【SS】アツコが夏祭りに行く話

  • 1124/09/20(金) 17:50:44

     秋とはいえ、まだまだエアコンが手放せない残暑。
     道端で配っていたうちわで涼んでいると、モモトークの通知音が部屋に響いた。
     メッセージの送り主はアツコ。儚げな印象からは考えられないほどお転婆なところがある、アリウススクワッドのお姫様だ。

    『先生、これは何?』

     そこに添付された写真には、私が貰ったものと全く同じうちわが写っていた。アツコもこの近くにいるのだろうか。

    “それはうちわだね”
    『この模様は何?』
    “「祭」って字だね。百鬼夜行でお祭りやるみたいだよ”
    『これで「祭」って読むんだ。言われてみれば確かにそう見えるかも』

     実のところ、アツコと私はアウトロービーチで行われていたお祭りに参加したことがある。ヘルメット団が主催しているだけあってどことなく危うい匂いが漂っていたが、現在指名手配中のアツコたちが大手を振って参加できる数少ないイベントだった。
     とはいえ、お祭りというものの楽しさを学んだアツコがこの後言い出すことは、何となく想像がついた。

    『ねえ先生、私もそのお祭りに行ってみたい』

     予測通りだ。さて、と腕を組んで考える。エデン条約の事件以降、アリウススクワッドの4人は逃亡中の身だ。恵まれない環境下にいた彼女たちのために身を隠すことを推奨した私からすれば、「お祭り」という大人数が参加するイベントは避けてほしいのが実情だ。
     しかし、せっかくアツコが「やりたい」と思っていることに水を差すのもよくない。生徒の自主性を重んじるならば、笑顔で見送ってやるのが筋というものだ。それにアツコならばもし見つかっても上手く逃げ切れるだろう。元アリウスの実働部隊は伊達ではないのだ。

  • 2124/09/20(金) 17:51:48

    “いいんじゃないかな。明日と明後日やるっぽいし”
    『うん、それじゃあ明日百鬼夜行の商店街前で』

     えっ、と声が出た。いつの間にか私も行くことになっていたのだが、どういうことだろうか。

    “アツコが1人で行くんじゃないの? それかミサキかヒヨリを誘ったりして”
    『それでもいいんだけど、私は先生と行きたいな』

     アツコが自分の意思をこう明言するということは、私が何と言おうとも引き下がるつもりはないのだろう。頑として拒んでもよいのだが、私がいることで回避できる問題事もあるのも事実。

    “分かった。それじゃあ明日の夕方の5時ね”
    『うん、待ってる』

     ちょうど明日は仕事量が少ない日でもある。椅子に座りっぱなしで鈍りきった身体を動かすにも、お祭りで巡り歩くのは最適と言ってもいいのではないだろうか。

    “それにしても、百鬼夜行のお祭りかぁ”

     目を閉じると、脳裏に思い浮かぶのは幼き日の祭りの風景。値段も気にせず屋台の食べ物に舌鼓を打ち、神輿を担ぎ、友人と普段は立ち入れないような場所に入ってみたりしたあの頃。
     大人になってからは祭りに参加することも少なくなっていた。何せ疲れるし、食べ物は割高だからだ。貧乏学生にとっては敵と言っても差し支えない。

    “でも、楽しみだなぁ”

     しかしまあ、この程度の浪費だったらユウカも大目に見てくれるだろう。
     兎にも角にも現状私がするべきことは、心置きなく祭りに出向くため、今のうちに仕事をできる限り終わらせることだけだ。

  • 3124/09/20(金) 17:53:06

    「あっ、先生。こっちこっち」
    “待たせてごめんね、アツコ”
    「ううん、私も今さっき着いたばっかり」

     どこかで見たような掛け合いをしながら、私はアツコと合流する。普段から口数少なく泰然とした立ち居振る舞いのアツコが、今日は祭りの熱気に中てられてかやけにそわそわしている印象を受けた。
     遠くから笛や太鼓の音色、それに元気のいい掛け声が響いてくる。どうやらここでも神輿か山車が動いているらしい。

    「すごく元気なお祭りだね。楽しくなっちゃう」
    “とりあえず、いろいろと見て回ってみる?”
    「うん。アウトロービーチのお祭りともまた違う。これが百鬼夜行のお祭りなんだ……」

     私たちは提灯の輝く通りを、どこへともなく歩き始める。客寄せの声があちこちから聴こえてきて、焼きそばソースの焦げる臭いも芳しい。この空間にいるだけで自動的に胃が空っぽになっていきそうだ。
     それに人の往来が激しい。私もどうやら無意識のうちに心が躍っていたようで、アツコを隣ではなく後ろに置いたまま進んでいたことに気付いた。

    “アツコ? いるよね?”

