- 1二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:42:58
- 2二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:43:55
- 3二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:46:16
建て乙
- 41824/10/24(木) 15:57:40
15年後の大人宇沢に触発されて
前スレ18からSSを書いてたら止まんなくなっちゃった人です。
続きを立てさせてくれてありがとうございます!
あとでざっくりとしたあらすじ書きますか。
深夜になっちゃうけど……。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:59:46
10まで埋め
- 6二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:02:51
うめうめ
- 7二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:10:03
このレスは削除されています
- 8二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:28:57
梅
- 9二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:58:31
埋
- 10二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 17:17:35
はい10
- 11二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 19:22:11
ファウストの都市伝説のこってるのヤバいな…
ブラックマーケットの銀行強盗とエデン条約の裏で暗躍してた以外にも何かやったのかな… - 12前スレ19924/10/24(木) 19:32:19
たておつ。リンクありがとうございます!
- 13二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 23:08:33
このレスは削除されています
- 141824/10/24(木) 23:12:22
ちょっと年齢間違ってたので消しました
サザエさん時空じゃなくなるから誕生日考慮が必要なんだねえ。
私バカだねえ。
年齢に言及してるのはレイサだけだったので、SS上は問題ないですおーるおっけー。
現在までの登場キャラは
杏山カズサ :16才
先生 :42~5歳
黒服 :?才
宇沢レイサ :31才
栗村アイリ :30才
柚鳥ナツ :30才
伊原木ヨシミ:31才
狐坂ワカモ :34才
スケバン :15才
ってな感じになります。
私は15年後にも何人か現在のキャラがキヴォトスに居るって設定で書いてますが、
みんないなくなった世界でカズサが右往左往する概念も好きだぞ。 - 151824/10/24(木) 23:15:38
- 161824/10/25(金) 01:45:42
【簡単なあらすじ】
私は15年、消えていたらしい。
ある秋の夕暮れ。
「見つけましたよ、杏山カズサ!」
コンビニで。ちょっと買い物をした帰り道。背後から声を掛けられ、振り向くと。
一つに縛った髪。ワインレッドのブラウスと、タイトスカート姿の大人。
彼女は叫び、飛びついて来た。
宇沢。彼女は、その大人の女性は、15年後の宇沢だった。
宇沢は卒業して、シャーレで働きながら、私を探し。
てっきり私抜きの青春を過ごして卒業したと思っていたスイーツ部のみんなは――。
ヴァルキューレをはじめとする治安維持組織などなんのその。
スケバンたちと手を組み、銃弾と爆風の中でマイクを握り、ギターをかき鳴らし、ドラムを響かせ、とにかく目立ち、私を探すために。
各自治区に悪名轟かすバンドへと変貌した、SUGAR RUSH。
たった一日。あの文化祭の、たった一回のバンド活動を、糧にして。
「一緒に卒業したかったから!」と言ったアイリは、30才。
トリニティ学園の一年生で停学になったままのスイーツ部。
15年。
同級生だったみんなは30才を迎えていたのに。
なのに、まだ同級生でいてくれた、放課後スイーツ部。
ちょっと老けた先生の隣には、15年を共に過ごした人。
私はあの時のまま。
ある秋の夕暮れ。
私は、15年後の世界で、15年前の私のまま、みんなと再会した。
- 17二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 05:30:30
たとえ実感がなくとも、待っていてくれたと分かれば嬉しくなるもので
- 18二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 10:38:01
遅れて一気読みしちゃった
あまりにもすき - 191824/10/25(金) 16:44:21
『そういえば杏山カズサはアルバムに参加するんですよね? 大丈夫ですか?』
私は顔を上げてヨシミを見た。
「MXSTREAMでも聞いたけど、いま、直接聞かせてもらってわかった。私が演奏に入っちゃうと、たぶん、邪魔になる」
「そんなことないわよ」
「そんなことある。いいよ。今回は今まで通りにして。最後って言ってたけどさ、次も出せばいいじゃん。それまでには私も、ちょっとは練習して……」
「それじゃあだめなんだよねぇぃしょっと!」
ごろん。
ナツが寝返りを打つ。私の尻はずり落ちる。
そのまま背もたれを伝うようにして身体を起こし、私の横に座って、私の顔を見て言う。
にこやかに。
「音源発表はこれが最後。EP盤を出したりして、ちょっとはお金にして、活動費にしてた。でも、アルバムはこれが最初。最初で最後。そう決めてるんだ」
「『探す歌』を歌ったSUGAR RUSHは、これで終わり。うん。これ以上は――活動できない。ごめん。これは、まあなんというか、あんたがいない間に勝手に決めた、破れないことなの」
「……そっか」
二人の目は、私を見ながらも、私は映っていない。
私がいない間。私を探している間、三人と宇沢は。
並々ならない決心をしたからこそ、ああいう活動に踏み切っていたことを、私はわかっている。わかってあげたい。
だから、みんながこれ以上できないと言うなら、私は、それに従う。
それでも。
「でも考えてみてよ。二週間ないくらい……で、ベース用の譜面起こして、私が弾けるようになるって、どうなの? 私よりみんなの方が、そういうの詳しいんじゃない?」
「それは……。譜面起こしは、頑張れば2日……。あ、でもナツは収録終わってるし」
「私はドラム譜すら読めないってば。身体で覚える天才肌タイプだからね!」
