- 1◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:14:57
皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(6スレ目)です。(本編は1が書きます)
キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあります)ので、そこだけご了承いただけると幸いです。
詳細はこちらから
https://w.atwiki.jp/mahousyouzyobr/pages/1.html
- 2◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:17:30
過去スレ
魔法少女を集めてバトロワするスレ1|あにまん掲示板様々な個性の魔法少女たちがデスゲームに参加することになった……という体でデスゲーム小説書くのでオリキャラ募集しますデスゲームの内容としてはバトロワベースで特殊ルールを幾つか設定する予定世界観や魔法少女…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ2|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレです。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあります)ので、…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ3|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(3スレ目)です。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあり…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ4|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(3スレ目)です。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあり…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ5|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(5スレ目)です。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあり…bbs.animanch.com - 3◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:21:38
投下します
- 4◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:33:24
パトリシアの放った矢は、空を切り裂いて、真っ直ぐ飛んで行った。
空気で作った矢は、不可視だ。もっとも、例えカーボンや竹製であっても、常人が目で追うことは不可能だったことだろう。
『10㎞』を一瞬で縮める。
本来、弓矢の有効射程は100mもない。しかし、放ったのは魔法少女パトリシア。魔法国随一の狩人。弓使いでは並ぶもの無しの精鋭中の精鋭。
10㎞程度は、百発百中。
弾丸を超える速度で放たれた不可視の矢は、抜刀金目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。
常人より遥かに頑丈な魔法少女でも、パトリシアの矢は容易く貫通する。
防ぐには、全身を砂に変えるなどして攻撃をやり過ごすか、常に肉体を無敵にする魔法を使うか。そのどちらも、抜刀金は持ち合わせていない。
- 5◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:40:03
矢は、一瞬で距離を詰める。
不可視故に、気づかれない。
居合の天才、抜刀金はこの一撃で命を落とす。
パトリシアはそう確信する。
(……ほう)
いよいよ矢が抜刀金まで20mを切った時、抜刀金は驚いたように顔を上げ、飛来する矢を睨んだ。
極限まで隠していた僅かな殺気を感知したのか。
あるいは、天才剣士の天性の勘が良い。
どちらにせよ——遅い。
一呼吸の間もなく、矢は抜刀金の額を貫き、脳を抉る。即死だ。
気づきさえしなければ、痛みを感じる間もなく逝けたであろうに。
パトリシアは、得物に僅かに同情する。
着弾。
——涼やかな風が吹いた。 - 6◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:48:37
(………………馬鹿な)
抜刀金から10㎞離れた地点、とあるマンションの屋上。パトリシアは弓を構えたまま固まっていた。
人間ならば目視すら出来ない相手との攻防。近接戦闘しか出来ない抜刀金との間に置かれた10㎞は、パトリシアに安全を保障している。
にも関わらず、パトリシアは喉元に刃物を突き付けられたかのような、緊張を感じていた。
抜刀金は、気づいていなかった。気づけたのは、着弾まで残り20mの距離。
その段階で気づいても、何もできない。即死するまで0.1秒も無い。走馬灯すら見れないはずだ。
にも関わらず、抜刀金は生き延びてみせた。
抜刀金の脳を抉るはずだった不可視の矢は、抜刀金の前髪に触れることすらできず、消失した。
何が起きたのか、パトリシアでも把握できていない。
ただ、消失前と消失後で、抜刀金のポーズが僅かに変わっていることは気づいた。
その情報と、抜刀金が『居合使い』という情報を合わされば、正解が導き出せる。
にわかには信じがたいが、ある正解を。
(斬ったのか、不可視の矢を……)
- 7◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:58:18
0.1秒にも満たない時間で、抜刀金は『抜刀』し、不可視の矢を『斬った』。
そして、納刀した。
千里眼を有し、動体視力に優れ、狩人として磨き上げられたパトリシアをもってしても——刀身が見えなかった。超高速の居合術。
何より、不可視の矢に気づき、斬ることが出来る勘の良さも異常だ。
(認めざるを得ない、こいつは天才だ)
もし、魔法少女にならなくとも、剣聖として名を遺したであろう傑物。
(獲物として、申し分ないな)
評価を上方修正。
抜刀金が天才ならば、パトリシアもまた天才。
彼女にとっては10㎞の狙撃は限界距離でも何でもなく、また、『不可視の矢』も必殺技や奥義ではなく——通常攻撃の一つに過ぎない。
(一射は凌いでみせたな、抜刀金)
(だが——連射ならば、どうだ?)
