- 1二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:09:19
また、乾いた音が響く。
現在、深夜零時十二分前。
針は変わらず、凝然と凍っていた。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
絶え間無く柏手は鳴り続ける。
薄気味悪いそれは、徐々に、しかし確実にオフィスへと近付いている。
焦燥の念が全身を這い巡る。
強く肩を揺さぶっても、先生はピクリとも動かない。
先程まで冗談を言いながら書類仕事をしていたというのに。
幸い、脈はあるし瞳孔も正常だ。
ただひたすらに、動かない。
今の先生は事切れた人形より、動くことが期待できない。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:09:48
時間感覚が狂いそうになる。
先生が動かなくなってから、柏手が聞こえ始めてから、何分経ったのだろうか。
脂汗が額から溢れ、するりと頬を伝い、埃でほんのり汚れた床へ落ちる。
極小の水溜まりは闇で黒く濁っていた。
外を一瞥してみるが、星は何一つ確認できない。
真っ黒な虚空の天幕が包んでいるだけである。
ぱあん。
ぱあん。
ぱあん。
紅い髪を掻き毟る。
どうすればいい。
頼みの綱である先生は得体の知れない何かによって、動けなくされている。
銃で迎撃する？
不可能だ。
直感が、経験が、本能が、理性が。
自身を取り巻く全てが警鐘を鳴らしている。
逃げることなど、できないと言うのに。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:10:32
ピロリン。
電子音だ。
明るいメロディが流れた場所へ瞬時に振り向く。
音の出所は先生のパソコンだ。
恐る恐る、警戒の足取りで液晶へ向かう。
青空の背景、デスクトップの真ん中に奇怪なファイルが鎮座していた。
【緊急用】
先生の仕事を手伝っていたとき、こんなファイルが無かったのは確認済みだ。
どう考えても、これは今の事象と関係がある。
しかし、罠かもしれない。
無策に開いたら、知覚する暇も無くタナトスに首を斬られる可能性も十二分にある。
だが、現在の私に打開策らしいものも無い。
藁にも縋る思いでそれをクリックした。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:10:54
当然と言うべきか、パスワードを要求された。
口まで出かかった舌打ちを飲み込み、デスクへ視線を落とす。
何か手掛かりがあるかもしれない。
パスワードをメモに残す人は多い、先生がそんな人であるのを祈ろう。
『緊急のパスワードはMaugan1005s』
引き出しの奥、ペンやハサミの下敷きになっていたメモ。
パスワードらしきものを発見できた。
拍手は直ぐそこまで迫ってきている。
早く入力しなければ。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:11:48
エ駄死かと思ったらホラーじゃねえか！！
- 6二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:11:59
ぱあああん。
ぱあああん。
ぱあああん。
背後から呪音が聞こえる。
時間は無い。
震える指で文字列を入力する。
仄暗い未知が目前に立っているのを自覚し、身体を震わせる。
待ち受けるのは、死か生か。
それよりずっと悍ましい何かなのか。
もう、私にはどうしようもできない。
意を決し、決定ボタンを押した。
Writeningwritening.net - 7二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:12:39
なんだこの……なんだっ！？
- 8二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:13:41
大気がぐるりと捻じ曲がる。
闇が牙を剥き、無を食い荒らす。
世界が壊れる。
床が崩れ、壁が割れる。
何だ、これは。
視界に靄がかかる。
思考が泥のように鈍くなる。
呻き声すらあげられず、全ては黒に溶けた。
悲鳴が遠くから聞こえた。
最早それが、自分のものかも分からなかった。 - 9二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:14:36
光が差した。
瞼を擦りながら緩慢な動きで起き上がる。
ソファで寝てしまっていたようだ。
もう朝である。
寝惚け眼でスマホを操作すると、七時を超えてるのが分かった。
悪夢、にしてはリアルすぎる。
現実だったのだろうか、アレは。
どちらにせよ、もう終わったことだ。
先生はまだ寝ているようだ。
しかし、もうじき起床するだろう。
目覚めの珈琲でも用意すれば喜んでくれるだろうか。
ソファから降り、ポットへと向かう。 - 10二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:15:18
カラリ、と。
何か金属製の物体を蹴る。
正体を確認する為、顔を下へ動かす。
そこには、夥しい数の空の薬莢があった。
少なく見積もっても三桁は超えているであろう。
息を呑む。
乾いた笑い声がオフィスで静かに響いた。
デスクトップの中からあのファイルが無くなっていたのを知ったのは、それから二時間後のことである。
その日は、四肢を焼くような猛暑であった。 - 11二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:19:42
どうなっちゃったんだこれ……とりあえず演出含め背筋がゾクゾクしちゃいました
- 12二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:24:04
理解できない恐怖を全身で味わった…怖い夜眠れないぞ
- 13二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:30:32
正直に告白するとエッチなスレだと思ったのよ
- 14二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:46:30
濃厚なホラーすぎる……
- 15二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 22:58:52
- 16二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 23:00:23
- 17二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 23:15:05
空薬莢あるから銃撃ってたんでしょ
- 18二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 23:35:28
幽霊すら銃を撃つのがキヴォトス…
- 19二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 23:40:06
先生や生徒でも対処できない怪異用に用意されていた対怪異用のもっとヤバい怪異を開放したのか…それとも何かが開放されるタイミングを狙ってやってきたのか…少なくとも悲鳴が聞こえたという事は迫ってきた何かとパスワードを入力した先の何かは別の物で敵対関係にあるようだが…
まあこういうのはわからないからこその怖さでもあるか - 20二次元好きの匿名さん24/10/19(土) 23:53:18
財団案件か〜？
- 21二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:32:15
怖くてパスワード入れられない
- 22二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:34:07
用意したティッシュで冷や汗を拭いた
- 23二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:34:42
拍手じゃなくて銃声だったのでは
- 24二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:41:00
時空間異常系か……？いや違うか？
- 25二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:42:21
正直凄い良かった
こういうのもっと欲しいね - 26二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:45:21
ファイルの中のナニカが外へ出るために一芝居打ったのか、あるいは善良な存在だったのか……
いずれにせよ、怖すぎるんじゃあああ！！ - 27二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:47:53
パスワード打ち込むやつで個人HP時代のホラーなやつな感じで懐かしさ感じちゃった
- 28二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:49:08
ただの敵対存在なのか
あるいは何かしらヤバイ存在が一芝居打ったのか
そもそも現実だったのか
こういった掲示板ホラーはいいよね - 29二次元好きの匿名さん24/10/20(日) 02:56:33
パスワードの先がﾋｴｯ…ってなるのも最高