     そう言いながら私が振り返ると、目の前には私に向かって不安げに手を伸ばすアツコの姿があった。
     アツコはその右手をすっと後ろに戻して、「先生早歩き過ぎだよ」と笑っている。心配をかけさせてしまったようで、申し訳なく思えてくる。

  • 4124/09/20(金) 17:54:34

    「先生、ひょっとして興奮してる?」
    “うん、少し。私もこういうお祭りは久しぶりだから”
    「キヴォトスの外の話?」
    “そうだね。過去を思い出しちゃって”

     また歩き出す。今度はできる限りゆっくりと、アツコがついてきているのを確認しながら。隣同士で並んで歩いてもいいのだが、それだと往来の邪魔になりかねない。
     祭りというものは人の心を良くも悪くも興奮させるもので、肩がぶつかっただけでも難癖をつけられかねないのだ。ましてや通行の邪魔をするなんて論外もいいところ。
     しかし、後ろに気を配りながら歩調を合わせるというのも難しい。ならばどうするべきか。

    “アツコ。もしよければなんだけど、手を繋いでもいい?”
    「え? 手を?」
    “はぐれちゃったらいけないからさ”

     先程アツコが伸ばしていた右手がピクリと動く。アツコは少し逡巡した後、可憐な笑みを浮かべながら私に同じ右手を差し出してきた。

    「それじゃあお願いね、先生」
    “任せて。アツコも何かやりたいものとかあったら言ってね”
    「うん。とりあえず、この通りの最後まで見てみたいかな」
    “了解。それじゃあゆっくり歩こうか”

     そうして私たちは、一歩一歩を踏みしめるように歩く。繋がれたアツコの柔らかい右手があまりに温かくて、それが年甲斐もなく気恥ずかしくて、思わずアツコを引きずるように歩調を速めてしまいそうになる。
     こんなお祭りは学生時代にも経験したことがない。女の子の手や指というものはこんなにも細かったものかという新たな学びと共に、いつしか私たちは通りの突き当たりまで来ていた。

  • 5124/09/20(金) 17:55:47

    “何か気になるものはあった?”

     また振り返った先で見たアツコの顔は、提灯の灯りに照らされて赤い。いつしか手の繋ぎ方も私が一方的に握るようなものではなく、お互いに指を絡めたものになっている。
     その様子を私は、どうしようもなく美しいと思ってしまった。

    「うーん……あんまりよく分からなかった」
    “分からなかった?”
    「初めて見るものが多くて……美味しそうなものがたくさんありすぎて、どれがいいかも選べなくって」

     確かに道の両端には屋台がずらりと並び、肉や油のいい匂いが混然と入り混じって私の嗅覚を刺激してくる。縁日も射的や輪投げといった楽しそうなアトラクションばかりで、あまり外界での経験がないアツコが迷うのも頷ける。

    「先生は、どれがいいと思う?」

     そうなると、一旦私に判断が委ねられる。ここは男として、アツコをきちんとエスコートしなければならない。

    “じゃあ……金魚すくいとかどう?”
    「金魚すくい?」
    “やってみれば分かるよ。ほら、あそこにある”

     金魚すくいの屋台に向かうと、地面に置かれた縁の短い水槽の中で金魚が十数匹ひらひらと泳いでいた。呆気にとられているアツコをよそに、私は屋台を取り仕切る生徒に話書ける。

  • 6124/09/20(金) 17:57:50

    「いらっしゃい、金魚すくいやってきます?」
    “ああ、2回分いいかな。これ、お代ね”
    「はいよ2回分ね、そちらのお嬢さんと1回ずつ、合わせて2回で?」
    “それで大丈夫。あ、金魚は持って帰りたくないんだけど”
    「構いませんよー! じゃあこれ、先に渡しときますね!」

