【オリキャラSS】コルトM1877を持つ二人の生徒の話 Part2

  • 1◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:33:36
  • 2◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:36:05
  • 3二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 22:38:41

    このレスは削除されています

  • 4二次元好きの匿名さん24/10/16(水) 22:40:46

    すまん、前スレに貼ってないように見えたけど貼ってたわ

  • 5◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:43:01

    >>4

    ん、大丈夫だよ~

    お気遣いありがとです

  • 6◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:45:51

    https://bbs.animanch.com/board/3955435/?res=190


    それじゃ、ここから続きを書いていきますぜ。

  • 7◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:50:04

    >>6

    二人で顔を見合わせていたが──やがて、ライカが天井を見上げながらパチンと指を鳴らす。


    「地下鉄からそのまま地下へ持ち込み、そのままそこで資材を投与する。その後、それとは別に地上で建築を始めれば、それがそのままダミーとして機能する。どちらの工事も終わってしまえば──あとは上の工場の建築だったとして認知され、地下で起きた建築は誰にもバレませんな」

    「…地下で、我々に知られると厄介になるであろう場所をこっそりと作り出す。そしてそこは、奴らにとって非常に都合の良いアジトとして機能する。もしそうなれば──理由は何であれ、今後の脅威となりかねない」


    こうして、ここ最近起きていた様々な問題は、一つの束となって複雑に絡み合ったある陰謀から成り立っているのではないかという推測となった。


    「…やや疑いすぎかもしれませんが、念には念を入れねば。後ほど私も現地で確認して参るとしましょう」

    「あぁ、頼む。状況と場合、手に入れた情報によっては突入に移行する可能性もある。面倒な手続きは私に任せておけ」

    「あり難い。こちらとしては心置きなく動けますな」

  • 8◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:51:33

    >>7

    互いに頷き合い、カップに残った冷めたコーヒーを飲み干す。そうして、最初の話題は一先ず進路が定まった。この後忙しくなるだろうが、その前に約束のもう一つの話をしなければいけなかった。

    「さて──予め決めていた話もしなければいかんな。マワリのことだが、何か進展があったとは聞いていたが」

    「えぇ。実は──」

    空になった二つのカップに再びコーヒーを注ぎながら、ライカは話を続ける。


    「出動している最中、途中でマワリに会ってきたのでして」

    「…会ったのか!?」


    思わずカンナは、乱雑な音を立てながら椅子から立ち上がる。彼女としては、「居場所が分かった」という類の話だと思っていたのだろう。


    「えぇ。巡回中に通報を受けたレストランにて先生と共におりました。かと思えば、マワリの方から話を持ちかけられましてな。私も、これには心底驚かされました」

  • 9◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:57:28

    >>8

    「先生と…そうか、ここまで早いとはな」

    そこでカンナは、若干視線を下に向けて床を眺めていたが、やがて意を決したようにライカに聞く。

    「…マワリは、私とお前がしたことについて許してはいなかっただろう」


    しかし──ライカは、それとは全く別の反応を返した。

    「私もそう思っていまして、マワリに謝りましたが──彼女は許さないどころか、我々に謝りたかったと申し出たのです」

    「何…だと?」


    耳を疑ったカンナは、それが嘘ではないかとライカの方を見つめる。しかしライカは、コーヒーの入ったマグカップを再度渡しながら一息つく。

    「先生と話した上で、彼女なりの気づきがあったようで──正義を追い求めた彼女なりの苦心と後悔を語ってくれました。正しさより先に、自分はもっと我々を信じるべきだったと」

  • 10◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 22:58:49

    >>9

    「それは…あまりにも人の善性に頼りすぎではないのか。あの状況の中で信じろというのも、無理な話だとは思うが…」

    「私もそうは思いましたが、彼女なりに通した筋のようでして。何せ、あまりに真っすぐ見つめてくるものでしたから──結局、私もそれを受け止めました。彼女曰く、カンナ先輩にも同様にしたいと言っておりました」

    「…そうか」


    じっと目を閉じ、カンナは何かを考え込んでいたが──やがて、ゆっくりと前を見据える。


    「だとすれば──私もまた、それに応えなければ。どのようになろうと受け入れるつもりではあったが、まさか向こうが謝りたいと言うとはな。

    それは本来、私のするべき行いだろうに…少し目を離した隙に、随分と追い越されたような気分だ」

    「ハハッ…何をおっしゃいますか。あなたもまた、自らの行いを顧みて責務を全うしてきた公安局長ですぞ?あなた自身が卑下しようと、我々はあなたが真摯に取り組む姿を見逃しておりませんから」

    「…私は、部下に恵まれたようだな」

    やがて、顔を見合わせてカンナとライカは微笑する。二人共、この先どうマワリと接するべきか、定まったようだった。

  • 11◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:00:07

    >>10

    それとほぼ同時に──カンナのスマートフォンが、突然鳴る。


    「む。電話が」

    「…キリノ?メッセージではなく、電話とは…急用か?」

    電話の発信元は、生活安全局の中務キリノだった。


    「私だ。キリノ、どうした」

    「カ、カンナ局長!良かった、繋がりました…!今、フブキもいるので少しお待ちください!」

    かと思えば、どうやら向こうはスピーカー状態にしたらしく、フブキの声も電話に混じる。


    「やぁ、局長。聞こえてる?」

    「あぁ、お前たちから電話とはな。慌ただしいが何かあったか?」

  • 12◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:01:14

    >>11

    「え、えっと…本官達もついさっきあったことで混乱してはいるのですが…実は、夜中のパトロールをしていた区画で、何故かカイザーの兵士が多くいまして。そのあたりを、開発のためだって立入禁止にしているんです!

    それに、人も全くいなくなってますし…」

    「カイザーPMCが?」

    キリノからその情報を聞いたカンナは、何か嫌な予感がして聞き返す。

    「キリノ、まさかだが──それはこの区画の辺りか?」


    カンナが送った地図の情報を受け取ったキリノの声は、何で分かったのかと言わんばかりに興奮していた。

    「そ、そうです!何で分かったのですか!?」

    「あー…まぁ局長は気づくよねこの変化」

    「…キリノ、フブキ。どうやらお前たちは、意図せずか大事に関わることになるかもしれないな」


    そこで、カンナはスマートフォンをスピーカー状態にし、ライカの方に目くばせする。そこでライカも察したのか、会話に参加し始めた。

  • 13◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:02:20

    >>12

    「二人とも、私も入るが気にしないで続けてくれたまえ。実は、君たちが見たものが先ほど私とカンナ先輩が話していたことに繋がったようでね。恐らくだが、連中はここ最近の一連の事柄の元凶のようだね」

    「うーわ…やっぱそうじゃん。こりゃ厄介なことになったなぁ…ってそれはそれとして」

    「そ、そうです!それよりも大事なことが!」

    「ん?いったいどうしたというんだね?」

    「実は──


    マワリさんが先ほど、カイザーの兵士に誘拐されてしまいました!!!」


    「「…は!?」」

    途端、二人とも絶句した。それもそうだろう。先ほどまで話題に上がっていた人物が攫われたなんて報告、そうそうタイミングがあうものではないのだから。というかあってほしくない。

  • 14◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:03:34

    >>13

    「まて、どうしてそうなるんだね!?訳をいいたまえ訳を!」

    「いや、それは本官たちにも分からないというか、該当の区画から銃声が聞こえて行ってみれば、マワリさんが撃たれた状態で追われていまして…」

    「で、あっという間に取り押さえられて車の中へ詰め込まれていったって感じ。多分だけどさ──この感じだと何か知りすぎちゃったんじゃ?」

    「~~~~~ッ」

    そこまで聞いていたカンナだったが──これには流石に爆発せざるを得なかった。


    「何故こうもタイミングが悪いんだ!!!」


    「きょ、局長!?」

    「な、なんか地雷踏んだ感じ?」

    それに二人がビビったのを、慌ててライカがフォローする。

    「おっと、二人とも気にしないで構わないとも。いやはや、しかしこうなるとは思わなんだ…」

    「…すまない、こっちの事情だ。それで…お前たちもただ指を咥えて見てた訳ではないだろう?」

  • 15◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:04:54

    >>14

    「は、はい!勿論です!本官たちとてこのような悪事を見逃すわけには参りませんでしたから!」

    「ま、だからといって二人でどうにかできる訳でもなかったからさ。ちょっと手を入れておいたんだ。

    局長、今から送るデータをそっちで共有してもらえない?」


    「…これは、GPSか?」

    「例の車体の下に発信装置を取り付けておいたんだ。途中までこれで追跡できたんだけどさ、ピタッと止まっちゃって。これはその最終位置のデータ」

    「一応、このあと二人で向かう予定なのですが…気づかれてしまったかもしれません。とはいえ、出来る限りの追跡は試みるつもりです!」

    「あんま大事には関わりたくないし、正直私たちの管轄外だけど・・・ちょっとこればっかりは見過ごして帰っても気になって眠れないだろうしねぇ」


    唯一の目撃者ということもあり、二人は出来るところまでマワリの捕らえられている車両を追うようだった。

    模範的な警察官であろうとするキリノはともかく、普段怠惰なフブキも珍しく意欲的なのは、同期でもあったマワリに何かしら思うところでもあったのだろうか。

  • 16◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:05:24

    >>15

    ならばと──カンナは二人に命令する。


    「分かった。キリノ、フブキ、お前たちは生活安全局だが──この際だ、少し付き合ってくれ」

    「お前たちはGPSが発信した最終位置まで向かってほしい。我々も後ほどそこへ向かうが、くれぐれも向こうに悟られないように警戒を怠るな」

    「は、はい…!ですが、もうそこにはいないかもしれませんが…」

    「いや、その止まった要因には、一つ心当たりがあるのだよ」

    「え?どういうこと?」


    キリノとフブキの疑問に対して、ライカはカンナと話していた、ここ最近の事柄をまとめた考察を共有した。

    「実はだね──」

  • 17◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:06:49

    >>16

    (かくかくしかじか説明中…)


