SS「あるウマ娘の物語」

  • 1二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 12:12:02

    秋の夕陽が照らす中山のターフに、彼女は立っていた。
    G2レース・産経賞オールカマー。
    例年より少ない9人の出走となったこのレースで、彼女は最年長の出走者だった。

    「先輩、今日は宜しくお願いします。」
    ゲート前、淡々とストレッチを行っていると、出走者の二人の後輩が彼女に挨拶してきた。
    「私の方こそ宜しくね、テキサスにオーシュウ。本番ではあまり先輩をいじめないでよ。」
    「何を言うんですか。どう見ても勝つ気満々に見えますよ。」
    「アハハ、一応3番人気だしね。」
    1、2番人気の後輩に、彼女は笑いかけた。
    「ファンの皆の為にも、期待を裏切る走りは出来ないからね。」
    「ファン…か。」後輩の一人が、場内の観衆に眼を向けた。
    「観衆の多くは、先輩に声援を送ってますよ。人気上位の私達より大きい。」
    「アハハ、もう6年目のオバさんだからね。歳重ねた分、声援くらいは若いあなた達より多くなきゃ流石に悲しいよ。」
    「歳重ねたといっても、私やオーシュウも5年目ですよ。」
    声が聞こえたのか、4番人気の後輩が来た。
    「どころか、ナギサもゴーイングもヤマビコも5年目。メンバーの殆どがベテランですよ。」
    「まあ今回のレースは一部で格落ちG2なんて言われてるしね。強いもんや若いもんは皆京都大賞典や毎日王冠の方いっちゃったし。」
    「場内の熱気も、どこか淡々としてますもんね。」
    「いいさ、レースで答えてやろうよ。」
    「ほー。ハンター、あんたまた昨年みたいに大逃げ打つ気?」
    「そりゃ、私は逃げるしかないからね。昨年はテキサスにもオーシュウにも捕まったけど、今回はそうはいかないよ!」
    「へー、でも後輩のスクセーも逃げに出るだろうし、そう上手くいくかな?」
    「ふん、先輩の意地を見せてやるよ!」
    「アハハ、やる気満々ね。」
    後輩達が言い合ってるのを見て、彼女は頬が緩んだ。
    「とにかく、格落ちとか地味とかいう声を吹き飛ばすようなレースをしよう。」
    「ええ。でも絶対に負けません。」
    「…私もその気よ。健闘を祈るわ!」
    最後は緩んだ頬を引き締め直して言うと、彼女はゲートの前へと向かった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 12:13:19

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  • 3二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 12:18:57

    絶対に負けない…か。

    枠入りを待ちながら、彼女は先程の言葉を反芻した。
    先輩らしく余裕を見せてはいたけど、内心は自分が出走者の誰よりも勝利を欲しているのが分かっていた。
    これまでで20戦以上走り、通算で4勝をあげている彼女。
    だけど最後の勝利からは、既に3年半経っていた。

    ***

    5年前、彼女はトレセン学園に入学した。
    伝説の名ウマ娘の希少な流れを引く者として、入学当時から注目と期待を集めていた。
    彼女はその期待に違わず、デビュー後から安定した活躍を見せた。
    クラシック前に既に3勝を挙げ、世代の代表をする一人と目された。
    だけど、クラシック前哨戦で、彼女は大きな壁にぶつかった。
    相手は同期の最強と言われた無敗ウマ娘。
    そのウマ娘は、彼女が直線で繰り出した必死の末脚を嘲笑うようにあしらって勝利した。
    彼女はその屈辱的な敗北に打ちのめされた。
    迎えたクラシックは、その無敗ウマ娘が故障で引退した為本命不在となったが、彼女は善戦止まりで勝つことは出来なかった。
    秋のクラシック最終戦も、長距離が得意だったにも関わらず夏以降突如頭角を表して来た同期に苦杯を喫した。
    クラシック前哨戦で刻みつけられた敗北感が、彼女の能力を遂に輝かさせなかった。

    でも、屈辱感と敗北感の中、彼女は諦めなかった。
    連戦惜敗が続きながらも、必死にトレーニングにトレーニングを重ねた。
    …自分はこんな所で終わるウマ娘じゃない、絶対に、絶対に頂点に立つんだ。
    彼女の身体に流れる伝説の血とその執念が、彼女の闘志を支えていた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 12:29:11

    そして迎えた3年目の春、彼女は遂に1年ぶりの復活勝利を挙げた。それも、重賞初制覇という形で。
    長いトンネルからの脱出に、彼女も喜んだ。
    だが…周囲の祝福は少なかった。彼女もまた、心の底から喜びきれなかった。
    何故ならレース中、親しかった同期の仲間が重傷を負って倒れたから。
    その同期は引退し、レースには暗い影が残った。

