- 1二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:41:05
「今日はキミが居てくれて本当に助かったよ」
「いえ、王の危機に駆けつけるは、騎士として当然のことですから」
俺の言葉を聞いて、彼女はこともなげに、そう答える。
華やかな金髪のポニーテール、前髪には大きな流星、引き込まれるような青い瞳。
担当ウマ娘のデュランダルは、何故かこちらをちらちらと見ながら、ともに歩みを進めている。
その様子を少し不思議に思いながらも、俺は言葉を続けた。
「キミがいなきゃ、どれだけ時間がかかったことか」
────この日、俺は同僚のトレーナーとともに、備品を運ぶ予定となっていた。
しかし、その同僚に急用が入ってしまい、残されたのは大量の荷物と俺だけ。
どうしたものだろう、と困っていたところにデュランダルが現れて、手伝ってくれたのである。
俺一人だったら、きっと日が暮れてしまっていたことだろう。
だから、俺は彼女へと素直に、感謝の気持ちを伝える。
「ありがとうデュランダル、ピンチに駆けつけてくれるなんて、ヒーローみたいで格好良かったよ」
「……!」
デュランダルは、俺の言葉を聞いた瞬間、ぴんと耳を立ち上げた。
そして、嬉しそうに口元を緩め────すぐさま引き締めて、背筋を伸ばし、澄ました表情を浮かべる。
まあ、耳と尻尾はぴょこぴょこと動き回っていたけれど。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:41:21
「ふふっ…………こほん、大変光栄に存じます、我が君よ」
「そんな畏まらなくても」
大袈裟な態度に苦笑を浮かべてしまいそうになるが、これが、いつものデュランダルである。
そんな風に話をしていると、いつも間にか、俺達はトレーナー室の前へと辿り着いていた。
普段ならば、彼女が先に中へと入り、安全を確認したりするのだが────今日は、何故かそうしない。
違和感を覚えながらも、鍵を外して、俺は部屋への扉を開いた。
そこには、きらきらと輝かんばかりに清掃された、トレーナー室が広がっていた。
デスクの上から、資料の置かれている棚の中まで。
きっちりと、塵や埃の一つも存在しない、完璧ともいえる状態であった。
一瞬ぽかんとして、慌ててデュランダルを見やると、彼女は誇らしげな表情を浮かべている。
どこか、期待に満ちたような視線を、こちらへと向けて。
「これ、キミがやってくれたの?」
「少し空いてる時間がありましたので、少しばかり手入れをさせていただきました」
「すっ、すごいよデュランダル! こんなに見違えるくらいにピカピカに出来るなんて!」
「……いえ、それほどでは」
「そんなことないよ! 棚の上とか、窓枠とか、細かいところまで目を行き届かせてるし!」
「…………我が君に、喜んでいただければ、騎士として何よりです」
「今日は、何から何までありがとう、デュランダル!」
「………………えへへ」
デュランダルは、少し照れたように、笑みを零した。
彼女のおかげで綺麗になった部屋を見渡していると、なんだか気分が良くなっていくのを感じる。
やっぱり掃除っては大切なんだなあ、と改めて認識しながら────つい、俺は口を滑らせてしまった。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:41:48
「気立ても良いし、美人だし、キミは将来良いお嫁さんに…………」
途中まで言いかけて、ハッと我に返った。
女性に対してこういう発言をするのはあまり良くない、とトレーナー学校で学んだことを思い出す。
親しき仲にも礼儀あり、信頼を築いて来た今だからこそ、言葉には気を付けなければいけない。
血の気が引くのを感じつつ、俺は恐る恐る、デュランダルの反応を覗き見た。
「……ふえ?」
────デュランダルは、目を大きく見開き、頬を赤くに染め上げていた。
予想外の反応に、俺はぽかんと言葉を失ってしまう。
妙に緊張感のある静寂の時間がしばし流れて、彼女はぽそりと、小さな声を漏らした。
「…………わたし、きれい?」
なんか急に口裂け女みたいなこと言いだした、というツッコミは何とか飲み込んだ。
