【二次創作SS】LAST DANCE

  • 1『幸せの鐘が鳴り響き』24/10/11(金) 22:23:59

    キレイだった。

  • 2『いちご水』24/10/11(金) 22:24:44

    目に差し込む光。薄いピンク色のカーテンを通して色がついているそれで、今が朝だと知る。

    知らない香り。知らないベッド。話しかけてきた蒼い髪の少女がいなければ、夢だと考えてまた寝るところだった。

    「よかった、目が覚めたのですね」

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 22:25:40

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  • 4124/10/11(金) 22:26:15

    少し冴えてきた頭が状況を把握するようこちらに命令してきた。
    けれど、最近ろくろく話もしていなかった口は思ったように動かず。
    ここはどこ、とか。あなたは誰、とか。そういう聞きたいことが浮かんでは消えていく。
    最後にくぅ、とお腹の虫が鳴って。

    「まずは、食事にしましょう」

    目の前の少女は笑った。

  • 5124/10/11(金) 22:29:22

    「樹海で倒れていたのです」

    蒼森ミネと名乗ったその少女は、私の無様をパンを千切りながら語る。

    「なぜ、あんな所に?面白いものがないとは言いませんが」

    あそこは持っていた方位磁針が狂い、ハチやアブやヘビに襲われて散々な目に遭った。理由を聞くのはとても自然なことだ。
    スープをひとくち飲む。かぼちゃのポタージュは温かくて、心の奥底にあるものまで溶け出していくようだった。

    「…静かなところに行きたくて」

  • 6124/10/11(金) 22:30:21

    彼女はこちらの瞳をじっと見つめ、やがて咀嚼していたパンを飲み込む。

    「あまり深くは聞きませんが」

    彼女の左手が、私の右手にそっと触れる。包帯は新しいものに替えられていた。

    「自分を大切にしないような行動は謹んでください」

  • 7124/10/11(金) 22:31:09

    その後、特に何かを喋るわけでもなく。
    朝食はつつがなく終わり、低いテーブル越しに顔を突き合わせる二人だけが残った。

    「よろしければ」

    彼女の話し始めは唐突かつ大きな声なので、自らのやましい所を咎められているのではないか、と不安な気分にさせられる。
    私の顔色が変わったのに気付いたのか、その後は抑えぎみになった。

    「この部屋に、何日かいてはいかがですか」

    不可解な提案。なぜ、と問いかけると、

    「ここは静かです」

    それに倒れたばかりなのですから安静にしなくてはいけません、と続けた。

  • 8124/10/11(金) 22:31:35

    優しい言葉だ。私の事を心から気遣ってくれている。
    でも私にその価値はないと、断ろうとした。
    断ろうとした、のに。
    うまく、言葉が出なかった。久しぶりにまともなものが入った胃を中心にして、甘く拒絶の意志が蝕まれていくようだった。

    「ありが、とう」

    彼女は笑う。
    陽光の中で微笑む姿は綺麗で、守れなかったあの子を少しだけ思い出した。

  • 9124/10/11(金) 22:32:05

    「お名前を聞いていませんでしたね」

    彼女がこちらを見つめるのは疑っているのではなく癖なのだと、この辺りで気付いたと思う。
    エメラルド色の瞳は鮮やかだった。

    「改めて、私は蒼森ミネ。トリニティの救護騎士団団長です。あなたは?」

    委員会の名前を出そう、という気持ちにはなれなかった。
    私はその立場にふさわしい人間ではないと思っていたから。

    「御稜ナグサ。ただの、学生」

  • 10124/10/11(金) 22:33:23

    先を見てない人間なんで遅筆だと思います(客観視)

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 22:33:37

    期待

  • 12『Purple Jelly』24/10/12(土) 07:37:39

    街中で途方に暮れる。
    パフェは食べられないかもしれないな、とこの状況にふさわしくない呑気なことを、頭の片隅で考えていた。

  • 13124/10/12(土) 07:38:25

    スイーツを食べに行きませんか。そう言われて見せられたスマホの画面には、巨大なパフェの画像があった。

    「一人では食べられないほどでしょう」

    ミネはこんな風に何かと理由を付けては、私を元気付けようとしてくれていた。
    例えば暇にならないよう小説を買ってきてくれたり、膝枕をしてきてくれたり。

    いつでも彼女は「あなたのため」とは言わなかった。
    それが嬉しくもあり、寂しくもあった。

  • 14124/10/12(土) 07:39:09

    ミネとはぐれたのは徹頭徹尾私が悪い。

    日曜日のトリニティは3大校のひとつだけあって人が多く、波に呑まれるようにして私はいつの間にか彼女を見失っていた。

    スマホは持っていない。樹海で倒れたときに無くしてしまったらしい。
    もともとあまり使う方ではなかったので不便には思っていなかったが、こういう時は困ってしまう。

  • 15124/10/12(土) 07:40:34

    ここに留まってミネが見つけてくれるのを待つかどうか悩んでいると、遠くに視線を感じた。
    その方向へふと目をやる。

    見覚えのない少女がひとり立っていた。
    金色の髪はぼさぼさで、靴も履いていなかったし服は服というよりむしろ布切れに近かった。
    彼女はにいっと笑ってこちらに手を振り、そのまま振り返って駆けだした。

    「えっ」

  • 16124/10/12(土) 07:41:39

    付いてこい、と暗に言っているように感じた。
    感じたが。

    確かにここにいて合流できる可能性は少ない。しかし見知らぬ人を追いかけるのも同じレベル、いやそれ以下なのではないか。

    一瞬迷ったあとに走り出す。
    理由は特になかった。強いて言えば、あの子の目が綺麗だったから。
    誰も通らない街中を走る私たちは、傍目から見ると風変わりな不思議の国のアリスに見えたかもしれない。


    何度目かの角を曲がった頃、少女の姿は見えなくなっていた。その代わりに、古ぼけた掲示板と、日に焼けて色褪せた貼り紙がひとつ。

    『お困りでしたら ヴァルキューレ・トリニティ支部へ』

  • 17124/10/12(土) 07:42:15

    朝はここまでで

  • 18124/10/12(土) 17:44:56

    「あの、迷子になっちゃったんですけど」

    私は交番の中にいた警官さんに話しかけた。

    制服のベルトをきつく締め、姿勢よく座っていた警官さんは一瞬砂漠でオアシスを見つけたかのように顔を輝かせ、それからすぐにきりっとした顔に戻った。

    「ああ、道案内ですね」

    「いえ、人とはぐれて」

    「スマホは持っていないんですか」

    「無くしてしまって」

  • 19124/10/12(土) 17:45:16

    30秒にも満たない会話の中で、私に対する心象が子供に向けるそれのようになっていくのを感じる。
    顔が熱かった。あの女の子についていかなければよかったとも思った。
    それでも警官さんは私の手助けをしようとしてくれた。
    住所や名前、年齢を聞いて、書類を書く。
    その目は真剣だった。

    「付き添いの方のお名前を教えていただけますか」

    だから、私の無知のせいで彼女を傷つけてしまったことは、今でも後悔している。

    「蒼森ミネさん、といいます」

  • 20124/10/12(土) 17:45:58

    あからさまに、目の前の彼女の顔つきが変わるのを感じた。
    それは敵意であるような、虚脱感であるような、嘲っているような。
    少なくともいい印象は持たれていないと感じた。

    「そう、ですか。ミネさんは確か、救護騎士団の番号で繋がる筈です」

    備え付けの電話のボタンを手慣れた手つきで押し、いくらか話をしたあと、警官さんは力が抜けたようにパイプ椅子にもたれかかった。

    「すぐに来るそうです。5分ほどですかね」

  • 21124/10/12(土) 17:48:59

    ミネが交番へやってくるまでの何分かの間、警官さんは何も喋らなかった。
    今思うと、耐え忍んでいたのだろう。

    静かさがこらえられなくなる直前にミネは来た。
    全力で走ったのか、ちょっぴり息が上がっている。

    「よかった、ナグサさん」

    ミネが警官さんに気づく。

    「ありがとうございました」

    礼を言う。私も頭を下げて追従しておく。
    警官さんは顔を下に向け、少し震えている。

    「では、行きましょうか」

    手を強く握られながら外に出ようとして、誰かが呼吸をする音がやけに大きく聞こえることがわかった。

    「楽しいかよ」

    声が聞こえて振り向く。警官さんは泣いていた。

    「私たちの仕事を全部奪ってする親切は楽しいかよ!」

  • 22124/10/12(土) 18:29:17

    パフェが目の前にあっても、食欲は起きなかった。

    「なにか、悪いことしちゃったかな」

    丁寧に接してくれた彼女へ、気づかないうちに不快な思いをさせてしまったのかもしれない。
    それだけで胸がいっぱいになった。

  • 23124/10/12(土) 18:31:33

    「彼女は元々、SRTの出身だったようです」

    クリームとマスカットを皿に取りながらミネは言う。

    SRT。連邦生徒会長直属の部隊。存在意義を失ってしまって、散り散りになった学校。
    その影響力は百花繚乱や正義実現委員会など比べ物にならないほど大きかった。

