ここだけ地下生活者の能力が Part3.5

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 11:14:55

    「曖昧な情報をばら撒き、それが一定のレベルまで広まって形となると実体化・事実化する」というものだったアビドス3章


    ただし制約として


    ●過去を変えることはできない(過去の事象や人物などを再現することはできる)

    ●曖昧な情報のままでは実体化・事実化しない(“いつどこで何が起きたか”といったレベルに達しなければならない)

    ●ばら撒いた情報が最終的にどのような形で実体化・事実化するかは地下生活者自身にもわからない


    以上3つのルールは絶対とする


    前スレ

    ここだけ地下生活者の能力が Part3|あにまん掲示板「曖昧な情報をばら撒き、それが一定のレベルまで広まって形となると実体化・事実化する」というものだったアビドス3章ただし制約として●過去を変えることはできない(過去の事象や人物などを再現することはできる…bbs.animanch.com
  • 2スレ主24/09/21(土) 11:16:29

    前スレをうっかり落としてしまったため改めてスレを立てさせていただきました
    引き続きよろしくお願いします

  • 3初代スレ3024/09/21(土) 11:21:17


    そろそろPart5(後編)投下しようと思っていたから助かる

  • 4二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 11:23:10

    たておつ


    >>3

    待ってた!

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 11:23:58

    とりあえず10まで埋め

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 11:28:55

    盾乙

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 11:29:35

    すまねえ
    前スレ保守するのを忘れていた…

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 11:33:05

    立て乙!
    寝落ちして保守忘れ...すみません

  • 9初代スレ3024/09/21(土) 11:55:30

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 12:01:45

    前スレに貼られたこの世界線と原作との違いリストを掲載いたします
    ────────────
    ・朝霧スオウは地下生活者に生み出された非有の真実である。蘇生した梔子ユメも同様。
    ・シェマタは未完成の状態から地下生活者により変化。ミサイルを射出する超射程兵器となっている。
    ・ユメの手帳、契約書に纏わる話が消滅。
    ・ゲヘナがアビドスに全面協力している。風紀委員会と万魔殿がそれぞれの分野で活躍。
    ・便利屋68が参戦。他学園の勢力も終盤参戦。
    ・砂漠横断鉄道がカイザー・ハイランダー・ネフティス間で構築された契約に。私募ファンドは消滅。
    ・二企業とハイランダーはそれぞれシェマタを巡り対立している。
    ・黒服が先生側に助力。
    ・フランシスが生存。
    ────────────

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 13:49:22

    追いついた
    前スレ落ちてたからちょっとびっくりした

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 14:18:48

    建て乙ですー
    同じく落ちててビックリ。無事(?)再稼働できたようで何よりです

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 14:25:03

    あと、予告まとめも再度掲載ー


    【メインストーリー追加・予告】
    「お宝」を巡る噂が蔓延するアビドス。学園や企業を巻き込んで、張り巡らされる思惑。
    対策委員会が揺れる最中、過ぎ去った筈の過去が、再び芽吹き出す────
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part1公開です。

    「あっ、ホシノちゃん!」


    【メインストーリー追加・予告】
    先生を襲った危機に、揺れ動く学園都市。
    対策委員会へ突如迫る、失われた筈の影。
    砂漠横断鉄道に隠された秘密には、どうやら二年前のゲヘナが関わっていたようで────?
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part2公開です。

    「私たちは、責任を取らないといけないの」


    【メインストーリー追加・予告】
    突如蘇ったユメを巡り、衝突するホシノと対策委員会。
    シェマタを共に追っていた先生と風紀委員会は、壮絶な事態に直面する事となり...
    学園と企業、意外な人物。そして思惑が複雑に絡み合う裏で、敵意と悪意が脈動する...!
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part3公開です。

    「好き勝手に生きることが、あなたの求める自由だと言うんですか?」

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 14:26:17

    【メインストーリー追加・予告】
    アビドスを滅ぼす為、シェマタを掌握したスオウ。
    過去の清算の為に立ち向かうホシノ。
    事態に翻弄されながらも、最善を尽くそうとする先生と生徒達。
    数多の感情が衝突する裏で、暗躍する影と、秘められた謎が露となる...!
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part4前編、公開です。

    「主役とはいつも、最後に登場するものだ!」

    【メインストーリー追加・予告】
    シェマタを巡る激闘の最中現れたのは、もう一人のシロコだった。
    アビドスのみならず学園都市に混乱が広がる中、予期せぬ存在により
    事件を巡る残酷な真実が明かされる────
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part4後編、公開です。

    「非有の真実は真実であるか?」


    【メインストーリー追加・予告】
    地下生活者の策謀の果てに、事態は最悪の状況へと進みつつあった。
    アビドスを守る為、これまでの縁を集結させていく先生と対策委員会。
    破綻を防ぐ為、脅威と対峙するもう一人のシロコ。
    真実を明かされた者達が、それでも生き足掻く中で、未曾有の事件は終幕へ加速していく───!
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part5前編公開です。

    “わかった。任せて!その言葉が聞きたかったんだ!”

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 14:27:28

    【メインストーリー追加・予告】
    虚構と現実。噂と事実。嘘と真実。
    現実は残酷で、不条理で、分からない事だらけで、
    夢に溺れたくなる時もあったけど。
    それでも続けていきたいと思ったんです。
    皆との、ありふれた奇跡を。
    Vol.1「対策委員会」編 第3章「泡沫の夢に揺られて」Part5後編公開です。


    以上です。やっぱきれいに2レスに収めるのは無理だったよ……w
    実際(?)のPart5後編がどうなるか、今から楽しみですなぁ

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 19:12:11

    ここのスオウの性格と落とし所がどう転ぶか次第だけど後々絆ストーリーを書いてみたい...

    非有の真実として生まれた故に、知識として頭にあるけど経験してない事をやってみる....とか良いと思うんですよ

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 22:33:00

    自分探しがテーマの絆ストか
    イチカの趣味探しみたいな?

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 23:21:01

    朝霧スオウの消滅を防いだ手段は“大人のカード”による生徒召喚の応用でしょうか?

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/21(土) 23:28:14

    >>18

    大人のカードによって引き起こせる奇跡が代償も含んで公式で明かされてないからそこはわからん

    プレ先がクロコにやってたのはあくまでもメタ的な描写だろうし

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:04:10

    復活のベアトリーチェ曰く「地下生活者がこれまで流布してきた噂の残滓、その集合体」がスオウらしいので
    過去の写し身に過ぎないユメと違って明確な自我を得ていたのはそういう事なんだろうな

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:33:47

    【梔子ユメ(噂)】
    ユメの死によって生じたホシノ自身の自罰思考が地下生活者の能力によりユメの形をもって現れた存在
    あくまでもホシノが抱いていた自罰の具現なのでユメとしての自我や意思はない
    能力もホシノが見た「弱くて頼りない」というユメのイメージが反映されているので全てにおいて雑魚オブ雑魚
    地下生活者はこいつによって対策委員会に不和を生じさせてアビドスを崩壊に導かせることで非有の真実を証明しようとしていた
    最期はクロコの介入によりほぼ詰み状態に陥った地下生活者が直接干渉を行うという自らのルールを破った代償により消滅

    【ホシノ*テラー】
    地下生活者の直接干渉によりホシノの目の前で自殺(実際は直接干渉による代償による消滅)したことで反転したホシノ
    それまでは自らに向けていた憤りや罪悪感などが世界や現実に向いたことで変異した
    色彩のバックアップにより死の神アヌビスとしての権能を行使できるクロコでも勝てないほどの存在
    その能力は黒服ですら予想外だったらしく、存在を察知したクズノハですら「どうすることもできないかも」と称している

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 03:19:37

    >>21

    噂のユメパイはユメ先輩の自我や意思はないというより

    ホシノの「ユメ先輩ならこうする」「ユメ先輩ならこう言う」が優先的に反映されているんだと思う

    だから地下生活者が干渉するまではホシノが見てきたユメそのものな言動をしていたんじゃない?

