- 1◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:21:59
コルトM1877(ビリー・ザ・キッドなどの愛用銃)を持ってる生徒を想像したいというスレから、出来上がったオリキャラを元に、ヴァルキューレを舞台としたSSを書く予定のスレです。
落ちる前の誘導場として建てたものなので、前スレが埋まってない件についてはご容赦下さい…
この銃を持ってる生徒とか想像したいけど|あにまん掲示板コルトM1877「サンダラー」、ビリー・ザ・キッドの愛用していた古めの銃だけどなんかこう、銃スペックは他の生徒のやつに劣るのに、実力でカバーしてる的な…bbs.animanch.com前スレはこちらから(後半で荒れているところがありますのでご注意を。申し訳ない)
- 2◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:23:26
参考までの二人のキャラクター設定です。
一応、知らなくても大丈夫な内容にしようとは思っていますが、ご興味がある方はこちらから。
オリキャラ初期設定集 | Writening1人目 「術業(すべなり)マワリ」 戦闘 43 知性 60 神秘 14 技術 90 灰みの青紫のショートヘアを短めの横三つ編みで結んでおり、目は強めの緑色。 作者想定身長は145cm、胸は小さめ。 崩れたYシャツ+ジーン…writening.net(初期設定なので、作中を通して変わる可能性がございます。ご了承ください…
TRPGのキャラシをイメージしてもらうとわかりやすいかも)
- 3◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:27:10
- 4◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:29:02
「お姉ちゃん、今のやつもう一回やって!」
「私も!みたいみたい!」
「えぇ〜?もうしょうがないなぁ。あと一回だけだよ?危ないから、みんなちゃんと離れてよ!」
彼女は、水飲み場の上に、空き缶を1つ置いた。
そして充分に距離をとり、振り返ったかと思えば──
次の瞬間には、素早い6発のパンパンという軽い声と共に、その缶は同時に宙を舞い、何回か弾かれるように空中で転がる。そして、最後に地面へと転がった。
カランカランと、地面に落ちた缶が小気味よく音を立てる。一般的に言うと、『的当て』の遊びだろうか。
「うわぁ…!」
「さっ、缶を確認してみて」
よくみると、彼女の手には硝煙をあげるリボルバーが握られていた。だが、抜いた瞬間を先生は目撃していなかった。いつの間に持ったのだろうか…?
そうして、子供の一人が落ちた缶を持ち上げる。その缶には──6発の弾痕が入っていた。
- 5◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:30:35
- 6◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:31:33
「おぉー…また6発とも当たってるよ!」
「そりゃそうだよ〜。これに関しては、何度も練習を積み重ねてきたからね!」
「ねぇ、私にもできるようになるかな?」
「うーん…どうだろうね。まぁ、本当に練習を続けられるなら…いつかはできるかもよ?」
「ほんと!?教えて教えて!」
「分かった分かった!でも今はダメ!銃を持ってもいい年頃になってから!」
子供の目にはそれがカッコよく映ったらしく、早くその技術を身につけてみたいと彼女に群がっている。
それに押されて困りつつも、無碍にはできないと彼女は苦笑いをしていた。
何とも微笑ましい光景だ。まぁ──行われてるのが、おもちゃとはいえ銃の早撃ちという、生徒が日常茶飯事的に銃を所持している世界だからこそ許容できる光景なのだが…
”良い子…なのかな?“
そんな光景を後に、先生はカンナの元へと歩いていった。
- 7◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:32:41
「お疲れ様です、先生。本日はわざわざお越し頂き、感謝します」
「大丈夫だよ、カンナ。それで、例の件について聞こうか…あ、ありがとね」
ヴァルキューレ警察学校内にて、カンナは応接室に先生を通してくれた。お茶を運んでくれた生徒に礼を言いながら、先生はカンナに今回の要件について尋ねた。
「そうですね…最近、区内である者たちの活動が活発化しています。一概に言えば不良生徒達なのですが──その数が、異様に多いのです」
「多い?」
「まぁ、暴動自体は日常茶飯事なキヴォトスですが、それにしても多すぎるんです。負担にして言えば、3倍くらいになっています」
「そんなに…他の自治区から来たりした感じなのかな?」
それを聞いたカンナは、テーブルに置かれていたコーヒー入りのマグカップを取り、一口啜る。コトリという音を発してテーブルにカップを置き直した時、彼女はどこか怪訝そうな表情をしていた。
「私も当初はそれを想定していましたが、取り調べの調書と生徒の情報を洗った所、確かにシラトリ区内の生徒でした。つまり、区内の生徒の大半が、何かしらの影響で動きを見せたということになります」
- 8◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:36:28
「そっか…理由とかは聞けたの?」
「それが、『聞いたところでどうなる』と、どこか自棄になったような感じで…少し異様なのです。もう少し介入する余地を増やせないかと、今は手を打っているところですね」
「成る程ね。それで、今日私を呼んだ理由は、この件に関係してのことかな?」
「えぇ。率直に言えば──機動隊の動きに同行し、先生の指示の元、助力して頂きたいのです。数が増えた分、暴動を抑えている最中に別の暴動が起きることもよくあります。
更に、各地に人員を配置しているとはいえ、手が届きにくい所がありまして…この状態を早急に対処するためにも、一度先生の手を借りておきたいと」
「分かった、出来る範囲で協力しよう。カンナはどうするの?」
すると、カンナは立ち上がり、カーテンのしまった窓の方へと近づいていく。少し陽の光の入った応接室で、カンナは先生の方に向き直った。
「私は少し、情報収集に入ります。機動隊に関しては、ある生徒に同行して頂こうかと」
「ある生徒?」
「──えぇ、先ほど連絡しておいたので、そろそろ来るはずかと──」
- 9◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:39:09
- 10◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:40:52
次の瞬間、ドアがガチャリと勢いよく開き──音の主が、更に大きな声を解き放った。
「ハッハッハ、お呼びですかな、カンナ先輩!!!外でいつかいつかと、この体制で待機しておりました!」
頭に黒いテンガロンハットを被った橙色の髪の生徒が、豪快に笑顔で部屋に入ってきた。彼女の体からは、何故か先ほどの音楽が轟音で流れていた。
「わざわざ待機していたのか!?それと前から言っているが──その爆音を止めろ!!!何故毎回、初対面の相手の時にそれで登場するんだ!?」
「おや、初めて会う人には、インパクトが必要でしょう?これぐらいでなければ面目が立ちませんぞ、カンナ先輩!ファーストインパクトは大事ですからな!」
「お前にとっての面目とは何だ、いいから切れ!音漏れが過ぎる!」
「…失敬しました」
カチッ(腰から下げたミニアンプの電源を切る音)
「…して、確かシャーレの先生がこちらにいらっしゃると…おぉ!」
- 11◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:42:06
すると、その生徒と先生は目が合い──次の瞬間、生徒は爛々とした瞳をしながら、がしっと先生の手を掴んだ。
そしてそのまま、ブンブンと手を振り回し握手をしてくる。
「これはこれは、こちらがシャーレの先生殿ですか!いやぁ、お初にお目にかかれて光栄の至り!カンナ先輩から、話はよく聞いておりますとも!」
「え、えっと…君は?」
「おっと、これは失礼。自己紹介が遅れておりましたな…コホン」
凄まじく活気にあふれた長身の生徒は、掴んでいた手を一旦離し、一つ咳ばらいをする。そして、その場で姿勢を直し、敬礼のポーズを取った。
「私はヴァルキューレ警察学校警備局の機動隊長の一人──二年生の玄翁ライカと申します。以後、よろしくお願いいたします、先生殿!」
- 12◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:44:06
その切り替わりの速さに、先生がぽかんと口を開けていると、隣からカンナがやれやれと言った感じで説明に入る。
「彼女は私の後輩で、今回先生が同行する生徒になります。…驚かれるでしょうが、これでも実力は確かです。彼女は今回の騒動の対処も兼ねて、別区画から支援要請に応じて来てくれた生徒です。元々、この本部でも私と交流を持っていた生徒なので、信頼してもらって構いません。…このなりではありますが」
「おや、これはまた随分な言われようですな。まぁ、事実ですが」
「分かってるならなぜ止めないんだお前は…まぁいい。彼女の部隊は、機動隊の中でもひと際癖が強いですが、その分足の速さは保証できます。やり方には、多少こちらも困っておりますが…」
常に笑顔のライカとは対照的に、カンナの顔には苦虫を噛み潰したような、苦心の表情が浮かんでいる。日々の彼女の心労を思うと、彼女も苦労しているなぁ…と先生は思わざるを得なかった。
「となると、私の機動隊に先生が同行して下さると?いやはや、なんと。これは気合を入れねばなりませんな。私としても、身が入りますな!」
「だからといってアンプに手を伸ばすな!」
そうしてかけあう二人を見て、先生はふと思った。部下のことで頭を抱える彼女はたびたび見るが、それにしては彼女に対して随分と砕けた感じに見える。口調こそいつも同じく、激しく叱咤するそれではあるのだが。
「あの…もしかして二人は、旧知の仲というか…親しい関係なの?」
- 13◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:45:11
すると、二人は先生のその質問に振り返り、各々の返答を返す。
「まぁ…そうですね。訳あって、彼女とはある程度関係は強いかも知れません」
「私としても、彼女には浅からぬ恩がありましてな。今でも、彼女がウーロン茶を飲みにいく時に同行することはあるのです」
「おい、それは…まぁ、先生も知ってるからいいが…」
「…え!?知ってるんですか!?」
「あ、うん、前に一緒にいたことがあってね。というか…印象がまるで違うから、意外に思ったよ」
首をかしげて不思議そうにする先生に、カンナは少し思うところがあるのか答える。
「…彼女の人柄に関しては、同行中に分かるでしょう。破天荒ではありますが、基本的に先生の指示には応えるくらいの柔軟性は備えていると思われます」
- 14◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:46:03
- 15◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:47:42
「…そういえばだけど、ライカ」
「おや、どうされましたかな、先生殿?」
警備局の出動するために用意された場所に向かう道中、先生はライカに先ほど見たある少女のことを思い出し、聞いてみることにした。
「ここに来る途中、君と似た服装の子を見つけたんだ。何というか…カウガールみたいな」
「…!」
すると、彼女の表情には明らかな変化があった。瞳孔が見開き、何か思案を巡らせるように口元に人差し指を当てる。
「偶然かもしれないけど…もしかして知ってたりする?」
「…あ、あぁ…知っておりますとも。ですが──申し訳ない、その件については、これが終わった後でも構いませんか?」
「え?まぁ、いいけど…」
「恐縮です、終わり次第お伝えしますので、安心してくだされ。おっと、そろそろですな」
そうして、ライカと共に出動スペースに到着した先生は──またもや思考停止せざるを得なかった。
- 16◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:48:41
既に待機していた他の部隊の生徒と一緒に──最新鋭と思わしき銀色の機械馬が、そこに何十体か置かれていたのだから。
「…何これ!?」
「ハッハッハ、まぁ驚かれるのも無理はありませんな!しかし、これが我が部隊が
迅雷のごとし速度を持てる理由。そう──
それは、ミレニアムのエンジニア部に特注で作って頂いた、この我が部隊専用の機械馬達なのです!!!」
そうして胸を張るライカの隣で、先生はその光景に呆然とするしかなかった。しかも、ミレニアムのエンジニア部ということは、あの子たちが関わっていることになる。
「ウタハ…こんなことしてたんだ…」
「おや、知り合いで。まぁ、シャーレの先生ともなれば確かにおかしくはないですな。私の『馬に乗る機動隊を実装したい』という願いに、『それはロマンがある』といって、全面的に協力してくれたのです!」
「あれ、でもヴァルキューレって財政難だったはずじゃ…」
- 17◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:49:53
「あぁ、それでしたら──
これに関しては、私の自費ですな」
「嘘ォ!?」
予想外の返答に、思わず先生が突っ込んだ。
「いや、本当ですぞ?ミレニアムの会計担当に、ウタハ殿を通じて紹介して頂き、投資や資産運用について教えて頂きましたから。まぁ、教えてくださったユウカ殿は凄まじく変な表情をしておりましたが」
「そりゃそうだよ!?というか、ウタハは兎も角、ユウカの件は予想外すぎるというか…しかも、それで上手くいってるのが何というか…」
「ハハッ、上手くいってるのが意外だとは、よく言われますな。しかし、自分が思う理想像に対して、私は極力手を尽くす主義です。多少強引かも知れませぬが」
「…そういえば、どうして馬なの?警察官ってなると、パトカーとか白バイのイメージだけど…」
「あぁ、それはシンプルです。つまるところ──
- 18◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:50:50
『カッコいいから』ですな!」
「なる、ほど…?」
帰ってきた返事が、これまたベクトルが違いすぎて、段々自分の頭が麻痺してきてるのではないのだろうかと、先生は思い始めた。
「いえ、大事なことです。士気を高めるうえで、モチベーションの維持は必要不可欠。現に、私の部隊の子たちは、皆各々の機械馬に名前を付けるほど愛用しております故」
「そ、そうなの…?」
先生が彼女の部隊の生徒達に聞くと、誇らしげに自分が乗っていると思わしき機械馬を見せてきた。
「はい!かれこれ、私の『グルファクシ』とは長い付き合いです!」
「私も、『スレイプニル』にはいつもお世話になっていますね…」
「『グラニ』の足は、車よりも早く駆け抜けられますよ」
「………そっかぁ」
成る程、これはまた──カンナが頭を悩ませるのも無理はないだろう。
- 19◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:51:26
- 20◆J1qLHjcRhM24/10/04(金) 21:52:15
「そこはご安心を。私のロデオを舐めてもらっては困りますな」
「じゃ、じゃあ…」
そうして彼女の手を取り、その機械馬の後ろに何とか跨る。一気に視界が高くなったことで、先生は恐怖心が急にやってくるのを感じた。
「こ、こういうタイプの不安は久々だ・・・」
「ご安心を。最初こそ独特な視点に戸惑うかもしれませんが、直に慣れますが故」
「じゃ、じゃあよろしくね…」
「はい!それでは──ライカ隊、出るぞ!ハァッ!」
彼女の掛け声と共に、機械馬の中からけたたましい馬の嘶き声がでたかと思うと、
