(トレウマSS注意)ハロウィンに甘いイタズラを

  • 1◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:25:16

    今年もまたハロウィンの季節がやってきた。
    どのような衣装を選ぶのか、どのようにしてお菓子を貰うかそれともイタズラを仕掛けるか……
    その事で学園中の話題は一杯であった。

    「…………」

    翌日に控えたハロウィンを前にして、一人コーヒーを飲みながら寛いでいるマンハッタンカフェもその一人であった。

    (ハロウィンの衣装は……もう決めましたが後はどうしましょう……普通にお菓子を貰うのもいいですけれど…トレーナーさんに……イタズラ……)

    「随分とお困りだねぇカフェ」

    自身が好意を寄せているトレーナーに対して当日どのように振る舞うかカフェが思慮を巡らせていると後ろから自分を呼ぶ嫌というほど聞き慣れた声がした。
    カフェが振り向くとそこには白衣を纏ったウマ娘が……アグネスタキオンがいたのである。

  • 2◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:25:33

    「何ですか急に……」
    「そう邪険にする事もないだろう? 今君はハロウィンの事で悩んでいる……当たりかな?」
    「……!?」

    その言葉にカフェは目を丸くしてタキオンの方を見ると彼女は得意げな顔をしてカフェを眺めていた。

    「ふぅん、どうやら図星のようだねぇ。だが実は私も同じ考え事をしていてね。ハロウィンと称してどうやって新薬を飲ませるか考えていたのだよ」
    「いつも通りに飲ませれば良いのでは?」
    「折角のハロウィンだぞ?ならハロウィンらしくとっておきのイタズ……新薬を用意するべきじゃないか。……まぁお菓子も捨てがたいがね」

    (ハロウィン……らしく)

    白衣の袖をブンブンと振り回しながら自論を語るタキオン。最初は呆れながら聞いていたカフェではあったが彼女のその言葉に何か思い当たる節があったのかカフェの心の底で何かが渦巻きはじめていた。

    「カフェがどんな事を考えているのかは詮索しないでおこうか。折角の計画を明かされたくはないだろう?」
    「言いたい事はそれだけですか……?」
    「おっと、誤解しないでおくれよ?私はただアドバイスをしに来ただけさ……"素直になれ"とね」
    「……は?」
    「まぁ頑張りたまえよ……ククッ、モルモット君にどんな薬を飲ませるか楽しみだねぇ」

    そう言葉を言い残しタキオンは小刻みに廊下を歩き去って行った。静けさが戻り安堵したカフェはまたコーヒーを飲み始める。

    「…………"素直"ですか」

    しかし先程と違いその瞳には確固たる決意に満ち溢れていた。

  • 3◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:25:51

    そしてハロウィン当日。
    待ちに待ったイベントという事で学園は大賑わい。
    友人、教師、先輩後輩、そして自らのトレーナーにハロウィンの謳い文句を告げて時にはお菓子を貰い、時にはイタズラをする…… 廊下や広場、どこを見渡しても仮装している生徒達の姿が見えない場所はなかった。

    (……………………)

    ある一人を除いて………

    ここはとあるトレーナー室。一人のトレーナーが窓からハロウィンの様子を眺めながら仕事に勤しんでいた。
    するとドアをノックする音が聞こえ、どうぞとトレーナーが答えるとそれに合わせてドアが開かれる。
    そしてトレーナーの目線の先には……

    「こんにちはトレーナーさん……」

    吸血鬼の姿に仮装した自分の担当バが……マンハッタンカフェがいたのである。

  • 4◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:26:12

    「……凄い似合ってるじゃないかカフェ」
    「そ……そうですか………」
    「普段のカフェとは違う雰囲気がしてそれも凄く良い!それに……」
    「…………トレーナーさん」

    身を包むは紅い裏地が見え隠れする漆黒のマント、中世の貴族を思わせるような高貴な装飾、そして彼女の闇夜のような黒い髪と月のような瞳が妖艶さを醸し出す。
    その姿に目を奪われながらも感嘆の声を上げ続けるトレーナーの様子はまるで吸血鬼に魅了された獲物そのものであった。

    「———トリック・オア・トリート」
    「え?」

  • 5◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:26:33

    そのトレーナーの言葉を遮るように放たれた一言……普段は聞くことがないその言葉はトレーナーを我に返し、今日が何の日か思い出させるには十分であった。

    「……ああ、今日はハロウィンだったね。この日の為に君のお菓子を用意……」
    「———ッ」
    「あれ……?か、身体が動かな……!」

    カフェへのお菓子を用意しようとしたトレーナーだったが突如金縛りにあったように身体を動かす事が出来ない。どんなにトレーナーが力を込めても指先一つ動く様子もない。

    「まさか……お友達!?」
    「そうですか……お菓子は持っていないのですね……」
    「カフェ!?」

    かろうじて動かせる首で振り向くとカフェがじりじりとその距離を詰めようと歩み寄ってきた。
    レースの時に見せる威圧感すら感じさせるその姿を目の前にしてトレーナーは後すざりする……いや、"させられて"いた。そして後すざるトレーナーの足に感じるソファの感覚……もう逃げ場は無かった。

