

    >>54

    「そこまで自分を削ってまで──『朱羽』ちゃんは、一体何を守りたいのかな。おじさんでよければ、話を聞くよ?」


    「…何を言っているのか、分からないよ。仮にも、君を襲撃したのは私だよ」

    「そうだね──ま、年長者の面倒見の良さって所かな。ただ従うだけの子なら、まずそこまで自分を追い詰めないもの。そういう子は大抵、命に換えても譲れないものを持ってるつよ〜い子だと、おじさん思う訳」

    「……」


    「ま、私が言えた義理じゃないけどねぇ…そんなに守りたいものがあるなら、ちゃんとそれを共有できる人は作っておいた方が良いと思うよ?」


    後輩たちの顔を思い浮かべながら、そんな言葉を言った時──

    彼女は、歯軋りをしたかのように、悔しそうな、そしてどこか悲痛な顔をしていた。

  • 56二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:23:56

    >>55

    「──私がほしいのは──貴方にとっては、当たり前のようなものだよ。それを失うくらいなら──私は──」

    そこまで言って、続きを口にするのが耐えきれなかったのか──その少女は、その場を後にするように走り去っていった。



    「──やれやれ、随分と不思議なお客さんだったねぇ。一応、先生にも連絡しておくかなぁ。また来たらちょっと厄介だけど」


    そして私は、未だ硝煙と火薬のにおいが残る、壊れた廃墟の中で一晩を過ごしたのだった。

  • 57二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:25:19

    >>56

    -柚鳥ナツ視点-


    「…そうですか。やはり、まだ暁のホルスには及ばないと」

    「うん…すまないけど、力不足だった」

    「クックック…いえ、実験の経過としてはむしろ順調でしょう。次までのプロセスは踏めた以上、君を咎める理由もありません」

    「…そっか。それじゃ──私は休むね」

    「えぇ、今は休息を。それではお疲れ様でした、柚鳥ナツ」


    黒服との電話を済ませながら、私は再び夜のトリニティの街中へと向かっていた。

    廃墟から離れ、郊外の暗い僻地を独りぼっちで歩く。

    体の痛みはない。負った傷は癒えている。確かに神秘は機能している。


    しかし──心に引っ掛かった針が、返しがついているかのように抜けない。心の傷は、何度生まれ変わっても癒える事はない。


    『そんなに守りたいものがあるなら、ちゃんとそれを共有できる人は作っておいた方が良いと思うよ?』


    小鳥遊ホシノ──自分を打ち負かした相手から、既に何度そうできたら良かったかと思う正論を言われ、私は思わず、表情に苦痛が現れてしまった。

    彼女はそれを、見てしまったのだろうか。

  • 58二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:26:41

    >>57

    「そうできるなら──とっくにしてるよ」


    そうぼやいた後に、ふと、さっきの炎を思い出す。

    体の全身を包み込み、灰になるまで燃やし尽くす炎。そして、片っ端から再び生を与える神秘。

    ロマンという情熱など、冗談にもならない。それほどまでに、焦がし尽くすような熱さ。

    その熱を思い出し──思わず自分の体を抱き抱える。

    激しい熱は、時に悪寒を与えるというが──そんなものじゃない程の寒さを感じるような錯覚を覚える。


    暑い。寒い。いや、暑い。いや──凍えるほどに寒い。

  • 59二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:28:26

    >>58

    「うぅ…く…は、はぁ、はぁ…」


    思い出せば、黒服と契約して最初に実験を受けた時。

    私を含めた四人ほどが、実験を受ける為にその場にいたらしい。神秘を判明させるための実験は、想像を絶するもののようで、彼曰く「人が耐えられる境地の一歩二歩手前ぐらい」だったらしい。

    その結果──私が、私だけが目覚めたのだった。

    他の三人は目覚めることはなく、自分だけがその実験を乗り越えた時、黒服は、ただ一人生還した私を称賛し、一目置くようになった。

    それは生の保証を告げると同時に──この苦しみは一生続くという暗示のようにも思えた。

    もしかしたら、その時に私の過去も一緒に業火の中に消えたのかもしれない。側で目を覚まさなかった三人とも、もしかしたら何か関係があったのだろうか。

    そう思った私は、彼らを見捨てずにはいられず、生活と一緒に彼らの生命維持を、契約の内に含んだ。それは、私自身が自分に課した、もう一つの枷だった。


    そうして私は未だ──この牢獄から抜け出せずにいる。

  • 60二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:29:36

    >>59

    絶え間ない熱と悪寒に耐えきれず、私は路地裏に倒れ込んだ。暫く動けそうにない中──畳み掛けるように、雨も降り始めた。

    憩いのように思えるその雨も、今はただ神経に刺さる針でしかない。


    「…痛い、よ…」


    段々と、自分の惨めさを突きつけられている気がした。

    当たり前の日常を過ごすというロマンすら、私にとっては地獄と隣り合わせのものだ。誰もそこから掬い上げることはできない。

    その選択肢を選んだのは──紛れもない、自分自身だ。

  • 61二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:30:50

    >>60

    「──ごめん──なさい──」


    誰に届くとも知らない、雨に溶け込む謝罪の声。それは、一体誰に対してだろう。

    自分と一緒にいてくれる、自分を信じてくれている、あの子達に向けてか。

    何を今更、謝るというのか。あの子達に隠れて私は──あまりにも多過ぎる、争いの火種をばら撒いてきたのだ。

    たった一つの、自分のエゴの為に。ロマンだなんだという、仮初の理想の為に。


    誰も裏切りたくなんてないのに。気づけば、取り返しのつかないところまで来てしまった。どれだけ後悔してももう遅いのだと、恐怖と不安が、哀しみを織り交ぜて涙を作り出す。一度涙を零したら、もう止めることはできなかった。

    あとどれくらい続ければいいのか。あとどれくらい、隠さなきゃいけないのか。


    ロマンをこれでもかと詰めたはずの心は、何かを訴えてはカラカラに飢えてしまった。

  • 62二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:31:37

    >>61

    「──もう、嫌だ──痛いよ、辛いよ──誰か、助けてよ。助けて──みんな──」

  • 63二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:32:07

    >>62

    そんな声すらも夜の雨は、虚しくどこかへと連れ去ってしまった。

    そうしてひとしきり、寂しく泣いた私にも、残酷に朝はやってきてしまう。


    私がいつもみんなより遅れてやってくるのは──決まってこういう訳だった。




    こうして、取り繕った朝が続く。貼り付けた笑顔の中で、憧れていたはずの当たり前の日常を、擬似的に謳歌する。

    満たされたはずの空っぽの日々が、こうしていつまでも続く。




    ──そう、思っていた。

  • 64二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:37:33

    >>63

    とある日の放課後。いつも通り集まっていると、アイリがふと私に話しかけてきた。


    「あ、ナツちゃん。思い出したけど、ナツちゃんはもうすぐ誕生日だっけ?」


    そう聞かれて、ふと思い出す。そういえば、前に聞かれた時に、『あの日』をそのまま誕生日にしてたんだっけ。


    「あぁ、そういえばそうだったね」

    「へぇ…意外とそういうのに無頓着なのね。てっきり、何か欲しい〜って強請ってくると思ってたけど」

    「そうだね、ちょっと意外」


    ヨシミとカズサが、ちょっと拍子抜けたような素振りを見せる。確かに、普段の彼らから見た私としては、違和感があるのだろうか。

    ただ──忘れた訳ではない。忘れるどころか──覚えてないといけない日だからだ。


    「ふふ、強請ったら何かくれるのかな。期待しても良いのかね?」

    「ったく…言って損したって言いたいところだけど…ま、あんたの期待に応えるのも偶には良いか」

    「いえ〜い。じゃ、楽しみにしてるよ。あ、でも──」

  • 65二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:38:30

    >>64

    そこで、私はその日にやるべきことを思い出した。


    「その日は、私にも用事があってね。受け取りは遅れちゃうと思う、すまないね」

    「ふーん…良いけど、何か予定があるの?」

    「なんて事はないさ。ちょっとした用事だよ」

    「そういえば、あんた時々用事で抜けるわよね。ちょっと気にはなってたけど」

    「ふふ、ヨシミ──謎があるほど、女は魅力的なものだよ」

    「なんかムカつくわねコイツ…」

    「そういうわけで、アイリ。すまないけど、もし貰えるなら翌日が好ましいかな」

    「そっか・・・分かったよナツちゃん。ありがとう」

    「うん、こちらこそ」


    そうして、誕生日の件は一旦話から切り上げた。



    じゃないと──『彼ら』のことを思い出して、息が苦しくなってしまうから。

  • 66二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:39:45

    >>65

    -杏山カズサ視点-


    その後、解散して帰ることにした私たち。だけどその前に、私とヨシミはアイリに声をかけられた。


    「ねぇ、二人ともちょっと良いかな?」

    「ん?」

    「どしたの、アイリ」

    「その…ナツちゃんに何をあげれば良いかなって」

    「うーん…基本的に思いつくのは、スイーツ名店の一級品とか?」

    「でも、ナツのロマンから考えると、意外なものだったりもするよね。基本、ナツはお菓子全般を好むし」

    「そうだね…できれば、思い出の味にしてあげたいと思うんだけど…」



    「──じゃ、折角だしさ。あいつの好み、調べてみる?」

  • 67二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:41:32

    >>66

    「え、調べるって・・・どうやって?」

    「今度帰るときに、こっそり後をつけてみるの。きっと、気に入ってるスイーツ店とかあったら、あいつのことだから足を止めるはずよ!」

    「成る程ね。でも、ちょっとストーカーっぽくない・・・?」


    ヨシミの提案に、私は若干引く。人のプライベートを覗き見るのは、正直忍びない。しかし、言われてみればナツの特別なお気に入りというと心当たりがない。牛乳はいつも飲んでいるが、それは明確にはスイーツではない。


    「友達の好みを把握するのも、大事なことだし。それに──正直、あいつが何の用事で抜けてるかって考えるとね。こっそりどっかのスイーツを一人で楽しんでたりとかしてね!あんたはどう思う、アイリ?」

