もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 00:37:30

    アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。

    戦いに消耗したアグネスとミネルバ。いくら大戦果を挙げても彼女達に心を落ち着ける時間が与えられるとは限りません。
    この世界はそんな彼らを休ませてくれるほど優しくは無いでしょう。

    この艦が進む世界は、すでに本編とはかけ離れたものとなっていますが、彼らはどこに向かえばいいのでしょうか。

    『ミネルバ』は戦いの女神にして知恵の女神。果たして名は体を表すものとなれるのか。

    おつきあいをいただければ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 00:45:34

    激しい戦いが終わり、疲弊しきったミネルバの戦士達。
    彼らは一時でも心と体を休めることができるのだろうか…

  • 3二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 00:47:10

    前スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com

    1スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com

    2スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com

    3スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com

    4スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com

    5スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com

    6スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com

    ※落としてしまった7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 00:53:07

    対外的なポーズや巡って自分の身を守ることも含まれてるとは言え、このアグネスは疲弊した仲間への配慮が行き届いてて…
    仲間の何人かは惚れ込んでてもおかしくないな。アグネスがそういう相手として見るかはさておいて…

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 00:54:27

    レクイエムの砲口破壊は確定ですが反応炉の破壊はできたのか気になります

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:15:28

    新スレおつです!
    既に原作とは大きく逸れた道筋を辿っているけど
    レクイエムの砲口を破壊できた事でそれがもっと加速しそう…

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:34:18

    以前表示された時刻よりも何故か早く落ちたことがあったので10まで保守します

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:34:43

    保守

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:35:44

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:36:36

    以上です失礼しました🙇

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:37:11

    ようやくレクイエム攻略戦が終了
    エターナル参戦ありがとう
    ラクス暗殺未遂の件はイザークたちに調査を依頼するのかな?
    続きを楽しみにしてます

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 01:58:45

    >>10

    ありがとうございます。

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 09:38:49

    そういえばガイアやネオンダムは撤退したんだっけ?
    タンホイザー掃射の時に巻き込まれたか
    基地に帰還して投降したか
    レクイエム脱出組がいて合流したか…

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 13:54:54

    ダイダロス基地降伏受諾からの流れは想像以上にスムーズなものだった。私はてっきり降伏を受け入れない将兵の絶望的な抵抗や自爆攻撃なども発生するのではないかと危惧していたのだが―。

    アスラン「中佐のおかげだな。いや、もう連合将兵も疲れ切っていたというのが実情かもしれないが」
    アグネス「どちらにしても…。いえ。すんだことです」
    アスラン「ああ…」

    小声で交わした会話を手早く切り上げる。私達は今、一旦制服に着替えて、降伏式に列席中だ。かつて連合第三艦隊の母港であった宇宙港で式は執り行われている。宇宙港にはミネルバと『ヴェルディ』破壊後、全速で月に急行してくれていたジュール隊のナスカ級ボルテール、ルソーも停泊している。

    クルーから組織された陸戦隊が既に基地のコントロールは掌握、メイリンがメインコンピューターを抑えている。

    グラディス司令長官はジュール隊の方達にも列席を勧めていたが、ジュール隊長は固辞なされた。イザーク先輩達としては功労者の私達に花を持たせてくれたのだろう。

    レクイエム発射口から吹き上がる火柱を見届け、エターナルは戦場を後にした。グラディス司令長官は、彼らにも降伏式の出席も要請したのだけれど、こちらも謝辞された。何でも『ターミナル』としては困るとのこと。

    アグネス「(『ターミナル』なる国際組織…。謎だわ。一応『各国の非戦派が集まって結成された非政府組織』とのこと。母体の一つはクライン派みたいだけれど。他にオーブとかも。各国の非戦派有力者ともつながりがあるらしい)」

    ふーむ。味方なのか敵なのか。こういう組織本当に困るな。『非戦派有力者』と言えば聞こえがいいが、要は売国奴の集まりでは…。

    お国のために将兵が前線で血を流す中、他国の『お友達』にぺちゃくちゃ自国の秘密を洩らし、軍事機密どころか武器さえ流し、有ろうことか小規模とは言え軍事組織まで。

    『非戦派』でかつ『有力者』なら、自国の議会が戦場のはず、盤外試合で正義の味方ぶるのは止めていただきたい。

    アグネス「(はっ!いけないいけない。一緒に戦ったばかりじゃない、エターナルと。恩義に反するわ。第一、人類滅亡のカウントダウンが始まるようなレアケースの前には通常の法体系は意味をなさないのかもしれない)」

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 14:01:23

    じゃあ、その緊急避難に生じた組織を通常時の国際秩序、法体系にどう組み込んでいくのか。一般国民がコントロールできない、情報公開もなされない、資金の流れも分からない機関がフリーハンドを行使すること等恐ろしいことは無い。すごく大事な課題のはずだけど。彼らはどうするつもりなのか。

    民主主義と法の秩序の下に彼らが甘んじるつもりがないなら、将来的にはやはり一戦しなければならないかも知れない。あくまでこの戦争が絶滅戦争に代わってしまう恐れが回避された後の話になるが…。

    因みにアスランは良く分からない反応をしていた。大丈夫なのか。ダコスタさんと敬礼を共に交わした際の彼の顔、ちんぷんかんぷんそうに見えたわ。ラクス・クラインとどこまで情報共有しているのやら。

    連合代表は現在、アスランと話題にした連合軍中佐。包帯グルグルで両足と右腕がない。明らかにベッドに居るべきなのであるが…。

    ダイダロス基地は、予想通り、タンホイザーによるレクイエム破壊とその余波で起こった大誘爆で深刻なダメージを受けていた。基地第一司令部は吹き飛び、基地司令官以下参謀将校たちも大部分が戦死。

    ただ、地球から押しかけて来た『ロード・ジブリール』なる高官(?)は直前に姿を消していたと、半死半生で生き残ったオペレーターが証言していた。何でもその人物が基地に来た直後から、この悲惨な戦いは幕を開けたらしい。タイミングとしては第三艦隊出撃の前ぐらい―第八艦隊と混成艦隊の敗北後-にとんでもない形相で押しかけて来たらしいが…。

    アグネス「(そんな将官いたかしら?コープランドの大統領補佐官でもないだろうし)」
    どうも話が要領を得ない。本人が重体だから当然と言えば当然だが…。

    今、文章に左手でサインしている中佐はローラン隊との初戦で重傷を負い、手術に耐えて医務室で横になっていたところ、司令部壊滅でパニックを起こした兵士たちに叩き起こされたらしい。降伏受諾の信号は医務室から指示を出して発信させたとのこと。

    ジブリールに置いて行かれた将兵は皆激怒していて、その反動か捕虜に案外優しいミネルバとジュール隊に協力的だ。ジブリールって誰なんだ、本当に。

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 14:08:00

    古式ゆかしい降伏式、臨時指揮官の中佐から、グラディス司令長官が武装解除の証として拳銃が手渡され、司令長官が受け取る。その後、あくまで儀礼的に互いの健闘を称え合い、司令長官から中佐に怪我の回復を祈る言葉が告げられると、ようやくこの戦いが正式に終わる。

    アグネス「(あくまでこの戦闘だけね。ダイダロス基地が落ちたというだけ)」
    ただ、それでもやれやれと力が抜けてしまうのは仕方がない。レイはもう医務室で休んでいる。

    グラディス司令長官、トライン副長、ハイネ先輩、アスランに混じり、私やシン、ルナマリアも式典に列席している。何とか気合で立っているがもう限界だ。

    少し休みたい。さっきから頭がくらくらする。

    皆で一旦、奪取した空港のリクリエーションルームに下がる。ソファーに座りたいけど、上の立場の人だらけだし何ともならない。

    そんな私達を気遣うようにグラディス司令長官は歩み寄ると小声で私達に告げる。一応、監視カメラや盗聴器の類は検査済みではあるが、人間の心理ってやつかな。

    タリア「皆、本当に…。本当に頑張ったわね。とても疲れていることと思う。ゆっくり休みなさい」
    一同「はい」
    皆で敬礼を交わし、一旦ミネルバに帰還する。もうフラフラだ。半分ルナマリアと支え合うようにして何とか艦内に足を踏み入れる。懐かしの我が家だ。

    出撃したばかりだけれど…。

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 16:35:38

    やっぱジブリールとは決着つかず…というかこの段階だと議長のロゴスメンバー大公開放送まだだったな(本編でもステラデストロイ撃破後)

    デストロイの映像がレクイエムに差し替わるのかな

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 18:48:27

    >>15

    ちゃうねん

    元々プラント上層部がみんな裏であれこれやってたのがそもそもの原因やねん

    しかも「自国の議会が戦場」の筆頭たるシーゲルさんとか、元代表議長に殺されてしまったという有り様やから、地下組織化するしかなかってん


    戦後も戦艦乗り回すな?

    それはそう

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 19:52:03

    ザフトも連合も月軌道にもう戦力残ってねぇし連合は月基地の核の備蓄も使い切った?
    取り逃がしたジブリールにはレクイエムもないしロクな手札が残ってないとなると対ザフトに積極的に参戦しないとオーブを焼くぞとデストロイ送ってきそうだな…
    派兵要請に対してカガリが声明出してデモ・ストライキが起きたけどこのままだとカガリが政権奪還しないとセイランが要求飲みそう

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 20:16:59

    少なくともデストロイは最低でも地上に1機(本編ステラ用、スタゲ組ファントムペインが防衛してたやつ)は完成してそうだよなぁ…

    あとヘブンズベースの5機も製造中だと思うけど、月面壊滅したから一部の資材が送れなくなって弱体化や建造遅れとか出るだろうか

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 20:47:43

    その後、どうやって自室のベッドまでたどり着いたのかは覚えていない。気が付いたらベッドの上で体体に毛布が掛けられていた。これは夢か幻覚か妄想なのか…。それすらも分からない。傍に看護兵の気配がする。脈を取ってもらっているのか…。

    最近そんなのばかりね。

    『所詮女』、もしそんなふうに周りから思われているとしたら、悔しくてたまらない。

    『私が人を見下すことがあっても、人が私を見下すことなどあってはならない。』そんな強がりに必死で縋りつく。ルナマリアやレイは大丈夫だろうか。まあ、ルナマリアは割りと強靭だから一眠りすれば大丈夫だろう。

    メイリンと日々を過ごしてきた懐かしい部屋の天井を見上げ、目を瞑ると瞬時に体が海に沈んでいくような感覚に襲われる。生物の源が海だからかな。そんな意味のない推測が昏迷した脳内を走り抜ける。

    光が差し込む温かい海をゆっくり沈んでいく。光は私が沈むほど暗くなっていく。暗い海の底に私は沈む一方だ。すると、突然、私の体の下から鯨が海面に上がってくる気配がする。飲み込まれてはかなわないから、慌てて必死に手足をばたつかせ、道を空けてあげる。

    すると上がって来ていたのは鯨ではなく、カーナヴォンだった。海底に沈んでいく私と入れ違いに明るい海面に浮上していく。

    浮上が完了し、お日様の下に船体が照らされると、艦全体が輝きだし、やがて光の中ににゆっくりと溶けていく。

    力を抜いて暗い海にゆっくり沈みながら、その情景を見つめ続ける。海の中でも人は涙を流すものなのか。夢の中だから可能なのか。

    カーナヴォンに続いてブルトン、マルベース、あの日一緒にゴンドワナを出撃したナスカ級、援軍に駆けつけてくれたホーキンス隊の各艦が沈んでいく自分と入れ違いになるように上へ上へと昇っていく。

    皆、水底から順に日の光に導かれ、海面まで浮上すると、あっという間に光の粒子となって消えていく。おそらく乗艦していたクルーやパイロット達と共に。

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 20:53:06

    仰向きに沈み続けながらながら、何となく理解する。これは昏睡同然に寝込んでいる私の深層心理が見せている幻なんだろう。

    死んだ戦友がせめて天国に行っていて欲しい、暗く冷たい闇の世界ではなく、明るく温かい場所に旅立ったのだと思いたい。そんな私の願望がこの光景を見せているんだわ。

    軟弱者め。それで彼らが救われたとでも思いたいのか。
    自分を叱りつけながら、同時に彼らの冥福をひたすら祈る。かつてガルナハンで歌った歌を思い出す。

    アグネス「When we've been there ten thousand years,Bright shining as the sun,We've no less days to sing God's praiseThan when we've first begun.」

    アメージングレースを作詞したジョン・ニュートンは奴隷船長であったという。
    彼がもしその悔恨によって赦しを得られたならば、私もまた赦しを乞いたい。

    先だった仲間達が天国に行けますように。私を許してくれますように。誰に許して欲しいのかは分からないが…。

    私は聖人君子ではないかも知れないが、少なくても奴隷商人ほど罪は犯していないつもり。

    ふむ。しかし、何時まで沈み続けるのだろう。幻でも何でも仲間たちを無事(?)見送ったわけだし、そろそろ浮上しないと困る。まだまだ仕事は残っているし。

    全ての艦とほとんどのモビルスーツを喪失したとはいえ、ダイダロスは大規模な基地。

    数万の人員が一度に降伏してきたせいで、月面は軽くパニックになっていた。ジュール隊に続いて、続々と援軍は到着しつつあるとバートさんが言っていたし、それは間違いないことだろうけど。占領任務は彼らに任せるとしてもファローしなければいけない業務はそれこそ山のように溜まっているだろう。

    急いで起きたいものだ。起床しなければ!

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 20:57:14

    このアグネス大分ワーホリ気質だなぁFREEDOMの時とかキラと一緒に残業が常態化しそうだぞ…
    そもレクイエムの破壊具合だとFREEDOMに続かない?

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:00:28

    しかし、手足で必死に水をかいても、体は沈む一方だ。仕方が無い。押してダメなら引いてみろ。体の向きを変えて、海底に向け潜水して行ってみる。いっそ海底に到達したら目が覚めるかも知れない。

    この光景は眠っている私の夢に過ぎない。早く起きて仕事に戻らなければ!

    一生懸命、腕で海水をかき、足で水を蹴り続ける。頭を下にして潜り続けると、私が月に行ってから撃沈した多数の連合艦船が海底に沈んでいる。

    どの艦も私が爆沈した瞬間で時が止まったている。切り裂かれ、ビームや砲弾で爆発、穴を空けられ、爆発で船体が破裂した状態で固まっている。

    アグネス「(随分沈めたわね。アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)」

    あまり考えていなかった、というか考えても仕方ないので考えないようにしていたけど。
    他の人の『戦果』を除いて、自分の分-更に地上の戦いを除外-して宇宙で自分がなした分だけでも瞠目せざるを得ない。

    私は連合艦船の定員を知らない。知っていたとしても、あまり意味のない考えかもしれないが…。

    何時かのように例えば宇宙母艦のアガメムノン級の定員をパイロット・クルー合わせて1000人、宇宙戦艦であるネルソン級の定員を300人、宇宙護衛艦のドレイク級の定員を200名と想定する。
    そうすると私が虚空で燃やし尽くした人命は23600人、と数字が弾き出される。

    一人殺せば殺人で百万人殺せば英雄だ、などと訳知り顔の人は嘯く。確実に言えることはそいつらは1万人を死なせた人の内面を真剣に考察したこと等、一度もないだろう。

    私は務めを果たしただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。私は彼らを葬った対価として勲章を貰い出世して…。
    それで正しいはず!私は戦友と祖国を救うべく力の限りを尽くした。それなのに…。

    アグネス「(この水底で無惨な姿をさらしている敵艦を見ると痛ましい気落ちしか湧いてこない)」

    良心の呵責、そんな言葉で表すことなどできない。

    この船の墓場に立ち尽くして―勿論この光景が自分の夢なのだと分かっている!-一体、私に何ができるだろう。
    それでも、この数千数万の犠牲者の内、1人でも生き返らせることができるなら―

  • 25二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:02:49

    アグネス「(詰まらない感傷よ。無力感と怒り、そんなものは忘れろ、今すぐ。どうにもならないんだ、そんなものは)」

    どうせ出世と勲章授与の喜びで吹き飛ぶはず。そうだと信じたい。

    アグネス「うん?あれは…」

    ゴロゴロ転がるアガメムノン級の隙間から、ごっついモビルスーツのシルエットが浮かんでいる。あの大型ね。

    潜水泳ぎを続けて疲れいるのだけど、夢の中でも疲れるとはこれいかに。ともあれ手足を必死に動かして、丸いバックパックが特徴の黒鉄の城に辿り着く。

    随分乱暴にコックピット部分が破壊されているが、これはルナマリア達が救助活動で行ったもの。中のパイロットは無事だ。私の配慮に感謝して欲しい。

    大勢の取り戻しようのない愚行から、ほんのわずかな救いを見出すのは偽善とすれすれの考えだと理解してはいる。それでもこの監獄に閉じ込められていた幼さの残る少女が生還できたことを心から嬉しく思う。

    彼女は、というかダイダロスクレーターで対峙した大型モビルスーツ『デストロイ』のパイロット3名、それと捕虜にしたカオスのパイロット、スティングは、薬物強化処置を受けた兵士、『エクステンデッド』であったと判明している。例の非人道部隊に所属していたのだろう。

    医務室で彼女とスティングの治療が行われた際、血液検査で薬物強化のことは即時に判明した。そして目を覚ました彼女に保安要員が事情聴取したところ、未だ意識が混濁し、要領を得ない中でも、幾つかの重要ワード聞き出すことに成功した。

    『デストロイ』『エクステンデッド』『ゆりかご』『ロドニアのラボ、助けて』と。

  • 26二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:07:48

    占領のため先んじて乗り込んだケルベロスバクゥハウンド組が、デストロイ発進ポイント付近から、なんとか3人分の睡眠カプセル―つまり『ゆりかご』―を発見した。

    ダイダロス基地付属地の大部分はタンホイザー照射の範囲外だったことが幸いした。もし、基地自体にも爆撃をかけていたら、無事では済まなかっただろう。

    彼ら彼女らの『調整』を担当していた人員。科学の大義もヒポクラテスの誓いも放り捨てた愚か者達はジブリールに見捨てられ今度は自分が囚われの身となった。
    基地降伏時に連合軍の軍服を盗んで逃走しようとしたところを正規軍兵士に袋叩きにされ、ザフトに突き出されたという。やはり、汚れ仕事を担当する者は仲間からも嫌われるらしい。ドイツ国防軍と特殊任務部隊(アインザッツグルッペン)の如しだ。

    降伏条件でもあったため、奴らが企んだ資料破棄の企ても失敗した。ただ、捕まったのはダイダロス基地専属のエクステンデット関連要員だけで、ガーティ・ルーに乗っていた方は逃げおおせたらしいが。

    正直、私はそれに構っている時間的・精神的余裕などなかった。そもそも彼女の治療が行われ、目を覚まして聴取を受けていたころ、私は『マルタン』の護衛艦隊と戦闘中であったし、先に危地に突入したのはセイバー、インパルス、ザク、バクゥ隊だった。

    その後もダイダロス基地の占領、武装解除業務に忙殺されながら報告を受けたため、詳しくは聞けていない。

    それでも二人の人間が助かった、ただそれだけがこれほどうれしいことは無い。スティングは目を覚ました瞬間暴れて保安要員2人を負傷させたらしいけど、錯乱していたなら仕方ない。

    空洞になったデストロイの鳩尾を眺め、ささやかな嬉しさを嚙み締めたところで唐突に私の意識は途切れ、再び深い眠りの淵に転げ落ちて行った。

  • 27二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:11:43

    エクステンデッドの運用設備と研究資料と研究従事者を押さえたか。ステラ生存させるならここらあたり押さえとかないとどうにもならんからなぁ

  • 28二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 21:18:12

    敵対して葬った相手に対して痛ましさを覚えられるなら戦争の狂気には染まらないね、よかった
    失った人たちへの嘆きや怒りに流されたら議長の思う壺だったろうから

    現役で人体実験してる研究者が捕まったならレイの事も見てもらえないかな
    別の分野の専門家の知見って結構参考になるし彼が生き残る足がかりになってはくれないだろうか

  • 29二次元好きの匿名さん24/09/22(日) 23:56:01

    ピピピピピピピ、ポチ。

    タイマーの音と共に起床。凄い、久しぶりの感覚だわ。実際はゴンドワナから月の裏側に出撃して3日と経っていないのに。いや、今日で4日目か…。時間感覚が麻痺して久しい。

    メイリン「おはようございます。アグネスさん」
    アグネス「おはよう、メイリン」

    メイリンと寝起きに挨拶を交わす。自室でこれをやるのも久しぶり、と言うほどでもないか。いけない、完全に呆けているわ。生きているからこそ、このささやかな儀式が行えるわけで…。改めて生の実感を感じるわね。

    アグネス「それにしてもメイリンは早起きね。あの後帰って来たんでしょう」
    メイリン「ええ…。まあ」

    珍しく言い淀む彼女。何か不味いことでも起きたのか。

    アグネス「ちょっとまずい状況?」
    メイリン「そこまででは。ただ、この後、司令長官から少し難しい話があると思います」

    ふむ。あまり聞きたくないけど。仕方ない。この後朝食を食べて頭をしゃっきりさせなくては。ああ。そう言えば!
    アグネス「レイは、どうなった?復活した?」
    メイリン「はい。医務室から自室に戻っていますよ」

    良し。ならば大丈夫ね。なにが大丈夫かはともかく。後で話は聞かなければならないだろうけれど。

    アグネス「じゃあ、ご飯行こうか。ルナマリアは?」
    メイリン「行くって言ってます」
    アグネス「良し!」

    気になることてんこ盛りだけど、ウジウジしていても仕方ない。制服にチャチャッと着替えてメイリンと部屋を出る。出る瞬間に思い出す。

  • 30二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 00:05:06

    アグネス「まずい」
    メイリン「なにがまずいんです?」

    アスランがボッチ飯しているかもしれない…。上手くハイネ先輩辺りと混じっていて欲しいけれど。う~ん。放っておこうかな。いや、オーブの件とかラクス・クライン暗殺未遂の件とか。

    いや、なぜ私がそこまで気にかけなければいけないのか。朝食まで仕事を持ち込んでたまるものか!

    アグネス「いえ。な~んにも不味くないわ。ルナマリアを誘って、食堂に行きましょう。どの部屋?」
    メイリン「アビーさんと相部屋になっています。暫定的に…」
    アグネス「そう…」

    ルナマリアの所属していたマルベースは沈んだばかりね。その前に乗っていたであろう艦も。仕方ない、切り替えなければ。
    アグネス「ともあれ、二人の部屋に行くわよ。アビーも誘う?」
    私は彼女の声しか知らない。早めに人間関係を構築した方がよいかも知れない。

    メイリン「ああ。アビーさんは私と交代でブリッジに」
    アグネス「そう言えばそうね。そのために来たんだし」

    変な納得をしながら、通路を進む。改ミネルバ級になったのは良いが相変わらず部屋は2人部屋のままだ。次級として完成予定のスーパーミネルバ級では士官室は個室になる予定だった。

    ただ、改ミネルバ級はモビルスーツを詰め込めるだけ詰め込んで運用するコンセプトになったため、艦載機の数が増え、その分、内部スペースはシビアな感じがする。

    アグネス「(逆にスーパーミネルバ級の予定完成イメージ図の艦内、まるでホテルみたいね。ナスカ級と比べたら隔世の感があるわ)」

    ただ、この艦を改修するさいスーパーミネルバ級1番艦用の部品を多数引っこ抜いた。予定通りに完成させるには気合を入れなければいけないかも知れない。工廠に負担をかけたことは悪いと思うが、そこは上手く調整してもらうしかない。

  • 31二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 00:17:21

    そんなことを考えつつ部屋に向かうと、ルナマリアも着替えて前で待っていたわ。相変わらずヒラヒラの短いピンクスカート、攻めているわね。ズボンにしてしまった私は老けてしまったのだろうか?

    ルナマリア「おはよう。なにアグネス、じろじろ私の足を見て」
    アグネス「じろじろは酷いわね。変質者みたいで。うーむ。短いスカート、若いうちに楽しまなきゃね」

    命短し恋せよ乙女。タイミングよくお洒落も楽しみたいわね。

    悲劇と喜劇がワルツを踊る時代に産まれたからこそ、自分の細やかな拘りや楽しみを大事にしたい。

    アグネス「(目の前の惨事に心が押し流されろうになった時こそね)」
    お葬式の次の日にパーティーをしてはいけないと誰が決めた!そんなメンタルでは戦時下に日常を送れないわ!

