- 1二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:15:47
「……♪」
「……♪」
「……あ。ごめん先生。休憩がてら音楽聴いてて聞こえなかった」
「Bluetooth繋いでいいの?」
「うん、わかった」
「いや、いいよ。イヤホンで聴くのと、空気を通した音って、別物として聴けるし」
「聴かれて恥ずかしがるタイプでもないしね」
「大丈夫。つながった」
「……激しい曲ばかり聴いているわけじゃないって言わなかったっけ」
「確かに好みではあるけど、他のジャンルがキライってわけじゃない」
「せっかくだから私のプレイリスト、片っ端から流してみる?」
「手は空いてなくても耳は空いてるでしょ。どうせなら、楽しく仕事しようよ」
「ふふ、任せて」
「ちなみにいま流してるジャンルはラグタイム・ブルース。これはスコット・ジョプリンだね」
「リズミカルでアップテンポ。陽だまりのカフェにいるみたいで、仕事も捗るはずだよ、きっと」 - 2二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:20:27
いい趣味してるな……
- 3二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:24:44
「……」
「……」
「……」
「ん、これ?」
「カーラ・ボノフって人だよ。曲名はThe water is wideだね」
「古くからある曲らしくて、いろんな人が歌ってるけど」
「私もこの人のやつが一番すき」
「眠れない夜に良く聴くんだ。ずっとリピートして」
「『愛は宝石のように始まり、朝露みたいに褪せていく』なんて、ちょっと悲しい唄だよね」
「もともとはとあるお姫さまのことを歌った歌らしいけど」
「恋愛って、きっといつまでもキラキラしているものじゃないんだなって」
「――私?」
「ないない、ないって。そんなの、先生が一番よくわかってるんじゃないの」
「……そうだね」
「褪せても宝石である限り、磨けばまた輝くはず」
「あは。そんな人がいたら、きっとこの上なく幸せだろうね」
「うん。とっても、幸せなんだろうな」 - 4二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:36:56
このレスは削除されています
- 5二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:37:55
「や、先生。お疲れさま」
「私は中古のCDを買ってきたところ」
「まあ、スマホに移したらすぐにまた売っちゃうんだけどね。置き場所ないし」
「今日買ったのはBrian the SunっていうバンドのNON SUGERっていうアルバム」
「なんと100円」
「サブスクで聴いて一目ぼれしちゃった。ちゃんとCDから音とりたいなって」
「まだインディーズ時代のアルバムでさ」
「曲名とか歌詞がかわいくて。スイーツの名前。キャラメルパンケーキとか、メロンパンシンドロームとか、はちみつとか」
「でも歌詞は、ちょっと後ろ向き」
「だからアルバムのタイトルが『NON SUGAR』なのかなって。おもしろいよね」
「やっぱさ、バンドが成功するのって難しいから」
「……先生。それは絶対ない」
「わたしはプレイヤーじゃなくてリスナー」
「リスナーであることに誇りすら感じてるほどの、ね」
「今?」
「この人たちはもう解散してるよ」
「いや、メジャーデビューもしたし、ちゃんと売れたよ」
「……さあ、なんでかは知らないけど」
「でも、メジャーに入ってからは前向きな歌が多くなったのは確かかな」
「それが良いことか悪いことかは、本人のみぞ知るってね」
「なにごとも『NON SUGAR』なことがあるってことなのかも」
- 6二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:44:48
「先生、ちょっとごめん。ラウドネスな曲かけるね」
「そう。ロック。シャウト。グランジ。Nirvana。スメルス」
「音量もちょっとだけ上げて……体の芯が響くぐらい」
「うるさかったらごめん」
「……」
「あー。溶ける……」
「この脳みそがとろけるようなリフと、全部ぶっ壊したくなる衝動的な歌詞がたまんないよね」
「ああ、ちょっと昔のこと思い出しちゃってさ」
「音楽が好きになったのって、結局あの頃に耳を塞ぎたくなったのが原因だしね」
「……いまはだめ。自分のことをしゃべるのは、ちょっと恥ずかしい」
「あ”ー……」
「わたしさ、人のテーマソングとか考えるの、ちょっとだけ自信あるんだけど」
「この曲。NirvanaのSmells like teen spiritsってさ、ハルカに似合うと思わない?」
「そうそう、ちょっとじめじめしてて病んでる感じもさ」
「『私を楽しませてくださいー』ってショットガンぶっぱなすハルカとかカッコいいと思うんだけどな」
「……いやいや、さすがに自分の頭吹っ飛ばせとは言わないって」
「わたしのテーマソング?」
「なんだろね。考えたこともないや」
「先生に考えてもらおっかな」
「Heart Shaped Boxでもいいよ? 先生」 - 7二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:55:46
「……ふう」
「名曲だよね、Tears in Heaven」
「うん。やっぱりすごい。聴き飽きるほど聴いたはずなのに。あと一回、もう一回って、何回でも聴きたくなる」
「聴くたびに切なくて、温かくて……。世界に認められた名曲って言うのは、やっぱりすごい」
「ギターもすごければ歌詞もすごい。声も渋くて……なんだろね、こんな奇跡みたいな歌が生まれるって」
「やっぱり痛みこそが名作の条件、なのかな」
「わかってるよ、こんなこと言っちゃいけないって」
「でも、きっとね」
「この歌に救われた人ってすごく多いと思う」
「卵か先か、鶏が先か。なんて問答があるけど」
「この歌が生まれなかったら――エリック・クラプトンの子供があんな亡くなり方をしなければ、きっとこの曲は生まれなかった」
「こんなことを聴くたびに考えるんだ」
「この曲を良い曲と思ってしまうのは、優しい人間なんかじゃないんだって」
「だって、死の上に立っている歌だから……。」
「ほんと、痛みから生まれる創作っていうのは……」
「破滅的で、素敵」 - 8二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:04:56
「あれ、先生」
「こんないい天気なのに忙しそうだね」
「うん。便利屋の仕事がひと段落したから、ちょっとのんびりしてたところ」
「先生もちょっとリラックスしたら? コーヒー。まだ飲んでないから、あげるよ」
「いいって。ほら、ここ座る?」
「こういう日は『さよならポニーテール』が似合うよ。イヤホン片方貸してあげる」
「……ね、かわいいよね」
「このグループはちょっと黄昏でノスタルジックで、夕暮れぐらいが一番合うんだけど」
「ポップさ全開の曲は、陽差しを浴びてキラキラした街並みにも合うんだ」
「そうだね。私みたいな学生にはとくに」
「ま、可愛いワンピースをはためかせて、オシャレなサンダル履いて、スキップしちゃうような女の子にはなれないけどさ」
「気分だけでもね」
「――むりむり。似合わないのわかってるでしょ。この顔だよ」
「立てば職質、座れば職質。歩く姿は犯罪者、ってね」
「いや、だから似合わな――」
「やだって。先生。い・や・だ」
「うぅ……」
「じゃ、じゃあ、今度シャーレに行くとき、気分が乗ったら……」
「絶対じゃないから」
「気分次第だから!」 - 9二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:12:07
(まずい…滅茶苦茶いい雰囲気で超好きだけど…オシャレすぎて何も口を挟めない)
- 10二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:17:15
「――あ、ごめん。歌入りの方がよかった?」
「なんか細かい作業してそうだったから、集中できるようになるべく人の声が入ってないアルバムをチョイスしたんだけど」
「今かけてるのは映画のサウンドトラック。『タクシードライバー』って知らない?」
「まあ、昔の映画だしね。先生も生まれる前」
「……まあ、古い映画や古い歌『も』好きってだけ。『も』だから」
「この映画はうちの社長も好きでさ」
「一時期雨が降るたびに窓際で『雨はいい。路上のゴミを洗い流してくれる』なんて呟いたりしてたっけ」
「どんな映画、かぁ。一言で説明するのは難しいかも」
「時代を考えれば反戦映画というか、まあ、戦争に行って不眠症になっちゃった人が狂っていく、ってお話なんだけど」
「今の時代に見ると、何もできないワナビ―な人が、何をしてもうまくいかなくて、結局自己満足の世界に沈む……みたいな?」
「うまく説明できないから見てみてよ。損はさせないから」
「それとも、今からレンタルしてくるから、仕事が終わったら一緒に見る?」
「一緒に映画を見て、語れる人がいれば……それだけで人生は素晴らしいものだって。まあこれも、違う映画のセリフなんだけど」
「ん、わかった。じゃ、お店が閉まらないうちに借りて来るね」 - 11二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:17:40
音楽を知る切っ掛けにもなるしSSとしても高クオリティ……すげぇ
- 12二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:19:23
- 13二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:31:00
「やあ、先生」
「ずいぶん疲れてるね。今日も一日お疲れさま」
「私? 私も今から帰るところ」
「……まあ、ちょっと遠回りしたくて」
「ちがうちがう」
「ただ、こうして夜の街を歩きながら聴くのにぴったりのアーティストがいてさ。アルバム聴きながら歩いていたら、ついこんなところまで」
「ああ、『SAPPY』ってバンドだよ」
「かわいいボーカルのポップスバンドなんだけど、ちょっとシューゲイザー味もあって。頭の中で響かせながら聴くと夜の街が……見慣れた景色がさ、ちょっときれいに見えたりして」
「ムリヤリ前を向こうとしてる歌がさ、好きなんだ」
「ふふ、心配しないで。便利屋として、毎日楽しんでるよ」
「でもこうして一人で、音に沈みこむ時間も、大好きなだけ」
「じゃあ今度音源を」
「ばか、だいじょうぶだって。もうすぐそこだから」
「先生の方が危ないんじゃない? 送って行ってあげようか?」
「はいはい。余計なお世話でした」
「ありがと。先生も気を付けてね。おやすみ」 - 14二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:43:42
「けぷっ……」
「わっ! 先生、なんでこんなところに」
「も、もしかして今の聞いてた?」
「いや、町中華屋さんに行ったら、思いのほか盛りが良くて」
「うぅ……」
「はぁ。私は腹ごなしにちょっと歩くから。じゃあね。今のは忘れること」
「……」
「なんでついてくるの」
「はぁ。わかったわかった。じゃあ、はい。片方貸してあげる」
「いつもはこんなにガッツリは食べないんだけど。この曲聴いてたら、今日の晩御飯は絶対に町中華屋さんに行かなくちゃって」
「中川イサトって人の黄昏の来々軒って曲だよ。アコースティックギターのインストゥルメンタル」
「ふふ、でしょ」
「空が暗くなり始めて、街灯が点いて……」
「看板の灯りがちょっと目立つぐらいの、こういう黄昏時にさ、ぴったりなんだ」
「この人の行きつけのお店なんだって。来々軒。ライナーノーツに書いてあった」
「……さあ、どこにあるのかは、聞いたことのない土地だったからわからないや」
「面白いんだよ」
「このお店でラーメンを頼んではいけない。美味しくないからって書いてあって」
「おすすめはラードでカラッと揚げたカツカレーなんだって」
「今日行ったお店?」
「……なかったから、野菜炒め定食食べて来た」
「はぁ。もし、カツカレーが置いてある町中華屋さん見つけたら教えてね」
「時間あったら、ご相伴に預からせてもらうから。ね、先生」
ちなみに書き溜めはもうない。 - 15二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:50:13
いくつか聞いてみたけどどれもいい曲だな…タクシードライバーのサウンドトラックが気に入りました…ありがとう
- 16二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:56:03
「……」
「……」
「……」
「え? ああ、うんそう、フォークソングってやつ」
「実はメタルと同じぐらい好きだよ。意外?」
「フォークっていろんなジャンルがあるけど、ものによってはメタルと同じぐらい攻撃的だし、繊細なんだよね」
「あはは、そうだね。レッドウィンターの人たちが好きなやつ」
「実はそっちの方の人に教えてもらったんだ」
「うん。そうだよね。ぜんぜん攻撃的じゃない。どちらかと言えば、田舎の人がちょっと自虐的に生活を歌ってる何気ない歌、って感じ」
「しかもこの人はね、自分で音源をリリースしてないんだ」
「これは、このひとの歌が好きな人が、いろんな音源をかき集めて、自費出版したもの」
「売れなかったと言うか、まあその通りなんだけど」
「――飛び降りちゃって、ね」
「だからってわけじゃないんだけど」
「田舎に生まれたことを自虐のように歌うのが、なんだか叫んでるように聞こえるんだ」
「悲しいのか、苦しいのか、どういう気持ちなのかわからないんだけど」
「叫んで、血を流しているように聞こえる」
「おかしいよね」
「でもこの曲……」
「『お前まだ春らかや 人はへぇ秋らてがんに』」