デュランダルが美人であることは、砂糖が甘いことと同じくらいの、常識的なことだと思う。
そんな当然のことを、何故、彼女は聞いて来るのだろうか。
思考回路がフル稼働し、その疑問について考察をし、やがて、一つの結論へと辿り着いた。
今考えれば俺は、彼女の格好良さや凄さについては言及しても、その美しさや愛らしさには言及していない。
そのことが────彼女の自己肯定感に、悪影響を及ぼしていたのかもしれない。
俺の言葉そのものは大したものではない。
けれど、先ほどのやりとりのように、彼女は騎士として王の言葉を重く受け止めている。
だからこそ、俺が言うまでもないと思っていた言葉が、本当は彼女に伝えなくてはいけない言葉だったのだ。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:42:07
「…………デュランダル!」
「……はっ、はい!」
俺はデュランダルへと駆け寄り、正面からその両肩をしっかりと掴んだ。
ぴくりと彼女の身体が小さく跳ねて、まだ微かに上気した顔でこちらを見上げて来る。
その瞳を正面から真っ直ぐに見つめて、俺は言葉を紡いだ。
「キミは────とても綺麗だよ」
「……えっ?」
「俺が知るウマ娘の中で、もっとも素敵なウマ娘だと思っている」
「んなっ!? わっ、我が君!? にゃ、にゃにを突然……!?」
「艶やかな金色の髪、宝石のような碧い瞳、凛とした立ち振る舞い、どれも見惚れるほどに美しくて」
「うっ、美しいだなんて、そっ、そそそ、そんな……っ!」
「時より覗かせる女の子らしい表情や、友達といる時の笑顔なんかは、護りたいほどに可愛らしい」
「……~~っ!?」
妙に、口が回る。
普段はすごいとか、格好良いとか、そんな単純な言葉しか出ないのに。
何故か、今の時に限っては、すらすらとデュランダルを褒める言葉が流れていく。
もしかしたら、俺はずっと、彼女に伝えてあげたかったのかもしれない。
彼女の美しさを、愛らしさを、素晴らしさを。
溢れた想いは、もう止まらない。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:42:27
俺は心赴くままに彼女を讃える叙事詩を奏で続けた────約1時間ほど。
「騎士としての顔と少女としての顔が切り替わる瞬間が……むぐっ!?」
弁舌の流れも絶好調、喉が温まって来たので、更にギアを上げて行こう。
そう考えた瞬間、熱のこもったデュランダルの手によって、口を押さえられた。
彼女はぷるぷると震えながら、顔全体を真っ赤にして、潤んだ瞳でこちらを見ている。
そしてゆらりと身体を前に傾けて、表情を隠すように、俺の胸元へと顔を埋めた。
「むっ、むりぃ…………わがきみ……わかったから……もっ、もう、やめてぇ…………っ!」
火傷してしまいそうなほどの熱が、デュランダルから伝わってくる。
その表情は窺えないが、彼女の尻尾は、ぶんぶんと大きく揺れ動いていた。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:43:34
お わ り
普通に褒めてキャパオーバーする姿は想像できないけどこういう方向ならありかなと思って書きました - 7二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 01:59:51
ほう 褒め殺しトレーナーですか
たいしたものですね
褒められたいデュランダルと褒めたいトレーナーは糖度が極めて高いらしくレース前に愛飲するライトオもいるくらいです
それに特大感情の叙事詩にサーガ
これも即効性の殺し文句です
お手伝いにお掃除も加えて良妻バランスもいい
それにしても人を褒めるのにあれほどすらすら言葉が出てくるのは超人的な我が君っぷりというほかはない - 8二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 02:15:50
寝る前に良いものを見た
- 9124/10/21(月) 07:21:05
- 10二次元好きの匿名さん24/10/21(月) 07:40:17
可愛いがすぎる
- 11124/10/21(月) 17:48:54
照れるデュランダルは可愛いを越えた可愛い