    ミネは口に運んだマスカットを不安になるほどよく噛んでから飲み込み、こちらを見つめる。

    「ヴァルキューレの権限は、この自治区では特に弱いですから。自由に活動ができる我々を見て、つい辛くあたってしまったのだと思います」

    「ですから、ナグサさんのせいではありません。むしろ柔軟性のない、私たちトリニティの規則が原因でしょう」

  • 24124/10/12(土) 18:32:55

    紫色のゼリーとアイスをすくって、こちらの皿に置いてくれる。

    「食べましょう。糖分は脳の栄養です」

    パフェは甘くておいしかったけれど、考えていたのは別のこと。
    連邦生徒会長の失踪で、SRTは解散した。

    彼女たちがあんな風に無力感に苛まれているのならば、私が抜けたことで解散してしまった百花繚乱。
    あの子たちは、どう思っているだろうか。

    副委員長をやめておいて、勝手なことを考えてしまう自分が情けなかった。

  • 25『ディズニーランドへ』24/10/13(日) 06:04:54

    がやがやと、歓談を続ける人々の中で、私は自らの行動を後悔していた。

  • 26124/10/13(日) 06:06:21

    ミネの家に泊まって数日経った後、私は何もしていない、ただ一方的に親切にしてもらうだけの状態が苦痛になっていた。

    救護騎士団の仕事で手伝えることはないか、と何度も聞き、ようやく彼女が絞り出したのが病院の慰安訪問だった。

    「落ち着いてきたようですが、無理は禁物です」

    という彼女の忠告を無視して、私はトリニティで一番白い建物へ向かうことにした。

    すぐに後悔することになる。

  • 27124/10/13(日) 08:04:09

    私は季節外れの新入り、という事で特にお婆さんやお爺さんから色々な事を聞かれた。

    趣味、好きな食べ物、出身地…
    どれも平凡でつまらないものだったと思うが、辛抱強く頷きながら私の話を聞いてくれていた。時折笑ってくれてもいた。

    でも、内心はどう思っているかはわからない。
    演技が下手な自分ですら、二年間百花繚乱の副委員長を務められたほどだ。
    老成した彼ら彼女らは、より自分の心を隠すのが上手だろう。
    言ったことを聞き返されるたびに、気分を害していないかとびくついた。


    彼らは私と話していて楽しいのか、気になって仕方がなかった。
    笑顔の裏で気持ち悪い人間だと思われていないか不安だった。

  • 28124/10/13(日) 08:04:45

    後輩たちの期待に耐えられずに逃げ、今は入院している人たちの期待に応えようとしているのはなんの皮肉か。

    思えば、右手を使えない私にできる仕事なんてたかが知れていた。必死に考えてくれたのだろう。
    一人で体を洗うことさえ難儀していたほどだったのに、我儘で親切にしてくれている人にも迷惑をかけてしまう。

    自ら進んでやると言った以上口には出さなかったが、惨めだった。
    「百花繚乱紛争調停委員会の御稜ナグサ」という仮面を外した自分は無能なんだとつくづく思い知らされた。

  • 29124/10/13(日) 08:08:27

    休憩時間になる。廊下のベンチに座っていたら、鷲見セリナさんという桃色の女の子が話しかけてきた。

    「お隣、いいですか」

    頷くと、彼女は腰掛ける。甘い香り。

    「ナグサさんは、百鬼夜行の生徒さんなんですね」

    「…うん」

    「今度何十年かぶりに大きいお祭りをするって聞きました。私も行ってみたいな」

  • 30124/10/13(日) 08:09:50

    彼女は明るくて、もう一人のハナエさんという人と一緒になって皆を喜ばせていた。

    顔色がよくなりましたね。もうすぐ退院でしたよね。
    ひとりひとりの顔や名前、それどころか好きな食べ物やバンドまですべて覚えている。
    きっと私のことも見ていたのだろう。

    「はいっ、ジュースです。もしよかったら」

    彼女はりんごジュースを差し出してくれた。休憩スペースにあった自販機のものだろう。

    こんなちっぽけな私を気にかけてくれるのがありがたく、それ以上に辛かった。
    差し出されたものの値段に見合うほどの働きを、私は成せたのだろうか。

  • 31124/10/13(日) 08:11:06

    「救護騎士団の活動、好きなんだね」

    百花繚乱のことに万が一にも触れられることを避けたかった気持ち半分、残りは興味で質問する。 

    「はい!」

    彼女は救護騎士団でしている種々の活動について話してくれた。クリスマスのチャリティー募金、怪我をした生徒の治療、病院の案内。
    彼女が振り返る思い出は輝いていた。

  • 32124/10/13(日) 08:12:27

    レンゲが常々言っていた「青春」というのは、こういうことなのかもしれない。
    目を合わせられないほどに眩しい。
    私の二年間は、どうだっただろう。幸せなことも沢山あったかもしれないけど、

    『最初からあんたを友達だと思ったことなんてない』

    『半年も連絡が取れなくなったと思ったら……こんなものが答え?』

    今ではもうほとんどすべてが、私への失望と非難で塗り替えられている。
    自分から聞いておいて辛くて悲しくてたまらなくなって、視線を廊下の隅へとやる。

  • 33124/10/13(日) 08:16:37

    そこには白い粉があった。黒い紙の上に載せてあり、前に行った美術館で見た昔の版画絵。
    その中の雪山の絵に似ていた。
    こんな所に現代アートを置いておく人がいるとも思えないが。

    「あれは何?」

    セリナさんは私が見ている方向に目を向け、そのまま眉をひそめる。

    「えっと、あんな物あったかな」

    彼女は小さな歩幅で歩み寄り、しゃがんで首をかしげる。

    「危険物ではない、でしょうけど」

    「盛り塩だよ」

    突然、目の前にぬっと毛むくじゃらの影が現れた。
    「幽霊さん」だった。

    幽霊みたいに顔が怖いからそのあだ名がついたらしいが、柴犬特有のふわふわとした顔はむしろかわいらしい。

    「最近ね、妙な噂があるんだよ。『ガスマスクの女の子』…知らないかい?」

  • 34124/10/13(日) 20:00:49

    あとからセリナさんに幽霊さんの言うことを真に受けない方がいいですよ、と言われた。

    彼の話は実際雲を掴むような話だったが、なぜだか妙に心に残った。

    単なる嘘というには起伏に欠けて、本当というには突飛だったからかもしれない。

  • 35124/10/13(日) 20:01:41

    曰く、『ガスマスクの女の子』は集団で、人気のないところを歩いているという。
    誰かがそれを見つけてしまうと、その子たちは一人、二人と消えていく。
    とうとう今は片手で数える程になり、今もどこかをさまよい歩いている。

    一説によると、昔のトリニティの生徒が死んだことに気づかないままかつて学校があった場所を歩いているらしい、とも。

    それを聞いて思ったことはひとつ。

    「盛り塩はいらないんじゃないですか?」

  • 36124/10/13(日) 20:02:28

    そのことを言われた幽霊さんは、まぁこういうのは気持ちなんじゃないかな、と言葉を濁す。

    いつまでも空が青い日常を送れると信じ切ってやまない死人たち。
    生きているのに死んでいる、悲しい枝から落ちた林檎たち。
    それを弔おうとする気持ちはわからなくもなかった。
    私も手を合わせておこうかと、近寄って気付く。