    彼女はそれを払拭すべく、春の大舞台に挑んだ。
    そして激戦の末、満開に華開いた桜とシャドーロールの怪物に次ぐ3着に入った。
    先輩二人にこそ敗れたが、同期の年度代表ウマ娘には勝った。
    いける!クラシックの屈辱と悲劇の勝利から解放され、頂点への道のりへの確かな手応えを掴んだ。

    だが…
    春の大舞台の後、彼女は脚に違和感を覚えた。
    診断を受け、告げられたのは残酷な事実だった。それは『屈腱炎発症』。
    ウマ娘にとって〈死神〉と恐れられる不治の病。実質的に、競走生活への死刑宣告だった。

    彼女は絶望に打ちひしがれた。来る日も来る日も泣き続けた。
    屈辱に耐えて頑張って来たのに、なんでこんな残酷な目に遭わなければいけないんだろうと。

    ***

    ファンファーレが鳴った。歓声の中、出走者達が次々とゲートに入っていく。
    テキサスもオーシュウもハンターも、ゲートに入った。先程までの和やかな雰囲気はもうなくなっていた。
    彼女も、静かにゲート入りした。

    闘志と緊張に高鳴る胸を感じながら、彼女はつと観衆の方に眼を向けた。
    その一部分に、二人の引退したウマ娘がいるのが見えた。
    彼女は、その二人と視線があった。
    …いくよ。
    彼女は無言で二人に対し力強く頷き、前に向き直った。次の瞬間、ゲートは開いた。

  • 5二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 12:38:24

    スタート後、レースは予想通りハンターとスクセーが先頭で競り合う形となり、かなりのハイペースとなった。
    彼女はテキサスやオーシュウと共に、離れた4、5番手でレースを進めた。

    …何故、諦めなかった?
    レースを進めながら、彼女は内心で問いかけた。
    不治の病になって、心は折れた筈だった。
    彼女もそれが分かっていた。
    それでも、何故か諦めなかった。
    その理由は…
    「諦めたくなかったから…」
    彼女は、ぽつりと唇元で呟いた。

    ***

    屈腱炎にかかった後、彼女は療養生活が始まった。
    病症は重度のもので、例え症状がおさまって復帰出来たとしてもそれは1年後になるだろうとされた。
    それに復帰出来ても、再発する可能性は高い。
    それが〈死神〉こと屈腱炎の恐ろしさであり、その恐ろしさが膨大な数のウマ娘からターフを奪ってきた。
    彼女に屈辱を与えたあの無敗の同期も、この病にレースを奪われた。

    絶望の中、彼女は療養生活を続けた。
    トレーナーや仲間からは引退を進められたが、彼女は何故か諦めなかった。
    自身、心が折れているのは自覚していた。
    でもそれは、99%だった。1%、ターフへの情熱が残っていた。
    というより、負けたくなかった。
    あのクラシックで味わった敗北感、受け入れられずとも受け入れなきゃいけないレースでの敗北。
    屈腱炎はターフでの勝負程に厳しい現実か?
    レースの否応ない厳しい現実に比べれば…屈腱炎なんて。
    その思いが、彼女を繋ぎ止めていた。

  • 6二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 13:06:21

    だが、半年経っても彼女の脚の状態は一向に良くならなかった。
    1年経っても、1年半経っても、2年経っても…。
    そして気づけば、療養生活は2年半を超えていた。

    レースから離れて2年半、既に引退も考える年齢に突入していた。
    いや、普通なら引退している。
    実際彼女自身、諦めたくなくても引退を受け入れなければならないのかと思い詰めたこともあった。

    だが、その心を支えてくれたのは、かつて自身に屈辱を与えたウマ娘だった。
    そのウマ娘は、何度も何度も療養中の彼女を訪ねては、彼女の復活への希望を口にした。
    彼女の復活は自分の夢とすら言った。
    無敗でありながら屈腱炎を前に引退せざるを得なかったそのウマ娘にとって、彼女が屈腱炎を乗り越えることは大きな希望だった。
    その強い思いが、彼女の心を繋ぎ止めていた。
    そしてもう一人、彼女の復活を強く願ったウマ娘がいた。
    彼女が復活勝利を挙げたレースで故障した同期のウマ娘だ。
    自身の故障が彼女の勝利を暗くしてしまったことを、そのウマ娘は深く悔やんでいた。
    だからどうか、彼女が再びレースに出て勝利し満開の笑顔になる姿を切に願っていた。
    その思いは、彼女も痛切に感じた。
    自分の為だけでなく同期二人の願いの為にも、彼女は絶望と死にものぐるいで闘いながら療養生活を送った。