    「お菓子がなければ"イタズラ"するしかありませんね……」

    そう呟くとカフェは一気に距離を詰めて———

    一瞬身体が宙に舞ったと感じたトレーナーが気付くと目線は座っている時と同じ高さだった。
    そして視線を下に移すと今の状況がどうなっているのか理解できた。
    カフェがソファに座っている自分を抱きしめているのだという事に。

  • 6◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:26:50

    「これが私のイタズラです……暫くこのままですよ?」

    逃げないようにしっかりと抱きしめながら耳元で囁くカフェ。その囁きに反応するトレーナーの姿を見て余裕すら感じさせる微笑みを浮かべていたのだが———

    (こ……ここからどうしましょう……!?)

    実は彼女にも余裕なんて無かったのである。

    (勇気を出して抱きしめる事は出来ました……それだけでも大きいんです……ならこのまま……このまま……)
    (コノママデ、イイノカ?……ショウジキニナレ、コノチャンスヲ………ノガスノカ?)

    突如脳裏に響き渡るお友達の声……その声が最後の一押しになったのだろう、カフェはその指でトレーナーの胸元に文字を描き、何度も同じ文字をなぞり続ける。
    描いたその文字を聞こえないように呟きながら何度も何度も……
    これが今カフェができる精一杯、そしてそんな精一杯を彼女のトレーナーが気付かない訳がなかった。

  • 7◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:27:10

    「カフェ、トリック・オア・トリート」
    「え?」

    トレーナーの予想外の一言に上擦った声を上げて彼の方に向き直るカフェ。そんな彼女の顔を見て微笑みながらトレーナーは続ける。

    「お菓子は持ってるかな?」
    「持っていません……」
    「なら"イタズラ"しないとな?」

    その言葉に慌てるカフェを尻目にトレーナーはそのままの体勢で彼女の背中に文字を描く。先程のカフェのように彼女と同じ文字を描き、何度もその文字をなぞっていく。

  • 8◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:27:27

    「トレーナー…さん……?」
    「これが俺の"イタズラ"だよ」
    「ずるい……です」
    「カフェ?」
    「ずる…い……です…っ…!」

    突然の言葉に困惑するトレーナー。しかしカフェの顔を見た瞬間、その困惑は一気に消し飛んでいた。
    何故なら彼女は涙を流していたのだから。

    「誰も邪魔してこないこの場所を選んだのに……!」
    「お友達にも手伝って貰ったのに……!」
    「精一杯勇気を出したのに……!」

    「そんな簡単に私と同じ事をするなんてずるい……ずるい……っ!」

    気付けばカフェはトレーナーの胸元に顔を埋めて只々涙を流していた。トレーナーに頭を優しく撫で続けられながらも泣いて泣いて泣き続けた。

    「でも……嬉しい………!」

    トレーナーは胸元に伝う暖かい涙を感じながらただ黙ってその感情を受け止め続けたのであった。

  • 9◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:27:48

    「やっぱりカフェの淹れたコーヒーは美味しいな」
    「ありがとうございます……でもトレーナーさん、先程のイタズラは……」
    「そうだねぇ、イタズラと書いて本心と読むのかな」
    「……ッ、もう……本当にずるい人……」

    暫くして落ち着いたカフェと共にコーヒーを飲みながら寛ぐトレーナー。トレーナーの膝に座り背中を預け、彼の言葉に赤面しながらカフェはコーヒーを飲む。その姿はまるで飼い主に甘える子猫の様であった。

    「それでさ、これをカフェに渡そうと思って」
    「……これは?」
    「ハロウィンのお菓子、君だけに渡すものだからしまっておいたんだ」

    カフェが手渡された小包を開けてみるとその中にはマドレーヌやキャラメルなどといったお菓子が詰められていた。

    「まぁ"イタズラ"で渡し損ねたんだけどね」
    「むぅ……やっぱりずるい人……でもこれって……」

    頬を膨らませるカフェ。しかし渡されたお菓子に何か思い当たる節があったのか天井を見つめているトレーナーの方に向き直る。

  • 10◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:28:06

    「言っただろ?君"だけ"に渡すものだって」
    「トレーナー……さん……私……私はっ……」
    「おっとそこまで、それ以上先の言葉は"今"言ってはいけないよ」
    「え……? なんで……どうして……?」
    「だってまだ"ハロウィン"は終わってないんだろ?」
    「あ…………」
    「だから今伝えたい君の言葉も、俺の言葉もきっと同じ……」

    天井を眺めながら話していたトレーナーがカフェの方へ向き直る。

    「でもその言葉は"ハロウィンのイタズラ"になんてしたくはないからさ」

  • 11◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:28:25

    トレーナーのその一言は堪えきれなくなったカフェの感情の波を激しくさせるには十分過ぎた。先程以上に堰き止めきれなくなった感情の雫が、その闇夜に輝く月のような瞳から絶え間なく流れ続ける。