ライカの馬を先頭として、街の中へと馬たちが駆け出していく。
…ウタハの凝り具合は、相変わらずのようだった。
「…ところで、何で5世なの?」
「…それはですな。聞くも涙、語るも涙の話なのです。なんせ、この子は文字通り『5世』にあたるのですからな!」
「…お腹が痛くなってきた…」
- 21◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 00:03:17
今日はここまで。
明日また、ちょくちょく書く予定です。
ではまた。 - 22二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 09:14:10
馬可愛い
- 23二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 09:16:06
個性豊かなオリキャラに翻弄される原作キャラみたいな感じのノリか
- 24◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:36:20
「それで、どこへ向かうの?」
揺れる馬の上に、最初こそ慣れずにいた先生だったが、次第に乗る感覚が板につき始めた。それを確認しながら、ライカは行き先を指さす。
「えぇ、まずは最寄りの場所から。近くのドーナツ屋の前で、屯している者たちがいると通報がありまして。しかも相当の数の様でしてな」
「ドーナツ…かぁ」
「…フブキのことでも思い出しましたかね?」
「あれ、フブキとも知り合ってるの?」
「生活安全局のフブキとキリノは、カンナ先輩とも関わりが多少ありますから。必然的に、私ともよく会うわけです。まぁ、二人とも可愛い後輩ですな」
「じゃ、今から向かう先も、もしかしてだけど」
「フブキがよくいく店です。彼女のためにも、というのは多少私情が入ってしまいますがね」
- 25◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:37:44
その後、大きめの交差点があるところで、ライカは後輩たちに指示を出す。
「A班は左先にある橋の上の暴動を。B班は北東側で起きている抗争の鎮圧に向かってくれ。残りはこのまま私についてこい!」
「「「了解!」」」
彼女の掛け声に合わせ、交差点で部隊が複数に分散する。どうやら、各地で起きている騒ぎを、部隊を分けることでそれぞれ対処させる予定らしい。
「後輩たちのこと、しっかり信頼してるみたいだね」
「当然ですとも。彼女たちなら可能なはずだと思っておりますし、それにそういった経験を積ませていくことも大事だと思ってますからな。駄目だったとしても、その経験は必ず次の糧になります故。まぁその時は、私の腕不足といった所かもしれませんが」
そんな風に話しながら、馬を乗りこなすライカだったが──先生は、先のルートを見て、冷や汗をかき始めた。
「あの、ライカ…?」
「どうされましたかな?」
「…目の前、車が良く止まってる区間だけど、このスピードで大丈夫なの?」
「アッハッハ!ご安心を、先生殿!
全部飛び越えますが故!」
- 26◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:38:23
- 27◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:40:11
その後、ドーナツ屋の前に到着すると、15人くらいの不良生徒が屯しているのが見える。
ただ、中には入らず、あくまで店の前ではしゃいでるような感じだった。近くに馬を止めつつ、彼女の部隊は素早く戦闘態勢に入った。
「さて、一先ず抑えるとしましょうか──そこの者たち!店の前で何をしているのです!場合によっては営業妨害と判断しますぞ!」」
「あ?ヴァルキューレの奴か…へへっ、今日はしょっぴかれはしねぇぞ!」
すると、不良生徒達は各々の武器を手に取るが──その武器が少し妙だった。
「…先生殿、彼女たちの武器、いつもより若干ですが質の良いものになっております。何か資金を確保していたかもしれません」
「え?どこから資金源が…誰か裏がいるかもしれないってこと?」
「暴動そのものの件数も増えていましたからな──どうにもきな臭い」
「いつまでだべってんだ!?ならこっちから先に行くぞ!」
しびれを切らした不良生徒たちが、手に持った武器で乱射し始める。壁際に一旦退避し弾丸をよけつつ、ライカは先生の方を見てニヤリと笑う。
「先んじて撃ってくる以上、言い訳はもうできませんな。では先生殿、早速ですが、お手並みの程を拝見してもよろしくて?」
「OK、指示は任せて!」
「ありがとうございます!では──参る!」
- 28◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:42:10
そうして、彼女の部隊と不良生徒たちがぶつかり始めた。
後輩たちと不良生徒の実力はほぼ互角ぐらいであり、向こうの戦力増強に対し、先生の指示と部隊の彼女たちの戦闘能力でおあいこといった所だった。
その形成を有利にしたのは、隊長であるライカの技術だった。彼女は二丁の回転式拳銃を両手に持つと、素早く弾丸を連発していく。
しかし、凄まじいのはその連射速度だ。アサルトライフルの連射には若干劣るとは言え、とにかく弾数が多い。相手がノックアウトするまで、ひたすら弾を撃ち込む。まさにゴリ押しだ。
そしてそれを可能としているのが、彼女の高速リロードだった。撃ち切った後、空薬莢を弾倉から地面に落としつつ、懐から取り出したスピードローダーで素早く装填する。二丁共のリロードを含めた上で、その工程を僅か数秒程度で済ませていた。
「いやどんだけ撃つんだコイツ!?息の根を止めてやるって勢いで撃ってんじゃねぇか!?
クソッ、ならば一旦退避を…」
あまりにもライカが動きを止めないので、向こうも流石に驚いてしまっている。そして近くにあった車の影に退避し始めた。
「遮蔽物に隠れましたか──まぁ、関係ありませんがね」
- 29◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:43:33
- 30◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:44:33
- 31◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:46:02
しかし、それこそ彼女の思う壺だった。
「うむ、外に出ましたな!先生殿、後輩たちに指示を!」
「成る程ね、みんなよろしく!」
「了解です!撃て!」
すかさず姿が見えたところに、後輩たちが弾の雨を浴びせる。退避に専念したかった彼女たちからすれば、堪ったものではなかっただろう。
「一見はただ闇雲に撃っているように見えるかもですが──仲間と組むことで、この技術は戦術に早変わり、というわけですな。まぁ、こんなやり方は私だけで充分ですが。なんせ無駄遣いも多いものですからな、ハッハッハ!」
「無茶苦茶なのに、なんでこれで上手くいってるんだろうね…?」
暴力と知性が何故か無性にかみ合っているやり方には、先生も苦笑いをするしかなかった。まぁ、こういうやり方もありかもしれないだろう。カンナには今度、何か奢ってあげるべきかもしれないが。
- 32◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:47:23
- 33◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:48:19
- 34◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:49:33
腰に下げていたリボルバーは、おもちゃのものではなく、ライカと同じものになっていた。
どうやら、ここにいた6人を鎮圧したのは、彼女で間違いなさそうだった。
「…ライカ先輩?」
振り返った青紫色の髪の少女は、ライカと先生を見るとやや驚いた表情を見せた。
「…マワリ」
そしてライカもまた、同じように彼女──マワリという名らしいその生徒がいることは想定していなかったようだった。
「こっちの区画には、いなかったはずだけど?」
「少し前に、暴動が増えてな。支援要請を受けて来たのだよ」
「…必然的に会ったってことなのかな?まぁ、悪いけどこっちは私が片付けちゃったから。引き取るなら、どうぞご自由に」
「それはありがたいが──マワリ、君は今、何をしているのだね?」
- 35◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:50:14
二人の間には、どこか微妙な空気が流れ始めていた。会いたかったような、会いたくなかったような、そんな顔を二人ともしていた。
「私が何をしてるかって?…『義賊』だよ」
「『義賊』?」
「そっ。先輩は未だにヴァルキューレにいるみたいだけど──私は、自分のやり方で正義を為す。
ヴァルキューレが現状に手をこまねいているというのなら、私がそれをするつもりだったけど…思った以上に、今のヴァルキューレは前より足が早いみたいだね」
「まぁ、私が機動隊長になった以上は、少なくとも私の部隊は足の速さには自信があるからな。書類の手続き等は、カンナ先輩が上手くやってくれているとも」
「…カンナ先輩、かぁ」
そこで、マワリの視線が一層鋭くなる。そのワードは、彼女の琴線に触れたようだった。
- 36◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:52:21
「ライカ先輩は、未だにあの人と一緒にいるの?別に否定する気はないけどさ、あの人は私からすれば信用には値しないよ」
「何を言う、人は変わるのだ。君の知っている彼女と今の彼女は違う。シャーレの先生殿と会って、カンナ先輩は確かに一歩を踏み出した。そして元より、あの人は君が思うよりずっと誠実な人のはずだがね」
「そうだね──あなたならそういうと思ってたよ。でも、生憎私は違う。あなたほど、私はあの人を信用できない。──少なくとも、あのリベートの件以降から、ずっとね」
「──そうか」
何とも、重い雰囲気の中──マワリは、ふとライカの隣の人に目を向ける。
「…その人は?」
「シャーレの先生殿だ。君も、噂ぐらいには聞いてるだろう?」
「へぇ…その人がね」
すると、どこか含みを持った笑いで、マワリは先生へと近づいていく。
- 37◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:53:14
- 38◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 13:55:27
「やれやれ…悪戯好きなのは変わらないな、君は」
隣で見ていたライカが、そこで口を開き始める。
「マワリ。私には──お前が必要なのだよ。今のヴァルキューレなら、お前の望む正義が果たせるはずだと、私は思っている。帰ってこいとは言わない。せめて、話だけでも──」
と言いかけたライカを、マワリが止める。
「悪いけど、今は話す気はしないの。私がいない間に何があったかは知らないけど──私の気持ちは変わらない。お願いだから、ライカ先輩は私の憧れのままでいてほしいな」
そう言うや否や──別方向をハッとした表情で指さす。
「あっ、あっちの方で火の手が!」
「何ッ!?」
振り返った先生とライカの目の前で──マワリは何かを地面に転がした。
「嘘だよ」
突如、三人の間に大きく煙がたち、あっという間に身体が包まれる。
「これは…スモークグレネードか!」
「そっ。じゃあね、ライカ先輩!早い所、元の区画に戻ることをオススメするよ~」
その声と共に、タッタッタと素早く足音が遠ざかっていった。
「待て、話だけでも…」
そのライカの声も、彼女は聞き流していったようだった。
次に煙が消えた頃には──その場所に、マワリの姿は無くなっていた。
- 39◆J1qLHjcRhM24/10/05(土) 22:46:09
- 40二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 09:49:27
期待
- 41◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:34:15
- 42◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:35:26
「えぇ。私がこちらに来たタイミングで、彼女もまた暴動に乗じてやってきたようでした。
彼女は彼女なりに不良生徒達を取り押さえていましたが──我々、ヴァルキューレへの評価、特にカンナ先輩への印象は芳しくは無かったようでしたな…」
「…未だ私は、彼女からすれば薄汚れた警察官に見えているのだろう。自覚はあったが──そうか、こういう形でやってくるとはな」
その瞳には、どこか虚な影があった。ライカもまた、初めて会った時の活発さは鳴りを潜め、非常に静かになっていた。
その空気に耐えかねて、先生が二人に切り出した。
「…あの。二人は、あの子とどういう関係を持っていたの?」
その問いを聞くと、カンナは「少々お待ちを」といい、棚に並べられたファイルの内から一つを抜き出し、先生に見せる。
それは、生徒の名簿と思わしきファイルだった。そこには──
「…ヴァルキューレ警察学校一年生、警備局。『術業マワリ』…『自主退学』?」
- 43◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:36:45
「──彼女は、私とライカの元後輩です。今はもう、自主退学をしていますが」
「えぇ。警備局にいた際は、私が機動隊長になる前から親交を深めていた存在です。今日、このような形で会うことになるとは、私も想定外でしたがね」
「自主退学…一体何があったの──」
と先生が詳細を尋ねようとしたところで、オフィスのドアがガチャリと開き、先生としても見慣れた生徒が二人入ってきた。
「カンナ先輩、ライカ先輩の場所を知りませ…と、ここにいましたか!」
「あれ、先生もいるじゃん。奇遇だね〜」
生活安全局の、中務キリノと合歓垣フブキがカンナに差し入れを持ってきたようだった。しかし、どうも重苦しい雰囲気の三人を見て、二人は暫し固まる。
「…あれ?もしかして、お取り込み中でした?」
「ひょっとして、入るタイミング間違えたやつ?」
「いや、大丈夫だ。ライカに用事か?」
- 44◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:37:32
- 45◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:38:38
- 46◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:39:50
- 47◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:41:04
「あれ、マワリじゃん。っていうか…見ないと思ってたけど、自主退学してたんだ」
「わ、私も局が違う関係であまり顔を見かけませんでしたが…正直、信じられません」
意外にも、二人は先ほどまで話題に上がっていた生徒の存在を知っていたらしい。
「ん?二人はマワリのことを知ってるの?」
「はい、入学時に同じ学年でしたので…局が決まるまで、顔見知りではありました!」
「ま、私たちが生活安全局に入ってからめっきりだったけどね。警備局に行ったってことは知ってたけど」
「成る程…」
そこで先生は、二人に彼女に対してあることを聞いてみた。
「二人から見て、マワリはどんな子に見えたんだい?」
「え?そ、そうですね──」
- 48◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:42:26
キリノは少し考える素振りを見せた後、難しい顔をしながらも答えてくれた。
「よく悪戯を色んな子にしかけてて、本官も何度ひっかかった事か…でも、与えられた仕事はきちんとこなしていましたし、非常に正義感が強い人だった所は、本官としてもよく覚えています!
