- 1二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:01:52
トレーナー室には、大きめのカレンダーが一部、壁に吊るしてある。
商店街のイベントか何かで貰った、シンプルで飾り気のない、普通のカレンダー。
大事なスケジュールは手帳やスマホで管理しているので、俺はあまり使っていない。
それでも残しているのは────このカレンダーを、使っている人がいるからで。
「……カレンダーにまるー、っと♪」
ふんわりとした芦毛のミディアムヘア、右耳には黄色いリボン、タレ目がちの瞳。
担当ウマ娘のヒシミラクルは、キュッとカレンダーに赤いマーカーで大きな丸を書いた。
なんとなく気になって、俺は後ろからそっと覗き込む。
彼女が丸をつけたのは、特にこれといった予定もない、何の変哲もない平日の日付。
「……これって、なんの日なんだ?」
「んふふっ、これはですね、たこ焼き屋さんのサービスデーなんですよー」
「たこ焼き屋さんって、駅前にある、たまに行くところの?」
「はい、この日は全商品がなんとぉー……20%オフの大特価!」
「おおっ、そりゃあお買い得だね」
「トレーナーさんも、そう思いますよね? ねー?」
そう言うと、ヒシミラクルはどこか期待に溢れた目で、ちらりとこちらを見やった。
…………まあ、最近はタイムも良くなってきているし、一つゴホウビというのもアリかな。
「わかった、この日に連れて行ってあげるから、トレーニング頑張ろうね」
「やったぁー! ありがとうございまーす!」
ヒシミラクルは顔を綻ばせると、尻尾を楽しげに揺らめかせながら再びマーカーをカレンダーに向ける。
そして、先ほど書いた丸の中に、小さな丸を付け足して二重丸にした。
────このカレンダーには、彼女の手によってたくさんの丸が記されていた。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:02:07
「改めて見ると、なんというか、賑やかな絵面だねコレ」
「そうですか? シールとか貼ってませんし、このくらい、ふつーと思いますよー?」
「……そう?」
「わたしが中等部だった頃の手帳とか、もっとペタペタでデコデコのキラキラでしたし」
「まあ、そういうもんか…………しかし、これで見分け付くのか? 内容とか書いてないけど」
「私的な用事が中心ですからだいじょーぶです、それに」
「それに?」
「……とっても大切なことだったら、トレーナーさんが覚えていてくれるかなーって」
「…………それはそうだけど、あまり人を頼りにしないように」
「えへへ、はぁい」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ヒシミラクルは気の抜けた返事をする。
まあ、今まで派手なすっぽかしなどはしたことがないので、そんなに心配はしていない。
…………それに、俺を頼ってくれること自体は、そんな悪い気はしなかった。
「えっと、ちなみに、例えばここの丸は何の日なんだ?」
くすぐったい気持ちを誤魔化すように、俺はカレンダーの日付を指差した。
月末の日曜日には丸い太陽のマークがついている。
この日にはお出かけの予定も、レース場に行く予定もいれていなかったのだけれど。
ヒシミラクルは目を細めて、口元を緩めると、耳をぴこぴこ動かしながら口を開く。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:02:26
「その日はですね、家族がこっちまで来る日なんです」
「ご両親が? そっか、それは大切な日だ────」
「お母さんがいっぱい美味しいものをご馳走してくれて、お父さんはこっそりお小遣いもくれて……♪」
「……」
「……はっ!? あっ、いや、もちろん、顔を見てお話出来ることだって嬉しいんですよ!?」
「…………ソダネ」
「ちっ、違うんですよぉー……!」
眉をハの字に歪め、慌てた様子でヒシミラクルは抗議をする。
久しぶりに会う、素直に甘えられる肉親なのだから、それで良いと思うけれど。
……まあ、普段から同室の後輩に甘やかされてる点については置いておく。
────それにしても、改めてちゃんとカレンダーを見れば、丸にも色んな種類があった。
丸、二重丸、太陽。
指でそれらをなぞりながら、今度は、小さく耳の生えた形をした丸に辿り着く。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:02:46
「これは?」
「その日は、新しくオープンした猫カフェに行く日ですね」
「なるほど、それじゃあこっちのケーキみたいな形をしたのは」
「わたしの友達の誕生日です、あっ、トレーナーさん今度プレゼント選びに付き合ってもらっても良いですか?」
「オーケイ、じゃあ、その前の週末かな? 開けとくよ」
「あはっ、どもでーす」
「……ちなみに、この小さくバツの書いてある日は」
「…………トレーニングメニューによっては丸になってくれるんですけどね?」
「…………頑張って」