     元気のいい「ご武運を」の掛け声と共に、お椀とポイが2個渡される。そのうち1個ずつをアツコに手渡すと、私は水槽の前にしゃがみこんで金魚を見定める。

    「えっ、先生。これ紙……これで金魚をすくうの?」
    “そうだよ。私がお手本を見せるから、そこで見てて”
    「う、うん」

     狙うは動きの遅い黒の出目金。さあ、勝負だ。自分の中では光速と見紛う速さでポイを出目金に添え、その勢いのまま金魚を――――

    「…………あっ」
    “おう…………”

     うん、まあ。そもそも最後に金魚すくいをやったのもだいぶ前のことだから。
     ポイに張られた薄紙はあっさりと破れ、出目金が虚しく水面を泳ぐ。

    「あちゃー、じゃあ残念賞の飴ちゃんね!」
    “……どうも”

     やけに慣れた手つきでイチゴ味の飴を渡された。これはシャーレに帰ってから食べるとしよう。

  • 7124/09/20(金) 17:58:46

    「それじゃ次はお嬢さんね! やり方は今ので分かる?」
    「分かる。この紙を破らないで、金魚をこのお椀に入れればいいんだよね?」
    「そういうこと! じゃあ、スタートォ!」

     威勢のいい掛け声とともに、アツコの表情が真剣になる。金魚の動きは遅いようで意外と掴みにくい。アツコはどの金魚を狙うか、どうやってお椀まで運ぶかを考えているようだった。
     そして覚悟を決めたように、水に向かってポイを伸ばす。袖口が濡れるのも厭わずに、ポイを金魚に悟られぬように近づける。ここからが正念場、一か八かの大勝負だ。

    「――――えいっ」

     電光石火。喧騒が静まり返ったかと思うほどの1人と1匹の世界の中で、残ったのは破れたポイとお椀の中で苦しそうに泳ぐ金魚の姿だった。

    「お見事! お嬢さん1匹獲得!」
    “すごいねアツコ! 初めてなのに!”
    「……ふふ、瞬発力には優れてるつもりだから」

     口では自慢げだが、目線や仕草からは女の子らしい照れを感じる。その自身を取り繕おうとする無邪気さがまた愛おしい。

    「その金魚、持ち帰らないんだよね?」
    「持ち帰れるの、この金魚」
    「いや、さっきそこの人が『持ち帰らない』って言ってたから」

     言われてアツコが私とお椀の中の金魚を交互に見る。そして小さく一息ついたかと思ったら、お椀をテキ屋の生徒に渡した。

    「ううん、気になっただけ。……飼える環境にないから」
    「ああ、寮とかだとねぇ。じゃあ1匹とれたご褒美に飴ちゃん3個あげる!」
    「飴を?」

  • 8124/09/20(金) 17:59:27

     アツコが差し出した両手に、飴が数個パラパラと置かれる。3個どころかその倍くらいはありそうなものだが、指摘するのも野暮というものだろう。

    “アツコ、後ろがつかえてるから早く行こう”
    「えっ、あ……ありがとう」
    「はいよ、またおいでね! 明日もやってるから!」

     元気な声を背中で受け止めながら、私たちは喧騒の中に戻る。握りしめたアツコの右手は、袖と同様に先程の水で冷たく濡れていた。

    “楽しかった?”

     私がアツコにそう訊くと、気恥ずかしそうな笑みが返ってくる。

    「うん、楽しかった。金魚も綺麗だったし……先生も面白かった」
    “あはは……、カッコいいところ見せようとしちゃってね。力が入っちゃった”
    「キャンディも貰ったし……これで、しばらくエネルギー補給には困らない」

     アツコは放浪の身だ。少しの食糧でも、この先の生活で大事なものになるのだろう。今屋台で並んでいる割高な食べ物なんかは、コストパフォーマンスが低すぎてとてもじゃないが手を出せない。
     だからこそ、この場は私が出張る必要があるだろう。

    “アツコ、私そろそろお腹が減ったな”
    「お腹が? ……私も、減ってるけど。ここで食べるの?」
    “食べながら歩くと誰かにぶつかっちゃうかもしれないし、一旦買い込んでどこかで座って食べよう”
    「食べ歩きもできるんだ。……でも、先生と2人で落ち着いて食べたいし。分かった」

