- 1◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:14:57
皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(6スレ目)です。(本編は1が書きます)
キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあります)ので、そこだけご了承いただけると幸いです。
詳細はこちらから
https://w.atwiki.jp/mahousyouzyobr/pages/1.html
- 2◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:17:30
過去スレ
魔法少女を集めてバトロワするスレ1|あにまん掲示板様々な個性の魔法少女たちがデスゲームに参加することになった……という体でデスゲーム小説書くのでオリキャラ募集しますデスゲームの内容としてはバトロワベースで特殊ルールを幾つか設定する予定世界観や魔法少女…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ2|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレです。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあります)ので、…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ3|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(3スレ目)です。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあり…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ4|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(3スレ目)です。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあり…bbs.animanch.com魔法少女を集めてバトロワするスレ5|あにまん掲示板皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(5スレ目)です。(本編は1が書きます)キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあり…bbs.animanch.com - 3◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:21:38
投下します
- 4◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:33:24
パトリシアの放った矢は、空を切り裂いて、真っ直ぐ飛んで行った。
空気で作った矢は、不可視だ。もっとも、例えカーボンや竹製であっても、常人が目で追うことは不可能だったことだろう。
『10㎞』を一瞬で縮める。
本来、弓矢の有効射程は100mもない。しかし、放ったのは魔法少女パトリシア。魔法国随一の狩人。弓使いでは並ぶもの無しの精鋭中の精鋭。
10㎞程度は、百発百中。
弾丸を超える速度で放たれた不可視の矢は、抜刀金目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。
常人より遥かに頑丈な魔法少女でも、パトリシアの矢は容易く貫通する。
防ぐには、全身を砂に変えるなどして攻撃をやり過ごすか、常に肉体を無敵にする魔法を使うか。そのどちらも、抜刀金は持ち合わせていない。
- 5◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:40:03
矢は、一瞬で距離を詰める。
不可視故に、気づかれない。
居合の天才、抜刀金はこの一撃で命を落とす。
パトリシアはそう確信する。
(……ほう)
いよいよ矢が抜刀金まで20mを切った時、抜刀金は驚いたように顔を上げ、飛来する矢を睨んだ。
極限まで隠していた僅かな殺気を感知したのか。
あるいは、天才剣士の天性の勘が良い。
どちらにせよ——遅い。
一呼吸の間もなく、矢は抜刀金の額を貫き、脳を抉る。即死だ。
気づきさえしなければ、痛みを感じる間もなく逝けたであろうに。
パトリシアは、得物に僅かに同情する。
着弾。
——涼やかな風が吹いた。 - 6◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:48:37
(………………馬鹿な)
抜刀金から10㎞離れた地点、とあるマンションの屋上。パトリシアは弓を構えたまま固まっていた。
人間ならば目視すら出来ない相手との攻防。近接戦闘しか出来ない抜刀金との間に置かれた10㎞は、パトリシアに安全を保障している。
にも関わらず、パトリシアは喉元に刃物を突き付けられたかのような、緊張を感じていた。
抜刀金は、気づいていなかった。気づけたのは、着弾まで残り20mの距離。
その段階で気づいても、何もできない。即死するまで0.1秒も無い。走馬灯すら見れないはずだ。
にも関わらず、抜刀金は生き延びてみせた。
抜刀金の脳を抉るはずだった不可視の矢は、抜刀金の前髪に触れることすらできず、消失した。
何が起きたのか、パトリシアでも把握できていない。
ただ、消失前と消失後で、抜刀金のポーズが僅かに変わっていることは気づいた。
その情報と、抜刀金が『居合使い』という情報を合わされば、正解が導き出せる。
にわかには信じがたいが、ある正解を。
(斬ったのか、不可視の矢を……)
- 7◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:58:18
0.1秒にも満たない時間で、抜刀金は『抜刀』し、不可視の矢を『斬った』。
そして、納刀した。
千里眼を有し、動体視力に優れ、狩人として磨き上げられたパトリシアをもってしても——刀身が見えなかった。超高速の居合術。
何より、不可視の矢に気づき、斬ることが出来る勘の良さも異常だ。
(認めざるを得ない、こいつは天才だ)
もし、魔法少女にならなくとも、剣聖として名を遺したであろう傑物。
(獲物として、申し分ないな)
評価を上方修正。
抜刀金が天才ならば、パトリシアもまた天才。
彼女にとっては10㎞の狙撃は限界距離でも何でもなく、また、『不可視の矢』も必殺技や奥義ではなく——通常攻撃の一つに過ぎない。
(一射は凌いでみせたな、抜刀金)
(だが——連射ならば、どうだ?)
- 8◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:08:58
不可視の矢の構成要素は、パトリシアの魔力と、『空気』である。
残数という概念は、縁遠い。
弓の弦が震動した。
一斉に放たれた不可視の『矢の雨』は、間を置かず抜刀金へ降り注ぐ。
数を増やしたからといって速度や貫通力に劣化は無い。
何故なら、これは通常攻撃。ジャブに過ぎない。
千里眼は、抜刀金を捉えている。
彼女は、傍らの魔法少女、ワンフロムアウターへ指示を出している。
声までは聞き取れないが、ワンフロムアウターは抜刀金の足元に屈みこんだ。
彼女を守るように、小さな触手と小さなスライムが手らしきものを広げている。
そして、矢の雨は二人と二匹へ降り注ぎ。
「……凄い」
幼子のような感嘆が、パトリシアの喉から漏れた。
二人と二匹には、傷一つ無い。
抜刀金は、全ての矢を斬り捨てたのだ。
そしてやはり——刀身は見えなかった。
実は刀は飾りで、身体から斬撃を発生させている……と言われる方が、まだ信じられる。
- 9◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:21:11
(パンデモニカではないが……面白い。この距離では、奴を仕留められんな)
もっと強力な矢を撃てる。もっと工夫に満ちた戦術がある。
だが、そのためにはこの距離は不足だ。
近づかなければ勝てない。
(抜刀金がどこまで俊足なのかは未知数だが……恐らく50mも近づかれれば、私が負けるな。ある程度危険を覚悟しなければ、抜刀金を殺せない)
だったら近づいてやろう。
獲物が強ければ強い程、狩りは楽しいものになる。
もしパトリシアが負ければ、それは抜刀金の方が生物として優れていただけのことだ。
パトリシアは獰猛な、獣じみた笑みを浮かべ、屋上から飛び降りようと、足を一歩踏み出した。
- 10◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:21:25
『ねぇ、パトリシア……。君にちょっと……頼みたいことがあるんだけど……』
陰鬱な声が、頭に響いた。
狩りの邪魔をされ、パトリシアは舌打ちする。
「何の用だ、パラサイトドール。
私は今忙しいんだが」
『こっちの方が……大事。魔法の国の……一大事だよ……」
「……どういうことだ?」
『さっきさ……相談したよね……。頼みたいことがあるって……。
それを今……実行してもらえないかな……』
「——何だと?」
二時間程前に、ブレイズドラゴンと『始まりの魔法少女』の戦闘を見届けた後、確かにパラサイトドールに奇妙な依頼をされていた。 - 11◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:32:16
「与太話では、無かったのか?」
依頼された内容は、荒唐無稽なものだった。
高揚していた故の冗談だと、パトリシアは気にもとめていなかった。
『『始まりの魔法少女(クレーマー)』は……ご退場いただいたけど……他にも、厄介な奴が……来ててね』
『一言で言うと……とある参加者の……本体がね……魔法の国に、乗り込んできたから……』
『だから……パトリシアには、『邪神(モンペ)』を殺して欲しいんだよね……』
それは、パトリシアの濃密な狩人人生でも、未だ狩ったことのない獲物だった。
神。
パトリシアの心に、不安と期待が渦巻く。
眼窩が、疼いた。
かつて、両親に与えられた、傷。
あんな親の元で産まれてしまったのも、神の思し召しなのか。
「神は……嫌いだ。
面白い、あの時は返事をしなかったが……抜刀金を狩る『前座』に、神を撃ち落とすとしよう」
『わぁ……ありがとう……すごく、助かる……』
パトリシアの足元に、魔法陣が浮かび上がる。
転移の魔法陣。
(抜刀金、しばし勝負は預けておくぞ)
微かに名残惜しさを感じながらも、パトリシアはあにまん市を後にした。 - 12◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:39:13
◇
魔法の国は、一つの巨大な大陸である。
海の向こうに何があるのかは、誰も知らない。
妖精とはまた別種の生物が住んでいるという説や、海の向こうは虚無という説、無限の海という説や、人間の世界と繋がっているという説。
沿岸の防壁の上に立ち、パトリシアは海を眺めていた。
否、眺めているのは海ではなく、海の向こうからやって来る者に対してだ。
神殺し。
そう決意したパトリシアだったが、襲来する『それ』を見て、決意は揺らいでいた。 - 13◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:43:32
あにまん市から魔法王の城、さらに海岸の防壁まで、転移魔法で矢継ぎ早に移動させられた。
自らの脚力に自信があるパトリシアにとって、転移魔法はあまり好みではない。
しかし、今回はそうも行ってられなかった。
(あれが、邪神か……)
防壁に集まったのは、パトリシアだけではない。元々ゲーム遂行のためにパトリシアが指揮するはずであった運営実働部隊。他にも魔法国の兵士や、招集された魔法少女。
100を超える数が、防壁に集まってきている。
その中で、敵の姿を捉えているのは、パトリシア一人だけだった。
(何て、悍ましいんだ……) - 14◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:49:46
見ているだけで、正気を失いかねない程の、醜悪なデザイン。
もしあれが魔法の国へ上陸すれば、一体どれ程の被害が出るのか……。
「臆しているのか、パトリシアよ」
聞き覚えのある声に呼びかけられ、パトリシアは、即座に平服した。
「陛下、いらっしゃったのですか……」
パトリシアの声には驚きが混じっていた。
ローブを纏った、白髪の老人。
魔法の国の絶対権力者、『始まりの魔法少女』の末裔、『魔法王』。
パトリシアは狩人である。獣のルール、自然のルールには従う。
すなわち、目上の者、群れのボスには強い忠誠を示す性質を持つ。 - 15◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 01:51:12
投下を終了します
6スレ目もよろしくお願い致します……! - 16二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:31:14
立て乙
抜刀金……一体どんな魔法の使い手なんだ……? - 17二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:32:34
乙
運営は運営でクライマックスだ - 18二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:59:28
たておつです!!
邪神ってそんな軽いノリで討伐できるもんなのか…… - 19二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 08:33:12
魔法王…パラさんに活躍の場を奪われて殆ど1話以来の登場か
- 20二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 08:33:27
ブラックブレイドが狙撃自体は対処できても爆発で致命傷貰ってたあたり、パトリシアが最初から爆発する矢使ってたら初手で仕留められてたんだろうな
- 21二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 09:07:59
そろそろ対運営ちゃんと見たいので抜刀金&ワンフロムアウターVSパトリシアは終わりまでやって欲しい
アグネアは洗脳されてるからまた趣向が違うし - 22二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 11:11:11
十年前の過去、楽しみ
- 23二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:11:29
保守
- 24二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 21:33:06
VSデッドマンズ・ハンドは完全に肩透かしな終わり方だったしVSパトリシアに期待したいわね
- 25二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 01:44:53
せやせや
- 26二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 07:51:30
殺到とした魔法国に邪神のエントリー…向こう側が何か急いでるように見える
- 27二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 17:09:13
儀式をスムーズに進めたいのもなんか急いでるのかもね
- 28◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 19:52:43
投下します
- 29二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 19:54:37
きたわね
- 30◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 19:57:08
「パトリシアよ……」
と、魔法王は弓兵に語り掛けた。
殺し合いを宣告した時のような威厳を持って、しかしその声色にはどこか親しみを感じさせるものだった。
「今この場に居る、余を含めた有象無象の中で、アレと戦えるのはお前だけだ」
(そんなはずはない。『始まりの魔法少女』の末裔である魔法王ならば、私を遥かに超える実力者のはず……)
魔法王がどのような魔法を使うのか、パトリシアは知らない。
が、魔法王の保有する魔力は、パトリシアを優に上回っていることは感じ取れた。
(だが、確かにアレは……) - 31◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 20:05:23
海より迫りくる邪神。
千里眼を持つパトリシアだけが、その姿を捉えていた。
およそ20㎞先。
『巨影』は、ゆっくりと陸地へ迫っている。
一見、それは山であった。数百mの大きさで、波に合わせてゆっくりと進んでいる。
だが、よくよく見れば、それは山ではない。——生物だ。二足歩行で此方に迫る、あまりにも巨大な怪物である。
獣は四足、人は二足、ならばアレは人なのか。否、その顔は、蛸に酷似していた。六対の瞳が不気味に光る。顎髭のように伸びるのは、触手である。一本一本が大蛇のように長く、太い。手には水かき、そして、鋭い爪。全身をぬめぬめとした鱗に覆われており、背には蝙蝠のような(あるいは竜のような)翼が生えている。
あまりにも冒涜的な姿だった。こんなものは——獣ではない。
見ているだけで不安に掻き立てられ、孤独感が募り、価値観が根底から覆されそうな、恐怖を感じた。
- 32◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:17:06
邪神程度、何するものぞ、という思いを抱えてこの地にやってきたが、その巨体、その得体の知れなさ故に、パトリシアには確実に狩れるという確信が持てなかった。
「陛下、アレは一体何なのですか……?
まさかアレこそが、かつて魔法国を襲い、ティターニアに討たれたという、オムネグという怪物なのでしょうか?」
「否、アレこそ邪神。名をクトゥルフという。
儀式の贄の一人、魔法少女ワンフロムアウター……その『本体』よ」
「本体……?」
「貴様も見たであろう、『始まりの魔法少女』。
クトゥルフが今まで大人しくしていたのは、『始まりの魔法少女』とぶつかることを恐れてのことだった。
だが、『始まりの魔法少女』は去り、クトゥルフは動き出したのだ。
恐らくその狙いは——儀式の破綻」
「……何故、クトゥルフなる怪物は、儀式を破壊しようとしているのですか?
分身体を殺されると不都合でも……?」
「分からぬ。だが、儀式の目的と、関係しているのかも知れぬ」
- 33◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:26:39
儀式の目的。魔法少女オシウリエルに勧誘された際に、パトリシアは儀式の目的を伝えられていた。何故、あにまん市で魔法少女を集め、殺し合いを行っているのか。
それは決して、見世物にするためではなく。
「『冒涜の竜』の復活を、阻止するためですね?」
かつて魔法の国(当時は違う名で呼ばれていたらしいが)を蹂躙し、悪逆の限りを尽くした邪竜。魔法国で暗躍する『邪神教団』がこの大悪を復活させようと企み、既に後一歩まで準備が進んでいること。
これを挫くために、43の魔法少女の魂を贄に捧げ、『冒涜の竜』復活を阻止する。
パトリシアは、そう認識していた。
贄にされる魔法少女たちへ、微かに同情する気持ちはある。
だが、もし冒涜の竜が復活すれば、犠牲は43に留まることは無い。
大を生かすために小を切り捨てる。獣の論理で、パトリシアは傭兵として雇われることを受け入れた。 - 34◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:34:18
そして、クトゥルフが儀式を破綻させようとしているならば、アレの目的は……。
「冒涜の竜を、復活させること。クトゥルフは……邪神教団と繋がっている」
「あれこそ、奴らが崇める神なのかもしれんな」
魔法王の言葉に、パトリシアは頷く。そして、戦慄する。あれほどの怪物を召喚しながらも、教団は更に『冒涜の竜』を復活させようとしている。
ならば、『冒涜の竜』はクトゥルフを超える怪物ということなのか。
(『始まりの魔法少女』が倒したとは聞くが……逆に言えば、あそこまでけた外れの力を振るえなければ、勝てなかった相手というわけか……)
やはり、復活させるわけにはいかない。
そのためには、クトゥルフを討たねばならない。
だが、勝てるのか。
——確かに、あの大きさは脅威だ。だが、その分、動きは鈍重で、的は大きい。
集まった戦力で一斉に魔法を浴びせかければ、勝てない相手ではないだろう。
ティターニアと戦っているアグネアを呼び戻せば、まず負けることはない。
そのはずだが、パトリシアの胸中には、不安が渦巻いていた。
- 35◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:44:40
「アレと戦えるのは、お前だけだ」
と、魔法王は言葉を繰り返した。
「何故、そうも私を買いかぶるのです?」
「アレには厄介な特性がある。アレに近づけば、恐怖のあまり生物は正気を失い、奴の眷属に成り下がる。
——上陸を許せば、迎撃すら叶うまい。
しかし、超遠距離攻撃が出来るお前ならば、クトゥルフに屈する前に、討つことが出来る」
確かに、パトリシアの有効射程距離は20㎞である。
その距離から、一方的に攻撃を浴びせることが出来る。
(あの巨体を討つ攻撃……そう多いわけではないが)
物質を矢に変えるのがパトリシアの魔法。
例えば大型艦ミサイル。
例えば燃料満載のタンクローリー。
(否、それを遥かに超える威力が出せる物質もある……)
それは、『命』。
生物を矢に変え、その者の持つ生命、魔力、魔法全てを一本の矢に変え、撃つ。
光と灼熱の極大砲撃。
もっとも、それを撃つには『相手の許可』が必要だが。
パトリシアのために自ら命を捧げる者など、この世に居ない。
つまりパトリシアが矢に変えられる物は、自らの命だけ……。 - 36◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 21:54:28
「余の命を使うがいい」
と、パトリシアの心を読んだかのように、魔法王は言った。
「陛下……正気ですか?」
「この場で最も魔力に優れた者は、『始まりの魔法少女』の末裔たる、余である。
徒に民を矢に変え、無駄に命を消費するよりも、余一人の命でクトゥルフを葬るのが最も効率の良い。
違うか……?」
「しかし、陛下が犠牲にならずとも……」
「愚か者。既に、夥しい犠牲は出ている。
儀式にて、何人魔に愛されし子らが犠牲となったのか。
平和のためとはいえ、何の罪もない無垢なる者らを殺し合わせた罪は重い。
余には、その責がある」
パトリシアは、割り切っていた。微かな同情はあれど、贄は贄であり、狐が兎を狩るのに良心の呵責を感じないように、罪悪感など覚えていなかった。
他の運営陣たちも、殺し合いを愉悦と感じ、楽しむものばかりであった。
しかし、魔法王だけが、気に病んでいたのだ。
大義の為とはいえ、殺し合いで魔法少女を苦しめていたことを心苦しく感じていたのだ。
そして今、国のために自らも贄になろうとしている。
(正しく、群れのボスに相応しい態度だ……)
- 37◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:03:50
魔法王は魔力量に優れている。きっと、あの巨体を一撃で吹き飛ばす程の火力が出せる。
魔法王一人の犠牲を持って、クトゥルフを討伐できる。
「しかし……」
「これは命令である、余を矢に変えよ、パトリシア」
パトリシアは改めて平服した。
一人の狩人として、この老人へ敬意を示したかった。
(……ん?)
僅かに、魔法王の影が揺らめいた……ような気がした。 - 38◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:05:38
「陛下……」
「我が国を、任せたぞ」
その言葉を最後に、魔法王の姿は掻き消える。
現れたのは——金色の矢。
王の気品と強大さを示す、触れることさえ躊躇うような、王者の矢。
パトリシアはそれを掴み、弓に番える。
「陛下、貴方の覚悟、無駄にはしない——ッ!」
千里眼で、邪神を捉える。
恐怖を掻き立てられるその姿にも、パトリシアは臆さない。
弦が、揺れた。
黄金の矢が放たれる。 - 39◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:13:47
波を切り裂き、光と灼熱の一撃は、クトゥルフへと真っ直ぐ飛んで行った。
超音速の一撃。
20㎞が一瞬で零になる。
クトゥルフは、砲撃に対し、何も反応することは出来なかった。
その胴体に、攻撃が炸裂する。
クトゥルフの瞳が、苦悶のためか、瞬いた。
前進が止み、クトゥルフはその場に立ち竦む。
光と灼熱はクトゥルフの鱗を焼き焦がし、矢はクトゥルフの腹部へと突き刺さった。
——それだけであった。
光が収まり、クトゥルフは再び前進を開始する。
「そんな、馬鹿な……」
パトリシアの喉から、絶望が漏れた。
魔法王の命を持ってしても、クトゥルフには届かなかった。
- 40◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:18:03
絶望的なまでの、戦力差。
(逃げるしか……無いのか。いや、他の手段を……しかし……)
狩人としての矜持。獣としての本能。群れのボスの命を無為にしてしまった罪悪感。
パトリシアの心は混乱し、彼女はその場でたたらを踏んだ。
その背を、支える者が居た。
パトリシアは振り返る。
いつから其処にいたのか、パトリシアの背後には人だかりが出来ていた。
背を支えたのは、パトリシア指揮下の、実働部隊の男だった。
「パトリシア様、次は俺を矢にしてください……!」
「なっ……!」
部下の申し出に、パトリシアは驚愕する。
その言葉を皮切りに、人だかりから次々に言葉が届いた。 - 41◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:26:40
「俺も矢にしてくださいパトリシア様!」
「私も矢にして、パトリシアちゃん!」
「うおー! 国のために死にてぇ!」
「魔法王陛下の後に続け! 皆でクトゥルフをやっつけるんだ!」
「皆で死のう! 死のう死のう死のう!」
「犠牲になろう! 尊い犠牲になろう!」
「贄! 私たちは贄! 贄! 贄!」
「さぁパトリシア様、俺達を矢に!」
「矢! 矢! 矢! 矢!」
「矢矢矢矢矢矢矢矢!!」
(何だ……これは……)
囲まれ、次々に言葉を浴びせられ、言われるがまま、パトリシアは傍の男を矢へと変える。
撃つ。
クトゥルフには傷一つつかない。
飛びつき懇願してきた魔法少女を矢へと変える。
撃つ。
クトゥルフには傷一つつかない。
(私は……一体、何をしているんだ……?)
命が、無為に消費されていく。理解していながらも、パトリシアの手は止まらない。
また一人、命が海の藻屑となる。
- 42◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:34:07
その様を、上空から見下ろす影があった。
何処にでも居そうな、ギャル大学生といった風貌の少女。
——その背には、黒い翼が生えていること以外は。
少女は、陰鬱そうに、矢を撃ち込み続けるパトリシアを眺める。
「……感動的だね……命を賭して邪神と戦う……人間賛歌だね……」
そう呟くと、少女は苦しそうに身体をくの字に曲げた。
「……さすがに、耐えられないな、これは……」
恥ずかしそうにそう呟くと、彼女は大口を開け
げらげらげらげらげら
と、笑い声を上げた。
喜悦に満ちたその顔は——邪悪、そのものであった。 - 43◆xaazwm17IRZa24/09/12(木) 22:34:40
【魔法王 死亡】
投下を終了します - 44二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:41:49
とんでもねぇダークホースが現れた…
- 45二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:19:57
確かに仕組み上、許可さえ取れるなら変えるという形で幾らでも即死させられるんだよな…普通は取れないだけで
そして許可を取らせることは彼女には容易いと - 46二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:24:55
このレスは削除されています
- 47二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 06:53:21
保守
- 48二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 07:33:03
パトリシア利用されてないか…?魔法王の影が揺らめいたり…皆んなもう既に正気を失ってたんじゃないか?
- 49二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 09:28:50
矢を志願したのが全員支配下にあるのは多分間違いない
- 50二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 09:55:00
どうしよう魔法王さん始末されちゃったよ
クトゥルフどうやって止めんだこれ
そしていよいよ何を恨めばいいのかわからなくなってきたハイエンドさんおいたわしや - 51二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 17:11:30
保守
- 52二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 20:20:43
クトゥルフ自体が幻…?
- 53二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 02:58:09
ホシュ
- 54二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 08:55:04
表向きの主催者が死にました
ルールに則ったまともなバトロワは終わりです たぶん - 55二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 09:26:49
ここからが真の地獄(シーズン2)だ…!
- 56二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 15:50:42
クトゥルフ…って確かこの世界でも創作上のキャラクターなんだよね??(ドレッドノートの初登場回を参照)
パラさん傘下にゲルニカって奴がいるし存在含めてマッチポンプな気がしなくもないな - 57二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:35:25
そもそも名前的に素鈴ちゃんの本体はイクナグンニスススズだと思うんだけど、やっぱりこのクトゥルフは何か不自然だよなぁ…ミスリードを感じる
- 58二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:50:30
でも本体に異常があったらしいってのは事実なんだよね
……本体来てたのは事実で『クトゥルフ』の幻被せてた?実は魔法王の矢で既に本体倒れてたり? - 59二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 08:22:59
- 60二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 15:19:52
保守
- 61二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 22:41:49
☆
- 62二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:22:33
ほし
- 63二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 07:50:14
保守
- 64二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 13:10:52
これで全くノーダメならパトリシアも違和感に気づけただろう…申し分程度にクトゥルフも怯みはしたから有効だと勘違いしたのか
- 65二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 16:08:35
- 66二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 16:57:58
ええ筋肉やなホンマ…
- 67二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 22:50:46
蠱毒で生き残ったような強者しかいませんからねー
周りを動かしていく程の力がある人と一緒に行動したいですねぇ - 68二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:25:23
このレスは削除されています
- 69二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 07:44:37
搦め手ばかりで本当にバルバロイきつそう…
- 70二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 07:59:16
西エリアは参加者が残り少ない分スポットライトが当たる機会も増えるはず…バルバロイの今後に期待
- 71二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 13:09:09
西はオオカワウソ含めて4人か5人だったか
- 72二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:13:52
フィジカル強者はあって困る場面もないので本人のやる気次第で化けるのだ
- 73二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:37:05
いくなぐ(んにす)すすず
- 74二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 07:45:53
時間の問題だけどパトリシアは…今の所無事なのか?
- 75二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 10:07:14
一見するとブレイズドラゴンみたいに積極的にゲームを勧めてくれるタイプっぽい人物なんだけど
やりたいのは殺し合いではなく喧嘩でしかも相手にその気がないなら仕掛けないから遭遇する相手次第では一切闘わないバルバロイ
なかなか他人と遭遇しない配置にされたのは対運営勢と合流されると「運営に喧嘩を売る」という方向にシフトしそうだからだろうか - 76二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 10:15:17
規制に巻き込まれたので解除されるまでウィキの方に仮投下します、だって
- 77二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 12:20:22
読んだけどこれ生存ダイス振ってすらないパラサイトドールがメインで戦闘すんの? ファンブル出した邪神は確定で死ぬとはいえ流石に冗長すぎるだろ
- 78二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 15:36:40
何様定期
- 79二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 16:22:55
このレスは削除されています
- 80二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 22:49:23
余計な事を知りすぎて別者になってたのね
邪神と違って「価値」という概念を知ったみたいな… - 81二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 07:27:53
巻き込み規制マジか 仮投下お疲れ様です
パトリシアも逝っちゃったか…最初の魔法少女に近い実力を一瞬ながら発揮したブレイズドラゴンでも正直厳しいかなこれ - 82二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 12:40:01
解除されてほしい
- 83◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:47:24
無事に規制解除されました~、お待たせしてしまい申し訳ありません
- 84◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:48:26
まずは、仮投下した分をこちらに再度投下します
- 85◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:49:11
波の音だけが、防壁に響いていた。
少し前までは狂奔に包まれていたこの場所は、うち捨てられたかのように静かだ。
微かに聞こえるのは、獣のような息遣い。
音を発しているのは、ローブを纏い、狐耳を生やした少女だった。
名を、ディア・フライシュッツ。魔法少女名『パトリシア』。
肩で息をしながら、パトリシアは海岸に目を向けた。
『千里眼』を有す彼女は、20㎞先まで見据えることが出来る。
出来てしまう故に、眩暈さえ覚えるほどの現実を直視してしまう。
邪神、未だ健在。
クトゥルフは、ゆっくりと魔法国に近づいている。
数多の命を矢に変えて、撃った。言われるがままに、半ばパニックになりながら、他者の命を使い潰し、クトゥルフを倒さんとした。
——無駄な殺戮だった。初撃の魔法王でさえ、表皮を焦がしただけに過ぎず、それもすぐに再生した。
それ以降の特攻は、傷一つつくことなく、徒に命を消費しただけに過ぎない。 - 86◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:49:44
パトリシアを囲んでいた兵士たちは、魔法少女たちは、部下たちは、いずれも姿を消していた——皆、矢となって命を落としていた。
この場に残ったのはパトリシアと。
「…………ご苦労様」
もう一人の、魔法少女。
パトリシアは、生気の失った顔で、声の方を向いた。
人間の国で言うところの、「ギャル」。だが、軽薄で快活なギャルのイメージを裏切るかのように、その少女の放つ雰囲気は陰鬱だった。
運営側魔法少女、名をパラサイトドールという。
「随分広くなったね……」
無人の防壁を見回し、パラサイトドールは言った。
「皆の絆が……巨悪を、討ったんだね……感動的……あれ、でも、おかしいな」
視線が、防壁を離れ、海へと向かう。
(見えているのか) - 87◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:50:27
唐突に、パトリシアは思った。
千里眼持ちで無いのに、20㎞先など見れるのか。
「ねぇ……あーしは、邪神を殺して、ってお願いしたんだけど。クトゥルフ、全然元気じゃん……」
「私には、無理だ」
否、誰であっても無理なのだ、とパトリシアは続ける。
魔法王を矢に変えた際の一撃は、ティターニアのマジカル・ストラッシュにも遜色ない一撃だった。それを受けて碌にダメージも受けず、かつ受けたダメージも瞬時に再生する化け物を、どう対処しろというのか。
それこそ、『始まりの魔法少女』でも現れなければ、どうしようもない。
「諦めるなんて……魔法少女らしくないよ……」
言葉だけなら深刻そのものだが、パトリシアはパラサイトドールの表情から、魔法少女への信頼や信用を読み取れなかった。
(こいつは、一体何なんだ?)
「私に、どうしろと……?」
「……まだ、矢は残ってるでしょ」 - 88◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:50:57
ぞくり、とパトリシアの背に冷たいものが流れた。さっきまでの狂奔、無駄死にさせるために矢に変え、送り出した。何故断らなかったのか、パトリシアにはわからない。言われるがまま夢中で矢に変え、撃ち、殺した。
(獣、狩人、弓兵……私は、強くなったはずだったのに)
両親に逆らえなかった頃と、同じように。パトリシアはその場の狂気に逆らえなかった。肉体の疲労以上に、その事実が、パトリシアの精神を疲労させていた。
「お前も……矢に、なるつもりなのか」
狂奔から間が空き、パトリシアは僅かに冷めていた。だからこそ、絞り出すように言えた。
「やめておけ、死ぬぞ。意味が無い……」
そう口にすると、僅かに肩の荷が下りる。
「え、何であーしが矢にならなきゃいけないの……?」
「……は?」
心底不思議そうな顔で問いかけるパラサイトドールに、パトリシアは放心した。
「パトリシアが矢になればいいじゃん……」
「……私が?」 - 89◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:51:23
「相手を矢にするより、自分が矢になる方が、威力が上るんでしょ?
だったら、今度こそクトゥルフを倒せるかもよ……」
そんなはずはない。確かに、魔法王を倒した時以上の火力は出るだろうが、それでもアレを倒せるとは思えない。
だが……。
「大丈夫……パトリシアの死は、無駄にしないよ。
絶対にこの儀式を成功させて、魔法国を守ってみせるから」
「私は……だけど……」
「それとも……散々仲間を無駄死にさせておいて、自分だけ逃げるの……?
好き勝手にこき使って、命さえ奪って、自分だけは助かろうとするの……?
それってまるで」
君のご両親みたいだね。
と、パラサイトドールは言った。
——それが、決め手となった。 - 90◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:51:54
◇
流星が、夜空を切り裂き、水平に飛んでいく。
響く金切り音は、少女の悲鳴のようにも聞こえ。
瞬時に20㎞の距離を零にし、寸分の狂いもなく、パトリシア最期の一射は、クトゥルフの眉間に命中した。
クトゥルフは苦悶の声をあげた。魔法王の時と比較し、破壊力こそ劣れど、鋭さは勝っていた。クトゥルフの額から緑色の体液が流れ出た。
——戦果は、それだけであった。 - 91◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:52:32
◇
「…………思ったより、効いてないなぁ……」
防壁からクトゥルフを眺め、パラサイトドールは残念そうに言った。
「……支配した時にあーしの魔力が乗ってるから、天上にも多少ダメージは入るけど……。純粋に火力が足りないかぁ……」
面倒だなぁ……と憂鬱そうに零す。
その声を聞く者は、もはや誰も無い。
魔法王も、集まった強者たちも、パトリシアも。誰もが居なくなってしまった。
「はぁ……——あーしが、直接殺るしか無いかぁ……」
そう呟く、パラサイトドールの背には——闇を切り取ったかのような、翼が生えていた。
黒い。羽膜は光を全く反射せず、ただ闇の中に溶け込むような深い黒色で、見る者を圧倒する。翼の端は鋭い刃のように尖っており、微細な鱗のような模様が光沢を持ちつつも、どこか冷徹な雰囲気を醸し出している。
鳥の羽でもなければ、天使の翼でもなく、悪魔の其でもない。
それは竜。かつて一つの世界を滅ぼしかけた怪物『冒涜の竜』——その成れ果てを示す物。
翼が、はためいた。
摩耗し、砂や土で汚れた石造りの床に、亀裂が走る。古めかしく、しかし堅牢だった魔法国の防壁が、壊れ、削られていく。
パラサイトドールは地を蹴った。
次の瞬間、彼女の肉体は暗雲を背に、暗い海を見下ろし、空を駆けていた。 - 92◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:52:51
遅い。パトリシアの矢と比較し、その飛翔速度は遅速だった。
精々が、時速300キロ程度に過ぎない。隼の最高速度にも劣る。
防壁を飛び去ってからクトゥルフに辿り着くまで、四分もの時間が経過していた。
クトゥルフもまた、徐々に近づいてくるパラサイトドールを、無策で待つことはなしなかった。
海面が泡立つ。
大小無数の触手が、海面から姿を表し、空を覆う暗雲に向かって伸びていく。
クトゥルフの周囲一帯が奇怪な生物群で埋め尽くされる。ミミズのようにのたうつもの、ウミウシのように蠢くもの、フナムシのように集うもの。
その中央で、クトゥルフは王のように立ち、ただ一点を見つめる。
六対の瞳が、すぅと細くなる。
クトゥルフと比較し、あまりにも矮小な者が其処に居た。
数百メートルの体躯と比較し、1m半をやや超える程度の矮躯。
クトゥルフと、眼下に広がる地獄絵図を前にして、竜の翼を持つ少女は、苦笑を零しながら言った。 - 93◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:53:19
「やぁ……久しぶりだね、『私』」
少女から怪物への問いかけとして、其れは余りにも常軌を逸していた。
だが、続いた言葉もまた、この世の理を超えていた。
【久しぶりね、『私』】
感情を感じさせない、どこまでも冷たい声色。しかし、その声は紛れもなく女の、少女の声色であった。
だが、少女はこの場に一人しかおらず、該当少女は口を閉じている。
ならば言葉を発しているのは
【さっきの攻撃は何だったのかしら?
嫌がらせ? それとも、本気であんなもので私を殺せると思った?】
異形の怪物、クトゥルフなのだろう。
「昔馴染みに対する……ちょっとした挨拶だよ。
それより、何の用? 『始まりの魔法少女』が退場して間髪入れずに動き出した……目的は、何となく想像はつくけどね。
『私』は……このゲームを乗っ取るつもりでしょ……?」 - 94◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:54:09
駄目だよ、とパラサイトドールは言う。
「このゲームは……あーしのもの。贄も全部、あーしの所有物。
いくら『私』でも、一片たりとも譲らないよ……」
【そう。パラサイトドール、あなたはそんな風に成ったのね】
蛸を模した異形の頭部からは、感情を伺うことは出来ない。ただ、怜悧な声が響く。
【無駄に時を重ねただけだったようね、『私』】
「言ってくれるじゃん……竜であることから逃げて、創作神話の殻を被った臆病者の癖に……!」
今までの彼女からは想像もつかない、確かな矜持を感じさせる言葉。
【パラサイトドール。かつて同じ存在だったものよ。お前は、私の怒りに触れた。
だから私は、お前を、お前の創ったこのゲームを、全て破壊する。
邪神クトゥルフの名において】
「『始まりの魔法少女』を退場させた以上、この戦いもあーしにとっては……ただの消化試合。
でも、いいよ。
同じ『私』のよしみだから……本気で、相手してあげる」
かくして、黒竜と邪神、黒幕と襲来者、天上と天上が激突する。
生き残るは、ただ一柱のみ。 - 95◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:54:22
投下を終了します
- 96◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:57:41
既にクトゥルフ(?)は
『ワンフロムアウターdice1d100=5 (5)』
で死亡が確定していますが
同格対決ということで、パラサイトドールも生存ダイス振ります
パラサイトドールdice1d100=25 (25)
- 97◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:58:39
……以上の結果を元に、今後の話を作成していきます~
- 98◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 20:59:45
投下します
- 99◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 21:07:14
懐かしい感覚だった。
振り下ろされる鋏を、難なく躱す。
『元・全知全能(諸説あり)』の魔法少女、テンガイは、突如出現したエネミー、『大君蟹王』の相手をしている。
大君で王だけあって、大きい。
30mはある。
一般的な魔法少女の身体能力は精々羆レベルであり、30mの怪物を相手取ることは難しい。
テンガイもまた、身体能力に優れてはいない。習得した多種多様な魔法も、その殆どが使えなくなっていた。
にも関わらず、テンガイは大君蟹王を相手取り、優位に戦いを進めていた。
- 100◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 21:17:25
鋏が振り下ろされる。ワゴン車が下敷きになり、破片が周囲に飛び散る。
その一片すら、テンガイには触れられない。
今度は横薙ぎに振るわれる。
身を屈めて回避する。靡く緑色の髪に掠ることすらない。
津波のような突進が来る。
蟹王の上を、高跳びのような姿勢で飛び越える。
かつてのテンガイを知る者がいれば、驚愕したことだろう。
果たして、彼女はここまでフィジカル強者だったのかと。
否、純粋な変身後のフィジカルを比較するならば、テンガイは参加者でも下から数えた方が早い。明確に下だと断言できるのは常人レベルの身体能力であるハートプリンセスくらだ。
にも関わらず、たかが『人間の十倍』程度では不可能な動きをし、テンガイは大君蟹王の攻撃を躱していく。 - 101◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 21:23:38
華麗に空を舞いながら、テンガイの顔は、渋い。
「屈辱だぜ」
着地と同時に、待ち構えていたかのような突進。
咄嗟に飛び退き、回避。
破壊されつくした団地の駐車場から出ると、電柱に手を添える。
「僕様が肉弾戦する羽目になるなんてな」
手刀一閃。
切断された電柱を手に持つと、蟹王目掛けて投擲する。
電柱は、蟹王の甲羅へと命中した。
甲羅には、傷一つつかない。
蟹王は雑魚エネミーではない。
一流の魔法少女が数人がかりで挑む、所謂『ボスエネミー』と呼ばれる存在である。
電柱という柔い構造物では、蟹王にダメージは与えられない。 - 102◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 21:47:07
テンガイは心底嫌そうな表情で拳を握った。
「『水棲生物を駆除する魔法』とか『食材を料理に変える魔法』とか色々あったのにな~。あー、憂鬱……」
地を蹴り、テンガイは蟹王へと殴りかかる。
蟹王もまた、応じるように鋏を掲げ。
——蟹王の口内から、溶解泡が発射された。
蟹王は人語を介さないが、その知能は極めて高い。
相手の攻撃パターンを分析できるし、フェイントを入れることも出来る。
魔法少女であろうと骨まで溶ける溶解泡。
視界を覆い尽くさんとする泡の壁に、テンガイは両手を伸ばし
- 103◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 21:47:47
「——『魔法を改造する魔法(トロポイシス)』」
瞬間、溶解泡は無数の花びらへと変化した。
「僕様の原初にして、今となっては唯一の魔法さ。手で触らないと発動できないっていう弱点はあるんだが——お前には、もう関係ないか」
悪足掻きに振る舞わされた鋏の猛攻を掻い潜り、テンガイは蟹王の背に飛び乗る。
そして、傷一つ無い甲羅へと掌を押し付ける。
「人間界の野生動物ならともかく―—お前は魔法生物。魔法で作り出された生物だ。広義では魔法に判定される。お前の硬さは、僕様の前では無意味だ」
——魔法を改造する魔法(トロポイシス)。
かくして大君蟹王とテンガイの戦いは、テンガイに勝ち星が上がったのであった。 - 104◆xaazwm17IRZa24/09/19(木) 21:49:06
投下を終了します
- 105二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 22:51:29
やったー復活してるー!投下お疲れ様です…!
- 106二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 23:55:44
生存ダイス低い!パラさんもそろそろ年貢の納め時か…?
- 107二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 07:50:07
最初の魔法がテンガイに一番似合った魔法なのすき
- 108二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 08:37:34
黒竜の消えた3つの首のうち2柱はクトゥルフ(?)とパラサイトドールか…もしここで他二柱が退場なら最後の人柱が暫定ラスボス…?
- 109二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 13:02:55
学生街編の死亡率、なかなかエグいな
運営幹部も初期勢は半分以上いなくなりそうだし… - 110二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 15:47:08
他の地域の動きによってはこのターンから後半どころか終盤戦に突入しそう
- 111二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 00:12:42
大君蟹王が大味である事にパトリシアの矢を賭けよう
- 112二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 07:52:49
同じ胴体から生まれたくせして仲悪いのな
- 113二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 08:58:22
パラさんは外での活動が長過ぎて元とはかけ離れた(俗っぽく人に近い)存在になったっぽい
クトゥルフ体の方も元が黒竜と考えたら各個体住んでるとこの影響受けて変質したようだ - 114二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 15:02:59
同じパートで生存ダイス30以上のジキルが退場してるしパラさんも完全退場はシステム的に免れないね
スレ主さんもこんなところでダイス振って死なすつもりなかったろうに可哀想に - 115二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 18:42:25
確定死亡は10からだから、まだわからんけどね
同パートで一律に一定以下のダイスは死亡ってルールではないし - 116二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 19:19:06
まだわからんも何も「同じパートに登場してるパラさん以上の出目のメインキャラも退場してるしパラさんもまぁ死ぬよね」ってだけの話なんで…ラスボスだから特別緩くするとも書いとらんし
あと出目20代で完全退場してないキャラって居たっけ - 117二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 20:31:26
このレスは削除されています
- 118二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 21:16:03
1巡目慈斬とか?
