- 1君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 09:51:11
- 2君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 09:52:35
前回までのあらすじ
エリザベス女王杯を終え残すはラストランの有馬記念
準備を重ねるキンペイバイだがある日とんでもんない悪夢を見てしまい…… - 3君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 09:54:01
【おさらい】
キャッチコピー>ミニマムボディの白金少女
誕生日>12月21日
身長>131cm(デビュー時)→136cm(ラストラン)
体重>片方でスイカ1玉分
スリーサイズ>B104・W52・H86(デビュー時)→B117・W55・H92(ラストラン)
※ハリ88%・柔らかさ12%
靴のサイズ>18.5cm
学年>中等部
所属寮>美浦寮
得意なこと>体幹が強くかなり柔らかい・家事(特に掃除)
苦手なこと>同性との付き合い・お菓子作り
好きな食べ物>ミルクアイス
嫌いな食べ物>豆乳
趣味>ピアノ・コスプレ
出身>鳥取県
耳のこと>左右で大きさが違う
尻尾のこと>短めだがブワッと広がっており、触り心地がいい。とても敏感であり、どうなるかは教えてくれなかったが、尻尾の根本は決して触れてはいけないらしい
家族のこと>一人っ子で母子家庭。家族仲は普通。母は売れない小説家、30半ば
相部屋>シンボリルドルフ
ヒミツ①>人に頼られるととても嬉しい
ヒミツ②>寝言がうるさいタイプ
最近の悩み>足元が見えにくいのでよくつまづく
脚質>追込
得意距離>中・長距離
CV>能登麻美子
- 4君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 09:57:52
- 5君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 10:01:51
【お知らせ】
もう間も無くこのスレも終わりの時期が近づいています。
ラストランが終わればエンディングのみを残すだけとなります。
要望等を拾えるのにも限りが出てきます。なるべく皆さんの声を反映させたいと考えているのでどんな些細なことでも構いませんのであれが見たいこれをして欲しいなどありましたらお願いします。
※エッチすぎるものに関してはスレ主の判断で少し改悪させてもらう可能性があります。 - 6二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 10:10:32
えっろ
- 7二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 10:22:29
そういえば最初のスレが立ってからもう5ヶ月も経つんだなな。思えばずいぶん遠くまできたもんだ
- 8君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 10:36:36
- 9君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 11:39:51
「なんか悪い夢でも見た?」
若干餡が残り気味なので側面についた餡をこそぎ取って野菜のカケラと一緒に味わっていたキンペイバイはスプーンを置くと、少しだけ表情を曇らせた。
「実はその…ちょっと嫌な夢見ちゃって……」
夢の内容上、そこまで詳細な解説というのはできないためいくつかかいつまんで話すこととした。大筋の1年生の頃に正しい選択肢が取れなかった末路というのは変わっていないため、少年の認識とキンペイバイの認識がズレることはないだろう。
話を全て聞き終えた時、少年もまた顔を曇らせていた。
どんよりとした空気が食卓に流れる。
「あっ、えっと…ごめん。ご飯の時に話すことじゃ無かったよね……」
「いやキーちゃんは何も悪くないよ。夢のことを聞きたいって言ったのは俺だから。でも不思議だな…今までそんな夢を見たことがないって言うのならどうしていきなりそんな悪夢を見るハメになったんだろ…?」
悪魔というのは前触れなく見るものではない。
大抵の場合、ストレスが過剰に溜まっていたり、体力精神的に消耗していたり、なにか大きなショックを受けたりしていた時に見るものである。だが、キンペイバイからの話を聞く限りではそう言った前触れ的なものは無く、突然に悪夢を見たというのだ。
2人で悪夢の原因を考えるが、当然すぐには見つかるわけもなく、気づけば2人とも天津飯を平らげていた。
天啓が降りたのは2人で食器の片付けをしていた時のことであった。
餡を取りやすくするために水を張ったタライに映る自分の姿を見た時、キンペイバイの脳裏にある一つの可能性が浮かんできた。
「もしかして、ウマソウル……?」 - 10二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 12:10:37
でけぇな相変わらず
- 11君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 13:04:16
時刻は間も無く5時を回るところ。雨上がり、雲の切れ間に赤い夕陽の見え隠れする府中の街の完成な住宅街、その入り口付近の一軒家の一室からは女性の艶やかな声が漏れ出ていた。
「んっ……」「はっ、んむぅ…」「くっ…ぅ……」
この木製の扉を隔てた一つ向こうの空間で一体何が行われているのか、万人が知的好奇心をそそられて仕方ないその声は、不規則でどこか押し殺しているような声にも感じられる。
いつもよりも少し暗めの設定の電灯に照らされる部屋では、うつ伏せになっているキンペイバイの上に少年が跨っており、ベッドがギシギシと音を立てるたびにキンペイバイの口からか細い嬌声が漏れている。少年は薄手のTシャツを汗で濡らし、鍛えられた細身ではあるが筋肉質な肉体の存在をほのかに感じさせ、キンペイバイは下着を脱ぎ去りオーバーサイズのTシャツを1枚だけというなんとも煽情的な格好をしている。本来なら下着をつけずにその格好をするのは世俗的にはあまりよろしくないことではあるが、今回はうつ伏せでそれが暴露されることもないため問題はない。
「どうっ…キーちゃん、痛く…ない?」
「うん…とっても…うっく……気持ちいいよぉ〜…」
お互い、切れかけの息を吸いながら途切れ途切れに言葉を交わす。締め切られたカーテン、硬く閉じたドア。彼らに聞こえるものはエアコンの稼働音くらいで、その機械的なあと以外は彼らが紡ぐ熱のこもった息遣いが部屋を満たしている。 - 12君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 19:34:57
なんて事はない、ただマッサージをしているだけなのだが、未だにフケの影響が残っているのだろうか、全身を揉みしだく度にキンペイバイが艶かしい声を出すものだから少年の理性は鉄ヤスリで削られたようにゴリゴリとなくなっていき、悶々とする思考は今自分がしていることは本当は如何わしい事なんじゃないかと錯覚し始めていた。
そもそもマッサージを始めたのはウマソウルの影響が強くで始めた時期がキンペイバイが目の怪我を下敷きと重なっていることから過度なストレスや負傷がトリガーになってウマソウルが活性化するのでは?という少年の推論から来るもので、決して好意を寄せている女の子に下衆なことをしてやろうとかいう下心があるわけではないのだ……ないはずなのだ。
「あ〜最近肩が凝る頻度が増えてきてたからとーっても気持ちぃよぉ〜」
「ラストラン間近だからって緊張しすぎなんじゃない?もっと肩の力は抜いていかないと」
こうして何事もなくいつも通りに話している少年であるが内心はもうどうにかなってしまいそうであった。
最近やたらと肩が凝ると言われてはそれが彼女の持つ胸部の大きな膨らみのせいなのではと余計なことを考えてしまうし、ウマ娘であるキンペイバイの肩が凝るレベルなんてどれほどの重量感なんだと思わず生唾を飲み込んでしまう
それだけではない。
キンペイバイの体は小さいのに尻は大きく太ももは太く、それでいて無駄な肉はついでなく腰もくびれているときう凄まじい肉体美でありしかも全身柔らかく、肌もスベスベで全体的になんかいい匂いもするのだ。それがシャンプーの匂いなのかマリリン・モンローよろしく香水の匂いなのかは少年には判断がつかないが、その香りがキンペイバイの肉体と合わさる事で凄まじい魅力を出しているというのは理解できた。 - 13君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/20(金) 21:54:59
どうにか己が内で暴れ出そうとしている獣欲をなんとか抑えつけマッサージを終える頃には時刻は6時を間も無く迎えようかというときであった。
想像以上の肉体の疲労感と達成感を噛み締める正面の背後でむくりとキンペイバイが立ち上がりベットの軋む音がする。少し早いが夕ご飯でも食べようかと少年が声をかけようとしたところ、キンペイバイは再度ベットへと倒れ込んだ──今度は仰向けで。
「ねぇ、次は前の方もお願いできる?」
ライトの光が眩しいのだろうか、目元を隠す右腕はオーバーサイズのTシャツな事もあって、ブカブカの袖口から彼女の裸体の脇や乳房の付け根が見えそうになっていて、マッサージで血行が良くなった影響でか少し火照り、とろんとした表情での"お願い"の破壊力がどれほどのものであったのか、それを記すことはあまりに難しい。
しかし一つ言えるのは、これまで枕で遮られていた惚けた声がそのままダイレクトに響き、成長してOカップになった爆乳が体の震えでふるふると振動しているのをマッサージが終わるまで否応なく視界にとらえる必要が少年にはあったという事だ。
翌日、トレセン学園では憑き物が落ちお肌ツヤツヤプルプルの「絶好調」になったキンペイバイがマヤノに元気よくおはようの挨拶をし、とある高校ではこちらもある意味「絶好調」のカッサカサに干からびた少年が精魂尽き果てた様子で男友達に手を振っているのであった。 - 14二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 22:14:29
これは俺たちの駄バソウルもうまだっち
- 15二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 23:30:12
立て乙。1スレ目から、なんなら前身の、のじゃ後輩ちゃんスレから追ってるけど、とうとうここまで来たんだな……
早速筆も絶好調のようで何よりです。ふぅ…… - 16二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 09:22:45
保守
- 17二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 09:40:44
少年は、耐えた
- 18二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 17:07:03
キンペイバイを送ったあと少年は自分の部屋へ行き2時間ねむった。
そして、目をさましてからしばらくして彼女を揉んだ事を思い出し抜いた - 19二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 22:51:31
規制ヤバいから早めに保守
- 20二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 04:02:31
もう今後はどんなエロ本やAVを見てもペイバイちゃんの柔らかボディの感触が元になってるせいで実質ペイバイちゃんでしか抜けない体になってしまったねぇ
- 21君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 11:29:50
有馬記念の開催の迫る12月某日。今年の冬は穏やかそのもので、来年に比べると2℃も高い平均気温のおかげで毎日のように吹き付ける冬風に身を縮ませなくてもそこそこ快適に過ごせる日が続いていた。
そういう日というのは大抵の場合は練習日和であるため、ラストランを控えたキンペイバイのトレーニングにも精が出るというものである。
そして、ラストランに合わせ練習も併走がメインになり、如何にして現状持ち合わせる武器で戦うのかという部分に焦点を当て、今の自分ができる最善の走り方を模索しているのであった。
併走相手
1.マヤノトップガン
2.シンボリルドルフ
3.エアグルーヴ
4.安価>>22〜25
dice1d4=2 (2)
- 22君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 12:59:06
「師走の忙しい時期に悪いのぉ」
「忙しいのは貴方もでしょう?この時期は年末の忘年会に役員会議、イベント毎にと貴方なら毎日のように駆り出されているでしょうに」
「なぁに老耄にできるのは若いもんがちゃーんと仕事してるか見張る意地の悪いことくらいじゃよ。それにほら、精強的というのはあの子のことじゃろ」
ルドルフとじじトレが談笑しながら木枯らし吹き抜けるグラウンドにやってきた頃、キンペイバイはストレッチまで済ませて準備万端といった感じで、ルドルフ達の姿を発見するなり手を振って挨拶をしてきた。
もう16の誕生日までいくばくもないというのにいつまで経っても可愛らしい後輩の姿にルドルフ中尾から笑みが溢れる。
「今日、私がここに呼ばれた理由自体は把握していますが、"どこまで"をご所望ですか?」
「そうさなぁ…難しい事を言うつもりはないが"皇帝らしく"頼めるかのぉ」
「えぇ、勿論です」
ルドルフの瞳に一瞬にして闘志が燃え盛る。その様は正しく獲物を射殺す獅子の瞳。その覇気に当てられて雪上を突いて回っていた小鳥たちが一斉に逃げるように飛び去っていく。
汝、皇帝の神威を見よ。彼女のレースを見た誰かが形容したその言葉通り、現役を退いて久しいはずの皇帝は未だその覇気を衰えさせる事なく、目にかけていた後輩にも容赦の素振りを見せるつもりは無いようだ。 - 23二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 14:40:41
- 24二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 14:41:34
このレスは削除されています
- 25二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 14:51:24
うぉっ…エッッッッッ!後出しだけど脚に巻きつけるタイプのホルスターつけてて欲しい(タイキとの匂わせ)
- 26二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 15:02:10
マヤノの要素はあるわけだし現状種付け相手であるタイキ・親父・シュヴァち要素は欲しいけどタイキ以外わからんな。親父は眼帯をサイバー解釈してホログラムのスカウターエフェクトみたいにできそうだけど
ルドルフとかアマさんとかフジとかみたいにウマ娘として関係が濃いメンツのはどうするんだろ - 27二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 15:07:16
そういえば史実キンペイバイの血統って決まってましたっけ?
- 28二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 15:07:58
お団子ペイバイちゃんかわいい!
- 29二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 15:09:38
たしか父系がテスコボーイ、母系はアーバンシー並のアイルランドの超良血名牝系だったはず
- 30君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 18:54:25
- 31君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 19:21:22
あと、耳飾りについては1エピソード入れたいと思っているのでちょっと待っていて欲しいです
- 32二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 19:23:55
- 33二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 19:25:36
- 34君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 19:28:43
分かりました。よろしくお願いします
- 35二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 20:57:12
- 36君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 21:02:39
- 37二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:06:43
- 38二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:16:43
これに紅赤とか金とか入れるの大変そう…頑張れ!
- 39君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 21:24:36
- 40二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:31:56
- 41二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:43:54
下乳パイ○リ穴エッロ…黒タイツみたいなの着せてパイロットスーツみたいにしてみるとか?
- 42二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:46:14
- 43二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:46:57
- 44君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 21:52:55
- 45君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 21:58:48
あと現時点の付属品リストです
・梅の花型ビームスカート
・脚につけるタイプのホルスター(おそらくハンドガン入り)
・ホログラムのアイエフェクト(多分固有演出用)
・耳飾り(この後のお話で形状を安価します) - 46二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:06:32
キンペイバイの試作衣装では放熱と軽量化のため上半身の布地を一部削減したが、
特に胸部の上下の布地が大幅に切り取られており布地の強度が不安視されることとなった。
これをウマ娘の勝負服とおっぱいに詳しい有識者は大峡谷に掛かる頼りない吊り橋のようだと評した。
- 47二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:16:37
了解です
- 48二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:22:17
- 49二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:42:43
- 50君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 22:52:08
「ところでルドルフ先輩、どうして勝負服を……?今日は併走トレーニングだって聞いてたんですけど」
キンペイバイが困惑するのも当然のことであり、併走トレーニングの場に現れたルドルフは彼女を象徴する"7冠"の要素があしらわれた軍服のような勝負服を身に纏っていたのだ。
唐突に現れた「皇帝」に周りで練習していた後輩達も何事かとそわそわし始めており、その渦中にあるキンペイバイもまた後輩たちから何事かと注目されるのは当然の事であった。
「久方ぶりに君にトレーニングを頼まれたとあっては先輩、相部屋として手ぬるい事をするわけにはいかないからね。獅子博兎、私はいつだって全力で事に当たる主義なんだ」
その言葉通りと言うべきか今のルドルフを一言で表すなら正に臨戦体制。周囲に悟られぬようにしているが、キンペイバイに向けるその視線は獲物を狩る獅子。その覇気に当てられてキンペイバイの首筋に冷や汗が流れる。
「それでは早速やろうか」
その時のルドルフを遠巻きに見ていたシービーは後日こう語る。『久しぶりにあんなにギラギラしたルドルフを見た』と。 - 51君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/22(日) 22:54:13
- 52二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:57:34
- 53二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 00:05:41
- 54二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:05:11
保守
- 55二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:11:25
- 56二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:21:40
カッコカワイイ!ところで後ろの黒いやつつてなんすか?
