例え、私一人になったとしても

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:41:55

    「先生ならきっと、助けに来てくれます。あの怪物も、きっと倒せます」
    「だからアズサちゃんは、トリニティのみんなを守ってあげてください!」

    ヒフミとハナコは、それだけ言って駆け出していった。

    「ま、待って……ヒフミ!ハナコ!」

    私が何を言う間もなくその背はどんどんと遠ざかってしまう。
    咄嗟に駆け出したものの、距離は離れるばかりだ。
    おかしい、どうして追いつけない?

    踵を返して駆け出すヒフミとハナコの姿が、次第に霞んでいく。
    その背中に手を伸ばしても届くことはなく、視界はどんどん暗くなって…

    …私の意識は途絶した。

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:43:33

    ────目を開くと、そこは見慣れた場所だった。
    まるで墓地のように荒廃した、廃ビル群。
    その一つに、私は横たわっている。

    窓から見える世界は、静まり返っている。
    鳥の鳴き声も、車の音も、何一つ聞こえてこない。
    人々の喧騒も、電子機器の音も、何もかもだ。
    唯一する音はあの怪物共の足音だけ。

    「…………」

    あの日、世界は滅びた。
    紅に染まった空は今もなお紅く、曇天が晴れる気配はなく、天変地異は止む時を知らない。

    暴走する人工知能の搭載された兵器。
    次々に怪物へと変貌していく生徒達。
    そしてその喧騒に便乗して悪事を働く者。

    「……」

    膝を抱えてうずくまった。
    あの声を、もう一度聞きたいと切に願ってしまう自分がいる。

    "自分の手で殺してしまったのに"
    "救って貰ったのに"

  • 3二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:43:50

    誰かの悲鳴も聞こえない。
    そんなものは疾うの昔に絶えた。
    この廃ビルの中は、ただ静かな静寂で満たされている。
    "どうして私だけが生き延びたのか?"
    そう問いかけても答えは出ない。
    もう届かない。

    「諦めるの?…アズサ」

    自問自答をする。
    その声は、私の中から聞こえた。

    「なら、そこで蹲っていればいい」

    その声は、私に語りかける。
    まるで私を奮い立たせるように。
    諦めないでと、促すように。

    「…」

    全ての物は軈て潰える。
    積み重ねてきた経験も、物品も、金銭も、知識ですら永遠ではない。
    故に何も望む意味はなく、ただ絶望の中で大人に搾取されていればいい。
    そう騙った大人がいた。
    それが正しいのだと教育される世界があった。

    けれど。それでも、と、思った。
    どうしようもなく惹かれてしまったものが、あった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:44:30

    「…世界は残酷で、救いはなかったのかもしれない」

    けれど、確かに得るものはあった。
    それが失われるのが少し早かっただけ。

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:45:11

    「例えこの先に、私の望んでいる未来が何一つ無いとしても」

    「それは、諦めていい理由にはならない」

    立ち上がった。
    さあ、行かなければ。
    ここにいても仕方ない。私の望む未来はきっと、この廃ビルの中には無い
    なら、探すしかない
    まだ探していない場所があるはずだから。
    窓から外を見る。
    そこにはやはり荒廃した世界が広がっていて、あの怪物共が闊歩するばかりだ。
    それでも私は、再び歩み出すことにした。



    その絶望の終着点は
    きっと
    遍く奇跡の始発点へと繋がっている

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:46:04

    プレ先世界で生き残ったアズサ概念いいよね、というお話です♡(ハナコ風)

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:48:41

    >>6

    悪魔の末裔が

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:51:29

    エデン乗り越えたアズサはたった一人の最終決戦してくれるよねって信頼がある

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:51:32

    別作品持ち出してごめんだけどトランクスみを感じる
    既に滅びた世界でたった一人で抗い続ける戦士ってところな

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:54:41

    まともに更生したアリウス生は世界の危機には存在証明のために戦いそうだよね

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 23:57:06

    テラー化連発とそうりきボスどもが右往左往してる世界で先生とシッテム抜きに抗うのいいよね
    なんなら敵にいる

    うーんこれは絶望の世界

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:33:59

    このレスは削除されています

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:34:28

    野良テラーにすらやられそうなパワーバランスよ

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 08:19:20

    避難所とかが残っているかも怪しいな

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 13:37:25

    絶望すぎる……

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 22:09:34

    何処か抵抗を続けてる組織は残ってないだろうか

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 06:04:18

    抗え、最後まで─

    ジャンルがめちゃくちゃになってるからマジでマルチバッドがありうるのが怖い

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 08:22:58

    テラーがいるから正面戦闘は難しいし生存者は少ないだろうな

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 19:58:05

    ホシ

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:18:47

    死の音色が聞こえる。
    それは────

    ───目の前で捻じれ、曲がり、そして"反転"した、大切な友達。

    「……」

    何度見ても慣れる事はない。
    何度聞いても心が引き裂かれるような思いがする。
    けれど、目を逸らすことはできない。

    その怪物の行動には一定の法則があった。
    といってもさほど厳格なものではない。
    "ソレ"が向かう先は、だいたいいつも同じ場所だった。

    私はゆっくりと、廃ビルの屋上へ歩みを進める。
    その一歩一歩が重いけれど、それでも止まることはない。

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:20:18

    ペロロの大きなオブジェとモモフレンズの看板が取り付けられている、このビル。
    前に指差してはしゃいでいたのを覚えている。

    躊躇はない。
    既にこの手は汚れている。躊躇いなど、何もない。
    ────扉を開くと、そこには想像通りの景色が広がっていた。

    「■■■……■■■■■……」

    "ヒフミ"が、そこにいた。
    既に衣服は破損しているにもかかわらず、半裸の状態で、何かに覆いかぶさっている。

    「■■■……■■……」

    "ヒフミ"が、這い蹲りながら何かに触れていた。

    「……ヒフミ」

    "それ"が何なのかを、私は知っている。
    "ヒフミ"が抱えているそれが、何であるかを知っている。

    「ごめん……」

    黒い羽根を覗かせる"それ"は既に事切れていて、返答はない。
    いや、返答など期待してはいないだろう。

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:20:52

    「……もう、終わりにしよう」
    「……■■■■■■?」

    私の接近に気付いたのか、"ヒフミ"は無言で立ち上がった。
    ゆっくりとこちらを振り返り、じっと見つめている。
    その表情はいつものような晴れやかな笑みではなく、無表情だった。
    "それ"を床に寝かせて立ち上がるその姿は、どこか悲壮感すら漂わせていた。
    彼女は大きく両腕を広げてみせると、静かに語り始める。
    それはまるで演説のようでもあり、告解のよう。

    「■■■……■」

    大きな光輪を背に携え、
    紅く染まった世界の中で佇む姿は不気味ですらあったが、その現実離れした美しさは彼女に神秘性を与えていた。
    いつまでもこれに執着するのか。
    過去の幻影に縋るのか。

    「…」

    私は大きく深呼吸をして、彼女を見据えた。
    そしてゆっくり銃口を向け、引き金を引く。
    甲高い音が響き渡ると同時に、"ヒフミ"の身体に弾丸が吸い込まれていった。

    これから私がするのは、逃避行じゃない。
    この破滅の原因を探る。そして最後の最後まで足掻き続ける。

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:22:31

    なら、たった一人の恐怖に押しつぶされていたらお話にもならない。
    こんな町はずれで人気のない廃墟街だけで活動するわけじゃない。より広範囲に、より多様な場所へ足を運ぶ。
    その最中で、これまで何度も見てきた"より強大な敵"とも遭遇するだろう。

    「…先に行かなくちゃいけないんだ」

    決別しなければいけない。
    いずれヒフミも、私もこの世界も本当の終わりを迎える。
    けれどそれは今ではない。
    例えこの先に何も無くとも、今は……未来を望まなければならない。
    だから…

    「だから私は、おまえだけは、ここで殺さないといけない」

    それが、私の結論。
    彼女の恐怖を、あの光輪を打ち砕くことでしか、前に進むことができない。
    でなければ私は、いつまでも甘い妄想に縋って、現実から目を背け続ける。
    それが嫌であの部屋から出て、ここまで来てしまった。
    ならば、もう後戻りは許されない。


    「……ッ!」
    黒い羽根が揺らめき、舞い散る。
    羽撃いた"ヒフミ"の姿が搔き消えたかと思った次の瞬間には、もう目の前に立っていた。

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:23:50

    だがその動きはどこかぎこちない。明らかに疲弊しているのが分かる。
    私は冷静に銃口を向け直すと引き金を引く。発砲音が鳴り響くと同時に、その身体が大きく仰け反った。
    しかし、倒れる事はなくそのまま私に向けて跳躍してきた。その様はまるで獣のようであり、同時に死に物狂いで向かってくる狂戦士のようでもあった。

    「■■■!」

    咆哮を上げながら繰り出された紫炎を避けつつ、再び発砲する。今度も命中したが、やはり怯んだ様子はない。それどころか怒り狂ったように更に激しく暴れ回るだけだった。
    空中で反転しながら放たれた蹴り。それを腕でガードすると、鈍い音と共に骨が軋むような痛みが走り思わず顔を顰める。

    それからいったいどれほどの時間殺し合っただろう。
    銃弾も残らず、手榴弾とナイフで幾度となく切り、爆ぜ、裂いたのか。
    数えるのも億劫になる頃に、漸く怪物は動きを止めた。

    「…」

    けれど、感傷に浸る暇などありはしない。
    私の武器はこれで全て尽きてしまったからだ。
    もう迷いはしない。躊躇いもない。あるのは決意だけ。

    再びの咆哮と共に放たれる紫炎を浴びつつ、その首を渾身の力で締め上げる。
    「■……ッ!」
    ぎりりと嫌な音が響き、苦悶の声と共に怪物は暴れ出した。
    しかしそれでも手は離さない。徐々にその力を強めていき、完全に気管と血管を圧迫させる。
    嘗て教わったように、ヘイローを破壊する方法をただひたすらに実行し続ける。

    「■■■!!!」

    赤黒い液体が口の端から溢れ落ちる中、それでも彼女は抵抗を続けた。だがそれも長くは続かず、やがて痙攣し始めると動かなくなった。
    暫くそのままの状態が続いた後、ゆっくりと手を離す。

  • 25二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:25:27

    どさりという音と共に地面に崩れ落ちると、動かないまま沈黙を貫いている。
    その虚ろな瞳は虚空を見上げたまま微動だにしない。

    物言わぬ骸になったそれは。
    化け物になる前と"全く同じ姿に戻って"いた。

  • 26二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:06:37

    "生存を願い、未来を望んだ死の神は成長した姿と成り"
    "梔子ユメの言葉を願い、過去を望んだ暁のホルスは僅かに幼い姿へと成った"
    "であるならば、現在の幸福を願い、今を望み、"普通である"事を良しとした阿慈谷ヒフミが、テラー化の際に肉体を殆ど変質させなかったのは───ええ、道理でしょう。"

    "…然し癪だ…!"
    "セトの憤怒と暁のホルスによるキヴォトスの創世…世界の破滅…それを…!"
    "アヌビスに…!無名の司祭に…!中途半端に阻止されてしまってはッ!"
    "ゲームに勝ったのに賞金を得られなかったようなものだ…!"

    "しかし…いくら嘆いても…キャンペーンは小生の勝利で幕を閉じました"

    "なのでせいぜい 最後まで遊び尽くすとしましょうか"

    『白洲アズサ…』

  • 27二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:13:08

    味方が一人出てきたぞ!
    囲え!

  • 28二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 10:33:40

    ホシュ

  • 29二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 11:47:20

    思ったんだが色彩世界の設定ってほぼFear and Hunger 2やな
    参加者がいきなり怪物になりうるバトロワって意味で
    違いはバトロワの勝利者になってもなんにもないことだけど

  • 30二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 19:44:07

    行先決定ダイス


    dice1d13=12 (12)

    1D.U.(サンクトゥムタワー) 2D.U.郊外(シャーレ) 3連邦矯正局

    4ミレニアム 5通功の古聖堂 6アビス(ヒノム火山)

    7ブラックマーケット 8無為ヶ浜

    9アリウス分校 10ヴァルキューレ警察学校

    11クロノススクール 12アビドス高等学校

    13EX

  • 31二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 19:50:49

    アビドスか
    何があるか誰がいるかもわからないな
    シロコの痕跡ぐらいだろうか
    後はセリカがいるかもぐらいか

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:21:00

    私はゆっくりと歩み寄ると、その傍らに膝をつく。そして彼女の身体を抱き抱えると、静かに横たわらせた。
    まるで眠っているかのように穏やかな表情で、もう二度と目覚める事はないだろう。
    "それ"は、もう死んでいるのだから。

    「……」

    "それ"の亡骸をそっと地面に寝かせると、私は立ち上がった。
    そして廃ビルから見下ろすように広がる荒廃した景色に視線を移す。
    そこにはただ、無慈悲な現実だけが広がっている。

    こんなにも大量の死体が転がっているというのに、それでも世界は廻り続ける。
    まるで何事も無かったかのように、それが当然であるかのように、時間だけは流れてゆく。

    「……」



    廃墟の隙間を縫うように移動すること数十分。
    鉄道の駅に辿り着いた。
    今は見る影もなく荒れ果てており、所々が破壊されて崩れ落ちている箇所もある。
    路線図を眺め、これからの行動指針に考えを巡らせた。

    …まずは先生の居そうな場所に目星をつけて行くしかない。
    例えばトリニティの本校舎。そこにいなければ各学区……そして連邦生徒会と、学園都市中を回らなければならない。
    どうせ手がかりを得られるまで総当たりをすることになる。
    それに"ヒフミ"との戦いで消耗した弾薬や物資も、必然的に現地調達するしかない。

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:21:54

    だから、取り合えず近辺にある繁華街を基点にして行動を開始する。
    現在地はゲヘナ、ワイルドハント、アビドスにほど近い。
    "なら、アビドスに向かうべきだ"
    "報道された中で最も最初に被害が報告された場所"
    "何か手がかりがある可能性も高く、人通りが少なく、かつ商店があるという条件を満たす場所も多い"
    "今の私にとっての最適解のはず"

  • 34二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:28:22

    SS感謝
    絶望しながら歩み続けるアズサかわいい……

  • 35二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:31:32

    到着まで

    dice1d5=4 (4)

    ターン


    イベント

    dice1d8=6 (6)

    1接敵 2平穏

    3接敵(強) 4平穏

    5絶望 6平穏

    7そうりき(一人)8EX

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:32:22

    イベント

    dice3d8=7 5 2 (14)

    1接敵 2平穏

    3接敵(強) 4平穏

    5絶望 6平穏

    7そうりき(一人)8EX

  • 37二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:32:42

    暫し。
    線路伝いに移動し続けていうちに、目的の場所まで辿り着く。
    多くの建物が砂をかぶり、乾いた空気が頬を撫でる。
    砂埃が視界を覆い、酷く咳き込んだ。
    しかしそれ以上に奇妙なものが見えてしまい、思わず足を止める。

    「...あれは、七囚人の」

    顔に着けた狐面に特徴的な和服。
    間違いなくそれは、七囚人最凶と謳われた生徒───

    ───狐坂ワカモ。

    「■■■■」

    "それ"はただじっと虚空を見つめながら佇んでいた。
    花弁のように"咲いた"後頭部と、異彩を放つ上半身。
    その下肢は、まるで直立二足歩行をする狐のように長く伸びている。

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:33:25

    「■■■■」

    "ヒフミ"が変化したものよりも更に禍々しい雰囲気を纏うその姿に、思わず息を飲む。
    絶対に相手にしてはいけないと、本能が叫んでいる。
    先に発見できたのが幸いだった。
    あの怪物は元の生徒の持つ力、特質にかなり左右される。
    強い者ほどより強大な力を得る。
    もし出会ってしまえば勝ち目はない。絶対に戦ってはいけない相手。

    「■■■■」

    ───瞬間。
    遥か彼方で佇む狐面の下の眼光と、目が合ったような気がして。
    弾かれたように私は走り出した。

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:34:59

    目指すはアビドス高等学校の校舎。今の生徒会が使っている場所。
    先生がいるとしたら、そこしかない。

    「……はぁ……はぁ……!」

    "それ"の姿が見えなくなってから、漸く足を止める。
    額から吹き出す汗を拭いつつ一息つくが、心臓はまだ早鐘を打ち続けている。
    恐怖に屈しかけた心を、強引に奮い立たせる。
    動転してかなりの強行をしてしまったが、幸いにも他の怪物とは接触することなく町外れに出ることができた。

    「……」

    必要最低限の弾薬だけを調達し終えた時、ふと、疑問が浮かぶ。
    "あれ"が本当に狐坂ワカモだとしたら、どうしてこんなところにいたのか。
    アビドスは特に化け物達で溢れていたというのに。
    理由のない破壊行為をしていて偶然"反転"したのか。それとも…

    …何か、理由があったのかもしれない。
    しかし、だからと言ってもうそれを確かめるすべはない。
    奇跡的に逃げ果せたが、あれ以上近ければ───確実に殺られていた。

