- 1二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:45:00
「ありがとうビリーヴさん! 素晴らしい出来栄えだわ!」
教室にて、歓喜と興奮の入り混じった言葉が響き渡る。
その声の主は満面の笑みを浮かべて、機嫌良さげに耳と尻尾を振るっていた。
金髪のポニーテール、前髪には大きな流星、宝石のような碧眼。
デュランダルは、その手に“聖剣”を握りしめている。
「いえ、気にしないでください、報酬は頂いてますし、僕は仕事をしただけですから」
対して、言われた方の反応は、デュランダルとは対照的なものであった。
鹿毛のショートヘア、右目を隠すように流れる前髪、落ち着いた凛々しい顔つき。
ビリーヴは、当然のことをしたと言わんばかりに冷静な態度で言葉を受け取る。
「それでも、よ、十全な働きには見合った称賛が必要なのだから……ええ、必要なのだから」
「……そうですか」
何故か二回言うデュランダルに対して、淡々と言葉を返し続けるビリーヴ。
ただ、自らの仕事を認められたことは嬉しいのか、その口元は少しだけ緩んでいた。
「…………ところで、なんですけど」
ふと、ビリーヴは何かを思い出したかのように呟く。
そのまま、聞いても良いかどうか迷うような視線で、ちらりとデュランダルを見やった。
それに気づいたデュランダルはにこりと微笑みを浮かべて、言葉の続きを促す。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:45:14
「どうも……その剣なんですけど、何に使うんですか?」
デュランダルの手の中にある“聖剣”────それは、包丁くらいの小さいものであった。
普段、彼女が愛用しているものと比べればミニチュア同然。
インテリア代わりにでも使うのか、とビリーヴは考えたが、それは相手のイメージに合わない。
受けた仕事である以上、まずは注文通りに完成させて、それから彼女は問いかけたのだった。
デュランダルは、良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情で、口を開く。
「────尻尾用の剣よ」
「…………えっ」
あまりに予想外で意味不明な言葉に、ビリーヴは唖然としてしまう。
その反応に気づくことなく、デュランダルはどこか夢見がちな表情で、語り始めた。
「私、普段から尻尾を武器に出来ないかと考えていたのよね」
「……そんなこと考えながら生活してたんですか?」
「それで最近とある漫画、いえ、書物を見て思いついたのよ、尻尾に剣を握らせれば良いって」
「……流石に難しいと思いますけど」
「そうかもしれないわね、でも鍛錬を重ねれば、何時の日か必ず」
「…………まあ、止めませんけど」
「ええ、完成の暁にはこの剣と技には、貴方の名前を付けさせてもらうわね」
「それは絶対に止めてください」
ビリーヴは剣を作ってしまったことを若干後悔しつつ、小さくため息をつく。
刹那────突如として、デュランダルの尻尾がピーンと立ち上がった。
そして、何かを探るように、ゆらゆらと立ち上がったまま尻尾が動き回る。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:45:41
「我が君の気配、この感じは、外ね! ビリーヴさん、お礼はまた後日っ!」
そう言うと、デュランダルは教室の外へとすぐさま飛び出してしまった。
置いて行かれてしまったビリーヴはしばらくぽかんとしてから、何となく窓から外を見る。
すると、そこには一人の男性がのんびりと歩いていた。
「まさか」
目を凝らせば、その男性の姿には見覚えがあった。
ビリーヴも何回か顔を合わせたことがある、その人物はデュランダルのトレーナーである。
気配なんて全然感じなかったけど、と彼女は首を傾げてしまう。
程なくして、彼の下へ、一人のウマ娘の姿が近づいて来た。
「トレーナー殿! ご覧ください! これが我が王をお守りする、新たなる剣です!」
「あっ、デュランダル……おお、ちょっと小さいサイズの聖剣だ! 格好良いね!」
「ええ、この聖剣ビリーヴと共に、如何なる強敵をも切り払っていく所存です!」
────すでに名前を付けられている……!?
