【SS・クロス注意】旅人と競売人

  • 1◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:34:37

    ドリームジャーニーは思案する。あの日出会ったアネゴの言う旅の果てを見つけるためにクラシックレースを志し、出場したレースでは連戦連勝を重ね続けた。しかし、勝利を重ね続けるからこそドリームジャーニーには果てが何処か分からなかった。

    時にはトレセン学園の個性豊かなライバル、友人たちとコミュニケーションを取っては新しい可能性を見つけ、時にはSNSを通して自分とは何の接点も無いような人物の価値観を発見し、時には遠征で海外へと赴き文化や歴史に触れることで世界の広さを認識した。

    見た目こそ小柄で優等生という触れ込みから彼女をよく知らない者は侮った態度を取るが、彼女の優等生という仮面の下にはとても学生とは思えない程の内面が潜んでおり、まるで旅の計画を立てるように深謀遠慮によって彼女の愛する周囲の人物に危害を与えようとするコバエを駆除していた。

    そして彼女の聡明な頭脳は今までの経験を総動員して思案を重ね続けていた。

    (たかが2分の1……最も単純な選択に正解すれば良く、イカサマは無く必ずどちらかは正解である。それに運要素は一切無いから相手の思惑を読めば良いはずなんですが…)

    きっかけは何だったか、ドリームジャーニーに性懲りもなく突っかかってきた1人のウマ娘が始まりだった。彼女は表面上は友好的な態度で接触してきたが優れた観察眼を持つジャーニーにとっては自身を害する目的で近付いてきたのは明白だった。普段ならば早いうちに駆除するような相手だったがどうやら狙いは自身であると分かったジャーニーは、彼女がどのようなプランを持っているのかに興味があり、あえてそのウマ娘の企みに乗ってみる事にした。

    「"セレクトバゲージ"ゲームセット。ドリームジャーニー様。1950万円獲得で勝利です」

    側に立った銀行員が何の感情も込めずに言い放つ。ジャーニーの前に座った彼女は死刑宣告をされた囚人のように真っ青な顔になるとゲーム台を思い切り強打しようとして別の銀行員に取り押さえられ、気絶させられた。

    彼女がジャーニーを連れてきたのは国内第3位の市銀であるカラス銀行。手の込んだ詐欺でも行うのかと思ったジャーニーだったが連れてこられたのは予想外の場所であり、カラス銀行の地下にある賭博場だった。

  • 2◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:36:03

    海外に遠征に行った際に賭博場を見る機会はあったが、まさか銀行の地下にそれがあるとは想わなかった。

    近くにいた銀行員にいくつか質問を重ねここがどういった場所であるか把握したジャーニーはここの常連らしいウマ娘がオススメするゲームに参加する事にした。

    結論から言えば先程の銀行員の宣言通りジャーニーは圧勝して1950万の勝利となった。一度のデモプレイで"セレクトバゲージ"というカラス銀行オリジナルゲームのルールと相手が行うであろうイカサマを看破したジャーニーは二度目の大きく賭け金を上げられた本番プレイで相手の手を全て読みきって勝利した。

    そしてレースと同様に全力で勝負を行う場である賭場にジャーニーは魅入られた。立ち会った銀行員曰く、今ジャーニーが居る賭場は最低ランク"5スロット"であり、上のランクに行く程魑魅魍魎としか形容できないような怪物がひしめいているとの事だった。

    「そうですか。それはとても興味深い、私をここに連れてきたウマ娘はここの最低ランクという事ですね」

    それを聞いたジャーニーは真意の読めない笑みを浮かべて銀行員に礼を言った。そしてその日のうちにジャーニーは5スロットにいる別のギャンブラーと数回勝負を行い、賭場に来た当日に"4リンク"へと昇格した。

    4リンクに居たギャンブラーは確かに5スロットのギャンブラーとは一味違っていた。ジャーニーを侮らずに全力の警戒を向ける者、ゲームのペナルティで負傷しても最後までゲームを続行した者、無傷で勝利するのを諦め手傷を負わざるを得なかった者。そこに居たのはギャンブラーと呼ぶに相応しい相手だったが、そこでもジャーニーは勝ち続け更に上のランクである"1/2ライフ"へと昇格した。

  • 3◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:37:16

    4リンク昇格時に説明を受けたギャンブラーのランク。最低ランクの5スロットは通常のカジノにあるような敗北しても失う物は金銭のみである。次の4リンクからは賭け金の上限が1億円まで跳ね上がり、ゲーム中にペナルティとして何らかの身体的なダメージを受ける可能性があるランク。このランクからは銀行がマッチアップを組んで原則ギャンブラー同士が1対1で運要素無しの読み合いを行う。

    そして、ジャーニーが到達した1/2ライフからは賭け金上限は無く銀行員が1人担当として付く。また、ギャンブルもカラス銀行の賭場に出資しているVIP達の見せ物としての側面が生じ、所属するギャンブラーの強さも4リンクとは大きな隔たりが存在する。ゲームのペナルティもさらに重くなり、場合によってはゲーム中に死亡する事もある。まさに怪物同士の殺し合いを見世物にしているのが1/2ライフだった。

    「私の旅の果てか……アネゴはいったい何を見つけて旅の果てに至ったのでしょうか」

    1/2ライフに昇格したジャーニーは思案する。これまで数々の経験を積み重ねてきた彼女の頭脳をもってしても未だに見つけられない果てを探す旅。彼女は多くの人間を見て、多くの場所を訪れた。それらの旅の数々から得た経験がジャーニー自身の糧となり、より深い洞察力を身につける結果となっている。

    元々の頭脳と観察眼に加え、4リンクまでのギャンブルの経験がジャーニーを1/2ライフの魑魅魍魎と遜色の無いギャンブラーへと成長させていた。

    自身の信条である旅の果てを模索するその姿勢は誰にも依存せず、自身のみで探し出すという狂気じみた信念を持っているが故にジャーニーは今まで挫折した事が無い。

    何度も死線を潜り抜けたジャーニーはあらゆるレースでも絶対的な自信を持って挑む事が出来た。

    しかし、どんな旅にもいずれ終わりがやって来る。ある日彼女の銀行員の方の担当がある話をジャーニーに持ってきた。

  • 4◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:39:24

    「唐突なんだけど、今度宇佐美班のギャンブラーとタッグマッチする事になったから当日時間になったら迎えに行くわ」

    「唐突なのは何時もの事ですが、タッグマッチと言うのは?」

    「さあ?班長から今賭場の熱が高まってるから、それを利用してタッグマッチでVIPに大量に金を賭けさせるんだって」

    いつもの様に必要最低限の箇所以外は日本語すら怪しい担当の行員にジャーニーは内心でため息を吐く。

    「そうですか、それでタッグマッチと言う事なら当然私と組む相方が居るはずですが、その人の詳細は?」

    ジャーニーの問いかけに担当行員が答える。

    「ああ、貴女もよく知っているオルフェーヴルよ」

    行員の口から出たのはジャーニーが大事にしている妹の名だった。

    「オルが……そうですか」

    「意外?」

    ジャーニーの反応に担当行員が問いかける。

    「はい、確かに意外ではありますが……オルも私も1/2ライフで勝ち続けています。そして、お互いに絶対の信頼を置いている以上私達の負けは無いでしょう」

    一切表情を変えずに必勝を語るジャーニー。彼女の妹であるオルフェーヴルもこのカラス銀行の賭場に参加しているのは既に知っていたし、彼女の意志を尊重してギャンブラーとしての強さを磨くための手段を手ほどきしたのは自分である。