    「地下建設!?」

    「…ははぁ、GPSは衛星からの電波を利用するからね。地下では通信が途絶えて使えなくなるってわけか」


    カイザーコンストラクションが、地上での建設に乗じてこっそり地下施設を建てようとしている──その推察は、普段こういった大事にあまりかかわらない二人としては中々に衝撃が大きい。

    しかし、その推察を前提として、GPSが止まった理由の候補にもう一つ可能性のあるものが浮上してきた。それが、地下に車両が入ったことによるGPS回線の断絶である。


    「逆に言えば、その周辺には地下へとつながる道が用意されているはず。それも、車体が通れるほどの大きさのものでなければならん」

    「あぁ。おそらくだが、地下鉄へと入る経路も近辺で確認できるはずだ。恐らく、それが地下施設へと物資や人員を運搬するための経路だろう」

    「では、その経路を私たちは探せばよいのですね?」

  • 18◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:08:13

    >>17

    「あぁ、ぐずぐずしていると手遅れになる。特に、マワリに関しては向こうがどういう処置をとるか分からん。

    時間との勝負だ、お前たちにいけるか?」

    「いけるかっていうか…現場で目撃しちゃったのが私とキリノだしなぁ。はぁ、やれやれ…運がいいのか悪いのか。こうなった以上は、もっと面倒になる前にさっさと片付けよっか」

    「安心しろ、これが全て終わった暁にはそれ相応の賞与を約束してやる。各々、望むものがあれば私が取り次いでやる」

    「ほ、本当ですか!?」

    「へぇ~、なら悪くない話じゃん」

    「無論、その分は働いてもらうがな。では──頼むぞ」

    「はい!お任せください!では、生活安全局の中務キリノと合歓垣フブキ両名、これより作戦開始いたします!」

    「んじゃ、いっちょやりますか。また後でね、局長」


    キリノと吹雪との電話を切った後、すぐさま二人は身支度を整え始める。

    「さて──忙しくなりますな。行くとしましょうかね、カンナ先輩」

    「あぁ。今度こそ、私たちの正義を果たす。


    マワリ──そこで無事に待っていろ。私たちが必ず迎えに行く」

  • 19◆J1qLHjcRhM24/10/16(水) 23:09:48

    今日はここまで。2スレ目行ったね~。
    少しプロットの立て直しがいるかもなので、また頑張らんといけんな…
    ではまた、次の更新まで。

  • 20二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 08:14:02

    立て乙

  • 21二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 13:16:33

    急がば回れだ

  • 22◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 00:11:35

    保守~

  • 23二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 08:21:33

    ボーナスか、いいな

  • 24二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 16:18:17

    作戦上手くいくかな

  • 25二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 21:17:38

    このレスは削除されています

  • 26◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:17:41

    >>18

    一方、マワリが詰め込まれた車両の中では、彼女もまた機を伺っていた。

    両手は後ろ手で拘束され、武器は没収されている。それでも、抜け出せる準備はいつでも整えていよう──そう考えていたマワリは、車が停止した衝撃で少し体を揺らした。

    「着いたぞ。ほら、降りろ」

    隣の席に乗っていた兵士に促され、大人しく下車したマワリは周囲を見渡す。

    そこは、すでに古くなった線路が敷かれた暗いトンネルの中だった。車内では、窓から外を見ることができないようにされていたため、どうやってここに辿り着いたかの経緯は分からずじまいではある。


    「ここは…」

    「黙って歩け」

    暗いトンネルの中を、自分を監視している兵士に押されながら仕方なく歩く。そうして暫く行った先で、その男は待っていた。

    「やぁ、君が術業マワリ君だね?」

    「…あなたは?」


    「今回の『開発担当』とでも言おうか」

  • 27◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:18:58

    >>26

    周りの兵士が重装備をしている中、その男だけはスーツにネクタイというえらくシンプルな格好をしていた。それがどこか浮いてるように見えて不気味に思える。

    「手荒な真似をしてすまない。この件に関しては君も怒り心頭に発していただろうが、私は君と話がしたくてね。後ろの者、それを外してあげたまえ。銃も返してあげなさい」

    「了解しました」

    すると、彼の指示通りにマワリの手錠が外され、愛銃も無事ホルスターの中へと戻って来た。マワリが愛銃を確認すると、弾倉の中にしっかりと弾丸も装填された状態であり、細工をされたような形跡も無かった。予想外の対応に、マワリは首を傾げながら尋ねる。

  • 28◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:20:37

    >>27

    「どういうつもり?最悪ここで私に撃たれても文句は言えないけど」

    「さて、この周囲がカイザーPMCの兵に囲まれている状況下で、君がそうするとは思えないがね」

    「…最初から選択肢は無いってことか。いいよ、取り合えずやりたいようにしなよ。それを私が飲むかって言われたら別問題だよ」

    「それでいい。一先ず、私の後についてきたまえ」


    そうして、トンネルの奥へと開発担当は歩を進める。一旦は様子を見るということで、頭に上っていた血を何とか収めつつ、マワリは彼の後へとついていくことにした。

  • 29◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:21:35

    >>28

    「ただ歩いていくのもつまらないだろう。聞きたいことがあれば、遠慮なく言ってくれて構わないよ」

    「思ってた以上に寛容だね。なら聞くけど…あなたたちはあの区画を使って、いったい何をしようとしているの?」

    「単刀直入だね。そうだな…一言で言えば──我々の拠点をもう一つ構えたくてね」

    「拠点?区画の住居を撤去したその上に?」

    「まぁ、半分は正解だ。だけど、それは単なる目くらまし。もう半分は──ここだよ」


    その答えを目の前に示すがごとく、開発担当はトンネルの横にできたあるスペースへとマワリを誘導する。

    そのスペースの奥を垣間見たマワリは──目を疑った。


    「──どういう、ことなの」

  • 30◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:23:32

    >>29

    そこには、まるで巨大なホールの如く広がる、カイザーコンストラクションによる軍事工場が敷かれていたのだから。


    「ありえない──いったいいつから、こんなものを」

    「ほんの二週間だ。まぁ、上で例の施した仕掛けが充分に機能し始めたころ辺りからかな」

    「仕掛け…ヴァルキューレに気づかれないための──」

    そこでマワリは思い当たる。地上で不良生徒が各地で大きく暴れ始め、その数が増加したのは──ちょうど二週間前ぐらいだった。やはり、あれは予定通りに仕組まれたものだったのだ。


    「そんな……だからって、いくら何でも早すぎる。たった二週間で、こんなに大きな施設を地下に作れるはずがない!」

    流れだした冷や汗もそのままに、マワリは当然の疑問を側にいるスーツの男にぶつける。しかし、男はあごに指を当てて施設を眺めながら、いとも容易くその質問に答える。


    「まぁ、0からならそうだろうね。だけど、元々この辺りには広い空間が作られていたからね。地下鉄と言ったら、それがあるのは普通だろう?」

    「──使われなくなった駅周辺を、再利用した?」

  • 31◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:27:00

    >>30

    「駅と一緒に残っていた地下デパートもね。おかげで、新しく掘り進める所は極端に少なかったって訳だ。物資の移動方法は、線路を見れば分かるだろう?まぁ、かなりのスピード工事だったから私も部下も骨が折れたけどね」


    そうして伸びをする男の近くで、マワリはこの大きな軍事目的の生産工場に対して、ある疑問を脳内で反響させていた。

    この隠れた軍事施設で、いったい彼らは何を作っているというのか。

    然してその答えは、工場の奥から大きく響く駆動音と共に現れた。


    「おっ、来た来た」

    「…えっ…」


    象ぐらいもあろうかという二足歩行の駆動型兵器ロボットが、いくつも出てきたのだ。中心には主砲や機関銃が装備されており、上には人の乗れるような操縦スペースまで敷かれていた。

