- 1二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:55:11
「そういえば、俺からキミにお祝いをしていないな」
トレーナー室でのミーティングを終えた後、俺はふと、思い出す。
隣でそれを聞いていた彼女は、きょとんとした顔でこちらを見つめた。
「……ドバイで勝った時の? ちゃんとトレっちからもお祝いしてもらったよ?」
二色のリボンを絡めた青毛のツインテール、透き通るような青い瞳、猫を思わせる口元。
担当ウマ娘のヴィブロスは、クエスチョンマークを浮かべながら、こてんと首を傾げた。
────彼女は、憧れの地ドバイのターフにて、ついに勝利を収めた。
二人で追い求めて来た夢が叶った瞬間、俺も彼女も彼女の家族もボロボロ泣いてしまった。
そしてその後は、彼女の好みのキラキラでセレブな祝勝パーティーを盛大に開催した、のだが。
「あの時はキミの家族と合同だった、というか殆どやってもらっちゃったしね」
「そりゃあ、トレっちは私に着いてたんだから仕方ないと思うけど……真面目だなあ、もう」
ヴィブロスは呆れたような、それでいて嬉しそうな表情でくすりと笑う。
それはどこか大人びたように見えて、普段のおねだり上手な彼女とは、別人のように見えた。
しかし、気のせいだったのか、すぐにいつもの人懐っこい笑顔へと変わった。
「でも、トレっちがお祝いしてくれるっていうなら、ご褒美が欲しいかも?」
「ああ、是非お祝いさせて欲しい、何かして欲しいこととかある?」
「んー……それじゃあ」
ヴィブロスは、にやりと悪戯っぽく笑った。
直後、下から覗き込むように、上目遣いでこちらをじっと見つめる。
そして瞳をうるうるとさせながら、甘えたような声色で、言葉を紡いだ。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:55:29
「トレっちが、私にしてあげたいことを、して欲しいなあ♡」
「むっ、そうきたか」
彼女は、選択肢をこちらへと委ねて来た。
まあ、祝われる本人に任せようとした俺の方が浅はかだったのだろう。
こういうのは、祝う側が考えなければ。
心の中で自省をしながら、俺は腕を組んで思考を回し始める。
プレゼントを、というのは少し微妙
ドバイ遠征時に結構な買い物をしていたし、あそこの以上のものを用意するのは難しい。
もちろん、心を込めたプレゼントなら喜んでくれると思うけれど、そういうのではないのだ。
どこかに連れて行ってあげる、というのも現状ではなかなか厳しい。
トレーニングなどの日程もあるが、ドバイでの勝利もあって取材も重なっている。
ヴィブロス本人が取材に乗り気なのも相まって、お出かけはしばらく出来なさそうだった。
なんなら、今この時ですら、かなり貴重な時間である。
可能であるなら、今ここで、彼女がして欲しいことをしてあげたい。
俺は必死に脳漿を絞り、そして、一つの結論を導き出した。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:55:49
「────甘えんぼ、フリーデーだ」
「えっ?」
「今日限定だけど、無制限なんでも甘え放題プラン、というのはどうかな」
「…………えっ、えっ、えええっ!?」
ヴィブロスは両頬を手で押さえ、耳と尻尾をピンと逆立てて、驚愕の声をあげた。
そして狼狽したように視線を彷徨わせながら、問いかけてくる。
「トッ、トレっち、なんでも甘え放題ってことは……なんでも、甘え放題していい、ってこと!?」
「あっ、ああ、そうだけど」
「ホント? ホントにホント? 私、トレっちに、ベッタベタに甘えちゃうよ!?」
「……男に、二言はない!」
若干不安になってきたが、ヴィブロスの成し遂げたことはまさしく偉業。
このくらいのことでは、全く持って釣り合いが取れていないくらいだのだ。
それなのに、俺が臆してどうするというのか。
彼女はやがて、ごくりと息を飲むと、探るような様子で遠慮がちに聞いて来る。
「そっ……それじゃあ、トレっちのお膝の上に座りたいなあ、なーんて」
「……ほら、おいで」
「!」
俺はヴィブロスに、膝の上を晒す。
すると彼女はぴこんと耳を反応させて、しばらく固まってしまう。
やがて、おずおずと、ゆっくりと、俺の膝の上へと乗っかって来た。
むちりと────大きくてふくよかな温もりが、俺の太腿を包み込む。
ヴィブロスは、ちょこんとしおらしく、俺の膝の上へと座っていた。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:56:05
「……座りにくくない?」
「大丈夫、だよ? トレっちのお膝、ちょっと固いけど暖かくて優しい感じがして……ちょー、すき」