- 119二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 00:35:36
いたな
- 120二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 09:05:20
しかしまあ、ラスボス候補が内輪揉めで退場濃厚となると滑稽なような味気ないような
- 121二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 09:09:09
そういう事例があっただけで確定ではないって事でしょ
- 122二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 11:18:37
ここで退場するとしてパラサイトドールのやられ方も気になるところ
真のラスボスの噛ませになってしまうのか… - 123二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 11:33:30
同格同士の戦いになるからなるべく魔法王達で削りたかったけど唯一ダウン取ったのが金の矢だけだし、久しぶりに人外魔境決戦が繰り広げられそうな予感
- 124◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 13:25:01
投下します
- 125◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 13:30:02
冒涜の竜には、七つの頭部があり、各頭部は異なる『感情』を司っていた。
そのうちの四つは、始まりの魔法少女に潰され、生き長らえたのは『復讐心』と『好奇心』と『無関心』。
『復讐心』は、自身を滅ぼした魔法少女への復讐心を滾らせ、人間たちの身体を渡り歩きながらその機会を伺い。
『好奇心』は、自身を上回った魔法少女への好奇心を募らせ、魔法少女に関するあらゆる知識を蓄え続け。
『無関心』は、何もしなかった。
- 126◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 13:36:33
復讐の機会を窺うこともなく、知識を蓄えることもなく。
かといって自殺もせず、ただ無意味に生き残り、無意味に存在をし続けた。
魔法の国から人間の世界に移動したのも、気紛れに過ぎない。
時代の移ろいを眺めながら、何を想うまでもなく、無為に時を刻み続ける。
生き残りこそしたが、生きてはいない。
敗北して尚、『天上』と呼ばれる絶対性は有しているが、ただそれだけの存在。
揺蕩い、微睡み続ける、超越者。
それが、変化したのは、15年前のことだった。
- 127◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 13:49:23
人間たちの営みをぼんやりと見つめる中で、それは、ふと思った。
【人間の人生を楽しみたい】。
気紛れ、だったのだろう。それの感覚からすれば、人間の一生など閃光に過ぎない。
強い動機では無かったが、やらない理由も無かった。
例えるなら、人間が暇な時にやる手遊びのようなものだ。
いくら『無関心』を司っていたとはいえ、元々は一個の存在。微細だが、他の首の影響が残っていたのかもしれない。
子どもの居ない人間の夫婦に、自らの分身体を潜り込ませた。
当然だが、名は人間の夫婦が決めた。
特別な能力も持たせなかった。分身体を通して人間界を滅ぼしたいわけでも、支配したいわけでもない。
そして、逝凪素鈴(いくなぐすすず)という少女は生まれた。
- 128◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 13:56:49
思えば、一個人に注目することは今までなかった。
観察してみて思うのは、人間の赤子というものは、何とも貧弱で、愚かで、我儘なのかということだ。すぐ泣き、すぐ暴れ、すぐ眠る。
本当に、こんな存在の果てが、自分たちを討ったのか。
にわかには、信じられない思いだった。
立ち上がるのに半年以上かかり、言葉を喋るのに一年以上もかかった。
何と脆弱な生物。 - 129◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 14:04:27
異変が起きたのは、素鈴が二歳になった頃だった。
「おねーちゃん」
と、素鈴が言うようになった。
逝凪家の子どもは、素鈴だけだ。
一緒に遊ぶような年上の友人も居ない。
何もない空間に向かっておねーちゃんと呼びかける素鈴を両親は最初不思議がったが、このくらいの歳頃にはよくあること(イマジナリーフレンド)だと考え、受け入れていった。
実際には、呼びかける方向には、常にそれは居た。
(私が見えているのか?)
と、それは思考した。
- 130◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 14:08:52
特別な力を与えたわけではない。
だが、人間から一定数魔法少女が発生することも知っている。
素鈴にも素養があるのか?
(私は普通の人間の人生を楽しむつもりで素鈴を作ったのだが……作り直すか?)
所詮は気紛れ。
強い目的意識があるわけでもない。
それはしばし思案し……やがて驚愕した。
(いつから私は自分のことを『私』だと考えるようになった?)
- 131◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 14:41:45
其に、強い自我は無かった。
ただ揺蕩い微睡むだけの存在だったはずだ。
自分のことを『私』と呼び、矮小な一存在について考察する。今までは無かった変化。
(もう少し観察を続けるか……素鈴の行く末が、気にならないわけでもない)
今すぐ廃棄しても、死ぬまで見届けても、かつて竜だったものの時間間隔からすれば、その二つに大した違いはない。
おねーちゃん、ともう一度素鈴に呼びかけられたが、其は返事をしなかった。
- 132◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 14:54:21
◇
海は、奇怪な生物で埋め尽くされている。触手を生やした、イソギンチャクともウミウシともクラゲともつかない生物たち。
互いを圧し潰しながら、それは増殖を続ける。
「無限の空間を生み出すには……無限の魔力が必要」
空に浮かぶは、一人の少女。
背に竜の翼を生やした魔法少女、パラサイトドール。
「無尽蔵の使い魔を出すには……無尽蔵の魔力が必要」
- 133◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 14:55:40
そんなことは、あーし達にだって出来ない。
と、パラサイトドールは断言する。
【ええ、そんなことは分かってるわ】
と、怪物は言った。
数百メートルを超える、巨体である。
【けれど、ざっと10万程度なら苦も無く召喚できる。
今のあなたにこの軍勢をどうにか出来て?】
「やだよ、面倒くさい……。
有象無象は……勝手に減って行けばいい……」
パラサイトドールは、ネイルで彩られた指を、ぱちりと鳴らした。
地獄絵図が、更なる地獄で塗り替えられる。
次々に召喚されるクトゥルフの眷属。
触手に、別の触手が纏わりつき、締め付ける。そこに半魚人のような怪物が喰らい付く。その腹を、ウミウシのような化物が溶かしていく。
共食いが、始まった。 - 134◆xaazwm17IRZa24/09/22(日) 14:55:54
投下を中断します
- 135二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 23:00:17
邪神同士の戦いに恥じない悍ましい戦いだ…
- 136二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 03:22:13
期待
- 137二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 08:51:47
朝保守
- 138◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:07:34
……本当は昨日の深夜に投下するつもりだったんですが、書いてる途中で寝落ちしたので、朝投下します……
- 139◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:08:58
下等が下等を喰らい、触手が触手を殺し、魚人が魚人を抉る。
食物連鎖を醜悪にかつ歪め切ったような地獄絵図を眼下に置き、竜の少女は邪神を嘲った。
「他の『私』が失った支配の能力を、あーしはまだ保有してる……。
格下をいくら並べても、あーしに勝つことは無理……」
【知っているわ】
クトゥルフの声色に動揺は見られなかった。
【かつての『私』ならいざ知らず、首の一つに過ぎないお前は、支配できる個体数に限りがある。お前の魔力も、決して無尽蔵ではない】
「……まぁね。でも、あの程度の数を殺し合わせるのは、余裕だよ……。
たかが10万。大した数じゃない……」
【お前は、殺し合いという儀式を維持するために、力の殆どを使っているでしょう】
「…………」
パラサイトドールは、沈黙した。陰鬱と気怠さを発したまま、しかしその眼には——苛立ちが見え始めた。 - 140二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:10:38
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- 141◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:11:16
【参加者を縛る『呪い』の維持……『天上』といえど、簡単じゃない。お前は、いくつかの『制約』を自らに課すことで、この『呪い』を維持している。それでも魔力の大部分をそれにつぎ込んでいるわね】
「だから……勝機があるって……?
竜であることを辞めて、何もしてこなかったお前とは違う……。
あーしは……ずっと力を蓄えてきた……竜の誇りも捨てなかった……」
【竜の誇りか。そんなもの、もう私は興味が無い。
お前の、魔法少女への復讐も、どうでもいい】
「じゃあ……邪魔しないで欲しんだけど」
【だけど、この儀式は看過できない。
お前を殺し、この儀式は潰すわ】
「させないってば……」
海面から伸びるは無数の触手。同士討ちで数を減らそうが、尽きることない大軍勢。
パラサイトドールは再び指を鳴らす。饗宴(サバト)の再演。 - 142◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:12:26
だが、喰らいあうエネミーを圧し潰しながら、クトゥルフはその巨体を前に進めた。
【私には効かない。何故なら——邪神は、生き物ではないから】
生物ならば何であろうと支配するパラサイトドールの魔法は、しかし裏を返せば、非生物には干渉できない——そして、生物の分類に、『神』は含まれていない。
1m半程の矮躯に、数百メートルの巨体が迫る。
振り下ろされるのは、右腕の爪。それだけで10mを軽く超え、コンクリートさえバターのように切り裂く邪神の一撃。
魔法少女には相性がある。生物ならば一方的に支配できるパラサイトドールにとって、邪神クトゥルフは相性が悪かった。
かくして、黒幕はあっけなく舞台の幕を降り——。
「舐めてんの?」
空に、孤を描くものが一つ。
10mを超える、白く鋭く太い——クトゥルフの爪。パラサイトドールを切り裂き、逆にへし折れた邪神の爪。
爪の一撃を受け止めたのは、パラサイトドールの右腕である。 - 143◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:13:38
切り裂かれたギャル風のコスチュームから覗く肌は——鱗で覆われていた。
「あーし、竜(ドラゴン)だよ?」
無造作に放たれたのは、生物原初の攻撃。ネイルで覆われた爪による、引っ掻き。
爪が届く距離にクトゥルフは無く、少女の手は虚空を空ぶった。
クトゥルフが苦悶の声をあげる。山のような胴に、裂傷が生まれていた。
まるで、クトゥルフと同サイズの武者が、刀で斬りつけたかのような深手。
痛みに怯んだのか、クトゥルフは動きを硬直させ。
——漆黒の熱線が空を切り裂き、クトゥルフに命中した。
刹那の無音。
やがて、爆縮するかのように空間が歪み、海が天高く持ち上がる。
遅れて、轟音が響いた。
打ち上げられた海水がモンスーンのように降り注ぐなか、パラサイトドールは同族を見下ろし、蔑みの視線を送った。
「最強種、舐めんな」
数百メートルの巨体は、廃墟のように崩れ去り、三分の一が消失している。 - 144◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:14:44
原型を保てないほど損傷したクトゥルフはゆっくりとその巨体を海に沈ませていく。
パラサイトドールは、生物しか支配できない以上、非生物は天敵——には成り得ない。単にそれは、『パラサイトドールと戦える権利』を獲得するだけに留まるのだ。
じゅくじゅくと、クトゥルフの断面が蠢く。
「再生、しようとしてるのかな……」
かつての同胞を見下ろしながら、パラサイトドールは呟く。
身体能力、火力、防御力、いずれもクトゥルフよりパラサイトドールが圧倒している。
だが、再生能力に限っていえば、クトゥルフはパラサイトドールを上回っているようだ。
平時ならばともかく、クトゥルフの指摘通り、今のパラサイトドールは魔力の殆どを儀式の維持に回している。
戦術核に匹敵する熱線も、連発は出来ない。
負けることはなくも、このまま戦い続ければ千日手の可能性はある。 - 145◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:15:54
「……まぁ、そうはさせないんだけどさ」
ぼこ、と再生を続けるクトゥルフの額から、黒く細長いものが顔を覗かせた。
触手ではない。それには牙があり、爬虫類を模した顔があった。
影、である。影が、手足の無い竜を象っている。人間サイズではあるが、クトゥルフの体内から肉を喰い破って出現した竜は、そのまま周囲の肉を貪り始めた。
【これは……まさか、撃ち込まれ続けたあの矢は……】
「うん。あーしの影を、お前に打ち込むためのものだよ」
クトゥルフの身体中に隆起が発生する。
クトゥルフが怨嗟の声を上げながら、パラサイトドールに右腕を伸ばし。
「……じゃあね。お前の魔力はあーしの足しにさせてもらうから……」
影の竜が一斉にクトゥルフの体表を喰い破って外に出た。
そして、千切れ崩壊していくクトゥルフの肉体に噛みつき、捕食を開始する。
回復がまるで追いつかず、クトゥルフの存在が消えていく。
パトリシアが矢に変えてクトゥルフに当て続けた防壁に集まった者たち。一人の例外なくパラサイトドールに支配され、自由意志も無く特攻を強要された彼等、パラサイトエネミーには、それぞれパラサイトドールの影が付いていた。 - 146◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:17:34
取りついた本体が死ぬか、引き剥がされれば霧散する存在だが、クトゥルフの体表という、パラサイトドールと根を同じする存在であるため取りついた対象が死亡した後も霧散することなく残り続けていた。
それらが、一斉にクトゥルフを喰い散らかす。見る者を恐怖させる認識阻害も同族には効果が無く、パラサイトドールを上回る回復力もまるで意味を成さない。
海洋生物の死体に小魚が群がるようにクトゥルフは分解され、その輪郭を失っていく。
「……始まりの魔法少女(アイツ)ならともかく、竜であることから逃げて創作神話の殻を被った弱者に、あーしが負けるわけない……。
もう一柱も……十五年前にティターニアに負けて『天上』から転落したし……うん、儀式はもう成功したようなものだね……良かった、良かった……」
あまり余裕が無かった魔力も、クトゥルフを喰ったことで満たされていくのを感じる。
全てが、思い通りに進行していた。
懸念だった始まりの魔法少女は退場し、同格の邪神にも終わってみれば完全仕合。 - 147◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:18:11
もはや、パラサイトドールの野望を阻む存在は居ない。後は参加者に干渉しながら上手い具合に儀式を進行させていけば——完全復活できる。
陰鬱な表情に、喜色が宿る。
パラサイトドールは身を翻し、魔法王の城へ戻ろうとし。
「ん……?」
後方で、微かな気配を感じ取った。
「まだ、息があるのかな……」
けだるげに振り返る。
「………………え、何これ?」
呆気に取られた表情で、パラサイトドールはそれを『見上げた』。
クトゥルフの死骸。その足元から、火山噴火のように吹き上がるものがあった。
例えるなら、黒いマグマ。流体である。
それが、雪崩のようにパラサイトドールを呑み込む。
「悪足掻きは、辞めなよ」
爪を振るう。 - 148◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:19:15
無造作なその一振りで、ビルさえ両断できる破壊が発生し。
鮮血が迸った。
「え……」
今しがたのクトゥルフになぞらえるかのように、パラサイトドールの胸から腹にかけて、裂傷が生まれていた。
「まさか、この気味悪いものは……」
【ええ、それが私の本来の魔法。
受けた攻撃を、そのまま跳ね返すのよ】
死んだはずの、同族の声が響く。
【私の名は、クトゥルフではない。
我が名は——『イクナグンニスススズ』】
黒いマグマが、パラサイトドールを完全に呑み込み、そのまま海底深く潜った。 - 149二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:19:53
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- 150◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:20:27
◇
私は、素鈴の成長をずっと見ていた。
初めて幼稚園に登園した日も。初めてお友達が出来た日も。
小学校の入学式。自転車を買ってもらった日。ハムスターの飼育を始めた日。テストで100点が取れなくて泣いた日。友達と喧嘩した日。友達と仲直りした日。
九九に苦戦した日。犬を飼いたいとせがんで親と喧嘩した日。
フラフープにはまった日。フラフープに飽きた日。
初めてチョコを手作りした日。
50m競争で3番になった日。クロールを覚えた日。
インフルエンザに罹った日。インフルエンザを治した日。
キャンプに行った日。修学旅行に行った日。
小学校を卒業した日。中学校に入学した日。
……魔法少女になった日。
シュマちゃんを仲間にした日。スラくんを仲間にした日。 - 151◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:21:10
私は、ずっと素鈴を見ていた。普通の少女。我が分身体。無関心を司っていた私は、素鈴のことが気になって仕方なくなり、魔法少女という想定していた普通の人生から外れても、削除する気に成れなかった。
もっと、彼女を見ていたい。彼女がどんな人生を歩むのか、強い興味がある。
——素鈴に、幸せになって欲しい。
だから私は、自らの名を定めた。
とある創作神話、その派生に登場する神。素鈴と近い名前であれば、何でも良かった。
イクナグンニスススズ。
それが、私の名前。
素鈴だけの、神様の名前。 - 152◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:22:32
◇
【私は、お前の野望などどうでもいい。復讐も同様よ。
けど——素鈴をデスゲームに放り込んだお前は、万死に値するわ。
死をもって、償いなさい】
「……モンスター、ペアレントだね……」
パラサイトドールは、深海で吐き捨てる。
窒息、水圧……いずれも天上たるパラサイトドールの息の根を止めるには、まるで足りない。
マグマのような流体に全身を拘束されながらも、パラサイトドールの顔は皮肉気な笑みを浮かべていた。
攻撃すれば、そのままパラサイトドールへと跳ね返る。かつ、物理攻撃や熱線攻撃が、イクナグンニスススズに効く保証も無い。
だが、イクナグンニスススズもまた、パラサイトドールに致命傷を負わせる術は無い。
拮抗状態。
「……かったるいからさっきはやらなかったけどさ……あーしがお前を支配できないって、どうしてそう思うの?
邪神だ、何だって、馬鹿馬鹿しい……。あーしたちは、元々冒涜の竜……魔法生物じゃん……。その気になれば、お前を、支配できる……」 - 153◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:23:19
イクナグンニスススズに、強い負荷が掛かった。
流体が波打つ。
攻撃は跳ね返せても、支配までは跳ね返せないのか、パラサイトドールが支配のカウンターに苦しむ様子は見られない。
「すぐには無理だけど……すっごく疲れるけど……徐々にお前を支配していく。
今度こそ、喰ってやる………」
【支配……私を支配するのね、パラサイトドール。
だったら私は……同調(シンクロ)するわ】
「は? 一体何を……」
パラサイトドールを拘束する、数百メートル規模の流体。
その全てが光に包まれた。
そして、光の粒子が泡のように海面に向かって伸びていく。
「っ!? まさか、お前……」
【ええ、私は『天上』を降りるわ】
格下からのあらゆる干渉を排除し、その絶対性を保証する『天上』。 - 154◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:24:15
イクナグンニスススズから、それが、剥がれ落ちていく。
強大で、隔絶して、巨躯であり——しかし、相性次第で倒せる存在へと、自らを零落させていく。
そして、同調(シンクロ)の宣言通り、その現象は、イクナグンニスススズだけでは無かった。
「ぐっ、うううう……」
パラサイトドールからも、光の粒子が立ち上っていく。
押しとどめようともがいても、掌の隙間から零れ落ちる。
「こんなものは一時的なもの。この拘束を脱すれば……あーしは、すぐ、『天上』に返り咲く……」
【ええ、だけど天上じゃなくなったお前は、深海で生きられないわ。人の姿でも、竜の姿でも、水中で呼吸は出来ないもの。
終わりの時よ、パラサイトドール。私のタブー(素鈴)に触れたことを後悔しながら、死んでいきなさい】
パラサイトドールは、唸り声を上げた。 - 155◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:32:39
拘束から脱しようともがくが、もがいた分だけ圧力がパラサイトドールへと跳ね返る。
そうこうしている間に、パラサイトドールの身体から粒子が零れていく。
あるいは、儀式の維持を諦めれば莫大な魔力をこちらに回せ、イクナグンニスススズを一気に支配下に置き、脱出が叶うかもしれない。
だが、一度儀式の維持を辞め、再開するには、もう一度参加者の選定からやり直さなければならない。参加者はあの数、あのメンバーでなければ意味が無いのだ。『次世代』が産まれるまで、再び長い時を待たねばならず、それは追い出した『始まりの魔法少女』が降臨する可能性を増していく。
しかし、天上を剥奪された状態で深海に留まり続ければ、パラサイトドールとて死ぬ。
パラサイトドールは悔し気に呻き。
「……けど、あーしは一人じゃないから」
水面から真下に向かって、光の閃光が打ち込まれた。
イクナグンニスススズの流体は光に貫かれ、その身をのたうたせた。
「……ありがとうね、パトリシア」
クトゥルフの残骸。その縁に、死んだはずのパトリシアが立っている。 - 156◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:33:42
弓を番え、命中を確信したパトリシアはその場に崩れ落ちる。
【馬鹿な……パトリシアは死んだはず……】
「あーしがちょっと干渉してね……、支配で能力を底上げして、矢になった後も活動できるように調整したの……まぁ、それでも魔力が足りなかったから、お前の……ああ、お前が偽ってたクトゥルフの肉を喰って回復してもらったんだけどね」
イクナグンニスススズの流体が、パラサイトドールから離れて行く。
「やっぱり思った通り。あーしを拘束することと、あーしの支配に抗うことと、あーしの攻撃をカウンターすること。おまけにあーしに同調を強要すること。天上から降りながら全部処理してたら、不意打ちの一撃は、カウンターも出来ずに通るよね」
【……だったらもう一度拘束するだけよ】
「いや、もう無理だよ……」
【っ!?】
流体に、罅が入っていく。変幻自在に動く体が硬直し、各場所で砂のように流れていく。
「あーしたちは、同調してたんだよ……。
核の位置くらい、とっくに把握してるよ。
『天上』を失いつつあった今のお前にとって、パトリシアの一撃は致命傷だった。
今度こそさようならだよ、『私』。ここまで手こずらせたこと、褒めてあげる」 - 157◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:34:04
天上も、半ば剥がされた。再び『天上』に返り咲くには、些かの時間を必要とする。
想定以上の苦戦だった。
核を撃ち抜かれたイクナグンニスススズの身体が崩れていく。
もはや彼女の死は確定している。カウンターを警戒し手を出すことはしないが、パラサイトドールは同族の死を見届ける。 - 158◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:35:12
◇
死ぬのだな、と思った。同時に、それだけは駄目だとも思う。
積極的に自死を選ばずとも、揺蕩うように生きてきた自分が、ここまで生命に執着している。
それも、やはり素鈴の影響なのだろう。
(私が死んだら……分身体の素鈴も消えるわ……)
それが定め。邪神本体と、邪神の分身体である者の、因果関係。
(だから私は、始まりの魔法少女が退場するまで、待つ必要があった)
素鈴を助けに顔を出し、万が一にも竜の残り香を察知されて出張られて殺されれば、全てが水の泡だ。
だが、結果は残酷だ。
クトゥルフという著名な邪神のフリをし、天上を投げ捨ててまで掴もうとした勝利は、掌の上から零れた。
イクナグンニスススズは死に、連鎖して素鈴も死ぬ。
それが、彼女の結末。 - 159◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:36:12
(……ふざけるな)
怒りが、胸中より沸き上がる。
ゲームを開いたパラサイトドールへの怒り。無為に揺蕩い時間を浪費した自分自身に。何より、素鈴が死ぬという現実に。
(——そんな現実)
余力を振り絞れ。残った天上をかき集めろ。死に物狂いで足掻け。
現実を覆すからこそ、魔法は魔法なのだから。
(——邪神(おねーちゃん)が、ひっくり返してやる……!)
——因果が、逆転を始めた。 - 160◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:36:43
◇
パラサイトドールは瞠目した。
イクナグンニスススズの身体が急速に崩れていく。
致命傷は与えたが、あまりにも早すぎる。まるで幼児が気に入らない粘土を潰すかのように、蜥蜴が尻尾を切るかのように——自己の生存に執着しなくなったかのように。
(……元々、こいつが司ってたのは、無関心。最後に自分の命にも無関心になったてことなら……筋は通るけど……でもこれは)
違う、と気づく。 - 161◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:37:26
捨て鉢になったわけでも、諦めたわけでもなく。
(っ……魔力が)
イクナグンニスススズが蓄えていた魔力。それが粒子化することも、霧散することもなく——どこかに転送されている。
「お前……まさか」
【素鈴……】
カウンター覚悟で、パラサイトドールは爪を一閃した。流体が粉微塵に切り裂かれる。
だが、時すでに遅し。既に転送はほとんど終了し。
【どうか、幸福な人生を】
祈りと共に、イクナグンニスススズの身体は、粒子と化し、海中に溶けていった。
(最後の最後に、やってくれる……)
自分と同じく、天上を剥がした身。例え魔力を注ぎこまれたとて、素鈴が直ちに天上に昇格したわけではない。
だが、限りなくそれに近い場所に身を置いたのも事実。 - 162◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:38:43
(万が一にも天上に覚醒する前に、命を摘む……?
けど、今のあーしも不完全な状態。これであにまん市に降りるのは、ほんのちょっぴり、危険かな……)
しばらく待てば、天上に返り咲くことは出来る。恐らく、一時間もかからない。
元々熟練者でもなければ、知識も無い素鈴が、たった一時間で覚醒するとは思えない。
回復するまで待ってから、かつてのブラックブレイドのように一方的に処刑する。
それが最適解。
ならば、魔法王の城で身を休めるかと、パラサイトドールは海上まで飛び上がり。
緑色の髪をした、とある魔法少女のことを思い出した。
(……テンガイとワンフロムアウターは、同じエリアか……)
翼で羽ばたきながら、顎に手を当て、思案する。
弱体化したとはいえ、テンガイの知識は据え置きである。ワンフロムアウターに干渉して天上に押し上げることも、あるいは、その力を奪い取り、自ら天上に躍り出る可能性も——零ではない。殆どあり得ない仮定だが、決して零ではないのだ。
(……何もあのエリアに居る参加者全員を相手取るわけじゃない。
ワンフロムアウターだけ殺して、魔力を奪ってさっさと城に戻ればいい……。
うん、大丈夫、いけるいける。
まぁ……全員相手にしても、勝てるけどさ……)
それは、傲慢でもなければ、虚勢でもなく、純然たる事実である。
パラサイトドールは、魔法の国と人間の国を繋げる道を魔力で作り出し、そこに飛び込んだ。
「安心してよ……『私』。すぐにワンフロムアウタ―もそっちに送ってあげるから」
サディスティックな笑みを浮かべながら、竜の少女はあにまん市に向かって飛び続けた。 - 163◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:40:39
◇
『天上を、地まで引きずり降ろそう』
とある詐欺師が生前に言った言葉である。彼女の目論見はどこまで成功していたのか。
『——だけど、この未来は悪くない』
とある予言者が、誰にも遺すことのなかった言葉である。彼女には、この未来が見えていたのか。
かくして、黒幕は絶対性を失った身で、舞台に上がることとなった。
僅かな可能性を、魔法少女が手繰り寄せるのか。竜が一方的な蹂躙をするのか。
——ゲームは加速し、一気に終盤に向かおうとしていた。 - 164◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:40:57
【邪神・イクナグンニスススズ 消滅】
投下を終了します - 165二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:41:37
乙です!
規模のオカシイ姉妹喧嘩だった… - 166◆xaazwm17IRZa24/09/23(月) 09:41:51
次の投下は水曜日の予定です……いつも感想や保守を、ありがとうございます
- 167二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 10:45:35
あれぇ…?残りの1柱『好奇心』の首もティターニアに倒されてる??
じゃあニャルセーヌは何者?? - 168二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 10:51:50
乙でした〜
今周が一巡したらいよいよ運営本部戦に突入しそう…
パラさん以上の格のラスボスってなるとそれこそ始まりの魔法少女とかなのかな? - 169二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 15:23:01
野生の神かもしれん
- 170二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 23:29:14
意識外から放つパトリシアの矢に弓兵の本領を見た
やはり相手と状況が悪かったんだな… - 171二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 07:46:32
切り落とされた邪竜の首から生まれ落ち、七つの感情のうち『無関心』を司る黒い流動体
↑
これ味方です - 172二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 16:32:45
保守
- 173二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 17:31:53
しかしこれでパラサイトドールが斃れれば、オシウリエルと内通者もう一人の目的はひとまず達成されたことになるな
魔法国の主力部隊を遠征させ、かつ間接的に邪神襲撃の原因を作ったパンデモニカさんやっぱり怪しくない?? - 174二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 21:03:35
怒らないから裏切り者は手を上げなさい
- 175二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 02:28:09
ほーい
- 176二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 07:42:34
オシウリエルがハッタリかましてた頃には想像する事も出来なかった事態へ進んでいく…
- 177二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 17:40:13
保守
- 178二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 23:23:33
ワンフロムアウター単体だけ相手取れば良いと甘い思考をしておる
- 179◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:37:10
投下します
- 180◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:38:13
妃咲希(きさきのぞみ)。魔法少女ティターニア。27歳。高校社会科教師。九歳の時に魔法少女に覚醒し、魔法少女暦16年の大ベテラン。
あにまん市で最強の魔法少女。
好きなものは強者との戦い、嫌いなものは負けること。
(きっついなぁ……)
と、ティターニアは思った。
空に浮かぶは、赤黒く変色した騎士甲冑を纏う魔法少女。アグネア・ミストリル。ティターニアより一回り年上で、魔法国近衛騎士団団長。最強の魔法少女。
清廉潔白を地で行く彼女がどうして襲ってきたのか、ティターニアには何となく察しがつく。汚れた騎士甲冑、流れる血涙、見る影も無い戦闘技術。操作、洗脳といった魔法によって、アグネアは敵の操り人形と化したのだろう。
(まぁ……あのアグネアさんが、殺し合いなんか良しとするわけないものね……)
かつて、ティターニアは近衛騎士団に在籍していたことがあり、アグネアの人柄はよく知っている。
(何度説教されたか分からないな……)
遅刻、忘れ物、書類未提出、備品紛失……。 - 181◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:38:38
自分が社会人としてやっていけてるのは10代の時にアグネアに厳しく指導されたから、ともいえる。
そんな恩人が、今、望まぬ戦いを強いられている。
助けなければ、とティターニアの正義の心が燃え上がる。
——同時に、こうも思うのだ。
(やっぱり私は、間違っていなかった)
ゲームが始まってすぐに、ティターニアはメンダシウムという運営からの刺客と戦い、仲間の協力と、犠牲もあって何とか撃破した。
その時に、思ったのだ。
敵がこの強さならば……自分は、魔力を温存しておいた方がいいと。
当初考えていた、市内を走り回り、遮る敵をぶっ倒して、生徒や善良の魔法少女を助けて周る、という案を撤回した。
それをすると、再び運営の刺客が姿を表した時に、敗北する可能性があったからだ。
死ぬのが怖いのではない。いや、正直めちゃくちゃ怖いけど、それだけではない。
最強には、最強の役割がある。 - 182◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:38:59
メンダシウムが運営陣で最強ならばともかく、彼女と互角、あるいはそれを上回る敵が出てきてもおかしくは無い。
そして、それを抑えることが出来るのは、自分だけだ。
それに、魔法少女同士の戦いは、結局は相性。相手が魔法を発動する前に倒せ、という教えも、相性バトルを避けるためだ。
いくらティターニアが最強といえど、予期せぬ相性で後れを取ることだってある。他の魔法少女で対処できるような相手にうっかり殺され、その結果、本当に必要な場面で不在(故人)でした、なんてことにもなりかねない。
メンダシウムを降した後、ティターニアは天城千郷を確保、その後は山田浅悧を探し回りはしたが、学生街から出ることはなかった。
そうこうしているうちに、夜が明け、放送が始まった。
『玉柳水華』『田中空』『木羽マミ』『陣内葉月』。知っている名前が、次々と呼ばれた。いずれも、ティターニアが積極的に繰り出していれば、助けられたかもしれない。
生徒たちの名前もたくさん載っていた。魔法少女として指導している名もあった。子どもの時からの友人の名前もあった。 - 183◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:39:42
やはり、助けに向かうべきだったのか? 万が一の敗北を恐れて、学生街に籠ったのは間違いだったのか。
だが、名簿には『テンガイ』『ブレイズドラゴン』『クライオニクス』という、一度は戦った、あるいは逸話を耳にした、強者たちの名も記載されていた。
もし、彼女たちと消耗している状態でぶつかれば……確実に勝利できるとは、断言できない。
そして、自分が倒れると、彼女らを止められる者もそうはいないだろう。
その程度の自負はある。自分より明確に強いと断言できるのは、アグネア・ミストリルくらいだ。
学生街に留まったのは正しかったのか、間違いだったのか。
ティターニアは思い悩み。
(私は……正しかった)
アグネアの剣から放たれる炎は、太陽の炎熱であり、戦略兵器級の威力を持つ。
洗脳によるパワーダウンか、あるいは何らかの意図があるのか、現状はその100分の一程度の威力に収まっているが、それでも街に向けて放たれれば数百メートルは灰燼と帰す。 - 184◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:40:10
避けたり、弾けば、それだけで人が三桁単位で死ぬ。
だから、ティターニアのように
「マジカル・ストラッシュ!」
相殺するしかない。
相殺した分だけティターニアの魔力量は増えるので、理論上は永遠に相殺が可能だ。
つまり、一般人を誰一人犠牲にせずにアグネアを相手取れるのは、参加者でティターニアだけなのだ。
もし、当初の予定通り、市内を走り回り、戦いまくっていたら、メンダシウム戦の後、同格と激闘を展開していたら。今の拮抗は無かった。ティターニアの判断は、正しかったのだ。
(そう、私は間違っていない)
けれど、心は晴れることはない。
(……12歳の私なら、後先考えずに走り回っていた)
衝動に任せて駆けまわり、きっと無為に死んだのだろう。 - 185◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:40:32
(あの頃の私より、今の私の方がずっと強い。頭も良くなったし、体力もついた。基礎的な技術も磨いたし、剣道の腕前だって段違いだ)
100回戦っても、100回勝つ自信がある。
(でも、あの頃みたいな爆発力は、今の私には無い)
きっと、12歳のティターニアがゲームに参加していたら、最初の放送前に命を落としていただろう。
けれど、12歳のティターニアならば——魔法少女を全て助けて、誰一人犠牲にすることなく、魔法王をぶっ飛ばし、ハッピーエンドに導けた。0.001%程度の僅かな可能性だが、それを成せる爆発力を秘めていた。
(あの頃の私にあったものが、今の私には、無い)
それが何なのか、ティターニア本人も分からない。
若さなのか、幼稚さなのか、自信なのか、信念なのか、愛や正義なのか、夢や希望なのか。
今でもそれらは持っているはずだが、あの頃には出来たことが出来なくなっていると、そう実感するのだ。 - 186◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:40:54
放送で生徒たちの名が呼ばれたとき、ティターニアはショックを受けた。が、泣くこともなければ、狂うこともなく、絶望することもなかった。……心のどこかで、覚悟をしていたからだ。
今も、アグネアを助けたいと思う。だが、無理かもしれないな、と諦めてもいる。アグネアの命を助けることに固執して、他の命を犠牲にしては本末転倒だ。
恩人を助けるためなら、一般人が何人死のうと構わない……そんな選択を、ティターニアは選べない。
「だけどまぁ……」
上空に浮かぶアグネアに語り掛ける。
「やるだけやってみるか」
今のアグネアの、戦闘方式は、概ね掴めた。絶対に反抗されないように強く縛ったのだろう、アグネアを真に強者たらしめていた戦闘IQは見る影も無く、単純なプログラミングしかされていないロボットのようなものだ。
万が一にも読み違えば人が死ぬため、確証を得るまでは慎重に立ち回っていたが、もう十分だと、区切りをつける。というか、これ以上はティターニアの身が持たない。相殺の度に魔力は回復するが、撃った際の反動は据え置きだ。 - 187◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:41:26
「マジカル——」
剣に魔力を籠める。
アグネアも、合わせるように剣に魔力を籠めはじめた。
ここまでは想定通り。マジカル・ストラッシュを発動しようとすれば、アグネアは近接戦ではなく、炎熱の撃ち合いを選んでくる。今のアグネアに近接戦闘スキルが失われているからだろう。
そこを、突く。
「どりゃあああああああああ!」
気合と共に、ティターニアは剣を投げた。
マジカル・ストラッシュを撃つために魔力が込められていた大剣は、並の魔法少女を遥かに超える身体能力のティターニアの膂力によって、上空へと浮き上がる。
即座に、ティターニアは変身を解除した。
青いドレスの騎士から、ジャージへと切り替わる。
アグネアは、ティターニアではなく、投げられた剣の方に顔を向けた。
(思った通りだ) - 188◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:41:51
今のアグネアは、魔力の強い方へ反応する。
ストラッシュ一発分の魔力が込められた大剣と、変身を解除した妃咲希ならば、反応するのは大剣の方だ。
かくして、大剣目掛けて、アグネアは剣を振るった。
炎熱が空に向かって撃ちあがる。
火山の噴火にも似た一撃。それを見届ける時間は、ティターニアには無かった。
(今だ!)
即座に再変身。同時に、大剣を具現化する。更に重ねて、魔力を一気に放出し、大剣に籠め。
「マジカル・ストラッシュ!」
変身とほぼ同時に放たれた光の一撃に対して、アグネアが出来た反応は、慌てたように首を動かすだけだった。
炎で迎撃することも出来ず、墜ちた女騎士が、光に呑み込まれる。
獣じみた断末魔が微かに聞こえたが、それも轟音の前に掻き消された。
光が霧散すると同時に、ドレスを着た妙齢の女が地上目掛けて落下を始めた。 - 189◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:42:13
ティターニアはそれをキャッチすると、そっとアグネアの顔色を窺う。
(意識は喪っている。目からの出血は……止まってない。魔法によるものだけじゃないってことかしら。人間界の病院で治療可能? それとも、魔法の国に運んで……は、無理か。魔法王がおかしくなってるし)
助けた、とはまだ言えないのだろう。
再び暴れ出すようなら——息の根を止めることも、選択肢に上がって来る。
(けど、犠牲0で無力化出来た。うん、私にしては上出来よね)
ひとまず、人払いをお願いした天城千郷と合流するべきだろう。……彼女も彼女で、かなり危険人物であり、アグネアも抱えると一人で二人の危険人物を管理することになる。そのことを思うとかなり憂鬱になるティターニアだったが
(まぁ、そんなことも言ってられないわよね。大人だし、先生だし。山田さんも探さなくちゃ……無事だといいけれど)
山田浅悧は強い。が、このゲームの上位陣の実力は、今の彼女では及んでいない。
天城と合流後、一旦部屋の魔力草を食べて、再び捜索に行くべきだろう。
そう考え、ティターニアは天城が操作しているロボに声をかけるべく、立ち上がった。 - 190◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:42:51
「やっほー、のぞみちゃん~。久しぶり、おいちゃんだよ~」
「うっす、ああああッス」
「……………………あ?」
後方から声をかけられた。
ティターニアはゆっくりと振り返る。こめかみには青筋が浮かんでいた。
「蟹……それに、帽子の奴……」
その声には、重ささえ感じさせる怒りが込められていた。
あ、あれ……? とああああは冷や汗をかきながら、デッドマンズ・ハンドに顔を寄せた。
「友人同士って話でしたよね? オオカワウソの情報を渡したら、ティターニアへの誤解を解いてくれるって、そういう話でしたよね?
なんか、友人どころか因縁の相手に遭遇したみたいな雰囲気なんですけど。
本当に仲良かったんすか?」
「うん、一緒にディズニー行ったことあるくらい仲良し。おいちゃんが裏切って仲間が一人死ぬ破目になってからは疎遠だけどね~」 - 191◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:43:45
「世間じゃそれを敵同士って言うんだよ!?」
敬語も忘れデッドマンズ・ハンドに叫ぶああああ。デッドマンズ・ハンドはそれを飄々と受け流し、こちらを睨むティターニアに視線を向けた。
「のぞみちゃんとは色々話したいことあるんだけどさ~、あ、まず言っとくと、おいちゃん、殺し合いのことは知ってるから。ペナルティの対象じゃないから、安心してね~」
「いや、帽子の奴と一緒にいるからわかるわよ、それくらい」
ティターニアの声色は、どこまでも冷たい。
「……何の用? 今、蟹の相手してるほど、暇じゃないんだけど」
「冷たいなぁ~。同窓会トークしようよ~」
「見逃してあげる、って言ってるのが分からないの? あんた、魔法国でバリバリ指名手配されてるの知ってるよね?」
「その魔法国が、殺し合い開催するくらいおかしくなってるの、のぞみちゃんも知ってるでしょ~。
まぁいいや、本題に入るね」
ああああはデッドマンズ・ハンドの顔を窺う。 - 192◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:44:12
「のぞみちゃんの教え子の、山田浅悧って居るじゃん。たぶん今から探しに行こうと思ってたんだろうけど。
ごめんね、半分くらいおいちゃんのせいで、その子死んじゃったから」
「…………」
ティターニアは、言葉を返さなかった。ああああは知っている。人は、雄弁でるときより、寡黙になった時の方が、恐ろしい。
「あんまり驚いてないね。覚悟してたのかな。まぁ、殺し合いの最中で行方不明になるって、十中八九、そういうことだもんね~」
「蟹」
と、ティターニアは言った。
「——失せろ。2度と顔見せるな」
教師らしからぬ、魔法少女らしからぬ言葉だった。部外者のああああでもその場を逃げ出したくなるほどの圧。
それを受けてデッドマンズ・ハンドは、どこか寂しそうに微笑んだ。
「どうして殺してくれないのかなぁ……」 - 193◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:44:40
ああああでも辛うじて聞き取れる程度の小声。デッドマンズ・ハンドの言葉の意味が分からず、ああああは首を傾げた。
「……おいちゃんは雇われ人だからね~。自分の意思でおいそれと帰れないんだよね~、はぁ、昔は良かったなぁ」
先ほどまで僅かに見せた憂鬱を覆い隠すかのように、デッドマンズ・ハンドはからからと笑い声をあげた。
ティターニアは、剣先をデッドマンズ・ハンドに向ける。
ああああは、生唾を呑み込んだ。マジカル・ストラッシュを『拒絶』できることは、数時間前に実証済みだ。
それでも、オオカワウソとはベクトルの違う圧に、ああああの心臓はビートを刻んでいた。
「……おいちゃんも、のぞみちゃんとやる気は無いよ。おいちゃん、喧嘩弱いからね~。舞衣ちゃんみたいに、ビーム避けたりできないし。
それでものぞみちゃんに会いに来たのは、まぁ山田浅悧の死もあるんだけど、それだけじゃなくて、のぞみちゃんに耳よりの情報を伝えようと思ってね~」
「その情報を、私が信じるとでも?」
「どう扱うは、のぞみちゃん次第だよ~。
聞くだけタダだけど、どうする?」
けらけらと笑うデッドマンズ・ハンドに対し、ティターニアは。 - 194◆xaazwm17IRZa24/09/26(木) 01:45:50
投下を終了します
次の投下はけっこう間が開いてしまって、日曜の予定です
感想&保守、いつもありがとうございます~ - 195二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 07:38:25
乙です!