    塹壕の中で誕生日パーティやクリスマス会を強行するメンタルを見習わなきゃね。ソ連の女性パイロット隊も絶滅戦争の真っ最中、激務の合間を見計らってダンスパーティーをしていたらしいから。

    アグネス「うむ。ルナマリアらしい。私も見習わなきゃね」
    ルナマリア「あんたのスカートの丈も大概だけどね。今日はズボンだけど」
    アグネス「まあね。それを言ったらメイリンはきっちりバッチリ決めていて偉い」
    メイリン「そんな。規定通りに着てるだけですよ」

    さらりと耳の痛いことを言うメイリンの言葉は『お姉ちゃん』と一緒に聞き流し、3人で食堂に入る。

    食堂に入ると皆がニュースを見てざわついているわね。嫌な心当たりしかないけれど、知った事か!

    3人で聞き流し、食事をとりわけ、一番良さそうな席に着く。私達の細やかな日々を楽しく、そう楽しく送るため、一緒にご飯を食べ始める。この日々に幸多からんことを。

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:40:22

    この期に及んでまだなんかあるのか…

    あるよなぁ…議長はウッキウキだろうし

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 11:05:01

    反応炉まで壊れて再起不能だったらデスティニープラン実行の脅しに使えないからどうだろう
    反応炉が健在だったらウッキウキだ
    本編は修復の予算をどうやって調達したのかな
    事後承諾でゴリ押しか、デコイ予算組んでた?

  • 34二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 12:10:06

    前スレのタンホイザー描写が…

    光の渦が発射口の奥を直撃し、更にレクイエム自体にため込まれていた膨大なエネルギーの逆流さえ誘発したのであろう。射出口からは巨大な火柱が地獄の門を開いたかのように虚空を貫いて立ち昇り、衝撃波は本来地震とは無縁の月の大地を揺らす。

    …だったからなあ
    例え反応炉が無事でもこれは…

  • 35二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 12:15:29

    DESTINY終盤のインジャと暁が破壊した位の破損にはなってそうね(FREEDOMまでの1年で修復?)

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 13:46:00

    修理に最低でも1年かかりそうなら、議長は再選でもない限りその間にほぼ確実に任期切れになるだろうからね…
    中継コロニーもかなり壊されてボロボロだから議長がレクイエムを主軸にしたチャート組んでたならどうすんだろ?

  • 37二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 14:29:23

    議長になった時点ではレクイエム利用してどうのまでは考えてない(情報がまだ出てない)だろうし別の策くらいはあるんじゃない

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 14:42:20

    まあ、まだメサイアとネオ・ジェネシス残ってるし…

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 15:42:06

    宇宙での脅しは高速艦と陽電子砲あれば十分ってか、量産ディスティニーとゼウスシルエットある
    クルーゼの発言だがファーストシリーズでも電力ミラー狙えば一機でコロニー複数干上がらせる事できるみたいだし

    地上は前大戦で血のバレンタイン前からザフトが壊したコロニー残骸あるから地球に近づけるだけの作業だしな
    小説版読む限り、この話みたいな一部連合の徹底抗戦も、ブルコスの狂気だけじゃなく根本はコロニー落としによる「やらなきゃ、やられる。家族が」だろうし。脅しも釣りも楽だろう

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 20:21:54

    3人でそれなりに楽しく食事を進めていると、2つほど離れたテーブルから、突然、食器が音を立てて落下する。耐衝撃素材で良かったわ。食事中の男性3名中2名が、急に立ち上がり驚愕の声を上げている。

    アスラン「そんな!」
    シン「ええ!どうして!?」

    アグネス「(やっぱりあの二人か…)」
    少なくともアスランはボッチ飯を回避できたらしい。ハイネ先輩とシンと一緒に朝食を取っていたわ。

    それは結構なことだけれど。

    野菜ジュースを飲みながら、困惑するルナマリア、『またか』と言った顔をするメイリンと視線を交わす。多分、あの二人が同時にリアクションをすると言った場合、間違いなくオーブ関係ね。

    食事の手を止めることなく、さっきから無視を決め込んでいた食堂のモニターを見上げ、今流れているニュースを確認する。

    ちょうど今、フリーダムがムラサメの手足を切り落として、海に落下させるシーンが放映されている。どうやらこれは振り返り報道のようね。

    アグネス「(って、何でフリーダム、アークエンジェルがオーブと戦っているの?どうなっているの)」

    予想していたこととはいえ、地上では混沌とした事象が数多く発生していたらしい。ともあれ、ここは黙って情報を確かめるターンだろう。

    ニュースキャスター「一昨日行われたナウル近海におけるザフト軍とオーブ連合首長国軍、アークエンジェルの戦闘について続報をお伝えしています。
    レクイエム発射後、連合の圧力を受けたオーブ連合首長国セイラン政権は国内の強い反対を押し切り出兵を強行しました。

    空母タケミカヅチを旗艦とする艦隊8隻はオノゴロ島より、連合軍太平洋艦隊と合流すべくハワイ方面へ。
    一方、両艦隊の合流阻止のため、ザフト軍はボズゴロフ級で編成された潜水艦隊をソロモン諸島北東海域に既に派遣済みであり、両国間の戦闘が同海域で発生しました」

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 20:31:58

    ニュース映像には甲板にムラサメをずらりと並べた空母タケミカヅチの威風堂々たる姿が上空より撮影されていた。

    なかなか強力な艦のようね。一応、あの艦を意識して改ミネルバ級は艦載機を増やしたのだけれど、まだ少し艦載機数が足りないかも知れない。

    しかし―。それにしても!
    苦虫をかみつぶすとはこう言うことを言うのだろう。自分の表情を確認はできないが…。
    何とも―。これまでの苦労が水の泡ね。アホらしくなっちゃうわ。

    これは、アスランは驚愕、シンは大荒れね。私は落胆の割合が大きいかな。

    ルナマリア「結局…。デモとかストとか起こっていたのに。レクイエムが恐かったのね」
    メイリン「もしかしたら出兵予定だったところ、丁度いいと思ったのかも…」
    アグネス「政策決定者は一人ではないし、まして今のセイラン政権なら猶更。ウナト・ユウナ当人はともかく、他の人達は愛国心も保身も全部ごちゃまぜでの決断でしょうね。首都はデモ隊で半分機能不全、軍からの離反者が住民避難に当たっていたというから」

    しばしば、歴史は当事者の思惑を超えて暴走するもの。今回は果たしてどちらなのだろう。

    ところで、アークエンジェルは何で参戦していたのか?さっきの映像では―。

    ニュースキャスター「オーブ遠征軍、ザフト軍がナウル沖で軍事衝突寸前となったところ、突如、船籍不明艦アークエンジェルが上空より接近。同艦よりストライクルージュが発進し、同機よりカガリ・ユラ・アスハ代表を名乗る人物がオーブ軍の戦闘停止と帰国を命ずる放送を行いました」

    一旦画面が切り替わり、熱が入り過ぎていた感のあるキャスターの顔が消えると映像は戦闘発生日当日に切り替わる。これはタケミカズチのブリッジから撮影しているのか?

    空母タケミカヅチを中心に前1隻、左右3隻のイージス艦のオーブ艦隊が画面手前側に展開している。ムラサメ隊の発艦準備は終了済み。

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 21:07:49

    オーブ軍の対面にはボズゴロフ級からザフト軍モビルスーツが空中に向け、次々と発進している。思うに、タケミカズチの相手をするのはかなり厳しいわね。一応、それなりの機数が発進しているけれど。バビとディンでムラサメの相手は出来るのか?バビでギリギリかな。

    中継映像からは確認できないが、おそらく海中ではゾノやグーンが発進しているはず。出来ればアッシュがいると信じたい。空中戦は苦しいから喫水線下の戦闘で優位を取りたいわね。

    そんな分析と言うか感想を持ってニュースも見守っている。ジタバタしても、もうこれは起こってしまった現実だ。覆しようはない。ルナマリアはニュースに映る仲間をハラハラ見つめている。

    やはり、ムラサメが脅威と言うのは共通した認識みたいね。戦死者がどれくらい出たのか…。チラリとメイリンに視線を送るが静かに首を振られる。どっちの意味だろう。メイリンもまだ知らないということなのか、あるいは。

    味方の死を前にオーブへの好意を持ち続けられる自信は正直無い。良い感情でないことは分かっている。ユニウスセブンが落ちてから地球の人達は同じような苦しみを何度も経験しただろう。それでも戦友の戦死を目の当たりにするのは堪えるものだ。

    アグネス「(感情的になり過ぎなのかな。昔はもっと人の死にドライだったはずなのに。良くない傾向かもしれない。人としては正しくても、乱世では…)」

    両軍の緊張が極限まで高まり、タケミカズチからムラサメ隊が続々と発艦を開始する。彼らの整然とした大編隊が、ザフト飛行部隊と衝突する半歩前-

    ナウル上空に浮かぶ白い入道雲をまるで切り裂くように、白亜の巨艦がその姿を現す。

    切り裂くというより実態としては紛れて接近してきたという方が正しいはずだが、この名画のような光景を表するには余りにも大人しすぎる表現になってしまう。

    アグネス「(大天使の名を冠するだけのことはあるわね。後光が差しているみたいだわ)」

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 21:13:53

    両軍があっけにとられている間を見逃さず、アークエンジェルの両側カタパルトから2機のモビルスーツが飛び立つ。オオトリストライカーパック装備ストライクルージュ、そしてフリーダム!

    アグネス「(アスハ代表とキラ・ヤマトね。結構、無理を押し通そうとなされるわね)」

    遂に、現場に直接乗り込むしかないと、決断を下されたのか。オロファトに乗り込めば内戦待ったなしだから、それならば、と。

    ヤキンでの奮戦でその名を私も知る名機、赤と桃色に輝きながら、ナウルの空から自国の将兵呼び掛け始める。

    カガリ「私は、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!軍を退け! レクイエム発射に備え、市民の避難準備に集中せよ。繰り返す、国家元首として、代表首長として命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」

    アグネス「(考えてみると、両軍に挟まれる形で飛行しているアークエンジェルも大した度胸だわ。何とか、ならんものか…)」

    勿論、結果は分かっている。何ともならず、オーブとザフト、その上アークエンジェルは戦闘に及んだのだ。ニュースの冒頭で聞いた以上、この先の展開は読めている。

    読めてはいるが―。
    少し前まで、食事を頬張り続けていたルナマリアとメイリンも他の人達と同様、ニュース画面に釘付けになっている。ここで踏み止まってくれていたらなぁ。

    カメラがぐるっと回って、ブリッジの中の様子をチラリと映す。ナイスな配慮ね。カメラマンはやはりタケミカズチのブリッジの内、従軍記者ね。

    ユウナ「こ…これは。いや、だから、あれは。ええい!」
    目の前で真っ青になってうろたえるユウナの軍服姿、似合わないわね。ちゃんと士官学校出たのかしら、こいつ?

    ユウナ「あんなもの私は知らない!」
    オーブ軍人「あ!」

    ユウナとは対照的にオーブ軍人の顔は直接は写さないよう心配りをしている。無論、調べればすぐ判明してしまうことではある。難しい立場に立たされている彼らへ、せめてもの武士の情けと言う奴だろう。

  • 44二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 21:21:18

    オーブ軍人「ユウナ様!何を仰いますか!?」

    シン「え…。トダカさん!?」
    耳をダンボにしてニュースに集中している私の聴覚細胞をシンの声が刺激する。テーブルから立ち上がったまま、シンは彼が『トダカ』と呼んだ壮年のオーブ軍人の背中を見つめている。そうか、あのオーブ軍人は『トダカ』と言う人なのね。シンのオーブ時代の知り合いかな。

    オーブ軍人「あれはストライク・ルージュ。あの紋章もカガリ様のものですよ!?」
    ユウナ「うう…。だ、だからといって!何でカガリが乗ってるってことになる!?そんなの判らないじゃないか!」
    トダカ「しかしあのお声は!」
    ユウナ「に、偽物だあんなのは!僕には判る!僕には判る!夫なんだぞ!僕は!」
    オーブ軍人「いえ…。結婚、式は無効に」
    ユウナ「うるさい!で、でなければ。操られてるんだ!本当の、ちゃんとした僕のカガリなら、こんな馬鹿げた、僕に恥をかかせるようなことをするはずがないだろ!!何をしている!早く撃て馬鹿者!」

    アグネス「(馬鹿者はお前だ!モラハラ野郎め。この期に及んで『夫』だの『僕のカガリ』だのと言っていたのか。というか所有物扱いしていたこと、もう隠す気すらないのね)」

    アスハ代表とアークエンジェルの蛮勇とも言うべき行動に思うところもあったけど、こいつの見苦しさでそんなもの吹き飛んだわ。

    食堂の中の空気の緊張、やばいわね。私達は敢えて聞き流していたけど、もしかしたらこの振り返り報道、ずっとやってたのか…。ともあれ、ここが報道のクライマックスね。

    オーブ軍ブリッジ一同「えぇ?!」
    ユウナ「あの疫病神の艦を撃つんだよ!海戦用意!」
    トダカ「貴方という方は…」
    ユウナ「でないきゃ!こっちが地球軍に撃たれる!国も!僕等はオーブの為に、ここまで来たんだぞ!それを今更、はいやめますで済むか!」

  • 45二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 21:33:31

    アグネス「(ブリッジの皆で、こいつを国家反逆罪で取り押さえることは出来なかったのだろうか?)」
    無論、それをこの場の人達に求めることは無理だとわかってはいる。

    しかし、『ここまで来たら止められない』一事が万事この思考。本当に危険だわ。古き悪しきジャパンの香りがする。

    他山の石にしよう。
    トダカさんも言っていたようにアスハ代表の正体の真偽は声紋で判定できるだろうに。何も中止を明確に宣言しなくてもいい。ハプニングを理由に到着日を遅らすとかいくらでも『中』の策はあると思うのだが...。

    もはやセイラン家すらこの戦争に乗り気ではないだろうに。こいつはアホだからそれも分からないのか。

    トダカ「ミサイル照準、アンノウン・モビルスーツ」
    オーブ軍人「トダカ一佐!」
    オーブ軍人たち「ああ…」
    トダカ「我等を惑わす賊軍を討つ!」
    ユウナ「早く撃て!」
    トダカ「てぇ!」

    こんな形で始まった戦闘が生前と進む筈もない。案の定めちゃくちゃ、混迷を極めたものになった。オーブ軍は初手、アスハ代表が搭乗するストライクルージュを攻撃する。

    ただ、わざと迎撃しやすく撃っていることは軍人なら一目瞭然だ。フリーダムが全ての攻撃を捌き切っていた。

    同時にオーブ軍とザフト軍の戦闘も本格的に発生してしまう。しかし、そこにフリーダムが横入りし、両軍のモビルスーツを不殺戦法で次々と撃破。何がなんでも両軍の引き離しを諦めない。

    アスハ代表は繰り返しオーブ軍に戦闘停止を命じるが、オーブ軍は無視。ただ、暗黙の了解からか、ムラサメはストライクルージュの直接撃墜は断固として実行しない。

    ザフト軍もアスハ代表とアークエンジェルの目的自体は理解しているから、艦とアスハ代表ご自身への攻撃は手控えるが、フリーダムは別。

    この期に及んでは是非もないので、バビとディンで攻撃を開始する。自殺願望でもあるのか、我が軍は…。ザクが飛べないから仕方ないのだけれど。結果、バビもディンも戦闘不能にされ、撃墜される。

    ただ、途中からザフト軍司令官は、『オーブ軍はフリーダムに止めてもらえばいい』という事実に思いいたったよう。途中から戦闘を切り上げ、撃墜された敵・味方機の救助に専念した後、ボズゴロフ級を潜水させて様子見を決め込む。

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 21:39:08

    これまでのスカンディナビア王国やアスハ代表、そしてアスランと私の努力が実を結んだ瞬間だ。ザフトはアスハ代表とアークエンジェルの目的がオーブ軍の戦闘停止と本国への帰還のみにあることを理解している。

    アスハ代表は国家元首として、アークエンジェルは亡命政権軍として、同胞のオーブ軍が撃たれることを看過できないが、決してザフトとの戦闘を望んでいない。

    その点を理解さえしていれば、ザフトとしても冷静な対応が可能だ。こちらとしてはまず『オーブのことはオーブで対処してもらう』。ザフトが手を出すのはそれからで良い。

    アグネス「(やはり、事前の協議や対外的なコミュニケーションの努力は大切ね。何の断りもなく乱入されていたら、もっと状況が混乱していたかもしれない)」

    特にラクス暗殺未遂の件を知ってしまった以上、余計そう思う。こちらから気を使ってアプローチをしなければ、彼らは警戒して何の接触も取ることが出来なかったはず。ディスコミニケーションが最小ですんで良かったわ。

    その後はフリーダムが、ムラサメを撃ちまくり斬りまくる。2分で20機のムラサメを不殺で撃墜し、次の2分で更に10機が同じように海面に叩きつけられる。タケミカズチの艦載機数もそろそろ限界だろう。

    戦況を半ば呆然と見守っている感のあったタケミカズチ・ブリッジに国際救難チャンネルの放送が受信される。

    マリュー「こちらはアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。現時刻を持っての一時停戦と両軍兵士の救助をオーブ、ザフト両軍に提案いたします。回答を!」
    ユウナ「そんなこと…」
    トダカ「ユウナ様!」
    ユウナ「ミサイルを撃て!」

    ザフト軍司令官「こちらザフト軍。アークエンジェルの提案に同意する。ただし、オーブ軍が停船に応じることが条件だ」

    ユウナ「く…、う…。僕は。う…」
    トダカ「ユウナ様!」
    ユウナ「もう。好きにしろ。何かあったらお前達、軍の責任だからな」
    トダカ「分かりました。ラミアス艦長、貴官の提案に同意する」
    マリュー「ありがとうございます」

  • 47二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 22:02:01

    ミネルバ抜きでもAA組はまぁ介入するわな
    本編と違って外交ルートあるから議長が横槍入れない限りは軟着地させる余地はあるが

  • 48二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 22:27:45

    ニュースキャスター「一昨日発生したナウル沖海戦は現在報道した経緯から大規模な戦闘が発生したにもかかわらず、奇跡的に死者行方不明者0名となっています。オーブ軍は派遣軍の損害が許容できないことを理由に艦隊を帰還させました」

    0名、その言葉に安堵のため息が漏れる。私だけではない。向かいに座るルナマリア、メイリン、食事を中断して画面を食い入るように見ていたミネルバクルー・パイロット、皆胸をなでおろしている。

    ニュースはさらに続く。国内世論を無視して派兵を強行し、国家反逆罪とも受け取られかねない行為に及び、挙句負けて帰るという散々な失態をした政府に国民の怒りのボルテージは最高潮に達したとのこと。

    ニュースキャスター「この戦闘の一報を受け、オーブ首都オロファトで決行されていたデモの参加者は20万人以上に膨れ上がり、ウナト・エマ・セイラン氏は後任にマシマ首長を指名し、内閣総辞職しました。ただ、辞職願を国家元首であるカガリ・ユラ・アスハ代表に提出することが出来ず、やむなく下院議会に提出したと報道されています。
    新宰相に就任したマシマ氏はアスハ代表から任命状を受け取ることができないため、『宰相代理』の名義で就任演説を行っています」

    マシマか…。結局セイラン派じゃない。それでどうなる?

    ニュースキャスター「マシマ宰相代理は『困難な時代に直面したため、少なからず不幸な行き違いが生じている』と現状に遺憾の意を表明。デモ隊参加者、抗命した公務員、軍人に恩赦を発表し、一切の不利益処分を行わないことを明言した上で政府の統制下に戻るように呼びかけを行っています。また、ユウナ・ロマ・セイラン初め、ストライクルージュ攻撃に関わった軍人の恩赦も宣言しています」

    ふーむ。痛み分け狙いか、マシマというかセイラン派は。いまさらそんなことは通らないだろうに。だいたい、恩赦は国家元首の大権の一つなんだから宰相代理が勝手に出せるものではない。

    ルナマリア「アスハ代表に帰ってきてもらえばよかったのに。再建された連合太平洋艦隊がにらみを利かせていたから無理か…」
    アグネス「そうね。あいつらパナマ運河を通して北大西洋から半分持ってきていたから。それと南アメリカ合衆国からも艦隊を出させていたし。ユーラシアと月で必死でそこまでは気が回っていなかったわ」

  • 49二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 22:41:19

    3人で飲むコーヒーがいつもより苦い。この太平洋の状況を何とかできないものか。ハワイを落とさないと無理なのか。

    アグネス「(それじゃあ、順番が逆というもの。だいたいハワイ攻めならそれこそソロモン諸島が障害になるし)」

    残りのデザートをパクパク食べながらルナマリアと目線を合わせる。そう。本当はこの機にアスハ派に政権を取ってもらいたいんだ。私としても、プラントとしても。

    ただ、そうもいかない事情がある。

    メイリン「オペレーション・スピア・オブ・トワイライトで連合太平洋艦隊は一度殲滅されました。しかし、アグネスさんが言ったように、大西洋連邦はパナマ運河経由で東海岸・北大西洋の残存艦隊の半数以上をハワイに集結。合わせて、南アメリカ合衆国にも出兵を強要し、数を揃えました。更に国内の全工業力を投入して、現在1週間で1隻のペースで空母を建造しているそうです」
    アグネス「頭おかしいわね。本当に。まだまだやるつもりなのか…」

    ニュースはまだ様々な情報を吐き出し続けている。大抵は嫌なものばかりだわ。

    ニュースキャスター「現地メディアによると、オーブ連合首長国は今回の派兵で同盟国の義務を果たしたと声明を発表。多数の艦載機を喪失したことで再出兵には時間が必要である旨、条約加盟各国に通知をしたとされています。

    大西洋連邦大統領コープランド氏はこれに遺憾の意を表明していますが、現在、大西洋連邦及び連合軍司令部はダイダロス基地陥落への対応に追われており、太平洋からの関心は遠のくとの観測も出ています」

    ほう!たまにはいいニュースもあるではないか。あくまで『観測』だけれど、そうなることを願うのみ。
    ルナマリアとメイリン、私で今度はデカフェを一杯、ゆっくり飲んで忙しない朝食を終えた。食堂にニュースを流すのも考え物だわ。気が休まらない。さて、今度はミーティングか。

  • 50二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 22:41:59

    ジブリールがオーブに逃げる伝手が無くなったか?
    ジブリールと議長除くとどの陣営も戦争にやる気ないからどう転ぶか

  • 51二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 23:17:36

    レクイエムの事があったとはいえ、ここでアスランが地上にいてカガリと合流していたら…
    いたら…
    あれ?
    キラが楽になる程度であまり変わらない?