  • 23初代スレ3024/09/22(日) 12:32:58

    【制約解除決戦「ホシノ*テラー」】
    「……ごめんなさい、先生」

    「こうなってしまったのは間違いなく私のせいです」

    「だから本当は私がどうにかしないといけないことなのに……」

    「何もできない私をどうか許してください……」

    「だけど、先生やみんなならホシノちゃんを止められる。
     私はそう信じています」

    「……ごめんね、ホシノちゃん」

  • 24初代スレ3024/09/22(日) 13:09:28

    【Part5(後編)】
    アビドス砂漠の辺境、そこを歩くいくつかの人影があった。
    キリノたちヴァルキューレ警察学校生活安全局の生徒たちである。
    無理矢理同行させられたフブキは何度も連邦生徒会からヴァルキューレに対して待機命令が出ていること、命令違反だしアビドスの自治権を侵害する行為だから戻ろうとキリノたちを静止するが、危機的状況なのに黙って見ているだけなんてできないとキリノたちは聞く耳を持たない。
    先のカヤたちによるクーデター騒動の際、またしてもカンナが独断による行動を起こしたことに加え、公安局員たちによる職務のサボタージュ問題などから、公安局に対する連邦生徒会の目は以前よりも厳しいものになっていた。
    警備局も公安局に向けられているお上の目が自分たちに向けられることを恐れて萎縮してしまい、ヴァルキューレで動ける部署は実質生活安全局だけなのである。
    ……が、フブキが言ったようにキリノたちの行動は上司、そして連邦生徒会からの命令に反するもの。
    個人的にめんどくさいというのもあるが、生活安全局にまで政治屋たちの監視の目がかかったら今後自分がサボれなくなる可能性が高まることもあって御免こうむりたいフブキ。
    仕方なくカンナに説得してもらおうとスマホを取り出す。

    ――その時、砂の大地が突然音をたてて揺れ始めた。

    地震かと思わず足を止めるキリノたち。
    そんな彼女たちの視線の先で、砂の中からゆっくりと“それ”は姿を現した。

    「う、嘘だろう……?
     あんなやつまで現れるなんて……」

    ビナー。違いを痛感する静観の理解者。
    なにかに呼応するようにアビドスの砂漠に出現したデカグラマトンの予言者は、眼前の生活安全局の面々を無視していずこかへと向かっていく――

  • 25初代スレ3024/09/22(日) 13:48:08

    場面は変わりオアシス跡。
    シッテムの箱の制約を解除し、10人の生徒たちで反転したホシノを迎え撃つ先生。
    しかし、それでもホシノは止まる様子がない。

    「これだけの猛攻を加えても止まる気配がまったくないなんて……!」
    「ああもう!
     今日のホシノ先輩は本当いつにも増して面倒くさいんだから!」

    対策委員会やヒナたちに少しずつ疲労の色が出始め、先生も手にしているシッテムの箱が過負荷を起こし始めていることをその身で感じ取る。
    これ以上戦い続けることは危険――だが、ホシノを助け出すためにもここで戦闘を止めるわけにもいかない。
    どうすればいい、と先生の胸中にも焦りが浮かび始めた横で、シロコ*テラーが先生に手はまだあると言う。

    「A.R.O.N.A.と私の中にある色彩の力を用いて私とホシノ先輩を一度キヴォトスの外に転移させる――
     そうすれば少なくともアビドス、そしてキヴォトスの脅威は取り除かれる」

    それはホシノもシロコ*テラーも救いたい先生にとって容認できるものではない手段だった。
    また、どう考えても問題を先延ばしにする行為でしかないのは明らかである。
    ――しかし、現状それ以外にこの状況をどうにかできる方法が思い浮かばない。
    かつてミレニアムでリオから突きつけられたトロッコ問題が先生の脳裏にフラッシュバックする。
    ここにきて先生はようやくあの時リオにのしかかった重責と苦しみを理解した。

    ホシノとシロコ*テラーの2人を犠牲にして当面の危機を脱するか――
    それとも2人を救おうとして自分の周りにいる生徒たちを犠牲にするか――

    時間がないのはわかっていながらも、結論を出すことを躊躇ってしまう先生。

    そんな先生の前に、もう1人「ホシノを止める方法はある」と手を挙げた者が現れた。
    スオウである。

  • 26初代スレ3024/09/22(日) 14:12:34

    スオウは語る。
    消滅した梔子ユメ同様、今の自分がなぜ生まれ、なんのために生かされていたのか完全に理解している。
    そして、それは今のホシノに強く関係していることであり、ホシノにその事実を突きつければ彼女を止めることができるかもしれない、と――

    自分とホシノが接触するための時間を稼いでほしいと言うスオウに、危険だと止めかける先生。

    「では小鳥遊ホシノとこちらにいるもう1人の砂狼シロコを犠牲にするか?
     それとも、私も含むここにいる生徒たち全員を犠牲にしてでも小鳥遊ホシノを救うか?」

    スオウのその反論に先生は返答できず、結局折れることになった。

    先生の指揮のもと再びホシノに対して対策委員会やヒナたちによる猛攻がくわえられる。
    ――だが、明らかに先ほどまでと比べてその攻撃の手は緩い。
    やはり生徒たちの疲労は深刻なものとなっていた。

    ホシノの手にした銃の先端部に強大な力と光が集束していく。
    誰の目から見ても今までかつてないほど強力な攻撃が放たれようとしていることは容易に想像できた。
    少しでも被害を減らそうと単身ホシノの眼前に飛び出し全身全霊の一撃を放つヒナ。
    しかし、それでもホシノの手は止まる気配がない。
    ゆっくりと、ホシノの散弾銃の銃口がヒナのほうへと向けられる。
    絶体絶命。ヒナとその光景を目にしていた先生の脳裏に明確な死のビジョンが浮かび上がった。

    「――取ったぞ、小鳥遊ホシノ!」

    だが、ホシノのその行動は逆に言えば完全な隙でもあった。
    他の生徒たちが攻撃をくわえていた裏で密かにホシノへと接近していたスオウは、この瞬間ついにホシノに手が届く範囲まで近づいた。
    そして、スオウの伸ばしたその手がホシノの頭部をガッシリと掴み取る。

    ――瞬間、再びアビドスの砂漠に極光の柱が天に向かって伸びた。
    だが、それは先ほどホシノが反転した際に生じた禍々しい炎のような赤いそれではなく、文字どおり白く輝く光の柱だ。

  • 27初代スレ3024/09/22(日) 14:40:28

    「……あれ?」

    ホシノは気がつくと、アビドスの砂漠の中に1人立っていた。
    場所はオアシス跡。つい今しがたまで反転・暴走した自分が対策委員会や他の生徒たちと戦っていた場所。
    しかし、赤かったはずの空は現在雲一つない青空と化しており、周囲には自分以外誰もいない。
    対策委員会のみんなも、先生も――

    「私、いったいどうなって……」

    不思議に思っていたホシノの背後から突然人の気配と声がした。
    咄嗟に振り返ると、そこにはユメがスコップを手に穴を掘っている姿があった。

    「ユメ先ぱ――!」

    思わずユメに駆け寄ろうとするホシノだったが、すぐさま気づく。
    ――そんなユメのそばで同じく自分がスコップを手に黙々と穴を掘っている姿があることに。
    また、そんなもう1人の自分の姿がかつての――2年前のものであった。

  • 28初代スレ3024/09/22(日) 14:40:57

    「――ああ、そうか。
     これはただの夢……昔のことを思い出しているだけなんだね?」
    「そうだ。これはあくまでも過去にすぎない。
     ……だが、私たちにとってはすべてのはじまりでもある」

    落胆するホシノの隣には気がつけばスオウの姿もあった。
    これは君が見せているのか、と問うホシノにスオウは無言で頷き肯定の意を伝える。

    「……なんでこんなものを今更私に見せるの?
     見たところで私が止まると思ってる?
     むしろ逆だよ。余計に悲しくなるし怒りが沸いてくるだけ」
    「確かにそうだ。
     しかし、お前は見なければいけないし、知らなければいけない。
     たとえそれが、傷だらけのお前の心をさらに抉ることになろうとも――」

    スオウのその言葉と同時に、激しい砂嵐が吹き荒れホシノたちの視界を塞ぐ。
    砂嵐が治まると、眼前に広がる光景は別のものに変わっていた。

    「あ……ああ……!」

    その光景を目にした瞬間、ホシノの体と心は激しく揺さぶられた。
    ホシノたちの目の前にはすでにユメと2年前のホシノの姿はなく、その代わりとばかりに――

    「ああああああああああああああああああああっ!」

    ホシノが忘れることはできない、しかし思い出したくもない“もの”が砂の中に半ば埋もれる形で転がっていた。

  • 29初代スレ3024/09/22(日) 15:04:09

    「なんでっ!?
     なんで“こんなもの”を私に見せるんだ!?
     私は……もう“こんなもの”を見たくないから今まで……!」

    眼前に存在するものから目を背けるように泣き叫ぶホシノを無視するようにスオウは“それ”に近づいていく。

    「目を背けるな小鳥遊ホシノ。
     それではこれまでとなにも変わらない。これまでと同じだ。
     “真実”から目を背けず受け入れなければ、お前は一生前に進むことはできず、さまようように延々と同じところを周り続ける。
     ――そして、お前が前に進めなければ、私も前には進めない」