「お前はまだ春なのか、人はもう秋なのにってさ」
「劣等感に苛まれていたんじゃないかな。必死に叫んでいたんじゃないかなって、ね」
「だから私はフォークソングが、メタルと同じぐらい好きで、聴いているんだよ」 - 17二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:58:33
- 18二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 21:16:53
「先生って〇麻とか、吸ったことあるの?」
「ごめん。違う、怒らないで」
「そうじゃなくて、こないだレゲエを聴いててさ、そのアーティストが普通に吸ってたから」
「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかった」
「えっと、この曲。Josh HeinrichsとSkillinJahって人たちのコラボ曲かな。Ganjaっていう曲で……」
「あ、そうなんだ」
「知らなかった。大〇ってガンジャって言うんだ」
「まぁ、音楽が好きだからさ。あんまり麻薬やってる人とかには偏見がないけど」
「だから私がやるって話じゃないって。落ち着いて先生」
「調べたんだけど、レゲエと大 麻って切っても切り離せない関係というか……」
「そう。いい曲なんだよ」
「もっといいのもあるよ。こっちの、同じJoshさんのThese Daysって曲なんだけど、もっとアコースティックで……」
「……」
「わかった。気を付ける」
「ともかく、私は先生に嫌われたくないから、そういうことはやらないって」
「約束するって。はい、指切った」
「そんなことしたらウチの社長たちにも顔向けできないし」
「じゃ、仕事の続きしよ。ほら、席に戻った戻った」
「……まあ、心配してくれてありがと、先生」
- 19二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 21:40:08
「~♪」
「……あ、先生。いい天気だね」
「この川沿いの道、気持ちいいよね。私も好きだよ」
「――あ、こないだのお返し? いいのに。まあ、貰えるものはありがたくもらうけどさ」
「今日はブリティッシュ・トラッド。トリニティの文化って言えば、先生もわかりやすいかな」
「私は別に嫌いじゃないよ。ただ、自分を嫌う人たちを好きになる必要はないって思ってるだけ」
「音楽は私を嫌わないから好き。本当に、それだけのことでしかないと私は思う」
「はい、イヤホンどうぞ」
「The Waltz that Carried me to my Grave。『私をお墓に運んだワルツ』かな」
「The HooliganBandってネットで調べてもロクな情報は出てこないから、このコンピレーションアルバムにしか入っていないんじゃないかな。貴重な音楽聴けて良かったね? 先生」
「……まあ、暗いよね。タイトルは。でも、曲はどう?」
「踊りたくなる。わかる。なんせワルツだから」
「でもさ、自分のお葬式でこの曲が流れたら素敵だなって思うんだ」
「こういう明るい曲で、楽し気なのに、みんなは泣いてくれるの」
「泣きながらパレードみたいにさ、送り出してもらえたら、それはきっと素晴らしいお葬式なんじゃないかって」
「最初こそは、外の世界から自分を守るために音楽を聴き始めたんだけど」
「今はそうじゃない。ちょっと説明が難しいんだけど――」
「『自分が死んだとき、旅立つ前に流して欲しい曲を探してる』。うん。この言い方がしっくりくる」
「……暗い女だって思った?」
「自分のテーマソングって話を前にしたよね」
「きっと、それに似たようなことなんだと思う」
「ふふ……。もちろん、何年も何十年も先の話だよ」
「先生」
「先生は、どうやって送られたい?」
「絶対にその通りにしてみせるよ」 - 20二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 22:08:35
「前にNirvanaを一緒に聴いたの憶えてる?」
「あのバンドのボーカルってさ、ショットガンで頭を撃ったんだ」
「その時に、遺書……なのかはわからないけど」
「”ゆっくり消えてゆくよりも燃え尽きてしまった方がいい”って書いてあったんだって」
「うん。そう」
「今流れてる曲のこと」
「ニール・ヤングのHey Hey My My。フォークであり、ロックでもある人」
「すごいよね……。どれだけ音楽に真摯に向き合っていたら、こんな言葉が書けるんだろう」
「人の死の前にリフレインされる言葉を生み出せたなら、私はその時首をくくってもいいとすら思う」
「いやいや実際にはくくらないって。そんな言葉、わたしには書けないし」
「カート・コベイン……Nirvanaのボーカルがさ、病んでいたのは確かだけど」
「でもね、とある番組では『老後はブルースでものんびり歌いたい』って言ってたんだ」
「同じようにショットガンで頭を撃った、って言ったら、老人と海のヘミングウェイもそうだけど」
「あんなに必死に生きようと、強くあろうとした作品を作った人たちが、やっぱり耐えられなくなる気持ちって言うのは」
「理解しがたい。少なくとも、わたしにはわからない」
「まあ、コベインは最初から破滅的ではあったんだけどね」
「――え?」
「……ああ、そっか」
「そうだね」
「私は、一人じゃないから」
「ふふ。便利屋のみんなも、先生も」
「そっか。そりゃ、わからないや」
「ありがと、先生」 - 21二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 22:08:52
きゅーけー
- 22二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 23:33:16
「この曲」
「こないだ、事務所でかけてたんだ。ほんとに、何の気なしに、アルバム垂れ流し状態で」
「で、この曲になったとき、ハルカがピクリとも動かなくなっちゃって」
「コンポ――中古ショップで買った安物なんだけど、そう、コンポの方をじっと見つめてね」
「EaglesのDesperado。ならず者って歌」
「私が『気に入ったの?』って聞いたら、ぽろぽろ泣き始めちゃって」
「いやあ、みんな大慌て。社長は立ち上がった拍子に腰打って一人で悶絶してるし、ムツキも珍しくあわあわしててさ。慰めようとするんだけど、ほら、あの子そういうの苦手だから」
「わたしもCD切った方がいいのかどうしようかわたわたしちゃって」
「『どうする、どうしたらいい!?』って。あはは、思い返すとおもしろいや」
「で、曲が終わるとさ、ハルカが言うんだ」
「『私はとっても幸せです』って」
「もう一回聞かせて欲しいっていうから、私の数少ないコレクションだったけど、あげたら、すっごく嬉しそうに、そりゃもうぼろぼろ泣くの」
「……私のことを歌っているみたいです、って」
「一人きりの世界に閉じこもるのは心地が良いけど、傷つけたりもする」
「喜びや落胆を感じる心も失うなんて変なこと、みたいな歌詞だから」
「ほら、ハルカって昔……だったでしょ」
「そういうことが沁みたのかなって思ったんだけど、違うらしくて。いや、それがきっかけではあったのは間違いないっぽいけど」
「若いころには戻れない、っていう詩が、すごく沁みたんだって」
「今が幸せで、昔とは違う。あの頃にはもう戻らない、っていう」
「いや、わたしもそういう捉え方があるのかって、目から鱗だったよ」
「最後はね」
「人から愛されるようになりなよ。手遅れになる前に」
「……って締められるんだ」
「うん。手遅れなんかじゃない」
「わたしたちみんな、ハルカが大好きだから」
「――うん」
「歌って、すごいんだよ」 - 23二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 23:54:18
「~♪」
「あ、ごめん。鼻歌しちゃった」
「アリスの遠くで汽笛を聞きながら、だね。ポップス・フォークの中でもかなり好きな方かも」
「私はこの曲で、言葉の、詩の面白さを知ったと言っても過言じゃない」
「ふふ」
「はじめは勘違いでさ、曲名を間違えて読んじゃって」
「『遠く”で”汽笛を聞きながら』を『遠く”に”汽笛を聞きながら』ってさ」
「でもさ、面白いよね」
「遠く『で』ってなると、あくまで自主的にその場所に立っているように聞こえて」
「遠く『に』ってなると、受動的に聞こえるの」
「まるで羨んでいるように」
「行きたい、けれど行けない」
「でも歌詞を良く聴くと、自分でその場所に留まることを選択してるから、正しく『遠く”で”』なんだなあって」
「現国が得意な人なら、ちゃんと説明できるんだろうけど」
「私、成績あんまりよくないから」
「……なに、意外?」
「そりゃ、聞いたり読んだりはするけど、なんていうかな……」
「感じてるだけだから理屈はわかんない、みたいな」
「はいはい。どうせ言い訳ですよ」
「じゃあ今度、みっちりマンツーマンで教えてもらおうかな」
「高校生の勉強ぐらい楽勝だよね? せ・ん・せ」 - 24二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 00:11:01
「なに、先生」
「この曲が?」
「はぁ。ムツキと同じこと言ってる」
「ちなみに社長も好きだよ、この曲。社長はこっちの大槻ケンヂの方じゃなくて、休みの国が歌ってる原曲の方が好みらしいけど」
「悪魔巣取金愚ね。悪魔だから私たちって、短絡的じゃない?」
「やだよ、死ぬためだけに歩くなんて」
「ちなみにムツキは『風の吹く野原に立って死体の数を数えている』ってとこが好きで」
「社長は『世界の果ての時計台から 腕を組んで笑ってる』シチュエーションが好きみたい」
「世界の果ての時計台ってどこだよって思うけど」
「……まあ、悪魔冥利に尽きると言うか」
「気持ちはわからないでもないけど」
「うーん……」
「やりたいかやりたくないかで言われれば、うん。ちょっとやってみたいかもね」
「社長とムツキは似合いそう」
「は?」
「へぇ。先生、私のこと、そんな目で見てたんだ」
「先生を見下ろしながら笑ってあげようか? そんなにお望みならさ」
「じょーだん。ちょっと、物欲しそうな顔しないでよ、ヘンタイみたいだよ」 - 25二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 00:30:45
「よし、集中しよう、先生」
「作業用といえばLo-Fi、Lo-Fiといえば作業用」
「nujabesのLuv(sic)でいいよね」
「トラックだけの音源は……どっちだっけ。Disc2の方だ」
「Lo-Fi?」
「Lo-FiはHi-Fiの逆、低音質。わざと傷の入ったLPレコードみたいな音を入れたり、曇らせたり」
「nujabesはこういうLo-Fiミュージックの生みの親と言っても良くてさ、アニメのBGMに使われて、世界中に文化が拡散したんだ」
「JAZZ HIP HOPとも言われるかも。きちんとした名称は定まってないジャンルじゃないかな」
「拍がしっかりついてるから、耳から抜けるわけじゃなく」
「メロディアスだけど単調だから聞き流しもできる」
「私みたいなジャンキーにはもってこいの作業用音楽だよ」
「この仕事は今日中に終わらせなきゃなんないんでしょ?」
「いいよ。便利屋の方はそれなりに余裕あるし」
「そんな死にそうな顔で『”なんとかするから大丈夫だよ”』なんて言われても、こっちが恐縮しちゃうって」
「……しつこい。やるったらやる、終わらせるったら終わらせる」
「その代わり仮眠室使わせてね。体力全部使いきる勢いでやるから」
「――じゃ、ちょっと本気を出しますか」 - 26二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 00:32:40
今日はおわりー。
ハーメルンとぴくしぶあたりに、適当にまとめておきます。
よき音楽ライフを。
ではまた~。 - 27二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 08:24:12
聞いてみたけど良い曲だった
- 28二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 12:26:00
わお、落ちたかと思ってた。
ありがとーありがとー。
今日も書くよー。多分0時近くなっちゃうと思うけど……。 - 29二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 22:58:13
保守
- 30二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:23:58
Smells like teen spiritsやTears in Heavenは、聞いたことがあったのでちょっと嬉しかったよ
brian the sun聞いてみようかな。「heroes」でいい歌詞書くなぁ、とは思ってたので・・・ - 31二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 23:30:02
大槻ケンヂ版の悪魔巣取金愚はあれか
HELLSINGで使われてたやつか - 32二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 00:18:03
「今日もお疲れさま、先生」
「ん、いいよ、そのままで。コーヒー、新しいの淹れるね。もう冷めちゃってそうだし」
「じゃあ今日も一緒に、音と詩と歴史に沈んでみる?」 - 33二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 00:21:44
- 34二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 00:26:31
「や、先生。大丈夫? まだまだ暑いよね」
「わたしは『お茶の時間』」