  • 37124/10/13(日) 20:04:02

    塩よりキメが細かい粉。
    私も料理をする時、たまに使うもの。

    「これ、砂糖じゃないかな」

    「え?」

    「は?」

    少しつまんで口に運ぶ。

    「ほら、本当に甘い」

    塩でないなら、なおさら意味がわからない。
    いったいどんな理由があって、こんな所に──

  • 38124/10/13(日) 20:05:17

    「何してるんですか!?」

    ──思考を突き破るような突然の大声にびっくりしてしまう。

    「え…?」

    「こんな床に落ちているものを確認もせずに舐めるなんて危ないですよ!」

  • 39124/10/13(日) 20:09:15

    「で、でも…こういうの後輩から貸してもらった漫画に書いてあって」

    レンゲの探偵漫画。
    ラブコメ要素もあって少し恥ずかしくなったりもしたが、トリックが秀逸で思わず夜ふかしして読んでしまった。

    1日で27冊全部を読んで返したらなにか誤解されてしまったらしく、

    『そっか…ゴメンな』

    とだけ言われ、それ以降私に漫画を貸してくれなくなったことが悲しかった。
    その中の、薬物を舐めて確認するシーン。
    私も一度やってみたかった。

  • 40124/10/13(日) 20:10:11

    「だとしてもです! 不衛生ですし、もしかしたら毒が入っているかもしれないんですよ!?」

    「お腹が空いているなら私がおごりますから! 二度とこんなことしないで下さい!」

    一緒にいただけの幽霊さんも震え上がるほどに怒られて、私は休憩が明けてからもなにか変な動きをしないように監視され続けた。

    それどころか砂糖を舐めたことを患者さんにバラされてしまい、おばあさんたちから原色のキャンディーやおせんべいを沢山もらってしまった。

    このまま消えてしまいたい。
    痩せぎすの私の顔色や食べる量を心配する優しい人たちの中で、私は自分の行動を後悔する。

  • 41124/10/13(日) 20:56:15
  • 42124/10/13(日) 20:57:12
  • 43124/10/13(日) 20:58:14
  • 44124/10/14(月) 07:05:15

    すいません
    風邪引きました
    たぶん今日は無理です

  • 45二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 07:57:57

    ご自愛なさって

  • 46二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 08:31:17

    楽しみに待ってます

  • 47124/10/14(月) 18:34:50

    今日は無理ですごめんなさい
    とりあえず治してから書きます

  • 48二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 18:36:12

    無理せずに…

  • 49二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 04:38:18

    お大事に...

  • 50124/10/15(火) 07:03:08

    お気遣いありがとうございました
    治しました

  • 51二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 15:06:14

    応援保守
    体に気をつけて完結させるの期待してます

  • 52『クリスマスと黒いブーツ』24/10/15(火) 19:41:25

    セリナさんから話を聞いたのだろう。
    慰安訪問をたったの1日で辞めさせられることになって、私はミネの「巡回救護」。
    簡単に言えばパトロール兼人助けを手伝うこととなった。

    彼女はこちらを時折見ながら、誰か困っている人がいないか探す。

    「食べたいものがあるなら言ってください」

    家を出る前に毎回そう言われた。
    遠回しに「あなたは食いしん坊です」と伝えられている。顔から火が出そうだった。

  • 53124/10/15(火) 19:41:58

    百鬼夜行と比べて、トリニティは静かだ。
    なにを喋っていいか分からないし、ミネも救護騎士団の活動をしている最中はあまり喋らないから、特にそう感じた。

    ひょっとしたら彼女は優しいから、静かな場所を選んで歩いていてくれたのかもしれない。
    今はもうわからないけれど。

  • 54124/10/15(火) 19:42:39

    ミネの「救護」を、私はここで初めて目にした。

    風船が飛んでいって泣いている子がいれば、高くジャンプして取ってあげて。
    重い荷物を運ぶ人がいれば、その人ごと背負って目的地まで届ける。
    たまに物を壊してでも「救護」を優先することがあったが、きちんと謝って持ち主に弁償していた。


    彼女は太陽だった。暗い所で迷っている人たちに光をくれる太陽。
    その隣のちっぽけな宇宙の屑は、ただその熱さに悶えるだけ。

  • 55124/10/15(火) 19:43:05

    私にできることはなかった。
    せいぜいが遅れないように、歩幅を大きくして歩くことくらい。

    元々この活動は彼女個人のものだったから当然だった。私が異物なのだ。

    今の私で出来る仕事を与えてくれたのに、変に心配させてしまって。
    そのくせ現状にやるせなさを覚える、どうしようもなく身勝手な自分が嫌いになっていった。

  • 56124/10/15(火) 19:44:54


  • 57124/10/16(水) 07:08:01

    誰かに見られている気がしだしたのはこの辺りからだった。


    「救護騎士団のお姉ちゃん、この前はありがとう」

    女の子がミネに手紙を渡してきて、二人が嬉しそうに笑っているときも。

    「あら、またお世話になっちゃったわ。なんだか悪いわねぇ」

    ミネが当然のことですから、と言いながら信号が変わるのを待っているときも。

    ずっと、どこかから視線を感じる。

    ミネが何も言わないのだから、私の気のせいなんだ。
    これ以上迷惑をかけるわけにはいかないから口を閉ざす。
    それがよくなかった。

  • 58124/10/16(水) 07:08:46

    「そろそろ巡回救護へ向かいましょうか」


    不協和音のような日だった。

    こちらへ向けられる誰とも知れない眼差しはいつものことになっていたから、騒ぐ心を理性で押し潰して、作り笑顔で街へと赴いた。


    鳥のさえずる声も聞こえず、風すら吹かない。
    街はいつもの柔らかい静寂ではなく、こちらに静かにするよう固く言いつけてきている。
    綺麗な建築が建ち並んでいても、作り物の中にいるみたいで。

    ひとつひとつの要素は普段ならなんとも思わない、大したことのないものだったが、重なり合ってこちらの不安を掻き立ててくる。
    息苦しい。

  • 59124/10/16(水) 07:09:32

    いつもの何倍も気まずかった。
    いけない事ではあるが、いつかの私のように迷った人でもいないかと思った。


    不意に、ミネの携帯が鳴る。

    「はい、こちら救護騎士団です。救護のご用命でしょうか?」

    スピーカーから聞こえる声。
    あとから振り返ってみれば、わざとらしい言い方だった。

    「助けてください、一緒にいた子が急に倒れて」

  • 60124/10/16(水) 07:10:09

    ミネもそれは薄々勘づいていたのだと思う。

    「落ち着いてください、場所は?」

    「ライラック通りの10番です」

    倒れた方の容態はどうですか、息はされていますか、今はどんな体勢ですか。

    私は質問を始めたミネの横でぼうっと立っているだけ。それが嫌で、勇気を出した。
    出すべきではない勇気を。

  • 61124/10/16(水) 07:10:30

    「私が行く」

    「ナグサさん?」

  • 62124/10/16(水) 07:12:35

    後ろから聞こえるミネの言葉を無視して走った。
    私は彼女に助けてもらってから、何も返せていない。
    こんな私に心を込めて接してくれる人の役に立ちたかった。

    時間だけはあったから、辺り一帯の地図は頭に叩き込んでいた。
    表通りから三区画ほど奥まったところにある路地に向かう。

    ミネのように誰かのためではなく、ただの自己満足で。
    こんな人通りのない所で何をしているのか、という事に気を配らずに。

  • 63124/10/16(水) 07:14:35

    そこは暗くてカビ臭い場所だった。

    大丈夫ですか、と声をかけて、倒れている人はどこにもおらず。
    マスクを着けたスカートの長い、何人かの少女が目に入って。
    銃をこちらに向ける姿を見て、騙されたんだとようやく分かった。