  • 52二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 01:57:00

    ジブリールはヘブンズベースに行った?
    でもジブリール追跡より先にロドニアのラボ探索とAAにコンタクトとってと
    やることまだまだたくさんあるね~

    ベルリン戦はまだだけどレクイエムの映像で議長がロゴス討伐宣言する可能性もあるのかな

  • 53二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 06:32:37

    ジブリールが原作よりも追い詰められてるけどそこはラクス暗殺未遂の事が露見してる議長も一緒だからなぁ
    アグネスが親に働きかけてそこからエザリアやカナーバが動いたらそこからサトー一派への支援も露見して普通に議長が失脚しかねない

  • 54二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 12:51:23

    オーブが引いたのは良かった
    レクイエムが壊されたことでオーブも撤退しやすくなったのかもしれないと考えるとアスランよくやったと言える

  • 55二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 18:35:03

    連合の太平洋への関心が薄らいでウトナが失脚した今ならなんとかガカリが帰還できないもんだろうか

  • 56二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 20:02:06

    友軍を失い続けているザフトでは否応なしに敵対者に対する悪感情が高まっているからキラの不殺は本当にありがたいね
    廃人一歩手前な精神状態の中で大切な人たちや自分が殺されかけたのにこの対応な彼の優しさが眩しい

    折角お互い死者ゼロで済んだしデモの規模も膨れ上がっているし誰も死なないうちに上手いことカガリが政権奪取できないものか

  • 57二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:20:54

    朝食を終えた後は駆け込む様にブリーフィングルームへ、メイリンは分かれてブリッジに走って行ったわ。

    次の任務に向け駆け足していると後ろからも軽快な足音が響く。同じく食堂から駆けて来たハイネ先輩とアスラン、シンのものだ。

    ルナマリアと足を止め、二人並んで敬礼しようとするとハイネ先輩に止められる。

    ハイネ「よう!『廊下は戦場』とはよく言ったもんだな」
    アグネス・ルナマリア「はい!おはようございます。ハイネ先輩、アスラン先輩、それとシン」
    アスラン「おはよう」
    シン「おはよう」

    シンをおまけ扱いしつつ挨拶を交わす。私達が食堂から走り出したから、つられたのかしら。そうだとしたら悪いことをしたわね。

    ハイネ「意気軒昂で大いに結構。急ごうぜ」
    アグネス・ルナマリア・シン「はい!」
    アスラン「はい」

    微妙に立場がめんどくさいアスランが最後に返事をしたのを合図に今度は5人で駆け足が始まる。
    アグネス「そう言えば、シン。レイはどう?」
    シン「ああ。落ち着いていた。朝食は部屋で消化に良いものを食べるって。ミーティングには来るって」

    舌をかまないようにシンと手短に情報交換。あいつ、本当に大丈夫か。大丈夫でなかったとしても医学の学位を持たない私では何ともできないが…。ルナマリアも私の後ろで駆け足しながら心配げな視線でシンに問いかけている。

    背中から彼女の心不安げな気持ちが伝わってくる。

    ハイネ「悪いな。無理させて。こんな言葉しかかけてやれないが」
    アスラン「本当に。無理させてすまなかったと思っている」

    はっ!私ったらなんてことを『斜め上の方』の前で。嫌味と受け取られたかも。

  • 58二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:28:49

    アグネス「申し訳…」
    ハイネ「変な気を使うな。大丈夫。分かっているから」
    アスラン「すまないな」

    アスランは『すまない』を言うノルマでもあるのだろうか?そんな頓珍漢な問いが脳裏をかすめるが、口癖は人それぞれね。ブリーフィングルームに到着したし気持ちを切り替えよう。

    5人一緒に入室すると私達が一番乗りだった。『上』の二人を先に連れてきてしまった!後から来る人に悪いことをしてしまったかも…。

    アグネス「(気にしても仕方ないわね。それよりもミーティング前にお二人にお伝えしたいことがある)」
    ハイネ先輩とアスランが前方モニター隣の席に着くのを待って、二人の前に出て発言の許可を得ようと試みる。

    アグネス「ハイネ先輩、質問をお許しいただけますか?」
    ハイネ「構わないぞ。事前ミーティングってやつか。手短にな」

    お隣のアスランとハイネ先輩は軽く視線を交わし、こちらに肯いてくれる。『事前ミーティング』と聞いてシンとルナマリアもこちらに来る。うーむ。何か悪いわね。まあ、良いか。

    このタイミングでショーンとデイル、その後ろからレイが到着する。3人は慌てて敬礼しながらこっちに向かってきたわ。困ったわね―。

    私は、ただ二人にお聞きしたいことと進言したいことがあっただけなのに。本当に事前ミーティングになってしまった。

    ちょっと面食らってしまう。こういうのは参加できた人とできなかった人の間で情報に齟齬が生まれやすい。あまり好ましくないだろう。

    それでも簡潔に一つだけ。

  • 59二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:35:23

    アグネス「それでは『ロドニアのラボ』について。デストロイのパイロットが呟いたというこの場所、エクステンデッドの関係施設のことだと推測されます。ダイダロス基地が陥落し、エクステンデッドと研究員も確保された今、連合軍ないしブルーコスモスが証拠隠滅のためラボの破壊工作と、被験者の殺戮行為を行っている恐れがあります。緊急捜索と救助作戦を。必要とあらば我々も救助活動に参加するべきと愚考しますが…」

    オーブのニュースを見て、脳が再活性化され、嫌な現実から目を逸らせなくなったわ。本当は起き抜けにこの提案を伝えるため全力を尽くすべきだった。完全に呆けていた自分を張り倒したい。ひょっとしたら手遅れかもしれないが…。

    ハイネ先輩は私の話を聞きつつ、こちらの表情を注意深く見つめてくる。歴戦の戦士の目に今の私はどのように映っているのだろう。

    ハイネ「アグネス、『愚行』ってのはいい。俺相手には要らないぜ」
    ちょっと優しい口調で窘めるように語りかけてくれる。そう言ってもらえるとありがたいわ。戦闘続きで頭から抜けていたが、フェイスの徽章のせいでちょっと距離感がつかめないところがあったからね。

    ハイネ「皆、気になってるよな。と言うか今の面子、デストロイ、セカンドシリーズと戦った面子だな」
    アスラン「ええ…。まあ、はい」
    ハイネ「皆、気になっているな。俺も…。ほんと、後味悪いぜ。まあ、切り替えなきゃいけないがな」

    そう言いながら、アスランと目配せをして、私達皆の目を見ながら、起こった事実を話してくれる。

    ハイネ「結論から言おう。ラボは発見された。前、ディオキアでステラの騒動があった際、ザフト軍内で対策本部が立ち上がったって言っただろ。そのチームが目を覚ました少女の証言をもとに突入した」

    アグネス「(情報を基に即時に行動か。基本中の基本だけれど、それにしても対応が早いわね)」

    少し考えこんでいるとアスランが詳細を語ってくれた。
    アスラン「『ロドニアのラボ』の第一報を入れたのは、まだ君たちが『マルタン』護衛艦隊と戦闘中の時だったそうだ。当時はブリッジも必死の戦闘を行っていて…。それでも少女からの証言を受けて、ミネルバが緊急で評議会とジブラルタルに。副長が戦闘指揮の合間に司令長官に上申されたそうだ」

  • 60二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:38:17

    ほう!副長ナイスね。上申と言うよりは『ええ!ディオキアの時の?!』とか言ったのかもしれないけれど。いずれにしろファインプレーね。

    ハイネ「第2報はダイダロス基地の通信システムを利用したそうだ。パイロットの聞き取りが進んでより詳細な地図情報が分かったからな。まあ、これは俺も後で聞いた話だ。俺達は武装解除監視業務で手一杯だったから。ロドニアのラボはザフト軍マルマラ海タルキウス基地のすぐ近くにあった」

    ハイネ先輩が手持ちのデバイスでラボの位置を示してくれる。皆で覗き込むとちょっと苦しいわね!というかむさ苦しいけど。

    アグネス「(「ザフト基地ポート・タルキウス」の傍だったのね。見落としていたとは!)」
    タルキウス、西暦時代のトルコ共和国領テキルダー市ね。マルマラ海の北岸、イスタンブールより西に135km。都市の古名は『ロドスト』。

    位置関係を整理している私の横からシンが凄い形相で二人に問いかける。
    シン「それで…!被験者、閉じ込められていた子たちはどうなったんです?!」

    シンの勢い込んだ質問にハイネ先輩とアスランが気まずそうに目線を交わす。そうか…。そうね。世界の裏側の人まで助けることは叶わないわね。

    アスラン「残念ながら…。全員とはいかなかったそうだ。対策本部特殊班が突入した時、ラボでは内乱が起きていた」

    レイ「内乱!?なぜ?」
    レイもなんか顔色が一気に悪くなっている。どちらかと言うと『ラボ』と言う言葉を私が発した瞬間から雲行きが怪しかったが…。

    ハイネ「そうだな…。よくありがちと言えばそうなんだが。連合・ブルーコスモスは人道犯罪を隠蔽するため、施設の自爆を目論んだ。それを察知した被験者、いや被害者の子供達が決起、職員と殺し合いになっていた。ザフトが突入したのは、ちょうどそのタイミングだったんだ」

    最悪ね。よくある『研究所物の映画やドラマ』まんまな展開じゃない。幾ら事実は小説より奇なりとは言え―。
    アグネス「(おぞましいわ。その光景を想像すると)」

  • 61二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:48:31

    アスラン「施設を何とか制圧し、生き残っていた職員は全員逮捕。連合の人道犯罪の証拠は大量に押収できたが…。助けられた子供たちは多いとは言えない」
    ルナマリア「そんな…」
    レイ「…」
    シン「…」

    ルナマリアとレイの表情、自分の拳を握りつぶしそうなシンの怒り。それらを横目にしながら、少し安堵している自分を心苦しく思う。正直、被験者の生存を私は半ば諦めていた。施設と証拠の確保さえ難しいかも知れないと。

    それが少数とは言え助かった子供がいる。非人道部隊対策本部と突入班の度胸が成し得たものだ。

    そして何より、救助したデストロイパイロットのおかげだ。苦しみながらも必死に『助けて』と仲間のために証言してくれた少女。

    螻蟻潰堤は悪い意味の言葉だ。大きな事件や事故もほんの小さな原因からもたらされるというのだから。しかし、歴史上の出来事を考えると逆のことも言えるように思う。非力な人間の細やかな命がけの抵抗が、時として悪の堤を突き崩す大きな助けになることもある。

    妄想ではない、これまでの歴史でも何度も起こってきたことだ。人間は一本の葦よりは力強い存在だと思う。比喩に文句を言うわけではないけれど。

    アグネス「(無論、私の願望交じりだけどね。でも、ステラに関してシンがそこまで思い入れる心理、最初は理解できなかった。今なら少しは分かる)」

    その上で、怒りで震えるシンと青ざめるレイを見つめる。二人にどんな言葉をかければいいのか。そもそも、私が掛けること言葉に意味はあるのか?

    私は生まれも育ちも才能も全部に恵まれて―それをジャンプ台に己が手を高く、届くところまで伸ばす―そんな生き方が正しいと思ってきた。今でもそう思っている。概ねでは…。
    そんな人間のかける言葉など―。

  • 62二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:56:43

    ハイネ「皆。思うところあるよな。俺達は連合やブルーコスモスに人生滅茶苦茶にされた子供たちと戦って、実際、戦死者も出た。助かった子も後遺症が残るかも知れない。ラボで助けられた命も多いとは言えない。でも、それで自分が死んだら元も子もないぜ。シン、レイ?」
    シン・レイ「?!」

    ハイネ先輩に声をかけられ、二人がうつむいて居た顔をハッと上げる。

    ハイネ「割り切って進むしかない。出来なければ死ぬ。俺はこの中の誰も死なせたくない。良いな、皆?」
    アグネス・一同「はい!」

    アスランも含め皆で反射的に大きく返事をする。ハイって叫んでしまったわ。
    でも、結局これが正解なのだろう。割り切って進むしかない。

    連合・ブルーコスモスの被害者を殺めてしまったと考えると思うところはあるが、飲み込まないと自分や戦友が死ぬことになる。

    『ロドニアのラボ』、全員助けられなかったことは残念だわ。確かに。でも、私達はどうしようもなかった。諦念とかじゃなく物理的に月に居たんだから。
    それでも、ゆりかごは確保できた。ザフトの技術ならすぐに複製も作れるだろう。

    今はただ、仄暗い場所から生きて出られた彼ら彼女らの人生に幸多からんことを祈るのみだわ。

  • 63二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 08:15:30

    ロドニア探索は別チームがクリア
    ステラなんとか生存してほしいな

  • 64二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 08:27:57

    本編だともう死体の山しか無かったものな(もしかしたら逃げ出せた個体が数人くらいいたかもだが)
    それよかだいぶマシか

  • 65二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 10:43:12

    ジブリールとデュランダル
    先に動くのはどっちかな

  • 66二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 11:56:28

    とりあえずスティングは延命できそう

    ステラはどうだろうね…デストロイ乗る流れはもう変えられなさそうな気がするけど場所がベルリンになるかヘブンズベースになるか、はたまた別の何処かか…
    シンも早めに正体を知ったのとその後忙しすぎたのとで本編ほど執着してない感じはするが

  • 67二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 18:56:03

    ミネルバ隊の働きかけがなければ、その僅かな生存者すら無かったかもしれないんだな
    そうは考えられないかもだけど、救い主だよ

  • 68二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 22:09:31

    >>66

    カオスに乗ってたのがステラを引き取りに来た片方だと判明してるからステラがミンチより酷えアビスか撤退したガイアのどれかにステラが乗ってると判断してガイア鹵獲に全力を出すかも

    デストロイも交戦済かつ殺さず無力化できてるから余程の事が無ければステラも大丈夫だと思いたいが…

  • 69二次元好きの匿名さん24/09/25(水) 23:43:03

    シンがタケミカヅチにトダカがいるのを知ったが今後どうなるかな…
    今後交戦する可能性はだいぶ下がったと思うしどこかで会えるといいが

  • 70二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:30:15

    ブリーフィングルームにはその後も続々と人が入室してくる。甲板組にラドル支隊、偵察ジン組、グラディス隊の生き残りザク5人組…。

    先にアスランとハイネ先輩が入室してしまっているため、皆、ビシッと緊張して敬礼する羽目に―。悪いことしたわね。偉い人はどのタイミングで来るべきか、早くても遅くてもダメ。案外大変ね。

    それにしても―。ミーティングルームの密度が結構、ミチミチになって来たわ。まだまだ入れると言えば入れるけれど。

    アグネス「(元々のミネルバ組が12名、ルナマリアを含む月合流組は偵察ジン4機(8名)にザク6機で計14名、それにラドル支隊が11名)」

    だから37名か。流石にこの規模になると一同に会してミーティングを行う規模としては不適切になっている。もし今後もこのメンバーで動くことがあればやり方を変えた方がいい。最も、今日がひょっとしたら『解散宣言』の日かもしれないが。

    アグネス「(レクイエムも墜としたし…。月軌道艦隊も実質消滅してしまった。いけない。切り替えろ。何をどうしても起こってしまったことは変えられない)」

    気を緩めた瞬間にズキズキし出す胸の奥を抑える。もうすぐ司令長官や副長がいらっしゃる。息を整えろ。
    マインドフルネスしつつ、軽く、後から来た人達の顔に視線を向ける。

    ふむ。そこそこね。
    皆そこそこ顔色が良い。元気溌剌じゃない人もいるけれど、しっかり顔は引き締まっている。よろしい。100000000アグネスポイント!

    私の息が整い、思考がましになった頃に、タイミング良くグラディス司令長官と副長が入室、皆で一斉に起立し、お二人と敬礼を交わす。

  • 71二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:33:39

    グラディス司令長官は正面スクリーン前に歩を進めると、静かに私達に体を向け語り掛ける。

    タリア「皆、楽にしなさい。改めて、皆の働きに感謝している。レクイエムの脅威からプラントを守れたこと、敵の一大拠点であるダイダロス基地を奪取できたことはひとえに諸君諸姉の活躍に寄らしむるところ。本当にありがとう」
    一同「はい!」

    私達の元気な返事を聞いて、司令長官は柔和な笑みを浮かべる。どうか家庭でもその表情を浮かべていることを祈りたい。でないと流石にウィリアム君が可哀想だわ。会ったことないけれど。

    少し間を置いて、司令長官は再び、やや険しめな何時もの表情に戻る。いよいよ朝、メイリンが言っていた『少し難しい話』の時間か…。何か聞きたくないな。

    アグネス「(はっ!私としたことが何を。消極主義者になってどうするの!上に行く人間なんでしょう、私は。面倒ごとが生まれた時こそチャンス。仕事を、手柄を立てる機会かもしれないのよ)」

    自分を奮い立たせる。守りに入った人間からふるい落とされて行くんだわ。出世競争だけじゃない。文字通りの意味、生死の問題。戦時でパフォーマンスを落としてはならない。自分と仲間が死ぬから。

    気分を安定させようと試みていると、司令長官から話を引き継いだ副長が思ってもいなかったことを私達に告げる。

    アーサー「皆、座ってくれ。そして落ち着いて聞いて欲しい。昨日占領したレクイエムのデータ解析、及び技術職クルーのレクイエム破壊地点の調査結果を諸君らにも伝えておこうと思う。実のところ、我々の攻撃によりレクイエムは『完全に』破壊され、沈黙した。グラディス司令長官も本官もそのように認識し、一度は最高評議会に報告したのだが…。その報告を修正しなければならなくなった」

    え…。そこ。もう一発撃ちこまなければいけなかったのかな。
    副長のお許しで席に座った皆で視線を交わし、目で語り合う。シンは目を真ん丸にしているわね。あれだけ、もろにタンホイザーを命中させたんだから、そうね。私も驚きよ。

    アグネス「(卒業論文を後から落とされて留年が決定したような気分ね。そんなヘマをしたことは無いから、あくまで想像だけれど。さて、もうちょっと月面で仕事をしないといけないかな。それともこの先は工兵隊の出番か…)」

  • 72二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:40:17

    皆を横目で見ていると、だんだんざわめきが大きくなる。自分の頑張りが否定されたようで面食らうものね。私達の気持ちを察した副長は急いで補足する。

    アーサー「レクイエムの戦略砲としての装置は我々の攻撃で完全に破壊された。その意味で最高評議会の命令は遂行されている。そこは大丈夫だ。安心して欲しい。
    ただ―。
    これはプラントの人間には知る術のなかったことなのではあるが。レクイエムの地下反応炉は想定をはるかに超える頑強な構造を有していた。あの一撃を耐えきり、今も正常に稼働中だ」

    ハイネ・アスラン「…」

    やはりフェイスの二人は事前に聞いていたのね。今の話を聞いてもあまり顔色が変わっていない。強いて言えば、アスランの顔がより深刻な表情になったくらいだわ。この人は基本、こうなるからいちいち気にしても仕方がない。

    アグネス「(アスランはまあ、良いとして…。レイの表情は相変わらず良く分からん。驚いていることは間違いなさそうだけど。『ロドニアのラボ』の件もあったせいか、ちょっと顔が胡乱げね。悪意を持っているって感じはしないけど。うーん。こいつは良く分からん)」

    男衆がちんぷんかんぷんな反応を各々示す中、ルナマリアは冷静さを保っている。違うな、私と一緒、周りの反応がアレ過ぎるせいで、逆に頭が覚めるやつだわ。

    アグネス「(反応炉が地下深くて頑丈で壊れていない?!全く問題ないわ。だって、ここには連合軍はもういない。周囲から人を避難させたうえで10発でも20発でもタンホイザーを撃ちこめばいいだけの話)」

    何だったら特大サイズのメテオブレイカーを一から製作して、ゴリゴリ穴を掘ってしまってもいい。任務とあらば完遂しましょう。ユニウスセブンのやり直しだわ。あの時の失敗、ここで取り戻してみるのも悪くない。ジュール隊の業務を中断させるのは心苦しいが…。

    そんなことを考えていると、グラディス司令長官が話のバトンを受け取り再び私達に事情を話しかける。

  • 73二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:44:42

    タリア「皆。副長の言うように安心なさい。誤情報を評議会に上げてしまったのは全て本官の責任、そのように申し上げて報告を修正しました。その上で3時間ほど前に返答があり『月軌道艦隊、並びに合同艦隊の任務が完遂されたという最高評議会・国防委員会の評価は揺るがない』とのこと。デュランダル議長・シュライバー国防委員長からは改めてお褒めのお言葉を頂戴したわ」

    はぁー、セーフかな。そもそも私達が悪いわけじゃないけれど。それは良い、それは良いが。

    アグネス「(どうするのか。まずはタンホイザー第2射目かな?)」

    私達のざわめきがいったん収まるのを待ち、司令長官は今後についてより重要な通達を行う。

    タリア「反応炉に関しては国防本部に専門の部署を設けて、対策を練ることが最高評議会で決定されました。私達が任務として関わるのはここまでね。
    反応炉の破壊がコストと労力に見合わないと判断された場合は、その膨大なエネルギーを以って修繕予定のダイダロス基地の電力を賄い、更に余力があるようなら、ここにアーモリーワンを超える一大兵器廠を建設するというプランも持ち上がっています」

    欲張りパックなプランね。ただ、確かに今回の戦いでザフトは艦もモビルスーツも大量に失ったから悪い案と言うわけでもない。

    悪い案と言うわけでもないが…。

    アグネス「(何故か胸がぞわぞわする。何だろう。まさか…。とは思うがレクイエムを再建しようとかいいだす奴は出ないわよね)」

    不安な気持ちがぬぐえない。あの戦略砲、核兵器と違って相互確証破壊に持って行きようがない分厄介だ。再建したらかえってプラントが地上国家の共通の脅威と見なされかねない。

    アグネス「(ああ。でも相互確証破壊云々言ったら、そもそもプラントは地上に核を撃ちこまなければいけないのか。懲罰的抑止の理論なんだから。こっちは開戦日、本国に発射されている…)」

  • 74二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:49:06

    この辺り、プラントは下手くそだと思うのよね。正直…。前大戦の時もそうだった。ユニウスセブンが核で砕かれたなら、核を地上に打ち返せばよかったんだ。何も全人類を滅ぼそうって言うんじゃない。同害報復の原理に基づいて同じ数撃ち返すでも良い。あるいは、一気に敵の主要な宇宙港と軍事施設に撃ちこんだ上で和平提案をしても良かった。

    ただ、やっぱり月に地球軍基地があったから、双方、核の投げ合いになる恐れもあった。仕方ない。うん。あの時はやっぱりああするしかなかったわね。

    じゃあ、今回の戦争は?

    開戦日にプラントに発射された核と同数の核をカーペンタリアとジブラルタルに殺到していた連合艦隊撃ちこんでいたら―。こちら本気をそこまで示せば、案外この戦争もさっさと終戦したんじゃないかしら。

    アグネス「(いけない。思考が脇道にそれている。しっかりしろ。相互確証破壊をめぐる議論をしたいわけじゃない。それはまたの機会でいい。レクイエムの再建はダメ。手に余る、リスクにしかならない兵器なんだ。仮に抑止力として再建したとしても平時には金食い虫になるだけ。使えないんだから、どの道)」

    レクイエム…。少し運命の歯車が違えば、私はあの兵器に焼かれていた。あの恐ろしい光の瀑布を確かに間近で目撃した。自分が寝起きした朝までこの世界にあった場所、親切に接して下さった方達が一瞬で細胞一つ残らず消滅する死の輝きを見送らざるを得なかった。

    あの日にあの場に立ち会わなければ、私も反応炉の再利用大いに結構と思ったはず。ひょっとしたらレクイエムの再建や戦況によっては行使すらも…。

    今はとてもそんな気に成れない。アレルギー反応と思われるかもしれないけれど、どうしても気がかりだわ。
    恐る恐る挙手する。何を、誰を恐れているんだ。私は―。

    タリア「アグネス。なに?質問?」
    『話てごらんなさい』のアイサインを受け、起立して質問をする。質問の形を借りて…。ここで言っておかないと後悔すると自分の本能が喉を突き上げてくる。

  • 75二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:50:38

    アグネス「分を過ぎたことだと理解していますが…。レクイエムの反応炉、そのエネルギーを悪用されることが万が一にもあってはならない。この…」

    舌がもつれて上手くしゃべれない。そうだ。もうこれは決定済みの案件、何を言っているんだ、私は。幾らここにフェイスが3人いようとどうにもならない。

    困った表情を浮かべるグラディス司令長官と視線が合う。『私も同じ気持ち』と目で告げてくる。司令長官がそうならもうどうにもならない。私が思いつくようなこと、きっと評議会議員からも意見が出たはずだし、司令長官も質問を投げかけただろう。

    不安げな周囲の反応。心配されているわね。切り上げるしかないか…。

    ふとレイと目が合う。変な顔しているわね、こいつ。片目では私に『黙れ』と言っていて、もう片方の目では『言い切れ』と命じている。こいつ如きが私に命じようとは生意気ね。良いわよ。言ってやるわ!

    変な恐れを振り切る。どうせこの場には身内しかいない。腹芸に意味などないわ。

    アグネス「本官は何者かが目を盗んでレクイエムを再建し、犯罪的な用途に用いるのではないかと危惧しています。勿論、最高評議会の決定に異議を唱えるつもりはありません。ただ、この兵器と戦った一人の兵士として、この反応炉を再利用しようと最初に唱えたのがどなたであったかは伺っておきたく思います」

    言ってしまった。言ったとして、聞いたとして、じゃあどうするんだ、という話ではあるが…。

    タリア「ギルバート・デュランダル最高評議会議長、私達の最高司令官の発案よ。アグネス…」

    何と無くそんな気がしていた。予想的中。だから何だという話ではあるが…。私を宥め、安心させるようにグラディス司令長官は声音を調整しながら話す。

    タリア「取り越し苦労、とは言わないわ。それに近い出来事は歴史上散見される。でも、少なくともあの兵器の衝撃が残っている間に、皆の目を盗んで、と言うのはなかなかあり得ないんじゃないかしら?だからもう座りなさい」

  • 76二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 01:59:17

    着席を命じられてしまった…。仕方ない、座る。何か一気に疲れたわ。周囲にどう思われただろう?