ビリーヴは頬を熱くしながら、思わず顔を顰めてしまう。
その後、デュランダルはトレーナーに対して、尻尾を使った剣技について語り始めた。
彼女の話は荒唐無稽といえる内容ではあったが、トレーナーはそれを一切否定しない。
目をきらきらと輝かせながら頷き、楽しげにその話を受け止めていた。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:46:04
「……ああいうところが、デュランダルさんが懐いている理由なんですかね」
彼は新人トレーナーでありながら、今や学園内では指折りの有名人でもあった。
デュランダルという有望なウマ娘を担当しているから、というのも理由の一つ。
しかしそれ以上に、騎士と王、という特殊な関係性が知れ渡っていることが大きかった。
著名なトレーナーからも注目を受けていたほどの資質。
短距離戦にも関わらず、追込一本で戦い抜けるほどの鋭い切れ味。
それほどのウマ娘の忠誠を、王として飲み込んで見せる度量こそ、彼の強みなのであろう。
「まあ、デュランダルさんは、別の魅力を見出しているみたいですけど」
基本的にデュランダルは、面倒見が良く、困っている人を見過ごせない優等生だ。
彼女を慕う後輩は数多く、また彼女に助けられている人もたくさんいる。
ただ、とある一部の相手が絡むと、妙な化学反応を起こしてしまうことがあった。
一人は同室のカルストンライトオ。
そしてもう一人は、たった今、会話を交えている、彼女のトレーナーその人である。
「今でも十分な剣の腕なのに、更に上を目指そうとしてるなんて、本当に偉いなキミは!」
「ふっ……ふふっ…………! いえ、騎士として当然の嗜みですから!」
満たされるようにトレーナーの言葉を受け取りながら、得意げな表情を浮かべるデュランダル。
その姿は、普段の騎士としての姿とは、あまりにもかけ離れたものであった。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:46:24
「ん?」
二人の姿を眺めていたビリーヴは、ふと気づいた。
デュランダルのトレーナーが、急に、しきりに背後を気にしているような素振りをし始めたことに。
そして、教室にいるクラスメートが、窓から二人の様子をどこかざわついた様子で見始めたことに。
「って、何をしているんですかデュランダルさん……!?」
やがて、ビリーヴの事の真相を突き止めた。
自らのトレーナーの隣に立って、楽しげに話をしているデュランダル。
────その尻尾が、ふぁさふぁさと、彼の背中を撫でつけていることに。
いわゆる、尻尾ハグ。
ビリーヴ自身はあまり詳しくはないが、そういうものがあるという話は聞いたことがあった。
ドラマが発端で一部に流行した、好ましく思っている相手とする行為。
その感情の種類はさて置いて、少なくとも異性と、公衆の面前で軽々しく行うことではない。
恐らくは本人も無意識にやっているのだろう、デュランダルにはまるで気にする様子がなかった。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:46:48
「? どうかされましたか、我が君」
「いっ、いや、どうもしないよ、うん、そっ、そろそろ行こうかなーなんて」
周囲の視線に気づいたのか、トレーナーはその場から逃れようとする。
授業開始までの時間もそこまで多くはない、十分に真っ当といえる理由であった。
しかし、彼女は一瞬だけ切なそうな表情を浮かべて、ぽつりと、呟くように言う。
「……あの、その、もう少しだけ、共に居てもらっても、良いでしょうか?」
────しゅるり。
艶やかな金色の尻尾が、トレーナーの足元へと絡みつく。
恥ずかしげに頬を染めるデュランダル、教室から巻き起こる黄色い悲鳴。
ビリーヴは、ついに見ていられなくなって、無関係を装いながら、席へと戻ろうとした。
その直前、彼女はちらりと二人を一瞥してから、小さな声で言葉を漏らす。
「…………もう十分、尻尾を武器にしているじゃないですか」
そして二人の語らいは、猫を追いかけ回していたカルストンライトオが戻ってくるまで続いたのだった。 - 7二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 01:47:16
お わ り
プロフィールネタで一つ - 8二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 02:06:26
すこ
この聖剣、尻尾で剣を保持できるようになったら無意識のうちに王の背中しばきそうでこわいなw - 9二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 02:09:04
尊いな
ああ尊いな
尊いな