なので、私の知る限りではとても自主退学をするようには思えない人だったのですが…」
「まぁ、キリノから見れば、多分そんな感じだよね。私は少し違った印象を受けたけど」
それを聞いていたフブキも、つらつらと語り始める。
「んーと、良くも悪くも『理想主義者』って感じ。正義感が強いっていっても、正義って人によって定義が変わるじゃん?
その中でも、マワリの正義は『悪を倒す正義』だったんだよね。よく見るじゃん、映画やアニメで悪党が正義の味方に倒されるっていう流れ。
そういう存在を理想として持っていた素振りが時々見えたからさ。異様に早撃ちが上手かったのも、多分そこからだと思うし。
抜け目が無くて迷いがない反面、極端でせっかち。私はそう見えたかなぁ」
「フブキ…凄いよく見てますね…」
彼女なりの観察眼は、確かに戦闘面で幾許か拝見してたが、こっちの面でも目が良かったらしく、キリノは改めてそれを思い知ったらしい。
- 49◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:43:37
- 50◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:44:09
- 51◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:45:09
ヴァルキューレの外にある、休憩スペースの簡易テーブル。その近くにあるチェアに、三人は腰掛けた。ライカが、差し入れのドーナツとコーヒーを、手早く分けてくれる。
「どうぞ、先生殿。カンナ先輩も」
「あぁ、ありがとう──さて、先生。恐らくですが、聞きたいことがあるのでしょう?」
「…やっぱり、バレてた?」
「むしろここまでの流れを踏まえた上で、気にならない方が可笑しいでしょう。…マワリのことですね?」
カンナの言葉に、先生はこくりと頷いた。紙コップの中に入っていたブラックコーヒーを一口、三人は飲む。仄かな苦味が、これからの話をどこか予感させる気がして、いつもよりその味を深く感じる。
次に話を引き継いだのは、ライカの方だった。
「どこから話しましょうかね…当時、1年生として入ってきたマワリは、高い意欲と素早い判断能力を買われ、警備局に入ってきました。その時の私は一介の生徒でしかなく、彼女とはあくまで先輩後輩の関係でしたがね」
- 52◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:46:24
─────────────────────────────────────────────────────
《カルバノグ一章より前のこと》
「…さてと。やはり渋いブラックコーヒーとドーナツのセットは格別ですからな…では早速」
休憩時間、警備局内にある休憩室で、ライカは机の上に置いていた、ドーナツ屋で買ってきた自分へのご褒美に上機嫌になっていた。
まずは甘いドーナツを一口齧り、そして蓋付きの紙コップに入った「それ」を啜り──
「ブフォッ!?」
その中身を盛大に吹いた。空気中に、霧となった飲み物が舞う。
「こ…これは…麦茶…?しかも、凄く煮詰めて濃くしてある…」
「フフッ…引っかかったね、ライカ先輩?」
予想だにしない味に困惑したライカの後ろから、小さな声が聞こえた。
見れば、休憩室のドアの側に小さな一人の生徒が立っていた。
- 53◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:47:52
「これは…君の仕業かね?確か、今日警備局に来たばかりの…」
「そっ。私の名前はマワリ。術業マワリだよ。よろしく、先輩」
そうして部屋に入ってきたマワリは、反応を伺うかのようにライカの顔をちらりと見てきた。
「それでライカ先輩。私の悪戯、気に入ってくれたかな~?」
それに対してライカは──怒るわけでも叱るわけでもなく、笑ってみせた。
「…ハハッ。まさか局に来て初っ端、私に仕掛けるとはな!だが──うむ。これはこれで悪くないな。普段こういったものはあまり飲まないからな」
「…あれ?怒らないの?」
その反応に、マワリの顔つきはきょとんとする。
「何、犯罪者の悪事に比べれば、この程度の悪戯なんて可愛いものだろう?それに、新しく来た可愛い後輩の悪戯だ。これくらい受け入れなければ、この先機動隊長にもなれないだろう」
- 54◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:48:43
そうして、ライカはその煮凝った麦茶を一気に飲み干し──その渋さに負けず劣らずのげんなりした顔つきになった。
「…しっぶいなこれ…」
「…フフッ。あははは…先輩、そりゃ一気に飲み干したらそうもなるよ!少しずつでよかったのに!…はぁ、なんか気が抜けちゃった」
その顔にこらえきれず吹いたマワリは、ひとしきり笑った後──今度は、どこか澄んだ目でライカを見つめた。
「でも、私の悪戯で、怒らなかった人は初めてかも。ましてや、そういう私も含めて受け入れてくれるなんてね。…うん、決めた」
「ライカ先輩──私は、あなたに興味がわいたよ。せっかくなら、あなたの行く先で、私の正義を為すのも悪くないかな~って」
「…君の正義?」
「うん、その内話すよ。その時が来たらね」
- 55◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:50:16
- 56◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:51:52
「噂には聞いていたが…」
所変わって、射撃訓練場。
ライカとマワリが射撃の練習をしているところに、カンナがやってきていた。
機動隊に所属していたライカとマワリは、パルクールのように地形を移動する運動能力の元、めきめきと頭角を表しており、カンナからも存在を知られていた。
のではあるのだが──
「お前たち、揃いも揃って撃つ癖が強いな!?」
見ると、射撃訓練場に置かれた様々な銃を試していた二人であったのだが、そのほとんどが弾詰りをおこしていた。しかも、大半はオートマチックのものであった。
その原因は、恐らくは二人の撃ち方。どうにも、普通の撃ち方ができないのか、とにかく構えから発射までアクション映画でも参考にしたように動きが大仰であった。
「いえ、だってこっちの方が『カッコいい』ですからな!」
「そうだよ、ガンマンっぽくて渋いじゃん」
「参考にする基準がおかしいだろう!?基礎を見につけろ基礎を!!!」
- 57◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:53:00
- 58◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:53:40
「…通常の戦闘でクイックドロウなんて使わないだろう」
「でも、人質を取る人の銃とかはあっという間に弾いて奪えるかもね?」
「…否定はしない。はぁ…しっかりと当てられるなら、私も強くは言わん。ただ、他と同じく、通常戦闘の動きに合わせられるようにしておけ」
「うんうん、分かっているよ~、カンナ先輩」
「ライカの方も、二丁拳銃であることは聞いていたが…やはり似たもの同士というわけか」
ため息をついたカンナの前で、ライカとマワリは嬉しそうに拳銃を見せてきた。
「せっかくだし、カンナ先輩も、興味ありませんかな?」
「面白いよ、早撃ちと跳弾の練習。やる~?」
「誰がやるか!?お前らだけで充分だこの馬鹿共!!!」
- 59◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:54:58
────────────────────────────────────────────────────
「そっか、結構仲が良かったんだね」
「…私としては、随分と振り回されたものです。とはいえ、二人とも悩みの種ではあった分、働き者ではありましたから、現場では高頻度で助力を受けてきました」
「我々にできることといったら、精々それくらいでしたからな。ですが…」
そこでライカは、手に持ったドーナツを二つに裂く。ポロポロと零れた砂糖が、テーブルの上の受け皿の上に落ちていく。
「目敏い彼女は、ヴァルキューレの内部構造にも気づくのが非常に早く、私も知らなかったある事実に早々に辿り着いたようでした。…覚えていますかな、少し前にヴァルキューレ内部であった、違法リベートについて」
「あぁ、覚えてるよ。ということは──」
「…そこから先は、この件の発端ともいえる、私から話しましょう」
そうしてカンナの口から、マワリを含む三人の間にあった出来事が話され始めた。
- 60◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:56:36
────────────────────────────────────────────────────
《RABBIT小隊により、『クローバー』作戦が決行される少し前のこと》
「──カンナ先輩」
「…どうした、マワリ」
とある夜。雨が降り始めた外の窓を見ていたカンナの隣に、マワリがやってきていた。その瞳は──まるで敵を見据えるように冷淡だった。
「何なの、これ」
彼女は紙束の入った大きめの封筒を片手に持っていた。その封筒には、「TOP SECRET」と書かれた赤い色の文字が、濃く刻まれていた。
「──それは」
「──カイザーインダストリーと公安局の違法取引記録。最近のヴァルキューレの武装が急に強化されたのを不思議に思って、こっそり調べていたの」
「カンナ先輩。人を悪戯に騙す私だからこそ、隠し事をしている人の動きはある程度分かる。特に、普段から真面目かつ勤勉なあなたであれば、尚更ね」
「…………」
- 61◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:57:58
「内部の人間である私であれば、警備員の交代として潜り込むのは簡単。まぁ、取り出す際の監視カメラへの細工等々は手こずったけど」
「…お前、その中身を読んだ上で、私に話をしにきたのか」
ほとんど照明の消えた廊下は、突如走った外の稲妻によって、一瞬照らされる。空を切り裂く轟音が放った亀裂が、二人の間に現れる。
「極秘情報に触れる確率が高い人物となれば、それはカンナ先輩、あなたになる。そして今の反応で確信したよ。──この件を知って尚、あなたはこのリベートを止めなかった。そうでしょ?」
「────そうだ」
長く重い沈黙の後、カンナの口からそれを肯定する言葉が放たれる。それを口にする最後まで、彼女の表情は硬いままだった。
- 62◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 20:59:32
- 63◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:00:59
「ヴァルキューレ内部の財政状況は、非常に困窮している。一方で、キヴォトス各地の犯罪件数は、一向に減る気配を見せない。おまけに、武器や弾薬といった装備は、時間を重ねる程に劣化し、基準が更新されていく」
苦々しげに、彼女は現実に屈したかのように目線をそらす。
「あぁそうだ。犯罪を取り締まるために、私は別の犯罪をみすみす見逃している。だが、そうでもしなければこのヴァルキューレは機能しなくなってしまう。
私だって、こんな決断を望んだ訳じゃない!それでもしなければいけないのが現実だ!
お前が望むほど、世界は理想に溢れているわけではないんだ!」
「────ッ」
構えた銃を手に握ったまま、マワリは勢いよくもう片方の手でカンナに掴みかかった。
「冗談じゃない!悪人を倒すために、別の悪事を行うだって!?毒を持って毒を制すとでもいうの!?
他がどうかは知らないけど、少なくともそれを警察が唱えたら終わりだよ!
