スバルの死に戻りバレ、妄想しようぜ!

  • 1二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 14:58:01

     ルグニカ王国東端、アウグリア砂丘、プレアデス監視塔内部、第三階層──タイゲタ書庫。
     その中で、『菜月 昴』の文字が並んだ一冊の本を、自分の最愛の人が、エミリアが抱えている。
     それが示す意味がわからないほど、スバルは愚かではなかった。

     喉から何か出るよりも早く距離を詰め、無条件反射にも近い挙動で彼女から本を奪い取る。エミリアの腕には何の力も入っていなかった。だから簡単に本を取り上げることができた。──それすらも、スバルの望まない何かを意味している。

    「……エ、ミリアたん……これ、読んだ……?」

     開いた瞳孔も震える声音も、スバルのそれらは酷く緊張と困惑を表している。
     笑顔を作ろうとして、片方しか口角が上がらない。顔面の筋肉が硬直しているためだ。普段のナツキ・スバルを維持できない。この場面の最善は、エミリアがまだ菜月昴の死者の書に目を通していないことに賭け、小粋なジョークでも織り交ぜながら彼女の意識を逸らすことだというのに。
     エミリアの放つ気配。エミリアの青ざめた顔。エミリアの小刻みに震える肩。負の感情が折り重なった、エミリアの瞳。
     それらが全てスバルの視界に収まりきって、頼りの舌の根は、石にでもされたかのように固まってしまった。

  • 2二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:00:22

    「ス、スバル、は……スバル……私っ……スバ、あのっ、あっ」

     スバルよりも酷い、たどたどしい口調。言葉を形作れない経験は、スバルにもある。言いたいことが、言わなければならないと思うことが、大量に波のように押し寄せ、しかしそれをどう繋げて何を捨てて何を選んで紡げば良いのか、正解がわからないのだ。
     嗚呼。嗚呼!
     スバルは今のエミリアの状況を理解する。
     自分が出くわしたのは、エミリアが菜月昴の死者の書を読み終えた直後ではない。もちろん長い時間が経った訳でもないだろう。しかし読み終えた内容を、感情に関わらず、脳の勝手な処理機能が整理し終えるだけの秒数は経っている。──これは、そういう反応だ。

    「スバル……スバル!」

     揺れる紫紺の瞳に耐えきれなくなって──エミリアを抱き留める。
     存在を憎むべき邪悪な一冊が、床へと落ちた。
     呼吸障害を起こしたような、細かく浅い吐息の音が、断続的にスバルの耳を撫でていた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:00:50

    >>1

    嫉妬の魔女「スバルくんと私だけの秘密だから殺すね」

  • 4二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:01:32

    「違う……違うんだよ、エミリア」

     何が違うのか自分でもわからないまま、スバルは思い切り顔を歪める。彼女に与えられた恐怖と衝撃をどうか塗り潰してくれと願わんばかりに、細く華奢な体を抱き締める。
     いつの『スバル』を、彼女は読んでしまったのだろう。一体どの死に様を迎えた『ナツキ・スバル』を、エミリアは重ねられてしてしまった?
     彼女に死を経験させてしまった。世界一傷つけたくない人に、これ以上なく酷な経験を。
     もちろんそれは、自らの死ではない。傲慢な捉え方かもしれないが、恐らく、スバルがこの異世界に転移してから何度も味わった死よりは、ほんの僅かでも衝撃と恐怖は薄まっているはずだ。──そう考えるしか、逃げ道がない。
     だがスバルは知っている。この銀髪のハーフエルフの少女が、自分の為に誰かの死を許容できる精神性ではないことを。

    「気に、しないでくれ。これは……君が何か考える必要があるものじゃない。俺が、そう、俺が望んだ。俺の我が儘だ。俺は幸せだ。文句がないんだ。だから、君は何も思わなくていい。些事だ。忘れてしまっていい。……忘れて、くれ」

     自分が何を言っているのか、覚束ない。
     エミリアの心に降りかかってしまっただろう淀みを拭い去る目的で発した言葉は、いつしかスバル自身の精神の瓦解を縫い留める役割に変わっていた。