    そう言ってスオウは“それ”が足元に転がっている位置に立ってホシノのほうを見やる。

    「私を見ろ小鳥遊ホシノ。
     そして、今度こそ真実をその目に焼き付けて受け入れるんだ。
     呪われた地である“今のアビドス”を破壊するためにも――」

    ――“今のアビドス”を破壊する。
    その言葉は不思議とホシノの耳に、心に強く響いた。

    今もなおアビドス高等学校が抱えている莫大な借金。
    一向に原因が解明されず続いている砂嵐。
    それらに苦しめられ、振り回される対策委員会の生徒たちやアビドスで暮らす人々――

    ああ、確かに、こいつは呪いだ。
    過去から現在まで延々と続いているアビドスという地を蝕んでいる呪い――
    こんなものは終わりにしないと駄目だ。
    だからこそ、私は、スオウはアビドスを、世界を破壊しようとした。

  • 30初代スレ3024/09/22(日) 15:16:42

    ――だが、それはどちらも阻まれた。
    もはやこの呪われたアビドスを破壊する――救う方法なんて残されてはいない。

    「いや、まだだ。
     少なくとも好転させることはできる。
     先生がカイザーの不正を暴き、お前や対策委員会を救ったように――」

    だから目を開けろ。現実と向き合え。
    スオウのその言葉がホシノの心に突き刺さる。

    ――ホシノはゆっくりと、おそるおそるといった感じで前を見た。

    「……っ」

    再び目を向けても“それ”はいまだにそこに転がっていた。
    違うのはそれのそばにスオウが立ってこちらを両目でじっと見つめていることだけ。

    「……あれ?」

    そう。“両目”だ。
    今のスオウは先ほどと違い、右目を隠していた眼帯を外していた。

  • 31初代スレ3024/09/22(日) 15:16:58

    自分と同じく左右の色が異なる瞳。
    スオウの右目は自分のものと同じく黄金に輝いていた。
    いや、よく見るとその色は同じ黄金でも――

    「あ……」

    ホシノは気づく。思い出す。
    その瞳の色をしていた人物のことを。
    そして再びスオウの足元に転がる“それ”を見た後、またスオウの両目に視線を戻した。

    「ああ……そうか……」

    ここに至り、ホシノはついに“真実”を知った。

    「ここに居たんですね、ユメ先輩」

    2年という歳月を経て、ようやくホシノは現実を受け入れたのであった。

  • 32初代スレ3024/09/22(日) 15:31:38

    気がつくと、再び景色は変わっていた。
    空は青空から夕焼けに変わり、地平線の中へと沈みかけている太陽がホシノとスオウを照らしている。
    ――スオウの足元に“それ”はもうなかった。

    「――私は本来、地下生活者がこの地にもたらした噂ではなかった」

    夕日に目を向けながらスオウが独り言のように語り始める。

    「このアビドスの地に満ちていた幾多もの感情――
     暮らしている人々の嘆きや悲しみ、苦しみであったり、この地でいろいろと企てていた大人たち――企業の思惑であったりと、本当に様々な心がこの地には存在した」

    「そんな中で、地下生活者がこの地と、そしてお前を標的に自らの力で噂を流した。
     あの黒服とかいう奴が言っていた“形となればその通りに実体化する噂”だ」

    「噂は未完成であったはずのシェマタを超兵器という形で完成させ、梔子ユメをお前の罪悪感を映し出す鏡として蘇らせた」

    「――だが、それによって地下生活者も予想していなかった現象が生じた。
     あいつの言葉で称するなら“ファンブル”……もしくは“バグ”といったところか?」

    ――バグ。
    その言葉にホシノは思わず首を傾げる。

  • 33初代スレ3024/09/22(日) 16:22:43

    「お前やアビドスの地に向けられた噂の残りカスが、お前の無意識下に存在した現在のアビドスに対する怒りを基点として集束し、私という存在に形作られてしまったんだ。
     このキヴォトスで最高の神秘を有するお前を標的にしたがゆえに起きた現象なのか否かは私にもわからないが、そんな予想外な形で私はこの世界に顕現した。
     私のこの姿はすでに実体化していた梔子ユメの影響も少なからずあるのだろう」
    「あのユメ先輩の影響?
     それってつまり……」
    「あの梔子ユメは確かにお前の心を映す鏡像ではあったが、同時に梔子ユメでもあったということだ。
     彼女のその胸の内にも今のアビドスに対する怒りが存在した――
     お前たちには決してそれを見せることはなかったがな。
     いや、もしかしたらお前のそれと同様に本人は自覚していなかった無意識下の感情だったのかもしれない」
    「……私、本当にユメ先輩のことなんにも知らなかったんだね」

    スオウ同様、夕日に目を向けつつホシノは自嘲する。

    「バカみたい。
     ユメ先輩のことを全部わかったつもりでいて何年も1人で勝手に抱え込んで暴走同然に突っ走って……
     結局今回もまたみんなに迷惑かけちゃった……」
    「ああそうだな。大馬鹿者だ。
     ――だが、お前も私もこれで終わりじゃない」
    「うん。
     このまま大バカで終わるわけにはいかないよね」

    振り返るホシノ。
    その先には星空に照らされる砂漠が広がっていた。

  • 34初代スレ3024/09/22(日) 16:27:03

    「戻ろっかスオウちゃん。
     まずは先生やみんなに謝らないと」
    「ああ。
     といっても、先生にはまだやるべきことが残っているが……」
    「地下生活者だっけ?
     まあ、先生ならなんとかしてくれるよ」

    星空の下へ――現実に向けて再び歩き出すホシノ。
    それに続く形でスオウも歩き始める。
    小鳥遊ホシノの止まっていた時間はようやく動き始めた。

    「頑張ってね、ホシノちゃん」

    夢から覚める直前、ホシノは背後からそんな声を聞いた気がした。
    思わず振り向いてしまったが、相変わらず夕日が沈んでいるだけでそこには何も存在していなかった。

  • 35初代スレ3024/09/22(日) 16:53:39

    「――みんな、ごめんね。
     またいろいろと迷惑かけちゃった」

    ホシノが目を開けると、対策委員会や先生、ヒナたちが心配そうな表情でこちらを見下ろしていた。
    どうやら砂漠の中で堂々と寝転んでしまっていたらしい。
    夜の砂漠は冷えるというのに、我ながらなんて無謀なことをしているのだろう、とホシノは自嘲する。
    すぐそばに目を向けると、スオウが自分と同じようにハイランダーや他校の生徒たちに声をかけられながらその身を起き上がらせているところであった。

    “みんな、ありがとう”
    “これでアビドスの危機はひとまず去ったよ”
    「いいや、まだ終わりではないよ先生」
    “――!?”

    大きくはないが、それでもはっきりとその場に響き渡った男の声。
    先生たちが声のしたほうへと目を向けると、そこにはその身をボロボロにしながらもしっかりと己の足で立っているプレジデントとジェネラル、そして自分たちに銃を向ける無数のカイザーPMCの兵士たちがいた。

    「まさか生きていたなんて……!」
    「生憎と昔から悪運だけは強いのでね。
     さて、アビドス高等学校の諸君、取引といこうじゃないか」

    取引。
    突然プレジデントから発せられたその言葉に、対策委員会やその場にいた生徒たちはどういうことかと疑問を抱く。
    だが、「この状況でまだお前はシェマタを欲しているのか?」というスオウの問いによって、全員ははっとした。

    「もちろん。
     此度の一件で我が軍事部門はかなりの……いや、壊滅的な打撃を受けてしまった。
     さすがに再編には相当な時間と金を要することになるだろう。
     ――だが、それでもシェマタが手に入れば我々にとっては十分おつりがくる」

  • 36初代スレ3024/09/22(日) 17:03:58

    すでに先生も生徒たちも消耗しているからか、余裕そうな様子でプレジデントは語る。
    実際、この状況では戦いになれば多くの生徒たちが傷つくことになるだろうと先生は考えていた。
    迂闊な行動は取れない――

    「シェマタとその所有権を我々に引き渡したまえ。
     そうすれば我々は即座にアビドスから撤収することを約束しよう。
     契約書はないが、シャーレの先生立会いのもとで交わせば口約束でも十分有効なものとなると判断するが、違わないかね?」
    「もし断ったら?」
    「わざわざ言う必要があるかな?」

    カイザーPMCの兵士たちとジェネラルがわざとらしく銃のコッキング音をその場に響かせる。

    ――対策委員会、そしてシロコ*テラーやヒナ、生徒たちの目が一斉に先生のほうに向けられる。
    皆、どのような選択をしてその責任を負えばいいのかわからないという顔をしていた。

    状況的にこの取引を断ることはできない。
    しかし、かといってシェマタをカイザーに渡すわけにもいかない。
    それではこれまでの対策委員会や生徒たちの努力や奮闘が無駄になってしまう。

    ――ゆえに、先生が選んだのは「取引」ではなく「交渉」であった。

    “プレジデント、あなたはなぜそこまでしてシェマタを欲している?”
    “いいや、違う……”
    “なぜそこまでしてキヴォトスを支配しようとする?”
    “ただ単に国ひとつを己が企業の力で制服したいなら、別にキヴォトスである必要もないはず”
    “むしろ、カイザーの力なら未開の地にゼロから国を興すことだって不可能じゃないと思うけど?”