デッドマンズ・ハンド、夢の国の使者だった - 196二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 08:04:51
乙でした〜
刺客中最大の敵っぽかったアグネアを割とあっさり無力化できたのでティターニアはまだ誰かと戦いそう - 197二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 08:15:39
ティターニアさん、やっぱり魔力の吸収・回復って能力はバトロワに置いて最強だな…
多対一での消耗線や変身解除系の切り札がほぼ意味をなさない - 198二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 08:19:27
デッドマンズハンドはまだワンチャン参加者側に寝返る目がありそうかな…ここからパラさんが降りてくれば上手く立ち回って一時共闘だ!ってできそうだし
- 199二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 09:36:53
今回のを踏まえると大人になると「総合力は上がるけど奇跡は掴み取れなくなる」というのが魔法少女の性質なのかな
実力不足で99%以上の確率でしくじるけど幼少期は奇跡を起こしてなにもかもうまくいく可能性を掴み取ることがあると - 200二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 13:09:33
オオカワウソみたいに本体は死んだけど分身体は残るパターン来たりしないかなワンフロムアウター
- 201二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 13:35:17
「まだティターニアがいる」が敵への牽制にも味方の希望にもなるから、結果としてはマジで温存して正解だったよティターニア
先生だし心情的にはそう思えないだろうけど… - 202二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 23:16:55
「まだティターニアがいる(希望)」と見るか「もうティターニアしかいない(絶望)」と思うか…
後者はおそらく本人が一番抱いてそうな感情なんだよな - 203二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 07:45:26
魔法国が壊滅してる事知らないのは結構危ないね
もしくは案外生き残りがいたりして - 204二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 08:51:14
耳より情報…パラさんの件はデッドマンズ・ハンドが知るはずもないし何の話だ…?
- 205二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 16:03:56
保守
- 206二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 23:50:10
今以上の力を爆発力で出して土壇場を潜り抜けてきたっぽい発言が何気に見れて嬉しい
- 207二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 08:56:27
保守
- 208二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 17:47:15
このレスは削除されています
- 209二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:37:31
保守
明日を待つ… - 210二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 08:46:58
今夜を待つ……
- 211二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 10:05:24
- 212二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 17:07:33
保守
- 213二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 23:22:11
待機!
- 214◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:45:14
帰宅遅くなってしまい、思ったより書けなかったのですが、一旦投下します……!
- 215◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:45:43
激動だ、と素鈴は思った。
殺し合いを宣告されて六時間、参加者の誰とも遭遇せず、暢気でコンビニで夜食を食べていたことを考えると、放送はあり抜刀金と出会ってからは、次々と状況が変化していく。
抜刀金の身の上話を聞いている途中、突如彼女はその名の通り抜刀した。
といっても、素鈴の目には抜刀の瞬間は見えず、それどころか、刀身さえ見えなかった。
「素鈴殿! 屈まれよ!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
突然怒鳴られ、わけもわからず、素鈴はその場に屈みこむ。
素鈴を守るように、シュマちゃんとスラくんが手(?)を広げる。
更に彼女たちを守るように抜刀金が一歩前に出て。
——アスファルトに、無数の亀裂が走った。
抜刀金が斬り落とした矢の余波だが、素鈴にそこまでのことは分からない。
ただ、今自分は攻撃されていて、抜刀金が迎撃している、ということだけは理解できた。 - 216◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:46:16
(うう……怖い……)
初めての殺し合い。デスゲームの恐怖を、他の参加者より周回遅れで、ようやく素鈴も感じ取った。
生まれた時からあった『誰かに見守られている感覚』も、消え失せてしまっている。
抜刀金と一緒に戦う。頭ではそう思っても、身体は恐怖に縛られて動けない。
「…………む、退いたか」
抜刀金は、構えを解いた。どうやら危険は去ったらしく、素鈴は安堵の息を零す。
「えっと、あ、ありがとうございます、守ってくださって……」
「困った時は助け合いで御座るよ」
(いや、私が抜刀さん助けるとか、たぶん無理かな……)
頼りになりすぎる。同じ魔法少女でも、まるで別物。
(この人でも逃げるしかなかったテンガイって、どれだけ化物なの……)
もしかして、この殺し合いで最弱は自分なのでは……と素鈴は不安に駆られた。 - 217◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:46:41
いつもなら、それでもきっと何とかなる、と漠然と信じられていたが、何故だか今は、自慢の形状記憶メンタルが上手く機能していないように思えた。
「っていうか、私たち、何をされてたんですか……?」
「狙撃、で御座るな。斬った感触からして、矢……いや、空気を矢に変えたもの、と表現するべきか……恐らく、そういう魔法かと」
「何そのチート……っていうか、抜刀金さん、どうして狙撃が来るって分かったんですか?」
「拙者は、少し前に、同行者を狙撃されて失った。故に、二度とあのような失態を冒さぬべく、常に狙撃に気を配っていたで御座る」
「な、なるほど~」
(狙撃って、気を配れば分かるもんなんだ……。武術習ってる人って、すごいなぁ……)
もし殺し合いを脱出できたら、自分も武術を習った方がいいのかもしれない。剣道とか。
「退いたはずで御座るが、晦ましかもしれない。素鈴殿、あまり拙者から離れないように……む」 - 218◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:47:04
一難去って、また一難。
耳障りな羽音が、周囲に響く。
「新手、で御座るな」
今度は、素鈴も察知できた。というより、狙撃と違い、素鈴のような普通の魔法少女でも、魔法少女ではない者にだって、接近は察知できたであろう。
誰もが覚えがある、耳元を飛ぶ虫の羽音。それと同質の、しかし爆音が、迫って来る。
飛来したのは、虫だった。蜂、蝶、蛾、蠅、蝉、飛蝗。様々な種の虫の群れが、二人を目掛けて飛んでくる。
(え、大きい!)
素鈴は息を呑んだ。どれだけ育っても、虫はせいぜい20、熱帯でも30cm程度であろう。
だが、今迫る虫たちは、皆1m、中には2mを超える個体も居た。
「中々、悍ましい光景で御座るな」
「確かに、もう少し小さいと可愛いんですけどね」
「いや、それはどうだろうか……」 - 219◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:47:27
歯切れが悪い抜刀金に、嗜好の違いを何となく察した素鈴だったが、節足動物の可愛さを布教している場合ではないと自重する。
今やるべきことは、こちらに迫るエネミーへの対処だ。
殺し合いの経験は無いが、エネミー退治の経験はある。
素鈴は、シュマちゃんとスラくんに指示を出そうとして。
「……!? 何これ!?」
突如、素鈴の身体に大量の魔力が注ぎ込まれた。今までが、ポリタンクに溜まった水だとするなら、注ぎこまれた魔力量は湖に匹敵する。無尽蔵かと錯覚してしまうほどの、あまりに膨大過ぎる魔力量。
「素鈴殿……!? その力は一体……!?」
「知らないです……本当に、何コレ!?」
魔力量が増えて嬉しい、といった感慨すら湧かない。今までの素鈴とはもはや存在の規模さえ変わってしまうほどの急成長。
「それに、どうして……涙が……」
殺し合いの中で強くなるのは喜ばしいはずだ。なのに、素鈴の心はたまらなく締め付けられた。 - 220◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:48:01
まるで、大切な人を失ってしまったかのような喪失感。
「でも……これなら……」
使い魔(友達)を使った迎撃を、する必要は無くなった。イマジネーションを、そのまま形に出来る。神様のように。
「みんな、私の友達になれ~!」
子どものような願い。迫っていた巨大化昆虫の外殻に、魔法陣が浮かび上がる。
「む、これほどの魔法陣を一度に……!」
その神業に、抜刀金は舌を巻いた。
巨大化昆虫の群れは、行進を停止する。
素鈴は確信を持って、両手を指揮者のように降る。その動きに合わせて、昆虫たちは上下左右に、踊るように飛び回る。
「これが、素鈴殿の魔法で御座るか……エネミーを使役できるとは、見事で御座る」
「シュマちゃんとスラくんのときは、もっといっぱい戦って、すっごく疲れたんですけどね……今は、こんなにいっぱい友達にしても、全然疲れない。
あ、君は蠅だからベルちゃんで、君は飛蝗だからほっくん、君は……」 - 221◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:48:28
「律儀で御座るなぁ」
素鈴の異様な力を、抜刀金はそういうものだと受け入れた。元々素鈴本来の実力も知らず、殺し合いで遭遇したテンガイ、あるいはクリックベイトを通してスピードランサーなど、魔法少女の上位層は知っている。遭遇したエネミーの群れを一方的に、一動作で、一切の疲労なく、『支配』してみせた素鈴の異常性を、それほど気にしなかった。
「しかし、さすがにこの群れを率いると目立つのでは御座らんか? 偵察に使うにしても、魔法少女でない者から見れば卒倒もので御座るし……」
「確かに、可愛いと視線誘導されて大変ですもんね」
「むむ? もはや、間違えてるのは拙者の方でござるか?」
「よくわかんないですけど、大丈夫です。普段は待機してもらってるので」
素鈴の宣言通り、巨大化昆虫たちは魔法陣に包まれ、姿を消していく。
「便利で御座る」
収納どころか具現化すら出来ない(抜刀金が振るう刀は魔法で作り出したものではなく、道場に保管されている名刀である)彼女には、素鈴の利便性は羨ましさすら感じる。 - 222◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:48:56
「否、拙者の修行不足か」
と、肩を落とす。
素鈴は目元を擦ると、抜刀金に笑いかけた。
「私、なんとかなる気がしてきました。悪い人はいっぱいいるし、死んじゃった人もたくさんいるけど、けれど、私だって強くなれたし、抜刀金さんみたいな、強い魔法少女とも仲間になれた。他にも強い魔法少女と協力すれば、きっとこのゲームだって」
抜刀金も、笑みを浮かべ、素鈴に頷いた。頷こうとした。だが、首がぴくりとも動かないことに気づいた。
——背筋が凍る。
一流の武芸者である抜刀金は、自分が今、致命的な状態に陥ったことを自覚した。
異変に気付いた素鈴が抜刀金に声をかけようとし、やはり、身体が動かないことに気づく。
全身を、固定されている。魔法に違いない。だが、ここまで一方的で絶対的な魔法が、果たして存在するのだろうか。
「…………面倒くさいよね……」 - 223◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:49:21
陰鬱な声が、二人の耳朶を震わせた。
「結局、二度手間じゃん……面倒くさいなぁ……」
暗がりから現れたのは、一人のギャルであった。
少なくとも、素鈴からは、そう見えた。
だが、抜刀金は違った。
(何者だ……!?)
武術家、剣術家の纏う空気とは、また異質。歩き方、立ち方で、その者のもつ技術は、察することが出来る。だが、気怠い外側の中に、とてつもなく獰猛な、獣を飼っている。
否、これを「獣」などと表現していいのだろうか。
抜刀金の鋭敏な感覚が、現れた少女の中に潜む怪物を察知し、警鐘を鳴らし続けていた。
目の前のこいつは、人がどうこうできる相手ではない、と。
「あんまりこっちで減らしちゃうと、儀式の完成度が下がる……だから、二人には悪いけど、自害してもらうね……」
ぱちり、と少女は指を鳴らした。 - 224◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:50:34
ゆっくりと、鞘から刀が抜かれる。刀身に映ったのは、歪んだ抜刀金の顔。
そして、刃はゆっくりと首元に向かう。
悲鳴すらあげられない。
(拙者は……ここで死ぬのか……!? 何も為せず、ただ無為に……)
無念が、胸を突きあげる。だが、身体の支配は解けず、ゆっくりと、首に刃が。
「——こんにちは、臆病者」
少女は、怪訝な顔をして振り返る。
緑色の髪が、風に靡いた。
「…………こんにちは、勇者一行の裏切り者……。
一体、何の用?」
「おいおい、僕様は魔法少女だぜ」
緑色の髪の少女と、ギャル少女が、顔を突き合わせる。
「ドラゴン退治に決まってんだろ」
- 225◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 00:50:47
投下を終了します
- 226◆xaazwm17IRZa24/09/30(月) 01:01:21
次の投下は火曜日の予定です……!
- 227二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 01:15:30
乙 リベンジ…というか1度目は対面すらできてない相手との戦いね
積み重ねたものが勝つのか、それとも零落してなお竜が勝つのか… - 228二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 07:40:53
わぁ…!気になる対戦カード!
- 229二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 13:03:33
勝つなら今しかないというタイミングだがどうなるか
- 230二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 18:45:03
なんか行けそうな雰囲気だけど今のテンガイがここからどう勝つのか楽しみ
- 231二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 23:12:36
道中、裏切ろうとも最終的にはドラゴンを退治出来ればそれでいい
テンガイ…あんたって奴は… - 232二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 07:48:19
テンガイの乱入なかったらあっさり脱落してた こわぁ…
- 233二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 11:11:11
梟に魔法渡した説とかある?
- 234◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 15:19:17
投下します
- 235◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 15:26:24
ワンフロムアウターは、現状がまるで理解できていなかった。
突如溢れた莫大な魔力に、突如現れたギャル。
そして、支配された自分の身体。隣で抜刀金が刀を抜き(刀身を見たのは、この時が初めてだ)じわじわと首元に近づけるのを、黙って見ていることしか出来なかった。
(あ、そっか、私たち……殺し合いを、してるんだ……)
抜刀金の話の中に出てきた『テンガイ』、狙撃、巨大昆虫たち。殺し合いに積極的な魔法少女や、自身を襲う何者かの存在を知ってはいても、直接姿を表し、害意を向けてくる相手は初めてだ。
抜刀金を助けたい。けど、どうしていいのか分からない。
身体の自由を奪われ、シュマちゃんやスラくんに指示も出せず、他の使い魔を召喚することも出来ない。
詰み。
どうしてギャルの魔法少女が自分たちを殺そうとするのか、まるで理解は出来ない。
彼女もデスゲームの参加者なのか。
分からない。何も分からないまま、自分たちは殺される。増えた魔力も生かせないまま、ただ、無為に命を散らす。
そのはず、だったのに。 - 236◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 15:33:02
現れたのは、緑色の髪の魔法少女。
緑……それは、抜刀金が話していた『テンガイ』と合致する。ゲームに乗っており、既に魔法少女を一人殺している、巨悪。
もし彼女がテンガイならば、ワンフロムアウター達の危機はまったく去っていない。むしろ絶望に絶望を重ねたようなものだ。
だが、口ぶりからして、テンガイとギャルは敵対関係にあるようだ。
だったら、味方なのか。
(この数時間で改心したとか……? 魔法少女なら、そんなに悪い人は居ないだろうし)
問い質したいが、口を開くことも出来ない。ただ、置物に徹することしか。
今のワンフロムアウターに出来ることは、状況を見守ることだけ。
騒動の中心に居ることが自分だと気づけないまま、ワンフロムアウターは二人の様子を見守っていた。 - 237◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 15:37:56
刃は止まった。死を覚悟していた抜刀金は、微かに安堵し、同時に、テンガイへ視線を送る。
(気配が、変わっているで御座る)
団地の屋上で相対したときと、雰囲気が変わっている。縮小されたような、されど研ぎ澄まされたような。
(悪であることは間違いなし。透明の魔法少女の仇を討つため、他の魔法少女の安全のためにも、あれは斬らねばなるまい)
ワンフロムアウターのように改心を期待するほど、抜刀金は甘くなかった。テンガイもまた、抜刀金を助けるために姿を表したわけではないだろう。
(刀は止まったが、未だ身体は動かぬで御座るか。歯がゆいで御座る……)
再び機会があれば、何を斬るべきか。
抜刀金は、じっと機を窺う。 - 238◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 15:43:48
(テンガイ……何のつもりかな……)
パラサイトドールは、愚かにも自身の討伐を宣言した愚者に視線を送る。
彼女が七海真美に叩きのめされ、力の大部分を失った試合を、パラサイトドールは観戦していた。
その前から脅威ではなかったが、今のテンガイはパラサイトドールにとっては虫けらに等しい。
その知識と、ワンフロムアウターが結びつくことは確かに厄介だが、テンガイ単体を、今の弱体化テンガイを始末することは造作も無いのだ。爪を振るったり、火を吐く必要もない。
無駄に何千年生きようと、テンガイは魔法少女であり、元々は人間。パラサイトドールの支配対象である。
『天上』では無くなったところで、まったく脅威には成り得ない。
ただ、支配し、死を命じるだけで、テンガイの細く長く無意味な人生は幕を閉じる。
(だから……解せない。どうして私の前に姿を表したの……?) - 239◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 15:50:53
隠れてやり過ごすのが、ベストな選択のはずだ。
魔力感知などで、パラサイトドールが『天上』では無くなったことを察知するとしても、支配の魔法は据え置きである。
のこのこ姿を表しても、勝てる可能性は零だ。
(それでも姿を見せたってことは……攻略法を編み出したってこと……だよね)
それが何かは、パラサイトドールには分からない。
……分からないなら、分からないなりにやりようはある。
(いいよ……望み通り、支配してあげるよ、テンガイ……)
ぱちり、とパラサイトドールは指を鳴らした。
——瞬間、テンガイはその場から掻き消えた。
「——っ」 - 240二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 16:50:39
今のテンガイの武器は「改造魔法」と「流体なら何でも斬れる剣」と「残りの魔法ストック」と「梟」か…
格上を相手する想定なら多分最初より強くなってるな - 241◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 16:52:43
予想はしていた。
テンガイが支配を攻略している可能性は。
例え自由に動けたところで、爪で、あるいは火で、一方的に殺せると踏んでいた。
固有魔法を抜きにしても、スペックには大きな開きがあるのだから。
パラサイトドールの予想を外したのは、テンガイが支配されないことではなく——その速さにあった。
ティターニアやブレイズドラゴンなどの参加者上位層に匹敵する身体能力。今までの低い身体スペックを想定しシミュレーションしていたパラサイトドールは、結果として反応が大きく遅れる。
テンガイが選んだのは接近。これもまた、パラサイトドールの予想から外れていた。
今までのテンガイの戦闘スタイルは、中・遠距離型。近接戦闘は苦手としていたはずだ。
高速で迫ったテンガイが、こちらに手を伸ばす。
反応が遅れる。
テンガイは、パラサイトドールの手首を掴んだ。 - 242◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 17:01:17
(……こいつ!)
自身の魔力が、狂う感覚があった。
『天上』のままなら干渉を防げたが、今のパラサイトドールは『天上』にあらず。
例え相手が格下でも、干渉は受ける。
力任せに振り解く。想定以上の膂力だったが——パラサイトドールには及ばない。ティターニア、ブレイズドラゴンに匹敵する身体能力——それを遥かに上回るのが、パラサイトドールの基礎スペック。
だが、影響はあった。魔力が狂わされ、支配の魔法が解除される。
(その程度……どうってことはない……)
消滅や摩耗ではなく、一時的な解除に過ぎない。再びかけ直せば済む話。
(そして、テンガイの手の内も……だいたい分かった……)
戦闘スタイルを大きく変化させることによる奇襲。
予想は外されたが、知ってしまえば、どうということもない。
もうテンガイは、二度とパラサイトドールに触れられない。
爪で微塵に切り裂こうとパラサイトドールは動き——後方に気配を感じた。 - 243◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 17:06:14
(抜刀金……この一瞬で動くとは……中々やるね……)
支配が解除されて戸惑うワンフロムアウターとは対照的に、抜刀金は支配が解けた0.1秒後にはパラサイトドールに肉薄していた。
いい判断だ。だが、無意味。
抜刀金が振るうのは、所詮人間が作った刀であり、彼女の扱う抜刀術も人間の技術だ。
ブラックブレイドのように『何でも斬れる』わけではない。
邪神の一撃さえ防ぐパラサイトドールの鱗の前では、抜刀金の抜刀術は大道芸でしかない。
抜刀金を無視し、テンガイに狙いを定めて爪を——。 - 244◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 17:14:00
「硬い、で御座るな」
抜刀金は悔し気に呟いた。
パラサイトドールの首から、鮮血が零れる。
「…………え?」
爪を振るうことを中断し、咄嗟に傷口を抑えた。
——斬られている。致命傷には程遠く、僅かに肉を抉られた程度だが、それでも竜種の頑強さを突破して、抜刀金の刃が、届いている。
(馬鹿な……技術だけで、私に傷を……!?)
「くっ……!」
パラサイトドールは翼を広げ、空へと逃げる。
生来の臆病さが、彼女を抜刀金の領域に居続けることを拒否したのだ。
患部に手を当てる。浅い。数秒もあれば塞がるであろう。
(……ああ、面倒だなぁ……)
陰鬱に、そう思う。そう思うことに、苛々する。 - 245◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 17:49:59
依代とした肉体、大財閥岸村家の令嬢、岸村文華。
今まで渡り歩いた数々の肉体の中で、彼女が最も適正があった。
冒涜の竜の支配の魔法。
竜種のスペックを再現した肉体性能。
岸村文華を依代としたからこそ、パラサイトドールは『天上』へと昇り、完全復活のための儀式を開くことが出来た。
だが、代償はあった。
性格が、依代に引っ張られている。
陰鬱で、面倒くさがる、気怠い性格。どれも、本来の冒涜の竜、ないしパラサイトドールには持ち合わせていなかったものだ。
復讐心を核とする竜に、そんなものは必要ない。
首を斬られただけだ。それだけで、面倒だなぁ、帰りたいなぁという気持ちが勝手に湧いてくる。
ここで退けば、テンガイとワンフロムアウターが接触し、ワンフロムアウターが『天上』に到達する可能性が生じてしまう。そうなれば、パラサイトドールに『天上』が踊っても、もう一度同格バトルを興じなければならない。なんて、面倒。
(『呪い』で殺せれば楽なんだけど……最初に提示したルールを破らないと、発動しないからなぁ……)
運営側の任意では発動できない。デスマッチリングも、もし参加者が戦いを拒否すれば、『呪い』ではなく、パラサイトドールが直々に殺しに向かう予定だった。
はぁ……とパラサイトドールは陰鬱な息を吐く。傷は、既に塞がっている。 - 246◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 18:23:26
空へと逃げたパラサイトドールを見上げ、テンガイは次の手を考えていた。
何故、テンガイはパラサイトドールの支配を突破できたのか。
生命体であれば無制限に何でも操れる、パラサイトドールの支配の魔法。
2888年生き、二回転生を果たそうと、テンガイが元々は人間——生物であることは変わりない。
だったら、生物で無くなればいい。『魔法を改造する魔法(トロポイシス)』の指す魔法とは、固有魔法だけでなく、魔法生物や魔法少女の肉体も含まれる。
これにより、自身の肉体を改造、今のテンガイは、身体の構成物質の殆どを無機物に置き換えている。
同時に、身体能力も底上げし、かつてランスロットと呼ばれたいた頃のフィジカルを取り戻している。
(まぁ、それだけで勝てたら苦労しないけどな)
2888年間の研鑽。
かつて地獄を見せられた支配の魔法は攻略済みだが、それはあくまでパラサイトドールの一側面に過ぎない。
振り払われた手は、鈍い痛みを放っている。今のテンガイなら、ティターニアと腕相撲だって出来る。それでもなお、別種と感じる程、パラサイトドールとの間に膂力の差を感じた。人間と熊、あるいはそれ以上の。
(……というか、あの居合女、パラサイトドール斬れるのか……。心強いが、ぞっとするぜ)
数時間前、団地での一戦。テンガイは、抜刀金の居合を、空間を発生することで攻略してみせた。
(もしあの時選んでたのが固くなる魔法とかだったら、僕様序盤退場してたな……)
確率としては10分の1、いや、5分の1程度だが、その魔法を設定していた可能性はあった。
- 247◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 19:56:42
(まぁ、その時は時間を戻す魔法でどうにでもなるが……)
といっても、今はそれら全てを失っている。その上で、どうにかするしかない。
「さて、抜刀金と、そこのお前。手を組まないか。あの飛んでる奴は、僕様たち共通の敵だろ?」
「……貴様のような外道と、組むつもりはない」
(まぁ、無理もないか。僕様だって立場が逆なら同じこと言ってるぜ)
こちらに敵意を向ける抜刀金に対して、テンガイは肩を竦める。
団地で戦ったときは、まさか彼女と一緒に竜退治をするとは思っても居なかった。
優勝、あるいはゲームを脱出した上での竜殺しを計画していただけに、今の状況はテンガイにとっても想定外なものである。
この場の誰にとっても予想だにしていなかった局面。
動かすのは。
「抜刀金さん……今は、協力しませんか」
この場の誰よりも未熟であり、本人は知らないがパラサイトドールが出張る原因となった魔法少女、ワンフロムアウター。 - 248◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 20:03:06
「色々、禍根はあると思いますけど……テンガイさんが来なかったら、私たち、殺されてましたし……」
ワンフロムアウターの言葉はもっともだと、抜刀金も理解している。
どれだけ棒振りが上手くなったところで、その土俵に立ってもらえなければ、抜刀金は無力である。
テンガイがギャル少女に触れた瞬間、抜刀金は動けた。自分が今、生きているのはテンガイのおかげといってもいい。
だが——数時間前、テンガイに殺されなければ、生きていた魔法少女が居た筈なのだ。自分の命も顧みず、赤の他人である抜刀金を助けようとした、善意の魔法少女が。
(クリックベイトなら、清濁併せのみ、共闘を了承していたであろうな……)
自分は、そこまで器用には生きられない。
数時間前、『仲間』を殺した魔法少女と共闘など……。 - 249◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 20:12:52
だが、抜刀金の悩みに寄り添うほど、テンガイは大人ではなかった。
「じゃあいいよ。そこの、なんか魔力とんでもないことになってる奴。名前は?」
「ワンフロムアウター、ですけど……」
「OK、ワンフロムアウター。二人で協力して、あのドラゴン娘をぶっ殺そうぜ。あいつ殺せばこのゲームは終了するから。抜刀金は一人で腕立て伏せでもしてろよ」
「えっ」
「なっ……!」
魔法少女を一人殺しておいて、反省の色を見せないその悪辣な態度。それに言いたいことは山ほどあったが、それよりもまず、問わねばならないことがあった。
「このゲームが終了するとは、どういうことで御座るか!?」
「アレがこのゲームのラスボス。魔法王の背後にいた全ての支配者。このゲームの、呪い諸々を司っている存在。あいつが死んだら呪いが解除されて、このゲームは終了。理解できたか?」
(馬鹿な……とても、信じられん)
「嘘だと思うか……? 信じなくてもいいぜ。けど、あっちが僕様たちを殺したがってるのは事実だろ? それを踏まえてどうするよ、抜刀金?」
「……貴様には、必ず償わせる」
「墓に手くらいは合わせてあげるよ」
- 250◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 20:21:37
(と、とりあえずあの刃が僕様に向くのを防ぐことは成功したわけだが……)
翼をはためかせ、こちらを見下ろすパラサイトドール。
今のテンガイは、空中の相手へ取れる手段が乏しい。
触れれば改造できるが、触れなければ意味は無い。
抜刀金もまた、刀が届かない距離では無力である。
「ワンフロムアウター。空に居る相手への攻撃手段は持ってるか?」
「ええっと……あ、あります!」
ワンフロムアウターの周囲に幾つもの魔法陣が展開される。
(この魔力の質…………ああ、なるほど、そういうことかよ)
この少女の異常な魔力量は何なのか。テンガイは察する。
「出てきて、ベルくんと、ほっちゃんと……他のお友達!」
魔法陣より現れるのは、今しがた使い魔にした巨大化昆虫の集団。
ワンフロムアウターが指さす方へと、昆虫たちは向かっていく。
- 251◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 21:43:36
パラサイトドールは、指をパチンと鳴らした。
生物ならば、問答無用で支配する、パラサイトドールの魔法の前では巨大昆虫など敵ではない。
しかし、巨大化昆虫たちは止まらなかった。
「んん?」
パラサイトドールは首を捻る。
顎で、針で、鎌で、それぞれ襲いかかる昆虫の群れ。
「マジキモイ」
パラサイトドールの翼が動いた。
一回の羽ばたき。それだけで巨大化昆虫は風圧により壁に叩きつけられ、無惨な躯を晒した。
「ああ、皆……!」
ワンフロムアウターは悲痛な声を上げる。
だが、テンガイの心中は高揚していた。
(どうしてパラサイトドールは支配できなかった?
決まっている。あの昆虫の支配権は、既にワンフロムアウターが握っていたからだ……!)
ワンフロムアウターが、竜の係累であることは察知できた。元は同存在であるからこその、支配への抵抗。
(だったら話は簡単だ)
- 252◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 21:47:14
「ワンフロムアウター、自分自身と抜刀金を、使い魔にしろ!」
「えええ!? どういうこと!?」
「貴様、何を……!?」
「させないよ……」
パラサイトドールは指を鳴らそうとする。
「今だ、蟹王!」
突如、ビルを突き破り、巨大な蟹の化物が姿を表した。
予期せぬエネミーの登場に、パラサイトドールはそちらに気を取られる。 - 253二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 22:19:17
蟹が役に立った!
- 254◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 23:42:47
テンガイは、蟹王に勝利した後、消滅させなかった。
『魔法を改造する魔法(トロポイシス)』で、自らの使い魔へと作り替え、更に幾つかの改造(透明化&縮小化など)を加え、待機させていたのだ。
パラサイトドールは、蟹王に対し、支配の魔法は使わなかった。
爪による一閃。それだけで蟹王の甲殻は切り裂かれる。上下に分かれた蟹王が落下するのに目も暮れず、パラサイトドールは三人の魔法少女に再び支配の魔法を発動させた。
「…………っ!」
操れない。
(どういうこと……。邪神の眷属は支配して自滅させることが出来たのに……。なんで分身体の使い魔は無効化されるのかな……)
自分が『天上』では無くなった影響か。
あるいは、こと使い魔の操作に関しては、邪神本体より、分身体・ワンフロムアウターの方が長けていたのか。
(どちらにせよ……これでもう、こいつらを自害させることは出来ない……やだなぁ)
- 255◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 23:54:06
「いい子だ、ワンフロムアウター」
不思議な感覚だと、ワンフロムアウターは思う。
エネミーだけでなく、魔法少女、ひいては自分の眷属化。考えたこともなかった。
犬と散歩するのが好きだからといって友達にリードをつけて散歩させないように、エネミーを眷属にすることと、人間を仲間にすることでは、精神的なハードルが大違いだ。
だが、試してみると、あまりにも簡単だった。
巨大化昆虫を使い魔にした時と同じ。魔法陣を展開し、念じる。それだけで、抜刀金は、そしてワンフロムアウターは「ワンフロムアウターの使い魔」として設定された。
(尋常じゃなく魔力は消費したけど……魔力量が増えてなかったら、とても払いきれないくらいの魔力量が……)
今だから出来る芸当なのだろう。
- 256◆xaazwm17IRZa24/10/01(火) 23:54:20
「けど、何で僕様まで眷属にしてるんだ? 僕様はパラサイトドールの支配は無効化できる。使い魔にしなくていい」
「テンガイさん——もうこれで、貴女は人を殺せない、ですよね」
「……ああ、なるほど。そういうことするのな」
テンガイはシニカルに笑った。
右手を上げろと念じる。テンガイは右手を上げる。
テンガイがパラサイトドールの支配を無効化できるのは、パラサイトドールの支配対象が生物に限定されているからだ。
ワンフロムアウターの支配は、無効化できない。
「思ったより頭が回るじゃないか、ワンフロムアウター。見どころあるぜ、お前」
「今日からあなたの名前はテンちゃんです」
「それはさすがに勘弁してくれない?」 - 257◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 00:00:34
「そっか……あーしの支配……もう君たちには効かないのか……」
忌々しそうに、パラサイトドールは言葉を紡ぐ。
「直接参加者を減らすと、儀式の完成度が下がる……だから、粛清するときは……自害を心がけてたんだ。ブラックブレイドみたいに……」
「何だと……?」
抜刀金は呻く。
「陣内さんは、貴女が殺したの……?」
ワンフロムアウターもまた、クラスメイトの死の真相を知り、息を呑んだ。
「違うよ……自害、あくまで自害だよ……そういうことに、なってる……だから、君たちもそうやって処理したかったんだよね……でも、今のあーしには、無理そう……残念」
パラサイトドールは、がっくりと肩を落とす。 - 258◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 01:26:28
(……ブラフだな)
一人、テンガイは思索に沈んだ。
(あくまでパラサイトドールは自害にこだわるはず……いや、本当は、自害すらして欲しくないんだ)
この儀式は、あくまで参加者が殺し合うことで成立するもののはずだ。
仮に、自害でも同様の効果が得られるのならば、殺し合わせる必要は無い。オープニングの段階で全員自害させれば、それで決着はつく。
(当然、黒幕自らが参加者を殺しにかかるなど、やりたくはないはず。儀式の完成度を鑑みても……あるいは、他の参加者への影響を考えても)
閉鎖空間での戦闘ならともかく、学生街という人気の多い場所で派手な戦闘をすれば目立つ。
『参加者の中にとんでもなく強い奴がいる』
『参加者が運営の刺客に蹂躙されている』
- 259◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 01:26:44
どう受け取られても、参加者が殺し合いを投げ出す要因になる。
こんなに強い奴がいるのなら、優勝なんて無理だ。
ルールに抵触していない参加者を間引くような運営は、信用できない。
逆に、無力感から殺し合いに積極的になる可能性もあるが、前者の可能性から、おいそれと派手な戦闘はできない。
その前提に立ち、テンガイは次の策を練る。
支配は攻略した。生来の硬さも、テンガイの改造魔法及び抜刀金の抜刀術なら、攻撃を通すことが出来る。
詰将棋のように、少しずつ場を整えていく。
パラサイトドールをぶち殺し、仲間の仇を——。
(いや、こんなことを考えるのは、僕様らしくない)
パラサイトドールの、次なる動きを注視するべく、視線を向け。
「何……?」 - 260◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 01:32:22
パラサイトドールは、上空へと飛ぶ。
(逃げるのか……不味いな、再び『天上』になられたら、勝ちの目が無くなる……いや、その時間にワンフロムアウターを『天上』に引き上げるか。僕様の知識と改造魔法、ワンフロムアウターの魔法量と質なら、可能性は零じゃない……)
テンガイとしても、『天上』が増えるのは好ましくないが、パラサイトドール一強状態よりはよほどマシだ。
(もし逃げるのなら、このまま逃がして……いや、違う)
「嘘だろ……」
喉から、言葉が漏れる。
感じるのは、熱。
気温が急上昇していることが分かる。
急に真夏日になったかのような。否、それ以上。アスファルトから煙が立ち上る。 - 261◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 01:37:24
目立つことはしない、と想定していた。あくまで暗殺に拘ると。
冒涜の竜のことは、よく知っている。そのなれ果て、パラサイトドールのことを。
だが、当代の依代、岸村文華なる少女については、良く知らない。彼女のパーソナリティなど、テンガイには知る由も無い。
パラサイトドールの前面に、黒い魔法陣が展開される。
ぞっとするほどの魔力量が、そこに籠められているのが分かる。
目立たない、という前提を完全に無視した一撃。
考えられるのは。
「あのドラゴン……投げ出しやがった!」 - 262◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 01:45:54
本来の冒涜の竜ならば、本来のパラサイトドールならば、もっと慎重に事を進めていただであろう。一度撤退することさえあったかもしれない。
だが、今のパラサイトドールの心を占めるのはただ一つ。
(面倒)
これまで散々初期配置を考え、ゲームを自分の思い通りにコントロールしてきた文香にとって、ここ数分の流れは、非常に不愉快なものだった。想定外の事態に負われ、その都度、考えさせられる。
どうすれば儀式を上手く進めることが出来るのか。どうすれば、儀式への影響を必要最小限にして、イレギュラーを排除できるか。
もういい、と文香は思った。
(三人くらい殺しても、何とかなるでしょ……)
たかが三人だ、大して儀式に影響は無い。この先、思惑を重ねながらテンガイ含め三人の魔法少女を自害させるまで読み合いを続けるより——区画ごと、消し飛ばしてしまえばいい。
その方が楽だから。
そんな理由でパラサイトドールは、『龍の熱線』を放つべく、魔力を集める。
『天上』の頃と比較し、発動にはタイムラグがあるが、問題ない。
その時間に逃げられるほど、この攻撃の射程範囲は狭くない。 - 263◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 06:27:30
(くそっ、どうする、どうする……!?)
かつてのテンガイならばともかく、今のテンガイに上空から放たれる戦術核レベルの攻撃への、対処法が無い。
強化された脚力で走って逃げる——間に合わない。
ビルを駆け登り、撃たれる前に攻撃する——届かない。
「わ、私が一旦みんなを隔離させます……! その後、再召喚を……!」
(そうか、今の僕様たちはワンフロムアウターの使い魔……!)
梟という使い魔をかつては保有していたテンガイは、それらの魔法の仕組みを理解している。
武器類と違い、一般的に使い魔は、召喚前は主人の精神世界に隔離されている。そこから、魔法で呼び出すのが主流だ。(故に使い魔を使役する魔法少女は希少であり、特殊な才能である)。
この辺り一帯が消し飛ぼうと、精神世界へは影響を及ぼさない。 - 264◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 06:27:46
(今のワンフロムアウターは主人であり使い魔でもある存在。主人が主人の精神世界に入るとどうなるかなんて、さすがの僕様でもわからねー。いや、それ以前に)
「駄目だ、ワンフロムアウター。精神世界への移動は『あにまん市の外に出る事』というペナルティに抵触する可能性がある」
「そ、そんな……」
抜刀金は、無言で居合の構えを取っている。
勝算があるのか。それとも、捨て鉢になっているのか。
(くそっ……打つ手無しかよ)
本来、パラサイトドールと三人の間には、絶対的な格差が、『天上』を無くした今を持ってしても、実力には大きな隔たりがあった。
幾つもの条件が重なった上での均衡であり、パラサイトドールが『妥協』すれば、それは容易く崩れ去る。
「む……」
と、抜刀金は唸った。
「新手で御座るか……」 - 265◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 06:34:34
ズン、と踏み込む音が聞こえた。
三人を追い抜くように、金髪の魔法少女が前に出る。青いドレスが翻り、大剣が掲げられる。
「——スーパー・マジカル・ストラッシュ」
剣から極光が放たれた。世界を塗り潰さん程の光量。あらゆる魔法を蹂躙する騎士の一撃。
今まさに放たれた、パラサイトドールの黒色の熱線と、光の奔流は激突する。
戦術核レベルの火力。邪神クトゥルフを戦闘不能に追い込んだ一撃。一区画を消し飛ばす、極大の火力。
それと拮抗できるは——『最強』だけである。
光と炎が相殺され、周囲に熱と光が、無数の火花となって飛び散る。 - 266◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 06:46:10
「どうして此処にいるのかな……」
苛立ちを隠しきれない表情で、パラサイトドールは問う。
「あなた、黒幕なんだってね。どこまで信頼できる情報かは分からないけど、少なくとも、うちの学校の生徒にとんでもないもんぶつけようとしたのは事実」
騎士は、剣を竜へと向ける。
「じゃあ、私の敵ね、パラサイトドール」
ティターニアは、誇りを持って、高らかに宣言した。
「ぶっ殺してやる」
怒りを込めて。 - 267◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 06:46:27
投下を終了します
- 268◆xaazwm17IRZa24/10/02(水) 07:03:39
いつも感想ありがとうございます、次の投下は土曜日の予定です……!
- 269二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 07:42:38
改造魔法は魔法の原初って感じがする
- 270二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 11:37:12
アツい展開だ…最終決戦かってくらいには役者が揃ってるな
- 271二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 15:38:47
参加者には知る由もないが黒幕に勝つならこの千載一遇の機会を逃してはならんから実質決戦なんだよな
- 272二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 18:05:54
ワンフロムアウターのパワーアップの仕方見てて思ったけど 謎の魔力増大あった始まりの魔法少女、もしかして竜の首食べた?仲間たちのように支配されそうになったけど逆に力を取り込んだみたいな
- 273二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 23:29:22
たかが四人 されど四人
可能な限りの最高戦力が阿吽の呼吸で揃った… - 274二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 07:50:06
おいちゃん教えたんだね
- 275二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 13:48:51
おいちゃんが握ってた情報ってこれなのか
- 276二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 21:51:09
深いな
- 277二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 02:33:01
明日が楽しみ
- 278二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 07:37:05
レイドボス戦勃発…
- 279二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 17:56:11
不安
- 280二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 20:59:24
WIKIのバルバロイがちょっと面白いことになってる
- 281二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 23:16:41
画 像 の 直 リ ン ク は 禁 止 さ れ て い ま す
- 282二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 07:50:49
保守
- 283二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 16:33:19
保守
- 284二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 16:34:43
頂上決戦は今夜
- 285◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 20:50:25
投下します
- 286◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 21:02:07
パラサイトドールは、『最強』を見下ろした。
(誰がティターニアに情報を与えた……?)
一番怪しいのは、デッドマンズ・ハンドだ。だが、彼女はあにまん市に出張っていて、パラサイトドールが魔法の国からあにまん市に移動したことを、知らないはずだ。
(魔法の国に残っていた誰かが、デッドマンズ・ハンドに情報を流した……)
パンデモニカか。オートクチュールか。あるいは別の誰かか。
(私が『天上』じゃなくなったから、チャンスだと思ったのかな……)
はぁ……とため息をつく。
面倒、という気持ちを、無理やり押し込める。
それは、依代になった岸村文華の感情であって、パラサイトドールの感情ではない。
しかし、思考が引っ張られる。
より自堕落で、より短絡的で、より刹那的な方向へと。
「三人消すのも……四人消すのも……同じだよね」 - 287◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 21:11:41
(これが、ティターニアで御座るか)
抜刀金は、まじまじと見た。
金髪に、青いドレス、黄金の剣。
(なるほど——強い)
内に秘めた存在の大きさや、純粋な魔力量は、パラサイトドールやワンフロムアウターの方が上だろう。
団地時のテンガイのような、底知れない空気も無い。
ただ、姿勢や剣の持ち方、目線の置き場、何より、醸し出す雰囲気が、目の前の魔法少女が極上の戦士だと、雄弁に物語っていた。
- 288◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 21:32:18
ティターニアはこちらへと振り返る。
そして、ワンフロムアウターには庇護の眼差しを、抜刀金には探るような眼差しを、それぞれ向ける。
最後に視線を合わせたのは、テンガイだった。
「——アレ倒したら、次はあんただから」
ぞっとするほど、冷たい声だった。
煽り、ではない。ただ、目的を口に出しただけ。
『最強』の本気の『抹殺宣言』。
並の魔法少女なら卒倒するほどの迫力を前にして、テンガイは口角を上げ、睨み返した。
「——こっちの台詞だよ、ティターニア。何なら今から始めたって構わねーぜ?」
殺意と殺意が、ぶつかり合う。
一瞬即発の空気の中、
「わー! 喧嘩は駄目です!」
ワンフロムアウターが、間に割って入った。
- 289◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 22:05:46
「今、テンガイさんは私の使い魔なんです!