「こないだ、黄昏の来々軒って一緒に聞いたの憶えてる? あの人。中川イサト」
「ふふ、アルバムの名前がお茶の時間っていうの」
「こういう暑い日に聴きたくなるんだよね」
「はい、イヤホンどうぞ」
「……うん、これはインストだけじゃなくて、歌もあるんだ」
「オススメはこれかな。『その気になれば』」
「その気になれば海に行くことができるけど、不精なのか、なにか理由があるのか」
「夏の終わりの海に行くことを想像する詩」
「先生、今年は海に行った?」
「私は行けなかった」
「だからこうして想像してるってわけ」
「電車に乗って、窓の向こうにきらめく海原が見えて」
「降りたはいいけど、べつに目的があって行ったわけじゃないから、水着なんて持ってきてない」
「だから海辺のお店で、天辺にある太陽の光が届かない、ちょっと薄暗い客席で」
「いちご味のかき氷をたべる」
「古臭いお店でさ、風鈴の音が雑に鳴ってて」
「遠くに子どもたちがはしゃいでる姿を、頬杖つきながら眺めて……」
「そんな、ありえたかもしれない夏の一日を」
「え」
「いやいや、さすがに今からは無理だよ、先生」
「……その気になれば、か」
「じゃあ、予約しようかな」
「うん。もうちょっと季節が過ぎて、夏が秋に変わりそうな、そう。夏の終わりの海に」
「連れてってくれるよね。先生」 - 35二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 00:44:27
「……ふぅ。こっち終わったよ、先生」
「ん、ああ、そうだね。ちょっと珍しいかも」
「これも映画のサントラなんだ。スイス・アーミー・マンっていう映画でさ」
「これこそ一言で説明できないかも」
「奇々怪々、おばか映画かと思いきや、ってやつ」
「ハルカなんかボロボロ泣いてたよ。社長はポカーンとして、ムツキは爆笑してた」
「私?」
「……おならで海を渡る映画で泣けるなんてさ、ズルいよね」
「このサントラの曲さ、映画の音楽っぽくないでしょ」
「誰かの鼻歌がずーっと続いてる」
「でも、この映画を作った人のこだわりで」
「映画の主人公たちは音楽の作り方を知らないけれど、もし曲を作るとしたら、こんな感じになるだろうって」
「素人が作曲したらってことだね。たしかに、鼻歌ならだれでもできるし」
「エンディングの歌も、決して上手なわけじゃない。素朴で、か細くて……」
「ともすれば消えてなくなっちゃいそうな歌」
「このサントラの中に、一曲だけ既存の楽曲が入ってるんだ」
「えっと……これ。例によって鼻歌だけど、わかる?」
「思い出せそう?」
「正解。ジュラシックパークのテーマ」
「この映画を観て、なんでジュラシックパークなんだろうって思ったよ。セリフでも使われていてさ」
「――ほんと、すごく緻密に組み立てられた映画だなって」
「ふふ、わかったわかった」
「私に回せる仕事があれば、どんどん回してくれてかまわないよ」
「早く終わらせて、一緒に観よう」 - 36二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 00:58:48
「んっ……はぁ」
「ふぅ」
「あー……日付変わっちゃったけど、朝までは寝られるんでしょ?」
「よかった。それじゃ、私もそろそろお暇させてもらうね」
「……ああ、その手もあるか。じゃ、そうしよっかな」
「いいの? 先生が先にシャワー浴びたほうがいいんじゃない。クマ、すごいよ?」
「――ありがと。じゃ、お言葉に甘えさせてもらうね」
「じゃあ、さっさと入ってきちゃうけど……、せっかくならコーヒー淹れてあげる」
「一杯飲み終わるころには戻れるから、ちょうどいいよ。きっと」
「コーヒーに合う曲も流そうか」
「Mississippi john hurtのTODAY!」
「コーヒーをすすりながら聴くにはもってこいの、デルタ・ブルースでさ」
「この人のギター・プレイはいろんな人に影響を……って、それはまた今度でいいね」
「もし眠くなったら、寝ててもいいよ」
「心配しないで。ちゃんと起こしてあげる。さっぱりして眠ったほうが、気持ちいいから」 - 37二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 01:14:08
「事務所で?」
「そうだね、基本的に私が勝手に好きな曲流してるって感じ」
「……興味がないっていうか、どうせ私が流すからいいだろうって思ってるんじゃない?」
「ムツキとかたまに、動画サイトで好きなMV観てるし」
「うーん、それは難しいよね」
「私はね、別におススメだから聴いて欲しいっていう感覚はなくてさ」
「人から押し付けられた曲ってなんだか好きになれなくて。だから同じことはしない」
「でも自分で見つけた好きな曲って、痺れるぐらい衝撃を受けるでしょ」
「こなんだのDesperado……、ハルカみたいに」
「だからわたしは、勝手に流してるだけってスタンスを崩したくない」
「それに私自身、好きな曲を好きな人と聴くのが好きなだけって節もあるから」
「あはは。ひねくれてる、根暗だ、とは自分でもわかってるって」
「きっかけになれればそれに越したことはないよ」
「音楽って、人を救う最高の道具だから」
「自分を助ける道具は自分で選ぶのが一番なんだよ」 - 38二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 01:41:21
「あれ、珍しい。便利屋に用事?」
「ああ、社長にね。お疲れさま」
「うん。私はちょっと買い物」
「ちょっと探してるCDがあったんだけど、見つからなくてさ」
「サブスクで見つけた曲なんだけど」
「cali≠gariの君が咲く山って歌で……聴いてみる?」
「どうぞ」
「……ふふ。すごいよね」
「こんなに不気味な鼓笛隊がいたら、ゲヘナもちょっとは箔がつくんじゃないかな」
「もうずいぶんと歴史のあるヴィジュアル系バンドで、これは結構初期の方」
「このがなるような歌声でこの歌詞だもん。インパクトすごいよね」
「ポップで、ダークで、グロくて、セクシーで、カオス」
「残念ながらこの曲を最後に、そのボーカルは失踪しちゃったから二度とナマでは聴けないんだけどね」
「ん?」
「いや、ソロで活動してるみたい。生きてるよ」
「あはは、確かに。ムツキもきっと好きだね」
「……でも、死体を埋めた場所に立つと心が安らぐっていう話は、とある犯罪者と同じ思想だって問題になったとかなんとか」
「そんな気分を音で表現すると、もしかしたらこんな感じなのかもね」 - 39二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 02:17:32
「~♪」
「……~♪」
「え?」
「嫌いじゃないよ。こういう演歌っぽいのも」
「人を恋うる歌。もともとの詩があって、それに曲を付けた歌ってぐらいしか知らないけどね」
「この歌のさ、『人を罵り世をいかる はげしき歌を秘めよかし』って言葉について、すごく感銘を受けたんだよね」
「『おのづからなる天地を 恋うる情けは洩らすとも』――自然を愛する言葉も持ちつつも」
「『人を罵り世をいかる はげしき歌を秘めよかし』――人を罵ったり、世界の不平不満を思う歌も、言葉も秘めなさい」
「そういう気持ちを持ってはいけない、というわけじゃなくてさ」
「秘めよかしって結んでいるのが、とても攻撃的で、優しくて」
「こういう人になりたいって、強く思ったんだよ」
「穏健か、過激か。どちらかに偏るわけじゃない」
「どちらにも造詣の深い人間にさ」
「だってそのほうが、大事なものを守りたいとき、選択肢が増えるでしょ?」
「まあ、こういう顔だから」
「普通の顔してても『人を罵り世をいか』ってるように見えちゃってるってのは、あるんだけど」
「……はいはい。先生は大人」
「いろんな言葉や感情を『秘めよかし』しなくちゃだからね」
「ふふ。でもありがとう、先生」 - 40二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 02:35:02
「えっと、買うものは……」
「先生、銘柄は違うけど、値段、こっちの方が安いからこっちに……」
「あ」
「お店の曲。グリーングリーン、だね」
「先生もさすがに知ってるか」
「へぇ、ちっちゃいころに、ね」
「ああ、いろんな解釈があるよね」
「個人的には死んじゃったっていうより、旅に出たって思ってるけどね」
「これ、原曲があってさ」
「うん。The New Christy Minstrelsっていうグループ。とっても古い人たち」
「ミンストレルス・ショーっていう、黒人に扮した白人のショーがあったんだって。そこからとったグループ名らしいよ」
「原曲の歌がまさにそんな感じ。ブルースを歌う黒人みたいな、ガラガラ声でがなるように歌ってる」
「で、この原曲って歌詞が、先生が知ってる童謡とぜんぜん違うんだよね」
「『噂に聞く、緑が生い茂る土地に俺は旅立つ』っていう、放浪者の歌」
「だから、原曲合わせで旅に出た、って」
「先生が知ってる訳をした人には子供がいてさ」
「今自分が居なくなったら、この子はどう思うんだろうって考えながら書いたらしくて」
「あはは。そう。原曲をちゃんと訳したわけじゃないんだよ」
「子供、そうだね」
「私もまだ子供だけど」
「大人になりつつある子供」
「先生はいつまで私を、子供だと思ってくれるんだろうね」
- 41二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 02:37:12
おお、良スレ発見
- 42二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 03:08:37
「はぁ。ただいま」
「ふふ、おかえり先生。いや、職場だもんね。おかえりはおかし――いやいや、家みたいに思っちゃダメだって」
「荷物はそこ置いといていいよ。私が整理するからさ」
「……」
「お。やっぱりこれもわかるんだ」
「Puff the Magic Dragon。単純にパフって言われたりもするかもね」
「さっきグリーングリーン聞いたら、この時代の音楽聴きたくなっちゃって」
「リコーダーでやったんだ? じゃあ、歌詞はあんまり知らなかったりする?」
「もったいないよ、先生。この歌、ほんと良い物語なんだから」
「――昔々、ホナリーという国に、パフと言う永遠の命を持つ竜がいました」
「パフにはジャッキーペイパーという人間の友だちがいて」
「ジャッキーペイパーはいろんなおもちゃを見せてあげたり、船で一緒に海に出て遊んだりして、とても仲が良い友だちでした」
「ホナリー国の王様やお姫様もパフたちにお辞儀をする間柄。時には海賊船に向って叫んで驚かせたりなんかもしたりして」
「楽しい毎日を送っています」
「……ある日突然、ジャッキーペイパーはパフに会いに来なくなりました」
「外に出る勇気が無くなってしまったパフは、かつてジャッキーペイパーと遊んだ洞窟から、出て来れなくなりました」
「ちゃんちゃんっていうね」
「これもグリーングリーンと一緒で、いろんな解釈が生まれたんだ」
「ジャッキーペイパーは戦争に行った。大人になっておもちゃといっしょにパフを捨てた。作詞した人が麻薬に溺れてた幻想、なんていうひどいのもあったね」
「先生はどう思う?」
「……」
「初めて聞いた解釈かも。なるほど」
「結婚して、子供を作って……子供と一緒に、パフに会いに行く」
「永遠の命を持つ竜と、永遠に友だちでいるために、ちょっと準備をしてた」
「――いいね。先生のそういう優しい考え方、好きだよ」
「ふふ。なるほどね。うん、すごく好きな解釈」
「……先生?」
「ちょっとだけ、隣に座ってよ」
「なんだか、誰かにそばにいてほしい気分なんだ」 - 43二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 03:28:55
「……」
「あ、先生。今日もお出かけ?」
「風が涼しくて気持ちがいい日だね。天気も、ちょうどいい感じ」
「あっ。……勝手にイヤホン抜かれるとびっくりするって」
「言ってくれれば片方貸すって」
「ん……。そう、今日はロック。オルタナ」
「いい歌じゃない? ヘルシンキ・ラムダ・クラブっていう人たちの、ロックンロール・プランクスターって歌」
「あはは。わたしもわかんないで聴いてるからおあいこだね」
「歌詞をね、書いている人がちゃんと文学を勉強したひとでさ、独特で面白いんだけど、リズミカルで心地よくて」
「クリスチャン・ルブタンの赤い魔法なんて、どんな頭してたら出てくるんだろうね」
「わかる?」
「まあ、基本レディースだから。わかんなくてもしょうがないよ。どんまい、先生」
「こんなに能天気ではっちゃけてる詩なのに、ときどきぐっとくるような言葉の選び方するんだ」
「死ぬまで生きたら褒めてよ、とかさ」
「こんなに退廃的な言葉をさ、能天気に歌われたら」
「――こういう生き方もいいなあって思っちゃうよね」
「俺は自由なゴミ。ふふ。あー、おかし」
「やっぱロックは好きだな。この、一方的にアーティストの生きざまをぶつけられる感じがさ」
「この人たちの歌を聴きながら水辺で風に当たるのがマイブームって言ってもいいかも」
「私が大人になったら、煙草でもふかしながら聴きたいな」
「……先生に言われても、これは私の夢だから」
「体に合わなかったらすぐに止めるよ。それに、ちゃんと成人してからだからね」
「でも音楽ジャンキーな私が煙草なんて始めたら、きっとやめられなくなるんだろうな」
「破滅的な生活に音楽だけがあるって、想像するだけでも最高だもの」 - 44二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 03:33:33
- 45二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 14:00:05
保守
- 46二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 17:41:25
保守ありがとうございます!