    軽―く皆に視線を送ってみると…。案外、皆優しいのね。結構失言ギリギリだったと思うけれど。どちらかと言うと同意、というか私を気にかけてくれている空気を感じる。

    ルナマリアは『心配させないで』、アスランは『気持ちはわかる』、ハイネ先輩は『良し。割り切っていこう』、シンは『確かに大変だ!』と言った視線ね。

    レイは…。どういう目だ。こいつは良く分からん!分からないが…。強いて言えば『言ってくれてありがとう』かな。肯定でも否定でもない。良く分からない表情を浮かべている。

    コホン。という咳ばらいをするとグラディス司令長官が軽くフォローしてくれる。

    タリア「戸惑うわよね。皆も。ただ、それで注意を乱してはならない。アグネス、目の付け所は良い。ただ、目前の任務に集中しなさい。良いわね」
    アグネス「はい!」

    もうこう答えるしかない。ただ、自分の言った通り、分を超えた問題であるのも確か。軍、政府、行政には様々なチェック機能があるのだから、そちらを信頼するしかない。

    アグネス「(一応、ライトナ―評議員やエザリアおば様にもお伝えしておいた方がいいだろうか…)」

    西暦時代だって原子力発電所の取り扱いに軍、警察も政府、行政も国会も四苦八苦していたんだ。それの特大ジャンボサイズバージョンみたいなものなのだから。幾ら心配してもし過ぎることは無いはず。認識の共有を図りたいわね。

    アグネス「(でも、インチキ議長は何を企んでいるのか。あいつが一大兵器廠を造ろうなんて自分から言うか?そう言うのは『私達(ザラ派)』の領分じゃないの。何かと軍に掣肘をかけてきたのに)」

    ただ、あの議長がレクイエムを再建するメリットも良く考えればないのよね。
    軍拡バンザイなノリで選ばれたわけじゃないから。元々、クライン派で(私の中では)デュランダル派を拡大させようと画策中みたいな人間。穏健派、平和主義者のイメージで通って来たんだから、自分で自分のイメージを破壊することは無いでしょうし。

  • 77二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 02:19:37

    『超兵器を手に入れて世界征服してやるぜ、独裁者になり上がるぜ』なんて子供じみたことは考えるとも思えない。

    アグネス「(私の考えすぎか…。あいつが様々な意味で疑わしいのは本当だけれど…)」

    いや、ユニウスセブン落下テロの黒幕候補でもある。もし本当に黒幕ならあいつが世界を滅茶苦茶にした張本人な訳で―。

    肩を突っつかれる。誰かと思えばルナマリアだわ。コソッと耳打ちしてくる。

    ルナマリア「集中しなよ」
    アグネス「うん」

    そうね。今はブリーフィングに集中。それが正しいわ。

    私の様子を静かに見守っていたグラディス司令長官、こちらが落ちつくのを待っていてくださった。とても嬉しい。私も案外ちょろい人間なのかもしれない。

    タリア「次に月軌道艦隊の今後について、結論から述べます。月軌道艦隊は存続します。ただし、ダイダロス基地はジャガンナート艦隊が駐屯します。私達の母港は地球においてはディオキア及びマルマラ海ポート・タルキウス、宇宙においてはザフト軍事ステーション及びアーモリーワンとなります」

    アグネス「?」
    ジャガンナート艦隊にダイダロス基地を譲り渡す?私達が死ぬ気で陥落させたのに!と思わなくもないが―。まあ、これは仕方がない。月軌道艦隊は実態としては消滅している。ゴンドワナなしで艦隊を月に張り付けておくのは不可能だから、今、存在するまとまった艦隊をこの基地に置くのは正しい。

    アグネス「(でもその司令官がジャガンナート隊長?なぞなチョイスね。無名の御仁ではないけれど…。強硬派とも聞くけど、あんまり私の家と係わりが無いから人となり知らないのよね。政権中枢近くにいた方ではなかったからパパと接点がなかった)」

    おまけにエザリアおば様とも政治的に距離があるようだから、彼の政治的スタンスを私は知りようがない。

    アグネス「(シュライバー国防委員長と近いのか?うーん。そういう雰囲気でもないのよね。今回の事態になって急浮上してきた人物だから。この人事の意味も不明だわ)」

    それはそうと月軌道艦隊存続と言うのは?よくある『名誉ある部隊名を継承させる』的な扱いなのかな。

  • 78二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 08:51:59

    ジャガンナートは議長の期待に見事応えてくれるだろうな

  • 79二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 18:06:49

    地球と宇宙に拠点を持つって事は議長はミネルバを自分の私兵部隊として独立した遊撃部隊として地球・宇宙両方の重要な戦線に転戦させるつもりか?
    第二次レクイエム攻防戦のフラグも立ったしそれが実現した日にはアグネスは反議長派だぞ

  • 80二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 23:48:53

    何とも不思議だわ。『月軌道艦隊』の名が残ってくれたことは内心とても嬉しい。しかし、ミネルバ1隻で艦隊を名乗るわけにもいかないだろう。艦の補充でもあるのだろうか?
    そんな反応を見越していたのだろう。前方スクリーンモニターのスイッチが入り、グラディス司令長官の説明を副長が引き継ぐ。

    アーサー「『艦隊存続』の意味を皆も不思議に思っていると思うが、これは頓智ではなく文字通りの意味だ。まず、月軌道艦隊はミネルバ1隻のみではない。実はあとナスカ級3、ローラシア級3、計6隻が残っている」

    副長の説明と共にその6隻の艦歴が表示される。読みやすいように手元のデバイスでデータを同期させて各々確認する。

    アグネス「(なるほど。6隻のうちナスカ級1隻はレクイエム直撃時の生き残りね。『奇跡的に逃れた艦が本国に第一報を入れた』と聞いていたわ。目の前の戦闘でその後のことまでは気が回っていなかった)」

    残りの5隻は『ドック入り』表示の後ろに『緊急整備の後、戦線復帰』と記載されている。なるほど、ゴンドワナだけで手が回らず、本国に行って整備していた艦が存在したわけね。考えてみれば大規模艦隊である以上、整備期間中の艦があるのは当たり前か。

    デバイスの表示はさらに続く。月軌道艦隊はザフトの中でも大規模な部隊。故に他部署に出向者中で難を逃れた者達もいた。
    具体的に言うとアーモリーワンへ応援に出向していた技術班、ザフト軍病院に出向していた医療班、人手不足の基地や軍本部に駆り出された事務・内勤担当兵等々。

    他にも様々な経緯から『あの日』を免れた戦友が存在した。一時休暇中だった者、傷病休暇・介護休暇中だった者、産休育休中だった者、技術訓練習得期間中だった者等。

    彼らの多くは出向元や応援先で今回の危機に対処したそう。中には出向先の許可を得たり、自分の休暇を切り上げるなどして先に述べた5隻に駆けつけた者達も大勢いて―。彼らが艦とモビルスーツ隊を動かしていたらしい。特に休暇組はほとんどが切り上げて復帰していたとのこと。

    アグネス「(6隻中5隻は月までの距離の都合上、本国の疎開船団護衛任務に従事。レクイエム生き残り組のナスカ級はジュール隊に合流して『グノー』攻撃に参加と。なるほどね)」

  • 81二次元好きの匿名さん24/09/26(木) 23:55:55

    資料を確認し終わり、周囲の様子を見回す。皆、真剣にデバイスの画面に目を通し、少し安堵の表情を浮かべている。仲間が『全滅』して無かったこと、戦場は違えど共に戦ってくれていたことが嬉しいようだわ。

    私も気持ちは同じだけれど―。逆に心配になるわ!祖国の危機だからある程度はやむを得ないし、まだ危機が去ったとはとても言えない情勢ではあるけれど。
    アグネス「(うーむ。休暇切り上げ組、特に病み上がり組と産休切り上げ組はかなり不安だわ。心意気は買うけどあんまり期待しない方が良いわね)」

    精々、艦とモビルスーツの運搬をお願いした方が良いかも…。

    とは言え、確かに月軌道艦隊はミネルバ以外に結構な人員が生存している。これらの艦や人員を再編してさっき言った拠点をベースに再出発しよう、と言う訳か。

    タリア「月軌道艦隊の戦友諸君諸姉が今日の危機を前にして、戦地は違えども奮闘してくれたこと、指揮官として誇らしく思っている。艦隊再建の道のりは遠いが、我らでいずれ後進が引き継ぐに足る部隊の伝統を継承し形作っていこうではないか!」
    アグネス・一同「はい!」

    7隻の艦隊と出向帰り、休暇復帰組で月軌道艦隊は再出発か。地上拠点には別途他部隊から合流するかもしれないけれども。出向組はそのままの部署で任務を続けるケースもあるのだと思うけど。何にせよ前途多難ね。それでも艦隊名が残ってくれて嬉しい。本当に。

    左右で視線を交わす。ルナマリアは『やれやれ』というジェスチャーをしながらも本気で嬉しそう。この艦隊とずっと一緒だったからね。シンは…、まあ何かピンとこないみたいね。『部隊の伝統』って言われても、と言ったところかしら。レイは良く分からん。

    アグネス「(私は―。そうね。月軌道艦隊再建、悪くないミッションね。現場の軍人がやれることは多くないけれど。任務をしっかりこなして、後進を育てるだけね)」

    育てる立場になるのは、まだ先かな。そもそも私がまだ後進のはずだし…。それはそうと任務、任務だ。次は何を?休暇の話の為、ブリーフィングルームに来た訳でないことは分かっている。

    私達の視線が自然と正面のスクリーンモニターに集まった瞬間にモニター画面が切り替わる。

    『連合軍クレタ島基地及び周辺海域攻略作戦』
    何とはなしに皆と頷き合う。どうやら次はここを攻めるらしい。理由と詳細はこれから説明があるのだろう。

  • 82二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 00:13:00

    クレタ…本編じゃアビス撃墜セイバー達磨ソードインパルス無双と色々あったが……

  • 83二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 08:00:32

    休暇…休暇が…

  • 84二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 17:48:43

    クレタ沖かぁ
    オーブ軍が不参加になるなら大分戦局が変わるなぁ
    今アニメの時系列だと何時頃になるんだ?

  • 85二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 23:16:16

    少し間を置きハイネ先輩とアスランが立ち上がる。

    ハイネ「ここからは俺から説明しよう。まず、俺達は月に行ってそこで必死だったから、地上の情勢に少し『時差ボケ』が生じている。それを修正しなきゃな。

    結論から言おう。

    現在、ヨーロッパではブリュッセルを首都とする『西ユーラシア連邦』が成立している。
    もともと分離独立が騒がれていたところに、ユーラシア連邦のモスクワ遷都が最後の一押しになった。
    『領土』は旧ベネルクス三国、旧フランス、旧ドイツ、旧イタリア、旧デンマーク。

    ベルリンでユーラシア連邦は結構粘っていたが、俺達が第8艦隊を殲滅した翌日に東ドイツから撤兵を完了した。旧スイスは同じくユーラシア連邦からの独立と永世中立を宣言。西ユーラシア連邦、スイスを国家承認するか、最高評議会内でも意見は割れている。ただ、ザフト軍は既にユーラシア西側各地に進駐済みの為、事実上の保障国になっている状況だ」

    そこまで話が進んでいたとは!展開が早いわね。
    ビックリしたルナマリアは私に何かを聞きたげな視線を向けてくる。やはりずっと月に居た人だと感覚が分からないのね。今、ユーラシアはとにかくヤバいのよ。

    ルナマリアに『この話。多分、誤報じゃない』と目線で答え、彼女も何かを飲み込んだように頷く。

    そうね。ここまでの事態になること等、私も望んでいなかったし、プラントの大多数もユーラシアの内情にまで興味を持ってはいなかったろうに。

    モニターにユーラシア西部、とくにヨーロッパが拡大して表示される。ちょうど旧EC加盟国の範囲が事実上独立状態な訳ね。違いがあるとすればドイツが東西に割れていないこと、デンマークが初期メンバーに居ることかな。

    アグネス「(しかし、ユーラシア連邦がベルリンを諦めるとは。それともいずれ取り返す算段があるのかな。まあ、ブリュッセルを逃げ出した辺りでこうなる未来は予想できたけれど)」

  • 86二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 23:17:33

    あの状況での遷都など論外だったと思う。石にしがみ付いても耐えるべきところだったのに。『西』をすっぱり諦めるなら、逆にカスピ海周辺地域は抑えるべきだった。

    落ち着け。誰視点で物を考えているんだ。もうユーラシア連邦はグズグズだ。切り替えていこう。

    アグネス「(イベリア半島、モロッコは元々ザフト勢力圏だから、いよいよ西ヨーロッパから連合軍は叩きだされそうね。もうこの流れに乗るしかないか。でも、そんなに余力ないのよね。こちらにも)」

    アスラン「旧バルト3国、旧ポーランド、旧チェコ、旧スロバキア、旧オーストリア、旧ハンガリー、旧ルーマニア、旧ブルガリア、旧ギリシャ、旧マルタ、旧キプロス。それに旧ウクライナ、バルカン半島でもユーラシア連邦からの独立と西ユーラシア連邦加入を求める動きが加速している。一部では内戦・内乱となっている地域や実質的には既に独立状態にある『国』も」

    アスランも解説補助に回っている。ふむ。旧EU加盟国プラスαで脱ユーラシア連邦の動きは加速中と。
    それはいい。分かったとしてクレタ島で何が起こっているの?遠征軍を組織する余裕など相手にはなさそうだけど。

    ハイネ「問題はユーラシア連邦軍地中海艦隊だ。艦隊は、まあ、当然ちゃっ当然だが、旧フランス・イタリア領を追い出された。連邦軍の陸上部隊と航空部隊の大半は独立派の民衆と合流。ただ海軍は違う。

    『まだ、俺達は海上では負けていない』ってやつだな。独立派に呼応しなかった。

    それと地上・航空部隊の連合軍派も独立派とは袂を分かって、陸を離れる地中海艦隊に同行。まだ連邦に残留している旧ギリシャ領クレタ島に軍団ごと大移動した。連中はこの島で、スエズに引くか、西ヨーロッパに捲土重来を試みるか、一発逆転の発想でボスポラス・ダーダネルス海峡に突入、ザフトと決戦するか思案中、と言う訳さ」

    ハイネ先輩が話している間にアスランは更にモニターを操作、クレタ島の地図を拡大する。なるほど。クレタ島ソウダ湾、クレタ海軍基地を中心に艦隊と部隊を集結させたのか。

    ソウダ湾の基地は西暦時代からの一大要所。かつてのギリシャ共和国海軍第二の軍港であると同時に東地中海におけるNATO最大の拠点だった。

  • 87二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 23:23:46

    アグネス「(なるほど、スエズに引っ込むのはちょっと…。というメンタルなら取り合えず、ここに寄っておこう、と言う場所ではある。諦めが悪いと言えばそれまでだけれど)」

    彼らユーラシア連邦軍人にとってスエズ、旧エジプト領は所詮外国。アフリカ共同体崩壊後の残りかすに過ぎない。
    ユーラシア連邦軍地中海艦隊はほとんどザフトと干戈を交えいない。

    『自分達の背後で勝手に政変が起こり、一戦もせずに負けたことにされた。我慢ならない』と言う気持ちは軍人なら良く理解できる。

    クレタ島の光学映像が更に拡大され、ソウダ湾付近の現状が把握しやすくなる。どれどれ。

    アグネス「(うわぁ。これはちょっときついわね)」

    ソウダ湾を埋めるほどの数の艦隊、陽電子リフレクター装備大型モビルアーマー、港をはみ出すほどの軍用物資を確認。勿論、大量のモビルスーツも。と言うかよくこの映像を撮れたわね。勇敢な偵察部隊には脱帽するしかない。

    それと基地近郊にあるハニア国際空港にも大量のモビルスーツとリニアガン・タンク、ブルドック、軍用ジープ、各種支援車両等が集積されている。ここは西暦時代からの軍民共同使用空港だけど、今は軍が貸し切り状態ね。

    連合軍の―というか連邦軍の―大軍団にドン引きしているとハイネ先輩が続きをお話される。

    ハイネ「クレタ島の連邦軍は進退に窮していた。軍内には部隊を解散させて兵を故郷に帰す、という案さえあったそうだが…。が、そこに来て、皆も知っての通りレクイエムが発射されザフト月軌道艦隊は壊滅。ニュースを聞いてクレタ島連合軍内の空気は一変した。

    大西洋連邦大統領コープランドのプラントに対する無条件降伏勧告に呼応し、モスクワの連邦政府も前のめりになり、アドリア海と旧ギリシャ領のほぼ全ての海軍・空軍もクレタ島艦隊に合流。レクイエム第2射と同時にボスポラス・ダーダネルス海峡への突入を敢行する予定だったらしい」

    なるほど。さしずめ、絶体絶命、崖山の戦い(南宋滅亡時の戦闘)からの奇跡の反転攻勢、臨安(南宋首都)奪還!

    なんてことを目論んでいたわけか、ユーラシア連邦としては。ご愁傷様!

  • 88二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 23:26:16

    ユーラシア連邦から独立して西ユーラシア連邦に加入って、字面だけだと「1文字増えただけじゃねえか!」ってなるな…
    現代の地図で見るとロシアからEUに鞍替えってことで大転換なんだけどね

  • 89二次元好きの匿名さん24/09/27(金) 23:49:43

    アスラン「月軌道艦隊壊滅とレクイエムの公表により、ユーラシア西側にも動揺が走った。しかし…。後は俺たち自身が知っていることだな。直ぐに『フォーレ』をザフトが破壊、護衛艦隊は殲滅された。

    あの戦闘からレクイエム射出口へのタンホイザー発射まで、ずっとレクイエム攻防戦は世界同時中継されていたらしい。俺も後になって聞いて驚いたが…。
    それにより、西側に走った動揺は、あっという間に沈静化された。しかし、ユーラシア連邦は突入作戦を諦めず、準備続行。
    ただ、それも結局、昨日のレクイエム・ダイダロス基地陥落によって完全に潰えたわけだ。クレタ島に搔き集められた大艦隊・大部隊は完全に行き場を失っている。ある意味で一番危険な状態だ」

    周囲もようやく状況を理解し、それぞれ視線で会話を始める。余りにも大掛かりな話になり、頭が麻痺していたのね。

    今、クレタ島には民族大移動みたいな状態で大軍団が集結している。その矛先が気がかり。

    『ダイダロス基地も陥落したことだし、もう解散』とはならないでしょう。残念ながら…。

    いったん動き出した官僚制と言うシステム、軍隊と言う巨大な歯車は余程の胆力と実力がある人間が命をかけるほどの覚悟で望まないと止められるものではない。

    まして、今回の場合はオーブの件とは規模感が全然異なる。

    彼らが『スエズに引くか、西ヨーロッパに捲土重来を試みるか、ボスポラス・ダーダネルス海峡に突入するか』どれを選んでも途轍もない脅威になる。

    アグネス「(『スエズに引く』が一番いいわね。ザフトがスエズ基地を陥落させる芽は無くなるけど。でも、3つの中ではこれが一番無難。ボスポラス・ダーダネルスに突撃されたらザフト軍も困るけれど友好国の汎ムスリム会議に迷惑がかかる。逆に捲土重来を期してシチリアや南イタリアに向かわれたら、独立したての西ユーラシア連邦が崩壊するかもしれない)」

  • 90二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 00:17:12

    どれも選ばずクレタ島に長居されるのもそれはそれで大問題。

    汎ムスリム会議と目と鼻の先にこんな大軍団がたむろして居たら、やはり大迷惑だろし、西ユーラシア連邦もいつまでも不安定な情勢に甘んじなければならない。
    逆を言えば、これを好機と見て連邦軍をクレタ島で一気に葬れれば、西ユーラシア連邦の『建国』は確定的なものになり、ザフトの地中海制海権掌握は半ば達成されたも同然に。スエズ攻略に向け大ジャンプ可能となる。

    出来るものならね…。と云うかさっきからの話の流れからして―。

    ハイネ「この危機的状況を阻止する大役を月軌道艦隊・ミネルバが担うことになった。ユーラシア連邦軍地中海艦隊・地中海軍団をクレタ島で撃滅せよ、これが次の俺達の任務ってことになるぜ」

    …。この大軍、どいうか方面軍に突っ込むのか!正気の沙汰じゃないわ。
    アグネス「(でも、クレタ島にここまで大軍を集められた以上は彼らを粉砕しないと、マルマラ海ポート・タルキウスもディオキアも維持できないわね。
    元々、黒海に手は出さない方がいいと思っていたのに!ただ、今、ポート・タルキウスを落とされると連合の人道犯罪の証拠も消されてしまう)」

    脳みそが朝からジンジンする。前に立つアスランは父親であるパトリック・ザラ前議長そっくりな顔をして私達に告げる。

    アスラン「今、ザフトには大規模な降下作戦を行う余力はない。そこでミネルバの惑星強襲揚陸艦としての本分を大いに発揮されたし、とのことだ。バックアップは全力で行うと。アーモリーワンから既に地上用のモビルスーツも運搬されてきている。それから―」

    それから、何だろう?

    ハイネ「鹵獲した、と言うか奪還したセカンドシリーズ2機もこの作戦で投入することになったぜ。万難を排して明日の朝までには整備を完了させるそうだ。」

    『万難を排して』か。戦時下では平時では考えられないことが押し通される。散々、理解させられてきたけど、これはなかなかインパクトがあるわね。
    アグネス「(でも、それぐらいしないと今のクレタは落とせないか。と言うことは本当に行くのか!行くに決まっているか...)」

  • 91二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 00:45:28

    なんでも、セカンドシリーズ2機本体の整備は既に昨日から行われていたそうだわ。ミネルバ整備班だけでなく、後から到着したジュール隊ボルテール、ルソーの整備班も全員協力。

    アグネス「(足りない部品はあの2機を撃墜したダイダロスクレーターに落ちていた当該機体の螺子一本まで回収して利用と)」

    ジュール隊の人達も凄まじい戦闘を潜り抜けたばかりだというのに―。仕事ができる人間に更に仕事を押し付ける仕組みはいずれ破綻するんじゃないかと思う。私達も被害者側だけれど。

    アスラン「アーモリーワンからも予備パーツを全て届けさせている。先に述べた月軌道艦隊生き残り技術班、さらにアーモリーワンからの出張整備班もダイダロス基地に到着しだい合流中。二度目になるが万難を排して明日までにカオスとアビスを修理し、クレタ島の戦いに投入可能にする。今からシュミレーターで訓練を始めてくれ。アグネス」
    アグネス「?」

    突然名前を呼ばれたわ。何?

    ハイネ「アグネス、カオスはお前が搭乗しろ。大気圏内可変飛行モビルスーツの飛行時間、距離、戦闘経験が豊富だからな。アスランと俺が推薦しておいた。司令長官と副長も同意見だ。
    俺はアビスに乗る。連合がフォビドゥン系列モビルスーツの量産化に成功したという情報があるからだ。元グーンパイロットはアッシュが届くから、今回はザクを下りてこっちに乗ってくれ。攻撃型潜水艦対策だ。
    空いたグフ2機はショーンとデイルが乗ってくれ。大気圏内飛行モビルスーツ搭乗経験が同じく豊富だからな。6人ともブリーフィングが終わり次第、即時にシュミレーター訓練開始。分かったな!」
    アグネス・元グーンパイロット・ショーン・デイル「はい!」

    新機体の訓練後、最激戦地に吶喊か…。乱世には良くあること、かな。望んでなるものかはともかく。

    アグネス「(こういう形で、セカンドシリーズに乗るのか!もうちょっと何か…。いや、言うまい。割り切るしかない)」

  • 92二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 03:39:43

    休みないなった

  • 93二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 06:20:02

    あれ? オーブいないから楽だと思ったら原作のクレタ沖戦よりも難易度上がってない?

  • 94二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 09:38:36

    連合は畑から兵士が取れるくらいボコボコ戦力を出してくるのにザフトはほんと人が足りないな
    連戦に次ぐ連戦で流石のアグネスもかなり疲労してるわ

  • 95二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 10:17:24

    >>94

    実際FREEDOMで月艦隊再建してるのはよく人員いたなぁ…ってなる

  • 96二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 16:33:05

    ずっとアスランがAAに合流できないんだけど、かなりストレス溜まってない?
    パトリック顔出てきてるけど大丈夫?