「威張んな威張んな。アイリも……無理なのよね。あの子はTAB譜は書けないから。だから、私がやるしかない」
「でもヨシミが現状、一番忙しいんじゃない? あと何曲残ってる? 演奏だけで」
「8曲」
「その分のミキシングもマスタリングも残ってる。シューゲイザーにおいて、ヨシミの耳とセンスが一番重要なのは、わかってるでしょ? 全体にエフェクト掛ける塩梅なんて、私にはさっぱりのさっぱり」
「あんなもん、気持ちよくなるようにやれば」 - 201824/10/25(金) 16:47:01
- 21二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 17:07:00
15年の時の流れがじわじわと押し寄せてきて怖いよ
- 22二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 22:00:43
最後ってセリフにすごいドキドキする
- 231824/10/26(土) 00:17:00
学校を卒業したあとキヴォトスから出なきゃいけないルールがあったとして。
戻ってくるであろう人って、誰がいるだろか。
一応学園都市だし。
個人的にナギサ様みたいなトップ組は戻ってこなさそうだし、ラビット小隊は護衛で居つきそうだし、キリノは居そうだけどカヤは居なさそう。
コハルたちも多分戻ってこないと思ってる。
ミレニアムも、GKBは多分いないんじゃないかと……。
キヴォトスを青春の舞台と割り切れるであろうキャラはとにかくもどってこないだろうなあ。 - 24二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 00:40:51
エンジニア部は外の技術吸収して戻ってきそうな気もする
- 25二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 01:10:09
なるほろエンジニア部……
ミレニアムが新技術から先の研究が進めやすそうなら戻るだろうね技術者たちは……
戻ってきてなにをする、って考えると難しい、うーむ
アビドス組はそのまま居ついてそうなんだよね
ネフティス役員入りしたノノミとアビドス復興のNPOとか地方創生団体みたいなの立ち上げてそう
美食は戻るとしても一回出たらしばらくは戻らなさそうだしな…… - 26二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 10:36:39
キヴォトスでの常識と外の常識ってかなり乖離がありそうだから外に出ること考えられて無い気もするんだよな
- 27二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 13:47:45
実際外と関係ができれば状況が良くも悪くもかなり変わるだろうからなあ
- 281824/10/26(土) 16:44:08
う……すみません
今日は夜の投稿になります~。
外との関係ってある(っていう設定)じゃかたっけ?
貿易関係とか。
先生とゲマは外の世界の中でも異質な存在みたいな表現見た気がする。
とはいえ、生徒が行って帰って来た描写は一切ないから、あくまで設定として存在する外の世界ってだけではあるんだけど - 29二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 18:15:45
先生が外の人って一目でわかって特に驚きとかも無いしある程度の交流はありそう?
- 30二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 23:59:08
- 31二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 05:22:48
- 32二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 07:31:33
確かに
- 331824/10/27(日) 09:51:07
「できる人はそう言うけどさぁ。それに、その期間で、杏山カズサは16曲弾けるようになれる? レコーディングクオリティで」
「16曲!? ムリムリ」
「だよねぇ」
「あー! だから再録じゃなくてリマスターでやろうって言ったじゃない! そうすればほとんど新曲1曲分だけの手間で済んだのよ!」
ダン。
ヨシミが足を踏み鳴らす。
私はちょっとまずいかな、とは思った。なんとなく。勘だけど。
「同じ味を再現するための職人的技法と、同じものを生産する工場作業は違うのだよ。まして、カズサが見つかったのは奇跡みたいなもの。そんな奇跡があったからこそ、SUGAR RUSHのアルバムにカズサをクレジットできるなんて。これ以上ない幕引きじゃーん」
「だーかーらー! そのクレジットするためにどうすんのって話!」
自分で言いながら、何かを思いついたように、私に向って言う。
「――そうだ、一曲。一曲だけならいけるわよね?」
「え? まあ、頑張れば……? みんなほど巧くはできないかもしれないけど」
「決まりね。なら、さっそくどの曲に入ってもらうか相談を――」
空気が。
一瞬張ったはずの空気が緩んだのを感じて、私は内心、胸を撫でおろ……せなかった。
ナツ。ナツが、言った。
「私ははんたーい」
「……は?」
「そんな取ってつけたように入ってもらって『私たちが探してきたカズサが帰ってきました!』ってクレジットするのー? だったら、今から新曲書いた方がよくない?」
「出来ると思ってんの? あんた、曲書けたっけ」
「書けないよ?」
「一から曲作るのがどんだけ大変か知らないくせに、簡単に言わないで!」
- 341824/10/27(日) 09:53:41
ギターをスタンドに投げるように置き、ヨシミは勢いよく立ち上がる。振動した弦が情けない音を立ててる。
釣り目をもっと吊り上がらせて、私の横に座るナツに詰め寄る。
まずい。
「どうするの? 新曲書く以外で、カズサに参加してもらう方法。ほら、考えて。教えてよ」
「それ以外は思いつかないって。でもこのアルバムコンセプトは『カズサを探し続けてくれるもの』だったでしょ? そういう曲ばかり組み込んである。なのに、カズサが歌って大団円ってするのは、物語の結末として、そもそも楽曲として、あまりに雑だな~って思うんだけど~」
「それはそうだけど、でもやりようがないじゃない。……てか、そもそもアルバムの存在意義がなくなったんだから、べつに出さなくても、もう良くない?」
「存在意義がないってさぁ……なにそれ。本気で言ってる?」
何かが。琴線に触れたようで。
すこしのけぞり気味に二人の会話を聞いていた私は、ナツの目つきが変わるのを見る。
なになに。なんでヒートアップしてんの? これが『音楽性の違いで』ってやつ?