    いくら1/2ライフに居るギャンブラーが怪物揃いでも、自分が最も信頼する妹とのタッグマッチであれば負ける気はしなかった。

  • 5◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:40:36

    「ふーん。まあ乗り気ならそれでいっか。じゃあ当日はよろしくね〜」

    「ええ、思わぬ休暇を得た気分ですよ」

    そうしてジャーニーは自身に待ち受ける運命を知らぬままにオルフェーヴルと共に特例である1/2ライフでのタッグマッチ"ライフ・イズ・オークショニア"に参加することになった。

    序盤は見に回り、相手の事を見切ってから、対応する手を打つジャーニーは途中までは完全にゲームを支配していた。

    しかし、その日ジャーニーの前に対戦相手として座っていた2人はそのまま大人しく敗北するような相手ではなかった。

    対戦相手の内ガタイの良い金髪の男、獅子神敬一の方はジャーニーにとっては問題なかった。彼は1/2ライフの平均を大きく下回るレベルであり、事実ジャーニーもオルフェーヴルも途中までは彼の手を完璧に読み切っていた。彼女たちにとって問題であったのはもう1人の対戦相手である。病的な雰囲気を滲ませる医者、村雨礼二はまさに死神と呼んでも過言では無い怪物だった。

    ゲームのペナルティにより獅子神を死の寸前まで追い詰めたジャーニーはゲームの勝利条件でも対戦相手の死亡でも勝利することが出来た筈であった。

    しかし、現実は理想と異なり勝利を決定付ける第4セットに入った途端村雨から辛うじて読み取れていた感情が一切読み取れなくなった。加えて、獅子神は第4セット第1ラウンドで理想の勝ち方を出来た筈の村雨を抑えて最大リスクの札で勝利し、自分から死の手前までペナルティを受けるという奇行を行った。

    訳のわからぬまま第2ラウンドへ突入したジャーニーだが問題は無い筈だった。

    1から4の札を1枚ずつ出すこのゲームにおいて自分達は最弱の1を第1ラウンドで使い切り、相手は2と4の札を消費した。後は残った札でこのセット中に2度勝利を収めるのみで良く、対戦相手の片方は既に瀕死、更に第2ラウンドで最後に札を出すジャーニーは村雨の札が読めずとも獅子神の札を読んでそれに対応すれば良い。

  • 6◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:41:50

    「ふざけやがって、バカにしてんのかテメェ?」

    そんな好条件は臆病者の王であった獅子神が王冠を捨てた事で覆った。これまでで最も長い手番を終えた獅子神が札を出した時には死の恐怖など無いかのようにオルフェーヴルとドリームジャーニーに最大限の警戒を向けていた。

    (何故あの男は自らが死の淵に立たされているのに未だに自分だけ無傷でいる相方を信じられるのでしょうか。私に読まれることを恐れて目を逸らすはずでは無かったのですか)

    相手2人の手が読めず第2ラウンドの札を出す手番がやってきたジャーニーはそれでも冷静に思考を重ねていた。

    (とはいえこの状況では既に手遅れです。獅子神が何かに目覚めようが彼は後1回でも札の出し合いを制してしまえば死ぬ。これは変わらない現実です。つまりこのラウンドは必ず村雨が獅子神より高い札を出す……2の札を持っていない以上村雨は必ず3か4を、獅子神は1か2を出す。であればオルが4を出している以上私は3を出す。後は第3ラウンドでも同じように私とオルで3と4を出せば村雨が何を出しても私達の勝利は揺るがない)

    目の前に座る大切な家族である妹を安心させるように微笑むと、ジャーニーは札を切った。

    4人の札が出揃い結果が開示される。

    ドリームジャーニーにとっての悪夢がそこにあった。

    村雨:3
    オルフェーヴル:4
    獅子神:3
    ドリームジャーニー:3

  • 7◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:43:26

    進行役の銀行員が重苦しい雰囲気を醸し出すプレイヤーの事など意に介さないように、このギャンブルを見ているVIP達によく聞こえるように結果を宣言する。

    「長考の末この第2ラウンドを制したのはオルフェーヴル様!入札額「4」で見事勝利を収めました!」

    目の前の結果が理解できないとばかりに出揃った札を見つめるジャーニー。進行役がペナルティの執行宣言を行うまで正面に座るオルフェーヴルの事が目に入らないほどその混乱は大きかった。

    (どういうことでしょうか、もう1セットも私達に取らせるわけには行かないはずなのに何故同じ札を出す?2人で1を出すならまだ理解はできますが3を重複させるメリットなんて無い。獅子神が3を出すことは考えていないわけではなかった、ただ3を重複させるのはあり得ないと……その場合でも村雨が4を出してこのセットを取りに来ると判断したからこそ私は3を出して獅子神と村雨のどちらかを……)

    「それでは早速支払いに移りましょう!オルフェーヴル様総支払い額「13」で落札です!」

    「ぐあぁぁぁぁっ!」

    オルフェーヴルに落札代代わりの電流が流される。その衝撃が凄まじいのか、彼女は苦痛に顔を歪める。

    「はあっ、ぐぅっ…」

    「本当ならオレはお前らの強さに感謝を返さなくちゃいけねぇ。だけど今のオレは死にかけで自分の命を守らなけりゃいけねぇんだ。だからもうお前らの手を見逃さない」

    獅子神が苦痛に顔を歪ませるオルフェーヴルに声をかけたが、ジャーニーの感情は獅子神への怒りよりオルフェーヴルへの心配を優先した。

    「大丈夫かオル!安心してくれ、私が必ずオルを勝たせて帰らせる。獅子神、どんな啖呵を切ったところで1番死に近いのはあなたですよ。2度と妹にそんな口を叩かない、いや…叩けないようにしてあげますね」

    「急に陳腐な脅し文句になりやがったな。だが、何で今更そんな脅し文句を吐いたのかよく分かるぜ」

    オルフェーヴルを安心させて獅子神に脅しをかけるが逆に心境を読まれたかのような反応を返される。

    言葉に詰まり獅子神を睨みつけるもジャーニーの現状は変わらない。このタッグマッチでの勝敗以上にオルフェーヴルを死なせるわけには行かないジャーニーは、オルフェーヴルが死にリーチをかけてしまった以上一刻も早くこのゲームに勝って終わらせたかった。

  • 8◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:44:27

    「さあ!それでは2人のプレイヤーの命がかかった第3ラウンド。オルフェーブル様から札を選択してください」

    しかし、聡明なジャーニーは既に続く第3ラウンドは既にどうしようも無いことを悟っていた。

    (全員の残り札は獅子神が[1,2]村雨が[1,4]オルが[2,3]私が[2,4]……最悪としか言いようがありませんね。このゲームは総支払額が16に到達すれば死、そしてオルの総支払額は先ほど4で勝たされたせいで「13」つまりオルは残りのゲーム中3以上で決して勝ってはいけない。私が4でオルを守ろうとしても村雨が4を持っている以上4を重ねられて無効にされてしまう。私が村雨に読み勝たないとオルが…………)

    オルフェーヴルが単独で3を持っている以上必ずこのセットは誰かがもう1勝する。

    そして、獅子神は残り札の都合上残りの2ラウンドで勝つことは決してなく、第4セットでジャーニーに残された選択肢はオルフェーヴルを命の危険に晒して勝ちに行くか、このセットを放棄して次のセットで勝利するかの2択だった。

    (どれだけ考えたところで、勝てるか分からない村雨との読み合いにオルの命は賭けられない…)

    結論を出したジャーニーはオルフェーヴルとアイコンタクトを取り、お互いに2の札を出す事を決める。

    (余が臆することなく勝利を重ね、姉上と共に勝利を掴む。それが覇道であった…しかし、現実はどうだ!?今この場において死の影は余の背にしかいないではないか!それさえなければ余が3、姉上が4を出して勝てたはずであった!)

