- 1二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 11:22:40
注意!この話は根本となる設定を補うために、個人の考察の含まれた内容が存在します。
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。それは選りすぐりのエリートの集う魔境。
「おい、そろそろ担当は決めたのか?」
同じ新人の、あるトレーナーが俺の隣に座った。やけに気さくで明るい男だ。
「まだですが」
「有力な子はすぐ実績持ちのトレーナー共に取られちまうぞ?新人トップ、頑張れよな!」
「…トレーナーと彼女たちの相性は重要なファクター。色んな子のレースを見て考え…って、そういえばあなたもまだ担当決まってないですよね?」
「かー!そうだよオレもまだなんだよ!それで間に合えばこの上ないっつーの!」
カフェテリアを後にして次に行われるレースへと赴く。すれ違うウマ娘たちをその『目』で確認した。
─少数だが人間の眼球には未知無名の能力がある。ウマ娘の持つ身体能力に彼女たちの調子、そしてスキル、などと呼ばれた何かを認知できる力。パドックで人気投票をする際に発表されるウマ娘の能力の数値化は、この目によるものだ。
「ね…なんかあの人目が怖いよ…」
「私達を品定めしてるのかな…は、離れよう?」
正五角形の中に、三角形の謎の模様。通常は目に何も変化はないのに何故かある。随分と狂気的な…。
そしてぼんやりとしていたせいか。
「おおっと」
誰かが飛び込んできて衝突し、意識を失った…。視界の端に映ったのは栗毛で、光のない紅い目をしたウマ娘の姿だった。 - 2二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 11:24:03
期待
- 3二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 12:31:43
頭が痛い…。
「やあ、目が覚めたかな」
ミステリアスでクールな声…新人の自分でも噂は知っている、凄まじい力を秘めたウマ娘…
「アグネスタキオン…?」
「多少の混乱状態にあるようだね。意識を取り戻したばかりなんだからあまり無理はしないほうがいい。ほーら、椅子に座って。リラックスするべきだ」
促されるまま椅子に座る。
「さて、なぜ自分がここにいるかは?思い出せるかな?ちなみに、気を失った君をここまで運搬したのは私だよ。故に、君が思い出すべきは、『何故』『いかにして』気を失ったかだ」
記憶を巡らす。後ろで聞いただろう声を思い出す。
…そうか。
「…ふぅン、ことの経緯までどうにか思い出せたようだね」
「それよりも…どうして教室で黒煙を……?」
「奇妙なことを訊ねるね君は。そんなモノ、『研究の一環』以外にどんな解答が存在するんだ?」
研究。
なんか怖い。あまり関わるべきではない気がする。
よし、椅子から立ち上がり逃走を図…?!
「君、考えごとに没頭すると、他に意識が向かなくなるタイプかい?いや私もそこに関しては同類だ、気持ちはわからなくもないがね」
「とはいえ親切心から忠告しておくけれど、自分の状態ぐらいは、常に気を配ることをお勧めするよ」
「健康で元気な成人男性という被験体を求めてやまない研究者と、いつどこで巡り合ってしまうかわからないだろう?」 - 4二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 12:38:59
「ひ、被験体……?!」
人体実験。改造。
うそ…俺機械化されるの?トレーナーロボ発進的な?いや、もしかしたら仮面被ってるバイク乗りかもしれない…
「もっとも私には幸運が両足で歩いてやってきたと言うほかないがね…って呆けているようだが」
「…決め台詞とポーズ…考えなきゃ…」
「?まだ意識が朦朧としているようだね。…まぁいい、と言う訳でモルモット君!…間違えたトレーナー君」
「モルモット?!人権剥奪…悪の組織みたいに!」
「??…大丈夫かい…?…どうやら君は、普通のトレーナーではないらしいな…」 - 5二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 12:53:59
「それより早速薬を飲んでもらおうか。一本…いや健康だしもっとイケるな、3本ほど薬を飲み干してもらうぞ」
「え、ああ。なんだ…薬を飲む方か。てっきりマッドな手術でも…」
「生憎私は医者ではないのでね。まあ技術の習得の為にその道を選ぶのもアリかもしれないが…」
「薬って…なんの薬?」
タキオンは笑った。綺麗な顔に、不気味な瞳。
何かに取り憑かれたような顔だった。
「ククククッ、それは、飲んでからのお楽しみというやつだよ」
「わかった」
「わかった…?ふぅン、わかった…えー!?え、本当に?得体の知れないものを体に取り込む時人は恐怖を感じるはずだ!怖くないのか!?」
「人に飲ませるってことは毒ではないってことだ。ならいいよ」
「え…そ、そうか…じゃあ、これを」
俺は三本同時に勢いよく飲み込んだ。無味無臭。
不味いと思っていたが、これなら余裕だ。
「…私の薬をここまで躊躇なく飲み込む者は初めて見たぞ…。!ハッハッハッハ!君、足が黄緑色に発光しているね!効果は実証された!」
「…これ意味ある?」
「私にとってはな!」
上機嫌なタキオンの笑い声が外にもこだました。 - 6二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 13:07:12
そこで、保健室に入ってきた黒髪の少女。彼女はかなり物静かそうな雰囲気を醸し出していた。
「…タキオンさん…ついに…無理矢理……」
「やあ!カフェじゃないか!君も実験に協力を?」
「…違います…先生に呼ばれていることを伝えにきただけです。…ほら…早く、行ってください…」
「なに?…おっとっと。わかったわかった、そう睨むなよ!…新人トレーナー君、また会おう!」
「あ!せめて縄を解いてから…行っちゃったか」
マンハッタンカフェ。そのような名前だったはずの彼女が俺の前に立った。
「……はぁ……縄……解きますね…」
「ありがとう」
「…タキオンさん…少し見損ないました……」
「え?俺が自分から薬飲んだだけなのに?」
そう答えると、彼女はとても驚いたように、そして訝しむようにこちらを見てきた。
「…トレーナーさん。タキオンさんのこと、どこまで知っていますか…?」
その口から出た言葉は、頭を殴られたかのような内容であった。 - 7二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 14:52:32
「選抜レースに出ろ、か」
アグネスタキオンは自身の研究を優先しすぎた故に退学の危機に立たされている。目下の目標として、それを回避する必要があるわけで。
「ふむ…トレーナーにとってはスカウト対象を見出す場であるように、ウマ娘にとっては実力をアピールする場だ。しかしながら現状、私はレースの実力をトレーナー陣にアピールする必要を感じていない。不参加で頼むよ」
しかし、彼女はそれを拒む。
「…一度見てみたかった。アグネスタキオン、君の名前は知っていたんだが、実際走るところは知らないんだ。新人トレーナーとして、一回でもいいから見てみたい…」
「つまり君は私をスカウトしようとしているのかい?」
「興味が湧いたからな」
彼女は口に手を当てて、少し考える素振りを見せた。
「…君はモルモット扱いを受け入れられるのかい?実験には欠かさず協力し、私につくすことが」
「駄目か?」
「いや、願ったり叶ったりだ。だがそれならやはりレースは必要ないな。大勢の前で何も走らなくてはならないというわけでもないし」