    「『フルングニル』と呼んでいる我々の新たな兵器だ。各パーツを分解し、再組み立てを可能とした駆動型兵器でね。一つ一つが強大な威力を持っていて移動能力も保証済みだが、今はまだ試作段階でね。その実証と完成した場合の生産もかねて、この施設を利用しているのさ」

  • 32◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:29:48

    >>31

    「…………」

    これがもし外に出れば、彼らの制圧力は劇的に上がる。キヴォトスにとって、それが何を意味するかは明白だろう。少なくとも、上で暮らす人々のためになるとは考えられない。


    「私にここまで見せておいて、何を期待しているの」

    「ん?もうその段階の話に入るのかい?まぁいっか。そうだね──」


    そこでスーツの男は、マワリに向き直って提案をしてきた。


    「術業マワリ君。今この施設は完成間近といった所だ。その状態でヴァルキューレに感づかれては非常に困る。そこでだ、君は元ヴァルキューレ生と聞いている。それも、あの学校の裏事情から出ることを決めたようだが──

    どうだね。君も、君自身の正義のために、腐敗したかつての古巣を改めたくはないか」

    「……?」

  • 33◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:31:45

    >>32

    「本当の正義のために致し方ない犠牲があることは、君も重々分かっていることだろう?ならば、ここは我々と手を組み、君の望むべき正義を知らしめてやるのも一つの手だ。彼女たちの元に復帰するという体で、我々に内部情報を伝えたり、情報の元に混乱を引き起こしてほしい」

    「私に、スパイをやれってこと?」


    ふとマワリが周囲を見ると、取り囲むように兵士たちが銃口を向けてきている。前に撃たれた傷のダメージも完全には消え去っていない。戦局として見るなら、敵地の中心ということもあり、あまりにも不利だった。


    「分かりやすく言えばそうだろう。上手くいった暁には、今のヴァルキューレを君がコントロールできるように我々が助力しよう。軍事的支援もいとわないし、君には彼女たちを糾弾する権利もある。悪い話ではないだろう」


    「さぁ、決断をしたまえマワリ君。腐りきったあの組織を中から改革できるのは──君だけだ」

    「…………」

    帽子の元、彼女の表情は陰に隠れる。


    その口は──未だ閉じたままだった。

  • 34◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:34:52

    >>33

    ────────────────────────────────────────────────────

    そんな問答が行われる、少し前。


    「さて、この辺りのはずですが…」

    キリノとフブキは生活安全局としての土地勘をフルに使い、GPSを追いながら最終位置へと到着した所だった。そこには区画に密接した地上の路線が敷かれた駅があったが、見た感じは伽藍洞といった所だ。いわば、既に使われなくなった駅の名残とでもいうのだろうか。


    「夜にこっそり流してたとかかな?周囲の住居も少ないし、気づかれにくいのも分かるかもね~」

    「であれば、この辺りにきっと──あ、ありました!あそこです!」


    キリノが指さした先には、暗い中で見えにくくはあったが、地上とは別に下へと続くトンネルとその中に伸びている路線があった。もし物資を運び込むとしたらここになるだろうか。

    そして──数少ない人の気配の正体もそこにあった。カイザーPMC兵が、幾人かそこで見張るかのように待機していたのだ。さらに丁度路線の向こうから、コンテナを積んだ貨物列車がそこに向けてやってきていた。

  • 35◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:37:39

    >>34

    「…厄介ですね」

    「そうだね。さてと…迂闊に行けば気づかれちゃうし、どうしたものかな」


    そうして二人が線路の近くにある草むらに隠れながら頭を悩ませていると、ふと側から三人の人物がこっそりと現れた。

    「状況はどうだ?」

    「カンナ局長、ライカ先輩…!お早い到着で!それに…先生まで!?」

    「やぁ、キリノ、フブキ。こんばんは。応援要請を受けて、微力ながら力になりに来たよ」


    カンナ、ライカ、そしてシャーレの先生が、状況の確認と連絡をかねて二人の近くにやってきていた。

    「既に部隊は突入準備を済ませて、バレない程度に近くで待機しておいてあるがね。位置は分かっているんだね?」

  • 36◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:39:33

    >>35

    「まぁね。ただ、見張りがいるから簡単には入れないけど…どうしよっか?」

    フブキが悩まし気にトンネルの入り口を睨んでいた隣で、先生は打開策を考案し始める。

    「ふむ…そうだね。キリノ」

    「な、何でしょう?」

    「確か、煙幕弾を持っていたよね?」

    「はい、そうですが…」

    「そしてフブキ──君は狙った所への射撃は割と得意ではあったはず」

    「…なんか大事を頼まれる予感がし始めたんだけど」


    段々不安げな顔になる後輩二人を尻目に、カンナとライカは何かを理解したかのように先生に問いかける。


    「…なるほど」

    「あれを逆に利用するということですかな?」

    「えぇ。向こうがそうしたように、こっちもまた──電撃戦と騙しうちで仕掛けるのはどうかな?」

  • 37◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:41:34

    >>36

    ────────────────────────────────────────────────────

    「…幾つか聞いていい?」

    「何だね」

    問答の末、閉じたマワリの口から次に放たれたのは、疑問だった。


    「最初から地下にこれを作るためだけに、地上の区画を利用したってこと?」

    「ふむ。まぁ、そういうことになるだろうね」

    「住んでいた人たちを移動させたのも、見せかけの工場を作るため?」

    「見せかけとはいえ、きちんと機能はさせるがね。それに彼らには別の場所を用意してある。問題は無いと思うが」

    「…あの公園も消すの?」

    「公園…?あぁ、あの小さなさび付いた公園か。無論だが?」


    「……そっか」

  • 38◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:43:15

    >>37

    そうして質問を終えたマワリは、一息深呼吸をする。腰に入ったホルスターの愛銃をちらりと見る。かつてライカに貰った、大切なリボルバー。

    そして躊躇うことなく──そのリボルバーを素早く引き抜いた。


    「私の正義は──それを守るためにある。答えはとっくに決まっているんだ!」


    そのまま開発担当に向けて、トリガーを引き──



    破裂音が一つ、地下の広大な空間に反響する。

    それは、確かに彼女の握る銃から響いた。

    ただし、銃弾が放たれた音ではなく──


    銃そのものが弾けた音だったのだが。



    「……ッ!?」

    彼女の握った銃は、気づけば床に無残な破片となって転がっていた。弾そのものが爆発したかのように衝撃を受けて残骸となった銃は、今やもう修復不可能なことを無慈悲にマワリの瞳に示していた。

  • 39◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:44:17

    >>38

    「………なん、で……銃には何も仕掛けられてなかったはず…」


    自分が本当にあらゆる手段を失ったことを自覚したマワリは、ただ呆然とするしかなかった。

    開発担当は──静かにほくそ笑む。


    「…あぁ。君はこの状況の中、それでも撃つことを選んだか。元警察官として誇り高き選択だが──最初に君も分かっていただろう。そもそも、君に選択肢などないと自分で言っていたじゃないか」