- 8◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:08:58
不可視の矢の構成要素は、パトリシアの魔力と、『空気』である。
残数という概念は、縁遠い。
弓の弦が震動した。
一斉に放たれた不可視の『矢の雨』は、間を置かず抜刀金へ降り注ぐ。
数を増やしたからといって速度や貫通力に劣化は無い。
何故なら、これは通常攻撃。ジャブに過ぎない。
千里眼は、抜刀金を捉えている。
彼女は、傍らの魔法少女、ワンフロムアウターへ指示を出している。
声までは聞き取れないが、ワンフロムアウターは抜刀金の足元に屈みこんだ。
彼女を守るように、小さな触手と小さなスライムが手らしきものを広げている。
そして、矢の雨は二人と二匹へ降り注ぎ。
「……凄い」
幼子のような感嘆が、パトリシアの喉から漏れた。
二人と二匹には、傷一つ無い。
抜刀金は、全ての矢を斬り捨てたのだ。
そしてやはり——刀身は見えなかった。
実は刀は飾りで、身体から斬撃を発生させている……と言われる方が、まだ信じられる。
- 9◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:21:11
(パンデモニカではないが……面白い。この距離では、奴を仕留められんな)
もっと強力な矢を撃てる。もっと工夫に満ちた戦術がある。
だが、そのためにはこの距離は不足だ。
近づかなければ勝てない。
(抜刀金がどこまで俊足なのかは未知数だが……恐らく50mも近づかれれば、私が負けるな。ある程度危険を覚悟しなければ、抜刀金を殺せない)
だったら近づいてやろう。
獲物が強ければ強い程、狩りは楽しいものになる。
もしパトリシアが負ければ、それは抜刀金の方が生物として優れていただけのことだ。
パトリシアは獰猛な、獣じみた笑みを浮かべ、屋上から飛び降りようと、足を一歩踏み出した。
- 10◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:21:25
『ねぇ、パトリシア……。君にちょっと……頼みたいことがあるんだけど……』
陰鬱な声が、頭に響いた。
狩りの邪魔をされ、パトリシアは舌打ちする。
「何の用だ、パラサイトドール。
私は今忙しいんだが」
『こっちの方が……大事。魔法の国の……一大事だよ……」
「……どういうことだ?」
『さっきさ……相談したよね……。頼みたいことがあるって……。
それを今……実行してもらえないかな……』
「——何だと?」
二時間程前に、ブレイズドラゴンと『始まりの魔法少女』の戦闘を見届けた後、確かにパラサイトドールに奇妙な依頼をされていた。 - 11◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:32:16
「与太話では、無かったのか?」
依頼された内容は、荒唐無稽なものだった。
高揚していた故の冗談だと、パトリシアは気にもとめていなかった。
『『始まりの魔法少女(クレーマー)』は……ご退場いただいたけど……他にも、厄介な奴が……来ててね』
『一言で言うと……とある参加者の……本体がね……魔法の国に、乗り込んできたから……』
『だから……パトリシアには、『邪神(モンペ)』を殺して欲しいんだよね……』
それは、パトリシアの濃密な狩人人生でも、未だ狩ったことのない獲物だった。
神。
パトリシアの心に、不安と期待が渦巻く。
眼窩が、疼いた。
かつて、両親に与えられた、傷。
あんな親の元で産まれてしまったのも、神の思し召しなのか。
「神は……嫌いだ。
面白い、あの時は返事をしなかったが……抜刀金を狩る『前座』に、神を撃ち落とすとしよう」
『わぁ……ありがとう……すごく、助かる……』
パトリシアの足元に、魔法陣が浮かび上がる。
転移の魔法陣。
(抜刀金、しばし勝負は預けておくぞ)
微かに名残惜しさを感じながらも、パトリシアはあにまん市を後にした。 - 12◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:39:13
◇
魔法の国は、一つの巨大な大陸である。
海の向こうに何があるのかは、誰も知らない。
妖精とはまた別種の生物が住んでいるという説や、海の向こうは虚無という説、無限の海という説や、人間の世界と繋がっているという説。
沿岸の防壁の上に立ち、パトリシアは海を眺めていた。
否、眺めているのは海ではなく、海の向こうからやって来る者に対してだ。
神殺し。
そう決意したパトリシアだったが、襲来する『それ』を見て、決意は揺らいでいた。 - 13◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:43:32
あにまん市から魔法王の城、さらに海岸の防壁まで、転移魔法で矢継ぎ早に移動させられた。
自らの脚力に自信があるパトリシアにとって、転移魔法はあまり好みではない。
しかし、今回はそうも行ってられなかった。
(あれが、邪神か……)
防壁に集まったのは、パトリシアだけではない。元々ゲーム遂行のためにパトリシアが指揮するはずであった運営実働部隊。他にも魔法国の兵士や、招集された魔法少女。
100を超える数が、防壁に集まってきている。
その中で、敵の姿を捉えているのは、パトリシア一人だけだった。
(何て、悍ましいんだ……) - 14◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:49:46
見ているだけで、正気を失いかねない程の、醜悪なデザイン。
もしあれが魔法の国へ上陸すれば、一体どれ程の被害が出るのか……。
「臆しているのか、パトリシアよ」
聞き覚えのある声に呼びかけられ、パトリシアは、即座に平服した。
「陛下、いらっしゃったのですか……」
