- 1二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:05:23
最近になって────担当ウマ娘について、ある秘密に、気づいてしまった。
「我が君よ、お飲み物をお持ちしました、一息入れるのはどうでしょうか?」
トレーナー室での事務作業中、ことりと小さく音を立ててマグカップが置かれる。
顔を上げると、一人のウマ娘が、背筋をピンと伸ばしてそこに立っていた。
白メッシュの入った金髪のポニーテール、宝石のような碧の瞳、右耳には赤い髪飾り。
我が忠実なる騎士────ということになっている担当ウマ娘のデュランダルは凛とした表情を浮かべている。
「ああ、ありがとうデュランダル……うん、そうさせてもらおうかな」
俺は一旦、作業の手を止めて、白い湯気を立てるマグカップを取る。
カップを満たしているのは、赤みかかった茶色の液体。
鼻腔をカカオと牛乳の匂いがくすぐり、それがミルクココアであることは、すぐにわかった。
紅茶じゃないのは珍しいな、そう思いながら、俺はカップを口元へと運ぶ。
「………………じぃー」
デュランダルからの力強い視線を感じながらも、俺はココアを頂く。
口いっぱいに広がるカカオの風味、奥深いコクに、ミルキーな優しい甘さ。
程良い温もりも相まって、俺は思わず、ほうっとため息を漏らしてしまう。
肩の力が抜けて、目元や口元が和らいで────自分の顔が強張っていたことに気づく。
そして、そんな俺の様子を見て、デュランダルは安心したような微笑みを浮かべた。 - 2二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:05:37
そう言ってデュランダルは、胸に手を当てて、誇らしげな表情を浮かべる。
やがて────少しばかり、そわそわとした様子で、ちらちらとこちらの様子を窺い始めた。
あることに気づいた俺は、こほんと咳払いを一つして、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「俺以上に俺のことを理解しているなんて……キミは本当に凄い! 当代随一の、素晴らしい騎士だよ!」
「……っ! あっ、ありがたきお言葉……っ! …………ふふっ、ふふふっ♪」
デュランダルはぴくりと耳を反応させると、感極まったように、目を大きく見開かせる。
そして、尻尾をブンブンと振り回しながら、目元と口元を嬉しそうに緩ませていた。
……最近、俺は、あることに気づいた。
気高き騎士であり、唯一無二の切れ味を誇る“聖剣”である、デュランダルがひた隠しにする一面。
もしかしたら、俺以外誰も気づいていないかもしれない、彼女の秘中の秘。
彼女は実のところ────すごい、褒められたがりなのでは、ないだろうか? - 3二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:05:53
「あっちゃあ……土砂降りだ」
空を見上げると、重たい雲からバケツをひっくり返したような雨が降り注いでいた。
ちょっと前までは晴れ間も見えていて、雨なんて降りそうになかったのに。
天気予報でも、今日は一日晴れが続く、という話だったので、傘は持ってきていなかった。
ごろごろと雷の音まで響いて来て、しばらく止みそうな気配はない。
まあ、後は帰るだけだし、トレーナー寮まで走っていこうか、そう覚悟を決めた時であった。
「────我が王よ、こちらをお使いください」
聞き慣れた声と共に、視界に入り込む黄色い折り畳み傘。
見れば、いつの間にか傍にいたデュランダルが、恭しくそれを差し出していた。
あまりに突然の出来事に、俺はぽかんとしてしまう。
すると、彼女はハッとしたような表情になり、慌てて言葉を続けた。
「こちらは我が隠し剣、パラプリュイ・ド・オリタタンです」
「いや、名前は聞いてないんだけど……でも助かったよ、俺が傘持ってないこと知ってたの?」
「いえ、ただ降り注ぐ雨矢をみて、トレーナー殿の危機ではと思い、馳せ参じました」
くすりと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、デュランダルはそう言った。
何ともくすぐったい気分になりながら、俺はその傘を受け取ろうとして、気づく。 - 4二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:06:18
────彼女の耳が物欲しそうにぴょこぴょこと、忙しなく動き回っていることに。
……やっぱり、と仮説を確信へと変えながら、俺は傘を取りながら言葉を紡ぐ。
「備えあれば憂いなし、とは言うけど幾億万の貯蔵より、キミ一人が頼もしいな」
「……!」
「危機を感じ取って、颯爽と登場するなんてまさに騎士の鏡……格好良かったよ、デュランダル」
「なっ、なんと過分な……っ! でっ、でも、有難く頂戴させていただきますね…………えへへ」
デュランダルは一瞬だけキリっとした表情を見せるが、すぐに、にへらと破顔してしまう。
耳は心地よさそうに左右へと倒れて、尻尾は夢心地と言わんばかりにゆらゆら揺れ動いている。
やっぱり、褒められたがりなのかな、そう思いながら傘を開こうとして、ふと気づいた。
「……そういえば、キミの分の傘は大丈夫なの?」
「心配には及びません、我が秘剣は一つにあらず、ちゃんと────」
突然、自らの鞄に手を入れていたデュランダルの言葉と動きが、ぴたりと止まる。
やがて、僅かばかり目を泳がせながら、彼女は恥ずかしそうに、小さく言葉を紡いだ。
「…………我が君よ、僭越ながら、この後も、貴方を警護させていただけないでしょうか?」
「ははっ、もちろん、頼りにしているよ」
どうやら、折り畳み傘は一本しかなかったようである。
しっかり者のデュランダルには珍しいなあ、と思いながら、受け取った傘を開く。
とても頑丈そう作られている、きれいな傘だけれど、サイズはそこまで大きくない。
そのためか、彼女は俺へと寄り添うように、傘の中へと入って来た。
「さあ、それでは参りましょうか…………ふふっ♪」
ふわりと、甘い香りと共に、大きく揺れ動く彼女の尻尾が、背中を撫でた。 - 5二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:06:43
「ご覧いただけましたかトレーナー殿! “聖剣”の切れ味を! 王へと捧げる勝利をっ!」