     飴がある以上食べる必要がないと言われたらそれで終わりだったのだが、アツコは快く私の話に乗ってくれた。そうと決まれば話は早い。

  • 9124/09/20(金) 17:59:51

    “じゃあ、アツコは何が食べたい? いろいろあるよ”
    「それじゃあ……あの、『フリフリポテト』っていうの」
    “いいね、何味がいい?”
    「うーん、分からない……コンソメ?」

     そうして私たちはポテトやたこ焼き、焼きそばといったお祭りの定番料理を買い込んだ。食べ物が渡される度に私の右手に握られたレジ袋は膨らみ、香ばしい匂いを一面に撒き散らす飯テロ兵器となっていく。
     「私も焼きそば食べよっかな」という声が人だかりのどこかで聴こえると、私たち2人は顔を合わせてにんまりと笑う。大したことではないのだが、少しばかりいいことをしたような気分になったからだ。

     そして、喧騒から少し離れた誰もいない神社の石段に2人で腰かける。アツコは早速ちゅるちゅるとパックの焼きそばを啜り、その美味しさに喜びの声を上げる。

    「んっ、美味しい。味が濃いね、この焼きそば」
    “あれだけソースの匂いをさせてればね。他にもこのポテトはアツコの分ね”
    「うん、ありがとう先生。これ全部食べきれるかな」
    “食べきれるよ。アツコは若いもの”
    「先生だって若いよ、きっと」
    “きっとかぁ……”

     下の方では、ホイッスルの音と共に山車が牽かれている。法被姿の生徒たちがわっしょいそーれと歓声を上げながら群衆を湧かせる。

    「百鬼夜行のお祭りって、こんなに楽しそうなものだったんだね」

     アツコがどこか他人事のように言う。それを私は、ある程度の諦観と共に聴く。
     当然と言えば当然だ。アツコはそもそもトリニティはアリウス分校の人間。さらに指名手配犯で、表立ったことはできない。
     このお祭りでやったことだって、金魚すくいに食べ物を買い込んだことくらいだ。大人の私ならばともかく、生徒であるアツコがお祭りを堪能したとはとても言えないだろう。

  • 10124/09/20(金) 18:02:10

    “何だか、私ばっかり楽しんじゃってたかな”
    「ううん、私も楽しかった。……本当に、楽しかったから」

     コンソメ味のポテトを口に運びながら、アツコが話す。その表情は今日あったことを噛み締めるような、穏やかで柔らかい笑顔。

    「私、百鬼夜行のお祭りについて何も知らなかった。アウトロービーチの時とは違う……こんなに賑やかで、みんな楽しそうで……」
    “……そうだね。お祭り運営委員会の子たちが頑張ったんだよ”
    「金魚すくい、楽しかった。きっと射的も輪投げも、やってみたら楽しいんだろうな」

     眼下に広がるのは幾千もの灯り。夜の闇の中で光る、人々の賑わいの証だ。

    「私、先生と一緒にここに来れてよかった」
    “アツコ……”
    「先生は、楽しかった?」
    “……楽しかったよ、本当に。アツコと一緒だったから、いつもよりずっと楽しかった”

     これは紛れもなく本当のことだ。アツコがいたから、大人らしからぬはしゃぎ方をしてしまったのも事実。

    「先生、私ね? 先生の……――――」

  • 11124/09/20(金) 18:03:15

     アツコのその言葉は、最後まで私の耳には入らなかった。
     ドン、と大きく爆発音。次いで、辺り一辺が急激に明るくなる。

    “あっ、花火だ!”
    「えっ、花火?」
    “上見て、上!”
    「――――わぁ……!」

     大輪の花火が、夜空を彩り始める。百鬼夜行特有の何発もの一瞬の美が闇を照らす。
     そういえばキヴォトスの外で花火を最後に見たのはいつだっただろうか。その時、誰かと一緒だっただろうか。
     ふと、石段に置いた私の右手に、いつの間にかアツコの左手が添えられていた。

    “…………アツコ?”
    「ふふ、何だかロマンチックだね、先生。お祭りから少し離れたところで、先生と私の2人きり」
    “そうだね。ところで、今何て言おうとしたの?”
    「さあ……忘れちゃった。いつか思い出したら言うね」
    “……そっか”

