トレーナーさん、一試合しませんか?

  • 121/09/10(金) 19:04:40

    自分の担当である栗色の髪のウマ娘
    グラスワンダーにそんな事を言われた。
    「いいけど、いきなりどうしたの?」
    「トレーナーさんて、高校時代剣道をなされたんですよね?」
    「…まあ昔少しね。」
    「…トレーナーさんがどれくらい強かったか興味があるんです。知り合いの方から
    聞きました。お強かったんでしょう?」
    小学4年から剣道をしていた。
    先生の指導が的確なのもあって、高3の時インターハイに出場することが出来た。
    あの当時は確かに強かっただろう。
    だが今は…

  • 221/09/10(金) 19:05:17

    「…2、3年ブランクあるから鈍ってるよ?
    たぶん」
    当時、県内に俺より強い奴などいなかった。その事実に俺は驕っていた。
    だが、そんな陳腐なプライドは
    インターハイ初戦敗退という形で
    ぼろぼろに砕かれた。
    筋トレも素振りも今でも欠かさない。
    なんなら暇が出来ると道場に行く位だ。
    だと言うのに、ブランクがあると保険をかけるのは未だにインターハイでの敗退を引き摺っているからなのだろう。
    諦めてくれと期待するが、グラスは
    「…いやですか?私と試合するの。」
    と上目遣いで肩をすくめて講義の意思を示してくる。
    グラスは、頑固だ。
    これと決めた事があれば、それを成し遂げる為に努力を怠らない。
    彼女はそういう娘だ。
    こういう場合、自分の提案を妥協する事はあっても提案を諦める事は、絶対にしないだろう。
    「…分かった。次のオフの日に道場を借りて試合をしようか。」
    分かっていただろうに、と自責しながら
    俺は彼女の提案を受け入れる事にした。

  • 321/09/10(金) 19:06:35

    貸し切りにした道場の開けきった窓から
    5月の柔らかな風が吹いてくる。
    既に準備運動も打ち込みも済ませた。
    今は3分程の休憩を取っている。
    水筒に口をつけていると隣で汗を拭いているグラスが目の端から見える。
    グラスは、恐らく強い。
    打ち込みの段階で分かった。
    打突の気迫も、フォームも、足運びも
    どれも申し分無いのだ。
    俺がグラスと同じ年の時は、ここまで強くはなかった。

  • 421/09/10(金) 19:07:25

    『…勝てるだろうか。』
    不意に頭によぎる。あの試合以降
    強そうな相手との試合の前はこの考えが
    まとわりついて来る。
    「トレーナーさん。」
    呼吸が乱れる。息が苦しくなってくる。
    「トレーナーさん?」
    先程拭った汗が粘つっこく吹き出てくる。
    背中が心許なくなってくる。
    「トレーナーさん!」
    グラスの声で途端に我に返った。
    「顔が青いですよ?
    無理はなさらないようにして下さいね。」
    優しく諭すように言ってくる。
    担当にいらない心配をさせてしまった。
    「…あぁ、心配するな。ちょっと考え事をしてた。心配させてすまな…」
    「トレーナーさん。」
    不意にグラスが言葉を遮る。
    綺麗な青い眼が、こちらをスッと見つめている。
    「私を生徒と思わず全力で来て下さい。
    何も考えなくていいです。
    私を倒す事だけを、考えて下さい。
    あなたは、強い。そうでしょう?
    トレーナーさん。」
    はっきりとした口調に思わずあっけにとられた。
    「…そろそろ時間ですね。トレーナーさん」
    タイマーを見るともう残り時間は20秒を
    切っていた。
    少しの思案を巡らせながら、手拭いを頭に巻き出す。
    次は、試合だ

  • 521/09/10(金) 19:07:53

    「試合は一本先取で3分。
    一本の判断は打たれた側の判断に任せる
    こんな感じでいい?」
    「それで結構です。」
    左手に竹刀を携え、場内を示す線の前にお互い立っている。
    手汗は、意外な程出ていなかった。
    号令を出し、礼をして、真ん中の白線の
    前で蹲踞する。
    「はじめぃ!!!!」
    「「エ"ィ"ィ"ィ"ヤ"ァ"ァ"!!!!」」
    袴の裾がふわりと持ち上がる。
    互いの獣のような雄叫び。
    試合が始まった。
    剣先が激しく搗ち合う。
    『…隙が無いな』
    中段で構えるグラスは
    普段の百合のような可憐さからは
    似ても似つか無い気迫を孕んでいる。
    どっしりと重心の乗った足は
    巌のような威圧感を放つ上半身に反して
    滑らかに地を掴んでいる。
    下手に打てば、取られる。
    グラスが動いた。

  • 621/09/10(金) 19:09:02

    「面"ェ"ェ"ェ"ン!!!!」
    猛禽の様な猛り声と共に
    剣線を押し退けた面が放たれた。
    返し技を放とうとした竹刀が
    剣の勢いに巻き込まれ、
    そのまま体当たりで吹き飛ばされる。
    「場外ですよ。トレーナーさん。」
    試合場の半分から、体当たり一つで吹き飛ばされた。
    この事実一つでウマ娘が規格外の筋力を有していることが嫌でも分かる。
    『また…負けるのか?』
    白線に戻る足が重くなる。
    負けへの恐怖が覆いかけた。
    瞬間、グラスが声をあげる。
    「トレーナーさん。」
    「今の貴方は全力ですか?」

  • 721/09/10(金) 19:09:13

    不意に、有馬記念の時の事を
    思い出した。
    あの時、グラスには迷いがあったのだ。
    迷いがあって全力で走れてなかったのだ。
    「熱」がなかったのだ。
    あの時、グラスはエルコンドルパサーに喝を入れられて、自分を取り戻した。

    …そうか。そういう事か。

    急に理解出来た。
    今の俺には「熱」が無いのだ。
    勝利を渇望する「熱」が。
    不意に頭の中が晴れた。
    「…もう、大丈夫ですね?」
    「…あぁ!グラス!全力で!勝負!!」
    「はい!全力で…行きます!」

  • 821/09/10(金) 19:10:10

    試合は熾烈な物だった。
    一本が自己申告であることも
    タイマーが鳴った事も忘れて
    互いに何本も打突を打ち込んだ。
    三時頃に試合を始めたというのに
    周りは既に茜色に染まっている。
    お互い竹刀を構えるのもやっとだ。
    「…この一本で最後にしましょう。」
    「……あぁ…そうするぞ。」
    互いの手筋は、既に分かりきっている。
    いかに早く相手を打ち抜くかの勝負だ。
    「「………………………」」
    永久の様な沈黙。
    互いに機を伺っている。
    ずっと続くかに思われたそれは
    グラスの小手で破られた。
    トレーナーはそれに返しの面で応対する。
    「小"ォ"手"ェ"ェ"ェ"ェ"!!!!」
    「面"ェ"ェ"ェ"ン!!!!!」

  • 921/09/10(金) 19:10:38

    「…負けました。
    トレーナーさんの一本ですね。」
    グラスがペコリと頭を下げる。
    一瞬。ほんの一瞬の出来事だった。
    小手を受けたトレーナーの面打ちが
    グラスの面の座布団に叩き込まれたのだ。
    泥々の打ち合いではあったものの
    トレーナーにとって
    大きな勝利だった事は間違いなかった。
    柵を、インターハイの負けを越える事が
    出来たのだ。
    トレーナーは、歓喜の声と共に
    大きくガッツポーズをした。

  • 1021/09/10(金) 19:11:10

    「…ホントにごめん。」
    「もう、せっかく私に勝ったのに
    台無しですよ?トレーナーさん。」
    トレセン学園までの帰り道
    トレーナーはグラスに武道の精神を
    延々と説かれていた。
    「…ところでグラス。」
    「何ですか?言い訳なら聞いてあげます。」
    「いや、言い訳とかじゃないけど…
    何でいきなり試合やろうなんて言い出したの?急にそんな事言い出すなんて珍しいと思って。」
    「…知り合いの方から聞いて興味が湧いただけです。それ以上でもそれ以下でもないですよー……それよりトレーナー。」
    グラスが寄りかかってくる。
    「何?」
    「私、試合で疲れて上手く
    歩けないんですよ…トレーナーさん?」
    「…分かったよ。どっちが良いの?」
    「…イジワルですね。……おんぶで」
    屈んでグラスをおんぶする。
    軽い身体だ。
    グラスは、こんな華奢な身体でレースに挑んでいるのだ。
    改めて、この娘を支えるという使命を
    トレーナーは胸に刻み込んだ。

  • 1121/09/10(金) 19:12:54

    『言える訳無い…』
    『知り合いの女性が話す
    剣道をしていた頃のトレーナーさんを
    知らない事が許せなかったなんて…』
    グラスはトレーナーの広くて男臭い背中に
    顔を埋めた。

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:13:13

    ウマ娘って面つけるときに耳めっちゃ邪魔そうとか擦り足できるのかとかそういうどうでもいいことばかり考えてしまう

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:13:24

    ありがとう

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:14:37

    これはいいグラトレSS

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:17:40

    >>12

    まあヒトミミ程度でもズレると痛いし、手拭い厚くしたりでなんとかなるのかも知れない

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:20:48

    >>11

    最後に不意を突かれたが、それが良かった...

