【二次創作SS】LAST DANCE

  • 1『幸せの鐘が鳴り響き』24/10/11(金) 22:23:59

    キレイだった。

  • 2『いちご水』24/10/11(金) 22:24:44

    目に差し込む光。薄いピンク色のカーテンを通して色がついているそれで、今が朝だと知る。

    知らない香り。知らないベッド。話しかけてきた蒼い髪の少女がいなければ、夢だと考えてまた寝るところだった。

    「よかった、目が覚めたのですね」

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 22:25:40

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  • 4124/10/11(金) 22:26:15

    少し冴えてきた頭が状況を把握するようこちらに命令してきた。
    けれど、最近ろくろく話もしていなかった口は思ったように動かず。
    ここはどこ、とか。あなたは誰、とか。そういう聞きたいことが浮かんでは消えていく。
    最後にくぅ、とお腹の虫が鳴って。

    「まずは、食事にしましょう」

    目の前の少女は笑った。

  • 5124/10/11(金) 22:29:22

    「樹海で倒れていたのです」

    蒼森ミネと名乗ったその少女は、私の無様をパンを千切りながら語る。

    「なぜ、あんな所に?面白いものがないとは言いませんが」

    あそこは持っていた方位磁針が狂い、ハチやアブやヘビに襲われて散々な目に遭った。理由を聞くのはとても自然なことだ。
    スープをひとくち飲む。かぼちゃのポタージュは温かくて、心の奥底にあるものまで溶け出していくようだった。

    「…静かなところに行きたくて」

  • 6124/10/11(金) 22:30:21

    彼女はこちらの瞳をじっと見つめ、やがて咀嚼していたパンを飲み込む。

    「あまり深くは聞きませんが」

    彼女の左手が、私の右手にそっと触れる。包帯は新しいものに替えられていた。

    「自分を大切にしないような行動は謹んでください」

  • 7124/10/11(金) 22:31:09

    その後、特に何かを喋るわけでもなく。
    朝食はつつがなく終わり、低いテーブル越しに顔を突き合わせる二人だけが残った。

    「よろしければ」

    彼女の話し始めは唐突かつ大きな声なので、自らのやましい所を咎められているのではないか、と不安な気分にさせられる。
    私の顔色が変わったのに気付いたのか、その後は抑えぎみになった。

    「この部屋に、何日かいてはいかがですか」

    不可解な提案。なぜ、と問いかけると、

    「ここは静かです」

    それに倒れたばかりなのですから安静にしなくてはいけません、と続けた。

  • 8124/10/11(金) 22:31:35

    優しい言葉だ。私の事を心から気遣ってくれている。
    でも私にその価値はないと、断ろうとした。
    断ろうとした、のに。
    うまく、言葉が出なかった。久しぶりにまともなものが入った胃を中心にして、甘く拒絶の意志が蝕まれていくようだった。

    「ありが、とう」

    彼女は笑う。
    陽光の中で微笑む姿は綺麗で、守れなかったあの子を少しだけ思い出した。

  • 9124/10/11(金) 22:32:05

    「お名前を聞いていませんでしたね」

    彼女がこちらを見つめるのは疑っているのではなく癖なのだと、この辺りで気付いたと思う。
    エメラルド色の瞳は鮮やかだった。

    「改めて、私は蒼森ミネ。トリニティの救護騎士団団長です。あなたは?」

    委員会の名前を出そう、という気持ちにはなれなかった。
    私はその立場にふさわしい人間ではないと思っていたから。

    「御稜ナグサ。ただの、学生」

  • 10124/10/11(金) 22:33:23

    先を見てない人間なんで遅筆だと思います(客観視)

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/11(金) 22:33:37

    期待

  • 12『Purple Jelly』24/10/12(土) 07:37:39

    街中で途方に暮れる。
    パフェは食べられないかもしれないな、とこの状況にふさわしくない呑気なことを、頭の片隅で考えていた。

  • 13124/10/12(土) 07:38:25

    スイーツを食べに行きませんか。そう言われて見せられたスマホの画面には、巨大なパフェの画像があった。

    「一人では食べられないほどでしょう」

    ミネはこんな風に何かと理由を付けては、私を元気付けようとしてくれていた。
    例えば暇にならないよう小説を買ってきてくれたり、膝枕をしてきてくれたり。

    いつでも彼女は「あなたのため」とは言わなかった。
    それが嬉しくもあり、寂しくもあった。

  • 14124/10/12(土) 07:39:09

    ミネとはぐれたのは徹頭徹尾私が悪い。

    日曜日のトリニティは3大校のひとつだけあって人が多く、波に呑まれるようにして私はいつの間にか彼女を見失っていた。

    スマホは持っていない。樹海で倒れたときに無くしてしまったらしい。
    もともとあまり使う方ではなかったので不便には思っていなかったが、こういう時は困ってしまう。

  • 15124/10/12(土) 07:40:34

    ここに留まってミネが見つけてくれるのを待つかどうか悩んでいると、遠くに視線を感じた。
    その方向へふと目をやる。

    見覚えのない少女がひとり立っていた。
    金色の髪はぼさぼさで、靴も履いていなかったし服は服というよりむしろ布切れに近かった。
    彼女はにいっと笑ってこちらに手を振り、そのまま振り返って駆けだした。