  • 97二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 16:35:18

    フォビドゥンヴォーテクスいるのかぁ
    アビスとアッシュでどこまでやれるか

  • 98二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 20:24:57

    ハイネ級でもどうしようもないレベルだからな連合水泳部
    アッシュでも3機くらいで正面背後上下を庇い合えなきゃ無理ゲー。相手1機で
    エースが出てきたら一個小隊どころかもっと喰われるし、タイマンならハイネが喰われかねない性能差

  • 99二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:00:58

    気合を入れ直す私達に加え、アスランからジン長距離強行偵察複座型パイロット8名にも声がかかる。

    アスラン「君たちにはAWACSディンに乗ってもらう。既に4機届いている。これまでの機体は大気圏内では使用できない。8名とも大気圏内偵察任務は教習以来となるだろう。任務までにシュミレーターで勘を取り戻してくれ。AWACSディンはソナーで水中探索も可能だ。フォビドゥン系や攻撃型潜水艦の脅威もある今回の任務を乗り切るため。頼む」
    偵察ジンパイロット達「はい!」

    ハイネ「ショーンとデイルが乗っていたザクファントムはルナマリアと甲板組の一人に。ザクウォーリアと基本は同じだが、せっかくの高性能機だ。乗りこなすように」
    ルナマリア・甲板組1名「はい!」

    要は出撃までみっちりシュミレーター訓練が続く、と言うことね。生き残るためなら仕方がないわ。でも―。
    アグネス「(みんなの表情がヤバいわね。私も多分そうだけれど)」
    だんだん表情に死相さえ出て来たわ。

    オペレーション・スピットブレイクを一部隊だけで成功させろ、と言われているようなものだから仕方ない。経緯からサイクロプスが仕掛けられていないことは確信できるけれど、だからといって―。幾らバックアップはしてくれるとしても。

    アグネス「(信じられないわ…。ほとんどゾンビになりながらレクイエムと戦ったばかりなのに。ディオキアには兵力がないという事情を考えると仕方ないのは分かるけど。分かるけど!)」

    いつまで続くんだ、これは。思うにレクイエム発射を見越して軍を集結させてたのはクレタ島だけではないだろう。そいつ等にも対処しなければいけないはずだが、それもこちらに回って来るのか?

    割り切れ。切り替えろ。そんな心配は今、無意味だ。クレタ島をまず生き残り、皆を生き残らせることだけに全力を尽くせ。全部それからだわ。

  • 100二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:05:01

    私達が任務に気圧されている空気をハイネ先輩は察したのだろう。私達に気を効かせてくれる。
    ハイネ「機体の色は好きにしていいぜ。皆、エースだからな」
    アグネス・一同「はい!」

    なんか。反射的に返事をしてしまった。返事をしてから意味を理解する。

    ああ。モビルスーツのパーソナルカラーね。忘れていたわ。そうね。

    カオスの緑色、センスが合わないわ!私が乗るのだからあの機体の緑の部分はバーガンディーに塗り直してもらう!!『そんなことどうでもいいだろう』とは言わせない。誰にも!

    アグネス「(戦場でこそユーモアが必要になる、とはよく言ったものね。身を置き続けていると何度も思い知らされる。うん。まだ大丈夫だ)」

    隣のルナマリアと見つめ合う。デイルのおさがりのザクファントム、やっぱり赤色にするの?そう目線で問うと『勿論!』と目線で返される。でしょうね!

    私もルナマリアも、まだ行ける。これで『機体の色、どうでも良いわ。どうせ…』なんて反応に成ったらあとは死ぬだけだ。まだ、私はそんな気にはなれない。全くね!

    ハイネ「ただ機体特性上、偵察組とアッシュ組は我慢してくれな。俺も今回は我慢する。水中でオレンジは不味いからな」
    偵察組・アッシュ組「はい!」

    そうか。今回ハイネ先輩はオレンジを我慢するのか。オレンジ色に乗っていないハイネ先輩。考えてみるとちょっと面白いわね。失礼千万だけれど。

    ちょびっと皆がクスッとする。少しだけ空気が軽くなったか…。

    大体の説明が終わり、二人は一旦着席する。具体的な戦況予想図も分かり次第、順次確認していかなければ。

  • 101二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:10:00

    ところでさっきから気に成っている点が二つほどある。一つ目は…。
    二人の説明が終わるやグラディス司令長官は進み出てラドル支隊の全員に声をかける。

    タリア「ラドル隊から志願して出向に応じてくれた11名の戦友諸君。本当にありがとう。諸君の任はダイダロス基地陥落で解かれ、元の隊に戻ることになっていたのだが…」

    グラディス司令長官の言葉が終わるのを待たず、その11名が突然起立し、一言簡潔に大きな声で吠える。

    ラドル支隊「お供します!!!」

    11名の気合にブリーフィングルームが圧倒される。半分思考が麻痺状態だった私達、月軌道艦隊メンバーに喝が入り、思わず目を丸くしてしまう。

    これは仕込みか?そう思ってグラディス司令長官と副長に目線を遣るが、二人とも仰天している。なるほど。良くある歴史的名場面と言うものは案外身近にあるものなのね。

    話の途中で発言された司令長官は無礼を咎めることも忘れて聞き返している。

    タリア「それは、一緒にクレタで戦ってくれるという意味?そう頼むつもりではあったけど…」
    ラドル支隊代表「クレタでもどこでも。出向でも異動でもご随意に。ミネルバが来なければ、きっと俺達はガルナハンで死んで筈。命がある限りはお返しします」

    アーサー「そんなふうに思っていてくれたのか…」
    司令長官の後ろの副長は素直ね。何時も。私も同じ思いよ。そう…。

    タリア「分かりました。ありがとう。諸君の異動の話は今日中にラドル司令官と協議を。クレタ攻めには参加…。本当に…。いえ。本当にありがとう」
    ラドル支隊「はい!」

  • 102二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:10:52

    >>100

    カオスの装甲はVPS装甲だから塗り直すじゃなくて電圧調整なんだけど、そのことも頭から飛んでるぐらい疲弊してるっぽいかアグネス…

  • 103二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:14:30

    胸を打たれるとはこのことか。彼らの言葉が建前なのか、本心なのか、その場の勢いなのか、私は正直どれでもいい。一緒に困難につき合ってくれると言ってくれただけで嬉しい。

    いいじゃない、クレタ攻め。大成功させて、生還して、勲章と出世、ゲットしようじゃない!

    その場の空気も大いに盛り上がっているわ。良く考えたらボスポラス・ダーダネルス海峡が突破されたら、どの道コーカサスとガルナハンもただじゃすまない。勿論ラドル隊本体も。

    私達がカーペンタリアから死ぬ気で積み上げて来た戦果も全部台無し。これほど腹が立つことは無いからね。さっきまでの自分はどうかしていたわ。

    そうなるともう一つの問題は力業で乗り切るしかないわね。一応、理屈的には行けるはずだから…。

    シン「あの…。いいですか?」

    前列のシンがおずおずと手を挙げている。何か珍しい感じがするわね。
    アグネス「(ああ。不規則発言じゃないからね。ちゃんとできてよろしい)」

    アーサー「シン、質問か?」
    シン「はい」
    アーサー「良いぞ」
    シン「ありがとうございます…」

    ちょっと困った顔をしながら、シンは席を立つ。そしてちょっとためらいながらも副長に尋ねる。
    シン「改ミネルバ級の艦載機数は補機を含めても22機なんですよね。この場の全員だと33機になると思うんですが…」
    タリア「それは…」
    ふむ。確かに今の陣容。結構ミチミチだ。

    セイバー(アスラン)、インパルス(シン)、アビス(ハイネ先輩)、カオス(私)
    ここまでセカンドシリーズ4機。
    ここにレイ、ショーン、デイルのグフが3機。ザクファントムが2機(1機はルナマリア)。
    ザクウォーリア8機、ガズウート6機、バクゥハウンド3機、
    アッシュ3機、AWACSディン4機。 これで33機だわ。

  • 104二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:19:48

    そう。それどうするのかと思っていたのよね。でも、何とでもなるはずよ!

    ピシッと手を上げる。何か割り込むみたいで良くないけれど、この盛り上がった空気を壊したくない。この作戦は士気で乗り切るしかない部分が結構大きいから。

    アーサー「アグネス。質問か。ならシンの後に…」
    アグネス「意見です。上申の許可を」
    タリア「良いでしょう」

    シンの質問にちょっと苦慮していた感のあるグラディス司令長官が私を指名してくれた。
    お礼を言いつつ起立する。

    アグネス「ありがとうございます。それに関しては何とかなると思います。先ず、セカンドシリーズは大気圏突入可能なので、飛行能力のあるセイバー、カオス、フォースインパルスは単身で地上に降りられるはずです。

    また、ザクも大気圏突破自体は可能です。ミネルバ甲板にザクの内8~10機を一時固定し、船体自体を『傘』して。

    そうして、全機一斉にクレタ島に降下すれば奇襲の衝撃を最大にできるのではないでしょうか。単身突入するセカンドシリーズ、甲板固定するザクに予め耐熱ジェルを塗布するなど工夫を凝らす必要はありますが、可能かと」

    司令長官と目線がかち合う。お互いどういう気持ちだろう。分からない、ただ自分の意志を今は押し出す時だと感じる。『衝撃の原則、衝撃は「速度と集中力」の心理的結果である』。この陣容で大事を成すならば、おそらくこれで正しいはず。

    シン「大気圏を単身で?」
    おいおい、といった反応をするシンを睨みつけながら話を進める。

    アグネス「経験済みでしょう。あんたも私も。私は2人乗りだったし、アスラン先輩が操縦して下さっていたけど。可能なはず。今回の任務、大胆さと繊細さが求められる。怖じないで」

    全く、こういうのはビビったら負けよ。大気圏をモビルスーツで突破した者同士でしょう。

  • 105二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:28:28

    アグネス「セカンドシリーズの例としては他にも。アスラン先輩はセイバーでカーペンタリアまで飛行していらっしゃいました」

    その上でアスランにも話を振ってみる。目線で合図すると、普段、反応が薄い彼も応えてくれる。

    アスラン「そうだな。プラントでセイバーを受領後、カーペンタリアまで飛行していった」
    ハイネ「なるほど。確かにこの方法なら、行けるっちゃ行けるな。大気圏突入時と突破後、機体の配置転換に全員の訓練がいるが…。クレタ攻めの為、全員シュミレーター訓練するのは確定している。俺は賛成だぜ。元々、手が足りていなかったところだ」

    シン「そう言えばカーペンタリアまで。なるほど。電力も結構もつのか...」

    ハイネ先輩が乗り気に成ってくれたので、シンも納得し出す。私の時点で納得しなさい。

    付け加えるなら、アスランは大気圏を突破後にオーブ領海でトラブルを起こし、軽くだが戦闘までしている。そこから更にカーペンタリアまで飛んできて、猶もセイバーには余力があった。

    アグネス「(やれるんだ。技量と気力があれば!)」

    それはそれとして…。皆の反応を窺う。自分で言っておいてなんだけど、かなりの無茶だ。自分でも分かっている。

    ペイロードという概念に喧嘩を売っている。でも、それは何時ものことだ。だいたい、クレタ攻めはほとんど特攻同然の無理難題。なら、こっちも無理をして押し通るしかない。

    どうだ?五感全部で皆の気持ちを探る。うん。良し。もう、皆行くモードね。ルナマリアと視線を合わせ、レイとも目線を交わす。やるしかない。OKね。ありがとう!

    麗しい戦友愛、感動したわ。皆ありがとう。10000000000アグネスポイント。

    あとは司令長官と副長の反応次第だけれど、どうかな。

  • 106二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:31:59

    このレスは削除されています

  • 107二次元好きの匿名さん24/09/28(土) 23:37:54

    タリア「アーサー。可能?」
    アーサー「可能かと」

    二人の間で簡潔なやり取りが躱される。可能かどうかと問われた副長の答えは可能、つまりこの場ではGOサインと同義だわ。

    副長の返事に軽い戸惑いと大きな満足を感じつつグラディス司令長官は私達に決定と訓示を述べる。

    タリア「よろしい。実行します。皆の高い士気に感謝を。この任務は言うまでもなく困難なものである。だが、友好国、友好勢力の安全とプラントの防衛のため、何としてもやり遂げなければならない。皆の奮闘に期待する」
    アーサー「総員起立!敬礼!」

    副長の号令と共に皆で敬礼を交わし、この場のミーティングは終了する。

    今からは超短期間カオス習熟シュミレーター訓練&クレタ島奇襲シュミレーター訓練ね。

    しかし、いくらミネルバが主力艦でエースが37名33機いたからと言って―。

    アグネス「(決まったことだ。もう決まったこと。勝つこと、生きて帰ること、生かして帰ること。ただそれだけだ。もうそれだけしか考えない。今は)」

    皆で歩調を合わせて行進みたいにブリーフィングルームを出る。誰が言うともなくそうなったわ。テンション上げて行こう。負けない気持ちが一番大事だ。

  • 108二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 07:58:22

    プラントを守る、と言う明確な目的があったレクイエム攻防戦と比べると今回は…対話と交渉でなんとかならないのって感はある
    その辺どうなんですか、プラントの政治トップの方!

  • 109二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 17:27:33

    ほしゅ

  • 110二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 19:39:03

    >>108

    議長「戦術ミネルバでゴリ押しすれば交渉の手間が省けるだろう?」

  • 111二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 22:03:28

    >>110議長ぉぉぉぉ!?

    議員はまず言葉を尽くせや!

  • 112二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 23:43:44

    アグネス「…。」
    脳みそが壊死したような感覚に苛まれる。カオスの訓練ではない。私も候補生を名乗り出ていた身、癖の強い機体のように見えて案外何とかなる。正直バビの方が大変だったかもしれない。

    兵装が多いから、最大限の効率を以って運用するのにコツがいること、それから武装がMA形態時に全て前方に向くため、後背の注意を怠ってはならないこと。

    それから―。
    アグネス「(ファイヤーフライ誘導ミサイルは弾切れしたら、補給のため着艦しなければならないから、使いどころに気を付けることかな。デュートリオンビーム送電システムを利用しても電力しか補充出来ないから)」

    勿論、それはCIWS、ピクウス76mm近接防御機関砲にも当てはまる。特にCIWSは迫りくるミサイル迎撃の要。残弾数には気を付けたい。

    頭が疲れているのはカオスのことなんかではない。クレタ攻めの困難さだ。一応、『ミネルバ』ではなく月軌道艦隊に命ぜられた任務ではある。

    地上拠点を一時占拠出来たら、奇跡的に生き残っていたローラシア級3隻から、休暇上がり(傷病・産後を含む)のパイロットを18機追加で大気圏突入させるということも考慮に入れている。戦闘は全く期待できないから、あくまで陣地の『抑え』しかさせられないけれど。

    それを差し引いてもこれは酷い。

    あとからバートさんが死んだ目で敵予想戦力を全員のデバイスに同期させて知らせてくれた。判明した敵戦力は―。
    『ザムザザー4、ゲルズゲー10、 ユークリッド20、 ウィンダム512、 ダガーL511』
    『スカイグラスパー24、 スピアヘッド57、 対MS戦闘ヘリコプター116』

    これを見た途端、ドラム缶の中に入れられた頭をバッドでフルスイングされたような感覚に襲われた。ちょとこの意味するところがよく分からない。
    頭が悪くなったか。ああ、思い出したな。カオスの色はヴィーノ達が電圧いじってくれるらしいわ...。

  • 113二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 23:47:05

    はい撤収!
    いやマジで!

  • 114二次元好きの匿名さん24/09/29(日) 23:51:02

    アグネス「(そんなこと考えても現実は目前に迫って来る。はい!現実逃避止め)」

    画面をスクロール。目を背けたら死ぬ。負ける。
    『長距離哨戒機12、大型輸送機61、VTOL輸送機143』

    心が虚無になる。何かの間違いか?バートさんが桁の数を間違えたのか。
    『自走リニア榴弾砲134、 リニアガン・タンク497、 ブルドック500
    工兵車113、汎用車両・兵站車両・軍用トラック921』

    読んでいる内に息が苦しくなってきた。過呼吸で倒れたら笑われてしまう。私はそんな軟弱な人間じゃない!そう、これを見て『やった!獲物がいっぱい』って喜ぶような、そんな人間でいないと…。

    『アーカンソー級14、 デモイン級43、 スペングラー級14、 フレーザ級43、 
    攻撃型潜水艦12、 フォビドゥンヴォ―テクス1(推定)、 揚陸艇102、 輸送艦44、 
    哨戒艇26、 各種専用艦・工作艦・掃海艇・その他中小艦艇44』

    大丈夫。何とでもなるはずよ!

    アグネス「ふう…ふう…」

    シュミレーターを出て一息。休憩スペースに座り込み、栄養ドリンクをゴブゴブ飲む。

    自分はいったい何をやっているのだろう。クレタ島なんて私にとってはどうでも良い。和平後、現地の治安が安定したら古代文明の遺産を見学したい、と言ったぐらいの感想しか湧かない。プラントが『名誉ある講和』を結べるなら、最悪、賠償金無しでも良い。あくまで最悪だけれど。

    と言うか、ユーラシア自体、もうどうでも良い。そもそも議長が変に拘ってかき回しているだけなんだ。勝手にカーペンタリアからスエズ攻めろと言われて、言った先は何故かカスピ海。あのインチキ議長め…。

  • 115二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 00:00:35

    このレスは削除されています

  • 116二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 00:01:17

    >>114

    絶対フォビドゥンもっといるぞこれ…

  • 117二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 00:03:26

    ルナマリア「アグネス、どう?」
    同じくシュミレーターから這い出してきたルナマリアが私に声をかけてくる。どかっと、ちょっと女の子としてどうなの、と言った感じで隣に座って来るが咎める気のもならない。

    正直、もう誰も気にしていないだろう。

    ルナマリア「大軍ね」
    アグネス「最初から、そういう話だったからね。クレタ島には今、陸空海合わせて数万から10万人規模の大兵団が集結している。分かっていたことよ。効率よく潰していかないとね」

    必死に強がりを吐く。オペレーション・スピットブレイクをやるみたいなもの、と自分で理解していたではないか。その通りの数字が出ただけだ。

    ありがたいことに―。かどうかは分からないが、補給と整備の都合上、どうしても軍団は島に分散して駐留する。『戦力の分散』云々の前に、固まった人数の兵士を生活させることは大変なことだ。兵器を収容し、整備するスペースもいる。

    だからその点に活路を見出すしかない。

    連合軍-というか今回はユーラシア連邦軍-本拠地はソウダ湾クレタ島海軍基地と近接するハニア国際空港に間違いない。ただし、兵力はイラクリオン国際空港、カステリ空港、マレメ空港、ティンパキ空港などにもある程度ばらけている。そこを上手く突いて…。と言う話であるが。

    シュミレーターが現実通りになっているなら、私も彼女もこの世にはいない。訓練で何回か死亡判定を喰らった。
    私だけでなく、艦ごと落ちて、沈んで、ミネルバの皆と一緒に天国の扉を叩くケースも。皆、事前に本作戦を少しでもスムーズに進めるべく、死力を尽くしているところだ。

    何とか…。想定通りにいけば…。

    ルナマリア「なかなかね。ファントムザクは何とかなりそうだけど」
    アグネス「良し。何とかなるなら良し!」

    『僚機を失った者は戦術的に負けている』
    『自分は歴代最高の撃墜数よりも、一度も僚機を失わなかったことの方を誇りに思っている』

    歴史上最高クラスの撃墜王の言葉だわ。もう水底から仲間を見送るのは嫌。『皆で死ぬか皆で帰るか二つに一つ』。前は保身と建前でそう言った。

    今は本心からそう願っている。と言うか祈っている。

  • 118二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 00:11:52

    私の顔を心配そうに見つめるルナマリアの眼差しに気が付く。あんた、よくこの状況で他人を気遣えるわね。

    アグネス「なに?別に私は平気よ。ただ…。ちょっと最近信心深くなったわ。『蛸壺の中に無神論者はいない』とはよく言ったものね」
    ルナマリア「ミネルバは蛸壺?司令長官が聞けばえらいことよ」

    そうね。えらいことね。何と無く二人で顔を合わせちょっと笑う。別に嫌な上司の話題で盛り上がりたい訳ではない。
    と言うか、私はもうグラディス司令長官に悪感情を持っていない。真っ黒な議長と良い仲なのは気がかりではあるが、人にはいろんな面がある。そして彼女は諸々の『陰謀』に無関係だ。証拠などなくとも何となく確信できることもある。

    ただ、プンスカ怒っている『艦長』をイメージするとやっぱり何だか面白い。やっぱり、私は『艦長』が好きなんだ。好きになれたんだ…。

    レイ「ちょっといいか。約束を果たしたい。今休憩時間なら俺の部屋に」

    休憩スペースにレイがヒョコッと顔を出すと何か言いだす。約束とは…。病気のことか!
    ああ、こいつ今回の任務大丈夫か?
    ルナマリア「いいの?」
    アグネス「今から行く。ちゃんと話して、皆困るから!」

    お人好しのルナマリアは隣で気づかわし気な声音を出すが、こっちはそれどころではない。3機しかないグフパイロットの一人なんだぞ、こいつは!

    レイ「無論そのつもりだ。シンも部屋に待たせている」
    アグネス「待って。ハイネ先輩とアスラン、副長も。話しておかないと」
    レイ「…。症状の要点は三人にもお伝えする。さあ…」
    レイに急き立てられながら、足早にシュミレータールームを後にする。

    こいつ、どんなけ勝手なんだ。持病隠ししていたのはそっちなのに。
    アグネス「ああ。それと汗で気持ち悪いから着替えたい。直ぐすむから待って」
    ルナマリア「私も!」
    レイ「…。分かった」

    更衣室に手早く入る。女二人、服を自分で剝ぎ取るように急いで脱ぐ。うーん。男子には見せられないわね。

  • 119二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 08:16:29

    3,000を超える兵器と300を超える艦艇、それに付随する人員…1ヵ所に集めて長期間維持できるもんじゃないな。
    仕掛けずに分散していくのを待ってればよくない?

  • 120二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 11:52:14

    >>119

    やぶ蛇つついたせいでミネルバ側に戦死者でたら上層部への不信が溜まりそう…レイですらレクイエムの件から議長への好感度下がってるような描写あったし

  • 121二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 19:30:08

    >>120

    連戦続きで思考力が低下した所に無茶を押し付けてる感が酷いので、冷静さを取り戻したら既に好感度ゼロになっててもおかしくない。

  • 122二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 19:45:28

    フォビドゥンブルーが味方機の半数超えたら、水中戦力はアビス以外帰ってこれないと見た方が良いな
    機動性がエールストライクとミストラルだしブルーとアッシュの差
    アビスなら対艦火力と直線速度だけは勝ってるメビウスくらいの差だけど、TP装甲だから通じる武器が0距離ビームランスくらいしかない。せめてメーザーあれば一般兵とのタイマンなら勝てるかも。白鯨みたいなエースはシン級じゃないと勝ち目すら・・・
    上位機種のヴォーテクスが見えてる一機以上いたら、真面目にハイネがヤバい

  • 123二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 20:23:03

    誰かが言ってたけどフォビドゥン系のせいでザフトはまず水中戦で勝ち目が無くなったし、アビスにしたってあれは水中戦から強襲&大火力による攻撃後速やかに撤退というヒットアンドアウェイで対抗という苦肉の策のMSなのよね

    あとスレ主さん、重箱の隅をつつくようで申し訳ないのですが「シュミレーション」じゃなくて「シミュレーション(simulation)」です…

  • 124二次元好きの匿名さん24/09/30(月) 20:53:24

    ひょっとして議長的には今度の作戦の成否は二の次でエターナル経由でミネルバ組にラクス暗殺未遂の情報上がってるからあれこれ探り入れられる前に激戦区放り込んでその間に証拠隠滅する魂胆じゃ…

  • 125二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 00:10:30

    手早く着替えながらふと思う。何かちょっと痩せたかもしれない。体感的に…。体は毎日使っているから、多分脂肪が落ちたのだと思うけれど。

    アグネス「(我ながらちょうどよい体型だと思っていたのに。ダイエットする予定などなかった…)」

    失礼にならない程度に視線を遣ると、ルナマリアも何となくスリムになってしまっている。
    疑いようがない。疲労の蓄積が原因だ。

    溜息が出てしまう。ああ、そう言えば!