パトリシアの声には驚きが混じっていた。
ローブを纏った、白髪の老人。
魔法の国の絶対権力者、『始まりの魔法少女』の末裔、『魔法王』。
パトリシアは狩人である。獣のルール、自然のルールには従う。
すなわち、目上の者、群れのボスには強い忠誠を示す性質を持つ。 - 15◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:51:12
投下を終了します
6スレ目もよろしくお願い致します……! - 16二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:31:14
立て乙
抜刀金……一体どんな魔法の使い手なんだ……? - 17二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:32:34
乙
運営は運営でクライマックスだ - 18二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:59:28
たておつです!!
邪神ってそんな軽いノリで討伐できるもんなのか…… - 19二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 08:33:12
魔法王…パラさんに活躍の場を奪われて殆ど1話以来の登場か
- 20二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 08:33:27
ブラックブレイドが狙撃自体は対処できても爆発で致命傷貰ってたあたり、パトリシアが最初から爆発する矢使ってたら初手で仕留められてたんだろうな
- 21二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 09:07:59
そろそろ対運営ちゃんと見たいので抜刀金&ワンフロムアウターVSパトリシアは終わりまでやって欲しい
アグネアは洗脳されてるからまた趣向が違うし - 22二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 11:11:11
十年前の過去、楽しみ
- 23二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:11:29
保守
- 24二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 21:33:06
VSデッドマンズ・ハンドは完全に肩透かしな終わり方だったしVSパトリシアに期待したいわね
- 25二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 01:44:53
せやせや
- 26二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 07:51:30
殺到とした魔法国に邪神のエントリー…向こう側が何か急いでるように見える
- 27二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 17:09:13
儀式をスムーズに進めたいのもなんか急いでるのかもね
- 28◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 19:52:43
投下します
- 29二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 19:54:37
きたわね
- 30◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 19:57:08
「パトリシアよ……」
と、魔法王は弓兵に語り掛けた。
殺し合いを宣告した時のような威厳を持って、しかしその声色にはどこか親しみを感じさせるものだった。
「今この場に居る、余を含めた有象無象の中で、アレと戦えるのはお前だけだ」
(そんなはずはない。『始まりの魔法少女』の末裔である魔法王ならば、私を遥かに超える実力者のはず……)
魔法王がどのような魔法を使うのか、パトリシアは知らない。
が、魔法王の保有する魔力は、パトリシアを優に上回っていることは感じ取れた。
(だが、確かにアレは……) - 31◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 20:05:23
海より迫りくる邪神。
千里眼を持つパトリシアだけが、その姿を捉えていた。
およそ20㎞先。
『巨影』は、ゆっくりと陸地へ迫っている。
一見、それは山であった。数百mの大きさで、波に合わせてゆっくりと進んでいる。
だが、よくよく見れば、それは山ではない。——生物だ。二足歩行で此方に迫る、あまりにも巨大な怪物である。
獣は四足、人は二足、ならばアレは人なのか。否、その顔は、蛸に酷似していた。六対の瞳が不気味に光る。顎髭のように伸びるのは、触手である。一本一本が大蛇のように長く、太い。手には水かき、そして、鋭い爪。全身をぬめぬめとした鱗に覆われており、背には蝙蝠のような(あるいは竜のような)翼が生えている。
あまりにも冒涜的な姿だった。こんなものは——獣ではない。
見ているだけで不安に掻き立てられ、孤独感が募り、価値観が根底から覆されそうな、恐怖を感じた。
- 32◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:17:06
邪神程度、何するものぞ、という思いを抱えてこの地にやってきたが、その巨体、その得体の知れなさ故に、パトリシアには確実に狩れるという確信が持てなかった。
「陛下、アレは一体何なのですか……?