そんなあやふやな正義のままに進むなら、いっそ終わった方がましだ!」
- 64◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:02:07
「馬鹿を言うな!そうなれば、ここにいるヴァルキューレ生徒はどうなる!私には、彼女たちのその先を守る責任がある!その中にはおまえだって含まれている!そんなことも考えられないのか!」
「うるさいッ!!!関われば私にも責任がかかるとでも思ってるの!?そんなこととっくに分かってるよ!分かった上でこの現状を放置するわけにはいかないって言ってるのッ!」
「…クソッ、何でお前まで知ってしまったんだ…私だけが知っていれば、全ての責任を私に被せる事も出来たというのに!それを知ることで重荷を背負うのは、私だけで充分だったのに!」
「そんなのは自己犠牲ですらない!カンナ先輩は、ただ現実から目を背けているだけでしょ!!!」
「ッ…それは…」
廊下に響いた、互いの張り詰めた怒声。それに──通りかかったもう一人が、気づいてしまった。
「二人とも!そこで何をしているのだね!?」
──やってきたのは、銃を構えたライカだった。
- 65◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:03:08
- 66◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:04:22
「くっ…ライカ先輩まで、私を追ってくるの!?まさか、最初からグルだったって訳!?」
「グルとは何だね!?私は君たちが争っているのを聞いて駆け付けただけだ!一体何があったというんだ、カンナ先輩!」
「それ、は──」
「いいよ、どうせその人は話さない。お願いだからライカ先輩、そこをどいて」
そうして、ライカの隣を通り過ぎようとしたマワリの手から──ライカは書類の入った封筒を奪い取った。
「ッ!!!何するの、返して!!!それを見ちゃダメッ!!!」
「これが、君たちの争点の原因…これを見れば、きっと訳が──」
封筒から引っぱり出した書類を見たライカだったが──みるみるうちに、表情が青ざめていった。
「…何だというんだ、これは。
どうして、ヴァルキューレ公安局とカイザーインダストリーの間にこんな契約が…」
- 67◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:05:31
- 68◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:06:37
「そっか…先輩もなんだね。…じゃあ、無理だ。
私一人の証言なんて、戯言としか受け取られないだろうし。
それに──私ひとりじゃ、今ここで貴方たち二人には勝てない」
「いいよ。私は出ていく。好きな人が、好き『だった』人になるのって、こんなに辛かったんだ──久々に思い知ったよ」
ザッ、ザッ、とゆらゆらと揺れながら、マワリは書類を奪い返そうともせず、二人に背を向けて、街の中へとゆっくり歩き出していってしまった。
「ま、待ってくれ、マワリ…」
それに手を伸ばしかけたライカも、その手を途中で下ろしてしまう。彼女を引き留めたとして、今の自分に何を言えるのだろうか──その答えを、ライカは持ち合わせていなかった。
故に──マワリの後ろ姿が消えるまで、見ることしかできなかったのだ。
- 69◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:07:23
- 70◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:08:36
- 71◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:10:55
それを見たカンナは──自嘲気味に、静かに言った。
「いや──お前に非はない。この責任は、私にあるといったはずだ。私はどうなるかしらないが──お前なら、まだ何かできることがあるはずだ」
「カンナ先輩──」
「お前たちを馬鹿どもと言っていた私が、その実は一番の馬鹿だったというわけだ。私がいずれいなくなった後のヴァルキューレには──お前が必要だ。…後輩たちを、頼む」
「…承知、しました。ですが──あなたが残れるよう、私も尽力しますが故。あの子の正義を打ち砕いてしまった我々には、悔い改めてやるべきことは大いにあるでしょうから」
「…そうか」
カンナのその言葉に、ライカは帽子を下げたまま、返事だけを返す。そこにいた二人は、果たして警察官だったのか、犯罪者だったのか。
その答えは、誰も知る由もない。
- 72◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:12:07
────────────────────────────────────────────────────
「…リベートの件を知っていたのは、カンナだけじゃなかったんだ。でも──だとしても──」
「先生のことです、大元の責任は上にあるとでもいうおつもりでしょう。
ですが、それと我々の罪は別問題です。その罪が、こうして牙をむいてきたにすぎないのですから」
ブラックコーヒーには、カンナのどこか諦観めいた顔が映っていた。その顔は──RABBIT小隊が件の書類を確保する際に、話をしていた時の苦心の顔つきと似ていた。
「でも、私はシャーレが奪われた時、上の指示を無視して私を助けてくれたり、SRTに協力したりしてくれたカンナも知っている。少なくとも、今のカンナはあの時とは違うと私は思うよ」
「…そうでしょうか」
俯いたカンナに代わり、ライカが語り部を継ぐ。
- 73◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:14:43
「結果的に、この件は表に出ることとなり、暫くヴァルキューレは非難の対象となりましたがね。
現状は、色々な事があって私もカンナ先輩もヴァルキューレにとどまれていますが…要するに、私も愚か者の一人なのですよ。私もまた──責任から逃げた子供の一人だったのです」
「しかしだからこそ、私は考えました。カンナ先輩に、庇われたままではいけないと。ヴァルキューレの内部から、この現状を一新する存在が必要だと。それが例え、あの罪を償うことにならないとしても──後輩たちがいずれ引き継ぐ、ヴァルキューレには必要不可欠ですからな」
「そうして私は、今は機動隊長になった訳です。これが、発言権に関われるかはわかりませんが、いずれ、彼女が帰ってくるまでの席を開けるために──そう思った矢先の、今日の出来事でした」
二つに裂いたドーナツに、ライカは未だに手を伸ばさずにいた。その甘味が、今は喉を通らないようだ。
「…情けない。因果が巡るとは、このことでしょうな。マワリの失望した顔は──今でも、よく覚えております。私は、彼女の中の信念を折り曲げてしまったのです」
- 74◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:16:19
「──ですが、今ならば。私はこのためにここまで上がってきた。彼女をもう一度、この学校に引き戻すために。発言権を持てるほど、上層部にいずれ食い込む為に」
そう語るライカの姿は──罪を背負えど尚、それでも前に、誰かのために無理やり突き進まんとする意志があった。そしてそれは──カンナもまた同じだった。
「生憎、彼女は逃げ足が早く、我々が話をしようにも受け入れてくれないでしょう。
それに、私も今は各地の不良たちの対処で手一杯です。
…それでも、私はどういわれようと、彼女に自身の為したことについて話す必要があります」
「先生殿──どうにか、彼女と話せる環境を、私たちは作りたいのです。尻拭いを手伝わさせるように言っているのは重々承知の上です。そのうえで──我々に、手を貸しては下さらないでしょうか。どうか──この通り」
- 75◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:18:00
そう話す二人に──先生もまた応える。
「分かった。私も、君たちに協力しよう」
「…本当ですか?」
「生徒が自分に向き合い、相手に向き合い、そして前に進もうとするのなら──それを支えるのが、先生の役目だ。例え、それが間違いを犯した生徒たちだとしてもね」
「…すみませんな、先生殿」
「いいよ、気にしないで。それに──あの子を見て、思ったことがあったんだ」
「思ったこと、ですか?」
「うん──私も、気になったことがあって。ちょっと彼女と、話してみたくなったかな」
「はぁ…」
「さっ、食べちゃおっか。せっかくの差し入れだ、食べないと二人に悪いからね」
「それもそうですな…では」
そうして三人で差し入れのドーナツを食べ、コーヒーを飲み干す。そのまま二人と分かれ、先生はシャーレへと戻っていった。
- 76◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:18:29
- 77◆J1qLHjcRhM24/10/06(日) 21:20:00
本日はここまで。
次回から、マワリと先生のお話に入っていきます故。
明日の夜は更新が難しいので、また明後日にでも。
では、また。 - 78◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 07:29:48
- 79◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 18:00:04
少し暇ができそうなので、後ほど更新します〜
- 80◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:40:04
- 81◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:41:26
- 82二次元好きの匿名さん24/10/07(月) 21:42:37
このレスは削除されています
- 83◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:44:09
- 84◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:45:16
- 85◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:46:53
- 86◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:48:06
- 87◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:49:18
- 88◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:51:01
- 89◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:52:47
- 90◆J1qLHjcRhM24/10/07(月) 21:56:33
- 91二次元好きの匿名さん24/10/08(火) 08:29:18
残念…になるのかな?
なんとかなれば良いが - 92◆J1qLHjcRhM24/10/08(火) 19:40:02
保守
- 93二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 00:24:51
M1877はソリッドフレームなんだし、この「スピードローダー」は散弾銃用スピードローダーをダウンサイジングした物なんでしょうね。
- 94◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 08:14:32
もういっちょ保守。
今日の夜には、何とか更新できそうです。 - 95二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 11:35:38
どうなるかね
- 96二次元好きの匿名さん24/10/09(水) 18:48:36
宣伝頂いて前スレ共々拝見させていただきました。
良い(語彙消失)
長々と感想書き連ねるのもお目汚しなので一言だけ―。
カンナ、ライカ、マワリそれぞれに見ている物とか信念があって渋いながらも熱いお話しでした。
更新を楽しみにひっそりと応援させていただきます。 - 97◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:05:18
お待たせ!
続きを書いていきますよ~ - 98◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:06:31
- 99◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:08:05
「ふむ…マワリ。恐らくだけど──君は、もしかしてただお金が欲しいわけじゃないのではないかな?」
「…!」
「どちらかといえば──君は、やむを得ず大金を必要としている。そんな風に見て取れるんだ」
その先生の言葉はどうやら的中したらしく、マワリは半ば苦笑しながら頷いた。
「…うん。当たりだよ、先生。だけど…どうして分かったの?」
「まず、君は『義賊』と名乗っていたからね。この時点で、悪事というよりは善業を為すことが目的と見て取れる。そして、カンナとライカから聞いていたけど、ヴァルキューレを出るほどまでに正義に対して理想を持っていた君が、何の理由もなくこの行動をとるとは思えない」
「つまり、君はきっと君自身の正義故に、誰かの為に悪事を為そうとしている、と考えるのが自然な流れだと思うんだ。まぁ、若干好意的に見すぎてる部分があるといえばそうだけどね」
「………」
- 100◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:09:49
「もし君がいいというのなら──訳を、教えてほしいんだ。私は先生だからね。君も、私のとっては大事な生徒だ」
そこまで聞いていたマワリは、ふとベンチから立ち上がり、石を両側に置くことで作られた、小川のようなスペースに向けて歩き出す。
「…この辺りはね、今急速な土地の開発が進んでるんだ。それも、進めているのは、例によってカイザーコンストラクションなの」
「開発…」
「そう。ここ一帯に住んでいる人は、みんな生活に困窮していてね。お互いに助け合って生きてたみたいなんだけど…それにも限界が来ていたんだ。そこに彼らは目を付けて、ここの人たちの土地を、大金と引き換えに渡してほしいと持ちかけてきた。実際、既に多くの人が応じてしまってる」
「そして、この公園も、例によってって感じ。地方自治体が管理できないままに放置していたこの場所の所有権を、彼らが手に入れるのは造作もなかった。そりゃそうだよ、土地一つで多くの人の生活が楽になるんだから、ここの人たちにとっては魅力的な話だよね…」
「…でも、そうしていけば、いずれは──」
- 101◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:10:31
「そう。元より彼らは、多分ここら辺一帯を全部手に入れるつもり。今やってるのは、その前段階に過ぎない。
それに──彼らにとって、ここにいる人たちの行き場なんてどうでもいいんだと思う。実際、他の住処として提供された土地を見てきたら、もっと劣悪な環境だった。
