- 1※クリザリ要素有24/09/11(水) 00:47:07
「ふむふむ、なるほど〜。クリスエス先輩に贈り物を……」
うだるような酷暑が過ぎ、涼やかにも思える風が通りかかるようになった晩夏の午後の日のこと。トレーニングに一区切りつき、ひと息入れたグラスワンダーに声を掛けたのは、シーザリオであった。
「はい。スペさんに相談したところ、グラスさんが適任と言われまして」
話を聞き込んでいれば、空はすっかり目の前に毅然と立つ彼女のように薄紫に染まっている。
食堂でスペシャルウィークに世話を焼くシーザリオの姿は、同期の間でもすっかりお馴染みの景色となっていた。口元についたソースを拭ったり、お水を取ってきたり。先輩と後輩であるはずなのにまるで子どもを相手にする母のようだから、ちょっと奇妙で、なのに微笑ましい。
しかし友達思いの彼女は、おかずをひとつ差し出すときもある。スペシャルウィークのなかなか見ない一面に、初めは同期たちで目を見合わせて首を傾げていたものだ。
「スペちゃんの推薦ならなおさら。応えないわけにはいきませんね〜」
「あっ……!では……」
「もちろん、お引き受けしますとも♪」
それくらい、このふたりは互いに仲が良く、信頼し合っている。
友人が可愛がっている後輩なのだ。任されたならなおさら、引き下がるなどありえない話だった。 - 2二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:47:26
「それで、プレゼントにはどんなものを考えていますか?」
「ええっと……。なるべく、先輩の生活に支障のないものを」
「でしたら、消え物が良いでしょうか」
「そうですね。そして……」
ひとつ息を吸って、シーザリオは姿勢を正し、改めてしっかりとグラスを見つめる。
つられて、手にしていたボトルのフタをキュッと閉めていた。
「先輩は、単身日本にいらっしゃいました。来日からもう何年も経ったでしょうが、ここが異郷の地であることは変わりありません。
ですから、故郷の──アメリカのことを思い出し、少しでも心休めになるものを贈りたいのです」
きっぱりと語るシーザリオは、実に堂々としている。ここが彼女の最も重要な観点で、譲れない点であることは誰の目にも明らかだった。
そして、アメリカを思い出すような品を贈りたいのであれば。あの朗らかな戦友がグラスを頼るのも道理だろう。細かな場所まではわからないが、グラスもクリスエスと同じアメリカ生まれであるのだから。 - 3二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:47:51
「故郷を思い出すものといったら、やっぱり食べ物でしょうか〜。タイキ先輩はよくアメリカ式のバーベキューパーティを頻繁に開いていますし……。
……あっ。お菓子はどうでしょう。それなら、輸入品を扱うスーパーなどで手に入れやすそうです」
例としていくつかメジャーなお菓子の名前挙げ、それについて簡潔に説明してみる。熱心に聞き入るシーザリオは手帳にそれを書き写している。
彼女はメモをしばらく眺め、目を閉じて考え込むが、やがて首を横に振った。
「……ごめんなさい。とっても素敵な提案なんですが、先輩は身体に入れるものに気を配っていて。お菓子では先輩に負担をかけてしまうかもしれません……」
耳も眉をしょんぼりと垂れ下げて、シーザリオは謝罪する。
考え込んでいるうちに厳かな雰囲気はすっかりと抜け落ち、夜道をひとりで歩かされる幼い少女のように、不安で頼りなげな声色になっていた。
「あらまあ……。こちらこそ浅慮でしたね」
「私こそ、ダメそうなものも先に伝えるべきでした……。先輩は健康に人一倍気を遣っていますから、肌や髪の毛に触れるものを贈ってしまうのもちょっと怖くって……」 - 4二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:48:08
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- 5二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:48:20
話はいったん振り出しに戻る。
ならば、どうしようか。
食べ物や美容品ではない、故郷を思い出すようなもの……。
ほどよく疲れが残る身体と脳みそは良い考えを導き出してくれない。いの一番にお菓子を思いついたのはそのせいかもしれない、とグラスは心の中で苦笑する。
……焦らずのんびり落ち着いて。忙しくてもリラックス。大事なのは、平常心。
いつか、トレーナーに話したことをふと思い出した。
シーザリオにひと言断りを入れて、グラスは改めて持ち合わせていた水を飲む。喉に通った冷たさで、身体の内側、そして頭に籠る熱とモヤモヤがすうっと遠ざかっていく。