    そして、3年近くに渡る療養生活を送った末、彼女は遂に屈腱炎を乗り越えた。
    そして6年目の春、久々にレースの舞台に経った。
    前回以来、実に1058日ぶりのレースだった。

  • 7二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 13:21:41

    ***

    あの時は本当に嬉しかったな…。
    遥か前をいく走者を追走しながら、彼女は回想した。
    ウマ娘の本能であるレースに出るという喜びを、あの時ほど深く感じたことはなかった。
    療養生活を支えてくれた同期の二人も心から喜んでくれた…それも嬉しかった。
    レースには惨敗したが、走りきれただけでも良かった。
    生きているんだなという実感を、深く感じた。

    …あれから半年。
    レースには無事に出走し続けることが出来ている。
    まだ勝利は手にしてないが、少しずつ内容は上向いてきていた。
    先日の重賞レースでは2着に入った。
    もう少しだ、渇望し続けた勝利の栄光は、手の届くところまで来ている。
    そしてそのレースが…

    「このレースだ!」
    同期二人の姿を瞼に浮かべながら、彼女はスパートをかけ始めた。
    「ほう、いきますか!」
    「じゃあアタシも。」
    共に追走していたテキサスとオーシュウも、同時にスパートをかけ始めた。

    レースは第3コーナーから第4コーナーへ入った。
    ハイペースで先頭を競り合っていたハンターとスクセーは、やがてスクセーが力尽き後退し始めた。
    単独先頭にたったハンターも、ハイペースだった為かかなり脚が上がってきていた。
    その外から、1〜3番人気の3人が一気に襲いかかった。

    大歓声の中、上位人気4人が並んで直線に入った。

  • 8二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 13:29:21

    「くそっ…私はこれまでか…」
    直線に入ると、脚が持たなくなったハンターは悔しげな声を上げながら、後続に先頭を渡した。

    「じゃ、連覇といきますか!」
    「させないわテキサス!」
    ハンター後退後、同じ家族のテキサスとオーシュウが先頭を巡って激しい競り合いを演じた。
    昨年の本レースはこの二人が1、2位を分けあった。
    敗れたオーシュウはその雪辱に燃えていた。
    「ちっ、やるわねオーシュウ!」
    「当たり前よ!あんたに何度も負けてたまるか!」
    ジリジリと引き離され出したテキサスは舌打ちし、オーシュウは勝ち誇ったように振り返った。
    「気をつけなオーシュウ!外からもう一人来てるわよ!」
    「分かってるわよ!」
    テキサスを振り切ったオーシュウは、すぐ外へ眼を向けた。
    同時にもう一人の影が、オーシュウに襲いかかった。

    「やあオーシュウ!テキサスもハンターも振り切るとはやるわね!」
    大外から一気に並びかけた彼女は、そのままオーシュウを差し切ろうと末脚を繰り出した。
    「ハハ、先輩こそ!本当に来るとは驚きましたよ!」
    オーシュウも差されまいと懸命に差し返した。
    「悪いですが、復活勝利はこの私が頂きます!」
    「ああ、そういえばあんたも2年勝ってなかったわね。」
    「よくご存知じゃないですか。」
    「対戦相手ぐらい調べてるから知ってるさ。…勝利への渇望や、テキサスに水を空けられたあんたの悔しさ、私にもよく分かるわよ!」
    「…うるさい!」
    オーシュウは声を荒げ、同時に彼女の半身前に出た。

    残り100mを切り、レースの行方はこの二人に絞られた。

  • 9二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 13:39:29

    …4年半前か。
    オーシュウと最後の競り合いを続けながら、彼女はふと思い出した。
    あの時のクラシック前哨戦も、こんな展開だったな。
    直線で、私はあの無敗ウマ娘に猛然と襲いかかった。
    あっという間に並びかけて、これは差し切れると手応えを感じた時、私が見たのは彼女の涼しい表情だった。
    動揺して末脚が鈍って、次の瞬間スパートを繰り出した彼女に私はあっという間に引き離された。
    残り100mで2バ身半も…。
    以来、彼女の強さを語る上で、私はその晒し者になった。
    彼女の豪脚を前に私があっさり引き離される姿が、伝説として語られるようになった。
    …悔しくて不甲斐なくて、屈辱でしかなかった。
    あの時動揺しなければ、こんな眼に遭わなかった…その後悔に苦しんだ。

    もう…あの時とは違うんだ。
    残り50m、彼女は眼を大きく見開いた。
    あの屈辱を乗り越えた。そして、誰もが恐れる不治の病も乗り越えた。
    屈辱をうえつけられ、絶対に届かないとすら思った無敗のウマ娘が、私に夢を託してくれた。
    私の喜ぶ姿を誰よりも願ったウマ娘がいた。
    その彼女達の為にも…私は…