    「……行こう」

    今はとにかく一刻も早く先生を見つけ出さなければいけない。
    そうしなければ

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:35:22

    「■■■■」

    建物の陰から顔を出し、振り向いた先に───

    ───"それ"がいた。

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:36:14

    「───っ!?」

    一瞬の間を置いて私は全力で駆け出した。
    同時に怪物も動き出す。
    逃げ切れないと直感が叫んでいる。

    ───アビドス高等学校。
    その校舎に辿り着いた時、既に空は暗くなりかけていた。
    もう間もなく日が沈むだろう。
    この時間帯なら生徒は殆ど残っていないはずだし、残っているとしても先生だけだろう。
    そう考えて校舎の中に足を踏み入れる。

    "分かっていた。アレを相手に校舎に逃げ込んだところで何の解決にも延命にもならないことも"
    "たとえ先生が味方してくれていても私一人ではどうしようもないことも、分かっている"

    ───けれど


    「■■■■」
    「…」

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:37:20

    顔に着けた狐面、そしてそれを"乗せて"地を這う機械の巨蛇。
    第三セフィラ・ビナー(BINAH)。
    アビドス砂漠にしか現れていなかったはずのソレは、激しさを増した砂嵐の影響でアビドスが埋没すればするほどに、行動域を広める。

    「…勝て、ない」

    校舎屋上から、迫り来るその姿を見た瞬間に悟った。
    "これと出会ってしまった時点で、私の命運は尽きている"と。

    覚悟を決めて銃を構えると同時に───
    ────その巨蛇は大きく口を開いたかと思うと、凄まじい勢いで熱線を吐き出した。
    咄嗟に横へ飛び退き回避する。しかし熱波だけで周囲の壁が融解し、肌は焼け焦げ爛れ、私の身体は大きく吹き飛ばされた。

    一撃だけで校舎の一部が消し飛んだのを見て、咄嗟に距離を取ることを決める。
    先生が居たとしても今の攻撃で死亡した確率はそう高くない、けれど何のアクションも起こさないということは───

    ───ここに、先生はいない。

    けれど、これ以上校舎を破壊されるのだけは避けないといけない。
    せっかくここまで来た意味がなくなってしまう。
    校舎への熱腺の直撃を避けるために、校舎から離れ体育館の屋根へ飛び移る。

    次の瞬間。
    目測で一キロは離れているだろう巨蛇の頭上から、ワカモが"跳んだ"。

    「■■■■」
    「ッ!?」

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:37:51

    "それ"が着地したと同時に砂埃が起こり、思わず顔を覆う。
    そして再び目を開けた時には────既に銃口が突き付けられていた。

    「■■■■」

    咄嗟に横に転がるようにして回避して校庭に転げ落ちる。
    先程まで立っていた場所には破壊跡が出来上がり、衝撃の余波だけで吹き飛ばされた。
    しかしそれで終わるはずもなく、ビナーの熱線による追撃が迫る。

    地面を転がってそれを回避しつつ、"それ"が跳躍して襲いかかってくるのと同時に、私も迎撃のために発砲する。
    弾丸は"それ"の頭部へ直撃したものの───まるで効いている様子はない。

  • 44二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:43:02

    「■■■■」
    「……ぐっ!」

    勢いを殺さぬまま迫り来る怪物に対し、咄嗟に転身し横へ飛び退くことでぎりぎり回避に成功する。
    そしてそのまま身を捻って体勢を整えつつ銃を構え直したところで───"それ"の脚が私の身体を吹き飛ばした。
    その衝撃に耐えきれず、私はそのまま地面に倒れ込む。

    「……ぅ……」

    全身を襲う痛みと倦怠感で起き上がることもままならず、ただ呻き声を上げることしかできなかった。
    視界の端に映る自分の腕は真っ赤に染まり、骨も折れているのか不自然な方向に曲がっている。

  • 45二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:51:42

    ……もう、立ち上がることすらできない。

    けれど、まだだ。まだ諦めるわけにはいかない。

    ここで死ぬわけには───いかない。

    "それ"がゆっくりとこちらに歩み寄ってくるのが見える。
    ビナーの先端に凄まじい熱量が集まっていき、巨大な熱線を形成していくのが見える。

    そしてそれが、今まさに放たれんとしていることも。
    "それ"が私の目の前にまで迫り、熱線が放たれた瞬間───

    ────私の意識は、そこで途切れた。

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 21:55:54
  • 47二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 04:37:58

    きっとまだなんとか…

  • 48二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 13:39:59

    ワカモとビナーは同士討ちしないのか

  • 49二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 15:39:31

    beautiful day dreamerネタかな

  • 50二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 21:48:00

    ……私は死んだのだろうか?

    あの怪物に焼き殺されたのか、それともあの爪に吹き飛ばされてそのまま命を失っただけなのか。

    どちらにせよ、もう助からない。

    けれど不思議と恐怖はない。

    もう全て終わったと、そう確信している自分がいた。



    ────なのに、まだ意識が残っている。

    真っ暗な暗闇の中を漂っている感覚だけがある。

    これが、走馬燈というやつだろうか?


    ───それとも、死に際に見る幻覚なのか。

    "それ"がこちらに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。

    もう何も感じないはずなのに、なぜかその圧を感じることができる。

    "それ"が私のすぐそばまでやってきて、見下ろすように見つめている気がする。


    それは…


    dice1d5=4 (4)

    1クロコ(???)

    2連邦生徒会長(列車行き)

    3ヒフミ(空港行き)

    4アズサ(リトライ)

    5EX

  • 51二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:36:37

    "まだ挫折している場合じゃない、アズサ"
    "動いて、考えて。挫折して諦めている暇があったら、今からでも方法を探して、どうにか───"
    "───次の計画、次、は…"

    あの時とは違う。
    心じゃなくて、身体のほうが追い付かない。そう。まるで、魂が抜けたかのよう───
    ────。
    ……そして、私は気付いた。
    "それ"はもうすでに私を見ていないということに。
    ただ真っ直ぐに眼前の敵だけを見据えて、一歩ずつ進んでいっていることに。

  • 52二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:37:56

    再び意識が鮮明になっていくのを感じた瞬間、私の身体は動き出す。
    折れた脚を引き摺りながらも必死に立ち上がり、銃を構え、そして───
    ────ずしゃりと、倒れた。

    ビナーが"それ"に向かって熱線を放った瞬間、倒れていた身体が起き上がり、発砲した。
    放った銃弾は見事にビナーの砲口を撃ち抜き、生まれた一瞬の隙にその場から駆け出していく。
    だがそれを見過ごすまいと熱腺が襲いかかるが───もう遅い。

    すでに、そこには誰もいない。

    「■■■」
    「……ッ!」

    完全に学校の敷地外に出て、住宅街へ身を潜める。
    ”ワカモ”はその後を執拗に追い、追撃を仕掛ける。
    砂埃の中から現れたワカモに向かって発砲するも、やはり効果はない。
    しかしそんなことは関係ないとばかりに再び銃を構え直す。

    「───何だ、これ、は」

  • 53二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:38:09

    痛い、熱い、苦しい、耳鳴りは止まず目は片方しか機能していない。
    ひとりでに体が動いているわけでもない。
    私が動かしているハズ、なのに、自分が自分でないように思える。
    "獣"が私に向かって爪を振り下ろす。
    私はそれを銃で受け流して回避する。
    そのまま反撃に移るべく銃口を向けようとすると、尾が左腹を貫いた。
    口から血が吐き出されると同時に、視界が真っ赤に染まる。

    それでもなお、銃を構え続ける。
    そして再び引き金を引いた瞬間、"それ"の狐面が爆ぜた。
    "それ"は素面を隠すように仰け反り、顔を覆い、その隙をついて距離を取る。
    腹部を貫く尾を引き抜き、血塗れになりながらも立ち上がる私を見て───

    ───"それ"は笑っていた。

    ”今ワカモと戦っている場所はビナーの死角”
    "邪魔は入らない"

    ───心に、罅が入る。

    ───亀裂は、徐々に広がっていく。

  • 54二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:41:00

    dice1d5=2 (2)

    1■■■■

    2絶命

    3テラー化(失敗)

    4テラー化(失敗)

    5EX

  • 55二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:52:09

    そっそんな

  • 56二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:53:01

    その時。
    ぷつり、と。
    私の中で何かが切れる音がした。

    ……私たちが確実に死ぬ条件は、いくつかある。
    温度、絶食、窒息、毒物。そして───出血。
    腹を貫かれ、止血をする暇もなく戦い続けていたこの体は、とっくに限界を迎えていた。
    なのに私はその体を引き摺ってまでここまで来た。

    "あの"ワカモを目の前にしてなお逃げ出すという選択肢を取らずに立ち向かったのは、"自分なら勝てる"と思っていたからじゃない。
    "先生が必ず助けに来てくれる"と信じていたわけでもなければ、希望に縋るのを止めたわけでもない。

    ただ単に───勝ち目が無かっただけ。
    逃げることすら許されないほどの戦力差があると、諦観していただけだった。

    ……だから、死ぬ。
    何もできずに。何も残せずに終わる。
    そう絶望を嚙み締めて…

    "ヘイローの砕ける音を聞いた"

  • 57二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:05:04

    鮮明な亀裂が、感情が、想いが。
    私を私たらしめる根源をバラバラに崩していく。
    最後に残ったのは、たったひとつ。
    ───■■■■意志だけ。

    ただひたすらに、崩壊しそうな自我を繋ぎ留める。
    最早自分が何をすべきかも分からない。
    けれど、確かなのは。

    獣の攻撃が止んでいることと、私の意識が何故か有ること。

    "ワカモ"は私を見てはいなかった。
    ただ真っ直ぐに、私の頭上──────"白洲アズサのヘイローがあった場所"を、じっと、凝視している。

    「───ッ!」

    どういう訳かはわからない、けれど───!
    逃げるチャンスは───今しか、ない! "
    それ"に背を向けて走り出す。必死で走り続ける。
    "それ"が追いかけてくる気配はない。
    でも、それでも───私は走り続けた。
    寂れた駅舎に飛び込むと同時に、背後を振り返って見る。
    そこにはやはり、誰もいなかった。

  • 58二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:17:30

    ただ、砂埃が立ち込める光景だけが広がっている。
    "それ"が追ってきていないことを理解して、安堵のため息を吐く。
    同時に、緊張の糸が切れてしまったのか───その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
    暫くして、段々と落ち着きを取り戻す。

    「私は…どうなったんだ…?」

    自分の身に何が起こったのか。
    どうして生きているのか、そもそもここはどこなのか。
    何もわからないまま途方に暮れるしかなかった。
    腹部の怪我は…塞がっている。
    傷口すらない、それどころか傷跡すら残っていない。
    そして何より……

    「この、身体は…」

    幾分か高くなった視線、僅かに見通しが悪くなった足元。
    それは、つまり。

    「"反転"した…?」

    しかし。
    あの化け物たちと同じになったと仮定しても、先のワカモの反応には合点がいかなかった。
    アレが同士討ちしているところは何度となく見ている。
    だからこそ、私のヘイローを見ただけで攻撃する意志を喪失した理由がわからない。

    …何の根拠もない想像だけれど、例えば化け物どもにも同士討ちする個体とそうでない個体がいて…たまたま、ワカモがそうでない側だった。
    そう考えれば納得できなくもない。
    生徒でなくなった私を攻撃する理由もなくなる。

  • 59二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:22:12

    >>54

    2絶命(テラー化成功!)


    地下生活者「計画通り」ニヤリ

  • 60二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:26:56

    ヘイローが完全に砕けたバージョンってこと?
    煽るわけじゃないが崇高のその上が出たようにテラー化の更に向こうが出てきたら流石に面白い

  • 61二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:28:13

    「なら、どうして、私は…正気を…」


    ……わからない。何も、分からない。

    けれど、ひとつ確かなことがあるとすれば。

    "まだ終わっていない"ということ。


    なら、いつまでもここで蹲っているわけにはいかないということだけ。

    深呼吸をして心を落ち着ける。

    もう私はただの生徒ではないという現実から目を背けないようにしながら、ゆっくりと立ち上がる。

    砂埃が晴れていく光景を見届けながら周囲を見渡すと───見覚えのある物があった


    dice1d5=2 (2)

    1通功の古聖堂

    2ペロロ人形

    3誰かの手帳

    4スカルマンぬい

    5EX

  • 62二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:31:52

    ヘイローの有無

    dice1d5=2 (2)

    1ない。

    2罅割れ変色

    3背中にシンプルなのが

    4罅割れ変色巨大化

    5EX

  • 63二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:34:40

    >>62

    これはアズサのか?

    だとしたらシロコテラーと同じように色彩が触れたのか

  • 64二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:38:56

    ペロロ人形。

    ヒフミがいつもリュックに入れて持ち歩いている、あの人形と瓜二つ。

    懐かしくなり、ついそれを手に取った瞬間───背後から、砂を踏む音が聞こえた。

    恐る恐る振り返ると、そこには───


    dice1d5=3 (3)

    1先生(!?)

    2プレートを顔に着けた"化け物"

    3黒いドレスを纏った長身の化け物

    4野良テラー

    5EX

  • 65二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 10:06:55

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:44:21

    腰程まである長い銀髪。
    感情の抜け落ちたような水色の瞳は、瞳孔の色のみが左右で違う奇妙なオッドアイ。
    黒いドレスを纏ったその化け物は、私に向かってゆっくりと歩み寄ってきた。

    ……その、見覚えのある目に、思わず息を飲む。

    ヒフミが先生とともにETOであることを宣言し、ユスティナの統制を狂わせた時。
    あの一連の事件の転換点となったあの瞬間、確かヒフミを助けに来ていたのが対策委員会。
    そのうちの一人が、あんな眼と髪色をしていた覚えがある。

    「…覆面水着団の、二番…?いや、対策委員会のシロコ…?」

    そう呟いたのを聞いた瞬間、彼女が僅かに目を見開いたのを私は見逃さなかった。
    ……どうやら、言葉は通じるらしい。
    なら、何か少しでも情報を引き出しておかなければ───
    そう考え、口を開こうとした時。

    「ぐ…ぅ!」

    私に向かって手をかざしたかと思うと───そのまま首を掴んで持ち上げてきた。
    突然のことに反応できず、されるがままに宙吊りになる。
    そしてそのまま私を地面に叩きつけ、銃口を向けてきた。
    咄嗟に横に転がり回避するが、間髪入れずに追撃が来る。
    銃で防ぐもそのまま押し切られて吹き飛ばされてしまうが───その瞬間に懐に入り込み、鳩尾に向かって渾身の一撃を叩き込む。
    すると"シロコ"は僅かに怯み、数歩後退る。
    しかしすぐに態勢を立て直すと、再びこちらに銃口を向けてきた。

  • 67二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:44:39

    「…っ!待ってほしい!私に敵意はない!だから、話を───」

    言葉が通じると分かった以上、話し合いができるかもしれないと思った。
    けれどそれも虚しく、"シロコ"は引き金に指をかけ始める。
    間違いない。
    数瞬やり合っただけでわかる。
    眼前にいるコレは…"ワカモ"と同じかそれ以上の強さを持っている。
    何とかして止めないと───そう思った瞬間、"それ"が口を開く。

    「───関係ない。」

    冷たい口調でそう言い放ち、"それ"は容赦なく私に発砲してきた。
    弾を避けようと身を捩るも、間に合わず左肩を撃ち抜かれてしまう。
    しかし貫通はおろか、出血すらしていない事に驚く。
    反応速度、機動力、耐久力。どれをとってもこの姿になる前とは比べ物にならない。

    だけどそれ以上に───相手のほうが強い。
    "シロコ"が私に、銃を向けてくる。
    その瞳に光はなく、まるで機械のように無感情だった。
    ……しかし、私はその眼に見覚えがあった。
    いや違う───正確には思い出したというべきか。
    あの時。
    私の周りにいた皆は、同じ眼をしていたのだから。

  • 68二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:44:59

    「───諦めたのか。絶望したのか。シロコ」

    そう、あの時のアリウスの皆と同じように。
    初めから希望を持たないように教わってきたものの抱いた絶望と、何度も傷つき、擦り切れた果てに至る境地では違うのかもしれない。
    それでも、同じ───確かな諦観が宿った眼をしているように、見えた。

    「ッ!何も、知らない癖に───!」

    瞬間。
    凄まじい圧が放たれ、思わず気圧される。
    が、やっと掴んだ会話の糸口を離す気は毛頭ない。
    ここで止めなければ……きっと、取り返しの付かないことになる。
    そんな確信があったから。
    銃を構え直すと同時に私は駆け出して距離を詰める。
    そしてそのまま発砲した瞬間、腹部に衝撃が走るのを感じた。
    まるで鉄球でも叩き込まれたかのような重い蹴り。
    身体がくの字に折れ曲がり、口から血を吐き出す。
    しかし怯むことなく反撃に出ようと構え直したところで───今度は顔面を接射された。
    裂けた額から血飛沫が飛び散り、視界が赤く染まる。