- 57二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:26:34
- 58二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 14:17:22
- 59君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/23(月) 19:36:43
- 60二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 20:02:06
- 61君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/23(月) 20:08:40
本気全開のルドルフと併走トレーニングをしたなれるちゃん
1.もう引退して久しいはずのルドルフ相手にフルボッコにされる
2.いい感じに競れているが結局勝ちきれない
3.最初こそ勝てたが次からは神威を見せつけられた
dice1d3=1 (1)
- 62君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/23(月) 20:39:16
ルドルフの本気の圧にビビりつつ、それでもG1を3勝しているキンペイバイである。対戦相手からの圧に当てられる事など一度や二度の経験ではない。この圧に怖気付いていてはG1の舞台で戦うなんてことはできないのだ。
それにルドルフはトゥインクルシリーズを離れて久しい引退ウマ娘である。ピークアウトを迎えているとはいえ現役の自分がそうそう負ける事はないだろう、そう軽い気持ちで考えていた。
だが実際のところはと言うと。
1走目──ハナ差
2走目──アタマ差
3走目──クビ差
そして今走っている4走目、キンペイバイはついにルドルフに1/2バ身差もつけられてしまったのである。
この結果には流石のキンペイバイもショックを受けざるを得ない。確かにルドルフはトゥインクルシリーズを引退した後もメイクデビューなら軽く勝てそうなんて冗談半分に言われる事はあったが、キンペイバイにとってのルドルフは駄洒落の面白い頼れる先輩という認識が強く、引退してなお現役である自分が追いつけない程だなんて思いもしなかったのだ。
落ち込むキンペイバイとは裏腹に皇帝と現役のG1ウマ娘の対決を見た後輩達は興奮しっぱなしである。そんな彼女達の声援を軽く手を振って返すルドルフはキンペイバイの前まで来るとその手に持っていた水筒の片方をキンペイバイへと差し出した。
「冬場は気づかないうちに水分不足になりやすい、水分補給はこまめにが大事だ」
受け取った水筒を煽ると喉元に流れ込んでくるのは温められたスポーツドリンク。少し塩を混ぜているのだろうか、ほんの少しのしょっぱさが味蕾に残った。 - 63君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/23(月) 21:21:14
「走ってみて分かったが、君に足りないのは"老いたもの走り方"だろう」
5走目も1/2バ身差に終わり、少しばかりの休憩中ルドルフが併走して気づいた現状のキンペイバイに足りない要素を説明していた。
老いたものの走り方というのはつまり、ピークアウトを迎えた後、それまで培ってきた最高頂の身体スペックを引き出すための走り方ではなくその最高頂が発揮できなくなっていく状態でいかにしてその状態と同等レベルに戦えばいいのかという事である。
今までのキンペイバイはピークアウトを迎えた事からスタミナに気を使ったりコードヘブンから言われた通り息の使い方に気を付けたりとやれる事はやってきているつもりであったが、ルドルフから見るとまだ肉体が全盛期である事全体の走り方が抜けきれていないと言う。
「別にピークアウトになってしまった事を卑下しろという事じゃない、ただG1の舞台で本気で勝つというのなら"追いかける者"としての心持ちを取り戻さないといけない」
それだけ言うとルドルフは立ち上がって再びスタート位置へと戻ってしまった。
"追いかける者"としての心持ち、復帰後からなかなか埋まらないパズルのピースの答えそのものがその言葉にある気がした。
「もう一本、お願いします!!」
再び挑んでくるキンペイバイの瞳に何かを掴みかけているという実感を見たルドルフは嬉しそうに口角を少しばかりあげると、マントを勢いよくたなびかせる。
周囲の空気が一段と重く、沈む。
自らの道を進もうとする後輩のため、皇帝はその神威を遺憾無く振るうのであった。 - 64二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 06:59:53
やはり皇帝とはいえ本質は雄。ペイバイちゃんにどうしても構ってしまう
- 65君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/24(火) 12:30:38
陽もとっぷりとくれた頃、グラウンドを平す後輩達に混じってキンペイバイもその小さな体でトンボ掛けをしていた。本来なら上級生に当たる彼女は別にグラウンドの整備に積極的に関わらなくても良いのだが、自分の使った物だからと進んで整備を行うのは責任感と奉仕精神の強い彼女らしいところだろう。そんな彼女を見て後輩達もよく動いていた。
グラウンドに隣接されたベンチでは座るじじトレとその隣に立つルドルフがグラウンド整備に勤しむキンペイバイ達の様子を見ていた。
「どうじゃ、お嬢さんの走りは。お前さんから見て『勝てる走り』をしておるかの?」
「貴方も意地の悪い人だ。私が何を言うか分かっているからこそ私を呼んだのでしょう?」
「ほほほ、耄碌ジジイにそんな知恵は回らんよ」
そう言って笑うじじトレであったが、その腹の内は見えずルドルフを持ってしても食えない老人である。
「勝てるか勝てないか、それは時運もありますから私には絶対的にこうだとは言えません。ですが…」
「ですが…?」
「ですが、彼女なら必ず有馬までに仕上げてくると私は信じています。今までもそうしてきたのを見てきましたから」
「その通りじゃのぉ!しばらくよろしく頼むことになるがいいかのお嬢ちゃん」
「勿論ですよ、じじトレさん…いえ、先生」 - 66二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 17:55:50
じじトレ本当に底の知れないお方だ……
道を一歩違えたら前スレのアレ見たくなってたと思うと、ほんと恵まれたなぁ…… - 67君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/24(火) 18:32:11
その後もキンペイバイはトレーニングを重ねた。
ルドルフが生徒会長の事務仕事で来れない時はエアグルーヴやナリタブライアンが代わりに来て併走トレーニングに付き合ってくれたり、タイキやヒシアマゾンが練習に来てくれる事もあった。
その裏では有馬に向けた最後の勝負服の制作にも取り掛かっており、じじトレと安心沢の紹介で彼女の妹と直接コンタクトを取りながら納得のいく形になるまで改良を重ねていった。それでもまだ何か重要な1ピースが欠けているような気がして、デザインのアドバイスをくれたマヤノやブルボン達に聞いてはみたがその答えは出そうになかった。
トレーニングの成果
1.皇帝の神威、女帝の矜持、怪物の影その真髄の一旦に触れ何かを得た
2.タイキやマヤノが色んなウマ娘を連れて来てくれ彼女達の技術の一端を吸収できた
3.1+2
dice1d3=1 (1)
- 68君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/24(火) 20:50:08
トレーニングを続け早数週間、有馬記念をあと数日に控えた12月21日。今日の東京は珍しく朝から雪が少量ではあるが降り続いていて、息を吐けば白い熱気で雪の結晶を溶かしてしまいそうなそんなツンとした冷たい空気が都市全体に満ちていた。
「ペイバイチャン、今日は楽しんで来てくださいネ!!」
美浦寮の玄関口ではコートに身を包んだキンペイバイをタイキやヒシアマゾンが見送りにきていた。いつも通りの少し薄手のシャツのタイキシャトルは元気一杯といった感じだが、流石に冷えるのか言い終わった後には大きなくしゃみをひとつしていた。
「良い冬日和なんだ、気張ってきな!」
マフラーを巻いてくれたヒシアマゾンに尻を叩かれ飛び出すキンペイバイ。見送ってくれた寮の先輩達に手を振りながら彼女は府中駅への道をいつもより慎重に歩き出したのであった。
冬国育ちといってもこの街は雪に対してはあまりに弱く、油断していると足元を掬われかねないと言うのは状況4年目のキンペイバイにはもう慣れたことで、少し背の高いブーツで滑らないように注意しつつ、どこか浮ついた雰囲気を纏っていた。
府中駅に着いたのは午後4時を過ぎた頃。平日に降った雪のせいか心なしか駅を利用する人が多いように感じる。
待ち合わせの風車に急ぐと、そこにはコートに身を包んだ少年の姿があった。
「ごめん、待たせちゃったよね」
「全然全然!俺も今来たところだから気にしないで」
そう言う少年の頭の上には雪が降り積もっていて、彼が少ない時間外で待っていたことは明白であった。彼は大丈夫だと言うが真っ赤に染まった耳先がとても痛そうに感じる。
「ねぇ、ちょっとかがんで?」
「ん?どうしたの?」 - 69君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/24(火) 20:50:24
手袋を外して少年の耳を優しく包む。やはり少年の耳はとても冷たくて、今まで手袋で温めていた手であってもまるで氷を掴んでいるのかと錯覚するほどである。
当の耳を掴まれた少年は突然のことにアワアワとして、目と鼻の先で優しく微笑むキンペイバイから漂うほのかな甘い香りでもう既にどうにかなりそうであった。
「も、もう大丈夫!十分温まったから、ね、ほら行こ?」
「えー、もうちょっと温めた方が良いと思うよ?」
「そうしてくれるのは嬉しいけど、今日はほら誕生日でしょ?キーちゃんが主役の日だから、俺ばっかり美味しい思いはできませーん」
そう、今日12月21日はキンペイバイの誕生日なのだ。2人はこれから東京の街で彼女の誕生日祝いのお出かけをする事になっているのだ。少年としては何かプレゼントしたかったのだが、キンペイバイ自身が誕生日は一緒にお出かけして欲しいと言ってきたので渋々物理的な物品を贈る事は諦めたのであった。
「えー、遠慮しすぎだよー。私全然気にしてないよ?まぁでも、言い出しっぺは私だしね行こ!」
キンペイバイが少年の手を掴んで先に歩き出す。小さな体からは想像もできないほどのパワーに若干引きずられながら少年とキンペイバイは府中駅の人混みの中へと消えていくのであった。 - 70二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 06:44:44
心の中のノスタル爺が叫んでいる
- 71君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/25(水) 16:36:36
冬の東京の街は騒がしくて眩しい。
そこかしこでやれクリスマスセールだの年末大売り出しだのおせちの予約販売のポップだのがひしめき合っていてそれなりのカオスを生み出している。
仮にこれが地元で行われていたら何か重篤な症状に羅漢したもの達の奇祭か何かだと勘違いされて警察に一報の一つでも入りそうなものである。彼女の地元の年末年始のクリスマスなどやたらに雪が多い上に世間体的な面を保つためだけの行事が増えて出費やなんやらの困りごとが増えるだけで、そういう家庭事情的騒がしさを除けば実に静かで、有り体に言ってしまえば無味無臭のいつも通りの日々の延長でしかないのだ。
そういう12年を過ごしてきてからこの街の異様な騒がしさに触れると、まるっきり世界が違うんじゃないかとそんなふうにも思えてしまう。
JR京王線から新宿駅まで下って、そこから丸ノ内線で銀座まで向かえばあたりは仲睦まじそうなカップルや家族連れで賑わっており、皆目的はキンペイバイと少年と同じであると見える。
地下道を駆け上がって吹き込む冷えた空気に身を震わせながら少しばかり道を歩けば見えてくる色とりどりに光り輝く電飾で彩られた街路樹達。ここ東京ミッドタウン日比谷の足元の歩道はイルミネーションに彩られた冬の東京の名物観光地の一つなのだ。
一度歩けば人、人、人の大渋滞。道の両脇ではスマホで動画を撮ったり、肩を寄せ合って2人きりの空間に浸ったり、満天の輝きを誰よりも高い目線で楽しむ子供の姿であったり、幸福という物が満ちすぎている空間に先程まで当然のように繋いでいた手が少しばかり恥ずかしくなって熱が籠る。
ここをこうして歩いているだけで世間的にはカップルとかデートとかそういう風に見えるのかなと考える度に2人の間の会話は少なくなっていく。せっかく遊びに来たというのに言い出しっぺのキンペイバイは恥ずかしそうに俯いてしまっているし、少年に至ってはチラチラとキンペイバイの方を見るたびに多色発光するLEDの光に照らされる彼女があまりにも綺麗に見えてしまってイケないものを見たように直ぐに目を背けては被りを振って、また性懲りも無くチラリと見るというのを繰り返していた。
そんな2人を道行く人生の先輩方は、なんとも可愛らしい若者のデートだとくすりと頬を緩ませては心の中で彼彼女らにエールを送るのであった。 - 72君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/25(水) 20:16:33
あの後なんとかイルミネーションの光を楽しめるくらいには場に慣れた2人は記念に写真を撮った後、その場を離れてお高いクレープを2人で分け合いながら粉雪の降る銀座の街を並んで歩いていた。
ミッドタウン正面のゴジラ像が雪を被ってまるで童話の傘地蔵みたいだなんてたわいもない話をしながらショーウィンドウ越しに高そうなブランド物のバッグやら服やらが並ぶメインストリートに通りかかった時のことであった。
急に歩みを止めるキンペイバイ。少し距離が離れたことに気づいて少年が振り返ると、彼女はとある店のショーウィンドウに釘付けになっていた。
見ればそれはウマ娘が耳につける用のアクセサリーであった。耳飾りはウマ娘の個性が最も出るアイテムであり彼女たちの耳飾りへのこだわりは凄まじい……という旨のネット記事が男性向け恋愛雑誌にあるくらいだ。キンペイバイがこういったものに目を輝かせるのは至極当然だと言えよう。
おもむろにカバンに手を伸ばすキンペイバイであったが何かを思い出したのか、その手を引いてしまった。
「どうしたの?」
「いやね、値段が……ほらあんまり高いものばっかり身につけると金銭感覚おかしくなっちゃいそうだからさ」
そう言って苦笑いするキンペイバイ。しかしそのアクセサリー自体の値段は確かに16歳の少女が手にするにはいささか高いようにも感じるが、かと言ってレースで何度も勝ち十分に賞金のあるキンペイバイには決して手の届かない代物ではないはずである。
なら何故購入に戸惑っているのか、それは彼女の家庭事情とトレセンでの指導にある。
キンペイバイの実家は母子家庭であり母の稼ぎも多いとは決して言えない。ホールケーキ丸々なんて人生で見た事はないし、赤札のついていないステーキを食べた回数など片手で数えられるほどだ。そんな家庭で娘を東京の学校で寮暮らしさせるとなると負担は計り知れないもので、具体的な金額を知ってからは自分のレースの賞金のほとんどを家の口座に振り込んでいるのだ。無論、母親はキンペイバイが振り込んだお金には一切手を触れてもいない。 - 73君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/25(水) 20:22:02
そしてもう一つはトレセンでの金銭面の指導にある。ウマ娘レースで発生する莫大な賞金は例え5着分であっても学生には分不相応すぎる程の大金となる。10代のうちに莫大な金を手に入れ人生観を狂わせないようトレセンでは正しい金銭管理の仕方の指導を徹底している。とは言ってもほとんどの生徒は話半分で、自重しつつそれなりに豪遊したりしているのだが、先述の家庭環境もありキンペイバイはそうした指導を大真面目に守っているのだ。
結局、そうしたアレコレでキンペイバイの賞金というのはほとんど塩漬けかよくてコスプレの素材になる程度の扱いである。
「ね、次はあそこ行こうよ!その後はご飯だよね、今日は何食べちゃおうかなぁ」
後ろ髪を引かれているのだろう、何度も何度も振り返りながら名残惜しそうにその場を離れる。
彼女の性格と家庭事情を知っている少年は軽率に「誕生日なんだから贅沢しちゃいなよ」とは口が裂けても言えなかった。 - 74君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/25(水) 20:30:11
- 75二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 21:17:50
金色の梅の花が瓶の中に入った飾りが付いている
- 76二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 23:55:57
ピンクゴールドの兎
- 77二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 09:10:20
保守
- 78二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 17:45:25
花魁がつけてそうな漆塗りっぽい見た目のやつ
- 79二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 20:41:02
ミニライトセーバーみたいなのが鎖でついてるやつ
ボリクリの耳飾りみたいな感じの - 80二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 20:52:06
梅色の蹄鉄型耳飾り
- 81君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/26(木) 20:59:52
キンペイバイが釘付けになっていた髪飾りのデザイン
1. 金色の梅の花が瓶の中に入った飾りが付いている
2.ピンクゴールドの兎
3. 花魁がつけてそうな漆塗りっぽい見た目のやつ
4. ミニライトセーバーみたいなのが鎖でついてるやつ(ボリクリ耳飾りみたいなの)
5. 梅色の蹄鉄型耳飾り
dice1d5=1 (1)
- 82二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 21:34:12
- 83二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 07:03:26
でも……見たいやろ?