今日も遅い時間になりますが、ちらほら書きます〜。
カヨコかわいいよ - 47二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 00:14:18
- 48二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 00:14:46
保守ありがとうございました!
今夜もぽちぽち、書いていきます。 - 49二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 00:20:09
「……ん、マイナー?」
「はぁ」
「あのさ、先生。マイナーだからかっこいいとか、そういう気持ちで聴いてなんかないよ」
「先生だってそうでしょ? 例えば、この領収書に書いてあるプラモデルは、わたしからしたらワケわからないけど」
「ああもう、わかってるってば。黙っておくから泣かない」
「こんな風に、先生や私にとってはフツーのものでも、違う道を歩く人からしたら、見たことのない、知らない景色ってだけ」
「それをマイナーだとか、メジャーだとか、人と違うのが好きなんだね、とか。そんなの趣味のない人のひがみなんじゃ――」
「う。ごめん、先生。ここまで言うつもりはなかった」
「……」
「それなら余計ごめん。こういう話題は、ちょっと過敏になっちゃって」
「うん……。私は特に考えて聴いているわけじゃないんだ」
「もったいないな、って思うだけ」
「この世界には膨大に音楽があって」
「その分、誰にも届かないまま、消えちゃうようなものもある」
「かつて多くの人を魅了して救ったのに。時の流れに押し流されてしまうようなものだって」
「陽だまりを歩くときとか、夜の街に腰掛けているときとか」
「時代も場所も乖離した私の状況や気分に合う曲を見つけられたとき」
「世界の色が変わる……」
「魔法にかけられた気分になる」
「知らなかった曲で、そういう、世界の変化を体験してみるとね、先生」
「もうやめられないよ?」
「メジャーだとか、マイナーだとか。そんなのは些細なことだって」
「……だから、何回も言うけど。私はプレイヤーじゃなくて、リスナー」
「与えられたものを享受して、自分の部屋を飾り付けてる」
「ただのリスナーがいいんだ」
「――もしかしたら」
「いつか私の部屋に訪れてくれた人に『素敵な部屋だね』って言って欲しいだけ、なのかもね」 - 50二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 00:32:57
「や、先生。今日の当番は私だよ」
「……あれ」
「どうしたの、このプレーヤー」
「あはは、大丈夫? ユウカに怒られたりしない?」
「じゃあ、しっかり成果出していかないとね」
「もう使ったの?」
「そ、そう言ってくれるのは、まあ、うれしい」
「ありがと先生」
「でも先生が買ったんだし、せっかくだから一枚目は、先生が好きなやつかけなよ。レコード盤は私が探してあげるから」
「……ずいぶん渋いの選ぶね。Nitty Gritty Dirt Bandの方じゃなくて?」
「わかった。今日のお昼休み、行きつけのレコード屋さんまで行ってみる。一時間多くもらうけど、その分、作業スピード上げるから任せて」
「にしてもJerry Jeff Walker版のMr.Bojangleなんて、どこで知ったんだか」
「確かに原曲だけど、NGDB版の方がはるかに有名じゃない?」
「そう、だっけ」
「いつも垂れ流し状態だからさ、あんまり……」
「でも、そっか。へぇ」
「私のプレイリストから、ねえ」
「ふふ」
「こういう気分、なんていうんだろうね」
「ちょっとゾクゾクしちゃうかも」
「これからも、好きな曲があったら教えてね、先生」
「レコードで聴けるなんて私もうれしいからさ」
「じゃ、午前中の分、ちゃちゃっと終わらせよ」
「午後の楽しみのためにもね」 - 51二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 01:04:26
「ふあ……」
「あ、ごめんね。先生の方が疲れてるだろうに」
「あー。うん。昨日ちょっと、便利屋の方で夜更かし案件があって」
「今はちょっと、ラウドな曲聴く気分じゃないかも」
「民族音楽、いいね。うん、入ってるよ。フォルクローレっていう、とある山脈の民族音楽」
「アントニオ・パントーハ。ケーナっていう楽器の名手だね。どうせなら、風とケーナのロマンスを聴こうよ」
「……」
「ああ」
「ふわぁ……」
「ケーナってさ、こういう縦笛なんだけど」
「楽器に物語があってね」
「その昔、とある王国のお姫様と、お城を守る兵士が恋仲になってね」
「だけど兵士はある日、お姫様の居るお城からは遠く離れた場所に異動させられてしまう」
「お姫様は嘆き悲しんで、亡くなってしまって」
「兵士は何年も経ってようやく帰ってこれたんだけど、そこで初めて、お姫様の死を知るんだ」
「うん、悲恋の物語」
「お姫様のお墓を訪ねると、骨が風を受けて、寂しそうな音を立てていてね」
「兵士はその骨を笛のように加工して、叶わなかったお姫様との恋を思いながら、弔いの歌を吹いた……」
「そのお姫様の名前が、ケーナ姫っていうんだ」
「楽器一つにこんな物語があるって、なんかロマンチックで素敵」
「――ふわあぁ」
「こんな曲を聴きながらのんびりお昼寝出来たら、きっと気持ちいいと思うよ、ねえ。先生?」 - 52二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 01:37:47
「や、先生。いいレコード見つけたから持ってき――」
「こんちわっす! ……その角」
「なに?」
「いーえ。なんでも。あたし、正義実現委員会のイチカっていうものっす。今日はシャーレの手伝いに来てるだけっすよ」
「だからなに? ごめんね先生、ちょっと出直す。荷物だけ置いていくから先に聴いてて。じゃ、またね」
「あ、ちょ、別にそういうつもりじゃ――いっちゃった」
「いやあ、申し訳ないっすね。やっぱりまだちょっと……」
「ん、ああ、あの子が置いてった荷物。レコードって、今時奇異なもん使うんですね。ゲヘナの流行かなんかっすか?」
「ああ、あの子の趣味。なるほど」
「ちょっと、勝手にかけちゃっていいんすか?」
「ふうん。ずいぶんと仲がよろしいようで」
「……」
「ん?」
「なんか素朴と言うか。ギターの曲? 意外、かもしれないっす」
「ゲヘナの人って、もっとこう、野蛮で粗野で卑猥な歌聴いているイメージが……」
「というか、この曲」
「先生、ちょっと教えて欲しいんすけど」
「この曲名、もしかしてThe Earl of Salisbury――ソールズベリー伯爵って曲だったりします?」
「やっぱり」
「これ、シスターフッドの教会でたまに演奏されるんすよ。教会ではオルガンで、ですけど」
「なんでゲヘナっ子がシスターフッドの……トリニティの曲を」
「……」
「そう、なんすか」
「そんなことを、あの子が」
「……」
「先生、演奏されている人は誰ですか?」
「あ、ありがとうございます。見させてもらいますね。――John Renborn」
「え……このレコードに入ってる曲」
「ほとんど、うちで演奏される曲っす」
「……なんかほんと、自分がガキっぽくて嫌になるっすね」 - 53二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 02:02:02
「……こんばんわ」
「いない、よね」
「お昼はごめんね、先生」
「まあ、前にも言ったでしょ。私を嫌う人を好きになる必要はないってさ」
「あのまま私が居ても、あんまり良い空気にはならなかっただろうし」
「別に気にしてないって。トリニティの、しかも正義実現委員会なんだから、ああいう反応されるのは当たり前」
「それよりレコードどうだった?」
「ジョン・レンボーン。まさかあんな偶然あるとは思わなかったけどさ」
「うん、そう。トリニティの文化の曲を、ギターで演奏する人なんだ」
「夜に聞いても良し、昼にのんびり紅茶を飲みながら沈むもよし」
「秋のさ、葉が落ち始めた街路樹を眺めながら、カフェで聴きたくなるような一枚だったでしょ」
「……え?」
「あの人にも聴かせたんだ」
「ふーん……」
「ま、そうだろうね。あっちの教会で流れるような曲も入ってるって言うのは、もちろん知ってるよ」
「……」
「へぇ。そんなこと言ってたんだ」
「ま、何回も言うけど、私は私のことを嫌う人を好きにならないってだけで」
「別にトリニティの人そのものが嫌いなわけじゃないから」
「あっちが歩み寄るのなら、もしかしたらそういう未来も、あるんじゃない?」
「それにしても」
「野蛮で粗野で下品な歌聴いているイメージ、ね」
「そこは言う必要なかったかもよ、先生」
「ふふ、失言だったね」
「じゃあ、その野蛮で粗野で下品な歌、流してあげよっか」
「曲名はきれいだよ。ロマンチストっていうんだ」
「歌ってる人?」
「――ザ・スターリン」 - 54二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 02:21:04
The Earl of Salisbury
聞いてみら懐かしい感じがした
この曲を教えてくれたスレ主に心より感謝申し上げます - 55二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 02:40:54
- 56二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 02:57:19
このレスは削除されています
- 57二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 03:33:29
このレスは削除されています
- 58二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 03:36:43
間違えた
- 59二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 03:37:23
「この間さ」
「あ、ごめん。いいよ、聞き流してくれて」
「この間、事務所でみんなと駄弁っているときに『初めて買ったCDってなんだった?』って話になったんだ」
「これ、ムツキが初めて自分で買ったCDの曲なんだって」
「なんか、らしいよね」
「女の子が好きそうな、かわいいけどちょっと大人っぽい、切ない曲」
「Home。Gabrielle Aplinって人の歌」
「なんかうらやましくてさ」
「私が初めて買ったCDなんて、当時流行ってたアニメの曲だよ」
「いつのまにかこんなジャンキーになっちゃったけど、やっぱり初めてのものってみんな憶えてるもんなんだね」
「ああみえてムツキ、時々見せる顔がさ、すっごくオトナなんだよね」
「なんていうのかな」
「子供であることをちゃんと理解してる子供っていうの?」