…質が悪いよ、ホント。用意されてないより、ずっとね」
そう語りながら、彼女の握りこぶしに力が入る。ちらりと見えた横顔から、悔しそうに歯を食いしばっているのが見える。
「…だから、お金が欲しかったんだ。ここら辺全てとまでは行かなくても、せめてこの場所は──この公園だけは取り返したかった」
「この場所は、それだけ君にとって大事な場所なんだね」
「…私にとっては、もう一つの帰る場所だから」
- 102◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:12:00
マワリは一枚とった笹の葉を使って、一個の笹船を作った。それを小川に浮かべ、手を放す。流れに沿ってゆっくりと、笹船は底の浅い小さな池へと自然に進み始めた。
「先生は多分、先輩方から私のことをもう聞いてたんだっけ」
「そうだね。さっきの話で、多分分かっちゃっただろうけど」
「だよね…よっぽど信頼されてるんだね、先生って。
…なら、あの日、私がヴァルキューレから出ていったことも知ってるんでしょ?」
「先輩方と離れた後──私は、行くあてもなく彷徨ってたんだ。やがてくたくたになって、途方に暮れたまま、この公園のベンチに倒れ込んで、眠り込んじゃったんだ」
「…目が覚めたら、もう一歩も動けなくて。そうしてお腹もすかしてたら、私をみかけたらしい知らないおじさんがおにぎりを二つ持ってきてさ。
それを不審がってたら、他にも花屋の女将さんとか私よりちっちゃい子とかが、夜中に公園で独りぼっちだった私を見て、ブランケットやラムネを持ってきて、色々と良くしてくれたんだ。…本当に心細かったから、嬉しくてボロボロ泣いちゃって。今思い出しても、恥ずかしくなっちゃう」
「そっか…ここの人たちは、君にとって大事な人たちなんだね」
こくりと頷いたマワリは、流れていく笹船を目で追いながら、話を続ける。
- 103◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:13:39
「で、聞いてみたんだ。『どうして、見ず知らずの私にここまで良くしてくれるの?』って。
そしたら、私のヴァルキューレの制服を見ながら、『おまわりさんは、いつも私たちのためになってくれてるから』って。
──でも私は『もうヴァルキューレの生徒じゃないから、私はおまわりさんじゃないんだ』って、返したんだ」
「そしたら、『それでも、そのボロボロの制服を見れば、あなたが一生懸命に仕事をしてる人だったって分かる。せめて、その人が独りにならないようにしてあげたかった』って、みんな言ってくれたんだ。まぁ、その制服は使えなくなっちゃったから、その後捨てちゃったけど」
「その時に、私は思ったの。ヴァルキューレの警察官でなくなったとしても、私の正義を果たす理由がここにあるって。本当の意味で、街の『おマワリさん』になればいいって。それが『悪を倒す正義』だった私が抱いた、新しい正義──『隣人の正義』だったの」
「だから私は、義賊になろうって思ったんだ。それが、私の正義のイメージ的には近かったから…正確には違うかも、だけどね」
- 104◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:14:39
二人で、小川を進む笹船を眺める。その笹船が──石と石の間に挟まり、動きを止めてしまった。
「…でも実態は、何もしてあげられていないの。着々とカイザーコンストラクションは、この辺りの土地を抑えていくし、その途中ではかなり強引なものもあった。そこに私が銃を片手に挟まっても──何も出来ることは無かった。
私がそれを追っ払った所で──ここにいるみんなの生活が楽になるわけじゃない。結局、沢山の人たちが取引を飲まざるを得なかった」
「今は、ここの人たちの何でも屋みたいな感じでやっているけど、それだっていつまでも出来るわけじゃない…結局、どこかで終わりがやってくる。それならいっそ、全部解決できる楽な方法でやってしまおうって思っちゃったんだ」
- 105◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:15:46
石の間に挟まっていた笹船は、やがて水の流れに押され──転覆する。
そのまま、水に飲まれながら、浅い川底へと沈んでいく。
「先生──私は、全部中途半端なままなんだ。子供だましの戦い方、曖昧な信念、他人ありきの正義──どれをとっても、半端者。『義賊』っていうのも、嫌なことから逃げ出すための口実でしか無かったのかもしれない」
「──きっと、一番逃げていた卑怯者は、私だったんだ。カンナ先輩も、ライカ先輩も──私みたいに、あの場所を出ていかずに、ずっと逃げずに今でも戦っているんだって、今更気づくなんて──」
沈んだ笹船を眺めていたマワリの声には──嗚咽の籠った、泣き声が混じり始めていた。
時々、ひくひくというしゃくりあげるような音も聞こえてくる。それを必死に隠そうとしながら、彼女は無理やり笑い顔を作った。
- 106◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:16:38
「…なんで、だろうね。先生が真っすぐ見てくるせいか──嘘が、つけないよ。今日の銀行のことだって、本当は見張ってたんじゃなくて、ただ気を伺ってただけなの。やってることは、自分があの日、カンナ先輩に言ってたことと同じだって知ってたのに。分かってたはずなのに。それでも、私はやろうとしたんだ」
「先生がいなかったら──多分、私は──」
そうして両腕で顔を覆うようにして、マワリはその場に座り込んでしまった。その姿は、かつてヴァルキューレでライカと共に街を取り締まっていた警察官とは思えないほど、臆病で怖がりな子供のように見えるのかもしれなかった。
「…………」
マワリを見ていた先生は、ゆっくりとベンチから腰を上げ──川の底から「それ」を引き上げる。
そして──優しく声をかけた。
「マワリ」
「逃げたかったら、逃げてもいいんだよ」
- 107◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:17:28
「…え?」
顔を上げたマワリの目の前には──川底に沈んだはずの笹船を乗せた、先生の掌があった。
「人生を歩む中で、誰もが何かの問題に直面する時がある。その時、その問題に正面から立ち向かえる人っていうのは、とても強い人であるけれど、誰もがそうあれる訳じゃない。
当然、目を背けたり、逃げ出してしまうこともある。その結果、その人にとって大きな痛みが、回り回ってやってくるかもしれない」
「…だけど、そこで終わりじゃない。それが全てじゃない。逃げたからこそ、見えてくる景色がある。分かる世界がある。それは──同じ弱さを持っている人たちに寄り添うための、大きな力になってくれると私は思うんだ」
「逃げた後に、次こそはって立ち向かってもいい。逃がしてくれた誰かのために、何かを尽くしたっていい。逃げた先で出会った誰かのために、生きたっていい」
「消えない過去のその先で──今の自分にできることは何か。その先の未来を自分が望むものにするために、最善を尽くしていけばいいと、私は思うよ」
- 108◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:18:24
- 109◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:19:23
その後、二人でブランコの上に座る。軋んだ金属の音が、微かに耳に残った。
「でも、結局どうしよう…お金がないと、権利も土地も買い戻せないし…ヴァルキューレには戻れないし…」
「そうかい?二人は、君のことを思ってくれていたけど」
「…カンナ先輩も?」
「うん。二人とも、マワリと話したがっていたよ。彼女たちは、君にしてしまったことを酷く後悔していたみたいだった」
「…そっか」
しかし、マワリの表情は暗いままだった。行き場を失った両手の指は、もどかしげに互いに絡まったり緩んだりしていた。
「ごめん、先生。やっぱり…私、まだ勇気を持てないよ。二人と会った時…何を言ってしまうか分からないんだ。もしかしたら、やっぱり二人を傷つけちゃうかも」
「…そっか」
道理は分かっても、感情はすぐに整理が付くとは限らない。人間は、そう簡単に理想通りには動けない。それもまた、苦い現実の一つだ。
「分かった。──じゃ、気分転換しよっか」
- 110◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:19:55
- 111◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:20:35
30分後──二人は、あるファミリーレストラン内の席に着き、注文した品を待っているところだった。
「お待たせしました、こちら和風ハンバーグセットが二つになります!ごゆっくりどうぞ!」
店員が持ってきたハンバーグセットの皿からは、ほかほかとした湯気が上がっており、如何にも食欲を掻き立ててくる。
「うわぁ…ハッ!」
それを椎茸目になりながら涎を垂らしかけていたマワリだったが、ふと気づくと顔を振って表情を戻した。
どうやら、先生が自分をほほえましげに見つめていたのが恥ずかしかったらしく、顔を赤らめながらそっぽを向いた。彼女が見せていた飄々とした悪戯っ子の裏には、どうやら様々な一面があるようだ。もしかしたら、意外と感情豊かなのかもしれない。
「ふふ、美味しそうだね。さっ、冷める前に食べよっか」
「そ、そうだね…頂きます」
- 112◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:21:32
肉の生地にナイフを滑らせれば、ソースと絡んだ肉汁が広がっていく。切り分けた一欠けらをフォークに刺し、彼女は口へと運んだ。
「どうだい?」
「ふ…んふふ…」
そうして頬張るマワリの顔は、随分と満足げのようで、年相応の女の子が見せる、ありふれた幸せの一部そのものだった。それだけで、先生にとっては守るに値する価値のある世界だった。
「喜んでもらえたなら何より」
「…あんまり見つめないでよ、先生。食べにくいよ…」
「ごめんごめん、あんまり美味しそうに食べるからつい、ね」
「…そうして先生みたいな素直な人、ちょっと苦手だけど嫌いじゃないよ。ライカ先輩も、そんな人だったから」
「あはは…私より彼女は、自分に正直そうだからね」
その後、二人で暫しの食事の時間を楽しむ。黙々と味を堪能したマワリは、一息つきながら、窓の外の青空を見上げた。
- 113◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:22:30
- 114◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:23:45
すると、先生は事前に買っておいたあるものを取り出す。
「…それは?」
先生が取り出したのは、あるガムの箱だった。
「一枚どうぞ」
「え?…うん」
マワリは何故急にガムを取り出したのかと不思議がりながら、恐る恐る一枚を指先でとる。特に何かあるわけではなく、その一枚は無事彼女の手に渡った。
「さて、マワリ。君は今、私から一枚ガムを貰ったわけだけど、その時に何か思ったことはあるかな?」
「えっ?い、いや、どうして急にくれるのかなって思いはしたけど…」
「それとは別に──君の手は、無意識に警戒していたんじゃないかな。前に、君は私にガムで悪戯を仕掛けたわけだから、同じことをされるかもって思ったりもしたと、私は予測したんだ」
「まぁ、確かに思わなくはなかったよ…でも、先生でしょ?そんなことはしないと思ったから、多分手に取ったんだと思うけどさ」
- 115◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:24:27
「そう。君は今、私が仕返しをしてくるという『疑い』よりも、私がそういうことをしないだろうという『予感』を選んだ。或いは、上回ったともいうべきかな」
「そこには、確証も裏付けも、証拠もない。いわば、不安定ながらも君はそっちを優先し、選択した。これを言い換えるなら──私への『信頼』と言うのかもしれない」
「信頼…」
「うん、君は『信用』はよくしてるのかもしれないけど、『信頼』したりされることにあまり慣れていないのかもしれない。そこに絶対は存在しないし、裏切りがあるかもしれないからね。君が逃げ出してしまう背景には、これがあるのかもと思ったんだ」
「どういうこと?『信用』と『信頼』って違うの?」
- 116◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:25:35
「『信用』は『信じて用いる』。『信頼』は『信じて頼る』。どちらも生きる上では必要なスキルだけど、似ているようで信じた後の行動はまるで違う。
『信用』はあくまで自分が主にあるけど、『信頼』は相手に重きを置いている。勿論時と場合によるけれど、相手に身を任せる勇気は、時に自分を救ってくれる。
君が逃げてしまったと思っている彼女達は、君が『信頼』するに値する存在だと、私は先生として保証できるよ」
「…本当に?」
「あぁ。君が私を『信頼』してくれたように──君と彼女たちも、互いを『信頼』できるようになること。期限は決めないから、それが私から君への当面の宿題かな」
「……難しいなぁ」
「そうだね。大人でも難しいことだ。私だって、できてるか今でも分からない。だけど、それができた時──きっと、君は今よりも大きく前進できるはずだよ」
「…分かった。普段はあまり気乗りしないけど…先生の言葉なら。できるかは分からないけど、やってみるよ」
「そうしてみて。少なくとも、やる価値はあるはずだ」
- 117◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:26:37
先生の言葉に頷いたマワリは、決意を固めたように両手を胸の前でぐっと握る。
するとその時、レストランの別の席から、何やら誰かが怒鳴る声が聞こえてきた。
「おい、どうなってんだ!?この店の店員は、まともなスープも出せないのか!?」
「ちゃんと味くらい確認しとけ!それでも料理人か!?」
「ですが、私はウェイターに過ぎないのですが…」
「あぁん!?言いがかりか!?」
どうやら、また例によって不良生徒がいちゃもんをつけているようだ。本当に、前に比べて数が増えたように感じるのは気のせいだろうか。
「もう、うるさいなぁ…周りの人にも迷惑なのに。ねぇ、先生?」
「ん?どうしたマワリ?」
すると、それを見たマワリが、頬付きをつきながら質問した。
「先生からすれば、こういうのは止めるべきだと思う?」
- 118◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:27:20
- 119◆J1qLHjcRhM24/10/09(水) 21:29:35
今日はこんなところで。
一つ、書きたかったシーンは書けた気がしてるかな。
これで大体、プロットの1/3から半分くらいって感じですね。じっくり書いてくよん。 - 120二次元好きの匿名さん24/10/10(木) 07:34:44
保守
- 121◆J1qLHjcRhM24/10/10(木) 17:35:29
保守
- 122◆J1qLHjcRhM24/10/10(木) 22:36:52