    「オーシュウ、もらうよ!」
    彼女は、最後の末脚を繰り出した。同時に、オーシュウの半身前に躍り出た。
    「なっ…くそっ!」
    オーシュウは必死に差し返しそうとしたが、彼女の末脚は止まらなかった。
    半バ身差、彼女は先頭でゴールに駆け込んだ。

    「よしっ!」
    ゴールを駆け抜け、彼女は大息を吐きながら渾身の雄叫びを挙げた。
    遂に手にした、3年半ぶりの勝利。いや、心の底から喜べる勝利は、およそ4年半ぶりか…。
    久々…本当に久々に感じる勝利の感触を、彼女はぐっと抱き締めた。

  • 10二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 13:50:26

    「参りました…」
    オーシュウが、やはり大息を吐きながら彼女の側に来た。
    「差し返せると思ったけど、まさか先輩の末脚があそこまでもつとは…完敗です。」
    「アハハ…オーシュウの粘りこそ…疲れきったよ…」
    笑って答えながら、ドサっと彼女はターフに腰を下ろした。
    「…うわ、タイムやばいよ!」
    「…レコードですよ、先輩。」
    「え、ホント?」
    後から来たテキサスとハンターの言葉に、彼女は驚いたように電光掲示板を見た。
    2分12秒のタイムとRの文字が眼に入った。
    「マジか…飛ばし過ぎだよハンター、老体にはきついよ。」
    「すみません…」
    「…アハハ、冗談よ。」
    手を差し伸べたハンターの力を借りながら、彼女はゆっくり立ち上がった。

    「…本当に、勝ったんだね…」
    立ち上がった後、彼女はぽつりと呟いた。
    それも、レコードで…
    「ええ、紛れもない勝者ですよ。」
    「おめでとうございます!」
    レースを闘った後輩達が、次々と彼女を祝福した。
    場内の観衆からは、彼女の名を称える歓声が響いていた。

    「先輩、歓声に応えないと!」
    「…そうね。」
    促され、彼女は観衆に向けて手を挙げようとしたが、その前に涙が溢れた。
    「うっ…うっ……」
    彼女は膝をつき、声を震わせて泣き出した。
    …勝った、本当に勝ったんだ…。
    これまでの長い長い苦難の道のりが記憶に蘇り、それを乗り越えらえた嬉しさに涙が止まらなかった。

  • 11二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 13:57:17

    ポン。
    涙に震える彼女の肩を、誰かが優しく叩いた。
    「…?」
    「おめでとう。」
    顔を上げた彼女の笑顔で見つめていたのは、彼女を支えてきた二人のウマ娘だった。

    「フジキセキ、シグナルライト…」
    彼女は立ち上がると、泣きながら二人に抱きついた。
    「…やったよ。私、遂に勝てた…」
    「…うん。やったんだね…」
    「おめでとうございます…本当に…良かった…。」
    フジもシグナルも、眼に涙を浮かべながら彼女を抱きしめた。
    「…。」
    彼女達の姿を見て、オーシュウやテキサスらレースを闘ったウマ娘達も、眼に涙を滲ませながら彼女の復活勝利を称えるように拍手をした。

    場内の歓声も、また大きくなっていた。
    フジとシグナルは、彼女を抱きしめていた腕を解いた。
    「…歓声に応えよう。」
    「…うん。」
    二人の促しに、彼女は涙を拭って頷くと、満ち足りた笑顔を夕陽に映えさせながら大きく手を振った。
    その姿に、また一際大きな歓声が彼女に注がれた。

    『おめでとう!ホッカイルソー!』

  • 12二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 14:02:16

    あとがき

    彼女→ホッカイルソー
    オーシュウ→ダイワオーシュウ
    テキサス→ダイワテキサス
    ハンター→サイレントハンター

    モデルレース
    99年産経賞オールカマー

  • 13二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 14:04:24

    5mの豪脚好き
    ホッカイルソーも熱いよね

  • 14二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 14:12:19

    「フジキセキにぶっちぎられた馬」として有名なホッカイルソーだけど、その競走生活は相当濃い
    今でも存命らしい

  • 15二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 14:17:53

    成績的にカノープスの仲間入り

  • 16二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 18:51:49

    主役の素質あると思う

  • 17二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 18:53:21

    このレスは削除されています

  • 18二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 19:22:44

    「あるウマ娘の物語・2」

    その日、海外から集まったウマ娘の陣営達は、騒然とした雰囲気でレース前の会見場に集まっていた。

    「日本のウマ娘は不誠実だ。」
    「敬意を表して優秀なメンバーで参戦した我々を失望させている。」
    そんな不満に満ちた声が、会場の中で多く聞こえた。

    本来和やかな雰囲気であるはずの会見場は、かなり険悪な雰囲気になっていた。

    そんな雰囲気の中、一人の日本のウマ娘がマイクの前に立った。
    そして、場内にいる海外のウマ娘達を見渡し、静かな口調で言った。
    「私が日本の代表ウマ娘です。総大将として、あなた方をお相手します。」