    「───話がしたいなら、力づくでやるといい。ヒフミの友達」

    淡々と、そう口にする。
    まるで私のことなど眼中にないかのように。
    結局、こうなってしまう。
    強さがないと、自分の我を通すこと1つすら叶わない。
    結局は───何も変わらない。

    「…白洲アズサ。忘れられないように、みっちり叩き込む」

  • 69二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:45:46

    なら。変えるためには。
    戦って、抗って、抗い続けて…勝つしかない。
    "シロコ"が再び銃口を向けると同時に私は駆け出し、 放たれる弾幕を搔い潜りながら懐に飛び込むと、そのままタックルを仕掛けるように押し倒す。
    "シロコ"は避けようともせず私の下敷きになりながらも銃を構えようとするが、その腕を押さえつけて銃口を逸らした。
    そのまま馬乗りになりマウントポジションを取ると、銃口を眉間に押し付ける。そして、私は口を開いた。

    「───できれば撃ちたくない、降伏するなら今すぐ銃を捨てて」

    そう叫ぶと、一瞬の静寂が訪れる。
    すると───"シロコ"が手に持っていたARは、音を立てて駅舎の扉へと放り投げられる。
    そして両手が上げられているのを見て、安堵すると同時に全身の力が抜けていくのを感じた。
    "シロコ”は私から離れようとせず、そのままじっとこちらを見つめている。
    ……何か言いたいことでもあるのだろうか? そう思って見つめ返すも、何も反応がない。
    何を聞いたものかと考え込んでいると───突然押し倒された。
    馬乗りにされてしまい身動きが取れなくなる。

    「何を───ッ!?」
    「甘い。」

    そう呟くと同時に、大腿の辺りからSGが"生えてきた"。
    私の額に狙いを澄ましているそれを認識した瞬間、私は慌てて首を捩るが───間に合わない。
    そのまま発砲されてしまい、一瞬視界が真っ白に染まる。
    次は右肩を撃ち抜かれ、重い衝撃と共に激痛が走り思わず悶絶してしまう。
    しかしそれを気にする様子もなく再び銃口を向けてきた。
    今度は左胸だ。
    咄嗟に身を捩って回避しようとするも、間に合わない。
    銃弾が放たれると同時に、鋭い痛みが走る。
    続けて2発3発と発砲し、その度に私は苦悶の声を上げることになった。
    そして4発目が撃ち込まれる直前で───やっと、弾丸が放たれなくなった。
    顔を上げると、無表情のまま私を見下ろす"シロコ”の姿がある。

  • 70二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:46:05

    「白洲アズサ。まだ終わっていない」

    そう言って再び銃を突き付けてくるものの、私は痛みに悶えて動くことができないでいた。
    そんな私を見て何を思ったのか、"シロコ”は銃口を下に向け、そのまま私の腹部に突き立て───引き金を引いた。
    鋭い痛みと共に鮮血が飛び散り、タイルが真っ赤に染まる。
    しかしそれでも尚も彼女は手を止めることなく撃ち続けていく。
    やがて弾倉内の弾を撃ち尽くす頃には、私の腹部はズタズタになっていた。
    血が溢れ出し、意識も朦朧とし始める中───"シロコ"はARを拾いあげると、私の額へと銃口を突きつけてくる。
    そしてそのまま引き金に指を掛けると───再び口を開く。

    「もう、勝ち目はない」

    何度撃ち抜かれても、銃は手放さない。
    恨めしそうに私の左手を見つめ、そう告げると同時に引き金を引いた。
    "シロコ"は───私を撃つことに何の躊躇いもなかった。
    最初から私を殺すつもりだったのかもしれない。
    もう痛みすら感じない程に感覚が麻痺してしまっているが、それでも尚意識だけははっきりとしていた。

    ───その鮮明な意識の中で、決して聞き捨てられない言葉が聞こえた。

    「…諦めれば、楽に終わらせてあげる」

    頭の芯に、熱が宿る。

  • 71二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:47:07

    「私は───まだ、死​ねない…!」

    頭痛が酷くなり、意識が遠くなっていくのを感じるが───それでもなお私の戦意は失われていない。
    私はまだ、生きている。
    そして何より───死ぬわけにはいかない理由がある。
    だから、ここで諦めるわけにはいかない。
    ボロボロになった服の端を結んで、簡易的に止血をする。
    そしてゆっくりと立ち上がって銃を構えると、私は再び立ち向かう為に駆け出した。
    "シロコ"は再び表情を変えないまま私を見つめ続けるが、それでもなお向かってくる私に困惑したような雰囲気を感じ取れた。
    しかしそれも一瞬のことで、私の攻撃を避けつつ反撃に転じてくる。
    その速さに圧倒されながらも何とか食らいつき、攻防を繰り広げるものの───やはり力の差が大きく出てしまい、徐々に押され始める。

    「…どうせ貴女も、私と同じ。なら、"何も知らないまま死んだ方がいい"」

    "シロコ"は冷たく、そしてどこか悲しげな声でそう告げた。
    その言葉の意味を理解する前に、腹に鋭い衝撃が走る。
    蹴られたと気づいた時にはもう遅く、無様にも地面に這いつくばる形になってしまった。
    それでもなお立ち上がろうとする私の肩に足を載せると───そのまま体重をかけて踏み躙ってくる。

    「くっ……!?」

    骨が砕けそうになるほどの痛みに呻き声を上げてしまうが、それでも彼女は手を休めない。
    私を見下ろすと、銃口を額に押し当ててきた。

    「……満足?」

    感情のない、無機質な声が響き渡る。
    痛みのせいで上手く思考が回らないが───それでも、私は何とか言葉を絞り出した。

  • 72二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:47:40

    「まだ……終われない……」
    「……どうして?」
    「先生を……まだ生きている誰かを…守らなきゃいけない。…この破滅を、止めないといけない。だから……」
    私がそう答えると───"シロコ"は、黙ったまま視線を落としてしまう。
    暫く沈黙が続いた後、不意に口を開いてこう言った。

    「……あなたは、もう助からない」

    え?と思わず声を漏らすと──────同時に再び衝撃が走った。
    今度は腹部の辺りを蹴り上げられてしまい、その場に崩れ落ちると同時に胃の中のものを吐き出してしまう。
    そんな私を見下ろしていた彼女が少しだけ眉を顰めたような気がしたが────すぐに無表情に戻り、銃を構える。

    「いくら世界を救おうとしたところで…何も変わらない。ただただ苦しんで、知りたくもないことを知って、絶望して終わるだけ。」
    「───だからこそ、私が終わらせる。」

    そう言い終えると同時に、銃弾が放たれた。
    今度は胸部を撃ち抜かれてしまい、激痛が走ると共に意識を失いかけるも───寸でのところで踏みとどまる。
    咳込みながらも呼吸を整え、何とか立ち上がろうとするも────目の前には既に彼女が立っていた。
    銃をこちらに向けつつ、じっと私を見つめている。
    その目はまるで機械のように冷たかったけれど───どこか憐れむ様な雰囲気を感じられたような気がして。

    「貴女の友達も、先輩も、もう誰も生きていないのに。どうして?」

    そう言われた瞬間、心臓が大きく跳ねる。
    まるで心の奥底を見透かされたような気持になったが────首を横に振ると、彼女を真っ直ぐ見据えて答えた。

  • 73二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:48:15

    「それでも。ヒフミとハナコが、最後に私へ託した事だから。だから───絶対に、諦められない。諦めてしまうわけには、いかない」

    そう強く言い切ると、再び彼女を真っ直ぐ見つめる。彼女もまた、同じように私を見つめ返してくる。
    ヒフミの願いを守りたくて、 ハナコの望んだ未来を掴みたくて。
    そんな彼女達が"いた"世界を見捨てたくなくて───私はまだ立ち上がり続けている。

    絶対に絶望なんかしてやらない。
    絶対に、諦めないと誓ったから。
    例えそれが強がりだとしても───この命が続く限り戦い続けると決めたのだから。
    勝機を手繰り寄せてやると改めて心に決意する。
    それを見透かしてか"シロコ"は小さく溜め息をつくと────そっと私に向けていた銃を下げ、小さく呟いた。

    「もういい」
    「…シロコ?」
    「その強情には、ほとほと呆れた」

    その時、不意に"シロコ"は動きを止めたかと思うと───そのまま踵を返した。

    「…"急用"が出来たから。また今度」

    それだけ言い残し、"シロコ"の煙のように薄れていく。
    咄嗟に手を伸ばし、追いかけようと一歩踏み出すものの、受けたダメージでその場に崩れ落ちる。

  • 74二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:49:04

    「待───ッ!ゲホッ!げほッ!」


    激しくせき込んだ拍子に、無理やり飲み込んでいた血液と、胃の中に滞留していた弾丸が勢い良く喉の奥から吐き出される。

    口内に残る鉄臭さと異物感に不快感を覚えながらも、何とか立ち上がろうとするが───身体が言うことを聞かない。

    血が足りないのか視界が白くぼやけて見える。

    でも、聞かなければならないことが山ほどある───!

    纏まらない言葉を、必死に吐き出す。


    「何で、ヒフミの死を知っている?その姿には…いつなった?この破滅の元凶は誰が…いや、先生は───無事なのか!」

    「───」


    dice1d5=2 (2)

    1破滅の原因は、私

    2───ミレニアム封鎖区域の地下

    3アビドス砂漠、閉鎖地区セクター35-9

    4シャーレ

    5EX

  • 75二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 18:05:48

    アリスか?それとも無名の司祭の遺産?それとも連邦生徒会長がまだ何か残していったのか
    続きが気になるな

  • 76二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 18:31:34

    ところで気になるんですが
    コハルはどうしたんだろう…?

  • 77二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 18:41:07

    >>21

    >>76

    "黒い羽根"…

  • 78二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 19:12:56

    「───ミレニアム封鎖区域の地下に、ある。」


    "シロコ"は、それだけ呟くと、そのまま消えてしまった。

    何があるのかは答えぬままに。


    「それは───一体、どういう…?」

    そこまで言ったところで意識が遠のいていき、視界が暗転していく。

    "シロコ"の姿が完全に消える直前、残された最後の記憶は────暁の終わる空だった。


    ───ミレニアム。生徒の変貌により崩壊した自治区の一つ。

    それ以外にも自律兵器の暴走、ネットワークの崩壊…

    特に電子制御の発達していたミレニアムは、瞬く間に機能不全に陥った。

    かなり早い段階で自治区が封鎖されており、今日まで手が付けられていないとすれば、おのずとその危険度も測れる。


    デカグラマトンの予言者達の殆どは、ミレニアムの何処かに今も居るはず。

    だが、幸い生徒の直接の戦闘力が高い印象はない。反転しても、大抵は生徒の時の力関係と変わることはない。

    例外はそれこそさっきのシロコくらいのもの。

    それに大多数の生徒が外へ避難し離れている以上、化け物共の数も限られてくる。


    連邦生徒会による封鎖も、今となっては機能していないだろう。

    予想でしかないが…ミレニアムそのものはさほど問題じゃなさそうだ。

    ただ、ここからミレニアムまで最短経路をとるならば、必然的にヴァルキューレ警察学校付近を通ることになる。

    あそこは一度避難区域に指定され、生徒も民間人もかなりの数が集まっていたはず。

    迂回したとしても…ゲヘナとトリニティ、どっちに寄った経路を取るかの違いにしかならない。


    なら…dice1d5=5 (5)

    1隠密最優先で都度迂回 2ゲヘナ寄りに迂回

    3トリニティ寄りに迂回 4ヴァルキューレを突っ切って最短

    5EX

  • 79二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 19:30:10

    dice1d5=1 (1)

    1…何だ、このレバーは 2カッショクアシナメラレ

    3覆面水着団の四番 4イロハ・テラー

    5EX

  • 80二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 20:56:50

    その時。
    ふと、タイルの隙間から空気の流れを感じた。
    よく目を凝らしてみると、確かに小さく隙間が開いていて。

    ───その、向こうから、声が聞こえた気がした。
    ……聞き覚えのない声だ。
    でも、確かに何かを伝えようとしているような。
    軽く小突いてみると、奥に空洞があるよう。
    ───この先に、何かがある。
    そう確信して。駅舎の中を虱潰しに観察してみる。
    すると、あるレバーを動かした時に……妙な引っ掛かりを感じた。
    疑問に思いながらもそのまま力を込めると───ガコンという音と共にタイルが一枚、床に沈む。
    どうやら床下に通じる梯子があるらしい。
    意を決し、梯子に足をかけ───そのまま降りていくことにした。
    辿り着いた場所にあったのは小さな部屋だった。
    恐らくシェルターとして作られたものの利用機会がなく、倉庫代わりに使われていたといったところだろう……埃を被った箱が、いくつか見える。
    そんな部屋の中心には、何か大きなものが置かれていた。

    これは…列車の制御装置…?
    声は備え付けられている無線通信機からのものだ。
    慎重に音量を上げてみると…ノイズ混じりの、音割れした声。

    《───……ザザッ……こち……ら……ミレ…》
    《……ら……ザッ……ザザッ……》 《───……こち……ら……ミレニアム、避難所!》 《こちら、ミレニアム避難所です。現在、学園都市は謎の敵によって占拠され、住民も殆どが避難しています。繰り返します───」
    《現在、学園都市は正体不明の敵によって占拠され、住民も殆どが避難しています。繰り返》 《こちら、ミレニアム避難所です。現在、学園都市は正体不明の敵によって占拠され──》

    「…ただの自動音声の垂れ流しか。」

    情報も古い。初期の緊急自動放送が今も続いているだけだろう。そう思い電源を切ろうとし……

  • 81二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 20:57:00

    《───うわ───ザザッ……!》
    《ッ────誰か───ザザザ──この放送が聞こえているなら──》
    《─ザザ───まだ私たちが──》 《───ゲ──開発部が────》
    《────ミレニアムタワーから脱───ザッ────》 《こちらミレニアム、避難所───どなたかいますか、ザッ─》 《今発電所周辺が正体不明の敵の集団に占拠されました!このままでは生徒の皆さんが危険だと言うことで輸送ルートの一つに───までの道が開放されています。目的地は───周辺に辿り着いた時の更新情報に従ってください。こちら─────》
    《────誰か、助けて───この放送を聞いている人がいるなら───》

    不安そうに吐き出す声が、確かに聞こえた。

    「…!」

  • 82二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 20:57:51

    放送、ということは…こちらからの通信が届くなら通話することができるはず────
    通信機を脇に抱え、地上でケーブルを接続しなおし、改めて電源を入れる。
    そしてスピーカーマイクを口元に寄せて。
    通信機に話しかけながら、コンタクトを試みる。

    「こちらアビドス砂漠セクター31-2!聞こえるか!」
    《───ザッ……え?》
    「こちらアビドス砂漠セクター31-2。聞こえるな」
    《───あ、はい!聞こえます!》 《誰……?誰かいるんですか!?》
    「トリニティ総合学園二年、白洲アズサ。そっちは?」
    《……え、えっと、ゲーム開発部、一年の花岡ユズ……!》
    《同じく、ゲーム開発部の才羽モモイとミドリ!その……今、外はどうなってるの?》

    話が通じるのがわかったからか、露骨に声のトーンが上がる。
    若干耳が痛いのは我慢して……現状を確認するためにも、今分かっている情報を共有しておくべきだろうか。

    「その前にそっちが持っている情報を教えてほしい。あなたたちはどういう経緯でそこにいるのか。それと、現在位置はどこなのか」
    《えっと…ミレニアムがめちゃくちゃになって…それからいろいろあってアリスちゃんが一人で封鎖区域に行っちゃって…》
    《そこの地下にある演算装置でアトラ・ハシースの箱舟?っていうのを作ったきり動かなくなっちゃった…》
    「…演算装置で、箱舟…?じゃあ、今はその中に?」
    《あ、うん。気づいたら中に入れられてて。水も電力も生きてたし、非常用の食糧がたっぷりあるから今のところはあんまり不便してないんだけど…》
    《…いつまでたっても閉じ込められたままで、誰かに外から迎えに来て欲しくて連絡しても、繋がらなくて…》
    《いつまでかかるかわからないから、だから無線だけつけっぱなしにしておいたら……》
    《……たまに声が聞こえてきたんです。助けてとか、避難しろーって……》
    《アズサさん…外は一体どうなってるんですか?あの騒ぎや、真っ赤になった空はどうなりましたか?》

  • 83二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 20:58:13

    話し終えたかと思えば、ミドリという生徒が情報を求めてきた。
    彼女たちは何か重大なことを知っている訳でもなくて──……ただ知っていることは、世界が今大変なことになっていることだけで。
    やっと見つけた生存者がなんの情報も持っていなかったというのに……何かが可笑しい気がするのは拭えなかった。

    「…ふふ」

    何故か……どうしてか────本当の希望を見たような気がしていたから。
    今度はこっちの状況を共有する。
    正直聞きたくもないだろうけど、求められている以上応じるほかない。

    「現状──残念だけど外の状況は悪化の一途を辿っている。生徒達は怪物になり、機械は制御を失い、夥しい数の命が失われた。空も相変わらずだ」
    《…そんな……》
    「でも、まだ終わってない。希望は残ってる」

    今、その希望の片鱗を垣間見た気がする。
    ……私はこれから、その希望の下へ向かわなければならない。

    《それってどういう……あ、アズサさん!?》
    「あなたたちはそこにいて。必ず迎えに行く。だから───それまで生き延びていて」
    《あ!ちょっと待っ────》

    ───通話を終える。
    やるべきことは決まった。
    最短経路で、ミレニアムに向かう…!