見下ろすようにしていたヨシミに。
ナツは前のめりになって、下からにらみつけるように。
「見つかったからこそ作らなきゃ。今の私たちの音と、声で、最高のロマンを遺す。それが礼儀だってヨシミも納得したよね」
「じゃあスタジオのスケジュール押さえてよ。せめてあと一ヶ月追加できれば、あんたの言う通り、一曲追加させてあげるから」
「押さえてどうするの? クズノハちゃんに言われたこと忘れた?」
だれだよクズノハちゃん。私の知らない交友関係が出来てるのはわかるけどさ。
ヨシミは舌打ちして歯を食いしばる。
なんだろ、プロデューサーかなにかかな。
二人はもはや私を見ていない。私は、イレギュラー。
……本来いないはずだった存在。私。
そう考えると、なんだか、とても。
ここに居づらく。
喉が渇いたけれど、目の前のペットボトルを取るのも、なんだか。
「でも、あくまであれは、まだ確定していないことだし」
「今までのことを考えたら、ほぼ確定でしょー。――あ、コーラスだけ録るって手があるねぇ。これが一番現実的な案だと思うな~。ベース弾かなくて済むし。楽譜もいらない。『探していた人がバックコーラスに重なっている』っていうのは、物語としても感動的。うん。一番現実的なまとまり方だと思う」 - 351824/10/27(日) 09:56:16
「……それは」
「ヤだよね。だって『SUGAR RUSHのフロントマンである杏山カズサ』は、ベースボーカル。コーラスなんて演出じゃあ、足りない。それじゃあダメ。『杏山カズサが帰って来た』ことが一発でわからないと、ダメだよね」
「……なら。アイリのレコーディングが終わったら、あの子に頑張って一曲書いてもらう。私も手伝う。作るのに2日、録音に3日、処理に2日……それなら、せめて1週間伸ばせれば、なんとかなるはず。最悪、セーフハウス内でレコーディングすればいいわ。機材はあるんだもの」
「1週間伸ばすってことはさ、ぜんぶ1週間遅れになるってこと。録音だって、私たちはなんとかなるとしても、カズサの負担が大きくない? ラストライブもあるし、こっちはみんなとのすり合わせがあるから、期日も時間もがっちり決まってる。そのセトリも変えなきゃいけないね。それに、ジャケ写も変えなきゃ。初期リリース分のプレス用意するのだって時間がかかるよ。あ、復学の件でティーパーティと交渉もしなきゃ。こんなにやることいっぱいの中、本当に1週間伸ばしただけでぜんぶできる? せっかくカズサが帰って来たのに、やらなきゃいけないことしかないじゃん。どこにも行けない。なんにも楽しくない」
「それこそ……待ってよ。ええと……そんなの、遅れたぶんはレイサがやってくれる。なんとか、なる。しなきゃ。――ていうか数を刷らなくても、手元に一枚あれば」
「……一枚あればいい?」
「そうよ。別に売らなくてもいいし。デザインはいつもの人に任せれば、ちゃちゃっとやってくれるでしょ」
「――今までの私たちはカズサを見つけることがすべてだった。……って、ヨシミに意味がわかるかなぁ」
「はぁ? その通りじゃない。そして、私たちは奇跡を掴んだ。でしょ?」 - 361824/10/27(日) 09:57:07
「カズサを見つけることがすべての私たちだった。そういう、15年だったんだよ。いろいろあったよね。始まりから今まで。アイリの提案で、夜通し。いや、何日も何日も話し合って。宇沢レイサを巻き込んで、あの子の大事にしてたものを変えてもらってまで。先生の言う事に耳を塞いだことだって何度もあった。ミレニアムに協力してもらって、ゲヘナの先輩にサポートされながら、キヴォトス中のあちこちを、ワゴン一台で走りに走って。何週も。何週も。同じところで、違うところで。スケバンの子たちにも声をかけて。ワカモさんを紹介してもらって。いろんなところでいろんなことをした。ここまで言えばわかる? 本当に意味わかんない?」
こんなに流暢に、ロマン論以外を語るナツを、私は知らない。怒るナツすら。
冗談やおふざけではない。
静かに、たしかに、怒っている。
ヨシミもヨシミで。
ヨシミは、とにかく負けない。
「なに、バカにしてんの? その結果がこうして出た。そもそものアルバムの意味だって、カヨコさんに教えてもらった通り、音楽ならずっと残すことができるからってだけでしょ。それなら――」
「わかってない。へえ、ヨシミってそこまで視野の狭い女だったんだね~。そのうっとおしい髪切ってあげようか? 周り見えてないんだからさ~」 - 371824/10/27(日) 09:58:35
ぎょっとした。
ナツが、ヨシミに言う言葉が、あまりに。
とげとげしいなんてもんじゃない。
