(SS注意)お呼ばれ

  • 1二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:55:43

    「……“ステータスチェック”」

     そう一言呟いて、彼女はぴたりと足を止めた。
     金色の長髪、どこか眠たげに細められた碧眼、前髪には水色の流星。
     どこか浮世離れした雰囲気を感じるウマ娘─────ネオユニヴァースは道端の建物を見やる。
     正確には、鏡のように磨かれた窓ガラスへと映り込む、自らの姿を。
     彼女はどこか緊張した面持ちで、前髪をちょいちょいと触れていく。

    「前髪の“ラジアン”には“NPB”、ネオユニヴァースは『ばっちり』をしているね」

     両手の人差し指を頬に当てて、笑顔を作り仕上げると、ネオユニヴァースは再び歩き出した。
     かれこれ、今日の道中でこのやり取りを、彼女はすでに複数回行っている。
     髪型のセッティング、身嗜みに乱れはないか、メイクが崩れてしまっていないか。
     普段はそこまで気にしていないことが、妙に気になってしまって、仕方がないのだ。

     ────今日、ネオユニヴァースは自身のトレーナーの部屋へと向かっていた。

     休日にトレーナーと過ごすことは、彼女にとって珍しいことではない。
     ともにお気に入りの納豆専門店に行くこともあれば、星を一緒に見に行くことだって良くある。
     ただこの日は珍しく、トレーナーからの要望で、トレーナーの家へと招待をされていた。
     当初は、彼女もあまり考えずに頷いて、重くは捉えていなかったのだが。

  • 2二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:55:58

    『男性の部屋にお呼ばれ……なっ、なんて英雄的行為……! ユニさん、準備は入念に行いましょうっ!』
    『Ich verstehe……ユニヴァースさん、その日はとびっきりのおめかしをしなくてはいけません』
    『あら、今日はいつも以上に可愛らしい……そうですか、それなら私からはメイクのお手伝いを』

     ────などと、同室を含む友人達から言われて、妙に気になるようになってしまったのだ。

     無論、ネオユニヴァースはわかっている。
     自分のことを理解しようとしてくれて、ともに新たな宇宙へと至ってくれたトレーナー。
     そんな彼が、自分を部屋に呼び出したからとって、変なことをしたりするわけがない、ということは。
     わかってる、わかってはいる、のだけれど。
     もしかして、もしかしたら、もしかするのかもしれない。
     そんな奇妙な想いが、彼女の中では燻り続けていて。

    「…………もう一度だけ、“REVS”を」

     ネオユニヴァースは再び立ち止まって、スマホのインカメラで、自身の姿を映し出した。

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:56:14

    「“ランデブー”ポイントに到達……でも、“アンコントローラブル”、体温上昇も」

     トレーナー寮の、とある一室の前。
     目的地へと到達したネオユニヴァースは、その場でぴしりと固まってしまっていた。
     心臓の鼓動に乱れが生じ、頬の温度も僅かに上がり、どうにも落ち着かない。
     彼女は心臓に手を当てて、ゆっくりと、そして深く、呼吸を行う。

    「すう、はあ…………うん、“コード”グリーン、もうすぐ“ETA”だから」

     少しばかり落ち着きを取り戻したネオユニヴァースは、意を決してインターホンに手を伸ばす。
     すると、相手の確認もしないまま、部屋の中から小走りの足音が聞こえて来た。
     ドアノブが回り、がちゃりと音を立てて、扉が開かれる。

    「こんにちはユニヴァース、お休みの日に呼び出してごめんね」
    「ハッ、ハロー、トレーナー、それは“ALT”だけど……?」

     部屋の中から現れたトレーナーの姿を見て、ネオユニヴァースは目を丸くする。
     お出かけの時に良く着ているような普段着、そしてその上に纏われている、シンプルなデザインのエプロン。
     彼はにこりと屈託のない笑顔を浮かべると、彼女を部屋へと招き入れる。

    「────実家から送られてきたのをご馳走したくてさ、さあ、上がって上がって!」

  • 4二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:56:29

    「……あの、ユニヴァース? なんか怒ってる?」
    「ネガティブ、ネオユニヴァースは『おこ』じゃないよ……“INKW”だったから」

     ネオユニヴァースは椅子に腰かけたまま、頬をぷくーっと膨らませて、唇を尖らせている。
     そんな彼女に、トレーナーは少しばかり困惑しながら、キッチンで支度を進めていた。
     しばらくすると、彼女の中からもやもやが抜けて来て、リラックスした平静な思考が戻って来る。
     それを見計らったかのように、トレーナーは楽しげな笑みを浮かべて、彼女へと声をかけた。

    「ユニヴァース、見てごらん」
    「それは……豆腐? でも、そんな扱いなのに、“崩壊”を起こしていない……? “クインテッセンス”?」

     トレーナーがキッチンから掲げたものを見て、ネオユニヴァースは思わず、首を傾げてしまう。
     そこにあったのは、白い立方体の大豆食品。
     見た目は紛れもなく、彼女の好物の一つである豆腐なのだが、おかしな点が一つだけあった。
     その豆腐は縄で縛られて、トレーナーの手からぶら下がっている状態なのに、まるで崩れる気配がない。
     彼は悪戯に成功した子どものようなしたり顔で、言葉を続ける。

    「あははっ、実家の方の特産品でさ、つまづいて怪我をするって言われるくらいの固さが特徴なんだ」
    「“UNBL”、そこまでの『硬度』なら、“スリープ・コンパートメント”で、枕に出来るかも」
    「そうかもしれないね……お待たせ、ネオ」