    「そんな──細工もされていなかったはずなのに」


    「あぁ、銃には何もしていないよ。私が指示したのは──ただ、『弾を変える』それだけだ。

    慣れているものになるほど、それにおける当たり前を確認することがおろそかになる。


    銃そのものは調べていても──弾丸の入った弾倉の奥まで入念に調べなかった君の甘さが招いた結果だ」

  • 40◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:52:03

    >>39

    「…フフッ…」


    失った銃を見ていたマワリは──膝から崩れ落ち、虚ろな瞳で微かに笑う。その色彩を澱ませた瞳から、頬をなぞるように一本の筋が通る。


    「最初から、私がどう動くかも含めて特等席からずっと楽しんでたんだ、あなたは」

    「あぁ、そうだ。君が早撃ちの名手であることは私も知っていた。故に、玉砕覚悟で私を撃つという可能性も充分あるだろう。

    だが──撃とうと撃たなかろうと最初から君は私の管理下に置かれている。それは、君の正義など関係なく──ただの決定事項なんだよ」


    マワリを取り囲んでいた兵士が、彼女の腕や体を無理やり抱える。砕かれた正義と共に──彼女の立ち上がる力さえも、今や失われかけていた。


    「丁度いい、新しい貨物列車もついたところだ。より相応しい所へと君を招待するとしよう。君にはもう、それを選ぶ権利すら無いのだからね」


    マワリは兵士に引きずられたまま、開発担当に線路の方へと向かわされる。そこには、新たに到着した貨物列車が大量のコンテナを持ってやってきていた。

  • 41◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:52:59

    >>40

    「さて、中身を確認してくれ。時間はないぞ、急ぐんだ」

    「はっ、了解しました」

    一人の兵士が、列車の先頭の運転席へと向かう。運転手に確認を取ろうとドアを開ける。


    その瞬間──


    「グハッ!?」

    「!?」

    その兵士が、運転席から突然飛び出した足に蹴り飛ばされた。かと思えば、席から銃弾がいくつも飛んでいき、兵士へと容赦なく叩き込まれた。

    「おい、どうした…」

    開発主任が確認を取らせに別の兵士を向かわせたその時──


    すべてのコンテナが、一斉に勢いよく開く。その中から現れたのは──

  • 42◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 21:54:31

    >>41

    嘶きのような声を上げて飛び出す機械馬たちだった。



    「な…何だこれは!?」

    機械馬たちには、それぞれの主と思わしきヴァルキューレ生徒が跨っており、その一頭の上で──マワリにとって大事な人が威風堂々と佇んでいた。


    「ハッハッハ!!!我ここに参上しせりィ!!!」


    声の主は──玄翁ライカ。ヴァルキューレ機動隊長の一人が彼女の機動隊を引き連れ、貨物列車のコンテナ内へと侵入していたのだ。

    その声に反応するかのように──俯いていたマワリの目に、一瞬の光が差す。

    「ライカ先輩…?」

  • 43二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 21:56:05

    このレスは削除されています

  • 44二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 21:57:28

    このレスは削除されています

  • 45二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 22:03:46

    このレスは削除されています

  • 46◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 22:36:34

    >>42

    「これは…入る前に列車を占拠していたのか」

    「そ-いうこと。いやー、連絡される前に仕留めるのは大変だったよ」

    「本官の煙幕弾が役に立てたようで、嬉しい限りでした!」

    かと思えば、コンテナの一つからキリノとフブキもひょっこりと顔を出す。二人とも、ピースサインをして誇らしげににんまりしてみせる。

    そして、運転席の方からも、カイザーグループの運転手に手を上げさせながら、公安局長であるカンナとシャーレの先生も姿を現した。

    「ヴァルキューレ警察だ!全員動くな!」

    「よし、無事に侵入は出来たね」


    「カンナ、先輩…」

    そうして、約束通りとはいかない歪な形ながら、彼女たちは一つの事件の終着点にて再び相まみえることとなった。

    カンナとライカは周囲の状況をすぐさま見まわし──マワリが取り押さえられているところを目撃する。

    「マワリ──」

    「いましたな。まだ無事なようです」

    カンナは少し目を閉じた後、しっかりと見つめながらマワリに語りかける。

    「……マワリ。いろいろと話したいところだが、後にしよう。一先ずは──


    お前をそこから助け出す!」

  • 47◆J1qLHjcRhM24/10/18(金) 22:38:39

    今日はここまで。一部間違えていたので書き直しました。申し訳ねぇ…!
    こっから終盤戦、入っていきますよ~

  • 48二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 08:29:02

    マワリちゃんも頑張っていたのだなぁ

  • 49◆J1qLHjcRhM24/10/19(土) 19:02:17

    夜の保守。
    明日の夜に、また更新出来そうかな?

  • 50◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 06:24:52

    朝保守

  • 51二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 15:31:25

  • 52◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:40:33

    >>46

    「くっ…だが、上の暴動にも人員を当てている以上、ここにいる部隊は少数のはず。全員、奴らを抑えにかかれ!あれを使っても構わない!術業マワリは人質として連れていけ!」

    開発担当が出した指令に合わせ、兵士たちがかかろうとする。


    しかし、カンナもまた各人員に指示を出す。

    「キリノ、フブキ!私についてこい!ライカ、マワリのいるところまでの道を作ってくれ!先生はライカのサポートを!」


    「うむ、任せてくだされ!者ども続けェ!」

    すぐさま、ライカの機械馬を筆頭に、彼女の部隊が兵へと圧しかかる。それも、機械馬の重い質量のまま高速でぶつかっていくものだから、向こうはたまったものじゃない。

    「うぉぉぉ!?何なんだこれは!?」

    「ミレニアム特注の機械馬、戦車ほどのパワーはありませんが──速力と質量は充分!蹴られたら痛いどころではすみませんぞ!」

    実際機械とはいえ、馬の脚力で蹴られたら当たりどころが悪ければただでは済まない。更に突然の来訪ということもあり、カイザー側は対処が遅れることとなった。

  • 53◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:42:30

    >>52

    「ライカ、一点突破だ!左右に分断した兵士の足止めは後輩達に任せて、君は斬り込みに集中するんだ!」

    「承知しました先生殿!ハァッ!」

    先生の指示に従って、ライカは突入のスピードを上げる。後ろにいた後輩達はそれに合わせて順々に離れていき、ライカが分断させた敵部隊を抑えにかかっていく。

    そうして作り出した僅かな時間だけでも、マワリとカンナの間の空間を作るには充分だった。


    「活路は開きましたぞ!お急ぎくだされ!」

    「ご苦労!出るぞ二人とも!」

    「はい!」

    「OK~」


    すかさず、道中の敵を制圧していたカンナ、キリノ、フブキも走り出す。

    空いた道の先でマワリを取り押さえていた三人の兵士たちのうち、二人は彼女たちに射線を向け、最後の一人はマワリの腕を引き、彼女に銃口をつきつけながら急いで離れようとしていた。

  • 54◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:45:01

    >>53

    「チッ!殺すなという上からの指示だ!早く連れていけ!」

    「…!」

    しかし、マワリもその状況下でただ人質になっているだけというのはごめんだった。

    彼女は自身に向けられていた銃にゆっくりとバレないように触れたかと思うと──カンナに告げる。


    「カンナ先輩、私は大丈夫!そっちの二人を対処して!」

    「…!フブキ!」

    「はいはい~」

    マワリの言葉を聞くや否や、カンナは右、指示を受け取ったフブキは左の兵士に銃を構える。

    「正気かこいつら!?人質に構いもしないぞ──ぐはッ!?」

    戸惑いながらも兵士が撃った銃弾は二人には当たらず、カンナとフブキは狼狽した兵士にそれぞれの銃弾を当て、的確に仕留めた。


    「当然だ!お前たちが人質に取ったやつを誰だと思っている!元とはいえ、ヴァルキューレの生徒を甘く見るなよ!」

    一見不利に見える状況が、その実人質としてマワリが機能しなくなっていることを、カンナは分かっていた。何せ、彼女自身がそれでいいといったのなら、カンナはそれを信じるのみだったのだから。