  • 64二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 18:29:02

    続きが気になる
    落としてはならない

  • 65124/10/16(水) 19:04:58

    ゆっくり静かに、こちらに向かってくる弾が見えた。

    永遠に引き延ばされた一瞬で、避けることも反撃することもできず、頭の中に満ちていたのは、もう少し考えてから動けばよかったな、という後悔だった。

  • 66124/10/16(水) 19:05:33

    喉に衝撃が走り、膝から崩れ落ちた。スケバンたちの声がする。

    「あれ? コイツ団長じゃねえじゃん」

    「新入りかねぇ。この前入ったっていう」

    「まぁとりあえずサイフ抜いとこうぜ。5か6くらいは持ってるだろ」

  • 67124/10/16(水) 19:06:15

    彼女たちの一人がこちらに手を伸ばした瞬間、なだれ込むように走ってきた人がいた。

    「ナグサさんっ」

    一度に三人ほどを撃ち倒し、火薬と同じ勢いで叫ぶ。
    ミネだった。
    彼女の形相にあてられたのか、スケバンたちはさざ波のように逃げていく。

    それを追うこともせずに、ミネは私に駆け寄った。

  • 68124/10/16(水) 19:06:45

    「ご無事ですか。どこか、怪我は」

    首を撃たれてしまったけど、あなたのお陰でそれだけで済んだよ、と言おうとした。

    でも、代わりに出てくるのは。

    「ッ、痛むところがあるのですか。すぐに応急処置を」

    とめどなく目から流れる涙だけだった。

  • 69124/10/16(水) 19:07:39

    ミネから大事をとって今日の活動は終わりと告げられ、背負われながら帰り道を歩く。

    「申し訳ありません」

    私は何も喋らない。
    ずっとそれが普通だったのに、まるでそれが初めてみたいに、何もないところを自分の言葉で埋めるみたいに。彼女は話し続ける。

    「私に嫌がらせを行う、ということがここのスケバンの中では一種の勲章になっているようで。時折私への虚偽の通報もあるのです」

    「情報共有をしなかった私の落ち度です」

  • 70124/10/16(水) 19:08:05

    「ごめんね」も「大丈夫だよ」も言えなかった。


    理由はふたつ。
    ひとつは、一人で向こう見ずな行動をして、ただ足を引っ張ってしまったことへの情けなさ。

  • 71124/10/16(水) 19:08:47

    もう一つは、私の腕が鈍っていたことへの絶望。

    あのスケバンたちは、能力で言えば魑魅一座とそう変わらなかった。
    それなのに簡単に不意討ちをくらってしまった。

    考えてみれば当然のことだった。
    委員会のためにトレーニングをしていたのは、もう随分前のこと。
    私の力はぐずぐずに腐り果てていたのだ。

  • 72124/10/16(水) 19:09:26

    自分がいつまでも百花繚乱副委員長であるかのような気持ちでいるなんて。馬鹿らしい思い上がり。

    今の私は、もう皆が求めていた私ではないというのに。

    「御稜ナグサ」の仮面は少しずつ、だけど確実に消えていっている。
    もう帰る場所はない。それは「御稜ナグサ」が作ったもので、私のものではないから。

    これは罰なんだ。逃げた私に、これから一生つきまとう罰。

  • 73124/10/16(水) 19:10:01

    ミネの背中で、声をひそめて泣いた。
    それでも静かな街にはよく響いた。

    はやく夜が来てくれないかな。汚い私を真っ黒く染めて、全部覆い隠してくれないかな、と思った。

  • 74二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 06:46:01

    保守

  • 75『RAIN DOG』24/10/17(木) 08:17:44

    私が「百蓮」を返してからすぐに百花繚乱が解散した時、最初に覚えた感覚は安堵だった。
    もうこれで終わりなんだ。アヤメのいないこの世界を、演じて生きていく必要はないんだ。

    吐き気がするほど自己中心的な気持ちに自覚を持ったとき、私は静かな、誰もいない場所に行きたくなった。

  • 76二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 08:18:25

    このレスは削除されています

  • 77二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 08:19:32

    このレスは削除されています

  • 78124/10/17(木) 08:25:53

    かちりかちりと鳴る時計が、目を背けるなとこちらを責める。

    暗い部屋で何をするわけでもなく、ただじいっとしなびた右腕を見ていた。
    枯れ木のようで気持ちが悪い。

    「御稜ナグサ」がすり減っていくのを実感したくなかった。
    アヤメを救えなかった証を視界いっぱいに収めて、孤独な悲しみに沈む。マゾヒスティックな現実逃避。

    ミネについて行くのをやめて、リビングでこうするだけの日々が続いていた。

  • 79124/10/17(木) 08:27:27
  • 80二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 19:46:06

    保守

  • 81124/10/17(木) 20:00:44

    役に立たない能無しどころか、足手まといのただ飯食らい。

    ここは矯正局ではないのですよ、と言われて追い出された方がまだマシだった。

    「ナグサさん、ベランダに出ましょう。暖かくて気持ちがいいですよ」

    ミネに促され、日差しの中に全身を投げ出す。
    目に飛び込む色彩は、自分がまともな人間だと錯覚させてくれる。

    後先を考えずに思いやりに甘えて、取り返しのつかない場所まで堕ちていく。
    心地よかった。

    雲に太陽が遮られ、暗くなっていくのは見ないふりをしていた。

  • 82124/10/17(木) 20:01:42

    ある日の夕方に帰ってきたミネは、暗い顔をしていた。

    「どうしたの」

    この時の私はすこし狂っていて、自分のことを棚に上げ、なにか嫌な事があったら助けてあげたいと思っていた。

    実際にはそんな頭がおかしいコミュニケーションをして、ミネを困らせてしまうことはなかった。

    なぜなら彼女が言ったのはただ一言。

    「付いてきていただけませんか」

    断る権利も意志もなかった。

  • 83124/10/17(木) 20:02:22

    周りからくすくすと、背の高い草が擦れる音を思わせる音が聞こえる。
    風が青い香りを運ぶように、彼女たちから広がるお互いへの友愛が沁みる。

    むせ返りそうだった。

    トリニティ総合学園は大きい。外苑から見るだけでも城だったのに、敷地に入ってみれば宮殿。
    きらびやかな装飾は踊り子に似ていて。


    絵画の中の世界。その中で歩く私はさながらインクの染み。神様の描き損じ。


    救護騎士団団長の手を握りしめて、手を引かれ。
    ここにいるのは彼女に従っているからだと、私は私のいる理由を、誰にともなく弁解した。

  • 84124/10/17(木) 20:03:12

    階段を登って、広いテラス。
    長いテーブルに、いくつかの椅子。

    一番奥の席に、一人の女の子が座っていた。白い服に身を包み、狐の耳が生えている。

    「はじめましてだね、御稜ナグサ」

    「私は百合園セイア。君に宿題を持ってきた」

  • 85二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 23:32:13

    保守

  • 86124/10/18(金) 08:03:08

    すみません現実がヤバいので時間かかります

  • 87二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 09:27:34

    >>86 待つぜ

  • 88二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 17:10:19

    ゆうがたほ

  • 89124/10/18(金) 21:42:08

    灰色の昼だった。
    散歩をするとミネに言い、一人で街の外れに行く。

    整然と敷き詰められたタイルの、ところどころめくれ上がっている部分が目につくようになった頃に、ぽたりと鼻の頭に雫が落ちる。
    雨が降ってきた。

  • 90124/10/18(金) 21:42:37

    傘を持ってくればよかったな。
    私はいつも、肝心なところで間違える。

    もう私のせいでだめにしてしまうものを作らないために、今歩いている。
    結局終わりまで、誰かに自分がやることの理由を求めるのは笑えてしまうけど。

    「私は、いちゃいけなかったんだ」

  • 91124/10/18(金) 21:43:30

    声にして、気持ちを形にしたら楽になった。これは本当の、誰でもない「私」が伝えたい言葉。

    軽くなった心のまま、耳の中に残っているメロディを小さく口ずさむ。

    まだみんながいた頃に、どこかで聴いた曲。
    騒がしくて綺麗だったあの頃のBGM。
    この場にいない人たちに、思い出を語るみたいに。

    シャッターが閉まる店もない、窓が割れている建物の中に、空から落ちる透明で、小さく孤独な液体の中に。
    私の記憶が溶けていく。残るのは、空っぽの死体。

    「ひとり最後を迎える、つもりさ」

  • 92124/10/18(金) 21:44:11

    歌い終わったときに、周りに人影がずらり。
    もちろん聴衆なんかじゃない。
    価値のない私の独りよがりな思い出に、立ち止まる人なんかいるわけない。

    虚無から取り出されるように現れたそれは、一様に青い肌にハイレグスーツ。
    そして何より、顔に着けた仮面。

    『ガスマスクの女の子』、知らないかい。
    幽霊さんの言っていた事が頭に反響する。

  • 93124/10/18(金) 21:45:02

    突きつけられる銃口。当然の報いだ。

    彼女たちはもっと青春を過ごしたかっただろうに死んでしまって、何もかもめちゃくちゃにした人でなしの私が生きている。憎くてたまらないだろう。

    「宿題はこれで終わりかな」

    最期にちょっぴり、優等生になれた気がした。

    冷たい風が吹く。

  • 94二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 08:10:08

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 08:12:00

    このレスは削除されています

  • 96124/10/19(土) 08:20:17

    今日はちょっと忙しくて書けません
    すみません

  • 97二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 11:54:07

    >>96

    おっけ了解

  • 98二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 20:12:37

    よるほ
    そういえばあにまんって0時頃から何時まで書き込めなくなるんだろうか……

  • 99二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 06:58:26

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 07:01:25

    >>98

    主と同じIPで荒らした奴が居た時間帯が書き込めないよ、だから夜も固定回線ならずっと書き込める(主が固定回線かは知らんが)