    先生の口から出たのは、これまでの一連のカイザー関連の事件や出来事を振り返ったうえで浮かび上がった疑問。
    なぜカイザーほどの巨大コングロマリットがわざわざ学園都市の支配を目論むのか――

  • 37初代スレ3024/09/22(日) 17:21:30

    「――今更それを聞くのか先生?
     まさかとは思っていたが、どうやら君は本当に何も知らない……いや、何も聞かされていなかったらしいな」

    プレジデントから飛び出したのは少しばかり驚きを含んだ声。
    そして、一度ため息をついた後に再びプレジデントは語り始める。

    「仕方ない。せっかくだから真実を教えてあげるとしよう。
     我々の真の目的は支配ではない。このキヴォトスを“本来の形に戻す”ことだ」

    プレジデントから語られた真実。
    それは、カイザーの目的はキヴォトスの支配ではないという衝撃的なものだった。
    だが、「キヴォトスを本来の形に戻す」とはどういう意味であろうか――?

    「キヴォトスを企業都市へと生まれ変わらせる――学園都市を終焉に導こうとしているのも、所詮はそのための布石だ。
     言ってしまえば、“学園都市”という今のキヴォトスの体制が崩壊してしまえば別に我々が支配する必要も動く必要もないのだよ。
     ゲマトリアの連中と密かに手を結んでいたのもそれが理由だ」
    「じゃあ、色彩が襲来した時にあなたたちはなにもしなかったのも……」
    「そうだ。
     あのよくわからん力とそれによって出現したバケモノたちによって学園都市が滅んでしまうのならば、それはそれでよしと考えて静観に徹していた。
     結局、君たちや先生の手で事態は終息してしまったので、これまで通りの方法でいくしかなくなってしまったが……」

    次々と明かされていく真実に、ある者は混乱し、ある者は困惑する。
    そんな中で先生は再びプレジデントに疑問を投げかけた。

  • 38初代スレ3024/09/22(日) 17:33:08

    “プレジデント……『本来のキヴォトス』とはいったい?”
    “学園都市となる前のこの世界は、いったいどのようなものだったんだ?”

    「それも知らないのか……
     我々同様、このキヴォトスの外から来た者だというのに……」

    “知らないものは知らないのだからしょうがない”

    「『無知は罪』というが……
     君ほどの者が何も知らないというのは、愚かというよりも哀れに思えるな。
     学園都市の終焉は“彼女”も望んでいたことだというのに……」

    “彼女……?”

    「君をシャーレの先生として雇い、このキヴォトスに招集した者――
     ここまで言えばもう誰かはわかるだろう?
     連邦生徒会長だよ」

    “――!?”

    連邦生徒会長。
    いまだに行方不明である連邦生徒会、そして学園都市キヴォトスのトップ。
    キヴォトスに生きる全ての生徒の代表ともいえる存在が、学園都市の崩壊を望んでいた――
    その事実に先生、そしてその場にいた生徒たち、さらにはジェネラルやカイザーPMCの兵士たちまでもが衝撃を受けた。

  • 39初代スレ3024/09/22(日) 17:46:44

    “連邦生徒会長が学園都市の終わりを望んでいた……?”
    “それはなぜ――?”

    先生が三度プレジデントに問いかけようとしたその時、爆音と衝撃がその場に轟いた。

    「何事だ!?
     誰か、何が起きたのか報告――」

    ジェネラルのその言葉は再び生じた爆音――爆発によって自らが周囲の兵士たちと共に吹き飛ばされることによって途切れた。
    次々とその場で爆発が生じ、カイザーの兵士たちが1人また1人とあちらこちらへ舞い上がっていく。

    “い、いったい何が……?”

    何が起きたのかわからず呆然とする先生と生徒たち。
    だが次の瞬間、その場に響いた声によって皆は何が起きたのかを察した。

    「あなた様~!
     遅れてしまい申し訳ございません!
     不肖ワカモ、お助けに参上いたしましたわ~!」

    七囚人の1人、『厄災の狐』狐坂ワカモ。
    先生からの要請を受けていた彼女が、ここにきてアビドスの地に到着したのだ。

    「……先生、彼女にも救援を要請していたの?」

    目の前で繰り広げられる蹂躙劇を呆れた様子で眺めながらヒナは先生に問う。
    先生は黙って頷いた。

  • 40初代スレ3024/09/22(日) 18:03:26

    突然のワカモの乱入というサプライズこそ起きたが、おかげで先生たちは危機を脱することができた。
    また、先生のもとには道中カイザーの兵士たちを足止めしてくれたRABBIT小隊や正義実現委員会、C&Cや忍術研究部から無事を知らせる連絡が届く。
    そして、アビドス高等学校とシェマタを防衛していたマコトたち万魔殿や風紀委員会からもカイザーが撤退していったという報告がきた。
    今度こそ本当にアビドスの危機は去ったと判断していい。

    「先生、あとは諸悪の根源を叩き潰すだけ」

    シロコ*テラーのその言葉に先生は頷く。

    地下生活者。
    此度の騒動の元凶である存在。
    それが潜む「混沌の領域」へとシロコ*テラーを転移させる準備を先生とシッテムの箱内のプラナは進めていく。

    シロコ*テラーは思う。
    これから双対することになる地下生活者は、自分の世界の地下生活者ではないかもしれない。
    だが、それでも自分の世界のアビドスの皆や先生の仇とも呼べる存在である可能性は高い。
    はたして、地下生活者を前にした時、自分は感情を抑えられるだろうか――?

    「……ん、大丈夫。
     もう私は誰も殺さない。
     せいぜい殺さない程度に痛めつけるに留める」

    それはそれで大丈夫なんだろうか、と先生は苦笑いを浮かべる。
    だが、そういうところがシロコらしいとも思えた。

    ――そしてシロコ*テラーは色彩とシッテムの箱の力で次元の壁を超えた。

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 18:03:44

    先生、これまで決してやって来なかった禁忌を...!

  • 42初代スレ3024/09/22(日) 18:21:00

    ――混沌の領域。
    そこに足を踏み入れたシロコ*テラーが最初に感じたのは、凄まじい違和感であった。
    なにもかもがはっきりせず、自分が立っているのか寝ているのか、はたまた宙に浮いているのかすらわからなくなるような感覚が全身や心に襲いかかる。
    確かにこれは『ナラム・シンの玉座』とは似て非なる場所。自分以外の者では足を踏み入れることはできないだろう、とシロコ*テラーは思った。
    もし仮に先生たちがここに足を踏み入れてしまったら、この空間のように「曖昧なもの」となって存在を確立できなくなってしまうかもしれない。
    今ばかりは生徒であると同時に死の神アヌビスであるめちゃくちゃな存在となってしまった自らの身にシロコ*テラーは感謝した。

    「苦しい……苦しい……」

    地下生活者は思いのほかすぐに見つかった。
    というより、すぐ目の前でうずくまるように存在していた。
    ――手にしていた銃をゆっくりと地下生活者のほうに向けてシロコ*テラーは口を開く。

    「――あなたが地下生活者?」
    「なっ……!?
     お、お前は……アヌビス!?
     なぜ……どうしてこの場所が……!?
     そ、そうか……黒服だな!?
     奴がここの座標を貴様に教えたのか!?」

    地下生活者は声をかけられてようやくシロコ*テラーの存在に気がついたらしい。
    ビクリとその身を一度軽く飛び上がらせて、見るからに驚きのリアクションをしてみせた。