- 84二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 15:40:34
ちょっと待ってくださいどうして耳飾りの話をしているのに服を脱いでいるのですか?
- 85君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/27(金) 19:43:33
午後8時の東京はまだまだ明るい。レビューの良かったレストランで食事を取って今から帰ろうとしているのに、夜の深みが増すごとに活気付くこの街は後ろ髪を引いてなかなか返してくれようとはしない。
雪はまだ止む気配が無く、そこまで多い積雪量ではないにしても、このまま降り積もり続ければ明日の朝は電車や車の運行障害が起こるだろうなというのは想像に難くなかった。
「遅いなぁ……」
丸ノ内線の地下ホーム改札口の柱に寄りかかるキンペイバイは10分ほど前に自分を置いて銀座の街に引き返して行った少年を待ち続けていた。
なんでも忘れ物をしたとか何とかで駆け足で行ってしまったのだが、こんなに時間がかかるのなら自分も行けばよかったなんて思ってしまう。
する事もないのでスマホのスワイプが止まる事はない。世間はクリスマスシーズン、ウマスタもウマトックもウマックス(旧ウマッター)もどこに行ってもクリスマス関連の広告だのクリスマスソングで踊ってみただのデートの写真の投稿だので埋め尽くされていた。
今日のお出かけに何か不満があるとかそういうわけでは無い。イルミネーションでは少し緊張してしまったがあの景色は綺麗だったし、クレープもレストランのキノコスープも美味しかった。キラキラした銀座の街を少年と2人で手を繋いで歩いた事は忘れられない思い出になるだろう。
だが、それはいつも通りの大切なおでかけの記憶と同じで誕生日らしい事はほとんど何もしていなかった。強いて言えばケーキを食べたくらいだが、それだけで誕生日というのは16歳の少女にとっては少し物足りなかった。 - 86君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/27(金) 20:25:30
少年が帰ってきたのはそれから約5分後の事であった。相当急いで来たのだろう息も絶え絶えといった様子で、膝に手を置いてゼーハーゼーハーと荒く息を整え、遅れてごめんと息継ぎを何度も挟みながら申し訳なさそうに謝っていた。
そして、ようやく息が整ったのか顔を上げると、懐から包装紙に包まれた小さな箱を取り出した。
「ちょっと遅くなっちゃったけど改めて、お誕生日おめでとうキーちゃん」
受け取った箱は四方に10cmも無いくらいの正方形で大きさからして何かのアクセサリーのようだ。大急ぎで走って行ったのはこれを取りに行くためだったのかと少年の行動に合点がいくと同時に、それならば一緒に行ったのにという待たされて不満な気持ちで少しムクれていた。
だが、包装紙を取り箱の中身を見た瞬間、そんな気持ちは全て吹き飛んだしまった。
「えっ……これって……」
ナイロン生地の梱包材の上に安置されたそれはチェーンで繋がれたガラス瓶のようなデザインケースの中に金細工の梅の花がジュエルの花を咲かせているような飾りが特徴的な耳飾り──あのお店の前でキンペイバイが心奪われていたものであった。
それが今、目の前にあるという事実にキンペイバイは口を大きく開けて驚きの表情を見せていた。
「キーちゃんその髪飾り凄く気に入ってるように見えたからさ、今日は誕生日だし日頃の感謝も込めて贈り物の一つでもしたいなーって思っててさ」
「ありがとう……嬉しい、ずっと…ずっと大事にするね」
確かにキンペイバイの獲得賞金であればこの髪飾りは悠々と買える。だが、それがただの16歳の少年の懐事情となると話は別である。金額が5桁を超え6桁になろうかというレベルの服飾品というのはそれが好きだとしても1高校生が手にするには値段的な壁が途轍もなく大きいのだ。それは少年も同じであり、今の彼の財布をひっくり返しても寂しい木枯らしが吹く程度であろう。
だというのに少年は一つの躊躇いもなくこの耳飾りを買ってきた。それは好かれたいとか好感度を上げたいとかそういう理由だって勿論ある。だがそれ以上に、少年はキンペイバイの喜ぶ顔が見たかった購入理由の本質なんてそんな単純な理由なのだ。 - 87君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/27(金) 20:27:32
それを知ってか知らずかキンペイバイは喜びのあまり、この耳飾りを大切に大切に抱きしめていた。すこし言葉尻が震えていたかもしれない。確かなのはキンペイバイにとってこれが何物にも変え難い一生の宝物になるだろうということだけだ。
一旦瓶の耳飾りを少年に預けると、キンペイバイはおもむろに自分の普段からつけている耳飾りを取る。この時期特有のホームの生暖かい風が耳元に流れてきて少しこそばゆい。
「ねぇ、───君が付けて」
そう言って一歩前に出て、少年の手元に左の耳を差し出す。
今から自分のすることが何を意味するのかそれは少年にも分かっていた。だからこそ、一度深呼吸をして真剣な覚悟で臨む。
傷つけないように痛くならないように、慎重に、慎重に。
「んっ…」「あっ……うん、いいよ」「そう、上手上手」
こういったものについては慣れていない少年はキンペイバイの言葉を頼りに不安になりつつもその使命をやり遂げた。
キンペイバイの左耳に輝きが宿る。銀細工のチェーンの先に付けられたガラス瓶の飾りは落ち着きついた雰囲気を持ちつつも華やかで豪華な印象をキンペイバイに与えていた。
「どうかな、似合う?」
「うん。綺麗だよキーちゃん」
午後8時32分の丸ノ内線銀座駅の改札口ホーム、多くの人が行き交うこの場所で耳飾りの交換をしたキンペイバイと少年の姿は当然、多くの人の目に止まることになる。
だが見つめ合う2人にはそんな外の世界のことなど何一つ気になどならなかった。
帰りの電車、隣同士で座る2人は肩を寄せ合っていた。肩越しに感じるお互いの体温が愛おしくてたまらなかった。
雪はまだ止む様子を見せず、少しずつその勢いを増しながら府中の街を真っ白に染め上げていく。 - 88二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 00:20:03
保守
- 89二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 09:16:54
ゆっくりだけど着実に進展する、キラキラとして健全な青春のお付き合い……お、おれには眩しすぎる……!
- 90二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 19:31:08
クリスマスデートの次は、いよいよ有馬記念か……
- 91君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/28(土) 19:47:02
「それでそれでその後どうしたの?」
「えっとね、ご飯を食べた後は……」
翌日、登校するやいなやキンペイバイはマヤノに捕まり、お誕生日(デート)のことについてあれこれ聞かれまくっていた。恋に恋する少女というべきか、恋愛に対して人並み以上に敏感な彼女はキンペイバイのキラキラ青春ストーリーに目がないようで、少年とどこかに出かけたり何かするたびにかなりガツガツと聞いてくるのだ。
その代わりにデートの候補地や予定の組み立てに関しては誰よりも積極的に協力してくれており、キンペイバイにとっての彼女は1年生の頃から頼れる親友である。
「それで、───君が髪飾りをプレゼントしてくれたんだ」
「耳飾りを!?てことはてことは、もしかして!?」
「うん、───君に付けてもらった……」
「キャッー!!」
顔を赤らめてぴょんぴょんと跳ねるマヤノ。そうなるのも無理はない。男性がウマ娘に耳飾りを贈るというのは、所謂、婚約指輪を渡す事とほとんど同意義であり、それ即ちそれだけ男性側の気持ちが大きい、言い換えれば愛しているという事になる。
そして、男性の手でウマ娘につけることは「お手つき」と呼ばれている。
これは言葉の通りウマ娘が特定個人の男性と関係を持っているということを表す言葉であり、ある日突然耳飾りが変わったウマ娘は恋が成就したとされ身近な人から祝福を受けることも多い。ちなみに、お手つきの変化した言葉に性格や癖、性質などを深く理解しているウマ娘のことを「お手ウマ娘」と呼ぶ事もある。
「でも耳飾りいつものままだよね?持ってきてないの?」
マヤノの言葉通り今のキンペイバイの左耳につけられた耳飾りはいつも着けているものと同じである。キンペイバイの性格ならルンルン気分で着けてきてもおかしく無い。
「えっと…ね、アレはその、もっと大事な時に着けたいなって…」
マヤは分かってしまった。モジモジと両の人差し指を付き合わせてイジらしい表情をしているキンペイバイが一体何を考えているのか、彼女の言う大事な時というのがいつなのか。
分かってしまったが故に出さざるを得ない、ピンクの悲鳴を。
自分よりも随分と先の大人の階段を駆け上がっている親友の今後の動向にマヤノはドキドキとワクワクを隠せなかった。 - 92君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/28(土) 21:11:00
ようやく最後のレース、有馬記念が始まります。泣いても笑ってもこれがラストレースになります。
やり残した事はありませんか?
リクエストし損ねたものはありませんか?
ラストラン用衣装に入れて欲しいけど言えていないアイデアはありませんか?