    「う、うーん・・・」


    少し悩んでいたアイリだったが、やがてコクリと頷いた。

  • 68二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:42:29

    >>67

    「うん、少しだけなら。だけど、ホントに少しだけだよ」

    「分かってるって!ほらカズサ、あんたは?」

    「・・・はぁ。分かった分かった。好みが分かったら、すぐに引き上げる。それでいい?」

    「OK、それで行くわよ!」

    「うん、分かったよカズサちゃん」


    そうして、次のナツのいう『用事』のある日に、みんなでナツの後ろを追うことにした。




    だけどそれが──開けてはいけない、しかしいつかは開けられてしまう、パンドラの箱だったと。

    私たちは、思い知らされることになる。

  • 69二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:43:59

    >>68

    意外にも、その『用事』は、誕生日の前日にもあったようだった。

    いつも通り別れた後に、ナツが一人で歩いて行ったのを確認した私たちは、話し合った通りに動き始めた。


    「さ、それじゃ追うわよ!」

    「うん・・・」

    「はいはい」


    そうして、なるべく気づかれないように距離を開けながら歩いていくと、彼女はある駅の方へと向かっていった。

    「電車に乗るみたいね。どこかの大きい繁華街でも行くのかしら?」

    「うーん・・・もう少し見ないと分からないかも」

    「引き続きって感じかな」

    そこで、隣の車両に3人で乗る。車両の間の通り道から、硝子越しにナツを見ると、彼女はスマートフォンを見ていた。ただ──その表情に、妙な違和感を覚える。


    「ねぇ・・・ナツちゃんって、あんなに強張った顔するんだね・・・」

    「なんか、まるで今から重要な試験でも受けに行くような感じに見えるけど」

    「何かの、争奪戦にでも向かうの・・・?」


    そうして私たちが手をこまねいていたら、ある駅でスッと彼女は降りた。確かに人通りはある程度多い駅だったが、少々予想外の駅でもあって、私たちは不意を突かれた。

    「ほ、ほら!降りるわよ!」

    「う、うん・・・」

    慌てて3人でおり、改札を抜けたナツを再び追跡する。そして彼女が向かっていく先は──



    繁華街どころか、知らない高層ビルの前だった。

  • 70二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:45:22

    >>69

    「・・・は・・・?」

    「どういう、こと・・・?」

    「あ、中に入っていったね・・・」

    高層ビルの奥に、ナツは一人で入っていく。流石にビルの中までは入っていけず、入り口付近でじっと待つことにする。しかし──中々出てこない。


    「長いわね・・・一体何をしてるのかしら」

    と、ヨシミが言った所で、ようやくナツがビルから出てきた。しかし、その表情は──更に、険しいものになっていた。

    「・・・どう、見ても・・・」

    「あんな表情、普段からは考えられないね・・・」

    やがて、ナツはゆっくりと別のどこかへと歩き出した。どこか覚束ないというか、行くかどうかを逡巡しているような。


    「どうする?アイリ的には、『少し』ってここまでって感じ?」

    「──ううん。そんなことを言ってる場合じゃないかも。なんだか、そんな気がしてきたの」

    「奇遇だね、私もだよ。こんな知らないビルに長く入って、家にも帰ろうとしない──明らかに、ナツは何かを隠してる」

    そこから先は、言うまでもなかった。友人が何かの危機に巻き込まれている──そんな悪い予感が、私たちの脳内によぎり始めた。顔を見合わせて、再びナツの後を追う。

  • 71二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:46:35

    >>70

    そうして辿り着いたのは──どこかの隔離されたような、僻地のある施設だった。周りの建物も少なく、そこがなんのための場所なのかの検討もつかない。

    「何・・・ここ?」

    「ナツ・・・あんたは、一体・・・?」

    すると、その中にナツはまたもや入っていく。人影は無く、さっきのビルと比べると、こちらなら中に入って追っても問題は無さそうだった。


    無機質で薄暗い壁や床の先を、バレないようにゆっくりと陰に隠れながら移動する。

    暫く行った先で──何やら、不思議な音が聞こえる。それは、心電図のように小刻みに繰り返す音だった。

    「これって・・・病院でよく聞く音だよね」

    「もしかして──大事な用事って」

    そして──ナツは、ある透明なガラス張りの部屋の前に立っていた。電気は極力少なく、日差しもカーテンでなるべく遮られていた。その部屋の中には──



    横たわった人がいる、ベッドが三つ。

  • 72二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:47:41

    >>71

    「「「───!?」」」


    木製のドアをゆっくりと、音もなくナツは開ける。これまでに聞いたこともない程に、か細く優しい声で呟いていた。


    「ただいま──遅くなって、ごめんね」


    数歩程、部屋の中に入った後、再びドアは閉じられる。硝子越しに、ナツがドアを背もたれにして、床に座り込んでいるのが見える。

    部屋の中から、微かに話し声のようなものが、途切れ途切れに聞こえてきた。

  • 73二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:48:20

    >>72

    「明日で───君たちも────────私は思───君たちの事──────────彼も───────知らない方が──────────もう良い────────急に───そんなロマ────────未だに───誰かも知ら───────────耐えきれ───」


    ──その話声が、途切れたかと思えば。


    「うっ・・・ぐっ・・・・・・うぁぁ・・・」


    私たちが知っている彼女の声で──全く聞いたことの無い、限界のようにすすり泣く声が聞こえてきた。

  • 74二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:49:52

    >>73

    「・・・そんな・・・あの声って・・・」

    「ナツ、よね・・・?」

    「──なんで、あいつがこんなことに──」


    真偽も分からないままに、私たちが聞いていると──


    ドアが開いた。



    ナツは、ふらふらと覚束ないような足取りで、部屋から出てきた。あまりにも唐突だったかつ、予想だにしない出来事の連続で──私たちは、隠れる隙を作ることも出来なかった。



    結果──ナツと私たちは──目が合ってしまった。



    「・・・あ・・・」

    「・・・ナ、ナツちゃん・・・」

    「・・・あんた・・・」


    しまった──そう思ったのも束の間。

    ナツのバッグが──鈍い音を立てて落ちた。



    「何で──ここに──」

  • 75二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:50:37

    >>74

    その時の彼女の顔を、この先忘れることは決してないだろう。

    自分の世界が切り裂かれる絶望。親しい人に奥底を知られる恐怖。裏切り裏切られた者の辛苦。そして──あまりにも深い、心の溝を生む悲哀。

    それがごったまぜになったような、普段のふわりと優しく笑うナツとはかけ離れた、彼女の表情に──私たちは一瞬で察した。


    今、私たちは──この子の決して踏み入れてはいけない領域に、強引に入ってしまったのだと。

  • 76二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:51:19

    >>75

    「どうして──なんで──なんで、みんな、ここに────い、いやだ──いやだ、いやだ──いやだぁ──」



    そして、落としたバッグもそのままに──私たちとは反対方向に、一目散に走り出したのだ。



    「───ッ!?ナツ!?」

    「ナツちゃん・・・!!」

    「待って・・・待ちなさい、ナツ!!」

    その後を、私たちは慌てて追いかける。頭の中が真っ白になりながらも、ある直感が私の中でひしひしと訴えてきた。


    今ここで見逃がせば──二度とナツには会えなくなるだろうと。

  • 77二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:52:38

    >>76

    施設を飛び出し、曇天の空の下、彼女と私たちはアスファルトの上を走っていた。

    だが、その逃走劇は──石に足を取られ、転んだナツに追いついたことで、終わりを迎えた。


    「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・ナ、ナツ!!!あんた・・・あれは一体どういうことなの・・・!?」

    私が、転がったナツの両肩を掴み、押し寄せるように聞く。


    「なんで、あんなところで・・・全く知らない誰かに会いに行ってるの──まさか、あの子たちが、あんたにとって、本当に大事な──」

  • 78二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:53:26

    >>77

    「離してッ!!!」



    「「「!?」」」

    突然の大声に、私たちは反射的に怖気ついてしまった。それに気圧されたまま、彼女は私の手を強引に振り払う。

    「何すんの、あんた──────」

    思わず怒鳴ろうとして────ナツを見て、私の思考が止まる。



    耳元から、地面に何かの小さな装置が落ちたと同時に──ナツの姿が、剝れていく。


    制服も、盾も、銃も──鮮やかな色を失っていき、黒い礼服と無機質な武器に染まっていく。

    赤かったはずの目の色が──黄色と青のオッドアイに。


    そうして剝れたメッキの中にいたのは──『柚鳥ナツ』ではない、全く心当たりなどない誰かの姿だった。


    「ナツ・・・」

    「ナツ、ちゃん・・・」

    「・・・ナツ」


    その名前を聞き──彼女は、自虐気味に薄っすらと笑った。

  • 79二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:55:12

    >>78

    「ごめんね、みんな──もう、その子はいないんだ」

    「私は、放課後スイーツ部の『柚鳥ナツ』じゃない──ゲマトリアの一人、『黒服』の部下──『朱羽』」


    「ゲマ・・・トリア・・・?ナツちゃん・・・いったい・・・」

    「何、訳わかんないこと言ってんの・・・ねぇ、嘘でしょ・・・何かの冗談だって言いなさいよ・・・」

    「嘘でも、冗談でもないよ──私は、そもそも生徒ですらない。キヴォトスっていう世界に歯向かう──ただの、犯罪者だ。今の今まで──ずっと、ずっと。みんなに、隠し続けてきたんだ────」

    「犯罪者・・・どうして、それがあの子たちと繋がるの・・・?」

    「アイリ──トリニティの生活も、あの子たちの治療も──私からすれば、沢山のお金が必要なんだ。それこそ、莫大なお金が。だから私は──契約したんだ。言われた通りにすれば、それを保障してくれる人と。私は、契約をしてしまったんだ」

    「契、約・・・?」

    「ナツ…あんたは…私たちにずっと──」


    そう、アイリとヨシミが困惑しているその横で。

  • 80二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:55:53

    >>79

    「────ふざ、けんなぁぁぁぁぁっ!!!」


    私は──気が付けば絶叫していた。そしてそのまま、ナツに殴りかかろうとしていた。それを、後ろから慌てて駆けつけたアイリとヨシミに無理やり止められる。

    「駄目ッ・・・やめて、カズサちゃん・・・!!!」

    「カズサ!!!あんた、何しようとしてんの!?止まりなさい!!!」

    「放して、放してよ二人ともッ!!!こいつを──この馬鹿の言ってることを──否定しないと、私は────」


    「お願い、カズサちゃん!!!ナツちゃんの顔を見て!!!ちゃんと、見て!!!」


    「顔って────────────」



    アイリに言われた通りに、ナツの顔を見て────私は、自分のやってしまったことをはっきりと思い知らされた。

  • 81二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:57:40

    >>80

    彼女の瞳からは光が消え、とめどなく大粒の涙が流れていた。その表情は──まるで、『もう全部終わりなんだ』という、諦めと悲嘆に屈服したかのように、くしゃくしゃになっていた。


    「ナ、ツ・・・」

    「・・・だよね。やっぱり──こうなっちゃう、よね」


    そのまま、彼女は涙混じりの声のまま、私たちを見つめる。

    「そうだよ──ロマンは、『理想』は────幻でしかないんだ。どれだけ追い求めても──結局、現実は残酷だ──」

    それを見て、込み上げてきた激しい怒りが急速に萎み、代わりにやってきたのは──彼女が奥底で望んでいた期待を裏切ってしまったという、罪悪感だった。


    「……あんた自身が、こんなことになっちゃうのを望む訳がない、よね……あんたも、あたしと同じだったんだ……」

    「…うん。でも──迂闊だった。いつもなら、ちゃんと来てないか確認してたのに──みんなからのプレゼントの話で、ちょっと浮き足立っちゃったのかもね。どっちにしても、心が沈むことだから。早く済ませたくなって、焦ったのか──」