けんか腰。胸倉をつかみ、相手を攻撃するためだけの言葉遣い。
私は静観を止める。口を挟む。
「ちょっとちょっとお二人さん。なんでケンカになる? ナツ、そういう攻撃の仕方よくないよ」
「あんたこそ髪といっしょに脳みそも切っちゃったの? もっと上手にコミュニケーション取ろうとか思わないわけ?」
聞けよ、人の話。
「コミュニケーション取ってないのはヨシミじゃーん。つんぼさじきなヨシミにもわかるように言うとだね。この15年は。カズサを探すことが全てだった15年は……。私”たち”の15年だったってことだよ」
「だから! 意味わかんないって。国語の勉強して来なさいよ、マジで。復学したら勉強みてあげようか?」
「私たちがずっと活動できたのは、反応を求めて、レスポンスがあったから。お金にだってなったから。じゃあ、その反応をしたのはだれ? お金を私たちにくれたのはだれ? そして、活動したのは、だれ? ――私たちと『みんな』だよ。このアルバムはね、ヨシミ。私たちの15年でもあるし、みんなとの15年でもあるんだよ」
「――……」
黙った。
ヨシミが。
的を得た。
でも、ナツは、勝ち誇るわけでもなく。
静かに。諭すように。
「写真にはさ、カメラを構えた人も、人数に含まれると思わない?」
「待って。今整理――待ってて。ひとまずごめん」
「ん……。私も。ごめん」
どすんと、私の横に尻を落として、ヨシミは腕を組む。
ヨシミ。私。ナツ。
こんな空気になってる二人に挟まれた私は気まずいったらありゃしない。
かと言って。『よりによって今、私が見つからなかった方が良かったのでは』などとヒロインぶった発言しようものなら、二人にもみくちゃに怒られることもわかるので、うかつに発言もできない。なにより、私がそんなこと口にしたくない。私はスイーツ部のみんなを一度疑ってしまった罪がある。だから、ことこのことに関して、もう間違えたくない。 - 381824/10/27(日) 09:59:30
静かなスタジオ。
呼吸の音。すこし荒いのは、ヨシミの鼻息。
私はようやくペットボトルに手を伸ばす。
冷えた水。喉を通る。胃に入る。汗を掻いたペットボトルが、私の指を濡らし、雫がスカートに一つ落ちる。
静かなスタジオ。
「ナツ」
「んー?」
「1曲目」
「……ん?」
「何年前?」
「……14年前」
「2曲目」
「13年前。2月頃じゃなかったっけ」
「3曲目」
「あー……13年前? いや12年前だっけ? たしか年明けと同時だったような」
「4曲目」
「11年前」
5曲目、6曲目。
10年前、9年前。
何かを。空中に、ぼんやりと、なにかを見ながら尋ねて。ナツが次々答えていく。
ほとんど一年に一曲ペース。
そして、最後の曲だけは、ついこの間。
たった数週間前。
「CDの容量ってどんぐらいだっけ?」
「ぜんぜんよゆー」
「じゃあ一曲追加」
私の目を。見てヨシミは言う。
手に持ったままのペットボトルから垂れる雫が指を伝い、私のスカートを、さらに濡らしている。
「正直言うわね。カズサ。あんたの意思とか、今は私たちに預けて欲しい。で、ちょっと頑張って欲しい」 - 391824/10/27(日) 10:02:36
「……私がこのアルバムに参加することが大切だっていうのは、わかった。私はみんなの15年に私は口を挟めないし。その一曲に参加すればいいってこと? それなら、まあ、死ぬ気で練習すればいける……いや。やるよ。下手くそなのは覚悟してもらうしかないけどさ」
「そんなのいくらでもカバーできるし、楽譜も簡単にすれば……。うん……ええと……あのままでも……いや……拍を伸ばして、テンポ上げて……あれ、これもしかして……んー……でも音源出してないし……いや、クロノスの気球モニタと街中の広告ディスプレイをジャックすれば……映像は持ってるわけだし……」
ぶつぶつと、ただ考えを口にするヨシミは「まだ決定じゃないけど」と言って、ナツに向って言った。
「全曲リマスターに変更。いや、リマスターなんてもんじゃない。そのまま。今までの音源を、そのまま使ってやるわ。初期のあのクッソひどいガビガビ音割れ曇りまくり録音も、そのまま! 『決定じゃない』じゃない! 決定!」
「だからそれは」
唇を尖らせて、眉根を寄せて。
抗議の表情を隠そうともしないで、言ったナツは。
「……どゆこと?」
と、こんどは怪訝な顔をしたあと。
ふと、了解した。
「ああ、あははっ。そうゆーこと? あーなるほど、確かに、物語だねぇ! それいい、サイコーだよ!」
「ちょっとアイリと話してくる!」
弾かれたように立ち上がったヨシミが部屋から出て行く。
階段を上る音。