まさかアレこそが、かつて魔法国を襲い、ティターニアに討たれたという、オムネグという怪物なのでしょうか?」
「否、アレこそ邪神。名をクトゥルフという。
儀式の贄の一人、魔法少女ワンフロムアウター……その『本体』よ」
「本体……?」
「貴様も見たであろう、『始まりの魔法少女』。
クトゥルフが今まで大人しくしていたのは、『始まりの魔法少女』とぶつかることを恐れてのことだった。
だが、『始まりの魔法少女』は去り、クトゥルフは動き出したのだ。
恐らくその狙いは——儀式の破綻」
「……何故、クトゥルフなる怪物は、儀式を破壊しようとしているのですか?
分身体を殺されると不都合でも……?」
「分からぬ。だが、儀式の目的と、関係しているのかも知れぬ」
- 33◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:26:39
儀式の目的。魔法少女オシウリエルに勧誘された際に、パトリシアは儀式の目的を伝えられていた。何故、あにまん市で魔法少女を集め、殺し合いを行っているのか。
それは決して、見世物にするためではなく。
「『冒涜の竜』の復活を、阻止するためですね?」
かつて魔法の国(当時は違う名で呼ばれていたらしいが)を蹂躙し、悪逆の限りを尽くした邪竜。魔法国で暗躍する『邪神教団』がこの大悪を復活させようと企み、既に後一歩まで準備が進んでいること。
これを挫くために、43の魔法少女の魂を贄に捧げ、『冒涜の竜』復活を阻止する。
パトリシアは、そう認識していた。
贄にされる魔法少女たちへ、微かに同情する気持ちはある。
だが、もし冒涜の竜が復活すれば、犠牲は43に留まることは無い。
大を生かすために小を切り捨てる。獣の論理で、パトリシアは傭兵として雇われることを受け入れた。 - 34◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:34:18
そして、クトゥルフが儀式を破綻させようとしているならば、アレの目的は……。
「冒涜の竜を、復活させること。クトゥルフは……邪神教団と繋がっている」
「あれこそ、奴らが崇める神なのかもしれんな」
魔法王の言葉に、パトリシアは頷く。そして、戦慄する。あれほどの怪物を召喚しながらも、教団は更に『冒涜の竜』を復活させようとしている。
ならば、『冒涜の竜』はクトゥルフを超える怪物ということなのか。
(『始まりの魔法少女』が倒したとは聞くが……逆に言えば、あそこまでけた外れの力を振るえなければ、勝てなかった相手というわけか……)
やはり、復活させるわけにはいかない。
そのためには、クトゥルフを討たねばならない。
だが、勝てるのか。
——確かに、あの大きさは脅威だ。だが、その分、動きは鈍重で、的は大きい。
集まった戦力で一斉に魔法を浴びせかければ、勝てない相手ではないだろう。
ティターニアと戦っているアグネアを呼び戻せば、まず負けることはない。
そのはずだが、パトリシアの胸中には、不安が渦巻いていた。
- 35◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:44:40
「アレと戦えるのは、お前だけだ」
と、魔法王は言葉を繰り返した。
「何故、そうも私を買いかぶるのです?」
「アレには厄介な特性がある。アレに近づけば、恐怖のあまり生物は正気を失い、奴の眷属に成り下がる。
——上陸を許せば、迎撃すら叶うまい。
しかし、超遠距離攻撃が出来るお前ならば、クトゥルフに屈する前に、討つことが出来る」
確かに、パトリシアの有効射程距離は20㎞である。
その距離から、一方的に攻撃を浴びせることが出来る。
(あの巨体を討つ攻撃……そう多いわけではないが)
物質を矢に変えるのがパトリシアの魔法。
例えば大型艦ミサイル。
例えば燃料満載のタンクローリー。
(否、それを遥かに超える威力が出せる物質もある……)
それは、『命』。
生物を矢に変え、その者の持つ生命、魔力、魔法全てを一本の矢に変え、撃つ。
光と灼熱の極大砲撃。
もっとも、それを撃つには『相手の許可』が必要だが。
パトリシアのために自ら命を捧げる者など、この世に居ない。
つまりパトリシアが矢に変えられる物は、自らの命だけ……。 - 36◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:54:28
「余の命を使うがいい」
と、パトリシアの心を読んだかのように、魔法王は言った。
「陛下……正気ですか?」
「この場で最も魔力に優れた者は、『始まりの魔法少女』の末裔たる、余である。