「わたしみたいにひねくれてなくて」
「ちゃんと年相応な女の子の遊びをして、流行を知って」
「無理にオトナになろうとしてない、けどそういう考え方はもう、オトナなんだ」
「ちょっと置いてかれた気がする」
「年下なのにね」
「……そりゃ、先生から見たらそうだろうね」
「同年代から見たら、ぜんぜん違うんだ」
「はぁ」
「うらやましいよ」 - 60二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 03:38:36
「そういえばさ、あの人ってあれ以降来た?」
「ほら、トリニティの、正義実現委員会の……イチカ、だっけ」
「そっか。来ていないんだ」
「ん、いや。そういうわけじゃないけど」
「ゲヘナもそうだけどさ」
「――差別について考えてて」
「昔さ、ひどい差別を受けていた黒人の文化って、やっぱり痛みが強い分、力がすごくて」
「わたしもいろいろ助けられたり、考えさせられたりしてるんだ」
「ニーナ・シモンっていう女性のアーティストの歌でね」
「品がないし、教養もない、友だちもいないし、服もない。お金もなければ家もない」
「故郷もない、仕事もない。兄弟も、父も、母もいない」
「何もない。何のために生きてるの?」
「そういう歌があるんだ」
「でもね、先生。歌はこう続く」
「生きている」
「髪がある、頭がある、脳みそだって」
「目もある、鼻もある、口もあるから微笑むことだってできる」
「首もあるし、ふふ。おっぱいもある、心もある」
「頭痛だってするし、気分が落ち込むときもある」
「だから、あなたと同じ……」
「だから私は生きてるんだって」
「きっとさ、ゲヘナとかトリニティとか、どうでもいいはずなんだよね」
「だって、音楽を聴いていいなって思う心は、トリニティにもあるはずでしょ?」
「遊びに行ったり、お店で美味しいものを食べたりもする」
「友だちと洋服も買いに行くし、いくらお金持ちだからって、時には買いたいものをあきらめたりもするんじゃない?」
「ゲヘナだから、トリニティだからって、そんなのどうでもいいと思う」
「ま、わたしはもうゲヘナにはほとんど関わっていないグループの一員だから」
「そういうのをぶっ壊すのも、アウトローだよね」
「……今度あの人が来たら、うん」
「ちょっとお話してみようかな」 - 61二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 04:00:46
「……ふふっ」
「ああ、いや、なんかくすぐったくなっちゃった」
「お昼を過ぎて、まどろみたくなる時間にさ」
「こう、コーヒーポットの水音がして、ぱちぱちとキーボードを打つ音と、紙をめくる音」
「そこにこういう、ダウナーでフォーキーな曲が流れると『いい時間だなあ』って」
「ちょっと休憩しようよ、先生。コーヒー淹れるから」
「この曲?」
「Akeboshiの廃墟のソファ、って歌」
「物語調なんだよね」
「ファンタジー染みてるんだけど、たぶん、何気ない町のワンシーンだと思う」
「ずー……っと同じメロディが続く曲って、音楽の中に引きずり込まれる感覚がして、私は好きだね」
「はいどうぞ。ちょっと薄いかも」
「ずずっ」
「やっぱり薄い」
「どう? 今日は早く終われそう?」
「ああ……。美食研究会の連中かぁ」
「どうする? 現地には私が行こうか。一応、顔は効くし。言葉は通じないけど」
「あはは。わかった。じゃあ書類仕事はこっちに全部回してよ」
「ヒナたちに任せてもいいと思うけどね。さすがに拷問とかはしないよ」
「……多分」
「ヒナも大概だけど、アコの方がちょっと、情緒がね」
「まあ、こうして一杯のコーヒーを飲む間ぐらい、ちゃんとリラックスしようよ、先生」
「やらなきゃいけないことばかりが人生じゃないはずだからさ」 - 62二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 04:22:22
- 63二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 08:15:44
- 64二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 12:38:26
- 65二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 13:50:37
- 66二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:01:46
- 67二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:02:26
あと、今回ちょっと書き方変えてみました。
読みづらかったら教えてください。 - 68二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:02:54
このレスは削除されています
- 69二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:06:00
コンコン
フリフリ
――――
――
―
ごめんね。挨拶したかっただけだったんだんだけど。
もうご飯たべた? まだなら、よかったら一緒に食べようよ。
ここのハンバーガ屋さんは良く来るんだよ。味もそうだし、内装がオールディーズな感じで好きでさ。
路面側のガラス張のカウンター席から外を眺めてPillowsを聴いてるとね、
なんか違う国に行った気になって。
聴く? いいよ。はい、イヤホン。
ふふ。だよね。ジャンクフードを食べながら聴きたくなるんだよ。
ああ、そうそう、わかってるね。先生。
ヘルシンキ・ラムダ・クラブもこういう時、たまに聴くよ。
この曲?
パトリシア。
つい足でリズム取りたくなっちゃう。
この歌詞の女の子がすっごくかわいくてさ、
天然っぽいのに小悪魔らしくもあって。
目線は男の人だけど、この女の子しか見えてないのがわかって面白くって。
あ、ごめん。注文してきなよ、先生。
――おススメ?
わたし、これしか食べたことないから。
やだよ。そんなべたべたなカップルみたいなこと。
じゃあ、先生は違うの頼んで。ひとくちくれれば、それでいいよ。
わたしのも少し残しておくから。 - 70二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:16:07
ん……
ああこれ? ムツキに借りたんだよ。ミスミソウっていう漫画。
映画になっててさ、私はそっちを先に観たんだけど、
漫画持ってるっていうから、貸してもらったんだ。
……いや、一人で観たよ。いじめが主題だから、ほら、ハルカにはあんまり見せたくないし。
ふふ。よくわかったね。今流してるのは、映画の主題歌。タテタカコの道程。
プロモーションなのかわからないけど、映画ではアルバムそのものがカットに映ってるんだ。
いい映画、だったよ。
特に、いじめっ子全員虐殺していくところとかね。
あはは。心温まるハートフルストーリーなんかじゃないね。
でもすごく前向きな映画だった。
ラストシーンで、ビビっトな赤と白の色彩を映しながらゆっくりとカメラが引いて行くんだけど、
そのバックにこのピアノが始まったら、鳥肌がね。
感動ってさ、いろいろ解釈があると思うけど。
泣かせられるばかりが感動ではない、と思うんだ。
泣けばいいの? 興奮すればいいの?
ジーンとすればいいの? ほっこりすればいいの?
そんな感情たちがないまぜになって、呆然としちゃう。
わたしは、それが本当の感動なんじゃないかなって。
ミスミソウは……、そうだね。
そういう作品だった、かな。
いいよ。まだレンタルショップ開いてる時間だし。
でもハルカの前ではあんまり口に出さないでよ。
こうして『いい映画だった』なんて言えるのは、 そういうことを経験していない、部外者の楽観的な目線なんだから。 - 71二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:20:01
- 72二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:27:39
……
……
わっ。
音楽聴いてたからぜんぜん気付かなかった。
ここ結構、繁華街からは離れてるんだけど。こっちの方にも来ることあるんだね。お疲れさまだね。
この歩道橋、夕焼けがきれいに見えるんだ。
大通りがちょうど、沈む方向に伸びててね。ヘッドライトを点けたり、点けなかったりする車がそれなりに通って。
ふふ。私のお気に入りスポットの一つ。
邪魔なんかじゃないよ。
映画館もさ、周りの雑音も一緒に楽しむ派だから。
……いいけど。
オジサン臭い歌だよ。どーぞ。
真心ブラザーズ。有名なのは知ってたけど、なかなか食指が伸びなくて。
でも、こないだ『さよならポニーテール』の……、そうそう、前に聴いてもらったグループの。
あの人たちの新作を買ったらね、ライナーノーツにこの曲の――流れ星のことがちょっと載っててさ。
これを機会に聴いてみたんだ。
あはは。それは、私がここにいることで察してほしいかもね。
こういう歌ってさ、ただひたすらノスタルジックに沈ませられて、ちょっと苦手だったんだ。
わたしにはまだ、沈めるだけの過去は持ってないんだよね。せいぜい足首がちょっと浸るぐらい。
経験っていう水量が圧倒的に足りてない。
でも、聴くとやっぱり引き込まれちゃって。
見えない水が、わたしの喉元まで上がってきて、息苦しくなる。
せめてこうして夕日を眺めながら聴いてると、息継ぎがしやすいっていうか。
わたしにとって夕日は、前進の象徴みたいなものでさ。
こういう曲は無意識に避けて来たけど。
これからはちゃんと聴いてみようかな。
……ちょっと、なんで涙ぐんでるの?
いやいや、まだオジサンなんて年じゃないでしょ。
――まさか、こういう経験あるの? - 73二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 00:48:19
先生はさ、カバー曲って嫌い?
アルが――社長が「そんなの邪道よ!」なんて言って、ちょっと口喧嘩になっちゃってさ。
カバーって、個人的にはアリ。というか、歌の生存戦略っていうか、
文化の当たり前のことじゃん? って思うんだよ。
この曲はOasisのStand By Meって言うんだけど……ちょっとまってね
うん。いい曲なのは当然。オルタナ・ロックの金字塔だし。
脳みそをかき回されるような、ゆったりしてるくせにがちゃがちゃしたメロディアスなサウンドはもう、
聴けばわかるぐらい特徴的だよね。
あったあった。
で、この曲なんだけど。
――やっぱり知ってるか。
BEN・E・KINGのStand By Me。
で、本当に聞いて欲しいのはこっち。
BEN・E・KINGのStand By Meのカバー。この曲は、曲自体が有名だから、それこそたくさんのカバーがあるけど……
これ歌ってるの誰だかわかる?