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:33:52

    許せなかった…!剣道をしていた頃のトレーナーさんを知らなかったなんて…!
    嫉妬グラスかわいい

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 19:35:05

    >>17

    エル。(人違い)

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/10(金) 20:27:23

    こういう大和撫子かつ独占欲の強いグラスさん良いね…

  • 2021/09/10(金) 23:57:07

    うへぇ結構ハート付いてる…
    嬉しいから続き置きます。

    パッパッパッ…
    街路樹の脇に生えた電灯が点き始めた。
    もうすっかり夜になったのだ。
    舗装された道の上をトレーナーは黙々と歩いている。
    『まだ冷蔵庫に冷食あったかなぁ…』
    試合で動きまくったせいか
    さっきから妙に腹が減っている。
    それ故か先程から夕餉の事ばかり
    頭に浮かぶ。
    「トレーナーさぁん…
    頑張って…下さぁい…」
    背中には、腹減りの原因である担当が
    ほとんど舟を漕いでいる。
    いつものしゃんとした姿からは
    想像もつかない状態だ。

  • 2121/09/10(金) 23:58:32

    『こうして見ると
     やっぱり綺麗な顔立ちしてるよなぁ…』
    横顔を見つめながら
    沁々と物思いに耽ていると
    いつも見慣れている建物が見えて来た。
    美浦寮だ。
    全国からウマ娘達を集めている
    トレセン学園が誇る学園寮。
    美浦寮はその学園寮の一つだ。
    入り口を見ると、寮長であるヒシアマゾンが仁王立ちしていた。
    「遅いよ!グラス!トレーナー!
    門限ギリギリだよ!」
    「すみません…
    グラスとちょっと熱中しちゃって…」
    「剣道でかい?程ほどにしときなよ?
    明日休みとはいえさ。」
    「…?あれ?知ってるんですか?
    グラスと剣道したこと。」
    「あぁ、エルが喋ってたんだよ。
    グラスが担当のトレーナーと
    剣道で対決するって。」
    「…グラス、怒らないといいけど…」
    「アハハ!グラスはそうそう怒らないさ。
    レースしてる時は怖いかも知れないが
    寮生として見る分には
    真面目で問題を起こさない模範的な
    生徒だからさ。」

  • 2221/09/10(金) 23:59:16

    模範的な生徒。グラスにぴったりの評価だろう。
    そんな模範的なウマ娘のグラスが
    背の上で寝息をたてている。
    トレーナーはよく分からない優越感を感じた。
    少しヒシアマゾンと話した後、グラスを
    彼女に引き渡そうとした時だった。
    「あ、グラスのトレーナーサン!」
    階段の上から声をかける、マスクを着けた青い眼のウマ娘。
    エルコンドルパサーだ。
    グラスとは仲のいいルームメイトだ。
    「ちょっと待っててクダサイ!」
    そう言うな否や階段を猛烈な勢いで上って行った。
    トレーナーが呆気に取られていると
    手に、鹿の子模様の風呂敷に包まれた物
    を持ちながら帰ってきた。
    「コレ、グラスが渡したがってマシタ!」
    「…?俺に?」
    「トレーナーさんにデース!」
    見るからにずっしり重いのが分かる。
    グラスが渡したがる物とは一体何だろう?
    疑問に思うものの、わざわざ断る理由も特に無いので
    トレーナーは、風呂敷包みのグラスからのプレゼントをルームメイトから頂くことにした。
    グラスとプレゼントを物々交換のようにエルに引き渡し、トレーナーは
    自分の住まいであるトレーナー寮に戻って行った。
    『こうでもしないと渡せないですからね、グラスは。』
    エルは帰って行くトレーナーの背を見ながらニヤリとほくそ笑んだ。

  • 2321/09/10(金) 23:59:48

    「…こりゃすげぇな…」
    鹿の子模様の風呂敷の中身を見て
    トレーナーは愕然としていた。
    端的に行ってしまえば、それは弁当であった。
    それも三重のおせちの様な見た目の弁当箱だったのだ。
    「…食べるか。」
    冷凍食品よりは栄養は多いだろうと思い
    いただきますと言いながら蓋を開ける。
    筍や椎茸の煮物、鯛の塩焼き、独活や蕨の天婦羅。
    旬の食材を用いた料理が何品も入っている。
    「あいつ…頑張ったな…」
    フキの煮付けを食べながら
    グラスの料理の腕に感服する。
    「それにこれ、俺の地方の味付けに近く作ってある…」
    トレーナーの故郷は田と山に囲まれた田舎の東北の寒村だ。
    寒い冬に備えた食い物の大半は
    塩気が強い保存の利く物ばかりで
    スーパーが出来る前の冬場の食卓は
    素っ気無い物ばかり並んだという。
    故郷を思い出させる味に、トレーナーは暫く舌鼓を打っていた。

  • 2421/09/11(土) 00:00:16

    「…エル?アレどこにやりました?」
    「………?アレってナンですか?」
    「その、トレーナーさんに作った…
    物…です…」
    「アレレ~?聞こえないデース!
    ナ~ンて言ったんですカ?グラス~?」
    「………エル。もしかしてトレーナーさんに渡しました?」
    「…ケ!?…イヤぁエルはお弁当なんて届けて無いデース…」
    「私お弁当だなんて一言も言ってないですよ。」
    「…あ…」
    「……エ~ル~?」
    「ご、ごめんなさいデース!
    でもこうでもしないとグラス渡せずに
    結局自分で食べちゃ…あ、スミマセン!
    薙刀は許して下さい!」
    その夜のグラスは剣道場での試合すら
    霞む程の暴れっぷりを見せたという。
    結局奢ってもらうことで許してもらう
    エルなのであった…

  • 2521/09/11(土) 00:48:29

    反応良かったらまた何か書いたら載せときます。
    それでは

  • 2621/09/11(土) 10:43:32

    新しいのできたので投稿します。

    ピンポーン
    「はーい。」
    日曜日の朝9時
    トレーナーの部屋にチャイムの電子音が鳴る。
    『こんな時間に誰だろう?』
    昨日の試合でバキバキになった筋肉が
    歩く度に悲鳴をあげる。
    少し無茶をし過ぎてしまったようだ。
    腰に手を当てながらドアを開くと
    栗色の髪の見慣れた人物が立っていた。

  • 2721/09/11(土) 10:44:05

    「……おはようございます。」
    「…おう、おはよう。グラス。」
    顔を臥せ、消え入りそうな声で話すグラスを
    トレーナーは今まで見た事がなかった。
    昨日の試合でどこか怪我を
    してしまったのだろうか?
    ウマ娘の体は強靭だ。
    500キロのリフティングをこなす者も
    いる位だ。
    だが、あくまで頑健なだけで
    自分の出した力が体の耐久を上回れば
    怪我もする。
    怪我程恐ろしい物は無いのだ。
    「もしかして
    昨日の試合でどこか痛めたのか!?」
    「…………お弁当を」
    か細い声で返事をする。
    「……?」
    「…お弁当を…受け取りに、来ました…」
    「……あぁ!あの作ってくれたお弁当ね。
    おいしかったよ。」
    「…それは良かったです…」
    「全部おいしかったよ!
    特に筍の煮物なんて出汁が染みてて
    本当においしかったもの!
    また機会があったら食べたいな。」
    「…また、食べたいですか?」
    「あぁ。毎日でも食べたいな。
    君の手料理なら。…………アレ?」

  • 2821/09/11(土) 10:44:51

    そこまで答えてからトレーナーは
    と自分が担当相手にとんでもない事を
    口走った事に気づいた。
    「…へぇー
    そんなに美味しかったんですか。
    毎日食べたいだなんて
    トレーナーさんも意外と大胆ですねぇ。」
    「ち、違うからな!なんかアレな感じに
    なったけどそういう意味じゃないからな!?」
    「トレーナーさん。アレとかそれとかと
    言われても私は何の意味か分からない
    ですよ?ちゃんと言葉にして言って
    貰えませんか?」
    まずい。明らかにからかわれている。
    弁解の言葉をひねり出そうとして
    いるのに気恥ずかしさで頭が爆発しそうになる。
    グラスは口元を抑えて笑っていたグラスが
    不意に口を開く。

  • 2921/09/11(土) 10:45:02

    「そこまで言うなら、明日から毎日夕御飯
    作って上げてもいいですよ?
    トレーナーさんがいいなら朝御飯なんか
    も作れますけども。」
    「…夕御飯だけ頼めるか?」
    「…フフフ、いいですよ。
    まーいにち作って上げます。」
    赤面しながら、昨夜洗った弁当箱を
    グラスに渡す。
    グラスはペコリとお辞儀をすると
    美浦寮へと帰って行った。
    帰る背中が妙に浮き足だっていた
    気がした。

  • 3021/09/11(土) 10:45:33

    「エルー?」
    「ケ!?私今日は何もしてませんよ!?」
    「昨日はやり過ぎました。
    ごめんなさい。」
    グラスが買ってきたお詫びの品を受け取りながら、エルは心底戸惑っていた。
    だが、お詫びの品が自分の好きな
    スイーツだったのがわかった瞬間
    エルにとっては
    そんなことなどどうでも良くなった。
    その日1日のグラスの機嫌は
    すこぶる良かった。

  • 31二次元好きの匿名さん21/09/11(土) 10:48:55

    やはりこのグラトレはいい…掲示板からいい匂いもする…

  • 32二次元好きの匿名さん21/09/11(土) 10:53:10

    >>31

    変態だーー!!?