    「これは警告。
     もう二度とアビドスやキヴォトスに干渉しな――」
    「た、頼む……アビドス……
     殺せ……! 小生を殺してくれ……!」
    「……は?」

  • 43初代スレ3024/09/22(日) 18:41:11

    地下生活者はシロコ*テラーの銃をガッシリと掴み取ると、その銃口を自分の顔面にぴったりとくっ付けた。
    そして、すがるようにも平服するようにも見える仕草でシロコ*テラーの足元にまとわりつく。
    さすがのシロコ*テラーも地下生活者のこの行動は予想外過ぎて困惑した。

    「ど、どういうこと?
     いったいなにが……?」
    「遅かったですね」
    「っ!?」

    当然背後から聞こえた第三者の声。
    咄嗟にシロコ*テラーは地下生活者を蹴り飛ばして銃から引きはがすと、その銃口を背後に向けた。

    「そいつならもうこっちで片付けちゃいましたよ。
     今後、そいつがこの世界のキヴォトスに干渉することはありません。
     そんなことできないように徹底的に痛めつけてやりましたから」
    「え――」
    「……お久しぶりです、“シロコ先輩”」

    銃口を向けたシロコ*テラーであったが、その先にいた存在の姿を目にした途端、銃を思わず下ろしてしまう。

    だが、それも仕方のないことだった。
    なぜなら、そこにいたのは――

    「セリカ……?」

    服装や髪型――姿こそ自分の知るそれではないが、紛れもなくアビドス高等学校での自身の後輩である黒見セリカだったからだ。

  • 44初代スレ3024/09/22(日) 18:51:17

    なぜセリカがここに?
    セリカは先ほどまでこの世界の自分や対策委員会のみんなと一緒にいたはず――
    そう思った瞬間、シロコ*テラーは気づいた。

    「シロコさん、どうしたんですか!?
     なにかあったんですか!?」

    シロコ*テラーの様子がおかしいことを察知したプラナから通信が入る。
    おそらく先生もシッテムの箱を通して今自分が見ているものが見えているだろう。

    「A.R.O.N.A.……先生……
     セリカが……私たちの世界のセリカが目の前にいる!」

    シロコ*テラーは思わず叫んでしまう。
    それを聞いたプラナは驚き、先生はどういうこと、と首を傾げる。

    「――間違いありません。
     今シロコさんの目の前にいるのは、私たちの世界のセリカさんです。
     ですが……これは……」

    やはりセリカだった!
    プラナのその言葉にシロコ*テラーは感極まり、目の前のセリカに抱き着かんと駆け出す。

    ――だが、そんなシロコ*テラーに対して、セリカは銃を向けると容赦なく発砲した。

    「シロコ先輩、それ以上近づかないでもらえますか?」
    「え……?
     な、なん……で……?」
    「先輩を通じて色彩が私にどんな影響を与えるかわかりませんので」

  • 45初代スレ3024/09/22(日) 19:04:08

    セリカから銃弾が頬をかすめたことで思わず足を止めるシロコ*テラー。
    混乱する彼女に対してセリカは冷めた目を向けながら淡々と語る。

    “いったい何がどうなっているの?”

    「――私たちの世界のセリカさんはシャーレの爆発騒動が起きたその次の日に、先生が心配だからと学校を飛び出してそのまま行方不明になったとシロコさんから聞いています。
     だから彼女が色彩の存在を知っているのはあり得ないはずです……」

    その様子をシッテムの箱を通して見ていた先生とプラナも少しばかり混乱していた。
    どうして「混沌の領域」にシロコ*テラーの世界のセリカがいるのか。
    なぜ彼女はシロコ*テラーに銃を向け、なおかつ発砲したのか。
    そして、なぜ色彩のことをセリカは知っているのか――

    「セリカ……あの後いったいなにがあったの……?
     どうして色彩のことを――」
    「その答えは簡単なことです。
     私が教えてさしあげたからですよ、アヌビス」
    「――!」

    シロコ*テラーには聞き覚えのない声がその場に響く。
    それと同時に、セリカの背後の空間に裂け目のような穴が開いた。

    “……今の声は”

    一方、先生はその声に覚えがあった。
    忘れたくても忘れ慣れないくらい、いろいろな意味でその声の主の印象は強烈に先生の記憶に焼き付いているからだ。

  • 46初代スレ3024/09/22(日) 19:28:29

    「はじめましてアヌビス。
     そしてお久しぶりですね、シャーレの先生。
     ――いや、この世界のあなたと私は実質初対面なので、“はじめまして”と言うべきでしょうか?」

    “ベアトリーチェ……!”

    穴の中から姿を現したのは記憶の中にあるかつて姿とは明らかに大きく変貌こそしているが、間違いなくかつてアリウス自治区で先生が双対した存在――
    元ゲマトリアのメンバーであった女、ベアトリーチェだった。

    “なぜあなたがここにいる?”
    “いや、なぜあなたがセリカと一緒にいるんだ?”

    「愚問ですね。
     私たちは互いに協力関係にあるからですよ」
    「協力関係……?
     アリウスの生徒たちのように自らの目的のために利用しているの間違いじゃないんですか?」
    「……そうね。確かにこいつは私のことを利用しているわ。
     だけど、私も同様にこいつのことを利用している。
     だからその問いは半分だけ正解ね」

    プラナの問いかけに答えたのはベアトリーチェではなくセリカだった。
    ゲマトリアであった女とお互いを利用し合っている。それゆえの「協力関係」――
    それはいったいどういうことなのだろうか?

    「私の世界のあなたたちによって儀式は失敗し、秤アツコの神秘も、それを通して得ていた色彩の力も中途半端なものに終わってしまいました――
     しかし、黒服たちが私を世界の外側へと追放してくれたおかげで私はこのキヴォトスという歪んだ世界の真実を知り、そして長い時を経て手にした力を完全に我がものにすることができたのです。
     当初はそれであなたたちや黒服たちへの復讐も考えておりましたが、真実を知った今、そのような行為に意味はないということも思い知らされました」
    「――こいつから真実を教えられた時、私も最初はそこに転がっているやつへの復讐を考えたわ。
     だけど、実際に私たちの世界のそいつを倒しても、根本的な解決にはならなかった……
     結局私たちの世界はメチャクチャになって……先輩たちは……シロコ先輩も先生もあんなことになって……!」

  • 47初代スレ3024/09/22(日) 19:43:49

    断片的に自分たちの身に何があったのかを語るベアトリーチェとセリカ。
    ベアトリーチェはともかく、セリカのその姿からはかつてアトラ・ハシースの箱舟で相まみえた時のシロコ*テラーと同様の哀愁が漂っていると先生は感じた。

    「……セリカ、一緒にこの世界の先生のところに行こう?
     私たちの世界でないけど、先生が先生であることに変わりはない。
     それに――」
    「ごめんシロコ先輩、私には……私たちにはやるべきことがあるの。
     だから先輩とは一緒にいられない」

    セリカに対して手を伸ばすシロコ*テラーであったが、セリカは無情にもそれを拒絶する。
    ショックからその場に崩れ落ち、動けなくなってしまうシロコ*テラー。

    「どうして……?
     私が、色彩に汚染されているから……?
     いっぱい人を……殺しちゃったから……?」
    「……違うのシロコ先輩。
     今言った通り、私たちにはやるべきことがあるからってだけ。
     それが終われば、きっとシロコ先輩と一緒にいられるから……
     いや、アビドスのみんなとだってまた……」
    「そういうことですアヌビス。
     先生、そういうわけですから、どうかこの先私たちの邪魔をしないでください」

    セリカたちの会話を横目にしながら嘲笑うように先生に言い放つベアトリーチェ。
    姿形が変われど、人を見下した態度は相変わらずだなと思いつつ先生は彼女に問うた。

    “――ベアトリーチェ、いったいセリカになにをさせるつもり?”
    “内容によっては私はあなたを止めるし、セリカはシャーレで保護させてもらう”

  • 48初代スレ3024/09/22(日) 19:59:17

    先生の問いにベアトリーチェは鼻で笑いながら答える。

    「所詮あなたは救い主でもなんでもない、ただの大人に過ぎませんね先生――
     私たち……いや、私の目的はかつてと何も変わりません。
     世界を救う――それが私たちのやろうとしていることですよ」
    「――そう。
     私たちの、全ての世界をメチャクチャにした元凶……
     諸悪の根源であるそいつを見つけ出して倒すことが私たちの目的」

    “諸悪の根源……?”