     縄で縛った豆腐を一旦仕舞い込むと、別に用意を進めていたお皿をトレーナーは運び出す。
     そこにはまるで小さくカットされた豆腐が、綺麗な形を保ったまま、ずらりと並んでいた。
     普通の豆腐では考えられない光景に、ネオユニヴァースは思わず、目を奪われてしまう。

  • 5二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:56:55

    「初めて“観測”する豆腐料理……ふふっ、『ドキドキ』、だね」
    「豆腐のお刺身、なんて珍しいよね、わさび醤油でつけて食べると美味しいよ」
    「アファーマティブ、それじゃあトレーナー、『いただきます』をしても良いかな?」
    「もちろん、どうぞ、召し上がれ」

     トレーナーの言葉に、ネオユニヴァースはぴょこぴょこと耳を動かす。
     小皿に醤油を垂らしてわさびを混ぜ合わせると、箸を用いて、豆腐の刺身を一切れ摘まんだ。
     多少、掴んだ程度では豆腐はびくともせず、そのままわさび醤油にちょんとつけて、一口でぱくりと頬張る。
     刹那、彼女は目を見開き、耳と尻尾をピンと立ち上がらせて────直後、ふわりと表情を緩ませた。

    「……スフィーラッ! 『大豆』の旨味と甘みが濃厚で、口当たりもとっても“COMF”!」
    「だよね、喜んでくれて良かったよ……ちなみに、合いそうな塩や生姜、薬味なんかも用意してるけど?」
    「……! ネオユニヴァースは、“EDFA”を、したい……!」
    「了解、ちょっと待っててね、お代わりもたくさん用意しているからさ」

     コクコクと頷くネオユニヴァースを微笑ましく見つめながら、トレーナーは再びキッチンへと戻る。
     そして彼女はぱくぱくと豆腐の刺身を堪能しながら、微かな違和感を覚えていた。
     豆腐はとても美味しい、いくら食べても飽きない上に、調味料のバリエーションも待っている。
     とても満足しているはずなのに────どこか、物足りないと思っている、自分がいた。

    「色々、持ってきたよユニヴァース、本当は昆布締めなんかも美味しいんだけど」
    「…………あっ」

     ネオユニヴァースは、気づきを得た。
     戻ってきたトレーナーの姿を見て、欠けていたピースが、ぴたりと埋まる感覚とともに。
     調味料を置いて、すぐに立ち上がろうとする彼に、彼女は声をかけた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:57:26

    「トレーナーは一緒に『食べる』、しないのかな?」
    「あー……俺は前から食べてるし、キミに他の豆腐料理もご馳走してあげたいから」
    「それなら、ネオユニヴァースも『お手伝い』をしたい」
    「えっ、いや、大丈夫だよ? ユニヴァースはゆっくりと豆腐を味わっていてもらって」
    「『わたし』は────」

     ネオユニヴァースは、じっと、トレーナーのことを見つめる。
     空の星々ではなく、別の銀河の果てではなく、ただ目の前にいる彼をじっと見つめる。

    「『あなた』と、過程も結果も『半分こ』して、体験を“同期”して“コネクト”したい」

     そして、少しだけ照れてしまったのか僅かに下を向き、上目遣いで小さく言葉を零す。
     それは、不思議な宇宙的ウマ娘の姿でも、頭脳明晰な生徒の姿でも、G1レースの覇者の姿でもない。
     一人の、普通の女の子としての姿であった。

    「……ダメ、かな?」

     その言葉を受け取ったトレーナーは、一瞬だけ驚いたように表情を固める。
     けれどすぐ、嬉しそうに顔を綻ばせて、言葉を紡いだ。

  • 7二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:57:41

    「ダメなわけ、あるもんか……うん、それじゃあネオ、それを食べたら次の料理は手伝ってくれる?」
    「……! “WCOM”!、ネオユニヴァースは、協力に『受諾する』をするよ……!」
    「ありがとう、それじゃあ俺も、一緒に食べさせてもらおうかな」
    「うん、トレーナーは、どの“EXIN”が好み?」
    「そうだね、わさび醤油も良いんだけど、個人的には塩で食べるのが一押しかな」
    「“NaCl”だね」

     向かい合うように椅子へ腰かけたトレーナーを見ながら、ネオユニヴァースは塩で豆腐を頂く。
     先ほどよりも素材の味を良く感じられて、これはこれで美味しい。
     味そのものは、わさび醤油と甲乙つけがたい、はずなのだけれど。
     何故か────先ほどよりも、口の中が、心の中が満たされる感覚が、彼女にはあった。

    「えへへ、とってもミューテフ……この『選択』は“GRSS”だね?」

  • 8二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:58:06

    お わ り
    とあるスレでお題を頂いて書いたSSです
    時間がかかって申し訳ない

  • 9二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 20:59:49

    まさか採用されるとは……五箇山豆腐実際旨い

  • 10124/10/15(火) 21:11:49

    >>9

    お題をありがとうございます

    残念ながら食べたことはないんですよね……

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/15(火) 21:31:35

    幸せなおユニのお話なんてなんぼあっても最高ですからね

    こっちも幸せになれるんだからもう最高ですよ

    緊張しちゃうの激烈にかわいい

  • 12124/10/15(火) 23:56:34

    >>11

    幸せなおユニさんは万病に効く

  • 13二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 00:10:30

    女の子してるかわいいユニちゃんはDNAに素早く届く
    いいものを読ませてもらいました

  • 14124/10/16(水) 06:26:08

    >>13

    女の子しているユニちゃんは良いですよね

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