  • 5二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:01:48

    スバルに過保護になる派とスバルを有効利用しよう派(ロズワールだけ)で抗争が勃発

  • 6二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:02:29

     知られたくなかった。自分の失敗で、数多の彼女と仲間を殺してしまったことを。
     知られたくなかった。超常の力を授けられておいて、犠牲の生じた今に甘んじていることを。
     嗚呼、そして知りたくなかった。この期に及んで、自らがそんな自己保身に陥る思考をしてしまうことを。
     これは……これは、駄目だ。これだけは駄目だ。エキドナに『死に戻り』が知られてしまった時とは違う。スバルは自分の過ちであの魔女の命を奪うことはなかった。だから、あの時と今では、絶望的に状況が違う。
     スバルの唇が、震えながら開きにかかる。言っては駄目だ。それだけは言ってはならない。それを言えば、今の彼女への侮辱になる。深い傷口に棘を打ち込むことになる。それは、余りにも、傲慢に過ぎる。
     だが、もう遅い。

    「ごめん、なさ」
    「──大変、だったね」

     ささやかにスバルの耳を打った、銀鈴のような声。
     それはいつしか、内側に抱え込んだものに張り裂けそうになっていた自分を救った言葉で。
     意識に空白ができたように緩んだスバルの腕から、僅かにエミリアが離れる。
     お互いの瞳に、お互いの表情が近く映るようになった距離。
     スバルの視界の中のエミリアは、今にも泣きそうに涙をたたえながらも、優しく微笑んでいた。

  • 7二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:03:13

     心が泣いている。感情が叫んでいる。エミリアの今の言葉を、エミリア自身が呪っている。
     彼の数多の死体の上に、自分は立っていた。数分前まで、そのことに気づいてすらいなかった。
     お前が彼に抱かれる資格があるものか。彼に言葉をかけられる権利があるものか。
     彼が悲惨な死を重ねた原因は、どこにあると思っている──
     お前が彼に、何かを言える立場であるものか。
     それでも、自分を抱き締めた少年の腕から、縋るような気持ちが伝わってきて。
     少女は自分の中で渦を作るそれら全てを自覚して、それら全てを抑え込んだ。
     実際、今の言葉が彼にかける言葉の正解であったのかはわからない。
     ──ごめんなさい、と言いたかった。何度も何度も、それを繰り返したかった。
     だけれどそれが彼のためにならないことを、一時でも彼であったエミリアは知っている。

  • 8二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:03:59

    「エミ、リア……」

     掠れた声でスバルが呟く。声の裏側は真っ白だ。だた、訪れた衝動に任せて口から漏れ出た言葉。
     床に無様に捨てられた本。『菜月昴』の死者の書。目の前の少年の、人生の一端。
     エミリアはそれを慈しむように拾い上げた。

    「大変、だったよね。いきなり、どこかもわからない場所で目が覚めて」

     本に刻印された『菜月昴』の文字を、指先で優しく撫でる。この文字は、漢字という。こことは異なる世界の──スバルの故郷で使われている文字だ。

     本の中の少年は、記憶を失っていた。
     記憶を失い、自らが生まれ育ってきた世界とは全く異なる未知の環境の中で、呪いのような運命に絡め取られていた。
     それでも懸命に抗って、出会った人達を愛し、その愛した人達のために愛した人達の信じる自分へ成ろうと、この書庫に辿り着いた。
     少年は自らを酷く嫌悪し、憎悪していた。それを塗りつぶし、愛した人達の期待に応えられる自分へ新生しようと、この書庫でさらなる旅を始めた。

  • 9二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:04:35

    「何度も、何度も、酷い目に遭って」

     リンガの購入を尋ねられた。──腹が切り裂かれ、臓物が外へと流れ出た。
     双子のメイドの前で目が覚めた。──衰弱しながら、何かに圧し潰された。
     恥と無力感に苛まれながら、王都を散策していた。──三つの脅威が、足掻く少年を順繰りに殺していった。
     少年の旅路は多様な死と、繰り返しの覚醒で溢れていた。絶望に道を塞がれ、残酷な運命が少年を食らっていった。
     なぜ彼がここまでの理不尽を受けなければならないのだろう? 少年自身、この異世界を呪いながら自問したことが何度もある。