  • 55◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:45:48

    >>54

    「今がチャンスです!ここは本官が!」」

    「…え?キ、キリノ、ちょっと待っ──」


    出来た隙を見抜いて、キリノが最後の一人に向けて銃口を定める。マワリがそれを見て慌てて止めようとしたが、彼女はそれでも引き金を引いた。


    結果──銃弾は全てマワリに当たった。


    「痛い痛い痛い!!!全部私に当たってる!!!」

    「な、何故こいつに当たってるんだ…?」

    全部の弾を受けたマワリは元々受けた傷痕にプラスして弾丸が当たったため余計に痛がり、彼女を連れて行こうとしていた兵士は警官が人質を撃つという状況に困惑していた。

    「す、すみません!私の腕がお粗末なばかりに…」

    「…フ、フハハ!ならばこちらが──」


    しめたと言わんばかりに、兵士がキリノに向けて、銃を撃とうとした。が──今度はこちらも、トリガーが引けずに再び戸惑い始めた。

  • 56◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:47:06

    >>55

    「…な、セーフティロックがいつの間に!?」

    その仕掛けを先ほど施していた張本人──マワリは、チャンスと言わんばかりに彼の銃に掴みかかり、揺さぶるように抵抗する。

    「こ、こいつ!?」

    「キリノ、早く近づいて!」

    「は、はい!」

    そうして暴れるように動き回る兵士にキリノが近づいたかと思うと──


    「ハッ!」

    「ウゴガッ!?」


    先ほどの外しまくっていた銃の腕前とは打って変わった、見事な近接戦闘で兵士を吹き飛ばした。

    「な…!?こ、こいつ、なんでそっちは上手いん、だ…」

    「そ、それは言わないお約束です!」

    気絶しかけの兵士に言われたことが癪に障ったのか、トドメと言わんばかりにキリノはゼロ距離射撃で一発撃ち込んだ。

  • 57◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:47:58

    >>56

    「ふぅ…あ、ありがとう。それにしても、相変わらずだねキリノ」

    「マ、マワリさんまで!?うぅ…悔しい…」

    「まぁ良いじゃん、これで一つ安心って所だし」


    情けなくめそめそと泣くキリノを、肩に手を当てながらフブキが慰める。

    そこに、気絶した兵士を取り押さえたカンナもやってくる。それに気づいたマワリは、彼女の方に向き直った。


    「カンナ先輩…久しぶりだね」

    「…あぁ。無事で何よりだ」

    そう語るカンナの顔は、未だどこか硬くなっていた。いざしっかりと対面するとなると、彼女としても選ぶ言葉は慎重にならざるを得ないのだろう。

    「…すまない。話したいのは山々だろうが…」

    「ううん、気にしないで、カンナ先輩。これでも元警察官だもの、大事なことは分かってる」

    「そうか──これが終わったら、本腰を入れて話そう。例の開発担当を捕まえたらすぐに戻る。それまで休んでいてくれ」

    「分かった。──カンナ先輩」

    「どうした?」


    「…ありがとね」

    「…礼には及ばん」

  • 58◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:49:14

    >>57

    そして、指示に戻っていくカンナと入れかわるように、辺りの兵士達を取り押さえたらしいライカがやってくる。

    機械馬の方は、列車の近くに停めてきたようだ。


    「やぁ、昨日ぶりだな、マワリ」

    「ライカ先輩…」

    そうしてライカと再び顔を見合わせたマワリの表情は、申し訳が立たないと言わんばかりに暗くなっていく。


    「ごめん、先輩…折角貰った銃だったんだけど…バラバラに壊れちゃった。私が、油断して取り上げられた時にちゃんと見てあげていなかったから…」


    マワリとしても、ずっと側で自分を守ってくれた愛銃を壊してしまったことは相当堪えたようで、辛うじて無事だった弾倉をそっと掌に乗せる。

    俯きながら、その弾倉を涙目でじっと見つめていたマワリに──ライカは目線を合わせるように屈んだ。

    そして、その目に合わせて話す。


    「いや、その子は君の覚悟に最後まで応えてくれたのだろう。あまり自分を責めないでくれ」

    「でも…」

  • 59◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:50:17

    >>58

    「私の代わりに、その子が君をずっと守ってくれていたというのなら、元の持ち主としても鼻が高い。それに、別れは突然やってくるものだからな。自分のせいだというのなら、尚更辛いだろうが」

    「…そう、だね…」

    それを聞いて、マワリはかつて自分が彼女達から離れて行ったことを思い出していた。あの時の二人の気持ちが、今ならよく分かる気がした。


    「しかし、だからこそ。その失敗を忘れない為に、別れた存在に報いる為に──次こそはと動くべきだと、私は思うがね。君もそうは思わないかな?」

    マワリの空いた掌に──ライカはあるものを乗せる。


    彼女が使っている、もう一つの愛銃──玄翁ライカのコルトM1877。それが今、マワリの手の中にあった。


    「これは…いいの?」

    「あぁ、構わないとも。でも、そうだな──もしその子のことを忘れたくないというのであれば…」

  • 60◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:52:22

    >>59

    すると、手早くライカはそのコルトM1877の弾倉を取り外し、その空いた所に唯一無事だったマワリのコルトM1877の弾倉を取り付けた。同じ種類だった事もあり、澱みなく弾倉は銃に嵌め込まれた。

    「…こういうのはどうかね?」

    そしてライカは、そうして出来た拳銃をマワリに握らせた。

    「………」

    マワリは、最初にグリップをしっかりと握り、次に両手で感触を確かめながら、弾倉を回す。最後に狙いをつけて構え──目を閉じて頷いた。


    「……うん。死んでいない。二度と会えない別れじゃない。あの子はまだ──この子の中で生きてる。そう、思えるよ」

    「ならば良し。それは君が大事に使ってあげてくれたまえ。きっと、それがその子にとっても嬉しいだろうからな」

    そう言って、にっこりと陽気にライカは笑う。その笑顔に、マワリもまた励まされたように微笑んだ。


    「…分かった。ありがとう、ライカ先輩」

    例え生命体でなかったとしても──廻り続ける命が、受け継がれる意思が、そこには確かにあったのだろう。

  • 61◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:54:44

    >>60

    シャーレの先生は、それを列車の側から眺めながら、彼女達の動向を見守っていた。


    「今回は、私の出る幕は無かったかな。まぁ、できるならばそれが一番だけどね。…そういえばカンナは…」

    ふと、後輩と共に開発担当を追いに行ったカンナがどこに行ったのか気になり、先生が辺りをキョロキョロと見回した時だった。

    トンネルの奥にあった横の穴から、凄まじい轟音と地響きが聞こえてきたのだ。

    「これは…!?」

    かと思えば、その穴からカンナ達が急いで出てくるではないか。


    「クッ…こんなものを作っていたとは…!?全員一旦退避しろ!」

    そうしてカンナとヴァルキューレ生徒全員が大穴から出てきた後ろから、それらはゆっくりと現れる。


    「フルングニル」──開発担当がマワリに説明していた、駆動型兵器ロボット。しかも、それが十体程。


    そして先頭の機体では、まさにその開発担当が操縦桿を握っていた。

    「勘づかれてしまったのは残念だが──折角だ。ここで試運転とさせてもらおう!撃て!」

  • 62◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:56:28

    >>61

    その合図と共に──十体のフルングニルの主砲と機関銃が火を噴く。射線上にいる全員が、慌てて全力疾走で停めてある列車の方へと走りだした。


    「うわぁぁぁ!?何ですかあれ!?何であんなものができているんですか!?」」

    「あの開発担当がここで作っていた兵器だよ!組立式だったからできるまで時間は取らなかったんだ!」

    「えぇ〜、それにしたって威力と大きさがおかしくない?」

    「無駄口を叩いてる場合か!とっとと走れ!」

    「ハッハッハ、こりゃ風穴が空きますな!」


    五人とその後輩達は、アスリート走りもかくやと言わんばかりの俊足で、腕と足をひたすら動かしていた。とはいえ、列車に戻ってもそれごと撃ち込まれて爆発四散するのが関の山だ。


    「え!?みんなどうしたの!?というかなにあのロボ!?」

    「先生!ここは危険です、早く退避を!」

    そうカンナが先生に向けて叫んだが、隣で走っていたライカがそこで不敵に笑う。


    「いえ、その必要はありませんぞ!私たちはただ逃げる為だけにここにきたのではありませんからな」

  • 63◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 21:58:09

    >>62

    「何を言ってるんだお前は!あのデカブツをどう対処する!?」

    「カンナ先輩──私の機械馬がどこで生まれたかお忘れですか?」

    「…おい、まさか」

    列車近くに到達したライカは、部下と共にそれぞれの機械馬に近づく。かと思えば、思いっきり息を吸い込み──高らかに声を張り上げた。


    「ミレニアム特注の機械馬であれば、そこにはロマンはつきもの!向こうが試運転をするなら、こちらも遠慮なく試運転の応酬と致しましょう。では、ご照覧あれ──


    『ムジョルニア5世』、キャノンモォォォォォォドッ!!!」


    「「「「「はい?」」」」」

  • 64◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:00:06

    >>63

    その声と同時に、ライカが機械馬の耳を折り曲げた。その瞬間──


    機械馬の全身に、青白い稲妻が走る。派手な金属がぶつかりあう音をかき鳴らしながら、機械馬が別の何かへと変形していく。

    そうして出来上がったのは───巨大なエネルギー電磁砲台だった。

    しかも彼女だけではない。彼女の部隊の後輩たちの機械馬も、同じような電磁砲台になっているのだ。


    その数、三十台程。


    「何ですかこれは!?」

    「ド、ド派手だ…」

    「カ──カッコよすぎる!!!」

    「アハハッ、先輩ったらまたやったね?」

    側にいるキリノとフブキはぽかんと口を開け、先生は変形機構のロマンに目を輝かせ、マワリは可笑しそうにケタケタと笑う。


    「ミレニアムのエンジニア部に依頼して作って頂いた、試作段階の砲台変形機構!幸い、彼女たちも『光の剣』というものを作っていたようでしてな!まぁ参考元に比べれば量産型、火力は落ちますが──この数なら如何ですかな?」

  • 65◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:01:19

    >>64

    「いや待て、ライカ──お前いつの間にこんなものを作っていたのか!?」

    自信満々に胸を張るライカに対して、思わずカンナが若干キレ気味に突っ込む。

    「そもそもどこからそんな予算が出てくるんだ!?」


    「えぇ、私の潤沢だったポケットマネーから!」

    「ポケットマネーから!?」

    「ただしこの砲台は莫大な値段がかかる上に使い切りでしてな!一回使ったらこの子たちは皆壊れまする!

