- 1二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:03:04
「ミ~ホミホミホミホミホwwww秋シニア三冠はミホが頂くボンねぇ~wwwwww」
ライスシャワーは絶句した。否、思考回路の全てが停止した。
一瞬とは言え、記憶と学習に係る重要な細胞機能であるシナプスが機能不全に陥るなど、長い歴史を誇るこの学園においても恐らくは今この時のライスシャワーしか経験し得ない状況であろう。
ライスの銀河の彼方へ放り出された様な表情を瞳に映し、ミホノブルボンは一瞬驚きの表情を浮かべたものの、すぐに思考のスイッチを切り替えた。
「ライスさんの思考、及び行動に関わる全ての機能停止を確認。これより、緊急オペレーション『ライスさんの思考機能回復』を開始します」
言うが早いか、ブルボンはライスのほっぺを両掌でむにむにと揉み始めた。餅を捏ねるかの如き摩訶不思議な刺激を受けたライスの脳神経系は、ブルボンに揉まれるリズムに合わせゆっくりと再起動を開始する。
同時に、ライスのシナプスが事ここに至るまでの記憶を、少しずつ脳裏に再生していった。
『ライスさんに、是非見て頂きたいものがあります。その上でご意見も頂きたいと思っています』
そうブルボンにお願いされ、ライスが自分に出来る事なら、と快諾したのが概ね10分前の事。爽やかな風が吹き抜ける、秋晴れの昼下がりのことであった。
人前ではまだステータス『羞恥心』の解消が少し難しいから、と移動するブルボンの後に続き、何を見せてくれるのかと内心ドキドキしつつ空き教室に到着したのがおおよそ5分前。
『では、よろしくお願いいたします』
ブルボンがそう丁寧に礼をするものだから、思わずライスも畏まってしまい『よろしくお願いしましゅ』と可愛らしく噛んでしまったのがアバウト2分前。
それから突如として先程の発言が、無表情のまま楽し気な身振り手振りと共に何の前触れもなく飛び出した。その衝撃の凄まじさはライスの情報処理能力を遥かに上回り、ライスの思考回路は一瞬でショートしてしまったのである。
そして、ブルボンによる再起動処理を経て、現在に至る。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:04:47
「あっ……」
「ライスさん、大丈夫ですか?」
「あ、う、うん。大丈夫だよ。ありがとう、ブルボンさん」
記憶の再生を終え、意識を取り戻したライスがぎこちなくはにかむと、ブルボンの表情にほんのりと安堵が浮かんだ。
如何せん機械的で無表情な印象が先行しがちではあるが、慣れればブルボンの感情の動きを捉えるのはそう難しい事ではない。
ライスはまず、ふうと大きく深呼吸したが、その表情にはまだ幾ばくかの躊躇いが過る。しかし、ライスは意を決してブルボンに向き合った。
「あ、あの……ブルボンさん、今のは一体……?」
「先程お見せしたのは、『対ファン用コミュニケーション』の試作1号です」
「対ファン用コミュニケーション……?」
「先日、マスターよりテレビ番組出演のオーダーがありました。その際、何かしら観覧するファンの皆様が盛り上がるような事を、というオーダーがマスター側にあった事を資料から認識しました」
「そうなんだ……」
スタートラインの事情は呑み込めたものの、それが何故あの謎の発言につながるのか、ライスはまだいまいちピンと来なかった。
テレビ番組で、ブルボンのファンが大勢観覧に来ると分かっているのなら、クラシック三冠レースの道程の裏話をトレーナーと話すだけで十分盛り上がりそうなものである。
そんなライスの疑問を察知してか、ブルボンは静かに頷きつつ続ける。
「ライスさんやフラワーさんとの交流を深めた結果、私に対する機械的な印象は少しずつ軽減しつつあると認識しています。しかし、未だ学外のファンの皆様には非常に無機質かつ機械的な印象を抱かれているのも事実です」
そこまで聞いて、ライスもようやく納得したように頷く。
ミホノブルボンというウマ娘は、どうしても普段の独特な口調や態度がロボットのように見られがちである。
ハードなトレーニングをものともせず、適性を覆す活躍ぶりを魅せたことも合わせてサイボーグという渾名を頂いたこともあるが、近しい人達は交流を進めると共に彼女の感情を垣間見る事も増えていった。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:06:03
周囲が想像するよりずっと自分の感情を自覚することが増えた彼女だが、しかして周囲からの目線もそうかと言われるとそれは別の話だ。