    眼前まで迫っていた勝利を取り逃がしたと感じているオルフェーヴルは己の不甲斐なさに激昂しながらも、対面に座るジャーニーのアイコンタクトに気付かないほど愚かではなかった。もし彼女が尊大なプライドによって冷静さを失うようなウマ娘であれば、1/2ライフの舞台に立つことは不可能であっただろう。勝利のため、彼女は姉の指示通りに2の札を出す。

  • 9◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:46:51

    「予想外の事が起きたって顔だな。オレと同じ場所に来ちまったのがそんなに不満か?」

    オルフェーヴルの2を見透かしたように獅子神が2人の変化を語りながら札を出す。それは第1セットで自身がした挑発が己の身に帰ってきたようだった。

    「黙れ。既に勝利する権利を失った下郎が、貴様は黙って札を出していれば良い」

    「獅子神様選択完了です。それではドリームジャーニー様、札を選択してください」

    相変わらず獅子神の札は読めなかったが、オルフェーヴルが2の札を出した以上彼女の出す札は決まっていた。

    「ドリームジャーニー様選択完了です。最後に村雨様、札を選択してください」

    彼女達が互いに2の札を出している事を読んでいるであろう村雨が札を出す。自身を勝たせることが敵にとって最良の結果になるようにゲームを支配し、この局面で全員の手を最も読みやすい4番目に自身が位置している。何処までが彼の策なのかは不明だが、村雨が札を出す。

    「あなた達は私が自身を勝たせるように誘導した事には気づいているが、この第3ラウンドで勝利が決まっている人間がそれに向けて何を行うかを理解していない」

    「全プレイヤー選択完了!!それでは皆さん札をオープンしてください!第3ラウンドの勝者は!?」

    オルフェーヴル:2
    獅子神:2
    ドリームジャーニー:2

    「一つ忠告しておこう。素直な患者は実に素晴らしいが、敵としては話にならない」
    村雨:"1"

    「「1」!!なんと村雨礼二2人のプレイヤーの命がかかったこの場面で理論上の最小値1で勝利を掴みました!!早速支払いに移りましょう……」

    司会の銀行員が観戦しているVIP達を盛り上げるために喜色満面といった様子で村雨礼二の勝利を宣言する。

    公開された全員の札を見たジャーニーは全身の血が突如として消失したかのような錯覚に襲われた。銀行員の宣言も、総支払額「1」の強さの電流で咳き込む村雨も、それを見て軽口を叩く獅子神も、今の彼女は認識していなかった。

  • 10◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:47:49

    放心した様子で彼女は同じように半ば放心状態に陥ったオルフェーヴルと目を合わせた。そして、2人同時に先程の村雨礼二の言葉の意味に気付く。勝利が決まっているのなら当然リスクの最も少ない勝ち方、この場で言うならば最も数字の低い1の札を出すに決まっている。仮に村雨がペナルティを抑えるためだけに1の札を残していると気付いたところで、第3ラウンドでは村雨が手番最後である以上やはりジャーニー達は2の札を重複させて村雨を勝たせるしかない。

    (………これはなんだ?あの男、どこまで読み切っていればこんな真似ができる。私とオルはどこで間違えて……)

    自身が立てた旅程が音を立てて崩れていくような気がした。ジャーニーは敵の出方を確認してから勝利を目指すギャンブラーだった。どこかの観測者や神のように自己の強さを誇示して勝利を目指すのではなく、ただ冷静に相手の勝利への旅程を分析する。

    それは彼女が今のトレーナーの担当になろうとした時や妹に近づくコバエを追い払う時と同じような工程だった。彼女はカラス銀行に居るギャンブラーもトレセンにいるウマ娘達も自身も同様であると考えている。誰もがそれぞれの目的を持ってその目的を達成するための旅程を組んで動く、それを知っているからこそ彼女は自分のために他者が本来の目的にたどり着けないよう横から旅程に手を加え、狂わせる。移動のための電車や飛行機が動いた後で目的地と異なる場所にその乗り物が到着することを知ってもどうしようもないように、彼女は取り返しのつかない場面で他者の決断を誤らせ続けてきた。

    今回も同じようにジャーニーは1セット目は見に回り彼らがどのような旅程を立てているかを分析したはずだった。村雨は実力の劣る獅子神をペナルティを負わせる駒として扱い獅子神に4で勝たせ続ける。獅子神は愚直なまでに村雨の指示通りの札を出し続け最後は村雨の指示とは異なる札を出してジャーニー達を出し抜く。

  • 11◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:49:00

    ジャーニーはそう判断し、事実第1・3・4セットでは獅子神は4の札で勝利していた。ジャーニーは第3セットあえて第1ラウンドで獅子神に4の札で勝たせることで、次に獅子神が4で勝利すればペナルティの値は「15」になり、それ以降は何で勝っても即死のリスクを背負わせられる状況を作った。そしてジャーニーが村雨と獅子神の旅程に第3セットの敗北という手を加えることで、後2セット取らなくてはならない状況の最中で獅子神のペナルティが15に達する。

    これで獅子神は残りのゲーム中に1度も勝つことが出来なくなり、オルフェーヴルと2人で村雨を抑えればライフ・イズ・オークショニアの勝者は自分達になるはずであった。しかし、現実はそうはならずオルフェーヴルも獅子神同様身動きが取れなくなってしまった。

    (どうやら道は1つだけのようですね……。私が村雨に読み勝ち、私達の勝利を落札する)

    ジャーニーの結論は単純であった。4人中2人がゲームに参加できない以上残された自分がもう1人のプレイヤーを倒す。そこには一切の驕りも優等生としての顔も無く、ただ勝利を渇望する1人のウマ娘だけがいた。

    「どうなると思う?ジャーニー何かフリーズしちゃってたけど」

    「さあ?俺はギャンブラーじゃねぇからな、とはいえキャリアかかってる以上勝って貰わないと困る」

    「確かにねー、ここで勝てたら向こう半年くらいはガツガツキャリア稼がなくてすみそうだし」

    ドリームジャーニーが覚悟を決めた傍らで彼女達の担当行員が言葉を交わす。追い詰められたギャンブラーが『見る目を見る目』に目覚めて逆転した所をジャーニーの担当とオルフェーヴルの担当は行員として何度も見ており、実際は目覚めたところで既に手遅れという場面も何度も見てきていた。

    「少なくとも、全員札は1枚ずつしか出せない以上どっちが勝ってもおかしく無いとは思うが」

    「それ本気で言ってる?具体的に何%くらい?」

    「50%ってところだな」

    「つまり冗談半分ってわけね。真面目に聞いて損したわ」

    場の雰囲気が大きく変わっていても、ギャンブラーと同様に賭場で歴戦の存在である銀行員達は表情を変えたりしない。

  • 12◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:50:42

    「さぁ!お互いにライフダイヤを2つずつ所有し、ゲームの勝利へリーチを掛けました!4人のプレイヤーは自分の命と勝利のために第5セットへ望みます!!それでは親の獅子神様から自らの運命を落札する札を選択してください!」

    司会を務める行員は2人のプレイヤーの命がかかっている状況に対し最高潮の盛り上がりと言わんばかりに焚き付けるようなセリフと共に第5セットの開始を宣言する。

    「慎重に手を選ぶ事だ。お前は今から余と姉上の前に己の運命を委ねることになるのだからな」

    「わざわざご丁寧に忠告ありがたい所だが、少しでも俺の事を観察するための時間が欲しいって見え見えだ暴君様、5分は短すぎたか?」

    「人生の最後の選択に後悔がないように忠告した妹に対し、まだ強がる態度を取れるのは驚きですね。死への恐怖を克服しようが貴方の旅はここで終わる。最後までそうして分不相応な振る舞いを続けてください」