     カメラは持ってきていないという。バッテリーが切れたあのカメラを、アツコはずっと大事にしているのだろう。
     私も同じように、今日ここでアツコと見た花火を忘れない。忘れようにも、あまりに鮮やか過ぎて忘れられそうにない。

    「――――綺麗だね、先生」
    “うん、本当に綺麗だ”

     主語のない言葉の応酬は、それでも本音だ。凛と咲く彼女の横顔が光に照らされる姿はあまりに可憐。
     この笑顔がずっと咲き続けていられることを、私は心から願っていた。

  • 12124/09/20(金) 18:04:50

    以上! 友人から「アツコを題材にSS書いてみて」と言われたので書きました!
    そしたら個人的には傑作に仕上がったのでこちらにも放流することにしました!
    モチーフになった楽曲はジッタリンジンの「夏祭り」です!

  • 13124/09/20(金) 18:06:39

    何かSS書いてほしいキャラとかいましたら日付が変わるまでに書き込んでください! 頑張って書きます!
    もし案が来なかったら私がいろいろ搾り出して書きます! でも案出してくれた方がありがたいです!

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 18:22:53

    いいSSでした。アツコを夏祭りに連れて行ってくれてありがとう…

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 18:25:55

    乙~。穏やかないいSSだった。
    アリスクが平凡な女子高生の日常を送るSSはなんぼあってもええもんや…

    アリスクで祭り2日目を堪能する話かなぁ

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/20(金) 19:06:32

    個人的にはアツコの次なら、ヒヨリと一緒に行きたい感はある

  • 17124/09/21(土) 00:08:51

    了解です。ヒヨリで夏祭り、書いてみます

    待ってる間のお通し代わりに、私のこの掲示板での過去作を載せておきますね

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  • 18二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 00:59:25

    なるほど、イロハの文豪の人だったか。納得したよ。
    こうして並べられるとお通しというよりも、フルコースの1品だなこりゃ

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 12:39:40

    保守

  • 20アツコ推し24/09/21(土) 13:04:48

    良い物を見れた…

  • 21124/09/21(土) 16:48:51

    書けた! 18時付近にヒヨリの話を投稿します!

  • 22124/09/21(土) 17:50:36

     アツコにせがまれて、百鬼夜行での祭りに繰り出したその翌日。

    『先生、アツコちゃんから聞いたんですけど』
    『アツコちゃんとお祭りに行ったって』
    『本当ですか?』

     ヒヨリからこのようなモモトークが届いた。

    (アツコ……よっぽど楽しかったんだなぁ……)

     心の底から私とのお祭りを楽しんでくれたのはこちらとしても嬉しいが、それを他の子に語ったとなれば話は変わってくる。

    (そうなるとヒヨリも連れ出さなきゃ、不公平になるからなぁ……)

     ふと、あの場で財布から飛んで行ったお金を数えてみる。全体的に見れば大層な痛手ではないものの、家計簿をつけていたなら金額を書いた瞬間に眉を顰めることになるレベルの出費だったことは間違いない。

    “ああ、うん。行ったよ”
    『アツコちゃん、すごく楽しそうに先生とのお祭りのこと話してて……』
    『あんなにきらきらした笑顔のアツコちゃん、私でもそんなに見たことなくって』
    “そんなにだったか……”

     さすがに神社の石段での思い出は話していないことを信じたい。もし少しでも誇張されていようものなら私は「先生」ではいられなくなるかもしれないからだ。

    『百鬼夜行、私行ったことないんですよね』
    “そうだったんだ?”
    『はい。基本はトリニティ自治区内の廃墟に潜んでいるので、あまり遠出する機会はないと言いますか』

     確かに、電車に乗るのにも金が必要だ。医療品すら道端に落ちていたものを使おうとしていたことを思い出すと、日々の暮らしを送ることで精一杯なのだろう。

  • 23124/09/21(土) 17:52:42

    『……あの、先生』
    “どうしたの?”
    『その、烏滸がましいことなのですが……今、何をしていらっしゃるんですか?』
    “シャーレで仕事してるよ”
    『もし先生がよろしければなんですが、私もそのお祭りに連れて行ってくれませんか?』

