- 1◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:56:02
- 2◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:56:23
そうして近所のスーパーで適当な団子とペットボトルのお茶を買い、今に至るというわけだ。
それにしても月見、ねェ……。
今日が月見だという事を、言われて初めて知った。興味が無さ過ぎるから、全く意識していなかった。
トレーナーはオレ達の間に置かれた透明なパックから団子を一つ手に取って、呆けたツラで月を見ていた。楽しそうに目を輝かせながら。
(……何が楽しいンだか……)
隣に向けていた視線を正面に戻して、夜空に浮かぶ球体を見やる。
まぁ……綺麗だと思う物を、静かに眺める行為は理解出来る。実際、オレは蛍鑑賞なンかは嫌いじゃない。
ただ蛍と違って、月なンざ何時でも見られるだろ。それを年に二回、わざわざお供え物を用意して、ありがたがって眺めるのは意味が良く分からなかった。 - 3◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:56:43
「……なァ」
「……うん?」
正面を向いたまま、トレーナーに声を掛ける。くぐもった声から、団子を食ってる最中に声を掛けちまったのが分かった。
「んっ……ぷはっ……。シャカール、どうかした?」
「いや……」
団子をお茶で流し込んだのであろうトレーナーが聞き返してきたので、顔を向けて疑問をぶつけた。
「月見ってよ、何が楽しいンだ?」
「……改めて聞かれると、分からないな……」
「……ハァ?なンだそりゃ。何が楽しいのか分からねェクセに、オレを月見に誘ったのかよ?」
「でも……シャカールは綺麗な景色を、静かに鑑賞するのは好きだろ?」
「別に好きなワケじゃねェよ、嫌いじゃねェだけだ」
「じゃあ今はどう?こうして月を眺めているのは、どんな気分?」
「どうって……」 - 4◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:57:04
トレーナーの問いを受けて、改めて正面を見る。
街から少し離れた場所にある、この公園。日中の喧騒とは対照的に、聞こえてくるのは静かな虫の鳴き声と、時折吹く風に煽られた草木が、擦れる音だけ。
然程高くないビルが建ち並ぶ、まだまだ眠る気配の無い賑やかな街。その頭上に見守るように浮かぶ月は、秋の澄んだ空気によって街の明かりに負けない程、くっきりと輝いていた。
「……まぁ、綺麗だなと思う……。悪くねェなって……」
「そっか……なら、良かった」
今の気持ちを正直に伝えると、トレーナーは嬉しそうにそう返した。
それからオレ達は、黙って月を眺めていた。 - 5◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:57:25
「でも、ちょっと残念だな」
「アぁ?何がだよ?」
暫くして、トレーナーが口を開いた。再び顔を向けると、トレーナーはペットボトルを側に置いて、月を指差していた。
「知ってた?あれ、満月じゃないんだよ。お月見は今日だけど、満月は明日なんだ。まぁ、今日も充分綺麗な丸に見えるんだけどね」
「あンなのほぼ満月だろ……充分じゃねェか。何が不満なンだ?」
「不満って訳じゃ無いけど……」
「シャカールとの月見、楽しいから……。どうせなら、ちゃんと満月が見たかったなぁと思って……」
「……キモ」
オレの言葉に、肩を竦めて苦笑いを浮かべるトレーナー。だが次の瞬間には、何か思い付いたように目を少し見開いた後、団子を一つ手に取り、おもむろに空に掲げた。 - 6◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:57:50
「……何してンだ?」
なンかの儀式か?妙な事しなきゃ良いが……と身構えるが、トレーナーはなンとも素っ頓狂な事を言いだした。
「こうすれば、満月みたいに見えるかなって。ほら、白くて丸いだろ?だからまるで、満月みたいに見えないかな~って……思ったん……です……はい……」
後半になるにつれ、声が小さくなっていく。それもそのはず、オレが心底呆れた目を向けているからだ。
(けどまぁ……)
今まで手をつけていなかった団子を一つ摘み、同じように夜空へ掲げた。
片目を閉じて本物の月に重ねると、なかなかどうして、それっぽく見えた。 - 7◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:58:18
「シャカール……?」
「お前にしちゃあ、結構イケてるアイデアなンじゃね?」
トレーナーへ顔を向ける。思ったよりも、オレの口角が上がっちまったような気がするが、まぁ良いか……。
「そ、そうかなっ……?」
「ハッ……褒めてねェよ、バァカ……」
さっきと打って変わって嬉しそうな、上ずった声を出したトレーナーを鼻で笑い、団子を口に放り込んだ。厚くてコシのある生地の中に、滑らかな舌触りのこし餡が入っていた。想像よりも控え目な甘さが丁度良い。
そういや和菓子なンて、あンまり食ったことなかったが……成る程、思ったより
「うめェな……」
「本当っ?なら、残り全部食べていいよ」
「そンなにいらねェ、オメーも食え」
楽しそうな笑顔を見せるトレーナーと、団子を食いながら月を眺める。会話は殆ど無いのに、オレと月を見て、何が楽しいのかやっぱり分からなかった。だが…… - 8◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:58:54
「……明日」
「……?」
「明日の夜、もし晴れてたら……。満月ぐらい一緒に見てやるよ」
正面を向いたまま、そう告げた。
トレーナーが息をのむ音が聞こえたが、そっちを見ずにまた団子を口に運ぶと、優しい甘さが口の中に広がった。
まあ、明日も晴れると良いな? - 9◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 22:59:51
おしまいです。
なんとか間に合いました……。 - 10二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:18:30
良いものみたわ
ありがとう - 11二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:25:25
意外と無邪気なトレ&なんだかんだ付き合ってくれるシャカ…
こういうの好きよ - 12◆q.2J2dQVmm2K24/09/17(火) 23:43:34
- 13二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 09:45:46
なんだろうこの、近すぎず遠くも無い距離感がとても良い…
- 14二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 19:58:11
- 15◆q.2J2dQVmm2K24/09/18(水) 19:58:54
トリップ付け忘れてました。