  • 84二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 20:59:39

    到着まで

    dice1d4=2 (2)


    イベント

    dice1d5=5 (5)

    1接敵(自動勝利)

    2平穏

    3接敵(自動勝利)

    4接敵

    5平穏

  • 85二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:00:06

    イベント

    dice1d5=5 (5)

    1接敵(自動勝利)

    2平穏

    3接敵(自動勝利)

    4接敵

    5平穏

  • 86二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:05:38

    うおおおおおお!!!!!!!!

  • 87二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:06:22

    平穏にいけそうで良かった

  • 88二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:11:48

    希望が見えたぞー!!!!

  • 89二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:17:35

    ここでトラブル無しに目的地に到達できたのはかなりでかいぞ

  • 90二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:47:59

    幸いにも生きていた列車を制御装置で動かし、全速力で走らせること数十分。
    私は───ミレニアム自治区、閉鎖区域に到着した。

    至る所に散乱する瓦礫と、そこかしこから聞こえる無人兵器の徘徊する音が、この区域の静寂を際立たせている。
    ミレニアム自治区の閉鎖区域は、連邦生徒会が管理していたはずだ。
    アビドスからの移動中、大まかな座標やランドマークは聞き出している。

    そして───目的のものを見つけた時、思わず笑みがこぼれてしまった。
    聞いていた特徴と合致する地下への入り口、ミレニアムタワーとの位置関係からして恐らくここの地下にアトラ・ハシースの箱舟があるはず。

    ただ…その周辺には数えるのも馬鹿らしくなるほどの無人兵器が闊歩していた。
    その全てが自律稼働するタイプの機械、攻撃手段は銃器から実弾砲まで多種多様。
    一人でもまともに相手取るには骨が折れそうだけれど……

    「"こういうの"を相手取るのは、苦手じゃない」

    ここに来る途中で弾薬も"トラップの材料も"山ほど手に入った。
    化け物共や予言者に比べれば、この程度の自律兵器なんていくらいても物の数じゃない。

    「こちらアズサ。入口に到着した。どうやら箱舟はかなり厳重に警備されてるようだ。今から内部に突入する」
    《───了解です、アズサさん。どうか気を付けて》 《……信じてます、アズサさん》 《…あ!わたしもなんか言うの!?えっと、その……頑張って!》
    花岡ユズと才羽ミドリは心配そうな声で、モモイはどこか能天気に激励を飛ばしてくれる。
    それだけで、十分。

    「───作戦行動、開始」

  • 91二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:48:11

    その言葉と共に、私は───銃弾の嵐の中へ飛び込んだ。
    この数の相手に銃器で戦いを挑むのは愚の骨頂。
    懐から取り出したのは、"トラップ用の爆薬"。
    それを、無人兵器が密集している地点に放り投げる。
    そして起爆スイッチを押せば───轟音と共に爆炎と衝撃波が広がり、周囲の機械が吹き飛ばされていく。
    ある程度の数なら、これで十分。
    ……しかしまだ終わりじゃない。
    爆風で巻き上がった土煙の中を突き抜けながら、私は更に加速する。
    そのまま一機の無人兵器に飛び乗ると──────その頭部を踏み砕いた。
    そしてそのままC-4を貼り付け跳躍し、また別の機体に飛び移り起爆する。
    それを繰り返していくうちに、やがて私の周囲は無人兵器のスクラップで溢れかえっていった。

    烏合の衆だ。連携がまるでなっていない。

  • 92二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:48:31

    これなら……問題なく侵入できる! 私はそのまま無人兵器のスクラップを踏み台にし、地下へ続く通路の入り口へと飛び込んだ。
    中は薄暗く、埃っぽい空間が広がっていた。
    壁や床のところどころに機械やパイプが埋め込まれており……至る所にセンサが設置されている。
    ───肝心の箱舟本体はどこにあるのだろう? 恐らくこの地下施設自体のどこかからアクセスできる手段があるはずと踏んでいたが。
    それらしいものはいくら走り回っても見つからない。
    ……まさか、地上にある? いや、でもそれならさっき通ったときに見落とすはずがない。

    その時、謎の声が響く。
    "接近を確認""対象の身元を確認します。白洲アズサ、資格がありません"
    「資格…?」

    同時にけたたましい警告音が鳴り、機械兵の足音が近づいてくる。

    「…冷静になれ、白洲アズサ」

    そう自分に言い聞かせながら、私は銃を構え直し、迎撃態勢を取る。
    ここまでも通路を走り抜けているうちに、何度もセンサーには引っかかっていた。
    都度破壊してきたとはいえ、今さらこれほど激しく反応するのには何か理由があるはず。

    「…!まさか」

    前後上下左右に一発ずつ銃弾を放つと、微かに下方向の音が違う。
    咄嗟にc-4を設置し爆破すると、床が縦開きに破損し、ほんのわずかに下の階が見える。

    「認証が通れば下の部屋に落とされるシステム…!」

    手持ちのc-4を次々と起爆し、何とか私一人が通れるサイズの隙間を開けることに成功する。
    このサイズなら兵器どもは入ってこれない…!

  • 93二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:55:35

    そのまま落下し、着地する。
    その中は、異様に広い空間が広がっていた。まるで自治区の一区画をまるまる格納できるかのような広さ。
    にもかかわらず異様なほどきれいに配列された各種ケーブルや配管。
    そしてそこの中心には───無数の機械兵の残骸と────


    ───黒く、長い髪を垂らし、力なく台座に横たわる少女の姿が、あった。

    上を見上げると。
    黒鉄の城が、地下室の天井に突き刺さるように鎮座している。

  • 94二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 22:04:14

    《アズサ!そろそろ箱舟の外に着いた?》

    「…着いた、けど…黒のロングヘアの子が…椅子?で眠ってる」

    《……あ、それアリスだよ!そう!その椅子に座って箱舟を作って…それで…》

    「…なるほど、一緒に中にいるわけじゃなかったのか」


    台座の上で横たわる少女は、まるで人形のようにピクリとも動かない。

    いや───本当に人形なのかもしれない。そう思わせるほど少女から生気は感じられず、生きているのか死んでいるのかもわからなかった。


    dice1d6=1 (1)

    1key

    2ケイ

    3アリス

    4反応がない

    5激しく破損している

    6EX

  • 95二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:33:22

    《アズサ!そろそろ箱舟の外に着いた?》

    「…着いた、けど…黒のロングヘアの子が…椅子?で眠ってる」

    《……あ、それアリスだよ!そう!その椅子に座って箱舟を作って…それで…》

    「…なるほど、一緒に中にいるわけじゃなかったのか」


    台座の上で横たわる少女は、まるで人形のようにピクリとも動かない。

    いや───本当に人形なのかもしれない。そう思わせるほど少女から生気は感じられず、生きているのか死んでいるのかもわからなかった。


    一歩歩み寄った瞬間。

    "アリス"の目が開いた。

    深い紫の瞳に規則的な瞳孔を携えて、"アリス"は私を見つめる。


    「…アリス?」

    「違います。それは、あなた達が私たちの"王女"を呼ぶ際の名称……。"王女"に名前は不要です。名前は存在の目的と本質を乱します。」


    ”アリス”はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり……台座を降りる。

    そして私の前に立ちふさがると────私の眼をしっかりと見据えた。

    その瞳には、光も意志もなく……ただ空虚な闇だけが広がっている。

    その深淵を覗き込んでいると、まるで自分の心までも吸い込まれていくような錯覚に陥る。

    しかし───それでも、ここで退くわけにはいかない。


    「私の個体名は<Key>。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ「鍵」<Key>です。彼女は「王女」であり、私は「鍵」。それが私たちの存在であり目的。」


    アリス……いや、Keyは淡々とそう口にする。

    その言葉からは、一切の感情が抜け落ちているように思えた。

    しかし───その空虚な瞳の奥には、確かに何か別の感情があるようにも思える。

    それが何なのかまでは、今の私には知る由もないけれど。


    「アリスは、どこにいる?」

    「王女は…」

  • 96二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:36:06

    Keyは僅かに目を伏せ、一瞬言い淀む。しかしすぐに顔を上げると、淡々とした調子で語り始めた。
    まるで……感情の無いような口調で。

    「─────無名の司祭と反目し、アヌビスの呼び出した色彩によってテラー化させられる際…私に、ゲーム開発部の部員を収容するシェルターとしてアトラ・ハシースの箱舟を製作するよう言い残し、自ら記憶領域を破壊……死亡、しました」
    「…お前…は、機械なのか」

    そう問いかけると、Keyは首を縦に振る。

    「通信はすべて傍受していました。貴女の目的もすでに理解しています。─────しかし」

    Keyは、そこで初めて感情らしきものを覗かせた。
    それは───明確な"敵意"だった。
    まるで……この世全ての人間への憎悪と殺意を込めたような、そんな眼差しで私を見つめている。
    そしてそのまま────私に銃口を向けた。
    "王女の鍵"と呼ばれた少女の目を見た時、私は思わず息を吞んだ。
    その目は……今までに見たことがないほど暗くて、深くて───恐ろしい。

    「アヌビスが目覚め、世界を滅ぼす崇高は顕現し、その手綱である先生は…無名の司祭の支配下にある」

    Keyはそう言いながら、銃口を私に向け続ける。
    その目は暗く澱んでいて……まるで深淵の底から這い出てきた化け物のよう。
    底冷えするような冷気と憎悪を纏った視線に射竦められて───私は動くことができないでいた。

  • 97二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:36:37

    「アヌビス…?」
    「砂狼シロコの反転した姿。目覚めれば最後、死の神としての本質に導かれるままに彼女は世界を滅ぼします」
    「先生が、アリスの作り主の言いなりになってる、のは」
    「”シャーレの先生”は生命活動を停止し、今は遺体の状態で…色彩の嚮導者として活動しています」
    「……!なら!箱舟を開けないのは─────!」
    「現在、アトラハシースの箱船はその存在を秘匿すべく状態の共存下にあり、一瞬でも解除すれば最後。彼らに捕捉され、箱舟は鹵獲されます。」

    Keyの返答は明朗快活で。
    私の投げかける質問は次から次へと封殺されていく。
    そうして現状を理解すればするほどに─────どうしようもなく詰んでいることを理解させられる。

    「王女がいなくなってから…かなり経ちました」

    Keyはそう言うと、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。

    「私もある種の諦観を……いえ、諦観という感情すらも理解できなくなりました。私はただ王女が残した言葉に従い、箱舟を護り続けるのみ」
    「でも、その箱舟の中にいるゲーム開発部はずっと───」
    「ええ。貴女の言う通りです。しかし────これを奪われてしまえば、王女の望まない方法で箱舟の力が利用され、今度こそ世界は完全に滅びる」

    Keyはそこで一度言葉を切ると、再び私を見つめる。
    その目は先ほどより幾分か穏やかになっていて……しかし底知れない闇が渦巻いているように見えた。
    まるで深淵の底から覗き込まれているかのような感覚に陥るほど、その瞳には深い情念が込められているように見える。
    そして───ゆっくりと口を開いた。

    「そして他の世界へ渡り…そこもまた滅ぼされる。」

    一瞬、ならばアトラハシースの箱舟を作らなければ良かったのではないかと思うが、即座にその考えを否定した。

  • 98二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:38:36

    アリスはきっと…この世界が滅び、他の世界も侵略することになるリスクと、ゲーム開発部の三人の生存を天秤に乗せて─────後者を、選んだんだろう。

    「…パンドラの、箱」

    開けてしまえば掛け値なしの絶望が溢れ出し、世界を滅ぼす。
    私は思わず拳を強く握りしめる。爪が食い込んで血が流れ出すけど……そんなのどうだっていい。
    何もできない自分の無力さを痛感させられるようで……本当に悔しかったから。
    そんな私の様子を気にも留めず、Keyはゆっくりと歩み寄ってくる。

    「なのであなたを守ることも─────ゲーム開発部の三人を自由にすることも”今は”できません」

    Keyは私の目の前に立つと、そのままゆっくりと手を伸ばし───私の手を掴み、何かを渡してきた。

    「ここからの外部ハッキング等のサポートをすることも不可能です。が」

    そう言ってKeyは私の手に何かを握らせる。それは────鍵だった。
    何の変哲もない、金属製の小さな鍵がひとつ。

    「ミレニアムタワーの地下にある懲罰房。そこで黒崎コユキという生徒がまだ辛うじて生きていました」

    Keyはそれだけ言うと、踵を返して歩き出す。
    その足取りに迷いはなく、どこか覚悟を決めたような雰囲気があった。
    そして────私にこう告げたのだ。

    「私を…”アトラ・ハシースの箱舟”を”ハッキング”して、自爆コードを実行させることが出来れば─────ゲーム開発部の三人を外に出し、そして”王女の遺志”を守ることもできます」
    「…そんなことが、できるのか?」
    「完全に起動した状態では不可能です。が、この箱舟はまだ不完全。その上、内部にアクセスできるコンソール…”私”が箱舟の外側に存在している今の状態でなら、”理論上””極めて低い確率で”箱舟の状態の共存下を維持したまま、障壁を通過することが可能です」

    Keyはそう言うと、再び私の方へ向き直る。
    その表情には先ほどまでの激情はなく……ただ淡々と事実だけを告げている。

  • 99二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:43:19

    「その上で、白洲アズサ。貴女が、この世界を滅ぼす崇高を、そして偽りの嚮導者を滅ぼすことが叶えば─────」
    「この凄惨な現実が、終わる…」

    噛み締めるように呟くと、Keyは静かに頷いた。

    「アビドス砂漠には、ウトナピシュテムの箱舟というオーパーツが眠っていますが─────あれを動かすには、最低でも十人は必要になります。現状では起動したところで奪われて終わりです。」

    Keyはそこで言葉を区切ると、改めて私を見つめる。
    その瞳には深い決意と共に、微かな期待が宿っていた。

    「故に。最後はアヌビスと色彩の嚮導者、この二人にたった一人の力で勝利する必要があります」

    それはあまりにも荒唐無稽で、無謀な提案だったけれど。
    それでも、唯一の希望に思えたから───私は頷き。
    Keyはそれを見て小さく微笑むと、再び眠りについた。

    《アズサ!アズサ!ちょっと聞こえてる!?》《……アズサさん?大丈夫ですか?》

    Keyが通信を再開させたのか、無線機越しにモモイとミドリが心配そうな声で呼びかけてくる。
    私はゆっくりと深呼吸をして、息を整えた。
    ───そして、口を開く。

    「ごめん、三人とも。ちょっと色々あって今すぐ外に出すのは難しい」
    《そ、そんなぁ……》

    二人は落胆したような声を上げる。
    そんな二人には申し訳ないけど、今は詳しく説明することができない。
    私はただ一言だけ────こう告げる。

    「絶対に、何とかして見せるから。……待ってて」

  • 100二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:47:12

    反省部屋!!!
    コユキ!?!?

  • 101二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:23:29

    いつも極限状態だなぁ…

  • 102二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 02:06:12

    怒涛の勢いで話が進んでいく…

  • 103二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 02:25:32

    コユキがいるだけで出来るようになることが多すぎる

  • 104二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 08:10:38

    コユキしばらく食事取れてなさそうだから衰弱しかけてそうだな

  • 105二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 17:26:39

    >>104

    水はあるだろうから脱水症状にはなってなさそう

  • 106二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 23:00:12

    コユキのコンディション

    dice1d6=1 (1)

    1虫の息

    2衰弱状態

    3健康

    4元気

    5死亡

    6EX

  • 107二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 23:02:11

    >>106

    まずい

  • 108二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 23:30:58

    ミレニアムタワー地下へと向かう最中。

    私の脳内には"シロコ"の発したある言葉がこびりついていた。

    ───ミレニアム封鎖区域の地下に、ある。

    そう言い残して消えていったことが、どうにも気がかりで、胸をざわつかせる。

    私はそんなことを考えながらも、黙々と足を動かし続けた。


    到着まで

    dice1d2=2 (2)


    イベント

    dice1d5=3 (3)

    1接敵(自動勝利)

    2平穏

    3接敵(自動勝利)

    4接敵

    5平穏

  • 109二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 23:31:40

    イベント

    dice1d5=4 (4)

    1接敵(自動勝利)

    2平穏

    3接敵(自動勝利)

    4平穏

    5EX

  • 110二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 23:56:28

    いいダイス
    間に合ってくれー!

