【タキモル♀SS】わるいゆめ

  • 1二次元好きの匿名さん22/02/22(火) 19:07:03

     骨が折れる音がした。アグネスタキオンは自分の足元を見下ろす。左足が、あらぬ方向に曲がっていた。遅れてやってくる焼けるような痛み。唇を噛み締め、声を殺す。
     分かっていたことじゃないか。自分の足は、自分の走りについて来られないと、それでも一人で足掻き続けて来たのは、見たいものがあったから。だが、それももう終わりだ。彼女は、未だに悲鳴をあげる足を切り離そうと、骨切り包丁を振り下ろした。

    「──タキオン!」

     そして彼女は目を覚ます。最初に確認したのは左足。失われても、折れ曲がってもいない。今からでもまた走り出せる健脚。次にここは何処かとあたりを見回した。ここは、トレーナーの私室か。自分はトレーナーのベッドに横たわっていたらしい。少しずつ、悪夢から現実へと記憶が引き戻される。

    「どうしたの? 随分魘されてたけど」
    「ふむ、なんでもないよ。それより、トレーナーくんは仕事が終わったのかい? あまり長いものだから眠りこけてしまったじゃないか」
    「終わったよ。それで、私の部屋にまで来てやりたい実験ってなんだったの?」

     はて、なんだったか。良い思い付きだった気はするのだが、忘れてしまった。

    「そうだねぇ、トレーナーくん。ちょっとこっちに来てくれないかな」
    「なに? ……きゃっ!?」

     のこのこと近付いてきたトレーナーの手を引っ張ってベッドに引きずり込む。逃れようともがくが、ウマ娘の腕力には敵わず、抱き枕のように抱きしめられる。
     自分より僅かに高い体温。トレーナーがそこに居ることに、明確に安堵している自分が居た。

    「抱き枕というのは、睡眠の質を高めるらしいじゃないか」
    「だからって私を抱き枕にしなくても!」

     抗議するトレーナーの話は聞かず、アグネスタキオンは、夢の中身をもう殆ど忘れてしまったことに気付く。勿体ないとは思わなかった。研究の役にも立たない事象なんて彼女には何の興味もない。

     彼女が再び眠りに落ちるとき、悪夢はもう見なかった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/02/22(火) 19:11:15

    毎日抱き枕にしていけ

  • 3二次元好きの匿名さん22/02/22(火) 19:16:56

    こういうタキオンもいいね‥
    だから続きを書くんだ

  • 4二次元好きの匿名さん22/02/22(火) 19:23:38

    いくらタキオンと言っても未成年の女の子だから、足が壊れるんじゃないか、って不安で落ち込む夜もあったはずなんだよね。初めてトレーナーに明かすまでは一人で耐えてたと思うとやっぱり気の毒だよね。モルモット君はこれまでの分も存分に甘やかしてあげないとね。

  • 5122/02/22(火) 20:40:57

    「それにしても、トレーナーくんは小さいねえ」

     アグネスタキオンはトレーナーを抱き締める力を強くする。トレーナーの背丈は自分よりもずっと小さい。幼さの残る顔立ちも、健康体とはいえ細い体も、ちょっとしたことで消えてなくなってしまいそうだ。

     失いたくないと、彼女の心の底がチクリと痛んだ。もしトレーナーが居なかったら、自分は諦めて他の誰かに夢を託すか、或いはもがき続けて全てを失っていただろう。それが心情から来る感傷なのか、論理的に要素を抜き出した結果なのか区別はつかない。

    「タキオン。そんなに強くしなくても、私は居なくならないよ?」
    「当たり前だろう? 君は私のトレーナーなんだから」

     トレーナーはタキオンの腕の中でもぞもぞと動く。ひょこりと腕を出すと、タキオンの頬を撫でた。

    「私は、タキオンが甘えん坊なのも、寂しがりなのも、怖がりなのも全部知ってるからね」
    「ふぅン、言うじゃないか。モルモットくんのくせに」

     ニヤニヤと笑いつつも、撫でられる手を止めたりはしなかった。

  • 6二次元好きの匿名さん22/02/22(火) 21:25:26

    続きがあるんですか!?ありがてぇ…

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