  • 33二次元好きの匿名さん21/09/11(土) 12:43:54

    水を差すようだが実際の剣道の試合はガッツポーズすると反則負けらしいな

  • 3421/09/11(土) 17:03:43

    ハート増えてる…嬉しい…嬉しい…
    追加のちょっとした外伝です。
    「え?お前担当の娘から飯作ってもらってるのか!?」
    「…仕方ないだろ。成り行きでなっちゃったんだから。」
    トレセンから少し離れた位置。
    元トレーナーの経営している居酒屋に
    グラスのトレーナーは居た。
    「俺もタイシンからドライカレー作って
    貰った事あるけどよぉ…
    それにしたって毎日は聞いた事無いぞ…」
    ジョッキを片手に
    グラスのトレーナーの食生活に疑問を
    呈している男、ナリタタイシンのトレーナーはお通しの冷や奴を少し摘まんで
    口に運んだ。
    柔道で国体に進んだ事もある偉丈夫。
    同期で、お互い武道をしていた事もあって
    グラスのトレーナーとは度々居酒屋で
    酒を飲む仲だ。

  • 3521/09/11(土) 17:04:19

    「じゃあ、夕飯も食わずに
    居酒屋で酒なんか飲んでたら怒られるんじゃないか?」
    「グラスには同僚と飲みに行くと言って
    伝えてある。だから問題ないよ。」
    「…質問した俺が悪いんだけど
    いよいよ夫婦じみてきてるな。お前ら」
    「よせよ。まだカップルでも無いんだぞ。」
    『「まだ」っつったか、コイツ…』
    タイシンのトレーナーは信じられない
    心持ちで聞いていた。
    先輩方からは聞いていた。
    担当のウマ娘とそのトレーナーが
    指導中に親愛以上の感情を互いに抱き
    結ばれる事がわりとある、と。
    内心信じられない気持ちでいた。
    相手は美形揃いとは言え自分の教え子だ。
    そういう感情になる事なんてそうそう無い。
    タイシンのトレーナーはそう思っていた。
    少なくとも自分がタイシンとそうなるなんてあり得ない、と考えながら
    つくねに手を伸ばそうとした時
    グラスのトレーナーがある疑問を呈した。

  • 3621/09/11(土) 17:05:27

    「つうかお前だって
    タイシンとはどうなんだよ。」
    「いや俺はそういうのは特にねぇよ。
    タイシンだってそういう事をしたくて
    俺と話してる訳でもないし。」
    「……お前、この前タイシンと一緒に
    遊園地行ったって言ってたろ。」
    「あぁ。楽しかったぞ。」

  • 3721/09/11(土) 17:06:57

    「その時何人で行った?」
    「二人で行ったぞ。
    せっかくならBNWの面々とか
    クリークとかと行けばいいだろ
    って言ったら足蹴られたんだよ。」
    「……遊園地にいる時なんか言われたか?」
    「少し雑談した位だぞ?」
    「何かあんだろ。印象に残った会話とか!」
    「…?…あぁそう言えば。
    観覧車に乗ってる時に
    子供と一緒に来たら楽しいんだろうね
    って言ってたな。
    あそこだけ噛み締める様な言い方でさ。
    タイシンの家忙しかったみたいだから
    あまり乗った事がなかったのかもな。観覧車。
    今度からなるべく乗る様にするつもりだよ。」
    「……………帰る時は?」
    「…さっきから何を訊いているんだよ?」
    「いいから言え。」
    「……??
    次も二人で来ようねって言われたけど…」
    グラスのトレーナーは深くため息をついた。
    「………わかった。もう、いい。 普通に飲もう。」
    「おう!そうだな!他になんか飲むか?」
    頑張れよ、タイシン。
    グラスのトレーナーは、タイシンに
    心からの同情を覚えた。

  • 38二次元好きの匿名さん21/09/11(土) 17:08:13

    このクソボケがぁぁぁっ!

  • 39二次元好きの匿名さん21/09/11(土) 17:20:05

    (クソボケを池に沈める音)

  • 40二次元好きの匿名さん21/09/11(土) 18:04:45

    柔道やりすぎるとクソボケになるのかな(偏見

  • 41二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 00:00:02

    クソボケトレーナー共が…

  • 4221/09/12(日) 00:27:21

    外伝の後のグラトレです…
    お納め下さい…

    不意に指した陽光で
    グラスのトレーナーは目覚めた。
    頭がぐらぐらする。
    昨日の深酒がだいぶ効いているようだ。
    時計の短針は9時の位置を指し
    ベッドの脇を見ると飲みかけの
    ミネラルウォーターが置いてある。
    『…誰のだ?これ。』
    コンビニに寄った覚えはない。
    自分を運んだ誰かが
    買ってくれたのだろうか?
    飲みかけである事は気になるものの
    ベッドから体を起こし、ふらつきながら
    朝の日課であるトイレに行く。

  • 4321/09/12(日) 00:28:06

    『…ヤベェ。帰った時の記憶が殆どねえ。
     誰かに運ばれた様な感じはするけど…』
    トイレを済ませ、手を洗い廊下に出るとさっきまではしなかった
    味噌の匂いが漂って来た。
    『…タイシンのトレーナーか?』
    タイシンのトレーナーは
    時たまゲームをしに来る。
    何でも、タイシンがゲーム好きで
    対戦しても手も足も出ない事が多く
    対等にやり合うために手筋を学んでいる
    のだという。
    毎回、
    『そこまでやるならタイシンの気持ちに気付けるだろ。』
    と思うのは内緒だが。
    『どうせ味噌味のカップラーメンでも
    作ってるんだろう。』
    そう高をくくり、トレーナーは
    まだ少し眠気の残る目をこすりながら
    扉を開けた。

  • 4421/09/12(日) 00:29:00

    トレーナーの眠気は吹っ飛んだ。
    キッチンに、タイシンのトレーナーの
    ゴツゴツとした見た目とは
    全く似つかない
    栗色の髪をしたウマ娘の少女が
    耳触りのいい鼻歌と共に
    味噌汁を作っているからだ。
    「あら、おはようございます。
    起きられたんですねトレーナーさん。」
    「……おはよう………何で居るの?グラス。」
    「朝、自主トレーニングをしていたら
    トレーナーさんをに肩を貸してる
    タイシンのトレーナーさんに会いまして
    私が運ぶのを引き受けてトレーナーさん
    を家まで送ったんですよー。」
    「……そうか…迷惑かけたね…ごめん。」
    グラスは朝食をお膳に並べると
    トレーナーをテーブルに案内する。
    「…ほら、席について下さい。」

  • 4521/09/12(日) 00:38:24

    「……ありがとう。」
    二人で手を合わせ、いただきます、と
    声を合わせる。
    「…いい大人なんですから、少しは自重
    してくださいね。お酒の無茶は年を
    とってくると応えますよ?」
    「…想像以上に話が盛り上がって
    しまってね。いつもより
    飲み過ぎちゃったよ。」
    「本当に気を付けて下さいね。
    トレーナーさんにはまだまだ私の
    トレーナーでいて貰わなければ
    困りますから。」
    アスパラのごま和え、しじみの味噌汁
    ブリの照り焼き、炊きたてのご飯。
    朝飯としては十分すぎる完成度だ。
    二日酔いの体に味噌汁が染みてくる。
    「…相変わらず旨いな。」
    「毎日食べたい様に作ってますからね。」
    「……その話は止めて。」
    「飲み過ぎを止めて貰えるなら
    考えますよー。」
    「本当にすみませんでした。
    以降お酒の飲み過ぎには気を付けます。」
    「分かって頂けたようで結構です。」