    つまり──実質今回全部撃ち切ったら、私の財布はすっからかん!暫くコーヒーだけの生活ですな!」

    「金の使いどころを少しは弁えろこの馬鹿!!!それはそれとして使えるんだろうな!?」

    「えぇ、この局面を打開する可能性は充分に!ただしチャージするまでの時間が阿保臭いレベルでかかるので、それはどうにかしてくだされ!」

    「そこだけ他力本願か!?」


    なんていう掛け合いが続く最中にも、向こうの進軍は着実に続いている。まごまごしている余裕はない。

    「試作品なので保証は出来ませんが──どっちにしろこのままでは全滅ですからな!試す以外ありますまい!」

    「ええい、仕方がない!何か時間稼ぎに使えるものはあるか!?」

  • 66◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:02:17

    >>65

    「使えるもの、使えるもの…あっ、列車がありますよ!」

    丁度彼女たちの側には、先ほどまで放置されていた列車があった。運転して動かすことはできないが、何かしらには運用できるかもしれない。


    「…ねぇ、運転までは行かなくとも、列車を前進させられない?それで向こうにぶつけるとかさ」

    「フブキ、それは流石に危険すぎませんか!?」

    「いや、向こうの駆動兵器は相当硬そうだからね。数も多いから、それだけやらないと止まらなそうだし」

    フブキの提案は、なんと暴走列車を機体に衝突させるというものだった。あまりにも物騒だが、マワリは先んじてみていた分、それでも不十分という。


    「成る程…分かった。なら──私が行こう」

    そして、列車を進行させるその役回りに名乗り出たのは、カンナだった。


    「カンナ先輩…大丈夫?」

  • 67二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 22:02:58

    ブルアカにはこういうカウガールとかガンマン系のキャラいなかったから新鮮
    全体画見てみたい

  • 68◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:03:50

    >>66

    マワリが心配そうにカンナを見つめるが──カンナはそれに無理やり笑みを作って見せた。

    その笑顔に、思わずマワリがドン引く。

    「うわっ…相変わらず怖い笑顔」

    「張り倒すぞ──コホン。仮にも私は『狂犬』と呼ばれた女だ、これしきでくたばらん」

    「…それもそっか。じゃ──お願い、カンナ先輩」

    「あぁ。先生、この馬鹿共をお願いできますか?」

    「…分かった。必ず帰ってくるんだよ」

    「勿論です。マワリとの約束もありますので」


    先生とも頷きあい、かくしてカンナは列車の運転席へと乗り込んでいった。

    その間に、先生はそれぞれの生徒に指示を出していく。


    「ライカは後輩たちと一緒にそのまま準備を。

    キリノとフブキはカンナが退避できるように煙幕と射撃用意をしておいて。

    最後にマワリ──君は万が一に備えるんだ。恐らくだけど、あれを止めて終わりじゃない」


    「任され申した!」

    「はいっ!」

    「了解~」

    「…分かった!」


    生徒たちが各々の備えを済ませ──先生はカンナに合図を送った。

  • 69◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:05:07

    >>68

    それを確認したカンナは、列車を前進させてゆっくりと速度を上げていく。それにつれて、徐々にフルングニルたちへと列車は接近していく。


    「まだ──まだ──まだだ!!!」

    ギリギリを極限まで突き詰めながら、カンナは列車のレバーを倒す。車輪のきしむ音を側で聞きながら、彼女はタイミングを見極める。

    そして──


    「ここだッ!!!」


    ほとんど寸分の差もなく、彼女は受け身の体制を取りながら列車から飛び降りる。普通であれば重傷ものだが、キヴォトス特有の頑丈さと彼女が「狂犬」と呼ばれる程の身体能力が付随した結果、軽い打撲と擦り傷で済んでいた。


    「…列車をぶつけてきたか。だがこの程度!お前も逃げられると思うなよ!」

    開発主任の駆動機体を初めとして、フルングニルたちは力をそれぞれに分散させながら、ぶつかってきた列車を食い止める。そのまま発車地点へと駆けだしたカンナに向けて照準を定め始めた。

  • 70◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:06:36

    >>69

    「今だ!キリノ、フブキ!」

    「はいっ!煙幕弾投擲!」

    「OK~」


    先生の指示を聞くや否や、キリノは煙幕弾をカンナの方へと投げ、フブキは構えていた銃でその煙幕弾を目掛けて発射する。

    結果、煙幕弾は彼女のすぐ後ろで弾丸を受けて破裂し、フルングニルの照準が定まらないように覆いかぶさる。その隙にカンナは無事に発車地点へと踏破することができた。


    「戻ったぞ!ライカ、準備は!?」

    「フルチャージ完了!いつでも行けますぞ!」

    その声と同時に、フルングニルたちも列車を横転させ、どかし終えたところだった。


    「ライカ先輩!お願い!」

    「心得た!それでは──我が雷霆の鉄槌を食らいたまえ!文字通り、『馬力』が違うぞ?」


    そして、溜まり切った膨大な電磁エネルギーをフルングニルたちに構え──ライカは豪快に叫ぶ。



    「撃鉄を起こせ!ヴァルキューレ式電磁砲台『ミョルニル』──発射ァ!!!」

  • 71◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:07:47

    >>70

    刹那──解き放たれた雷の砲弾が、一斉にフルングニルたちへと飛んでいく。

    彼らに迫る青白い雷鳴は、その重装甲を食い破るように次々と穴を開け、鋼の体を粉々に粉砕した。

    やがて耳を劈く程の破壊と掃射の轟音が少しずつ収まるころには、一つとして立ち上がるフルングニルは無かった。


    「…止まった、でしょうか?」

    「…いや、まだだ!」

    そう、フルングニルたちは止まった。だが──その男はまだそこにいた。


    ふらふらと立ち上がった開発担当は片手をポケットの中に入れ、不敵な笑みを溢している。よく見ると、ポケットは何かが入っているかのように膨らんでいた。


    「あれは──いかん!何か企んでいるようです!」

    「えっ、何、何を!?」

    「ご明察!この壊れた十体のフルングニル、及び施設に仕掛けてある起爆装置だ!それ以上近づけばこの手の中で起爆する!この地下は愚か、地上にも影響は出るだろうさ!それにどう落とし前を付けるのかな!?」

    「チッ…途中で上手くいかなきゃ、この場所ごとリセットする算段だったか!強引な!」


    焦るカンナ達だったが、しかし先生とマワリはこの時を待っていた。

  • 72◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:11:20

    >>71

    「──マワリ」

    「うん。分かってるよ」

    そうして、マワリが瞳の中に開発主任を捉えた瞬間──



    気づいたときには、銃声と共に彼のポケットから起爆装置が音を立てて落ちていた。



    「あ、ぐっ…あい、つ…!!!」

    最も、元々あったポケットの穴から落ちたわけではない。

    ポケットに新たにできた三つの銃弾からできた穴───そこから装置は落ちた。

    そしてポケットの中にあった彼の掌もまた、既に銃弾に貫かれていた。


    マワリは──とっくに抜いていたリボルバーから、煙を立たせてそこに立っているだけだった。


    「リベンジ成功──言ったでしょ?『答えはとっくに決まっている』ってね」


    クスリと静かに笑みを浮かべるマワリの放った最後の一発で、起爆装置は破壊された。

    それと同時に、開発担当は絞り出した力が途切れるように、そこに倒れ伏すのだった。


    かくして──カイザーコンストラクションが起こした陰謀は、ヴァルキューレによる突入によって阻止されたという幕引きとなったのだった。

  • 73◆J1qLHjcRhM24/10/20(日) 22:12:21

    というわけで残すはエピローグでございます。
    そこまで含めて書き終えていきますので、今し方お待ちくださいませ。

  • 74◆J1qLHjcRhM24/10/21(月) 08:29:29

    朝の保守

  • 75◆J1qLHjcRhM24/10/21(月) 19:52:41

    夜の保守。裏でコツコツ書いております。
    明日の夜には最後まで書ききれそうかな?

  • 76二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 21:02:05

    速打ちはガンマンの華

  • 77二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 08:04:37

    やったぜヴァルキューレ

  • 78二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 19:14:36

  • 79二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 20:43:20

    このレスは削除されています

  • 80二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 20:50:53

    このレスは削除されています

  • 81◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:14:25

    >>72

    その後、各地の暴動を抑え、援護に駆けつけたヴァルキューレの生徒達によって、その場は一先ず仕切られていく。相変わらずカンナは対応に追われているが、彼女達が到着するまでにある程度段取りを済ませておいた為、そこまでの時間は取らないようだった。そこでシャーレの先生は、残っている4人に声をかけた。

    「みんな、お疲れ様。一先ずここからでよっか」

    「それもそうですね…気づいたら夜通しになっていましたし!」

    「ふぁぁ…眠い。今日はもうあとはサボろ」

    「はいはい、帰るまでがお仕事ですぞ。ほら歩いた歩いた」

    欠伸をするフブキを押しながら、先生やキリノ、ライカは出口へと歩き出す。一人残されたマワリは、トンネルの横にあった広い空間に目を向けている。その先には、散り散りとなった彼女の愛銃だったものが転がっているのだろう。

    しかし、彼女は手元にあるライカから新しく譲り受けたコルトM1877を眺め、その弾倉を一回回す。歯切れの良い音を立て、やがて止まった弾倉を一度指でなぞった後、マワリはその場所に背を向け、ライカ達の元へと走り出した。


    「…じゃあね。そして──これからもよろしく」

    彼女が歩みを進める先には、早朝の未だ太陽なき空のやや暗い光が、道行を照らすように差し込み始めていた。

  • 82◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:17:31

    >>81

    出口では、カンナが丁度後輩達に指示を終えていた所だった。

    開発担当は既に身柄を拘束され、公安局へと連れて行かれた後らしい。恐らくこの後取調べをされるとは思うが、彼がどう対応するかとは別にカイザーコンストラクションとしては彼一人の暴走として処理しそうではある。