もしこれらの事がありましたら、ラストラン開始前(29日15:00くらい)までに言っていただければできる限り反映いたします。
レース終了後はエンディングと各種要望に答えるだけとなります。
皆様に悔いを残さない用になるべく頑張りますので遠慮なく要望・アイデアをお送りください。 - 93二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 09:01:00
やり残したこと……トイレとか?(違
- 94二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 09:17:27
リクエストとはちょっと違うけどプロポーズは少年とキンペイバイのどっちからするのかな
- 95君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/29(日) 17:28:40
- 96君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/29(日) 17:44:18
12月24日、世間がクリスマス・イブと翌日のクリスマスに浮き足立つ中、ここ中山競馬場は冬の肌を刺すような寒さを感じさせない熱気で溢れていた。
それもそのはず、今日はウマ娘レースでも1、2位を争うビッグレース「有馬記念」の開催日なのだ。数々の名馬が生まれ、そして数々の名馬たちが去っていく今年最後の大一番に会場のボルテージは増す一方である。
特に今年は一昨年のクラシックティアラ路線を賑わせた最速の女王コードヘブンと白金の弾丸キンペイバイのラストランということもあり、2人の最後の勇姿を見届けようと競技場には多くの人が詰めかけていた。周辺には仰々しいキャッチコピーが銘打たれた旗や垂れ幕がそこかしこに配置されており、大人のみならず小さな子供の姿もチラホラと見える。
ネット掲示板やSNSでは常日頃から繰り広げられているどちらが勝つか論争が佳境に入っており、今年無敗の最強の女王コードヘブンや王道路線を制した新たなる王に期待と注目が寄せられる中で、確かにキンペイバイを応援する声もあった。
だが、世間的にはキンペイバイはもう終わったウマ娘扱いであり、どれだけ頑張れるか、掲示板に入れば御の字だと言うファンさえそれなりにいる。ほとんどの人間は、キンペイバイが勝つことなど夢にも思っていないのだ。 - 97君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/29(日) 20:45:12
「勝負服は大丈夫?喉乾いてない?ご飯はちゃんと食べた?おトイレにはもう行った?」
「もぉ〜大丈夫だよお母さん。あと、トイレとかは恥ずかしいからシーッだよ!」
沢山並んだ控え室の一室では妙齢のグラマラスな女性──キンペイバイの母親がキンペイバイのことをペタペタと触りながら心配そうに矢継ぎ早に確認をとっていた。
まるでこれから初めてのお使いに出かける用事を心配するような様子の母親にキンペイバイは内心呆れつつも、自分よりも自分の事を心配するその姿に緊張がほぐれていくのを感じていた。
「ほんと、大きくなったわね……しゃんとしなさい、あなたは世界一可愛いお母さんの自慢の娘なんだもの、絶対に勝てるわ」
そう言って娘を抱きしめる母親は、しっかりと筋肉がつき戦う者の体つきになった娘の成長に涙を流していた。
父親に逃げられ、両親の制止を振り切って産んだたった1人の娘。生まれた時も他の子に比べると小さくて、はいはいも言葉を話すのもつかまり立ちするのだって平均よりも遅くて、どうしようどうしようと不安に駆られた事がつい最近のことのようだ。
たくさん迷惑をかけたし、人並み以上の事をしてあげられない事も沢山あった。だけど、ここまで逞しく大きく成長してくれた。それが母親である彼女にとっては何よりも嬉しい事であった。
1年生の頃、悪い大人に騙され世界の終わりのような絶望の中にいた娘が今こうしてこんなにも大きな晴れ舞台に胸を張って挑む、その成長に涙が止まらなかった。
「もーお母さん、泣くの早すぎだよ」
娘に揶揄われるたびにその相貌から余計に涙が溢れるのだった。 - 98君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/29(日) 21:24:21
控え室に来たのは母親だけではない。今はもう控え室を出て観客席へと向かってしまったが、マヤノやタイキ、ヒシアマ達に加えなんとルドルフまで休日返上で応援に駆けつけてくれたのである。皆、これからラストランに臨むキンペイバイに激励の言葉をかけ、タイキからは全力のハグ、ルドルフからは彼女のとっておきの自信作である小粋なギャグまで披露してもらった。これで負けては女が廃るというものだろう。
そしてもう1人、少年の姿もまた控え室にあった。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの母親が一歩後退り、キンペイバイが少年の前へと歩みを進める。その手には小さな箱を大事そうに抱え、少し頬を赤ながら少年を見つめた。
箱の中には少年が送ったあのガラス小瓶の耳飾り。まるで勲章でも受賞されたかのように慎重にそれを掴み取ると、彼女の左耳、何もつけていないその場所に耳飾りを着ける。
これから戦いに行く私に貴方の勇気を貸してください。これがバトル物だったらそんな言葉が出てきそうなほど、この一連の所作には少年と少女の覚悟のようなものが込められていた。
彼女の名前に似合いすぎる耳飾りをつけ、ついに勝負服が完成した。この日のためにと全霊を込めて作った勝負服。少年の耳飾りのおかげで何倍にも力強く輝いて見えた。
「……勝てるかな」
弱音が溢れる。これから走るレースが自分にとって現役最後のレース、そう考えて恐ろしい気持ちにならないウマ娘なんて存在しない。皆、自分の物語に幕を閉じる事に怯え、それでも震える足を進めるしかない。一度走り出したレースを止めるというのはそういうことだ。
「勝つさ。だってここにいるのは、俺が、皆んなが、そして君が信じるキンペイバイなんだから」
その言葉が何よりも力になる。その願いが踏み出す勇気となる。吐き出した弱音分空いた心に願いと期待を詰め込んで、少女は顔を上げた。その瞳にブレは無く、いつかの日、最速の女王に挑まんとする挑戦者キンペイバイとしての炎がその瞳に再び灯った、そう見えた。 - 99二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 06:50:33
いよいよか。お世話になった人たちが勢揃いすると感慨深いよね
お母様も見ないうちに魅力的になって……! - 100君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/30(月) 10:54:05
「ほれ、お嬢さん、そろそろ時間じゃよ」
じじトレに呼ばれキンペイバイは自身の尻を叩くと、控え室を後にする。少年や母もそろそろ観客席に行かないとマズイ時間ということで一同は控え室の扉の前で別れる事となった。
ターフへと続く地下道。数メートル感覚に配置された照明で明るくも暗くもない絶妙な薄暗さに照らされるコンクリート打ちっぱなしのこの場所は、気圧と温度の関係で冬になると外の冷たい風が吹き込んできて冷え込む。今日は晴れの日ではあるが、冷たい東京の風は否応なく肌に突き刺さり筋肉を萎縮させ、吐く息を白く染める。そんな道をこれから始まる大レースに参加する並み居る強豪ウマ娘達が勇ましく行進していた。
外へと続く出口の明かりが大きくなってきた頃、キンペイバイは突然として立ち止まると、横を一緒に歩いていたじじトレの方へと向き直る。
「今日、ここに来れたのも私が今まで走ってこれたのも、その多くが指導してくださったトレーナーさんのおかげです。本当に、ありがとうございました!」
それはいつか言おうと思っていた感謝の言葉であった。キンペイバイがじじトレに受けた恩は計り知れない。誰も担当したがらなくなってしまった彼女を拾ってくれた事に始まり、彼女に合ったトレーニングメニューの考案、友人知人関係の再構築の補助に少年のリハビリサポート。この3年間あまりの日々の中でじじトレに助けてもらったことは両の手では数え切れないくらいにある。
だからいつかちゃんと感謝を伝えたかった。じじトレが病の悪化に倒れたあの日からいつかできるだけ早くに言わなければきっと後悔すると、そう確信できていたから。だからこそ今、きっとこれが1番早くて1番相応しいタイミングだと思ったからこそ、キンペイバイは頭を下げてじじトレに感謝の気持ちを伝えたのだ。 - 101君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/30(月) 10:54:21
「お嬢さん、この期に及んで儂が言うことなど何もない。お嬢さんの思うがまま、悔いの残らぬよう、精一杯走ってきなさい」
出会った頃に比べて白髪と薄毛が目立つようになったじじトレは優しい声でキンペイバイに語りかける。
こんな事を言っているが、じじトレ自身は彼女に教えたいこと伝えておきたい事はまだまだ沢山ある。だが、雨風にさらされ芽吹くことさえ難しいと思われたこの若い新芽が今こうして1人で多くの人に支えられながら強く咲き誇っている姿を見ては、その言葉の多くは無粋に感じてしまう。ならば、最後の教え子にかける言葉はこれからの健闘とその道行に迷いのないようにという励ましの言葉で十分だ、今こうして、強くなった教え子を見てじじトレはそう思うのであった。 - 102二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 19:09:42
保守る
- 103君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/30(月) 22:06:19
時間は少し巻き戻り、キンペイバイの控え室に多くの人達が駆けつけて部屋が賑やかになっていた頃、立ち並ぶ控え室の一つでは煌めく長髪の白毛の美しいウマ娘──コードヘブンが衝立の向こう側で着替えをしていた。
衝立の前、扉に近い方には彼女のトレーナーが背を向けて座っており、布の擦れる音や勝負服の金属パーツが鳴るたびにピクリと動いているのが何とも可愛らしかった。
「トレーナー、今日はワガママ行って付き合わせちゃってゴメンね。迷惑じゃなかった?」
衝立の向こうにいるトレーナーへの謝罪。今日コードヘブンは寮から直接中山レース場に来たわけではない。今日の早朝から彼女は自身のトレーナーと共に神奈川某所にある墓地を訪れていた。とりわけ大きくスペースのとられたその区画にはこれまた高そうな墓石が立ち並び、彼女達はその中の一つに花を備え石を磨き、線香をあげてきた。
この墓は言うまでもなくコードヘブンの母のものである。彼女の言うワガママとはレース前にどうしても母のお墓参りに行きたいという物であった。最初は1人で行ってすぐに帰ってくるつもりであったが、今日は大事なレースの日という事もあり、念の為トレーナーも一緒についていく事になったのだ。
彼女が墓参りに来たのは母親に「行ってきます」と告げるためであった。大きなレースや大事な決断、人生の分岐となるようなことに臨む前、彼女は必ず母の墓を訪れていた。初めのうちは不安を吐露できる唯一の場所がここしかなかったというのが理由であるが、次第に友達ができ内心を打ち明けられる存在が増えてきたことで、墓前に告げるのは弱音ではなく前向きな「行ってきます」に変わっていた。
今回のレース、彼女にとっては現役最後の競争となる。だからこそ今日は必ず母の墓へと行っておきたかったのだ。これからラストランを走りますと。そうしたら母が笑って応援してくれるような、そんな気がしたから。
「迷惑だなんてとんでも無い。むしろ、僕としては君のお母さんのお墓の前まで連れて行って貰えるくらいに君の信頼を勝ち取れたんだって、嬉しい気持ちしかないよ」 - 104君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/30(月) 22:06:52
この男、コードヘブンのトレーナーと彼女との出会いは決していい物ではなかった。元々、優れたウマ娘となって天国に行くという事だけに固執していた彼女にとってトレーナーを選ぶ条件は自分を勝たせて尚且つ自分の方針に異を唱えない、ただそれだけであり、ちょうど良さそうだったのが駆け出しではあるが成績優秀な期待の新人である彼だったというわけだ。
「最初は信頼はおろか、プライベートな事も雑談すらしたことなかったもんね。思えばあの頃のアタシ、すっごい焦ってギスギスしてたなぁ」
最初こそ逆スカウト、更にはコードヘブンがデビュー前にも関わらず圧倒的な実力を持っていたということもあり、トレーナーとウマ娘という関係からはかなり逸脱した歪な関係性で、もはやどちらが上の立場なのか分からないくらいにコードヘブンはレースにもトレーニングにも我を通し続けていた。
だがそんな状況であってもトレーナーは嫌な顔一つせず、コードヘブンの望むこと、やりたい事のために心血を注ぎ続け、彼女の本格化不全症候群が見つかってからはそれをどうにかしようと関係各所に連絡を取り持ち得る限りの全てを使って、彼女を1日でも長く走らせようと解決策を模索し続けていた。
結局、彼女を変える大きなきっかけはキンペイバイとなったが、秋華賞の後、現役復帰のためにコードヘブンを支え続けたトレーナーの姿に彼女は信頼ともまた違う別の感情を抱くようになっていた。
復帰レースとなったオールカマー、ぶっちぎりの1位で駆け抜けた自分を涙やら鼻水やらで顔をぐしゃぐしゃにして抱きしめて喜びの号泣をしていたトレーナーの姿をコードヘブンはよく覚えている。
真夏のレースで汗でびっしょりの体に体液垂れ流しのトレーナーが抱きつく物だから暑いし水っぽいしで普通なら耳を絞るのに、その時は何故か不快感よりも先に喜びや形容できない温かい感情が心から湧き出ていた。
この感情の正体に今もコードヘブンは辿り着けていないが、レースで勝利を重ねる度に、トレーナーと大切な思い出を作る度に、この気持ちが大きくなっている事は彼女にも分かった。きっといつかこの感情の正体に辿り着きたい、それが今のコードヘブンの密かな目標であった。 - 105君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/30(月) 22:07:05
「最初は全然信頼も何もなかったはずなのに、今ではこうして背中を預けちゃうくらいになっちゃった。アタシも随分丸くなっちゃったね」
「人が変われるのはその人が歩みを止めていないから。人が変わらずにいるのはその人が夢を持ち続けているから。変わる事も変わらない事もどちらもヘブンにとって大事な事だと僕は思うな」
「また先生の受け売り?」
「まぁね、じじトレさんには頭が上がらないや」
人は変わる、それは良いようにも悪いようにも。変化とは命ある生命の持つ最大の武器であるが、変わらない事もまた大きな武器である。
その点で言えば俯いていた顔を上げ、閉ざしていた扉を開けて自分の世界を広げ、それでいてその内に大切な思い出を大切なままにしているコードヘブンの変化はある種の理想と言えるのかも知れない。 - 106二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 22:54:53
- 107二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 22:56:02
- 108二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 10:01:58
- 109二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 10:43:25
- 110二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 19:19:16
ちちが右から左へ!
- 111君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/01(火) 19:52:32
ようやく着替えが終わり、衝立の向こうから現れたコードヘブンは下ろしたての新しいピカピカの勝負服に身を包んでいた。
「どう?似合ってる?」
「似合ってる。めっちゃ強そうだ」
「強そうじゃなくて、強いんだよ」
すっかり言い合えるようになった軽口でふっと笑みが浮かぶ。これから最後のレースに挑むというのにコードヘブンに緊張の色は見られず、とてもリラックスしている理想的な状態といえる。流石は今年無敗の最強ウマ娘と言ったところか、
「それじゃぁ、勝ってくるよ」
「あぁ、全身全霊で楽しんで来て!…悔いの残らないようにね」
「当然。アタシ今、すっごくワクワクしてるんだから。悔いなんて周回遅れにしてあげるよ」
自身満面に言い放ち、ターフへと向かっていくコードヘブン。トレーナーはその背が光の中へと消えるまで、地下道に立ち続けた。その手には少しほつれた安全祈願のお守りが握られていた。 - 112君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/01(火) 21:30:33
レース開始までもう間も無く10分といったところ。ターフには有馬記念に参加する16人のウマ娘達が勝負服に身を包み、歓声を受けながらゲートへと向かっていく。
「さぁ冬晴れの心地よい日に迎えることがができました今年の有馬記念、あなたの夢、そして私の夢が走ります。実況は私、赤坂美聡、解説は山本さんでお送りいたします。山本さん本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「今回のレース、やはり注目されているのは今年無敗の最強女王コードヘブンだと思われますが、やはり今回のレースでも最注目は彼女になるのでしょうか」
「そうですね、コードヘブンの今年の成績は絶好調の一言に尽きますからね。今回がラストランですが緊張の色が全く見えないのは流石ですね、好走を期待したいところです」
テレビ画面の中継がコードヘブンを映す。真っ白な透き通った白い髪と整ったクールビューティーな顔立ちは画面映えもよく、SNSではいきなり彼女に関するコメントが爆増的に増えていた。
そして何よりも目を引くのは新しくなったその勝負服だろう。今まで黒に近い深い青を基調に纏められた姫騎士風の衣装から一変して、鎧を着込んだ天使とも言うべき外見になっており、各部には天使の羽を思わせる衣装が施されており、それまで一本だった剣も両腰に帯刀し2本となっていた。カラーも白をベースに金と青でまとめられており天から舞い降りた荘厳な天使、神の御使と言われても不思議ではないくらいのオーラを放っていた。
そんな中で母から譲り受けた折り紙風の耳飾りだけは変わらずそのままというのも彼女らしさをより一層際立てていた。 - 113君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/01(火) 21:46:42
- 114君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/01(火) 22:24:44
今回の有馬記念、最注目はやはりコードヘブンだがその他のウマ娘も目が離せない強豪ぞろいだ。
今年のクラシック王道路線で3冠を達成した新時代の王、グローリーデイズ。ちなみに彼女はスケボーやサーフが得意らしく、決め技はカットバックドロップターンである。
そしてティアラ路線からは遅れてやってきた超新星、秋華賞で楽々勝利をあげて見せたおっとり系のユメビヨリが参戦。ちなみに枕は低反発のが好みの様子。
クラシック組に負けずシニア組も個性派・実力派揃いである。
ステイヤーズステークス3年連続覇者、そして今年のアスコットゴールドカップで優勝を飾ったステイヤーの中のステイヤー、キング・オブ・ステイヤーとも噂されるコッペリオン。スタバでの定番はダークモカチップフラペチーノチョコソースマシマシチョコチップトッピング氷少なめ。
宝塚では惜しくも3位だったが凱旋門では大健闘を見せ、1着にハナ差まで迫った番狂せガール、ビゼンオサフネ。最近のお気に入りは小芋の蒸し焼きと甘酒での晩酌。同級生からはおじさんみたいだと揶揄われているようだ。
その他にも注目株のウマ娘は多いが、やはりキンペイバイの事を話す必要はあるだろう。コードヘブンと同じく今回の有馬記念がラストランとなる彼女は、今年一年ほとんど走れておらず直近のレース結果も6着と健闘はしているものの全盛期の輝きには程遠く、彼女がピークアウト──終わったウマ娘だと評価する声も多い。しかし、今日新たな装いで、しかも最大のライバルであるコードヘブンが過去最高の状態に仕上げてきているこのレースに挑む彼女の姿を見れば否が応でも期待をせざるを得ないだろう。
「ちなみにキンペイバイさんの今までの衣装では放熱と軽量化のため上半身の布地を一部削減していましたが、今回の勝負服ではそれをより求めたのか特に胸部の上下の布地が大幅に切り取られており布地の強度が不安視されますね。これをウマ娘の勝負服とおっぱいに詳しい有識者は大峡谷に掛かる頼りない吊り橋のようだと評したとかそうじゃないとか……」
「デジタルさん、ちょっとレース前から張り切りすぎじゃない?」
コミケの新刊作成に一旦区切りのついたデジタルとドーベルは揃って有馬記念の会場に足を運んでいた。
ちなみに建前上はドーベルは指導している後輩の1人のユメビヨリの応援、デジタルはいつもの趣味という事でやって来ている。 - 115二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 09:33:29
保守
- 116二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 09:52:39
- 117二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 15:39:47
凱旋門ハナ差2着でまたネタが増える岡山さん…
- 118君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/02(水) 19:19:29
一応、通常衣装の左右非対称な姫騎士衣装とか外と中がチグハグなのはcode:1059の要素だから多少はね?(というか元ネタそのカードだし…)
- 119君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/02(水) 19:42:33
コードヘブンがターフを歩くたび、もっと言えば歩く時の振動で小さな体には不釣り合いなOカップの爆乳が揺れるたびに会場にざわめきと感嘆のおーっという声が響く。
チャイナ服風の勝負服の胸元は大胆に開口されており、紅梅色の生地と金の縁取りのライン、そしてハリと柔らかさが絶妙な具合の胸の白さとのコントラストは木枯らしの吹くこの寒い冬の季節にありながらさながら、生命の息吹溢れる春の心地よい木漏れ日を感じさせる。
大きすぎる胸に視線が集まりがちだが、下半身も相当なもので、トレセン学園トップクラスの豊かなお尻はその下に生えるごん太の太ももに確かな説得力を持たせると同時に、彼女の持つ母性をこれでもかと勝負服の生地を押し上げて主張している。勝負服というにはあまりに局部の隠しが少ないひらひらの前掛けにドギマギするが、心配ご無用、しっかりと紐パンを採用してチラ見えも対策済みである。
そして太ももに巻き、その肉感を際立たせているホルスターにはオーダーメイドカスタムしたリボルバーが装填されており、彼女の前勝負服で強調されていたサイバー路線を汲むSFチックなデザインになっている。
そしてその耳には新たな耳飾りが輝く。右耳には花を模したもの、そして左耳にはあのガラスの小瓶の耳飾り。勝負服が変わっても耳飾りを変えるウマ娘は少ない中でまるっきり印象を変えてきた耳飾りはファンの目にも真新しく映るようで、一部の観客の中には男でもできたか?と下世話な噂を口にする者もいた。 - 120君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/02(水) 19:42:49
「どひゃー!これまた偉い派手な勝負服持ってきたっすねペイバイ先輩」
「これ、あまりはしゃぐでないはしたないぞ。じゃが確かに派手じゃな。というか、あのメカ的な奴は一体全体どういう原理で浮いとるんじゃ?」
今回のキンペイバイの勝負服でも特に目立つのは彼女の腰周りに浮遊する3つのユニットであろう。約40cmほどの大きさのそれは彼女の腰につけられたリングを中心に彼女の体から5〜10cm離れたところを浮遊しており、後ろ側のものに至っては、左右のものよりも若干大きく、黒っぽい筒状の物体が彼女の短い尻尾の延長線上の見立ての尻尾のようにも見える。
そしてそのメカニカルかつサイバーな衣装に合わせるように頭や首元にはホログラムが浮かび、手足にはこれまたメカメカしいレギンスとガントレットを装着しており、どこぞの歌を歌いながら敵を殴りつける人達や武装を着込んで空を飛ぶ人達のようなSF作品に出てきそうな、一言で言うのならメカニカルサイバーチャイナドレスというカオス極まりない勝負服となっていた。 - 121君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/02(水) 21:16:02
会場・中継を見ている男性達の反応
dice1d100=62 (62)
(数値が大きいほど大興奮)
ペイバイの衣装を見たミギミミ出走ウマ娘達の反応
dice1d100=69 (69)
(数値が大きいほどうまだっち!)