  • 4621/09/12(日) 00:39:39

    『いよいよ夫婦じみてきてるな。お前ら』
    タイシンのトレーナーの言葉が頭に浮かぶ。
    端から見れば、こんな会話をするのは
    夫婦ぐらいな物だろう。
    『グラスはどう思うのだろうか?』
    ふとそんな考えが浮かんだが
    これではタイシンのトレーナーの事を
    笑えない事に気付き、少し苦笑する。
    「…?どうかしたんですか?」
    「…いや、何でもないよ。
    …それより少し気になったんだけど…」
    「何ですか?」
    「ベッドの脇にお水が置いてあったけど
    アレ、グラスの物か?」
    「…覚えてらっしゃらないんですね。
    買って来たお水を
    べろべろに酔っ払ってたトレーナーさん
    に頑張って飲ませたんですよ?私。」
    「…だからベッドの脇に置いてあったか。
    何から何までごめんね。グラス。
    今度美味しい抹茶ケーキ買ってくるよ。」
    「……埋め合わせがしたいなら。」
    「…?」

  • 4721/09/12(日) 00:40:06

    「近くの水族館に生きませんか?
    アザラシの赤ちゃんが見られる
    そうなので…それと、トレーナーさん?」
    「…なんだ?」
    「行くときはしっかりエスコートして
    下さい。ね?」
    「分かったよ。満足出来るようにするさ。
    きっと。」
    「…ちゃんとかっこ良くエスコートして
    下さいね?」
    トレーナーの来週の予定に水族館が組み込まれる事となった。

  • 4821/09/12(日) 00:41:13

    『だからさぁ。俺さぁ。
    グラスが大好きなんだよ!
    すっっげぇ頑張ってるもん。
    飯めっちゃ旨いもん。
    俺はお前に何かあったら
    すぐに気づくからな。ヒィック!』
    『私の気持ちに気づかないくせに
    良くあんな大見得切りましたね。
    おまけに言った事を忘れるなんて…
    ……悪い人ですね…』
    申し訳なさそうなトレーナーの顔に
    グラスはなんとなく不満な気持ちを覚えた。
    その日の夕御飯はトレーナーが苦手な食材が
    並んだという。

  • 49二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 00:44:54

    羨ましい…
    朝起きたら美少女がご飯作ってくれてるとか前世でどんな善行を積んだのだろうかこのトレーナー…

  • 50二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 01:10:44

    こういうグラスが見たかったんだ。ありがとう、ありがとう

  • 51二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 12:38:09

    ちょっと短編

    試合の後、
    前のバレンタインの時に渡してきた和菓子
    についての話になった。
    「あの和菓子、どこで買ってきたのさ?」
    「トレセン学園近くのお菓子屋さんです。
    大正時代から経営している
    歴史あるお菓子屋さんですよー。」
    「んーと、看板に吉の字が
    入ってるお店?木造の。」
    「ご存じ何ですか?近くに住んでる人でも
    知らない方がそれなりにいらっしゃるのに。」
    「いや、たまたまね。
    グラスが喜びそうなお店を探していたら
    見つけてさ。
    あそこの栗羊羹、美味しかったなぁ。」
    「…今度、機会があれば一緒に行きませんか?」
    「……あぁそれは困るかな。」
    「………なぜですか…?」
    「ホワイトデー用に君に送るつもりだからね。」
    「………え?」
    「ほら、3月と4月は お互い後輩の面倒を見る行
    事が多かっただろ? 落ち着いてきたし
    そろそろ返さなきゃいけないなって。」
    「…覚えててくれてたんですか。」
    「忘れる訳無いだろ?
    君からのプレゼントだもの。」
    「……ありがとうございます。」

  • 52二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 12:49:21

    グラトレはやっぱり良いな…心が洗われるようだ…

  • 53二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 14:18:07

    本当は迷子になった時に見つけてそう

  • 5421/09/12(日) 22:56:22

    すみません。本当は完成された状態のSSを出したかったのですが

    リアルの都合上、ちょっとずつ小出しにしていく形になってしまうのですが

    何卒ご容赦下さい。

    あと、付け忘れましたが>>51はスレ主です。

    ややこしくしてしまい申し訳ありません。

  • 55二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 22:57:57

    >>54

    乙です、どれも楽しく読ませてもらいました

  • 5621/09/12(日) 23:04:38

    >>55

    申し訳ねえ…そして読んでくれてありがとう。

  • 57二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 23:10:52

    >>48の続きです。お納めくだせぇ…


    「んーと携帯も持ったし財布も持ったし…

    うん、準備出来たな。」

    朝8時30分。

    外行き用の服を来たトレーナーは

    荷物を確認していた。

    『うん、9時10分には間に合いそうだ。』

    この日、トレーナーには大事な予定があった。

    以前、グラスに埋め合わせとして約束した

    水族館の見物だ。

    グラスが行きたいと言うのだ。

    遅れる訳にはいかない。

    部屋の照明を落とし、玄関に鍵をかけ

    待ち合わせ場所の学園の正門に急ぐ。

    『行くときはしっかりエスコートして

    下さい。ね?』

    不意に先週のグラスの言葉を

    トレーナーは思い出した。

    当然だ。

    ウマ娘のトレーナーなら

    ウマ娘の少しの要望くらいちゃんと

    こなさねばダメだろう。

    トレーナーは決心していた。

    現に分刻みのスケジュールを

    携帯と紙のメモ帳にまとめてある。

    トレーナーに抜かりはなかった。

  • 58二次元好きの匿名さん21/09/12(日) 23:11:19

    「おう、おはよう!」
    トレーナー寮の一階に着いた時
    聞き慣れた声の人物に挨拶された。
    「おはよう。
    暇あったら部屋でまた飲もうな。」
    「あぁいいぞ。…いい服着てんな
    デートか?」
    「違うよ。
    グラスが水族館に行きたいって
    言ってるから一緒にまわるんだよ
    「……デートって言わないか?それ。」
    「………!?
    違うぞ!?前お前と飲んだ後
    グラスに介抱させた分の
    埋め合わせで行くんだからな!?
    断じてデートとかじゃないからな!?」
    「………そうか。まあ…楽しんで来いよ。」
    「あぁ。[魚を]楽しんで来るからね。
    そんじゃタイシンによろしくね。」
    「お、おう。行ってらっしゃい。」
    早めに歩きながら腕時計を確認すると
    8時40分を指していた。
    時間自体はそこまで経っていない。
    だと言うのに、
    遅れたくないと思ってしまうのは
    単にグラスに怒られたくないからなのか
    それとも………。
    これ以上考えるとタイシンのトレーナーの言う通りになりそうで
    トレーナーは歩くペースを早めた。

  • 5921/09/12(日) 23:26:05

    すみません。今日はこれで終わりにします。
    明日の23時くらいにまだスレが残っていればまた挙げる予定です。

  • 6021/09/13(月) 08:06:22

    出来たので貼る

    トレセン学園の正門前
    栗色の髪のウマ娘、グラスワンダーは
    自分の担当トレーナーである男が
    来るのを待っていた。
    もうすぐ50分。
    約束の時間にはまだ余裕はあるものの
    自分のトレーナーは、少なくとも約束の時間の15分前には絶対来るだろうという
    確証がグラスの中にはあった。
    しばらくすると見知った顔が
    向こうの方から走って来る。
    「ごめんね。待たせてしまったかな?」
    「いえ~
    さっき来たところです。
    後、息を整えた方がいいですよ?
    リラ~ックスした状態で参りましょう。」
    「…ハハ…悪いね。気をつかわせて。」
    トレーナーの呼吸が落ち着くのを
    待ってから、グラスはトレーナーと一緒に
    歩き出す。
    目的の電車の時間は30分頃。
    のんびり話ながら行けば良いだろう。
    グラスの栗色の尻尾は
    人知れず揺れていた。

  • 6121/09/13(月) 18:33:02

    出来たので貼ります

    プオーン。
    「次の列車は〇〇行き快速
    〇〇行き快速でございます…」
    目当ての電車を待って2、3分。
    件の電車がそろそろ来る。
    休日の朝だからか、普段混むはずのホームに人はそこそこ程度しかいない。
    「おとーさん。電車まだ?」
    4、5歳くらいだろうか。
    男の子が父親らしき男性に問いかける。
    よくよく見ると
    自分達の周りには
    家族連れが多いように見える。
    『子供、か。』
    グラスは旅行を楽しみにしている子供を
    にこやかな顔で見つめている。
    周りから見れば自分達は
    カップルのように見えているのだろうか?
    『…教え子相手に何考えているんだ俺は。』
    トレーナーは、先程思い浮かんだ
    感情をスッと心の中にしまった。
    ガタンゴトン、ガタンゴトン。
    目的の電車が停車し、扉が開く。
    5分程揺られれば、水族館はもうすぐだ。