明日の夜にまた更新する予定かな。もうちょっとお待ちを。
- 123◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 09:50:30
もういっちょ保守
- 124二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 20:46:01
このレスは削除されています
- 125◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:47:17
- 126◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:48:34
「私の見た所では、貴方たちは相当腕が立つ方々と思って。そういった人に対して、周囲が見合っていない待遇をしてるのは、私としてもあまり良くないんじゃないの~ってね。つい声をかけちゃった」
「お、おう…なんだ、よく分かってんじゃねぇか。そうさ、うちらのメンツにかけても、ちゃんとここにはうちらのことを分からせるべきだと思ってよ」
「だと思った~。まぁ、ここは私の顔を立てて、ってことで穏便に見てよ。あとで良いもの奢ってあげるからさ」
「はぁ…ったくしょうがねぇな。話が通るやつがいて助かったぜ。先に聞いとくが、そこはいいとこなんだろうな?」
「勿論。味の違いが分かるであろうあなた方も、きっとお気に召すはずだよ」
マワリは彼女たちに、まるで理解者になるかのように接している。店に迷惑をかけているはずの彼女たちに対して、叱咤するどころかまるで後押ししているかのようだった。
最初こそ警戒していた彼女たちだったが、フランクながらも下手にでる彼女に、徐々に警戒心を解き始めている。
- 127◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:49:20
「それにしても、カッコいい銃持ってるなぁ…ねぇ、良かったら見せてほしいな」
「え?銃をか?」
「ほら、私の銃ってちいさな拳銃でさ、おまけにちょっと使いにくいし。あまり他のタイプの上等な銃に触れる機会とかが無いの。勿論、無理にとは言わないけど…でも、よく手入れされてるように見えるから、そこも参考にしたいしなぁ…ね、その分の代金も追加で払うからさ!」
チラチラと、マワリは彼女たちの持っているアサルトライフルの方を気にかけながら、さも羨ましそうな視線を向けている。その視線が心地よかったのか、渋っていた彼女たちも最後には折れた。
「分かった分かった!お前の態度に免じて、少しだけだからな!」
- 128◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:50:01
「わーい、ありがと!これが追加の代金ね!うわぁ…惚れ惚れするなぁ」
アサルトライフルを受け取ったマワリは、それを両手に目を輝かせながら、構えたりマガジンを差し直したりなどしている。そうして、その場にいた三人の不良生徒たちの銃を、交互に触っていく。
「ほらよ、満足したか?ったく、キヴォトスじゃ基本的に命の次に重要ともいえる銃を誰かに渡したりしないんだぞ?ここはお前の態度の免じてだからな」
「分かってるってば。それに、そういうことなら、逆に私の銃を見てくれないかな?」
「ん?何でだ?」
「これだけ手入れを施している貴方たちなら、私の銃のちゃんとした手入れも分かるんじゃないかな~って。どうにもタイプが違うかもしれないけど、助言を頂けたら嬉しいなって」
- 129◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:50:40
- 130◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:51:28
- 131◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:52:28
「は…?え…?」
銃を手渡されるとばかり思っていた生徒は、もろに弾丸を腹に食らい、その場にもんどりうった。
そこに立て続けに、頭部目掛けてマワリは銃弾を2発叩き込む。急所を含めて計四発の弾丸をくらい、その不良生徒はノックダウンした。
「な…てめぇ!?やっぱり乗せやがったな!?」
すぐさま、側にいた二人の生徒が置かれていた銃を手に持ち、構えてトリガーを引いた。だが──
その銃から、弾丸が発射されることは無かった。
「あ、あれ?弾が出ねぇぞ!?」
その隙に、リボルバーに四発の弾丸を装填し終わっていたマワリは、すかさず三発ずつ彼女たちの頭部に弾丸を撃ち込んだ。頭に衝撃を食らった彼女たちの意識は、もろに持っていかれていった。
- 132◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:54:44
- 133◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:57:06
「ごめんごめん、お待たせ先生。店員さんにあの子たちを引き渡すのに、ちょっと時間がかかっちゃった」
「一部始終を見てたけど…あぁいう感じにやるとは思わなかったよ」
「警戒心が強い人とかだと効かないけど、あの子たちなら多分大丈夫そうだって思ってやってみたって感じ。まぁ、騙し打ちみたいなものだから、卑怯かもしれないけどね?」
「いや、下手に戦闘になれば、周囲に被害が出ることもあるしね。良かったんじゃないかな?」
「そう?言っても相手を騙すわけだし」
「やり方は人それぞれさ。マワリのやり方でしかできないことだってあるから、一概には否定しないよ」
「そっか…なんかちょっと意外かも」
すると、外の方から若干金属質な感じが混じった、蹄の音が聞こえてきた。それが鳴りやんだかと思えば、ヴァルキューレの生徒たちが入口からやってきて、気絶している3人の不良生徒たちの連行作業に入り始めた。
そしてその中には──彼女がいた。
- 134◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 20:58:30
「…あ」
機動隊長でもある、玄翁ライカその人であった。
「先生殿!それに…マワリ!?何で二人がここに一緒にいるのですかね!?」
「あ、あはは…えーっと、これには訳があって…」
困り顔でひきつった笑いをしながら、マワリは席を立とうとした。どうやらまた逃げようとしているようだ。
だが──ふと、彼女は先生から貰ったガムが、机の上にあったのを見る。それを見た瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。
「…………」
ライカと入口の方を交互に見ていたマワリだったが──やがて、落ち着いたように席に着き直した。そして、先生が見守る中でライカに声をかけた。
「ライカ先輩──ちょっと、外で話したいんだ。…良いかな?」
- 135◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:01:37
その後、夕方の焼けたような赤い空の下、ライカとマワリは川沿いの道の上にいた。
二人だけで話す時間と見たのか、先生は「行っておいで」と席を外してくれた。マワリとしては、正直居てくれた方が心強かった気もするが、これが彼女自身の問題であることも分かっていたため、今はそれが最善なのだろうとマワリ自身も受け入れていた。
近くの自動販売機でブラックの缶コーヒーを二つ買ったライカが、片方をマワリに向かって軽く投げる。その缶を、マワリも慣れた手つきでキャッチした。
「まさか、君の方から話を持ち掛けられるとは思わなかったが…私としても、ありがたい話ではあったがね。どういった心境の変化があったのか気になるが」
昨日まで、話すつもりなどないとマワリから伝えられていたライカとしては、こうして対面できることすら現状は難しいと思っていたようだった。
それに対してマワリは、頬を指先で少し掻きながら、若干後ろめたそうに微笑する。
- 136◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:02:47
「ええと…先輩から多分、シャーレの先生に仲介を頼んだんでしょ?こう、それが思った以上に効いたというか…その…」
段々もじもじとし始めたマワリを見て、思わずライカは吹き出した。
「ハハッ…そうか。確かに彼に『マワリと話をできるようにお願いしたい』と頼み込んだのは私とカンナ先輩だが、たった一日でとは。あの人の為せる業というところか──」
「…………」
「それにしても、こうして顔を合わせて話すのは久しいな。今でも、私の銃を使ってくれているのは、嬉しい限りだよ」
ライカはそう言いながら、買ったコーヒーの缶についてるプルタブを引き、手すりに寄りかかりながらコーヒーを少し口に含む。その隣で、マワリもまた同じように缶のプルタブを引いた。
- 137◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:05:35
「…別に、他に合う銃が無かっただけだよ。先輩なら知ってるでしょ、私の撃ち方の癖は凄いってこと」
「確かに、それもそうか。我々二人とも、カンナ先輩にはよく呆れられていたものだ。オートマチックのタイプの銃を使ったとたん、瞬く間に弾詰まりの連発だったからな!」
「…ふふっ、そうだね。まぁ、この子たちも一応ダブルアクションのものではあるけど…あの時は楽しかったなぁ…」
二人はホルスターに入った互いのリボルバーを見る。どちらも同じコルトM1877であり、使い込まれ、よく手入れされている点まで含めて瓜二つだった。
「…逆に先輩も、私のあげた銃をずっと使っているんだね」
ライカは腰にもう一つホルスターをつけており、そちらには銃身の長いリボルバーが入っていた。シングルアクションアーミーの一つ、バントラインスペシャルをモデルにしたような拳銃だ。
- 138◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:07:35
- 139◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:10:23
「だが、昨日相まみえた時──君は、私が未だヴァルキューレにいることを否定しなかった。それだけで、君の気高さが見えた気がしたよ。
逆に──私は、自分が情けなかった。あの日のことを思い出して、胸が詰まるような気分だった」
「…………」
隣にいたマワリも、その言葉に徐々に俯き始める。
「…改めて、どうしても言いたかった。例え許されないとしても──これだけは、筋を通さなければならないだろうと」
「すまない、マワリ。あの日、君の信念を打ち砕き、絶望させたのは──紛れもなく私だった。君に書類を手渡そうとしなかった時点で──私のそれはただの偽善であり、怠慢であり、罪過だった」
「…本当に、申し訳なかった」
- 140◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:11:29
そして、ライカはマワリに向けて頭を下げた。長く伸びた影が、まるで彼女が抱えていた闇を映しているようで──それが、マワリの瞳にも影を宿させる。
「……うん。あの時、確かに私はあなたに失望した。それは、変わらない事実だと思うから、その謝罪を私は受け止めるよ。だけど…」
頭を下げたままのライカに、マワリは歩み寄る。
「…私も、先輩方に謝りたかったんだ」
「何、だと…?君はあの件に関して、何も非など無かったではないか。あれは、私と彼女が犯した過ちに過ぎないはずだ」
「ううん、あの時私は、正しさを追い求めるばかりに、目の前にいる人を信じる事を忘れていたんだ。隠蔽をされるんじゃないかという疑心で焦るあまりに、二人を『信頼』することができなかった」
- 141◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:13:15
「ヴァルキューレを出た後、一人で彷徨う中で、自分一人じゃ何もできない現実を突きつけられて。その上で、自分が背負う大事なものができた時、それを思う余りに道を踏み外す危険を思い知ったんだ。
…あの時多分、カンナ先輩も同じ事を考えていたのかなって、今では思うよ」
空になったコーヒーの缶を、強くマワリは握り込む。メキメキという音と共に、彼女の手の中で鋼のようなプライドが折れていく。
「結局、私もあの人と同じ一人の人間にすぎなかったんだ。
生きる中で、どれだけ正しくあろうとしても、根幹を忘れたらあっという間に行き先は逸れていく。しっかりと照準を定めないと、弾はあらぬ方向に飛んでいく。
現に今日──先生がいなかったら、私はきっと犯罪を犯してただろうから」
「…そうだったのか。そこまでに──私たちは、君を追い詰めてしまったのか…」
- 142◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:15:58
- 143◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:16:44
- 144◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:17:43
「…カンナ先輩は元気?」
「あぁ、今でも公安局の局長をやっているとも。だが、あの日のことと、自分が犯した罪のことは今でも忘れていないようだったがね。マワリ、君にも謝りたがっていたようだ」
「…そっか。あまりこっちには来てなかったし、向こうも私の行方は知らなかったはず。悪いことしちゃったかもなぁ」
「どこかのタイミングで、彼女にもあってくれると、私としては嬉しい。彼女もまた、君に謝罪する機会を欲しがっていたからな」
「じゃ、今からヴァルキューレに行けば会えるかな?私も謝りたいし…」
「いや、今日は確か別の現場に出向いていたはずだったかな。会えるとしたら、明日になるだろう。マワリが良ければ、私から彼女に伝えておくが、どうかね?」
「じゃ、せっかくだしお願いしよっかな。こういうのはなるべく早い方が良さげだしね。前に使っていた連絡網は切っちゃったから…ライカ先輩、これを」
マワリが提示したスマホの画面を通じて、ライカはマワリと再びモモトークを繋ぎ直した。
- 145◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:18:35
「うむ、任された。積もる話は、一旦それが終わってからにしよう」
「…先輩は、私が逃げるとかは思わない?」
「思わないとも、こうして私たちが向き合ったのだからな。『信頼』すると決めたのだよ、私は」
「…ありがと。じゃ、また明日本部で。コーヒーごちそうさま、先輩」
「うむ、こちらこそ。次は何か食べに行くとしようか」
「うん!じゃ、またね!」
そうして、どこかへと満足げに走り去っていったマワリの後ろ姿を、ライカは見守っていた。その姿が見えなくなると、肩の荷が降りたようにホッと一息ついた。
「やぁ、お疲れ様」
「おや、先生殿…待たせてすみませんな」
すると、遠くから見守っていたらしい先生が、ライカの元へと歩いてきた。
「話は無事終わったかい?」
- 146◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:20:01
「えぇ。おかげさまで、彼女に気持ちを伝えつつ、逆に彼女からも真意を多少ながら聞くことが出来ました。