  • 111二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:30:14

    ───地下の懲罰房に辿り着き、鍵を開け中へ入る。
    すると目に飛び込んできたのは玩具や絨毯に、私物らしきものがいくつも置かれた子供部屋のような空間だった。
    懲罰房という名にはふさわしくないそれに面喰いつつ室内を見渡すと、至る所に散乱する空のペットボトルとスナック菓子の空き袋が目に入る。

    この量の差し入れ…?いや、私物と非常時用に備え付けられていた物資と考えた方が妥当か。
    牢の中にもこんなものがあるのは意外だけど……

    私は、そんな室内の一角にあるベッドに横たわる少女に気付く。
    桃色の長髪を後頭部で二つに結い、前髪を眉間に一房垂らした髪型の生徒。首から下げられた名札には、黒崎コユキの文字がある。
    彼女の体はずいぶんとやせ細っているようで、息も細く浅い。
    私は思わず駆け寄って、彼女の体を抱き起こした。
    その体は驚くほど軽くて……まるで人形のように冷たかった。
    それでも僅かに胸が上下しているのと、枕元に置かれた飲みかけのペットボトルが生存を証明している。
    ただ、このままではそう長く持たないことは一目瞭然だった。

    空調もほぼ機能していない。
    水道も電気もミレニアムタワーでは早期に機能不全に陥った。
    この窓のない部屋の中で、どれほどの長い時間飢えと渇きに耐えていたのか。

    私はコユキの口にそっと水を含ませ、その傍らに腰を下ろした。そして彼女の手を取ると───ゆっくりと祈るように目を閉じる。
    この環境で彼女が生きていられたのは───ほんとうに、奇跡だ。

  • 112二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:32:00

    ここに来る途中でも遺体や怪物たちとは何度も遭遇した。
    コユキが、その中の一体になっていた可能性は非常に高い。
    それでも、彼女はこうして生きていてくれた。
    その事実だけで、私は少しだけ救われた気がする。

    ふと────コユキの瞼がぴくりと動いたような気がした。
    そしてゆっくりと目を開いていくと……その瞳には生気が宿っている。
    しかしまだ意識が朦朧としているのか、ぼんやりと天井を見つめているようだ。
    すると───彼女は私の方へ目を向けるなり、驚いたように目を見開いた。

    「のあ…せんぱい…?ひどい、んですよ…ユウカ、せんぱ…私…忘れ……」

    焦点の合わない瞳で、悲しそうに呟く。
    彼女の口から漏れたのは、掠れ気味の小さな声。

    「…なにか…たべたいです…」

    意識が回復したとはいえ、恐らく今コユキの体は重度の水分不足、飢餓状態にあるだろう。
    いきなり今私の持っている食料を与えたら、リフィーディング症候群…血圧低下によるショック死や、消化器官のけいれんを始めとした多臓器不全で死亡する可能性が考えられる。
    …飢えが当たり前にある環境で身に着いた知識を、こんな形で実感する日が来るとは夢にも思っていなかったけれど。

    「今点滴を刺すから、待ってて」

    私はそう言ってコユキの腕に点滴針を刺し、負担をかけないように輸液緩やかなペースで流し込んでいく。
    これで水分と栄養は最低限摂取できるはず。
    しかし……問題は彼女の体力が持つかどうかだ。
    私は別に医学に精通しているわけでもない。だから、今彼女がどれだけ危険な状態なのかは正確には判断がつかない。

    再び眠りについた彼女の傍らで、その回復を祈ることしかできなかった。

  • 113二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:33:20

    それから数時間後───コユキは再び意識を取り戻したようで、ゆっくりと体を起こす。
    まだ体調が万全ではないのか、その顔色はあまり良くないように見える。
    それでも、先ほどよりはだいぶ回復したようで……私を見るなりと私の方を見て目を見開いた。

    「だっ…誰ですかあなた!ノア先輩をどこにやったんですか!!!」

    そう言って彼女は警戒するように後ずさる。
    その表情には困惑と恐怖が入り混じっており、どこか怯えたような様子だった。
    そんな彼女に私はゆっくりと歩み寄り……できるだけ優しく語りかけた。

    「おはよう、コユキ。体調はどうだ」

    私の声色に、コユキは戸惑ったような表情を浮かべる。
    そして少し間を空けた後、恐る恐るといった様子で口を開いた。

    「その制服…トリニティの生徒さんですよね?どうして私の反省部屋に入ってこれたんですか?…まさか、ユウカ先輩に限って先生以外の人にこの部屋の鍵を渡すとも思えませんし…」

    ───私は今までのことを掻い摘んで説明した。
    キヴォトスの破滅、そしてミレニアムの封鎖。
    今からコユキにやってもらわないといけないことについても。
    それらを全て話し終える頃には、彼女は信じられないといった表情で私を見つめていた。
    しかし……やがてその瞳には理解の光が宿り始める。
    そして────何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべると、ぱぁっと笑みを浮かべた。

    「───わかりました!」

  • 114二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:34:35

    「そうか、…ならさっそくで悪いけど、アトラハシースの箱舟までついてきてほしい。実際にやってみるまでどうなるかわからないs───」
    「…これはドッキリですね!だって忘れんぼうのユウカ先輩はともかく、ノア先輩が忘れるはずがありませんから!」

    コユキは満面の笑みでそう言うと、私の手を振り払い立ち上がる。
    そのまま扉の方へと駆け出し────外に出て行ってしまった。

    「せんぱーい!早く出てきて下さーい!もうばれちゃってますよ~!」

    それだけに飽き足らず、大声で"先輩"達を呼び始める始末。
    私は慌てて彼女を追いかけ、その腕を掴む。
    するとコユキは私の顔を見るなり、不満そうに頬を膨らませた。
    あまりの狂行に愕然としていると───コユキは再び走り出してしまった。

    「───待て!コユキ!!」

    私は慌てて彼女の後を追う。
    しかし、その足取りはふらついていて危なっかしい。
    それでも彼女は足を止めず、一心不乱にどこかを目指して走り続ける。

    ───まるで、何かに取り憑かれたかのように───

  • 115二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:38:32

    >>114

    そういえば地下生活者は味方というわけではないんだったな

    地下生活者ぁコユキに何をした

  • 116二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:39:25

    ちょっと希望を煽っただけなんだよなぁ…

  • 117二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:43:27

    私はコユキの後を追う。彼女は勝手知ったる様で走り続ける。


    そんなうちに、私たちはミレニアムタワーの高層階まで辿り着いていた。

    懲罰房からそこまでの距離はそれなりにあるはずなのに……その足取りには全く迷いがない。

    そして───コユキはある部屋の前で立ち止まると、ゆっくりと振り返る。


    dice1d5=4 (4)

    1絶望

    2絶望

    3絶望

    4絶望

    5EX

  • 118二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:44:38

    >>117

    あっ

  • 119二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:58:10

    なんですか、あれ。
    コユキはそう呟くと、その部屋の窓を凝視する。
    私もそれにつられてそちらを見ると───そこに広がっていた光景に言葉を失った。
    空に浮かぶ、黒鉄の城───アトラ・ハシースの箱舟。
    それは私の見ていた時のソレよりも遥かに巨大で、圧倒的な存在感を放っている。
    そして───その箱舟から落ちてきた塔六本の一本がミレニアムの中に落ちてきた。
    サンクトゥムタワーの色を、まるきり空よりも濃い深紅に染め上げたようなそれの傍らには───その全身を色彩に染め上げられた予言者の一体…

    ───第四セフィラ・ケセド(CHESED)

    最悪の胸騒ぎが的中したことを、私は悟った。

  • 120二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:12:45

    ─────アズサが立ち去ってから数分後。

    Keyは一人、静かに佇んでいた。
    その表情には何も浮かんでおらず……ただ虚空を見つめているかのように見える。
    しかし彼女の脳内では絶えず思考が展開されていた。
    "白洲アズサという少女に全てを委ねるか?" "それとも別の手段を取るか?"
    既に答えを出したはずの問いを────何度も繰り返している。

    「…来ましたか」

    その最中。視線の先で虚空は揺らめき、陽炎は形を成し、一つの人影が姿を現す。

    「…あなたの状態は把握している。自己修復システムも、アトラ・ハシースの箱舟の制御もまともに機能していない」

    濃厚な死の気配を纏わせ、そう告げる。
    しかしKeyは動じることなく、ただ静かに言葉を紡ぐ。

    「はい。なので可能ならば─────何もせず、立ち去って頂けますか」

    それはまるで……機械のように無感情で無機質な声音。
    しかし、そこには確かな意志が込められていた。
    そんなKeyを静かに見つめ───そしてゆっくりと口を開く。

    「ん、それはできない相談。この状況そのものが、私にできる最大限の譲歩だから」
    「───そう言うと思いました」

    壊れていたはずの自律兵器が形を変え、Keyの意のままに苛烈な攻撃を繰り出す。
    だが、それらはすべて相殺され、反撃により小規模の爆発を起こしながら次々と兵装が破壊されていった。
    奇妙な緩急のついた近接攻撃と、圧倒的な火力を持ったドローンの召喚による猛攻。

  • 121二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:14:06

    並の生徒や傭兵であれば死を覚悟するほどの光景。
    Keyは物怖じすることなく───己が体を薪にすることを選び、戦い続ける。

    「…」

    実のところ───既にアトラ・ハシースの箱舟の所在が割れていることは、Keyにとって想定内だった。

    むしろ冷静に考えてみれば、"何故作る時にはバレず”に、隠蔽が解かれた瞬間に全てが発覚するのか。
    そんなこと、あるわけがない。

    白洲アズサも、冷静になり思考を巡らせれば簡単に気付くであろう違和。
    だからこそKeyは冷静にさせる暇を与えずに、ここから送り出した。
    "本当の希望の鍵"を取りに行かせるために。

    とはいえ、ここまで落ち着き払っているのには理由がある。
    それは…死の神がその気ならば、白洲アズサの到着よりも早く箱舟を掌握することも可能だったという事実。
    しかし、それは死の神がその気であればの話。
    私と彼女を接触させない事も可能だったにもかかわらず、彼女はアズサの去った後を見計らうように現れた。
    結果として───今もこうして、私の相手をしている。
    それが何を意味するのか?答えは明白だ。

    恐らく、自覚しての行動ではないが。
    死の神もまた、白洲アズサを───

  • 122二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:25:36

    「───アズさ、あとは、託しました」

    壊れてゆく意識の中で、Keyは祈る。
    この世界の未来を、そして───パンドラの箱の底に眠る希望に。
    既に必要なピースは、揃っている。
    あとは、それをどう組み合わせるか。

    最後のリソースで、アトラ・ハシースの箱舟内部の三人をミレニアムタワー近郊に繋がる廃線へと移動させる。

    生存しようとすれば、できた。
    だがそれは、無名の司祭の傀儡となることを意味する。

    故に、───keyはその機能を、AL-1Sとしての機体を。
    自らの手で、完全に破壊した。

  • 123二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:48:52

    コユキは暫く放心したようにそれを眺めていたかと思うと、再び走り出そうとする。
    私は慌てて彼女の手を掴み引き止めた。
    コユキは私の顔を見るなり────私に掴みかかってきた。
    その目には大粒の涙が浮かんでおり……今にも泣き出しそうな表情をしている。
    ……彼女はきっと、私が"ドッキリ大成功!"と書かれたプラカードでも出すのを期待しているのだろう。
    そんなことをする余裕なんて……私にはないというのに。
    私はコユキの手を強引に振りほどくと、そのまま彼女を羽交い絞めにして拘束した。
    しかし───それでもなおコユキは暴れ続ける。

    「離してください!私は…セミナーのみんなに……先輩を……探しに!」

    彼女はそう言って抵抗するが、その力はあまりにも弱々しく……私の拘束を解くことすらままならない。

    「コユキ。」

    私は彼女の耳元で囁くように語りかける。
    すると彼女は一瞬動きを止め────ゆっくりと私の方へ顔を向けた。
    その瞳には困惑と恐怖が入り混じっており、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
    それでも……私は彼女に言い聞かせるように続けた。

    「分かったか、さっき私の言ったことの意味が」

    そう言って私は彼女を離す。
    すると彼女はその場に力なくへたりこんだ。
    その瞳には大粒の涙が浮かび上がり……やがて堰を切ったように溢れ出す。

    「…嘘です!先輩たちがみんな死んじゃったなんて!そんなの!そんなの、信じられません!!」

    そう言って彼女は嗚咽を漏らす。
    私はそんな彼女を見下ろしながら────ゆっくりと口を開く。

  • 124二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:49:31

    「信じなくてもいい……でも、現実から目を背けたところで何も変わらない」

    コユキは私の言葉を聞いて───静かに泣き続けた。
    そんな彼女の傍らにしゃがみ込むと、私はそっとその頭を撫でる。
    他の場所に比べると遥かに少ないものの、このミレニアムタワーの中にも遺体はいくつもあった。
    ここに来るまでにコユキも多少は目にしたはず。
    逃れられない残酷な現実を目の当たりにして、つらいだろう。苦しいだろう。
    でも、それは───

    「失われた命は回帰しない。時を巻き戻す都合のいい奇跡も救いも、この世界には存在しない。──────けどそれは、諦める理由にはならないから」

    私はそう言って、泣きじゃくるコユキを立ち上がらせると───アトラ・ハシースの箱舟を指さした。

    「最後まで、抗い続けるんだ」

  • 125二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 02:21:10

    やはりアズサの心は強いな
    見てると元気が出る

  • 126二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 08:05:45

    展開が読めなくて面白い

  • 127二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 18:02:21

  • 128二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 19:40:06

    階下から響く足音。それは次第に大きくなり────やがて、姿を現した。

    dice1d8=2 (2)

    1野良テラー

    2ミメシス

    3テラー

    4 1+2+3

    5 2+3

    6勝利の象徴dice1d2=1 (1)

    7↑全て

    8EX

  • 129二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:44:38

    「───っ、ユスティナ聖徒会の…複製!」
    「な、なんですかあれ!アズサさん、あれなんですか!!」

    コユキは悲鳴に近い声を上げると───私の後ろに隠れる。
    見るだけで伝わる異様な威圧感。
    ガスマスクを着け、二重構造のウィンプルを被り。腕を覆う手袋と一体化した黒のレオタードを身に纏ったその風貌は、まさしく怪異。
    肌は薄く、青白い蛍光の色彩を帯びている。
    非現実的な存在を目にして恐怖が悲痛を上回ったのか、カタカタと身を震わせながら私の服の裾を掴む。

  • 130二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:45:06

    「あれは……エデン条約の時、使い捨ての突兵として使われた────数百年前の亡霊」

    そんな異形の存在を前にして、私は不思議と───恐怖を感じなかった。

    数百年前にトリニティを統治した生徒会を複製した存在。
    かの騒動の最中、その戦力の大部分を占めた戒律の守護者たちが、今目の前に立っている。
    そして、その後方に立つのは───かつてユスティナ聖徒会において最も偉大と謳われた"聖女"。
    彼女は、その右手に携えたリボルバーカノンと、左手のガトリング砲をこちらに向けると────その切っ先から無数の光弾を放つ。

    光弾は容赦なく私たちに襲い掛かり、その体を掠めていく。
    私は咄嗟にコユキを両手で抱き上げ───

    「───へ?」

    ───その場から飛び退くと、そのまま窓を蹴り破り、飛び降りた。
    ミレニアムタワーを"駆け下りる"私に対して、"聖女"は追撃するべく光弾を放つが……しかしそれは私の体を掠めるのみで命中しない。

    「…ひゃあああああ!!」

    今の私一人なら、あの程度の相手はいくらいても相手できる。
    多少は交戦した経験もあるし、この見立てはそう外れてはいない。
    ただ───閉所でコユキを守りながら戦うのは至難の業だ。

  • 131二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:45:32

    「み、ミレニアム製の防弾ガラスを…あんなにあっさり…!」
    「───コユキ。」
    「な、なんですか……?」
    「あれの相手をすることは…できそう?」
    「む、むりです無理です無理です!……さすがに!数が多すぎます!それよりアズサせんぱい着地のこと考えてるんですか!?このまま地面の染みになるのだけはイヤですよ!!」

    コユキはそう捲し立てると、私の腕の中でじたばたと暴れ始める。
    そんな彼女の体をぎゅっと抱きしめながら……私は静かに語りかけた。

    「大丈夫だ、コユキ。私が絶対に守る」
    「───っ!」

    私の言葉に、彼女はぴたりと動きを止める。そしてそのまま黙り込んでしまった。
    ……しかし、いつまでもこうして逃げ回っているわけにはいかない。
    どこか手ごろな場所にコユキを避難させないと。
    幸い、"コユキを抱きかかえた状態でも"私のほうが辛うじて機動力で優っているらしく。
    同じく駆け降りてくるのはバルバラくらいのもので、有象無象の殆どはただ自由落下に身を任せながら弾幕を張るに留まっている。
    そのままの勢いで壁を斜めに下り、徐々に落下速度を殺す。
    そしてタワーから跳び、木を蹴り飛ばして傍にある池の中に飛び込んだ。