  • 101二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 10:16:07

    >>100

    固定回線でいつも0時前から規制されるから困ってるんだよね……

  • 102二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 10:25:10

    >>101

    それ家族とか居ない?自分は規制された試しがないんだけど

  • 103『プラネタリウム』24/10/20(日) 11:30:46

    いつまでここにいるのだろう。

    腐った床。折れかけの柱。茶色いシミが畳に水玉模様を描いている。
    揃って文句を並べていたときは笑って許せたが、一人で茶を啜っていると侘び寂びにもならず惨めな有り様。

    解散令を出したのでここにいるのにも許可が必要であるのだが、なにせこの建物は百鬼夜行でも一二を争う古さ。
    使用申請欄は私のもの以外真っ白だ。

  • 104124/10/20(日) 11:35:13

    わざと体を思い切り伸ばして寝転ぶ。
    天井の汚れは、こちらを大きな口で飲み込もうとする化け物に見える。
    いっそ妖怪でもなんでも出てきてくればいい。

    20冊ほど持ってきた古典の本は、もう全て読み切ってしまった。

    「私の休憩所じゃなかったでしょ、ここは」

    答える相手はいない。

  • 105124/10/20(日) 11:36:23

    することがないので思索にふける。
    やはり全てが狂いだしたのは9か月ほど前からだった。

    アヤメ先輩が消えて、後を追うようにナグサ先輩もいなくなった。

    頼れるリーダーを失った百花繚乱はバラバラ。私とレンゲ、ユカリだけでは抑えがきかなかった。

    そこに、赤い空。異形の機械の群れ。
    駆けずり回って残ったものは、私たちが不要という事実だけ。
    ひとつも成果を残さずに、ただ他人と自分を守るので手一杯。

  • 106124/10/20(日) 11:37:01

    それでもなんとか、ナグサ先輩が戻ってきたらもう一度やり直せると思っていた。

    ずっとこの場所が、百花繚乱が続くもので、彼女がいれば全部どうにかなると、参謀のくせに頭を使わず信じきっていた。
    誰かの代わりなんて望んでいなかった。ただ隣にいてほしかった。

    『私は、アヤメじゃないから』 

    言わなければ、伝わらなかったんだろうか。

  • 107124/10/20(日) 11:38:04

    いつの間にか日が沈んでいた。
    携帯のバイブ音がする。

    手に取ると、暗い画面に写る自分の顔。
    とても見れたものじゃない。

    すぐにパスを打ち込んで、モモトークを起動する。

    来ていたのはレンゲからのメッセージ。

    『ナグサ先輩見つかったって』

  • 108124/10/20(日) 11:39:40

    レンゲの友人が遊びに行った時に、自分の顔の何倍もあるパフェを誰かと一緒に食べようとしていた先輩を見たらしい。しかもその場所はトリニティ。

    先輩の交友関係の広さを初めて知った。
    孤高の人だと思っていたのは、私の勝手な勘違い。嫌になる。

    『だから何? 関係ないでしょ』

    八つ当たりをするように、それだけ送って通知を切った。

    ずっと一緒にいたはずなのに、私は幼馴染で数少ない友達と言ってもよかった彼女との交流すら薄れていった。

  • 109124/10/20(日) 11:44:53


  • 110124/10/20(日) 16:21:54

    10番線の電車に乗る。
    お嬢様方に合わせてなのか、少しばかりつやつやしていて、重たい色合いの青。
    どこか不快だ。

    誰にも相談せず、一人で先輩を探すことにした。
    わざわざ教えてくれたレンゲにすら一言も言わないまま。

    指定席の特急券は前日までしか売っていない。
    立って三時間ほど過ごす羽目になる。

    らしくない。
    いつもの私であれば、こんなミスはしなかった。

  • 111124/10/20(日) 16:22:18

    周りを見渡すと、楽しそうに暇を潰す生徒。トランプ、しりとり、お喋り。

    私は先輩に会って何を話すのだろう。「帰ってきて」なんて言える義理でもない。
    喋りたくないことがあるはずだ。私も、先輩も。

    流れていく見慣れた風景が、見慣れないものに少しずつ変わり、違和感のないまま景色を構成するものが全て別物になったとき。
    ちょうど終点のアナウンスが聞こえた。
    トランクを引きずり、改札を抜ける。

    抜けた途端、人の波。

  • 112二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 23:12:17

    よるほ

  • 113二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 08:12:46

    凄い引き込まれるな…続きをゆっくり楽しみに待ってます!

  • 114『ピンクの若いブタ』24/10/21(月) 08:38:43

    解散令はユカリのため。あの子にこれ以上負担をかけるわけにはいかなかった。

    抜けた二人の詳細はほとんどのメンバーに伏せていた。
    その「ほとんど」にはユカリもいて、だからあの子にとっては、いきなり頼りになれる人たちが理由なく消えたようなもので。

    彼女は何事もないように振る舞っていたけど、甘いものを食べた後に歯磨きを忘れてしまうほど抜けている子の演技なんて、大根役者もいいところ。

  • 115二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 08:39:28

    このレスは削除されています

  • 116124/10/21(月) 08:42:28

    酷なことをしている自覚はあった。
    それでもあの明るい笑顔が、取り返しのつかないくらい壊れてしまうのが嫌だった。

    今は会わないようにしている。
    きっと恨んでいるだろうから。

    可愛い後輩の彼女には、帰る所がまだある彼女には。
    光の中にいてほしかった。

    自分で居場所を無くしておいて、その影を追い求める先輩のようにはならないでほしかった。

  • 117124/10/21(月) 08:47:00

    治安がいい学区ランキング第一位と聞いていた。
    とてもそうは見えない。理由は目の前の五人組。

    「だからさ、ちょっと今金が足りないんだよ」

    案内してやるよ、なんて言って突き当たりに向かい、親切の代金をせびる。
    逃げ場はなくしたと言いたげな顔。
    薄暗くてカビ臭い、ドブネズミのような不良。

    「アタシらはミネ団長に一泡吹かせたことだってあるんだぜ? 怒らせない内に出すもん出した方が身のためじゃねえかなぁ」

  • 118124/10/21(月) 08:47:43

    明らかに他校の生徒であるとわかる人間に内輪でしか通用しない脅しをかけている。
    立ち姿から見るにその辺のチンピラ以上の力は持っていないだろうし、今の発言で知性もないと知れた。

    だが、厄介であることには変わりない。
    一人一人はたかが知れているが、一度に全員を相手取るとなると負傷してしまうかもしれない。

    レンゲやナグサ先輩であれば、容易に鎮圧できただろうが。

  • 119124/10/21(月) 08:48:29

    明らかについさっき喧嘩をしたであろう痕があると、警戒されてしまって情報を聞き出すのも難しい。

    金を出すのは論外として、なんとか無傷で済ませる方法はないものか。

    「話聞いてんのかテメェ」

    いつの間にか距離が近くなっていた金髪パーマに胸ぐらを掴まれた。
    これはもう安全策はないと腹を括った瞬間、聞こえる大声。

  • 120124/10/21(月) 08:48:47

    「ちょっと、何やってるのよ!」

    不良たちが振り返る。
    そこには、ピンクの髪に特徴的な黒い服。

    「か、カツアゲは正義実現委員会が許さないんだから!」

  • 121二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 18:05:17

    流石エリート、こういう時怯まず言える高潔な精神よ

  • 122124/10/21(月) 21:00:32

    戦闘において、個の力というのはあまり重要ではない。

    音に聞くゲヘナの風紀委員長や、ミレニアムのコールサインダブルオー、そしてナグサ先輩のような圧倒的な力をもってすればまた違うだろうが、基本的にこちらの数が多くなければ争いは避けた方がいいだろう。