  • 82二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 15:58:58

    >>81

    「…ナツちゃんも、私たちといることが、ずっと──」

    「うん──とても。とても、楽しかった。嬉しかった。トリニティの学校に入ってから、皆と一緒にいて──沢山の、ロマンに出会えた。『日常』を過ごせた。だけど──」


    そこで、彼女は踵を返し始める。泣いていた顔も、徐々に見えなくなる。地面に落ちていた装置を手に取り、ゆっくりと耳元にかけた。



    「もう、みんなとはいられない。もう──私は、『日常』には戻れない」



    嫌な予感がした。このままでは、いなくなってしまう。私たちが友達と信じて疑わなかった子が──私たちの知らない世界へと、いなくなってしまう。

  • 83二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:00:14

    >>82

    「駄目ッ・・・ナツ・・・ナツッ!!!」

    「どうか──追いかけないでくれ。この先は──私だけが行く世界だ。みんなには、来てほしくない世界だ」



    「ありがとう──みんなといた『日常』が、私にとって一番の──ロマンだったよ」



    そう言った瞬間──ナツは、手に持った盾で私たちを弾き飛ばし、サブマシンガンを撃ち込んだ。

    「うぐっ・・・!?」

    その弾をもろに食らった私たちは、立て続けにナツから攻撃を受け──瞬く間に、意識を手放していった。

    「ナ・・・ツ・・・」

    消えゆく意識の中で、私たちは遠ざかっていく背中を、ただ眺めることしかできなかった。




    そして、次に目を覚ました時には────私たち三人だけが取り残されていた。

  • 84二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:01:01

    >>83

    ショックのあまり、呆然としてしまったヨシミ。

    気づいてあげられなかったと、後悔で泣き崩れたアイリ。

    そして私は──何の相談もさせてあげられず、たった一人で行ってしまったナツのことを思い出しては、悔しさに泣き喚きながら、血のにじんだ拳で地面を叩くことしかできなかった。



    一度放たれた火種が、全てを焼き尽くす大火事になってしまうように。

    私たちの日常は、呆気なくも──粉々に砕かれてしまった。





    そうして暫く、私たちが何もできずに俯いたままだった時。

  • 85二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:01:51

    >>84

    それを変えてくれたのは──


    日が暮れそうな頃にかかってきた、想定外の相手からの電話だった。




    時は、少し先。

    夜が近づく、夕刻ごろの話に移る。

  • 86二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:02:54

    >>85

    -宇沢レイサ視点-


    「うーん・・・少し奮発しすぎちゃったですかね・・・これだと、寧ろ気を使わせてしまうかも・・・」


    その日、私はあるスイーツの名店に行き、美味しいと評判のやや高いケーキを買っていた。

    実は、放課後スイーツ部のアイリさんから、ナツさんが明日誕生日だということを聞いたのだ。


    少なくとも、前に私が来た時に『杏山カズサの友達』ではなく、『私たちの友達』と言ってくれていたのを覚えている。それが何気なく嬉しかったからこそ、せっかくなので彼女にも何かをあげたいと思っていたのだ。


    とはいえ、張り切ってやや高いものを買ってしまい、これはこれで受け取る側が受け取りづらいのでは、なんて勘ぐってしまう。因みにサイフはカツカツになった。


    「私とナツさんって、まだそこまでの関係じゃないですかね・・・む、難しいですね・・・」

    そうして、買ったばかりのケーキを片手に、もやもやした感情を抱いていた時だった。

  • 87二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:04:19

    >>86

    河川敷の近くを通っていた私は、向こう側で誰かが立ち尽くしているのが見えた。

    邪魔にならないように避けようとして──相手の顔を見て、足が止まった。



    「──ナツ、さん?」



    いつもとはまるっきり違う服装で──ナツさんが、呆然と遠くを見つめていたのだ。

    「ど、どうしたんですか、こんなところで・・・」

    そう私が声をかけた所で、向こうもこちらに気づいたようだった。ハッとこちらを振り向き、突然の知り合いの訪れに慄いたようだった。


    「宇沢──レイサ──」


    よく見ると、彼女の目の色が、それぞれ違う色になっていた。そしてその目元には、涙の通った筋が薄っすらと見え、赤く腫れた跡が刻まれていた。ここまでなるということは、私が来るまでに相当泣いていたに違いない。

    枯れたばかりの涙が再び目元に溢れだそうとしているのを、堪えようと必死になっているのが伺えた。


    「・・・何が、あったんですか?私で良ければ、お話を・・・」

    そう言って、安心させようと少し歩を進める。するとナツさんは、それから逃れるように後ろに数歩後退する。明らかに、彼女は動揺していた。



    「──レイサ。私に、近づいちゃいけない。どうか、私を放っておいて」

  • 88二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:05:34

    >>87

    その言葉には元気も自信もなく、まるで今にも消えてしまいそうな灯のようだった。


    「もうすぐ、夜がやってくる。君のように優しくて良い子は、大事な人のためにも家に帰るべきだ」

    「・・・・・・・・・・・・」


    自警団として様々な人を助けようと活動してきた私には、その声を聞いて勘づいたことがあった。

    今のこの人は──放っておくことなどできないほどに、心身共に疲弊している。このままにしておくと、どうなってしまうか分からないと。



    「──貴方が何を思って、そのようになってしまったかは分かりません。どんな事情があったか、分かってあげることはできないかもしれません。だけど──」



    そして、徐々に歩幅の速度を上げ、一気に近づいて彼女の手を取った。

    その勢いに反応できなかったのか、ナツさんは狼狽えて目をそらそうとした。その目をしっかりと見つめ、私は優しく、しかし力強く声を出す。


    「少なくとも、今、ナツさんは一人になってはいけません!ちゃんと、話せる人に事情を話すべきです!」



    「・・・もう、話した後なんだ。大事なみんなには、もう」

    「・・・杏山カズサ達にですか」

    「うん。だから、今の私には話せる人はいない」

    「──私じゃ、駄目ですか。貴方が『友達』と言ってくれた、私では」

    「話しても、きっと君には分からないよ」

    「分からなくとも、話すだけで変わる何かはあるかもしれません──」

  • 89二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:06:44

    >>88

    「──君に何が分かるんだ!!!」



    「!!!」

    荒んだ声をあげ、ナツさんは強引に私の手を振り払った。


    「もう、取り返しのつかないところまで来てしまったんだ。君にも、私は救えない。それほどまでに──私の手は汚れてしまった」

    そして、盾と銃を手に取ったナツさんは、私を強引に止めようと身構えた。

    「だから、もう関わらないで。君のことを『友達』と思うから──君を巻き込みたくないんだ」



    ──あぁ。私にとって、それは嬉しくて、優しくて──だけど、なんて悲痛で哀しい言葉なんだろう。こんな言葉を話すほどに、彼女は追いつめられていたとは。

    ふと、自分のことを思い出す。そういえば、友達が上手くできなくて、一人で何もかも抱え込んでしまいそうになったことが、あった気がする。そうした時、大抵は自分の素直な気持ちに、正直になれなかったことが要因だったと今は思う。


    彼女にも、もしかしたらそんな要因が絡んでいるかもしれない。それなら──私にできるのは──

  • 90二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:07:39

    >>89

    「──ごめんなさい、ナツさん。貴方の優しさは、確かに嬉しいです。


    ですが──生憎、みんなのヒーローは、巻き込んで巻き込まれてを繰り返してきた、お節介な存在です」



    「星の輝きは、皆平等にあるんです。

    私は、トリニティのスーパースター──宇沢レイサ!

    あなたを包むその暗闇に──



    星の灯りを、今一度見せないといけません!」

  • 91二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:08:12

    >>90

    「──無理だよ、レイサ。どんな星の灯りも、街のライトや暗雲に遮られる。君の光じゃ、私の奥底にある闇は晴らせないよ──」

    「ならば──私ではない誰かにつなぐために、貴方から話を聞き出すために。そのために、貴方に私は挑みます。さぁ、行きますよナツさん────」



    「これが、私からナツさんへの『挑戦状』ですッ!!!」



    そう発すると同時に──私はショットガンを片手に、がけっぷちの『友達』の手を掴もうと駆け出した。

    汚れてしまったという、今にも水底に沈みそうなその手を、躊躇することなく引き上げる為に。



    それが──私と彼女の開戦の合図だった。

  • 92二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:09:45

    >>91

    -小鳥遊ホシノ視点-


    『──襲撃にあった?』

    「うん。幸い、けがはなかったけど──その襲撃者について話したくてね」


    アビドス高等学校の、教室の中にて。

    放課後、後輩たちが帰宅した中、私は件のゲマトリアの少女について、先生に情報共有していた。


    「見た感じ、どこかの生徒っぽくてさ。その子自身が、自分をゲマトリアの『朱羽』と名乗っていたんだけど、先生は心当たりがあるかい?」

    「うーん・・・ゲマトリアの『朱羽』か・・・残念だけど、心当たりがないなぁ。姿の特徴とか無かったかい?」

    「そうだねぇ・・・口調は比較的穏やかで、髪色はピンクで、一見はおっとりとした印象を受けたよ」

    「なんかホシノみたいだね…という冗談はさておき。他にはどうだい?」

    「…あぁ、執事服みたいな格好をしてたような気がするよ」

    「執事服・・・私の知っている生徒だと、メイド服の子はいるけれど・・・」

    「ミレニアムのC&Cとかかな?でも、ミレニアムの生徒っぽくは見えなかったし。あとは──」


    そこで、あまり思い出したくない男の姿を脳裏に浮かべ、思わず顔をしかめる。

  • 93二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:10:44

    >>92

    「・・・黒服に似ている雰囲気を感じたよ。敬語じゃないけど、丁寧かつ含みのあるような話し方」

    「黒服にかい?・・・しかし、過去に会ったときには、そういった子はいなかったと思う」

    「そうなると、余り絞れなくなる、と。ん~~・・・困ったねぇ」


    そうして、半ば疲れ気味の脳を休めるように、教室にある仮眠用のスペースにゴロンとする。どうやら、先生にもなるべく会わないようにしていたのだろうか。



    「ピンク色の髪、おっとりとした印象、丁寧かつ含みのある言葉使い──いや、まさか──」



    そこで、先生の方に何か動きがあった。

    「ん?先生、心当たりでもあるの?」

  • 94二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:13:41

    >>93

    「あくまで仮定にすぎないけれど──ホシノ、彼女のヘイローの形は?」

    「ヘイロー?・・・丸の中に、照準のようなマークがあったかなぁ。でも、該当する子は結構多い気がするけど」

    「含みのある話し方って言ってたけど、比喩みたいな表現を使ってなかった?」

    「・・・使ってた気がするねぇ」



    「牛乳パックとか、持ってなかった?」



    「──ん?牛乳パック?」

    突然、脈絡のないワードに困惑したが、先生はそのまま続けていった。

    「或いは、それと似たようなものを飲んでたりしてたとか」

    「────うん。飲んでたよ、先生。小瓶に、白い液体の入ったものを持ってた」

    それを聞いた先生は、少し沈黙した後に、深くため息をついた。


    「──もしかしたら、彼女かも知れない」


    すると、スマートフォンで先生は、行きついた答えと思わしき子の写真を、モモトークで送ってくれた。

    「この子かい?」


    その写真を見た私は──少しだけ、目を細める。さすが、ありとあらゆる学校の生徒と関わりを持つ人だ。生徒の情報や姿、特徴に精通している。



    「・・・違うところはあるけれど。目の色とかは、彼女はオッドアイだったから。でもそれ以外は──全く同じだよ」

  • 95二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:14:32

    >>94

    「・・・その子の名前は、『柚鳥ナツ』。トリニティの、放課後スイーツ部にいる生徒だ」

    「ナツちゃんか。先生は、この子かなって思うんだ?」

    「聞いた限りではね。…正直、ほとんど関りが無さそうな子だから、私も思い当たるまで時間がかかった。でも、私はナツが自分から悪い事をする子じゃないって信じてる。もし彼女なら──何か事情があるはずだ』