  • 6221/09/13(月) 23:00:20

    続きです。今日はこれで終わり
    「すみません。大人2枚お願いします。」
    入り口で入場券を買い
    淡水魚の水槽の方へと二人で向かう。
    各水槽には柔らかな光があてられ
    さながら自然の水辺にいるような気持ちになる。
    「知っていますか?トレーナーさん。
    アユというお魚の漢字は何通りもあるそうなんです。」
    「…魚編に占うって字なら知ってるけど。」
    「トレーナーさんの言う字の他にも
    香魚とか、年魚とか、銀口魚とか。
    案外多いんですよ?」
    「それは初耳だったなぁ。よく知ってるね。」
    「日本語を勉強した時に知ったんですー。
    面白いですよね。
    同じものを指すのに表記の仕方が違うなんて。」
    「そういう意味なら出世魚も似てるよね。
    生物としては同じ種類の魚なのに
    成長の具合で呼び方が全然変わるんだもの。」
    「……男女の関係にも似てますよね。」
    「……どういうこと?」
    「お互い何も考えてなければ他人で
    他人を意識すると想い人になって
    想い人と結ばれると恋人になって
    恋人と一生を過ごすと決めたら
    夫婦になる訳じゃないですか。」
    「………た、確かにそうかもね。
    場合によっては夫婦から他人になる事も あるけど。」
    「…」
    グラスは無言でトレーナーを蹴った。

  • 6321/09/14(火) 08:23:26

    海水魚のコーナーには
    マグロや鰹、鮫といった大型の魚類が多くいる。
    奥の方にはクラゲの展示もしていて
    幻想的な雰囲気が女性に人気なのだという。
    グラスをエスコートするうえで
    トレーナーが調べた結果分かった事だ。
    今のところ蹴られた事以外は順調だ。
    不満げにしていたグラスも
    撞木鮫や海亀が泳ぐ大きなアクアリウム
    には息を呑んでいた様だった。
    ルート通り。
    グラスは、たぶん喜んでくれている。
    うれしいはずなのに
    なんとなく気恥ずかしいのは
    朝にタイシンのトレーナーから言われた
    言葉に気をとられているからだろうか?
    『気にしちゃ駄目だ。
     普通に水族館に教え子と来ているだけだ。
     ただそれだけだ。』
    水槽にいる撞木鮫は肉食であるのに
    他の魚を襲う事は無い。
    だがそれは
    定期的に人間に餌を貰えるから
    襲わないだけであって
    沖に放ってしまえば腹空かせる度に
    他の魚を補食するだろう。
    もし、トレーナーと担当という
    一種の[水槽]を取り払ったとしたら
    俺は何になるのだろうか?

  • 64二次元好きの匿名さん21/09/14(火) 08:34:52

    グラスを好きになっちまうー!

  • 6521/09/14(火) 17:01:19

    「トレーナーさん
    そろそろ行きませんか?」
    グラスが声をかける。
    白いノースリーブのブラウス。
    淡い色合いのキュロット。
    栗色の艶やかな髪。
    感情に応じてピョコピョコ動く耳。
    柔らかそうな尻尾。
    南国の海を思わせる青い瞳。
    控えめに言っても美人だろう。
    侵しがたい清廉な雰囲気さえ感じる。
    普段ウマ娘に囲まれていて実感しづらい
    ものの、やはりこの子は美しいのだ。

  • 6621/09/14(火) 17:01:35

    「…どうかなさいました?」
    「……あぁ、何でもないよ。
    どう楽しめてる?」
    「楽しいですよー。
    トレーナーさんはいかがですか?」
    「俺も楽しいよ。
    …次、クラゲの水槽行こうか。」
    心臓が別の生き物のように脈打っている。
    自分でも分かるくらい
    トレーナーは動揺していた。
    朝に聞いたタイシンのトレーナーの
    言葉が錘となっている事に気づいたからである。
    『違う。駄目だ。そんな訳無い…
     俺の思い違いだ。』
    クラゲの水槽に向かう足の方向に
    さえ違和感を感じてしまう。
    すでに立てたプランの事すら頭にはなかった。

  • 6721/09/14(火) 23:05:47

    クラゲの展示スペースは照明がなくなり
    暗くなる。
    ウリクラゲのような光を放つクラゲもいるからだ。
    この暗さはトレーナーにとっては
    ありがたかった。
    隣を歩く十代の少女への感情が
    誤魔化せるような気がしたからだ。
    ミズクラゲ、タコクラゲ、ウリクラゲ…。
    優しい光で僅かに照らされている水槽を
    クラゲ達は優雅に漂っている。
    「綺麗ですねぇ。」
    「うん…すごく綺麗だ。
    この世の物とは思えないくらい……」
    暫時、トレーナーとグラスは
    クラゲを見つめていた。
    ただ、水中を漂い子孫を残し、果てる。
    クラゲの一生を
    トレーナーは少しだけながら羨んだ。
    「………」

  • 6821/09/14(火) 23:06:35

    不意にトレーナーの右手に温かい感触が
    あたる。
    先程まで水槽の仄かに放つ照明の中で
    穏やかな微笑みを浮かべていた
    グラスの顔はうつむいている。
    表情はよく見えないものの
    耳には朱が差している。
    握ったら、水槽の関係には戻れなくなる。
    互いに押し黙る。
    時間としては数秒の事だと言うのに
    何時間も経っているかのような感覚が
    押し寄せて来る。
    「…………そうですか。
    ………………忘れてください。」
    さっきまでくっついていた手が離れる。
    グラスの声が震え出す。
    『……これでいい…これでいいんだ…』
    納得させる。
    させようとした。
    「……………次はラッコが見れるみたい?!」

  • 6921/09/14(火) 23:06:50

    トレーナーは、グラスの手を指を絡めて
    しっかりと握った。
    『あぁ…そうだ……最初から思い違い
    なんかじゃなかったんだ。』
    『……何がエスコートする、だよ。 
     グラスにここまでされてようやく
     向き合えた癖に。 』
    握ったグラスの手がピクリと反応する。
    グラスの顔は、見なかった。
    見る事が出来なかった。
    見たら突き放されそうな気がしたからだ。
    もう、ブレはしない。
    トレーナーはグラスを連れて
    海獣のコーナーへの階段を登った。

  • 7021/09/15(水) 08:04:13

    海獣のコーナーの最後にある
    アザラシの赤ちゃんが見れる水槽の
    あたりに来るまで、トレーナーとグラスは 一言も喋る事が出来なかった。
    「………………あの…」
    口火を切ったのはグラスだった。
    「……いつまで握ってるんですか?」
    ここに来るまで手は握られたままだ。
    さっきから視線が集まっているような
    気がしている。
    「……嫌かな?
    …君が先に触れてきたんだ。
    言い訳は、させないよ。」
    「……悪い人。」
    柔らかそうな白い毛に包まれた姿は
    さながら出来立ての饅頭のようだ。
    そばには親らしい大人のアザラシが
    我が子を守るように密着している。
    その様子を、グラスと手を繋ぎながら
    眺めている。
    ひとしきりアザラシの赤ちゃんに
    癒された後、次のアシカショーの会場に向かって二人で歩き出した。
    「……トレーナーさん……もう…本当に…」
    「…分かったよ。
    手、離すからそんなに睨まないでくれよ。」
    後5分程でアシカショーが開演する。
    横から見るグラスの顔は
    今まで見たどんな時よりも
    真っ赤になっていた。

  • 71二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:32:16

    「……楽しかったですね。水族館。」
    「…そうだね。普段あまり行く機会が
    無いもんな…うん。」
    水族館の出口から少し離れたあたり。
    自動販売機が2、3並ぶスペース。
    そこのベンチに二人は腰掛けていた。
    アシカショーは特に何が起こるでもなく終わった。
    お土産売り場に足を踏入れ
    カップル用の商品を眺めるうちに
    自分が教え子の手を
    5分も繋いでいたという状況を認識した
    トレーナーは、気恥ずかしさで
    グラスに声をかける事さえ
    出来なかった。

  • 72二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:33:09

    『…気まずい…』
    隣でペットボトルのお茶を飲む
    教え子然とした顔のグラスを見て
    トレーナーは途方もなく
    しくじったような気分になった。
    『……コレ、下手したらセクハラ案件に
    なるんじゃ…』
    本当にグラスは手を繋ごうとしたのか。
    トレーナーには分からなくなっていた。
    もしかしたら傷つけてしまったのではないか。
    グラスへの申し訳なさが押し寄せて来る。
    「……その、トレーナーさん…」
    「…………なんだ。」
    「……こっちを向いて貰えますか?」
    「…おう。」
    コレ以降、引きずってグラスが
    戦績も残せず引退するくらいなら
    罵倒でも平手打ちでもされて嫌われた方が幾分かマシだ。
    トレーナーは潔く首をあげた。
    不思議と目は澄んでいた。
    『…失望だろうな。』
    グラスが後ろ頭に手をやり、そして…
    ・・・・・・。