    「獅子神を狙い撃ちにしようとしているようだが、あなた達には私が既に診断を下している。手術台の上の患者にできる事は何一つ無い」

    獅子神、ドリームジャーニー、村雨、オルフェーヴルは四者四様に言葉を交わしながら札を出す。

    「全プレイヤー選択完了です!それでは勝利のかかった第5セット第1ラウンド!ここを取って勝利に王手をかけるのはどちらのペアか!札をオープンしてください!」

    獅子神:2
    ドリームジャーニー:1
    村雨:1
    オルフェーヴル:2

    「勝者なし!薄氷を踏むが如く全てのプレイヤーが慎重な手を選択しました!それでは第2ラウンド、ドリームジャーニー様から札を出してください!」

    (当然獅子神が今までと同じように順番通り札を出すという事はありませんでしたか。恐らくオルの生還を第一に考えている事は気付かれている……だからこそ獅子神はオルの2に合わせてきた。獅子神は自分が札の出し合いで勝利しないためには誰かと同じ札を出すか誰かが勝利するときにそれより低い札を出すしかない。となれば当然獅子神は私達のどちらかと同じ札を出し続ける)

    自らの考えがどこまで読まれているか検討がつかなくとも、今までの自分とオルフェーヴルの様子とこの第5セット第1ラウンドを見れば1/2ライフにいるような人間であれば必ず気づく。

  • 13◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:52:23

    ジャーニーの考え通り獅子神は己の命を守るためオルフェーヴルと同じ札を出した。彼は残りのゲーム中オルフェーヴルと同じ札を出し続けるつもりであった。

    ただゲームに勝利する事を前提に獅子神が行動するのであれば最善手は3以上の札で勝利すれば死ぬオルフェーヴルを放置してジャーニーと同じ札を出し続けてジャーニーの札を無効化し、村雨にオルフェーヴルを殺させる事である。

    しかし彼はオルフェーヴルと同じ札を出した。理由は2つあり、獅子神敬一という男は自身が死ぬ寸前に追い込まれ、見る目を見る目に目覚めたというのに対戦相手に対し死んでほしくないと思ってしまうような心の持ち主であった事。もう1つは目的がオルフェーヴルを守るという事になっている事が分かっていてもドリームジャーニーの札を読み切ることが困難であったからだ。

    (今なら分かる……もし1対1だったら今のオレでも勝てそうにない。村雨がどれだけの化物か分かってて勝負を続けてやがる…アイツも化物かよ)

    怖いものほど目を逸らさずに見つめ続ける。命の危機に瀕してやっと分かったそれを今まさに目の前の小柄なウマ娘が行っている。改めて命を賭けた読み合いの重さを実感しながらも獅子神はジャーニーに手を読まれないよう最大限の警戒を向け続ける。

    事実獅子神がジャーニーの目に警戒を向けながら出した札を読む事は困難であった。故に獅子神はオルフェーヴルと同じ札を出す。相手の目的が分かっている以上オルフェーヴルと同じ札を出そうとする獅子神の邪魔をジャーニーがしない事は分かりきっているからだ。

    そして、獅子神とオルフェーヴルが同じ札を出してお互いの手が無効になり続ける以上、ジャーニーが相手にするべきはこの状況を作り出した死神医師村雨礼二である。

    「長考が続く第5セット第2ラウンド、競売の結果は!?」

    ドリームジャーニー:4
    村雨:4
    オルフェーヴル:3
    獅子神:3

    「再び全員落札できず!勝利を目前にしてお互いの欲望が正面衝突を続けています!それでは第3ラウンド村雨様から札を選択してください!」

  • 14◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:53:49

    (残り札は私と村雨が[2,3]、オルと獅子神が[1,4] この状況オルと獅子神は第3ラウンドに必ず1を出す。このセットで決着はつかない)

    「二度の引き分けが起きた第5セット、ここで勝利を確定できるか!?結果はこちらの通りです!」

    村雨:2
    オルフェーヴル:1
    獅子神:1
    ドリームジャーニー:2

    「なんとなんと!ここに来てまさかの3連続引き分けです!お互いがお互いの手を完璧に読み切り続けたこの第5セット!第4ラウンドは全員の残り札がまたも重複する組み合せになるため、この第5セット勝者は無しの結果となりました!」

    (村雨の手が読めない、私の手を読んでいるならばこのラウンドで2勝する事も可能なはず。それをしなかった目的は?)

    ジャーニーとオルフェーヴルはこの第5セットで持ち時間ギリギリまで待機して札を出した。オルフェーヴルは獅子神を、ジャーニーは村雨を観察するためである。

    しかし、村雨は感情がそこにないと見間違うほどに完璧に感情を制御していた。それはまるで深淵を覗いているかのような錯覚をジャーニーに抱かせる。

    (レースで後ろに張り付かれている事は良くありましたが、この状況は比較にならないほど最悪ですね。村雨の親番以外は私が村雨に先行して札を出さなければならない。手を読まれている状況で2勝するのは現実的では無い)

    「それでは第6セットに参りましょう!獅子神様から札を選択してください!」

    獅子神が札を選択し、続くジャーニーは持ち時間の5分を使い切るまで思考を続ける。勝利するために必要なモノを見つけるために。

    (おそらく今回もオルは獅子神に同じ札を出される。自分の前の席順で同じ様に命がかかっているオルの手を読むほうが私の手を読むよりも遥かに簡単ですから。仮に村雨に読み勝つことを諦めて獅子神を殺して勝利するならば、このラウンドのように獅子神が親番の時に私が獅子神の札を読み切ってオルに出す札を指示する。しかし、今の獅子神の手を読むのはかなり難しい。私とオルの2人が全力で獅子神の手を読もうとすれば読み切れるでしょうが、それは村雨に無防備な姿を晒すということ。そうなれば必ず村雨は第4セットで見せたような異次元の読みを発揮して今度こそ詰む。ならば………)

  • 15◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:55:31

    ジャーニーは札を出すまでの5分間でこの状況で立てられる策を考え、新しい旅程を立てようとしたが既にゲームは終盤に突入しており、打てる手はそう多くなかった。

    ジャーニーがありとあらゆる手を考えている内に5分の制限時間が迫り、時間切れ直前に札を出す。直ぐに次の手番の村雨も選択を完了させオルフェーヴルの番がやって来る。どの順番で札を出したとしても結果は変わらない事を半ば分かっていたとしても、2人のウマ娘は考える事を辞められずに自分の持ち時間を限界まで消費してしまう。

    「全員の札が出揃いました!この第6セットの初戦を取って勝利に王手をかけるのは!」

    獅子神:1
    ドリームジャーニー:1
    村雨:1
    オルフェーヴル:1

    「全員の札の重複により、勝者なし!命と勝利を獲得するため全員が慎重に手を選びます!」

    どれだけ熟考を重ねても同じ札を重ねられる。村雨の狙いが分からぬまま勝負は進むかに思えたが第3ラウンドに状況の変化が訪れた。

    「さあ!六度の引き分けを通して、他のプレイヤーを出し抜く者は現れるのか!」

    村雨:4
    オルフェーヴル:2
    獅子神:2
    ドリームジャーニー:2

    「ここで村雨礼二!他の3人のプレイヤーが札を重複させた隙に勝利を収めました!早速支払いに移りましょう、村雨様総支払額「5」で落札です!」

    司会の言葉と共に村雨に電流が流れる。他の3人の手を読みゲームを完璧に支配していた男の勝利は味方の獅子神すら理解できないタイミングであった。村雨以外の3人の顔に隠そうともしない困惑の表情が浮かんでいる事を意に介さないように司会が第3ラウンド終了後の宣言を行う。

    「見事に第3ラウンドで勝利を収めた村雨礼二。このまま第4ラウンドも勝利を収められればこのゲームの勝利を手に出来ましたが、ドリームジャーニーがそれを許しません!」

    司会に勝利を宣言されるドリームジャーニー。第3ラウンドの結果を見れば必然的に札が残り1枚しかない第4ラウンドの結果も判明するからだ。当然3人のプレイヤーはそれを理解しているからこそ困惑が隠せていなかった。