私のコントロール下にあるので、もう悪さはできません!
ほら、テンちゃん、お手!」
心底うんざりした顔で、テンガイはワンフロムアウターと掌を合わせる。
気が抜けるような光景だが、ティターニアの視線から険が取れることはなかった。
やはり『最強』、かつての剣客のように気に緩みは無いのか。
あるいは……仲間を失った直後なのか。
初対面の抜刀金には伺い知れない。 - 290◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 22:25:47
次の瞬間、ティターニアの姿が掻き消えた。
踏み込みによって生じたクレーターを視認し、抜刀金は、ティターニアが移動したことを知る。
(出遅れたで御座る……!)
後を追うように抜刀金も駈け出す。
ティターニアの背を追いながら、抜刀金の心は静かに研ぎ澄まされる。
「マジカル——」
ティターニアが掲げる大剣が、光り輝く。
パラサイトドールの黒い炎を相殺した、最強の名に恥じぬ一撃。
パラサイトドールは翼を広げ、空高く逃れようとする。
(不味い。大技を避けられると、要らぬ消耗が……)
武術家と魔法少女。ジャンルは違えど、似通う部分はある。
渾身の一撃を避けられることは、危機を招く。
——そんなことは、ティターニアは百も承知なのだろう。
彼女は、魔力を溜めた大剣を、予備動作なく投擲した。
投げナイフのように投げつけられた大剣は、パラサイトドールが広げていた翼に突き刺さる。
「——ストラッシュ」
- 291◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 23:26:19
刺さった剣から放たれたのは、光の奔流。
パラサイトドールの翼は根本から千切れ飛ぶ。
「っ……!」
片翼の少女は、僅かに高度を下げる。
放たれた光を掻き分けるようにして、ティターニアは接敵した。
「マジカル・ストラッシュ!」
剣に光を籠め、上段から振り下ろす。
パラサイトドールは、二の腕でそれを受け止める。
ぎりぎりと、両者は鍔ぜりあった。
——生まれた隙を、抜刀金は見逃さない。
ティターニアに僅かに遅れ、抜刀金は殺し間へと足を踏み入れる。
一瞬の集中。そして、解放。 - 292◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 23:50:00
音すら置き去りにする銀閃が、パラサイトドールへと迫る。
技術のみで、抜刀金は竜を斬ることを可能にする。それは一つの異能。魔法少女にならずとも、どの時代に生れ落ちようとも、剣客として名を残していたであろう天性。
ガキン、と鈍い音がした。
見えるはずが無い刀身が、緩慢に宙を舞う。
(何、だと……)
名刀が、半ばから折れている。
酷使による摩耗、ではない。それに気づかぬ抜刀金ではない。
ただ、パラサイトドールが硬かった。つい数分前より、肉体の強度が跳ね上がっている。抜刀金が届かない程に……。 - 293◆xaazwm17IRZa24/10/05(土) 23:50:11
「ぐううううう……!」
ティターニアが苦悶の声を上げた。
鍔ぜり合ったまま、彼女は押し込まれている。
剣を二の腕で受け止め、膂力だけで押しつぶす。
剣士ならば、目を疑う光景。
超人。怪物。——最強種(ドラゴン)。
パラサイトドールが、身を翻す。
彼女の腰から生えるのは、太く長い、黒い尾。
回転に合わせ、尾は抜刀金とティターニアを打ち据えた。
野生の世界では珍しくも無い、尻尾のビンタ。
だが、それを竜が行えば——必殺の一撃と化す。
弾丸のような速さで、抜刀金は100m離れたビルへと叩きつけられる。
尾に打たれた瞬間には、彼女は意識を失っていた。
- 294◆xaazwm17IRZa24/10/06(日) 00:27:17
尾の一撃を、ティターニアはギリギリで防いでいた。
剣を盾代わりにし、身体をくの字に曲げ、衝撃で全身の骨を軋ませながらも、意識だけは保っていた。
抜刀金と同様に、彼女もまた、ビルへと叩きつけられる。
ガラスを破り、並べられた机や椅子を弾き飛ばしながら、ティターニアは勢いを殺し、姿勢を戻した。
(いよいよ本気ってわけね……)
デッドマンズ・ハンドから得た情報——デッドマンズもまた、誰かから得た情報らしいが——を受け、パラサイトドールと相対した。
この殺し合いの黒幕であるという。どこまで本当かは分からないが、納得せざるを得ない程の戦闘力は感じ取れる。
- 295◆xaazwm17IRZa24/10/06(日) 00:27:40
ティターニアがパラサイトドールに速攻を仕掛けたのは、テンガイや素鈴と会話を交わしていた時に、攻撃が来なかったからだ。
わざと隙を晒して見せていたのだが、パラサイトドールは乗ってこなかった。
と、なれば時間を稼ごうとしているのはパラサイトドールの方だと気づき、攻撃を畳みかけた。
(けど……遅かったみたいね)
目が、合う。
破壊された窓ガラスの残骸を通して、ティターニアはその怪物に目をやった。
竜。
数百メートルはある、巨大な、黒き竜がビルを見下ろしている。
- 296◆xaazwm17IRZa24/10/06(日) 00:27:50
恐らく、パラサイトドールの奥の手。
「上等じゃ、ない……!」
ティターニアは、獰猛な笑みを浮かべた。
「巨大化は負けフラグだって、教えてあげる……!」
剣を振り上げる。連戦が祟り、全身が悲鳴をあげているが、全て無視する。
黒竜は、今だ戦意の衰えないティターニアに向かい。
ニィ……と邪悪な笑みを浮かべた。
その笑みの真意をティターニアが探るよりも速く。
ビルの外に、スーツの男が見えた。
悲鳴も上げずに落下していく、男の姿が。 - 297◆xaazwm17IRZa24/10/06(日) 01:21:49
ティターニアは、ビルの外へと駈け出した。
落下する男を抱きかかえる。
意識は、黒竜から外さない。
12歳の頃なら人助けのために無我夢中で飛び出していた。
今は違う。
抱えた男をビルの中へ避難させるために、ティターニアは壁に足をかけ、バランスを取り……。
「嘘……」
ビルの各階から地上に向かってダイブする、無数の人間を目にした。 - 298◆xaazwm17IRZa24/10/06(日) 01:28:27
投下を終了します……!
- 299二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 01:35:09
救命を取れば八つ裂きにできて 諦めればティターニアを“折る”事ができる
何か+αの手が無ければ詰みかもしれない - 300◆xaazwm17IRZa24/10/06(日) 02:51:14
次の投下は火曜日の予定です……!
- 301二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 09:27:54
ワンパンKOと戦闘続行可能なのが実力差か
- 302二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 11:07:29
ティターニア単騎で意外と戦えてるなとも思ったが…あくまで固有魔法抜きならって話か…
- 303二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 21:32:29
こういう時に手数を増やして対応する事が出来ないのが割とティターニアの弱点かもしれん
- 304二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 22:32:50
あくまでティターニアは最強であって
手数ではテンガイが圧倒的だったろうからなぁ… - 305二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 07:45:06
安定型にシフトしたティターニアの弱点を的確に突いていくー
相手が力で無理矢理突破しようとしてくるなら不得意分野を押し付ける - 306二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 13:35:21
最強は文字通り戦闘力が高いだけでやれることの幅が広いとかではないからなあ
- 307二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 13:53:03
ティターニアは無理でも他の人が対処出来ない訳じゃないからまだ大丈夫
素鈴は半分夏油みたいなもんだしこういう広範囲制圧は得意分野だろうし、テンガイはテンガイで手札減ったとはいえまだまだ多彩な魔法ありそうだし - 308二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 22:57:32
デストロイヤーとパラさんが操れないマギカロボ、赤松華も残ってるし実のところまだまだ手札はある
- 309二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 04:01:44
巨大化したしロボと殴り合う展開はあるんだろうなぁ…
- 310二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 07:44:45
パラサイトドール戦で手札の枯渇は死を意味する…
- 311二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 16:12:18
保守
- 312二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 16:59:35
wikiでハートプリンセスのプロフィール見てて「生理重そう」って浮かんできた
お腹に子供居るらしいしめちゃくちゃ体調崩してそう - 313◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:14:38
投下します
- 314◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:15:26
二十余りの一般人が、ビルから落下する。いずれも目は虚ろであり、叫びも無く、手足も動かさない。
彼らを視界に収めたティターニアは、落下しながらビルの壁に踵を擦りつけた。
火花を散らしながら強引な減速。
「マジカル——」
剣を向けるは、巨躯のドラゴンではなく、無辜の人々。
パラサイトドールに向ければ、一般人が死ぬ。だが、一般人を助けることに集中すれば、ドラゴンの一撃は躱せない。
ティターニアは——自分の命より、人の命を選んだ。
「ストラッシュ!」
放たれたのは、光。
ティターニアのマジカル・ストラッシュは、破壊力を調整できる。
あくまで邪悪なものだけを消し飛ばし、物理的な干渉を零にすることだって可能だ。
光は、落下する人間たちを貫通し、彼らに憑りついていた影を霧散させる。 - 315◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:15:53
それだけではない。生じるのは、風。殺傷力を極限まで減らし、しかしエネルギーそのものは残すという、神業。
魔法に、不可能は無い。
落下した人々は、エネルギーに押されてビルの中に押し戻される。
抱えていた男も、ビルの中に放り投げる。
全員救った。それは、ティターニアの命を救わなかったことを意味する。
生まれた隙を、パラサイトドールは逃さない。
竜の爪が、ティターニアに迫る。
迎撃や回避の余裕を、ティターニアは人命に当ててしまった。
選択の結果、魔法少女はその命を散らし——。
「——舐めるなよ」
爪は、極光によって弾かれた。
黒竜は瞠目する。
ティターニアの手には——2本の大剣が在る。
「ダブル・マジカル・ストラッシュ」 - 316◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:25:55
ビルから落下する人々を救ったのは、右手の大剣。
同時に、左手でも大剣を具現化し、パラサイトドールの攻撃に合わせて、マジカル・ストラッシュを放っていた。
マジカル・ストラッシュの同時発動。
不可能を可能にするのが、魔法少女。魔法少女歴18年の大ベテランが、ティターニアである。
竜の攻撃を凌いだティターニアは、ビルの中へと戻った。
(ああ、しんど……)
限界を超えることは、代償が伴う。
両足の感覚が無くなり、ティターニアは膝を突いた。
極度の疲労。
マジカル・ストラッシュで魔力は補充できても、反動までは消せない。
今すぐ有給を取って1週間爆睡したいくらいの疲労感。
けれど、駄目だ。まだ倒したわけではない。傷さえ与えていない。
一度攻撃を凌いだだけ。
(これでラスボスじゃなかったら、マジで心折れるかも……)
気合と根性で、無理やり立ち上がる。
追撃は、来ない。
それが何を意味するのか、ティターニアは頭を回す。どれだけ疲労しても、思考力が落ちることはない。そんな段階は——十年も前に、通り過ぎている。 - 317◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:35:46
『さすがだね……ティターニア……』
竜から、少女の声が響く。
ビルを超える巨躯の怪物から、ハスキーな声が聞こえることを、ティターニアは特に不思議には感じなかった。
この竜は、魔法少女パラサイトドールが変身したものだ。怪物に変身する魔法少女とも、何度も戦い、下してきた。
今さら、驚くには値しない。
ぐにゃり、と竜が笑みを浮かべる。醜悪な顔だった。神々しさすら感じる外見とは裏腹に、その顔はどこまでも俗な悪意に塗れていた。
『たかだか二十人ぽっちじゃ……君は救えてしまうんだね……』
嫌な予感がした。
その前置きは、駄目だ。
次にパラサイトドールが何を言うかを察知し、ティターニアは大剣を振り上げた。
だが、次の言葉は、ティターニアの想定を遥かに上回るものだった。
『だから——あにまん市の全住民に、死んでもらうことにしたよ……』
「っ! お前、何を!」
——雄叫びが、空に轟いた。
竜から放たれた声は、あにまん市全域に響き渡る。
『……さぁ、今度は何人救えるかな』 - 318◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:48:03
ティターニアは、思考しなかった。
ただ、我武者羅にパラサイトドールへ突っ込む。
ブラフか、真実かも、考えない。そんな余裕は無い。
少しでも早く、0.1秒でも早く、この竜を滅する。
それだけを考えて、地を蹴り、竜へと斬りかかり。
『……遅いよ』
翼から放たれた風圧により、壁に叩きつけられる。
全身に砕けるような痛みが走る。
視界の隅で、今しがた助けた男が、自分で自分の首を絞めていた。
顔が鬱血しても、変わらず首を絞め続けている。
- 319◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 20:48:15
「……やめなさい……やめろ……!」
怒りと共に、壁からその身を引き剥がす。
このような攻撃が、本当に市内全域で行われているのだろうか。
もしそうなら、パラサイトドールを滅ぼすまでに、何人死ぬことになるのか。
今この瞬間、何人死んだのか。
悩むな、惑うな、諦めるな。
今は、戦うことだけ考えろ。斬ることだけ考えろ。
一歩踏み出す。その足は震えている。
視界が霞む。遅れれば遅れるだけ、犠牲者は増えていく。 - 320◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 21:19:51
首を絞めている男に手を伸ばす。
この人を助ける。竜を倒す。ゲームを終わらせる。全部、全部、解決する。
(……だから動け、私の身体……!)
——魔法陣が、男の頭上に浮かんだ。それはまるで、天使の輪のようで。
男の動きが止まる。
手は首から離れ、静かに身体を横たえる。
『もう大丈夫です、妃咲先生!』
頭の中で、声が響く。
一年生の、逝凪素鈴の声。
『あにまん市の、全市民を、私の使い魔にしました!
これで、パラサイトドールは手出し出来ません!』
絶望を希望へと変える、魔法少女の声が聞こえた。 - 321◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 21:20:05
投下を終了します
- 322◆xaazwm17IRZa24/10/08(火) 21:22:53
時間を置いて、VSパラサイトドール④を投下します
- 323二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 21:29:24
限界を超えることは、代償が伴う
…パワーアップしてるとはいえすでに魔法少女数名の使い魔化でごっそり魔力減ってる中で全市民を使い魔にすると、いったいどれだけの負荷が掛かるんだろうね… - 324二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 22:36:17
「もう大丈夫です!」 これ自分は勘定に入っていないのでは…
- 325◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 00:33:38
あにまん全市民眷属化をした、ワンフロムアウターの疲労度dice1d100=34 (34)
80以上:疲労(中)
60以上:疲労(大)
40以上:疲労(極大)、行動不能
20以上:負荷に耐え切れず、肉体が徐々に崩壊中
19未満:死亡(パラサイトドールの支配無効化は一定時間継続)
- 326◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 00:34:23
投下します
- 327◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 00:42:42
「どうして、魔法少女ってのは、こうなのかねぇ……」
呆れたように、テンガイは呟いた。
「自己犠牲とか……ほんと、馬鹿らしいぜ……」
その傍らでは、ワンフロムアウターが仰向けで倒れていた。
その呼吸は荒く、焦点も定まっていない。
既に身体の各部から、粒子化は始まっていた。
テンガイは、ワンフロムアウターの掌を握る。
途端に、粒子化の勢いは減衰する。
「無茶するぜ、まったく」
だが、その無茶によって、あにまんの全市民は生き長らえている。
たった一人の少女の犠牲で、一つの都市が救われる。あまりにも効率の良い好感。
「そういうの、僕様は嫌いだな」
「だ……大丈夫……ですよ……」
ワンフロムアウターは微かに微笑んだ。
「私たちは……絶対に……勝ちます。全部……大丈夫に、なるから……」
- 328◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 00:48:12
甘い、とテンガイは思った。
ワンフロムアウターは殺し合いを知らない。殺されかかることも、殺しかけることも知らぬまま、此処まで来てしまった。
とっくに、このゲームは大丈夫では無くなっている。
例え今この瞬間ゲームが終わったとしても、取り返しはつかない。
竜を倒したからといって、ハッピーエンドにはならないように。
喪失した時点で、あらゆる勝利は意味を成さないのだ。
「君たちは、それを知る前に逝っちまうからなぁ……」
そう言って、テンガイは竜を見やる。
「だからって、負けるのは御免だぜ」
その眼には、決意が籠っていた。 - 329◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 00:50:00
ティターニアVSパラサイトドール
ティターニアがパラサイドドールに与えるダメージdice1d100=31 (31)
- 330◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 00:55:55
「大丈夫なわけ、ないじゃない……!」
ティターニアは、吼えた。
ワンフロムアウターは、逝凪素鈴は明らかに無茶をしている。
恐らく、命を削っている。
何のことは無い、変わらないのだ。一刻も早く竜を殺さねば全市民が危険な状態から、素鈴が危険な状態へと変わっただけだ。
犠牲が数多から一に変わったから一安心、なんてことを、ティターニアが考えるはずもなく。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
雄叫びを上げ、剣を振り被り、竜へと斬りかかる。
数百メートルサイズの竜と比べ、ティターニアはあまりにも矮小。 - 331◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 01:01:33
だが、それが退く理由にはならない。
『はぁ……揺さぶろうと思ったのに……面倒だなぁ……』
大量殺戮を失敗したことを、パラサイトドールはその一言で終わらせた。
未だに焦りは無く、疲労も感じられない。
此方へ斬りかかる魔法少女を前にして、パラサイトドールは呆れたように息を吐き——翼を羽ばたかせる。
ただそれだけの動作で、ティターニアの身体は縫い付けられる。
圧倒的なフィジカル差。
固有魔法を攻略したところで、天上を剥がしたところで、拭いきれない実力の差。
とうとう耐え切れずに、ティターニアの身体は宙に浮き、吹き飛ばされる。
- 332◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 01:08:34
『……!』
否、自分から飛んだのである。
風の勢いに任せたまま、ティターニアは壁を突き破り、ビルの反対側まで吹き飛ばされる。
(ここだ……!)
剣から放たれた光の奔流は、ティターニアの眼下、地面へと放たれる。
破壊力零、魔法破壊効果零。ただ、純粋なエネルギーとして大地へと投射し。
その勢いをもって、ティターニアは上空へと身を躍らせた。
パラサイトドールより、竜よりなお、高みへと。
忌々しそうに、パラサイトドールは頭を上げる。
「スーパー・マジカル・ストラッシュ!」
天から打ち込まれるは、光の奔流。
数百メートルの巨体を呑み込む、絶対的な大火力。
竜は口を開いた。漆黒のエネルギーが、収束する。
絶対破壊の一撃は、魔法少女の専売特許ではない。
むしろ、竜種にこそ、その魔法は相応しい。
- 333◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 01:19:08
黒き熱線が、天に向かって放たれる。
光と炎、二度目の激突。
制したのは、炎であった。
マジカル・ストラッシュを炎は容易く呑み込んだ。
最強の称号を持つ魔法少女は、炎の中に消えていく。
パラサイトドールは、愉快そうに笑った。
——その右目に、剣が突き立てられる。
「——マジカル・ストラッシュ」
炎の中から、声が響いた。
同時に、剣が光り輝き、放たれた光の奔流は、パラサイトドールの右目を焼き尽くした。 - 334◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 01:19:59
『っ……! やってくれたな、ティターニア……!』
それは、依代となった岸村文華というより、パラサイトドール本来の人格に近い反応であった。
『……だが、我を脅かす者はもはやいない……! 貴様らは最後のチャンスを逃したのだ!』
隻眼の竜は、勝鬨を上げる。
残ったワンフロムアウター、テンガイは、もはや赤子の手を捻るより簡単に殺せる。
ティターニアを排除したことで、ゲームもより円滑に進むだろう。
パラサイドドールの計画に、狂いは……。 - 335◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 01:25:04
ズン、と地響きがあった。
パラサイトドールの背後に立つは、鉄の巨人。妖精の技術の結晶。
対竜決戦兵器、マギカロボ。
緩慢に振り返り、竜は吠えた。
鉄の巨人は、静かに右腕を上げる。
『ロケットパンチ!』
コクピット内部から聞こえた少女の言葉と同時に、右腕がパージされ、パラサイトドール目掛けて真っ直ぐに向かっていった。 - 336◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 01:25:30
本日の投下はここまでとさせていただきます……!
続きは明日投下します - 337二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 07:44:12
ワンフロムアウター…この戦いの間しか持たない命か…
- 338二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 12:26:07
更新ペースが早くてありがたい!!
現在でこれなら全盛期のティターニアはパラサイトドールと1対1で渡り合えたのでは…? - 339二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 13:32:27
全盛期はあくまで爆発力があるだけで戦闘力は現在の方がずっと上だから抜刀金と一緒にワンパンKOされるんじゃないかなあ
奇跡的に単独でも倒せる可能性があるのは全盛期だろうけど - 340◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 19:35:49
投下します
- 341◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 19:42:27
日付の変更と同時に、この街は狂っていた。
地下鉄の爆破事故。姿を消す住民達。タワーの怪光線に、蠢く怪人・怪物達。
噂が噂を呼び、狂気が狂気を呼ぶ。学校が臨時休校となり、人々は家に篭るか、往来で騒ぎ合った。
だが、太陽が真上に辿り着こうとした頃——混乱は、頂点に達した。
学生街に出現したのは——怪獣であった。
ビルをも超える巨体の、黒き竜。
それは、仰ぐ者に現実の崩壊を確信させ。
更なる災厄を予感させるものだった。
だが、そこに鉄の巨人が現れたとき、人々は確かに思ったのだ。
まだ、何とかなるかもしれないと。
巨大ロボットが怪獣を倒す。そんな、古いロボットアニメの幻想(テンプレ)を、人々は願った。 - 342◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 19:49:18
『ロケットパンチ!』
射出された右腕は、竜の胴体に直撃し、巨躯を僅かに退かせる。
『マギカロボ……おかしいな。そんなに大きかったっけ……』
元々、二、三十メートル程度の大きさでしかなかったはずだ。だが、今のマギカロボはパラサイトドールと同じサイズになっている。
ここまで大きくなるのなら、パラサイトドールはマギカロボの支給を容認しなかった。参加者間の殺し合いでは明らかにオーバースペック。
『対竜決戦兵器……か。なるほどね……』
放送直後、アロンダイトの武器庫を破壊し、マジックアイテムを配ったのは誰なのか。
デッドマンズ・ハンドを通してティターニアにパラサイトドールの情報を伝え、討伐に向かわせたのは誰なのか。
『裏切り者は……君だったんだね……アロンダイト』 - 343◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 19:57:45
魔法王の城、その一室で、パンデモニカとアロンダイトは向き合っていた。
「どういうつもりだい、アロンダイト? 人間嫌いの君が、どうして参加者のために動く?」
パンデモニカの問いに、アロンダイトは鼻を鳴らした。
「パンちゃん、ミーのこと、馬鹿だと思ってるだろ?」
「まさか。実に妖精らしいと思ってるよ」
「誉め言葉と受け取って置くザンス。それに、ミーは裏切ってない」
ただ、オシウリエルとかいうクソ人間に教えてもらっただけ、とアロンダイトは吐き捨てる。
「このゲームを仕切ってる奴は——冒涜の竜。ミーの国を、家族を、滅茶苦茶にした奴だって。クソ人間が何人死のうがどうでもいいザンスがね——あのクソ竜が、のうのうと生きているのは許せない」
パンちゃんはどっちに付くの? とアロンダイトは、パンデモニカに、旧友に問う。
「もし、竜の方に付くなら——ミーとは殺し合いだよ」
「私は——」
パンデモニカは、ゆっくりと口を開いた。 - 344◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 20:06:18
巨人と竜の激突。
動く度に地響きが鳴り、建物が倒壊し、轟音が響く。
戦いは——概ね、竜が優勢であった。
ロボが、殴る。竜が怯む。
竜が、引っ掻く。ロボの装甲が裂ける。
一撃一撃の攻撃力が、違う。
ロボが鈍重に後退する。
竜が素早く回り込む。
動きの俊敏さが、違う。
かつて、貴族妖精たちは、冒涜の竜を討伐するために、ロボットを作った。
多くの戦士たちと同じく、冒涜の竜に相対する前に妖精同士の殺し合いで消費されたが、もし戦えれば、勝っていたはずだと、妖精たちは信じていた。
それだけの、技術の結晶だと。
——現実は非情だ。
全盛期からは程遠い今のパラサイトドールの竜形態でも、マギカロボは歯が立たない。
もしこの場にパペッタンと呼ばれた魔法少女が居たならば。
人型の非生物を十全に操る彼女の魔法ならば、マギカロボを駆使し、今のパラサイトドールと互角以上に渡りあえたかもしれない。
だが、彼女はもう居ない。
- 345◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 20:16:49
人々の祈りも、期待も、願いも空しく、マギカロボは徐々に損壊していく。
そしてついに、尾の一撃が、マギカロボを両断した。
げらげらと、パラサイトドールは笑う。
ティターニアは死んだ。アロンダイトの切り札も下して見せた。
もうしばらくすると、『天上』も復活する。
邪神の分身体を殺し、テンガイを殺し、殺し合いはあるがままの姿に戻る。
来るべき未来を予測し、パラサイトドールは笑い続け。
コクピットから飛び出す、一つの影を視界に収めた。
取るにたらない、魔法少女である。
参加者の一人だが、経験も浅く、ティターニアにあっさりと無力化される程度の戦闘力。
唯一警戒すべきその『火力』も、深夜に使い切ってしまい、今はガス欠状態。
この学生街で、最も矮小な存在。
『なんだ……』
だった、はずなのに。
『なんだ、その魔力は……!?』
——太陽が、顕現していた。 - 346◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 20:25:23
天城千郷は、ずっと蚊帳の外に置かれていた。
マギカロボでアパートぶっ壊してちょっとすっきりしつつ、なんか違うんだよなぁ、背中痒いときに頭掻いても仕方ないっていうか……と思っていると、ティターニアの戦闘が終わったらしく、彼女と合流した。
ロボを借りパクすることも考えたが、『最強』に一度ボコられたことはデストロってない彼女にはけっこうなトラウマで、呼ばれるがままに素直に合流、ロボットから一度は降りた。
西部劇のガンマンみたいな恰好した魔法少女に、帽子を被った陰気そうな魔法少女、おまけに血涙を流す鎧の女騎士(意識は無いようだ)という濃いメンツに引きつつ、ティターニアの放つ剣呑な空気に怯えつつ、彼女たちの話を黙って聞いていた。
この殺し合いの黒幕が会場に降りてきていて、ゲームを終わらせる絶好のチャンスであるらしい。
連戦の疲労を見せることなく、ティターニアは黒幕を討伐に向かい、ガンマンと帽子もどこかへと姿を消し、血涙の女騎士と二人きりになった。
- 347◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 20:32:53
「あの……大丈夫ですか……」
死んでいる、と言われても納得する程の惨状。破壊者である千郷だが、女騎士の有様には同情を覚えた。
千郷の声に応じたのか、女騎士の手が、微かに動いた。
千郷は、思わずその手を握っていた。
考えがあっての行動ではない。何となく、漫画とか映画で見た動きを、そのまま真似ただけだ。
手を握ったところで癒せる魔法もなく、どのような言葉をかけていいかも分からない。
「………………」
女騎士の口が、微かに動いた。
千郷は、顔を寄せる。 - 348◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 20:34:18
「…………貴様が、竜を、討て」
瞬間、千郷の身体に、灼熱が流れた。
(熱い……攻撃……? 違う、これって……!)
女騎士の身体が、粒子へと変わっていく。
「待って、待ってよ! 私に、どうしろっていうの!?」
千郷の問いかけに、女騎士は応えなかった。
光へと消えて行った魔法少女を見上げ、千郷は途方に暮れた。
体内に、太陽のような熱を感じる。
(こんなとき、部長なら、何ていうかな……)
今はもう居ない、アルセーヌのことを思う。
「うん、部長なら——好きにすればいいって、言うよね!」
だから千郷は、この託された力を破壊(デストロイ)に使うことに決めた。 - 349◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 20:59:37
「ぎゃはははははははははははは!」
迫りくる太陽を前にして、パラサイトドールの取った行動は単純だった。
支配は不可能である。ワンフロムアウターの眷属化は、当然天城千郷も該当している。
回避……不可能。あの一撃は、回避できる規模のものではない。
ならば、取る手段は一つ——迎撃。
パラサイトドールは、顎を開いた。
放つは黒き熱線。
戦術核に匹敵する、竜種の大火力。
今出せる最大の出力ならば、疑似太陽すらも呑み込んでみせる。
「ぎゃはははははははははは、ぎゃは!? あ、不味い!」
竜の顎に収束するエネルギーを目視し、千郷は空中で焦りだした。
——やはり、弱者。
魔法性能は高くても、パラサイトドールと戦う資格は持たない。
嗜虐を持って、パラサイトドールは熱線を放ち——。
- 350◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 21:09:46
微かな金属音が在った。
右足の、足元から聞こえた。
何の音かと、パラサイトドールが理解する前に——体制が崩れた。
巨体が倒れ込む。
(何だ……何をされた……!?)
倒れながら、残った左目で右足を見る。
——切断されている。
(馬鹿な……これは、まさか……)
- 351◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 21:12:17
『万物を切断する魔法』ブラックブレイドは、自ら処刑した。
始まりの魔法少女のように、生き返ることはない。
(まさか、技術だけで、到達したのか……そんな馬鹿な)
柳のように佇む影があった。
全身から血を流し、幽霊のように青白い顔をした、袴の少女。
居合術——抜刀金。
倒れ込んだパラサイトドールに迫るのは、天城千郷が、アグネアより託された『太陽』。
黒き熱線は、軌道を外れ、天へと昇っている。
『我が……私が……あーしが……こんな奴らに……!』
混濁する人格。
復讐の竜は天へと吠え。
太陽が、黒竜の身体を呑み込んだ。 - 352◆xaazwm17IRZa24/10/09(水) 21:13:38
投下を終了します
- 353二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 23:20:30
極まった技術は魔法と見分けがつかない 遂に成ったか
- 354二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 00:34:52
このレスは削除されています
- 355二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 01:09:03
定期的に湧くよね
- 356二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 01:23:54
言うて概念斬れる描写はまだないからなぁ
覚醒ブラックブレイドって「天上なかったら相性負けしてた」とパラさんが認めてる→今のパラさんに単騎で勝てるぶっ壊れだし - 357二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 07:40:51
覚醒直後が一番防御面で危ういからね、仕方ないね
- 358二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 14:48:38
仮にパラさん撃破したらバトロワが終わるのかそれとも運営はパラさん関係なく続けたいのか
- 359二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 19:53:01
斬る事に関してだけは魔法と同レベルって感じかね
魔法を斬る事は出来ないけどパラサイトドールの反応からして威力は同じか - 360二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 00:26:57
こんな奴等に、と思ってたならそれが敗因かもな
- 361二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 07:26:32
魔法しか警戒してなかったのが敗因かな 完全に技能での一撃だし
- 362二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 15:48:06
保守
- 363二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 19:11:08
竜(怪物)を倒すのは魔法少女だけじゃない!…パペッタンがいたらそんな雰囲気とシチュエーションでロボットと共に討伐に駆り出ていたんだろうなぁ…
- 364二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 23:35:36
魔法は知り尽くしても技術は知らなかった
竜を倒したのは人だったな… - 365二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 08:15:53
油断と慢心
- 366二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 08:47:09
ダイス運と設定と後々の展開が全部噛み合った結果、パラサイトドールが一巡目に取り掛かった最優先事項その①が“自分が素で負けうるパペッタンを始末する事”になったの好きすぎる
- 367二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 12:45:48
パペッタンとマギカロボを天秤にかけて前者を選ぶのも彼女らしい どちらか片方でも消えれば意味が成さない中で
- 368◆xaazwm17IRZa24/10/12(土) 21:07:31
ちょっと悩んだので、ダイス振ります
パンデモニカの正体(そもそも『悪魔』とは何ぞや)dice1d4=2 (2)
①始まりの魔法少女を魔法の国に呼び寄せ、魔法少女に変えた妖精
②ニャルセーヌの眷属
③妖精、竜とはまた別種の悪魔族
④皆さんから意見募集
- 369二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 01:18:21
にゃるせないな
- 370二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 09:17:02
アルセーヌもクトゥルフ関連の魔法持ってたね…
- 371二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 16:55:13
保守
- 372二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 21:02:58
おっと、終わりかと思ったがまだまだ謎が残ってる雰囲気だな…
- 373二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 23:07:46
ワンフロムアウター…!疲労が…
- 374◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:32:24
前振り段階しか書けてないのですが、ちょっと明日からまたしばらく投下できなくなるので、一旦投下します……!
- 375◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:33:07
螺旋階段を、人型の影が躍るように昇っていく。
「さーて、面白くなってきたにゃー。あれだけ慎重に動いておいて、崩れるときは一瞬。だから人生は楽しい!」
高らかに謳いあげるように言う少女の後ろを、偉業の魔術師たちが、口元の触手を艶めかせながら、後に続いていく。
「さてさて、ここからどうなるかなー? 『私』が巻き返す? それとも、希望の未来にレディー・ゴー?
どちらにせよ、そろそろ私も表舞台に出ようかな。
楽しくなってきたね、楽しくなってきたね。
君もそう思うだろ——我が眷属、【パンデモニカ】」
螺旋階段の先には、一人の少女が傅いている。
漆黒の肌に、艶めかしく黄金の魔法陣を刻み、黒山羊の角と蹄を備えた、悪魔のような魔法少女……パンデモニカ。
「アルセーヌ様——貴女はいったい、どこまで仕組まれていたのですか?」
「ははは。私は何も仕組んでないよ。全ては偶然。
偶々もう一人の『私』がバグって、オシウリエルが黒幕の正体を見抜いて、伝えられたアロンダイトが裏切って、他にも色んな要因が重なって、竜は地に伏した。
君が私の眷属、私が召喚したエネミーだってことを思い出したのも、偶然だよ」 - 376二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 02:33:37
このレスは削除されています
- 377◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:34:16
「私の魔導書『ゴエティア』に……私の名前が記されてあったんです。私もまた、召喚される悪魔に過ぎない……。いや、そもそも悪魔とは……」
「うん、悪魔ってのは、人間が作り出したもの。
——かつて一人の魔法少女が想像し、創造したのが君たちさ。『地獄の悪魔を召喚する魔法』。——今は、私の魔法だけどね」
パンデモニカの顔は、暗い。
誇り高き悪魔の矜持は、虚構に過ぎなかった。ならば自分のメリアに関する記憶は、アロンダイトとの関係は。
どこまでが真実で、どこまでが虚構なのか。
「面白がれよ、パンデモニカ。
君は魔法少女が創り出したキャラクターに過ぎないし、地獄や悪魔なんて存在しないけれど——それは、面白がっちゃいけない理由にはならない。
魔法少女は、自由なんだからさ」
アルセーヌは、パンデモニカの傍を通り抜け、地上へと昇っていく。
パンデモニカは傅いたまま、じっと何かを考え込んでいた。 - 378二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 02:34:39
このレスは削除されています
- 379◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:35:26
剣道を始めたのは、中学校に上がってからだった。
魔法少女として、もっと強くなるために、というのが始めた理由。武術なんて、魔法少女の活動には全然関係ない、というのが小学生の頃の私のスタンスだったけれど、後から魔法少女になったくせにすぐに(正しくスピードランサーだった)追いついた舞衣が、槍術を習っていたこともあり、私も考えを改めたのだ。
他の理由としては、小六の夏休みにめちゃくちゃ強い敵(本当に、何で勝てたのか分からないくらい強かった、ラスボスって感じ)と戦ったことがあり、もっと強くならないと、と義務感に駆られたからだ。
魔法少女になって、世界中の人を救いたい。それが、その頃の私の夢。 - 380◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:35:55
私は、剣道の天才ではなかったが、素質はあった。魔法少女の活動で練習は休みがちだったけれど、それでも三年最後のインターハイでは、個人で全国ベスト8までは、進むことが出来たのだから。
高校に上がってからは、より実践的な技術を学ぶために近衛騎士団に正式に入隊したので、剣道部には入らなかったのだけど、まぁそんな感じで、私は、それなりに剣道の腕は立った。
だから、山田浅悧という本物の天才を前にして、妙に納得したのだ。
(なるほど、これが『天才』なのね)
もっと強い存在は知っている。けれど、『剣道』という一つの武道でありスポーツにおいて、山田浅悧は本物だった。
教本に書いてある技術を、そのまま試合で過不足なく再現できる。
言葉にすれば簡単だけど、実行するとなるとどれだけ大変か。
Aという技をかけるために、Bという動作をフェイントで入れる。
理に適っている。理に適っているけれど、だからこそ、一定以上の選手なら、そんなことは百も承知なため、フェイントには中々騙されてくれない。
けれど、山田さんは違う。 - 381◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:36:41
行う動作が、フェイントなのか、実なのか、対面すると、まるで分からない。
熟知しているはずの技術を使われ、容易く一本を取られてしまう。
何より恐ろしいのは——彼女が、実戦経験や、特異な修行を一切していないことだろう。
幼少より槍と共に育った舞衣、戦場を渡り歩いたというブレイズドラゴン、彼女たちと違って、山田さんは中一で剣道部に入部し、毎日2時間だけ練習して、それだけで二人に匹敵、あるいは上回る技術を身に着けてしまったのだ。
私は、魔法少女だ。同時に、教師でもある。
山田浅悧という、稀代の天才剣士を、しっかりと育て、教え、導きたい。
そんな欲求が生まれたのは、仕方のないことだろう。
勿論、剣道部顧問として、他の部員たちも、しっかりと面倒を見る。
それに、純粋な技術論は、教えることは何もない。
けれど、顧問として、年長者として、少女の精神面をサポートし、彼女が剣道と勉学、それに青春に、しっかりと熱中できるように、状況を整えてあげるべきだ。
それが、教師としての責務だと、私は考えた。
考えていた、だけだったのだろう。
酔っていた、だけだったのだろう。
山田さんが暴力事件を起こし、剣道部を退部したのは、入部から半年後のことだった。
第二の人格、慈斬。私は、まったく気づかなかったのだ。 - 382◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:37:24
目を、覚ます。全身が、痛い。二の腕を持ち上げ、どうやら全身に火傷を負っていることを確認する。
——些事だ。そんなもの、どうにでもなる。
立ち上がる。剣を具現化する。
体力はまるで回復していない。連戦、マジカル・ストラッシュの酷使。全身打撲と火傷。
私は、剣道部顧問として、失格している。
私は、一教師として、落第している。
ならばせめて、魔法少女としては、務めを果たそう。
黒竜の姿が無い。私が倒れた後、誰かが倒したのか。
否、まだ生きている。何故か、そう感じる。
私は、我武者羅に走り出した。いつだって必死だった。大人になっても、余裕なんか、まるで無い。失敗ばかりだし、助けられないことばかりだ。
けど、それは、足を止める理由にはならない。 - 383◆xaazwm17IRZa24/10/14(月) 02:37:42
投下を終了します
- 384二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 08:35:46
乙
魔法少女モノで学校の先生が主役級の作品って中々見ないから新鮮で良いね - 385二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 09:18:05
黒竜…!そうだよな…本当にやられた姿は想像しにくいけど悠々と生きてるのは容易に考えられるもんな
- 386二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 16:12:47
乙
確かにティターニアみたいな立場の人間がスポット多く当たるケースは珍しいかもしれない - 387二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 20:21:35
何か不穏な気配を感じて立ち上がる
それだけでも魔法少女の資格はありますぜ先生 - 388二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 21:51:35
・デストロイヤーさん鎮圧
・メンダシウム撃破
・アグネアを鎮圧
・パラサイトドール討伐に主力級で貢献
現時点でも戦績が桁違いなんだよな…しかもまだ戦えるからここから増える可能性もあるという - 389二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 22:05:44
『わたし』…ってことはまだ黒竜の生き残りがいたのか…
- 390二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 01:48:19
不穏だな
- 391二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 07:16:10
満身創痍で技巧が活かせない事で爆発力しか頼れない状態…
- 392二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 12:26:22
色々あったけど東エリアはひとまず平定されそうだな
テンガイとティターニアも真の黒幕を倒すまでは一時休戦だろう
西エリアの後魔法国に突入してvs運営もやるのだろうか - 393二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 19:23:16
保守
- 394二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 22:51:24
- 395二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 00:15:56
最悪の未来をここまで頑張って変えてきたって考えたらすごいよ先生は…
- 396二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 07:44:50
ティターニアが全力を出せる状態と言う抑止力として強過ぎるカードをここで切ったからこれからどうなるか
- 397二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 16:20:32
保守
- 398二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 22:54:48
だいたいかませになりがちな最強枠だけど少なくとも市内最強にふさわしい働きはしてる
- 399二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 07:51:57
同格がチラホラいる事と最強がその気になればどうにかなる戦場じゃないのもあるね
犠牲者が出る前提で自分の身が危なくなる攻め攻めムーブは色々知り過ぎて大人になったティターニアはやらないし
爆発力の代わりになるものとして勝つための盤面を読む能力を磨いた先生は流石である - 400二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 16:32:38
保守
- 401二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 23:12:42
独白の内容的に一度デカい弱体化(潜在能力関連)が入ったぽい?そこから考えを改めて技を学び直した感じかね
- 402二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 00:11:20
この先生と同格と言われるスピードランサーは本領発揮するとどんなものなのか
インフレの弊害とはいえ操られてる間は実力の1/10も出せてなかったのでは…? - 403二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 00:23:25
他の同格たちも滅茶苦茶手強いしティターニアを凌駕してる部分も多いにあるんだけど、やっぱり参加者最強の肩書きはティターニアという説得力があるのよね…
- 404二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 11:16:44
最強って素敵な響きだよね
- 405二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 11:16:46
固有魔法が強くて戦闘技術が高くて経験豊富でメンタルが折れないというひたすら強い要素で構成されてる
この安定感<幼少期の爆発力なんだろから最強だった時期の上振れを知ってれば弱くなったように見えるんだろうね - 406二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 18:11:35
保守
そろそろ続きが投下される頃だろうか… - 407二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 19:26:46
相手からすれば今の先生の方がやりにくいかも
バトロワでも若くて爆発力あるタイプは最終盤面だけ警戒すればいいからな… - 408◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 22:43:47
しばらく投下できず、申し訳ありませんでした……!