     そんな状況にあるヒヨリが昨日のことを知ったら、このような話の運びになることは分かっていた。
     ヒヨリに悪気がないのは分かっているし、こちらも連れていくことは満更でもない。財布から金が飛んでいくだろうことに目を瞑れば、ヒヨリたちにはできる限り良い思いをさせてやりたいというのが本音だ。

    “ミサキは今どうしてるの?”
    『ミサキちゃんにもお祭りはどうかと聞いたんですが、「人がいっぱいいるところは頭が痛くなる」って』
    “ああ……、なるほど”
    『ということで、もし行くのならば私1人になりそうなんですが……』
    “アツコは?”
    『アツコちゃんは「昨日で満足した」って言ってました』
    “そんなにだったかぁ……”

     アリウス出身の子はどれだけ娯楽に縁がなかったのだろうか。行方をくらませたあの悪い大人の顔を思い出して、一瞬口から何か悪いものが出そうになる。

  • 24124/09/21(土) 17:53:48

    『どうでしょうか……?』

     スマホの向こうに、泣きそうになっているヒヨリを幻視する。

    “分かった。今から百鬼夜行に来れる?”
    『いいんですか!? こんなに恵まれるなんて……もしかして私、この先でとんでもない不幸に巻き込まれるんじゃないでしょうか』
    “電車賃ある? なければ私が迎えに行くけど”
    『電車賃まで出してくれるんですか!? これはもうダメそうですね……』

     とりあえず、この後ATMでお金を下ろしてくることが第一予定に入った。電車での往復を含めても、大体2万円あれば足りるだろう。
     まあ、ヒヨリたちが元気そうで何よりだ。そう思うことにした。

  • 25124/09/21(土) 17:55:17

    「す、すごい人の熱気ですね……。これが、お祭り……」
    “ヒヨリはこういうの、初めて?”
    「はい。アリウスではお祭りなんてありませんでしたから」

     百鬼夜行は観光業も盛んだ。特にお祭りシーズンともなると、キヴォトスの各地から観光客が大勢やってくる。その中に指名手配犯がいようと、おそらくは分からないだろう。「木を隠すなら森の中」とはよく言ったものだ。
     ヒヨリは屋台や人の往来に目を白黒させながらも、まずどこに向かうかを物色していた。トリニティと百鬼夜行では文化が違う。文化が違うということは、何を食べるかもまた異なるということだ。せっかくの機会なのだから、珍しくかつ美味しいものを腹一杯に食べさせてやりたいところだ。

    “じゃあ、まずどこ行こうか”
    「この道の両脇に広がっているのは……全部、お店なんですか?」
    “そうだね。遊べるところもあれば、食べ物を売ってるところもあるよ”
    「その、お金持ってないんですけど……」

     それは知っている。電車賃すら出すのに苦労していたのだ。

    “いいよ。今日は私が出すから”
    「本当ですか! うわぁ、えっと、それならあそこのたこ焼きがまずは気になります」
    “たこ焼き? いいよ”
    「たこ……どんな味がするんでしょうか」

     屋台の前に行くと、法被姿の生徒が針を使って器用にたこ焼きを作っている。ヒヨリはその手捌きに驚いているようだったが、すぐに私に向き直って目を輝かせる。

  • 26124/09/21(土) 17:56:40

    「これ、すごくいい匂いがします。でもたこはどこに……?」
    “生地の中に脚の部分が入ってるんだよ。ソースと鰹節をかけて食べるのが主流かな”
    「百鬼夜行の人はすごいですね……たこを食べるなんて」
    「おっ、百鬼夜行は初めて? たこ焼き食べな! うちのたこ焼きは超一流さ!」

     ヒヨリの物珍しそうな目つきを感じ取ってか、テキ屋の生徒が声をかけてきた。これはここで買わなければ情がないというもの。

    “私は初めてじゃないんだけど、こっちの子はあまり外に出たことがなくってね。せっかくだし美味しいもの食べさせてあげたくって”
    「それでうちを見つけたってわけ。光栄だねぇ!」
    “あはは、それじゃあ2人前お願いできる?”
    「あいよ! 焼きたてをあげちゃうね!」

     そうしてあっという間にたこ焼きが紙の舟に乗せられていく。手渡されたのは7個が2人分。傍らの看板を見るとでかでかと「1人前6個 300円」と書かれているのだが。
     私が怪訝そうな顔をすると、テキ屋の生徒は黙って私にウインクをしてきた。ここは何も知らないふりをして善意に甘えるのがいいだろう。