  • 16◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:57:24

    「それでは第4ラウンド!これを見越していたのかドリームジャーニー様がただ1人最後まで温存していた4の札で見事防衛!それでは総支払額「8」で落札です」

    「ぐぅっ!」

    選択の余地が無い第4ラウンドの結果を司会が告げ、ジャーニーに電流が流される。

    「第6セットは村雨様とドリームジャーニー様が一歩も譲らず一勝一敗となり、どちらのチームもライフダイヤを獲得ならず!」

    (どうしてこうなったのでしょうか?少なくともあの第3ラウンドの時点で2勝する事は不可能であったのは誰でも分かる。それにも関わらず村雨が勝利を収めた結果私と村雨はダメージのみを積み上げる結果になってしまった)

    味方の獅子神ですら意図の読めない村雨の奇行とも言うべき勝利。目的の見えない行為にますますジャーニーの頭を困惑が占める。

    続く第7セット、村雨の親番から始まった第1ラウンドはジャーニー達が村雨の手を読むことが出来ず勝者なしの結果となり、続く第2ラウンドも勝者なしの結果が続く。そして迎えた第3ラウンド、ドリームジャーニーは村雨・獅子神両名が札を重ねてくることを前提にオルフェーヴルに指示を出した結果、全員の残り札は以下のようになっている。

    オルフェーヴル・獅子神:[3,4]ドリームジャーニー・村雨:[1,2]

    (通常であればこの状況読み合いの余地はありませんが、もし村雨の狙いがダメージの蓄積だとすれば必ず私とは逆の札を出す。勝つためには私はこれ以上デッドラインに近づく訳にはいきません)

    第3ラウンド親番の村雨は既に札を出し、ジャーニーは村雨の札を読もうと尽力する。

    (皮肉にも2人のプレイヤーに死の影が見えているからこそ手が制限されゲームは停滞していました。村雨の手が読めなくともオルの手は分かり、指示ができるからこそ村雨に2勝させないように立ち回ることが可能でしたがそれも今潰されようとしている……)

    ジャーニーは考えの読めない村雨相手に疑心暗鬼の中急造した新しい旅程も見抜かれ、壊されようとしている事を感じていた。

    「高度な読み合いが続く中、第3ラウンドに勝者は現れるのでしょうか!?」

    村雨:1
    オルフェーヴル:3
    獅子神:3
    ドリームジャーニー:2

  • 17◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 08:58:41

    第3ラウンドの結果を見たジャーニーは自身の考えが正しい事を確信した。そうなる事を見越してジャーニーは蓄積されるダメージを抑えるために1と2の札を残していたが、同じ様に一勝一敗を繰り返すならば多少猶予が伸びただけであるという事も分かってしまっていた。

    「村雨様の札を読み切り、好条件の2で落札!それではドリームジャーニー様総支払額「10」で落札です!」

    身体に流れる電流に顔を苦痛に歪めるジャーニー。前のセットと同様にジャーニーへの支払いが完了後に司会が第4ラウンドでの村雨の勝利を告げ、村雨にも同じように電流が流される。

    第6セット同様にこの第7セットもジャーニーと村雨の総支払額が積み上がる結果になった。村雨の狙いがジャーニーの支払額を即死圏内まで蓄積させる事に感づいていても既に状況は手遅れだった。

    当然ジャーニーもただ指を咥えて自身が死に近づく事は許容できず、オルフェーヴルと示し合わせ第8セットに望んだ。第1ラウンドでは全員が4の札、第2ラウンドでは自身は1、オルフェーヴルは2の札を出して2連続引き分けに持ち込んだ。その結果残り札は

    オルフェーヴル・獅子神:[1,3]ドリームジャーニー・村雨:[2,3]

    となった。この状況で第3ラウンドにオルフェーヴルが1、ジャーニーが3を出せば村雨が一勝一敗にしようと2を出すと第4ラウンドもジャーニーが落札となり勝利が決定する状況を用意したが、村雨が第3ラウンドもジャーニーと同じ札を出した事により第8セットは四度引き分けの勝者無しに終わってしまう。

    この状況を作り続ければ時間を稼げるとジャーニーが思ったのも束の間、第9セット第1ラウンドで村雨が2の札で勝利すると、最終的には単独で2の札を持っていたジャーニーが第4ラウンドで勝利せざるを得ない結果になり、再び総支払額が積み重なる。

  • 18◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:00:07

    村雨のあまりにも容赦の無い攻め立て方は見る者に拷問を想起させた。実際には村雨もジャーニーと同じように電流をくらっているのだが、ジャーニーは常に村雨より強い電流を受け、何とか村雨の手の内から抜け出そうともがき続けても次のセットには対応策が潰される。あまりにも残酷すぎる現実を残りの2人はこのゲーム中何度目かも分からない驚愕の目線で見つめる。

    (オレが甘すぎるだけなのか?村雨、お前ならもっと早く勝つこともできるんじゃねぇのか。それともアイツがまだヤル気だからそういう手を打ってるのか?)

    見る目を見る目に目覚めた臆病者の王は自身のデビュー戦で行われる無慈悲な支払額の積み重ねに、自身が今までいたランク帯とは異なる世界の残酷さを実感する。

    (姉上…もう辞めてくれ……これ以上姉上が傷付き続けるのを余、いや私は見たくない。私にもあの男が姉上より上の怪物である事は分かっている。私が様子見などせずに最初から勝ちにいっていれば、獅子神の手を1度でも読む事が出来ていれば…!)

    最も信頼する姉が何度も電流を浴びせられる姿を見せつけられた暴君と呼ばれたウマ娘は自分の代わりに怪物と闘うことになった小さな姉の後ろに隠れる事しか出来ず、何も出来ない状況に追いやられた自らの至らなさを実感する。

    (全ての手を修正され、強制的にあの男が用意した旅路を歩かされてしまっていますね。既に私の総支払額は「12」まで蓄積されてしまい、4の札で勝てば死ぬ。そして次のセットの結果次第でまた私の行ける場所が減り、やがて果てに辿り着かされてしまいますね)

    愛する妹のため怪物と戦うことを選んだ旅の果てを探すウマ娘は、怪物の手によって増えていく自らの傷と同時にゲームの進行に反比例して自身の行える事が削られていき、やがて何処へも行けなくなる閉塞感を実感する。

  • 19◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:01:17

    オルフェーヴルとジャーニーが持ち時間を限界まで使い切る目的はいつの間にか1秒でも長く、最後の瞬間が訪れるまでの時間を長くするために切り替わっていた。ゲームに勝つ事はほぼ不可能で、第9セット終了時のジャーニーの総支払額が12である以上、第11セットには死か敗北が訪れる。どう足掻いてもその結果は変わらず、せめてもの抵抗として第10セットは一勝一敗になるための勝ち札を3にして村雨にも死の可能性がある状況に持ち込もうとしたが、第10ラウンドの結果はジャーニーと村雨が2の札で勝利を収める結果となった。

    「それでは、ドリームジャーニー様!総支払額14で落札です!」

    「ぐああああああああっ!!!ぐっ……はぁ……」

    それまでで最も強い電流を受けたジャーニーは苦悶の表情を取り繕うことも出来ず、息も絶え絶えといった様子だった。

    ジャーニーの総支払額は14まで積み重なり、彼女の妹よりもさらに死が近い位置まで到達していた。

    「まさに異常!!!全プレイヤーの所持コインだけがただ貯まっていき、そして今3人のプレイヤーの誰かが今にでも死の瞬間を迎えようとしています!!」

    第11ラウンド開始時点での各プレイヤーの総支払額はドリームジャーニーが「14」、オルフェーヴルが「13」、村雨が「11」、獅子神が「15」となっており村雨以外は次に札の出し合いを制してしまえばゲームのペナルティにより、ほぼ確実な死が待っている。