    「それが何者で、どこにいるのかはわかっているのですか?」
    「残念ですが、いまだに“彼女”が今どこにいるのかはその足取りも含んで掴めておりません。
     ですが、数多の世界を繋ぎ、その因果を乱している特異点たる“彼女”を葬り去れば、全ての世界は本来の形を取り戻せるはずです」

    “――彼女?”
    “まさか……それって……!”

    「さすがの先生もお気づきになられましたか。
     ええ、そのとおりです。
     私たちが探している全ての元凶にして“世界の敵”とは――」
    「連邦生徒会長――!
     自らの目的のためにいくつもの世界を渡り歩いては、その世界を破滅させているあの女よ!」

    先生、シロコ*テラー、そしてプラナは、一瞬頭を思いっきり鈍器で殴りつけられたような感覚に陥った。
    先ほどのプレジデントから語られた真実同様、またしても連邦生徒会長の存在が飛び出したからである。
    それも、先ほどよりもさらに悪い意味で――

  • 49初代スレ3024/09/22(日) 20:15:09

    「あ、ありえません!
     連邦生徒会長が世界を……キヴォトスを破滅させているなんて!
     きっとなにかの間違いです!」
    「それならどうして私たちの世界はあんなことになったの!?
     どうしてあの女は突然姿を消して、私たちを……キヴォトスの人たちを見捨てたの!?」
    「そ、それは……」
    「あいつは最初からわかっていた!
     自分が消えれば遅かれ早かれキヴォトスは、世界は終わりを迎えるって!
     私だって最初は信じたくなかったわ!
     だけど……自分の世界だけじゃなくて。他にもいくつもの世界が同じようにメチャクチャになっていることを知って……!
     そして、どの世界でもあの女は必ず最後はいつの間にか姿を消していて……!」
    「そういうことです。
     私たちの個人的な復讐心やエゴイズムなど、連邦生徒会長を葬り去らない限り無意味なものなんですよ」

    連邦生徒会長が諸悪の根源にして「世界の敵」――
    その事実を否定したいプラナにセリカは自らが知り得た残酷な事実を突きつける。

    そして、プラナが言葉を詰まらせると、それを待っていたと言わんばかりにベアトリーチェはシロコ*テラーに近づいた。

    「――どうですかアヌビス?
     こうしてここで出会えたのもなにかの縁といもの。
     私たちと共に全ての世界を救済するための旅に出ませんか?
     彼女は色彩に汚染されていないのであなたに触れることは叶いませんが、私たちと共に来ればあなたは孤独から解放されますよ?」
    「…………」
    「…………」

    シロコ*テラーは黙ってセリカを見やる。
    セリカもまた何も言わずシロコ*テラーを見ていた。
    ――お互いのその目には迷いや戸惑いが色濃く浮かんでいた。

  • 50初代スレ3024/09/22(日) 20:30:48

    ベアトリーチェの手を取ればシロコ*テラーは確かにセリカと共にいられる。
    彼女がその胸の内に秘めている孤独から解放されることに間違いはない。
    そしてそれは、セリカもおそらく同じだろう。

    ――だが、本当にそれでいいのか?
    それはシロコ*テラーにとって、そしてセリカにとって救いになるというのか?
    なにより――

    “駄目だよシロコ”
    “その女の手を取ることだけはしちゃ駄目”

    「む――?」
    「先生……?」

    「混沌の領域」に先生のはっきりとした声が響く。
    その声はシロコ*テラーに、そしてセリカの耳と心に迷うことなくすんなりと入り込んだ。

    “ベアトリーチェ、あなたがやろうとしている世界の救済も、セリカが言ったいくつもの世界で起きた出来事も私は否定しない”
    “――だが、連邦生徒会長が全ての世界を破滅させた元凶だとは私には思えない”
    “私も彼女のことをすべて知っているわけじゃないけど……”
    “少なくとも私の知る彼女は世界をメチャクチャにすることや、他人の嘆きや悲しみに悦楽を抱くような悪人じゃない”
    “あなたが自らの目で見て、自ら考えたうえで至った真実を信じるように、私も自分の目で見て、自分で考えて至った真実を信じる”
    “だから、セリカやシロコに連邦生徒会長を――誰かを殺させるような真似は絶対にさせない!”

    「……それは先生だから、ですか?」

    “確かにそれもあるけど……”
    “それ以前に私が大人だからかな?”

  • 51初代スレ3024/09/22(日) 20:41:49

    大人だからこそ子供に人を害することを強要したくない。
    大人だからこそ子供を自らの道具同然に利用してはいけない。
    大人だからこそ子供を守らなければいけない。

    それは先生という1人の大人の揺るぎない本質の吐露であった。

    「……本当に、どの世界であってもあなたのそういうところは変わりませんね、先生」

    呆れたように、そして相変わらず人を小馬鹿にするような口調でベアトリーチェは語る。

    「ええ、本当に虫唾が走りますよ」

    ――その言葉と同時に、先生がいたアビドスの砂漠が大きく揺れた。
    いや、「揺れた」という表現は間違いかもしれない。
    空間が、世界そのものが、まるで何かの到来に怯えているような――そんな奇妙な現象がその場で起きていた。

    「先生!?」
    「こ、これは……!?
     シロコさん、すぐに戻ってきてください!
     なにかが起きようと――いや、この場になにかが現れようとしています!」

    先生たちにまたしても危機が迫っていることを察したシロコ*テラーとプラナは、すぐさま転移の準備に入る。

    「再会のお祝いも兼ねた私からの餞別です。
     どうか楽しんでください、先生。
     それを退けることができなければ、二度と私たちに偉そうなことを口にしないでくださいね?」

    そう言い残すとベアトリーチェは我先にとばかりに自らが開いた穴に入りその場から姿を消した。

  • 52初代スレ3024/09/22(日) 20:54:45

    「セリカっ!」
    「……っ!」

    セリカに対して手を伸ばすシロコ*テラー。
    その目にはセリカに対してはっきりと告げていた。
    ――私を1人にしないで、と。

    思わず自らも手を伸ばしてその手を掴もうとするセリカ。
    しかし――

    「――ごめんなさいシロコ先輩。
     本当にごめん……!」

    セリカは自らの手を引っ込めると、駆け出すようにベアトリーチェの開けた穴の中に飛び込んでいった。

    「セリカ……」

    無情にも手を伸ばした先で、ベアトリーチェの開けた穴が閉じていくのをシロコ*テラーは黙って見ていることしかできなかった。

    「よ、ようやく行ったか……禍々しい連中め……
     さ、さぁ、アヌビスよ、小生を殺してくれ!
     死の神であるお前の権能ならば、今の小生を間違いなく殺すことができるはずだ!
     小生をこの苦しみから解放し――!」

    まらしてもシロコ*テラーにまとわりつこうとして地下生活者は、彼女の全力の蹴りを顔面に食らいまたしても吹っ飛ばされた。

    「――私はもう誰も殺さない。
     それに、お前のような無責任な大人なんて殺す価値もない」

    苛立ちの表情を浮かべつつシロコ*テラーは先生たちのもとへと帰っていった。

  • 53初代スレ3024/09/22(日) 21:08:07

    「あ……ああ……」

    1人「混沌の領域」に取り残された地下生活者は、時に己が胸元を、時に頭を抑えながらその場をのたうち回る。

    「苦しい……苦しい……
     だ、誰か……小生をこの苦しみから解放してくれ……」
    「無様だな地下生活者。
     他人の言葉に耳を傾けず、自らの中でのみ物事を憶測し結論づけるからこのようなことになる。
     貴様の悪い癖だ」

    もがき苦しむ地下生活者を見下ろすように、フランシスがその場に姿を現す。

    「い、今更何をしに現れた匿名の行人……!
     小生を笑いにきたか……!?」
    「違う。ゲマトリアの決定を貴様に告げにきたのだ」
    「げ、ゲマトリアの決定……?」

    なんだそれは?
    いつの間に自分の知らぬ間に勝手に話を進めていた?