  • 19二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 19:43:39

    JC杯。
    日本で初めて誕生したこの国際大レースは、今年で3回目を迎えていた。

    過去2回、日本代表ウマ娘はその総力を結集し、海外から参戦した強豪ウマ娘達を迎えうっていた。
    だが結果は、2回とも最高着順が5着という惨敗。
    国内では頂点を取ったウマ娘達が海外勢に為すすべもなく敗れていく有様を前に、“日本勢は海外勢に永遠に勝てない”という悲観的な声すら上がっていた。

    だが、第3回目を迎えたこの年、人々はこのJCに大きな期待を寄せていた。
    その理由は、この年史上3人目の3冠ウマ娘となったミスターシービーの存在があったからだ。
    彼女ならば、惨敗続きだったJCで海外勢を相手に勝てるかもしれない。
    誰もがそう思い、シービーへ夢と大きな期待をかけていた。
    また海外勢も、日本で誕生した歴史的ウマ娘を相手に闘うことを非常に楽しみにして、続々と日本へと渡って来ていた。

    しかし、その国内外の大きな期待に反して、シービーはJCへの不出走を表明した。
    理由は3冠制覇による疲労や脚部不安の為ということだったが、そのことは大きな失望を招いた。
    国内のファンだけでなく、海外勢も大きな不満を持った。

    レース前のこの会場が騒然としていたのも、シービーの不出走に対する不満によるものだった。

    そうした中で、一人の日本ウマ娘が発した言葉に、海外勢達は一気に注目した。

  • 20二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 19:59:51

    「日本の総大将?」

    そう名乗ったウマ娘を前に、海外勢のウマ娘はそのウマ娘の経歴を調べ始めた。
    なるほど、そのウマ娘は直前にあった日本国内の大レースである天皇賞・秋で優勝している。
    それを見れば確かに日本の代表的強豪だろう。
    だが…
    「それ以外の実績は乏しいわ。」
    「それに年齢も年齢ね。」
    海外勢達から、冷笑するような声が聞こえた。
    彼女はもう5年目、引退間近の年齢だった。
    また実績も天皇賞・秋以外、目立ったものはない。
    正直、今回の日本代表ウマ娘の中では3番目くらいの実績だった。
    そんなウマ娘が、3冠ウマ娘のミスターシービーになり代わって総大将と言い張っている。
    海外勢だけでなく、国内勢からも滑稽に映った。
    「いい度胸じゃない、総大将の実力とやらを楽しみにしてるわ。」
    海外勢は、冷笑しながらそのウマ娘に言った。

    「…ええ、見せつけてやるわ。」
    そのウマ娘はそう静かに言い返すと、マイクを返して会場を出ていった。

  • 21二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 20:25:34

    JC当日。

    レースの人気は、1〜5位まで海外勢が占めた。
    日本勢はカムイオーが6番、ティターンが8番、シャダイが9番人気と続き、「総大将」宣言をしたウマ娘は10番人気だった。
    「あまり期待されてないようね。」
    「見せてもらうよ、総大将サン。」
    レース直前、その人気を見た海外勢達は、彼女に対し揶揄うように言った。
    彼女は無言で何も答えず、淡々とゲート前で準備を行っていた。

    「気にするなよ。」
    その様子を見て、彼女の同期の好敵手で、日本勢の実質大将的存在であるシャダイが彼女に声をかけた。
    「…別に気にしてない。」
    彼女がそう答えると、シャダイはつと耳元に口を寄せ、小声で言った。
    「お前は、とにかく無事に最後まで走りきれ。」

    「…。」
    シャダイの言葉に、彼女はつと睨むような視線を見せた。
    シャダイは彼女の眼と、その脚元を見つめながら小声で続けた。
    「お前の気持ちは日本の仲間達は皆強く感じとっている。だから…」
    「シャダイ。それ以上は何も言わないで。」
    シャダイの言葉をと彼女は遮り、続けて言った。
    「このレースは、例え死んだとしても勝つわ。」