    「そっか・・・まぁでも、できれば人違いであってほしいけどねぇ──」


    そう、私が呟いた時だった。



    「ごめんホシノ──電話が来た」

    「電話?」

    「あぁ──彼女とも関りのある子だ」



    その電話に先生は出たかと思うと、再び私に電話をかけてきた。

    先生から話を聞いた数秒後には──私は、アビドス高校の教室から姿を消すことになる。



    「全く──自分を見てるようで、ヒヤヒヤするよぉ」

  • 96二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:15:59

    >>95

    -杏山カズサ視点-


    「ねぇ、カズサ──私たち、これからどうしよう」

    「・・・私にも、分かんないよ。アイリも──多分そうだよね」

    「・・・うん」


    一先ず、その施設を後にした私たちは、一人欠けた部室の中で、何をしようともするわけでなく塞ぎこんでしまっていた。

    これから、ナツのいなくなったこの部で、一体どうしようというのだろう。元より、お菓子に関して人一倍興味と関心を持っていた彼女が居なくなった今となっては、何も喉を通ろうとしない。

    このまま、行先もなく空中分解してしまいそうな──そんな空気だった。




    その空気を切り裂いたのは──たった一本の着信だった。

  • 97二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:16:45

    >>96

    「わっ!?で、電話!?」

    「い、一体誰から・・・」


    電話の差出人を見て、私たちの空気は──更に一変した。

    「・・・レイサちゃん・・・?」

    「なんでこんな時に──普段、レイサってあまり電話をかけてこないわよね・・・?」

    「・・・もしかして」


    まさかと思い、私は古くからの腐れ縁ともいえる友人の電話を取る。スピーカー状態にし、全員に聞こえるようにする。

    「もしもし。宇沢?」


    「・・・ハァ・・・ハァ・・・やっと、繋がりましたか」

  • 98二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:17:22

    >>97

    「あんた──」

    「会いましたよ、ナツさんと。──事情は聞いております」

    「・・・そっか」


    予想した通りだった。向こうから聞こえる声は、随分と呼吸が荒々しい。まるで、誰かと果てしない一戦を繰り広げてきたような。

    「…ナツと、戦ったの?」

    「えぇ。残念ながら、通してしまいましたが。ですが──思いの丈と、いくつかの真実には行き着けました」

    「……聞いてもいい?」

    「勿論。元よりそのつもりでした。まず──


    ナツさんは、日常が壊れてしまった事を酷く悔やんでいました。

    見られたくない自分を見られてしまった事で、今の自分を形作るものを全て失った──それが、今のナツさんの認識でした」

    「…私たちが、あれを目撃したから…」

  • 99二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:18:07

    >>98

    「皆さんが見たらしい、隔離された施設にいたのは──ナツさん曰く、『与えられた仕事によって自分が勝手に生かしている存在』だそうで。詰まるところ──ゲマトリアとかいうよく分かんない人たちの仕事をこなして、日々の生活費と彼らの治療費を得ていたそうです」

    「ナツさんにとって、それは何物にも代え難いほどに大事なようで。でも、その仕事はあまり良くないものが主だったんでしょう。皆さんに黙ってし続けることが、本当に辛かったみたいでした」

    「………」



    「ですが──確かに、凄まじい程の渇望と執念、そして罪悪感の奥に。私、別のものを見たんです。

    ナツさんはよく、『ロマン』というワードを口にしている人だったんですけど──その執念と同じくらい、もしくはそれ以上に大事にしようとしているものが」



    「えっと…それは、レイサちゃん?」

    「…アイリさんもいるってことは、みなさんそちらにいるということですかね?」

    「…そうね。私もいる」

    「ならば、話が早いですね。ナツさんが大事にしているもう一つのもの。それは、多分──




    『友達』ですよ」

  • 100二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:18:42

    >>99

    「…!」

    「戦ってる中で、ナツさんは最初から自分がロマンを持っていたわけでは無さそうな事を口にしていました。まるで──日々の生活の中で、誰かから沢山のロマンを貰ったと言わんばかりに」

    「そしてそれが一番できそうなのは──杏山カズサ。もう、分かりますよね?」


    「…私、たち?」


    「他に誰がいると思いますか。一番ナツさんの近くにいたのは皆さんです。もしかして、ショックのあまり、忘れてしまったんじゃないですか?」


    「…うるさい。近くにいたからこそ──それを信じられないんだ。信じたく、ないんだ──」

  • 101二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:19:38

    >>100

    「…それが、『友達』でしょうか?」



    「………」

    「確かに、皆さんと比べれば、私とナツさんの関係は希薄なものです。正直、深い関係とは言えないかもしれません。

    でも、私を『友達』と呼んでくれたナツさんを、私は信じています。信じてるからこそ、正面からぶつかった。受け止められるものは、受け止めました。

    その奥底から出してくれた本音を今──皆さんに伝えているんです」



    「それを──ましてや最も深い関係だった皆さんが、受け止めずにどうするんですか。信じてあげないでどうするんですか」



    「「「…!」」」

  • 102二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:20:42

    >>101

    「ナツさんを、信じてあげてください。何があろうと、何を言おうと。泣いている友達がいたら──手を差し伸べて、話を聞く」



    「裏切られても、打ちのめされても──最後まで信じて、助ける為に駆けつける。それが、『友達』でしょう!?」



    「───私は」

    「さぁ、立ち上がってください。時間が経つほど、人と人は離れていってしまいます。まだ手を掴みたいと思うのなら──くよくよしてる時間は、ありませんよ?」

  • 103二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:21:24

    >>102

    「「「────」」」


    夢にも思わなかった。まさか、私たちが分かりきっていると思いこんでいた事を──すっかり忘れてしまっていた時に、彼女──宇沢レイサから改めて教えられ、思い出させられるとは。


    「…はは。全く──あんたには敵わないよ、宇沢」

    「そういう敗北宣言は、私は認めませんからね。ちゃんと、私と勝負して決めるものですから!」



    「さぁ、どうしますか!助けるのですか、助けないのですか!?大事な友達の危機を救えるのは、あなたたちだけですよ!」

  • 104二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:22:19

    >>103

    「──私は、行きたい」



    隣でさっきまで、一番泣いていたアイリが──真っ先に立ち上がった。

    「───アイリ」

    「ううん、行く。行かないといけないと思う。

    だって──この場所をこの放課後スイーツ部を最初に作ったのは、私だから。

    独りぼっちで戦ってたナツちゃんに、大事なものを、場所をあげられていたなら──私は、それを守りたい。その世界に、ナツちゃんも居ていいんだよって、私は言いたいの」

    「だから──私は行きたい」


    「アイリ…」

    隣で、目元を拭ってきっと前を向いたアイリは、その時の私から見た時、どれだけ勇敢で心強かっただろう。

    改めて、この部を作ったのは、いつも優しくて穏やかな、だけどここ一番の行動力がピカイチなアイリだった事を思い出す。

  • 105二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:23:05

    >>104

    「…私も。元はと言えば、私が言い出したことがきっかけで、こんな風になっちゃったから……正直、ナツにとって本当に嫌だった事をしちゃったことは、後悔してる。次に会ったら…謝らないといけない」

    「ヨシミちゃん…」


    「でも──それはそれとして、よ」

    そこでヨシミも、すっくと立ち上がる。その目には後悔とは別に、どこか不満げなものがあった。



    「こんな大事な事隠してたんだったら、せめて私たちに話して欲しかったって怒りたいのが本音。そりゃ、話すのは関係が壊れるかもって、怖いかもしれないけど…もっと信頼してくれたって、私は特に気にしないのに…」

  • 106二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:23:49

    >>105

    「…そうだね。私も同じ──というか、前に自分がそうだったから、気持ちは分かるけどね」

    「あぁ、キャスパリーグの件のこと…」

    「あまり思い出したくはないけど…あの時、自分が知られたくない事を知られて、今の私の世界が壊れる事が、怖かったんだと思う…多分」


    「でも、私の不安なんか大したことないって言うみたいに、『放課後スイーツ団』なんて結成して。その中にはナツもいてさ──あの時は、正直かなりムカついたけど、でもそれに救われたような自分もいた」

    「そういえば、アイリがバンドをやっていて途中でいなくなった時も──アイリの為に、セムラを奪おうって言い出したのはナツだったわね…」


    「…自分にとって、何に代えても失いたくないものを投げ打つことになるとしても──ナツちゃんは、私たちのために動いてくれてたんだ。ずっと、ずっと」

  • 107二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:24:30

    >>106

    「…どうやら、私の立てた推測は、あながち間違いではなかったようですね」

    電話越しに、レイサがホッとしたように息を撫で下ろした声が聞こえた。そのレイサに、私は声をかけた。


    「…うん。ありがと、宇沢。あんたのおかげで──大事なことを思い出したよ」

  • 108二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:25:12

    >>107

    「ナツのいない放課後スイーツ部なんて、私たちはいらない。

    ナツがいなくなるなら、それはこの部が解散する時って決まってる。


    …行こう、アイリ、ヨシミ。ナツを取り戻しに。

    ナツもいる、私たち全員の──



    『放課後スイーツ部』である為に」



    「…うん!」

    「えぇ!」

  • 109二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:25:37

    >>108

    「──方針は、決まった様ですね!なら、先んじて先生と話しておいた、私からもう一つ!」

    「え、先生も知っちゃってるのこの件…?」

    「何でも、小鳥遊ホシノさんって方と、ナツさんのことで話していたそうですよ?それで何ですけど──」

    そうして、宇沢レイサからある住所が送られる。



    「──恐らく、ナツさんはここにいるだろうと」

  • 110二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:27:13

    >>109

    一旦休憩しますね…

    後日pixivでまとめるので、この隙に感想なり考察なり書いてくれると、筆者は元気が出るので嬉しいです。


    また夜にはやってくると思うんで、一先ずはここで。

  • 111二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:31:29

    大量投下お疲れ様と感謝
    夜の投下もあるなら楽しみにしています

    予測可能で回避不能な正体バレ前後の感情を揺さぶる描写に大ダメージを受けた
    ある程度外から諭せる宇沢がいなければ即死だった

  • 112二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:32:28

    剥がれた認識のヴェール……色彩を失った灰色の世界………もうロマンなんて、いらない………

  • 113二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:33:04

    今のところ超再生がメインでテラーホシノの六割ほどの戦闘能力は見れてないあたり今後の展開で…が恐ろしい
    超再生という名の一度死んでの蘇りとか精神への負荷を想像するだけでおかしくなりそう

  • 114二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:33:37

    スーパースター(真)

  • 115二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:34:32

    暴走するカズサが解釈一致
    時折泣きながら限界を迎えてSOSしてくるナツすき
    助けてあげたい、みんなに救われて

  • 116二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:35:56

    >>113

    キヴォトスで禁忌の死と更に蘇生を幾度となく味わってきたナツの心はもう…

  • 117二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:37:24

    更新速度から覗きにきたら良概念に出会えたぜ
    かんしゃあ

  • 118二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:37:49

    とんでもない量お疲れ様です…
    こういう時アズサとは違う意味でレイサって強いよなあ
    なんかこう、未来が良い物であると信じて諦めないアズサと
    傷つきながらも現実を受け止めて進み続けるレイサっていうか
    これ以上悪くなることなんてないよねってネガティブなポジティブだからこそのこういう精神力…

  • 119二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:39:40

    ナツのミルクのみがメタファーなんて…
    文字通り産まれ直して傷もなくしてるの凄い、不老不死かな?
    だけど心は疲弊していく

  • 120二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:43:43

    ホシノパートお互いシンパシー感じてるのいい
    時系列的にアビドス三章が待ち受けてるのかな

  • 121二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 16:58:58

    仲間のために実質トリニティ全体を敵に回す覚悟があるスイーツ部だし余計な心配だと思うけど
    エデン条約で望んでないとはいえ敵になっていたことはどう受け止めるんだろうな
    果たして先生はどこまで干渉できるのか

  • 122二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:24:20

    >>110

    休憩終わり!