- 122君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/02(水) 21:49:58
キンペイバイのその姿に会場や配信を見ている男性のみならず、右耳飾りのウマ娘達も魂の咆哮を静かに感じ取っていた。そのくらいこの衣装に身を包んだキンペイバイには魂を揺さぶられるものがあると言う事だ。
そんな彼女の前に立つのは純白の鎧を見に纏う天使──コードヘブン。近未来の女王と神話の世界の女王。テイストも背格好も何もかもが違う2人であるが、見つめ合った視線の中、感じ取るものはお互いに同じであった。
「いい勝負をしよう、ペイバイ」
「勿論です、ヘブンちゃん!」
このレースで2人が対決するのは桜花賞、オークス、秋華賞、JC、昨年の有馬に続いて6度目になる。対戦成績はコードヘブンの3勝。このレースにキンペイバイが勝っても彼女が勝ち越すことはできず、引き分けか負け越しかキンペイバイに残されたのは二つに一つである。
コードヘブンに唯一土をつけたウマ娘である彼女であっても、最強の女王の壁は厚く、その背を追い越すことは叶わなかった。だが、キンペイバイにも意地というものがある。どれだけ相手が強かろうとも負けるつもりは毛頭ない。今日、自分はここに勝ちに来ているのだから。
2人の間にバチバチとスパークする闘争心に煽られたか周りのウマ娘達にも一段とギアが入ったようで、その場の空気は普通の人間が立ち入れば思わず腰が引けてしまいそうになるほどに重く張り詰め、一呼吸ごとに大気中に発生した静電気が心肺に駆け巡り火傷しそうなほどだ。
その重圧に耐えられない弱きウマ娘はこの場にはおらず、こうして立っているだけでそのウマ娘の強さの証明になるほどと言えばこの空気の重さの異常さが分かるだろう。 - 123君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/02(水) 22:16:09
「各ウマ娘、ゲートに出揃いました」
ここに競い挑むは実力・人気ともにトップクラスの16人。個々がその背に多くの人の夢を乗せ年の瀬の迫るクリスマス・イブ、朗らかな晴れの日の今日にしのぎを競い合う。
やがて重々しいゲートの開放音と共に、檻の中に閉じ込められていた獣達が一斉に飛び出す。我先にとターフを踏み締め、押し合いへし合いバ群を作る。
先頭を行くのはあいも変わらずコードヘブン、そのすぐ後ろにぴたりと数名のウマ娘がつく。
今年の有馬記念、その出だしは見た目以上に静かなものとなった。 - 124二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 06:45:56
後輩2人もかけつけておる
- 125二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 16:59:02
ほ
- 126二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 20:37:53
このレスは削除されています
- 127君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/03(木) 21:05:04
コードヘブンが走るレースは実はあまり人気がない。
それは何故か、答えは単純。彼女の走るレースは大抵の場合彼女が最初から最後まで逃げ切るのをただ見ているだけなのだ。そうは言ってもゴールに行き着くまでに駆け引きとかがあるだろうと思われるかもしれないが、問題の本質は彼女が逃げに徹する理由がそうする他なくと言うわけではなく彼女自身の脚が早過ぎるあまり結果として逃げの形になってしまうというところにある。
それに加えて、復帰後の彼女は序盤をためて走り(それでもかなり早いが)、中盤からもう1段階加速する走り方を手に入れた結果、昨年はキンペイバイに負けた1敗のみ、今年に至っては全戦全勝という大暴れっぷりである。
これは歴代ティアラ路線ウマ娘の中でも異例中の異例の出来事であり、一部ではクラシック路線の立つ瀬が無いなんて言われるほどで、ターフを駆ける白銀の流星に皆、恐れと尊敬の念を抱かざるを得ないのだ。
そして、その塩レース製造マシーンっぷりはラストランになる有馬記念でも十全に発揮されており、スタートから900m、まもなく向正面を抜けて第2コーナーに入ろうかと言う時にはやはり先頭を独走状態であり、今回もコードヘブンの勝ちとなるかとすでにレース展開を予言してしまう人まで出る始末である。
だが、この1年間、他のウマ娘達はただやられっぱなしになっていた訳ではない。レースの回数が増えるたびに彼女の走りは研究され対策が講じられてきた。最初は通用しなかった対策法も2回3回と実戦を積めばよほどのアホでもない限りそれなりに通用するものへと仕上がっていく。
そしてこの有馬記念で、その対策は完成地点へと到達していたのであった。 - 128二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 21:14:17
>塩レース製造マシーン
自ら書いてるとはいえあまりにもな言い草で草
逃げウマ娘は常に己と戦っているようなもんだからね。特にコードヘブンちゃんは背景を知っていると尚更
- 129君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/03(木) 21:52:44
コードヘブンが盤上に仕掛けられた違和感に気づいたのは第2コーナーに入る直前のことであった。カーブへの進入をスムーズにし、走行距離を最短に抑えるために内に入ろうとしたその時、思わず目を見開いた。
自分の後ろを走っていたビゼンオサフネとの距離があまりにも近過ぎたのだ。いつの間にこんな懐にまで入り込まれていたのか、そんな事が脳裏を数瞬過り思考リソースを奪われただけでその差は絶望的に縮まっていく。これでは内に入ろうとすればビゼンオサフネと接触してしまうのは日を見るよりも明らかであろう。
「(なるほどね…そうまでしてアタシに楽なレースをさせたくないって訳だ)」
ビゼンオサフネが狙っているのはコードヘブンを外へと追い込んだ上での体力の浪費だろう。真っ当にレースをして勝つ見込みが少ないのならば相手の有利な状況を崩し、少しずつ削っていく、戦術の基本中の基本にしてコードヘブンの対策としてはもっとも妥当なものだろう。
それに加えてこの感覚、肩を掴まれて後ろ向きの負荷をかけられているようなこの心底嫌な感覚。間違いなく「逃げ牽制」またはそれに類するデバフを使ってきているウマ娘がいるらしい。それも1人や2人ではない。
それ程までにコードヘブンを自らの勝負の土台に引き摺り下ろしたいウマ娘が多いようだ。
だが、その程度で簡単に止まるのならばコードヘブンは年間無敗などという馬鹿げた記録は打ち立ててはいない。
「(悪いけど、あんたらに負ける気なんて更々ないんだよねぇ!!)」
コードヘブンの体が一段と沈み込み、大きく一歩を踏み出す。その衝撃に電撃の迸る幻覚を見たと後にこのレースを走っていたウマ娘の多くが語っている。まるで天使の翼が生えているように見えた、一瞬走っている場所がターフか雲の上かわからなくなった、その後に続く言葉はウマ娘によってまちまちだが、一つだけ確かに言える事はこの瞬間コードヘブンに『変化』が起きたという事だけである。
そしてその変化は誰にも予想のできなかったものであり、その瞬間コードヘブンは空を駆けた。 - 130二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 09:06:28
保守
- 131君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/04(金) 20:11:37
「空を駆けた」というのは何も比喩ではない。確かに空を飛ぶ鳥や音速で駆け回る飛行機のようなものではないが、だが実際に彼女の体は明らかに本来の地に足ついた走りではなく軽やかな空をかけるような、超低高度の滑空のように数瞬の間、空を飛翔していたのだ。
きっと神話に登場する翼を持ったウマ娘「ペガサス」のモデルになった人物もこんな風に走っていたのだろう、そんなふうな考えを持つ人間が現れるほどであった。
「いやはやお嬢さんの『固有』はいつ見ても派手じゃのぉ」
コードヘブンのその変化にレースを観戦していたじじトレの眉がピクリと動く。
『固有』──それは極々限られた一部のウマ娘の持つ力の総称である。少し前まではゾーンという名で呼ばれていたそれは、ウマソウルがレースによって活性化しある地点・条件を満たす事によって発現するものであると考えられている。
ウマ娘によってその性能はまちまちであり、単に不可視の加速の力が働く者、スタミナが大幅に回復する者、周囲のウマ娘に影響を及ぼす者など固有と一口に言っても性質から条件までバラバラである。
そしてこの固有というものの厄介なところに例え固有の力を持っていたとしてもそれがどんな条件、どんな場所で発現するのかというのは本人を含めて誰も分からないというのがある。そのため、その力に行き着く前に折れてしまう者も多くおり、その逆に自分には固有の力が有るのだと信じてそればかりに傾倒してしまう者もいたため、現在ではこの話を出す事自体トレーナーの間では御法度となっている始末である。
しかし、一度でもこの領域に踏み込んだ者は以降条件さえ揃えればある程度は自由にこの力を行使する事が出来るようになる。それこそ、"皇帝"シンボリルドルフの見せる神威などはその代表例だろう。そして、コードヘブンは昨年の有馬記念で感覚を掴んで以降、固有の力を自由自在に使用し、年間成績全戦全勝という驚異的な記録を打ち立てるに至っている。
最強の素質を持ったウマ娘に最高クラスの固有、対戦ウマ娘からしてみればこれほどの理不尽もそうはないだろう。 - 132君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/04(金) 21:25:02
「(クッソッッ!!なんて速さだクソッタレッ!!…落ち着け私、これは事前予習済の固有、何も怖いことなんてない。この坂路を登り切った頃には加速も止まってるはず。今は振り落とされない事だけ考えろ!)」
ビゼンオサフネは心の中で悪態を吐きまくっていた。何度も映像やウマレーターのシュミレーションで予習したはずのコードヘブンの中盤入った直後の加速。事前練習の中では攻略する事だってできていた。なのに、今目の前を走るコードヘブンは映像もシュミレーションも超えた速度で走っているのだ。歴戦の勘からここで少しでも距離を開けられれば一瞬で突き放されることを理解していた彼女は何としてでも詰めたこの距離を維持するべく、心肺に力を込めてあらん限りの力で全身に思考のための酸素を回し続けていた。
ビゼンオサフネは弱いウマ娘などでは断じてない。むしろ上澄中の上澄の側、そうでなければ凱旋門で2着になることなどできない。なのにどうして、コードヘブンとの僅か半バ身差ほどの子の距離が世界のどんな強豪との距離もよりも遠く感じてしまうのは何故なのか。
凱旋門の時でさえ何かのボタンの掛け違いの一つで勝利していたのは彼女であったと、そう言われるほどの接戦を演じたのだ。世界トップレベルのはずなのに、そんな自分がどうして日本でしか走っていないウマ娘に畏怖の感情を抱いているのか。喉元で必死に堪えている「勝てない」という言葉と勝負服に染み込む脂汗がコードヘブンというウマ娘の異常さを端的に表していた。 - 133君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/04(金) 21:25:56
世界に、日本にはビゼンオサフネがいると示した、鍛え上げられた刀のような美しさと強さを併せ持った彼女の表情が険しくなっていく。長い黒髪を先の方で一つにまとめた特徴的なその髪が揺れ、その顔を隠してはまた現れる度に額の汗が増えていく。しかし、諦めの色は見えない。世界を舞台に国を背負って戦った者にとって「追いつけない」は諦めていい理由には決してならないのだ。
「(流石凱旋門走ったウマ娘、そう簡単には勝たせてくれそうにないか…)」
焦りを感じ始めているのは彼女だけではない。予想以上に喰らい付き全く距離が離れないビゼンオサフネにコードヘブンもまた少しばかり焦りを感じ始めていた。
一向に内側に入る事ができず、外へ外へと少しずつ追い出されているこの現状は彼女にとっては面白いものではない。かといって無理矢理内に入ろうと加速しても、きっとこのウマ娘はそれにさえ追従してくる、そんな確信めいた予感が彼女にはあった。
そして焦りの原因はビゼンオサフネだけではない。
先頭から数えて3番目、この超ハイスピードレースにあって余裕綽々といった様子で走るスタミナモンスター、"ステイヤー・オブ・ステイヤー"コッペリオンが天使と名刀を狩るその瞬間を虎視眈々と伺っているのだ。 - 134君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/04(金) 22:45:52
「(やー怖い怖い、みんな血の気ぃあり過ぎてコッペちゃんのぼせてまいそや)」
流石長距離レースの覇者というべきか落ち着き払っているコッペリオン。今年でデビューから数えてキャリア5年目の実力は伊達ではなく、昨年の有馬記念では惜しくも3着だった事もあり、今年の優勝に期待されているウマ娘の1人である。
そんな彼女を象徴するのは何といってもその圧倒的なスタミナだろう。鋼鉄の心臓をもつと言われている彼女の強靭な心肺機能は並のウマ娘のそれを遥かに凌駕しており、プールトレーニングでも400m程度であれば息継ぎ無しで速度を落とさずに泳がれるほどである。そんな強靭な心肺に裏打ちされたスタミナはまさに圧巻の一言に尽き、2500mで息を乱さないなど当たり前、3000mを超えるレースであっても一緒に走ったウマ娘と比べて圧倒的に消耗が少ないのだ。