  • 73二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:33:34

    「……………プハ。」
    「…グラス…?」
    「…悪いのは、貴方ですよ?トレーナーさん…」
    不意打ちだった。
    レモンの味かどうかも分からなかった。
    頬を染めたグラスが言葉を続ける。
    「…貴方がしたということにしておいて下さい。
    私からしたなんて、その…
    淑女らしくないでしょう?」
    「………あ、あぁ。…分かった。
    ……その、手握ったの…嫌じゃなかったか?」
    「…嫌ではなかったです。
    ………むしろ、その、嬉しかった…です。」
    「………それは良かった。」
    帰りの電車も無言で乗り
    駅から寮までの道も二人は無言で歩いた。
    二人とも溶けた鉄のように顔が真っ赤
    だった。

  • 74二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:34:23

    暫く歩くと学園の門が見えてくる。
    昼の2時前。
    外食に行った生徒達の大半が帰る頃だ。
    「…では、そろそろ私は…」
    着くまでの間、
    トレーナーには考えていた事があった。
    自分の思う教え子との関係。
    グラスとのこれまで。
    そして、これから。
    「ちょっと待ってくれるかな?グラス。」
    「…何でしょうか?」
    これは、自分の出した結論だ。
    俺自身が選んだ事だ。
    引き下がる事など、けして無い。
    トレーナーは口を開いた。

  • 75二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:34:45

    「俺と付き合ってくれ。」
    「…え?」
    「今まで君の事を生徒として
    見てきたつもりだった。
    だけど、このデートで気づいたんだ。」
    「…」
    「…俺は、君の事を
    一人の女性として見ていたんだ。
    「もう迷わない。だから改めて言わせてくれ。」
    「君が好きだ。」
    「………フフフ。」
    言葉はなかった。
    グラスが無言で抱擁した事が答えだった。
    昼の2時。
    太陽が中天から少しそれた空から
    光を放っている。
    影が、一つになった影が
    近くの花壇に重なり始めた。
    二人が紡ぐ未来の先は誰にも
    分からない。
    だが、二人が道を分かつ事など無い事を
    二人だけは知っていた。

  • 76二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:35:58

    ひとまずこれで区切りです。
    反応良かったら続けるかも。

  • 77二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:43:46

    スレの最初から最新まで一気読みした
    はぁー甘酸っぺぇ
    ごちそうさまでした

  • 78二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:51:15

    一気読みしたせいで1日に接種出来る尊さ限界量
    超えて胸焼けしてる。ありがとうございます!!

  • 7921/09/15(水) 19:14:41

    一応補足ですが、このSSにおけるグラスは十代後半くらいで
    トレーナーがニ十代前半くらいです
    なので仮にトレーナーがグラスとうまぴょいしても事案にはならない…はず…

  • 80二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 23:31:18

    水族館の後のちょっとした小話です。

    『な~んか最近おかしいデース…』
    最近同室のグラスの様子がおかしい。
    ちょくちょく誰かに電話をかけている
    ようなのだが、それを周りに隠すようになっているのだ。
    それを咎めるつもりは無い。
    だが、同室である自分にすら
    話す相手を伝えないのは妙だ。
    『やっぱり同室であるこのエルにも
     話さないなんて変デース!
     もしかしたらトラブルに
     巻き込まれてるかもしれないデース。』
    エルはグラスに
    なるべく気取られないよう
    気をつけながら話しかけた。
    もし何かまずい事が起きていれば
    ライバルである自分がグラスを助ける。
    エルの意思は固かった。

  • 81二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 23:34:11

    「へ、ヘイグラス!調子はどうデスか?」
    「え?えぇ。調子はいいですよ。
    [飛ぶ鳥を落とす勢い]と言った具合で。」
    「それは良かったデース…
    その、困ってる事とかナイデスカ?」
    「いや、特には…?」
    「ナ、ナンデモ言っていいんですよ?
    その、ナンデモ。」
    「…さっきから何を聞いてるんですか?エル。」
    「い、いやぁ?エルエルはグラスが
    気になって話しかけてるだけデスよ?
    特にナニカがある訳では無いデース!」
    「……エル?何かしてしまったなら
    早めに報告した方がいいですよ。」
    「エ、エルまだ何もしてないデース!!」
    「……[まだ]?」
    「言葉のアヤデース!
    エルはただグラスが最近誰かと
    よく話しているのを見て誰と話しているのか
    気になっただけデース!!」
    「あら、そんな事でしたか。
    あれはトレーナーさんと話しているんです。」
    「…ケ?!そ、そんな訳ないデース!
    だったら私が部屋に入った時に電話を
    切らなくてもイイハズデース!」
    「一応作戦なんかも伝えますからね。
    他の子に聞かれたく無いんです。
    もちろんエルにも。」
    『…なんか納得行かないデース…そういえば。』

  • 82二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 23:36:09

    「………グラスのトレーナーさん
    最近お弁当持ってきているそうデスね?」
    「…えぇ最近料理にはまっているそうで。」
    「それも火曜日以外毎日お弁当デスね?」
    「…随分はまっているみたいですね。」
    「火曜日ってグラス寮の掃除当番デシタよね?」
    「……エル、この話は…」
    「お弁当作ってるのグラスですか?」
    「……前、トレーナーさんに
    朝ご飯持っていってた時に
    トレーナーさんに頼まれたんです。
    さあエル。もう寝ましょう。明日もれん…」
    「もしかしてこの前のお出かけってデートデスか?」
    「しゅ、う……」
    「あの時グラスエルに言いましたよね?
    ちょっと友達とお出かけしてくるッテ。
    デモその割りには
    ウマスタに写真挙げてないデース!」
    「…それは、その…」
    「もしかして
    イクところまでイッテしまったんデスか?
    ベッドで不退転をしt待ってクダサイ
    薙刀はダメデース!!」
    結局、グラスはエルに水族館での
    出来事を話した。エルは祝福を送った。
    祝福と同時にスペとキングに
    拡散しようとした。
    グラスはキレた。

  • 83二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 23:38:18

    このエルは掛かってしまってますね…

  • 84二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 23:46:03

    寝る前にとても良いものを見た
    ありがとう

  • 85二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 11:00:23

    保守

  • 8621/09/16(木) 22:46:31

    追加。
    水族館の後のグラトレとタイトレです。

    「…するとなんだ。
    お前教え子と乳繰りあう関係に
    なったってことか?」
    「乳繰りあうって言うな。
    そういう事は…してないよ。」
    『なんだ今の間…』
    グラスのトレーナーは杯を傾けていた。
    いつもの居酒屋。
    馴染みの同僚。
    変わった事があるとすれば
    いつもの酒飲み特有の陽気さが
    全く無い事にあるだろう。

  • 8721/09/16(木) 22:47:28

    「……お前分かってんのか。
    アイドルとマネージャーが実は
    付き合ってましたみたいな事だぞ。
    マスコミに嗅ぎ付けられたら
    まずい事になるんじゃねぇか?」
    「…バレないようにするつもりだよ。
    グラスの経歴に傷をつける訳には
    いかないし。」
    タイシンのトレーナーは持っていた
    中ジョッキをテーブルに静かに置いた。
    頼んだ料理に手は殆どつけていない。
    「…絶対にバレるなよ?」
    「…おう…」
    今回の飲み会は報告も兼ねて
    グラスのトレーナーから提案した。
    タイシンのトレーナーなら
    他人に漏らず、いざとなれば
    助けてくれるという信頼があったからだ。
    タイシンのトレーナーは目を
    暫時天井に向けていたが、改めて
    グラスのトレーナーに向き直る。

  • 8821/09/16(木) 22:48:00

    「まあ、強く言いはしたが…
    とりあえず、おめでとう!」
    「……あぁ…!ありがとう!」
    お互い中ジョッキで乾杯する。
    やはり気持ちのいい男だ。
    グラスのトレーナーは
    自分の友を見る目を誇りたくなった。
    「でぇ~?
    どっちから告ったんだよ?。
    まさかお前かぁ?」
    「告ったのは俺の方からだね~。
    いやぁ可愛かったよ。うちの担当。」
    「かぁー!この色ボケトレーナーめ!
    飯まで作って貰ってんだろ?
    奥さんじゃねぇかよ。もう既に。」
    「いやぁやめてくれよ。
    気が早いってばぁ。」
    人を教える立場にいるとはいえ
    二人とも青年。
    飯を食いながらじゃれあう様は
    ただの高校生のようだ。
    ここでふと
    グラスのトレーナーは気になった事を質問した。