    (私は死ぬのでしょうか?打てる手を全て打ったにも関わらず、あの男には届きませんでした。オルの命を守る事すら敵である獅子神に半ば任せきりにして臨んだというのに、いつの間にか私も死まで後一歩のところまで追い込まれてしまっていますね)

  • 20◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:02:16

    獅子神に総支払額が16以上になるように勝たせる、オルフェーヴルに3以上の札で勝たせない、獅子神の札を読む、2人揃って生還する、村雨に1セット中に2勝させてはいけない、村雨の策の内容を読み切る、オルフェーヴルに指示を出す、村雨と違う札を出す、村雨と同じ札を出す、セットを四度引き分けにする、そして自身が2以上の札で勝たない。

    ジャーニーがやらなければならない事・やってはいけない事はゲームが続く度に増えていき、重荷となってジャーニーの心を塗り潰していく。打った手が潰されるたびにジャーニーの心の地図は黒く塗りつぶされ、金色の線を描く余地は無くなる。

    半ば絶望しながらもジャーニーは村雨に対して見る目を向け続ける。自らの死が目前に迫っていても取り乱す事は無く、勝利への旅程を探していた。

    (たかが2分の1……最も単純な選択に正解すれば良く、イカサマは無く必ずどちらかは正解である。それに運要素は一切無いから相手の思惑を読めば良いはずなんですが…)

    「獅子神様札を選択!それではドリームジャーニー様札を選択してください!」

    この試合を観ている観客からすれば何度も繰り返されて来た制限時間ギリギリまでの長考だが、実際にゲームの席に付いているジャーニーからすれば体感時間としては一瞬である。自身の総支払額が「14」、オルフェーヴルの総支払額が「13」であるこの状況では落札での勝利はオルフェーヴルが2以下、自身が1での落札が必要である。

    しかし、第5セットから今に至るまで全ての手を読まれ続けたこの状況は、その勝ち方を行うことが不可能であるという事を何よりも雄弁に表していた。やはり獅子神に勝利を収めさせてゲームのペナルティで殺すしかない。このゲーム中何度も達したその結論をジャーニーが実施するには獅子神がオルフェーヴルより先に札を出す状況、つまりこの第11セット第1ラウンドが最後の機会になる。

    それが理解できているからこそオルフェーヴルもジャーニーと同じ様に獅子神の札を全力で読もうとする。崖っぷちに立たされた2人に対し、自らの命がかかっている獅子神も札を読ませないように全力の警戒を向け続ける。

  • 21◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:03:40

    (くっ!獅子神の手が読めない。余があの男の手を読めないから、今姉上の命が後一歩で消えてしまう状況に追い込まれているというのに!これでは余は姉上があの怪物相手に嬲られているのを見ているだけではないか!)

    (どうやら私達がお互いの相手を読もうと長考を重ねていた間に、あの男も私達の事を見続けていたようですね。本当に勝負をかけるべき時は第5セットでしたか)

    結局獅子神の手を読む事は出来ずジャーニーは札を出す。

    (状況を変えるために時間を稼いだつもりでしたが、逆に獅子神にとっては好都合だったというわけですか)

    「ドリームジャーニー様選択完了!それでは村雨様札を選択してください!」

    自分の出す札に他の3人のプレイヤーの命がかかっていると理解していないはずが無いにも関わらず、村雨礼二は何の感情も見せずに変わらぬ様子で札を出す。

    「それでは、オルフェーヴル様!札を選択してください!」

    (認めよう獅子神。今この場に座るプレイヤーの中で余が最も劣っていると。だが貴様がこれを読めなければ貴様が自滅してゲームは終わりだ)

    オルフェーヴルはそう考えながら獅子神の自滅を考え1の札を選択する。

    「オルフェーヴル様選択完了!それではこの限界寸前の状況で全員の選んだ手は!?」

    獅子神:1
    ドリームジャーニー:2
    村雨:2
    オルフェーヴル:1

    「もう何度目か!またしても第1ラウンドは全員重複による引き分けです!」

    これまで何度も繰り返されてきた全員の札の重複による引き分けが起きる。全員が4枚の中から札を出す場合の組み合わせは256通り、そしてこの第1ラウンドの引き分けによって全員の札は3枚になり組み合わせは3分の1以下の81通りとなる。状況が進めば進むほど未来は限定されていき、最終的には読み合いの要素すらない必然というモノのみが残る。そして、このカラス銀行の賭場において最後に残るモノを自分にとって最も都合の良い結果に出来る者こそが勝者である。

    この場において唯一命の危険を伴わずに手を出せる村雨礼二からジャーニーは都合の良い結果を奪わなければなかった。ドリームジャーニーの死による敗北という結果は後2ラウンドの所まで迫っているからだ。

  • 22◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:05:05

    「それでは第2ラウンド!ドリームジャーニー様札を選択してください!」

    司会の声にジャーニーは残された札を見つめる。もはや地獄行きのチケットにしか見えない札を見つめながら思案を続けるが、自分の出す札は必ず村雨に読まれると分かっていた。それでも自分の対面に座る妹のため、勝負の舞台から降りずに戦う事を選択した結果己の命が潰えようとしていた。

    打てる手を全て潰され、何処へも行けなくなった胸中の絶望を妹に悟らせないようにジャーニーは札を選択する。

    「ドリームジャーニー様選択完了!それでは村雨様札を選択してください!」

    そして、既に決まっていたと言わんばかりに村雨は手持ちの札を出し、オルフェーヴルの番になる。自分の番になったオルフェーヴルは今までと同じように獅子神の手を読もうと制限時間をギリギリまで使う。オルフェーヴルはここが最後の分水嶺になるとばかりに獅子神の手を読もうと、並の相手なら戦意喪失しかねない程の眼圧で獅子神を睨みつける。

    (オル……もういいんだ。もうどうしようもない状況になってしまっているから、そんな無意味な事はしなくて良いんですよ)

    5分ギリギリまで時間を使いオルフェーヴルが札を出す。そして、獅子神もそれに追従するかのようにあっさりと札を選択する。獅子神からすれば自分が最後に札を出す以上、村雨とジャーニーの札を気にせずにオルフェーヴルの札のみを読めば良いからだ。

    「全員の札が出揃いました!このラウンドこそ勝負の決着を決めるような落札は起きるのでしょうか!?」

    ドリームジャーニー:3
    村雨:3
    オルフェーヴル:4
    獅子神:4

    「またしても落札者無し!それでは第3ラウンド村雨様から札を選択してください!」

    またしても引き分けが続く。これで残り札はドリームジャーニー・村雨が[1,4]、オルフェーヴル・獅子神が[2,3]となった。残りの札の組み合わせは16通りまで減っている。そしてその16通りのうちジャーニーが第3ラウンドで村雨と異なる札を出してしまったパターンは全てジャーニーの死という結果へ繋がっている。

    おそらくはこのゲームにおける最後の選択。5スロットに位置する人間ですら分かるほど当たり前の事実がとうとう目の前まで来てしまった。その当たり前の事実にジャーニーとオルフェーヴルが内心打ちひしがれている間に村雨は札を選択する。

  • 23◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:06:13

    司会は無慈悲にオルフェーヴルに札を選択するように促す。もはや自分がどちらの札を出したところで姉に迫る死の運命を変える事は不可能であるが故に、ただその瞬間が訪れる事を拒むように時間をギリギリまで消費して暴君は札を選択する。