    アグネス「今日も昼ご飯。栄養ゼリーだったわ」
    ルナマリア「そうね!うんざりする」

    私の嘆きに間髪を入れずに答えてくれる彼女。些細なやり取りがとても嬉しい。仲間がいるから何とかやっていけている。

    二人とも着替えが終わり、後は外に出るだけなんだけど。さっきからずっと気に成っていることがあるのよね。

    アグネス「レイ、メイリン忘れてない?!」

    更衣室の隣で待つレイに呼び掛ける。さっきの話だと、レイの持病について打ち明けられるのはシンと私とルナマリアの顔触れになりそうだった。日々世話になっている同期で、心配もかけ、かつ艦橋オペレーターの彼女を除外するのはあまり良くない。

    扉の向こうでレイが少し考え込む雰囲気が伝わる。まあ、余り広まって欲しくない気持ちはわかる。でも、私とルナマリアが知ってしまえば…、とも思うし。

    ややあって、彼からの返事が聞こえる。

    レイ「そうだな。彼女も呼ぼう。先に部屋に行っていてくれ。中にシンがいる」
    アグネス「分かった」

    タタッとその場から離れるレイの足音と入れ替わりになるようにルナマリアと更衣室を出る。

  • 126二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 00:17:32

    立ち去るレイの背中を見送る。ふむ。

    アグネス「理由はともあれ、女子更衣室の前で待っていられるのも困るわね」
    ルナマリア「そのためにメイリンの話を?」
    アグネス「まさか、あっちはあっちで本気よ。日々、自分のことで皆に心配かけておいて腹立つわ。メイリンは特にミネルバでも付き合いが深い方じゃない?」
    ルナマリア「まあまあ」

    まあまあ、じゃないでしょう。ちょっと呆れながら通路を二人で小走りする。タイムイズマネーだわ。

    シンとレイの部屋に着くやインターホンで来訪を告げる。
    アグネス「シン、ルナマリアと来たわよ。開けて」
    シン「ああ。どうぞ」

    良し。と思って後ろを向いたら何ともおかしな表情を浮かべるルナマリア。

    アグネス「どうしたの?」
    ルナマリア「同年代の男の子の部屋に入るの、は…、久しぶりで」
    アグネス「(初めてなのか、久しぶりなのかどっち?どっちでもいいけれど)」
    アグネス「グズグズ言わない。よ、入るわよ!」
    ルナマリア「あ…。ちょっと!」

    アグネス「お邪魔します!」
    シン「いらっしゃい」
    ルナマリア「お邪魔します…」

    今更になって女の子ぶるルナマリアを引っ掴み敷居を超える。敷居はないけどね。すると家主の片割れがちょっとションボリした顔をして迎えてくれたわ。

    アグネス「どれ?お宅訪問…」
    ルナマリア「ちょっと!怒るわよ」

  • 127二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 00:33:58

    委員長様のお小言をありがたく聞き流す。別に私達が神妙な顔をしてあいつの持病が回復するわけでもあるまい。それより、部屋の様子は心理状況のバロメーターの一つでもある。

    男子二人の部屋にしてはちゃんとしているじゃない。アカデミーの教育の成果か、元々の性格によるものか。シンとレイの心理状態、思ったほどではないかもね。

    アグネス「(軍人だからそうしているだけかもだけど。整理整頓出来ないアホはアカデミーから叩き出されるから、うん。そっちかな)」

    シン「ここに座って、二人とも。ああ、コーヒーで良いかな?」
    アグネス「ミネラルウォーターを」
    ルナマリア「私も」
    シン「ちょっと待ってて」

    アグネス「(『ここに座って』ね。要はシンのベッドじゃない。もう、良いか。気にしない)」

    ルナマリアと一緒に座って待つとボトル2本で持ってきてくれた。簡潔でよろしい。
    私達の前、レイのベッドに腰を下ろすシンに問いかける。
    アグネス「あんた、レイに聞いた?」
    シン「いや…。病気のことは今日話すからって。それ以外何も、教えてくれなくて」
    ルナマリア「レイ…」
    アグネス「まあ、病気の告白はタイミングを計りたいのは分かるわ。軍人、パイロットとしてはレッドカードだけど」

    個人の心情と義務は別でしょうに。こんなんでクレタは乗り切れるのか…。

    私の顔を見てかどうかは知らないが、シンにとって友人と同じくらい大事であろう話題に話が映る。

    シン「それで…。二人はどう?クレタ攻め。俺、クレタ島が思ったより大きくてびっくりした」
    ルナマリア「ええ。プラントの私達からすると本当にそう思うわよね」
    アグネス「ちょっと勝手が違うわよね。私なんか、そもそも地上に降りるのだって初めてだし」

    割りと基本的なことのようだけど、私も二人と実は同じような感想を抱いている。地球育ちのシンから見てもクレタ島についてはこんな有様だ。プラントという人工天体でこれまでの人生を送って来た私とルナマリアにとっては―。

  • 128二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 00:45:46

    アグネス「(まして、ルナマリアは地上初任務がこれ。相当参っているでしょうね。フォローが足りなかったわ)」

    結構大きい、この島。実は私はバビで飛行中一度は遠目で確認しているのだが、実際にシミュレーション訓練をしてみるとまた、違った実感を覚えざるを得ない。

    アグネス「流石は地中海5番目の大きさ。と言っても分かりにくいか。オーブ連合首長国、つまりソロモン諸島で例えるなら、最大の島であるガダルカナル島が5,336 km²。一方、クレタ島は8,336 km²」
    シン「かつての日本の広島県と同じくらいだもんな」

    気に成ることは尽きない。まず、この中で誰もギリシャ語を習得していない。現地民とどうやって意思疎通する気か?英語話者が居ることは、まず間違いないが現地の母語を未収得で殴り込み。ガルナハン・ローエングリンゲートの時はラドル隊と共同作戦でコニール等レジスタンスの支援もあった。今回とは全然事情が違う。

    アグネス「(私は古代ミノア文明のことは知っていても現在のクレタの情勢なんて全く知らない。アカデミーの講義にしたところで『ユーラシア連邦旧ギリシャ地方』でサラッと流れた程度)」

    ハッキリ言って今のギリシャより古代ギリシャについての方が詳しい気がする。

    多分、艦の、下手したら司令長官すら同じようなありさまだと思う。ザフト軍の特徴上、ミネルバや新生・月軌道艦隊に誰かしらこの地方の言語・文化・習俗・現地事情に詳しいクルーが居るはず…、と思う。

    探さなきゃ!もし居なければ今、ダイダロス基地に到着している他部隊からでも。そんなことさえ分からなくなっていた!我ながらどうかしている。

    だが、今の私達はどうミネルバとモビルスーツで戦うか、それだけで頭一杯手一杯だ。典型的な『負ける軍隊』になってしまっている。今回が乗り切れたとて、これからは―。

    ルナマリア「62万人を超える住民のうち、女性、未成年者、高齢者、傷病者、障がい者は既に旧ギリシャ領に疎開済みらしいけれど。でも、高齢者の中には避難を拒んだ人もいて…。男性は緊急徴兵・徴用を受けて自主避難できなかった人もいるとか…」

  • 129二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 00:48:44

    レイの話はどこにやら。話題はどうしてもそっちに向いてしまう。レイがどうでも良いわけじゃない。目の前の課題が大きすぎるんだ。頭がパンクしそうになっている。

    アグネス「住民のことは仕方ない。戦時には良くあること。良い悪いじゃない。時代のせいだからある程度割り切らなくちゃ。民間人や民間施設への被害は『最小限になるように努力』」

    私の顔をシンがじっと見つめる。戦争避難民のこいつにはやっぱり鬼門なのね。私だって無意味に民間人を傷つけたいわけじゃない。キャリアの汚点になるし、それに…。

    アグネス「(理屈じゃない。目の前で無辜の死に直面した時、耐えられる自信は正直無い。今のメンタルは不味いと自分でも分かっている。女性と子供と高齢者だけでもちゃんと逃がしてくれていたユーラシア連邦の分別を内心、賞賛している自分が居る)」

    シン「ギリシャ本土も内戦中なんだよな。ユーラシア連邦からの分離独立派と残留派で…。島民の人は逃げた先でも」
    アグネス「だからって私達にはどうしようもできないでしょう!シャンとしなさい。あんたどっちの味方なの?!」

    ウジウジモードになっているシンを―心の中で叫び声を上げている自分の良心を―𠮟りつける。ピクニックに来たんじゃない。分かっていたはず!

    私の言葉にハッと表情を変え、シンは私を真直ぐ見る。
    シン「俺はプラントの国民で今はザフトだ。ミネルバとみんなの味方だ!」
    アグネス「なら良し。クレタ島に出た被害は復興支援で政治が解決するはず。クレタ島海軍基地は永久租借したいけど。今は生き残ること、作戦成功を成功させることだけを考えなさい!」
    シン「分かった」

    私達のやり取りを傍で聞くルナマリアが何とも言えない表情をしている。
    ルナマリア「ユーラシアが、ボスポラス・ダーダネルス海峡に手出ししようとして来なければ…」
    シン「向こうにしてみれば、『獲られた』と思っているからな」

  • 130二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 01:04:03

    そう。もし仮にこのまま休戦してしまえば、ユーラシア連邦はあまりに多くの領土を失うことになる。国の根幹が破壊され、立て直すことができないほどに。『西をスッパリ諦めればいい』とか、『これまでの大西洋連邦従属外交のつけだ』とか、外野なら幾らでも言えるが、受け入れがたいだろう。彼らの立場なら。

    そして、それ以上に―。

    アグネス「プラント上層部はそれ以上に『象徴的な戦いと勝利』が欲しいんでしょう。スターリングラードやガダルカナルや硫黄島、日本海海戦や旅順攻防戦みたいなやつ。それでザフトが勝つ絵を世界に見せたいんでしょ」

    『上層部の誰』かは言及しない。アホらしい、この艦に乗っている人なら皆知っているわ。それで『奇跡の大勝利』を国際社会に示し、ユーラシア西側の趨勢に確変を起こしたがっている。違うな、既に起きた確変をさらに拡大させたがっている、が正しいのか…。

    果たしてそんなことに意味はあるのか。プラントに益はあるのか?

    私達が足を踏み入れるまでこの地が楽園だったと言うつもりはない。
    先の大戦から危機は続いていただろうし、下手したらもっと前から様々な確執が存在したことだろう。
    ユーラシア連邦の統治もお世辞にも優れていたとは言い難い。外部の干渉が有ったにしろ無かったにしろこんな騒乱が起きる時点で…。

    アグネス「(それでも…。これまで、そして、今から私達が撒き散らすことになる血飛沫を正当化するに足るのかは、正直、自分でも自信が持てない)」

    手柄も良い、出世も良い、しかし、自分と仲間が死んだら意味がない。それに、これ以上この地を荒らしまわれば、やがてその怒りと憎しみは以前に増して膨れ上がったる。今はそれがユーラシア連邦に向いているが、この嵐が一段落した時、どうなる?

    「もとはと言えばあいつらが悪い」そう言って、悪意は倍増したまま、その矛先は祖国プラントに向くのではないか。これは決して杞憂では無いはず。ユーラシアの混迷をこれ幸いと振舞うことは長期的な国益にも反している。私はその疑いを払拭できない。

    だけど―。それはそれだ!私がクレタの軍団に解散命令を出せるわけじゃない。ボスポラス・ダーダネルス海峡突入延期を通達できるはずもない。しっかりしろ。現実から目を背けるな。

  • 131二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 01:15:25

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  • 132二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 01:20:23

    パンッと手を叩いて、自分と二人を黙らせる。

    アグネス「はい!ウジウジモード止め。もう、後は作戦達成のみ集中、これ約束して。良いわね」
    シン「え…」
    ルナマリア「アグネス?」
    二人は驚いて私の顔を見つめる。さっきまで皆でふさぎ込んでいたものね。それもこの瞬間までだ。

    アグネス「後悔は生者の特権。全員で生き残っていっぱい後悔しよう。そうでしょう?!私はね。今回、訓練中に何度も噛み締めている言葉がある。『僚機を失った者は戦術的に負けている』。私は勝者になりたい。二人は?」
    シン・レナマリア「勝者の方」
    アグネス「じゃあ。さっきの約束をして。これからは作戦達成のみに集中良いわね」
    シン「ああ」
    ルナマリア「うん」

    良し。何と無くマインドの統一が出来てきた!疲れたわ。
    喋り過ぎたのでミネラルウォーターをチビチビ飲んでいると部屋の扉が開く。
    レイ「待たせたな」
    メイリン「遅くなってごめん」

    アグネス・シン・ルナマリア「良いよ」
    やっと本題ね。座席を振り分けシンとレイがレイのベッド、私とメイリンとルナマリアがシンのベッドに腰かける。
    見つめ合って、ちょっと間が空く。
    アグネス「(私から切り出すか…)」

    そう思案しているとおもむろにレイが告白する。
    レイ「俺はクローンだ。生まれつきテロメアが短い。もうあまり未来はない」
    シン「え…」 ルナマリア「うそ…」 メイリン「そうですか…」
    アグネス「うぉ。ふむ。なるほど?ね」

    思い切ったように勢い良く告白して、ちょっとすっきりした顔をするレイ。
    勝手にスッキリしないでよ。と言うか全然説明不足じゃない。アホか!

  • 133二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 05:11:03

    ここのアグネスの表情想像するとちょっとおもしろいなw

  • 134二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 06:20:15

    レイは端的に説明したつもりなんだろうが言われた方はちょっと整理が追いつかんわな

  • 135二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 16:12:06

    メイリンの反応薄いなー
    なんかハッキングでレイに情報漁ってたりしない?

  • 136二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 22:12:08

    レイとしては議長の考えとか色々話せない事がある中で自分の出生についてだけでも話せてスッキリしたんだろうな
    それを打ち明けてもいいと思えるくらいに心を許せる仲間が複数できた事が何よりの暁光だ
    なんとか彼の未来も幸せな方向に向かって欲しい

    独特の距離感なアグネスとレイのコンビ好きなんだよね
    できればもっと見ていたい

  • 137二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 00:38:20

    レイは、私達の戸惑いを他所にスッキリした表情を浮かべ、その後また表情を一変させる。
    自分の大胆な告白が同期達にどう受け止められたのか、そんな思いに駆られているのだろう。恐怖と不安と期待を宿した眼差しを、まるで救いを求めるように寄せてくる。

    だが、こちらにも此方のキャパシティというものがある。シンは脳みそ『?』状態だし、ルナマリアはなんか口を押えて涙目だし、メイリンは…。

    アグネス「(何でか落ち着いているわね、メイリン。さては事前に調査を入れていたな)」

    意地悪な人間ではないから、悪用しようとかそう言った目的ではないだろう。私やルナマリアに話してくれていなかったのは確証を得るまでには至っていなかったということか。

    そんなことを考えていると、レイとふと目が合ってしまう。見つめられても困るわ!

    でも、元々話なさい、と言ったのはこちら。レイがボールを投げてくれたなら、投げ返す義務が私にはある。

    アグネス「(ちょっと整理を。先ず、『レイはクローン』は分かった。どっかの馬鹿者が禁忌を犯したんでしょ。何時の時代もある話よ)」

    レイの切羽詰まった表情を見るに、『自分は祝福されて生まれた存在ではない、人体実験めいた過程で生み出された』って言う文脈だと察せられる。『ロドニアのラボ』の時の苦し気な表情、程度の差こそあれど同じような境遇にあったに違いない。

    それから、『テロメアが短い』。テロメアの長さ・短縮率と人間の寿命との関係は西暦時代から諸説ある。無関係ともされるけど―。

    うむ。だいたい理解したわ。オッカムの剃刀発動!

    アグネス「つまり、レイ。あんたは特殊な早老症を患っている。それで余命が限られている、と告白してくれたのね」
    レイ「あっ…ああ。そう言うことになる…な」

  • 138二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 00:42:25

    私の発言を浴びてレイは目を丸くする。
    ちょっと!自分でそう言って来たんじゃない、とは流石に言えない。

    苦しい胸中であろうことは聖人君子ではない私にさえ理解できる。

    レイの目を真直ぐ見つめて、極力落ち着いた声で語り掛ける。カウンセラーではないから、レイに何を言うべきかは分からない。ただ、今は彼に話させてあげるべきだろう。

    アグネス「それで、クローンという話。あんたの産まれてから今までのこと、話したいなら話せる範囲で話して。ちゃんと聞くから」

    ちょっと目配せすると、シン、ルナマリア、メイリンも頷いてくれる。彼らの賛同を得た上で、もう一度視線をレイに戻す。

    少し縮こまった感のあるレイ。珍しいわね。

    アグネス「別に問い詰めたいわけじゃない。私、案外あんたのことを知らない。生まれも育ちも余りに違うから。今回のこと、勇気を出して話してくれたのに、ちゃんと受け止められていないように思う。だから、出来るなら聞きたい。強制じゃないわ」

    『私は貴方に関心がある、力になりたいと思っている』そう言葉と表情で伝える。さっきまでの自分はどこにやら。

    気が付けば私は『友情』だの『愛情』だの『仲間意識』だの、そう言ったともすれば自分の足を引っ張りかねない感情を後生大事にするようになってしまった。

    私は弱くなったのかな。まして、こいつは潜在的な政敵だと言うのに…。

    レイ「ありがとう。お前にそう言われる日が来るとは…」
    アグネス「私もびっくりよ。シンの方が良かった?」

    そう言って軽くシンにアイサインを送る。シンも応えて告げてくる。
    シン「俺も…。ちゃんと聞いておきたい」
    ルナマリア「私も」
    メイリン「はい」

  • 139二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 00:50:52

    アグネス「(同期の絆、良いわね。小馬鹿にしていたアカデミーの私はどうかしていたわ)」

    私は、というか私の家は立場があるから『それはそれ、これはこれ』をしなければいけないことも多い。

    だからと言って敢えて無情な人間になるべきでは無かった。時として非情な決断を下せられるようになることと、常日頃から人を蔑ろにすることは全く別の次元のことなのだと思い至れなかった。

    私は取りこぼしてきたものが多すぎる。

    レイの反応を辛抱強く待つ。今、彼はシン達の声を聴いて、何かに満たされたような表情を浮かべているわ。幸せそうね。結構。

    その感触をゆっくり堪能した後、レイは顔を私達に向け、また、おもむろに語り出す。
    毎回、急ね。こいつ!

    レイ「キラ・ヤマトという夢のたった一人を作る資金の為に俺達は作られた。おそらくはただ出来るという理由だけで。
    その結果…。俺には父も母もない。俺は俺を作った奴の夢など知らない。人より早く老化し、もうそう遠くなく死に至るこの身が…。科学の進歩の素晴らしい結果だとも…思えない!」

    うん?なぜにここでキラ・ヤマト?こいつのクローン元が彼とか…。いや年齢が合わないな。第一、資金の為って言っていたし。何のことだ?
    アグネス「(今は聞き役。話を聞くだけね。話してって言ったんだから…)」

    レイ「もう一人の俺はこの運命を呪い、全てを壊そうと戦って死んだ。だが誰が悪い?誰が悪かったんだ?俺達は誰もが皆、この世界の欠陥の子だ。だから…」

    諦念と少しの無念が混じった声で、やや激しく私達に思いをぶつけてくる。まだまだ元気があるじゃない。これで静かに語り掛けてきたらどうしようかと思ったわ。

    私達は『だから…』の続きを待つが、レイはその言葉の続きを言いそうになった後、慌てて口をつぐみこちらを見つめてくる。彼が話せるのはここまでのようね。

  • 140二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 00:53:51

    アグネス「(クローンに産まれとても辛い目に遭った。おまけに早老症というハンディまでくっ付いてきた、と。その感情の発露ね。『クローン=短命』では無いけどこいつは運が無かったのね)」

    話は大体わかったが、キラ・ヤマトの部分は理解不能だわ。資金ね…。
    多分、キラ・ヤマトの受精卵の遺伝子加工費用のことかな。どんなけつぎ込んだんだ!
    きっと目玉が飛び出るほどの金額と技術なのね。アスハ代表はナチュラルだから親の愛情の形は様々と言うことかしら。

    レイの話を頭の中でかみ砕いているとこれまで聞き役に徹していたメイリンが口を開く。

    メイリン「その『もう一人の俺』というのはラウ・ル・クルーゼ氏のことだよね」
    レイ「ああ…。そうだ」

    メイリンの思わぬ問いとそれをあっさり肯定するレイの声にその場の空気が一気に凍り付く。

    ルナマリア「メイリン!?」
    シン「え…。何の話だ」
    アグネス「う…、はぁ?何かの喩え?」

    メイリン、レイ、何の話?一体…。
    『戦犯ラウ・ル・クルーゼ』、プラントにとって、人類にとって、そして私達、ザラ派にとって許されざる超極悪人。ザフトの汚点。百万回抹殺しても、し足りないあの忌むべき人物の名がなぜここで出る?

    今度こそ理解不能だ。頭がついて来ない。シンとルナマリアも顔を見合わせている。そんな私達の戸惑いをお構いなしにレイは告げてくる。

    レイ「俺は…。俺はラウ・ル・クルーゼだ」

    うーん。呆けたかこいつ。早老症のカミングアウトで症状の進行まで目の当たりにするとは。

    アグネス「あんたはラウ・ル・クルーゼじゃないでしょう。頭大丈夫?」
    レイ「…」

    基本聞き役に徹すると決めていたが、あんまりにもあんまりな発言をするせいでつい突っ込んでしまった。レイは案の定、口をへの字にして私を睨んで来る。

  • 141二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 01:01:16

    ちょっと場の雰囲気が悪くなりかける中、メイリンが慌てて事情を話してくれる。

    メイリン「アグネスさん、クルーゼ氏はデュランダル議長と共にレイの実質的な養父兄なんです。調べたところ、クルーゼ氏が少なくともザフト赤服時代から3人は交流がありました。多分、何処かの『ラボ』からレイを救出してくれたのが2人だったんだと思います?」

    私に説明しつつ、メイリンはレイに視線を投げかける。この子はどうやってそういう情報を抜いてくるのやら。

    レイ「…。当たらずとも遠からずだ…」
    アグネス「驚きだわ」
    レイ「聞かれなかったからな」

    そういう問題じゃないでしょう!こいつ良くアカデミーはいれたわね。まあ、近代刑法は連座制を廃しているから当然と言っちゃ当然だけど。親が大戦犯か…。

    ちょっとむくれた顔をこちらに向けるレイに取り合えずの私の認識を伝える。

    アグネス「なるほど…。つまり、話の流れからするとあんたはクルーゼ氏のクローンで…。後、さっきの話を聞くに、そのクルーゼ氏自身も望まぬ形で生み出された誰かのクローンで。あんたは助けられた恩義と彼への共感から自分を『ラウ・ル・クルーゼ』と言い出したわけね」

    私の言葉に一瞬、レイの言葉が詰まる。うん?私の理解力不足か…。国語能力が衰えたのかな。

    まさかとは思うけど、単に遺伝子的にクローンで同じだから『俺はラウ・ル・クルーゼ』とかチンプンカンプンなこと言っていたわけじゃないわよね。

    アグネス「一応、言っておくけど一卵性双生児でも彼らは別人だからね。育ち方や環境の違いで…。いえ、それどころか育ち方や環境が同じであってさえも全く別の人間に育っていく。これ常識だからね」
    レイ「それは…。分かっている」

    ちょっと戸惑いながらレイは私の言葉に応じる。こいつ生物の単位取り直した方がいいのか?

  • 142二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 01:16:13

    私とレイが少し嚙み合わない会話をしているなか、堪え切れなくなったシンとルナマリアが声を上げる。

    シン「そうだよ!アグネスが正しい。レイはレイだ。お父さん(?)のクルーゼ氏に思うことがあるのは分かるけど…」
    ルナマリア「そうよ。クルーゼ氏は私達と会っていない。私はレイと会って…、友達だと思っている。レイがどう思っているか分からないけど…」
    レイ「それは…。俺も…」

    レイが慄くように、心を打たれたように震える声で二人の言葉に答えようとする。だが、胸が詰まってうまく言葉が出ないようだわ。

    こいつの表情、やばいわね。アイデンティティーがぐらぐら揺れて崩壊寸前になっている。勢いで否定してしまったけれど『俺はラウ・ル・クルーゼだ』をある種のよりどころにして精神の均衡を保っていた面があったみたいだわ。

    そんな均衡、ぶち壊してやれ!大戦犯と轡を並べる気にはならない。第一ね。

    アグネス「レイ。あんた『もう一人の俺は呪い、全てを壊そうと戦った』って言ったわよね。決してこの部分を『俺達』とは言わなかった。自分で自白しているわよ。クルーゼ氏とあんたは完全に別人。あんた自身の認識の中でさえもね。それと、やっぱり生物学の授業やり直した方が良いわ」

    何だか皆でレイを否定して虐めているみたいで格好が悪いわね。こいつの認知の歪みを治すためだけど…。クレタで生き残ったら精神科に連れていくか。パイロットが欠けるのは痛いけど、そもそも持病が発覚したわけだし―。

    私の心中を知ってか知らずか、レイはポツリと呟くように言葉を漏らす。

    レイ「そうだ。確かに。俺は彼じゃない…。一卵性双生児も別人だからな…」

    驚いて顔を覗き込むと、目を潤ませたレイが彼自身の結論を教えてくれる。
    この言葉を言い終わった瞬間、彼の両目から堰を切ったように涙が溢れ出る。その反応を目の当たりにして、私も自分が泣き出したような感覚に襲われ、胸がふさがり一時声が出なくなる。

  • 143二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 01:25:14

    泣き出す彼の背中をシンがポンポンし、レイの嗚咽がますます大きくなる。

    レイ「う…。うう…う…。あ…ああ…」
    こいつが泣くところを最近よく見る気がする。泣いている人をどう慰めればいいんだろう。人を慰めることを久しく行っていなかった。私は人を泣かせる側だったからだろう。最悪ね。

    アグネス「(ミネルバに乗ってから、私は随分と周囲から励まされ、慰められ、気を使って貰って来た。それを当然と思い享受してきたわけではないけど、その分の何かを他人に返し切れているだろうか)」
    分からない。病と出自に苦しむ同期にどう振舞えばよいのかすらも―。

    涙が止まらないレイを心配したルナマリアが背中をポンポンに加わり、メイリンもそれに続く。あれ?これ、私も号泣中のレイをポンポンしなければいけない流れ?
    アグネス「(ポンポンさせてもらう流れね。持病のこと、黙っていたあんたが悪い。でも、苦しかったわね。人としての共感を捨て去ることは罪深い。忘れるところだった)」

    メイリンに場所を譲ってもらい、レイのベッドに腰かける。だんだん嗚咽が収まって来た彼の背中を静かにポンポン撫でる。
    アグネス「(こいつの背中。こんなに小さかったか…。無理が来ていたのは私やルナマリアだけではない。今の養父、張り倒した方が良いわね。病気のせいかもしれないけれど、酷使し過ぎでしょう!)」

    私が撫でた瞬間、レイが驚き顔を上げ、私と顔を突き合わせる形になる。
    アグネス「なに?」
    レイ「いや…。ありがとう」
    アグネス「どういたしまして!」

    隣に座っているシン、シンのベッドに位置を戻したルナマリア、メイリンを嬉しさと恥ずかしさが混じった眼差しで見つめ、レイは喉から声を絞り出す。

    レイ「皆も…。ありがとう」
    シン「ああ」 ルナマリア「ええ」 メイリン「良かったぁ」
    本当に…。良かった、良かった。何か感動オーラが部屋いっぱいに広がり、エンディング曲が流れそうな雰囲気すらする。
    しかし―。

    アグネス「(良かったのは良いとして…。うーん。どうしたものか)」
    特殊な早老症の対処療法なんて私達の領分を完全に超えている。それから、クレタ攻め、こいつ大丈夫か?