    “ありがとう。美味しくいただくよ”

     そう言いながら舟を1艘ヒヨリに渡すと、その熱さに声が上がる。しかしすぐにその驚きは好奇心に、そして食欲に満ち満ちた表情に変わっていく。

    「こ、これがたこ焼き……」
    “中はかなり熱くなってるから、一口で食べちゃ――――”
    「はぐっ…………んー!? んーっ!」
    “ああ……”

     私が忠告を言い終わらないうちに、ヒヨリは一口サイズに丸まった熱々のたこ焼きを頬張ってその熱さに悶え始める。鞄の中に常備していた水を渡すと、あっという間に500mlがヒヨリの喉の奥に消えていった。

  • 27124/09/21(土) 17:58:00

    「し、舌を火傷してしまいましたぁ……。もう終わりです。お祭り、こんな罠があったとは……」
    “大丈夫だよヒヨリ、他にも楽しいものはいっぱいあるから”
    「うぅ……こうなったらやけくそです。他の美味しいものも食べないと収まりがつきません……」
    “悔しさに震えるのはいいけど、気を付けてね。いつかのゴリゴリ君みたいに落としたらダメだよ”

     その後も私は屋台の食べ物を片っ端から買ってはヒヨリに与えていった。いかせんべいなんかは好き嫌いが分かれるかと思われたが、物珍しさに眉を顰めながらもヒヨリは美味しそうにバリバリと咀嚼していた。

    「食べ物の選り好みなんて、できませんでしたから。えへへ……」

     アリウス自治区の、あの荒廃した風景を思い浮かべる。
     キヴォトスらしからぬ曇天に荒れた家屋。細い路地はどれもがスラムと化していて、とてもじゃないが子供がただで生きていけるような環境ではない。

    「でも、百鬼夜行の食べ物はどれも美味しいですね。幸せです……。ミサキさんにも、食べさせてあげたかったですね……」
    “ミサキにも、何か買っていこうか”
    「いいんですか? ミサキさんもきっと喜ぶと思いますけど……」
    “大丈夫。私には大人のカードがあるから”

     ならば、この場にいないミサキにも、少しでもお祭りの気分を味わわせてやりたいと思うのは当然だろう。
     少し辺りを見回してみると、土産物を取り扱っているらしき屋台村が広がっていた。アツコと来た時には目もくれなかった場所だ。

    “あそこでいろいろと売ってるから、見てみようか”
    「うわぁ、ありがとうございます! とても嬉しいです……!」

     そこで売っていたものは先程まで私たちが食べていたものとは違い、饅頭や最中のような百鬼夜行特有の冷えたお菓子が多かった。
     観光客に向けて保存の効くものを、という配慮だろう。値段も手頃なものが多い。ふとすれば買い過ぎてしまいそうなほどだ。

  • 28124/09/21(土) 17:59:33

    “ヒヨリはどれを買いたい? 好きに選んでいいよ”
    「本当ですか! なら、えーっと、あの人形焼きっていうのに、お饅頭に、それとそれと……」
    “でもあまり買い過ぎないようにね。家まで持ち帰ることも考えて”
    「あっ、そうでしたね……。うぅ、美味しそうなものがあるのに全部買えないなんて……選ばなければならないなんて、やはり人生って難しいですね、辛いですねぇ」
    “ヒヨリが悩んで選んだものなら、きっとみんな喜ぶよ”
    「だといいんですけどね……。うーん、それなら、どうしましょう……」

     そうしてヒヨリは、さまざまな種類のお菓子が入った菓子折りを8個買った。偏食なミサキでも食べられるものがあるようにという心遣いだろう。

    “それにしてもいっぱい買ったね。同じ種類のものをそんなにいっぱい”
    「えへへ……いっぱいあった方が、いっぱい楽しめますから」
    “もっと別のを買ってもよかったんだよ? 人形焼きとか美味しそうだったし”
    「ああ、これは別に私たちだけのお土産じゃなくって……サオリちゃんのも……」