私は、もう、あれからずっと。
宇沢に見つけられてから。ずっと、状況に流されるしかない。
呆れたように出る笑い。いや、これは、楽しさからか。
がりがりと、頭の。耳の付け根を掻く。
喧嘩をしていると思った。でも、二人にとってはもしかしたら、たまにあることなのかもしれない。前だったら考えられないけど、ありえなくは……ない、かもしれない。
「アーティストだ……。びっくりした」
「ごめんねー。にひひ。ヨシミがやろうとしてること、わかる?」
「いや、わかんない。未発表音源で使えそうなのあるとか?」
「アイリとヨシミは演出もやるんだよねー」
「……ナツはドラムだけ?」 - 401824/10/27(日) 10:04:34
私の肩を抱いたナツは、もう一度「言うなれば宮廷道化師だね。ひひひ」と不敵に笑う。
薄くアイラインが引かれた目じり。自分の垂れ目を少しでも吊ってやろうという、抵抗が見て取れる。
ナツとは反対。
垂れ目と釣り目。
「15年間、キャスパリーグを探し続けた――」
「ぶちのめすぞ?」
「――こほん。杏山カズサを探し続けた、私たちのアルバムにふさわしい一曲。本当の完成。ショートケーキに乗った一粒のいちご。いちごの乗っていないショートケーキを、私たちは提供せざるを得なかった。スポンジと生クリームだけでショートケーキと言えるか? 否! そんなものはクリームが挟まれた、ただのスポンジじゃないか!」
ナツは立ち上がり、私の両肩を掴んで、一人で勝手にテンションを上げている。輝いた目。一見、乏しい表情。けれど、たとえば。スイーツの中にロマンを見つけた、あのナツのまんま。
いつも通りと言えば、いつも通り。
見た目が大人な分、そのギャップがちょっと面白い。
けれど、昂揚はその一瞬のことで。
私の肩をさするように、優しく。
穏やかな顔つき。目つき。
いつもの。ナツ。
「私たちの15年が完成するよ。杏山カズサ」
「――なんかさ、私の勘違いだったらいいんだけど」
なんかみんな。
気のせいだったらいいんだけど。
みんな、なんか――。
ふと。
私の肩が跳ねる。心臓が大きく一回飛び跳ねる。
スマホが鳴った。激しいノイズ系の音楽。それこそ、SUGAR RUSHの楽曲、かな。知らない曲。
音の出どころは、ナツのポケット。 - 411824/10/27(日) 10:05:34
「ん……ちょっとごめん、電話だぁ。お。お~」
画面を見て、こちらを見たナツの口角が上がっていく。
知り合いか。
それも、私も知ってる。
私の顔をみたまま、そのニヤけた顔で電話に出たナツは、私に会話を聞かれるのをためらわず、会話を続ける。
自分のスマホを取り出して適当にいじる。聞こえてしまうのは仕方ないけれど、じっとして通話が終わるまで待つのも、聞いてますよ感が出てしまう気がして。苦手な場面の一つ。宇沢に返信は……。いっか。多分、仕事行っちゃっただろうし。
あ。モモトークに先生から友だち追加のリクエストが来てる。
承認。
「やーやーもしもし。どうもお世話になってます~」
「『お世話になってます』……?」
ナツが。敬語を。使っただと?
おどろいて私の指は勢い余って同じ場所を2回タップする。してしまう。
通話している人の話に反応してしまうなんて、失礼極まりないとは思う。
でも。
声。
私のスマホから。
電話がつながっている。
先生に。
「わ、わ、わ。――もしもし、先生。ごめん、間違えた」
同じ部屋で、二人が電話。
奇妙な光景。
いや、驚いたけど……。そうか。さすがにナツも、ずっとあの頃のままではないということだ。
別におかしくない。おかしくない。
『”え? そうなの? なにかあったのかと……”』
「いやいや、どうせスケバンちゃんから連絡行くだろうと思いまして……」
「なんもない。ちょっと驚いて、間違っちゃっただけ。本当にすみません」
「”それならよかった。今はみんなといっしょかな?”」
「あ、はい。……あー、ちょっと誰かと電話中みたいで」
「えっ? ああ、うん。そう。なんかアルバム作ってるみたいでさ。トリニティの端っこの方のスタジオで――」 - 421824/10/27(日) 10:06:35
「わかりました。今晩はスタジオに籠ってますので……。お待ちしてますね~。アケミさん」
「アケミィ!?」
「”――っ。げ、元気だね。アケミがどうしたの?”」
「大声ごめん! ちょっと一回切る、あとでかけ直します!」
こっちが電話を切ると同時にナツも通話を切った。画面をこちらに向けて、にやにやとスマホを振っている。画面は真っ黒。だから、誰と通話していたかはわからない。
いやでも。
「まじ?」
スケバンちゃんから? 連絡が?