    「オルフェーヴル様選択完了!獅子神様札を選択してください!」

    オルフェーヴルの札は分かっていて、同じ札を出すだけで良いのにも関わらず獅子神は札を直ぐには選択しなかった。自分が死の一歩手前まで追い詰められ、大きく成長した獅子神はそれが自分の役割であるとばかりに、自分と同じように死の一歩手前まで追い詰められてしまったオルフェーヴルと同じ札を出し続けてきた。村雨の策は分からなかったがそうすべきであるという事は分かっていたからだ。そして残されたジャーニーは村雨の手によってこのラウンドで果てようとしている。当然1/2ライフに所属している以上はジャーニーも何人ものギャンブラーを破滅させていた事は明白ではあったが、それでも獅子神にとって相手を殺すことは躊躇われる事である。結果としてこの第11セット第3ラウンドでは獅子神も5分ギリギリまで札を選択せずにいた。

    そして、ドリームジャーニーに最後の手番が回ってくる。

    (1/2を当てる事が出来ずにとうとう最後の時が訪れてしまいましたか。オル、不甲斐ない姉ですまなかった。どうやらこの日の当たらぬ場所が私の旅の果てのようですね。アネゴが一筋の黄金に辿り着けたように私にも旅の果てで何か辿り着けるモノがあれば良かったのですがね……)

    最後の5分間ドリームジャーニーの頭の中には走馬燈のように今までの思い出が蘇る。それはウマ娘ドリームジャーニーのルーツまで遡る。

    (思えばアネゴが何故あの場面で笑う事が出来たのかが知りたくて、私もウマ娘としてレースの道を志したのが始まりでしたね。奇しくも今の私もあの時のアネゴと同じように大敗を喫しようとしています。多くのレースに出場しては勝利を重ね、日の当たらぬ賭場でも勝利を重ね、表の舞台と裏の舞台で勝利し続けて来ましたがこんなにも唐突に果てが訪れるとは想像できませんでした)

  • 24◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:07:31

    「姉上!まだ終わってません、今からでも村雨の札を読めば……!」

    敬愛する姉が今から果てようとしている状況に耐えられなくなったのか、とうとうオルフェーヴルが声を張り上げる。その声は半ば意識を手放していたジャーニーの意識を取り戻させる。

    (オル……!先ほど私は何を思っていた?こうして最後まで努力し続けている妹の行為を無意味な事だと…どうせ負けるから何をしても変わらないと?負けてそれで終わりでは無いはずです、少なくともアネゴは負けた後も誰よりも高らかに笑っていた!!それはきっと……まだ自分の限界がそこでは無いと旅の果てで無いと知っていたから!ならば潔く負けを認めて死ぬ訳にはいかない、何故私は村雨の手を読めなかった!それはきっと…)

    「オル…ありがとう。誇るべき美しい妹よ」

    一切の含みの無い笑顔を妹に向けるジャーニー。そこには妹を安心させようという意図はなく、ただ感謝の感情のみがあった。

    (分からなかったはずだ……私は村雨相手に一対一で読み合いをしていると思い込んでいた。しかし、実際は意識の何処かでオルの事を気にかけ続けていた。ただでさえ私より格上の相手に全神経を集中させる事すら出来ていなかったのだから。私が見るべきは光に満ち溢れているオルではなく、この状況を作り出してしまった自分自身!誰かを見続けて光に慣れた目では闇の中にある自身の心を見る事は叶わない!)

    急速にジャーニーの意識が変わっていく。自らの憧れたるウマ娘、憧れてはいても理解が出来なかったそれを敗北寸前になってようやく理解できた。一切のしがらみを頭から除外し、自らの敗因を分析すれば聡明なジャーニーは一瞬で結論にたどり着く。

  • 25◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:08:24

    (私はいつの間にか誰かの旅程ばかり気にして自分が進むべき道に目を向ける事を辞めていました。思えばあの人の担当になる時も自分から声をかけるのではなく、あの娘の旅程に手を加えた。このゲームでも第4セットの村雨・獅子神の変化に加え、第6セット終了の段階で村雨の狙いに察しを付ける事は出来ていたというのに自分が最初に動こうとせず、周りの旅程を気にした。周りの事を完璧に動かせていればそれで良かったがそうでないならば考えるべきは自分自身の旅程!地図の上に記された既知で満足していて、いつしか私は未知を楽しむ気概を失っていました。賭場に来た日から今日まで賭場に残り続けてきたのは未知なる景色を見るためです。そして、それならばこんな所で死ぬわけにはいきません。世界は私の想像を超えて広く、まだまだ旅は続きますから)

    敗北による死。それは決して認めたくない結果であったと同時に賭場で勝利し続けてきたジャーニーにとって未知の景色であった。不本意な形でたどり着いてしまった一つの旅の果てと自身の望みを実感した事でジャーニーの世界は逆に広がっていた。

    第11セット第3ラウンド開始時のジャーニーは、途方も無く高い壁に両側を挟まれた一本道を当てもなく彷徨うように前へ歩き続け、今まさに端から奈落に落ちようとしている心境状態だった。しかし、自らの望みに気づいたジャーニーが目を見開いて周りを見渡せば左右の壁には大量の扉が出現しており、全ての扉から溢れんばかりに金色の光が漏れていた。

    (旅行の前にどれだけ準備を行ったところで旅先で回避できないトラブルに見舞われる事もあります。旅に必要なのは決して失敗しない事ではなく……失敗した事を楽しむ心でしたか)

    そして結論に達したジャーニーは札を出す。

  • 26◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:09:21

    「さあ!全プレイヤーの札が出揃いました!村雨礼二の引き分け合戦からドリームジャーニーは逃れる事は出来るのか!!全プレイヤー選択した札を公開してください!!!」

    村雨礼二と同じ札を出せていなければジャーニーの命は潰える。その場に居た全員の目がジャーニーに集中する。

    村雨:1
    オルフェーヴル:2
    獅子神:2

    「今までの私だったら選択の余地が無い死が訪れる事を許容できずに先に4を出して果てていた。ありがとうございます。村雨礼二、貴方のお陰で私は自分が旅をする目的を思い出す事が出来ました。」

    ドリームジャーニー:"1"

    「なんとなんと!3人のプレイヤーの命がかかったこの状況で引き分け!全員が自らの命を守りきることに成功しました!!そして全員の残り札から第4ラウンドも勝者無し!この膠着状態から最初にゲームの流れを変えるのは誰か!勝負は次の第12セットに続きます!」

  • 27◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:10:30

    司会の行員が大声でゲームが続く事を宣言する。しかし、村雨礼二とドリームジャーニーは第12セットでゲームが終了することを確信していた。

    第12セット第1ラウンドの親番である獅子神が札を出す前にジャーニーが発現する。

    「オル、このラウンドは4を出してくれ。残念だがここまでだ」

    ジャーニーの突然の発言に札を出そうとした所を遮られる形になった獅子神は怪訝そうな顔を向ける。5スロットのギャンブラーもどきならまだしも1/2ライフにいるようなギャンブラーがこの状況で意味の無いブラフを行う必要が無いからだ。

    ジャーニーの発言を受けたオルフェーヴルもまた絶対の信頼を置いている姉の真意の読めない発言に耳を傾ける。

    「私とオルが勝利を収めるには総支払額が積み上がりすぎた。先程は第3ラウンドが村雨の親番で、以前の私が選ぶ手と異なる手を出せば良かったが、村雨の前に札を出さなければならない状況で読み合いで制することは難しい。そして、村雨の次の手は私が親番の第2ラウンドで獅子神に指示を出して、オルに勝たせることだ。悔しいが2人で帰るために敗北を認めよう」

    あくまで淡々と現状を語るジャーニー。このゲームは同じチーム同士であっても札が重複した場合は無効になるため、勝利を諦め生還するだけならばチームで同じ札を出せば良い。負ければ1人4億を失う事にはなるが、ジャーニーとオルフェーヴルはそれでもまだ数億円は口座に残るだけの残高を持っていた。