彼女自身は圧倒的に脚が早いわけではない、しかし無尽蔵のスタミナにより最初から最後まで一切速度を落とさずに走れるのは勿論、いくら無茶な急加減速を繰り返しても涼しい顔で走れる、どんなメチャクチャなレース展開であってもスタミナが持つという要素が彼女を長距離の覇者へと押し上げているのだ。
そして、彼女の莫大なスタミナを最強の武器へとしている要素がもう一つ…
「(確かに天国ちゃんの固有は強い、そら紛れもあらへん真実や。そやけどな天国ちゃん、固有っちゅうのんはいつだって出し得なワケとちがうんやねん。あんたは今、やりたいレースがやらして貰えてへん、そないな状況じゃいつもより無駄にスタミナ浪費してるやないか!)」 - 135二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 07:44:00
保守
- 136君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/05(土) 13:44:09
コッペリオンと共に走ったウマ娘というのは、すべからずして皆重度の疲労の色を見せる。彼女の主戦場が長距離ならばそれも不思議なことではないだろうと思う者もいる事だろう。だが、ほとんどのウマ娘は同じ距離を走ってもここまで疲労するわけではない。ならばレースの速度が速かった、バ場状態が酷く劣悪であった、様々な原因が思い浮かぶがそのどれもが正しい回答ではない。
とあるウマ娘は語る。コッペリオンと走ると『見えない腕か何かに体力を奪われるような感覚』がし抜き取られた方向を見てみれとコッペリオンただ1人が一切の疲労なく走っていた、と。
突如として先頭を走るコードヘブンを含めたバ群のほぼ全てのウマ娘に冷や汗が流れる。体温と共に身体の大事なナニカを抜き取られてような喪失感とズンッと重くなる肉体の落下感とそれを何とか支えようと食いしばり余計に体力が持っていかれる。
これこそがコッペリオンの『固有』。その力は"周囲のウマ娘の体力を奪い自身に還元"する所謂ドレイン能力である。コッペリオンの無尽蔵のスタミナは彼女自身の天賦の才であるがそれをより強固かつ盤石にしているのがこの固有なのだ。
その体力吸引量は凄まじく、コッペリオンと走っているウマ娘は全力で短距離を駆け抜けるのと同じスピードの体力減少で長距離を走る事を強いられるのだ。 - 137二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:00:07
お疲れ様
- 138二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:09:49
なるほど
- 139君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/05(土) 20:23:38
勿論、その不可視で理不尽な腕は中段で足をためていたグローリーデイズやユメビヨリにも襲いかかり彼らの体力をじわじわと奪っていく。
ここまで聞けばコッペリオンの『固有』は荒唐無稽な最強の力に思えるが、実のところこの能力自体にはレースの結果を決めてしまうほどの圧倒的性能はない。体力を奪うメカニズムは端的に言ってしまえばウマソウルによる干渉による者なのだが、そんなもので奪えるスタミナなどたかが知れている。この力の真に恐るべき事はコッペリオンがこの力についてそれらしきそぶりを何も見せていない事で、固有の詳細について他のウマ娘が全く知る余地がないというところにある。
つまり彼女達は原因不明のスタミナロスにより判断やペースを乱される事によって、いわゆる"掛かり"と呼ばれる状態となり勝手に自滅していっているだけなのだ。これは自身の能力をよく知る上位の実力を持ったウマ娘であればあるほど、説明も考察もできない現状に混乱するためよく効く。
だが逆を言ってしまえば、コッペリオンの固有は自分の実力を正しく認識せず、ガムシャラに走るようなウマ娘──つまり、無鉄砲で青い新参ウマ娘にはあまり効果がない。
「うぉぉぉぉぉぉ!!根性!根性!根性!根性!根性!根性ォォォォォォ!!!」
そう例えば、今しがた第3コーナーへと入った中段から何やら叫びながら爆進してくる少し小柄なウマ娘のような者には特に。
「いけっー!!その調子!頑張りなさいユメビヨリーッ!!」
ここで伸びてきた後輩に興奮したドーベルは彼女らしくもなく観客席から割れんばかりの声で応援の声を飛ばす。その横ではユメビヨリの少し後ろからグローリーデイズが内につけ抜け出すタイミングを伺っている様子からまだまだこのレース、番狂せの要素は沢山あるとワクワクでもう誰を応援したらいいのか分からず昇天していた。 - 140二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 23:54:40
名前が出てなくても判別可能なデジタル
- 141君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/06(日) 07:24:13
【一口ウマ娘解説その1】
ビゼンオサフネ
学年:高等部 耳飾り:ミギミミ
身長:167cm スリーサイズ:83・58・88
脚質:先行 髪色:黒鹿毛
勝負服モチーフ:武者・侍
特徴:刀に例えられる切れ味鋭いウマ娘。凱旋門ハナ差2着の実力者。実家が居合道場で本人も居合の心得がある。髪の艶やかさはトレセン全一。
イメージcv:石上静香
名前の元ネタ:エヴァンゲリオンに登場する刀「ビゼンオサフネ」
コッペリオン
学年:高等部 耳飾り:ミギミミ
身長:164cm スリーサイズ:92・60・86
脚質:先行 髪色:栃栗毛
勝負服モチーフ:学生服(ウマ娘の初期デザ勝負服みたいな感じ)
特徴:京都弁が特徴的なステイヤー。吸血タイプの回復固有を持つ。外見は乙女らしい乙女だが中身は友情に厚いタイプ。あと巨乳である。
イメージcv:戸松遥
名前の元ネタ: 井上智徳原作の同名の漫画・アニメ作品 - 142二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 17:59:36
みんなスタイルいいんですね
- 143二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 18:00:54
2人ともスタイル良いな……この有馬記念、別の意味でも頂上決戦になってそう
- 144君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/06(日) 20:19:17
【一口ウマ娘解説その2】
グローリーデイズ
学年:中等部 耳飾り:ミギミミ
身長:155cm スリーサイズ:79・54・80
脚質:差し 髪色:鹿毛
勝負服モチーフ:発展途上の勇者
特徴:歴代で最もレベルの低いと言われた世代の「三冠バ」になってしまったウマ娘。皆んなの期待を背負って走ると言ってはいるがその重圧が重くて辛い
イメージcv:小松未可子
名前の元ネタ:『エウレカセブン・ハイエボリューション』尾崎裕哉「Glory Days」
ユメビヨリ
学年:中等部 耳飾り:ヒダリミミ
身長:147cm スリーサイズ:77・52・77
脚質:先行 髪色:栗毛
勝負服モチーフ:ファンタジー民族衣装
特徴:メジロドーベルを慕う元気っ子。どんなことにもとりあえず挑戦してみるタイプで、出来なくても根性でできるまで頑張る。特技はけん玉
イメージcv:寺崎祐香
名前の元ネタ: 『ドラえもんワンニャン時空伝』島谷ひとみ「YUME日和」 - 145二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 00:54:15
保守
- 146二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 08:03:16
保守もん
- 147二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 18:11:07
みんなスタイル良すぎるッピ……
- 148二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 19:08:13
ワンニャン時空伝懐かしすぎて涙出てきた
- 149君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/07(月) 21:04:52
大混戦となりつつあるレースの渦中において、中段で待機しながら抜け出すタイミングを伺っているグローリーデイズはどこか心ここに在らずと言った感じであった。
彼女は今年のクラシック王道路線における3冠バである。そのため彼女には同期や世間から大いに期待をかけられているのだが、それが彼女にとっては苦痛であった。
本来なら彼女だって3冠を取ったことを自慢したいし、世代最強だと天狗になりたいのだ。だが、たった一つ、世間からの評価で天狗の鼻はへし折れてしまっていた。
『歴代最弱の世代』
それがグローリーデイズが3冠を達成した世代につけられた評価であった。事の経緯は皐月賞まで巻き戻る。
元々グローリーデイズの世代にも数頭の期待されていた有力ウマ娘がいた。だが、そのウマ娘達が一同に会した皐月賞は歴代でもワーストに入るスローペースであり、しかも期待されていたウマ娘は悉く伸びず当時全く期待されていなかったグローリーデイズが1着となった。
それだけならまだ稀によくあることとして流されていただろうが、この後のダービーも菊花賞もタイムが悪く、それ以外のレースでもレース展開がパッとしないものばかりで、とてもファンの納得するようなものではなかった。
そうしてグローリーデイズが3冠バになった頃には世間の評判はすっかり冷え切ってしまい、彼女自身も「弱い世代だったから勝てただけ、例年通りなら1冠も怪しい」「こんなガタガタの世代で3冠になるとか変に勘違いしちゃいそうで可哀想」など心にもない言葉を浴びせられ続け、すっかりレースにたいする熱意というものが消えかかってしまっていた。 - 150君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/07(月) 21:20:59
例え最弱の世代だとしても腐っても3冠ウマ娘。人気投票結果という否定しようのないものを出されては出走回避などという事はできなかった。
しかも問題なのは出走すると決めた時からというもの、同期やグローリーデイズの世代を熱心に応援してくれるファン達から重すぎる期待を背負わされているのだ。だがよく聞いてみれば、純粋に応援してくれているのは極々僅かでそのほとんどは、私たちの世代をバカにしている奴らを見返して欲しい、ギャフンと言わせて欲しいなど現状への不満の解決を全てグローリーデイズに丸投げしているだけである。それに気づいた時、彼女は自分が何を目標にして走ってきていたのか忘れてしまった。
「(何で僕が誰かの鬱憤晴らしをしなくちゃいけないんだよ…ッ!)」
きっと最初は夢があったはずだ。誰かへの憧れとか、目標としているレースとか、それとももっとぼんやりしていて壮大な目標だったか……ともあれ、夢見る若者であれば大なり小なり持ち合わせていそうな物を多くの人の期待を抱えているうちにどこかに取りこぼしてしまっていた。
「(背負いたくない期待ばかり背負って、逃げる勇気もなくて、うだうだとレースに出て……何やってんだろ僕…)」
レースでもなんでも勝負事の世界で大事とされている「心・技・体」この誰か一つ無くしては勝利することはできないと言われるこれに当てはめてみれば、心にあった炎が消えてしまっているグローリーデイズは決して勝利することはできないと言えるだろう。
だがむしろ彼女にとってはその方が好都合なのかもしれない。最弱の世代なら3冠ウマ娘もまた最弱だと罵倒される方がこれから先、過度な期待を背負わなくてよくなるかもしれない。
負けた方が幸せかもしれない。 - 151君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/07(月) 21:46:28
集団が最終第4コーナーに差し掛かった時、僅かに膨らんだバ群の中に絶好の抜け出すルートができた。今行けばほぼ確実に上位争いに参加できそうなそんな奇跡的な抜け道。だがグローリーデイズはその道を行こうという気にはなれなかった。抜け出して上位争いをして、それでどうなるというのだ。いい結果を出せば周囲からの期待はさらに増え、抜け出して尚中途半端な結果に終われば所詮は最弱とバ鹿にされる。どっちにしろグローリーデイズにとっては望ましくない未来しか待っていないのだ。
それならば、中断でなかなか抜け出せずに惜しくも伸びきれなかったという筋書きの方がまだ過度な期待も痛烈な批判もされなくて済みそうだ。そうだそうしてしまおう、どうせ頑張ってもいいことなんて何もないのだから。
その時、彼女は星を見た。夜空にパッと光り輝くその星はだがよく見てみれば、それは星ではなく花であった。ネオンが下品な光を放つ知らない街、その中でたった一つ美しいと思えるその輝きは背丈に合わない大柄のランチャーを空に放っては星空に春の息吹を描いていく。
それは命が顔を隠す12月とは全く違う世界であり、瞼を開けた時にはもうその世界は1秒前の世界へと変わり走る彼女に置き去りにされてしまった。
世界は消えてしまった、だが、その目に焼きついた輝きは残光となってグローリーデイズの網膜に焼きついている。
あの光をもっと見たい、もっと近づきたい、この手に掴みたい!!