    「…。」
    絶句したシャダイに背を向けると、彼女は再び準備を始めた。
    やがて、ファンファーレが鳴った。

  • 22二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 20:56:01

    レースがスタートした。

    日本勢人気最上位のカムイオーが思い切った逃げ戦法に出て、レースは比較的早く進んだ。
    日本勢の大将的存在のシャダイは他の海外勢と共に4、5番手の好位でレースを進めた。
    そのすぐ後ろに、“総大将”を名乗ったウマ娘がつけていた。

    やがてカムイオーは失速、第4コーナー前で後続勢に先頭を明け渡した。
    同時にシャダイも一気に進出し、直線に入ると海外勢のデュノールやアイストと共に先頭に躍り出た。

    「頑張れシャダイ!」
    大観衆からシャダイへの大声援が聞こえた。
    惨敗続きのJC、誰もが日本勢の勝利を望んでいた。
    シャダイはその声援に応えようと必死にスパートをかけた。

    だがやはり実力差か、残り400を過ぎたあたりから少しずつ海外勢に引き離され始めた。
    更に外から海外勢のネーラまで来て、シャダイをあっさり交わした。
    「…くそ…」
    必死に走ってるのにいとも容易く引き離される現実に、シャダイは唇を噛んだ。
    …やっぱり駄目か。
    海外勢が次々と先頭に立ち日本勢が後退していく光景に、大観衆からは声援が消え、無念と失望の声が溢れ始めた。

    だがその時。
    一人のウマ娘が、シャダイの外を駆け抜け、前をゆく海外勢に猛然と襲いかかっていった。
    …え。
    シャダイも大観衆達も、その姿に眼を見張った。
    そのウマ娘は、“総大将”を名乗ったウマ娘だった。

  • 23二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 21:33:19

    “総大将”ウマ娘は、内をゆくデュノールとアイストの海外勢二人を瞬く間に交わした。
    そして、先頭に立ったネーラに一気に競りかけた。

    「あら、来たのね!」
    残り200m、自身に一気に並びかけてきたそのウマ娘に、ネーラは驚きつつも笑った。
    「どうやら総大将と名乗ったのは口だけじゃなかったようね!他の無様な日本ウマ娘と比べ、大したものだわ!」
    「…。」
    彼女は言葉を無視し、ネーラを交わそうと必死に競りかけ、末脚を繰り出した。

    だが、ネーラは交わされなかった。
    「…アハハ、必死だね。でも悪いけど、あんたはもう一杯一杯じゃない。」
    蒼白な表情の彼女を見ながら、ネーラも必死に粘りつつ、それでも余裕を見せていた。
    「アタシも結構きついけど、まだ余力がある。あんたの末脚じゃ私を交わせないよ。デュノールもアイストも一杯になったようだし、優勝は私のものだわ!」
    残り100m、勝利を確信したネーラはそう叫んだ。

    だが、彼女は脚を緩めなかった。蒼白で息絶え絶えになりながら、ネーラになおも食らいついていた。
    「…あんた、諦めなよ。」
    なんだか不気味になりだしたネーラは、怪訝な表情になった。
    「充分頑張ったよ。この走りっぷりなら充分日本の皆は称賛するよ。これまで惨敗続きだったのに、ここまで走ったんだから。」

    「…ネーラ、」
    ずっと黙っていた彼女が、ふっと蒼白な表情の口元に微笑を浮かべた。
    「私はね、命を懸けて勝ちに来たんだよ…」

    「…は?」彼女の言葉に、ネーラは思わず表情を変えた。
    それと同時に、「もうやめろ!」
    後ろから、シャダイの悲痛な叫び声が聞こえた。
    …?シャダイの叫び声を聞き、ネーラはハッと彼女の脚元に眼を向けた。
    そして、「…え」思わず声が洩れた。
    何故なら、末脚を繰り出し続ける彼女の右脚が、明らかに腫れ上がっていたから。

  • 24二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 22:21:23

    「あんた何やってんの⁉︎」
    ネーラは思わず叫んだ。
    「脚がやばい状態じゃん!どう見ても重傷だよ!今すぐ止まらないと脚が壊れるよ!」
    「…分かってるよ。」
    蒼白な表情の苦痛を色を見せながら、彼女は微笑したまま答えた。
    「でも、止まる訳にはいかないのよ、絶対に。」

    「は?」
    「場内のこの大歓声、聴こえるでしょ…」
    茫然としたネーラに、彼女はそう言った。
    『頑張れ、頑張れー!』『勝て!勝ってくれー!』
    場内は、ネーラに必死に食い下がる彼女への大声援に満ちていた。
    「私に対する声援だけじゃない…この日本ウマ娘界の未来の為に、誰もが声援送ってるんだわ。JCという重い扉を開いて、新たな時代の到来を望んで…」
    「…。」
    「…今、その扉に手がかかるところまできたのよ。…だから、絶対に止まる訳にはいかないの…」