思考を切り替えんと、目の前の練習コース、一面に広がるターフの空気を大きく吸いこむ。
日本の夏は身体にまとわりつくような湿気と暑さが独特だ。今も、喉を通る熱気で息が詰まりそうになる。
それでも、芝の香りだけは故郷と変わらずそこにあって──
──本当に? - 6二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:48:45
「ひとつ、思いついたかもしれません」
頭の奥底で何かがぱちりと弾け、火花はどんどん輝きを増していく。
「本当ですか!?」
耳をピンと立てた満面の笑みに微笑み返し、思いつきを口にする。
うんうん、と前のめりにシーザリオは頷く。
しかし。そこからさらにひと言考えたことを付け加えてみると、白い頬はみるみるうちに真っ赤になってしまった。
「あ、あのっ。賛成なんですが、私、そこまでは考えていなくって……!」
手帳を扇いで真っ赤な顔に風を当てる様は、産な少女そのもので。愛らしい小さな花の姿に、ますます笑みが深まってしまう。
あわあわしているが、この反応なら彼女もきっとこの提案を受け入れた、ということだろう。
まあ、ちょっとしたからかいも程々に。適度なところで言葉を切り上げて、目的のものを売っているであろう雑貨屋の場所を検索するため、グラスはスマホの地図アプリを起動した。 - 7二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:49:15
***
シーザリオが無事クリスエスにお礼の贈り物をして、数週間後。トレーニングの面倒を見ていたウマ娘と話をして別れたあと、シーザリオのもとへクリスエスが駆け寄った。
「こんにちは、クリスエス先輩。何か御用でしょうか」
「……ああ。あのときのpresent──その礼を、告げに。
Thank you so much. ──良い、香りだった」
「アロマ、お気に召していただけたようで。光栄です」
グラスの助言を受けシーザリオが贈ったものは、アロマディフューザー。アメリカの草原の香りだというフレーバーは、きっと故郷を思い出し、懐かしむ手立てとなったことだろう。
謝意を受けシーザリオは頬を緩める。しかし、先ほどのウマ娘と併走もしていたからか、彼女の顔には赤らみが残っていた。
「……uh──その……」
クリスエスは途端にそっぽを向いて俯いた。褐色の肌は右往左往する切れ長の青い瞳を際立たせている。
「……先輩?他にも何か?それに、あまり顔色が良くないような……」
人一倍自身のコンディションに敏感なクリスエスに何かあったとき、困るのは彼女だ。一歩踏み出し下からその顔を覗き込んで近づこうとすると、クリスエスは大きく足を開き後退してしまう。
しかし、一歩、二歩でその攻防は終わる。クリスエスの咳払いを聞いて、シーザリオはハッとして立ち止まった。
「申し訳ありません。出過ぎだ真似を」
「──No problem. ……まだ、礼は終わってない」 - 8二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:49:31
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- 9二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:49:39
短く閉じられ、そして開かれたクリスエスの瞳は、今度こそシーザリオの姿をしっかりと捉えた。
「あのfragranceは──とても、懐かしく──まるで……祖国を思い出すよう、だった。But──」
「ばっと……?」
「同時に……お前の顔や声も、思い出すように、なった」
「……へっ?」
「もう、残りがなくなり──補充がしたい。──So……売っていた店を、教えてほしい、のだが……」
いや、違う。
そう呟き、首を横に振り、迷いを振り払ったクリスエスはさらに言葉を続ける。
「──次の休日……私を、その店へ連れていって、ほしい。その……お前と……共に、店へ行きたい」 - 10二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:50:06
「えっ……?あ、そ、それはもちろん、構わないですが……」
「……? ──浮かない顔、だが……」
おぼつかない様子を心配して、クリスエスはシーザリオの額に手を伸ばそうとした。
夕闇だって見えるというのに、混乱でいっぱいの顔がバレバレなのはちょっとだけ憎らしい。
「ご、ごめんなさい、失礼します……!!」
その大きな手を振り払い、シーザリオはタオルや水筒を回収して一目散に立ち去ってしまった。
ああ、どうしよう。まさかグラスさんの言った通りになるなんて!