    「本当に……ずるい人です……あなたは……」
    「ははっ、大人はずるいものだからなぁ」
    「…なら私も先程以上にズルをしちゃいます……」
    「え?」

    trick or treat———

    その言葉が囁かれた瞬間、トレーナーの首筋には熱い感覚が走っていた。

    「カフェ……」
    「ふふっ、まだハロウィンは終わっていませんよ?……今の私は吸血鬼なのですから……」

    上目遣いで妖しくトレーナーを見つめるカフェ。その姿は衣装も相まって獲物の血を啜った吸血鬼そのもの。
    その蠱惑的な眼差しにまるで鎖で縛られた様に動けない獲物に吸血鬼は再びその顔を近づけ彼の耳元で囁く。

  • 12◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:28:42

    「何を期待してたのですか?」
    「え…いや、その……」
    「ふふっ、"イタズラ"なのに顔が真っ赤ですよトレーナーさん……」
    「ずるいなカフェは……」
    「ズルいのはお互い様ですよ?それに……」

    そう言って耳元から顔を離し、人差し指でトレーナーの唇に軽く触れるカフェ。
    そして再び顔を耳元に近づけて……

    「私だって"こっち"は"イタズラ"になんてしたくはありませんから……」

    トレーナーの首筋に再び走る熱い感覚。
    こうして彼はまた、愛しい吸血鬼に啜られたのであった……

  • 13◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:28:59

    後日———

    「やぁカフェ! ハロウィンはどうだったかね!」

    寛いでいるカフェの前にいつぞやの様に現れたタキオン。いつもながらの展開にカフェは深い溜め息をつく。

    「それを聞いて何を……」
    「私があの時アドバイスをしたからねぇ、結果を確かめたいだけさ」
    「そういうアナタはどうなのですか……?」
    「よくぞ聞いてくれたねぇ!私は成功だよ。モルモット君にイタズラと称して新薬を飲ませる事が出来たのだよ! さぁ次はカフェの番だねぇ……」

    クツクツと笑いながらカフェの方をじっと見つめるタキオン。よほど今回の成果に自信がある様だ。
    そんな彼女を見てカフェは———

    「ええ、私も楽しめましたよ? コーヒーを飲んでも忘れる事が出来ないくらいの甘いハロウィンを……ね?」

    手で自分の唇を押さえ妖しい瞳で見つめながらタキオンに答えるカフェ。当のタキオンはというと先程の笑顔は消え失せわなわなと震えていた。

    「……は? その仕草はどういう意味を……」
    「そろそろあの人の所へ行く時間ですね……」
    「"あの人"……カフェ……説明を…したまえよ……」
    「それでは、私はこれで失礼しますので」
    「ま……待ってくれ……」

    唖然とするタキオンを尻目にトレーナー室へ向かうカフェ。後ろから聞こえてくる絶叫を聞きながら歩みを進めるその顔はどこか得意げであった。

  • 14◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:29:15

    所変わってトレーナー室、いつもの様にカフェはトレーナーの隣でコーヒーを飲んでいた。

    「それで、タキオンに自慢してきたと」
    「いつも振り回されてるのですからこれくらいは……と思いまして」
    尻尾を振りながらにこやかに笑うカフェ。よほどリードできたのが嬉しかったのだろう。その後は静寂の中寛いでいた二人であったがふとカフェが口を開く。

    「……あの時の"言葉"口に出すのがまだでしたね」
    「そうだな……」
    「そろそろいい……ですか?トレーナーさん?」
    「なら二人で同時に言い合おう……いいね?」
    「はい。もう"イタズラ"じゃありませんから」

    二人は互いの方に向き直る。
    互いの瞳が見つめ合う、次第に二人の瞳と瞳の間の距離が近くなっていく。
    そして互いの呼吸が聞こえる程の距離、二人は息を合わせる様に深呼吸して———

  • 15◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:29:27

    『だいすき』

    その瞬間、二人の声と影が重なったのであった。

  • 16◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:29:56

    以上少し早いですがハロウィンを
    長文失礼しました

  • 17◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 14:34:05

    ちなみにマドレーヌには「あなたとさらに仲よくなりたい」

    キャラメルには「あなたと一緒だと安心する」

    の意味もあったり


    gift-shop.jp
  • 18二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 15:08:35

    またいちゃついてる…
    いたずらの喜びを知りやがって

  • 19◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 15:22:42

    >>18

    これからもっといたずらの喜びを知っていくのでしょう……

    そしていたずらではない時のそれも……

  • 20二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 21:20:08

    タキオンを自業自得が襲う

  • 21◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 22:18:21

    >>20

    カフェとトレーナーの親密度はタキオンが想定するそれ以上だったのだ……

  • 22二次元好きの匿名さん24/10/14(月) 22:20:32

    トレウマたすかる

  • 23◆kQHUxQAaXo24/10/14(月) 22:27:21

    >>22

    そう思ってくれると有難い……

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