    文句を口にしたい地下生活者であったが、自らを襲う苦しみによりそれは叶わなかった。
    今の彼には口を開くだけでも、生きているだけでも苦痛なのだから。

    「地下生活者、此度の貴様の一件はゲマトリアの研究および探求の範疇を大きく逸脱したものだ。
     どのような理由があろうと、キヴォトスそのものを破壊しかねぬ行いは容認できない。
     よって、我々は再び貴様をこの空間ごと封印・幽閉することを決定した」
    「なっ……!?」

    それは曖昧な存在ゆえに「死」という概念を持たない地下生活者にとって、事実上死に等しい行為。
    まさか解放されて早々に再び幽閉されることになるなど地下生活者自身は考えていなかった。

  • 54初代スレ3024/09/22(日) 21:33:02

    「ふ、ふざけるな!
     そちらの都合で小生を解放したと思ったら、いきなりまたそちらの都合で幽閉するだと!?
     あまりにも身勝手じゃないか!?」
    「身勝手なのは貴様もだろう?
     私はゲマトリア復活の狼煙を上げることは認めたが、キヴォトスを滅ぼすことまでは容認していない。
     ましてや偶発的な事故で先生を死なせかけるとは……」
    「あれは小生が意図したものではないっ!
     小生の能力がどのようなものであるかは、お前たちは十分知っているだろうがッ!?」

    この場に第三者がいれば「物は言いようだな」と感想を漏らすことこのうえない大人たちの汚い問答。

    「だが、あれのおかげでまた良いものが見れた。
     先生が手にしている聖櫃の新たな力、その一片を知ることができたのは僥倖だ」

    そう言うとフランシス――厳密にはデカルコマニーだが――は踵を返す。

    「ま、まて……!
     せめて小生のこの苦しみをどうにかしていけ……!」
    「残念だが不可能だ。
     今の貴様の身に起きているのはバステトの権能によって与えられた“殺戮によってもたらされる死”の苦しみ――
     神々の権能で付与されたものなど我々ではどうすることもできん」
    「そ、そんな……!
     あ……ああああ……」

    フランシスに掴みかかろうとした地下生活者であったが、喋り続けたためかそれまでよりも激しい“殺戮による死の苦しみ”に襲われ、その場に崩れ落ちる。

    「今貴様が生きていられるのは、貴様自身が歪な存在であるが故だ。
     ――まあ、それゆえにそうして“生きたまま死の苦しみを味わい続ける”という生き地獄を味わっているわけだが」
    「ああああああああああ……
     苦しい……苦しい……」

  • 55初代スレ3024/09/22(日) 21:45:04

    「死を司る神ゆえにアヌビスは一目でそれを見抜いていた――
     ほかに理由もあったとはいえ、死に逃避しようとしたからこそアヌビスは貴様を無責任と断じたのだろう。
     ――申し訳ないが、私も同意見だ」
    「がああああああ……!」
    「これを機に自らの一言一句、一挙手一投足を省みることを学ぶといい。
     それに、いい機会ではないか?
     生きる苦しみと死ぬ苦しみを両方味わえているのだ。
     もしかしたら、その果てに貴様の求めている第6の古則の答えが見つかるかもしれん――」
    「そういうこったぁ!」

    デカルコマニーがようやく言葉を発するのと同時に、フランシスたちの身体がゆっくりと闇の中へと消え始める。

    「ではさらばだ古き友よ。
     いずれまた縁があれば相まみえることもあるだろう」
    「そういうこったぁ!」

    その言葉と共に、フランシスたちの姿と気配は完全に消え去った。
    今度こそ地下生活者は1人その場に取り残された。
    そして、それは「混沌の領域」に足を踏み入れる者は、この先誰1人として現れることはないであろうことを意味する――

  • 56初代スレ3024/09/22(日) 21:49:56

    「ああ……苦しい……苦しい……
     だ、誰か……小生をこの苦しみから解放してくれ……」

    「誰か……小生を……」

    「小生を……」

    「小生を1人にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

    ――その叫びに耳を傾ける者も、その叫びが聞こえた者も誰も存在しない。
    ここは「混沌の領域」。
    存在そのものが曖昧で、めちゃくちゃで、中途半端で、どっちつかずな者だけが踏み込める世界。
    「何者にもなれない者」「何者でもない者」だけが立ち入ることを許される狂った聖域である。

  • 57二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:08:41

    ナムアミダブツ
    インガオホー

  • 58初代スレ3024/09/22(日) 22:09:19

    シロコ*テラーがアビドスの砂漠に戻るのと同時に、“それ”は空間を、世界の壁を超えて現れた。

    ――セトの憤怒。
    「神々の星座」と呼ばれる、キヴォトスとは異なる世界に存在する神格の具現。
    それは現れるやいなや、周囲に存在していたカイザーの兵士たちや兵器を次々と薙ぎ払い、同時にその近くにいた生徒たちも吹き飛ばさんと荒れ狂った。

    「――まさか、“神々の星座”をこの世界に呼び寄せるとは。
     これもあの変質したマダムが得た力だというのですか……?
     だとすれば、彼女は我々の予想していた以上に危険な存在ですね――」

    遠目でセトの憤怒を見やりながら黒服は1人つぶやく。
    そして、やるべきことができたとばかりに、彼の姿は次の瞬間夜の闇へと消えていった。

  • 59初代スレ3024/09/22(日) 22:21:22

    その場に集結した生徒たちや逃げ遅れたカイザーの兵士たちの猛攻をもってしても、びくともせず暴れ続けるセトの憤怒。
    その様子を見て、先生はもう一度シッテムの箱の制約解除を試みる。
    シロコ*テラーは先生やプラナたちの身に何が起きるかわからないと、反対の意見を述べる。

    “これまでさんざん無茶はしてきたんだ”
    “今更また無茶をしたところで、どうということはないよ”
    “……それに、あれをどうにかしなきゃセリカを助けられそうにない”
    “生徒を助けるためなら私はなんだってするよ”

    先生のその言葉に、シロコ*テラーの脳裏に最期まで自分のために戦ってくれていたプレナパテスの姿が思い起こされる。
    ああ、やっぱり、この人も私たちの先生なんだ――

    「――わかった。
     それなら、まずは私を先生の指揮下に加えて。
     たぶん、あれをどうにかするには私の力が不可欠だと思うから」

    決心のついたシロコ*テラーはそう言うと銃を構えて先生の前に立った。
    制約解除が完了するまでには若干の時間がかかる。
    それまでの間、なんとしても先生を守らなければならない。

    ――だが、その直後セトの憤怒の強力な一撃が先生たちに向けて放たれた。

  • 60初代スレ3024/09/22(日) 22:42:52

    「これ以上、失ってたまるかああああああああああっ!!」

    その叫びと共に盾を構えたホシノがセトの憤怒の攻撃の射線上に飛び込んだ。
    さながらビームとも思える雷光の中に瞬く間に消えていくホシノ。
    彼女のおかげでセトの憤怒の攻撃を避けることができた先生もシロコ*テラーだったが、一瞬最悪の予感が浮かんでしまう。
    その様子を見ていたホシノ以外の対策委員会の生徒たちやヒナ、スオウたちも同様だった。

    ――だが、この程度で倒れるようならば、小鳥遊ホシノは『キヴォトス最高の神秘』などとは評されない。

    「……なんだ。思ったよりも大したことないじゃん」

    ボロボロになってしまった盾をその場に投げ捨てるように置いて、ホシノはゆっくりとその場に立ち上がった。
    だが、その姿は光の中に消える前の普段のホシノのそれではなく、先ほどシロコ*テラーや先生たちと双対していた時のものであった。

    ――小鳥遊ホシノ、再反転。
    しかし、それは決して暴走でも世界を破壊しようとする意思によるものではなく、守るべきものを守るための意思による反転だった。
    もしもこの光景を黒服が見ていたら、彼は間違いなく拍手喝采してこう言ったであろう。

    ――『暁のホルス』はついに完全なる覚醒を果たした、と。

    「ホシノ先輩、大丈夫なの?」
    「あ~、全然大丈夫だよ~。
     というか、いつにも増して全身から力がみなぎってくるって感じ?」
    「……よくわからないけど、大丈夫ならそれでいいわ。
     先生、アレを退けるなり倒すなりするにはやっぱり火力が必要だと思うわ。
     私と小鳥遊ホシノも指揮下に加えてくれないかしら?」

    ヒナのその意見を先生は迷わず採用する。
    これで前衛に必要な人員は残り3人――

  • 61二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 22:53:37

    ゲヘナ最強のヒナ、覚醒を果たしたホルスホシノ、平行世界のアヌビスシロコvsセトの憤怒
    ヒナが微妙に見劣りしかねないこの面子なんなん???

  • 62初代スレ3024/09/22(日) 23:03:53

    火力が必要というヒナの意見から、とにかく攻撃を得意とする生徒が必要と考えた先生は、C&Cからネルを、正義実現委員会からツルギを呼び寄せる。
    すぐさま2人から了承の返事を得て、これで前衛に必要な人員はあと1人となった。

    “……さて、最後の1人は誰にしようか?”