    「それでも、あなたは諦めなかった」

     それでも彼は決して足を止めなかった。横道に逸れたとしても、躓いたとしても、その足取りが止まることは絶対になかった。
     全ては、大切な人達のため。少年が、愛した人達のため。
     愛し、支えてくれた少女が世界から弾かれてしまっても、再生を誓って多くの人間を救い、解放したのだ。
     数多の脅威と自分の弱さに怯えながらも、大勢の心を奮い立たせて守り切ったのだ。
     そうしてそれらの記憶を失った少年もまた、同じ脅威に苛まれる仲間たちを救おうと、多くの死に彩られながら懸命に血路を辿っていた。

  • 10二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:05:35

     その姿は、客観的に見れば記憶を失う前の彼と後の彼で、何も変わらない。
     実際、少年は旅を終えた後も、何も変わらなかった。自分を変えてくれる何かを見つけられないまま、ナツキ・スバルは『ナツキ・スバル』に辿り着いた。
     少年は、少年であった。
     彼らは一つになって、自らを認め、仲間たちを救ってみせたのだ。
     嗚呼、そして、全てが終わったと思った束の間、彼は異国へと飛ばされ──
     そこで迎えた一度目の死で、この書は終わっている。
     あれから、一体何度スバルはエミリアの知らない死を経験してしまったのだろう。人を愛しやすい彼のことだ。きっとそこで出会った多くの人を救おうと、己を顧みず、懸命に藻掻いたはずだ。
     その彼が、一体なぜこんな顔をしてしまっている。恥じて否定するべき秘密が暴かれてしまった子供のような、こんな顔を。
     エミリアはその答えを知っている。彼の旅路を彼自身と重なって経験し、見届けたエミリアは。
     だから、かけるべき言葉を考えられた。彼の死によって生み出された力を、都合よく解釈し扱っていた自分を呪う言葉を抑えて。
     伝えたくて、伝えられたい言葉を、導くことができた。
    『菜月 昴』の死者の書を、胸に優しく抱え、エミリアは唇を開く。

    「ありがとう、スバル。──私たちを、助けてくれて」

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:06:05

    限界を迎えたように、顔を隠すように、エミリアはスバルの胸に頭を預けた。
     スバルの心は、ただただ白く染まっていた。暖かな、白だ。
     優しく、エミリアの銀髪を撫でることができた。先程のように、身勝手な力は入らない。
     ごめんなさい、とくぐもったエミリアの声が聞こえてきた。

    「……終わっちゃうのよね。この世界」

     チクリと、スバルの心に突き刺さる痛み。──そこまで、知ってしまったのか。

    「……ああ」

     静かにスバルは肯定した。自分が告げなかったとはいえ、エミリアはスバルの『死に戻り』を知ってしまった。──嫉妬の魔女は、それをスバル以外が知ることを許さないだろう。
     もうすぐ、闇が世界を呑み込むはずだ。
     エミリアがスバルの胸から顔を離した。また、お互いの視線が絡み合う。
     エミリアは理解していた。こんな機会は、恐らくもう二度と訪れない。
     次の生では、スバルはエミリアを書庫から遠ざける。上手く立ち回り、エミリアに存在を欠片も悟らせないまま、『菜月 昴』の死者の書をどこか手の届かないところに隠してしまう。
     だから、エミリアが本当の彼を知ることは、今後二度と訪れないかもしれない。