グローリーデイズ自身も気づかぬ内に彼女はルートを辿りバ群の隙間を縫って狭苦しい場所から抜け出そうとしていた。その表情は自然と口角が上がっており、彼女の原点「いつか空に輝く星に触れたい」という純粋な願いを思い出してかそうではないか、だが僅かながらに彼女の心がまた煙を上げ始めた。
『おぉっと!ここで大外からキンペイバイが突っ込んできた!バ群中段からはグローリーデイズもアガって来ている!!』 - 152二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 06:33:48
来た! キンペイバイ!(ばるんばるんゆっさゆっさ)
- 153君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/08(火) 14:44:11
その姿に観客たちの多くは驚きの表情を隠せなかった。それまで腰部周辺を某アニメ作品のファンネルのように浮遊していただけの3つの物体はいつの間にやら5つに増えており、それぞれが展開した部分から薄絹のような光をたなびかせていた。それは揺らめく炎のようであり、春風に揺れる梅の花のようでもあった。手足の機械的ガントレットとレギンスにはビームスカートと同じ光が走っており、キンペイバイの進む一歩ごとに発生する光の軌跡が彼女の軌道を描く。総じて彼女がこれまで築いてきたサイバー系衣装の延長線上にあることを感じさせつつ、それでいてこれまでのどのウマ娘のどんな衣装とも違う異質な印象を見るものに与えている。
だが、そんな特異な衣装よりさらに目を引いたのは彼女が今いる位置であろう。
本来のキンペイバイが得意とする強い走り方と言うのは序盤から終盤にかけて足を溜めて最後尾につけながら、最終盤に入ると同時に爆発的な加速力によって前を走るウマ娘をごぼう抜きにする豪快な捲り上げである。
通常であれば先頭が第4コーナーを抜けるか抜けないかというタイミングの今はまだ後方で足を溜めつつそろそろ抜け出してくるかという頃合いであり、先頭集団の喉元寸前までに迫っていることなど彼女のレースのセオリーからすると逸脱しすぎなことである。
「おいおい、ペイバイのやついつの間にあんなところいんだよ!?てか、このペースでスタミナもつのかよ!?」
テュランダイナの悲痛な叫びももっともなものである。
だがしかし、今のキンペイバイには「全盛期」の走りをしているような余裕がないのもまた事実である。
ピークアウトによるスタミナの減少とウマソウルが原因だと思われる最高速に到達した瞬間に発生する精神と肉体の認識のズレという2つの問題が彼女の強みを完全に消してしまっていた。
今のキンペイバイはこの2つの問題を抱えながら走るために、最高速にギリギリ達しない速度かつ、肉体と精神の感じる感覚のズレに合わせるためのジョッキー走法でこれに対応していたがそれでは今のキンペイバイはG1では通用しないというのは先のエリザベス女王杯で痛感したばかりである。 - 154君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/08(火) 19:45:18
ならばもっと走りを最適化すればいいだけである。
幸いなことにキンペイバイには自身の弱点を分析してくれた最高のライバルやシンボリルドルフを始めとしたこの数年で交流を気づいた多くの存在がいる。彼女たちの助言や助けを借りながら今日この日のために修練を積み重ね続けていた。
だが、それでもなお答えにたどり着くまでの最後の1ピースが埋まらずにいた。だがその最後の1ピースはある日突然、ひょんなところから現れたのだ。
それは、マヤノトップガンに料理を教えていた時の事であった。なんでも彼女の友人であるカレンチャンが自身の担当トレーナーにお弁当を手渡しているのを見て、自分もやってみたいと思ったそうだ。
他でもないマヤノからのお願いである。気合の入ったペイバイはヒシアマゾンに頼み美浦寮のキッチンを一時拝借した。前日には雑貨屋で可愛らしいお弁当を購入して準備は万端である。
手始めにお米の炊き方から始まり、日持ちしやすい根菜系のおかず、メインのおかずと作っていき、徐々にお弁当に彩りを与える料理達が厨房に並び始めた。
「そしたらトレーナーちゃんったらね……どうしたのペイバイちゃん、具合悪い?」
料理中はいつも通りたわいもないお喋りを楽しんでいたが、上機嫌に彼女のトレーナーとの思い出話を語るマヤノは隣に立つペイバイの顔があまり優れない事に気づいた。
「あ、具合悪くないよ。…悪くないんだけどね、このまま有馬記念に行って本当に勝てるのかなぁって最近そればっかりでさ……」
キンペイバイにとって、それはあまりにも深刻な問題であった。次のレースはキンペイバイにとってのラストラン、そのレースで悔いの残るような事をすることはしたくなかった。
「そっか、次の有馬記念はペイバイちゃんのラストランだもんね。絶対、勝ちたいよね」
マヤノトップガンの最終レースとなった天皇賞春、1着でゴールした彼女は夏休みの合宿中に屈腱炎を発症し引退を余儀なくされた。そんな道半ばで終わってしまった彼女にとって、ラストランというのは一種の輝かしい憧れの舞台でもある。だが同時に自身の数年間の集大成となるレースへ挑みそれを持って引退するという事に対する重みと恐怖を想像しては、軽々しくその気持ちが分かるよなんて、そんな事口が裂けても言えない。
だから、今そこで悩む友達がいてもマヤノはどんな言葉を言えばいいのか分からなかった。 - 155君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/08(火) 20:31:21
「なんかごめんね雰囲気悪くして、じゃぁ次ゆで卵作ろっ!」
無論、マヤノのラストランの事について知っているキンペイバイは余計な事をしてしまったと焦りながら冷蔵庫から卵を取り出して鍋に水を張る。
貼った水にお酢をひと回しして卵を入れて火にかけタイマーをセットすると、それ以上の誤魔化しの口実が無くなり、何とも微妙な空気が2人の間に流れる。
「ペイバイちゃん、ラストラン走るのやっぱり怖い?」
沈黙を破りマヤノが話しかけてくる。ペイバイもそれに答え、こくりと頷く。
「でもねマヤノちゃん、私、引退するのが怖いとか最後に負けるのが怖いとかそういうのじゃないんだ。納得の出来ない走り方をしてそれで終わるのが負けることよりも怖い……」
「新しい走り方、完成させたんでしょ?まだ何かダメなところあるの?」
「うん、なんて言うんだろう、こう…肝心な事を見落としているというか、根本的なところで気づいていないことがある気がするっていうか……多分、ルドルフ先輩の言葉が少し引っかかってるんだと思う」
「前に言ってた"老いた者なりの戦い方"ってやつ?」
それは併走に付き合ってくれているルドルフに練習初日に言われた言葉であった。端的に言えばいまの自分に合った走り方をしろという事なのだろうが、いくら考えても今のジョッキー走法以上の答えには辿り着けていなかった。ピッチをあげるのもストライドを伸ばすのにももう限界がある。
何か致命的な見落としをしているのか、それとも根本的に考え方が間違っているのか悩めば悩む程に答えから遠のいている気がしてならない。 - 156君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/08(火) 21:11:40
「ルドルフ先輩もじじトレさんも自分で見つけなくちゃ意味がないってヒントまでしか教えてくれないし…う〜どうしたらいいだろ〜…」
悩むペイバイの口から特大のため息が出ると同時に、セットしていたキッチンタイマーがけたけましい音をたてて騒ぎ出す。
用意していたボウルに水を流しながら手早く卵を水の中へと落としていく。
「そういえばなんでお水から卵温めてたの?沸騰してから入れた方が早くない?」
「えっとね、お水からゆっくり加熱してあげると殻が剥きやすくなるんだ。それにこの方法でやる方が意外と硬さの調整がしやすいし、なにより熱々のお湯でやっちゃうと卵が割れちゃう事もあるんだよ」
マヤノの疑問にペイバイは得意げに答える。それを実演してみせるかのように手早く剥かれたゆで卵は傷一つないトゥルトゥル肌が輝く素晴らしい仕上がりであった。
「へぇ〜ゆっくり温めるのが大事なんだ。本当だ剥きやす……あッ!」
「えっ!マヤノちゃんどうしたの!?」
ペイバイから手渡された卵の剥きやすさに感動していたマヤノが急に声を荒げる。それに驚いたペイバイはビクリッと肩を振るわせるが、興奮したような様子のマヤノに肩を掴まれてぐわんぐわんと前後にゆすられては驚きの感情もどこかに飛んでいってしまう。
「マヤ、分かっちゃったかも!!」
この気づきこそ、キンペイバイが求めていた最後のピースであることを前後不覚寸前のペイバイは想像もしていなかった。 - 157君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/08(火) 21:38:24
マヤノの得た気づき、それは今現在のペイバイの症状に適合したジョッキー走法を変える事でもましてや追込以外の脚質に変更するなんて突拍子も無いことではない。ただ単純に"仕掛ける位置"を変えただけである。
キンペイバイのピークアウト後のスタミナ問題で1番問題視されていたのは、回復量が衰えた事により消費するスタミナが回復量を上回った事による全速力を発揮できるタイミングの減少という点に尽きる。だが、逆を言えば消費するスタミナに回復量が追いつくような走り方をすればいいとも考えられる。
マヤノの考え方はこの部分を補強するためのアイデアである。そもそもペイバイの最終盤におけるスタミナ消費が甚大な理由は持ち前の莫大なスタミナに物をいわせた爆発的加速力による脅威的な捲り上げを得意としていたからである。息を入れても全盛期ほどスタミナが回復しなくなっていた彼女はこの走り方をすると高確率でゴール前にスタミナ切れを起こしてしまう。故に最高速度に達しない速度で走るという考え方をしていたのであるが、それでは最高峰の勝負の世界では通用しない。
ならば、その爆発的捲りをもっと前から少しずつ進めればいいというのがマヤノの考えであった。
一度になんとかしようとするからダメになるのであれば、スタミナに余裕を持ちながら少しずつ前に行けばいい。ゆで卵のように少しずつエネルギー(温度・スピード)を上げていけば強みを持ったまま競合とも渡り合える。
ともすれば初歩的な事ではあるのだが、逃げと追込という極端な走り方しか経験していないペイバイにはこの考え方が中々思い浮かばないのであった。
「(ありがとうマヤノちゃん、前よりもずっと走りやすいよ!)」
実際、少し大回りをしながら足を貯めつつ前へと上がっていたペイバイのスタミナはこの時点で残り8割ほど。ここから以前は17人全員を捲り上げるために使っていたスタミナを残り数百メートルの先頭争いに全て使用できる。大丈夫、これならば持つという確信がペイバイの中にあった。
まるでワープしたかのようにいきなり先頭争いに殴り込んできたペイバイに流石のコードヘブンやベテラン組も面食らった様子であり、奇襲性という観点においてもマヤノの作戦がピタリとハマったと言えよう。まさに一発限りの隠し球である。 - 158二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 06:55:07
さすがマヤノだ、やはりブライアンズタイム系の子とは愛称バッチリなんやな
- 159君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 11:35:37
だがそれだけがこの状況を作ったわけではない。最終コーナーでの追い上げでさらに燃え上がる光のスカート、最終直線に入った瞬間ヒビの入ったように割れる影とそこから走る電撃。そのどれもが"オリジナル"とは程遠くともそれが一体誰の力なのかというのは、レースの世界に生きる物であればすぐに思いつくであろう。
「(ルドルフはんやってくれたね、あれどう見てもあんたの"神威"やろう。まさかあんたがそれ他のウマ娘に見せびらかすような真似するなんて思ても見ーしまへんどしたわぁ。いや……現役引退してるのに怪物はんや女帝はん含めて、まだその力残ってはる方に驚くべきかいな)」
コッペリオンの視線が一瞬、観客席のどこかにいるであろうルドルフの方へと向く。他を寄せ付けない圧倒的存在感とその実力でもって不動の地位を確立した厳格な生徒会長様がまさか1人のウマ娘のために自分の力を見せていたというのは彼女にとっては衝撃的なことであった。
だがそれと同時に少なくとも皇帝、女帝、怪物、その傑物達の力の一端を見せたキンペイバイという小さなウマ娘の底知れぬ実力に胸の昂りを隠せないでいるのもまた事実である。
「(うちがどれだけ探求しても結局至れへんかった場所に辿り着いて、あまつさえそれ3つも同時に使いこなすなんてな。実際に見れたのんがデカいんやろうけど羨ましおしてたまらへんで。…正直あんたの事ねぶっとったでキンペイバイ、こないに熱うさせてくれるのならもっと早うに出会いたかった!!)」
思っても見なかったダークホースの登場にコッペリオンの口角が歪む。一筋縄では行きそうもない強敵がこの最終盤に来て3人に増えた事に彼女の闘争心は燃え上がっていた。 - 160君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 18:34:27
心躍っているコッペリオンとは対照的に2番手を走るビゼンオサフネは苦虫を噛み潰した表情を隠せないでいた。
何せ彼女はレース中盤あたりから加速した速度が落ちるそぶりのない現役最強の怪物コードヘブンの相手をたった1人でしていたのだ。そして後ろには食えない先輩であるコッペリオンに、さらには最後位から猛烈な勢いで迫ってきているキンペイバイがいるのだから、まさしく前門の虎に後門の狼、現在のレース状況的に1番苦しい立ち位置にいるのは明白であった。
「(クッソッッ!なんでこう私の走るレースにはバケモンばっかり現れるんだよッ!!)」
心の中で悪態をつけど劇的な力が湧いてくるという事はない。むしろ脳裏に今まで戦ってきた怪物達の姿が蘇るだけである。
凄まじい勢いで迫ってくるBCターフの黒いチビにやたらと体がデカいお陰で後ろで走られると圧がやばかったサンタニアの巨人、フォワ賞じゃ戦争帰りかと勘違いしそうな貫禄のアマゾネスガールとだってやり合った。だがそんな怪物達すらその記憶を掠れさせてしまう程の存在を1人知っている。そのウマ娘は今年の凱旋門賞ウマ娘であり、オーストラリアから来た月毛とヒダリミミに付けた銀細工の羽根の耳飾りが特徴的で、その華奢な見た目はとても世界トップレベルの場所で戦えるようなバ体とは思えず、ビゼンオサフネもレース前に一度見ただけで特に気にも留めていなかった。
だが実際にビゼンオサフネは負けた。オーストラリアから来た日本で言えばティアラ路線のウマ娘にである。世間的には凱旋門までハナ差まで迫った大健闘だと賞賛の拍手を集めているが、彼女からしてみればみくびった相手に"ハナ差もつけられた"のだ。 - 161君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 18:34:41
そのウマ娘は全力も出し切り息も絶え絶えのビゼンオサフネの前に来てこう言った「楽しいレースだった。またやろう」と。その瞬間に彼女は悟ったこのウマ娘には勝てない、自分が彼女をみくびっていたのは彼女の実力を推し量る力が自分になかったからだと。
本当の怪物は彼女のような存在のことを指しているのだとその身を持って思い知らされた。
「(いつ思い出しても悔しくてつま先がすり減りそうになるッ!!だけど、今だけはアイツに感謝しないと。アイツに負けた今ならハッキリと分かる。目の前のこの怪物は倒せる怪物だッ!)」
コードヘブンの実力は確かに圧倒的だ。それこそ並大抵のウマ娘であれば勝負にすらならないだろう。だが、世界の強豪達と競い合ってきたビゼンオサフネだからこそ言える、コードヘブンはまだ倒せる範疇にある怪物であると。確かに理不尽な速度に理不尽な加速、おまけにずっとその速度を維持していられるともあれば絶対無敵に思えるかも知れない。
だがどんなものにだって綻びというのは必ず起こる。最初のコーナーの入りからずっとコードヘブンを外に押し出して消耗させていたお陰で僅かながらに彼女の体幹がブレ始めているのだ。つけ入る隙は必ずある。狙うは一瞬、刹那の中に隠された僅かなチャンスこそこの怪物に致命の一撃を与える好機。残り数百メートルの中で必ず訪れるその瞬間をビゼンオサフネは待ち続ける。 - 162君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 20:33:42
その2人に比べるとコードヘブンはとても穏やかで平常と言ってもいいくらいに落ち着いていた。
彼女自身はキンペイバイがきっと何か人々を驚かせるようなことをしてくるものだと思っていたし、現状はあくまで想定内であった。彼女にとってのキンペイバイというのはオークスでの泥沼の内ラチに突っ込んで自身に迫ってきたあの瞬間から自分には想像もつかない方法、力でもってワクワクするレースをさせてくれる最高のライバルなのだ。
「(来なよペイバイ、アタシっていう最強を破って見せなよ!!)」
最高のライバルのため、コードヘブンはこの一年間最強であり続けた。それはキンペイバイが復帰した時、自分が彼女に追いかけられるような存在でいるため、越えるべき壁、挑戦すべき存在であり続けるためであった。
そう、全てはこの日のこの一瞬のためにあった。キンペイバイの怪我と不調による長期離脱が発表されたあの瞬間からコードヘブンはキンペイバイとの最高の舞台での再戦だけを夢見てきたと言っても過言ではない。
だからこそ、今の彼女は興奮と歓喜の感情がオーバーフローして逆に冷静になってしまうほどであった。
ターフを蹴る自分の後ろ15人の足跡の中、左後ろから近づいてくる高サイクルで軽いのに確かに響く重低音。その足音が近づいてくるたびに心の臓が跳ね上がる感覚がする。
久しく忘れ、そしてキンペイバイとのレースで取り戻したあの感情が風と共に頬を撫でさっていく。
「(あぁ…ほんとレースって走るのって楽しいなぁ!!)」
残り100m、2つの足並みが一つになる。少女が望み焦がれたその瞬間がついにやってくる。 - 163君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 20:54:18
だがその望みが叶う直前、一刃の閃光が深緑のターフに煌めいた。