    とはいえ、今後動きにくくなることは予想できるだろう。


    「あぁ、お前たちか。今回の件はご苦労だった。生活安全局の二人にも、また借りができてしまったな」

    「い、いいえ、本官は自分の正義に従ったまでのことです!」

    「私は賞与として休暇とドーナッツが貰えれば良いかな〜」

    「安心しろ、その件に関しては私から通しておく。今日は二人ともよく休んでくれ」

    「流石〜。話がわかるぅ」

    「あ、ありがとうございます!正直私もクタクタで…」

    キリノとフブキを労ったカンナは、そこでマワリ達の方を向く。


    「マワリ、ライカ、待たせたな。後輩達に頼んだ処理の方も手筈が済んだ。そろそろ本題に入るとしよう。

    それと──先生。もしよろしければ、ご一緒しませんか?」

    「…!分かった」

    「承知致した」

    「うん、大丈夫だよ」

  • 83◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:19:59

    >>82

    各々から了承を得れたことを確認したカンナは、キリノとフブキに席を外して欲しいと頼む。

    「すまない、キリノ、フブキ。私はこの三人と話がある。お前達は一足先に帰っても構わん」

    「は、話ですか…?」

    「…ははーん。なら先輩方、私達はお先に。ほらキリノ、早く帰るよ〜」

    「え、ちょっとフブキ!?押さないでくださいよ!?」

    キリノはきょとんとした顔になったが、フブキは何かを察したのかキリノの背を押して帰るよう促していく。そうしてキリノとフブキは線路を出て、最寄りであろう駅へと歩いていった。


    「…気の利いた奴だ。全く、あれでやる気があれば尚更だが」

    「いやぁ、どうでしょうな。あれぐらいが彼女にとっての丁度いいニュートラルなのかも知れませぬ。キリノにとっても丁度良いコンビかと」

    「まぁ、キリノはよく空回ってたイメージがあるからなぁ…」

    二人の背中を見送った彼女達と先生は、そうしてそれとは別方向へとゆっくりと歩き始める。公道に出て、少し行った先に自動販売機があった。先生が「今日はみんな頑張ってたからね。キリノとフブキにも、あとで持っていこう」と彼女達に飲み物を奢る。無論、全員ブラックコーヒーではあったのだが。

  • 84◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:21:04

    >>83

    暫く行くと河川敷の辺りへと繋がっており、丁度近くにベンチがあったのでそこに四人で腰をかける。

    カシュっという小気味良いプルタブの音が鳴り、全員がコーヒーの入った缶を口へと当て、暫くして四つの溜息が朝の空気に溶け込んでいく。


    「仕事の後のコーヒーは格別ですな」

    「全くだな。偶にはこういうのも悪くない」

    「はは、分かるよ。私もよく外で飲むからね」

    「ここにいる三人とも働きすぎだよ…もっとちゃんと休まないと」

    「それは…そうだね。気をつけるよ」

    日々激務に追われてばかりの三人を見て、思わずマワリは呆れたようにまた溜息をつく。


    「…で。どこから話そっか」

    「…そうだな…」


    暫く全員が黙った後、最初に口火を切ったのはカンナだった。

    「…マワリ。あれからずっと、お前に言わなければいけないと思っていたことがある」

    「…うん」

  • 85◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:22:39

    >>84

    「あの日、私は自分可愛さに警察官としての矜持も、誇りも、意味も全て自ら手放した。

    そして──お前からもそれを奪い去ってしまった。それは──覆されることのない私の罪だ」

    「今でこそ公安局長のままだが──結局、私の自己認識は今でも三流悪党のそれだ。私が自分に課したその認識と罪禍は、永劫消える事はないと思っている」

    「だが、そうだとしても──通さなければいけないものがあると思っている。例え自信を持って正義を語れずとも、なんと罵倒されることになろうと、これだけはお前に伝えなければならないと」


    そこで彼女は、猫背のまま握っていたコーヒーの缶をベンチの側に置き、マワリの方へと姿勢を正して向き直る。

    そして──しっかりと頭を下げた。


    「術業マワリ───申し訳なかった。お前の声に耳を貸さなかったどころか、私は自身の保身のあまりにお前の正義を否定した。そして、お前がヴァルキューレから自主退学するきっかけを作ってしまった。


    本当に──すまなかった」


    下げられた頭の下に浮かぶ、彼女の表情は誰にも分からない。しかし、ここに至るまでの彼女の葛藤を汲めないほど、マワリは子どもではなかった。


    「…顔を上げて、カンナ先輩。私はそれを否定も貶しもしないよ。そもそも、最終的に決断したのは私だから、許すも何もないよ」

    「だが…」

    「それに──」

  • 86◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:23:53

    >>85

    ゆっくりと顔を上げたカンナに、マワリもまたコーヒーを側に置き、正面から向き直った。


    「私も、あなたに謝らないとって思ってた。あなたの心情も察しようとせず、怒りのあまりに先走って──碌に相談すらしなかった。もっとちゃんと、あなたがそうするに至った経緯を理解しようと話すべきだった」

    「…お前は、そう思うのか」

    「うん。だから──


    ごめんなさい、カンナ先輩」


    そして今度は、マワリが頭を下げる。それを見たカンナは、面食らったかのように戸惑った。


    「待て、お前にそれをする義理など…」

    「ううん、これは私が通すべきだと思った筋。私なりに得た正義に従うなら、こうすべきだと思ったから。私は結局、あなたと同じだったんだ、カンナ先輩」

    「…そうか」

  • 87◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:25:19

    >>86

    マワリの言葉を脳内で反芻し、やがてカンナはその謝罪を受け止めることにした。


    「なら──これでおあいこ、という事でいいのか?」

    「うん──そうしようよ」

    頭を上げたマワリとカンナは、そうして顔を見合わせて気まずそうながらも苦笑した。

    片や真面目な堅物、片ややんちゃな悪戯好き。性格は違えど、二人の根底は意外と似通っているのかも知れない。

    一部始終を見守っていたライカと先生は、そんな風に思いながら、コーヒーを喉へと通すのだった。


    「…良かった。先生としても一安心かな」

    「やれやれ、これで一件落着という事ですかな──そういえばマワリ。ふと思い出したのだが、君が最初に私とあった時のことを覚えているかね?」

    「ん?最初に会った時?」

    「あぁ、そうとも。確かあの時──」


    そこでライカは、空を見つめながら呟く。

  • 88◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:26:00

    >>87

    「『いつか私の正義をあなたに話す』と。折角だし、今聞いても良いかな?」


    「え、ここで?」

    「うむ。紆余曲折を経て、君の中にも色々と変革はあったろう。それを踏まえた上で得た、今の君が語る正義を教えて欲しいと思ったのでね」

    「ほう…そんなことを話していたのか」

    「と、突然言われても困るってば…まぁ、別に良いけどさ」

    マワリは、頰を赤らめながら、帽子の鍔を両手で持って顔を隠しながら、小声でボソッと呟いた。


    「り、『隣人の正義』、だよ…私を支えてくれている、私の側にいてくれる誰かを守り続ける──そういう正義だよ」

  • 89二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 21:27:03

    このレスは削除されています

  • 90◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:28:23

    >>88

    いつも飄々としているようで、その実は感情豊かでナイーブ。そんな子の一面を見て、ライカとカンナがそれを微笑ましく思わないわけもなかった。


    「それはまた──中々に良いではないか。そう思われますよね、カンナ先輩」

    「あぁ、悪くない。私には少々眩しすぎるくらいだ」

    「か、揶揄わないでよ二人とも…!」

    「ハッハッハ…いやいや、本心だとも。警察官である私から見ても、これ以上なく真っ当な正義だと思うがね」

    「フッ、全く同感だ」

    「も、もう……尚更恥ずかしいよ…」


    湯気が立ってしまいそうな程に真っ赤になったマワリを挟み、ライカとカンナは屈託なく笑みを溢す。先生は、そんな彼女たちの一幕を、ゆっくりコーヒーを啜りながら見届けたのだった。

  • 91◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:29:25

    >>90

    ───────────────────────────────


    その後の顛末について。


    件の区画についてのカイザーコンストラクションの開発は、不正な地下軍事工場の建設の為の目くらましだったことが判明した結果、空中分解に終わった。彼らは開発担当がこの件に関する全ての責任を背負い、独断専行で行っていたと釈明してはいるが、結局のところ全責任をおっかぶせたのだろうとは予測ができる。そして、それ以上のトラブルを避けるためか、区画内の全ての土地の権利を手放した。

    最も、金銭的な面からその土地の持ち主まで帰ってくるには時間がかかるだろうが、それはマワリとライカが今後も資金を蓄えていくことで協力するという形で進むこととなった。