その上でテレビという華やかな場に出る以上、それに合わせた言動を遂行しようと考えるのは、彼女らしい努力とも思える。
「私には、テイオーさんやマックイーンさんのように軽妙洒脱なトークを扱いこなすのは非常に高難度なミッションです。故に、皆様の前に立った際、印象のアイスブレーキングに注力すべきと判断しました」
「……それで、さっきの挨拶を?」
「はい。研究資料として用意したエンタメ用語辞典から『エアプ』なる概念を確認。その内、自身の名前の一部を笑い声、一人称、語尾に使用するというキャラクター性について、先日拝見したバラエティ番組からも『インパクトを求める際には非常に効果的である』との認識を得ました」
どこか自信ありげな表情のブルボンに対し、ライスの表情は未だに困惑が混じる。
確かに先日、ドゥラメンテがキタサンブラックやサトノクラウンと一緒にテレビに出演した際、似たような事をやっていたのが記憶に新しい。本物のエアプじゃないか、と誰かが叫び、それが随分と笑いを取っていたのが印象的だった。
とは言え、ドゥラメンテ達が出演していたのはスポーツバラエティーのような番組だったし、普段とのギャップもだが両隣のキタサンとクラウンが一緒にやっていたのも盛り上がりに一役買っていたと思う。
ブルボンが、恐らくはトレーナーと共に出演する番組がどういった趣旨のものか正確に分からない以上、これを懐に隠して挑むのは危険度が高いのでは、というのがライスの本音であったが、それを言うべきかの判断は難しい。
悶々と考えるライスに対し、ブルボンはずいと前に出た。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:06:56
「それで、いかがでしたでしょうか。もしライスさんから見て改善点があれば是非教えて頂きたいと思います」
「……そ、そうだなぁ」
そうして、ライスは考える。
ブルボンなりに考え、実践しようとしている事に対して意見するのはいかがなものか。それが原因でブルボンが落ち込んだりしないか。かと言って、果たしてあの挨拶が受け入れられるかと問われるとそれも難しいような気もする。
しばし難しい顔をしてライスは考え、対するブルボンもライスの考えが纏まるのを待った。
そして、遂にライスはうんと頷き、決心する。今までの自分だったらここで引き下がってしまったかもしれないが、ライスもトゥインクル・シリーズを通して自分を変えたのだ。彼女をそうさせた一握りの勇気と共に、一歩前へ出る。
「ライスは……ライスは、いつも通りのブルボンさんも、とっても素敵だと思うよ」
「ありがとうございます。しかし、見て下さる皆様が盛り上がる何かを提供するミッションがあります」
「そ、それなんだけど……お話しの時、例えばライスやフラワーさんと一緒に居る時の事とか、トレーナーさんと普段どんなことをしてるのかとか、どこかにお出かけした時のことを話すだけでも、とっても喜んでくれると思うんだ。ライスもお姉さ……ライスのトレーナーさんと一緒にお出かけしたお話したら、ファンの人にとっても喜んでもらえたし……」
それは、以前開催された現役ウマ娘によるトークショーでの出来事。最近の動向について尋ねられたライスは、お姉さまこと彼女のトレーナーとお出かけした話を繰り出した。
司会としては、トレーニングや今後の展望についての話題を引っ張りたかったのだが、ぴこぴこと耳を動かしながら楽し気に語るライスの可愛らしい姿はファンの胸を打ち、ファンの中にはトレーナーごとライス推しになった人も居たという。
無論、終わった後で司会の意図に気付いたライスが顔を真っ赤にして楽屋に閉じこもり、しばらく出てこなくなったのは言うまでもない。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:07:56
「なるほど、ライスさんや、マスターとの日常を……」
「うん、レースやトレーニングのことだけじゃなくて、楽しいことをたくさんお話しするのも、盛り上がるよ、きっと!」
意図したものとは違ったとは言え、ライスがそれを語ってここまで好評を博すなら、ブルボンが語っても印象は悪くないだろう。ストイックな印象の強いブルボンが語る朗らかな日常は、きっと新鮮な驚きを持って受け入れられるに違いない。
ドキドキしながら提案したライスだったが、ブルボンの反応も一先ずは悪くなさそうだ。それを確認しつつ、ライスはもう一歩前に出る。
「……それにね」
そう言って、ライスはそっと両の手をブルボンの頬にあてがった。ほんのりと表情に驚きが乗ったブルボンの頬をむに、と持ち上げる。