スケバン関係者で、アケミと言えば。
そして、ナツが私の顔を見てニヤけた事実からすれば。ニヤけている事実からすれば。
私の消したい過去。
目の上のたんこぶ。だった。
ナツが話していたのは、栗浜アケミ?
「カズサちゃん! ナツちゃん!」
階上から駆け下りて来たのはヨシミと。
手を引かれたアイリが。
顔に喜色を浮かべて。目を輝かせて。
「『彩りキャンパス』録るってほんと!?」
と。
本当にうれしそうなアイリに、ナツがふてぶてしく、親指を立てた。 - 431824/10/27(日) 10:10:29
んおおおおぉ
沼ってましたごめんなさい
夜(翌朝)二度目ですね……
ひさびさにがっつりかけたのでよかったです
保守ありがとうございました! - 44二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 10:20:13
- 451824/10/27(日) 10:37:55
- 46二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 15:58:14
- 47二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 23:50:25
七囚人2人と関係持ってりゃ指名手配もされるわな
- 48二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 05:03:28
なんというか、指名手配は順当だった……?
- 49二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 13:57:54
- 50二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 16:47:58
このレスは削除されています
- 511824/10/28(月) 16:50:27
25時を回った。
そんな時間でもひっきりなしに来客があるのは、ここに、いわゆる『大物』が居るから。
だから、宇沢が帰ってきたことに気付かなかった。
「お疲れさまですぅ。これ百鬼夜行のお土産と、エナドリの差し入れです。……元気ですかー、杏山カズサ」
「あぁ……宇沢ぁ……」
ソファにひっくり返っている私を見て、しかも上着を脱いでキャミソール一枚ともなれば、気になるのはわかる。
なんで筋トレさせられたのかが謎。スクワット、ランジ、ふくらはぎ。腹筋、腕立て、体幹、肩トレ。握力。挙句に首相撲。
上から下まで余すところなくいじめた筋肉が熱い。筋断裂からの超回復。あーあー、聞きたくない。汗だく。シャワーも浴びる気にならない。腕が上がらないし、足はだるすぎて痛い。
だから嫌なんだ。コイツと顔を合わせるのが。
テーブルに座ってそいつの話し相手をしていたナツが、宇沢が持ってきたというお土産を無遠慮に覗いた。
「おお、どらやき! しかも百夜堂だと……? あそこテイクアウトやってたっけ~」
「本店じゃなくて、駅前に新しくできた支店の方です。そっちはテイクアウト専門でやってるんですよ」
「……宇沢、明日仕事休み?」
「いえ、フツーに仕事ですが」
「んぁー! 久々に行きたいー! ほらカズサ、百夜堂のどらやきだってよ?」
「た……たべるぅ……」
「お疲れさま、レイサちゃん。相変わらず大変そうねぇ」
目の前の『大物』は優雅に紅茶のカップを置く。
テーブルの上にはケーキスタンド。コイツが持ち込んだお菓子は、私も知っている、いまや老舗と言われるお店のスイーツ。こういう気の回し方がなんというか……、憎いし、ムカつく。
「お久しぶりです。アケミさん。おかげさまで、だいぶ楽はさせていただいてます」
「み、みんな知り合いかよぉ……」
そりゃそうだ。
宇沢がスケバンに協力を仰いだというなら、コイツの存在は無視できるはずがない。
なんせ親分。なんせリーダー。
栗浜アケミの協力を取り付ければ、あちこちに散らばっているスケバンのほとんどを、まとめることができるのだから。
- 521824/10/28(月) 22:59:57
- 53二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 05:52:07
冒頭からスケバンに協力してもらってたことは分かってたけど、そうなると何処かでアケミに辿り着いているのは自明の理か
- 54二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 08:27:23
確かにアケミもキヴォトスに残るよな
ワカモと同い年ぐらいかな - 55二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 17:58:49
今日はもうちょいしたら投稿します。
イレギュラー時間。 - 56二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 23:23:20