先生殿がマワリと話してくれたからこそです、改めて感謝を」
「ふふ、力になれたなら何より。まぁ、私は後押ししただけで、踏み出したのはマワリとライカ自身だよ。君たちの勇気が、君たちを変えたんだ」
「…そう仰ってくれるのは、私としてもあり難きお言葉。私も、一歩を踏み出せたのであれば良いのですがね。
あとは、私を介して二人が話せるようにしておきます、ここからは私共で解決できると思います故。
先生殿、誠にありがとうございました。今度何かしらの形でお礼をさせてくだされ」
「ふふ、そう言ってくれるなら、ちょっと期待しておくね。それじゃ、私はここらで。また吉報を待ってるよ」
「えぇ、ではまた」
そうして先生と別れた後、ライカはスマートフォンでそのまま連絡を始めた。
「さてと…残るはマワリとカンナ先輩が立ち会うのみですな…もしもし、カンナ先輩?マワリの件なのですが──」
- 147◆J1qLHjcRhM24/10/11(金) 21:21:27
今日はここまで。
続きを書く時間が取りにくくなりそうなので、更新はちと遅れるかもです。
気長にお待ちくだされ。ではまた。 - 148◆J1qLHjcRhM24/10/12(土) 08:40:08
保守
- 149二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 18:23:37
二人とも大変だなぁ
- 150二次元好きの匿名さん24/10/12(土) 22:58:07
このまま何事もなく済めばいいけど
- 151二次元好きの匿名さん24/10/13(日) 08:01:23
悪い方にいきませんように
- 152◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 18:41:11
お待たせしました、後ほどある程度書いたら更新していきます故。
- 153◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:38:33
「…ふう。勇気をもって踏み出すのって…凄く疲れるんだね」
マワリは暗くなった夜道の中、街灯の明りを頼りに例の区画へと帰っていた。
今日もまた野宿になるだろう。あの公園にまたお世話になることになってしまうが、幸い区画のみんなはそれを黙認してくれている。
「とはいえ、どこかでちゃんとした住まいを手に入れないと、流石に気が引けるというか…ん?」
そうしてマワリが公園に戻ろうとする道中、どこからか誰かが駄弁っているような声が聞こえてきた。
どうやら、空き地の隅で不良生徒たちが、銃を片手にはしゃいでいるようであり、その集団にはどこか見覚えがあった。
「あれは…確か銀行強盗をしようとしていた…でも、あんな新品の銃じゃ無かったはず」
マワリは銃の違和感に気づき、近くの壁沿いにこっそりと隠れ、話を盗み聞きする事にした。
「いやぁ、こいつはありがてぇな!ヴァルキューレに暫く没収と言われた時はどうしようかと思ったが丁度替え時だったし、銃を新しくできたのは連中さまさまだぜ!」
「あぁ、全くだな。それにしても──
この区画外の各地で暴れてくれるなら最新装備をくれるなんて、カイザーの奴らどういう心変わりなんだ?」
- 154◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:40:01
「…何?」
──彼女たちの武器が新しいのは、カイザーコーポレーションの社員からある取引を持ちかけられたからだと言うのだ。マワリはその言葉を聞いて、最近のシラトリ区における不良生徒達の数が、増えていたことを思い出す。
「…もしかして」
そこで、最近自分が不良生徒たちを諫めた場所を、スマートフォンのマップ上で確認する。更に、自分がよくいる区画をそこに照らし合わせると──
「…この区画を中心として、どの場所も外側に外れている…?」
つまり──最近出没数の増えた、暴動を起こす生徒達の出どころは、この区画内から取引に沿って外に出た不良生徒だったということになるのだろうか。
そういえば、今日みたくさっき見た生徒という訳でもなければ、倒す相手の顔なんて名乗られでもしない限り一々覚えたりもしなかった。故に、各ポイントで倒した相手が、この区画内にいた不良生徒ということに気づくことも無かったのだろう。
- 155◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:41:16
或いは、区画内の住人同様に追い出された生徒が、行き場を失った結果こうなったという可能性も無くはない。
「でも、何のために…?これをカイザー側がするメリットは何…?」
やっていることは、人の移動と、暴動の誘発──そして、がら空きになった土地。
何か嫌な予感が、マワリの胸の中でとぐろを巻き始める。
その時──ふと交差点で視界の端に捉えた影があった。
更にその方角から、整列の取れた複数の足音が徐々に大きくなってきた。そして影の正体を見た瞬間──マワリの予感は、ほぼ確定してしまった。
「──まさか」
その足音が、彼女の心をひやりと凍てつかせていく。
すぐさま、公園へとマワリは駆け足で向かい始めた。とめどない冷や汗を振り払うほどに身体を前に進めた彼女が、やっとのことで公園に到達した時。
そこには、既に先客がいた。
「──カイザー、PMC…!」
- 156◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:42:23
公園は既に、「立入禁止」のテープでふさがれ、中にはカイザーPMCの兵士やコンストラクションから来たらしい社員が何かしらの調査を始めていた。どうやら、公園内部の地質や面積、事前情報の確認を済ませているところだった。
そうだ──忘れていた。この公園の所有権は、既に彼らに譲渡されていた。
この場所をどうするかを決めるのは──今や、カイザーコンストラクションの自由なのだ。
「あなたたち──何を、しているの」
わなわなと震える身体を抑えながら、マワリは調査をしている兵士に聞く。
「何をしているの、だと?今後のための事前調査だ。部外者は立入禁止だ、早く離れておけ」
「事前調査…?この公園で、何をしようっていうの?」
マワリの質問に、兵士はさも当然と言わんばかりに、その理由を告げた。
「そんなの簡単だろう。こんな古びて錆び付いた公園、今や無価値に等しい場所なんだぞ?」
「ここら辺一帯を含めて、今後の有用活用のために更地にするのさ」
- 157◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:43:30
「──は?」
「ここの近隣住民もほとんどいなくなった訳だし、別に文句は無いだろう?
この辺りが住みにくくなったとかで、大体の住民は別地区に移動したわけだからな」
「────」
周囲に耳をすませば、区画内の音がいつにもまして静かになっていた。
子供たちの喧騒どころか、物音ひとつすら無くなっている。それが意味するのは、既にそこにはいなくなっているということだというのか。
「まぁ、元々そいつらがいた所も、既に彼らと交渉して買い取った場所だったからな。いつまでも居座って貰うわけにもいかないから、さっさとどいてもらったって訳だ。何か言い分でもあるのか?」
「そんな──じゃあ、この区画から、みんな追い出したってこと…?」
「おいおい、こちらはちゃんと事前告知をしたんだぞ?それを聞かなかった向こうの問題点だろう、それは」
「まぁ、だからこそ移動先の保証まではしてやれなかったがな。劣悪でも、場所を提供するだけあり難いと思ってもらいたいものだ」
- 158◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:45:03
「…馬鹿に、しないで」
気づけば──マワリの一人走りする悪癖が出ていた。
「──足元を見て、脅すようにもちかけたのはお前らだっただろうがッ!!!」
眼を見開き、目前の兵士たちを睨みつけながら激昂したマワリは──ある忌々しい記憶を思い出していた。
区画内で最初に自分にご飯を提供してくれた人が、銃を片手に持った兵士に脅される形で、契約書に署名をさせられていたことを。
そして──それを見ておきながら何もできなかった自分がいたことを。
「おや、何のことだ?我々が取引を持ちかけて、向こうが了承した。そこにお前のようなガキが入る隙間があると思うのか?まぁ、最も向こうは断れなかっただろうがな」
「やっぱり──分かった上で、持ちかけていたんだな…!」
「だからどうした。遅かれ早かれこうなるんだ。さっさと移動しておけば、生活の下準備くらいはできたかもしれないがな。そんなところまでの負担など見れん」
- 159◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:46:02
「ッ──この──」
そしてそこで、腰のホルスターに手を伸ばしていたマワリは──その銃を見て、ふと我に帰った。
そうだ、また一人で突っ走るわけにはいかない。
踏みとどまれ、思い出せ。
自分にとっての課題であった点を忘れるな。
荒くなった息をゆっくりと抑えながら、マワリは腰に近づけていた手を、ゆっくりと引いていく。
「──いや、それはそうだ…大人しく立ち去るよ。邪魔したね」
「何だ、聞き分けがいいな。なら、さっさと家に帰ることだ」
厭味ったらしいセリフに内心唾を吐きながら、マワリは公園を後にした。
暫く歩いた後、周囲を一度確認した上で路地裏の小さい場所でモモトークを開いた。
「まずは、この件を先輩と先生に相談しないと……最近、増えている暴動の理由も、多分──」
- 160◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:46:51
- 161◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:48:49
「とっくに、罠が張られてたなんて…」
「気づいたところで逃げられると思ったのか。ここはもう既に──我々、カイザーグループの領域内だ。
お前の帰る家も──どうせもうないだろう?」
「…クソッ!!!」
ホルスターからリボルバーを抜き、即座に数発撃ち込みながら、マワリは路地裏の壁を交互に蹴り上げ、家の上へと上がる。そのまま、屋上伝いに敷かれた包囲網から脱出を試みた。
「…!?」
だが──飛び移ろうとしたした空中で、待ち構えられていた四方八方の兵士たちから、蜂の巣のように弾を撃ち込まれてしまった。
「う…がっ…!!!」
そのまま体勢を崩し、マワリはコンクリートの地面へと転がり落ちる。
キヴォトス特有の頑丈な身体も絶対というわけではなく、食らったダメージは多大なものだった。
「駄目…ここで、倒れたらッ…何も伝え、られない…」
- 162◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:50:20
傷だらけの体を無理やり引きずりながら、射線から無我夢中で退避しようとしたマワリだったが──それを向こうが逃がしてくれるはずもなかった。
多勢に無勢。圧倒的な数の暴力を覆せるほど、彼女一人でどうにかできる力は残っていなかった。
「落ちたぞ、抑えろ」
「ッ……!!!」
再び、カイザー兵の重機が、火を噴く。無数の弾の雨を食らい、意識を手放しかけたマワリが思い出したのは──先ほどライカと交わした会話だった。
(「…先輩は、私が逃げるとかは思わない?」
「思わないとも、こうして私たちが向き合ったのだからな。『信頼』すると決めたのだよ、私は」)
「倒れて…たまるかぁ…!」
撃たれた身体に走る激痛に耐えながらも、マワリは葉を食いしばりながら逃走を再開した。
- 163◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:51:20
────────────────────────────────────────────────────
一方──マワリとカイザーPMCとの一悶着が起きる、ほんの5分前のこと。
「いや~、思ったんだけどさキリノ…」
D.Uシラトリ区内某区画の付近にて、制服姿のキリノとフブキが夜道を歩いていた。
「…この夜中のパトロール、いる?」
側で目を凛々と輝かせながら歩くキリノに、フブキはドーナツを片手にしながら、若干ため息交じりに聞いた。
「当然です!フブキも、今のシラトリ区がどうなっているかは知っているでしょう?
日夜問わず、あちらこちらでいつも以上に悪事に手を染めている生徒たちが増えているこの現状!
私たち、生活安全局が動かないでどうするのですか!」
キリノはいつにも増してやる気満々といった様子で、辺りを見まわしている。まるで、目の前でいつ事件が起きてもおかしくないと言わんばかりに。
- 164◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:52:36
「そういいながら昼間だって動いてたじゃん。それに、今は局を移るために張り切りすぎる必要もないんだし。
あとは他の人に任せてさ、私たちは休もうよ~」
「そういうフブキは昼間は局内のオフィスでお茶をすすってたじゃないですか!?
この大変な時にそんな呑気では駄目ですよ!せめて昼間の分も兼ねて、私と一緒に動いてもらいますからね!」
「面倒くさ~…ま、でも仕方ないか。本部の中もなんかピリピリして、居心地悪かったしね。ところでさ、なんでこの辺りを選んだの?」
フブキが疑問に思うのも無理はなく、普段彼女たちはこの辺りの巡回に行くことは無い。
彼女たちがよく回るのは、もっと都心部の駅周辺ということもあり、こちらのような密集した住宅地付近を率先してやるのは珍しいともいえる。
「実はですね、これは街中を巡回している生活安全局だからこその視点というべきか…各地に出動していたヴァルキューレの生徒が、あまり行っていない場所があると思ったんです」
「それがこの辺りってこと?」
- 165◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 22:59:27
「はい。あと、昼間にその点から行ってみた時、何故か急いで移動している人たちが多く見えまして…」
「唐突な引っ越しラッシュ…にしては不自然だね。一族大移動でもあるまいし」
「私も正直、そこの理由までは分かりませんが…」
「うーん…なんか複雑なことになってる予感がするねぇ。余計なことに首は突っ込みたくはないけど」
そうして、フブキが袋からもう一個のドーナツを取り出そうとした瞬間──
そう遠くないところから、複数の銃声が聞こえてきた。即座に二人は、その銃声に反応する。
「これは…どこかで事件が!?」
「いや…それにしては変だね」
「変?」
聞き返したキリノの前で、フブキは顎に指先を当てて顔をしかめる。
「なんかさ、妙に統率が取れてるというか、断続的な音な感じしない?」
「…確かに、そうですね」
「ひょっとしてだけど…」
そこで二人は顔を見合わせると、銃声の聞こえた方へと走り出した。
- 166◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:00:17
そうして音の現場に辿り着いた二人は──すぐさま気づくことになる。
「カイザーPMCの兵士が、こんなに…!?」
「…!」
そこかしこを警戒し、徘徊しているカイザーの兵士が多くいた為、フブキはキリノを引っ張り、慌てて物陰に隠れた。
「フブキ、突然何を──もがっ!?」
「キリノ、静かにして──成る程ね…だからか」
(いや、何が成る程なんですか、説明してくださいよフブキ!?)