    「…あんたが壊れてもか?」
    「私はこのレースが死に場所と決めているわ…次世代のウマ娘の為に、このレースを勝つ…それが私の、レースに生きるウマ娘としての…最後の使命なのよ!」
    そう叫ぶと、彼女は腫れた脚を蹴りあげた。
    「うぐう…」
    残り50m、苦痛に顔を歪めながら、彼女はネーラに再び並びかけた。

  • 25二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 22:31:20

    …なんてウマ娘…
    異国の同胞の、悲壮な決意と走りに、ネーラは思わず寒気が走った。
    これが、日本総大将…

    だけど…
    「そう…、でもね、アタシも絶対に負けられないのよ!」
    寒気を振り払い、ネーラも表情を蒼白にさせた。

    昨年、ネーラはこのJCで4着に敗れた。
    レース後帰国して目の当たりにした、ネーラの勝利を期待していた祖国アイルランドのファン達の悔しい表情が、彼女の脳裏にショッキングな印象として強く焼きついた。
    …もう祖国のファンにあんな表情は絶対にさせたくない…
    ネーラは心の底から誓い、再びこのJCに参戦した。
    レース前には体調を崩しかけたが、それも気力で乗り越えた。
    絶対に、栄光を祖国へ。
    その決意は、決して揺るがなかった。
    そして誰よりも強い闘志をもって、このレースに挑んだ。

    「…来いよ、日本総大将!」
    目前に迫ったゴール目掛け、ネーラも最後の力を振り絞って彼女を振り切りにかかった。
    「アイルランドの総大将も決死で相手してやるわ!差せるものなら差してみろ!」
    「負け…るか!…」
    脚が軋む音を響かせ、彼女も最後の気力を振り絞ってスパートした。

    残り僅か、二人は最後の競り合いを演じた。
    「日本の未来に…光を!」
    「アイルランドに…誇りを!」
    二人は並びかけたまま、ほぼ同時にゴールを駆け抜けた。

  • 26二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 22:35:26

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  • 27二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 22:39:38

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  • 28二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:17:21

    ネーラと彼女は、同時にゴールを駆け抜けた。しかし僅かにネーラが、先にゴール板を通過していた。

    やった!僅かな差での優勝を確信し、ゴールを駆け抜けたネーラは拳を突き上げた。
    この1年間、悔しさに耐えた苦労が報われた…祖国に栄光を持ち帰ることが出来る!
    その嬉しさを、ネーラは噛み締めた。

    一方、
    「…く…」
    僅かな差での敗北を悟った彼女は唇を噛み締め、腫れ上がった脚を庇いながらコースの内柵にもたれかかって身体が倒れるのを防いだ。
    「大丈夫か⁉︎」後からゴールしたシャダイが、すぐに彼女のもとに駆け寄った。
    「…平気…よ…」「無理して立つな!脚に負担が…」
    「良いよ…ここで腰ついたら皆が心配しちゃう。」
    「でも…脚が…」シャダイは泣きそうになった。
    もう彼女の脚の怪我は、二度と走ることが出来ない怪我だと明白だったから。
    「泣かないで…シャダイ…」長い間、共に闘った盟友に、彼女は微笑しながら言った。

    やがて、救急車が彼女のもとに到着した。
    場内の観衆も、歓声から徐々に不安の声が大きくなった。
    彼女はシャダイらの腕を借りながら、ゆっくりと救急車に乗り込んだ。

    そして、彼女を乗せた救急車がコースを去って行く時。
    『よく頑張ったよー!』『ありがとう!』『日本の誇り!』
    労いの歓声と、それと混じって彼女を呼ぶ歓声が大きく場内に響き渡っていた。
    『キョウエイプロミスー!』

    「…プロミス先輩…」
    その光景を、場内の一箇所でじっと観続け、首を垂れているウマ娘がいた。ミスターシービーだった。
    「…。」その項垂れている様子を、後ろからじっと見つめているシービーの同期がいた。

    あるウマ娘の物語・2 完

  • 29二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:18:15

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  • 30二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:25:44

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  • 31二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:29:46

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  • 32二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:30:21

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  • 33二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:32:02

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  • 34二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:33:37

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  • 35二次元好きの匿名さん22/02/26(土) 23:38:12

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  • 36二次元好きの匿名さん22/02/27(日) 09:01:23