今日も始めさせていただきます - 409◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 22:50:09
天城千郷は、虚脱の中にいた。
アグネアから継承された力を使った、大破壊。
破壊対象をドラゴンに絞ったため、街の被害は必要最低限のものとなったが、それでもビルは消し飛び、周囲は更地になっている。
マギカロボとドラゴンが戦っている間に、近隣住民は避難していたため、人的被害は無いが、復興にはかなりの時間を要するだろう。
千郷に、罪悪感は無い。
ただ、最高の破壊体験が出来たことによるエクスタシーに浸っていた。
変身は解除され、生身の、大人しそうな少女の外見を晒している。
(超気持ちいい……)
これだから魔法少女は辞められない。
——瞬間、刺すような殺意に、千郷は思わず飛び起きた。 - 410◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 22:55:18
(だ、だれ……?
わるいやつは、やっつけたはずなのに……)
ぼんやりとした頭を必死に振り、殺気の相手を探る。
この殺し合いの黒幕である、悪しき竜は滅ぼした。
もう危険は無いはずだ。デスゲームは終了したのだ。
そのはずなのに……。
土煙を掻き分けるように現れたのは、一人の少女であった。
見覚えは、無い。一見した印象は——ギャル。
だが、爛々と光る眼光は、爬虫類を連想させた。
「よくもやってくれたな、魔法少女……!」
少女——パラサイトドールは、今にも喰い殺しそうな表情で、生身の千郷を睨む。 - 411◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 23:01:34
その迫力に、千郷は圧倒される。
「げ、げーむは、もう終わったよ……!
殺し合いは、もう終わり! 私たちは、殺し合わなくて良くなったから……」
既にデスゲームは終了しているのに、情弱な魔法少女に殺されてはたまらないと、千郷は必死に言葉を紡ぐ。
「終わらない……終わらせないよ……! どれだけ準備をしてきたと思っている……完全復活を遂げて、お前たちに復讐するまで、この儀式は終わらない……」
視点が違う、と千郷は気づく。
少女の口ぶりは、プレイヤーのそれではなく、ゲームマスターのものだ。
「お前……お前、さっきのドラゴン……!?」
ようやく、その事実に気づく。
返答は、言葉では無く、攻撃で来た。
爪の一撃。原始的な、子どもの喧嘩のような攻撃は、しかしパラサイトドールが繰り出せば、ビルをも両断する。
生身の千郷が浴びればどうしようもなく即死。 - 412二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 23:04:29
盛大な台パン!
- 413◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 23:05:37
金属音が響く。
金色の刀身が、宙を舞った。
「やらせないで御座るよ」
千郷を庇うように、抜刀金が前に出る。
「……死にぞこないめ……」
パラサイトドールが吐き捨てた。
事実、抜刀金の顔は青白い。尾による一撃、壁に叩きつけられた衝撃。魔法少女としての基礎スペックが低い抜刀金にとって、それらのダメージは心身に重大な影響を及ぼす。
その状態で行った渾身の一撃。竜の脚を切り裂くという奇跡を成し遂げた代償は、抜刀金の体力を極限まで削っていた。
更に悪いことに、武器すら失っている。 - 414◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 23:10:41
「なるほど……刀を折ったのにどうやって斬撃をと思ったけど……そんな付け焼刃をしてたんだね」
転がった刀身に、パラサイトドールは目を向ける。
金色の刃。即ち、抜刀金の魔法『金の延べ棒を創り出せるよ』で創造した、黄金の刃。
抜刀金は柄を強く握った。
新たな刀身が錬成される。
「ふふ……拙者の魔法に、こんな使い方があったなんて、今までまるで思いつかなかった……」
自嘲するように呟き、抜刀金は居合の構えを取る。
パラサイトドールは、構えない。
- 415◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 23:19:48
ダンッ、と抜刀金は地を蹴った。
竜種にさえ通じる、抜刀金の居合術。
その刃は、パラサイトドールに届き。
「脆いね」
腕の一振りで、折られた。
自らの魔法を忌み嫌い、修練してこなかった抜刀金の固有魔法。
それでも、一度目の錬成は名刀レベルの完成度を見せられた。
だが、極限まで疲労していた状態で二度も完璧な錬成が出来る程、抜刀金は魔法少女として習熟していなかった。
刀は折られ——パラサイトドールの一閃が、抜刀金の身体を切り裂いた。
声もなく、抜刀金は崩れ落ちる。
最期に思い浮かべたのは、複雑な思いを抱えていた釣り師の少女か、あるいは同じ剣士の少女か、親交のあった犬耳の少女か。何も語ることなく、抜刀金はその命を手放した。
【抜刀金 死亡】
【残り 23人】 - 416◆xaazwm17IRZa24/10/18(金) 23:20:06
投下を終了します
- 417二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 23:25:22
負けた後の駄々が死人が出るレベルなの参るね…
- 418二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 23:54:37
二度の奇跡は起きなかった…
- 419二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 09:01:12
今まで自分の魔法から目を背けてきたツケが回ってきたわけだ
- 420二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 10:01:30
あ〜…まぁどんな魔法でも戦いの役に立たないってことは絶対ないはずだし鍛えておくべきだったな…
延べ棒とは言え無から有を生み出す魔法なんて弱いはずはないんだ - 421二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 10:19:14
奇策のつもりで放った一撃だったんだなぁ。こんな状況じゃなければそもそも使う事も無かったんだろうに、それでもっと速く気づいていれば…
- 422◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:18:01
投下します
- 423◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:25:42
袴の魔法少女は、動かなくなった。
千郷と抜刀金に、面識はない。
それでも、彼女が自分を守るために立ち向かってくれたことは分かる。その結果、死んでしまったことも。
誰かを守るために自分を犠牲にする。千郷には無い概念。
見えない空気に窒息するくらいなら、世界を破壊することを選ぶ。そんな彼女にとって、他者のために命を投げ出すことは——まるで理解できない。
(本当に?)
魔法少女は、自由である。法律からも、慣習からも、道徳からも、善悪をも超越した存在。それが、魔法少女。部長は、常日頃からそう言っていた。
その言葉は、素面の千郷を勇気づけてくれるものだ。デストロイを肯定してくれるものだ。
見ず知らずの魔法少女が死んだからといって、何かを想う必要なんか無い。
——見ず知らずの騎士に魔力を託されたからといって、責任を感じる必要なんか無い。
至上とするべきは、破壊だ。圧倒的な大破壊だ。
破壊できない概念に、気をとられる必要なんかない。 - 424◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:30:40
そのはずなのに。
興味も関心も無いはずなのに。
「どうして……」
と、死んでしまった少女に問いかける。
死者は何も返さない。生者が出来ることは、ただ悩むことだけであり——それももうすぐ終わる。
守護者は居なくなり、怒れる竜は、千郷を捉える。
殺される、のだろう。
変身できない状態では、否、変身できたとしても、この魔法少女には勝てない。
敵の指が微かに動くだけで、千郷は破壊され、二度と再生しない。
死ぬ。
(嫌だ……)
思えば、不思議な感情だった。
千郷の、最終目標は、全てをぶっ壊す=世界の破壊である。ならば、世界に自分も含まれる以上、自らの死を許容しなければならない。
にも関わらず、いざ、その時がくれば、死にたくないと全身の細胞が叫び出す。 - 425◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:36:07
(あ、あはは……何だ、結局私って、普通だったんだなぁ……)
偶々特別な力を手にしただけ。デストロイヤーの内面は、突き詰めれば思春期の『破壊衝動』を拗らせただけ。
今までずっと目を逸らしていた事実に、ようやく、死に際になって気づく。
なんて、格好悪いんだろう。そのことに、泣きたくなる。
この瞬間、千郷は少しだけ大人になった。
そして、そのことをパラサイトドールは祝福することも肯定することも顧みることもなく、爪を振るう。
人間には、否、魔法少女にとっても致命の一撃。 - 426◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:46:29
千郷の足が地面を離れた。
「わっ……!」
転がる。
制服を土で汚しながら、千郷は自分がまだ生きていることを実感する。
誰かが、助けてくれた。
また一人、自己犠牲を行う少女が現れた。
千郷は顔を上げる。
「ティターニア……さん」
青いドレスは焼け焦げている。
頭部からは出血があり、全身のあちこちに火傷を負っている。
満身創痍、という言葉を体現したような、『最強』の姿であった。
「もう大丈夫よ、天城さん」
それでも、ティターニアは千郷に笑いかけた。
「今まで頑張ってくれて、ありがとう」
- 427◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:48:26
ここからは、大人の仕事。
そう言って、ティターニアは切っ先をパラサイトドールへと向ける。
動いたのは同時であった。
パラサイトドールの爪が空間を切り裂き、ティターニアを両断せんと迫る。
ティターニアは地面を蹴って急加速し、斬撃を剣で弾く。
肉薄する二人の魔法少女。
パラサイトドールの顎が開き、黒い炎が顔を覗かせる。
瞬間、ティターニアの突きあげた拳が、パラサイトドールの顎をかち上げる。 - 428◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:59:39
「ぐっ……!」
苦悶の声をあげたのは、ティターニアの方だった。
パラサイトドールの右足が、ティターニアの右足を踏みつけている。
パラサイトドールの膂力を持ってすれば、この程度の児戯でも重大なダメージを与える。骨や肉が破損したことをティターニアは察し——それらを全て無視し、大剣でパラサイトドールの首を刎ねんとする。
だが、剣はパラサイトドールの右腕で押し止められる。
膠着する間もなく、ティターニアは膝蹴りを繰り出す。パラサイトドールは怯まない。だが。
「マジカル——」 - 429◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 16:59:49
ティターニアの言葉を聞き、パラサイトドールは大剣に視線を向けた。
その視界は、赤で塞がれる。
「——目潰し!」
せりあがって来た血液を口内に溜め、パラサイトドールの眼窩へ発射。
元々右目は潰していたこともあり、これでパラサイトドールは一時的に視界を失う。
今度こそ、本命のマジカル・ストラッシュ。
ティターニアは瞬時に魔力を練り上げ、パラサイトドールへと攻撃を繰り出し。
パラサイトドールが、愉快そうに口角を上げていることに気づいた。
(しまった、罠……)
「——今だ、パトリシア」
パラサイトドールは、狙撃手の名を呼んだ。
遠方で、爆発的に魔力が高まる。
パラサイトドールは、一人では無かった。ティターニアの読み違い。結果は、残酷なまでに現れて。
- 430◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 17:07:06
◇
現在、あにまん市のあらゆる人間及び魔法少女は、パラサイトドールとワンフロムアウターの二重支配を受けている。そのため、パラサイトドールの思惑通りには動けない。
——パトリシアを覗いて。
既に生命活動を半ばまで停止し、全身をパラサイトドールの支配に染め上げられたパトリシアは、ワンフロムアウターの眷属化を跳ねのけて、パラサイトドールは自由に動かせる。
パラサイトドールにとっての伏兵。
ティターニアやテンガイは、存在すら知らない鬼札。
偽りの王の命令の下、意思無き狩人は、最強へと矢を番え。
銃声が、響いた。
パトリシアの額に、風穴が空く。狩人は、仰向けに倒れる。
その顔は、微かな笑みを浮かべていた。
【パトリシア/ディア・フライシュッツ 死亡】 - 431◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 17:14:11
「——誰を撃つかは、自分で決める」
デッドマンズ・ハンドは粒子化していく狩人を見送りながら、そう呟く。
「それが、おいちゃんたちの流儀。そうだろ、パトリシア」
言葉を交わしたことは、無い。
魔法の国を本拠とするパトリシアと、糧鮴を根城とするデッドマンズ・ハンド。
儀式さえ無ければ、きっと人生が交わることも無かった。
それでも、同じ射手として、デッドマンズ・ハンドは、パトリシアに共感する。
パトリシア程の一流の射手ならば、撃つ瞬間に徒に魔力を発散しない。
それを行ったということは、パトリシアの真意は。
「お疲れ様。おいちゃんも、近いうちにそっちに行くよ」
そう言って、デッドマンズ・ハンドはパトリシアの遺骸に背を向ける。
見据えるは、ティターニアとパラサイトドール。
殺し合いの運命を決める、最終決戦。 - 432◆xaazwm17IRZa24/10/19(土) 17:14:25
投下を終了します
- 433二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 20:37:50
乙
支配できているようで出来ていないということだ - 434二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 00:04:38
パトリシア逝ったか……
- 435二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 09:17:48
そう言えば通常技にもマジカルってつくんだったな先生
- 436二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 09:36:14
デッドマンズさんも内心「もういい…もういいだろぉ!」って思いながら発泡してそう
パラサイトちゃんのやっている事はまさに死者への冒涜ですな… - 437二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 17:08:13
保守
- 438二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 23:33:46
水面化で繰り広げられる戦い…
ティターニアとパラサイトドールの勝敗はここまで影響を及ぼすのか - 439二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 07:45:40
血の目潰しという一種の死亡フラグでビビったけどさすが先生だ、ちゃんと決まるぜ…
- 440二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 11:11:12
このまま儀式は終わるのか?
- 441二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 16:29:46
パラさん倒したら儀式自体止まるのか儀式を止めるにはプラスアルファが必要なのか
あるいはパラさん倒すと運営側が継続不可能になるのかそれとも抜きでもやれるのかとかが不明だからなあ - 442二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 23:32:39
保守
- 443二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 07:35:39
パラさんの性格からして何か仕込む可能性は高いよな…
- 444二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 15:17:06
このレスは削除されています
- 445二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 21:44:20
保守したいなら『保守』の一言あれば十分だよ
- 446二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 22:55:27
先生達が食い止めてるおかげで各地でパラサイトの裏工作破壊出来てるしここからが今までの先生の積み重ねが証明される時だな
- 447二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 07:42:28
他の魔法少女も一斉に動き出すか…?
- 448二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 12:47:03
パラさんが敗北すれば大きく動き出すのは間違いない
同時間帯のあと2地区がどうなるか次第ではあるけど - 449二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 22:19:58
儀式が終了する訳ではないけど、これからの方向性が確実に決まる戦い
- 450二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 02:16:19
このレスは削除されています
- 451二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 02:42:13
スレ間違えてますよ
- 452二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 07:51:37
パトリシアが魔力を発散してデッドマンズハンドに知らせた…
一度はパラさんの誘惑で本来の意識が深い所に沈んでいたところにおいちゃんが来たおかげで少しだけ顔を覗かせたなぁ - 453二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:55:41
保守
- 454二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 00:00:12
ほしゅ
- 455二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 00:04:40
モロに本気のマジカル・ストラッシュが入りそうだけど大丈夫…?パトリシア頼みだったみたいで防御体勢に入っていない…
- 456二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 08:31:29
先に動いたのが先生だからパラさん一手遅れて反撃
手札多いテンガイと比較しても詰めの甘さや逆境への強さが欠けてる感じがする - 457二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 10:43:26
そのへんは依代の性格に引っ張られてるのかもね
- 458二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 17:53:24
そろそろ続きが来る頃かな…
- 459◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 22:03:07
投下します
- 460◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:05:09
パラサイトドールの顔色が変わった。
パトリシアの援護が来ない。
彼女の作戦は失敗したのだ。
「マジカル・ストラッシュ!!」
慌てて体勢を立て直す前に、その体躯は光に呑み込まれる。
魔力を消し飛ばす光。肉体が数千年前に滅び、他者の身体に寄生(パラサイト)して生きてきた存在にとって、致命的な攻撃。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
少女の喉から出たとは思えぬ、獣じみた声。
「おのれ……おのれ……魔法少女……!」
竜の姿を保てないほどの消耗。その状態で浴びた『マジカル・ストラッシュ』はパラサイトドールに、確かなダメージを与えた。
そして、ティターニアはその機を逃さない。
- 461◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:21:13
強く、一歩踏み込んだ。
脳裏に浮かぶのは、師——アグネア・ミストリルの教え。
先ほどのマジカル・ストラッシュで生じた裂傷。そこに——大剣を捻じ込む。
雷鳴のような叫び声が、パラサイトドールの喉から漏れた。少女ならばその悲鳴に臆しただろう。だが、ティターニアは、既に少女を卒業していた。
「スーパー・マジカル・ストラッシュ!!」
全身全霊の一撃。外殻からではなく、内部からの滅殺。近衛騎士団に伝えられてきた必殺を、ティターニアは元凶へと浴びせた。
其れは、魔法少女の戦いとしてはあまりに殺伐としていて、勇者の戦いとしてはあまりに泥臭いものだった。
戦場で生まれた、殺し合いの技術であった。
パラサイトドールの身体が、弾け飛ぶ。右腕が、右肩が、背が、腹が、内側から膨れ上がる光に呑まれ、消し飛んでいく。
体躯の三分の二を消失させながら、パラサイトドールは吠えた。
「畜生……魔法少女め……よくも……よくも、よくも……」
倦怠は微塵も感じられない、悔恨に満ちた怨嗟の声。
ティターニアの直感が鋭敏に働く。
断末魔としては、妙だと。 - 462◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:23:01
「——本気で、相手をしてやる……!」
「なっ……!」
残った左腕で、パラサイトドールは指を鳴らした。
世界から、『呪い』が消失した。 - 463◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:25:40
あにまん市で今もなお生存し、殺し合いを続ける23人の魔法少女。彼女にかけられた呪いが解除される。
それは——殺し合いの閉幕を意味していた。
それは——儀式の失敗を意味していた。
そして、それは——全参加者の、死を意味していた。
- 464◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:35:39
蠅でも払うかのように、『無傷のパラサイトドール』は右腕を無造作に動かした。
ただそれだけの動作で、ティターニアは即死した。
全身を磨り潰され、抵抗も出来ず、肉塊へと変わった。
【妃咲 希/ティターニア 死亡】
【残り 22人】
魔力の殆どを殺し合いの維持に回していたパラサイトドールが、殺し合いを放棄した。
参加者は自由になり、世界は救われ、——全力のパラサイトドールがあにまん市へと放たれる。
(また参加者は一から集め直し……完全復活も遠のいた……忌々しい、忌々しい……! 『とりあえず』元参加者と、我を裏切った幹部は皆殺しだ……! それで、鬱憤を晴らすとしよう……!)
死体となったティターニアには目もくれず、パラサイトドールは天城千郷を視界に入れる。
恐怖で身を竦ませる彼女を殺さんと無造作に爪を動かし。
視界の隅で、緑色の髪の少女が自らの心臓を握りつぶすのが見えた。
「お前、何を……」 - 465◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:37:19
「——『Χρόνος(時間を操る魔法)』」
- 466◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:44:02
時は、6秒戻る。
「ぐっ……」
半壊し、身体に剣が刺さった状態で、パラサイトドールは呻いた。
それでも、残った彼女の左腕は素早く動き、指を鳴らそうとする。
ティターニアが、新たに大剣を具現化する前に、この動作は完了する。
テンガイの行為は、無駄であり、無為であった。
パラサイトドールの手首は、宙を舞った。
ティターニアの手に握られているのは、脇差。
- 467◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:46:16
◇
「これは……?」
「山田浅悧の忘れ形見。おいちゃん撤収する前に拾っといたの。……のぞみちゃんが使うべきだよ、それ。その方が、遺した本人も嬉しいはず」
「……どうかしら、ね」
◇ - 468◆xaazwm17IRZa24/10/25(金) 23:55:29
「あ……アアアアア…………グギャアアアアアアアアッッ!」
怒りの雄叫びを上げ、パラサイトドールはティターニアの首元に牙を立てる。
だが、ティターニアは左腕で顎を抑え込んだ。牙が筋繊維を噛み千切り、骨を砕き、左腕の肘から先を噛み潰す。
——痛みに、喪失に、ティターニアは一切怯まなかった。
「マジカル——」
大剣をパラサイトドールの脳天へと突き立てる。
パラサイトドールはじたばたと暴れ、逃れようとした。
ティターニアは、両足を絡め、パラサイトドールを押し倒す。地面に固定し、大剣を深く突き刺していく。 - 469◆xaazwm17IRZa24/10/26(土) 00:02:42
「魔法少女ッ! 呪ってやるッ! 祟ってやるッ! 我の復讐はこんなところでは、終わらんぞ!」
「——ストラッシュ!」
刹那、パラサイトドールの一切の抵抗が無くなった。
憎悪と怨嗟に塗れた、怪物じみた形相は霧散し
「…………はぁ、面倒だったなぁ……」
気だるげな言葉を最期に、パラサイトドールの頭部は消し飛び、この世から消失した。
【岸村 文華/パラサイトドール 死亡】 - 470◆xaazwm17IRZa24/10/26(土) 00:04:04
投下を終了します
次の投下で長かった学生街編も終わりです……!
お付き合いいただき、ありがとうございます……! - 471二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 00:14:06
お疲れ様です
先生、おいちゃんとそんなやり取りがあったのか…十分過ぎる働きをしましたね… - 472二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:30:47
激熱だった…!!
先生は早く治療を受けないと死んじゃうし…テンガイさんがそれっぽい魔法持ってないかな - 473二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:34:49
我を裏切った幹部…そういえばトートアリアやグレンデルなどの立場は未だ不明だったがこの状況でどの陣営につくのか
彼女らとは別にニャルセーヌ直属の部下も居るかもだし王宮の情勢からも目が離せないな - 474二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 07:18:38
- 475二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 10:44:05
勝つには勝ったが、って状況
皆んなを導く存在が欠けてしまっているこの先、何が起きるか分からないのだ - 476二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 15:40:53
黒幕撃破は大きいけどかえって先が読めなくなったのはあるね
- 477二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 19:25:04
ティターニア死亡とテンガイの心臓破壊は6秒戻ってなかったことになったんじゃなかったっけ?
- 478二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 19:28:18
ここまで黒幕をやってくれたパラさんに黙祷
- 479二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 23:53:25
台パンとリセットと諦めモードとこれでもかと悪態ムーブをこなしたパラさん。冒涜の名に偽り無しね
- 480二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 07:46:32
- 481二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 14:01:17
再起不能になったとしても生きて…
- 482二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 22:01:01
- 483二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 01:53:48
続き読みたい
- 484二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 07:47:20
他者に寄生すると肉体負傷が致命的か
元が規格外だったとはいえ確かに打たれ弱かったね - 485二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:02:05
魔力で強化されても人間の限界は超えられないだろうからなあ
- 486二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 18:59:05
保守
まだ描写されていない西と中央エリアでは何が起きてるのか
パラサイトドールの最後っ屁で誰か死んでる可能性もあるな - 487二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 23:13:15
パラさん脱落による2次被害も容易に想像出来てしまうんだよなぁ
- 488二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 23:47:52
良くも悪くも「黒幕」って蓋があったからね
ここからまだ戦うやつがいるとしたら荒れるぞ… - 489二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 07:37:47
実質ここからがシーズン3だ…
- 490二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 13:55:42
西はアンパイなの覚えてるけど中央エリア参加者は誰だっけ?
- 491二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 16:22:05
ランサー姉貴とハスキーロアと非参加者のレーザーの子がいたはず
- 492二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 23:01:58
抑止力のいないあにまん市の行く末は平和か混沌か
- 493二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 00:26:05
パラサイトドールから解放されたってことは…残りの参加者がフルスペックに?
- 494二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 05:45:04
6秒巻き戻った結果呪いを解くより先にパラさんが絶命してるから何とも言えない
パラサイトドールの死亡=ゲーム終了 なら>>493の言う通り好戦的なキャラの枷が外れて大乱闘編待ったなしだし
そうじゃないなら順当にニャルセーヌ組主導の第3ラウンド開始かなって
- 495二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 07:48:25
巻き戻しで呪いの解除が不発に終わった
呪いの解除が本当にパラサイトドールだけに依存しているのか気になるね
何か仕込んでるかもしれないし - 496二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 16:38:27
保守
- 497二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 23:32:11
そろそろ続きが読めるかな…
次回は学生街編最終話だし時間がかかってらっしゃるのかもしれない - 498二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 07:14:02
終盤の展開になってきて寂しくなりますねぇ…
- 499二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 14:42:23
保守
- 500二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 23:15:59
保守
- 501二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 23:33:13
保守
- 502二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 07:48:23
もう2人とも戦える体力は無いよな流石に…
- 503二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 13:37:02
少なくともティターニアはダメージ的にも戦闘不能のはず
テンガイに他者回復があってなんらかの理由で治すなら時間置けば復帰できるけど - 504二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 22:17:53
保守
- 505二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 02:35:55
しゅほ
- 506二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 09:56:18
黄金の刃、マギカロボ
パラサイトドールを追い詰めた数々の魔法やマジックアイテムの中でも状況次第ではそのまま勝てたかもしれない… - 507二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:18:06
保守
- 508二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 21:50:53
保守
- 509二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 00:56:44
あげ
- 510二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 08:24:54
ほしゅ
- 511二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 16:03:04
保守
- 512二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 23:24:21
ここからパラさんの抑止力が消えてガンガン参加者が脱落しそうで怖いぞ
- 513二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 07:53:03
次いつ更新来るかも分かんないし一回落とした方が良くない?
- 514二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 10:50:50
1週間経ってるからね
長期戦の合図だしそろそろ落としても良いかも - 515二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 13:01:57
とりあえずスレ主さんから何らかの連絡があれば良いんだけどね
- 516◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:31:19
お久しぶりです……!
無事に規制が解除されたので、wikiに仮投下していた続きを再投下します……! - 517◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:32:48
逝凪素鈴は、海の上に居た。両足が海面に付いている。それでも、沈まない。
水平線がどこまでも広がっている。
(あれ? どうして私、こんなところにいるの?)
デスゲームに巻き込まれていて、仲間が出来て、敵が現れて、そして……。
(よくわからないけど、なんだか、すっごくいい気分……)
気持ちの良い朝のような、あるいは、満ち足りた夜のような。
足を運ぶ。沈まない。楽しい。水たまりだけで大はしゃぎできた、幼い頃を思い出す。
前方に、人影が立っていた。 - 518◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:33:30
恐怖は微塵も感じなかった。素鈴は静かに、迷いなく人影へと足を進める。足先から広がる波紋が、音符のように海面を彩った。
人影の前に立ったとき、素鈴は、納得した。
自分と同じ外見の、けれどどこか自分より大人びた雰囲気の少女。
彼女こそ、今まで自分を見守っていた『存在』なのだと、言葉を交わさずとも、素鈴は理解できた。
少女の目からは、涙が零れていた。
素鈴は、少女へと近づく。少女もまた、素鈴へと歩み寄った。
どうして少女が泣いているのか。素鈴には、やはり、理解できてしまった。
——自分が、どうなったのかも。
「泣かないで、お姉ちゃん。
……今まで守ってくれて、ありがとう」
言葉は無かった。海面に落ちる雫の音だけが、響いていた。
【逝凪素鈴 死亡】
【残り 22人】 - 519◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:34:12
◇
「悪いな、ワンフロムアウター。お前のことは嫌いじゃないけど——お前の創造主は僕様、大嫌いなんだよ」
静かに、眠るように息を引き取ったワンフロムアウターが粒子化していくのを見届け、テンガイは独り言ちた。
そして、手を何度か開閉し、老獪な笑みを浮かべる。
「邪神の力は奪えた……突貫工事だが、『全知全能』、復活だぜ」
『切断』され、二度と使えないはずだった魔法。だが、ワンフロムアウターから奪った莫大な魔力、及びテンガイの蓄えた知識があれば、質こそ下がれど、再使用できるようになる。
シュレッダーにかけられた文書を、無理やりテープで繋ぎ合わせたような荒業。
ただ、一芸だけを磨く魔法少女とは、一線を画した、規格外の在り方。
あるいは、一つの魔法を信じきれない、老いによるものか。
完全に粒子化するのを見届けると、テンガイはその場を去った。 - 520◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:34:44
◇
パラサイトドールの肉体が粒子化していく。
それを見届ける間もなく、ティターニアはその場に崩れ落ちた。
「ティターニア!」
生身の天城千郷が駆け寄る。
その様子を後方から眺め、テンガイは——思案していた。
(『呪い』が解除されてない……)
デスゲームを司っていたパラサイトドールの死、それはゲームの終了を意味していた。
にも関わらず、未だテンガイは『呪い』に掛かっている。
(誰かが空の玉座に座ったか……) - 521◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:35:09
◇
禅譲は、極めてスムーズに行われた。
異形の宣教師を引き連れ、かつて「アルセーヌ」と呼ばれた魔法少女は、魔法王の城へ正面から入った。
抵抗する者は居なかった。
パトリシア率いる傭兵部隊は既に亡く、魔法国最強の魔法少女アグネアも命を
落としている。
運営二大幹部のうち、メンダシウムはゲーム序盤で撃破され、パンデモニウムはアルセーヌの眷属であることを『思い出した』。
オートクチュールは中立であり、ああああはあにまん市に移動済み。詐欺師もまた、役目を終え舞台から退場している。
パラサイトドール死亡の立役者ともいえるアロンダイトは、満足そうにアルセーヌの行進を見送った。
城内を凱旋するかのごとく進み、最深部、玉座の間に辿り着いたアルセーヌは、どっかりと椅子に腰を下ろした。
「……さて、ゲームマスター交代というわけだ」
玉座の間に集ったのは、宣教師たち、運営幹部。その中にはグレンデルとトート・アリアの姿もあった。 - 522◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:36:02
「私はパラサイトドールほど強くない。【天上】じゃない。ここにいる魔法少女の魔法は私に効く。『その術は俺に効く、やめてくれカカシ』ってやつだよ。……あれ、誰にも通じてない、このネタ……?」
周囲の反応を窺うが、笑う者は誰も居なかった。メリィなら通じたのになぁ……とアルセーヌは肩を落とすが、すぐに顔を上げた。
「つまり、誰にでもこの椅子に座る権利がある。
私の代わりに黒幕やってもいいし、私を倒してゲームを終わらせてもいい。
私は、面白ければどっちでもいい。そこが、前任者との違いかな。いやマジで、飛行系の初期位置が地下とか、そんなつまらないことはしないよ」
でしょう? という風に肩を竦める。やはり、同意の声は無かった。
「……あー、私の方が少数派か。
まぁ仕方ないよね。君たちは殺し合いが見たいんじゃなくて——この儀式の果てに得られる魔法、【マジカル・マギカ(願いを叶える魔法)】が目的なんだから」
アルセーヌがそう言った途端、玉座の間の空気が変わった。
ざわり、と集まった魔法少女たちの熱が、アルセーヌを突き刺す。
「『冒涜の竜』を復活させることはもう出来ないけれど、【マジカル・マギカ】を発現させるだけなら、今の私でも出来るからね。——まぁ、何日も維持するのは出来ないんだけど」
ごめんねぇ、非力で……とアルセーヌは苦笑した。
「悪いけど、このゲームは次の放送から六時間で閉めさせてもらうよ。それまでに優勝者が決まらなければ……参加者は全員時間切れで死亡。ただ、そうなれば儀式は失敗となって、【マジカル・マギア】は手に入らない。
つまり、君たちは次の放送から六時間以内に、参加者を狩る必要がある。
元々、参加者が少なくなってくれば運営陣を『追加参加者』として登録、優勝をかっさらうという流れだったと思うけれど、それが前倒しになったってことだね。
……あ、つまり他の運営陣も敵ということだけど……どうする? 今この場で先に始めちゃう?」 - 523◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:36:30
◇
(殺し合いはまだ終わってない……)
テンガイの口角が上がる。
倒れ伏したティターニア。変身を解除している参加者らしき魔法少女。
今この場で『テンガイ』が取るべき手段は。
「じゃあなティターニア——お前はもう用済みだぜ」
詠唱。空中に魔法陣が浮かび上がる。
放たれたのは雷。瀕死の魔法少女と生身の少女ならば、一撃で命を奪う無慈悲な一撃。
「きょきょきょ……『拒絶』!」
二人に落ちるはずだった雷は、しかし、帽子の少女によって弾かれる。
物理現象を無視し、直角に折れ曲がった雷を見て、テンガイは瞠目した。
「はーい、そこまでだよ~」
そして、帽子の少女の傍には、いつの間にそこに居たのか、西部劇のガンマンのような恰好の魔法少女が立ち、テンガイに銃口を向けていた。 - 524◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:37:08
「ここでのぞみちゃん……ティターニアを消すつもりなら、おいちゃんとああああが相手になるぞ~」
「あの、何で私テンガイとも敵対することになってんすか。もうゲーム終わったなら解放して欲しいんすけど……」
「うんうん、事情は後で説明するから盾役頑張れ~」
二人の魔法少女の介入。テンガイは怯むことなくけたけたと笑い声をあげた。
「完全復活した全知全能の僕様に、たった二人で挑む気? 身の程知らずだな」
「復活ねぇ……その口から零れる血は何?」
苛立たし気に、テンガイは口元を拭った。
(チッ……確かに一つ魔法を使っただけでこの有様だ……。さっきのクロノスの反動もまだ体にきてるしな……)
現れた両者は雑魚ではない。長年の経験からガンマンの少女の経験値の深さ、帽子の少女の異質性は、何となく感じることができる。 - 525◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:38:09
「というかさ~ティターニアが反運営なんだから、反運営、ゲーム破壊派に周ったほうが合理的じゃん。どうしてユーは優勝を狙うわけ~? そうまでして叶えたい願いが?」
「ああ、僕様は背を伸ばしたくてね、それで優勝を狙ってるのさ」
「嘘つきだね~」
「そっちこそ何が合理的だよ。ティターニアは死に体だ。戦闘どころか生存さえ危うい状況で、ゲームを破壊できると本気で信じてるのか?」
「できるよ」
と、ガンマンの魔法少女は断言した。
「ティターニアは、絶対に悪に負けないから」
「狂信め」
倒れ伏したティターニアに視線を向ける。 - 526◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:38:55
(実力は認めてる……あの竜の成れ果てとはいえ、パラサイトドールを滅ぼしたのは大したもんさ。
けど、ティターニアは■■■じゃない。あの子とは……違う)
「……まぁいいさ。見逃してやるよ、完全復活した僕様はもう優勝も脱出も楽勝だからな。パラサイトドールが死んだ今、僕様に匹敵する存在はいないぜ」
そう言って、テンガイは背を向けた。
「精々残り少ない余生を楽しむといいよ」
「こっちの台詞だな~」
かくして、『全知全能』は場を去った。
黒幕さえをも巻き込んだ学生街の死闘劇は、一時閉幕となったのである。 - 527◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:40:03
再投下を終了します……!
遅くなりましたが、学生街編終了です……!
根気強く感想や保守をしていただき、ありがとうございました……! - 528◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:47:29
※『黒幕:パラサイトドール』が滅んだことでゲームの進行は前倒しとなります。
今後の流れとしては
残り2エリアの参加者パート
↓
第二回放送(全運営陣生存ダイス)
↓
最後のバトルロワイアル(全参加者・全運営陣生存ダイス)
↓
エピローグ
となります。 - 529◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:52:52
それでは、2巡目次の舞台はdice1d2=1 (1)
1【あにまん中央エリア/中心街】
《ハスキーロア、スピードランサー》
2【あにまん市西エリア/糧鮴】
《バルバロイ/ジャスティスファイア/冨島千秋/ハートプリンセス》+オオカワウソDチーム
- 530◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:55:34
次のエリアは中心街です……!
【あにまん中央エリア/中心街】
ハスキーロアdice1d100=79 (79)
スピードランサーdice1d100=92 (92)
- 531◆xaazwm17IRZa24/11/04(月) 22:57:25
以上の結果を元に、中心街編の話を作成します……!
編とはいっても恐らく1、2話で終わると思います……!
今後とも、よろしくお願い致します……! - 532二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 23:14:04
現参加者側最強の片割れと何でも切断魔法を受け継いだ魔法少女が生存したまま最終決戦に挑む事が決定したんすねこれ
- 533二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 00:09:33
乙
中心街と西はたぶん反運営に回るメンバーのみだから生存してくれるのは大きい - 534二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 07:41:40
中心街のダイスがチュよぃ…
wikiの仮投下もお疲れ様です…! - 535二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 13:09:54
これで運営が第二回放送で軒並み「なんか死んだ」になったら笑うがどんな出目になるだろうか
- 536二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 13:17:36
1パート目で速攻で気絶しちゃったハスキーロアちゃんにもそろそろマトモな戦闘シーンと掘り下げをあげて欲しいところ
- 537二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 18:38:07
ついに最終局面…最後のバトロワは魔法国でやるならまた場所安価などあったりしないかなぁ
- 538二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:58:22
この感じだと西エリアも激戦区になりそう…
- 539二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 23:27:33
このレスは削除されています
- 540◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:19:35
投下します
- 541◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:20:13
ダークワンは、パラサイトドールに仕える黒騎士である。
魔力による防御・効果を貫通する黒曜石のロングソード。そして並外れた剣技。並の魔法少女ならば鎧袖一触、魔法国きっての精鋭部隊『近衛騎士団』のメンバーで、ようやく互角に戦える。
それほどの強敵。
参加者最強の一角、スピードランサーを前にしても、ダークワンに怯えや震えは無かった。今しがた、一人の魔法少女、『平瀬 アキラ』との戦闘など、まるで問題では無かったかのように、ダークワンは剣を構え、スピードランサーに殺意を向ける。
槍VS剣。
槍兵と黒騎士。共に生涯の殆どを鍛錬に費やした者同士。剣豪同士の果し合いのような、ぴりぴりとした空気が病院の廊下に満ちた。
宣言も無く、予備動作すら無く、スピードランサーの頭上で魔法陣が展開し、朱槍がダークワンに向けて放たれていた。
本来なら反応すらできない、致死の一撃。
だが、ダークワンもまた熟練の戦士。
放たれた槍を、剣撃でもって迎撃する。 - 542◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:21:32
穂先を叩き落とされ、朱槍は廊下へと転がる。
撃ち込まれた槍を剣で捌く。現代、否、戦国の世でもこれが出来る強者はどれだけ居たか。
ダークワンは流麗ささえ感じる動きで、前に出た。
放たれた二槍目。
これも、剣で捌く。
超絶技巧を、一度ならず二度も披露してのける。
——戦闘といえるものは、そこまでであった。
間髪入れずに放たれた三、四の朱槍に対応できず、捌ききれなかった朱槍は、ダークワンの右手首を消失させた。
次の瞬間、新たに放たれた五、六、七の朱槍が前後上下にダークワンを貫いた。
断末魔をあげなかったのは騎士の矜持か、あるいは悲鳴をあげる前に即死したからか。 - 543◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:22:03
(——調子は7割ってところだな……)
と、スピードランサーは思った。
数時間前の激闘によるダメージは、完全に抜けきっていない。だが、頭の中にかかっていた黒いもやは、晴れたように思う。ゲーム開始時が四割程度の調子だとするならば、今は七割だと、スピードランサーは自推した。
スピードランサーにとって、ダークワンは大した脅威では無かった。
つまり、間に合いさえすれば自分を呼んだ魔法少女、平瀬アキラを助けることが出来たのだ。
(まったく、最速が聞いて呆れるぜ)
遅い。
人を助ける魔法少女としては、落第もいいところだ。
否、既に二人の少女の命を奪ったスピードランサーは、魔法少女を失格している。
自身の悪行について、思うところが無い、わけではない。 - 544◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:22:41
だが、自分の行動は絶対に間違えていた、と懺悔するほど踏ん切りもついていないのだ。
短慮だった、とは思う。
しかし、クリックベイトを死なせたくない、という気持ちも、嘘ではないのだ。
デスゲームが開始して六時間以上経過しても、未だにスピードランサーはスタンスを決めかねていた。最速の魔法少女は、参加者の誰よりも身の振り方を決めることが遅かった。
あー、と苛立たし気に頭を掻く。
殺した二人の魔法少女には、家族があり、仲間があり、恋人だって居たかもしれない。
その者たちからすればスピードランサーは仇だ。
(つーか、アレヰ・スタアの仲間には、確実にティターニアが居るよなぁ……)
ティターニアは、仲間を殺した者を絶対に許さない。
もし、スピードランサーの殺人がバレれば待っているのは殺し合い……命は奪われなくても、二度と変身が出来ないほど、再起不能に追い込まれるだろう。 - 545◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:23:23
そして、スピードランサーは自身の殺人を隠す気もなく、また、ティターニアの裁きを甘んじて受け入れる気もさらさら無かった。
向こうが全力で潰しにくるのなら、こちらも全力で抵抗しよう。
二人を殺したことは全面的にスピードランサーが悪く、その復讐は正当なものであり、殺人者・卑怯者と詰られることは全面的に受け入れる。
ただ、だからといって自責で死んでも、意味は無い。死体が三つになるだけだ。
(……それに、これ以上アタシが人を殺さない保証は、どこにもねぇ)
クリックベイトを生かすには、ゲームに乗るしかない。熟慮の末、そう判断すれば、スピードランサーは、きっともう二度と迷わない。最速で無辜の魔法少女を殺戮できてしまう。
そういう風に、出来ている。
幼い頃から実戦的な槍術を学んだ結果なのか、あるいは先天的な異常者なのか。はたまた、10代の『デッドマンズ事変』と呼ばれる抗争によるものなのか。
スピードランサー本人も、どれが正解なのか、分からないし、興味も無い。
ただ、スピードランサーはティターニア、あるいはパペッタン、アレヰ・スタアとは、価値観を異する魔法少女なのは事実だった。 - 546◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:23:50
(……しかし、どうするかねぇ……)
走り回ってクリックベイトを探す、というのもアリだ。
だが、少なからず面識のある少女の最期の頼みを無碍にもできない。
(まぁ……戦闘力はともかく、生存力ならあいつはアタシよりよっぽど上だ。焦って探さなくてもいいか)
ならば、平瀬アキラの頼みを聞き、ハスキーロアなる魔法少女を傍で守るべきだろう。
(わざわざエネミーを送りつけてきたってことは、運営陣もよっぽどそいつを消したいらしい。……このゲームのキーにもなりうるか)
スピードランサーも、積極的に殺人者になりたいわけではない。運営を打倒し、クリックベイトと一緒に帰れるなら、それに越したことはない。
まだ見ぬ参加者の情報を推察しながら、スピードランサーはその場を後にするのだった。 - 547◆xaazwm17IRZa24/11/06(水) 02:24:04
投下を終了します
- 548二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 07:46:49
速さが足りない!!(自虐)
- 549二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 08:25:40
デッドマンズ事変…何があったんだ
- 550二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 09:30:02
幸運ダイスがスピードランサーに意地でも第二回放送を聴かせようとしているように思えてならない
- 551二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 13:09:13
それで行くと第二回放前にミョルニルを殺したのはダイス監督の慈悲なのか
- 552二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 13:57:44
Aタワーの戦いだとテクテク歩きながら戦ってたけど全力だと空中に生やした槍で八艘飛びしながら槍の空爆と地面に槍生やしの二面攻撃で蹂躙するのが本領なのかな?