    「村雨礼二、貴方の危惧していた事は起こしませんからその点はご安心を」

    村雨にそう言うとジャーニーは獅子神に札を出すように促す。親番の獅子神は長考の末、4の札を出す。次の手番のジャーニーは札を"表向きにして"4の札を出した。その後村雨、オルフェーヴルと札を出す。

  • 28◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:11:38

    「既にドリームジャーニー様の札が公開されている異例の事態ではありますが、全プレイヤー札を公開してください!」

    獅子神:4
    ドリームジャーニー:4
    村雨:1
    オルフェーヴル:4

    「勝利を収めたのは村雨礼二!またしても他のプレイヤーの命がかかっている状況で、最小の札1で落札です!それでは村雨様総支払額「12」の支払いです!」

    司会の宣言と同時に村雨に電流が流される。

    「っ…!!」

    強力な電流を受け、顔を歪ませる村雨。これで村雨も次に4で勝利すれば死の危険性があるが、既にプレイヤー4人の意向は決まっていた。

    第2ラウンドは示し合わせたように全員が直ぐに札を出すと、司会の宣言に従ってこのゲーム最後の札を公開する。

    ドリームジャーニー:3
    村雨:2
    オルフェーヴル:3
    獅子神:3

    「第2ラウンドの勝者は村雨礼二!長かった決着に終止符を打つ総支払額「14」の支払いです!」

    村雨にドリームジャーニーが最後に受けた電流と同じ強さの電流が流される。意識を保っていられる程度とはいえかなり強力な電流は応えたのか苦痛に歪む顔を村雨は隠そうともしない。

    「そして!この支払いにより、村雨・獅子神組が3つ目のライフダイヤを獲得!ゲームライフ・イズ・オークショニア村雨・獅子神組の勝利で決着です!」

  • 29◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:12:47

    司会の行員がゲームの決着を宣言し、プレイヤー達が拘束から解放される。死線を潜り抜け生還したギャンブラー4名はあまりにも呆気なく終了したギャンブルに野次を飛ばす観客の事を気にしていないかのように言葉を交わす。

    「生還したからこそ、あえてこの台詞を言わせていただきます。村雨礼二、この借りは必ず賭場でお返しします」

    「次に私の前に立った時はまた別の処置をしてやろう」

    「あー、オレは殺される寸前まで追い詰められたが別にお前らの事は恨んでねえ。って待て村雨!もっと何かねぇのかよ!」

    「マヌケが。あのギャンブル好きの真似事か?」

    「結局最後まで余にはあの男の狙いが分からなかった……姉上は分かっているのか?」

    「もちろんだよオル。帰ったらゆっくりと聞かせてあげよう」

    「楽しみにしているぞ姉上。それと獅子神礼を言う。おかげで余は新しい覇道を進める」

    「そりゃどーも。こっちとしては次会う機会があれば賭場以外が嬉しいけどな暴君様」

    「オル、そろそろ行こう。観客が不満そうにしているから手早く退場したほうが良さそうだ。それでは、良き旅を」

    入場した時とは正反対にどこか爽やかな雰囲気を出しながら4人のギャンブラーは退場していく。

  • 30◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:14:13

    「お疲れー!無事帰れたみたいで良かったよ〜。ジャーニーったら2回もフリーズしちゃってたからあのまま殺されちゃうかと思ったよ」

    「相変わらずの様子で安心しましたよ」

    「だって今私の担当の中でジャーニーより強いギャンブラーっていないんだよね。後今のジャーニーって結構レベルアップしてるでしょ?なら今回の負けもトントンくらいかな」

    近くでギャンブルの行く末を見守っていたジャーニーの担当行員が近寄ってくる。ヘラヘラとした顔でデリカシーの欠片も無いような発言をする彼女の表情は次のジャーニーの発言で凍りつく。

    「その話ですが、私はしばらく世界の広さを見て回りたいと思いますので一時的に5スロットに降格しますね」

    「………えっ?」

    「余も今一度己の事を見つめ直すために賭場から離れようと思う」

    「そうか、戻ってくるのか?」

    「何時になるかは分からぬがな」

    「わかった。口座の金を何に使うのか決めたら連絡してくれ」

    ジャーニーの担当行員が放心している横でオルフェーヴルは自身の担当行員との別れの挨拶を済ませる。そのまま2人は放心しているジャーニーの担当行員をオルフェーヴルの担当行員に任せてその場を立ち去る。

    「………っは!なんかジャーニーが5スロットに落ちるとか言った夢を見ていた気がする!」

    「残念ながら現実だ。せっかくの特別対抗戦で担当をボロ負けさせた挙げ句に失ったとなれば大目玉確定だな」 「うっそ〜〜〜〜っ!!」

    「銀行員にもウマ娘のトレーナーみたいな福利厚生があれば良いんだがな」

    自分の元を担当ギャンブラー去っていく事が不利益だと分かっていても銀行員達は引き止めない。ウマ娘のトレーナーと違い彼らにとっての担当は信頼できるパートナーでは無く、制御しなければならない怪物だからだ。賭場という鎖から怪物が解き放たれるその瞬間を眩しそうに見送り、銀行員達は自身の業務に戻る。

  • 31◆vrnLIUHJpc24/09/23(月) 09:15:05

    「これからどうするのだ姉上?」

    「今は特に何も考えていないよオル。たまには普段と違う行き当たりばったりな帰り方をしてみようと思ったからね」

    ドリームジャーニーは思案する。あの日出会ったアネゴの言う旅の果てを見つけるために。他者の旅程のみに目を向ける事をやめ、自分自身の旅の先に目を向けて旅を続ける。ジャーニーにはオルフェーヴルと共に歩きながら通ろうとしている賭場の出口が何よりも光輝いて見えていたのだった。

    旅人と競売人 完

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:36:05

    殺し合いした後とは思えないほど爽やかな終わり方だ

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:43:07

    面白かった
    それはそれとしてスレ画が完全にインテリ◯クザ

  • 34二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 09:49:10

    またしても味方にドン引きされる村雨礼二さん(29)

  • 35二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 10:03:42

    担当に対するスタンス
    トレーナー → 信頼できるパートナー
    銀行員 → 制御しなければならない怪物
    って感じなのね

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 10:15:43

    ジャーニーが勝負服で1/2ライフの会場に入ってくるの違和感ないな

  • 37二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 10:32:32

    追い詰められる側に回るドリジャは珍しいな
    それはそれとて初めての賭場でさらっと1日で4リンクに上がってるの凄い

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 11:45:45

    4人全員今すぐギャンブル辞めた方が良いという説が有力です

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 12:57:59

    オルフェーヴルと獅子神、ドリームジャーニーと村雨って何か雰囲気が似てるよね

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 13:06:23

    シングレにドリジャ出てきたら同じ紙面でスレ画の二人が共演するのか
    プリティーな少女達が全力で勝負を行う漫画とあたおかなギャンブラー達が全力で勝負を行う漫画がコラボする事はないだろうけど

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 15:23:46

    他のギャンブラーみたいに裏で色々やってるジャーニーとオルフェ姉妹の姿を描写した後に最後の一コマで職業:アスリートって出た時の衝撃凄そう

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 17:13:17

    SSにしてはかなり長い気もするけど大筋はLiAのままだから読みやすかったわ

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/23(月) 17:24:06

    原作通りの展開で有名人のウマ娘2人がカラス銀行の施設に入ったきり消息不明になったら大騒ぎになると思ったけどそういえば黎明も生放送で5000人来る程度には有名人だしそういうのの後処理を専門にしてる部署もあるのかね

スレッドは9/24 05:24頃に落ちます

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