キリノの口を慌てて塞ぎ、小声にさせながらフブキはキリノに説明する。
(キリノが言ってたじゃん、この辺りはヴァルキューレ生徒が来ていないって。
今、どこもかしこも大変だっていうのに、この辺りだけがその枠組みから外れている。つまり、この辺りでヴァルキューレが出動する事件が発生していないということは──そもそも事件を起こす奴らがいないってこと
。耳を傾けてみなよ)
(えっ……あっ、そういえば何というか、物音ひとつしないほど静かなような…
あっ、昼間の大移動…!?)
- 167◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:01:27
- 168◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:09:27
- 169◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:11:53
- 170◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:12:49
(…マワリさん!?)
(いや、何でここにマワリがいるのさ!?)
体中に弾痕が刻まれ、道路に倒れ込んだマワリの姿だった。キリノとフブキはあまりのことに声が出そうになるが、それを何とか喉の奥に引っ込めた。
そして、地に伏したマワリを、後ろから追っていたカイザーの兵士が近寄る。そのまま首元をひっつかんだかと思うと、近くの壁へと投げ飛ばした。
「あ…が…」
「どうだ?鬼ごっこは楽しかったか、正義の味方気取りのお子様よ?」
投げ飛ばした兵士が、壁際にもたれかかったマワリの腕をひっつかんだかと思うと、取り出した分厚めの手錠を後ろ手にさせながら、マワリの手首にガチャリとかけてしまった。
「ほら、行くぞ。さっさとついてこい」
「…は…放、して…」
そうして、マワリは近くに止まったカイザーの車両に、無理やり詰め込まれようとしていた。
(こ…)
(これって…)
(誘拐現場そのものじゃない〈です〉か────────────!!??)
- 171◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:13:55
暗闇から一部始終を見ていたキリノとフブキは、決定的瞬間を目の当たりにしたばかりに、口を開けながら絶句してしまった。
(どうするんですかフブキ!?このままじゃマワリさんが連れていかれてしまいますよ!?早く飛び出して止めないと──)
(いや駄目でしょ…この現状で、二人で勝てるわけないし。うーん…)
今にも発車してしまいそうな車両の前で、フブキは頭を急速に回転させる。正直疲れる頭仕事はしたくなかったが──やむを得ない。
(じゃ、キリノ──飛び出すのはいいから、こう動いてくれない?)
「よし、乗せたな。早い所こいつを運び──」
「あ、あの!すみません!」
「──何だ、お前は」
マワリを車へ押し込み、どこかへ移動をしようとしていたカイザーの兵士の前に、キリノは単身で飛び出していった。
「何故、ヴァルキューレの生徒がここにいる?」
「え、えっとですね…実は…」
そこで目を泳がせていたキリノだったが──やがて、情けなさそうに苦笑しながら言った。
- 172◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:17:33
「わ、私この辺りが初めての巡回で…道に迷ってしまったんです!それで、帰りたくても帰れなくてですね…」
「…お前、警察官の癖に迷子なのか?」
「う、うぅ…ご、ごめんなさい、そうなんです…スマホの電源まで切れてしまって…お、お願いです、最寄りの駅まで連れてってくれませんか!」
「…はぁ?何で俺がお前のようなドジの面倒見なきゃいけないんだ!?」
「ひっ!?そ、それはそうですよね…す、すみません…やっぱり忘れてください」
「ったく…こっちは急いでるんだ。他の奴に頼め」
「わ、分かりました…」
「ほら、とっとと行け!」
そうして不機嫌そうにキリノを突き返した兵士は、あまりにキリノが不出来な警官に見えたのか、それ以上詮索もせずに車に乗り込むとエンジンをかけ、どこかへと走り出してしまった。
「…はあぁ~~~~~・・・こ、怖かったぁ…」
キリノはその場で、力が抜けたかのようにへなへなと座り込んでしまった。
- 173◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:18:48
「いやぁ、名演技だったね。お疲れ様~」
「フブキィ!!!本当に凄く怖かったんですよぉ!?…それで、そちらは上手くいったのですか?」
半分泣きべそをかきながら確認を取ったキリノの前で、フブキはグッドサインを上げる。
「お陰様でね。車体の下に潜り込んで、GPSの発信装置を取り付けてこれたよ」
「あぅう…良かったです。それまで失敗してたら私の苦労が水の泡になるところでした…」
「まぁまぁ、上手くいったからいいじゃん。さてと──じゃ、次の手を打たないとね~」
「次の手…そ、そうですね。兎にも角にも、この件に関してはカイザーコンストラクションも言い逃れはできませんからね!」
「そうだね~。んじゃ、あの先輩方に連絡する前に──ここを早く離れよっか。ほら、バレないように行くよ?」
「ま、まだ危険が続くんですか!?うぅ…早く安全な場所に行きたい…」
そうして二人は、未だカイザーPMCの監視の続く区画から、こっそりと抜け出していった。
- 174◆J1qLHjcRhM24/10/13(日) 23:21:27
本日はここまで。一波乱起き始めたね…
半分は越えてるかなって感じです。
またある程度書けたら更新します。
ではでは… - 175◆J1qLHjcRhM24/10/14(月) 09:26:36
保守
- 176二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 19:40:56
お手柄だな
- 177◆J1qLHjcRhM24/10/15(火) 07:00:41
一旦保守。
- 178二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 16:18:56
果たして何が出るかな
- 179二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 21:26:19
言うのもあれだけど
フブキがちゃんと仕事してるの珍しい - 180◆J1qLHjcRhM24/10/15(火) 22:48:17
次スレの分を考慮して、今日はお休みで。
暫く更新が遅れるかもですが、気長にお待ちいただければ幸いです。 - 181◆J1qLHjcRhM24/10/15(火) 23:45:04
こちらのスレの方が、マワリのイラストを描いてくれました!
感謝…!
あにまんブルアカのいろんなやつ描いてみるスレ Part2|あにまん掲示板https://bbs.animanch.com/board/3964543/の続きbbs.animanch.com - 182二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 08:37:57
かわいい
- 183二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 15:05:58
ポンチョいいね
- 184二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 20:34:14
ヘイローがリボルバーになってるの可愛い
- 185◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:00:19
ヴァルキューレ公安局のオフィス内は、夜中であろうと慌ただしい真っ最中にあった。右往左往と動く生徒たちの中、現場からそのまま本部に戻ったカンナは各地の暴動の情報を見て眉をしかめる。
というのも、不良生徒からの聞き込みで新たに得た言伝が、カンナの脳内では既に組み込まれていた。
尋問に折れた彼女たち曰く、持っていた新武装の元を探ると出てきたのは、何とカイザーコンストラクションによる取引だったということである。
各地での荒事を引き起こすかわりに、彼女たちの望む新たな武器やその弾丸を提供する──かつてヴァルキューレの起こしていた不祥事が頭をよぎり、カンナはそれを苦々しく飲み干すように、コーヒーの入ったマグカップを手に取る。
「相変わらず、向こうは手段を選ばないな。だが、これに関してはどうにも痕が残りすぎてる──バレたところでとでもいうのか?」
すると、公安局のドアが開き、黒いテンガロンハットの女子生徒が規律正しい姿で入ってきた。たった今まで、出動していたライカである。
「──色んな事が急ピッチで起きているようですな」
「ライカ、戻ったか。一旦は沈静化が進んだということか?」
- 186◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:01:47
「いえ、完全には。ですので、今は部下に任せつつ情報の精査を兼ねて一度相談をと。このままでは埒があきません故。あと──それとは別にもう一つ、マワリの話をしに」
「…そうか。丁度、闇雲に取り押さえるところから次の段階に入らなければと思った所だ。それに…その話は私もしようと思っていた。まずはこの件を一段落させつつ、その後腰を入れて話そう」
カンナはライカに、こっちにこいと手招きの仕草をする。それに反応してライカが彼女の前にあったPCを覗き込むと──
「これは…やはり気づいておられましたか」
「あぁ。お前も現地に行く中で気づいただろうが…」
彼女たちが凝視する画面の中にはシラトリ区内のマップが映されており、無数に赤い点が刻まれている。点の位置は、まさしくここ最近あった暴動現場の位置だ。
「明らかに暴動が起きていない不自然な箇所がある。それもかなり大きめだ」
「確かにこの辺りには行きませんでしたからな。不思議には思ってはいましたが、もしや何か?」
- 187◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:03:46
「聞き込みをした暴徒共から聞いたが──奴らの新武装の出所は、カイザーコンストラクションだった。契約に応じて、引き換えに各地で騒ぎを起こすように頼まれたそうだ」
カンナが手に入れた情報に、ライカは目を丸くする。そして、カップに注ごうと持っていたコーヒーポッドを危うく落としかけた。
「──何と。では件の暴動の増加の要因は、例の企業にあると?」
「可能性はある。丁度この空いた区画──ヴァルキューレの生徒の大半は今も鎮圧に追われている影響で、ここら一帯の状況を上手くつかめていなかった」
「現状が把握できない──もしかすると、意図的にこの状況が作られているのかもしれませんな」
「だとすれば、今一番怪しいのはこの区画だ。ライカ、洗いたい情報がある。この区画の土地の所有権を持っているのは今どこか調べてくれ」
「承知致した。暫しお待ちくだされ」
- 188◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:04:51
近くにあるPCを借り、該当する住所の土地の情報をライカが精査していく。
「…成る程。ここ最近で、ほとんどの所持元がカイザーコンストラクションに移行しておりますな。どうやら、一度更地にしたうえで工場を建てる予定のようで」
机の上で肘をつきながら、カンナは両手を顔の前で組む。目の前に広がる地図を見ながら、その上で浮かんだ疑問をライカに投げかけた。
「──どう思う。連中は一体この区画で、何故こんなにも急いで動き始めた?それも、こんな回りくどい手を使ってだ」
「ふむ…急がないといけない、よほどの事情でもできたのでしょうかね。
或いは──何かを隠すため、目をそらせるためとか。ですが、秘密裏に建設するにしても、人員や建材の移動が必要なはず。いくら監視が薄くなれど、そんな大がかりなものを道中で見逃すとは思えませぬが…」
「…いや、一つのことに集中していると、他のことに目が行きにくくなりやすい。何か、巡回中にあった普段と違うことは無かったか?」
- 189◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:06:11
「違うこと…うーむ…」
両手を組みながら、首をかしげていたライカは、そこでふと画面を見て何かに気づいたようだった。
「──カンナ先輩。この区画って確か、昔廃線になった古い地下鉄がありませんでしたかな?」
「何だと?」
そこでカンナは、すぐさまその地域の情報を照らし合わせると、確かに使用されなくなった古い地下鉄や駅があることが分かった。しかも、該当の区画の地下というドンピシャの位置である。
「・・・地下鉄道を使った物資や人員の移動か!」
カンナは近くにいたヴァルキューレ生徒に、至急で指示を伝えた。
「この区画付近の路線のカメラの情報と、列車の通行履歴を調べろ。操作されている可能性を考慮し、情報通信局にもデータを送っておくこと。
それと、ここの区画付近を担当していたハイランダー鉄道学園内の部署にも確認を取れ」
「は、はい!」
そうして幾人もの生徒たちが、バタバタと駆けだしたり、電話を取り始めた。
- 190◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:07:20
「使われなくなった廃線ともなれば、ハイランダーの管理下を外れている路線があってもおかしくない。
管理下にある区画外の路線では許可を取ったうえで、そのまま上手く秘密裏に廃線内に物資を持ち込んでしまえば、輸送経路のルート構築が容易になる」
「成る程。であれば、道路上では車両による移動などがほとんど不必要になる。建材や人員なども、路線を通じて運び込むことが可能になります」
「あぁ。だがもし、仮に我々がこの事に気づかずに資材が運び込まれた後だとして、この急ぎ運び込まれた秘密裏の資材は、どこで使われることになる?バレてはいけない資材を使う場所があるとすれば──」
- 191◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:08:32
一旦ここで切っておきます。
続きは次スレで… - 192◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:39:22
- 193二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 08:10:15
立て乙
- 194二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 18:30:18
- 195二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 05:42:09
建て乙