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん22/02/27(日) 13:09:06

    「あるウマ娘の物語・2」あとがき

    彼女→キョウエイプロミス
    シャダイ→アンバーシャダイ
    ネーラ→スタネーラ

    モデルレース
    83年JC杯

  • 38二次元好きの匿名さん22/02/27(日) 14:14:33

    「あるウマ娘の物語・3」

    場内のどよめきと歓声を聴き、彼女は後ろを振り返った。
    「…え?」
    従来の戦法をまるで無視した2冠ウマ娘が迫ってくるのが見て、彼女は眼を見張った。

    「…あんた、バカなの?」
    「ごめんね。私、こんな闘い方しか出来ないの。」
    京都の坂で駆け上がってきた姿を見て彼女が呆れたように言うと、シービーは照れたように笑った。
    「型にハマるレースなんて、私は出来ないのよ。」
    そう言うと、シービーは彼女を追い越していった。
    「…やれやれ、ダービーの再現のつもりかしら。参ったわね。」
    シービーに並びかけられた先頭勢のエースが、こちらも呆れたように笑った。
    「あら、もう諦めちゃったのエース。京都新聞杯の雪辱を期してたんだけど。」
    「ちょっと私には距離が長かったわ。」
    「そう、残念ね。決戦はまたの機会にしよう。」
    エースもかわし、シービーは先頭のヤシマに迫った。
    「やあヤシマ、追いついたよ!」
    「嫌になるなあシービー。これだから稀代のスターは困るよ。」
    ヤシマは苦笑した。
    「ド派手な走りっぷりばかりしてさ、もう少し他の同期にも華を持たせてくれよ。」
    「あはは、なら真似すればいいじゃん。」
    「出来ないよ。あんたみたいな走りして勝てるほど、私達は天才じゃないんだ。」

    「違うよ。」
    ヤシマを交わして先頭に立ったシービーは、坂を下りながら笑って言った。
    「私はね、勝つ為にこれが最善策だと思って走ってる。それだけよ。」

  • 39二次元好きの匿名さん22/02/27(日) 14:32:29

    「へえ…最善策か。なら勝ってみなよ!」
    その言葉と共に、シービーの後ろから、一度交わされた彼女が再び迫ってきた。
    「3冠がかかるこの歴史的なレースでその戦法とったこと、後悔させてやるわ!」
    「あらまた来たのね。悪いけど京都新聞杯の二の舞はさせないよ。」
    「分かってるわ。私だって、本番であんたに勝たなければ何にもならないことは分かってたし。この舞台であんたを捻じ伏せて、この世代の真の最強は誰だか教えてやるわよ!」
    「凄い闘志ね!良い同期に恵まれて私は幸せだわ!」

    坂を下り、シービーと彼女は並びかけたまま京都の長い直線を迎えた。
    「いくよシービー!」
    「かかってきな!」
    彼女は内に向かって末脚を繰り出しシービーは真っ直ぐ中央へ脚を弾ませ、ゴール目掛けて加速した。



    それから一ヵ月。
    彼女は、年末の中山のターフにいた。

    「…シービー、見てて。」
    冷たい寒風が吹き荒ぶターフで、彼女は同期の3冠ウマ娘の姿を思い浮かべていた。
    「私は絶対に、あなたの強さを証明してみせるから。」
    そっと脚元をさすりながら呟き、彼女はゲートへと向かった。

  • 40二次元好きの匿名さん22/02/27(日) 19:52:50

    一ヵ月前に開催された第3回JC。
    1、2回に続き惨敗が予想された日本勢だったが、結果はキョウエイプロミスが頭差の2着に奮戦し、初の連対という好成績を叩き出した。
    プロミスはレース中に古傷が悪化し引退を余儀なくされたが、日本ウマ娘界の未来の為に競走生活を捧げた激走をした彼女には日本中が惜しみない賛辞を送った。

    その一方で、JCを回避したシービーに対する世間の声は厳しかった。
    3冠ウマ娘という歴史的な実績を挙げ国内最強の身であったのに、疲労を理由にして海外との対決を避けた。
    そう世間から受け取られたのだ。
    シービーの実力を疑問視する声も多くなり、3冠という栄光に相応しいウマ娘が疑問だとかひ弱な世代に誕生した3冠ウマ娘だという声すらも挙がった。

    そういった声が多い中、さし迫った年末の有馬記念。
    シービーは、再び脚部不安を理由に回避した。
    年末のグランプリすら出ないというシービーに、世間は更に不満の声があがった。
    やはりシービーは軟弱じゃないか。その声は更に大きくなった。

    …シービーがひ弱?軟弱?3冠ウマ娘に相応しくない?…ふざけるなよ。
    同期の3冠ウマ娘がそう貶される中、彼女は悔しさに震えていた。
    世間はもう忘れたのか?ダービーを、…そしてあの菊花賞のシービーを!

    「…忘れたのなら、思い出させてあげるわ。」
    ゲートに入った彼女は、眼を闘志に光らせた。
    直後ゲートが開き、有馬記念がスタートした。

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