徒に民を矢に変え、無駄に命を消費するよりも、余一人の命でクトゥルフを葬るのが最も効率の良い。
違うか……?」
「しかし、陛下が犠牲にならずとも……」
「愚か者。既に、夥しい犠牲は出ている。
儀式にて、何人魔に愛されし子らが犠牲となったのか。
平和のためとはいえ、何の罪もない無垢なる者らを殺し合わせた罪は重い。
余には、その責がある」
パトリシアは、割り切っていた。微かな同情はあれど、贄は贄であり、狐が兎を狩るのに良心の呵責を感じないように、罪悪感など覚えていなかった。
他の運営陣たちも、殺し合いを愉悦と感じ、楽しむものばかりであった。
しかし、魔法王だけが、気に病んでいたのだ。
大義の為とはいえ、殺し合いで魔法少女を苦しめていたことを心苦しく感じていたのだ。
そして今、国のために自らも贄になろうとしている。
(正しく、群れのボスに相応しい態度だ……)
- 37◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:03:50
魔法王は魔力量に優れている。きっと、あの巨体を一撃で吹き飛ばす程の火力が出せる。
魔法王一人の犠牲を持って、クトゥルフを討伐できる。
「しかし……」
「これは命令である、余を矢に変えよ、パトリシア」
パトリシアは改めて平服した。
一人の狩人として、この老人へ敬意を示したかった。
(……ん?)
僅かに、魔法王の影が揺らめいた……ような気がした。 - 38◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:05:38
「陛下……」
「我が国を、任せたぞ」
その言葉を最後に、魔法王の姿は掻き消える。
現れたのは——金色の矢。
王の気品と強大さを示す、触れることさえ躊躇うような、王者の矢。
パトリシアはそれを掴み、弓に番える。
「陛下、貴方の覚悟、無駄にはしない——ッ!」
千里眼で、邪神を捉える。
恐怖を掻き立てられるその姿にも、パトリシアは臆さない。
弦が、揺れた。
黄金の矢が放たれる。 - 39◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:13:47
波を切り裂き、光と灼熱の一撃は、クトゥルフへと真っ直ぐ飛んで行った。
超音速の一撃。
20㎞が一瞬で零になる。
クトゥルフは、砲撃に対し、何も反応することは出来なかった。
その胴体に、攻撃が炸裂する。
クトゥルフの瞳が、苦悶のためか、瞬いた。
前進が止み、クトゥルフはその場に立ち竦む。
光と灼熱はクトゥルフの鱗を焼き焦がし、矢はクトゥルフの腹部へと突き刺さった。
——それだけであった。
光が収まり、クトゥルフは再び前進を開始する。
「そんな、馬鹿な……」
パトリシアの喉から、絶望が漏れた。
魔法王の命を持ってしても、クトゥルフには届かなかった。
- 40◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:18:03
絶望的なまでの、戦力差。
(逃げるしか……無いのか。いや、他の手段を……しかし……)
狩人としての矜持。獣としての本能。群れのボスの命を無為にしてしまった罪悪感。
パトリシアの心は混乱し、彼女はその場でたたらを踏んだ。
その背を、支える者が居た。
パトリシアは振り返る。
いつから其処にいたのか、パトリシアの背後には人だかりが出来ていた。
背を支えたのは、パトリシア指揮下の、実働部隊の男だった。
「パトリシア様、次は俺を矢にしてください……!」
「なっ……!」
部下の申し出に、パトリシアは驚愕する。
その言葉を皮切りに、人だかりから次々に言葉が届いた。 - 41◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:26:40
「俺も矢にしてくださいパトリシア様!」
「私も矢にして、パトリシアちゃん!」
「うおー! 国のために死にてぇ!」
「魔法王陛下の後に続け! 皆でクトゥルフをやっつけるんだ!」
「皆で死のう! 死のう死のう死のう!」
「犠牲になろう! 尊い犠牲になろう!」
「贄! 私たちは贄! 贄! 贄!」
「さぁパトリシア様、俺達を矢に!」
「矢! 矢! 矢! 矢!」
「矢矢矢矢矢矢矢矢!!」
(何だ……これは……)
囲まれ、次々に言葉を浴びせられ、言われるがまま、パトリシアは傍の男を矢へと変える。
撃つ。
クトゥルフには傷一つつかない。
飛びつき懇願してきた魔法少女を矢へと変える。
撃つ。
クトゥルフには傷一つつかない。
(私は……一体、何をしているんだ……?)