ジョンレノンだよ。
知ってるよね。もう、人物とか、アーティストとか、そんなの飛び越しちゃって、
アイコンになってる人。
話を戻すけど。
OasisのStand By Meって、このジョンレノンのカバーにインスパイアされて作られた、って話があるんだ。
ぜんぜん違うけど、ジョンのカバーがなければ作られなかった歌。
違う時代に、同じ根っこをもった、同じタイトルの曲が作られる。
これってさStand By Meっていう曲が、世代を超えて生まれ変わったってとれない?。
カバーってさ、そういうことじゃないのかな。
――わかってるって。喧嘩をするほどのことではないって。
そういう意見の食い違いも含めて、文化。
はぁ。
帰りにアルの好きなものでも買って、ご機嫌でもとろうかな。 - 74二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 01:17:57
……前にも言ったかもしれないけど。
私ってさ、人に曲をおススメして、押し付けるのって好きじゃなくて。
落ち込んでる人に「これを聴いて元気出して」とか。
それってさ、道具になりえたかもしれない歌を消してしまうことになるんじゃないかって。
かといって「頑張れ」とか「負けないでとか」。そういう無責任な言葉を言うのも憚られるし。
でも私ってほら、音楽ジャンキーでしょ。
いざ、ね。
いざそういう、落ち込んだ人がいたときに、どうすればいいかわかんなくて。
……。
という落ち込み方を、私が、していたわけでさ。
ふふ。大丈夫。みんな元気だよ。
それでね、まあとにかくその答えが出たんだ。
――何もしない。
何もしないでそばにいてあげることが、私にできる最善なんだってね。
できれば、落ち込んでる人の頬に手をあててあげられれば、一番だね。
うん。こういう落ち込み方にも答えをくれるのが、歌なんだ。
これ、おおきな災害があったときに作られた歌なんだって。
なぎら健壱の証って歌なんだけど。
この人さ、生粋のフォーク・シンガーで。
決してステージの上からの目線では歌を歌わない。
みんなと同じフラットな場所に立って、歌を歌うんだ。
おちゃらけた歌もいっぱいあるけどね。
この歌の中にさ、書かれていたんだ。
「頑張れよ。泣き出すな。くじけるな。あきらめるな。そんなことは知っている」ってね。
そういう歌や言葉をぶつけられた人たちの目線……だよね。
すごいでしょ。こんなこと、ステージの上で歌う人が言うんだから。
泣きそうになっちゃったよ。
わたしは、不器用だから。
そばにいて、余計なことはしないで、背中をさすってあげるぐらいしか、できないんだ。 - 75二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 01:44:23
コンコン
失礼するわ――あら。
げ。ヒナ……。
久しぶりね。鬼方カヨコ。元気してた?
おかげさまで。言っとくけど、私はおとなしく先生の手伝いをしているだけだから。
わかっているわ。シャーレ内では私も、あなたたち便利屋68と揉める気はない。
でもアコには気をつけることね。
アコも来てるの?
来てないわ。ゲヘナでお留守番よ。
はぁあ。良かった。感情的になられると、こっちの言葉通じなくなるからさ。苦手なんだよね。
あくまで「今日は」ってだけだからということを言いたいだけ。
わかったわかった。ああ、先生に用なら、夕方ぐらいに出直して。連邦生徒会に呼び出されて、しばらく帰ってこないから。
あら、そうなの。
……。
出直して、って私は言ったと思うけど。
ここで待ってたらなにか不都合?
そういうわけじゃ――はぁ。わかった。コーヒーでいい?
おかまいなく。それより鬼方カヨコ。最近ずいぶんとシャーレに入り浸っているようじゃない。
なんでそんなこと……アコだね。ほんともう、面倒だな。
ちょっとまった。それをわかってるってことは。
便利屋68の事務所もバレてるんじゃないかって?
っ!
銃を下ろしなさい。言ったでしょう? シャーレではあなたたちと揉める気はない。
しょっちゅう嫌がらせしてくるくせに信じろって方が無理でしょ。
心配しなくても、アコは知らないわ。
ヒナは知ってる、ってこと?
さあ。それより、コーヒーはまだ?
……おかまいなくって言ったくせに。 - 76二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 02:14:55
はい。淹れたてじゃないからおいしくないよ。
それがコーヒーであるならなんでも。そんなにいい舌をもってるわけじゃないし。
……。
……。
気まずいとか思わないの?
なぜ?
私は気まずいから。
ふふ……。同級生との邂逅に気まずいだなんて。意外と繊細なのね。
いちいち嫌な言い方しないでよ。はぁ。じゃあ、私は仕事の続きするから、適当に時間潰してて。
言われなくてもそうさせてもらうわ。
……はぁ。
……
……
Prrrrr
うわっ。
……?
なぜ、スピーカーからあなたの着信が聞こえるの?
Bluetoothきり忘れてただけだよ。えーっと……、先生だ。ちょっと電話出るね。
繋いだまま?
切るに決まってるでしょ。――もしもし。お疲れ。仕事の方は大丈夫だけど、今ヒナが来てて……、ああ、とりあえずは。何か用があるみたいだけど? うん。あー、ちょっとまってて。
ヒナ、先生が代わってって。
――もしもし、先生。お疲れさま。平気よ、気にしないで。うん。帰りは何時ごろになりそう? ……そう。わかった。直接話したい案件だけど、急ぎってわけじゃないから。日を改めさせてもらうわね。じゃあ電話を戻す……。あら、そう。わかった。じゃあ、またね、先生。
なんだって?
なにかやらかしてしまったみたいね。日付変わる前に帰れるかわからなくなったって。今やってる書類仕事が終わったら、あなたも帰って大丈夫だって伝えてと言っていたわ。
……どんまいだね。
というわけで、わたしも帰るわね。コーヒーごちそうさま。
はいはい、ヒナもお疲れ。じゃあね。 - 77二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 02:15:11
コツコツ
ガチャ
そういえば、Bluetoothに繋いでたってことは、流れてた曲は、あなたの趣味?
は? ああ、まあ、そうだけど。仕事中は自由にしていいって言われてるから。
――GASTUNKなんて、いい趣味してるじゃない。
バタン
……。
意外。 - 78二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 02:44:38
……あれ、先生。
ここに居るの初めて見たかも。なにか探し物?
ああ、ボブ・ディランか。しかもフリー・ホイーリン。高いでしょ。やっぱり、需要があるのはしょうがないよね。
そりゃ、帯が付いてるだとか、傷がないとか。そういう完品は値段が張っちゃうけど、
たとえば、こっちとか。
うん。それ。まあその傷だと、針が飛ぶかもね。
でも値段見てよ。半分以下でしょ。
ふふ。男の人って感じ。コレクターになったら身が持たないよ、先生?
確かに、ちゃんと音楽を聴きたいとか、音質にこだわる人が多い世界だけど、
私はこういう、針が飛んじゃったり、傷だらけでカビだらけのジャケットも好きなんだ。
なんていうのかな。
前の持ち主から受け継いだ、って感覚かも。
傷が多いってことは、それだけ盤を出しっぱなしにした、聞き込んだってことでしょ?
そういうのもひっくるめて、前の時代から私が受け継いだって思えて、好きなんだ。
どうせ曲自体はサブスクでいくらでも聴ける時代だし、
知らない曲だったとしても、行間を読むじゃないけどさ、なんとなく想像できるし。
それに最悪、応急処置的なこともできるしね。
歴史を楽しむか、音を楽しむか。
どうする? 先生。
- 79二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 03:19:36
ん、先生……。
夜更けにこんなところでどうしたの。って、それはわたしも一緒か。
ああ、山川経の方まで行ってたんだ。おかえり?
私は、なんだか眠れなくて。
心配してくれるんだ。ありがとう。
でも平気だよ。この辺の連中には、それなりに顔が利くからさ。
こういう夜はさ、青葉市子が聴きたくなるんだ。
たまたま動画投稿サイトで聴いて、すごくいい曲だなって。
調べてみたら、この音源はインターネット上でしか配信されてないんだ。
ライブ版とかはあるけど、このレコーディング音源は、物質としては手に入れられない。
はは。そうだね。私たち世代からしたら、当然のことだけど。
やっぱりジャンキーな人間としては、ちょっとこう、手持無沙汰になるというか。
聴く?
ん、どうぞ。
……静かな曲でしょ。
アンディ―ヴと眠って、って言うんだって。
すごいナチュラリズムな音楽で、なんにもない草原で、星を見上げながら聞いたら最高だろうなとも思うけど。
こういう、遠くにネオンがちょっと見えてさ、排水がアスファルトにしみ込んだ路地裏で、
なにも見えない夜空を見上げながら聴くのも、なかなかいいと思わない?
うん、音質悪いね。
もともと、こういう曲なんだ。レコードみたいにというか、アナログチックというか。
流行り、ってほどでもないけど、近ごろはこういうのも多いよ。
文明が育てば育つほど、ついていけない人だって出てくる。
後ろを見るのも、悪いことばかりじゃない。
でも、これは後ろを見つつも、前に進んだテクノロジーの中で発表された曲。
こういう夜は、そんなゆがんだ歌が聴きたくなるんだ。
- 80二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 03:22:30
- 81二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 08:20:10
- 82二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 08:25:24
- 83二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 08:41:46
「……あ、やあ先生」
「そうだね、イヤホン越しでも先生の出す音分かるようになってきたかも」
「えっ、今聴いてたやつ?……うーん」
「いや、聴かれたくない訳じゃないんだけど人を選ぶから……」
「……わかった。確かに聴いてから考えるべきだね」
「どう?Christian FenneszのLiminality」
「出だしのギターがすごく落ち着くんだ」
「スローペースで一歩一歩踏みしめるような、何かを確かめるように弦が弾かれて、徐々にパーカッションが入り込んで騒がしくなり始める……」
「フレーズの締めはいっそ耳障りな程に騒々しくって……」
「耳に居着いた残響が、鉄弦の鳴り止んだ後の虚しさや物悲しさを引き立てる……」
「……あっという間の10分間だったけど、先生は退屈しなかった?」
「そっか、ならいいんだ」 - 84二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 11:34:44
- 85二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 11:36:57
- 86二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 11:39:38
Christian Fennesz / Liminality
寝起きにサイコーだ。プログレなのかサイケなのか……。
冬寄りの秋の朝に聴こう……。 - 87二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 11:57:40
- 88二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 12:30:22
バンドイベント……そんなものが。
レッドウィンターも党歌系、労働歌系は得意だろうし
山川経も道教音楽方面とか
アビドスは……なんかフツーに流行り唄(ちょっと遅れた)の聴いてそう。
ミレニアムはDTMとかボカロ系のテクノロジーもの?
SS、見かけたらお邪魔しにいきます!
- 89二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 12:32:10
さて……ぴくしぶにはどうまとめたもんかな
- 90二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 22:29:19
- 91二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 22:45:02
ガサガサ
パリッ
アー……
むぐ。
むぐむぐ。
コクン
……なんか、この通りでよく会うね、先生。
確かに歩きたくなる道なのはわかるけど。
川辺の風は少し涼しく感じるし、木々の緑は鮮やかだし、歩道も整備されてて、ベンチもある。
にしてもこう毎回……。なんだろね。行動圏が似て来たとか?
ん、ちょっと駄菓子屋にね。
いつもはお菓子はあまり食べないんだけどさ、なんとなくこう、昔の歌を聴いてると、こういうの食べたくなっちゃって。
……ロクな歌じゃないよ。
自転車があれば部屋から出られる、バイクがあれば町から出られる。ミサイルがあれば地球からも出ていけるのに、って。
ま、結局、お金がないからなにも買えなくて『もしも』の妄想を楽しんでるだけっていう歌。
あはは。そうだね。部屋でごろごろしながら適当に考えてることがそのまま歌になったみたい。
私?
昔はそういうことも考えたけど、今はそうでもないかな。みんながいるし。
キヴォトスの、ただ流れるだけだった景色。どうでもよかった世界が、今はちょっと好きになってるんだ。
――便利屋のおかげでもあるし。
先生のおかげでも、あるかもね。
ふふ。
もし、先生がここから出ていきたくなったら、言ってね。
便利屋の総力を挙げて、シャーレから出られなくなるように、仕事を増やしてあげるよ。 - 92二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:06:36
んああああっ! 絶望っす! 先生!
”何が”、じゃないんすよ。これ、この曲。ソールズベリー伯爵!
あ、そうっす。さすがにレコードじゃないっすけど、CDなんとか探して買いました。
じゃなくて!
ギター一本だし、耳コピしてやるーって意気込んだはいいけど、ぜんっぜんわかんねーっす!
毎日毎日シスターフッドの教会に行って楽譜も見してもらってるんすけど、ピアノ楽譜だし、どの弦がどの音出すのかいちいち見ないとわかんないですし!
頭が爆発しそうっすよー!
ガチャ
お昼ご飯買ってきたよ、せんせ――
あー!!