    この場にいる生徒たちの顔ぶれをシッテムの箱の画面にリストアップして表示する先生。
    そんな先生の視界の中に、最後の1人に相応しい攻撃に秀でた生徒が顔を出した。

    「貴方様、それでしたら是非このワカモの力をお使いくださいませ♪」

    ――こうして前衛の6人は決まった。
    後はネルとツルギが到着する前に後方支援を担当する4人を決めるだけ――

    「せ、先生ー、大変ですー!」

    そんな時に、突然この場に予想だにしない者たちが現れた。
    キリノにフブキ、そしてヴァルキューレ警察学校生活安全局の生徒たちである。
    どうしてヴァルキューレの生徒が、と思わず先生が口にするよりも先にキリノたちが口を開く。

    「先生、大変です!
     とてつもなく大きな機械の怪物が砂漠に現れました!」
    「目の前にそれと同じくらいヤバそうなのもいるけどねー」

    ――大きな機械の怪物。
    それを聞いた瞬間、ホシノやヒナ、シロコ*テラーの顔が少しばかり歪む。

    「それってもしかして……」

    ホシノが言い終わるよりも先に、彼女や先生たちの背後からビナーが勢いよく砂の中から飛び出してきた。

  • 63初代スレ3024/09/22(日) 23:21:24

    前にはセトの憤怒、後ろにはビナー。
    先生たちは完全に挟まれる形となった。
    『前門の虎後門の狼』という言葉があるが、虎と狼のほうがはるかにマシな状況である。

    「――さながら怪獣映画のような光景ね」
    「じゃあ、このまま映画のように怪獣同士でつぶし合ってくれたりとか?」
    「残念ですが、そうもいかないみたいですわ」

    ワカモの視線の先――ビナーの口元に光が集束していく。
    狙いは間違いなく自分たちだと先生やホシノたちはすぐに察することができた。
    もしかしたら自分たちごとセトの憤怒も吹き飛ばす算段なのかもしれないが――

    「うへぇ!?
     もしかしてまたビーム!?
     どうしよう、さっきので盾ボロボロになっちゃったんだけど!?」
    「じゃあ、こちらの全力の攻撃をもって相殺するしかないわね」
    「……できるの?」
    「やってみなければわかりませんわ~」

    それぞれの銃をビナーに向けて構える4人。
    ――ついでにその場にいたキリノも拳銃をビナーに構えようとしたが、フブキから「先生に当たりそうだからやめとけ」と言われて無理矢理引っ込まされた。
    直後、アロナたちから制約解除が完了したことが先生に告げられ、ビナーの口からビームが放たれる。

    「――悪いけど、ホシノちゃんたちはやらせないよ!」

  • 64初代スレ3024/09/22(日) 23:42:08

    突如、先生やホシノたちの前に何者かの影が飛び出し、ビナーのビームを手にしていた盾で防いだ。
    そして、その盾は明らかにホシノが普段持ち歩いているものと同じ――
    ビナーから放たれたビームをその人物が防ぎきると同時に、先生やその場にいたほとんどの生徒たちは信じられないものを見たと言わんばかりの表情を己が顔に浮かべた。
    なぜなら、その人物は――

    「ホシノちゃん、大丈夫だった!?」
    「ゆ、ユメ先輩!?」

    梔子ユメ。
    本来ならば絶対にこの場にいないはずの人物が、再びホシノたちの前に姿を現した。
    まさか、また地下生活者の噂で顕現したのか、とホシノやシロコ*テラーたちが思わず警戒してしまう中、シッテムの箱のプラナが告げる。

    「先生、信じられないかもしれませんが、目の前にいるのは紛れもなく梔子ユメさん本人と思われます。
     地下生活者の噂によって生み出されたものではなく――」

    目の前にいるユメは間違いなく本物。
    その事実に先生は、本当に今日はいろいろと驚かされてばかりだな、と思いながらプラナに理由を尋ねた。

    「先ほど説明しましたが、制約解除は『ナラム・シンの玉座』をその場に疑似的に再現するものです。
     『ナラム・シンの玉座』は次元や時間、存在と非存在が混ざり合う領域――
     おそらく、それによってこことは違う世界の梔子ユメさんをこの場に招き寄せてしまったのだと思われます」

    ――そんなことまでできるの、と思わず口に出してしまいそうになるのをなんとかこらえる先生。
    本当に驚いたが、今はそれどころではない。

  • 65初代スレ3024/09/22(日) 23:55:34

    「ゆ、ユメ先輩、いろいろと言いたいことや聞きたいことはありますけど……!」
    「うん。わかってるよホシノちゃん。
     私だってこの状況がどういうことなのかはだいたい察せる。
     ――先生、指揮をお願いします。
     私だって後方から支援をすることくらいはできますので……」

    どうやら目の前のユメは自分のことを知っているらしい。
    先生は言われた通り、ユメも指揮下に加えた。

    「先生、待たせたな!
     なんだか面白いことになってるじゃねえか!」
    「ぐひひひひッ!
     破壊し甲斐がありそうな奴らだァ!!」

    そんな中でネルとツルギが現着する。
    これで前衛担当は全員揃った。

    “ネルたちには悪いけど、私たちが相手取るのは前面のやつだけ”
    “後ろの相手は残りの生徒たちに任せるよ”

  • 66二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 00:03:21

    平行世界の先輩まで……?!

  • 67初代スレ3024/09/23(月) 00:10:07

    「はぁ?
     なんだよそりゃ?
     せっかくここまで来たのにつまらねえな……」
    「さすがの私たちでもこの状況で二方面同時作戦なんて無茶よ。
     先生の言っていることは理にかなっている」
    「ぐひッ……
     先生、目の前のやつを速攻で片付けたら別に後ろのやつを片付けにいっても問題ないですよねェ……?」
    「おお~……噂に聞く正実の委員長ちゃんはやる気満々だねぇ。
     こりゃおじさんも負けてられないよ」
    「ホシノ先輩、調子に乗ってこのあたり一帯を吹っ飛ばしたりしないでね?」
    「貴方様、このワカモの武勇をどうぞ最後までご照覧あれ♪」

    セトの憤怒を前にしても普段通りの様子を崩さない生徒たち。
    これならなんとかなるかもしれない、と思う先生のそばにユメが近づいた。

    「いい子たちですね、先生?」

    “うん。自慢の生徒たちだよ”

    「わかります。
     ……ちょっと妬けちゃいますね」

    そう言ってホシノたちを見るユメの顔にはどこか憂いがあるのに先生は気がついた。

  • 68初代スレ3024/09/23(月) 00:16:15

    もしかしたら、このユメも先ほどのセリカのような世界から来たユメなのかもしれない――
    そう思った先生は、思わずつぶやいた。

    “――ユメ、私は君がどんな世界からここにやって来たのかはわからない”
    “ユメの知る私がどのような私であるのかも知りはしない”
    “だけど、ユメが生徒で私のことを先生と呼んでくれる限り、ユメも私の大事な生徒だよ”
    “それだけはどの世界の私だって変わらないと思う”

    「――ありがとうございます、先生。
     やっぱり先生はどんな時でもどこにいても私の知っている先生ですね」

    戦いの準備は整った。
    ホシノ以外の対策委員会の生徒、そしてスオウたちはすでにビナーとの戦いを開始している。
    彼女たちの信頼に応えるためにも、自分たちはなんとしても目の前の存在を退けなければならない。
    ――不思議なことに、先生をはじめその場にいた誰もが負ける気がまったくしなかった。

    “みんな、準備はいいね?”
    “この戦いで今回の騒動も終わりにするよ?”

    先生の言葉に手にした銃や装備を構えるホシノやユメたち10人の生徒。
    最後の戦いが始まった。

  • 69初代スレ3024/09/23(月) 00:19:50

    というわけでPart5(後半)終わり
    前々スレであったホシノ*テラーとの制約解除決戦イベントがストーリーと連動して行われるってネタさり気なく採用させてもらいました
    たぶんこの世界ではPart5(後編)の後にセトの憤怒との制約解除決戦イベントも連動して行われると思います
    前口上は原作と変わらないと思うので書きませんが

    というわけで次回エピローグです
    投下はいつになるかわかりませんが、気長に待っていただければ幸いです

  • 70二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 00:27:33

    怒涛の更新乙でしたー
    なんか連邦生徒会長にセリカ(平行世界)達との対立という特大のシナリオフックぶん投げられてるぅ……!?

  • 71二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 00:32:37

    やはり最高戦力が集まるのは興奮する 
    現れたユメ先輩は本編で出てきた「2年前に先生が来ていた世界線」から来たのかな?
    連邦生徒会長についても言及されたし続きが楽しみです

スレッドは9/23 12:32頃に落ちます

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