「そっ、そっか、他にして欲しいことはある?」
「うん……えっと、その、頭を、なでなでして?」
「…………了解」
以前、一度は断った、お願い。
でも今日は、甘えん坊フリーデーなのだから。
俺は恐る恐る、ヴィブロスの頭に手を伸ばしていく。
撫でやすいようにか、ぺたんと左右に倒れた彼女の耳の間に、ぽんと右手を乗せる。
そして、さらさらと、慎重に手を這わせていった。
「んっ、もうちょっと、強くしても良いよ、トレっち」
「こう、かな」
「ひゃっ……ふふっ、トレっちの手、きもちいー、お耳も、お腹も、触って欲しいなー♡」
「……不快だったら、すぐに言うように」
「はーい♪」
俺は、左手をヴィブロスの腹部へと運んで、そっと触れる。
柔らかでありながら、内側には筋肉を感じさせて、それでいてとにかく細い。
そんな彼女のお腹を、すりすりと、さすっていく。
同時に、カバーに包まれていない方の耳を指でつまんで、くにくにと解すように揉んだ。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:56:18
「あっ……んんっ……! えへへ、ホントに今日のトレっちは、甘え放題なんだあ♡」
ぴくりと、気持ち良さそうに身悶えながら、ヴィブロスは幸せそうに、そう呟く。
無意識なのか、彼女の尻尾はふぁさふぁさとゆっくり揺れながら、俺の身体を撫でていく。
ふわりと立ち昇る、魅惑的なほどに甘くて、どこかエキゾチックな香り。
少しだけドキリとしながらも、俺は心を込めて、手を動かし続けるのであった。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:56:32
お互いの身体にぽかぽかとした熱がこもり、ちょっと汗ばんで来た頃合い。
とろんと蕩けた眠たげな顔で、ヴィブロスは俺に身体を預けていた。
契約した当初よりはマシになったけど────やはり、まだまだ軽い。
そんな身体で、あれだけの走りをしてみせたのだ。
しっかりと労わって、お祝いして、甘やかしてあげないと。
俺は彼女の耳に口元を寄せて、小さく囁く。
「横になるなら、膝枕をしてあげても良いけど」
「……それも、魅力的なんだけど……私、トレっちの顔が、見たいな」
「いつも、見てると思うけど」
「そうじゃなくて、その、もっと近くて見ながら、甘やかして欲しいというか、ね」
ヴィブロスは珍しく、もじもじとした様子で、言葉を濁した。
なんとなく、して欲しいことを察したものの、それは良いのだろうかと少し迷う。
けれどすぐに自分の言葉を思い出して、俺は彼女から手を離し、両手を広げた。
「いいよ」
「……っ! うん、じゃあ、失礼しまーす……!」
嬉しそうにそう言うと、ヴィブロスは俺の膝の上に乗ったまま、くるりと身体を回す。
そして彼女は、俺の膝の上で跨るように、正面から俺と向かい合った。
そのまま、ゆっくりと身体をこちらへと傾けて、身を寄せる。
丸みを帯びたふわふわとした感触が、俺の胸の上にむにっと乗っかって来た。 - 7二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:56:46
「…………このまま、ぎゅーと、ハグをして欲しい」
これまた、一度は断ったことのある、お願い。
俺は無言のまま、ヴィブロスの背中に手を回して、ぎゅっと、力を込めた。
必然的に、彼女の身体と、より密着してしまうことなる。
感触が、温もりが、匂いが、息遣いが、鼓動が、存在が、より強く感じられることとなる。
「ふふっ……トレっちー♡」
やがてヴィブロスは熱い吐息を出しながら、俺の背中に手を伸ばす。
しかし、その力は壊れものを扱うように優しく、弱々しい。
俺と彼女の力の差は歴然、そのことを聡い彼女は、ちゃんと理解しているのだろう。
だから、その代わり、こう求めて来た。
「もっと、強く抱きしめて?」
「こう、かな?」
「……もっと」
「……これくらい?」
「…………もう少し」
「…………どう、かな?」
「あっ……んっ…………えへ、トレっち、ドキドキしてるー♡」
「…………キミもね」
「じゃあ、お揃いだあ、ふふっ、うれしー……♪」 - 8二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:57:00
どくん、どくん。
お互いの心音が、お互いの鼓膜を揺らして、混ざり合っていく。
ずっとこうしているのもいいなと思えるほどの、妙な心地良さ。
ただ、ヴィブロスはどうなのだろう。
そう思ってしまって、俺は彼女へと、問いかける。
「他に、して欲しいことは」
「これ以上、どうやって甘えれば良いんだろ、後は、例えば」