    「えっ」

  • 16124/10/12(土) 07:41:39

    付いてこい、と暗に言っているように感じた。
    感じたが。

    確かにここにいて合流できる可能性は少ない。しかし見知らぬ人を追いかけるのも同じレベル、いやそれ以下なのではないか。

    一瞬迷ったあとに走り出す。
    理由は特になかった。強いて言えば、あの子の目が綺麗だったから。
    誰も通らない街中を走る私たちは、傍目から見ると風変わりな不思議の国のアリスに見えたかもしれない。


    何度目かの角を曲がった頃、少女の姿は見えなくなっていた。その代わりに、古ぼけた掲示板と、日に焼けて色褪せた貼り紙がひとつ。

    『お困りでしたら ヴァルキューレ・トリニティ支部へ』

  • 17124/10/12(土) 07:42:15

    朝はここまでで

  • 18124/10/12(土) 17:44:56

    「あの、迷子になっちゃったんですけど」

    私は交番の中にいた警官さんに話しかけた。

    制服のベルトをきつく締め、姿勢よく座っていた警官さんは一瞬砂漠でオアシスを見つけたかのように顔を輝かせ、それからすぐにきりっとした顔に戻った。

    「ああ、道案内ですね」

    「いえ、人とはぐれて」

    「スマホは持っていないんですか」

    「無くしてしまって」

  • 19124/10/12(土) 17:45:16

    30秒にも満たない会話の中で、私に対する心象が子供に向けるそれのようになっていくのを感じる。
    顔が熱かった。あの女の子についていかなければよかったとも思った。
    それでも警官さんは私の手助けをしようとしてくれた。
    住所や名前、年齢を聞いて、書類を書く。
    その目は真剣だった。

    「付き添いの方のお名前を教えていただけますか」

    だから、私の無知のせいで彼女を傷つけてしまったことは、今でも後悔している。

    「蒼森ミネさん、といいます」

  • 20124/10/12(土) 17:45:58

    あからさまに、目の前の彼女の顔つきが変わるのを感じた。
    それは敵意であるような、虚脱感であるような、嘲っているような。
    少なくともいい印象は持たれていないと感じた。

    「そう、ですか。ミネさんは確か、救護騎士団の番号で繋がる筈です」

    備え付けの電話のボタンを手慣れた手つきで押し、いくらか話をしたあと、警官さんは力が抜けたようにパイプ椅子にもたれかかった。

    「すぐに来るそうです。5分ほどですかね」

  • 21124/10/12(土) 17:48:59

    ミネが交番へやってくるまでの何分かの間、警官さんは何も喋らなかった。
    今思うと、耐え忍んでいたのだろう。

    静かさがこらえられなくなる直前にミネは来た。
    全力で走ったのか、ちょっぴり息が上がっている。

    「よかった、ナグサさん」

    ミネが警官さんに気づく。

    「ありがとうございました」

    礼を言う。私も頭を下げて追従しておく。
    警官さんは顔を下に向け、少し震えている。

    「では、行きましょうか」

    手を強く握られながら外に出ようとして、誰かが呼吸をする音がやけに大きく聞こえることがわかった。

    「楽しいかよ」

    声が聞こえて振り向く。警官さんは泣いていた。

    「私たちの仕事を全部奪ってする親切は楽しいかよ!」

  • 22124/10/12(土) 18:29:17

    パフェが目の前にあっても、食欲は起きなかった。

    「なにか、悪いことしちゃったかな」

    丁寧に接してくれた彼女へ、気づかないうちに不快な思いをさせてしまったのかもしれない。
    それだけで胸がいっぱいになった。

  • 23124/10/12(土) 18:31:33

    「彼女は元々、SRTの出身だったようです」

    クリームとマスカットを皿に取りながらミネは言う。

    SRT。連邦生徒会長直属の部隊。存在意義を失ってしまって、散り散りになった学校。
    その影響力は百花繚乱や正義実現委員会など比べ物にならないほど大きかった。