    続きを書いていきますよ~

  • 123二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:33:02

    >>109

    -柚鳥ナツ視点-


    トリニティ内、とある廃墟の中。

    かつて一度訪れたその場所に、私は再度足を踏み入れていた。


    「…………」

    今はもう亡き、廃れた店の風景。積みおかれた、駄菓子の箱の山。

    前に一度、シャーレの先生と一緒に中に入ったことのある場所だった。


    「──何で、ここに来たんだろうね」


    思えば、不思議だった。

    過去の失った記憶の執着か、私はこれでもかというほどにトリニティの生活に憧れていた。

    貧困に喘ぐこともなく、必要な環境は全て備えられている。人間関係の派閥や諍いはあれど、一先ず食べたり飲んだりに困らないっていうのは当然だ。

    一言で言えば、「何一つ不自由のない暮らし」──それを、過去の私はどれだけ追い求めていたというのか。

    あの実験に参加するほどという事は、よほど追い詰められていたのだろう。

  • 124二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:34:04

    >>123

    だとすると──ここにいるのは変だ。

    何故なら──目の前にあるのは、非常に安価で質も良いとは言えない、トリニティで売られてる高価なお菓子に比べれば求めてる層は少ない筈の駄菓子たちなのだ。


    「…それだけ、私の中で『ロマン』が強くなっていたのかな」


    あの時。先生と一緒に、この駄菓子たちを見つけた時。初めて見るものばかりでありながら、異様な懐かしさを覚えた時。私は、ずっと鍵をかけられていた宝物庫から、無くした宝物を見つけたような、そんな気分になっていた。

    執着だけなら、見向きもしなくなっていた筈のそのお菓子達に、私は躊躇なく飛びついていたのだ。

  • 125二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:35:36

    >>124

    「…ッ…」

    既に動かないレジスターの前に、少量のお金を置く。

    置かれた箱を一つずつ見ていき、割と新しく置かれたであろう箱を見つける。その中に入っていた、小さなスナック菓子を一つ取る。置かれた駄菓子の中で、一番安くて買いやすい物だった。

    恐らく、この場所を知っているのは、自分だけではないのかもしれない。同じように、ここをなるべく知られない状態で、受け継ごうとしていた人がいたのだろう。

    それを一つ貰うことに罪悪感を覚えつつも──その袋の端を裂き──私は、一口頬張った。


    「……何で……」


    それは、本当にシンプルで、しけてしまった味で。

    大量生産する為に、ありとあらゆる原材料を削ぎ落としてできた物なのに。


    その味が──あまりにも懐かしくて、親しみやすくて。

    忘れきっていた大事な事を引き摺り出してしまう様な。


    そんな味に──また、目の前が滲んでいく。

  • 126二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:37:35

    >>125

    「ッ……どうして……どうして、この味が好きなの……何で今の私が、これを求めていたの……?」


    ──あぁ、そっか。


    生活とか、安全とか、お金とか。

    最初に何よりも欲していたそれを手にした後に。

    私はきっと、契約する前に忘れていた、大事なことを教えてもらったんだ。

    みんなに、裕福さだけでは決して満たされない溝を埋めてくれる──『日常のロマン』を。


    だから──この味も、好きだったんだ。


    「──でも、もう遅いんだ。もう……みんなには、会えない。受け入れてくれたとしても──私はずっと罪人だ。だって、私の契約は──」

    そう、私が呟いた時だった。



    「──やっぱり、ここにいたんだね。ナツ」

    「!?」

  • 127二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:39:27

    >>126

    一人で泣いていたあまりに、気づかなかったのだろう。廃墟の暗闇から出てきたのは──よりにもよって、シャーレの先生だった。


    「先、生…どうして…」

    「君がもし来るとすれば、ここだと思ったからね」


    そして、私の姿を見て、こくりと頷いた。

    「そうか──やはり、君だったんだね。ホシノから聞いた情報と、完全に一致してる」

    「───ッ」


    胸の奥が締め付けられる。きっと、私に裏切られたと失望しているのだろう。

    私と一緒に来てくれたこの場所で──今度は、私を捕まえに来たのだろう。


    「わた…私、は…せん、せ……」


    思わず、自分の腕を痛いほどに握りしめる。爪が食い込むほどに握った手は、まるで枷の様に外れない。

    もう、駄目だ──ここで、私は終わりなんだ──

  • 128二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:40:23

    >>127

    「…ごめんね、ナツ」

    「…え?」


    しかし、先生は──私を捕まえようとはせず、深々と頭を下げてきた。


    「君がそんなにも、苦しみの中にいたことに、私は気づいてあげられなかった。きっと──ずっと、好きな人たちに隠しながら、辛い思いをしてきたんじゃないかな?」


    核心を突かれた私は────また、見ないふりをする。

    「──違う、よ。先生。私は犯罪者──先生も知ってるでしょ、ゲマトリアのこと。私はその一人の部下で、今までのキヴォトス各地の破壊工作に加担してきたんだ。『朱羽』という名前で、先生に見えない所で色んな悪事を働いてきたんだ」


    「私は、みんなに黙っていたんじゃない。みんなを騙してきたんだ。だから──罪人は、裁きを受けるんだ。

    それで先生は──私を捕まえる為に、ここに──」

  • 129二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:42:00

    >>128

    「──ナツ」


    私がそこまで言いかけた時に、先生が口を挟む。普段、私と話す時に、そんな事をした事はなかったから、思わずびくりとしてしまう。


    「君は聡い子だから、分かると思うけれど──まず、第一に。私はあくまでシャーレの先生で、君を捕縛する権利も義務も持ち合わせていない。

    次に、君は確かに『朱羽』かもしれないけれど──同時に、『柚鳥ナツ』っていう私の生徒だ。生徒の危機に駆けつけるのが、先生の役目だ。そして──」

    そうして先生は──硬く腕を握った私の手を柔らかく包み、ゆっくりとその手を開かせていった。



    「私がここに来たのは──ナツ、君と話をする為だ」



    「……!」

    「君が抱えてきた秘密も、それを話せなかった理由も、君が耐えてきた辛苦も。その胸の奥に隠した本音を聞く為に、私は君に会いにきたんだよ」

  • 130二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:43:08

    >>129

    「…せん、せ…い……」

    「勿論、無理に話さなくてもいいんだ。その時は、君が話せる様になるまで、君を守る方法を考えるよ。幸い、私には沢山の力強い生徒達がいてくれる。君の要望に合わせて、助けることができる子を探すよ」


    「…どうして…どうして、私を疑わないの…?先生も、ゲマトリアの事を──『黒服』のことは、知っているんでしょ……?」

    「──ナツ。私は先生だ。生徒を信じないで、先生を名乗ることはできないさ。

    君が何をしていたとしても、何を思おうとも──


    私は、君を信じると決めたんだ」


    「…う…うぅ…ううう……」

  • 131二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:44:14

    >>130

    何故──こんなにも、私を信じてくれる人の事を。私は。信じていなかったのだろう。何故もっと早く、この人を頼ろうとしなかったのだろう。

    何故──この人をずっと、裏切ってきてしまったのだろう。



    「うあぁ…あぁ…ごめん、なさい…ごめんなさ、い……」



    そうしてずっと、悔むばかりに縋り付く私を──先生は、決して拒もうとはしなかった。

    ただ、嗚咽して啜り泣く私の背を──優しく撫でてくれるだけだった。

  • 132二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:45:35

    >>131

    暫くして落ち着いてきた頃、私は一つ一つ、少しずつ先生に隠してきた事を話していった。


    過去に『黒服』と契約を交わしたらしく、それでいて過去の記憶がないこと。

    実験を受けた時に目覚めた自分の側で、目覚めなかった三人の子がいたこと。

    その子達の治療費と生活費を貰う代わりに、彼の指示に従い続けてきたこと。

    そしてそれを──放課後スイーツ部のみんなに、隠し続けてきて、ついにバレてしまったこと。


    話を聞いていた先生は、それらを丁寧に、頷きながら聞いてくれた。よく見ると、右手の拳が微かに震えていたのが分かる。やっぱり、怒らせてしまったのだろうか。


    「ごめん、ナツ。これは君に対しての怒りじゃない。別の人に対してだから、安心して」

    私がそれに怯えていた事に気付いたのか、先生は肩の力を下ろしながらそう言った。

  • 133二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:46:54

    >>132

    「…分かった。ありがとう、先生。でも……私、黒服のこと、嫌いにはなれないんだ」

    「…それはちょっと、意外だったね。てっきり、憎んでいてもおかしくないと思ってたけど…」

    「確かに、縁を切りたいのは本当だよ。でも──悪い人だったとしても、利用されたとしても──あの人が、確かに私にあの日常をくれたのは事実なんだ。

    だから先生──あの人を傷つけるってことなら──私は、正直嫌だ…」

    「…そっか。ナツは優しくて、義理堅い子だね。──分かった。

    ナツがそういうのなら、私も彼に何もしないよ」

    「…本当?」

    「本当さ。私を信じてくれるかい?」

    「…うん。信じたい。今度こそ、先生を信じたい」

    「ありがとう、ナツ」

  • 134二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:47:39

    >>133

    すると、廃墟の奥から、もう一人。予想だにしない影が現れた。


    「いやぁ〜…私としちゃ、甘すぎる気がするけどねぇ」


    「小鳥遊…ホシノ…!?」

    「ま、そういうことなら仕方ないか〜。先生も了承しちゃったしね。後で後悔しても知らないよ〜?」

    「…分かってる。それでも、私なりに決めたことだから」

    「そっか。それならいいけどねぇ」


    そういうと、ホシノは私の横にちょこんと座った。

  • 135二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:49:21

    >>134

    「『守りたいものがあるなら、ちゃんとそれを共有できる人は作っておいた方が良い』…前に私が言ったことを覚えてるかな、ナツちゃん?」

    「…うん」

    「あれはね、自戒も込めたものだったんだ。私も過去に、誰にも相談せず、独りで突っ走っちゃったことがあって。それで結局、全てを失う所だったんだ。でも、先生と後輩ちゃん達が助けてくれたんだ」