    満たされた表情のレイを見るに、しばらくは聞けそうにない。まあ、私もミネラルウォーターの飲みつつこの雰囲気を少し楽しみましょうか。

  • 144二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 08:12:50

    >>143

    今の養父、張り倒した方が良いわね。


    今から一緒に、これから一緒に、殴りに行こうか(MSで)

  • 145二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 10:56:02

    その生命はアンタだ!彼じゃない!今よ!!

  • 146二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 10:57:05

    やっぱ主人公としてシン要らなかったんやな…アグネスがいるだけでこんなに円滑になるなんてなぁ

  • 147二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 12:30:10

    >>146

    本編は少年たちが苦しい思いをしながら懸命に生き抜こうとする話だからあれでいいんだ。お労しいけど…


    とはいえ、本スレアグネスのような政治寄りの視点で考えられる人物がいたら、色々変わってたんだろうな。キャラの年齢的にも難しい事だけどね。

  • 148二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 19:20:48

    >>144

    レイの寿命以外の負担はほぼ全て今の養父から来てるからな

    死地続きだがクレタも生き残ってくれ

  • 149二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 19:44:55

    自分の境遇を打ち明けられる仲間ができたんだからレイは長く生きて欲しいな
    エクステンデッドの研究者がその辺りの技術持ってないもんか

  • 150二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 23:33:21

    ミネラルウォーターをチビチビ飲みながら考えをまとめる。

    あれこれと気を散らせるのは良くない。今、喫緊の課題はクレタでレイが戦えるか。次の課題はレイの健康問題に私達は―違うな―私はどう接するのか、と言ったところ。

    後者については実は少し腹案(?)がある。レイがアスランを呼ぶか聞いたときに『呼ぶ』と言ってくれれば手間が省けたのだけど。

    手早くいこう。
    少し落ち着きを取り戻したレイに思い切って切り出す。

    アグネス「レイ…。聞きにくいけど、クレタで戦える?」
    単刀直入ズバリ聞く。軍人は簡潔明瞭でなければならない。

    シンとルナマリアは私の問いかけにビックっとし、二人してレイの反応を窺う。言い出せなかっただけで同じ懸念を抱いてはいたようだ。そんな私達をメイリンは隣から心配そうに見つめている。

    一方、レイは何時もの鉄面皮に早変わりして、すげなく私に回答をよこす。

    レイ「無論。戦えないようならこちらからそう言う。心配は要らない」
    シン「レイ…」
    ルナマリア「レイ…」

    シンとルナマリアの彼を気遣う声を二方向から聞くことになった。仕方ない。誰かが言わなければいけないことだった。別に憎まれ役を買って出たつもりなんてないけど、二人に言わせなくて済んだのは、良かった。

    どういう訳かそんな気持ちになる。

    レイの視線と私の視線がかち合う。じっと互いに見つめ合った後、視線を少し外す。嘘を言っている風ではない。

    アグネス「分かったわ。信じる」
    レイ「ありがとう」

    『ありがとう』を告げる瞬間、僅かにレイの表情が緩むのが、瞬きの瞬間網膜に焼き付く。これは―。うーん。深入りするしかないか…。

  • 151二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 23:37:58

    アグネス「ところでレイ。試みに聞くけど、あんたの主治医って誰?何時もの薬はどの病院から貰っているの?ザフトの軍病院じゃないわよね。軍医殿は知らなかったし…。というか、パイロットが搭乗前に勝手に飲んだらそもそもダメなんだけど」
    レイ「…。」

    私の質問を聞くやレイは、また、むっとした顔をする。案外子供っぽいわね、こいつ。でも、別に私は間違ったことは言っていない。パイロットなんだから、服用している薬の種類は本来申請してなければいけなかったんだ。

    レイ「薬は議長に処方してもらっている。軍医殿の許可は最初に倒れた後から仮に出してもらっている。問題はない」
    シン「え…。議長?」
    ルナマリア「議長って…。本業は遺伝子科学者よね。医師ではないけど…」

    レイの発言にシンとルナマリアも疑問を呈する。そんなことだろうと思ったけど、まさか本当にそうだとは…。

    レイ「問題はない。確かに議長は狭い意味で医療従事者ではないかも知れない。だが、遺伝学者である以上、十分な見識をお持ちで、現に服薬により俺の日常生活は何とか成り立っている」
    シン「まあ…。それはそうだろうけど」

    ふと、何かを言いかけるメイリンの気配に気が付く。まだ何か知っているの?皆の注意がレイに向く中、視線で問いかけるが、彼女は静かに首を振る。

    今、話せることではない、と言うことか。

    レイ「それで?どうしてそんなことを聞く?」
    何だか、ちょっとムキになったレイの声がする。いや、大事なことでしょう。手続き的なあれこれは無視するとしても。

    それに私はこれまでのことに文句をつけたいのではない。

  • 152二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 23:43:27

    アグネス「レイ。インフォームドコンセント受けて見ない?」
    レイ「え…」

    ちょっと目を丸くして、答えにならない答えをレイは溢す。ふーむ、これは考えたこともなさそうね。

    アグネス「別に議長が…。遺伝子科学者ギルバート・デュランダル博士がまるっきり出鱈目を言っているなんて言っているんじゃない。でも、人間である以上誤診はあり得るし、あんたの病気、結構特殊でしょう。他の医師や科学者の見識も絶対必要なはず。医師には守秘義務もあるし」
    レイ「いや…。待て。確かに理屈ではそうかもしれないが…。つまり…」

    レイを戸惑わせてしまったか。ちょっとパニックになっているようね。それほどまでに、こいつにとって養父は絶対的な存在なのか…。メイリンのさっきの話を思い出す。

    アグネス「(『ロドニアのラボ』の被害者に近い境遇から助け出して、家族になってくれた人だものね、議長とクルーゼは。大事なのは当然か。とは言え、自分の健康寿命の長短に深くかかわる事柄を完全に一人の人間に一任してしまうのはどうかと思う)」

    少し落ち着きを失っているレイに代わってルナマリアが尋ねる。

    ルナマリア「話は分かるけど。誰かしら候補が頭にあってのことよね?」
    アグネス「ええ。レイが承知してくれるなら、タッド・エルスマン元最高評議会議員にお話を持って行こうと思う。そのためにはまず、レイが自分のことをアスランに打ち明ける必要がある」

    レイ「え…。」
    ルナマリア「タッド・エルスマン元最高評議員ね。なるほど…」
    シン「確か、ディアッカ先輩のお父さんで、基礎医学、臨床医学、生化学、分子生物学、応用生体工学の専門家だよな。フェブラリウス市の」

    アグネス「そうそう。話を聞いている内に思ったのよね。知り合い―シンやルナマリアは知り合いの知り合いかな―に超超専門家がいるじゃないって。多分、この分野に関しては現人類最高の人材と言ってもいい。エルスマン博士は遺伝子科学者ではない。従って、議長とは専門が被らない。だからこそ、これまでとは違ったアプローチでレイの早老症に向き合って下さると思うのよね」

  • 153二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 23:48:09

    ちょっと前までむっとして、さっきまではパニックになっていたレイ。今は真剣な目で話を聞いてくれている。だから自分も本気の本気で話を続ける。

    アグネス「エルスマン博士は最高評議会議員は退任なされたけれど、今もプラントの、何より御出身地のフェブラリウス市の有力者であることに違いはない。

    知っての通りフェブラリウス市はプラントの医療の中心よ。この前のエクステンデッド達の治療や対処もここで行っている。

    おまけにエルスマン博士は『表側の人』、少なくとも、診察を受けたことで、あんたが変な実験とかに回される心配もない。それどころか条件さえ合えば最新医療の治験を受けることもできるかも知れない。無論『真っ当な治験・先進医療』ね。『ロドニアのラボ』みたいなやつじゃない。

    博士から、幾つかのより高度で専門的な病院・研究機関を紹介してもらうことも可能なはず。勿論、大変ご多忙な方だけれど、ご子息であるディアッカ先輩を通じて何とか…。と思ってね。ディアッカ先輩で足りないなら私の父からもお願いしてみるわ。父の説得は私がやればいいけれど、先ずはディアッカ先輩に。そのためには…」

    レイ「その同期であり友人であるアスラン…さんを動かせ、と言うことだな」

    理解が早いのやら遅いのやらどっちなの、こいつ?

    アグネス「そう言うこと。ダイダロス基地にジュール隊が丁度、来てくださっているからね。さあ、話が分かったらさっさとアスランに話を持っていくわよ」
    レイ「ま…待て…。早急に。え…。ギル…」
    アグネス「別にインフォームドコンセントは議長への裏切りじゃないでしょう?大丈夫よ。医師には守秘義務があるんだし。エルスマン博士も一角の御仁。問題ないわ」
    シン「良いじゃないか!一回話を聞いてもらいなよ」
    ルナマリア「そうよ。悪い話じゃないわ」

    話の急な展開にレイはくらくらしている。私だってくらくらよ。でも、ディアッカ先輩とミネルバが上手くタイミングがあっているのは今しかない。

  • 154二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 23:55:14

    アスランとディアッカ先輩の説得?

    『後輩のレイが実はクルーゼ元隊長のクローンで、悲しき出自と難病で苦しんでいます。お願いです助けて下さい』と言えば多分、何かしらの行動をしてくれるはず。変な腹芸よりもあの方たちには正面からボールをストレートに投げかける方が多分効くはず。

    流石にエルスマン博士には言葉を選ばなければいけないだろうけれど。その時こそ、ご子息のディアッカ先輩のお力が必要なはず。

    アグネス「(幸いなことに、お二人は真っ当な善人。タッド・エルスマン元最高評議会議員はしっかりとした見識のある人物。アクセスさえできれば最善を尽くしてくださるはず。病気の根治が可能かともかく、健康寿命を延ばすくらいのことはできるんじゃないかしら)」

    だから、レイ。後はあなた次第。どうかこの機会を無駄にはしないで欲しい。

    その一心でレイの目をじっと見つめ続ける。こいつの目、よく見ると面白いわ。『子供の色』と『大人の色』がタイミングごとにコロコロ変わる。今の色は―。

    レイ「分かった。アスラン…さんに話す。ディアッカ先輩にも」
    アグネス「良し行くわよ」

    言うが早いかレイの手首をがっしり掴みベッドから立ち上がる。

    レイ「え…え…。」
    アグネス「だから行くの!今すぐ。時間がないって言っているでしょう」

    目を白黒させるレイの後ろでシンとルナマリア、メイリンも立ち上がる。ふむ。人数が多い方が説得が楽かもね。アポイントメント、当然とっていないから。

    アグネス「(まあ、これまで散々無理を聞いてきたんだから、たまにはいいでしょう)」

    これとは別件で、どの道アスランを説得してイザーク先輩達とは接触するつもりだったのだから。一回で用事が済んでちょうどいいわ。

  • 155二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 08:22:20

    グゥレイトォ!!

  • 156二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 12:21:59

    クルーゼ隊の三人レイの顔をガン見しそう
    クルーゼ隊長のクローンてことは隊長こんな顔してたのか〜って
    三人とも仮面つけてるとこしか見たことないよきっと

  • 157二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 12:27:18

    ディアッカの父親の本職とかまたマニアックな設定を…
    すっかり頭から抜け落ちてたよ

  • 158二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 16:47:59

    セカンドオピニオンのことかな

  • 159二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 17:25:59

    ナチュラルのクローンだから事情を知る議長頼りに成らざるを得なかった所もあるよな
    特に種時代は反ナチュラルの思想が強かったし

  • 160二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 22:17:20

    しれっとアスランからイザーク介してエザリアにラクス暗殺未遂の件で動いて貰う魂胆なのが特大の地雷踏みそうで怖い

  • 161二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:05:45

    レイの部屋から、私とレイ、シン、メイリン、ルナマリアの同期5人組で転げ出て、そのままアスランの部屋に押し掛ける。勢い込んでインターホンを押し、レイの健康問題について至急話がしたいと入室の許可を得る。

    一応、アスランは面会に応じてはくれたけど、いきなり5人で押しかけて来たことに眉を顰めていたわ。

    とは言え、そんな彼を何とか宥め、レイに先程の話をより詳細に説明させる。

    身の上話から、健康問題-特殊な早老症-についてまで。すると、さっきまでの仏頂面はどこへやら、ちゃんと此方が驚くほどアスランは真摯に耳を傾けてくれる。

    アグネス「(まさか、さっきレイの話に出ていた『資金』の使い道が、ヒビキ博士の『人工子宮』研究製作費で、キラ・ヤマトが『スーパーコーディネイター』とはね)」

    この天地の狭間には私が思ってもみなかったことが幾つもあるのね。ここは月の裏側だから天の上だけど。変にレイが言葉を濁していたせいで分からなかった疑問が、今回の説明で解消されたわ。

    それと思い出したわ!
    さっき、セカンドオピニオンというべきところをインフォームドコンセントと言っていた!レイは生物学落として落第だけど、危うく私も赤服脱落するところだわ!卒業後で良かった。意図していたことが周囲に伝わっていたからセーフ!

    それにしても問題なのはアスランだ。レイの話を聞くうちに仏頂面が真顔になり、困惑したかと思えば頭を抱えている。要は何時ものアスランね。訂正、やっぱり問題ないわ。

    皆で立ちっぱなしになっていたら、ベッドに座れと言われたけど、流石に遠慮しておいた。ソファーがない部屋なので仕方ない。おかげでシンとルナマリア、メイリンと一緒に部屋で立ちっぱなしだ。まあ、リクリエーションルームで出来る話でもない。

    さて―。
    話が一段落した辺りで、レイと対面に座るアスランに歩み寄る。
    アグネス「アスラン先輩…。その、厄介ごとを持ちこんで申し訳ありません」
    アスラン「厄介ごとなんかじゃない!!知らなかった、俺は…。キラの人工子宮の資金のためにレイまで。ヒビキ博士、そんなことを!!」
    レイ「…。」

    今度は突然怒り出した!私に言われても困るわ。この人、クールなのは外見だけで、その実、テンションの振れ幅が大きいから、つき合いに困るのよね。本当に異性としては無いわ。

  • 162二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:13:40

    そもそも驚いているのは私達4人も一緒だ。というか、これ私達が知って良いことだったのか?コロニー・メンデル、聞いてしまったものは仕方ないけれど。

    アスラン「あ…。いや。アグネス…、すまない。君に怒っているわけでは…。このことを隠さず相談してくれてありがとう」

    己の失態を悟ると急に謝り出した…。私は気にしない、というか慣れたから良いけど、そのうちパワハラで告発されても知らないからね。ただ、今回はこちらが頼む方、危ない橋を渡ってもらう以上、誠意は示さなければならない。

    アグネス「いいえ。勇気を持って打ち明けてくれたのはレイです。その言葉は彼に。そして、無理を承知ではありますが、何とかディアッカ先輩を通してエルスマン博士にと。
    アスラン先輩から、ディアッカ先輩にご連絡は可能でしょうか。公私混同と咎められるかもしれませんが、この一件だけはどうか…」
    アスラン「ああ。そうだな。いや。謝らなくて良い。ディアッカだな。と言うか、先ず上官のイザークか。何とかしよう」
    アグネス「ありがとうございます」

    一気にアスランに畳みかけ『何とかしよう』いただきました。
    良し、良いわね。今回は本当にありがたいわ。10000000アグネスポイント!

    レイ「え…。え…」
    話がトントン拍子に進み過ぎてレイはさっきから狐につままれたような顔をしている。自分のことなんだから、そんな妙ちきりんな顔をされても困る。

    対照的にシンとルナマリア、メイリンは表情を明るくさせながら、早速、アスランにお礼を言ってきている。
    シン「おぉ…。ありがとうございます。レイのことよろしくお願いします。」
    ルナマリア「やったわね、レイ。ありがとうございます」
    メイリン「本当にありがとうございます」

  • 163二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:13:57

    さらっと駄目だしされてるアスランで駄目だった

  • 164二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:18:49

    アスラン「いや。そんなふうに言われることじゃない。レイ、すまなかった。俺が気づける瞬間が、何処かにあったかも知れない。配慮が足りなかったのだと思う。本当にすまない」

    アスランの言葉を聞いたレイの相貌がグシャっと崩れ、また涙が溢れ出す。この涙は―。
    アグネス「(罪悪感の涙か…。泣いてどうにかなるものではないけれど。うん。きっとそう思えたこと自体に意味があるわね)」

    レイ「ごめんなさい…」
    アスラン「いや。いいんだ。皆が気にするようなことじゃない。直ぐに連絡する。一旦レクリエーションルームで待っていてくれ」
    アグネス「分かりました。ルナマリア、レイのこと一旦見てもらって良い?」
    ルナマリア「分かったわ」

    アスランの部屋から、シンとルナマリア、メイリンが退出していく。メイリンに目配せすると、彼女が私の出る前に『うっかり』扉を閉めてしまう。

    アスラン「うん?」

    何とか自然にアスランの一人部屋に残れたわね。手早く済ませましょう。
    アグネス「レイのこと、改めてありがとうございます。その上で、めったにない機会ですので…。イザーク先輩に伝えることは全てお伝えするべきかと。叶うならジュール隊長からミセス・ジュールにも」
    アスラン「伝えるべきこと…。ああ。しかし、どこから…」

    私の意図にアスランも気づくが…。その意味するところの大きさに少したじろいでいるように見える。しかし、この期に及んでそれは無いと思う。

    アグネス「全部です。ユニウスセブン落下テロの黒幕疑惑、ミーア・キャンベルの正体、ラクス・クライン暗殺未遂、アークエンジェル・アスハ代表の行動の真意、ロゴスなる組織、ダイダロス基地攻防戦でのエターナルの助力、ロード・ジブリールなる人物、そしてレクイエム再建の恐れ」

    これで全部だろうか、抜けは無いか…。今が最後の機会かも知れない。今ならデュランダル議長はイザーク先輩を己の手駒だと思っていることだろう。恩を着せた立場なのだから。今なら、彼は一瞬ノーガードになっているはず。

  • 165二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:25:35

    イザーク先輩を通してなら、エザリアおば様にも、エルスマン前最高評議会議員にもこれらのことを伝えることができる。エルスマン博士にはレイをお願いするから出来れば巻き込みたくないと私も思うけど。
    検閲の恐れがあってなかなか直接連絡が難しいパパやライトナ―最高評議会議員にも上手くいけばメッセージを送れるかもしれない。

    アスラン「いや…。しかし。レイのことはともかく、イザーク達を巻き込むのは…」
    アグネス「失礼を承知で申しますが、既に巻き込まれています。デュランダル議長がイザーク先輩に恩赦を出した時点で。議長の手駒の一つと思われていることでしょう。アスラン先輩ご自身も。更に根本的に言えば、プラントにおいて私達は身分的に生まれた瞬間から巻き込まれている、思い違いでしょうか?」

    己の身を守れるのは基本、己だけだ。惰性で利用され使い捨てられ墜ちていくなんて私は御免だわ。

    まして、これらの諸問題は自分一身の問題じゃない。ミーアやミネルバ、ザフト、プラントの運命まで掛かっている。躊躇する段階はとうに越えている。知らんぷりする方が道義に反しているんだ。

    そして、現実に今、時間がない。レイも私達の動きが遅ければ察知するだろう。あいつは大事な戦友で潜在的な政敵という厄介な人物だ。

    アスラン「それは…。そうだが、彼らは…」

    いい加減にして!どこまで時勢が読めないんだ、この人は。

    アグネス「それを含めて、状況をお伝えするべきです。知らせずにおく方が友情に反するのでは在りませんか?」

    じっと、じ~っとアスランの悩める瞳を見つめる。スピード感を持って動いて欲しい。と言うか『感』じゃなくて本当にスピードが求められている。直ぐに部屋を出なければいけない。

    私が焦れて居ることの意味にハッと気が付いたアスランが返事をする。

    アスラン「分かった行こう。ついて来てくれ、イザーク達の所に。まず、俺は彼らに連絡を」
    アグネス「分かりました。では、皆とレクリエーションルームでお待ちします」
    アスラン「ああ。すまない」
    アグネス「いえ。失礼します」

  • 166二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:39:04

    そう言って二人で敬礼を交わすと足早にレクリエーションルームへ、とその前に化粧室へ。取り合えず顔を洗いたい。いろいろあり過ぎた。それに―。

    精神が持たない。倒れ込みそうになる。知りたくもないことを次々と知らされて…。いや、知識・情報は力だ。知るべきことだったんだ。それは良い。

    アスランを好きに利用するようなことをした。利用しよう利用しようと思っていただろうに…。

    アグネス「(自分が一気に薄汚れてしまったみたい。何度も戦場で助けられてきたのに)」

    自己嫌悪で一杯になる。どうかしている。これまでだって私は平気で他人を利用してきた。これからもそうやって生きていく。私が特別ずる賢いわけではない。権門に生まれた者は望む望まざるに関わらず、そうしなければ生き抜けない。

    まして、厳密に言えば彼自身、アスランやイザーク先輩、ディアッカ先輩が使い捨てされない為でもあるはずなのに…。

    気持ち悪さと迷いを消し去ろうと必死に洗面台で顔を洗う。どうしたんだ、私は。落ち着け、感情のふり幅が大きくなり過ぎだ。

    ふと、鏡に映る自分の顔が目に入る。疲労と驚愕、気疲れ。これは酷いわ。もうギブアップしたい。でも、程度の差こそあれ、ルナマリアやメイリンも同じような顔しながら頑張っているから…。二人は気疲れは少なそうだけど。

    仕方ないかな。もうちょっと…。頑張ろう!良し、頑張れ。倒れるならクレタを乗り切った後だ!