    要するに、仲間の一人も連れずに助けに来た目の前の少女は向こう見ずなお人好し。

  • 123124/10/21(月) 21:01:20

    「ハッ、委員会の名前出せばビビって逃げるとでも思ったかぁ? 痛い目見ないと身の程知れねぇみたいだなぁ」

    「ひぃっ…」

    単純な恐喝に尻込みしている。その素振りがあちらの嗜虐性を煽ることに気付いていないらしい。
    結果的に彼女の行動は、私を助けることに繋がってはいる。
    注目を集める誰かがいれば、相対的にこちらの影が薄くなる。
    囮にして逃げれば私だけは円満にこの場を切り抜けられるだろう。

    「5対1だぞ? 勝てるわけがねぇだろうがよぉ」

  • 124124/10/21(月) 21:02:07

    ただ、この苛立つスケバン共に何も報復せずにコソコソと去るのはプライドが許さない。

    「じゃあ、2対4ならどうかしら」

    「あ?」

    裸絞めをしていた手を放す。
    崩れ落ちる金髪パーマ。
    ライフルを抜き、こちらに向き直るのが一番遅かった奴を狙う。
    ポニーテールの頭に直撃する。仰け反ってひっくり返り、そのまま気を失ったようだ。

    「はい、2対3。まだやる?」

  • 125124/10/21(月) 21:02:50

    奴らもこの状況で引き時を見失って挑んでくるまでの馬鹿ではなかったようで、

    「覚えてやがれ!」

    なんてステレオタイプの悪役しか言わないような捨てゼリフとともに、倒れた二人を背負って消えていった。

    「覚える価値もないわよ」

    先ほどの銃撃で手が痛む。
    片手撃ちが一番速かったとはいえ、筋を痛めてしまったのはよろしくない。
    もし粘られていたら正義実現委員会の彼女の腕にもよるが、負けもあり得たかもしれない。

    ハッタリをかますのには慣れていても、逆にされる側になるのは慣れていなかったらしい。

  • 126124/10/21(月) 21:03:27

    ゲヘナでもあるまいし、スケバンの一団に絡まれるのはこれで打ち止めだろう。そう考えて駅に戻ろうとすると、少女が声をかけてくる。

    「あ、ありがとうございます」

    「なにが? 助けようとしたのはアンタでしょ」

    危険な場に無策で乗り込み、助けようとした相手に救われて感謝までしている。
    騙されやすい人間の典型例。

    「でも、アイツらを追い払ってくれたのはあなただし。なにかお礼、できないですか」

    おまけに自分から見返りを差し出そうとまでしている。さっきの5人と私がグルだったらどうする気なんだ。

  • 127124/10/21(月) 21:03:51

    「そう、ね。じゃあ、この辺りを案内してくれる?」

    しかし貰えるものは貰っておこう。
    あまりトリニティの地理に詳しいわけではないので、現地のガイドがいるだけでかなり変わる。
    また厄介な目に遭ったらコイツを身代わりにすればいい。

    「は、はいっ!」

    笑顔で頼みを請け負う少女。綺麗すぎて笑いが込み上げるような心根。
    たぶん連帯保証人になってしまって破滅するタイプだろう。嫌いじゃない。

  • 128124/10/21(月) 21:04:23

    「私は桐生キキョウ。百鬼夜行の2年生。アンタは?」

    「し、下江コハル。トリニティの一年生で、正義実現委員会です。よろしくお願いしますっ!」

  • 129124/10/21(月) 21:12:02


  • 130二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 08:06:56

    惹かれる良いスレだ
    保守

  • 131二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 17:25:09

    コハルが連帯保証人で破滅するタイプなのわかる

    でもなんだかんだ被保証人はそれでも助けようと奮闘しそう

  • 132124/10/22(火) 18:05:28

    風邪ぶり返しましたすみません遅れます

  • 133二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 23:24:19

    一応保守
    お大事にしてください

  • 134二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 07:54:43

    あさほ

  • 135二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 08:13:28

    このレスは削除されています

  • 136124/10/23(水) 08:16:16

    治しました
    保守ありがとうございます

  • 137二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 08:20:54

    裸締めいいよね、不意打ちでやれば音立てずに戦力減らせるし銃撃以外の手札があると手練れ感が出る

  • 138二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 19:30:20

    スレ主様が治ってよかった

  • 139二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 20:03:31

    このレスは削除されています

  • 140『SWEET DAYS』24/10/23(水) 20:04:06

    一口に大きいパフェ、といっても種類は様々ある。
    満遍なくよく見るフルーツが入っているものから、いちごが中心になっているもの、桃が中心になっているもの。さつまいもパフェなる物もあるらしい。

    ましてや三大校の近くであれば、その多さは推して知るべし。
    私やコハルのようなあまりスイーツに詳しくない者では、ナグサ先輩の痕跡を見つける前に腹がはち切れるだろう。

    協力者が必要だ。

  • 141124/10/23(水) 20:04:56

    「本当にここでいいの?」

    「はい。ツルギ先輩が言ってたらしいですから、間違いないはず…」

    トリニティの最高戦力、剣先ツルギ。
    泣く子も撃ち抜く彼女が「楽しかった」と絶賛した部活──放課後スイーツ部。

    その部員ならある程度店の客層やパフェの大きさを知っており、運が良ければナグサ先輩を見ているかもしれないという目論み。

    悪くはない発想だと思う。
    今目の前にある部室が、ワンルーム程度の広さしかないことを思考から除けばだが。デマを掴まされたんじゃないか。

  • 142124/10/23(水) 20:05:43

    「し、失礼します!」

    コハルに次いでドアをくぐると、思った以上に清潔な部室。その中心にある椅子が、ゆっくりとこちらを向く。

    「うん…依頼してきた下江コハルさんかな? 私は『放課後スイーツ団』四天王、柚鳥ナツさ」

  • 143124/10/23(水) 20:07:28

    自称「四天王」は変人だった。

    「パフェは一つの世界を内包していると言ってもいい。アイス、ホイップ、ゼリー…かさ増しのために用意されるコーンフレークでさえ、欠けてしまえば調和を崩してしまうんだ」

    常時回りくどくて胃がムカムカするような言葉遣い。
    中学2年生の頃のレンゲに似ている。
    トリニティにはバカと頭のおかしいやつしかいないのか、と思わせられる。

    「それはいいんだけど。アンタ、本当に頼りになるの?」

    「あんまりそういうことは言わないほうが…!」

    小声でコハルに注意されるが関係ない。
    ふわふわとしていてやる気がある様には見えない。
    部長でもないらしい。
    そして先ほどまでのパフェに対する講釈が30分ほど続いたのもあって苛々している。

    「こっちを騙そうとしているなら、それなりに考えがあるわよ」

  • 144124/10/23(水) 20:08:31

    柚鳥ナツは、少し黙ってから口を開いた。

    「…貴女は、マチェドニア。別名をフルーツサラダと呼ぶそれをご存知かな?」

    は?