――っ。うるさ。正義実現委員会の……イチカだっけ? なに。ゲヘナの人間はいない方がいい?
待ってください違うっす。鬼方カヨコさん、っすよね!
は? なんで私の名前知ってるの? ていうか、なんでギター持ってるの?
先生に聞いたっす。 それより、教えて欲しいんすけど。あれです、ソールズベリー伯爵。The Earl of Salisburyの弾き方を!
ちょっと待ってよ。ぜんぜん状況がつかめないんだけど。
あの曲! ……ジョン・レンボーンの演奏。かっこよくて、繊細で、高貴さがあって。すっごく感動したっす。CD探して買っちゃったぐらい。
ああそう、よかったじゃん。でもそれ、トリニティだったらフツーに聴けるんじゃない? 宮廷舞踊曲でしょ。
聴けるっすけど! 正直に言うっすね。私、その、このギターって成り行きで買ったものなんすけど、成り行き故、別に演奏したい曲とかもなくて、押し入れにしまったままになってたっす。
ああ、あるあるだね。ノリで楽器始めた人がよく陥る罠、ってやつ。
まんまと、ってやつっす。けど、なんかこう、このひとのギターは、耳馴染みがある曲だからってのもあるんですが……。ようやく、弾いてみたいって思えた曲が出来た、って感じで。
でもいざ弾いてみると、ぜんぜんわかんなくて。ようやく覚えたコード弾き使えないから、一音一音追ってはみるんですけど、わからないにわからないが重なって、集中も続かず……。
だから! カヨコさん。いや、カヨコ先輩!
はぁ? べつにあんたの先輩になったつもりは――。
私にギターを教えてくださいっす!
- 93二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:36:57
――――
―――
―
ふぅ。ごちそうさま。
あ、なんか私まで頂いちゃってもうしわけないっすね……。
いいんじゃない? せっかく先生が奢ってくれるっていうんだしさ。で、ギターの話だけど。
不肖この仲正イチカ、正義実現委員会の一員として、根性だけはあるつもりっす。よろしくお願い――。
待った。そもそも私、ギターなんか弾けないよ。
ええっ。
まあ、音楽ジャンキーではあるからね。それなりに知ってはいるつもりだけど、プレイヤーではない。
ええ……。そうなんすか……。
でも、あれを弾きたいっていうなら、手助けは出来ると思う。
ほんとっすか!
その前に、コーヒー飲む? あ、トリニティ生なら、紅茶の方がいいかな。
いや、私はどっちもいける口なので。コーヒーで大丈夫っす。
ん、わかった。
コポコポ
コト コト
はい、先生も
コト
すみません、いただきます。
ん、いいよ、シャーレの備品だし……。それでイチカの家にさ、VHSが見られる機械ってある?
ぶいえいち、なんですか?
まあ、ないか。トリニティに中古ショップってある? ――ていうか、トリニティに使ってないビデオデッキとかあれば、それでいいんだけど。 - 94二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 00:02:22
ああ、コハルに聞けば……、いや、古書館のほうがいいかな。たぶん、古い機械っすよね。そういうの、たくさんもってる部署があるので。
わかった。じゃあ今度、ジョン・レンボーンの教則ビデオ貸してあげる。本人が解説してるやつで、すっごくわかりやすかったから。
まじっすか!
まじだよ、まじ。うるさいなあ、もう。
いや、ありがたいっす! 映像を見ながらなら、少なくとも今よりは一万歩は前進できるっす!
ネットで探せばいくらでもありそうなもんだけどね。
いくつか見てみたんすけど、変則ちゅーにんぐ? だとかよくわかんなくて。
変則? あの曲はスタンダードでいけたはずだけど。まあいいや。ええっと、次にシャーレに来るのは……この日。この日には、持ってきておくから。勝手に持って行って。
本当感謝っす! ありがとうございます。これでみんなに『ギター辞めちゃったの』って言われるたびに苦笑いしなくて済む……。
あはは。なんか、そっちも大変そうだね。
でも、なんでギター弾かないのに、教則ビデオなんか持ってるんすか? - 95二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 00:07:47
……それは聞かないで。先生も、うるさい。――ああそうだよ。私は挫折組。早々に自分の才能に見切りをつけたってだけ。便利屋の引っ越しのごたごたでめんどくさいからギターは売っちゃったし、徹頭徹尾、わたしはリスナー一筋になってるって。
才能なんて、趣味としてやるのには、関係ないと思うんすけどねえ。
わたしは憧れが強かった。それで、現実との差に愕然とした。だからやめた。それだけ。音楽が嫌いになったわけじゃないし、むしろちょっとかじったことで、余計に深くまで考えられるようになったから、マイナスじゃない。
なんか急に早口になりますね。
は?
うっ、目つき怖っ。すいませんでした。でも……、ふふふ。
なに?
ヒィっ。いや、なんか、ゲヘナの人も音楽に憧れたり、挫折したりするんだなあって。
……そりゃするでしょうよ。
ふふふ。ありがとうございます。じゃあ、その日、シャーレに伺わせてもらうっす。あ、コーヒーごちそうさまでした。美味しかったっす。
スッ
いや、置いとくから勝手に持って行っていいって。
大切なものをお借りするのに、そんな失礼な態度をとってしまったら、トリニティの――正義実現委員会の名前に泥を塗りますから。しっかりお礼もさせてもらうっすよ。
そんな重くとらえられると恐縮するんだけど……。
じゃ、鬼方カヨコさん。先生。また!
ガチャ
バタン
……
…… - 96二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 00:08:07
はぁ。
正直ちょっと疲れた。
……悪い気は、しないけど。
まあでも。
先達として、音楽の深みに入ろうとしている人がいたら、手をとってあげないと。
ふふ。
これからどうやって染め上げてあげようか、楽しみだね。
ね。先生。
- 97二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 00:50:04
先生、最近あそこのレコ屋さんって行った?
そっか。いやさ、わたしは一週間に一回はなにを買うわけもなく行くんだけどさ。
あそこの店主が、百鬼夜行のほうに仕入れに行ったみたいでね。
まあたしかに、3連休とってたから、どっか旅行かなにかかな行ってるのかなって思ってたんだけど、仕入れ旅だとは。なかなかやるよね。
で、あっちで流行してる曲とか、人気があった音盤が今、店頭にずらりと並んでるんだ。
これ、流行ってるんだって。
……己龍って人たちの『百鬼夜行』。
見たとき笑っちゃった。そのまんまじゃんって。
でも、聞いたらちょっと驚いた。
わたしさ、ヴィジュアル系って意識して聞いたことあんまりないんだけど。
君が咲く山はちょっとまあ、特殊だしね。
そう、あんまり詳しくないんだよ。
でもこれ聞いて、ヴィジュアル系の歴史をちょっと掘ってみようかなって思ったぐらい。
……メタルだよね、どう考えても。
コンセプトを持つっていうのも、デスボイス使うのも、重いリフがあるのも、ドラムが大暴れしてるのも。
なにか親和性あるのかなってね。
正直ちょっとハマりそう。
このおどろおどろしい感じとか、でろでろじめじめしててで、グロテスクで、耽美で、サビでカタルシスを感じるとことか。
私の頭は、これをメタルとして聴いてるんだ。
ふふ。
仕事には合わないかもだけど、たまには意外性を求めるのもいいと思うよ、先生。
- 98二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:15:15
このレスは削除されています
- 99二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:17:21
はい、どうぞ先生。こういうときはもう、コーヒーより炭酸だよ。
カシュ カシュ
コクコク
ふふ。夜っていうより、もう空が白み始めちゃってるね。
コク
ふぅ。夜の休憩室も、なかなかいいと思わない?
自販機と、ほんのちょっとのこの、トワイライト・タイムの明るさがさ。
そうだ、イヤホン。ちょっと聞きたい曲が思いついた。
ズズッ
このアルバムね、前情報一切なしで買ったやつなんだよ。
Folklore Kitchen。Donqってアルバム。たまたま手に取ったやつだから、ジャンルなんかもぜんぜんわかんない。
コク
けどエモくて、ノイジーで、すっごく気に入っちゃった。
この時間帯に起きてることなんて、あんまりないし、頭使いすぎてもうへとへとだけど。
このアルバムに沈むには、最高なタイミング。
ふふ。
お疲れさまでした。
カチンッ - 100二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:34:46
カタカタカタ
ペラッ
……
……カタカタカタ
歌い方ってさ、いろいろあるよね。
例えばこれ。
これさ、俳優さんが歌ってるんだ。カバー……というか、とあるドキュメンタリーの中で、たまたまステージに立って歌っただけみたいな。
うん、柄本明っていう俳優。歌ってるのは、ウイスキーの小瓶っていう、まあ、フォークソングで。
ペラッ
フォークソングって、かなり独特だと思わない?
歌に表情がなければないほど、良く聞こえる。
カタカタカタ
音楽の中でも、かなり特殊なんだと思う。
カタカタ
タン
あ、だからFolk……民衆の歌なんだ。
あはは。
民衆の歌だから、わたしたちが当てはめるべきなんだね。
その時の感情を、さ。
カタカタカタカタ…… - 101二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:39:15
- 102二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 01:39:51
- 103二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 08:11:50
ありがとうございます
- 104二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 10:01:03
- 105二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 16:04:04
- 106二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 17:32:29
カヨコと音楽が好きな自分にとってこれ以上ない良スレ
スレ主のおかげで良い曲と出会えて世界が広がったよ - 107二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:11:14
ありがとうございます。
たとい1曲のとっかかりからでも、10曲、100曲と広がる可能性がある世界でそういっていただけるのは、とてもうれしいです。
お時間あるとき、ゆるいスタンスで読み聴きできるような、そんなSSであればいいな。
- 108二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:38:21
- 109二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 00:42:27
【都会を走る猫 / andymori】
ザァァァ――
あれ、先生も来てくれたんだ。
すごい雨だからね。私もちょっと心配になっちゃって。
ぜんぜん平気だったよ。ここ、ちょうど雨が吹き込みにくいみたいだし。
この子もだいぶ大きくなったからさ。
もしかしたら、そろそろここで会える時間は少ないのかもね。
ワシャワシャ
ニャアニャア
名前?
つけないよ。飼ってるわけじゃないし、飼うつもりもないし。
ただこうやってさ、たまたますれ違っただけの関係でいたいと思って。
そういえば昔は、こういう形した生き物にごはんとかもらってたなあって、それだけの関係でさ。
『都会を走る猫に名前はいらない』ってね。
――そ。そういう歌があるんだ。
あとで聴かせてあげるよ。
今はこの子に優しい思い出を作ってあげたいから。
ほら先生も。
それこの子にあげるために持ってきたんでしょ?