  • 8921/09/16(木) 22:48:23

    「お前だって、彼女居ないのか?
    トレセン学園のトレーナーとか
    モテそうじゃないのさ。」
    とたんにタイシンのトレーナーの
    箸が止まる。
    「…行けねェんだよ。」
    「…エ?」
    「そういうイベントに行けねェんだよォ!
    暇が無さすぎて!
    クソォ…大人になればそれなりに
    出会いがあると思ったのに…。」
    「…き、桐生院とかはどうなんだ?」
    「…他の奴と水族館行ってるよ。
    お前みたいにな!」
    『完全に情緒がイッてる…』
    なんとか宥める事は出来ないかものか…
    グラスのトレーナーはそれとなく
    タイシンの話題を切り出した。
    「……最近、タイシンはどうだ?」

  • 9021/09/16(木) 22:50:05

    ピクッ
    タイシンのトレーナーの巨躯が一瞬
    静止した。
    そして何事もなかったかのように
    喋り出した。
    「あぁ、タイシンなら調子いいぞ。
    もうじきベストを更新出来そうだ。
    もう最初の頃とは見違える位速くなってな。
    特に末脚はかなりの物になって来ている。
    ただ、最近機嫌が悪くてな。
    俺の顔を見る度に目つきがきつくなるんだよ。
    それがちょっと怖くてよぉ。」
    『酔ってるのかこの人…』
    「あぁ、そりゃいいな。
    …最近タイシンとなんかしたか?」
    「あぁ、家に案内されてな。」
    グラスのトレーナーは
    生ビールを盛大に吹き出した。

  • 9121/09/16(木) 22:50:35

    「おいおい、大丈夫かぁ?
    飲み過ぎねェようにしろよ?」
    「エッホ!お前、それ、どういう事!?」
    「どうもこうも、親に会わせたいって
    タイシンから言われてな?
    前の休みにタイシンの家に行ったんだよ。」
    「…待って、確かお前
    その日の夜寮に居なかったよな?
    …まさか向こうで泊まったのか…?お前…」
    「タイシンの話でお母様と
    結構盛り上がってしまってな。
    泊めてもらった。」
    「…………部屋は?…どこで寝たの?」
    「あぁそれが大変でなぁ。
    お母様から部屋が無いから
    タイシンの部屋で寝てほしいと言われてな?
    何とか断ろうとしたが…」
    「泊まったんだね?」
    「……おう。」

  • 9221/09/16(木) 22:51:21

    「…タイシンから何か言われた?」
    「…いや、特には…
    そういえばあの時は変に静かだったな。
    タイシン。」
    「……お前、タイシンの事を
    どう思っている?特に異性として。」
    「ちょ、ちょっと待ってくれよ。
    俺は別にタイシンとそういうあれじゃ…」
    「どうなの?」
    「………いや、まあ、魅力的だとは思うぞ。
    物事をしっかり考えて見てるし
    後輩の面倒見いいし、ご飯美味しいし。
    あいつは自分を卑下しがちだが
    俺は十分魅力的だと、思う、ぞ…?」
    「…魅力的なんだな?」
    「あ、あぁ。」
    「かわいいと思うんだな?」
    「…まあ、うん。」
    「…今度からタイシンの行動を
    よく見た方がいいぞ?
    お前への対応と周りへの対応の差を
    しっかり見るべきだと思う。
    レース以上にお前とタイシンの人生に
    関わる事になるよ。たぶん。」
    「お、おう。気をつける…」
    「絶対に忘れちゃダメだからね?」
    「わ、分かった。」
    グラスのトレーナーの
    飲み干した生ビールは、苦かった。

  • 93二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 22:52:48

    嘘だ……クソボケがクソボケじゃなくなる……

  • 94二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 23:00:39

    クソボケがクソボケじゃなくなって何の弊害があるんですか?

  • 9521/09/17(金) 08:26:13

    追加の捕捉ですが
    タイトレもタイシンも
    グラトレとグラス見たいに
    十代後半と二十代前半です。
    だからタイトレが事案になる事は無いです。
    見た目的には若干危ないですが…

  • 9621/09/17(金) 17:57:22

    追加です。

    パチッ。
    蝉の鳴き声が一瞬ひたと止まる。
    「王手です。」
    「…こりゃ投了かな。負けました。」
    「うふふ、私の三連勝ですね。
    トレーナーさん、攻めが安直なんです。」
    「うーん勝てないなぁ…」
    休日の昼下がり。
    思考力の向上も兼ねて
    トレーナーはグラスと将棋を指していた。
    最初は勝てていたものの
    グラスがこちらの手を理解していくにつれ
    負けが増えてきた。
    「覚えるのホント早いよね。
    流石優等生だ。」
    「…フフ♪
    トレーナーさんのご指導のお陰です♪」
    「全く、こりゃ俺も頑張んないと…」
    グゥー。
    不意の腹の音に思わず胃の辺りを擦る。
    「……ごめん。」
    「あらあら。
    そろそろお昼ですもんねー。
    何かお昼でも作りましょうか?」
    「あぁ、頼むよ。」
    「はーい♪」

  • 9721/09/17(金) 17:57:34

    『…………幸せ、なのかな。』
    想い人とゆっくり休日を過ごし
    ご飯を一緒に食べる。
    今の状況は
    多くの人の思う幸福の形なのだろう。
    だがこれは、学生と教師が享受するには
    あまりに歪な物だという事実を
    トレーナーは忘れた訳ではなかった。
    『それにしても…』
    鼻歌に合わせてピコピコと揺れる耳。
    指通りの良さそうなしっぽ。
    スラリとした手足。
    鼻歌混じりに大根を切る姿は
    新婚の若妻のようにしか見えない。
    いつかはこの姿を毎日見る事に
    なるのだろうか?
    漠然とそんな事を暫く考えていると
    昼食が運ばれて来た。
    『…まあ。
     変な事だけはしないように…な。』
    昼1時。
    夏の陽が盛りに入る時間だ。

  • 9821/09/18(土) 02:19:16

    「…投了ですね。」
    「おし!幾分か勝てるようになってきた!」
    「うーん…
    私も負けてられませんね…」
    午後4時前。
    トレーナーは4戦2勝と
    グラス相手に少し盛り返していた。
    互いに本気だ。
    グラスがそろそろ寮に帰る事を考えると
    次で最後の勝負になる。
    「さて、最後の勝負だ。グラス。」
    「…ええ、良いものにしましょう。」
    振り駒の後に、対局は始まった。
    定石通り囲いでもって
    防御を固めるグラス。
    それに対し、棒銀などを駆使した
    トレーナーの猛攻。
    対照的な戦法を取る両者の闘いは白熱していた。
    だが、定石とはよく使われるからこそ
    定石なのだ。
    さらに言えば、捨て身の攻勢というのは
    裏を返せば攻める事しか出来ない事でもある。
    『…参ったな。隙が無い。』
    トレーナーはグラスの鉄壁の囲いに
    攻めあぐねていた。
    このまま膠着が続くのはまずい。
    だが、打開策が見つからない。
    『出方を見るべきかな?』
    飛車を動かし自分の番を終える。
    『何か弱点は………』

  • 9921/09/18(土) 09:10:46

    出方を探っている時に、それは見えた。
    「んー…………」
    ヒラ。
    グラスは、胸が慎ましい。
    その事をトレーナーは気にしてないし
    本人も特に気にしていない。
    むしろ、和服が映えるから
    こちらの方がいいとさえ言う位だ。
    …だからなのだろう。
    胸元の緩い服を着て前屈みになれば
    当然…
    『…………見えた。』
    「…トレーナーさん、次ですよ。」
    「あ、あぁ…そうか。ごめん。」
    『………結構…明るめの色合いだったな。』
    不意に見えたソレのせいだろう。
    トレーナーの冷静な思考は
    大きくぐらついた。
    浮いた胸元から僅かだが
    しっかりと見えたそれは
    トレーナーの動揺を誘うには
    十分だった。

  • 10021/09/18(土) 09:11:39

    『まずい…極めてまずい…』
    あれよあれよと言う間に王手がかかる状況にまで
    トレーナーは追い詰められていた。
    『だけど、チャンスでもある。』
    トレーナーは今、銀と桂マを
    持ち駒として持っていた。
    グラスの囲いにも綻びが出始めている。
    そして囲いの近くには飛車も出ている。
    『ここを切り抜けさえすれば…!』
    「……トレーナーさん。」
    「…何?」
    「さっき私の胸元覗いてましたよね?」
    「!?!?!?!」