- 553二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 22:32:41
テンガイ、劣化した全知全能入手
魔法は切断されたけど消えた訳ではないから繋げば戻るって事ね - 554二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 00:50:25
ティターニアと互角らしいスピードランサーの本気を見たい
今までのティターニアの戦いばりの長尺で掘り下げあると嬉しい - 555二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 00:59:34
固有魔法、フィジカル、メンタルなど
現状ティターニア先生の最強に説得力がありすぎるのでスピードランサーはどれだけ盛られてもよい
というかドレッドノートとかの例を見るに魔法の武器具現化って相当コストが高いので、無限に槍を出せるのはマジで当たりの部類なんだろうな - 556二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 01:17:52
まぁ正直な話、ダイスの組み合わせもあるけど初っ端から謎に制限抜きの全力戦闘させてもらったりとティターニア先生の優遇っぷりもあるので他のキャラにも回して欲しくはあるね
- 557二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 01:50:11
メンダシウム、パラサイトドールとボスキャラ脱落装置として便利に使われてる感はある
- 558◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:11:24
投下します……!
- 559◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:12:14
霧の中に居る。
何時から居たのか、とんと思い出せない。
ハスキーロアは、闇雲に一歩踏み出した。爪先に濡れた感触がある。
海、だろうか。だが、波の音は聞こえない。
ならば、川か。
(ここはどこなんだろう……)
自身の生活県内に、こんな場所は無い。
霧で隠れてるため、周囲の景色はまるで分からないが、感覚が此処を知らないと訴えている。
違う街、違う国、もっと隔絶した、違う世界。
だが、不思議と恐怖は無い。
精神を満たすのは静謐だ。——此の先に行きたいと、そう思った。
更に踏み出す。足首も川に浸かる。冷たいが、やはり不快ではない。
霧の先に、懐かしい気配が生まれた。この川を超えれば、会えるのだろうか。
「お姉ちゃん」 - 560◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:14:10
自然と、言葉が零れていた。どうして霧の先に姉がいると思ったのか、ハスキーロアには説明が出来ない。
進もう。そう思った。
「来ちゃ駄目よ」
と、霧の向こうから声が聞こえた。
姉の声、では無い。知らない声だ。……本当に?
ついさっきまで、この声の主と話していたような。
「来てはいけません」
また別の声が聞こえた。この声もやはり知らない……否、知っている。
霧が僅かに張れた。
霧の向こうに、幾人もの人影が浮かび上がる。
二十を超える影が、霧の向こうに立っている。
知っている人がその中にいる……ような気がする。
もっと近づきたい。けれど、来るなと言われ、ハスキーロアは足を止めざるを得ない。
やがて、ハスキーロアは踵を返した。岸へと戻る。 - 561◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:15:07
意識が、するりと体に戻った感覚があった。
目を、開く。
「お、目覚めたか」
まっさきに視界に飛び込んできたおは、知らない女性だった。青いウルフカットの髪に、赤いボディースーツを纏った、魔法少女。
「貴女は……」
「アタシの名前はスピードランサー。参加者の一人だ」
「っ……!?」
ハスキーロアは慌てて上体を起こした。身に纏っているのは簡素な病院衣だったが、瞬時に犬耳、犬尻尾の魔法少女へと変身する。スピードランサーと遜色ない体躯も、年齢相応の小学生らしい体躯へと変化した。
距離をとり、警戒するハスキーロアを見て、スピードランサーは目を細める。
「へぇ、やっぱ回復してんのな」
「回復……?」 - 562◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:15:55
言われてみれば、意識を失う前に、自分は攻撃され、火傷や打撲、骨折などの重大なダメージを受けていた筈だ。
けれど、今の自分には傷が無い。
「あなたが……治してくれたんですか」
「いや、勝手に治った。お前みたいなガキンチョがどうしてアタシやティターニアと殺し合わされてるのか謎だったが、なるほど、何かしら持ってるってわけか」
アタシも既に一敗してるしな、とスピードランサーはからからと笑う。
寝ている間に傷が治る。そんな魔法に、心当たりは無い。
だが、治療したと嘘をつくならともかく、治療してないと嘘をつく理由も分からない。
周囲を見渡す。
意識を失う前に居た学校、ではない。
どこかの建物の屋上だ。それも、すごく大きな建物の……。
「あ、ここって、病院……?」
あにまん市立中央医療センター。市内最大の医療施設の屋上に、ハスキーロアは居る。 - 563◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:16:31
「悪いな、本来の病室だと守るのが面倒だったんだ。
此処なら、どこから襲ってこようと、『視認』できる」
視認できることと、守ることはイコールでは無いはずなのだが、どうやらスピードランサーにとってそれは同義らしい。
「さて、お前にいくつか伝えなきゃいけないことがある……」
「あの……私と一緒に居た、ブラックブレイドさんは、どちらに……」
「死んだよ、そいつ」
え……とハスキーロアは呻いた。
「明け方に、放送とやらで名前が呼ばれてた。後で名簿も見てみな」
ナサリーブラウンの遺体は現認した。だが、同行者のブラックブレイドも亡くなっていたことに、ハスキーロアは動揺を隠せなかった。
「ゲーム参加者だけじゃない。アタシにお前を託した、平瀬アキラも亡くなった。アタシがもうちょい早ければ助けられた命だった」
「——アキラお姉さんが……?」
姉の友人で、姉が『留学』に行ってからは、親身にサポートをしてくれた元魔法少女。彼女も亡くなった……? - 564◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:17:20
「嘘……どうして……?」
「……さてね、この街で起きているデスゲームに巻き込まれたんだろうさ」
悪いけど、悼む時間は与えてやれねぇ、とスピードランサーは言った。
「お前が目を覚まして、傷も治った今、此処に留まる理由もねぇ。探したい奴もいるしな。できればお前にはアタシに着いてきてほしい」
「ま、待ってください……まだ、私は……」
ハスキーロアは、状況に追い込まれていた。齢九歳。参加者最年少の彼女に、同行者と恩人の死は、肉体と精神を停滞に縛り付ける。
この場に居たのがティターニア、あるいはそれに準じる価値観を持った魔法少女であれば彼女の喪失に寄り添い、傷を緩和させることも出来たのだろう。
だが、この場に居るのはスピードランサー。
「待たねぇよ」
と、赤い魔法少女は言った。
「悼む時間は無いって言っただろ。アタシに着いてくるか、一人で行動するか、好きに選べ。
……ただ、そうだな。アタシは卑怯は嫌いだ。話しておかないとフェアじゃない」 - 565◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:17:47
手すりに背中を預け、スピードランサーの顔に影が射す。
「アタシはこのゲームで二人殺してる」
ハスキーロアの身体が再び固まった。
「そして——アタシは、ゲームに乗らない保証が無い」
さぁ、どうする?
スピードランサーの問いかけに、ハスキーロアは——。 - 566◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:22:39
投下を終了します……!
中心街編(?)はこれで終了です……! - 567◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:25:41
2巡目最後のエリアは糧鮴です……!
【あにまん市西エリア/糧鮴】
バルバロイdice1d100=66 (66)
ジャスティスファイアdice1d100=90 (90)
冨島千秋dice1d100=27 (27)
ハートプリンセスdice1d100=1 (1)
オオカワウソDチームdice1d100=4 (4)
- 568二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 02:32:26
確死圏内なのが2人…
- 569◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 02:51:54
……以上の結果を元に、後日糧鮴編を投下します……!
そして、いつも感想をありがとうございます……! 励みになります……!
各キャラクターの戦闘描写に格差が生じているのは私もちょっと気にしていて、序盤退場キャラにも番外編などで魔法・戦闘描写を盛ったりしてもいいのかなとも思ったのですが、同時に、企画がかなり長引いているので、テンポよく進めて年内完結を目指すべきなのかとも思ったり……。
この辺り、皆さんの希望としてはどちらでしょうか……?
(投下頻度が上がれば両立できそうですが、中々難しく……申し訳ないです) - 570二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 03:44:05
私個人としてはここまで来たら何があっても最後まで追いたいと思っているし、なるべく多くの魔法少女の活躍が見たいけど…
あくまでスレ主さんの書きたいように、話の流れに沿った上でというのが優先ですね - 571二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 03:49:19
テンガイが万能型、ティターニアが戦闘特化ならスピードランサーは殺すことに特化した魔法のイメージかな
デスゲームで一番有利なのは彼女かもしれん - 572二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 07:50:21
長期企画が長引くのは仕方ないので盛りたくなったらスレ主さんが納得する方向性で良いと思いますよー
- 573二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:01:31
- 574二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:06:45
描写に差が出来るのは仕方ないと思ってる。キャラごとのスレ主の書きやすさとかダイス目もあるし
番外編やるなら本編完結させてからのほうがいいかなとは - 575二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:14:28
ハスキーロアとか1話、2話と生存してるのにほぼ何もしてないしね。
まぁ平等に生存ダイス振ってこの格差はいやちょっと待てよって言いたくなるのも分かるかな。スレ主さんもそう思ってるから聞いてるみたいだし。
学生街編だとわざわざ運営参戦させてたけど今回それすら無かったとは。 - 576二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 17:17:50
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- 577◆xaazwm17IRZa24/11/07(木) 19:56:55
皆さんご意見ありがとうございます……!
・番外編はひとまずやらずに本編を進めることにします
・キャラ間の出番の格差は自分でも何とかしたいとは思っているのですが、中々上手くいかず……。基本的に『そのキャラをどう退場させるか』をまず考えて話を作っているので、退場者が居ない話では、運営が出張る余地が無いんですよね……。 - 578二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 20:24:26
しかしプリンセス1ファンかぁ……今までで一番悲惨な死に方しそう
めっちゃいいリアクションしてくれそうでちょっと興奮してきた - 579二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 20:29:27
これでオオカワウソも全滅だっけ?
- 580二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 23:03:38
バトロワだからね、それこそ死に方も選べないものなのさ…
スレ主さんに苦労を掛けてばかりで申し訳ないです - 581二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 23:30:26
西エリアはvsオオカワウソがあるならただ平和には終わらなさそうだな
千秋ちゃんは生き延びられるかどうか - 582二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 02:30:17
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- 583二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 02:38:13
- 584二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 02:43:58
ダイスの結果とはいえラスボスのパラさんは学生街編のキャラだけで倒して因縁も全部片付けちゃったし、せめて全員参加の最終回は他のキャラに真ラスボスを譲ってあげてくれとは個人的に思うかな。
どうしても主題のバトロワじゃなくて本筋の因縁とか過去がメインになるし。
まぁスレ主さんが書きやすいならそれを優先して頂けたらとは思いますが。 - 585二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 07:49:26
バルバロイの筋力はこういう乱戦にこそ発揮しやすい。撹乱メインのオオカワウソがいるのも追い風か
- 586二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 16:51:02
保守
- 587◆xaazwm17IRZa24/11/08(金) 23:50:58
- 588二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 00:38:33
魔法少女部による魔法少女の為の…
- 589二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 00:48:53
個人的にはジャックに期待がある、彼女を魔法少女にした悪魔とか、なんでジャック・ザ・リッパーって名乗ってるのとか
- 590二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 08:13:28
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- 591二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 08:15:11
キャラ格差については都合上致し方無しと割り切りつつも
92出したスピードランサーが軽い導入だけで終わったり腑に落ちない部分もままあるのが本音 - 592二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 09:53:28
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- 593◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 13:28:08
- 594二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 13:53:00
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- 595二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 14:43:06
参加者二人
両者共にほぼ生存確定
とくに殺し合う理由もない
のでまぁ… - 596二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 15:03:44
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- 597二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 15:10:55
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- 598◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 15:24:39
パラサイトドールが健在でも、この状況だとこれくらいの短さになってたと思います……!
ゲーム全体としては想定より企画が長引き過ぎたのとラスボス退場で巻いてまして
元々の構想は全参加者集合→第三回放送→対運営戦→エピローグ(あるいは対運営戦無しで優勝者のエピローグ)の流れだったのですが
今は全参加者集合&対運営戦→エピローグに短縮してます……!
- 599二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 15:31:14
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- 600二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 15:35:23
メタ的な話前作のバトロワ島でも2週目まで戦闘シーンすらなかったキャラが終盤以降で大活躍してたし、生き残ってれば出番は回って来ると思う
むしろ中心街の2人なんてポジション的に一番美味しいところなんだからここから何もない訳がないんじゃないだろうか - 601◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 15:50:57
1巡目での彼女の役割は「守られること」と「託されること」なので、これといった活躍はしてないですね……。
ポジションとしては「最終回で初変身するタイプの主人公」です。
(勿論群像劇なので、ハスキーロアのハッピーエンドが確約できるわけではないですが)
- 602二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 19:32:52
そういえば天上、天蓋の設定って開示されてましたっけ
天上が神様みたいなもんで天蓋はただの魔法少女の範疇って認識でいいんです? - 603二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 21:29:56
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- 604◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 21:44:31
- 605二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 22:17:41
西のキャラを改めてみたらオオカワウソは例外として生き延びたいと願ってるキャラほど出目が低い気がする
- 606◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 22:31:04
投下します
- 607◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 22:37:30
疲れた顔でマンションのエントランスを通り抜け、エレベーターのボタンを押す。
ボックス内に入ると、松崎新一郎は疲労に塗れた溜息をついた。
(やっぱり、疲れやすくなったなぁ)
三十を越して二年が経つ。
学生時代や新人時代と比べると、体力が衰えていることを、帰宅の度に実感する。
(ジムとか行った方がいいのかなぁ。でも、ますます疲れるしなぁ)
膨らんできた腹を摩る。暴飲暴食をしているわけではないのだが、日々の運動不足も祟り、中肉中背の体型は崩れてきていた。
上司からは妊娠したのかと揶揄われたりもするが、あまりいい気はしない。 - 608◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 22:43:20
(まぁ、でも、頑張らないとな……)
アメリカで出会った少女を思い出す。
正義のために戦う魔法少女・ジャスティスファイア。
松崎が子どもの頃に憧れていたヒーローを体現したような存在。
今、松崎がこうして日常を生きている間にも、彼女たちは悪と戦っている。
一般人の松崎としては、彼女たちの無事を祈ることしか出来ない。
大人として不甲斐ない。
(結局、私に出来ることは、日常を丁寧に生きていくことだけだ)
その積み重ねが、彼女らの助けになる。そう信じる。
(機会があれば、また再会したいものだが……)
- 609◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 22:48:40
そこまで考え、松崎は、ふと気づいた。
(このエレベーター、随分と長くないか?)
確かに松崎はマンションの7階に住んでいるため、エレベーターの上昇時間は長い。
だが、それにしても到着がばかに遅い気がした。
上昇感はあるので、停止しているわけではないのだろう。
なので松崎は、7階到着を待つことにした。
(そういえば、このマンション……出るんだったな)
一部のオカルトマニアの間では、心霊スポットとして有名らしい。
引っ越して一か月ほどになるが、松崎は心霊現象なるものを体験していない。その存在も懐疑的だ。
(まさか、これがそうなのか……?)
心身が冷えていくのを感じながら、松崎は階数表示をじっと見る。
『5』
『6』
『7』
7階に着いた途端、松崎は逃げるように外に飛び出した。 - 610◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 22:57:09
そこは、いつもの見慣れたマンションの共用廊下が広がっている。
蛍光灯でほの暗いが、奇妙なもの、不審なものは無い。
(なんだ……やっぱり、気のせいだったか)
疲れているのだろう。
今夜は晩酌をせず、さっさと布団に入ろうと、松崎は部屋へと足を進め。
「もし」
と、後ろから声をかけられた。
松崎は振り向く。
白いローブを頭から被った少女が、上目遣いで松崎を見て入る。
「君は……?」
「めぇは、黒贄といいます。ここの住民です」
クケケケケケケ……と黒贄と名乗った少女は奇怪な笑い声をたてた。
「あなたは、7階の住人で……?」
「……ああ、そうだけど」
「そうですか。今、お暇ですか。お暇でしたら、めぇとお話しませんか?」 - 611◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:01:16
不気味な少女だ。
それにこんな時間に、見ず知らずの少女と話すなど、社会的な体裁も悪い。
「悪いけど、忙しいから……」
そう言って、黒贄に背を向ける。
ぬるり、と黒贄は松崎の正面に移動した。
「まぁ、まぁ、そう言わずに。短い話ですから……」
「……どんな話ですか?」
「何でも願いを叶える話、天の上へ昇る話です。興味深いでしょう?」
「いや、そんなに……」
「まぁ、まぁ、そう言わずに。短い話ですから……」
(どうして、同じことも2度も……) - 612◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:07:36
やはり、不気味だ。それに、しつこい。
「君、どこの部屋の子だい? 明日も学校があるんじゃないのか? 夜遊びしていないで、自分の部屋に帰りなさい」
少し、語気を強くする。はっきり言って、松崎は黒贄に恐怖心を抱いていた。
だからこそ、大人と子供という構造を利用し、上位の存在として、少女を叱りつけた。
秩序の再構築。大人の処世術の一つだ。
「学校……くけけけけけけ、めぇが、学校ですか……」
だが、それはこの少女にはまるで意味を成さなかった。
少女は、ゆっくりとローブを外す。
茶髪に、吸い込まれるような瞳。
そして、頭部から生える羊のような角と、耳。
少女は、異形であった。
- 613◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:11:41
普通人ならば腰を抜かしていただろう。
だが、松崎はこれらの存在を、知っていた。
「君は、魔法少女なのか……」
黒贄の口が、裂けるように広がった。
「やはり、知っていましたか……だったら話は早い」
ぬるり、と黒贄は松崎へ距離を詰める。
そして、囁くように言った。
「——貴方も“ナラカ”に入りましょう」
- 614◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:14:47
翌日、松崎新一郎は出社することなく、連絡も取れず、家族との情報共有の末捜索願も出されたが、終ぞ見つかることは無かった。
- 615◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:20:55
◇
ハートプリンセスは、個室を少女の集団に包囲されていた。
字面だけなら、何やらイジメの現場のようであるが、包囲している少女たちの武器が、拳銃、ショットガン、日本刀と、不良どころかヤクザでも装備していないような重武装である。
「おーい、でてこーい」
包囲している少女の口からは、楽し気な声が響いた。
少女たちの名は、オオカワウソ。個体全てが、オオカワウソという。正確には、オオカワウソDチーム。他の参加者と協力し、ゲーム攻略を図るチームである。 - 616◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:25:06
どんどん、と拳銃を装備したオオカワウソが、扉を叩く。
「おまえはー、完全に包囲されているー」
「往生際が悪いぞー」
「隠れていても、得物は臭いで分かるぞー」
口々に、まったく同じ顔の少女たちは野次を飛ばす。
キャハキャハキャハと笑い声に包まれながら、ハートプリンセスは脂汗を掻き、己の不運を呪っていた。 - 617◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:30:14
参加者に紛れた化物、ヒートハウンドを、ジャスティスファイアを使って上手く処理できた。そこまではいい。だが、あの悪魔・パンデモニカの悪意によって、ジャスティスファイアに狙われることとなってしまった。
これでは、元の木阿弥。むしろこちらを認識していなかったヒートハウンドと違い、ジャスティスファイアは明確にハートプリンセスを認識し、殺しに向かってくるだろう。
(くそっ、何で俺がこんな目に……! 俺が、何したってんだ……)
魔法を駆使して逃げなければ。
だが、どこに逃げるというのだろう。フライフィアーも、ヒートハウンドも亡き今、ジャスティスファイアが参加者でぶっちぎりの最強に決まっている。
もはやこのゲームは、ジャスティスファイアが順番に獲物を燃やしていく人間バーべーキュー会場だ。
- 618二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 23:30:44
オオカワウソこえぇ…
- 619◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:46:07
(いや……待て。ジャスティスファイアも化物だが、ヒートハウンドも化物。化物同士がぶつかったんだ、ジャスティスファイアも相当消耗しているはず……)
ならば勝てるのではないか。
勿論、ハートプリンセス単体では無理だ。
だが、放送後に支給されたマジックアイテムと、他の魔法少女を騙し、仲間にすることが出来れば……。
(だとすると、外に居るこいつらから逃げるのは悪手!
むしろこいつらを騙し、ジャスティスファイアへぶつけることが出来れば……)
- 620◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:51:02
もし命の危機を感じたら爆発転移魔法で逃げればいい。
意を決して、ハートプリンセスは戸を開いた。
「あ、出てきたー」
「こんにちは、私たちはオオカワウソ!」
「他の参加者と協力して、このゲームを攻略するよ!」
同じ顔が10人並ぶ姿に、ハートプリンセスは面食らう。
だが、言動からしてただちに自分に危害を加えるわけではなさそうだ、と内心安堵した。
「そ、そうか……。
俺は、ハートプリンセス。俺も、ゲームに乗ってない」
「わーい、協力だー」
「一緒に頑張ろう!」
「お、おう」
(こいつら、言動からしてすっげぇ馬鹿だな。
簡単に騙せそうだ……) - 621◆xaazwm17IRZa24/11/09(土) 23:58:46
「まずは情報共有しないか。
俺は、危険な魔法少女の情報を持っている。それを、共有しておきたい」
「情報!?」
「新しい情報!?」
にわかに色めき立つオオカワウソたちを、ハートプリンセスは冷めた目で眺める。
(数は多いし、武装もガチだが、おつむがこれじゃあな。中身は幼児か?)
計画通り、ハートプリンセスはジャスティスファイアの外見、能力を伝え、彼女は悪人であり、必ずこのゲームでも殺戮に走るはずだ、と力説した。
(こいつらだけでジャスティスファイアに勝てるとは思えないが、もっと駒を増やして行けば、消耗したジャスティスファイアを殺せるはずだ……)
「な、だからジャスティスファイアは危険で、真っ先に排除しなきゃいけない存在だってことさ」
ハートプリンセスの大人の嘘に、純粋無垢なオオカワウソたちはすっかり信じてしまい——。
「何でそれを知ってるの?」
「んん?」
- 622◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 00:07:19
——とは、いかなかった。
「ジャスティスファイアが悪人だって、どこで知ったの? 外見とか、魔法とか、どうやって知ったの?」
「え、えーと……そう! このゲームに巻き込まれる前に、俺は奴に襲われたことがあったんだ! その時に、外見と名前と、能力を……!」
「どうしてハートプリンセスはその時無事だったの?」
「そ、それは……俺は、転移魔法を使えるから」
「転移で逃げる前に、ジャスティスファイアの名前と詳細な魔法が分かるくらい接触してたの? それまでどうやって生き延びてたの?」
「それは……その……その場に居た別の魔法少女が、えっと……頑張ってくれて」
「その同行者の名前は? このゲームに参加している? ハートプリンセスとはどういう関係?」
(何だよこれ、取り調べじゃねぇか……)
ハートプリンセスの勘違い。それは、オオカワウソは子どものような言動を取り、常軌を逸した行動をするが——決して愚かではない。
たじたじになりながらも、ハートプリンセスはアドリブで受け答えをしていく。
全てを聞き終え、オオカワウソたちは顔を見合わせた。 - 623◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 00:14:26
「どうする?」
「拷問してみる?」
「でも、私たち協力チームだよね」
「じゃあ、ジャスティスファイアと実際に接触して、情報の真偽を確かめよう」
「な!?」
それは——非常に不味い展開だ。
ジャスティスファイアと接触すれば、当然ジャスティスファイアは自らの正義と、ハートプリンセスが自分に行った行為(強制デスマッチ)を告発するだろう。
当初の予定ではジャスティスファイアと接敵時には、一切相手の言葉に耳を傾けないよう言い含めるつもりだった。
だが、今の半信半疑の状態で遭遇してしまうと、オオカワウソたちはジャスティスファイア側についてしまう可能性が高い。
(どうする……!? とっとと逃げるか……!? だが、ここで逃げると俺が確定でクロになっちまう……
だったら爆発で全員消すか……? 分からねぇ、こいつらがヒートハウンドみたいな無効化能力持ってたら、俺の立場がますます危うくなる……) - 624◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 00:20:21
(いや、冷静に考えろ……。ジャスティスファイアとすぐに遭遇するわけじゃない。
逃げることはいつでも出来る……。それまでに、俺のことを信用させればいい……)
「おう、俺はそれでも構わねぇ。ただし、ジャスティスファイアは本当に危険なんだ。
情報のためだけに接触して、殺されてしまったら、元も子もないだろ……?」
「一人生き残ればそれでいいじゃん」
「そうだねー」
「情報は大事だよー」
(……大丈夫かこいつら)
もはや、オオカワウソのことを愚鈍だと侮る気持ちは無い。
だが、それとはまた別の部分で、この少女たちは歪だと、ハートプリンセスは察し始めていた。 - 625◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 00:20:43
投下を終了します……!
- 626二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 08:07:29
会話は出来るけど話が通じないオオカワウソは怪異感ある
- 627二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 09:59:04
流石オオカワウソは生きる前提が違うな
言葉は飾りで脳内では色々思考を張り巡らせている、会話として外に出す情報は必要最低限 - 628二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 10:49:25
オオカワウソと遭遇した時点でハートプリンセスは最後がロクでもないないことになりそうな気がする
- 629二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 12:10:24
ニャルセーヌたちの本拠はマンションなのかね
- 630二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 19:10:07
歪でもあり純粋でもある
不純物が無さ過ぎて異常に見えてしまうね… - 631◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:03:28
投下します
- 632◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:21:56
「Boa tarde(こんにちは)」
と、バルバロイはその集団に声をかけた。
奇妙な集団だった。
同じ顔をした10人の少女と、彼女たちと比較して一回り幼い外見の少女。
10人の少女は外見に似つかわしくない、しかし糧鮴という場所には似つかわしい恰好をしている。銃火器による武装。
中央の少女は、ジャパニーズ・ニンジャ・フィクションでよく見る、スクロール(巻物)を持っている。
一般人なら絶対に、例え糧鮴ヤクザでも声をかけない異様な集団。
だが、バルバロイもまた、普通ではない。
盛り上がった腹筋、野生的な肉体美に溢れた体。そしてテンガロンハット、カウボーイ風の衣装。
奇しくもその風貌は、糧鮴の顔役魔法少女と似通っていた。 - 633◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:29:58
「参加者かな?」
「新しい仲間だね」
「ジャスティスファイアじゃないよ?」
「ハートプリンセスの知り合い?」
「いや、俺はこんな娘知らねぇ……」
口々に話す少女たち。
それを、バルバロイはじっと見つめる。
少女たちの武器は、新品ではない。使いこまれたものだ。魔法少女が具現化したものではない、とバルバロイは当たりをつける。
人間が、人間を殺傷するために作った武器。
喧嘩屋バルバロイの好みに合致するものではない。
だが、バルバロイは少女たちに近づいた。
- 634◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:30:15
「あなたたち、それ、どうやって、得る?」
不慣れな日本語で、バルバロイは少女たち、オオカワウソの群れに話しかける。
「この武器のこと?」
「はい」
「これはね、糧鮴の暴力団から手に入れたの」
「やっぱり、アイテムは多い方がいいもんねー」
「採取ポイントでしっかり確保しないとねー」
「なっ……お前ら、ヤクザに喧嘩売ってるのかよ……」
中央の幼い少女、ハートプリンセスが怯えを見せる。 - 635◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:37:45
「ヤクザの武器盗むなんて、いったいどうなるか……」
「んー、たぶん大丈夫。みんな狩ったし」
「そうだねー、大掃除したもんねー」
「簡単だったねー」
「お前ら、何言って……?」
狼狽えるハートプリンセスを気にもとめず、バルバロイはじっとオオカワウソ10人を観察する。
「ヤクザではありません、人、殺しました?」
「わかんない」
「とりあえず、事務所に居た人は全員消したけど」
「見分け方とかあるのー?」
「教えて、教えて!」
「新しい情報!」
バルバロイは短く息を吐いた。もしこの場に彼女の故郷の者がいるならば——一目散に逃げだしただろう。
バルバロイは——激怒していた。
「Foi vocês que mataram o Jackson(ジャクソンを殺したのはお前らか)」
- 636◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:46:47
バルバロイの手が、オオカワウソの一体に伸びた。襟を掴まれ、オオカワウソは首を傾げる。
次の瞬間、オオカワウソの顔は、地面へと叩きつけられていた。
「わっ!」
「こいつ敵だよ!」
「やっつけよう!」
オオカワウソ達は一斉に銃火器を構え、バルバロイに向けて発射した。
魔法少女に銃は——通用する。人間のように即死することこそ無いが、ダメージは受け、当たり所が悪ければ致命傷となる。
また、その銃がライフルやショットガンならば、一撃で命を奪うことが出来る。
そして、オオカワウソの中には、ライフルやショットガンを装備していた者も居た。
糧鮴に響き渡る銃声音。ハートプリンセスは耳を塞いだ。
- 637◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 21:51:39
「dor(さすがに痛いな……)」
だが、それは通常の魔法少女の話。
バルバロイには、当てはまらない。
ライフル、ショットガン。それらを浴びてなお、バルバロイは無造作に立っていた。
筋力増強魔法。
本来魔法少女のフィジカルは人間の10倍程度だが、バルバロイは瞬間的に100倍、1000倍に上げることができる。
マグナム、ショットガン『程度』では、彼女を止められない。 - 638◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:07:14
「ひぃ……ば、化物……!」
ハートプリンセスは恐怖の声を上げた。
(畜生……このゲームには化物しかいねぇのかよ……!)
「……銃が効かないね」
「硬いのかな」
「それとも特定の武器だけ無効化するタイプの奴かな」
試してみよう、とサバイバルナイフを振り被り、オオカワウソはバルバロイへと斬りつける。
ぱしり、とバルバロイはオオカワウソの手首を掴んだ。
そのままぐるりと体を反転し、オオカワウソの懐へと潜り込む。
柔道でいう、一本背負いのような動き。
両足を引っこ抜かれたオオカワウソは、一体目と同じく、頭部を地面に叩きつけられた。
接近戦では勝てない、とその場に居た全てのオオカワウソは認識する。
大人と子供程の、近接技術の差がある。あにまんマンションでは無用の長物だった、されど対魔法少女戦では戦局を大きく左右するスキル。
火器は駄目、近接も駄目。
ならば、とオオカワウソの一匹はナイフを投擲する。
それは、バルバロイの腹部に当たり、傷を残すことなくその場に落ちた。
「硬いね」
「シンプルに硬いタイプだね」
「だったら、対処は簡単だね」
「でも、今の私たちでは無理だよ」
「情報を、持って帰らないと」 - 639◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:16:45
「逃げる、禁止」
ずん、とバルバロイは一歩踏み出す。
投げつけられたオオカワウソは——死んではいない。何らかの後遺症は残るかもしれないが、あくまで気絶に留められている。
バルバロイは、あくまで喧嘩屋であり、殺し屋ではない。
例え——馴染みのバーガー屋の店主を殺されたからといって、復讐殺人に走るタイプではない。
(殺されたのが家族であったならば、分からなかったが)
だが、『Jackson's Burger』は日ごろよく利用していた馴染みの店だ。異郷の地での孤独を癒してくれた場所でもあった。店主の大垈ジャクソンも鬱陶しいときは何度かあったが、独特のテンション(何て言っているのかよくわからなかったが)も嫌いでは無かった。
制裁する。バルバロイの気が済むまで、この無個性集団をボコボコにする。
バルバロイはそう決めていた。後のことは警察の仕事だろう。 - 640◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:21:06
オオカワウソも、馬鹿ではない。
バルバロイの方が強いことは理解している。全員が背を向いて逃げ出しても、あっという間に追いつかれ全滅してしまうと。
投げられた個体は、どうやらまだ死んでいない。
だがそれは、オオカワウソにとって安心を意味しない。
どうして殺さないのか。保存食のためか。拷問のためか。実験体のためか。素材にするためか。その全てを実行したことがあるオオカワウソにとって、相手が不殺であることは安全を意味しない。
自分たちでは勝てない相手が出たときに、どうするか。
オオカワウソは事前に策を考えていた。
一匹だけでも逃がせれば——それがオオカワウソ全体にとっての勝利だ。 - 641◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:29:38
「ハートプリンセス! 転移!」
目を白黒させているハートプリンセスにオオカワウソの一体がすばやく指示を出す。
「あ、ああ、分かった!」
もっともハートプリンセスの傍に居たオオカワウソが、ハートプリンセスを抱きかかえる。
残り7人のオオカワウソが、一斉にバルバロイに飛びかかった。
ハートプリンセスが転移魔法でオオカワウソの一匹を連れてあにまんマンションまで転移。マンション内部のオオカワウソと合流する。
それが、オオカワウソDチームの作戦。
転移しないオオカワウソは、全て足止めに回す。
- 642◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:36:46
獣のようにバルバロイに襲いかかるオオカワウソ。柔術は人間が人間と戦うために編み出した技術である。またその想定は基本的に一対一。
どれだけ格闘技に精通したものでも、三人を同時に相手取れば不利になるという。
七人のオオカワウソの同時攻撃は、対柔術において効果的ではあった。
——だが、そのセオリーは、筋力に個体差が少ない人間の闘争の話だ。
バルバロイは、オオカワウソの一体を掴む。即、投げ。投げられたオオカワウソは、他のオオカワウソに当たり、その動きを鈍らせる。
崩れる連携。あくまでオオカワウソはそれぞれが別個の思考をする。単一の価値観に、複数の思考。それがオオカワウソ。
故に、連携を崩すことは、バルバロイには容易だった。
同時攻撃に、時間差が生まれる。
七対一が、一対一×7へと変化する。
ならば、待っているのはバルバロイによる蹂躙である。 - 643◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:41:40
バルバロイが触れる度に、オオカワウソが地面に叩きつけられ、意識を失う。
足止めのオオカワウソが全滅するのに、三秒も掛からなかった。
そして、その足止めは——成功していた。
ハートプリンセスの足元に魔法陣が浮かび上がる。
フライフィアーの時に行った転移時よりも、多くの魔力を消費して行う転移。
ニィ、とハートプリンセスは勝利の笑みを浮かべる。
抱きかかえたオオカワウソもキャハと笑った。
舌打ちと共に、バルバロイがハートプリンセスに突進する。
バルバロイの指がハートプリンセスに触れる直前に。
周囲を『大爆発』が襲った。
- 644◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:52:05
一戸建てを丸ごと吹き飛ばす程の爆発。
倒れ伏していたオオカワウソたち、そしてハートプリンセスを抱きかかえていたオオカワウソは、バラバラになって飛び散った。
【オオカワウソDチーム 全滅】
残ったのは、全身から煙を上げ、しかし殆ど外傷を負っていないバルバロイだった。
瞬時に全身の筋力を上限まで引き上げ、爆発によるダメージを無効化したのだ。その分、魔力はかなり消費されたが、バルバロイは気にも止めない。
(一人逃がしたか……)
バルバロイがジャクソンの死を知ったのは偶然だった。
糧鮴外部に居たヤクザたちが糧鮴に戻り、仲間たちの死を知ったとき、彼らは魔法少女狩りを始めた。
真っ先に標的にされたのは、偶々他の参加者を求めて歩いていたバルバロイであり、当然のように彼女は襲撃してきたヤクザを返り討ちにした。
そして、のしたヤクザから数時間前の襲撃を聞き、馴染みのバーガー屋店主、ジャクソンの死を知ったのだった。
(あいつは見つけ出してボコボコにする。その後は知らん。警察が捕まえるなり、ジャパニーズ・マフィアが復讐するなりするだろ)
襲撃事件にハートプリンセスが関わっていないことを、バルバロイは知らない。
(探す過程で、このゲームも楽しませてもらうがな。『先生』にも、リベンジしたい。まだ、ゲームは始まったばかりだからな)
バルバロイは知らない。後六時間弱で、このゲームは終わりを迎えることを。 - 645◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 22:58:57
◇
転移が完了し、ハートプリンセスはその場に膝をついた。
大幅に魔力を消費した。
しかし、仕方ない。転移の際の爆発を最大にした。
これで、オオカワウソもバルバロイも、生きてはいないだろう。
(悪いなオオカワウソ。お前ら、駒として弱すぎだぜ)
バルバロイに圧倒されるオオカワウソを見て、ハートプリンセスは方針を変えることにした。
このゲームには、沢山の強者が参加している。ジャスティスファイア、ヒートハウンド、そしてバルバロイ。
そして、オオカワウソは外れ、弱者枠に過ぎない。
ならば、弱者とつるむより、もっと利用しやすい、かつ強者と組む方が効率が良い。
ハートプリンセスは、オオカワウソに自分の魔法が「転移魔法」だと嘘をついていた。
実際には「爆発転移魔法」。
オオカワウソ一匹を一緒に転移させると嘘をつき、実際には爆発を持ってその場の全員を消した。 - 646◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 23:05:56
(俺は……今まで散々な思いをしてきた……!
攫われて実験された結果幼女になったり……、用済みと放り出された先で襲われたり……!
だから優勝して幸福を掴んでやる……そうだ、俺こそが誰よりも優勝するべき人間なんだ……!)
転移した先は、ブティックの裏であった。
窓ガラスに映る自分の姿を見る。
お姫様みたいな装飾たっぷりの黒ドレスにハイヒールとティアラ。ピンク髪をポニテにまとめ、頭頂部から生える黒い二本角。
そして。
(このボテ腹……! 膨らんだ腹……! 畜生、畜生、絶対に俺は自分を取り戻してやる……! 産んでたまるか……俺は、松崎新一郎だ……!)
歯軋りをしながらハートプリンセスは——まったく膨らんでいない、滑らかな腹部を撫でた。
彼は狂っていた。 - 647◆xaazwm17IRZa24/11/10(日) 23:06:16
投下を終了します
- 648二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 00:39:38
狂ってる…怖…
どこまでが現実でどこまでが狂気の産物なのか - 649二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 07:14:24
ハートプリンセスかわいそうでかわいい
- 650二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 07:26:20
初動の選択は良くて生存意識の高かったジャクソンさん…まぁあれは巡り合わせ次第でしたねぇ
あとその腹は自前でしょうが(呆れ) - 651二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 13:28:33
ハートプリンセス、マンションの連中に何かされたのかね
認知できない何某かを孕まされたんだろうか - 652二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 15:37:32
産み落とされたら世界がヤバい系かな?
- 653二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 17:16:56
内側から勝手に出て来そう
- 654二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 17:39:32
なんか本当に中の人が松崎新一郎なのかどうかすら怪しくなってきたな…!?
- 655◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 22:04:55
投下します
- 656◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 22:16:41
糧鮴、とあるホテル。糧鮴でも幹部以下のチンピラたちが愛人や風俗嬢を連れ込む、ランクとしては中の下程度の場所に、二人の少女が居た。
個室を二人で借りる。鍵を渡しながら、管理人の男は好奇心と好色に満ちた目で二人の少女を眺め——少女が持つ、物騒な朱槍が目に入り、慌てて視線を逸らした。
追い返したり、問い質したりなど、するはずがない。
糧鮴を拠点とする者で、『魔法少女』を知らぬ者などいない。勿論、体系だった説明があったわけではない。だが、居る。ヤクザも一目置き、畏怖する。そんな得体の知れない少女たちが存在する。
ましてや、管理人の男は糧鮴の古株だった。
デッドマンズ・ハンドが糧鮴を取り仕切る以前、幾人もの魔法少女が勢力を作り、潰し合いをしていた無法時代を知っている。
少女たちが放つ空気も、ヤクザのように暴力的でこそないが、ぴりぴりとした緊張感に満ちた、まるで刑事のそれであった。
はたして中身は年齢相応の少女なのか。はたまた人間なのか。
詮索しない。自分は何も視なかった。鍵を渡しながら、男はそう肝に銘じた。
- 657◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 22:29:54
ツインベットに腰かけながら、二人の少女——冨島千秋と栗田柿子(ジャスティスファイア)は、言葉を交わし合っていた。
睦言でもなければ、女子会トークでもない。
会話の内容は
・強制デスマッチで起こったこと
・松崎新一郎という人物について
・米軍介入の実現性と生じる結果
・魔法国の実情
・現状の消耗度
と、どこまでも実用的で、合理的なものである。
「——やっぱり、その松崎っておじさんに会わなきゃ駄目ね」
「そうですね。本人に問い質すのが、もっとも合理的かと」
人間界と魔法国、フィールドは違えどどちらも犯罪取締を生業にしている彼女たちは、まるで長年のバディのように会話が噛み合った。
松崎新一郎。このゲームの参加者の一人であり、名簿には『ハートプリンセス』とも記されている。だが、ジャスティスファイアの知る松崎は30代の男であり、魔法少女では無かった。
かつて民間人でありながらジャスティスファイアと共闘し、率先して人命救助を行い、異形の変身態を持つ彼女にも感謝と励ましの言葉をかけてくれた、戦友。
同時に、このゲームにおいてはジャスティスファイアを強制デスマッチに放り込み、ヒートハウンドと殺し合わせた人物。
- 658◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 22:38:47
「そもそも、その情報はパンデモニカとかいう悪人からのものでしょ?
疑心暗鬼を引き起こすための嘘という可能性もあるわ」
「ええ、勿論です。
それ以外にも、ヒートハウンドという危険な魔法少女を確実に倒すため、耐熱性がある私を指名した、という可能性もあります」
「そのパターンだと、ちょっと私はそいつのこと好きになれないけど……。
まぁ、分からなくもないわねぇ」
結論として、本人に会うまでが松崎新一郎については判断を保留するしかない。今後他の参加者と出会っても、危険人物として紹介はしないでおく。
「けど、会うにしても今すぐは危険ね」
「…………ええ、情けない話ですが……」
二人は——限界を超えている。
強敵との連戦により、千秋は変身不能、ジャスティスファイアもまた、実力の2割も発揮できるか怪しい。
もしハートプリンセスがゲームに乗っており、かつ、相応の実力を有していた場合、二人は斃れることになる。
「私はともかく、貴女は米軍介入の要なんだから、命を粗末にしちゃ駄目よ。
私も死ぬ気はさらさら無いけどさ」 - 659◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 22:45:49
ジャスティスファイアは、頷く。
だが、その瞳が完全に同意しているわけではないと、千秋は察していた。
FBIの同僚が死んだという話は聞いた。彼女の判断ミスによるものだという。ジャスティスファイアは自責の念に囚われている。——任務のために、命を投げ出すことを、彼女は躊躇わないだろう。
(不器用な人……)
そして、自分が察していることも、ジャスティスファイアは気づいているのだろうと、千秋は推察する。
共に、犯罪捜査に携わって来た者同士、対人洞察力は優れている。
(まぁ……私が引っ張っていくしかないか)
知り合って数時間の仲だが、千秋はジャスティスファイアに好感を抱いていた。
強い正義感と屈指の実力、不器用な優しさと意外な脆さ。
頼りになる、同時に、放っておけないとも思う。 - 660◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 22:54:31
殆ど戦闘不能と言っても過言ではない二人がホテルの一室に閉じ籠ったのも、戦闘を避けるためだった。
怪しまれないために槍をどこかに隠すというプランもあったのだが、万が一探知に優れた魔法少女に発見された場合、魔槍があるとないとでは、戦闘力に大きな違いが出る。
それこそ、ヒートハウンドとの殺し合いでは、槍が無ければ圧倒されていた。
魔槍があってようやく殺し合いが成立したのだ。
(天城千郷は、大丈夫かしら)
破壊力こそ千秋の知る限り最強だが、実力そのものは千秋でも抑え込めてしまう相手だ。
殺し合いのレベルの高さを思えば、運が悪ければあっさりと殺されてしまうだろう。
(ティターニアあたりと合流できてればいいんだけど)
数少ない知人の無事を祈りながら、更なる情報を得るため、千秋はテレビを点けた。
巨大ロボとドラゴンが戦っていた。 - 661二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 23:06:00
このレスは削除されています
- 662二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 23:06:12
このレスは削除されています
- 663◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 23:07:28
「んん……!?」
「な、これは……!?」
特撮映画……ではない。
生放送である。
数百メートルのドラゴンと、数百メートルの鉄巨人が、ビルを背景に組み合ったり、殴りあったりしている。
(いやいや……何これ? え、これも参加者なの……? 私ら、これと殺し合うわけ?)