    「私もこの先、また同じ事をしてしまうかもしれない。でも、少なくとも前と違うのは、昔より共有できるものは少しずつする様に気をつけてること。独りで抱え込んで、また暴発するのは──できれば避けたい」

    「まぁ、それでもやっちゃった時は──みんなが助けてくれるって信じてるけどね」

    「………」


    「だからさ、ナツちゃん。これは、私とある意味似ている君への、私なりの言葉。私と同じ様な轍を、どうかこれ以上踏まないでほしいな」

    「…でも。私は…怖い。私の見せていなかった所を、みんなが知った上で受け入れてくれるか…とても怖い。もし駄目で──あの日常に戻れなくなったら──」

  • 136二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:51:32

    >>135

    「…ナツ」

    すると、先生がバッグから、ホワイトボードとペンを取り出した。


    「…?」

    「君と会う時、私は君の生徒によく成る。君の語ってくれたロマンは、どれも私には興味深いものだったからね。


    だけど今日は──文字通り、私が先生になろう」



    ホワイトボードに先生が描いたのは、アイスと思わしき球体を入れた様なカップ。

    そして、そこにコーヒーと思わしき黒い液体を注ぐポッドだった。

    「わーお…先生、意外と絵上手いねぇ」

    「意外とって、ホシノ…まぁ、いっか。ナツ──


    "アフォガード"の話をしてくれたの、覚えてるかい?」

  • 137二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:52:26

    >>136

    「そう。バニラアイスに、エスプレッソをかけてできるデザートを教えてくれたことだ。

    あの時、ナツはこういうことを言ってた気がするんだ。『全く違う領域のもの同士が排斥せずに受け止め合う事で、かつて到達できなかった境地に行ける』って。


    即ち──包容力のことをね」


    「そう、包容力──相手を受け入れる力だ。確かにそれは必要だけど──君の説は、もう一つ似ているようで少し違う力も含めて、初めて完成する」

    「それは…何…?」

  • 138二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:53:49

    >>137

    「それは──相手に受け入れてもらう力。

    自分でできないことを、他人に任せる力。



    一言で言えば、多分『協調性』になるかな」



    「「…あ…」」

    声が重なって思わず隣を見ると、ホシノがぽりぽりと気まずそうに頰を掻いている。…なんだか心当たりのある様な顔で。


    「元々、アフォガード(affogato)の意味は『溺れる』って意味だ。このデザートは、互いが相手に溺れているけれど、その上で完全に溺れきらないから成立しているとも解釈できる。

    今のナツは──多分、相手を溺らせてしまうのが怖いあまりに、溺れきれずに残ってしまった、苦いエスプレッソなのかもね。言い換えると、自分自身に溺れているとも言える」

    「時には、相手を信じて、思い切って相手に溺れること。これも、時と場合によっては必要な協調性だ。もし行き過ぎそうになっても、きっと相方がその手を掴んで止めてくれるさ。甘い甘い、バニラアイスの様にね」

  • 139二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:54:46

    >>138

    「……掴んで貰えるかな」

    「少なくとも、私はそう思うかなぁ。ホシノはどうだい?」

    「耳に痛いけど、私も同感かなぁ。いやぁ、先生らしい所見させてもらったよぉ〜。内容が内容だけに、おじさんのハートはボロボロだけどねぇ」

    「はは…ごめんね、ホシノ」

    そうして、先生は罰が悪そうに少し笑った。その柔らかな笑い方に、どこか心の糸が解れるような気分になった。


    「…ふふ」

    その柔らかな笑いに、思わず私もつられて微笑した時だった。

  • 140二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:56:37

    >>139

    心臓が──飛び出すように脈動する。


    「うっ…!?」

    その痛みに思わず、胸元を両手で押さえる。しかし、止まらない衝撃に耐えきれず、うずくまって倒れてしまう。

    「あっ…ッ…ぐぅ…!?」

    「…ナツ?どうしたんだ!?」

    「…!駄目、先生下がって!!!」

    小鳥遊ホシノの予想は的中した。


    次の瞬間──私の体は、瞬く間に炎に包まれた。

  • 141二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:57:29

    >>140

    「あ、あぁぁ…あ……あつ、い……熱い、よ……せん、せ………」

    「ナツッ!」

    「ナツちゃん、しっかりして!」


    どうして──まだ、今は飲んでないはずなのに。

    黒服から受け取っていた、『あの薬』を。


    今日は使っていないのに──

  • 142二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:59:44

    >>141

    ──その頃。

    彼──黒服は、窓の外の、沈みかけの太陽に目を向けていた。

    「…やはり。忠告はしていましたが──使わざるを得ない状況でも多かったのでしょうか」

    「…あなたに与えていた、白濁の液体──『神秘活性薬』。飲む度に、神秘の力を一時的に活性化させ、使用させることができる薬」


    「ですがそれは、体に多大なる負荷を与える劇薬。体内が、徐々にその負荷に侵食され、破壊され、それ無くして成立しなくなってしまう」


    「だからこそ、極力使用は避けるように言ったのですが──用法要領を守らず、オーバードーズした被検体の最後は──暴走した身体機能による自滅」



    「つまり──神秘の暴走です」

  • 143二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:01:22

    このレスは削除されています

  • 144二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:02:28

    >>142

    「…クックック。えぇ、えぇ。ですが──これもまた、崇高へと至る道。暴走した不完全な神秘と言えど、今は多大なる恐怖の中──」


    「さぁ、『柚鳥ナツ』──もとい、『朱羽』。その名に違わぬ、生誕の時です。あなたという炉に神秘の薪を焚べ続けてできた、燃ゆる大火の化身。不完全な『再生』を繰り返す、虚しき擬似不死性の生物」



    「言うなれば──『虚火の鳥(うつろびのとり)』でしょうか」

  • 145二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:05:48

    >>144

    ──浮かび上がる、記憶があった。



    飢えた体。追われる日々。

    その中で一緒に生きていた、三人の同じように飢えた者たち。

    あの、とても安かった駄菓子を、分け合って食べる私と三人。


    その顔は──横たわっていた三人の顔と同じだった。


    そして──目に映った、トリニティの生徒の生活。




    あぁ──あれが欲しい。

  • 146二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:06:16

    >>145

    安定が欲しい。

    安全が欲しい。

    安心が欲しい。

    安泰が欲しい。



    あの──ロマンが欲しい。




    思い出した。

    思い出してしまった。

    思い出さなければ、いけなかった。

  • 147二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:06:46

    >>146

    黒服の実験に彼らを誘ったのは──私だった。

  • 148二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:07:42

    >>147

    「そう、だったんだ──最初から──私────」


    あぁ、なんて──愚かだったのだろう。

    相手の奥底をよく見ようともせず。目先の欲に眩み、更にそこに親しかった者達を巻き込んだ。

    信じていた大人は、最初から約束などしていなかった。

    最初はその契約通りのものを与えたとして──それが続くかは本人次第。

    でもそこに──選択肢を与えないようにリードを渡さない。


    それに抗うこともせず、契約だからと、恩義のためだと。私は、何も考えずに、恐れと執着の余りに従い続けた。


    だからこうして──ツケが回る。



    「ナツ……」

    「──ナツちゃん」

    「──あり、がと。先生、ホシノ…でも、もう──耐え、きれない───早く、逃げ、て──」



    「──ごめん、レイサ、ヨシミ、カズサ───アイリ。やっぱり私の最後は──



    大罪人としての、火刑みたいだ」

  • 149二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:08:49

    >>148

    そうして──『柚鳥ナツ』は、神秘に体そのものすらも包まれ。



    『朱羽』の鳥は──炎を散らす翼を広げた。

  • 150二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:09:39

    >>149

    -杏山カズサ視点-


    「二人とも、こっち!急いで!」

    「言われなくとも急いでるわよ!?本気になったあんたが早すぎるのよカズサ!!!」

    「ひぃ…ふぅ…はぁ…はぁ…」


    レイサから貰った住所をスマホで確認しながら、全速力で走る。後ろについてきているヨシミとアイリは既に息がもたないほどになっているが、それでも食らいついてきてくれた。

    「もうすぐつく!二人とも頑張っ──」


    その時。



    辿り着くはずだった目的地が──轟音と共に、爆炎に包まれた。

  • 151二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:10:34

    >>150

    「えっ…」

    「な、何…!?」


    鼓膜を劈く音波に、思わずその場所を振り返ると、廃れた廃墟と思わしき場所が、大きな穴を開けて炎上していた。その穴から出てきたのは──

    「…先生!?」

    「え、もう先生が先についてたの!?」

    「じゃあ、さっきまでそこに──」

    今し方、先生が出てきた、大きく開いた廃墟の穴に目を向けた瞬間──


    その穴が爆ぜた。


    「うわっ!?」

    爆ぜた炎から飛び出したのは──二つの影。

    一つは、盾とショットガンを片手に、臨戦体制を取る一人の少女。

    そしてもう一つは──



    「…燃えてる…鳥?」

  • 152二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:11:35

    >>151

    身体中から火の粉を吐き散らし、辺りをその身を包む炎で焼き尽くそうとする、五、六人分あろうかという大きさの灰よりも黒い鳥。

    一言で言えば──「火の鳥」だろう。


    だが。



    その鳥を必死に押さえつけようとしている、一人の少女が言い放った言葉が──私たちを更に追い詰める。

  • 153二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:12:16

    >>152

    「止まれ!止まるんだ、『ナツ』ちゃんッ!」


    ─────え。


    「い、今…『ナツ』ちゃんって…」

    「と、止まれって言ってた…」

    「じゃあ───そんな、あれが───」



    「今のが──ナツ───?」

  • 154二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:13:16

    >>153

    私たちの友達は、トリニティを脅かす怪鳥に変貌してしまったと、目の前の光景を告げてきた。


    アイリとヨシミは、その事実に打ちのめされたように立ちすくんでいる。

    当然、私もそうなりかけていた。


    足がすくみ、膝がガクガクと震え出す。瞬きをすることもできず、目を見開く。

    できることなら、今すぐ逃げ出してしまいたいと本能がささやく。



    それでも──私の脳内に響いたのは。

  • 155二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:14:04

    >>154

    (裏切られても、打ちのめされても──最後まで信じて、助ける為に駆けつける。それが、『友達』でしょう!?)