    また、住民たちが今回の件を聞いた際、マワリのためにと例の公園だけでも買い戻す算段を何とかつけてくれた。彼女はその分をいずれ返礼することも含めて、お金をどうやって稼ぐかに関してライカとよく話しているようだ。


    見つかった地下設備は、幸か不幸か地上にいた区画の人たちの目に留まり、別の形で再利用できないかという風に話が進んでいる。流石に路線の復活とまで行くかは分からないが、廃れてしまった区画を再建するためにも手を尽くしてみたいというのが彼らの今の目標なのだそうだ。

    当然、マワリはそれに協力する算段なのだという。いつまでかかるかは不明だが、彼女なりに力になりたいという思いは本当なのだろう。

  • 92◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:30:29

    >>91

    賞与として、短いながらも一時の休息を貰ったキリノとフブキは、最近何故か近くで建てられた温泉施設に行くことにした。ついでにマワリとライカと先生、そして公安局の副局長のコノカによって休日を仕組まれたカンナも連れていかれたため、結局は全員で巡ることになったのだが。

    「大事を乗り越えたんだからしっかり休んでもらわないと困るんすよね~」というのがコノカの見解らしく、一行はひと時の至福の時間を楽しんだ。

    ちなみにその温泉施設も違法建築だったと判明し、それが発覚した瞬間取り壊しとなったのは別の話。まぁ、誰が作ったのかは自明の理なのだが。

  • 93◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:32:11

    >>92

    カンナは今回の騒動に関しての的確かつ早急な対処が評価されており、より重要な立ち位置になる可能性も高くなってはいるが、彼女がそれをどう思い、受け止めるかはまた別問題だろう。

    それとは別に、彼女の中で根を張っていた後悔の一つが尾を引くこともなくなったからか、多少ながら表情に余裕が持てるようになったのは、良い兆候と言える。


    ライカは機械馬の運用に関して、砲台変形機構を正式に使えるかどうかの打診の機会を得たそうだ。

    今回の件はあくまで特例として許されたようだが、警察がそれだけの力を持つことに疑問符があるのは事実だ。ただ、正直キヴォトスの治安を守ることを考えるとこれぐらいの戦力がないと抑えきれないところもあるため、どう転ぶかはこの先次第というところだ。

    というか、それぐらいにはこの世界には問題児が多すぎる気がする。

    というわけで、彼女とミレニアムのエンジニア部の開発協力体制は、今後も続きそうである。

    暫くは試用段階が続くだろうが、結局のところ武器として運用できなくても、彼女は機械馬に乗ることは辞めなさそうだ。



    最後に、ヴァルキューレを離れていたマワリが今どうしているかといえば──それは、この後の一幕の中で見ていくこととしよう。

  • 94二次元好きの匿名さん24/10/22(火) 21:33:27

    このレスは削除されています

  • 95◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:35:29

    >>93

    ───────────────────────────────

    D.U.シラトリ区内。

    先生は、その日ライカと共に機械馬に乗って事件現場へといた。たまたまヴァルキューレを訪れてカンナやライカと話していた際に機動隊の出動命令が入ったため、ライカが出るついでに先生も同行したという。

    以前は若干ビビっていたものの、今では先生もこの乗り心地も悪くないらしく、ライカと一緒に事件現場へと向かうことがたまにあるそうだ。ちなみにそれが帰り道の移動手段を兼ねてるのは二人だけの内緒である。


    「おっと、着きましたな。まーた銀行ですか…まぁいつものことですが。

    では先生、駄賃代わりに指揮をお願いいたしますよ」

    「OK、さて現状は…ってあれ?」


    機械馬を降りたライカと先生は、外で銃を構えている多くの不良生徒を相手にしようとした瞬間、銀行の中から何発か銃声が聞こえてきた。


    「ん?この銃の音は…」

  • 96◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:36:46

    >>95

    ライカがそう零した瞬間、銀行の中から一人の生徒が出てくる。

    ──そう、マワリである。

    店の中で脅していたはずの不良生徒は、案の定彼女に早撃ちであっという間に制圧されたのだろう。


    「はぁ…今日は休日だっていうのにさ。こっちはお金を預けに来ただけなのに、面倒ごと増やさないでよ」

    やれやれといった感じで首を振っていたマワリは──ライカと先生を視界に捉えたかと思えば、どよめく不良生徒達そっちのけで駆け寄った。


    「…どうも、お二人さん」

    「やぁマワリ、お疲れ様」

    「ハッハッハ、休日に働くことになるとは、君も運がないな!」

    「うっさい先輩!こっちだって望んだわけじゃないんだよ!」

    「まぁそう怒るな、こっちからカンナ先輩には言っておくから安心したまえ」


    ムキになって怒るマワリと、愉快に笑うライカ。それを見て、先生も思わず笑う。

    「そっか、そういえば──今のマワリは『働く』ことになるんだっけね」


    その言葉に、マワリはポケットからひょいっと何かを取り出した。

  • 97◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:37:58

    >>96

    それは──ヴァルキューレの生徒手帳。名前の欄には、「術業マワリ」と書かれている。

    つまり今の彼女は、ヴァルキューレの一年生として再び帰って来ていたのだった。マワリはこっそり、小声で二人に囁く。

    「戻らない理由も無くなったしね。それに、私の立ち位置は特殊だから。カンナ先輩に誘われて公安局に入ってるけど、なるべく秘密裏に動く仕事が多いから、ある意味『義賊』っぽくてこっちの方が性に合うんだ」

    「その理論はよく分からんが…私としては寂しいがね。とはいえ、君が一番生きる場所に行くのが一番だからな」

    「まぁ、今でもあの時のメンツとはよく遊びに行くけどね~」


    二人と先生が話していると、外にいた不良生徒たちが慌てて銃を向け直した。

    「な、何なんだお前は!?ただの客じゃなかったのか!?」

    「な、舐めやがって…覚悟しやがれ!」


    「あー…取り合えずこの場を抑えよっか。先生、指揮はよろしくね」

    「それじゃ、さっさと片付けると致しましょうかな」

    「うん、任せて」

  • 98◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:39:22

    >>97

    そうして二人は、機動隊の後輩や先生の前に立ち、ホルスターからリボルバーを抜く。

    マワリは託されたコルトM1877を。ライカは新調したバントラインを二丁。

    かくしてマワリは不敵に笑うライカの隣で、飄々と不良たちに告げるのだった。


    「私が誰かって?うーんと…まぁそうだね。



    ただの『おマワリさん』ってとこかな」



    Fin.

  • 99◆J1qLHjcRhM24/10/22(火) 21:41:45

    >>98

    というわけで、これにて〆となります。元スレに書いてた通り、無事書ききれて良かった良かった。


    マワリ、ライカ、カンナという、三人それぞれの正義を見届けて頂けましたでしょうか。

    あと、キリノとフブキも頑張ってくれました。ありがとうね。


    オリキャラで書くのは初めてだったので、元からいる原作キャラと上手く絡ませられればと思いながら書いておりました。ダイススレ形式に慣れていた人からすると異質かつ慣れなかったかもですが、原作キャラのイメージを損なわないように上手く自分が書くとしたら、SSのタイプの方がやりやすそうかな、ということでこんな感じになりました。

    オリキャラも原作キャラも上手く立たせていられたのなら嬉しいかな。


    ちなみに、銃をきっかけにキャラが生まれたとはいえ、実際僕は銃に詳しいかと言われればそこまでだったりします…なので、銃に関する一部の描写はもしかしたら間違っているかもしれませんので、そこは申し訳ない。

    どちらかといえば、好きな銃を元として生まれるキャラや話がどんな魅力があるかな~って方に視点が向いていたのはあるかもなので…


    そんなわけで、拙い文章ながら2スレッドに渡って読んでくださった方々には重ね重ねお礼を。

    ここまで読んでくれて、ありがとうございました~

    ではでは。

  • 100二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 08:19:16


    面白かった

  • 101二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 20:15:46

    このレスは削除されています

  • 102二次元好きの匿名さん24/10/23(水) 20:28:17

    このレスは削除されています

  • 103二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 08:04:13

    面白かったです

  • 104二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 19:39:11


    いつの間にか完結してた(時間が早く感じた)

  • 105二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 01:41:31

  • 106二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 12:25:21

    玄翁ライカは(物語開始時点では)M1877とバントラインスペシャル(シングルアクション・アーミー? 長銃身仕様のM1877?)の二挺拳銃スタイルだったそうですけど、左右どっちに何を持ってるんでしたっけ?

  • 107◆J1qLHjcRhM24/10/25(金) 12:57:52

    >>106

    実はあまり決めてなかったですね…

    左にM1877、右にバントラインになるかな?と思います。バントラインの方はシングルアクション・アーミーのものを想定してました。ダブルアクションのM1877と合わせて撃つのは難しそうな気もするけれど…

  • 108二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 22:56:39

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 09:44:42

    このレスは削除されています

  • 110二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 15:55:05

    このレスは削除されています

  • 111二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 15:57:41

    このレスは削除されています

オススメ

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