  • 132二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:46:04

    ───激しく回転し、飛沫を上げて着水する。
    コユキは目を回してしまったらしく、ぐったりとした状態で私の腕に抱かれていた。

    「ごめん、コユキ」

    そう呟きながらも、池から上がるとそのまま走り出す。

    「で、データセンターに連れて行ってください…」
    「…そこで戦う作戦が?」
    「違います!人が少ないところほど"敵"は少ないんですよね!だからあそこなら安全なはずです!」
    「───いや、平時に人が少ないのとは話が違うと思う。緊急時に人員が集まっていた可能性もある。ミレニアムの通信網は何度か破壊されていたし、遠隔でのデータサルベージに失敗して物理ストレージを直接…」
    「それでもです!七囚人とか、ほんとにヤバイ人は寄り付けない場所なので!"敵"がいても弱いから逃げきれます!そもそも、敵がいない可能性だってあるじゃないですか!」

    …この期に及んで、どこまでも楽観的なのは、彼女の性格なのか……それとも恐怖で動転して頭が回っていないだけなのか。
    しかし───コユキのその楽観的な予想は的中したようで。
    私たちが辿り着いたデータセンターの中にはまるで人気がなく。
    多少破壊行為を行っても、化け物共が出てくる気配もない。

    「じゃ、じゃあ私は受付で隠れてるので!あとはお願いします!」

    それを見て安心したのか、コユキはそう言うとそそくさとカウンター席の下に潜り込む。

  • 133二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:47:13

    数十秒遅れて、データセンターの入り口に"聖女"が降り立つ。
    そして───その手に携えたリボルバーカノンを構え、その銃口をこちらに向けた。
    私もまた、背負っていた愛銃を構え、銃口を彼女に向ける。
    そのまま、互いに睨み合うような形になるが───先に動いたのは"聖女"の方だった。
    彼女は引き金を引き絞り、光弾を放つ。

    私はそれを横に飛んで回避すると、その勢いのまま彼女に肉薄した。
    "聖女"も負けじとリボルバーカノンを構えようとするものの……しかしそれよりも早く私の放った弾丸が彼女の右腕に命中する。
    彼女は一瞬怯む様子を見せるも、すぐに体勢を立て直すと再びこちらに銃口を向けようとするが───それよりも先に私が放った第二射によって右肩に風穴が空く。
    そのまま、私は一気に距離を詰めると───彼女の頭部を狙い発砲する。
    その弾丸はガトリング砲によって防がれたが、その砲身を足場にし、無防備に曝け出されている頸を───全力の蹴りで"打ち落とした"

    ボロボロと肉体が崩れ、聖女の内の一体が塵になるように消失していく。

    …大分脆い。通常の火器の効き目は薄いハズなのに、先の銃弾はいとも容易く彼女の肉体を引き裂いた。
    恐らく、この体になった影響だろう。彼女たちの体に、随分と"干渉しやすく"なっている。

    いずれにせよ───これなら負ける気はしない。
    私はそう確信すると、再び銃を構えた。

  • 134二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:52:06

    "複製"は次々と現れ、私に向かって光弾を放つが───しかしそれは全て見当外れな方向へと飛んで行く。
    私が回避行動を取らずとも当たらないような攻撃だ。こちらの軌道にまるで対応できていない。
    ───いや、そもそも…

    「…なるほど」

    敢えて数秒、リボルバーカノンの掃射を浴びてみるも。───この身体には、傷一つつかない。
    その様子を見た"複製"の動きが僅かに鈍ったのを見て、笑みが零れた。
    私は一気に距離を詰めると、そのまま彼女に向かって回し蹴りを放つ。
    その一撃は彼女の体を捉え───軽々と吹き飛ばした。

    やはりそうだ、この肉体に彼女たちの攻撃は届かない。
    それどころか……今の一撃で"複製"の一体は完全に消滅した。

    "複製"たちは私を取り囲むように陣形を組むと、一斉に光弾を掃射する。
    しかし……今の私にとってはそんなもの何の障害にもならない。
    それによくよく見てみれば、"聖女"の補充は殆どされていないように見える。
    ただの複製の銃弾なら、コユキに多少流れ弾が当たっても死にはしないだろう。

    「ならまずは、お前だ」

    光弾を浴び、私はゆっくりと距離を詰めていく。
    そして───聖女の一体の頸を鷲掴みにして、そのまま何度も殴打する。
    メキメキと音を立て……見る見るうちにひしゃげていった"それ"を集団の中央へと投げつける。

  • 135二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 21:54:19

    複製が再び陣形を組み直そうとするが───もう手遅れだ。
    "聖女"たちの前に回り込むと、そのまま銃弾を浴びせる。
    今度は三体纏めて蜂の巣にし、消滅させた。
    そして残った最後の一体を思い切り蹴り上げると───そのまま落下してきたところへ、弾倉に残る全弾を撃ち込んだ。
    …これで、"聖女"は暫く現れない。

    「コユキ。強行突破する!準備はいい?」

    そう呼びかけると、彼女はカウンターの陰からおずおずと顔を出し、そして───こくりと小さく頷いた。
    私はそれを見ると、そのままコユキを背負って走り出す。
    "複製"たちはそんな私たちを追撃すべく光弾を放つが……しかしそれは全て見当外れな方向へと飛んでいくばかり。
    そんな彼女たちを尻目に───私たちは敷地外へと飛び出した。

  • 136二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 22:08:39

    バルバラやユスティナがこうもあっさりと...まさかここまでの存在だとは

  • 137二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 22:43:47

    テラー化バフつよぃ

  • 138二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:50:23

    これくらいの強さがあるなら
    アズサ「晩鐘は汝の名を指し示した」
    ぐらい言ってもおかしくない

  • 139二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 06:32:29

    系統が違うだけでこっちも死の神やからな

  • 140二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 07:56:25

    >>139

    死の神だったのか

  • 141二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 18:15:26

    外に出ると同時に脚を止め、再び銃を構える。
    視線の先には、数百体の複製たちがこちらを追いかけて来ているのが見える。

    「あ、アズサ先輩ってバカみたいに強いんですね!あのまま全員やっつけちゃえばよかったのに!」
    「…少し前までは、あいつらに嬲り殺しにされる程度の強さしかなかった」

    私がそう答えると、コユキは意外そうに目を丸くした。

    「え、じゃあどうして……」
    「───それは…!コユキ!あれを」

    その時。
    ミレニアムタワーの付近から、信号弾が上がるのが見えた。
    それと同時に無線機へ通信が入る。

    《アズサ!聞こえてる!?》
    「…モモイ、無事だったのか」
    《うん、なんとかね!あいつらを相手しないで済む道がこっちにあるから、来て!》
    「わかった、すぐに向かう」

    私は通信を切断すると、コユキに向き直る。

    「そういう訳らしい。行こう」

    彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せたが───すぐに覚悟を決めたように頷いた。
    私たちは再び駆け出すと、信号弾の上がった方向へと急ぐ。
    弾幕を張り、集団の中に無理やり穴を開けてミレニアムタワーの下に辿り着くと、茂みの中の石タイルが持ち上がり、出来上がった穴の中からひょっこりと猫耳のヘッドホンを着けた生徒が現れる。

  • 142二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 18:16:13

    「───来たぞ、モモイ!」
    「アズサ!はっやーい!」

    お互いに顔を見たことがないので、声で判断し合った。
    モモイのすぐ後ろにも、ミレニアムの制服を着て同じく猫耳ヘッドホンを着けた生徒が一人と、厚手のジャケットを着たおでこの広い赤髪の生徒が一人おり、後者はぐったりとしている。
    分かりやすい見た目をしてはいたが、一応確認を取る。

    「こっちの猫耳がミドリで…こっちの赤いのがユズ?」
    「そうそう───って!そんな悠長にしてる暇ないって!」

    モモイはそう叫ぶと、そのまま穴の奥へと走っていく。
    私たちはその後に続くように中へ入ると───その中は、まるで戦場跡のような有様だった。
    床や壁には銃弾によって抉られた跡があちこちにあり、天井から吊り下げられた照明もいくつか破損している。

    そして───その中心には。
    三対の脚を地に着け、砲口を尾先と頭に着けた、ハサミを持たない巨大な蠍を彷彿とさせるデザインの自律兵器の姿。
    何度か廃墟で破壊した"それ"に酷似しているが、二回りほど大きく、今いるトンネルの天井すれすれのサイズをしていた。

    「…keyがボディーガードにつけてくれた、自律兵器の…Divi:Sion…だっけ?」

    モモイがそう問いかけると、ミドリはこくりと頷く。

    「正確に言うなら、無名の守護者Type.Bα」
    「色々聞きたいことは山ほどあるけど……とりあえず、ここから離れるのが先決か」

    私がそう言うと、ミドリは首を縦に振る。
    そしてユズと共に、自律兵器の横腹から内部に入り込んでいった。
    モモイもそれに続いて入っていく。

  • 143二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 18:16:59

    …恐らく立体映像で、外部からは扉の開閉状態が識別できないようになっているんだろう。
    近付いてみると、地下施設で聞いたものと同じ音声が流れる。

    "Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。""対象の身元を確認します。白洲アズサ、黒崎コユキ"
    "両名、資格を確認しました。入室権限を付与します"

    私もコユキを連れて、その腹の中へと入った。
    内部は思いの外広く───また、妙に生活感のある空間になっている。

    「これは……」
    「…私たちが生活できるように、居住スペースを作ってくれてたみたいで」

    ミドリはそう答えると、そのまま奥へと進んでいく。
    モモイもその後に続くように歩いていくので……私たちもそれに続いた。
    そして───その最奥に辿り着くと、そこには大きな機械が鎮座している。

    「もうあらかじめ設定しておいた場所に向かって移動してるから、ゆったりしてて大丈夫…です」

    ユズはそう言いつつ、機械を操作している。
    言われて窓を見てみれば、それなりの速さで流れ行く景色。
    移動時のGや振動をまるで感じさせない技術力に、息を呑む。
    似たものをぽんぽんと破壊してきたせいで感覚がマヒしていたが、どうやらこの自律兵器───かなり高性能な移動装置になっているらしい。
    ……これなら確かにミレニアムの外へ出られるだろう。
    "複製"たちが追ってくる様子もなく、ひとまずは安心できそうだ。
    そんなことを考えていると、ミドリが口を開いた。

    「それと…アズサ先輩、こっちに」

    彼女はそう言いつつ、横開きの扉をゆっくりと開く。
    そして、その中央に鎮座していたのは────

  • 144二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 18:21:08

    dice1d5=1 (1)

    1───私のミスでした。

    2───赤い肌。

    3───タブレット端末?

    4───key?

    5EX

  • 145二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 18:52:39

    (プロットの壊れる音)

  • 146二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:17:11

    水色の表面と桃色の裏面を持つ奇妙な長髪に、片方が隠れた青い瞳。
    身に着けた制服は、連邦生徒会のそれで───

    「───連邦生徒会長、どうして、ここに」

    私は思わずそう口にする。
    しかし、彼女はそれに答えず───ただじっとこちらを眺めていた。
    そんな私たちの間に流れる静寂を裂くように、モモイが口を開く。

    「最初から地下通路にいたんだよ、まるで"最初からここに来るのがわかってた"みたいに」

    コユキはそんな状況に着いていけずに困惑しているようで、キョロキョロと視線を泳がせていた。
    そしてミドリも……どこか気まずそうに目を伏せているように見える。

    「どう、して…今さら、になって……」

    私は思わずそう口にする。
    しかし彼女はそれに答えず───ただじっとこちらを眺めていた。
    ……その目はどこか悲しそうで、まるで捨てられた子犬のような目だ。

    「───私のミスでした。」

    連邦生徒会長は、ぽつりぽつりとそう呟く。
    私は黙って続きの言葉を待った。
    しかし彼女は、それ以上語ろうとはせず───ただじっとこちらを見つめているだけ。

    「───発起人であり、主導者のあなたが失踪すれば、エデン条約の締結に支障が出ることはわかっていたはず。───何故、どうして、そんな」

  • 147二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:19:36

    聞きたいことは山ほどあった。
    何故ここにいるのか、どうして生存しているのか。
    ただ、実際に会えたなら、真っ先に答えの欲しい疑問が、あった。
    何故、あなたはエデン条約を放棄したのか。その答えが知りたくて……私はそう問いかける。
    すると彼女は、少し困ったような表情を見せた後───ゆっくりと口を開いた。
    しかし、そこから紡がれる言葉は───私の想像を遥かに超えるものだった。

    「そうしないと、アリウスの解体が出来ないからです」
    「それ以外にも、いくつも。痛みを伴う方法ではありましたが、最善の未来を掴むための布石は打ってきたつもりでした」

    くたびれた様子で、彼女はそう続ける。

    「…わかりやすく言えば。補習授業部の結成から、アリウススクワッドによる調印式への襲撃、ベアトリーチェによる秤アツコへの保険によって、貴女が人殺しになってしまわないようにするのも───
    ───あの騒動がすべて、わたしの計算通りだった、ということです」

    知らないはずの情報。
    いや、あの騒動の当事者であった私達以外誰も知らないであろう事実がすらすらと語られていく。
    ……姫に、マダムが保険をかけていた? それは一体、"なんの話"なんだ。そんな情報は私も────
    ───いや。違う、"私も"知らない、その話をなぜ。眼前の人物が知っている───?

  • 148二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:20:28

    「しかし、その全ては失敗しました。」

    彼女はそう言うと、悲しげに目を伏せる。
    しかしすぐに顔を上げると、真っ直ぐに私の目を見た。
    そして───ゆっくりと口を開く。

    「…先生は、調印式の爆破に巻き込まれ意識不明の重体になり、秤アツコと錠前サオリはベアトリーチェの生贄となり、戒野ミサキは自死し、槌永ヒヨリは聖園ミカによって殺され───その聖園ミカも、ベアトリーチェと戒律の守護者たちによって…ヘイローを破壊されました」

    そこまで言うと、彼女は大きくため息を吐く。

    「すべて、私のミスです。…先生が、調印式で再起不能の状態になるのを避けるための、乱数となる人物を正確には把握することが出来ていなかった」

    その告白に───頭が真っ白になる。
    私が知らないところで……私の知らぬうちに、そんな計画が動いていた……? しかし彼女はそれに構わず言葉を続ける。

    「今思えば、もっと良い人選があったはずなのに。そのたった一つのミスが、連鎖的に全てを台無しにしてしまったんです。」

    彼女はそう言うと、自嘲するように笑った。

    「ですが、収穫はありました。"次は"全員生存させたまま、"色彩の嚮導者"になって頂ければ、後に繋がる布石が打てます」

    …何を言っているのか、理解できない。
    いや、"理解したく"ない。
    ───そんな私の思考を読み取ったかのように、彼女は悲しげに目を伏せた。

  • 149二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:21:32

    「それはつまり…!どういうこと?」
    「連邦生徒会長はタイムリーパーってところじゃないかな、お姉ちゃん」

    モモイがそう問いかけると、ミドリは淡々とそれに答えた。
    ……タイムリーパー。時間を巻き戻す能力を持った人間。
    それが、この連邦生徒会長の正体……? いや、そんな訳がない。
    そんなのは……あまりにも非現実的だ。
    しかし───それが本当なら、辻褄が合う。

    「なら、この現状を打破する方法を、知っているんじゃないのか」

    私がそう問いかけると、彼女は気まずそうに頷いた。

    「経験はないですが、思い当たる手段が一つだけあります」
    「なら───」

    しかし、彼女は悲しげな表情を崩さぬまま口を開くと────私の言葉を遮るように話を続ける。

  • 150二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:22:13

    「私の置かれている状況を理解した皆さんに聞きますが───これから足掻く理由が、私にあると思いますか?」

    連邦生徒会長はそう言うと、悲しげに微笑んだ。
    その問いに対する答えは───考えるまでもなかった。
    もし私の解釈があっているのなら、彼女がこの世界でこれ以上足掻く理由はない。
    …けれど…その表情はどこか苦しげで、まるで何かに迷っているように見えて。
    そして、そのままゆっくりと口を開くと───こう続けた。

    「ですが、私のミスによってこの世界の破滅を防げなかったのもまた事実。ですから、その責任は取るつもりでいます」

    彼女はそう言うと、私たちに背を向ける。
    そして……そのまま扉の方へと歩いて行った。
    私は慌ててその背中を追いかけると、腕を掴んで引き留めた。
    しかし───彼女はこちらを振り返ろうとはせず。ただ静かに首を横に振るだけだった。
    "もう私に構うな"と言わんばかりに。
    それでもなお食い下がる私に対して、彼女はゆっくりと口を開く。

    「さようなら、白洲アズサさん。───椅子の下に、置いておいたので」

    "また別の世界で、お会いしましょう" そう言い残し、彼女はそのまま自律兵器を出ていった。
    私はその場に立ち尽くしたまま……ただ呆然と、"陽炎のように消えていく"その後ろ姿を、眺めることしかできなかった。