命が、無為に消費されていく。理解していながらも、パトリシアの手は止まらない。
また一人、命が海の藻屑となる。
- 42◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:34:07
その様を、上空から見下ろす影があった。
何処にでも居そうな、ギャル大学生といった風貌の少女。
——その背には、黒い翼が生えていること以外は。
少女は、陰鬱そうに、矢を撃ち込み続けるパトリシアを眺める。
「……感動的だね……命を賭して邪神と戦う……人間賛歌だね……」
そう呟くと、少女は苦しそうに身体をくの字に曲げた。
「……さすがに、耐えられないな、これは……」
恥ずかしそうにそう呟くと、彼女は大口を開け
げらげらげらげらげら
と、笑い声を上げた。
喜悦に満ちたその顔は——邪悪、そのものであった。 - 43◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:34:40
【魔法王 死亡】
投下を終了します - 44二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:41:49
とんでもねぇダークホースが現れた…
- 45二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:19:57
確かに仕組み上、許可さえ取れるなら変えるという形で幾らでも即死させられるんだよな…普通は取れないだけで
そして許可を取らせることは彼女には容易いと - 46二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:24:55
ティターニアでもタイマンだと倒すの普通に無理だなこれ
- 47二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 06:53:21
保守
- 48二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 07:33:03
パトリシア利用されてないか…?魔法王の影が揺らめいたり…皆んなもう既に正気を失ってたんじゃないか?
- 49二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 09:28:50
矢を志願したのが全員支配下にあるのは多分間違いない
- 50二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 09:55:00
どうしよう魔法王さん始末されちゃったよ
クトゥルフどうやって止めんだこれ
そしていよいよ何を恨めばいいのかわからなくなってきたハイエンドさんおいたわしや - 51二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 17:11:30
保守
- 52二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:20:43
クトゥルフ自体が幻…?
- 53二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 02:58:09
ホシュ
- 54二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 08:55:04
表向きの主催者が死にました
ルールに則ったまともなバトロワは終わりです たぶん - 55二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 09:26:49
ここからが真の地獄(シーズン2)だ…!
- 56二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 15:50:42
クトゥルフ…って確かこの世界でも創作上のキャラクターなんだよね??(ドレッドノートの初登場回を参照)
パラさん傘下にゲルニカって奴がいるし存在含めてマッチポンプな気がしなくもないな - 57二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:35:25
そもそも名前的に素鈴ちゃんの本体はイクナグンニスススズだと思うんだけど、やっぱりこのクトゥルフは何か不自然だよなぁ…ミスリードを感じる
- 58二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:50:30
でも本体に異常があったらしいってのは事実なんだよね
……本体来てたのは事実で『クトゥルフ』の幻被せてた?実は魔法王の矢で既に本体倒れてたり? - 59二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 08:22:59
- 60二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 15:19:52
保守
- 61二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 22:41:49
☆
- 62二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:22:33
ほし
- 63二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 07:50:14
保守
- 64二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 13:10:52
これで全くノーダメならパトリシアも違和感に気づけただろう…申し分程度にクトゥルフも怯みはしたから有効だと勘違いしたのか
- 65二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 16:08:35
- 66二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 16:57:58
ええ筋肉やなホンマ…
- 67二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 22:50:46
蠱毒で生き残ったような強者しかいませんからねー
周りを動かしていく程の力がある人と一緒に行動したいですねぇ - 68二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:25:23
めちゃかわいい
- 69二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 07:44:37
搦め手ばかりで本当にバルバロイきつそう…
- 70二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 07:59:16
西エリアは参加者が残り少ない分スポットライトが当たる機会も増えるはず…バルバロイの今後に期待
- 71二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 13:09:09
西はオオカワウソ含めて4人か5人だったか
- 72二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:13:52
フィジカル強者はあって困る場面もないので本人のやる気次第で化けるのだ
- 73二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:37:05
いくなぐ(んにす)すすず