    「は?」

    唐突に食べ物の話を始めた。
    コハルも頭の上に疑問符を2桁ほど並べたような顔をしている。

  • 145124/10/23(水) 20:09:15

    「マチェドニアは別名が示すように、果汁やシロップ、時にマヨネーズにフルーツを混ぜて作る食べ物でね。主に前菜や副菜として供されるものさ」

    「そんなマチェドニアは、3時のおやつとしても愛されている。だが考えてほしい。スイーツとして完成されているものであっても、一度ディナーの一部となったという事実は覆せないんだ。かつて共にあったピッツァやカルパッチョを、彼女を見るたび思い出すだろう。」

    「仲間であったものたちを一生忘れられないことへの悲しみ、そして密かに秘められた喜び…そういったものが、マチェドニアが切り刻まれた果実の群れに紛れ込ませた意志」

  • 146124/10/23(水) 20:10:15

    「要するに?」

    長い上に意味が分からない。

    「一人でも私はスイーツ部の一員である。貴女の望みを満たせる人間だってことー」

    最初からそう言え。

  • 147124/10/23(水) 20:11:53


  • 148二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 02:33:40

    保守

  • 149124/10/24(木) 08:06:08

    「ふむふむ、あまり賑やかなところは好きじゃないと…ならここかな、少し中心から外れたところにある。ここはぶどうの超ビッグサイズパフェを出していてね」

    ナツは、意外にも丁寧に先輩の予算や性格を聞き出して店を絞り込んでくれた。

    「…悪かったわね」

    「何が?」

    この小さな奇人にとっては、私の疑心程度は取るに足らないものらしい。

    「なんでもないわよ」

  • 150124/10/24(木) 08:06:58

    「教えてくれてありがとう。二人とも、店に行って食べないってことはないでしょ。ケーキ一個と飲み物くらいなら奢ってあげる」

    「えっ、い、いいんですか?」

    「そこまでケチじゃないわよ」

    「おおー、感謝ぁ」

    行為への対価は出しておく。
    後から吹っ掛けられないための交渉術だ。

  • 151124/10/24(木) 08:09:05

    「あー、ちょっと待って。部員に連絡してもいい?」

    「いいわよ。でも一人一つまでね」

    この部屋の規模から概算すれば他の部員は三、四人で、払う金は高くとも4000円ちょっと。
    少々痛いが、その程度は必要経費だ。
    3コール半で繋がる通話。

    「もしもしヨシミ? 実は来てくれた人がめちゃくちゃいい人でさー。ケーキ食べさせてもらえることになったの。みんなも来ればよかったのに。うん? 場所? 教えてあげないよ」

  • 152124/10/24(木) 08:09:38

    大声で何やら叫んでいる「ヨシミ」さんの言葉を無視して、そのまま通話を切る。

    「よし、行こうか」

    「…アンタ、よく良い性格してるねって言われない?」

    仲間はどうした仲間は。

  • 153二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 18:49:32

    保守

  • 154124/10/24(木) 23:37:39

    来店者を告げる鈴の音。薄い赤褐色の壁。窓際の光が差す席に座る。

    先に選んでから、一年生ふたりにメニューを手渡す。
    モンブラン、タルト、ミルフィーユ。
    文字だけの簡素なものだが、中々に分量が多い。
    テーブルの真ん中に広げて、お互いに目配せしながらページをめくっている。

    集中していても聞こえるように、すこし大きな声を出す。

    「食べ終わって店員に聞いたら、そのまま帰ってもいいわよ」

  • 155124/10/24(木) 23:38:19

    ナグサ先輩はモモトークを頻繁に見るタイプではないが、それでも1週間に1回はメッセージを返してくれていた。
    今は返信どころか既読もつかない。

    私たちとは委員会だけの付き合いであって、もうどうでもいい相手だと思っているのかもしれない。

    感動の再会、とはならないだろう。見学して気持ちがよくなるものでもないなら、この二人に無理に付き合わせる必要はなかった。

    「無理に押し付けて、断り辛かったでしょ。年上だし」

    いつか、先輩は寂しそうな顔をしていたことがある。時代遅れのロックンロールが流れていた、場末の錆びついた食事処。
    あの場所で今のような台詞が言えていたら、まだ一緒にいてくれたんだろうか。

  • 156124/10/24(木) 23:39:57

    私の言葉の後に、ナツはいきなり立ち上がる。

    「ふっ…甘い。甘いよ。『春』の名を冠するグミより甘い」

    芝居がかった振る舞い。恥ずかしがる素振りは微塵も見せない。彼女は少々イカれてはいるが、揺れることのない自我を持っているのだろう。

    「人助けをするのに自分が何者かで、相手が誰かなんてのは関係ないのさ。そう、まるでどんな相手にも等しく食べる権利を与えてくれるスイーツのようにね」

    羨ましかった。

  • 157124/10/24(木) 23:40:47

    「私の見解は以上。ではコハル女史、貴女のご意見をどうぞ」

    最後にカーテシーまでしてみせてから、ナツはコハルの腹の辺りを肘で小突く。

    「えっ、わ、私も!?」

    「不満げじゃないか。キキョウさんに言いたいことがあるんだろう?」

    コハルはしばし躊躇ったあと、観念したように口を開く。

  • 158124/10/24(木) 23:41:19

    「わ、私は…昔、ちょっとだけイヤな奴で。正義実現委員会以外の人のこと、心の底でバカにしてたんです。落ちこぼれだって」

    「そんな私にも、一緒になって頑張ろうって優しくしてくれる人がいて。そこから、他の人のこともちゃんと知ってから判断しようって思えたんです」

    徐々に緊張していた口調が柔らかくなっていく。
    彼女は持っていた底が深めのバッグから、一冊の本を取り出す。

    「これも、仲良くなった人に貸してもらって…特別ですよ、って」

  • 159124/10/24(木) 23:45:12

    かなり古い本で、前に行った百鬼夜行の伝統博物館にあったものと同じ筆記で書かれていた。

    ボロボロであったが、決して粗雑に扱われたわけではない。むしろ丁寧に保管されていたからこそ、今の形を保っている。

    いいものだと思った。ここまで本を大切にできる『仲良くなった人』の心根も、それを他人に渡せる信頼関係も。

    「だから、キキョウさんのことも知りたいんです。私、なんにも知らないから」

    ふたりは笑う。本当に間抜けで、底抜けの善人ども。

    「アンタら、さ…」

  • 160124/10/24(木) 23:49:30

    突然、ドアが荒々しく開かれる。
    遅れて、鈴の乱暴な音。

    「見つけたわよ、ナツ!」

    そこには、トリニティの制服を来た三人組。
    顔を青ざめさせ、唐突にテーブルの下に身を隠す向かいの少女。

    「…もしかして、あれが他の『放課後スイーツ部』?」

  • 161124/10/24(木) 23:50:25

    文化祭で使う空き教室の掃除をサボっていたらしく、ナツは現行犯で連れていかれた。

    せめてショートケーキは君たちがおいしく食べてその感想を私に伝えて、とわめきながら二人がかりで引っ張られ、

    「バカがご迷惑おかけしました」

    という猫耳のセリフを最後に、放課後スイーツ部は校舎の方角へ消えていった。

  • 162124/10/24(木) 23:51:35

    「アイツはケーキの妖精なの?」

    気が抜けて、いつもと違うことを言う気力も失せた。
    コハルはメニューを畳んで端に寄せている。

    注文は決まったのだろう。呼び鈴を鳴らす。
    すぐにはぁい、と間延びした声。
    重い足音が聞こえて、目の前に現れたのは。

    「ご注文をお伺いしますわ、お二方」

    巨大な、女。

  • 163二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 23:55:56

    君が出てきてあまつさえカフェで店員やってるのは流石に草なのだ

    君指名手配犯だよね!?