    ミネは口に運んだマスカットを不安になるほどよく噛んでから飲み込み、こちらを見つめる。

    「ヴァルキューレの権限は、この自治区では特に弱いですから。自由に活動ができる我々を見て、つい辛くあたってしまったのだと思います」

    「ですから、ナグサさんのせいではありません。むしろ柔軟性のない、私たちトリニティの規則が原因でしょう」

  • 24124/10/12(土) 18:32:55

    紫色のゼリーとアイスをすくって、こちらの皿に置いてくれる。

    「食べましょう。糖分は脳の栄養です」

    パフェは甘くておいしかったけれど、考えていたのは別のこと。
    連邦生徒会長の失踪で、SRTは解散した。

    彼女たちがあんな風に無力感に苛まれているのならば、私が抜けたことで解散してしまった百花繚乱。
    あの子たちは、どう思っているだろうか。

    副委員長をやめておいて、勝手なことを考えてしまう自分が情けなかった。

  • 25『ディズニーランドへ』24/10/13(日) 06:04:54

    がやがやと、歓談を続ける人々の中で、私は自らの行動を後悔していた。

  • 26124/10/13(日) 06:06:21

    ミネの家に泊まって数日経った後、私は何もしていない、ただ一方的に親切にしてもらうだけの状態が苦痛になっていた。

    救護騎士団の仕事で手伝えることはないか、と何度も聞き、ようやく彼女が絞り出したのが病院の慰安訪問だった。

    「落ち着いてきたようですが、無理は禁物です」

    という彼女の忠告を無視して、私はトリニティで一番白い建物へ向かうことにした。

    すぐに後悔することになる。

  • 27124/10/13(日) 08:04:09

    私は季節外れの新入り、という事で特にお婆さんやお爺さんから色々な事を聞かれた。

    趣味、好きな食べ物、出身地…
    どれも平凡でつまらないものだったと思うが、辛抱強く頷きながら私の話を聞いてくれていた。時折笑ってくれてもいた。

    でも、内心はどう思っているかはわからない。
    演技が下手な自分ですら、二年間百花繚乱の副委員長を務められたほどだ。
    老成した彼ら彼女らは、より自分の心を隠すのが上手だろう。
    言ったことを聞き返されるたびに、気分を害していないかとびくついた。


    彼らは私と話していて楽しいのか、気になって仕方がなかった。
    笑顔の裏で気持ち悪い人間だと思われていないか不安だった。

  • 28124/10/13(日) 08:04:45

    後輩たちの期待に耐えられずに逃げ、今は入院している人たちの期待に応えようとしているのはなんの皮肉か。

    思えば、右手を使えない私にできる仕事なんてたかが知れていた。必死に考えてくれたのだろう。
    一人で体を洗うことさえ難儀していたほどだったのに、我儘で親切にしてくれている人にも迷惑をかけてしまう。

    自ら進んでやると言った以上口には出さなかったが、惨めだった。
    「百花繚乱紛争調停委員会の御稜ナグサ」という仮面を外した自分は無能なんだとつくづく思い知らされた。

  • 29124/10/13(日) 08:08:27

    休憩時間になる。廊下のベンチに座っていたら、鷲見セリナさんという桃色の女の子が話しかけてきた。

    「お隣、いいですか」

    頷くと、彼女は腰掛ける。甘い香り。

    「ナグサさんは、百鬼夜行の生徒さんなんですね」

    「…うん」

    「今度何十年かぶりに大きいお祭りをするって聞きました。私も行ってみたいな」

  • 30124/10/13(日) 08:09:50

    彼女は明るくて、もう一人のハナエさんという人と一緒になって皆を喜ばせていた。

    顔色がよくなりましたね。もうすぐ退院でしたよね。
    ひとりひとりの顔や名前、それどころか好きな食べ物やバンドまですべて覚えている。
    きっと私のことも見ていたのだろう。

    「はいっ、ジュースです。もしよかったら」

    彼女はりんごジュースを差し出してくれた。休憩スペースにあった自販機のものだろう。

    こんなちっぽけな私を気にかけてくれるのがありがたく、それ以上に辛かった。
    差し出されたものの値段に見合うほどの働きを、私は成せたのだろうか。

  • 31124/10/13(日) 08:11:06

    「救護騎士団の活動、好きなんだね」

    百花繚乱のことに万が一にも触れられることを避けたかった気持ち半分、残りは興味で質問する。 

    「はい!」

    彼女は救護騎士団でしている種々の活動について話してくれた。クリスマスのチャリティー募金、怪我をした生徒の治療、病院の案内。
    彼女が振り返る思い出は輝いていた。

  • 32124/10/13(日) 08:12:27

    レンゲが常々言っていた「青春」というのは、こういうことなのかもしれない。
    目を合わせられないほどに眩しい。
    私の二年間は、どうだっただろう。幸せなことも沢山あったかもしれないけど、

    『最初からあんたを友達だと思ったことなんてない』

    『半年も連絡が取れなくなったと思ったら……こんなものが答え?』

    今ではもうほとんどすべてが、私への失望と非難で塗り替えられている。
    自分から聞いておいて辛くて悲しくてたまらなくなって、視線を廊下の隅へとやる。

  • 33124/10/13(日) 08:16:37

    そこには白い粉があった。黒い紙の上に載せてあり、前に行った美術館で見た昔の版画絵。
    その中の雪山の絵に似ていた。
    こんな所に現代アートを置いておく人がいるとも思えないが。

    「あれは何?」

    セリナさんは私が見ている方向に目を向け、そのまま眉をひそめる。

    「えっと、あんな物あったかな」

    彼女は小さな歩幅で歩み寄り、しゃがんで首をかしげる。

    「危険物ではない、でしょうけど」

    「盛り塩だよ」

    突然、目の前にぬっと毛むくじゃらの影が現れた。
    「幽霊さん」だった。

    幽霊みたいに顔が怖いからそのあだ名がついたらしいが、柴犬特有のふわふわとした顔はむしろかわいらしい。

    「最近ね、妙な噂があるんだよ。『ガスマスクの女の子』…知らないかい?」

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