ジェンティルと3時間ハグしたら出られる部屋

【3時間ハグしろ】
素っ気なく書かれた文字を見て、トレーナーは途方に暮れる。
ドアノブは強情だ。どんなに捻られても口を開けない。
「変な部屋に入ってしまった...」
一緒に入ってしまったジェンティルドンナに申し訳ない。
【カンファレンス室】と書かれたボードは何だったんだと眉を顰める。
大きめのソファ。大きめのベッド。
これはアカン。
そして３時間。ハグ。なんて強烈な単語だ。
これはアカン。

こんな部屋に閉じ込めて訳の分からん要求をするとは。
下手人が誰か知らんが、便所に隠れていようと必ず見つけてねじねじしてやる。
その前に、まずは部屋を出なければ。
彼女の文字通りの【力】を頼ろう。
「ジェンティル。悪いんだけど開けられないかな？」
貴婦人にこんなお願い、本来ならしたくない。しかし事態が事態。
ガチャガチャうるさいだけのドアノブを見限り、トレーナーは振り返って愛バに声をかける。

61二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:13:34

「...ジェンティル？」
両手を広げていらっしゃる。
言葉での応えは無い。代わりに微笑を浮かべ、小首を傾げるジェンティル。
今更言うまでも無いが可愛い。
俺の愛バが！！と叫ぶのを堪えるトレーナー。
「ジェンティル？」
...お待ちになっていらっしゃる。
どうやら愛バは平和的解決を御所望。
力ある者が暴力ではなく、ルールに則って事を運ぶ。
なんて平和的だろう。
欺瞞。
【君なら簡単だろう？】と挑発する事も出来る。
しかし、それは貴婦人のトレーナーに相応しい行いでは無い。
彼女の意には出来る限り沿いたい。
欺瞞。
愛しい貴婦人を抱き締める建前がぶら下がっている。
そんな状況に心が小躍りしている。
これはアカン。
そう思いながらも、トレーナーは意を決した。
「ジェンティル...」
広げられた両手ごと包む様に、両手を広げて貴婦人に抱擁を捧げた。

62二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:15:02

【色】などという下世話な物、入り込む余地が無い。
鼓動が聞こえてくる様な距離は、それ程の至福。
彼女にこんな心配は無礼と承知している。
しかし、壊してしまうのではないかと案じてしまう。
力の体現者でありながら、なんと優しく迎えてくれるのか。
立ち昇る芳香の、なんと愛おしい事か。
背を撫でてくれる御手。力を注ぎ込んでくれる暖かさが、なんと心地良い事か。
腕に力が入る自分を諌め、彼女の暖かさを愛でる幸せに浸る。
短い３時間になりそうだ。

ジェンティルもまた、至福の時であった。
抱き締め確かめる鍛錬の成果。
自分の期待に応え、逞しくなった彼が愛おしい。
彼女の耳には届く互いの鼓動。
早鐘の様だった音が少しずつ、ゆっくり、力強くなる。
彼も私と同じく感じているようだ。
この優しい至福を。
ゆっくりとソファに腰を降ろすトレーナー。
その動きに導かれ、彼女も腰を下ろす。
上手なエスコートに頬が緩む。
酷く短い３時間になりそうだ。

>>69

63二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:16:23

「やっぱここか？」
「確かに怪しいけど...」
ゴールドシップとヴィルシーナは、顔を見合わせて悩んでいた。
併走を申し込もうと、ジェンティルドンナを探していた。
携帯電話が通じない中、当て無く探してフラフラ。
そんな時に見つけた部屋。
【３時間ハグしないと出れない部屋】
と書かれたボードが掛かっている。
ご丁寧にデフォルメ貴婦人シールまで貼られている。
清々しい程に怪しいが、トレセン学園なら仕方ないと思う2人であった。
「アイツならぶっ壊して出てんだろうしなぁ。」
ガチャリ。
ヤキモキしていたら、ちょうど扉の開く音。
「良かった開いたよジェンティル！」
弾んだ声と一緒に、ジェンティルのトレーナーが出て来た。
「あれ？ヴィルシーナ？ゴールドシップ？どうしたの？」
二人の事情を知らないトレーナーは、きょとんとした顔で尋ねる。

64二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:18:07

「...開いたって事はそういう事？」
ヴィルシーナは頬を赤らめ呟いた。
常々お似合いの2人と思っているし、異常な部屋のせいと分かっている。
しかし、逢瀬を覗いた様な気恥ずかしさが抑えられない。
ハグなんて羨まけしからん事を３時間も。３時間。３時間も。
やはり貴婦人はあらゆる意味で強者、謎に感心するヴィルシーナ。
折を見て自分のトレーナーとやってみようと決心。

拳を握り締めるヴィルシーナを不思議がるも、ジェンティルをエスコートしなければと思い至る。
「ジェンティル。どうぞ。」
貴婦人をお通しする為に、扉を大きく開けて促すトレーナー。
しかし、貴婦人の御様子がおかしい。
何故か扉口から遠ざける様に、トレーナーを優しく引き寄せる。
優美な微笑を浮かべながら、何故か扉に手を掛ける。
何故か、扉を閉め始める。
「...ジェンティル？」
困惑するトレーナーが問い掛けるも、微笑を向けて無言のままだ。
扉は閉まり続けている。

65二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:20:14

「ジェンティル？！！？」
いよいよ腕しか通らない開き具合。
トレーナーは自らの腕を差し込み、扉が閉まりきらないよう死守する。
「ジェンティル？！閉めたらまた３時間なんだけど？！」
入口を挟んで対面していたヴィルシップコンビ。彼女達にはもう閉まりかけた扉と、隙間から出ているトレーナーの腕しか見えない。
扉と枠に挟まれているが、痛みは生じていないようだ。
トレーナーも抗ってはいるだろう。それでも優しい気配りが出来る程の力の差。
「ジェンティル？！！」
隙間からはみ出ながら藻掻いていた腕。
その腕を這い回りながら、細い腕が姿を現した。
男の腕を伝って辿り着いた掌を、指で愛おしげに撫でている。
「ジェンティル？！？？」
撫でるだけでは満足出来ないのか。
細い掌が、男の掌を捕まえた。
ゆっくりと、ゆっくりと。
隙間に飲まれてゆく2本の腕。
「ジェンティル？！？！！？」
悲鳴を残しながら、絡み合う腕達は隙間に消えた。

66二次元好きの匿名さん24/09/24(火) 23:22:10

パタン。
３時間後まで御機嫌よう。
閉まりゆく命運を、神妙な顔で看取ったヴィルシップコンビ。
彼女達は見た。
扉を閉じ始める直前。
舌舐りする貴婦人を。
大蛇の丸呑みを見るとこういう気分なのかも知れない。
「...マックちゃんと茶でもシバくか！シャルウィ〜ご一緒〜？」
「...お邪魔にならないかしら。」
「なーに言ってんだよ。マックちゃん喜ぶに決まってんだろ？」
何もなかった部屋から踵を返し、何もなかったので歩み出す。何も無い事にした。
...なにも！！！な゛かった...！！！

【残り時間】
【2時間５８分】
【2時間５７分】
【2時間５９分】
【2時間５９分】
【2時間５９分】
【2時間５９分】