魔法王、無茶ぶりが過ぎる。
二人は、食い入るように画面を見つめた。見る見るうちにロボが壊されていく。彼ら(彼女ら?)の背景は分からないが、何となく、ドラゴンの方が悪玉な気がした。
表情とかめっちゃ邪悪だし。 - 664◆xaazwm17IRZa24/11/11(月) 23:09:23
「頑張れ、ロボ!」
同じロボ系で共感したのか、拳を握りしめて応援するジャスティスファイアを横目に、千秋は冷静に頭を働かせる。
あのロボとドラゴンは、魔槍と同じく、マジックアイテムによるものなのか。
だとするならば、大当たりと思われた魔槍は、精々中の上程度だろう。
あるいは、あれは参加者の魔法によるものか。
もしそうならば、千秋もジャスティスファイアも、あるいはクライオニクスやヒートハウンドも、軒並み下位ランク、殺し合いでは弱者側だ。
どちらも違うように、思われる。
あんなものがまかり通るなら、最初の六時間であにまん市は壊滅しているはずだ。
あるいはマジックアイテムによるものだとしても、運ゲー要素が強すぎる。(千秋の支給アイテム、魔草ケムリでどう勝てと?) - 665◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 00:58:57
(もしかして、このゲームは壊れようとしてるのかも……)
と、千秋は考察した。
今、自分たちが見ているものはラスボス戦のようなものだと。
(けど、参ったな……)
今の千秋たちでは、このレベルの戦いには参加できない。
否、たとえ全快であったとしても、どこまで介入できるか……。
テレビの中で状況は変化していく。
とうとうロボは破壊され、倒れ込む。
そして、その中から人影が飛び出した。
「え、あれって……」 - 666◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 00:59:09
豆粒のような影で、特定はできない。
その影から生じる、太陽のような輝き。それは、竜を呑み込み、同時にテレビの画面は真っ暗になった。
恐らく、レンズが割れたのだろう。
騒然としているスタジオがテレビに映る中、千秋は人影に見覚えがある気がした。
(天城千郷……?
いや、まさか……)
千郷の破壊とは、種類が異なるように思った。
だが、竜をも呑み込む大破壊は、千郷のイメージとも合致する。
「どっちが勝ったんでしょうか……?」
おろおろとするジャスティスファイア。決して観客気分なのではなく、あの戦いが自分たち参加者の命運を決めるものだと、察したのだろう。
自分の状態を確認する。数時間の急速によって、ある程度の回復はできた。もう少し休めば、変身も可能になるだろう。
それまで安全を取ってホテルに篭るか。
否。
「学生街に行きましょう」
千秋の言葉に、ジャスティスファイアも頷く。
そこで何が起こったのか、知らねばならない。 - 667◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:08:30
◇
部屋から出て、入口へと向かう。
管理人は何も言わずに鍵を受け取った。
リスクはある。だが、ゲームは激動した。その震源地で情報を得なければ、今後の見通しも立たない。
休息は終わり、再び戦いが始まる。
——エントランスのテーブルの上に、小柄な少女が乗っていた。
その手には、マシンガンがあった。
銃声が轟いた。
- 668◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:19:39
◇
マシンガンの洗礼を浴びたエントランスは、至る所が破砕され、弾痕が残っていた。管理人の男は、頭から血を流し倒れている。おそらく、死んでいる。
ジャスティスファイアは、健在だった。
マシンガンを視認した瞬間、彼女はテーブルの下に隠れ、すかさずひっくり返し、即席のバリケードを作った。
訓練の賜物であった。
そして、冨島千秋は。
「……失敗、しちゃったな……」
彼女は、咄嗟に前に出た。変身し、全ての弾丸を砂で受け止めるために。
変身までは、辛うじて出来た。だが、砂の壁は形成できなかった。
結果、銃弾の雨をもろに浴びた千秋はそのまま倒れ、変身は解除された。
そして、そこから更に数発、銃弾を浴びたのだろう。
血の海に、四肢を沈めている。
「千秋っ!」
ジャスティスファイアは慌てて駆け寄った。
(馬鹿な、どうして私は……)
- 669◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:26:10
冨島千秋は優秀な魔法少女であり、即席のバディとして申し分のない相手だった。
だが、彼女は魔法少女だ。銃撃に対する反応の練度は、自分とは大きく劣るはずだ。
不意を突かれた攻撃に、ジャスティスファイアは染み付いた、人間としての動きをしてしまった。
魔法少女であるならば、千秋のように前に出て、壁を作るべきだったのだ。
疲労、心労が重なっていなければ。このような判断ミスは無かった。
ジャスティスファイアは、刺すような後悔に襲われた。
(また、私の判断ミスで仲間を……)
「心配、しないで……」
と、千秋はジャスティスファイアに笑いかけた。
「これくらいじゃ、私は死なない、から……」
それより……と千秋は蒼白になった顔を上げる。
「さっきの奴、追いかけて……! 明らかに、ゲームに乗ってる!」 - 670◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:31:16
「しかし……」
下手人の姿は見つからない。
わけが分からなかった。
二人は、周囲に目を光らせていたのだ。マシンガンを持って入ってくればすぐに分かったはずだ。あるいは、どこかに隠し持っていたとしても、FBIのジャスティスファイアが見破れないはずがない。
そもそも、撃った少女の外見は角が生え、豪華なドレスという、派手派手しいものだった。
気づかないはずがないのだ。
瞬間移動をして、突然現われでもしない限り。
「早く……行って!」
千秋の言葉に、ジャスティスファイアは立ち上がる。
本当に彼女は大丈夫なのか。魔法少女歴が浅いジャスティスファイアには分からない。
もしかしたら、後になってこの選択を後悔するかもしれない。
けれど、今だけは千秋の言葉を信じる。
ジャスティスファイアは、ホテルの外へと飛び出した。
正義を為すために。 - 671◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:40:00
◇
(運が回って来たぜ)
と、ハートプリンセスは思った。
どのようにして、彼は二人の魔法少女に襲撃をかけたのか。
それは、彼に支給されたマジックアイテム、『使い捨てマジックスクロール』にあった。火球を出す、土壁を出す、など。シンプルでそこまで強力ではないスクロールばかりであったが、ただ一つ、有用なものがあった。
『使い魔を出す』。烏一匹。戦闘力も無く、自立行動も出来ない。だが、唯一の長所は『視覚の共有』。これにより、烏は糧鮴の空を飛び、魔法少女らしきものが居ないか探っていた。
幸運だった。ジャスティスファイアと、見知らぬ女が、ラブホテルに入っていくのが見えた。
こんな時に情事をするはずもなく、恐らく避難のためだろう。
それほどまでに、ジャスティスファイアは消耗していたのだ。 - 672◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:47:58
そこから、ハートプリンセスは長期戦に入った。
ホテルの入り口近くに烏を座らせ、二人が再び出てくるのを待つことにしたのだ。
流石に烏がホテル内へ侵入すれば追い出されるだろうし、不自然な動きをすれば二人に感づかれる可能性がある。
時間にすればおよそ3時間程度。だが、あまりに長い3時間だった。
ジャスティスファイアの性格ならば、まさかゲーム終了まで閉じ籠ることは無いだろう。
どこかで出てくるはずである。
じっとその隙を伺った。
そして、外から受付に降りてくる二人を見つけ——どちらも生身らしいと確信したとき、ハートプリンセスは、オオカワウソから借り受けていたマシンガンを構えたまま、ホテル内へとワープした。
そして、撃った。
少しでも躊躇えば反撃される可能性があったため、碌に狙いをつけず、とにかく撃ちまくった。
連れの女は仕留めた。
ジャスティスファイアはテーブルの裏に隠れてしまい、近づく勇気の無かったハートプリンセスは、即座に転移で退散した。
その際に爆発しなかったのは、切り札を秘匿しておきたかったからだ。
- 673◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 01:53:46
(ジャスティスファイアは変身していなかった……まだまだ弱っているみたいだ……。
どうする、スクロールを駆使すれば、勝てるんじゃないか……?
今からでも、ホテルに戻って再襲撃をかけるか……?
いや、焦るな俺よ……。仲間を削れただけでも良しとしなくちゃな。
今はジャスティスファイアにトドメを刺すことより、新たな駒を……)
ホテルからは2キロ程離れている。
今、ジャスティスファイアがどうなっているかは、烏が使えなくなったので(他の魔法を使ったら効果が切れる仕様らしい)分からないが、例えジャスティスファイアが探し回ったとしても、そう簡単には見つからないだろう。
ヒートハウンドのように燃やし尽くす暴挙を冒せばハートプリンセスにも危険が迫るが、ジャスティスファイアはそんな気質ではない。 - 674◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 02:02:18
(さて、ここらで使える駒が欲しいところだが……)
外見に似合わぬ、悪辣な笑みを浮かべながらハートプリンセスは移動を開始した。
「ジャスティス・キック!」
「ぐわあああああああああ!?」
突如、空から飛来したジャスティスファイアに後頭部を蹴られ、ハートプリンセスは無様にも地面を転がった。
「ば、馬鹿な……どうしてここが!?」
筋力は人間レベルだが、耐久性は参加者でも随一のハートプリンセスは、よろよろと立ち上がる。
「ジャスティス・センサーは、一度記憶した臭いを忘れず、追跡できる」
「な、そんな機能は知らねぇぞ!?」
(ど、どうする……? 転移で逃げ……駄目だ、臭いを覚えたがハッタリじゃねぇなら、すぐに飛んでくる!
もう、ここで始末するしか……)
爆発で仕留めようにも、オオカワウソを全滅させたような大火力を繰り出せる魔力は残っていない。
頼みの綱は、スクロールのみ。
(だ、だが……襲撃時にジャスティスファイアは変身していなかった……! それだけ奴も限界なんだ! 勝機は十分にある……!)
「てめぇをぶっ殺して幸せになってやる! ジャスティスファイア!」
「——悪め」
ぞん、と腹の中で脈打つような音が聞こえた。ああ、なんて忌々しい。 - 675◆xaazwm17IRZa24/11/12(火) 02:02:32
投下を終了します
- 676二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 07:42:09
間違いない…蹴った…頼む錯乱しただけであってくれ…
- 677二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 12:16:13
母体を食って栄養にするタイプのなにかがいそう
- 678二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 21:27:26
保守
- 679◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:11:12
投下します
- 680二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 00:18:18
お待ちしておりました
- 681◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:19:50
ハートプリンセスと、ジャスティスファイアの間には、純然たる実力差がある。
素体を比較しても、一般サラリーマンと、FBI捜査官である。
『転移』という強み、あるいは『耐久性』においてはハートプリンセスが上回るが。
筋力、敏捷性、戦闘経験、技術、火力……あらゆる面でジャスティスファイアが圧倒する。
だが、その実力差を覆すのがマジックアイテム。
ハートプリンセスは、マジックスクロールを開く。
繰り出されるのは火球。ヒートハウンドと比較すればショボい威力だが、人間ならば容易く殺傷できる一撃。
摩耗したジャスティスファイアであっても、当たればダメージが入る。
当たれば。 - 682◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:27:12
撃ちだされた火球を、ジャスティスファイアは横に跳んで躱した。
「くそっ!」
ハートプリンセスは手に持ったスクロールを投げ捨てると、次のスクロールを開く。
スクロールに記された魔法陣から、幾つものナイフが発射される。
ジャスティスファイアは横に跳んで躱した。
スクロールに記された魔法陣から、岩石の塊が撃ちだされる。
ジャスティスファイアは横に跳んで躱した。
「当たらねぇ!?」
スクロールを開き、魔法陣に魔力を流し、発動する。
単純で悠長なその動作は、一流の魔法少女にとって児戯に等しい。
ハートプリンセスが戦闘巧者ならば、巧みにスクロールを使い分け、的確にジャスティスファイアを追い詰めていただろう。
だが、こんなにも早く追いつかれ、臭いを覚えられたことで転移で逃げることを実質封じられたハートプリンセスは、冷静さを欠いていた。 - 683◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:33:26
「だが、スクロールはまだたくさん……」
カパリ、とジャスティスファイアの顎が開き、火炎が発射された。
それまでの攻防で炎を使わず、すっかり使えないと思っていた(あるいはそう信じていた)ハートプリンセスは、あっという間に炎に呑み込まれる。
「熱いいいいいいいいっ!」
悲鳴をあげながらも、ハートプリンセスに火傷は無い。
筋力は一般人並だが、肉体の耐久性は魔法少女でも随一。それがハートプリンセスである。
ヒートハウンドやフライフィアーに殺されてしまうと怯えていた彼だが、実のところ彼女らの火力を持ってしてもハートプリンセスは殺せない。
その無敵性はミョルニル、あるいはドレッドノートに匹敵するのだ。
それはそれとして、熱いものは熱い。
- 684◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:39:01
「ああ、スクロールが……!」
マジックスクロールは、紙である。当然、燃やされれば焼失する。
まだ使っていなかったスクロールも全て失ってしまい、ハートプリンセスの手に残るはマシンガンのみである。
そのマシンガンも、先ほどの襲撃で残弾を使い切っている。
「畜生……!」
ジャスティスファイアに投げつけるが、右前足で弾かれる。
もはやハートプリンセスに武器は無い。
彼に残された攻撃手段は、転移時の爆発のみである。
それも、オオカワウソを切り捨てたときの大爆発で大幅に魔力を消費し、ジャスティスファイアを殺しきれる火力を出せる自信が無い。
- 685◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:47:17
やらなければ、ジャスティスファイアに殺されてしまう。
ハートプリンセスは、転移するべく魔力を籠める。
——もちろん、ジャスティスファイアが悠長に眺めているはずがない。
一息で飛びつくと、そのままハートプリンセスを押し倒す。
「は、放せ……痛い、痛い痛い痛い……!」
筋力は人並のハートプリンセスでは、人の10倍が平均の魔法少女の、更に上をいくジャスティスファイアを引き剥がすことは出来ない。
鉄の爪が四肢に食い込み、ハートプリンセスは悲鳴をあげた。
「俺が、何したってんだ、畜生!」
「どうして、私の名前を知っている?」
ジャスティスファイアが、ハートプリンセスに問いかける。
「お前は、運営からの刺客か?
それとも、このゲームが始まる前から、私を知っているのか?」
ジャスティスファイアは、参加者の中でも知名度が低い魔法少女だ。
アメリカ政府が秘密裏に開発した個体であり、実戦にも数える程しか投入されていない。
なのに、この魔法少女はジャスティスファイアの名を呼んだ。
ジャスティスファイアの脳裏に、一つの名前が浮かび上がる。 - 686◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 00:56:06
「あなたは……松崎ですか?」
そうであってほしくはなかった。正義感が強く、他者を労わる優しい心を持った、正しく善き市民を体現していた彼と、組み敷かれ顔を醜悪に歪める悪魔風の少女が、同一人物だとは思いたくなかった。
しかし少女は、ジャスティスファイアを睨みつけ。
「やっと気づいたかよ、間抜け!」
と、吐き捨てた。
「そんな……いつ、魔法少女に……」
ジャスティスファイアは震える声で問いかけるが、ハートプリンセスはそれを無視し、怨嗟の声をジャスティスファイアにぶつけた。
「何がジャスティスだ、市民を守るだ!
俺が地獄のような目に遭っているとき、お前はどこで何をしていた!?
俺が改造されているとき、お前は何処に居た!?
俺が……俺が、こんな姿にされたときに、何で助けてくれなかったんだ、ジャスティスファイア!!」
「私は……」
ジャスティスファイアの力が緩む。ハートプリンセスは、拘束から脱すると、ジャスティスファイアから距離をとった。 - 687◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 01:04:36
「お前が……お前ら、正義の味方が助けてくれないのなら、俺は自分で自分を救う。優勝して、元の身体に戻って、全てを無かったことにしてやる……!
なのにお前は助けるどころか、俺が救われる邪魔をするのかよ……!
俺を襲った奴らは見逃して、被害者の俺は断罪するのか!?」
「違います……私は、私は、正義を……」
「ホテルの女が死んだのは——お前のせいだ」
憎悪に塗れた言葉が、ジャスティスファイアの胸を抉った。
それは、転移を行う隙となる。
臭いを覚えられた以上、再び追跡されるかもしれないが——この場を逃れられれば、その後のことはその後考えればいい。
ハートプリンセスは悪辣に笑い、爆発転移をしようとして——その場に蹲った。
「あ……ああ……」
絶望。目に涙を浮かべ、顔を青白くし、ハートプリンセスは腹部を押さえる。 - 688◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 01:12:27
「産まれる……」
その言葉は、ジャスティスファイアをぞっとさせるものだった。一桁台にしか見えない年齢の幼女といっても過言ではない外見と、あまりに不釣り合いな言葉。腹部の膨らみも全くない。
そもそも、生物学に孕む年齢ではないはずだ。
——吐き気を催す犯罪被害者が居ることは、ジャスティスファイアも知っているが。
松崎新一郎に何が起こったのか。ジャスティスファイアの頭には無数の可能性が、その全てがジャスティスファイアを怒りで狂わせるほどの惨事が、瞬くように駆ける。
ジャスティスファイアは大地を蹴った。
ハートプリンセスを取り押さえるためではなく、彼を助けるために、手遅れであると理解してなお、彼女は正義のために四肢を動かした。
それは、やはり手遅れだった。否、たとえゲーム開始時に救おうとしても、ジャスティスファイアでは救えなかった。
産まれる。 - 689◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 01:20:38
ぴしり、とハートプリンセスの額に亀裂が走った。
ぴし、ぴし、という音と共に、その亀裂は縦横に広がっていく。
出産とは、かくも悍ましいものだったか。
「松崎……!」
「嫌だ……嫌だ……俺は……!」
亀裂が全身に広がった時——ハートプリンセスの身体が爆発するかのように開いた。
血と、臓物が飛び散る。
そして。
のそり、とハートプリンセスの内側から、細い、女の脚が現れた。
それは、徐々に全身を外気に晒していく。
長身の、銀髪の女である。肌は褐色であり、歳は20代中頃に見える。
だが、額から伸びる二本の角だけは、ハートプリンセスと酷似していた。
- 690◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 01:32:54
女は、ゆっくりと周囲を睥睨した。
そして
おぎゃあああああああああああああああああ
と叫んだ。
叫び声に合わせ、背からは巨大な翼が生える。
ジャスティスファイアは——呑まれていた。
彼女の理解を超越した光景だった。 - 691◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 01:33:05
「ジャスティス……ファイア……」
か細い声が、耳朶を打った。
ハートプリンセスの声だった。
耐久力によるものなのか、全身を開かれてなお、まだ彼は生きていた。
首をゆっくりと動かし、ハートプリンセスは呆然と立つジャスティスファイアを見つめ——微かに微笑んだ。
「ぶじで……よかった……」
それは——このゲームで『松崎新一郎』が発した、最初で最後の言葉だった。
砂でも払うかのように、銀髪の女はハートプリンセスを撫でた。
その瞬間、随一の耐久性を誇るハートプリンセスの肉体は——塵となって消滅した。
ジャスティスファイアは、吼えた。
言葉にならない叫びが、彼女の喉から溢れた。
そして彼女は、銀髪の女へと炎を放つのだった。
『松崎 新一郎/ハートプリンセス 死亡』
『残り 21人』 - 692◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 01:33:20
投下を終了します
- 693二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 07:33:18
耐久性の高さがそのまま中身の安全の為だったなんて…
- 694二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 08:57:13
そういえばハートプリンセスだけ死亡アナウンスの【】が『』だね
なんかの伏線かな、それとも運営がパラさんからニャルセーヌに移ったからか - 695二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 10:03:47
果たしてハートプリンセスを救う術はあったのだろうか
- 696二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 14:31:39
出産後爆速で回収してメッセンジャーブルーやマジックアイテムで治癒すれば助かったかも
- 697二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 15:01:13
最初で最後ってことは今までのは別人の人格だったのか……?
- 698二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 15:05:20
わからん
まだ明かされてない情報も多いし今までのだけでも多いけど断片的だし - 699二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 16:17:42
松崎=ハートプリンセスではなかったのかもしれん
中から出てきたのが真ハートプリンセスで松崎は擬似的にハートプリンセスにさせられてたとか - 700二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 20:01:44
得体が知れなさ過ぎて今までのどの存在よりも恐ろしく見える
この感覚はマンション以来だぁ… - 701二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 21:56:38
あまりにも悍ましい
姫の表情がころころ変わってかわいい
最高 - 702◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 23:45:15
投下します
- 703◆xaazwm17IRZa24/11/13(水) 23:54:16
ねぇ、アカマツさんって知ってる?
411号室のアカマツさん。
411号室から出られないんだって。閉じ込められてるんだって。
来た人に出してくれってお願いするの。
でも、絶対に出しちゃ駄目なんだって。
出すとね——全部、埋まっちゃうの。
※〇月〇日 マンション近隣の小学生より採取 聞き手:木羽マミ
- 704二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 00:02:11
(採取じゃなく聴取では?)
- 705◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:09:20
◇
ジャスティスファイアの炎は、銀髪の女に直撃した。
摩耗しようと魔法少女の一撃。女は瞬時に火柱へと変化する。
グルル……とジャスティスファイアは呻いた。
炎に包まれた女の身体には、火傷一つなかった。ハートプリンセスのように、この女も尋常ではない耐久力を持っている。
——それで心が折れるほどジャスティスファイアは素人ではなく、また平静ではなかった。
すかさず投擲されるのは『魔槍ダーマット』。あらゆる魔法効果を打ち消すこの槍は、炎へ変化する魔法少女『ヒートハウンド』の肉を抉った実績を持つ。
魔槍の穂先は、女へと命中し——巌に当たったかのように、弾かれた。
「なっ……!?」
これには、ジャスティスファイアも驚愕する。
女の頑強さは、魔法によるものではない。
あるいは、特別な固有魔法によるものではなく——素の肉体性能が高すぎる、ということなのか。
魔槍は魔法少女の変身や、超人的身体能力までも打ち消すわけではない。
弾かれた魔槍を、女が掴む。
瞬間、魔槍は塵へと変わった。
長き時代を渡って来た伝説の武具が、無へと還る。 - 706◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:11:13
(実話怪談のイメージなので、『採取』としました)
- 707◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:21:21
ぎょろり、と女の両眼が、ジャスティスファイアの方を見る。長い両腕がだらりと垂れた。
女の顔が、至近まで迫った。
「っ……!?」
ジャスティスファイアの反射神経が鋭敏に反応し、全力のバックステップを選択させる。
鼻先を、女の指先が通過する。
——触れられたら、死ぬ。
ジャスティスファイアは並より頑丈な魔法少女だが、その頑強さはこの女の前では意味を成さない。
ジャスティスファイアの顎が開き、火炎を放つ。
効かないのは分かっている。
だが、少しでも距離を取るための、牽制になればいい。
そう願っての一撃。 - 708二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 00:25:53
接触即死系(非生物にも有効)かな…それでいて素の頑強さもある この場でどうこうするには手が足りなさそう
- 709◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:28:01
はたして、女は動きを止めた。
ジャスティスファイアは10m程度距離を取り、炎に包まれる女をじっと観察する。
勝ち筋。ヒートハウンド戦と同様に、潜入モードに移行しての『絶招』ならば通用するか。
だが、身体能力が劣化する潜入モードでは、あの女の速さに対応できない。
何より、もう『絶招』を撃つ体力は残っていない。
万事休す。
(ここが、私の終わりか……)
徒に死人を増やしたばかりで、無為に死ぬ。
ジャスティスファイアの胸中に絶望と後悔が過る。
(せめて、少しでもこの女の体力を……)
果たして、この女に体力という概念があるのかも疑わしいが……。 - 710◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:38:20
「Olá(よぉ)」
ハートプリンセス、続けて謎の女との戦闘。
生じた炎は煙となり、天へと昇っていく。
その煙に釣られて、新たな魔法少女が、その場に現れた。
「Beleza? Me deixe fazer parte também.(楽しそうだな? 私も仲間に入れてくれよ)」
少女の名はジェシカ・ロドリゲス。喧嘩屋、柔術使い、最強の弟子、サンパウロの悪魔——魔法少女『バルバロイ』。 - 711◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:43:47
「逃げてください! この女は危険です!」
ジャスティスファイアは新たに現れた少女に、警告を発する。カウガールのような恰好、ロボットドックの自分の姿に戸惑わないことから、少女が魔法少女であることは分かる。
だが、一般魔法少女がどれだけ集おうが、この女の前では無力。犠牲者が増えるだけである。
しかし、ジャスティスファイアの忠告を、バルバロイは鼻を鳴らして無視した。
「Perigo, fuja!(危険です、逃げて!)」
先ほど放った言葉がポルトガル語だと気づいたジャスティスファイアは、すかさず言語を変えて警告を送る。流暢に会話できるレベルではないが、相手の話す言葉は何となく理解でき、片言だが発話できる。 - 712◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 00:53:45
「Não quero, eu quero lutar com ele.(嫌だね、私はこいつと戦いてぇ)」
「ぐっ……」
何て無謀で、わからずやなのか。ジャスティスファイアが万全ならば、鉄拳制裁で叩きのめし、無理やり避難させている。
だが、今のジャスティスファイアにはそれをする余力が無い。
(立ち方で分かる……この魔法少女、強い)
ただの荒くれ者ではない。相当高い水準で何らかの格闘技・武術を学んでいる。恐らく、近接技術は自分より上だ。
だが、それはつまり、この得体の知れない銀髪の女との相性は、最悪である。
触れられれば死ぬ。近接戦闘を得意とするタイプは、この女とは戦えない。
「Ser tocada、Morrer、Perigosa!(触られる、死ぬ、危ない!)」
バルバロイは舌打ちした。相手の魔法をネタバレされたからだ。そういうのは自分で探りたかった。
(構わねぇよ)
と、思う。
(そういう奴との戦い方を、私は学んでいる) - 713◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 01:00:36
◇
「ジェシカさん、貴女は強いわ」
放課後の空き教室で、教師と生徒は向かい合っている。
教師の名は妃咲希……魔法少女『ティターニア』。
生徒の名は、ジェシカ・ロドリゲス……魔法少女『バルバロイ』。
「貴女よりステゴロが強かった奴、私は一人しか知らないもの。
けど、貴女には明確な弱点がある」
バルバロイは黙ってティターニアの話に耳を傾ける。既に格付けは完了していて、バルバロイは勝者であり強者の意見を尊重した。
「魔法少女の魔法は千差万別——素手で触る、あるいは触られることが、致命的になる魔法少女も存在する。
今の貴女では、そういう相手には絶対に勝てない」
だから、そういう相手との戦い方を教えてあげる。
ティターニアの言葉に、バルバロイは頷き、口を開いた。 - 714◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 01:04:09
「日本語、ちょっと、難しい」
「え、あ、ごめんなさい……! そうよね、うっかりしてたわ……」
「英語なら、少しわかる」
「え、英語!?」
さっきまでの強者オーラは霧散し、顔を白黒させるティターニア。
結局その場は、偶々通りがかった桐ヶ谷裂華が通訳に入り、ティターニアは何とかバルバロイと会話をすることが出来た。
そして、バルバロイはティターニアの言葉に納得し、もっとバトルを楽しむために特訓したのである。 - 715◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 01:10:15
◇
乱入者、バルバロイに対して、銀髪の女は無反応だった。
炎が徐々に収まっていくなか、女はじっと自らの両腕を眺める。
その表情は、やや不思議そうに言った。今の自分の現状に、どこか納得がいってないかのような。
あにまんマンションの核であった邪神のなれ果ては、とある魔法少女にえっち判定されて殺されている。その影響でマンション全体が、徐々に普通のマンションへと戻ろうとしていた。
その影響なのか、女——赤松華は、自らが弱体化していることに気づいたのだ。
——未だ、世界は埋まっていない。
- 716◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 01:11:15
投下を終了します
明日は少し長めに投下して、糧鮴編を終了するのが目標です(上手く行くかはわかりませんが……) - 717二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 01:34:46
あにまんマンションの未踏破の生き残り、411号室の赤松さんか
耐久力が非常に高く、触れたものを強制的に破壊する力も持ってる…部屋からは出られないはずだけど
あとこの人(?)悪意を向けない限り味方でいてくれるらしいけどあのグロ登場で信用は無理だよ - 718二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 02:33:07
マンション勢か、道理でホラーな訳だ
やっぱあのマンションだけなんかおかしいよ - 719二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 07:44:38
怪異や妖怪がそのままスタンドバトルに参戦したぐらいイカれた性能をしてやがる
- 720二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 08:10:23
参加者との戦いじゃないエネミー戦だし早く終わりそう
- 721二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 09:05:26
- 722二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 09:15:21
このスレ何かとマンションに執心してる人も居ますが単なるの舞台装置だしバトロワが主題なのでそれはないでしょう
- 723二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 10:58:42
- 724二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 18:11:23
子宮も部屋といえば部屋か…
- 725二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 18:16:17
まぁスレ主さんもご自身でエネミーの優先順位は参加者と運営どころか後から投げられた運営キャラ以下って言うてますからね
- 726◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 19:05:29
投下します
- 727二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 19:15:33
待ってました!
- 728◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 19:16:58
さくり、とバルバロイの指がアスファルトに沈み、バターのように抉り取った。
並の魔法少女の数倍の膂力を持つバルバロイにとって、アスファルトやコンクリートを削り取ることは実に容易だ。
拳大の大きさに抉り取ったアスファルトの塊を、バルバロイは『赤松華』に向けて、力任せに投擲した。
当たれば魔法少女の頭部を損壊させる程の破壊力を乗せて、アスファルトの塊は赤松華の頭部に命中する。
アスファルトは砕け、赤松華には傷一つない。
ぎょろり、と両眼が蠢き、バルバロイを見据えた。
両腕を垂らし、赤松華は小声で何事かを呟く。
瞬間、赤松華の姿がその場から掻き消え、バルバロイの背後で——頭頂部を地面に叩きつけられる恰好で出現する。
(巧い……!)
ジャスティスファイアは戦慄する。武の心得がある彼女は、バルバロイが何をしたのか理解していた。 - 729◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 19:28:24
ジャスティスファイアにやって見せたように、赤松華は高速で移動し、万物を破壊する両腕をバルバロイに叩きつけようとした。
だが、バルバロイはその勢いを利用し、赤松華の手首を掴んで投げ、地面に叩きつけたのだ。所謂、『空気投げ』と呼ばれる、柔道・柔術における高等技術である。
もっとも、どれ程速く、どれだけ強く叩きつけようと、赤松華には傷一つつかない。
(チッ……関節破壊も無理か)
バルバロイは投げると同時に関節を極め、躊躇なく破壊するつもりだった。
だが、変身していない状態で大樹を引っこ抜こうとするかのように、バルバロイの膂力と技術を持ってしても、赤松華の関節はビクともしなかった。
(さすがに寝技は危険だな)
アスファルトをぶつけ、その反応を確かめたことで、バルバロイはおおよそ赤松華の特性を掴んでいた。
恐らく、危険なのは手首の先だけ。後の部位は、極端に頑丈なだけで、触っても問題ない。
赤松華はゆらりと立ち上がる。バルバロイの投げは、彼女にまるでダメージを与えていない。
あにまんマンションの怪談は、バルバロイに全てを塵に還る掌を伸ばし。
——再び、大地に叩きつけられた。
「Ei, eu ainda estou segurando seu pulso.(おい、私はまだ手首を掴んだままだぞ)」
- 730◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 21:05:09
赤松華は再び立ち上がり——その動きを利用して、投げられる。
バルバロイが自発的に手を離さない限り、延々と続く投げ地獄。
このゲームには、幾人ものティターニアの教え子が参加している。
『天才性』ならジャック・ザ・リッパー。
『技能』なら山田浅悧。
『逸脱』ならスカイウィッチ。
『魔法性能』ならアレヰ・スタア。
そして、『戦闘力』ならバルバロイ。
何度目になるか分からない叩きつけが行われ、初めて盤面に変化が生まれた。
赤松華の両腕が、腐臭と共に肩から腐り落ちた。
蜥蜴が尻尾を切り離すかのように、異常なほど頑強だった両腕が肩から切り離される。
バルバロイは、僅かに驚いた顔を見せる。
——瞬きの間に、赤松華には、新たな両腕が生えていた。
それは、バルバロイの戦略がこの怪異には無意味であったことを示す。
- 731◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 21:11:59
ぶん、とバルバロイの腕が鞭のようにしなる。
その手には、今しがた切り離された、赤松華の腕が握られており。『武器』として振るわれた『赤松華の右腕』は、赤松華の頭部へと命中した。
赤松華の頭部が——塵へと、変化する。
「Minha vitória(私の勝ちだぜ)」
バルバロイの勝利宣言と共に——頭部を失った、赤松華は崩れ落ちた。 - 732◆xaazwm17IRZa24/11/14(木) 21:59:56
(凄い……)
ジャスティスファイアは息を呑んだ。
バルバロイが相当『使える』ということは分かっていた。
だが、これほどの使い手だとは。もし自分がフルコンデションだとしても、確実に勝てる保証は無い。
(まだまだ、私の知らない強者はいるということか……)
とにかくにも、松崎の仇は取れた。
いったい彼の身に何が起こったのか。もはや知ることは出来ない。
事実として、ジャスティスファイアは彼を守ることが出来ず、救うことも出来ず、仇も取れなかった。
苦い敗北感が胸を焦がす。無力感が肩に伸し掛かる。
それでも、止まるわけにはいかない。ジャスティスファイアは、バルバロイに声をかけようとした。
脅威は去った。後は、この魔法少女と情報交換をするべきだ。
拙いポルトガル語で、コミュニケーションを取ろうとして。
「っ……!? 危ない! Atrás!(後ろだ!)」
戦慄と共に叫ぶ。
バルバロイの背後に——幽鬼のように、銀髪の女が佇んでいた。 - 733◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:33:01
◇
仕事柄、同年代の女子よりは、『死』に触れてきた自負がある。
だから、今の自分が『瀕死』であり、少しでも天秤が傾けば、『瀕死』から『死』へと不可逆的に変化することは、理解できていた。
(死ぬのね)
と、千秋は思う。
十三の時、魔法少女訓練学校に入学した時には、千秋は自らの死を受け入れていた。魔法少女同士で戦うのだ。しかも相手は悪人だ。負ければ、殺され、死ぬ。
それでも千秋が荒事の場に立ち続けたのは、生来の責任感の強さによるものだった。千秋は人より聡明に生まれて、人より胆力に優れ、人には無い力を持っていた。ならば、その力は他人のために使うべきだ。人より優れた者は、他人のために奉仕するべきである。
(我ながら、古臭い、ダサい価値観だと思うけど)
親からの抑圧や、何らかの物語の影響を受けたわけではない。
両親から愛されてのびのびと育ち、特段何かの物語にハマることもなく、自然に育ち、この人格になった。
(……死ぬのかしら) - 734◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:34:20
と、疑問に思う。今までの人生で最大のダメージを受けている。全身に刻まれた弾痕からは、今も流血している。
(死ぬべきなのかしら)
と、千秋は思った。今、冨島千秋は死んでいいのか——良くない。良いはずがない。
魔法王は未だ野放しであり、旅館で見かけた少女のような悪党ものさばっている。参加者たちは殺し合いの檻に囚われており、この地で出来た相方も、放っておけない。
(死んでちゃいけないわね)
今死ぬのは、無責任だ。
(じゃ、生きるか)
そう考えると、四肢に力が戻った。
まだ、冨島千秋は戦える。
クケケケケケケケケケ……と奇怪な笑い声が、ロビーに響いた。
聞く者を不安にさせる、黄昏時の烏の鳴き声のような声だ。
「もし」 - 735◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:34:55
と、側方から声をかけられた。視線を向ける。
魔法少女だと、思った。頭から山羊のような角を生やした人間がいるはずもない。
「めぇは、黒贄山羊と申します」
瞳をとろんと揺蕩わせて、黒贄は千秋を見下ろす。
「見たところ、貴女は死にかけでございますねぇ」
そう見えるのか。全然まったく死ぬつもりはないのだが。
「——あんたも参加者?」
「いえいえ、めぇは魔法少女では御座いません」
「あ、そう。けど、一般人じゃ、無いんでしょう」
「さぁ、何をもって一般と指すのか、議論の余地がありますねぇ」
(あ、こいつとは仲良くできないわ)
と、確信する。千秋は、自らを『単純』だと考えている。だから、同じく単純なジャスティスファイア、あるいは不良デストロイ娘である千郷にしても、好感を持っている。
目の前の女には、それが無い。 - 736◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:35:26
詐欺師のような、悪知恵の働くタイプだ。知能犯だ。
「めぇは、貴女を助けたいのです」
「——放っておいてくれないかしら」
「貴女には使命があるのでしょう。しかし、悲しいかなその使命に、貴女の肉体は追いついていない。
めぇが、お助けしましょう。
全てを、めぇに委ねましょう。
そうすれば、貴女はきっと楽になります。
あの、ハートプリンセスのように」
「……あーそう。あんたが黒幕ってわけ」
「黒幕! まさか、恐れ多い。めぇは、しがないめぇで御座います。
さぁ、気を楽にして。めぇに全てを委ねて。
貴方も“ナラカ”に入りましょう。魔法少女を、超越した存在に……」
いつの間にか、黒贄の手には、黒々しく脈打つ、臓器のようなものが握られていた。 - 737◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:36:48
「さぁ、受け入れて……」
(——ああ、そうか)
どうして、自分は鉄火場に立ち続けたのか。悪に立ち向かう道を選んだのか。
(人は、いつか死ぬからだ)
どれだけ健康に気を遣おうと、危険から逃げ回ろうと、最終的に人は死ぬのだ。
命とは、砂浜に刻まれた絵に等しい。どれだけ守ろうと、波に掻き消されて消えてしまう。
儚く、短い命。
人は死ぬと灰になり、魔法少女が死ぬと光となる。
どちらにせよ、砂絵が砂に戻るように、バラバラに霧散する。
だからこそ、千秋はたった一度の人生を、後悔なく生きたかった。自らの責任感に、正義感に従って、後悔の無い人生を全うしたかった。
だから。
「——死んでも御免よ、山羊女」
瞬間、千秋の体内に埋まっていた弾丸が、黒贄に向けて発射された。 - 738◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:37:33
角の生えた頭部に、ローブに包まれた体躯に、握っていた臓器に、幾つもの穴が開く。
同時に、千秋の変身は解除された。
相手に気づかれることなく変身し、身体を砂に変え、埋まっていた弾丸を射出。
百戦錬磨の千秋だからこそ出来る奇襲。
黒贄は呆気に取られた表情のまま絶命し、天井を見つめていた。
「——ああ、勿体ない。せっかく用意したのに」
むくりと、黒贄は起き上がる。
「仕込みが、台無しです。まったく、忌々しい」
そして、黒贄は、山羊に酷似した瞳を、千秋に向けた。
「めぇは、あなたのことが大嫌いです」
千秋は、血を吐き捨て、勝気に笑った。
「同感よ、山羊女」
ぬめり、と黒贄は千秋に近づく。生身のまま、起き上がることなく、千秋は黒贄を睨みつけ、高らかに宣言した。
「見てなさい——正義は、必ず勝つ」 - 739◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:38:05
◇
ジャスティスファイアが、バルバロイを連れてホテルに戻ったとき——冨島千秋は事切れていた。
「——————」
あれから、失血死やショック死をしたのではない、と遺体を見れば分かる。
何故なら、その遺体は、胸部に大穴が空いていたからだ。刃物……ではない。もっと太く、されど尖った、槍ないし杭のようなもので、殺されている。
捜査官としてジャスティスファイアは、冷静に千秋の遺体を検分した。
ハートプリンセスの内側から生まれた謎の銀髪の女は、正しく不死身であった。
バルバロイの奇策によって一度は自らの魔法(銀髪の女が魔法少女なのかは疑問が残るが)で滅んだにも関わらず、何事も無かったかのように復活。再び襲いかかって来たのだ。
バルバロイの顔にも焦りが浮かび、ジャスティスファイアが彼女だけでも逃がすか思案したときだった。
唐突に、何の前触れもなく、銀髪の女は消失した。 - 740◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:38:34
ハートプリンセスのように転移したのか、はたまた何らかの活動時間が設定された使い魔だったのか。
詳細は分からないが、とにかくにもジャスティスファイアはバルバロイを連れ、ホテルへと舞い戻ったのだ。
赤松華の消失と、冨島千秋の放った弾丸が黒贄を一時的に絶命させたタイミングが、まったく同じであることに、当然ジャスティスファイアは気づかない。
黙々と遺体の状況を調べるジャスティスファイアの背中を、バルバロイはどこか居心地の悪そうな顔で眺めていた。
「Tá tudo bem?(大丈夫か?)」
バルバロイは戦闘狂で喧嘩屋だが、冷血漢でもなければ外道でもない。仲間の死に直面している魔法少女に、強い同情を覚えていた。
もし自分の家族がこのように殺されたら。きっとバルバロイは大声で泣き喚き、その後のたうち回って怒りを表現し、そして復讐に向かうだろう。
だから、淡々と検分するジャスティスファイアのことが、気が気で無いのだ。
ジャスティスファイアが仲間の死に何も感じない、冷たい女である。とは、バルバロイは思わない。 - 741◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:39:10
逆だ。
バルバロイは、これほどまでに激怒した存在を、知らなかった。
噴火寸前の火山が眼前にあるかのような迫力。
きっと、目の前で死んでいる女、だけではないのだろう。様々な積み重ねが、この女をここまで怒らせている。
ジャスティスファイアが屈みこむ。バルバロイもその後ろから覗き込んだ。
女の遺体のすぐ傍に、一見では分からない椅子の下に、砂絵のような物が残っていた。
(こりゃあ……)
頭に山羊の角を生やした女。そしてその女に向けて矢印が引かれ、●が置かれている。
何故、こんなものが残っているのか。
バルバロイは思案し、ジャスティスファイアに視線を向ける。
「——こいつか」
その言葉に籠められた情念に、バルバロイは怯んだ。 - 742◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:39:43
そして、とある話を思い出した。
ブラジルのマフィアも日本のヤクザも、忌避する行為がある。
それは、警官殺し。
慈愛や、警官への尊敬故にではない。
警察機構は——仲間殺しを、絶対に許さない。
警官殺しの主犯格は——逮捕の際に、『不慮の事故』で射殺されてしまうのだという。
どこまで本当の話か分からない。そもそもジャスティスファイアが警官なのかも、バルバロイは知らない。
ただ、ジャスティスファイアの纏う空気は、遭遇した頃とは一変していた。
(面白くなってきたとは……言えねぇな)
最終的にどちらかが死ぬとしても、快活に喧嘩をしたいものだ。
無性にジャクソンのバーガー屋に行きたくなった。だが、彼も故人であることを思い出し——バルバロイは、怒りの前に、空しさを覚えるのだった。 - 743◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:41:54
【冨島千秋 死亡】
【残り 20人】 - 744◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:42:44
投下を終了します
これで糧鮴編および2巡目終了です……! - 745◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:44:56
第二回放送で追加される運営キャラdice1d4=2 (2)
- 746◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:47:17
運営キャラを2人追加します
追加されるのはdice2d5=1 2 (3)
1風間由利/ヴェンデッタ
2ゲルニカ
3フロストハウンド
4ナイナイホテプ/内藤 撤華
5勇者/灰江渚
- 747二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 00:48:03
そういえばオオカワウソも生存値10以下でしたけどこれで全員死んだってことでいいんですかね?