「………………おにー」
ぽつりと呟いて、ヒシミラクルは唇を尖らせつつそっぽを向く。
俺はその様子に苦笑いを浮かべながら────月の始めの方に存在している、異質な丸に気づいた。
圧が強いというか、何度も何度も同じように書き続けたような、少し線の乱れた太めの丸。
……それは数日前に過ぎていて、確か俺は学園にはいなかったけれど、何かあったのだろうか。
聞いても良いものかと少し迷ったが、好奇心には勝てず、気づいたら問いかけてしまっていた。
「……この日は?」
「その日はですね、待ちに待ったトレーナーさんの出張が────」
刹那、ぴしりとヒシミラクルの言葉と動きが凍り付く。
……ああ、そういえば、この日って俺の出張が終わる日だったな。
彼女は顔をかあっと赤く染め、瞳を潤ませると、わたわたと手を動かし始める。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:03:03
「ちゃっ、ちゃうちゃう! 寂しかったとかそういうの違くて!?」
「……寂しい?」
「あああああっ!? その、あの、これは、ですね!?」
ヒシミラクルはなんとか弁明をしようとするが上手く行かず、余計なことまで口走ってしまう始末。
やがて、諦めたように真っ赤な顔を俯かせて、ぷるぷる震えながら黙り込んでしまった。
そして流れる静寂と、気まずい雰囲気。
俺は頬を掻きながら、彼女へ向けて手を差し出した。
「マーカー」
「……ほあ?」
「マーカー、ちょっと貸してくれる?」
「あっ、はっ、はい、どーぞ」
困惑した様子のヒシミラクルからマーカーを受け取ると、キャップを外す。
そして、俺は────今日の日付に、大きく丸を書いた。
きょとんと目を丸くしている彼女に微笑みながら、俺は言葉を紡ぐ。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:03:28
「うん、確かに毎日丸がいっぱいだとわくわくしてくるね」
「あっ、はい、そうかもしれませんけど……?」
「…………まあその、あれだ、俺もさ、出張中ちょっと寂しかったんだ」
「……っ!」
「キミの声が聞けなくて、キミの顔が見れなくて、キミのお好み焼きが食べれなくて」
今こんな話をしているのは、ヒシミラクルのフォローのためではある。
けれど、話している内容に、嘘はない。
真面目に仕事はしていたけれど、心の奥底では、早くここに戻りたいと思っていた。
彼女に会いたい、話したいと思っていた。
俺は、彼女を真っ直ぐ見つめながら、マーカーを返して、伝える。
「キミが良ければ、この後、お好み焼きを食べに行きたいなあ、なんてね」
最後は少し気恥ずかしくて、冗談めかしてしまったけれど、本音の言葉だった。
ヒシミラクルは尻尾と耳をピンと立ち上げて、目を大きく見開き────にへら、と表情を崩す。
「…………ふふっ、もう、しょーがないトレーナーさんだなあ」
そう言うとヒシミラクルは俺のつけた丸に、返したマーカーで書き足しを始める。
丸の外側に、くるくると渦巻きを描いていき─────いわゆる、花丸を作り上げた。
そして、くるりと身体をこちらへと向ける。
まだ少し照れた様子だったけれど、いっぱいの笑顔が浮かんでいた。
「それじゃあ今日は、全部乗せ、ですからね?」 - 7二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 01:04:05
お わ り
元ネタを知ってる層はこの掲示板どのくらいいるのだろう - 8二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 03:01:34
良い話だなと思うんだけど元ネタがわかんねぇよぉ…
ひしみーは新聞屋とかが配ってるたいぷのごつでかいカレンダーとかなんだろうか - 9二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 04:29:57
ヒシミラクルはこういうことをする
普通の女の子っぽい普通のものでものすごく愛くるしいことをする
ヒシミラクルを食べ物に例えると杏仁豆腐 - 10二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 06:47:37
やばい好きすぎる
もう結婚するしかねえ - 11二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 10:52:36
かわよ
- 12二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 19:21:50
ヒシミラクルはこういうことするからずるいかわいい
- 13二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 19:49:50
出張から帰ってくる日はいつもよりちょっとおめかししてそう
でもトレーナーに気付かれなさそう - 14124/10/18(金) 00:21:51