もしかしたらいつかの雨の夜、
こんな日にあったかいごはんをくれた生き物がいたにゃーって、憶えててくれるかもよ。 - 110二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:06:52
【列車 / LOST IN TIME】
「早くあついお風呂を準備するのよ! 全身びしょぬれの先生を放っておいて風邪を引かせたとなれば、便利屋の名折れだわ!」
「は、はいぃ。あの、アル様。設定温度は80度ぐらいでいいでしょうか」
「くふ。先生はお茶じゃないんだよ~、ハルカちゃん」
「ああごめんなさいすみません先生とお茶の区別もつかない私なんて生きてる意味ないですよねごめんなさい死にます死んでいいですか」
「死んでる暇あったらはやくお風呂わかしてちょうだい!」
ワーワー
「あー……」
「いいや、先生。ちょっと来て。ムツキ、ちょっと応接室使うね」
「はーい。襲っちゃだめだよ、カヨコちゃん」
「ばーか」
ガチャ
バタン
「騒がしくてごめんね」
「はいこれタオル。あと、その水の滴るジャケットとシャツ脱いで」
「――ズボンは履いたままでいいから」
「着替えを貸せればいいんだけど、男物の服なんてないし……」
「あ」
「ちょっと待っててね」
ガチャ
バタン - 111二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:32:05
「やあ先生……あ、それこの間のやつ。聴いてるんだ……」
「……他の曲も聴いてみたりした?」
「そっか……。じゃあこのBefore I Leaveも……」
「あ、これはまだなんだ」
「……ああ、いいよ。そんなに急がなきゃならないようなものでもないから」
「紹介だけ?まあ、そのくらいなら」
「……人によっては心構えが必要かも知れないし」
「ん?なんでもないよ。かなり風変わりな曲調ってだけ」
「そうだね、さっきも言ったけどとにかくこの曲は変わってる」
「音域は普通なんだけどコードの遷移がすごく遅い」
「その上、音が途切れ途切れというか刻まれていて……たぶん刻んでいるつもりはないんだろうけど……」
「とにかく、一音ごとのテンポが速いのにメロディが全然変わらなくってリズムに乗りにくいんだ」
「むしろテンポの速さが同じ音を繰り返しているみたいで不変を印象付けているのかも」
「……で、ここからは私の推測なんだけど、この曲はたぶん極端に再生速度を落としたものをピッチを上げてるんだと思う」
「だから音が途切れ途切れだしコード進行が遅くって、でも音域は普通だから脳が混乱する」
「一定間隔で繰り返される単調な音を聴いているとだんだんと思考がクリアになって心が落ち着いてくるから私は好きなんだけど……」
「社長が聴いた時は憂鬱になって少し塞ぎ込んでてから先生は気を付けてね」 - 112二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:33:53
「はいこれ。ただのタオルケットだけど、ないよりマシでしょ」
「掛布団代わりに使ってるやつだから、ちょっとヨレてるけど気にしないで」
「先に言っておくけど、人の好意を変な想像に変換したら許さないからね、先生」
「……ふふ。冗談。それは前の事務所で姿見にかけてた、もうだいぶ使ってないやつだから安心して」
ガチャ
「し、失礼します。先生はお風呂の匂い、雑草の匂いとヒノキの匂いと、どっちがいいですか……」
「あのさ、ハルカ。森林浴の香りを雑草っていうのやめなよ」
「はぅ。でも森林にも雑草は生えてますし……」
「ていうかそんなの、どっちでもよくない?」
「あの、ムツキ室長が重大な問題だから急いで聞いて来いって」
「はぁ。じゃあヒノキの匂いにして。先生のあとで私も入るから」
「は、はい。わかりました。あ、あと緑茶のパックもあるんですけどどうすれば……」
「ヒノキ! あとお湯の設定は42度!」
「は、はいぃぃ!」
バタン
「ムツキのやつ、ああやってハルカに適当なこと言って遊ぶのやめて欲しいんだけどな」 - 113二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:47:02
ガチャ
「カヨコちゃん、たーいへんっ」
「……なに?」
「お風呂が壊れちゃってさあ~。お湯が半分しか入らないの。二人入ればちょうどいい湯量になるんだけど、カヨコちゃん、先生と一緒に入ってくれない?」
「そんなわけないでしょ、今朝まで普通に使えてたんだから。ていうか、半分入るなら満タンにだってできるでしょどう考えても」
「え~? そんなの待ってたら時間かかっちゃうかもよ~?」
「もし本当なら先生にはシャワーで我慢してもらうから」
「なんでなんで? カヨコちゃんが一緒に入れば全部解決するんだよ?」
「あーもう、バカなこと言ってないでこれ! 先生のジャケット! どっかに干して乾かして!」
「きゃはは♪ カヨコっちが怒った~! にっげろー☆」
バタン バタバタバタバタ
「……本当に騒がしくてごめん」
「浮かれてるのか知らないけど、いつもはこんなに騒がしいわけじゃ――いや、あんまりかわらないかも」
「はぁ」
ガチャ
「ヒノキ! 42度! お風呂は一緒に入らない! あとこれ乾かして!」
「ヒィッ!」
「あ、社長。ごめん。あの二人のどっちかかと」
「い、いえ。それより、温かい飲み物を持ってきたのだけど。ふふ、社長の私自らが淹れたコーヒーよ。やっぱりビジネスは上の人間が積極的に動いてこそ……」
「ありがと。じゃ、これよろしく、社長」
クルッ
「ちょ、カヨコ。わたしは社長としてきちんとした接待を――」
バタン - 114二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:56:43
「……」
「訂正。絶対みんな浮かれてる」
「まあ、事務所だからさ。なんていうかこう、知り合いが泊まるとかないし」
「そもそも指名手配中の身だし」
「ましてそれが先生なら……、まあ、浮かれるのもやむなしというか」
……
「私の苦労わかってくれる?」
「……ふふ。確かに。『独りぼっちはよくないから』」
「憶えてるんだ。スイス・アーミー・マン」
……
「まあ、苦労は絶えないけど、退屈はしないし、悪い気もしない」
「そうだね。好きだよ、この便利屋にいるのはさ」
「はじめはお遊びで集まったかもしれないけど、私も、多分みんなも」
「居場所になってる」
「そうだね。そういう言い方をするのは、正しいかも」
「社長に言ったら『私は最初から真剣なんだけど!?』って目をこーんなにして怒るかもしれないね」
「青春だなんてさ」 - 115二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 02:10:58
「先生は、そういうひと時を過ごしてきた大人、だよね」
「先達として聞いておきたいんだけど」
「『あの頃は良かった』って思うこと、ある?」
……
「こうやって楽しい時間に埋没していると時どき怖くなる」
「いつか私や、アルや、ムツキや、ハルカも年を取って」
「『スタンド・バイ・ミー』のように、あの映画みたいに、いずれ連絡もあまりとらないような、そんな疎遠な関係になるのかもって」
「そして『あの頃は良かった』なんて、そういうことを思うようなオトナになる」
「少し前の私はそれでもよかった。アルたちと、こういう毎日を送る前は」
「でも、ケーキのおいしさを知ったらさ、知らない前には戻れない。味を知っちゃったら、世界からケーキが消えたとき、知らないよりもよっぽど、ケーキが食べたくなるはずなんだ」
「私は、今、そういうことが怖い」
「そういう曲が……」
「うん。列車っていう曲。LOST IN TIMEっていうバンド。……聴いてたら怖くなっちゃって」
……
「――だよね。大人だから、先生は。そうだと思ったんだ」
「それがオトナになるってことなんだろうっていう、漠然とした確信は、正直、あった」
「……」
「え?」
「それは、今のところ、ないと思うけど」
「……」
「なるほどね」
「ふふ」
「みんなが、ね」
「うん」
「そうだといいな」 - 116二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 02:26:47
ガチャ
「お風呂が沸いたわ先生! さあ、遠慮なくジャバジャバ入っちゃってちょうだい!」
「シャンプーとかボディソープはムツキちゃんの使っていいからね~? あ、それともカヨコちゃんと同じ匂いの方がいい?」
「あ、あの、ヤカンでお湯も沸かしてあるので、冷たかったら言ってください。常に沸騰させておきます……」
……
「沸いたってさ。いや、建物はボロだけど、設備はいいんだよね、この事務所」
「……少なくとも、今はみんな同じ方向を向いてるから」
「ばらばらにならないように、私も気を付けてみるよ」
「オトナになりかけた今に気付けて良かったのかも」
「なになに~? なんで私たちに聞こえない声でお話するのかな~?」
「ムツキのあの高そうなシャンプー、全部使っていいよって言っただけ」
「それはダメ! ほんと高いんだから!」
「じゃあ私の使っていいわよ先生。社長たるものお客様には精いっぱいのもてなしを――」
「アルちゃんはリンスインシャンプーなんて早く卒業しなよ~。あれ600円くらいでコンビニに売ってるやつじゃん」
「うるさいわね! コストパフォーマンスを考えたら当然の選択じゃない!」
「あ、あの、私でも……。あ、いや、私のような生ごみの匂いと同じなんて嫌ですよねごめんなさいすみませんもう喋りませんごめんなさい」
「ハルカちゃんの、アルちゃんのより高いの知ってるよ~? ていうか、アルちゃんのが安すぎるだけだけど☆」
「ムツキ!」
「きゃははっ」
バタバタバタバタ
「ふふ」
「それでも今この時間をいつか思い返すようになったとしても」
「『あの頃はよかった』って言える時間であることが、幸せということなんだろうね」 - 117二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 02:47:20
【Bridge Over Troubled Water / S&G】
――あ。
この曲、私が古い曲を聴くようになった原因。
Simon & Garfunkel 。Bridge Over Troubled Water。
中学の時にね、教材として使われたことがあって。
なんだっけかな。たしか何かのドキュメンタリーだったと思うんだけど。
そうだ、発表から30年も経ってるのに放送禁止歌に指定された、っていう番組が教材として使われてさ。
わたしはそこで初めて『歌』の持つ力に触れたんだ。
信じられる?
たかが歌だと思っていたものが、放送したらダメって言われるなんてことになってるなんて。
それからさ、気になってその時代の音楽を聴き漁ったら、出てくる出てくる。
――歌が、力を持っていた時代の曲が。
もう、どっぷりだよ、先生。
頭をバッドで殴られた気分。
だれか一人のための曲。
一人が寄り集まって、集になって。
集のための曲として扱われる。
メタルは周りから耳を塞ぐにちょうどいい音楽としてわたしの魂に刻まれているけれど、
こういう曲は、周りと協調するための、いわば正反対の性質。
わたしはそういう、両極端を持つ気持ちを大事にしたいんだ。
……
よく覚えててくれたね。
それがきっと『人を恋うる』ということになるんだ。 - 118二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:15:01
【The Golden Age of English Lute Music(アルバム名) / Jullian Bream】
ふふ。
優雅だよね。まるで私には似合わな――ばか。
ジョン・レンボーンを先に聴かせてるし、まあ、先生なら私への偏見なく受け入れてくれるとは思ってたよ。
そう、同じ年代の曲を、ギターじゃなくて、リュートで弾いてるの。
年代もそうだけど、ジャンルもいっしょでさ。宮廷とか、そういう場所で流れるような。
じゃあちょっと休憩しようか。
……わかってるって。
コポコポ
チャプチャプ
あーあ、イチカが、というか、
トリニティの子がいたら、美味しい紅茶を淹れてくれたんだろうけど。
私にできるのは、こうしてティーパックにお湯を入れるぐらい。
何の色気もない、マグカップにね。
はいどうぞ。
コク
……味もぜんぜんわかんないし。
いやいや、さすがにそれはお世辞って丸わかりだから。これ、下のコンビニにおっきな箱で売ってるやつだって、わかってるでしょ。
……
そうなんだ?
じゃあ、私も先生に淹れてもらえば、美味しく感じるのかな。
いや、今はいいよ。
……やけどさせる気なの? 先生。 - 119二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:16:39
- 120二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:25:09
- 121二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:47:26【SS】放課後スイーツ部と聞くアーティスト|あにまん掲示板「ん?アイリ、どしたのそのCD」「あ、えっとね・・・この前、みんなでバンドをやってから、勉強も兼ねて色んなアーティストさんの曲を聴こうと思ってレンタルしたんだ」「でも、今時はネットのサブスクリプション…bbs.animanch.com
のスレ主さんの気遣いがすばらしいと思ったので同じことしますごめんなさい。
https://youtube.com/playlist?list=PLlZbR9KWRLgkvMYKevYQ4Mx_JCpjC75mv&si=c0KAaEAiB6znc-TX
今日の更新分のリスト。
Jullian Breamはまさかのフルアルバムあったけど一曲だけ入れました。
- 122二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 03:48:18
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