    全く──宇沢。

    あんたに鼓舞される日が来るなんてね。



    両手で頰を思いっきり叩き──前を向き直る。


    「二人ともッ!」

    「「!?」」


    そして──時が止まったかのように呆然としていた二人に、張った声で呼びかける。

  • 156二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:14:56

    >>155

    「ここで止まったら、今度こそナツを失うかもしれない。あのまま脅威としてナツが消えるだなんて、そんなの私は御免。だったら──止まるわけにはいかない。そうでしょ!?」

    「私たちの『友達』を、ナツを──今度こそ信じよう。だから──行くよ、二人とも!」


    その声に──二人も答えてくれた。

    「…あぁ〜〜情けないッ!怖がってた自分が恥ずかしいわ!分かってるわよ!行くに決まってんでしょ!?」

    「…うん!ありがとう、カズサちゃん!行こう!」


    「よし…それじゃ────



    『放課後スイーツ部』、出撃するよ!」

    「「了解!」」

  • 157二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:16:07

    >>156

    -小鳥遊ホシノ視点-


    「クッソ…予想以上に再生が早い…!!!先生、大丈夫!?生きてるよね!?」

    「あぁ、大丈夫だホシノ!指揮をするから、合わせられるか!?」

    「勿論…って言いたんだけど──なんというか、おじさんも余裕が持てないんほど苛烈なんだよ、ねっ!!!」


    手に持った盾で、火の鳥から放たれる、刃のように尖った業火の剣をガードする。ジリジリと焼ける感触を堪えつつ、構えたショットガンをぶっ放す。

    だが──放たれた弾丸は確かに当たっていても──当たった弾のダメージが、ほぼ即座に再生してしまう。

    仰け反りはするのだが、あくまで一時しのぎでしかない。反対に放たれたのは──


    建物の一室を呑み込むと言わんばかりの、巨大な火球だった。

    「!!!先生──」

  • 158二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:17:45

    >>157

    あろうことか、その火球は先生の隠れている場所に目掛けて飛んでいく。

    そこにフルスピードて飛び込むが──盾が間に合わず、身体にもろに火球が当たる。


    「ホシノ・・・!」

    「あぐっ・・・ぐっ、あの状態でイカれたダメージ・・・ナツちゃん、さては──こうなる前、相当な火力を隠してたかなぁ・・・?」


    そうして、焦げ付いた服と火傷を引きずりながら、未だ消耗でくらくらする視界で彼女のなり果てた姿を睨む。


    「やれやれ・・・超火力に超再生、おまけに人の姿まで・・・ナツちゃん、随分なものを貰っちゃったみたいだね。さて──本当ならみんなに助けを呼びたいけど、そんな暇は無さそうだし。ここは一つ堪えるしかないかなぁ・・・救援に来るにも時間がかかりすぎちゃうし」


    とはいえ、さっきのものを連発されたら手に負えない。というか、一つ一つの破壊力が桁違いだ。少しでも気を抜いたら、身体が黒焦げになりかねない。

    さて、どうしたものかねぇ──鉄板の如く熱くなった盾を構えながら、血のにじむ頭を抱えた時だった。



    別方面から乱射された弾丸が、火の鳥の体を蜂の巣にし、思わず視線を向ける。

  • 159二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:18:28

    >>158

    ばら撒かれた弾丸の所にいたのは──三人の、トリニティと思わしき生徒だった。

    そして、その三人には、見覚えがあった。


    「すみません、確かその鳥のこと、ナツって言ってた人ですよね!」

    「…君たちは、ナツちゃんと写真に映ってた──あぁ、放課後スイーツ部のみんなかな・・・?」

    「はい──居場所を教えられたので、急いでやってきました。それで──」

    そうして、黒髪で耳の大きい子が火の鳥の方を見る。やはり、受けたダメージは回復しており、体制を立て直そうとしていた。


    「あれが…ナツ、なんですよね」

  • 160二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:19:14

    >>159

    「…そうだよ。なんだか分からないけど、受けたダメージを片っ端から再生しちゃってねぇ。おじさんもだーいぶ困ってた所」

    「お、おじさんって…凄い一人称ね…」

    「そ、そうだね…」

    「まぁ、そこは置いといて・・・私は小鳥遊ホシノ。君たちは?」

    「…杏山カズサです」

    「伊原木ヨシミ」

    「栗村アイリ、です」

    「オーケーオーケー。それじゃ、これは──共同戦線ってことでいいのかな?」

    「寧ろ、私たちの部員が迷惑かけちゃってるようなもんなんで…こっちからしたら、ありがたい限りです」

    「いやいや、おじさんもこの子には妙に親近感が湧いちゃってねぇ。ちょっと見過ごせないだけだよ」

    「…分かりました。そしたら、お願いしても構いませんか?」

    「いいよ〜。と言ったところで……


    先生、指揮はお願いね」

  • 161二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:22:47

    >>160

    すると、私の声に応えるように、今度は邪魔にならないようにと奥にいた先生が、顔を見せた。その拍子に、放課後スイーツ部のみんなが驚く。

    「うわっ、先生!?さっきの爆発は大丈夫だったの!?」

    「あはは、ホシノが守ってくれたから。ホシノ、さっきはごめん…まだ動けるかい?」

    「うへへ、先生。おじさんを誰だと思ってんのさ」

    「そうだったね──よし。実は、みんなのおかげで、ある糸口ができた」

    「糸口…?」

    「あ、あるんですか?ナツちゃんを戻せる方法?」

    すると、先生は火の鳥の方をじっと見る。

  • 162二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:23:41

    >>161

    「さっき、君たちが一度に乱射した弾が当たった後──彼女の動きが、辛うじてではあったけど鈍くなった」


    「おそらくだけど──あの『再生』は、一度にかつ大量には行えない。治せるところから治している感じなんだ。一度に大きく傷を負った時、再生しきるまでの時間や量に限りがある」

    「つまり──あの『再生』はまだ未完成ってことだね」

    「そう。そして未完成ということが意味するのは──『再生』できる回数に限りがあるということ。だから、『再生』のリソースをより大きく割くように攻撃し続ければ──」

    「──リソースが枯渇して、『再生』が使えなくなるってことですか?」

    「多分ね。ただ──見極めるタイミングを間違えば、彼女はリソースを使い果たしかねない。その状態になるのはまずい。だから、そのタイミングが来た瞬間に──彼女にそれを使わせないように止める。これができるかどうかだ」

    「だけど、あいつは燃えてるのよ!?止めるったってどうやって──」

  • 163二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:24:29

    >>162

    「──私が、やっていいかな」



    そこで声を上げたのは──アイリだった。

    「アイリ…」

    「一応、放課後スイーツ部を作ったのは私だからね。部を作った人として、ナツちゃんに何か言えるとしたら、私になると思う」



    「それに──いつも、部の中で困った時、ヒントをくれたり引っ張ってくれたのはナツちゃんだったから。

    せめてここは──私が行きたい」



    「…そっか。分かったよ、アイリ。ナツのこと、お願い。止めることができるまでは、私たちがどうにかする」

    「…ホント、こういう時のアイリってカッコいいのよね…」

    「えぇ!?カ、カッコいいって…!?」


    「いや〜、友情と絆の場面だねぇ。おじさんには眩しいや」

    そうして、青春を謳歌する少女たちの輝かしい世界を背に──盾を地面に立て、前面に立った。

  • 164二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:25:18

    >>163

    「それじゃ、若い子にいいところを見せるのも、年長者の務めだしね。あの子の注意は私が引きつけるから、君たちはありったけの火力をお願い」

    「…はい、分かりました!」

    「よし…痛いだろうけど、我慢しなさいよナツ!!!」

    「待っててナツちゃん!すぐに終わらせるから!」

    「じゃ──先生、合図を頼むね」


    「よし、それじゃ──作戦開始!!!」

    「「「「了解!」」」」

  • 165二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:26:37

    >>164

    -全体視点-

    そうして、小鳥遊ホシノをタンクとして、虚火の鳥──柚鳥ナツとの対峙が始まった。


    廃墟から飛び出した彼女を食い止めるように、小鳥遊ホシノが殆どの攻撃を引き受ける。一つ一つの攻撃を捌き切るその姿は、まさしく暁のホルスの名に相応しい。

    そのガードを超えてくる炎を避けながら、カズサ、ヨシミ、アイリが弾丸を叩き込む。元々、彼らの武器は全体的に連射武器なこともあり、三人分合わさった際の火力は、彼女の『再生』のリソースを食わせるには充分だった。