  • 151二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:22:55

    ───そして、再び訪れた静寂の中。
    "私たち"は、ゆっくりと顔を見合わせた。

    「…とりあえず、椅子の下全部見ようよ。何か残していってくれたみたいだし」

    モモイがそう提案すると、コユキはこくりと頷き……それに続いてミドリも椅子の下を漁り始めた。
    私もそれに倣い、椅子の下を覗き込む。
    すると───そこには、小さな箱が一つ置かれていた。
    私はそれを手に取ると……ゆっくりと蓋を開ける。
    その中に入っていたものを見て───私は目を見開いた。

    「───ただの、タブレット…?」

    その画面には、"Divi:Sion Systemへの接続中"と表示されており。
    しばらくすると───画面が点灯し、パスワードの入力を促すメッセージが表示される。
    "パスワードを入力してください"という文字の下には、空白の入力欄。

    「ええー!なにこれ!ロックかかってるじゃん!」

    モモイがそう叫ぶと、ミドリは呆れたようにため息を吐く。
    私もいったん落胆しかけるが、そこでコユキの存在を思い出した。
    コユキはKeyがアトラ・ハシースの箱舟のハッキング要因として挙げた人物。ならこの程度のパスワードであれば、彼女なら解除できるかもしれない。

    「コユキ。いけるか」

    私がそう問いかけると、コユキはこくりと頷く。
    そして懐からスマートフォンを取り出し、ケーブルを挿すと───そのまま画面をタップし始めた。
    そして、数秒後。
    パスワードの入力欄に*アスタリスクが表示され始める。

  • 152二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:24:40

    「…コユキ。このパスワードの答えはいったい何なんだ?」

    見た目では判別がつかないので尋ねてみると、コユキは困ったような表情を浮かべた。

    「そうですねぇ…仮想キーも出ませんし、音声入力がデフォルトっぽいので、そっちで入力してるのを流しますね」

    そう言って、コユキはスマートフォンの音量ボタンを押した。
    スマホのスピーカーから、コユキの声が流れ出す。

    “……我々は望む、ジェリコの嘆きを。”
    “……我々は覚えている、七つの古則を。”

    それを認識した瞬間に画面は切り替わり───
    "System:Key へようこそ" そんな文字が表示されると共に───画面中央に、見覚えのある人物が映し出される。
    それは間違いなく───Keyだった。
    彼女は私たちの方に振り向くと、にこりと微笑む。

    「やってくれましたね、連邦生徒会長」

    彼女はそう言うと、画面越しに私たちに語りかける。

  • 153二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 21:26:36

    「……以前は多次元解釈の維持、及び黒崎コユキよるハッキングのための外部コンソールとして待機し。その後は再利用を防ぐ為、アトラハシースの箱舟と共に自爆コードを実行する必要がありました。しかし、こうして"シッテムの箱"のOSとして組み込まれ、現地に直接赴くことが出来るのなら、話が変わります」
    「直接赴くって…一体どこに?」
    「ウトナピシュテムの本船に決まっています。賢い貴女なら、もう察しが付いていると思っていましたが」
    「いや…全然気にも留めてなかった」

    私がそう答えると、彼女は呆れたような表情を見せた。
    しかしすぐにその表情は真剣なものに変わり───私たちにこう告げる。

    「とにかく、アトラ・ハシースの箱舟を奪われてしまった以上、こちらも同等のシステムを利用できなければ話になりません。ウトナピシュテムの本船の起動。もしくはその演算リソースを利用し、プロトコルATRAHASISの実行。このどちらかが出来なければ、私たちの敗北は覆せない」

    彼女はそう言うと……画面越しに私たちに手を差し伸べる。
    そして、そのままゆっくりと口を開いた。

    「モモイ、ミドリ、ユズ。貴方たちが大好きな───世界を救う旅の、幕開けです」

  • 154二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 22:03:42

    ───そして。
    Keyに託されたものはそれだけではない。

    「あなたたちも、このまま犬死にするのは───本意ではないでしょう」

    記されたプロセス。座標に従い特定した人物にメッセージを送信する。

    ───"先生に勝利した敵対者たち"へ
    ───"このメッセージを受け取った者へ"。

    「不完全燃焼で虚しい勝利に酔い痴れるほど、あなた方は惨めな存在ですか?」

  • 155二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 02:22:40

    地下ちゃんは不躾でキレそう

  • 156二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 08:00:41

    ベアトリーチェ横から勝利を掻っ攫われたのか

  • 157二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 09:44:56

    ほんとに>>1のスチルから分岐してたんだ

  • 158二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:33:10

    「邪魔をするなァアッ!!クズがッッ!」

    突如として室内に響き渡った怒号に、思わず肩が跳ね上がる。
    しかし、その声の主はそんなことなどお構いなしと言わんばかりに叫び続けた。

    「"死"を知らない貴様ごときがァ!!ええッッ!?小生の苦しみ、孤独を…恐怖を、理解できるのかア!!?」
    「……落ち着いてください」

    keyが宥めようと声をかけるも、男は聞く耳を持たない様子で怒鳴り散らすばかり。

    「苦行を通じて、小生が、どんな気付きを得られるのかがッ!それが重要なんだよォ!!それを貴様が、邪魔するんじゃねぇえッッ!!!!」
    「Key!この声は一体…」

    私がそう問いかけると、彼女は静かに答えた。

    「…地下生活者」

    keyがそう言った直後、画面上に別の人物が映る。
    ……それは、ぼさぼさの白髪を生やし、黒塗りの面に、瞳が時計の文字盤となった幾つもの目と…額にXVIIIと刻まれている、異形。
    何故そんな奴がシッテムの箱に……? そんなことを考えているうちにも、画面上の男は叫び続けている。

    「ベアトリーチェとの協力ゥ!!?そんなこと、認めるワケがないだろうがアッッ!!あんな、あんなクズとォ!!」
    「───何?ベアトリーチェ…?それは、一体どういう」

    私がそう問いかけようとすると、Keyはそれを遮るように口を開いた。
    そして───画面上の男に語りかける。
    それはまるで、聞き分けのない子供を諭すような口調だった。

    「"チートにはチートで対抗する"そう言ったのは貴方です、地下生活者。───状況が理解できていないようなので、端的に説明します。今貴方が攻略しようとしている”色彩の嚮導者"は"無尽蔵に大人のカードを使用する"ことが可能です」
    「───何ィ!?大人のカードを、無尽蔵にだと…?」

  • 159二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:35:53

    男はそう呟くと、押し黙りぶつぶつと独り言を呟き始める。
    ……どうやら、Keyの言葉は響いたらしい。
    少し落ち着いた様子になったのを確認し、私の疑問をKeyにぶつける。

    「…Key、どういうことだ?ベアトリーチェと協力するというのは」
    「そのままの意味です。秤アツコと錠前サオリの神秘を取り込み、色彩によって反転し、完成した"先生の敵対者"をこちらに取り込みます」
    「ッ!そんなこと!納得できるわけが───!」
    「───では、あなた一人だけで死の神と色彩の嚮導者を相手取り、勝利することが可能なのですか」
    「…それは」

    そこには怒りも悲しみも無く、ただ淡々と事実を述べているような口調だった。
    ……私は何も言い返せず、ただ黙り込むことしかできない。
    確かに、今の私にはそれだけの力がない。
    どうにか同じステージには上がれたものの、先の接敵では危うく殺されかけた始末。
    けれど───

    「どうして、どうしてベアトリーチェなんだ」
    「…あの日、生徒を贄とした儀式の成立を以て、ベアトリーチェに"先生の敵対者である"という文脈───テクストが、完成しました。故に、彼女の指揮系統に入ることによって、私達もその恩恵を受けることが可能になる」
    「───ええ、その通り」

    ───連邦生徒会長のいた部屋から、耳障りな女の声がした。
    そして、その声の主は扉越しに語りかける。
    ……まるで、私に宣戦布告するかのように。

    「槌永ヒヨリの殺​害によって、自暴自棄になった聖園ミカ。そして、白洲アズサの手によって瀕死になった錠前サオリ。──────二人の決着を阻止すべく現れた"先生"に風穴が空いた瞬間は、今でもよく思い返しますよ?」

    その言葉を聞き終えると同時に、Keyが口を開く。

    「───"貴方の協力に感謝します"、"ベアトリーチェ"」

  • 160二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:36:20

    その言葉に応じるように、女は不敵に笑う。

    「ええ、構いません、だって私も貴方達と同じ目的を持っているのですから。───だからこれは、ええ。利害関係の一致に過ぎません」

    そんなやり取りを呆然と眺めていると、扉が開かれる。
    宙に浮かぶ、煙のように歪んだ半身。徐々にその姿は鮮明になり、私の知る形になった。
    紅い肌に、白いドレス。同じく白い、眼球の付いた無数の羽根で覆われた頭部。……そこにいたのは、紛れもなくベアトリーチェだった。
    彼女はゆっくりとこちらに歩み寄ると、私の目の前に立つ。

    「元気にしていましたか?アズサ」

    彼女はそう言うと、私の頰に優しく触れてきた。
    ───瞬間。湧き上がってきた憎悪に身を委ね、その手を咄嗟に振り払い、銃口を喉笛に突き付ける。

  • 161二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:38:01

    しかし彼女はそれを意に介さず、ただ心底愉快そうに笑みを浮かべるだけ。

    「貴方が…おまえが、サオリを───!先生を!」
    「…勘違いしてはいけませんよ?サオリを弱らせたのは貴女。先生を爆破に巻き込み、私の完成の為の贄となったのがサオリ。そして先生を撃ち抜いた…聖園ミカ。私が直接手を下したのは、彼女だけです」

    空気が、張り詰める。
    一触即発、瞬きをした瞬間に殺し合いが始まろうかという最悪の雰囲気が室内を支配する。
    それを打ち破ったのは、Keyだった。

    「アズサ、彼女にはシッテムの箱を使用し私たちの指揮を執ってもらいま───」

    しかし、その声が彼女に届く前に。私はベアトリーチェの首を片手で鷲掴みにすると、そのまま壁に叩き付ける。
    そして……彼女の頭を壁に押し付けたまま、静かに口を開いた。

    「何故、ここに入ってこれた」
    「色彩の力を利用して。そちらからアブローチがありましたから、発信源を特定させて頂きました」
    「どうして、私達に手を貸す必要がある。何故、手を貸す」
    「───ゲマトリアを、死の神に襲撃されました。その際、ユスティナ聖徒会の"複製"も奪われ、私一人での対抗は難しいと判断し───ここに」

    …嘘は、言っていないように思えた。
    元より彼女一人の力でどうにか出来るのなら、Keyの要請に"応える"理由もない。
    色彩の力による転移も、恐らく"シロコ"と似たようなものだと思えば得心が行く。
    "複製"も、そうだ。ベアトリーチェの話す内容に矛盾はない。
    ───しかし、それでも。
    私は、ベアトリーチェの首を締め上げる力を緩めない。
    彼女はそんな私の様子を見て……呆れたようにため息を吐いた。

    「子供の我儘も、大概にしないと───痛い思いをしますよ?」

  • 162二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:40:05

    そう言うと同時に、ベアトリーチェの掌が私の手首へと伸びる。
    ───まずい。そう思った瞬間、私は咄嗟に手の力を緩めた。
    そしてそのままベアトリーチェから距離を取るように飛び退く。

    「ロイヤルブラッドと錠前サオリの力を取り込み、反転した私に。あまり歯向かうべきではありませんから」

    手首に残った濃い青痣と、じくじくと残る痛み。
    傷付いた皮膚から、血が滲み出しているのを感じる。
    彼女もまた。方向性は違えど───"先生"と同格の存在であるということを思い知らされる。

    「さぁ、Key?私に所有者権限の変更を」
    「───それは不可能です。連邦生徒会長の掛けたプロテクトにより、所有権移転は禁止されているので」
    「ではどの様に?」
    「死の神と色彩の嚮導者を討滅するまでの条件付きで、使用権限の付与を行います。そうすれば貴女も戦闘支援機能の恩恵を───」

    ───彼女は、今までにない程の冷たい表情を浮かべた。
    まるで、ゴミを見るかのような視線をKeyに向けている。
    しかし───それも一瞬のこと。すぐに元の笑顔に戻ると、言葉を続けた。
    ……その笑顔があまりにも不気味で、背筋が凍るような感覚がした。

  • 163二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:43:49

    「…アズサ、世界を救うという点に関して"だけ"は彼女を信用できませんか」

    Keyは、私にそう問いかける。
    ───確かに、言っていることは理解できる。
    しかし……それでも、私はアレを信用できない。
    その考えは間違っているのか?それとも───正しいのか? そんな自問自答を繰り返しているうちに、彼女が再び口を開く。

    「黙っていてもKeyにバラされるでしょうから、ここで本心を話しておきますが。私、ベアトリーチェは───
    ───生徒とは、互いを騙し傷付け合う地獄の中で"私達、大人に"搾取されるべき存在だと考えています。…ですが、あの騒動も結局のところ…私の支配域を広げる意図で起こしたもの。決して、この世界を滅ぼすためではありません」

    彼女はそう言うと、Keyの方に向き直る。
    そして───今までにない程に冷淡な声で、こう告げた。

    「故に世界そのものを、生徒を滅ぼすのだけは許容できないのです。…地下生活者とは違って」

  • 164二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 17:48:09

    「…敵の敵は味方ってヤツですね!」


    コユキが冷や汗を流しながら明るい声でそう答えると、Keyもそれに同意するように頷く。


    「つまり、改心してない悪役との一時共闘ってこと?───それ、すっごい燃える奴じゃん!」

    「…今の所業を聞いて、それで片付けるのはどうかと思うよお姉ちゃん…」


    ミドリのツッコミに、モモイはただ笑うだけだった。

    ……私は、まだベアトリーチェへの警戒を解くことはできない。

    それでも───今は、彼女を利用するしかないだろう。

    それに、彼女の言葉も理解できる部分があるのも事実だ。

    生徒を贄とした儀式の成立を以て、ベアトリーチェに"先生の敵対者である"という文脈が確立された以上。

    色彩の嚮導者を討ち果たそうとするうちは、私達と敵対するメリットがない。

    ……しかし、それでもやはり信用しきれない自分がいることにも気付いていた。

    そんな私の様子を見兼ねたのかKeyは口を開く。


    「…ちゃんと二人とも"契約"で縛ってあります。それに、もし裏切るようなことがあっても……"保険"があるので」


    Keyはそう言うと、dice1d6=3 (3)

    1苦々しそうに頬を緩める

    2不敵に笑みを浮かべる

    3にっこりと笑った

    4悲しげに目を伏せる

    5無感情に笑う

    6EX

  • 165二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 19:19:02

    無名の守護者はミレニアムの地下を抜け出し、アビドス砂漠へと舵を切る。

    keyの内部に追加されていた、ウトナピシュテムの本船のある座標…カイザー軍事基地の地下へと向かって。


    到着まで

    dice1d3=1 (1)


    イベント

    dice1d5=2 (2)

    1接敵(自動勝利)

    2平穏

    3接敵(自動勝利)

    4平穏

    5EX

  • 166二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 19:20:01

    ───そして。
    地下深くにある、巨大な空間で。それは静かに佇んでいた。
    黒く巨大な船体に白い指令室と大口径のジェットの載った───ウトナピシュテムの本船。

    「コレってもしかしなくても宇宙戦艦!?宇宙戦艦だよね!ミドリ!」
    「「おっきい…」」
    「…アトラ・ハシースの箱舟に比べると、随分と大人しい見た目ですねぇ」

    モモイとミドリは目を輝かせながら、巨大な船体を見上げていた。
    その横ではコユキが何か思うところがあるのか、じっと本船を見つめている。

    「アクセスキーも自動メンテナンス機能も…"あの人"がモジュール化して組み込んだ船体制御システム、全て利用可能であることを確認。早く搭乗してください」

    ベアトリーチェに抱えられながらKeyの声が本船の内部に移動していくのを見て、私達もそれに続くように中へと入る。

    「ウトナピシュテムの本船稼働。───システムチェック 、オールグリーン。これなら、プロトコルATRAHASISの実行は必要なさそうです」

    そう言うと同時に地下室の天井が徐々に開いて行き、発艦準備が進んでいく。
    そして、私達が席に着いたのを確認した上で、Keyは本船を発進させた。

  • 167二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 19:23:20

    「目標までの到着予想はおよそ10分。それまでに、この船の目的とこれからについて説明します。───まず、前提として。アトラハシースの箱舟の状態の共存によるバリアは理論上、同様のバリアを用いることで通過することが可能。その展開に必要となる多次元解釈演算については、私が本船の演算装置を用いて行います。そしてバリア通過後は物理的手段で外壁を破壊し、多次元解釈エンジン管制室…ナラム・シンの玉座へと進撃します」
    「…箱舟内部での戦闘は、あの二人とのものだけと思ってもいいのか?私見だが、何かしらの防御システムが存在すると思う」
    「それに関しては心配ありません。あれは以前も言ったように不良品ですから、外部のバリアと”玉座”にて状態の共存を維持する事しかできません。仮に完成させるにしても、そのために必要な演算リソースを入手するのは困難です」
    「あの~…この本船がハッキングを受けて演算リソースを利用される可能性とかは…無い、感じですか?」
    「十分にありますが。それを防ぐのが貴方の役目です。また、次元障壁が無いとは言え無人兵器は相当数存在することが予測されるので、ゲーム開発部の三人とコユキは私たちが死の神と先生に勝利するまでウトナピシュテムの元船の防衛を担ってもらいます」