    化粧室に寄ったのは正解だったかもしれない。

    アグネス「(『化粧室へ行っていたから遅れました』って顔をして戻れば、流石に突っ込まないと思うからね)」

  • 167二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 08:10:37

    アグネスのメンタルも限界だよなぁそりゃ

  • 168二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 10:38:14

    昔のアグネスならキラの出生を知ったら食いつきそうだけど今のアグネスなら問題ないな

  • 169二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 10:58:33

    >>168

    なんなら今のアグネスならラクスが隠居してキラのメンタルケアしてたこととにも理解を示せそう

  • 170二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 17:58:54

    信用できる相手とはいえキラの承諾なしにキラの個人情報教えていいの?
    いや、レイは既に知ってるわけだけども出生の秘密教えてよかったのか

  • 171二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 23:51:46

    よろよろになりながら何とかレクリエーションルームに辿り着く。

    何だか久しぶりにこの部屋に来るような気がする。今は皆忙しい。目につく人影はシンとレイ、ルナマリアとメイリンの4人だけだ。

    向き合ってソファーに座り、3人でレイを慰め、励ましている。心配して損したわ。『患者』に寄り添ってくれる友人・知人、不足はないじゃない。ここにいないヴィーノやヨウラン達も―どこからどこまで打ち明けるかはともかく―闘病の力になってくれるはず。

    レイは何だか自分を、さも特別な『世界の歪みの犠牲者』のように表現している。

    それはそれで間違いはない。特殊な出生、そして彼の幼少時代がどれ程過酷なものであったか、私達には想像もつかない。

    でも、そう言った過去をパージして、『現在のレイ・ザ・バレル』本人だけを見るなら―。彼は一人の難病の少年に過ぎない。大勢の友人と知人に恵まれ、また、それにたる立派なふるまいをして来た一人の青年-。

    もし、レイが自分と言う存在を、それ以上に大袈裟に捉えるなら、それはただ自分を苦しめる結果しか生まないように思う。

    アグネス「(この世界には薬害や公害の被害者もいる。救済されるべきだわ。小児癌や小児白血病、それこそ早老症に苦しむ人もいる。耐えがたい不幸だと思う。その中の一人なんだ、レイ、あんたは)」

    だから、お前も我慢しろ、と言うんじゃない。『世界にはもっと不幸な人がいるのだから、めそめそするな』という言説は唾棄するべき。

    ただ、もしレイが自分が特別、人類で最も重い『業』を背負っている、という錯覚で人生を棒に振ろうとしているとしたら―。それは余りにも愚かで馬鹿らしいこと。

    そのことにどうか思い至って欲しい。

  • 172二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 23:56:26

    アグネス「ごめん。ちょっと遅れちゃって…」
    ルナマリア「アグネス!その顔…。どうしたの?」

    4人に歩み寄るとルナマリアが血相を変えて私に何か言ってくる。他の3人も心配そうな目線をよこすが、私に心当たりはない。

    ああ、そうか。さっきので化粧が中途半端な状態になっちゃったか…。
    アグネス「(みっともない。最悪…)」
    アグネス「ああ。顔洗ってきたの。まあ、あとで…」

    そのまま崩れるようにメイリンの横に腰を下ろす。そろそろ座りたいと思っていたけど、不躾ね、我ながら。隣のメイリンも驚いているわ。

    気が抜けたのか…。レイのことが一段落-はしてないにしろ―目途がついて。アスランにも伝えるべきことを伝えられて。
    ただ、まだ私のやらなければいけないことは山ほどある。山ほどあるのに…。

    腰を下ろした途端、糸が切れたように体の均衡を保てなくなり、そのままメイリンに凭れ掛り、倒れ込んでしまう。

    なに?昨日はちゃんと休んだはず…。みっともない!

    『私疲れてます』アピールか!察してちゃんか!!ふざけるな!
    そんな屑になってたまるものか。私は強い人間なんだ。上に行くべく産まれ、育った人間なんだ。

    アグネス「(座るからいけないんだわ。立って待とう。気持ちが緩んでいるんだわ)」

    メイリンに凭れ掛かっている上半身を引き起こそうとすると、心配したメイリンが引き留めてくれる。耳元で何か言ってくれるが、良く分からない。
    『少し休んで』とか言われたのかな。

    アグネス「ごめんメイリン。ちょっとバランスを崩しただけだから。今立つわ」
    メイリン「 」

    何かメイリンの心配そうな声がまだ聞こえた気がした。でも、今はそう言うのは良い。

  • 173二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 00:00:12

    ここからクレタ攻めまでタイムスケジュールはほぼ埋まっている。カオスだって、まだ訓練は十分とは言えない。本体の整備が終わるまでにシミュレーション訓練を仕上げておかないと。グフから乗り換え命じられて、訓練を始めたばかりなんだから…。

    そう。立って待てばいいんだ。小人閑居して不善を成す。ちゃんと立ち上がって、アスランが面会の調整を付けている間の時間も…。手持ちのデバイスを使った業務ならできる。

    私を引き留めるように抱き留めてくれるメイリンを遠慮しつつも、引きはがし、ソファーに横になりたがっている体を無理やり縦にする。

    そのまま両足に力を込め一気に腰を浮かす。何だ。簡単じゃないか。ちょっと疲れが出ただけだわ。

    アグネス「うん?」

    天井の光がやけに大きく見えたと思った瞬間、体が大きく一回転するような感覚に襲われる。

    ルナマリアの寝癖が視界の端に映ったかと思うと、彼女は小柄な身体に似合わぬ力で私を抱きかかえ、近くのソファーに半座位の姿勢を取らせる。何が起こったのか、良く分からないまま私はされるがままになる。
    ルナマリアはソファーのクッションに軽く私の頭を乗せて、メイリンが手早く靴を脱がせると両足をソファーの上にのせてくれる。

    私は…。私を心配そうにちょっと涙目で見つめるルナマリアの顔をやや呆然と見つめる。

    アグネス「(はて?ルナマリアに柔術の技でもかけられたのかな)」

    気が付いたら、私はソファーに横になっている。メイリンは口元に飲み物を持ってきて飲む様に進めてくれる。視界の端で、シンは血相を変えて走っていく。

    ルナマリア「あんた!すごい顔色よ。真っ青じゃない!シンが毛布貰いに行ったから。医務室に行くわよ」

    アグネス「医務室?レイの体調がヤバいの?」
    レイ「体調が危ういのはお前だ!何で早く言わない!!」

    レイの怒声が聞こえる。こいつ何様なんだ、いったい!

  • 174二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 00:06:45

    さっきだってそうだ!

    レイめ…。自分の成育歴をアスランに話す際、突然『コロニー・メンデル』だの『ヒビキ博士』だの『人工子宮』だの…。

    アグネス「(終いには『キラ・ヤマトはスーパーコーディネイター』だの…。一度目の打ち明け話の時、もったいぶらず全部言っておきなさいよ)」

    変に濁すから!自分達の部屋で全部言ってくれたら考えを整理してから行けたのに。

    もうミステリアスキャラごっこは今日で終わりにしろ、このアホ!おかげで気苦労二倍だわ。

    私の顔をいつになく真剣そうに、そして心配そうに覗き込むレイに抗議の視線を送る。レイの思った以上に強い視線につい押し返される。

    らちが明かないのでルナマリアに尋ねる。

    アグネス「私、こけたの?」
    ルナマリア「倒れたの!」

    ルナマリアまで強い口調で返答を食らわせてくる。そう怒らないでよ。メイリンが差し出してくれた栄養ドリンクを口に少し含み、ちょっと視界が定まらないなか話し続ける。

    アグネス「ただの貧血よ。ああ。嫌だなこう言うの。か弱い女の子アピールみたいで腹立つ!」
    ルナマリア「いい加減にしなさい!あんた疲れてるの!急な機体変更もあったし…。気が回らなくてごめん。シンが医務班呼んで来るから…」
    アグネス「え…」

    何を言っているんだ!私は協議にいかないと行かないのに。

  • 175二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 00:10:56

    アグネス「大変なのは…。あんたもでしょう!皆大変なの。分かる!私は私でやらなきゃいけないこともあるから」
    メイリン「ちゃんと、アスランさんが来たら一報を入れます。それまで」

    眼が回ったように周囲の状況を把握できない。ただ、移動式ベッドがキュルキュルと近寄ってくる気配と、ぬっと現れたシンが私に毛布を掛けてくれる感覚だけは把握できる。

    年貢の納め時か…。アスランの部屋に行ってレイの話が一段落するまでは気を張って居られたんだけどな。こんなんでクレタは…。

    細い少年のような腕が私を抱き上げると移動式ベッドにそっと乗せてくれる。

    レイ「すまなかった。本当に…。ありがとう。ごめんな…さい」
    アグネス「?」

    ベッドの移動が始まると共に私の意識は急速に暗闇に落ちていく。このタイミングでこれはやばいと、必死に消えゆく意識にへばり付こうとするが…。

    アグネス「(ああ…。アスランが来たら、メイリンが知らせてくれるんだっけ)」

    そう思った瞬間、私の意識は途切れてしまった。

  • 176二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 04:25:45

    レイの延命フラグが立ってよかったがアグネスの精神力が限界だぁ…
    他のミネルバクルーも全員大概だけどとりあえず強制的に寝かせて休ませるくらいしてやらんと不味いだろこれ

  • 177二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 05:45:59

    やることが…多いっ
    状態だったからまあ…
    アグネスがこれなら、休むまもなく指揮し続けてるグラディス艦長とかもっとヤバいんじゃ

  • 178二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 10:20:38

    安らかに眠れアグネス

  • 179二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 10:57:38

    アグネスに限らず全員がかなり疲労残ってるだろうから可能なら万全の体調になるまで次の作戦を延期した方が良さそうなんだけどなぁ。
    このまま決行すると味方の被害が余計に出る可能性がある。

  • 180二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 15:25:42

    本編からしてかなりの過密スケジュールだったのにレクイエム関連イベントが前倒しされたらこうもなろう!!
    シンプル強者のアスランと謎に頑丈なシンが特殊過ぎるんだ!

  • 181二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 16:02:15

    レイからしたらアカデミー時代から仲の良い方ではなかった(むしろ悪い)アグネスがそれ以外にも色々あるとはいえ倒れるまで自分を気にかけてくれたなんてとんでもない驚きだったんだろうな

    アグネスは化粧で顔色を偽ってたみたいだけど直近の戦いの過酷さを考えるとかなり前からこうしてそう

  • 182二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:18:34

    むしろ今まで良く倒れなかったなお前ってなるよアグネス…
    アグネスに限らずミネルバクルーが過労死寸前だぞ…

  • 183二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 23:35:07

    >>181

    あぁ>>172のルナたちにすごい目で見られたのってそういうことか…

    お労しや…

  • 184二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 00:24:07

    乗機変遷がザク×2→ディン→バビ→グフ
    だっけ
    この短期間で宇宙と地上を行ったり来たりしつつようやっとるわ…(ザクロストして以降目立った被弾ないし)

  • 185二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 01:05:56

    チクリとした痛みで目を覚ます。

    瞼を空けると看護兵が左腕から点滴の針を抜いているところだった。絆創膏を貼る彼女の手慣れた手つきを見ながら、ふと、この世界は昔の人が思っていたより随分アナログなのだと感じる。

    西暦時代の『近未来もの』では注射針など廃れていることも多いのにC.E.では相変わらず、点滴は腕に針を刺さなければならない。『昔』と比べれば負担は軽くなっているけれど。

    スタートレックシリーズに出てくる『プシュッ』ですむ、針を使わない注射。ああいうの開発して欲しいわ。それと副作用の無い無痛分娩…。

    看護兵「アグネスさん。目が覚めました?」
    アグネス「はい…」

    一応返事が出来たが、正直上の空だわ。取り留めのない考えが頭をグルグル駆け回る。何とはなしにレイから聞いた話が頭に浮かぶ。

    アグネス「(『スーパーコーディネイター』『人の夢、人の未来、その素晴らしき結果、キラ・ヤマト』ね。正直…。口には決して出さないけど、ちょっと気持ち悪いな…)」

    看護兵「お見舞いにメイリンさんが来きますよ。お会いになりますか?」
    アグネス「ええ…」

    看護兵の問いかけに呆然と答える。
    今、何聞かれたんだろう?

    レイが物語るメンデルの話、ヒビキ博士の所業が脳を駆け回り始めている。聞いた時はそれどころじゃなかったから、衝撃が後から来た形ね。

    ちょっとついていけないわ。

    私は二世代目コーディネイター。ママがお腹を痛めて産んでくれた。その事実に対して暖かな拘りのようなものが胸に宿っている。勿論パパにも。

  • 186二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 01:12:25

    アグネス「(『人工子宮』に対する恐れのような感情が私の中に微かに、確実に存在する。人工的な、全く人工的な存在への恐怖。なるほど、これが、ナチュラルが私達コーディネイターに対して抱く恐れや悍ましい感情の正体なのか…)」

    ここに更に才能やら富の分配やら要素が加わるから、たまらないわね。なるほど、逆向きから考えることで見えることもあるのか…。

    私は今のところ、これまでの価値観を急に改めようとは思わない。私は人類の進歩と進化、発展を信じているし、私達コーディネイターと祖国プラントが、その先導を務める使命を帯びているのだと疑わない。

    ただ―。
    アグネス「(先のことは何も分からないけど。今後、もしキラ・ヤマト氏と関わることがあっても差別や偏見を持たずに接したいわね。アスランの幼馴染でアスハ代表のごきょうだいだし)」

    天井の明かりをぼうっと見上げながら、取り留めのない考えをめぐらした後、また瞼が重いシャッターのように下りてくる。手足は弛緩して力が上手く入らない。

    ああ。そうか。人工子宮が有れば子供に先天的な障害や難病の発症を予防できるのね。不妊症の最終兵器にもなる。沢山の夫婦に光明が差すはず。

    さらに、もしかしたら、もしかしてだけどコーディネイターの出生率低下問題に一石を投じられるかもしれない。

    アグネス「(人工子宮も悪いばかりではない。どんな技術も結局人が用いるもの。そして、科学技術には再現性がある。そのうち第二の人工子宮が必ず発明される。その時の付き合い方を鑑みる上でも、過ちを繰り返さない為にも、『負の遺産として』この事件はいずれ公表されるべきなんだと思う。プライバシーに最大の配慮を必要とするだろうけれど)」

    レイは…。キラ・ヤマトはどう考えているんだろう。うーん。う~~…ん。

  • 187二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 01:17:40

    眠りの深い闇に墜ちていく瞬間、私の傍にメイリンが駆けつけてくれたのが見える。何かを語り掛けているが…。なに?

    眼が開けないの、口で言って!耳はまだ塞がってないから…。

    メイリン「ディアッカ先輩、エルスマン博士に早速連絡してくださって、博士も快諾してくださいました!レイは今、接収したダイダロス基地の軍病院に」
    アグネス「そう…。良かった。なんでダイダロス基地?」

    瞼を渾身の力で開きながら、心配そうなメイリンに続きを促す。どうやらまだ落ちるわけにはいかないみたいね。

    メイリン「フェブラリウス市の博士の下にレイの健康データを送るためです。任務が一段落しないとレイ本人は受診できないので。博士が来院までに予備診断・診察できるようにして欲しいとおっしゃって。緘口令を敷かれたジュール隊、ヴォルテールとルソーの医療班が看てくれています。ジュール隊長の権限と伝手で検閲を突破し、エルスマン博士に直接届けると」

    そう…。良い意味の急展開ね。ああ、でも一つ心配が!

    アグネス「ディアッカ先輩とエルスマン博士の通話、傍受されてない!?」
    メイリン「大丈夫です。博士も元最高評議会議員、そこはしっかりなされています。私も父子の会話の安全確保に協力しました。バッチリです」

    メイリンのちょっと得意げな顔が目に映る。そう、メイリンがバッチリなら大丈夫ね。良かった…。

    メイリン「アスラン先輩が少し休むようにと…」
    アグネス「うん」

    点滴に入っていた薬が体を一巡したせいか、懸念が一つ解決したせいか、一瞬力が抜けた拍子に今度は完全に瞼が閉じ、意識が霧散する。霞ゆく意識…、何となく思う。

    アグネス「(スーパーコーディネイター、悪くはない。パパとママの子供として、合法的にプラントに産まれられるなら是非になりたかったかもね。今の両親と祖国の下へなら。そうじゃなければ嫌ね)」

    人の夢の結果が仮にキラ・ヤマトだとしても、それは元々私の夢じゃない。レイも同じだろう。結局そう言うことなのだ。

  • 188二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 01:56:13

    >>186

    まあ、どんな技術も結局は使う人間によるからね。昔から「良いも悪いもリモコン次第」と言うし。

  • 189二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 07:59:56

    確かに母体を経ずに生まれるってことは一層人工物感が出て拒否感も生まれるわな

  • 190二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 08:01:29

    戦争の悲惨さも手を加えられて生まれた存在への忌避感も当事者にならないと実感湧かないよね
    色々経験してそれでも冷静に物事を俯瞰して自分を見失わないアグネスは凄い
    絶滅戦争への引き金が軽めなCEだからなおさら

  • 191二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 08:24:07

    下手をしたら当の親からも気味が悪いと思われたり、自分たちの血を分けた子だって意識が軽くなったりする可能性もあるんよな>人工子宮

    なんせ1年近く自分or伴侶のお腹にいるってプロセスがなくなるわけで、親になるって実感がなくなりそう


    なんせ自分の腹から産んでも「目の色が違うわ!」ってなる世界だから…

  • 192二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 17:51:28

    今更だけどこのアグネスが抜けるとミネルバ隊に大打撃だよなぁ
    MS戦の技量は言うに及ばずMS隊のパイロット間の調整役に上官への意見具申役も担ってるわけで

  • 193二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 19:16:03

    パチッと目を開く。たちまち天井の光が飛び込んできて目が眩む。でもそれが生きているってことだわ。生の実感、悪くないわね。

    アビー「ああ。気が付きましたか?良かった」

    側の椅子、さっきメイリンが声をかけてくれた位置に見慣れぬ緑服のクルーが座っている。帽子に這わせるような特徴的な前髪の止め方をしているけど、誰だろう?

    いや、この声、聞き覚えがある。モビルスーツ発進時に。この人は…。

    アグネス「不躾だけど、アビー・ウィンザーさん?」
    アビー「はい。良かった!初めまして…とはちょっと違いますね。でも、ちゃんと顔を合わせられてよかったです。改めましてアビー・ウィンザーです。アビーで結構です」
    アグネス「そう。こちらこそ。初めまして、アグネス・ギーベンラートよ。アグネスの方で良いわ」
    アビー「はい。アグネスさん。ところで体調は…。どうですか」

    心配そうな視線。ふむ。偶には自分が心配されるのも悪くはないわね。

    グーっと両手、両足に力を入れる。良し、もう弛緩していない。寧ろ結構元気になって来たわね。まあ、そうじゃなければ医務室で休んでいた意味がないのだけれど。

    もう一度、アビーの方に視線を向ける。ミネルバに赴任してきたという副オペレーター。一度はちゃんと挨拶したいと思っていたんだけど、メイリンのサブだからなかなかタイミングが合わなかったのよね。

    アグネス「大分ましになったわ。メイリンは?交代?」
    アビー「良かった。メイリンさんはクレタの『仕込み』をしています」
    アグネス「ほう。なるほど」

    『良かった』の言葉と共に心からの笑顔を浮かべる彼女。良い人そうね。『仕込み』と言うことは、メイリンはクレタの戦況次第ではサイバー攻撃を担当するのかな。

  • 194二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 19:22:32

    アグネス「じゃあ、ますます私達も頑張らないとね。アビーの力を借りる機会も増えるかもだけど、よろしくね。一緒にクレタを乗り切りましょう」
    アビー「はい。こちらこそ」

    ちょこっと頭を下げる彼女。私も上半身を起こして軽く頭を下げる。ふーむ。やはりその髪型謎だわ。でも、一緒に気持ちよく仕事が出来そうね。

    それは良い。良いとして…。

    アグネス「アビー、あの後…。つまり私が倒れてから、どれぐらいたった?」

    恐る恐るアビーに尋ねる。頼む、2時間以内であって、お願い!

    アビー「ちょうど3時間30分です。バレルさんはまだ軍病院に。検診中です。ルナマリアさんとアスカさんは訓練に戻りました。アスランさんはジュール隊長達と士官室で2度目の会談中です。ダイダロス基地で1回目の話し合いがあったそうですが。今度はミネルバで、グラディス司令長官と副長も交えて。アグネスさんが目覚めて、体調が耐えうるなら出席するよう命じられていますが…。」
    アグネス「ありがとう。行くわ」

    思ったより大掛かりな話し合いに成っちゃってるみたいね。

    アグネス「(でも、よく考えたら、アスランに『全部話すべき』と言った内容、グラディス司令長官、副長もその大半をご存知だわ。特にラクス・クライン暗殺未遂の件はセンシティブな問題。歩調を合わせる必要があるものね)」

    アスラン、ナイス!多分、ディアッカ先輩辺りの提案だろうと思うけれど、そこまで持って行けて偉い。1000000アグネスポイント。

    アビーが医務室から士官室に連絡を入れてくれる間に素早く着替える。何時の間にやら、制服が脱がされて寝間着にされていたわ。

    しかし―。今更ながら不安になって来たわ。イザーク先輩が同性愛者であることはもう別に構わない。ただ、恐い性格だから、ちゃんと会話が成り立つかどうか…。

  • 195二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 19:27:12

    アビー「お伝えしました。無理せずゆっくり向かうように、待っている、とのことです」
    アグネス「了解!」

    制服の皺をしっかり伸ばす。皺なんてないけどね。ちゃんとアイロンがけしてるから。気分の問題よ。

    軍医殿と看護兵にお礼を言い、アビーと一緒に部屋を出る。

    アグネス「じゃあ私は士官室に。アビー、看てくれてありがとう」
    アビー「いえ。メイリンさんから、ちょっと代わっただけですから。でも、ちゃんとご挨拶が出来て良かった。クレタ攻めよろしくお願いします」
    アグネス「こちらこそ。団結して乗り越えましょう!」
    アビー「はい」

    通路で別れ、士官室までえっちらおっちら向かう。しかし、グラディス司令長官まで巻き込むことは想定していなかった。精々、イザーク先輩とディアッカ先輩辺りで話をとどめておくつもりだったのだけれど。

    アグネス「(私の『つもり』通りに世界が回ってくれるはずはない。どうも私は想定外に弱い気がする。気を付けなくては)」

    士官室のインターホンを鳴らして入室の許可を貰い、扉を開ける。
    開けた瞬間に重たい空気が外まで噴き出してきたわ。

    部屋の中にはグラディス司令長官、副長、アスラン、イザーク先輩、ディアッカ先輩の計5名。揃って難しい顔をしている。当然か。

    アグネス「失礼します。アグネス・ギーベンラート。出頭いたしました」
    敬礼を交わすとアスランの隣の席を勧められたので、そこにちょこっと黙礼して着席する。

    さて、それで、どうなっている?会談はどう進んでいるの?

    アグネス「(そして―。呼ばれたはいいけど。私自身はどうしたものか)」

  • 196二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 20:27:03

    イザークはそんな趣味無いってアグネス!

  • 197二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 21:56:20

    タリア「アグネス。良く来たわね。体の方は?少しは休憩できたかしら」
    アグネス「はい。大切なお話に途中入りするような形となり申し訳ありません。今、どのようなお話を?」

    私に気づかわし気な、労りの視線を注いでくれる司令長官にお礼を言いつつ、お隣の副長に自然な流れでバトンタッチを試みる。

    アーサー「ジュール隊長とアスランとの会談についてなら、司令長官・本官の感知するところではない。どんなことを3人で話し、対応したのかは本人に聞いてくれ。

    その上で―。『偶然にも』ジュール隊長がジャガンナート艦隊へのダイダロス基地引継ぎについて協議にいらしたので。またとない機会だから互いの情報・認識を共有しようと、この場が設けられた。

    ユニウスセブン落下テロの疑惑、ミーア・キャンベル嬢のこと、ラクス・クライン暗殺未遂、アークエンジェル・アスハ代表について、ロゴス、エターナルの助力、ロード・ジブリール氏、レクイエム反応炉悪用防止の必要性等。

    率直な情報交換をしていたところだ」

    ふむふむなるほど。では、大体のお話はすんでいるのね。

    アグネス「ありがとうございます。では一通りは」
    イザーク「ああ。一通りすべてお聞かせいただいたところだ。久しぶりだな。アグネス」

    情報の共有は完了している、そう答えて下さるのはかなり怖い顔になっているジュール隊長-イザーク先輩。まあ、激戦を生き延びて月まで来れば不意打ち気味に核爆弾を浴びせられたようなもの。こんな顔にもなるか。

    アグネス「お久しぶりです。ジュール隊長、ディアッカ先輩。ディアッカ先輩、レイのことありがとうございます」

    ともあれ挨拶とお礼を済ませる。またさり気なくアスランにも目配せし、黙礼する。お待たせして申し訳ありません、と。

    ディアッカ「久しぶりだな、アグネス。レイのこと、良く知らせてくれた。出来る限りの、いやできる限り以上のことをしたいと父が言ってくれた。お礼はそっちに。しかし、驚いたな。レクイエム攻防戦にエターナルも加わっていたとは」
    アグネス「と言いますと?確か全世界に中継されていたと伺っていますが…」

  • 198二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 21:59:46
  • 199二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 22:09:37

    中継してんのにエターナル映してないとかホンマ…

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  • 200二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 22:24:39

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