───キンッ
それはまさに刹那の出来事。居合の名人の剣の閃きが目に捉えられないように、その刃もまた目が捉えるよりも早く敵を切り払った。
『残り100m余りの土壇場!ここでビゼンオサフネが抜けたッ!!』
実況の興奮したような声、沸き立つ観客席。
コードヘブンが僅かに注意を後ろに逸らしたその僅かな瞬間を逃さなかったビゼンオサフネが一気に前へと出る。
必殺の一撃とも言えるその前進に会場のすべての人がビゼンオサフネの勝利を確信しただろう。それはビゼンオサフネ本人もまたそうであった。このままいけば勝てる、そんな確信が確かにあった。
「ナニシテルノ」
不意に背後から聞こえたその声に沸騰するような興奮した心が一瞬で冷えていく。後ろを見ることができない。もし、振り返れば得体の知れない何かに心も体も全て貪り尽くされるだろうというのが魂で感じ取れた。
「コレハ、アナタノレースジャナイ」
気づけば体は鉛を着込んだかのように重く、時間の流れもまた緩慢極まりない、有り体に言えば止まってしまっているように感じられる。
ビゼンオサフネの目に信じられないものが映る。それは確かについ先ほど抜いたはずのコードヘブンであった。だが、彼女は全身からドス黒いオーラを纏い白く透き通るような彼女のイメージの反対の印象を抱かせる。
「なんだよ…お前……」
彼女は何も答えない。ただ、このレースの主役は自分ともう1人のウマ娘なのだとそう言わんばかりに2人だけを残して世界を置いていく。
魂のかいた冷や汗がターフへとぽたりと落ちた。 - 164君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 22:42:35
コードヘブンとビゼンオサフネの間に起きた一瞬の出来事など知らないキンペイバイは残り100mを切ったあと10秒もないだろうこの直線に己の全てを賭け、持ちうる全ての力を解放していた。
4年間の道のりで得たスキル、知識、息遣い、その全てをもってしてもなお最強となったコードヘブンには僅かに届かない。あと少し、ほんの少しのきっかけさえあれば埋まりそうなのに、この数センチがもどかしい程に果てしなく遠い。
ゴールまで長くてもあと5秒。
ここまでやって尚、届かないのか。思わず下を向きそうになったその時、大歓声の観客席の騒音の中からたった2つの声を彼女の耳が拾い上げる。
「頑張れキーちゃん!」
「あと少しよ負けないで!」
それは昔からの聞き馴染みのある声。例えどれほど地に墜ちようとも決してキンペイバイの手を離さないだろうと確信できる人の声。
その声が、願いが、消えかけの闘志に再び火を灯し、あと一歩を踏み出す力をキンペイバイへと与える。
追いつけるだろうかあの背中に、追い越せるだろうか今までの自分を、叶えられるだろうかこの願いを。
瞬間溢れ出す感情が炎となって逆巻いて、揺らめくスカートの丈を増大させていく。
白き髪が吹雪と揺れるその背中を追いかけ続けた4年間だった。いつだって大舞台には彼女の姿があった。
勝って負けてを繰り返して、きっとこれが最後の勝負、泣いても笑ってもゴール板を渡り切ったその瞬間に全てが終わる。
追いつく、必ず追いつく。
悠久にも思えた最後の直線にも終わりは訪れる。それは新しい時代の幕開けであると共に古い時代の終わりでもある。
今、この世界を駆け抜けた2つの光が並びあってその終着点へと辿り着いた。 - 165二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 22:46:16
このレスは削除されています
- 166君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 22:48:24
『互いにもつれ合ってゴールイン!!大接戦に次ぐ大接戦!!今年の有馬記念を制したのは常勝無敗の最速最強のウマ娘コードヘブンか!はたまた怪我を乗り越え奇跡の大立ち回りを見せたキンペイバイか!勝敗は写真判定で行われます!!』
誰もがその瞬間を固唾を飲んで見守っていた。
キンペイバイもまた大スクリーンに映るその瞬間を待ち侘びつつも見たくないという気持ちが混ざり合って、何かしらが込み上げてきそうなそんな緊張で手を強く握り込んだ。
コードヘブンが勝ち越すのか、キンペイバイがライバルとして並び立ち矜持を見せるのか
結果は……
dice1d2=1 (1) 着
- 167君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/09(水) 22:56:43
着差
1.ハナ差
2.アタマ差
3.ムネ差
dice1d3=3 (3)
- 168二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 23:43:53
おめでとう!!
- 169二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 07:01:33
勝った……勝ってるじゃないか!
もしかしてウマソウルの持つ運命に打ち勝ってるのか!? - 170君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/10(木) 08:07:33
『判定結果により今年の有馬記念の勝者はキンペイバイとなりました!ムネ差という本当に僅かな差ではありましたが最後のあの追い上げ、あの一瞬で彼女の真骨頂が帰ってきたようにも見えました。山本さんは今回のレースを振り返っていかがでしたか?』
『そうですね、まずは12フィニッシュになったキンペイバイとコードヘブンの2人の競り合いは文句無しに素晴らしかったですね。私としては久々の国内レースになったビゼンオサフネが一瞬抜けた瞬間に興奮してしまいましたが今回は3着でしたからね、次回のレースに期待したいところです。』
大いに盛り上がる実況とそれ以上の熱気でもって大歓声を上げる観客達。その視線の先にいるのは最高のレースを見せてくれた2人のウマ娘であった。
「これで引き分けだね、ヘブンちゃん」
「そうだね、引退してもまた走らなくちゃいけない理由が出来ちゃったよ」
少し息が上がって膝に手を置くコードヘブンに今度はキンペイバイが手を伸ばす。お互いの全力を出し合った結果に両者共に悔いはなく、勝者と敗者という関係ながら勝敗を超越した喜びがそこにはあった。
「あの時、あんたがアタシの手を取ってくれなかったら多分今、ここに立ってなかったと思うし、レースが楽しいなんて気持ちも思い出せなかったと思う。ありがとう、ペイバイ。最高に楽しいレースだったよ」
「こっちこそ、私が戻ってくるまで走り続けてくれてありがとう。ヘブンちゃんがいたから私もここまで強くなれたし、走って来れた。また一緒に走ろうねヘブンちゃん」
約束の握手とそして抱擁。最初の出会いこそ最悪だった2人は今では互いに切磋琢磨し、お互いを鼓舞し合いながらついにこの場所まで辿り着いた。
それは長く苦しく、時には不条理に押し潰され涙の流れる事もあった。だがその経験全てが今この瞬間、笑い合う2人の笑顔で全て意味のあるものとなった。
2人の手には今、走り抜きゴールまで辿り着いた者へのトロフィーとしてのハッピーエンドが確かに握られていた。 - 171二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 17:49:19
保守
- 172二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 17:53:18
俺の息子も感動の涙を流している!
- 173君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/10(木) 18:57:20
ちなみにこの有馬記念の実馬の方の結果は
dice1d16=9 (9) 着
- 174二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 19:03:11
最後に思い切りソウルをねじ伏せたな
- 175二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 21:15:52
このレスは削除されています
- 176二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 22:04:46
このレスは削除されています
- 177君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/10(木) 22:39:14
大歓声がターフを去る2人のウマ娘に贈られる。
それは偉大なウマ娘がトゥインクルシリーズという晴れ舞台から一戦を退く事を悲しむ声でもあり、彼女たちのこれから進む道が素晴らしいものである事を願う声でもあった。
競争ウマ娘 キンペイバイ
生涯戦績18戦8勝
主な獲得タイトル 「秋華賞」「天皇賞(春)」「ジャパンカップ」「有馬記念」
競争ウマ娘 コードヘブン
生涯戦績19戦16勝
主な獲得タイトル「桜花賞」「オークス」「有馬記念」「マンハッタンステークス」「ソードダンサーステークス」「天皇賞(秋)」「ジャパンカップ」
握手の拒否から始まった2人の伝説は、幾たびもの衝突と激しい戦いの物語を辿り、固く結ばれ天に掲げられた2人の手によって締めくくられたのである。 - 178二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 00:24:36
ウイポでしか見ないような成績しとる
- 179二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 06:51:35
コドヘちゃんつっよ。これを負かしたペイバイちゃんは伝説になるな
ペイバイちゃんもヒダリミミで天皇賞春を制覇してるし、この世代はまさにおひんばの世代 - 180二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 17:27:52
ペイバイ以外も戦績気になる
もしやコドヘ完全連対なのでは - 181君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/11(金) 18:18:04
簡単ではありますが内容の決まっているコードヘブンだけ出しておきます。
<ジュニア期>
メイクデビュー 1着
札幌ジュニアS 1着
東京スポーツ杯ジュニアS 1着
<クラシック期>
シンザン記念 1着
チューリップ賞 1着
桜花賞 1着
オークス 1着
秋華賞 2着
<シニア期1年目>
オールカマー 1着
アルゼンチン共和国杯 1着
ジャパンカップ 2着
有馬記念 1着
<シニア期2年目>
京都記念 1着
阪神ティアラステークス 1着
マンハッタンステークス 1着
ソードダンサーステークス 1着
天皇賞(秋) 1着
ジャパンカップ 1着
有馬記念 2着(史実1着)
生涯成績
ウマ娘:19戦16勝3敗(完全連帯)
史実:19戦17勝2敗(完全連帯)
- 182君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/11(金) 18:30:06
その他のメンツも簡単にではありますが主な勝ち鞍くらいは出しておきます。(あとは皆さんのお好きなように肉付けしてあげてください)
テュランダイナ
主な勝ち鞍:「安田記念」「香港マイル」「紫苑ステークス」
引退レース:「香港マイル」(シニア1年目)
生涯成績:16戦6勝
リリスファタール
主な勝ち鞍:「エリザベス女王杯」
引退レース:「エリザベス女王杯」(シニア1年目)
生涯成績:12戦4勝
フェルティローザ
主な勝ち鞍:「阪神JF」「エリザベス女王杯」
引退レース:「エリザベス女王杯」(シニア2年目)
生涯成績:32戦8勝
プリムモカ
主な勝ち鞍:「スプリンターズS」
引退レース:未定(シニア1年目)
生涯成績:11戦5勝 - 183二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 19:09:48
19戦完全連対の五冠馬で、その上シンザン記念を勝っているところがとても良い
- 184君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/11(金) 19:53:11
激闘を演じてくれた強い先輩方2人の分も載せておきます。(ドーベルの妹分と3冠バくんはご自由にご想像ください)
x.gdちなみに画像貼れなかったので、ビゼンオサフネさんの外見イメージのアイラちゃんと元ネタのビゼンオサフネ↓に載せておきます。基本容姿はまんまです
- 185君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/11(金) 20:17:20
ウイニングライブが現在の形式で開かれる事になったのは戦後間も無くのことである。世界中が争いの傷跡に苦しみ、一歩進む毎に荊の棘が全身に傷跡をつけるようなそんな世界でとあるウマ娘が誰か1人でも多くの人を笑顔にできればと、たった1人レース会場の隅で流行りの曲を歌ったことが最初のウイニングライブであった。
それ以前にも勝利を祝ったり、祝砲を上げるというニュアンスでダンスや舞が行われる事はあっても、それは太古から続く「戦い」としてのレースの所作の一つであり、所謂大衆向けの今のようなライブのそれとは全く違うものであった。
そんな中、1人の少女が始めたこの取り組みは徐々に徐々にその波を全国、そして世界へと広がることとなっていく
それから時代は流れて数十年、今ではウイニングライブはウマ娘のレースとは切っても切り離せないほどに密接な関係となりレースにあまり関心がなくてもライブだけを訪れる、そんな人までいる程である。
各レース毎に歌う曲というのは別々であり、有馬記念という1年の締めくくりに全国を沸かせる強豪達が歌うのは、先立つ者への挑戦と後から追いかけてくる者への先達者としての矜持、そして去り行く者たちの最後に燃える炎の煌めき、それらが全て込められた詩。
頂点に立つものしか見れないこの景色の中心に立つ、一際小さな人影。きっと誰の記憶にも残る季節外れの梅の花はステージのライトでさらに輝きを増し、見るもの全てを熱狂させたのであった。
- 186君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/11(金) 21:51:21
ラストライブを見届けた紳士達の興奮比(相対比)
感動:dice1d100=62 (62)
劣情:dice1d100=93 (93)
- 187二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 21:58:47
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- 188君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/11(金) 22:01:25
劣情6割感動4割でここまで我慢していた分がついに超えてしまったようです。
諸兄方のコメント
1,胸がデカすぎる。動くたびにOカップπが揺れて目に悪いのでもっと動いてくれ。#ペイパイで救える命がある
2.胸もデカいが尻もデカい。デビュー当時から応援していたがムチムチ…いや健康的に育ちすぎて頭がクラクラしてくる。早く子供の顔を見せて安心させて欲しい
3.繁殖牝バになる為に生まれてきたような体だねw恥じらいはねぇのか
dice1d3=1 (1)
- 189二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 00:46:50
劣情93が満ち満ちたライブ会場、ヤバそう
- 190君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/12(土) 08:25:13
次スレからはエピローグとして要望のあったクリスマスのお話、その後に後輩とキンペイバイのお話、そして最後に卒業後の話をする予定ですがそれぞれのイベントでやって欲しい事、これ以外にやって欲しい事、振って欲しいダイス等ありましたらぜひご意見お待ちしております。
ちなみに、このスレ全体の終了後にキンペイバイやコードヘブン含めたこのスレの子達は皆さんの好きなように(限度はありますが)使えるように設定を簡単にまたまとめた物を公開したいと思います
なにか質問などありましたらご気軽にお申し付けください。 - 191二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 13:28:58
トゥインクルシリーズ挑戦終了後までやってくれるのありがてぇ……アフターまで手厚いオリウマスレの鑑
……初ぴょいをどっちが先に誘ったのかだけダイス振ってもらっていいですか - 192君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/12(土) 18:03:14
- 193二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 18:26:49
- 194二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 18:37:47
このレスは削除されています
- 195君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/12(土) 18:38:26
- 196二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 19:26:06
あの…最大値ギリギリ
- 197君は繁殖牝馬になれるちゃん24/10/12(土) 19:37:53
- 198二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 19:57:37
有馬記念で運命を破って以降、久しぶりにダイスがスレタイ通りになったな……
- 199二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 22:42:44
埋めるぜ!
- 200二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 10:16:33
乙です