アケミに煽られてやってやるわってなってるカズサが見える
- 571824/10/29(火) 23:25:55
「アイリとヨシミは二階に居るよ」
ナツがテーブルに突っ伏した体勢のまま天井を指さす。
「お茶の時間にしようと声かけますか」
宇沢スマホを耳に当てる。こつ、とイヤアクセに画面が当たる、硬い、曇った音。
25時。
誰もかれも眠る気配がない。ナツと私はアケミが来るまでに少し仮眠をとっているから、あまり眠気はないとしても。しかし、この疲労感を感じたままシャワーを浴び、眠れたのなら。さぞ心地が良いのではないかという誘惑は、ある。
もしくは疲労感が強すぎて眠れないかのどちらか。
バイクの音がすぐそこで止まり、一人のスケバンが入ってくる。
屋敷の管理をしている子……ではない。
「姐さん。あ、宇沢さん、お疲れさまっス」
「はいはい、お疲れさまです。あ、もしもし、アイリさんですか? 今下にいるんですけど――」
「あー……」
スケバンは、アケミと宇沢を交互に見た。
私らしかいないときは平然と話してたくせに、シャーレの関係者が居ると、口ごもるんかい。
チラと宇沢を見たアケミは薄く笑ってスケバンに先を求めた。宇沢も電話したまま、軽く手を挙げて「気にしないでください」と言うスタンスを見せ、わざとらしく、部屋の隅におさまる。
「……セントラル空港の近くで地上げ屋の恐喝が始まったと連絡が」
「こんな時間にご苦労なこと。どこの方々?」
「さあ……」
「下請けの寄せ集めかしらね。D・Uのセントラル空港なら……この間、不義理をかましてくれたあの方でしょう。盛大に邪魔して差し上げて」
「うス!」
スケバンはどこかに電話を掛けながら外に出て行く。
今度は地上げ屋か。よく知らないけど、まあ、悪い奴らなんだろう。
その前に来たスケバンはトリニティの飲食店同士の揉め事。その前はアビドスで縄張り争いしている組織への襲撃。その前は……なんだっけ。ブラマでなんかあったとかだっけ。そっちはアケミが直接誰かに電話していたけど。あとは……。
- 581824/10/29(火) 23:32:08
いやいい。頭がふわふわする。
とにかく、ひっきりなしにスケバンが訪ねてきては、尋ねられている。疲れた様子をみせることなく。むしろ、生き生きと。
「ほらカズサ。椅子に座って食べよ~? 豚になりたいなら止めないけどー」
「今は豚でも牛でもなんでもいい……――あだだだっ」
身体を起こすとすぐに寝転がりたくなる。
腹筋が痛い。肩がだるい。どこからか運び込まれてきた、バーベルの端っこにつける重り。それからケトルベル。ご丁寧に4キロから16キロまで用意されている。とにかく、鉄。鉄が足元に置かれている。私の身体をいじめ抜いた鉄が。
「ちょっとなまっていませんこと? 私の知る杏山カズサは、そのぐらい楽々とこなしていましたのに」
「それ中学生の時でしょ……。あの時も死ぬ気だったってば!」
「うふふ。私も未熟ものでしたわね……。今はもっと効率よく、スケバンの極意をあなたに叩き込めますのに」
「スケバンなんかやめたっつーの……」
「あら残念。ふふふ」
「ラストぉ、いっかいっ♪」
「あとで同じメニューやらせるからね、ナツ! ――ッたたたた……」
やりきったセットの「あと一回」がどれだけ辛いか。絞り出して絞り出してカラカラになった雑巾から水分を更にひり出すのと同じだ。それを楽しそうに。ナツは楽しそうにだ。にこにこしながら「あーといっかい♪」を繰り返しやがった。到底許されるものではない。
上着を羽織るのにちょっと腕を動かすと、すでに胸のあたりに筋肉痛。腹筋はいわずもがな。立つとふくらはぎが攣りそうになり、椅子に座ろうと膝を曲げると……太ももから力が抜ける。
かんっぜんにやりすぎ。オーバーワーク。
「筋肉痛はトレーニングをすれば取れます。気持ちがいいでしょう? 今晩はよくマッサージをして、明日は有酸素を中心に――」
「明日もいんの!?」
「……とはいきませんわね。先約がありまして。メニューを渡しますから、そのとおりにこなしなさい。カズサ」
開いた口が塞がらない。必死に、なにか明日に入れられる予定を探してみる。
……見つからない。周りは忙しそう、というか、実際忙しいのに。『彩りキャンパス』のベースラインは変更があるというし、私は楽譜通りにしか弾けないし。急な予定よ入ってくれと。神に祈る。
- 59二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 23:42:49
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- 601824/10/29(火) 23:55:27
と考えて、やる必要もないことに思い至る。
だから怖い。アケミに一度ペースを握られると、抜け出せなくなる。
にしても。
――こいつは今でも私のことを舎弟か何かだと思っているのか?