  • 10121/09/18(土) 09:12:14

    唐突の指摘にトレーナーは
    激しく狼狽える。
    「………トレーナーさんの助平。」
    「え?あぁいやそんな事は無い…」
    「王手。」
    「………あ。
    ………………………負けました。」
    「………トレーナーさん。」
    「…すみませんでした。」
    「何に対して謝ってるんですか?」
    「その………胸を見た事に対して、です…」
    「何で見たんですか?」
    「……ええー………見えた、から、です……」
    「トレーナーさんは女性の胸元が
    見えそうなら見るんですか?」
    「……いや……そういう訳では…無いです…」
    「現に見てるじゃないですか。」
    「……その、すみませんでした。
    許して下さい。」
    「…はぁ………もういいです。」
    「………すみません…………」
    「……それしても………
    トレーナーさんって
    結構色好きだったんですねー。」
    不意にグラスが立ちあがり
    こちらの右横に座り出した。
    「やっぱりこういうのも好きなんですか?」

  • 10221/09/18(土) 09:13:42

    いきなりの右肩の柔らかな感触。
    控えめながらも確かにあるそれは
    つきたての餅のように柔らかい。
    グラスが右腕に抱きついて来たのだ。
    「感触はどうですかー♪」
    「グ、グラス!?そ、その、止め…」
    「さっきまで胸元を凝視していた癖に
    純情ぶるなんて…悪い人ですね♪」
    耳元の蕩けるような囁き。
    整髪料と汗の混ざった甘い香り。
    『ヤバい。これは、ヤバい!』
    理性が木の葉の様に振り回されている。
    相手が十代であるという意識がなければ
    既に崩壊している。
    「いいんですよ?
    ここで恋人らしい事をしても。」

  • 10321/09/18(土) 09:14:28

    「こ、恋人らしい事って何…?」
    「分かってるでしょう?
    トレーナーさんだって大人ですもんね♪」
    『耐えなければ免職耐えなければ免職耐えなければ免職耐えなければ免職耐えなければ免職』
    これは試練だ。
    グラスは俺をからかっているのだ。
    云わば罰のようなものなのだろう。
    俺は耐えるしかない。
    溢れる欲を抑えながらトレーナーは
    必死に耐える。
    「…………フフ♪ 冗談です♪
    これは私の胸を勝手に見た事への
    お仕置きです。」
    「つ、次はしないようにします…」
    「…まあ勝手じゃなければ良いんですけど…」ボソッ
    「何か言った?」
    「いえー。何でもないですよー♪」
    『まんまと踊らされた…』
    時刻は夕方5時。
    まだ暗くはなっていないものの
    グラスはそろそろ帰らないと
    いけない時間。
    いつまでもあの空気を引きずる訳にも
    いかなかった。
    トレーナーは将棋のセットをしまった。

  • 10421/09/18(土) 09:14:57

    片付けも終えて
    そろそろ帰る時間となった。
    『最後にあんな翻弄していくとは…』
    トレーナーはなるべくあの感触を
    思い出さないようにしていた。
    もし思い出したら
    グラスに抱きついてしまいそうだったからだ。
    グラスが靴を履きドアノブに手をかける。
    「では、そろそろ帰りますね。
    夕御飯は冷蔵庫に入ってるので
    温めて食べて下さい。」
    「あぁ…それじゃあね。」
    「……トレーナーさん。」
    「…何?」
    グラスが急に振り返った。
    「…『恋人らしい事』、是非とも
    お待ちしていますからね♪」
    「……え?」
    「それではまた明日お会いしましょう。
    さようなら。」
    「あ、え?、グラス!?」
    ガチャン。
    「…」
    「最後の最後で弄ばれた…」
    その後一週間、トレーナーは
    グラスにからかわれる事となった。

  • 105二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 09:15:15

    このレスは削除されています

  • 10621/09/18(土) 09:15:56

    『優等生、か。』
    『あえて襟元の緩い服を来てきた時点で
    私は優等生でも何でもなく
    好きな殿方に秋波を送る卑しい女
    なのでしょうね。』
    『でも、お手付きもしない貴方が悪い
    のですから、ね?』
    そんな想いとは別に
    あんなあからさまな手は
    大和撫子としてあまり使わない方がいいと
    考えるグラスなのであった

  • 107二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 10:00:12

    あーダメですよこれは非常に良くない

  • 108二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 21:58:25

    グラトレとタイトレが飲む外伝です。
    お納め下さい…

    休日の夜、グラスのトレーナーは
    タイシンのトレーナーを呼んで
    部屋で飲んでいた。
    「…………」
    「おい、突っ伏してないでなんか喋れよ。
    お前が呼ぶから来たんだぞ…」
    「…………グラスを………」
    「グラスをどうした?」
    「………性的な目で見てしまった…」
    「…………」
    「ごめん。俺帰るわ。」
    「待て、話だけ聞いてくれ。」
    「ふざけんなよお前
    そんな事で俺を呼んだのか?」
    「うるさいな。いいから聞いてくれよ。
    グラスがすげえ弄んでくるんだよ…」
    「知らねぇよ。結局惚気じゃねぇかよ。」
    「惚気とかじゃないよ!
    このままだと手を出してしまいそう
    なんだよ!
    そうなったら最悪免職だろ?
    ヤバいんだって!!」
    「付き合ってる時点で大分ヤバいと思うん だが…」
    「…そういうなら
    お前がタイシンの事気になってるって
    理事長に」
    「オーケーわかった話を聞こう。」

  • 109二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 22:14:08

    ちょっと腹を切ってきますね…

  • 110二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 22:15:17

    ………
    「なるほど、胸チラに引っ掛かった、と。」
    「あの時は気が気じゃなかった。」
    「まあ、仕方ない。
    不意に見えた物程殺傷力は高いからな。」
    「やっぱり仕方ないよね…」
    「でも見られた側は仕方ないとは
    思わないぞ?」
    「……………はい………」
    「…そういう時はな、決して気づいた事を
    気取られてはならないんだよ。
    これは俺がタイシンと喫茶店に行った時の話だが…」
    コンコン。
    「失礼しまーす。
    ここグラスのトレーナーさんの部屋
    ですか?」
    「あ、タイシン。どーしたの?」
    「!?」
    「今、うちのバカトレーナー
    探してるんだけど、どこにいるか
    知らないですか?」
    「あぁ、それなら…?……ちょっと
    分からないかな。」
    「…そうですか。ありがとうございます。
    もし見つけたら報告して下さい。」
    「あ、あぁ分かった。」
    「それではどうも。」
    ………

  • 111二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 22:16:11

    「…お前何したの?」
    「…何もしてな」
    「本当は?」
    「タイシンに告られた。」
    「何日前?」
    「5日前。」
    「返事は?」
    「…保留にした。」
    「その後は?」
    「その…気まずいから、避けてた…」
    スパァーーン!!
    「いってえ!?」
    「だったら怒るよ!
    お前自覚あるって言ってたよね!?
    何でそんな事したの?」
    「いや、だって…
    急に言われたらどうすりゃいいか
    分からんし…
    返事考えてたら、なんか…
    気まずくて…」
    「好きなんだろ?」
    「おう…」
    「付き合いたいと思うんだろ!?」
    「おう」
    「幸せにしたいと思うんだろ!!?」
    「おう!」
    「なら行けよ!!」
    「おう!!行ってくる!!!」
    ガチャ!!

  • 112二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 22:16:45

    このレスは削除されています

  • 113二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 22:17:41

    「タイシーン!付き合うぞー!!」
    「バカッ!!」
    「えげぇっ!!!」
    「人の気も知らないで!
    この前から何で避けてたんだよ!」
    「お前を幸せに出来るか不安だったからだ!だがもう決めた!
    結婚を前提に付き合おう!!」
    「!………ッ
    …買い物に付き合ってくれなきゃ
    許さないから。」
    「!てことはタイシン!」
    「………言わせないでよ……そういう事。」
    「うおォォォ!!!タイシン!!!!」
    「うるさいバカ!蹴っ飛ばすよ!」
    「おげぇ!」
    「…フフ…」
    『………』
    『…結局何も解決してねぇな、俺』
    少なくとも卒業までは
    そういう関係にはならないという
    自分なりの目標をグラスのトレーナーは立てた。
    タイシンのトレーナーは彼女が出来た。
    なお、知れ渡った。

  • 11421/09/18(土) 22:19:43

    何度もつけ忘れて申し訳ありませんが
    載ってある怪文書は全部自分が書いたものです。
    分かりづらくてすみません。

  • 115二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 22:26:41

    初めて開いてみたけどとんでもない熱量のSSスレだ...
    今日は安眠できそうです

  • 116​​​二次元好きの匿名さん21/09/18(土) 23:07:41

    予想通りタイシントレはデカい声で告白してて笑う

オススメ

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