    しかし、次第に──火の鳥が、彼らから逃げるように、空へと舞い上がろうと翼を広げ始めた。

    「まずい、飛ぼうとしてる!」

    「マジで言ってんの!?空へ行ったら、対処のしようがないわよ!?」

  • 166二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:27:43

    >>165

    「──カズサ、ヨシミ、アイリ。そこの廃墟の屋上へ向かって!」


    「!?先生、何を…」

    「ホシノ、飛ぶまでの時間を、なるべく抑えられるかい!?既に充分リソースは割かせたはずだ!」

    「──!!! なるほどね──」


    すると、飛ぼうとした火の鳥に──ホシノが食らいつき、散弾銃を翼に打ち込む。即座にリロードし、更にもう片方の翼にも打ち込む。

    「早く、今のうちに!おじさんにもやれることは限られるからね!」


    「ありがとう、ホシノさん!二人とも急ぐよ!」

    「オーケー!」

    「うん!」

    先生に言われた通り、私たちは猛ダッシュで階段を駆け上がる。

    幸い、駄菓子屋のあった廃墟はかなり高さがあり、上へと繋がる階段があった。その屋上に駆け上がる途中で──下から、けたたましい嘶き声が聞こえた。

    「お願い、間に合ってよね…!」

  • 167二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:29:26

    >>166

    「やれやれ、そろそろ素直になってもいいんじゃない?ま、私も似たようなもんだけどさ!」

    そうして盾で無理やり制止しようとするホシノ。しかし──ありあまるほど無数の炎の刃が、孔雀のように火の鳥の周りに展開される。


    「ゲッ・・・ちょっと多すぎッ・・・」


    その炎が襲い掛かろうとした時──



    「とうッ!!!」

    別のショットガンの音が、流れ星のように駆け抜けた。

  • 168二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:30:53

    >>167

    「…?」

    流星の残像が通り抜けた先で──火の鳥は更に翼に散弾を受け、その場に倒れ伏していた。


    「あなたもショットガンですか──これは、気が合うかもですね」

    「…えっと、君は?」

    「呼ばれてないけど飛び出て登場!これがいわゆる、アイルビーバックってやつですね!!!」



    「みんなのスーパースター──宇沢レイサ、ここに見参!!!」



    「…電話で聞いていた以上に元気な子だねぇ・・・」

  • 169二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:31:59

    >>168

    レイサが更に時間を稼げたこともあり、屋上に何とかたどり着いたカズサが、下に向けて大声を上げた。


    「ホシノさん!!!」

    「!!!」

    「辿り着きましたか、杏山カズサ!」

    「レイサ!?あんたも来てんの!?」


    それとほぼ同タイミングで──ホシノとレイサから逃れるように、火の鳥が空へと駆け上がろうとした。

    「小鳥遊ホシノ、もうこれ以上は限界ですっ・・・!」

    「──みんな、そっちにナツちゃんが行く!あとはお願い!」

  • 170二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:33:42

    >>169

    「…!よし、行くよ、二人とも───ハアッ!!!」


    「ちょ、ちょっと心の準備が──いやああああ!?」

    「うわぁぁぁぁぁっ!!!」


    次の瞬間、カズサが側にいる二人の手を引きながら──火の鳥目掛けて、飛び降りる。

    そして──カズサが銃口をナツに向ける。



    ──ナツ、いつだってあんたはさ──私を散々振り回して、いじって──それでいて、良いところで妙に鋭くて。

    そんでもって──私たちの中で、一番スイーツに詳しくて、楽しそうで。

    そんなあんたが──



    「──柄にもなく、迷ってちゃ困るんだっての!!!」

  • 171二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:34:55

    >>170

    放たれるは──『キャスパリーグ』の弾丸の雨。

    それは、駆け上がった火の鳥に降り注ぐ──が、止まらない。

    まだ、止めるには火力が足らない。


    そのまま、三人は未だ燃えている火の鳥の体に乗り掛かる。


    「「「───あっつッッッ!!!!」」」


    しかし、それでも止まらずに弾丸を浴びせ続ける。

    三人がしがみついた大きな火の鳥は、悶え苦しみながらあちらこちらへと飛行をやめない。

    「止まれ、止まってよ、ナツ!!!」

    そこで更に、ヨシミがライフルを構え、鳥のコア──心臓があると思われる部分に突きつける。

    「ごめん、ナツ!あんたの秘密を知ったのは、私の言い出したことが原因!それは後で怒っていいから!だけど──それはそれとしてッ!」



    「全部一人でやろうとしてんじゃないわよ、このトラブルメーカーがぁ!!!」

  • 172二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:36:15

    >>171

    そしてヨシミが放ったライフル弾が──柚鳥ナツの神秘のリソースの、限界一歩手前に突き詰めた。

    割れたヒビから──篝火が溢れる。


    それが──合図だった。


    「今だ!」

    先生の合図を聞き、カズサがヨシミの服を無理やり掴む。

    「あとをお願い、アイリッ!」

    「え、ちょ、カズサこれ私たち着地はぁぁぁぁ……」


    そうして、アイリだけが乗った火の鳥から──なるべく低い位置に、カズサがヨシミを連れて飛び降りた。

    そして──残された、今にも燃え尽きてしまいそうな火の鳥を。



    アイリが──空中落下の中で、ゆっくりと抱き抱える。

  • 173二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:36:48

    >>172

    「────ナツちゃん」


    「ずっと怖かったんだよね。辛かったんだよね。誰にも話せずに、頑張ってきたんだよね」


    「だけど──それでもいいんだ。そんな感情を持って、一人で戦ってきたとしても──私たちは、ナツちゃんといたい。ナツちゃんがいないと──私たちは放課後スイーツ部になれないの」



    「だから──一緒に帰ろう。私たちの、放課後スイーツ部へ」

  • 174二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:37:23

    >>173

    優しく柔らかい、口溶けの良い言ノ葉が、アイリの口を通って紡がれる。


    甘く豊かな味わいを持ち、火照った体を冷ますアイスのように。

    煮え凝ったように熱い、灰のように苦いコーヒーに溶けるように。


    その言葉が──虚火の鳥を、『柚鳥ナツ』へと引き戻す──

  • 175二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:38:23

    >>174

    夜の空を渡る、彗星。

    その正体は、たった二人の焦げ付いてしまった影。

    その炎が燃え尽きる前に──地上で、彼らが待機していた。


    地面に落ちてきた二人を、先に地上にいたみんなで受け止める。

    凄まじい衝撃は──やがて、終わりを迎えた。


    「いっつつ……あぁ、足折れたかも…」

    「いやぁ、おじさん腰がきついねぇ…」

    「私こういうのは慣れなくて…」

    「あんたらさぁ……それよりも、アイリ、ナツ!二人とも無事──」


    カズサが声をかけた目の前には──確かに、アイリとナツがいた。


    しかし、地上に降り立った後でも──アイリはナツを離そうとはしなかった。

    「アイ、リ……」

    ナツは所々の皮膚が爛れたように黒く変色し、身につけていた執事服はボロボロになっていた。

    見るに耐えない無惨な姿を──それでもアイリは抱きしめる。


    「──おかえり、ナツちゃん」

  • 176二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:40:32

    >>175

    「アイリ──」

    それに抱きしめ返そうとして──ナツの手が止まる。


    「…駄目だよ、アイリ…だって、私・・・色んな事をしてきたんだ」

    「・・・・・・」

    「アイリだって覚えてるだろう…エデン条約の襲撃があった時。

    ・・・私は裏で、あの襲撃に加担していた。それは確かに事実で──その罪は本物なんだ。だから──ここまでしてもらったとしても──それでも、私は──君たちといる資格なんて──」

    ナツの手は、彼女自身の願いと呪い、そして抱えた罪の狭間で、未だに迷い続けている。その手に気づいていたアイリは──ナツにゆっくりと語りかける。


    「ねぇ、ナツちゃん──」

  • 177二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:41:12

    >>176

    「ナツちゃんは、今の自分が嫌い?」



    「────」



    そう、その言葉は──かつて、みんなでバンドをしようとしていた時。

    ナツが、「みんなと一緒にいる資格などない」と泣いていたアイリに、語りかけた言葉の逆だった。



    「──嫌い、だよ。だって──みんなを騙して、悪事に手を染めて、語ってたことは嘘だらけ。正直、ずっとずっと嫌いだった」

    「…そっか。それじゃ、もう一つ聞くね」




    「それでも、そうだとしても──今の自分を好きになりたい?」

  • 178二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:42:29

    >>177

    「…え?」


    「…私もね。そんな風に、考えていた時があったんだ。みんなの隣にいていいのかな、って。いる資格なんてない、もっと相応しい人がいるんじゃないかなって」

    「でも──みんなは、私だから一緒にいたいって言ってくれたんだ。ナツちゃんは、『その時には環境を見ること。自分自身を含めた、環境を見ること』って教えてくれた。その言葉に、その行動に──嘘なんて無いって、私は信じてるよ」

    「…アイリ」


    「だから、あえて言うんだ。ナツちゃんにとっての環境。その環境は、本当にナツちゃんだけの世界?暗くて狭い、悪い人ばかりの世界?」

    「ナツちゃんのいる環境に──私たちは、どこかにきっといたと思うよ」



    「───いいの…?みんなを巻き込む先は──きっと、何も見えない暗闇の中だよ」

    「それなら、暗闇の中を──転ばないように、みんなで手を繋ごうよ。灯りが遠くても、足元が覚束なくても。みんなで行った先が──私たちにとって、本当にいるべき世界だと思うから」



    「だから──大丈夫。私たちを信じて。

    信じて、身も心も預けていい。

    足を踏み外しそうになっても、今度こそ私たちが支えてみせる。



    それでこそ──私たちは友達だから」


    「───アイ、リ───」

  • 179二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:43:10

    >>178

    その二人に覆い被さるように──ヨシミとカズサも、優しくナツの体に手を回す。


    「私──いつも気づくのが遅くてさ。ナツがそんなに抱えてるなんて、考えもしてなかった。でも、もう気づいちゃったもの。気づいたら──私は止められないわよ」

    「…あんたも、私と同じだったなんてね。まぁ、スケールが違いすぎるけど…でも、気持ちは分かるつもり。あんたの不安も、恐怖も、痛みも──抱えてきた、辛いこと。私たちに、教えて欲しい」


    「うん。だからね、ナツちゃん──帰ろうよ、一緒に。寂しくないように、一緒に」


    柚鳥ナツは──微かに震える手を、そのまま。

    そこで彼女を待つ人たちへと──弱々しくも伸ばす。




    「…好きに…なりたいよ…」

  • 180二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:43:45

    >>179

    「私も…思い通りに生きたい…生きていいって言われたい…」



    「私の思う『ロマン』のままに──私自身を好きなままに──生きたいよ──」



    そのか細くも確かなSOSを──三人は決して見逃さない。

    その救難信号を聞き入れたかのように──彼女達は、柚鳥ナツを一層強く抱きしめた。



    そのあまりに小さな叫びを、肯定するために。

  • 181二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:44:29

    >>180

    「…何だか少し、救われた気分だよ」

    「ホシノ…大丈夫かい?」

    「うん、大丈夫。ありがと、先生」

    「それにしても、間に合って良かったです…というか、ナツさんがホントはあんなに強かったとは思わなかったですよ…!」

    「いやぁ〜、あれはしょうがないと思うよ〜?私もヒヤヒヤしたしねぇ」

    「というか、よくあのバカでかい火の玉の中で生きていられましたね!?普通即死ですよ、即死!!!」

    「それ、君が言うのかい~?それに、おじさんの年季を舐めてもらっちゃ困るよ?」

    「いやまだそんな歳じゃないでしょう、どう見ても!!!」

    「うへへ〜……」



    「それで、先生」



    「うわぁ急に落ち着かないでください!?」

    そこで急にホシノが、真面目な目つきで先生の方を見た。

    その顔の移り変わりの早さに、レイサはビビった。

  • 182二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:45:19

    >>181

    「とはいえ事態は深刻だよ?一度締結された契約を、簡単には覆せない。どうやって、ナツちゃんを黒服から引き剥がすの?」

    「そうだね…方法はあるけど、ナツにはもう少しだけ頑張ってもらわないといけない」

    「へぇ…あるんだ、方法。それじゃあさ──聞かせてよ、先生。協力は惜しまないからさ」

    「ありがとう、ホシノ。それじゃ──秘密裏に、あることをお願いしたいんだ」

    「秘密裏に?」

    「あぁ。黒服との知恵比べの為に──あの子たちを、早めに助けてあげないとね」



    「黒服と、ナツと、私──三人で行わないといけない、三者面談の時間だ」

  • 183二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:47:22

    >>182

    現状はここまで!

    見てる人の想像図とどこまで一緒になれたかは分からないけど、残すは黒服との対峙を残すのみとなりました。

    なるべく早く続きを書くので、今しがたお待ちくださいませ。

  • 184二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 21:06:45

    黒服との勝負か………

    無理ゲーかな?

  • 185二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 21:19:36

    どうするんだろうな…
    シャーレに親権移行とか?
    それか神秘の喪失とかか?
    ナツにこだわる理由が強さとか神秘なわけだしそこの価値が薄れれば円満に移行でき…
    いやーどうなんだ?実験体としての利用価値は残ってそうだもんな
    「今回の暴走でおおよそ、どうなるかは観測できたのでもう結構です」ぐらいしか思い浮かばない…

  • 186二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:07:11



    次回投下の途中で次スレ必要そう

  • 187二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:17:39

    1
    スレ余白が足りなくなる前に明日のお昼ぐらいになったら立てますね

  • 188二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:25:33

    次スレ予告たすかる

    感想は全部終わってからする派なので保留
    ボリュームがありすぎて支部で読み返したい

  • 189二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:31:55

    見知らぬ他人じゃなくて良かったと思うべきか

    >>147の事実はあまりにも残酷

    記憶を思い出せたのは良かったが自責と暴走…

  • 190二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:32:06

    そしたら、次のスレの方で、続きを改めて書かせて貰おうかな
    多分それまでには、最後まで書ききれると思うので

  • 191二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:32:52

    187 1
    これ埋まりそうですね
    まだ規制が薄いから今のうちに立ててきます

  • 192二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:38:49
  • 193二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:39:15

    立ての恵みに感謝しよう
    これもまたロマンだね

  • 194二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:39:27

    スレ立て感謝あ

  • 195二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:56:18

    かんしゃー

  • 196二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:58:45

    ロマンに満ちている

  • 197二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:58:59

    埋めレイサ

  • 198二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 22:59:21

    肉付きのいいナツすき

  • 199二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:00:02

    一つの概念から長編投下なロマンのあるスレだった

  • 200二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:00:40

    柚鳥ナツ好き

オススメ

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