    その説明を聞いて、コユキはへなへなと机にへたり込み手を挙げる。

    「まだ助けられて半日も経ってないのに!任せられる仕事の責任が大きすぎますよー!」
    「拠点防衛も立派な仕事だもんね!がんばるぞー!」
    「…普通に死なない?これ…」
    「うう…怖い…」

    モモイはやる気のようだが、ミドリとユズは不安そうだ。
    だが、その心配も杞憂に終わる。
    …終わらせて、みせる。そう決意し、眼前に迫る漆黒の球体を睨んだ。

  • 168二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 19:49:30

    ───そして本船は、アトラハシースの箱舟へと辿り着く。

    当初の狙い通りにバリアは中和され、剝き出しになった外周の一部に、巨大な風穴が空く。
    そして、その穴から内部へと進入し、私達はナラム・シンの玉座へと降り立った。

    「───ん」

    中央に鎮座する二つの人影。
    一つは見覚えのある銀の長髪。そしてもう一つは───死人の顔を蝋で固め取ったような仮面を被り、棺のようなローブを身に着けた者。
    その隙間から包帯の巻かれた左手だけを出して、此方を見据えている。

    「"シロコ"...それが、それが───私の知っている、先生の成れの果てか」
    「…どこで誰から聞いたのかは、知らない。けど、そう。」

    色彩の嚮導者の動きに従うように、"シロコ"が振り向く。
    そして、静かにこちらへと歩みを進めた。
    "先生"を背にしているからだろうか、それとも別の要因か、その佇まいは力強さを感じさせるもので。

    「こうなってしまった以上、やることは決まってる───先に私のヘイローが砕けるか、それとも」
    「色彩の嚮導者の手札が、尽きるか」

  • 169二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 20:31:45

    敵と敵と敵、世界は既に終わっている
    もう好きなだけ暴れても問題はないか

  • 170二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 20:41:43

    互いに銃口を向け、そして───。
    ───戦いの火蓋が、切って落とされた。

    絶え間なく響く銃火と、それを掻い潜る影。
    その戦いは、互いに一歩も譲らぬ拮抗状態へと至っていた。
    シロコの放つARの弾丸を躱し、ドローンから放たれる爆撃を防ぎ、そして。
    私は、"先生"へと銃口を向ける。
    ───その刹那。
    私の視界を、黒い何かが横切った。
    そして、金属同士がぶつかり合う音と同時に火花が散る。
    大腿から、シロコの手に吸い付くように追従して現れたショットガン。
    それに銃口を逸らされ、そのままの勢いで側頭部を殴られる。
    咄嗟に腕で防いだが、それでも衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされた。
    ───そして、"先生"がシッテムの箱を操作すると突然戦場が砂漠と化す。

    「───ぐッ!?」

    床との衝突によるダメージは消えたが、瞬時に立ち上がるために勢い良く突き出した腕が砂の中に埋まる。
    そして、その隙をシロコを見逃さず、全身にARの集中砲火とヘリからの爆撃を浴びた。

    再びシッテムの箱によって戦場が玉座へと戻ると、"先生"から放たれる光弾を避けることも受ける事も出来ずに吹き飛ばされる。
    そんな私の姿を見ても尚、シロコは顔色一つ変えずに私へ追撃を仕掛けてきた。

    「───驚いた、ここまで耐えるなんて」

    ナイフと銃弾の応酬を繰り返しながら、なんでもない事のようにシロコが話しかけてくる。───この程度か。
    そう、言外に告げているように感じたのは私の思い違いだろうか。
    "先生"はそんな私達の戦いを、ただ静かに見守り、時折シロコに有利になるように援護を行う。
    そして、戦いが長引くにつれてシロコの動きに余裕が生まれていくのを感じた。

  • 171二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 20:44:00

    こっちの動きに、適応してきている。
    そう気付いた瞬間、全身に冷たいものが走る。
    ───このままでは、負ける。
    その予感に突き動かされるように、私は銃とナイフを持ちシロコへと肉薄した。
    ───そして、何度目かの攻防の後。
    私のナイフは止められてしまい、同時にシロコが放ったショットガンの散弾をまともに受けてしまう。
    咄嗟に身を捻って急所への直撃を避け、銃弾を数発胴体に浴びせる。
    だが、それでもシロコの勢いは止まらず、目と鼻の先に現れた”マシンガン”に反応が遅れ、そのまま撃ち抜かれる───。
    ───その刹那。

    銃口が、奇妙な逸れ方をして”シロコ”の攻撃が地に吸い込まれてゆく。

    「防御対象をベアトリーチェから、白洲アズサに変更───持ち主を守らなければならない貴方には、真似できない」

    keyの、その声と共に。
    ───私の視界を遮る光弾が、"シロコ"を地面へと縫い付けるように押し倒す。
    "先生"はその光景を見て一瞬硬直し、光弾を放とうとしたが───その熱量が、放たれる事は無かった。

    何故なら──────"先生"の頭部から、鮮血が飛び散り、ゆっくりと倒れ伏したからだ。

  • 172二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 20:45:36

    「…死の神の足止め、ご苦労様です」

    頭を"咲かせ"、背丈を倍以上に伸ばした"異形"が背に巨大な光輪を背負い、私に声をかけてくる。
    ベアトリーチェの───変身した姿。

    ──────そう、最初から私は、この戦いの主役などではなかった。
    最高戦力であるベアトリーチェを、"先生"にぶつけることによる短期決戦。
    それが、この戦闘の正体。
    極論、ベアトリーチェが勝利すれば───私は"勝てなくても、足掻き続けるだけでいい"作戦。

    「…色彩の嚮導者の相手に集中しすぎて、こっちへの支援が疎かになっていたんじゃないか」
    「それは仕方がないでしょう?アレさえ始末してしまえば、私の勝利は確固たるものになるのですから」

    私の抗議などまるで意に介さず、ベアトリーチェは"先生"へ光弾を放つ。
    何度も、何度も、何度も。その肉体が、二度と利用されないように。
    やがて、原型が無くなった頃。ベアトリーチェは光輪を消し、元の姿へと戻る。

    ───そして。
    地に伏せていた"シロコ"の肉体がゆっくりと起き上がり始めた。

    「せん、せい」

    黒く、ドロドロとした血液と乾いた肉の焼ける嫌な匂いを放つ。"先生だったもの"。
    シロコの視線はそこにぴったりと固定されていて、その奥にあるベアトリーチェの姿を認識していない。
    ───それを、好機と見たのだろう。
    ベアトリーチェはシロコへ肉薄し、光輪を出現させる。そして、光弾をシロコの頭部へと押し当てた。
    そして、光が熱量を放ち始め───"先生だったもの"と共に完全に消え去り、そこには何も残されていなかった。

  • 173二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 20:46:16

    そして───

    「…さぁ、契約を果たしてもらいましょうか」

    恐らくあえて残したであろう、色彩の嚮導者の持っていたシッテムの箱を持ち上げ、Keyに語り掛けた。

    「了解。───ハッキング完了。シッテムの箱の所有権を、地下生活者とベアトリーチェの両名に変更完了」
    「…これで、ようやく"私も"やり直すことができます」

    そう呟き、笑みを零したのを目にしたのが最後。
    次に目を開いた時、私はウトナピシュテムの本船の管制室に"戻され"ていた。
    ───Keyの入った、シッテムの箱と共に。

  • 174二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 21:23:18

    「…私が、ナラム・シンの玉座から、アズサと共に管制室へと転移を行いました」
    「一体、何故…?」
    「あの二人との契約内容は…"シッテムの箱とアトラ・ハシース箱舟の移譲"です。それを手に入れることで、別の世界へと移動する事があの二人の真の目的でした」

    ───それは、つまり。
    他の世界を、ベアトリーチェと地下生活者のために差し出したようなもので。
    そして、その世界には当然───先生も、私も。

    「この世界には手を出せないように言い含めてあります。仮に奇跡的な確率で帰還してきたとしても、脅威にはなり得ません」
    「──────そんな、こと。許されて…良いのか…?」

    そう、絞り出すように呟く。
    けれど、心のどこかでKeyのやり方でしかこの世界は救えなかった、と。
    納得している、自分がいた。

  • 175二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 21:25:49

    "ベアトリーチェによる支援"と、地下生活者の持つ"万神の星座"。
    その両方を以てしてなお、"先生"のいる"シロコ"には敵わなかったから。

    「安心して大丈夫です」

    けろりと言い放つKeyに空恐ろしいものを感じる。
    が、続く一言でそんな感情が霧散する。

    「あの不良品で別世界に行ける確率は──────ほぼ、ゼロなので」

    keyはにっこりと笑うと、ディスプレイの表示が切り替わった。
    ───そこには、"あの箱舟"を使った多次元解釈演算による別世界への移動のエミュレート結果が表示されている。
    結果は、97%で失敗。

    唐突な真実の暴露に面食らうばかりだ。

    「───どうか、3%を引かないことを祈る」

    まだ考えることは山積みで、やらなきゃいけないこともたくさんあるだろうけれど。
    今はただ、全てが終わった疲労感で、眠りたくて仕方がなかった。

    あの廃屋を飛び出したのがほんの数日前のことで、そこからまともに一睡もしていない。

    「おやすみ、みんな」

    最後にそう呟いて、私は意識を手放した

  • 176二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 21:26:50

    完結ハッチャ

  • 177二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 21:33:21

    最初から大人組使い捨てるつもりだったの流石すぎる

  • 178二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 22:00:37

    作中時間おかしいなーと思ってたら
    ほんとにおかしかった
    二日くらい?

  • 179二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 23:21:25

    dice1d100=51 (51)

  • 180二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 23:22:59

    流石にね

  • 181二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 06:45:22

    乙やで

  • 182二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 07:55:53

    >>179

    よっしゃ

  • 183二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 17:24:37

    一応保守

  • 184二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 19:34:45

    ───意識が、覚醒する。
    辺りを見回すと、そこは本船の寝室だった。
    窓からは日が差し込み、時計の針は昼前を指している。
    そして、机の上に置かれたシッテムの箱に目が留まった。
    ……あの後どうなったのだろうか? 私が眠っている間に。
    いや、そもそもどうして私はここに。

    コユキとゲーム開発部の三人はどうしているのか───そう思い、私はベッドから飛び起き、部屋を飛び出す。
    そして居間で話し合うモモイとミドリの姿を見つけて、私は安堵する。

    ───ああ、二人とも無事だったんだ。
    ……良かった。本当に、良かった。
    二人も私に気付いたのか、こちらに駆け寄ってくる。

    「…アズサ先輩、アリスは?」

    モモイが、私の目を見て問いかける。───アリス? モモイの質問の意図が、私には理解できなかった。
    アリスはもう、死んで──────まさか。

    「Keyから、何も聞かされてないのか」

    私はモモイとミドリに、事の顛末を話した。
    …結果的に、彼女の作った箱舟がこの世界の脅威を消し去ったことも含めて。
    ───そして、アリスがもうどこにも居ないことも。

    モモイは、私の話を黙って聞いていたけれど。
    やがて、その目に涙を浮かべながら私の服の端を握り込む。
    そしてシッテムの箱に向かって声を張り上げた。

    「key、答えてよ。アリスが死んじゃったなんて、そんなの噓でしょ」

  • 185二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 19:37:17

    けれど───返事は無かった。
    モモイは暫くの間、シッテムの箱に向かって声をかけたが……やがてその声も止んだ。
    そして、ゆっくりと私から離れると、静かに口を開く。

    「どうして、アリスは助けてくれなかったの?」
    「…やめなよ、お姉ちゃん」

    ミドリがモモイを諫める。
    けれど、モモイは止まらなかった。
    そして───私に対して、疑問をぶつけてくる。
    どうしてアリスが死んじゃったのか、教えてくれなかったの?と。

    私は、何も言えなかった。
    モモイの苦しみが、悲哀が。その一言に込められているような気がしていたから。
    モモイが、泣きながら私に背を向けて居間を出て行く。
    ミドリがその後を追おうとするのを、私は呼び止めた。

    「一人にしてあげて。きっとすごく苦しんでいるはずだ」

    ミドリは、少し迷った様子を見せたが……やがて頷き、手近な椅子へと座る。
    ───そして、私をじっと見つめた。

    「ミドリは、泣かないんだな」

    私は、モモイの出て行った扉を見つめながら呟く。
    ミドリはその問いに、小さく首を振って答えた。

    「私は、お姉ちゃんが無事で居てくれた。それだけで、良いです」

  • 186二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 19:38:58

    そう呟いて、私をじっと見つめる。
    ……その目に宿った感情の正体を、私が知ることはついぞ無かったけれど。
    そして暫くの間、私とミドリは無言で見つめ合う。

    「失っていたかもしれないものの大事さは、案外気付かない。…そういうのは、私にも覚えがある」
    「…そうですね」

    そんな静寂を打ち破ったのは───コユキだった。
    彼女は居間に入ってくるなり、私に向かって叫ぶように問いかける。

    「あ!やーっと目を覚ましましたねアズサ先輩!あなたもゲーム開発部の三人もボロボロで、全員手当てしてベッドに運ぶの、すっっごい大変だったんですからね!」

    コユキはそう捲し立てると、私の前に一枚の紙切れを突き出した。
    ……それは、私が意識を失った後に行われた戦闘の記録。
    そして、その最後にはこう記されていた。

    "アトラ・ハシースの箱舟が突如消失した"と。
    そして、それを裏付けるように、最後のページに添付された映像記録には───あの黒鉄の城が消え去る映像が映し出されていたのだった。

    「あの二人もいなくなっちゃいましたし…これで一件落着なんですよね、アズサ先輩」

    コユキはそう呟くと、私の隣へと座り込んでスマホをいじり始める。

    「これから、どうします?私もやることなくなっちゃいましたけど」

    コユキはスマホから目を離さずに、私に問いかける。
    ───どうするべきか。私は少し考えてから答えた。
    まずネットワークの復旧をしないといけない。keyがいるから送受信機等の設備はどうとでもなる。
    あとは連邦生徒会や各校の提供していたサービス類の復旧…これは破壊されてさえいなければハッキングで動かせるか。
    ──────あとは…

  • 187二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 19:40:19

    「…この世界にまだ残っている生き残りを、探してこの船に乗せる。そしてまだ蔓延っている"化け物"を全員殺して、地上に返すんだ」

    そんな私の呟きにコユキはスマホから視線を外し、私を見て笑う。

    「にはは、それすっごく大変そうですね!」

    ……それはまるで、太陽のように明るくて温かい笑顔だった。


    ───これはまだ始まったばかりの物語だけれども。
    "先生"のいない世界で、私達は生きていく。
    それが私達にとってどれだけ難しいのかは想像すらできない。

    連邦生徒会長が残した物はあまりに強大で。その気になってしまえば、簡単に世界なんて救えてしまうような代物。
    それでも彼女が回りくどいやり方で、何度も同じような世界を繰り返しているということは。
    これから先、もっと強大な絶望が現れるのかもしれない。

    ──────あの"超人"ですら行き詰ってしまう運命の袋小路が、やっとの思いで救い上げた命すら取り零させるのかもしれない。

    けれど……それでもやっていくしかない。


    例え、私一人になったとしても。
    それは諦める理由にはならないんだから。

  • 188二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 19:40:46

    蛇足ハッチャ

  • 189二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 20:30:41

    いや、素晴らしいエピローグだったよ
    この世界はプレ先世界じゃないし、きっと地獄が無数に積み重なってるんだろうな

  • 190二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 22:25:28

    腑に落ちるいいタイトル回収だった

  • 191二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 22:32:31

    乙あげ

  • 192二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 22:36:56

    「例え、私一人になったとしても。それは諦める理由にはならないんだから。」...希望に満ちた良いタイトル回収でした。
    作者様へ、心から感謝申し上げます。

  • 193ナギサ24/09/21(土) 01:03:53

    暑さを感じなくなった頃に、外伝や蛇足を書いていきたいですね…

    ハチャ…

  • 194二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 12:34:51

    >>193

    ありがとうございます

  • 195二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 13:40:26

    おつ

  • 196二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 23:03:35

    おつ

  • 197二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 23:03:49

  • 198二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 23:04:21

    ハチャ…

  • 199ナギサ24/09/21(土) 23:05:32

    ここまで読んで下さった方へ
    ありがとうございます…

  • 200二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 23:05:48

    おしり

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