頼れる先輩の、おとなしいように見えて意外にお茶目なご友人の言葉が、ぐるぐると反芻して止まらない。
正直なところ、自分のことをも思い出す、と言われたあたりで、続く言葉なんて耳に入っていなかった。
茹だった頭を冷やすためにシャワーを浴びよう。いや、もうひと走りするべきか?
親愛なる先輩からの爆撃のようなアプローチに、シーザリオはもう、冷静ではいられなかった。 - 11二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:50:31
──香りって、結構印象に残りやすいと思うんです。もしシーザリオさんがアロマを贈って、クリスエス先輩に使ってもらえたとしたら……。
もしかすると、先輩はその度にあなたのことを思い浮かべるかもしれませんね〜?
……『雨垂れ石を穿つ』、です♪ - 12二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:51:22
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- 13二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:51:49
おしまい
持てる限りの石を使ってガチャしましたがシーザリオが出ませんでした。
なのでこれからのガチャのために、書けば出るを信じてSSを書きました。突貫ですのでガバがあると思います。
クリスエス推しだしもう少しガッツリとクリザリを書きたかったですが、データが足りないのでひとまず自分の推しと絡めました。エミュしやすいし
オンモードの呼称など間違いがありましたら申し訳ありません。確認不足です。
あと、日本とアメリカの芝の香りが異なるのかはわかりません。また、芝や草原を思い起こすような香りの芳香剤があるかもわからないです。そこは知らないまま設定を生やしています。申し訳ありません。 - 14二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:52:22
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- 15二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:53:06
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- 16二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:55:23
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- 17二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:56:16
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- 18二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:58:00
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- 19二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:59:44
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- 20二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 01:00:26
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- 21二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 01:01:28
ザリオちゃん他の子に助力を頼む奥ゆかしさというか照れというか
それにちょっとした揶揄いを混ぜるグラスともう全肯定クリスとか
このキャラこうしてこう動くなーって特徴掴んでていいね…どうなんだろうねこっちとあっちの芝のにおい - 22二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 01:03:28
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- 23二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 01:29:22
- 24二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 02:17:04
おつおつでした~!
食べ物が無理なら何にするのかな、と思ってたら匂いとは。確かに故郷の匂いはプレゼントにはぴったりかもです。
個人的にはグラスの最後の言葉が脳内再生余裕で好きです。『雨垂れ石を穿つ』っていうチョイスも。
お次も書く機会がありましたら頑張ってください~ - 25二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 09:42:06
感想ありがとうございます
ほんわかした雰囲気からいきなりぶっ込んでくるグラスらしさを気に入っていただけて嬉しいです
自分もグラスのそういうところが好きなので……
お褒めの言葉を胸にこれからも励んでいきます
- 26二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 17:33:36
ザリオさんの健気さといたずらグラスさん良いね。
違ってたら申し訳ないけど、ひょっとして過去にクリスエスとグラスのSS書いてた? - 27二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 23:58:14
- 282624/09/12(木) 01:05:55
- 29二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 12:01:02
- 30二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 12:14:31
素敵な作品をありがとうございます、シーザリオと出会えますように~(念念念)
芝のアロマ、現実にはないかもだけど、ウマ娘の世界なら熱狂的なレースファンとか現役退いて久しいウマ娘がなつかしんでてか、需要有りそうだし存在してるでしょう - 31二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 12:30:18
平日の憂鬱な昼間に良いものを見て元気が出た
感謝
クリザリとグラスいいな… - 32二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 13:43:08