「ライス、ブルボンさんが笑顔になるところ、好きだよ。挨拶する時とか、お話しする時ににっこり笑ったら、きっとみんなブルボンさんのことがもっと好きになると思うな」
「笑顔……」
言葉と同時に、ブルボンの記憶メモリが脳裏に再生される。同室のフラワーが花の世話をしている時の笑顔、苦難を乗り越えたライスがターフで咲かせた笑顔、商店街で出会った子供と交わした笑顔。
そして、マスターこと彼女のトレーナーがゴール板を先頭で駆け抜けた自身へと向けていた嬉しそうな笑顔。
笑顔には、人をステータス『幸せ』にする効果があると、ブルボンは思う。いつか笑顔を交わせた時のように、自分の笑顔にも、きっと────。
そう思い至り、ブルボンはそっと自身の手をライスのそれに重ねた。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:08:36
「ブルボンさん……?」
「……やはり、ライスさんに意見を聞いて正解でした」
重ねた手を取って優しく握ると、ブルボンは真っ直ぐにライスを見つめる。
瞳に映るライスの頬は、ほんのりと桜色に染まっていた。それは、今目の前で自身に向けて笑みを浮かべているブルボンが、とても魅力的な笑顔だったからに他ならない。
「これより、ミッション『自然で素敵な笑顔の習得』を開始します。よろしければ、ライスさんにも引き続きお手伝い頂ければと」
もう充分に魅力的な笑顔をしていると、ライスは思った。そして、この笑顔がもっと魅力的になれば、どんなファンでも魅了されるような、素敵な笑顔になる、とも。
ライスはそっとブルボンの手を握り返すと、自身も嬉しそうな笑顔でそれに応えるのだった。
そうして始まったライスとブルボンの笑顔の練習の効果は、トレーナーと共に出演したテレビ番組で存分に発揮され、ブルボンはそれまでより更にファンを増やすことに成功した。
が、例の『挨拶試作1号』については一旦封印したものの、いつか何かのイベントで披露する機会があるかも、とデータを廃棄する事はしなかったらしい。
これについて、ライスと、ライスから情報を受けたブルボンのトレーナーが『挨拶試作1号』を使用するタイミングについては必ずトレーナーや周囲のウマ娘と相談するように、と伝えると、ブルボンは少しだけ残念そうな表情で頷いていたという。 - 7二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:16:57
以上です、ありがとうございました。
ブルボンとライスの関係はシナリオ毎に少しずつ違いがありつつも、最後には唯一無二の関係になっていくのがとても好きです。この二人に限った事ではありませんが、誰かのシナリオを読む度に推しCPが増えている気がします。 - 8二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:24:03
突然友人のキャラ崩壊(?)の瞬間を目の当たりにして冷凍ご飯になっちゃった……
出オチだと思ったらてえてえSSであった - 9二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:43:13
ブルボンとライスの供給たすかる
出てくる子がみんな何かしら可愛いことしてるのがすき - 10二次元好きの匿名さん24/10/17(木) 22:46:12
一行目だけ見てブラバしなくて良かった
心がポカポカした - 11二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 00:01:10
ブルボンの出た番組もだけどキタドゥラクラが出たバラエティもすごくすごい気になる
めっちゃ盛り上がったんやろなあ - 12二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 07:10:38
開幕からすんごいの来たな……と思ったら尊さが一気に来た。この尊さはもうひと頑張りしたい金曜日の体に素早く届く
- 13二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 13:16:46
お互いここぞという時にほっぺをむにるの良き
想像しただけで尊みが溢れる - 14二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 18:55:21
もしかしたら俺はデジたんだったのかもしれない
- 15二次元好きの匿名さん24/10/18(金) 21:09:10
凄く良い…
- 16124/10/18(金) 22:25:08
- 17124/10/18(金) 22:25:24