この日は、複数の名立たるウマ娘を集めて、模擬レースを行っていた。
デュランダルはいつも通りの、後方からのごぼう抜きで、全ての相手を一刀両断。
惚れ惚れするほどの走りを見せつけてから、彼女は俺の下へと駆け寄ってくる。
耳も尻尾もぱたぱたと動き回り、瞳は期待に満ち溢れてようであった。
……かく言う俺も、凄まじい一刃に興奮を抑えられず、今にも称賛の声を上げてしまいたいほど。
ただ、ふと、魔が差した。
────もしも褒めてあげなかったら、彼女はどんな顔をするのだろう、と。
気が付けば、デュランダルは目の前に立ち、歓喜の時を今か今かと待ちわびている。
俺は、溢れんばかりの想いを抑え込んで、努めて冷静に、言葉を紡いだ。
「ああ、ちゃんと見ていたよ、デュランダル」
「……っ!」
ぴくんと耳が立ち上がり、目がきらきらと光り輝く。
あまりの純粋さに、思わず顔を伏せながら、彼女へと伝えた。 - 6二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:07:03
「────それじゃあ、後でレースの振り返りをするから」
「えっ」
「もう着替えて来て良いよ、30分後に、トレーナー室で」
「……えっ?」
デュランダルは、何が起こっているのかわからない、という困惑の表情を浮かべる。
それはまるで飼い主に捨てられた子犬のようであり、とても、胸が痛い。
やがて、彼女は待ち詫びた瞬間は、やってこないのだと気づいてしまう。
表情が消える、というのはまさしくこのことなのだろう。
気づきを得た瞬間、彼女の瞳は色を失い、顔からはあらゆる感情が抜け落ちる。
本物の絶望に遭遇した時、人は怒りや悲しみを覚える前に、何も考えられなくなってしまうのだ。
数分後、彼女はようやく状況を理解して、がっくりと肩を落として、歩き出した。 - 7二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:07:35
「…………はい、わかりました」
その声に、ハリはなかった。
いつもならば騎士らしく伸びている背中は、落胆したように曲がっている。
先ほどまで元気そうだった耳と尻尾は、力無くだらんと垂れさがっていた。
足取りも、普段の高潔さを一切感じさせない、とぼとぼとしたものに。
時折、ぴたりと立ち止まって、ちらりとこちらを見てから、彼女は再び歩き出していく。
そんな寂し気な彼女の背中を見送りながら────俺は張り裂けそうなほどの、後悔の念に襲われていた。
俺は、なんてことをしてしまったんだ……っ!
それは、ただの好奇心だった。
あんなに傷つくだなんて、思いもしなかった。
彼女のトレーナーとして、騎士の忠誠を受ける王として、聖剣の担い手として、最低の行為だった。
取り返しのつかない大失敗かもしれない、決して許されることではないかもしれない。
だけど、それでも。
気が付けば、俺は、彼女の名前を叫んでいた。
「デュランダルッ!」
ぴくりと彼女の耳が反応し、足を止めて、ゆっくりと振り向いてくれる。
そこには、泣きそうな表情と、僅かな希望に縋るような、弱々しい光を宿す瞳。
自らの愚かな行いの結果を、改めて叩きつけられて、一瞬、言葉に詰まってしまった。
しかし、すぐに姿勢を正し、現実へと向きあう。
深く傷ついた彼女には、普段と同じような褒め言葉を並べるだけでは、全く持って届かないだろう。
王に仕える騎士が心より望むような、短く、簡潔で、ストレートな言葉を伝えなければいけない。
俺は、デュランダルと出会い、過ごして来た日々を思い起こしながら、脳をフル回転させる。
そして、静かに、厳かに、されど彼女へとはっきりと聞こえるように、言葉を紡いだ。 - 8二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:07:55
「────此度の働き、実に大儀であった」
「……ッ!!」 - 9二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:08:10
デュランダルの耳がピンと立ち上がり、その目が大きく見開かれる。
まるで言葉を染み渡らせるように、彼女は身体をぷるぷると震わせながら、その場に膝をつく。
勿論、屈したわけではない、彼女の顔には、自信と、覇気と、誇りが、戻っていたのだから。
「恐悦、至極…………っ!」
美しさすら感じさせる、最敬礼。
そこに、先ほどの哀れな子犬の姿はなかった。
そこにあるのは、誰よりも格好良くて、誇り高い、最高の、騎士の姿。
そして────その光景を、呆れたように見守る、模擬レースの参加者達の姿であった。 - 10二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:09:08
お わ り
こいつら人生楽しそうだな・・・ - 11二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:10:23
常にロールプレイしとる…
- 12二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:10:37
そういうプレイなん?
- 13二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:10:40
昨日の今日で!?お疲れ様です
ぜえっっったい分かりやすいですよね褒められたデュラ - 14二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 01:10:58
犬
おおよそ賢めの犬 - 15二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 02:52:47
練習試合でめっちゃモチベ高い奴らみたいになってんな…
- 16124/09/23(月) 06:51:41
- 17二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 07:57:43
かわよい
- 18二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 08:41:09
かわいすぎて蕩けちゃう
今日もごちそうさまに大感謝 - 19124/09/23(月) 19:57:42