     パンパンに膨れた紙袋を提げてヒヨリが言う。

    “サオリ、どこにいるのか分かってるの?”
    「いえ、ブラックマーケットでいろんな仕事をしてるみたいなんですけど、住んでる場所とかは分からないんです」
    “それなら……”
    「でも、いつ帰ってくるかも分かりませんし。ひょっとしたら明日顔を出すかもしれません」

     ヒヨリがここではないどこかを見つめて言う。日はすっかり傾き、もうじき祭りの本番である夜が始まる。

    「その時に私たちばっかりいい思いをしてたら、サオリちゃん拗ねちゃうかもしれませんから。たくさんのお土産で出迎えておかないと」
    “…………そっか”

     サオリはアツコやヒヨリとは離れ、自分なりにできる償いを探している。それは音が真面目なサオリだからこその行動だが、こういう時はどうしても不便だろう。

    “ねえヒヨリ、もしよかったらなんだけど……”

  • 29124/09/21(土) 18:00:51

    「先生、いきなりどうした? 来てくれだなんて、珍しいな」
    “ああ、サオリ。突然ごめんね“

     ヒヨリと百鬼夜行に出向いた数日後、私はシャーレに併設されたカフェにサオリを呼び出した。
     私はサオリとの連絡手段を持っている。エデン条約に関するごたごたを経て私に負い目を感じているサオリは、私の呼び出しに対しては非常に寛容だ。今回はそれを利用させてもらう形になった。

    “今回は、サオリにちょっと渡すものがあってね”
    「…………?」

     そうして私は菓子折りを2個、サオリに差し出す。

    「これは? 百鬼夜行のお菓子か?」
    “この前百鬼夜行に用事があってね。その時のお祭りで買ったものなんだ”
    「先生から、私に……」
    “ああ、これは別に私からってわけじゃないんだ。私自身からは、何も”

     私のお土産はわざわざシャーレに来た生徒に対してのものだ。このような個人に対しての贈答品を私が買うことはない。

    「ならばこれは、誰からの……?」
    “ヒヨリからだよ”
    「ヒヨリが? 私に?」
    “私は、ヒヨリからのお土産を預かってただけ”

  • 30124/09/21(土) 18:01:18

     あの後私はヒヨリに、サオリの分の菓子折りを私が預かることを提案した。そうした方がサオリに渡せる確率が上がるからだ。

    『そんなことを提案してくれるなんて……うわぁん! 先生が優しすぎて困ります!』

     ヒヨリはそう泣き叫びながら、私にお土産を託してくれた。ならば私は、その責任を果たすだけだ。

    「そうか……ヒヨリが……」

     サオリは照れ臭そうに、お土産から視線を逸らす。

    「ヒヨリは、元気だったか?」
    “元気だったよ。体調も崩してない”
    「ならよかった……。しかし、私が受け取ってもいいのか」
    “ヒヨリは、サオリに受け取ってほしいと思って選んだんだよ”
    「……そうか。なら、受け取らなければいけないな」

     そして、サオリは菓子折りを小脇に挟んで席を立つ。どうやらこの後も、ブラックマーケットで請け負った仕事があるらしい。忙しい中、予定の合間を縫ってここに来てもらったのだ。

    “それ、私も食べてみたんだけど、美味しいから”
    「……………………」
    “いろいろ落ち着いたら、ゆっくり食べてね”
    「……ありがとう。ヒヨリにも、そう伝えてくれ」

     そう言ったサオリの表情は、アリウススクワッドを厳しくも優しく導いてきた姉としての、非常に誇らしげなものだった。
     少なくとも、私にはそう見えた。

  • 31124/09/21(土) 18:03:07

    うわぁん! 過去一エミュレートが難しかったです!
    ちゃんとヒヨリらしさが出せていたら嬉しいです!

    また日付が変わるまで次に書くSSの案を募集します!
    案が来なかったら私がいろいろ搾り出して書きます!

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 18:27:03

    >>31

    生徒とシャーレの備品買い出しついでに夏の浜通りをドライブデートする、とか?


    アスナ好きなんだけど推しキャラか否か問題もあるでしょうし書きやすい生徒で一つご検討を。

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 18:30:17

    要求だけするすげえ感じ悪いレスしちゃった。

    >>31

    何だかんだ他のメンバー達にお土産とかで気を使ってるのがヒヨリらしいと思いますわ。アリスクは青春エンジョイしてくれ...

スレッドは9/22 06:30頃に落ちます

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