  • 12二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:10:15

    「自分を、大事にしてね」
    「……うん」

     額を合わせて、伝えたいことを伝える。
     それはもしかすれば、既に誰かに言われていることかもしれないけれど。

    「皆を、頼ってね」
    「──うん」

     エミリアが、どうしても伝えたいのだ。

    「私は、いつだって、スバルの味方だから」
    「俺も、いつだってエミリアたんの味方だよ」

  • 13二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 15:10:26

     物音。それはすぐに轟音へと代わって、崩壊の兆しとなる。
     反射的に怯えてしまうエミリアの身体を、スバルがそっと優しく抱きすくめる。
     その瞬間、溢れ出した感情が、口をついて出そうになった。──しかし、エミリアはきゅっと口を結ぶ。それをここで言ってしまうのは、違う気がした。
     少し、嫉妬する。いつかこの感情をスバルへ伝えられるだろう自分に。
     同時に、僅かな独占欲が顔を覗かせる。今の自分が、本当のスバルを知れた最初の自分になれた。
     あとは、祈るだけだ。これから彼が歩く道が、幸運に満ち溢れていますように。
     スバルの手に、僅かに感情の力が籠る。

    「──ありがとう、エミリア。あの時、俺を助けてくれて」

     思い返される、一度目の出会いの旅。
     ──そうだ。あの時からスバルは、自分のことを。
     最期まで彼の感覚を感じながら、エミリアは自分の心の中だけで応えた。
     愛してる、と。

    死者の書でバレる展開ってのはそそられるよね
    九章で意味深に出てきたことだし、期待してええかな…?

  • 14二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 16:30:01

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 17:19:43

    いつかは来ると思うけど死に戻りバレからのスバルくん処刑エンドとかだったら猫のこと一生許さない

  • 16二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 17:29:47

    >>15

    処刑したら死に戻りが発動して処刑されないように回避するだけだぞ

    だから国としてはこの上なく厄介なんだ

  • 17二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 18:29:16

    >>16

    そもそも死に戻りバレしてる時点で、

    嫉妬ハートキャッチが無い=死に戻り消滅

    って状況なんじゃないの?

  • 18二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 20:54:55

    ラインハルトに死に戻りバラそうとするとスバルがハートキャッチされるんだっけ

  • 19二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:49:30

    突然お出しされる高品質なSSにご満悦ですわ

  • 20二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 23:01:28

    九章でスバルは本棚の上に死者の書隠したよね
    エミリアは六章で本棚に飛び乗ってたよね
    なんかエミリアがスバルの死者の書読む可能性がかなり濃厚そうだな

  • 21二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 00:29:51

    『死に戻り』
    悪辣とさえ言えるその力が、目の前の少年を生かし続けてきたとでも言うのか。
    彼を英雄たらしめ続けたとでも言うのか。
    それを、寵愛だと、祝福だと、加護だと、権能だというのなら。
    「そんなもの、糞食らえだ」
    あまりにも都合が良く、あまりにも強力なその能力の価値は計り知れない。この力が知れ渡れば、世界は揺れるだろう。事実上の世界改変能力に等しいのだから。
    友人の死を知ってなお冷静にその価値を値踏みする自分を嘲笑しながら、オットー・スーウェンは画策する。ナツキ・スバルを死なせない方法を。
    オットー・スーウェンは誤った。
    白鯨に怯えるナツキスバルを突き落とした。
    彼の苦しみに気づかず、彼の痛みに気づかず、彼が英雄として祀り上げられるままにした。
    だから、もう間違えない。
    彼は他人を捨てられない。彼は自分を愛せない。自分を守れない。保身に走れない。
    だから自分が他人を切り捨てよう。他人を切り捨て、彼を囲って、死の運命から遠ざけよう。
    そうしないと、自分は、彼の隣に居る友人であることさえ出来ないのだから。

  • 22二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 01:12:27

    死に戻りバレした時サテラが世界壊して無かったことにするケースあるから結構二次創作向きなのか…?

  • 23二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 01:21:11

    エミリアが読む可能性高そうだけど個人的にはレムにも読んで貰って盛大にダメージ喰らって欲しい(ゲス顔)
    6章までの本はスバルがどっかやってるから次見つかるのはヴォラキア入ってからの本だろうし

スレッドは10/20 13:21頃に落ちます

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