ヴィブロスは、頬を朱色に染めながら、視線を少しだけずらした。
俺の目から、下へと動かして────俺の唇を、じっと見つめる。
「………………ちゅー、とか?」 - 9二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:57:15
ヴィブロスはそう言うと、顔を僅かに上げて、そっと目を閉じた。
まるで唇を差し出すかのように、その時を待っているかのように。
これは、良いのだろうか。
愚問が過ぎる、良いわけがない。
けれど、今日は特別な日なのだ、彼女の全てを受け止めると、決めた日なのだ。
だから俺は、全てを捨て去る覚悟で、告げる。
「……キミが、望むなら」
ぴくんと、ヴィブロスが震える。
抱き締めている彼女の身体が、明らかに固くなっていく。
けれど彼女は目を閉じたまま、むしろさらに顔を上げて、少しだけ唇を尖らせてきた。
俺は何も言わず、ゆっくりと、その唇へと顔を近づけていく。
お互いの心臓は、五月蠅いくらいに鳴り響く。
お互いの熱は、もはや火傷しそうなほど。
お互いの顔は、息がかかるくらいに近くにある。
無限とも思えるほどの時間をかけて、俺は彼女の唇に────。 - 10二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:57:29
「────やっ、やっぱ、ダメーっ!」
刹那、ヴィブロスの目が大きく見開かれる。
そして、彼女は跳ねるような勢いで、俺の膝の上から飛びのくのであった。
全身にひんやりとした空気が流れて、のぼせていた頭が、急激に冷えていく。
ヴィブロスは真っ赤な顔でこちらを見つめながら、呟くように言葉を紡いだ。
「こういうのは、もっと、セレブで、キラキラしたシチュじゃなきゃ、ダメだよーっ!?」
「……シチュエーションの問題なんだ?」
思わず、素でツッコミを入れてしまう。
そして冷静になってきて、さあっと、血の気が引く。
……場の空気に流されて、とんでもないことをしようとしていた気がする。
侮りがたし甘えん坊フリーデー、どうやらこれは俺をも狂わす、諸刃の剣だったようだ。
俺は顔を伏せて、安堵と、自己嫌悪の想い込めて、大きくため息をつく。
その時、ふわりと、俺の頬を暖かな手のひらが触れた。
「────だからね、トレーナーさん」
いつもより、少しだけ低めの、ヴィブロスの声。
慌てて顔を上げると、そこには大人びた、妖艶な微笑みを浮かべる彼女の顔。
その笑みのまま、ヴィブロスは俺の耳元へと顔を寄せて、囁く。
「私、次の『甘えんぼフリーデー』を、期待しちゃうからね?」 - 11二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 02:58:38
お わ り
とあるスレを影響を受けて甘やかされすぎてオバーフローするヴィブロスを書きたかった
あんまそうはなりませんでしたね・・・ - 12二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 03:01:35
とても良かったです!!!!!
ヴィブロスまだ育成してないけど、してみようかな - 13124/10/02(水) 06:45:37
ヴィブロスシナリオはいいぞ……!
- 14二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 07:26:05
…神
- 15二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 07:45:56
とっっっっっ
ても好き
急にトレーナーさん呼びになってシットリするのはガンには効かないけど生活習慣病には効く - 16二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 11:42:26
非常によい…
- 17二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 12:02:49
甘々ヴィブロスからしか得られない栄養素がある
- 18二次元好きの匿名さん24/10/02(水) 12:30:46
ほう 手加減抜き甘え放題トレっちですか
たいしたものですね
手加減を抜いたトレーナーは甘え効率が極めて高いらしくレース直前に愛飲するシュヴァちもいるくらいです
それに特大甘さのハグと愛撫
これも即効性のトレウマ食です
しかもちゅー未遂も添えてラブコメバランスもいい
それにしても卒業前だというのにあれほどきわどい触れ合いでおさまるのは超人的な自制心と言うほかはない - 19124/10/02(水) 23:50:49