  • 164二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 00:33:29

    なんか夢と現が曖昧になってくる不思議な空気があるな
    P・K・ディック読んでる時のそれに近い

  • 165二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 08:31:02

    まさかのアケミが店員だったのか
    喋り方は礼儀正しいし似合ってるけど威圧感がすごい

  • 166二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 14:17:11

    筋肉モリモリマッチョウーマンでミッチミチのシャツを着て接客してたら絶対に面白い

  • 167124/10/25(金) 23:30:45

    レモンチーズケーキに、バタフライピー・ティー。
    向かいにはミルクシェイクとショートケーキ。
    香りと見た目は悪くない。景色は最悪だが。

    「静かで、落ち着く店ですわ」

    大女は配膳をすべて終えても帰らない。スクリーン上の悩ましげなマドンナよろしく、血管の浮き出た足を組んで隣のテーブルの端に座っている。

    「そう思いませんこと?」

    「…食べにくいんだけど」

    こちらをじろじろと生暖かい目で眺めてくる。いったいいつからここは託児所になったのか。

  • 168124/10/25(金) 23:31:19

    「あら、申し訳ありません。小動物のように愛らしいお二人でしたので、つい」

    撤回、彼女にとってここはペットショップのショーウィンドウらしい。

    お前と比べればなんでも小さくて可愛いだろう。
    そして申し訳ない、と謝ったにも関わらず一向に戻る気配はない。

    「何をしたら帰ってくれるの?」

  • 169124/10/25(金) 23:31:47

    まさかおいしくなる魔法を一緒にかけましょう、なんて事を言われるんじゃないだろうか。あながち間違いでもない気がする。

    私の胡乱な目を知ってか知らずか、申し出は案外まともだった。

    「探している人がいらっしゃるんでしょう? お力添えできるかもしれませんわ」

  • 170124/10/25(金) 23:32:22

    救護騎士団の蒼森ミネ。それが先輩と一緒にパフェを食べていた学生だった。
    トリニティではそれなりに有名らしく、コハルは驚愕していた。

    「記憶力だけはいいものでして」

    謙遜しながら、手で口を抑えて笑う大女。
    腕の筋肉が異様に発達している。

    「だけってことはないと思うけど」

    ここまですんなりと事が進むとは思っていなかった。
    大女が来てからずっと黙りこくっていたコハルが口を開く。

    「きゅ、救護騎士団なら、今日も病院に慰安訪問に行ってるはず、です」

  • 171124/10/25(金) 23:33:01

    「あら、素晴らしいですわね! 早ければ今日にでも会えますわ」

    私に都合の良い事ばかり起きている。着実にナグサ先輩に近づいている。

    覚悟をしていなかったのかもしれない。どうせ見つけることなんてできないと、心のどこかで諦めていた。手が届く位置に来て、途端に怖くなってきて。

    隠していた本音が、つい口をつく。

    「先輩は、嫌じゃないのかな」

  • 172124/10/25(金) 23:33:22

    やっぱり年が同じだったり、ひねくれていない人間といる方が先輩は好きなんじゃないか。

    自己嫌悪に陥りかけたとき、耳をつんざく声。

    「そんな事ないっ!」

  • 173124/10/25(金) 23:34:02

    叫んだのはコハル。一瞬で我に返り、頬を赤らめる。

    「あっ、えっと…キキョウさん、すごくいい人ですから。嫌とか、そういうことはないんじゃないかなって…」

    赤い指貫きグローブ。オレンジの照明に照らされて更に濃さを増しているそれで、大女はコハルの肩を掴む。
    小さく悲鳴を上げるコハル。

    「ええ、ええ! こちらのお嬢さんの言う通りですわ!」

  • 174124/10/25(金) 23:34:43

    彼女はこちらに対して、この世に悪はないとでも言いたげな、自信満々な顔をしてみせる。

    「こんなに可憐な後輩に探してもらえて嬉しくない先輩なんていません。もしそんな方がいたら、私がブン殴って差し上げます」

    洒落にならないだろう、それは。
    無意識に笑いがこぼれる。

  • 175124/10/25(金) 23:35:15

    「アケミちゃーん、教授って人から電話」

    カウンターの奥から聞こえてくる低い声。
    「アケミちゃん」はまたあの間延びした返事をし、くるりと踵を返す。

    「では、ごゆっくり。貴女がたの未来に幸せがあらんことを」

  • 176124/10/25(金) 23:35:48

    「どうでしたか、ケーキは。とても美味しかったでしょう?」

    レジで応対をするのもこの女らしい。人手が足りないのだろうか。

    「は、はい…えへへ」

    「マスターが大のスイーツ好きでして。生地から果物まで拘っているんですの」

    コハルはこの筋肉質の店員に慣れてきたらしく、笑顔を見せる余裕まである。

  • 177124/10/25(金) 23:37:12

    「色々ありがとう。ご馳走様」

    2370円をちょうど支払って出ていこうとすると、背後から声をかけられる。

    「ああ。それと、最後に」

    振り返ろうとするその首が、次の言葉で止まった。

    「貴女がた、百花繚乱紛争調停委員会と正義実現委員会でしょう?」

  • 178124/10/25(金) 23:38:36

    後ろにいる人間が、本当にさっきまでと同じ人間かどうか疑わしい。
    羊の皮を被った狼がいる。
    血溜まりの臭いや、神経をむき出しにされた哀れないけにえのうめき声まで感じ取れる。

    「残念ながら、私は。ここではただの『アケミちゃん』」

    アケミ、という名前に聞き覚えがあった。なぜ今まで思い出さなかったのか不思議でならない。

    栗浜アケミ。連邦生徒会が現在の体制になると同時に、矯正局を抜け出した「七囚人」。

    「ですがお二人が秩序である限り、またどこかでお会いするでしょう。その時は、どうぞよろしくお願いいたしますわ」

  • 179124/10/25(金) 23:39:14

    逃げることも顧みることも出来ずにその場に立ち尽くして、何分立っただろう。

    やっと体が自由になったころには、後方にあるレジはもぬけの殻だった。

  • 180二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 23:41:02

    アケミ姉さんカッケェ

  • 181124/10/26(土) 08:12:18

    今日は更新無理です
    ごめんなさい

  • 182二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 18:24:45

    保守
    アケミかっこよいな

  • 183二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 00:01:00

    日曜も待ってる

  • 184二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 03:35:58

    毎日更新は厳しいですもんね、やってると分かる

  • 185二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 13:36:02

    良いSSですね
    アケミ姐さんかっこいい
    保守

  • 186『古い灯台』24/10/27(日) 14:34:41

    石製の鳥居をくぐる。くぐっていた。
    かつん、かつん。下駄が響く。
    穢れのない空気が体を満たす。

    「キキョウ。お昼ごはん、どこで食べたい?」

    先輩が問いかけてくる。

    いつからここにいたのだろう。
    雲が千切れそうに薄く引き伸ばされている。石を突き破って花が咲いており、だしぬけに目の前を横切る名前も知らない蝶。黒色。

    「じゃあ、たけのこご飯にしようか」

    幸せそうに笑う先輩。私は言葉を発していないが、何やら意見をしたことになったらしい。
    かつん、かつん。私の歩みは止まらない。

  • 187124/10/27(日) 14:35:36

    いつもどこかから太鼓と音頭が聞こえる場所だった。
    今は無音。

    病院に行かなければいけなかったのに。
    悲鳴を聞いて、すぐに飛び出したコハル。

    仕方がないことだったのかもしれない。優しい子なのは分かっていた。

    ガスマスクの少女。コハル曰く「ミメシス」と呼ぶそれらに袋叩きにされ、スケバンが拐われていく。

    私からカツアゲをしようとしていた奴らだった。
    それでも、見逃すわけにはいかなかった。
    コハルは正義実現委員会で、私は百花繚乱紛争調停委員会だったから。

  • 188124/10/27(日) 14:36:08

    三、四人だったら倒しきれるなんて、甘い考え。
    途端にぞろぞろ現れる黒い影。銃撃、火花、激痛、頭の中にはじける破滅。

    「逃げて」

    声を張り上げたけど、コハルは引かなかった。

    「私、は。正義実現委員会の、エリートなんだから」

    彼女が援軍も呼ばずにチンピラを倒そうと、私を助けようとした理由が理解できなかった。

    ここに座って、先輩と話して。ようやく輪郭が見えてきた。

  • 189124/10/27(日) 14:39:24

    「百花繚乱の仕事は、もう慣れた?」

    まだ一年生のときに、二人きりで見回りをした。
    先輩みたいになりたくて、なれなくて。焦っていた時期だった。私と先輩は違うのに。

    憧れの人にふさわしくありたいと思っていた。

    追いかけている人が、私にどんな感情を持っているかなんて考えず。

  • 190124/10/27(日) 14:40:26

    かつての先輩が、一年前の私を慰めてくれる。

    「大丈夫だよ、キキョウはすごく丁寧。もどかしいのはわかるけど、自分を大切にして」

    私も、キキョウがケガをしちゃったら悲しいから。

    あなたは知らなかったみたいだけど、先輩が傷ついて悲しむ人間もいるわよ。

    先輩は聞いていない。そんなことを一年生の私は言っていなかったから。

  • 191124/10/27(日) 14:40:51

    何もかも無垢で美しい世界の中に、後悔を零す。

    「言わなかった、けどね」

    こちらをじっと見る先輩。綺麗な目をしている。

    「楽しかったの、全部。先輩と一緒にいた時間は」

    争いごとを諌めるのが楽しいなんて、不謹慎だって。怒られてしまうかもしれないけど。

    嬉しそうな先輩。でもそれは、あの時の嬉しさで。
    ああ、こんな顔をしていたな。

    がつん。がつん。何かを叩く音。

  • 192124/10/27(日) 14:44:35


  • 193二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 00:01:18

  • 194124/10/28(月) 07:39:38

    次スレ夜には建てます

  • 195二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 17:57:36

    一旦保守

  • 196124/10/28(月) 18:02:49
  • 197二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 22:09:24

    埋め

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