全員まとめて死ぬルールだった気がするんですが - 748◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:49:00
【風間由利/ヴェンデッタ】と【ゲルニカ】を追加します
- 749二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 00:49:58
勇者追加が無くて良かった…参加が早いほどレベル上げが脅威になるし
あとたしか残りがDの状態で全滅だし完全全滅じゃないかしらオオカワウソ - 750二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 00:50:52
最終回を残してるのにまだ20人も残ってるのか…
出番の格差の話があったけど本当に絞らないとあと一年企画延長しても足りなさそう - 751二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 00:55:41
山羊がニャルセーヌ側と繋がってるのか気になるね ハートプリンセスとか見る限りゲーム前から仕込みしてたみたいだけど、パラさんは把握してたのかしら
- 752二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 00:56:15
- 753◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 00:58:39
単純にオオカワウソDチームの生存ダイスのつもりで振ったんですけど、確かにそういうルールでしたね……
一応作中では
Aチーム(マンション探検チーム)→全滅
Bチーム(市外探索チーム)→不明
Cチーム(情報統制確認チーム)→ハニーハントの襲撃で一匹残して全滅
Dチーム(対運営チーム)→全滅
Eチーム(優勝狙いチーム)→全滅
なので、最大に見積もっても11匹……実際にはもっと減っているものと思われます
- 754二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 01:02:11
まぁキャラが複数いるタイプは確定死亡出すと全滅ががスレのルールだったわね
メンダシウムもクトゥルフもそれで死んだし - 755二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 01:07:02
このレスは削除されています
- 756◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 01:08:32
『気づいたら絶滅していた』というのもオオカワウソらしいと思いますし(ニホンカワウソ要素)
『オオカワウソは確定死亡』
『最後の一匹が絶滅したタイミングは第二回放送後』
『今後最後の一匹の死亡シーンが描写されるかは未定』ということで……
ハートプリンセスに吹き飛ばされたのが、我々が観測できた最後のオオカワウソだったのかもしれない…… - 757二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 01:13:41
今んとこティターニア先生の描写が盛られすぎててスピードランサーが設定で互角と言われても全くそんな感じはしないんでそろそろブッ飛んだ活躍して欲しいわね
- 758二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 01:32:25
じゃあ因縁のあったああああちゃんは運営回をもし生き延びたらそのままデッドマンズハンドと組んだままなのか…謎のコンビだけど漫才が面白いのでそのまま見ていたいかも
もしバトロワ終了後も生きてたら全てを失った者同士でカニ煎餅屋でも開いてそう - 759◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 01:59:31
どのキャラも『活躍』シーンは用意したいと考えています……!
このキャラのこんな活躍が見たい(見たかった)と書き込んでいただけると、ある程度は反映できるかもしれないです……!(ダイス的に、あるいは展開的に、そもそも私の筆力的に無理な場合もありますが……)
- 760◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:01:56
(ティターニアとテンガイに関しては、優遇というより動かしていて便利なのでついつい描写が多くなってしまう節はありますね……
黒竜討伐も、学生街編のメンバーだからギリギリ書けた面もありますし……) - 761二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:05:12
- 762二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:07:43
そういえばスピードランサーってキャラシートだと「気のいいねーちゃん。誰にでもフランク」って書いてありますけどなんか本編だとダウナーな殺し屋みたいですよね
これは意図した描写なんでしょうか? - 763二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:09:04
上の方でスレ主さんが「書きたいことは書き切ったし設定的にも変身出来ないから活躍の機会は不明」って書いてあるし無いだろ
- 764◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:09:42
さて、新たに二名の運営魔法少女を追加したところで、第二回放送のダイスを振ります。
以前、全運営魔法少女と書きましたが、魔法城に居ない【ああああ】【デッドマンズ・ハンド】【クイックローラー】は除外します。
この3名、特にああああと蟹が確定死亡したとして①刺客をあにまん市に派遣②その場にはティターニア(瀕死)と天城千郷も居る③二人とも何らかのアクションが発生するのでますます描写の格差が……ということで - 765二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:14:55
質問なんだけど設定的に参加者側で万全の状態で戦えるのって6時間たっぷり休んだ中心街コンビだけなんだろうか
他はもうなんか連戦続きで全員満身創痍な感じで対運営がだいぶ不利な感じ - 766◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:18:21
例えば最終回でアルセーヌとティターニア以外のキャラがみんな1桁で、二人だけ2桁ないし3桁だったらそういう展開を書かざるを得ないと思いますけど……
そうでなければ可能性は低いですね……
元々本来の想定ではティターニアにパラサイトドールを撃破させる予定ですら無かったので……
- 767◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:26:29
2巡目のスピードランサーは「参加者二人キル」「一人は友人の弟子」「襲ったのは自分、襲った理由も今思えばやや納得できず」という状態なんで、なかなか平時の調子にはなれないですね
それはそれとして、他のキャラとの差別化&私の手癖で、ちょっと殺伐とした雰囲気になってしまっている節はあります
- 768◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:29:34
疲労度は参加者ごとにまちまちですね……完全に万全の状態で戦える魔法少女は実はいなくて、満身創痍ではない参加者もけっこういます
- 769◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:34:10
第二回放送
(個人的には最終回で参加者とも絡んで欲しいので、ちょっと緩めにとるかも)
アルセーヌdice1d100=29 (29)
パンデモニカdice1d100=14 (14)
オートクチュールdice1d100=20 (20)
メッセンジャー・ブルーdice1d100=81 (81)
ヴェンデッタdice1d100=88 (88)
アロンダイトdice1d100=6 (6)
ゲルニカdice1d100=17 (17)
グレンデルdice1d100=41 (41)
トート・アリアdice1d100=55 (55)
- 770二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:35:44
アロンダイトこれアルセーヌも黒竜の首の一つって気付いたのか…?
- 771◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 02:35:50
……以上の情報を元に、後日、第二回放送を投下します……!
- 772二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:35:52
あれ?
マジでこれ「なんかみんな死んだ…」になる? - 773二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:38:09
黒幕役が軒並みくたばりそうなのにしれっと生き延びてそうな全方位ヘイトナチスで草ァッ!
- 774二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 02:41:35
黒幕側も運営造反組もどっちも全員死にそう…
あとトート・アリアさん過去回想もあって立ち位置が不明だな…裏切り者ではなかったけど対黒竜用の天上の魔法少女を作る研究しててどっちにも転びそう - 775二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 03:12:00
ヴェンデッタとグレンデルは運営の暴力装置だろうし分かりやすい。ニャルセーヌが運営を乗っ取ったらコロっとそっちに付くだろう
ゲルニカは運営というより魔法王に仕えてる感じなので真相に気づいて反抗した感じか…?
オートクチュールとアロンダイトは……フラグは立ってたよ…… - 776二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 07:44:48
弱体化のおかげで外に出れたようなもんなので何とも言えないなぁ…
- 777二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 08:57:58
憎まれっ子世に憚るって言うだろ?
- 778二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 10:09:45
バルバロイが思ったより強いというか近接限定なら筋力強化+技術でここまでやれるか、という驚きがある
- 779二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 11:43:35
暴力装置組は上が変わるならそっちにつくしゲームがご破産になるならさっさと抜けそうな感じだよね
- 780二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 15:42:23
妖精でも悪魔でもないただの人間なのに100年以上を生きてたり、人力で魔法少女になったり、パラさんと顔見知りだったり、天上の魔法少女の研究をやってたりと謎が多すぎるトート・アリアさん
- 781二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 17:53:24
謎が多いけど全方位ヘイトスピーチのインパクトが強すぎて印象がそこで止まる
- 782二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 18:58:14
質問なんですが糧鮴編に登場した黒贄はどういう扱いなんですか? 続投っぽいですが
ただのエネミー? それとも途中参加の運営キャラ? - 783二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 23:26:09
思ってたよりバルバロイが強かったと同時に今の状況は割と有利なのではと思い始めている
- 784◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 23:36:38
「怪異」です。
- 785◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 23:45:07
投下します
- 786◆xaazwm17IRZa24/11/15(金) 23:54:16
アルセーヌが玉座に就き、運営陣の前で演説してからおよそ1時間後。
かつて、参加者が集められ魔法王が殺し合いの開始を宣言した『玉座の間』にて、二人の魔法少女が向かい合っていた。
「——それで、決心がついたのかい、パンデモニウム」
「——ああ、決めたよ、我が主」
新たなる黒幕、アルセーヌ。
相対するのは古参幹部の一人にして、地獄の悪魔を操る悪魔、そしてアルセーヌの眷属である、パンデモニカ。
「私は、面白いことが好きだ」
「私も好きだよ、パンデモニカ」
「——自分が眷属、人間の魔法少女が創り出した使い魔に過ぎないことを思い出して、私は悩んだ」
「悩むことはいいことだよ、パンデモニカ」
「どうすれば、一番面白いだろうって」
「素敵な考え方だ、パンデモニカ」
「そして分かった」
「分かったのかい」
「自分の主を殺して、私が玉座に座る。それが一番——面白い」
「素晴らしい!」 - 787◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 00:03:11
アルセーヌは拍手を送った。
パンデモニカは優雅に一礼する。
「付き合ってくれますか?」
「勿論だとも」
パンデモニカは、魔本を開く。
地獄の悪魔を、パンデモニカは自在に召喚・使役できる。
彼女が繰り出すのは
「召喚・『ゴリアテ・ネオ』」
巨大な魔法陣が展開する。現れたのは、ゴリアテ——その強化版。
鋼鉄の仮面、黒のフォーマルスーツ。手に持つのは、巨大なガトリングガン。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガ、という轟音と共にガトリングガンが火を噴く。 - 788◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 00:13:05
これで勝てるとは、パンデモニカも考えていない。
魔法少女・アルセーヌ。彼女の実力は、まったくもって未知数である。『天上』では無いと公言しているが、固有魔法も一切不明。
一参加者であった頃は、『千の貌を切り替えて使うよ』という変身魔法のみを使っていたが、まさか今もそれだけとは思えない。
まずは並の魔法少女なら骨も残らない、巨大ガトリングガンの斉射で反応を見る。
玉座の間は無惨に破壊される。
だが、新たなる主——アルセーヌは、健在である。
「なるほど」
と、パンデモニカは笑う。弾着の瞬間を、彼女はしっかりと見届けていた。
「変身魔法、ね」
放たれた弾丸がアルセーヌに命中すると、彼女の身体をすり抜けた。
その際に、アルセーヌの身体が変化していることを、パンデモニカは見抜く。
揺らめいていた。まるで、炎のように。
「自らを炎に変身させたか。自らの肉体を自由に変化させることが出来る、それがアルセーヌ本来の魔法というわけですか」
「ふふ、さて、どうだろうね」 - 789◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 01:18:21
(と、なると物理攻撃は効かないか……さして、厄介でもないな)
パンデモニカが使役する地獄の悪魔の中には、そういった相手へ対処できる者がいる。
その程度ならば、パンデモニカの勝利は揺るがない。
ゴリアテ・ネオの背後に隠れながら、パンデモニカは次なる悪魔を召喚した。
「召喚・『モルテ=ファルファッラ』」
現れるのは、2m前後の、昆虫人間でも形容すべき異形の怪物。
(魔法少女の源は魔力。それを吸いだされれば、どれだけ変身できようと意味が無い)
お手並み拝見だ、とパンデモニカは楽しそうに笑った。 - 790◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 01:20:17
短いですが、一旦投下を中断します……!
- 791二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 08:59:32
抑止力を失って野心家達の覇権争いが起きてますね…
- 792二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 10:24:42
野心家ほど今回ヤバ目の数字出して自分が上に立って運営していくタイプじゃなさそうなキャラほど出目が高い妙味
今回みたいに潰しあいするのはこの二人みたいに黒幕になりたいキャラたちなのだろうか - 793◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 15:09:31
投下します
- 794◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 15:20:03
魔法王の城。その地下には、監獄が設置されている。魔法王に反旗を翻した者、社会秩序を乱した者、その中でも有用な力を持った者だけが、その監獄に収監・保存されるのだ。
硬質な足音が監獄に響く。
げっげっげ、と特徴的な、下卑た笑い声をあげながら、身長2mを超える、野獣のような雰囲気の美女が歩く。
名を、グレンデル。運営陣の一人であり、元罪人、現傭兵の魔法少女である。
「懐かしいなぁ、おい」
監獄に漂う、陰惨で閉塞的な空気を、グレンデルは堪能していた。
「ねぇ、いい加減私を出してくれないかな」
独房の一つから声が届く。グレンデルはそちらに振り向いた。
「メッセンジャー・ブルー。げっげっげ、お前も殺し合いをしたくなったのか?」
「お断りよ。私の仕事は癒すこと。いつまで私に仕事をさせないつもり?」
「げっげっげ、ガキのくせに大した胆力だぜ。
普段ならお前みたいな奴は甚振って屈服させて許しを請わせるのが俺っちの趣味なんだが……生憎、俺っちの用事は別にある」
お楽しみはまた後でな、とグレンデルは下卑た笑みを浮かべると、メッセンジャー・ブルーの独房の前を通り過ぎた。 - 795◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 15:30:31
「ほう、甚振るとな……♡
面白い、わらわにも試してみろ……♡」
「ゲー……」
隣の独房から聞こえた妖艶な声に、グレンデルは顔を顰め、その足を早める。
風間由利/ヴェンデッタ。アグネア・ミストリルのライバルと目されていた実力者だが、デッドマンズ事変において魔法国に反旗を翻し、こうして幽閉される身となった女。異常性癖者。
あくまでグレンデルの趣味は泣き叫ぶ者に暴力を振るうことであって、求められて振るう暴力はただのSMプレイである。趣味ではない。
やがてグレンデルの足は、とある独房の前で止まる。他の部屋よりやや広く、最深部に位置する場所。
此処の住人こそが、グレンデルが会いに来た人物。 - 796◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 15:42:57
「よぉ、ゲルニカ」
「何の用だ、凡愚」
独房の中から傲慢極まる声が響く。
ゲルニカ。かつては魔法王お抱えの宮廷画家であったが、数十人の人間を拉致、化物に改造した罪を問われ、ここに収監された魔法少女。
「私は忙しい、邪魔をするな」
「あー? 立場を弁えろよ。かつては宮廷画家だろうが今のテメェは罪人。そして俺っちは」
と、グレンデルは銀色の腕章をひらひらと翳した。
「監獄長だ! げっげっげ、つい数分前になったばっかりだけどなぁ!」
「創造性のない者ほど、地位に拘る。底の浅い凡愚だな——グレンデル」
(あー? どうして俺っちの名前を知っている? そんなに有名なのかねぇ、俺っち)
微かに疑問が浮かぶが、正直今回の殺し合いは分からないことだらけなので、グレンデルは深く考えないことにした。
元々グレンデルは人間である。魔法とは縁も所縁も無い、ただの戦争犯罪者であったのだが、とある魔法少女によって改造され、グレンデルとなった。 - 797◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 15:54:38
「まぁいい。俺っちはな、お前をスカウトしに来たのさ。といっても部下になれって言ってるんじゃねぇよ。あくまで対等な関係さ。
『自分だけのアトリエを作れるよ』……描いたものを現実に召喚できるテメェの魔法は、実に有用だ。エネミー軍団を創り出したり、あるいは俺っちのための武器を作ったり……。
協力してくれりゃあ、テメェを自由の身にするし、専用のアトリエだって用意するぜ。もちろん人間も好きなだけ拉致していい……げっげっげ、俺っちと獲物がダブったら譲れよ?」
「実にくだらん。これ以上私の邪魔をするな。私は芸術家だぞ? 描きたいものは自身で決める」
「そっかー。じゃ、始末するしかねーなぁ」
- 798◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 15:59:17
ゲルニカは有用な魔法少女だ。この監獄に収監されている、どの魔法少女よりも有用だと、グレンデルは考えている。
だからこそ、自分の陣営に来ないのなら、他の陣営が確保するまえに消す。傭兵として、グレンデルは冷酷に判断する。
此処に来る前に、あらかじめゲルニカの情報は仕入れている。魔法性能は凄まじいが、本体の防御力は、紙同然……否、紙そのものである。
キャンパスに描かれた落書き……それがゲルニカの本体であり、キャンパスを燃やす、汚す、破るなどすれば、ゲルニカは死亡する。
笑ってしまうほど脆弱。グレンデルは、のっそりとゲルニカの独房へ侵入した。
そして——絶句する。 - 799二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 16:18:04
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- 800◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 16:20:10
- 801◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 16:33:41
(まるで——瞳だな)
月ではない。巨大な生き物の瞳だ。
「……随分と、不気味な絵じゃねぇか、おい」
ゴッホも怒るぜ、とグレンデルは監獄の中央に置かれたキャンバス、そこに描かれた落書きに声をかける。
落書きは沈黙している。多少の戦闘を覚悟していただけに、グレンデルは拍子抜けした。
「なぁ、この眼はいったい誰の眼なんだ?」
グレンデルの問いかけを、落書きは無視する。
「当ててやろうか」
「ほう」
「これは——俺っちの眼だ。この殺し合いそのものを見下ろす——俺っちの、俺の、眼だ」 - 802◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 16:38:10
脳裏に、とある女の顔を浮かんだ。月光を背景に、こちらを見下ろす女の顔。
かつてグレンデルを監獄に叩き込んだ、とある女の顔。
「常に、俺が見下ろす側だ」
「くだらんな」
「あぁ!?」
グレンデルはキャンバスを持ち上げる。落書きは、抵抗しない。
「あれは、見下ろしてなどいない」
「何だと……?」
「あれは、絵に描かれたものを、見ていない」
落書きが、うっすらと笑った。
「絵を覗いたものを、見ているのだ」
- 803◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 16:49:25
◇
硬質な音を立てて、グレンデルは監獄を後にする。
(不快な気分だぜ……やっぱり、肉を削ぎ、骨を砕かねぇと、殺しは楽しくねぇな
……げっげっげ)
薄ら寒さを感じるのは、ゲルニカ殺しに満足できなかったからだ。断じて、あの絵の影響では無い。
月が、女の顔が、瞳が、次々とグレンデルの脳裏を駆け巡る。
奇妙な焦燥を抱えながら、グレンデルは足早に去って行った。
独房の中には、執拗に千切られ、斬り刻まれ、踏みにじられたキャンバスだけが残った。
既に、落書きは粒子となって消えていた。
【ゲルニカ 死亡】
壁面の一角に、書き殴った文章がある。
グレンデルは気づかなかった、小さく、掠れた文字。
ウェンディゴ。
- 804◆xaazwm17IRZa24/11/16(土) 16:49:43
投下を終了します
- 805二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 17:44:46
乙
絵を覗いているとき絵もまたこちらを覗いているのだ - 806二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 18:07:14
乙です
画像有りも雰囲気あって良いなぁ… - 807二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 19:47:47
なるほどダイスの出目高い二人は牢獄にいるからかえって外の争いからは守られてるのか…
- 808二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 23:03:27
保守
- 809二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 07:36:20
視覚的には何が起こってるか分からないウェンディゴの能力って参加者の中でもトップクラスに描写しづらいと思うんだけど
それを残りの尺でどう絡ませてくるのかな 楽しみ - 810二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 13:14:01
ウェンディゴぉ…
- 811二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 23:20:18
見る者の心を動かせたのならその時点でゲルニカからすれば願ったり叶ったりだな
- 812◆xaazwm17IRZa24/11/17(日) 23:49:45
投下します
- 813◆xaazwm17IRZa24/11/17(日) 23:56:14
玉座の間で始まったアルセーヌVSパンデモニカの決戦。
それと時を同じくして、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
オートクチュールに用意された南塔。彼女の工房と化したこの場所に、複数の武骨な靴音が響く。
架けられた素材、置かれたアイテムを切り裂き、踏みつぶし、騎士団は足を進める。
異様な集団であった。赤黒く変色した騎士甲冑を身に着け、皆血涙を流しながら進む、女騎士の集団。
魔法国が誇る近衛騎士団——その末路である。
彼女たちは、兵隊アリのように隊列を組み、塔を昇る。
そして最深部に辿り着くと、扉を剣で切り裂き、中へと侵入した。 - 814◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 00:13:53
「あらあら、困ったわねぇ」
南塔の主は椅子に腰かけ、押し入って来た騎士団に歓迎の笑みを浮かべた。
「今から出かけようと思っていたのだけれど。タイミングが悪いわ」
騎士団は一斉に剣を抜き、オートクチュールへと向ける。
近衛騎士団……世界各地の一流の魔法少女が集められ、それらが互いに切磋琢磨して技を磨く、精鋭中の精鋭部隊。
団長のアグネアが不在とはいえ、彼女たちに囲まれることは、魔法少女にとって敗北を意味する。
にも関わらず、オートクチュールの顔からは余裕が消えることはない。
「私に、どういった御用かしら」
「御用だと? ふん、機織り女程度では状況が理解できてないようだな。祖先が日本人(サル)だと脳にデバフがかかるのか?」
騎士団を掻き分け現れるのは、悪名高き武装親衛隊の将校服に身を包んだ魔法少女、トート・アリア。
「既に儀式は第二幕に移っている。よって貴様はここで死ぬのだ、オートクチュール」
「私は別に、願いを叶えようとは思っていないし、他の人の邪魔をするつもりも無いのよ」
オートクチュールは中立。それは、魔法国創立以来の不文律。
「吾輩は中立など認めない。敵対し敗北する名誉を賜るか、降伏し軍門に下る名誉を賜るかのどちらかだ。おいおい、どちらも名誉じゃないか。吾輩、寛大過ぎないか?」
「本当に、邪魔をするつもりは無いのに」
オートクチュールは苦笑した。まるで子供の癇癪を聞き流す保母さんのような雰囲気に、アリアは不審げに首を捻る。 - 815◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 00:19:41
「……吾輩が叶えたい願いは、第三帝国の復活だ。それを聞いてもなお、貴様は中立を貫くと?」
「ええ」
オートクチュールは朗らかに笑う。
「たとえあなたが世界を滅ぼすとしても、私は中立を貫くわ。それがオートクチュールだから」
「……カルトめ。だとすれば、やはり貴様は生かしておけんな。異常な者は、吾輩の帝国に必要ない」
トート・アリアは号令を下す。
騎士団は一斉に地を蹴り、オートクチュールへと斬りかかった。 - 816◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 00:27:45
◇
パンデモニカが、鉄屑の塊のようなエネミーを大量に召喚する。
アルセーヌは、右手から放った炎でそれらを薙ぎ払う。
玉座の間で行われる戦いを、観戦する影が一つ。
物陰に隠れ、じっと二人の戦いを注視するのは魔法少女ではなく、妖精。貴族妖精、アロンダイトである。
(ミーは、アルセーヌを王だとは認めてないザマス)
そもそも、魔法少女を認めていない。魔法王も認めていない。黒竜が上に立っていることを許せないために裏切り者となったが、アルセーヌの味方になったわけではないのだ。
(此処は——妖精の国ザマス。玉座に座るのは、妖精こそが相応しい)
自分か、あるいは。
(パンちゃん……)
何でも願いが叶う魔法とやらで、魔法少女を皆殺しにし、妖精の国を取り戻す。
それが、アロンダイトの願い。
- 817◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 00:38:53
(魔法少女……許しておけない……)
アロンダイトは、貴族妖精の家系に生まれた。父も母も、姉たちも、皆誇り高く、強く、何より優しい人たちだった。
だが、彼らは、彼女らは、死んだ。冒涜の竜に挑み、対面することなく狂死した。互いに互いを傷つけ合い、無為な死を遂げた。
その後現れたのが、魔法少女だった。冒涜の竜の魔法に耐性を持っていた(後に、それは間違いだったと判明したが)彼女たちは、次々に妖精同士の争いを沈め、暴れるエネミーを討伐し、妖精の国へ平和を取り戻していった。
最初は、信じていた。貴族妖精は何の役にも立たなかったと詰る妖精たちと違い、魔法少女は貴族妖精の犠牲を悼み、誇りを尊重してくれた。
ダーマット。マーリン。ロンギヌス。ランスロット。メリア。■■■。秀でて強く、優しく、アロンダイトを可愛がってくれた彼女。
最終決戦に向かう彼女たちを、アロンダイトはメリアと共に見送った。
——帰って来たのは、ランスロットだけだった。
冒涜の竜は滅び、世界は平和になった。ランスロットは剣だけ置いて姿を消した。
最初は、感謝していた。妖精の国を救ってくれたことを。
——全ては嘘だった。魔法少女は、妖精の国を救いたかったわけではない。自分たちのものにしたかっただけなのだ。 - 818◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 00:43:31
冒涜の竜が滅んでから、十五年後。
■■■の息子が、分裂していた妖精郷を統一し、初代魔法王となった。その際に、人間が王位に就くことに反対した生き残った貴族妖精は——徹底的に弾圧され、多くの貴族妖精が処刑された。
貴族妖精に守られてきたはずの妖精たちはアロンダイトたちを救わなかった。魔法少女もまた、貴族妖精狩りの主力部隊として喜々として狩りに回った。
アロンダイトは必死に逃げ延び、森の奥深くに潜伏した。
何年も、何十年も、何百年も。魔法少女への恨みだけを募らせながら。 - 819◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 00:43:48
短いですが、投下を中断します
- 820二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 07:51:03
(ナチスも大分カルトにハマってたけどアリアの事だし何か含んでそう)
- 821二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 15:02:16
■■■の息子(息子ではない)
- 822二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 16:25:38
アロンダイト、ここで生き残ってればテンガイとの絡みも見たいキャラだったな
直接は話せなくても奥の手の武器化でワンチャンないか - 823◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 20:31:03
投下します
- 824◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 20:41:17
◇
霊体化した恐竜の群れが、仮面の少女——魔法少女アルセーヌへ迫る。戦車さえひっくり返せるであろう質量による蹂躙を前に、アルセーヌは不敵に笑い、袖口から無数の札を取り出した。
「急急如律令!」
呪文を言祝ぐと共に、ダーツのように札を投げる。
四方に散った札は恐竜の頭部に張り付き、途端に恐竜は消失する。
間髪入れず、無数の砲弾がアルセーヌへと降り注ぐ。
アルセーヌの周囲に透明な薄い膜のようなものが現れ、砲弾を弾く。
(なるほどな)
魔本を捲りながら、悪魔風の魔法少女、パンデモニカは舌なめずりをした。
(少しずつ見えてきたぞ)
- 825◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:11:39
魔法少女・新たなる黒幕・新魔法王。アルセーヌ。
(一見、彼女は万能、いや全能に見える)
ここまでの戦いで、アルセーヌが見せた魔法は、多種多様だった。全身を炎に変え、光の剣を操り、幽霊を成仏させる札を投げ、SFじみたバリアを貼る。
かのテンガイを彷彿させる壊れ性能。
だが、パンデモニカは戦いを通して、アルセーヌの魔法のカラクリに気づき始めていた。
昆虫型のエネミーの大軍を、アルセーヌにけしかける。
アルセーヌが手をかざすと、毒霧が発生し、昆虫たちは地に落ちる。
その隙に、アルセーヌの背後に忍ばせていた爬虫類じみた怪物——ダークハンターに急襲をかける。
ダークハンターの鉤爪がアルセーヌを捉えるが、アルセーヌは体を炎に転じ、ダークハンターの攻撃を受け流す。
——毒霧は、消失している。
(やはりそうか。アルセーヌは、『違う種類の魔法を同時に使えない』)
パンデモニカは、異なる種類のエネミーを、同時に召喚できる。 - 826◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:12:12
だが、アルセーヌは二つの魔法を同時に発動できない。
同じ属性ならば可能らしい。身体を炎に変えたまま、口から炎を吐いたり。光の剣を振りまわした後、光の盾を使用したり。
だが、身体を炎に変えたまま光の剣を出したり、口から炎を吐きながら光の盾を構えたりすることは、出来ない。
そして、その理由は。
(元々、アルセーヌの魔法は、変身魔法。
参加者のカテゴリーを外れた今の彼女も、きっと魔法は変身魔法のままだ。
他の魔法少女に変身し、その魔法少女の固有魔法も使える。それが、アルセーヌの魔法)
なるほど、強い能力だ。
アルセーヌは自らの魔法に自信をもっているが、それでもアルセーヌより質が上とは断言できない。
(けれど、制約も大きい。誰にでも変身できるなら、とっととティターニアやテンガイ、あるいはアグネアやパラサイトドールに変身すればいい。
それをしないということは——何らかの条件を満たした魔法少女にしか、変身できない) - 827◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:12:41
今のところ、参加者の誰にも変身していない。パラサイトドールが滅んだ今、パンデモニカも認めている。参加者の質は高い。もし、パンデモニカが最初から三阿k者として参加していても、絶対に優勝できたとは断言できない。
しかしアルセーヌは、デスゲームの参加者に、質の高い魔法少女に変身する様子を見せない。身体を炎に変えるのはヒートハウンドと同等かと警戒したが、その後繰り出した火炎放射はヒートハウンドと比較し弱火もいいところだった。
(どうやら、私の想像以上に——底が浅いな、アルセーヌ)
そう見れば、アルセーヌが仮面を被っている理由も何となく見えてくる。恐らく、魔法を切り替える際に、顔も切り替わっているのだろう。それを隠し、自分をさも全能であるかのように見せるために、アルセーヌは仮面をつけている。
(私の主は——面白くない)
パンデモニカは魔本の頁を捲る。
「アルセーヌ様……いや、アルセーヌ」
「何だい」 - 828◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:13:16
アルセーヌの身体は未だ無傷である。パンデモニカの攻撃を全て受け流し、防ぎ、弾き返している。
だが、パンデモニカもまた無傷である。アルセーヌの攻撃を素の身体能力で回避し、防御し、見極めている。
「貴女の魔法……その能力、性能、弱点……掴めました」
「へぇ、凄いな」
「よって——小手調べはここまでです」
(アルセーヌは私との戦いで殆ど手の内を晒したのだろう)
パンデモニカの繰り出す多種多様なエネミー。それに対応するため、アルセーヌは様々な魔法を駆使した。
共に万能型の魔法少女。だが、アルセーヌとパンデモニカの違いは。
「一つ、言っておきましょう」
パンデモニカは、悪魔らしい、底意地の悪い笑みを浮かべた。
「私が今までの戦いで使った悪魔は——まだ、一柱だけです」
そう言って、パンデモニカは今まで召喚し、透明化させていた悪魔『タイプ・エキドナ』を地獄へと戻す。 - 829◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:14:01
今までパンデモニカが繰り出していたエネミーは、全てエキドナが創り出したものである。
ゴリアテも、モルテ=ファルファッラも、ブラフに過ぎない。
それらへのアルセーヌの対応を見て、パンデモニカは確信した。
アルセーヌは万能型であり、その出力は決して高くないと。
莫大な魔力を、魔本に流し込む。
赤黒い魔法陣が玉座の間に広がる。
怨嗟の声が、周囲に響く。
「——『タイプ・ケルベロス』」
「やっと、本気ってわけかい」
アルセーヌは、余裕を崩さない。ハッタリか、あるいは奥の手を隠しているのか。
異様な魔法陣を前にしても、アルセーヌは光の剣を出現させ、待ち構える。半径数十メートルの魔法陣。
そこから——獣毛に覆われた右前足が出現した。
「む……」 - 830◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:14:27
アルセーヌの纏う雰囲気が初めて困惑に変わった。
虫でも払うかのように、前足が動く。
アルセーヌは剣で切り裂こうとし——壁を破壊しながら吹き飛ぶ。
地獄の底から響く、獣じみた唸り声。
魔法陣は更に拡大し、玉座の間を呑み込み——遂には、魔法王の城の外側まで広がった。
「顕れよ、地獄の怪物よ」
パンデモニカが冷たく宣告し——城を内側から崩壊させながら、三頭の怪物が魔法国に顕現する。
パラサイトドールの竜形態、海上に現れたクトゥルフ。それよりも更に一回り大きい、あらゆる悪を封じ込める『地獄の番犬』。
悪魔の羽で空に飛びあがりながら、パンデモニカは崩落していく魔法王の城を見下ろす。 - 831◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:14:59
◇
「立派なお城だね……」
「なぁメリア、人間界にはこういうの無いのか?」
「あるけど、私は行ったことないかな……」
少女の肩に乗り、妖精は共に城を見上げる。
一庶民である妖精が妖精の王族が暮らす城に招かれるなど、本来は絶対に起きなかったはず。
奇妙な感慨に打たれる。
「二人ともどうしたんですか、早く入りましょう」
前を歩いていた少女が、屈託なく笑いかける。
■■■。 - 832◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:15:27
◇
(この記憶は……偽りなのか?)
パンデモニカは惑いながらも、崩落した城を見下ろす。
空をも震わせるケルベロスの声。
(……まぁいい。この戦いに勝てば、分かることさ)
アルセーヌは出力が低い。パンデモニカの推測が正しければ、彼女にこのサイズの魔獣をどうにかできるはずがない。
炎化などでやり過ごすことも考えられるが——ケルベロスの『特性』は、それを許さない。
「これで終わりかい、我が主。それとも」
瓦礫の山が、動く。
そして、空へと一つの影が舞い上がった。
背に、烏の羽を生やした魔法少女。仮面に罅が入り、装束を血で汚しながら、アルセーヌは未だに笑みを浮かべ続けていた。 - 833◆xaazwm17IRZa24/11/18(月) 23:16:13
投下を終了します
第二回放送は、後2、3話で終わりの予定です……! - 834二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:41:51
投下お疲れ様です!
- 835二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 07:48:19
やはり真正面からの戦闘は避けてる感じで読み合いになってるね、お互いに
魔法が魔法だから当然か - 836二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 10:28:25
ダイス緩めに取られてるとはいえニャルセーヌも危険水域ではあるから勝敗が読めない
- 837二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 21:34:15
保守
- 838二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:19:52
グレンデルはうしとらの紅煉みたいなもんで、ひたすら強いだけのクソカスなので大暴れした後に後腐れなく死んでもらえるのが便利ね
- 839◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:50:28
短いですが、投下します
- 840◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:50:56
アリアに操られた近衛騎士団は、一斉に剣を構え、オートクチュールへと突撃した。
アリアによって『処置』され、思考の十割、技能を三割削られたところで、彼女たちが精鋭中の精鋭であることは揺らがない。
身体能力、魔力量、魔法性能、どれも極上。剣も鎧も画一的なのは彼女たちが量産型だからではなく、個性を隠し、奇襲の成功率を上げるためである。
通常魔法少女は自らの個性を前面に押し出し、それぞれが唯一無二の恰好をするが、近衛騎士団は個性を隠し、我を消し、鍛え上げた固有魔法で持って敵を打倒する。魔法少女であると同時に魔法騎士。魔法を武器として活用するスペシャリスト。
今もなお、全員が同時に突進しながらも、各自が違う魔法を発動している。その操作はアリアがこなしているが、彼女もまた研究職であると同時に軍人でもあり、魔法少女歴も百年近い大ベテランだ。
オートクチュールの右方から迫る騎士は、『切れ味がどんどん上がるよ』という固有魔法を発動している。戦闘が長引けば長引く程、彼女の剣はどんな硬い者でも切れるようになる。
左方から迫る騎士は、『手に持った武器から雷が出るよ』を発動している。剣を使うと誤認させて、剣先から出る雷で先制攻撃を仕掛ける。 - 841◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:51:30
二人の騎士より、やや後方に居る二人の騎士。彼女らはそれぞれ『友達をハッピーにするよ』と『あいてをおそくするよ』を発動し、味方にバフ、敵にデバフをかけている。
他の騎士も、それぞれが戦況を優位に進める魔法を発動、あるいは、発動のタイミングを窺っている。
恐るべきはその操作を同時に行う、トート・アリアのマルチタスクか。
対して、オートクチュールはたった一人。中立であるがゆえに味方は居ない。数が多い方は勝つ、は人間だけでなく魔法少女にも適用される常識だ。
「あらあら」
オートクチュールは朗らかに笑った。殺到する騎士団を、園児に抱き着かれる保母さんのような表情で迎え入れる。
オートクチュールの手が、微かに動いた。
その手に持つのは、小さな針である。なるほど刺せば痛みはあるだろうが、これだけで相手を殺傷できる者など、人体のツボを熟知するブレイズドラゴンやハイエンドくらいである。 - 842◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:52:08
だが、その針には糸が通されている。オートクチュールが手を動かしたことで、糸も動き——糸に通されていた大小無数の裁ち鋏が動き始める。大きいものはオートクチュールの背より大きい巨大鋏であり、小さいものは産毛を切るための鋏より小さい。
オートクチュールが指揮者のように手を振るえば、それらの鋏群もまた滑らかに動き、縦横無尽に空間を飛び回った。
あらゆる変化が同時に起こった。
床が綺麗に刳り貫かれ、オートクチュールがふわりと飛び降りる。
近衛騎士団の剣が、根本から切断される。
近衛騎士団の鎧が、余計な傷がつくことなく、バラバラと転がる。
変身が解除され、生身を晒した少女たちが、頭をうたないよう配慮を感じさせる斃れ方で、静かにその場に崩れ落ちる。
アリアが全力でバックステップし、顔を苦渋で歪ませる。
「おのれ、吾輩のワイヤーを!」
近衛騎士団を操作していた極細のワイヤー、それらが全て断ち切られた。 - 843◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:52:38
それどころかアリアの後退が僅かに遅れていれば、お気に入りの武装親衛隊(SS)の将校服+白衣が裁たれていた。
「ふん、劣等のくせになかなかやる。吾輩が戦略・戦術・戦闘を揃えた優秀なアーリア人でなければ負けていたな、まぁ吾輩はアーリア人だから意味の無い仮定だが」
なるほど、中立という寝ぼけたことを唱えても滅ぼされない実力はある。と、アリアはオートクチュールの実力を認めた。自分を除けば、案外今生き残っている運営陣で一番強いのは彼女なのかもしれない。
「だが、勝ったのは吾輩だったな」
そう言って、アリアは刳り貫かれた床まで近づき、眼下の魔法少女を見下ろす。
オートクチュールは、蹲っている。顔を青白く変化させ、身体を苦痛で震わせている。
「——貴様は、魔法少女のコスチュームを作る。故に、あらゆる魔法少女に対して、絶対的な優位に立てる。何しろその魔法少女がどんな魔法をどのように使うのか、熟知しているからなぁ」
しかぁし、とアリアは腕を組み、胸を張る。 - 844◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:53:14
「それ以外にはとんと無知な田舎者よ! 吾輩は貴様の待つ最深部に行く前に——科学技術で製造した毒ガスを散布していたのだ!
ナチスの化学力は世界一ィィィィーーーー! 魔法少女でも感知できない、されど殺傷できる毒ガスを製造することなど造作も無いわぁ!」
さぁ、今度こそ我が軍門に下るか、オートクチュールよ?
トート・アリアは、オートクチュールに問いかけた。 - 845◆xaazwm17IRZa24/11/20(水) 00:54:37
投下を終了します……!
明日から遠出するので、次の投下は金曜日の深夜になると思います……! - 846二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 07:22:00
オートクチュールは魔法少女が相手なら強制変身解除と魔法知識でほぼ無敵みたいなものなんだろうけど相手が悪かったな
- 847二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 07:47:03
- 848二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 09:13:26
武器を生成できる魔法少女は強いって話やった後なのに、敵を切り刻めるワイヤーを無尽蔵に生成できるし自分の部下を幾らでも作って操れるってちょっと厄介すぎる
- 849二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 15:09:27
思った以上に今回の二人が強いというか運営陣は優勝確実ではないだけで普通に参加してても優勝候補にはなれたんだろうなって
- 850二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 16:48:30
操った魔法少女で物量作戦されるだけで参加者の大半が詰むのに自分でワイヤー振り回して戦った方が恐らく強いのがヤバい
- 851二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 21:31:31
・死亡した魔法少女は魔力の粒子になって消えるので生きたまま研究する必要がある
・第二次世界大戦中は実験場に事欠かないし、魔法少女になる前のアリアはアーネンエルベ所属にして武装親衛隊将校というナチスの超絶エリートなので使い放題
なのでまぁ…
タイマンイベントでパラさんの正体に気づいた上でやたら仲が良かったのもアリアの魔法少女化や研究に一枚噛んでる可能性が微粒子レベルで存在している…?
- 852二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 00:44:50
ナチスが魔法少女とサメとゾンビを研究してたのは有名な話
- 853二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 07:45:22
死んだら粒子になる程度で魔法少女の情報を隠す事は出来ないぞ(ナチスクォリティー)
- 854二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 16:28:48
他者を操れるって点ではパラさんと似ているが、解除されれば元通りなパラさんと違って物理的に脳味噌を弄ってるからもう二度と治らないのがある意味では段違いに悪辣ね