一度仲間と認めた相手には家族と同じ愛情を示す。
アケミの、なんというか、そういう女。こいつは。
初めて会ったとき、勝ち目がないと一目でわかった。
私は宇沢が言うような、不敗の不良だったわけじゃない。
勝てない戦いをしなかっただけ。
不良のまとめ役。
はぐれものたちの母。
好き勝手暴れていた私の前にいきなり現れて、急に面倒を見てやるだなんて付きまとってきた。実際、少しの間一緒に行動させられた。彼女こそが伝説のスケバン。あの時の巨体はそのままに、うっとおしいほど聞かされた肉体美にはさらに磨きがかかっていて。少しのたるみも、ゆるみもなく。『年齢の差の分こちらが有利』など少しも思わせない体躯。相変わらずこいつは、伝説のスケバンをやっている。
いま思えば。そして今を見れば、アケミの存在は、スケバンたちにとっても、よかったのだと思う。アケミがいるからこそ、一線を超えるようなことがなかった。世界に生きる術を身に着けるための準備期間が学生だと言うならば。アケミはアケミで、準備期間を放棄したスケバンたちが生き延びることができる場所を、作りたかったのかもしれない。
事実、アケミが矯正局に入ったころは。スケバンはゴロツキ以下に成り下がっていた。あちこちで問題を起こすも、それがなんの成果にも繋がらない。日々の生活にすら繋がらないような。非効率で、破滅的。だから変な奴らに目をつけられ、使いつぶされていく。
私はスケバンの凋落を目の当たりにしていたとき、アイリたちの、日の当たる場所でのきらめきに心を奪われ、スケバンを辞めた。
一番になれないから、一番を目指すことを辞めた半端者。そう見られたって仕方ないのに。アケミは、私を憶えていて、捜索の手伝いをしてくれていた。矯正局に入ったアケミに、私はなんにもしなかったのに。
後悔はしていない。スケバン時代は一過性のもので、今でも枕に顔を埋めてバタバタしたくなるぐらい恥ずかしい時代だったと消化できている。
日の当たる道に躍り出た私。
恥ずかしいと感じるのは、常識が違う場所を歩いているから。 - 611824/10/29(火) 23:59:19
光と影。朝と夜。
つまり、アケミから見れば、私が姿を消したのは二度目。
一度目は、私が普通の女の子として生きる舵を切ったとき。
二度目は、私が普通の世界からはじき出されたとき。
それでも、アケミはこうして私に構うし。なんなら、宇沢やスイーツ部も、見方によっては、面倒をみていて。
……なんともまあ、末恐ろしい女。
ほんと、勝てる気がしない。
「失礼します!」
また、スマホを耳に当てたスケバンが。
さっきのスケバンがスタジオに入ってくる。
「姐さん、あちらの連絡役からこちらに、『7ツ出すから兵隊を引いてくれ』といわれているそうで……」
「15」
「……少々お待ちください。――10、だそうです」
「20ですわ。はっ。一丁前に値切ろうだなんて、礼儀がなってない」
「……――わかったから勘弁してくれ、と」
「みなさんを引き上げさせてくださいな。明日、住人の方に公団住宅の入居権を差し上げて。それから、レッドウィンターの工務部に連絡を。『またセントラル空港の近辺で不正に土地を取り上げられた住人が出た』と言ってね。いまの部長さんはご存知ですか?」
「わかります。あの、ショートカットの方ですよね」
「そのとおりです。私の名前を出せば、すべてするりと動きます」
「了解ッス! じゃあちょっくら行ってきますね」
「お気をつけて。あ、お土産よろしくお願いいたしますわね」
「あーい!」 - 621824/10/30(水) 00:16:33
なんというか、まあ。
私でもわかる。
今度はレッドウィンターを追い払うから金をよこせ、とでも言うつもりだ。公権力が入ってくるまでは、何度も繰り返せるいやらしいやり方。
……なんというか、まあ。
バイクのエンジンがかけられる。音が、遠ざかる。
こんなのが、ひっきりなし。
「マッチポンプってやつ?」
「人聞きの悪い。ノブレス・オブリージュでしょう? 持っている方には義務が発生するものですわ」
「……それってぶんどって義務とするものだっけ?」
パタパタと階段を下りる音。
気付けば宇沢は電話を終えて、ソファの背もたれに尻を乗せてぽちぽちとスマホをいじっていた。
こういうの、シャーレが動くような事態ではないんだろうか。もしかして黙認? 公認なわけないよね?
いやそもそも、シャーレがスケバンと手を組んでいるっていう時点で、こう、いろいろ歪な気もする。私を見つける手段だったとしても。よくよく考えれば。
……ほんと、大人になっちゃったんだなと、宇沢のしわのついたブラウスの背中を眺める。
申し訳ない気持ちと、憧れと。……ちょっと嫉妬。
口には出さない。絶対。
「んん~……っ。あっ、アケミさーん! ご無沙汰してます!」
「久しぶりですわ。アイリ。ヨシミ。レコーディングの方はどう?」
「新曲以外ぜんぶ変更! けど、相当楽になったわ。ふふっ。相変わらずきれいな筋肉ね」
「ありがと。今度一緒にトレーニングします? 今そこに、最低限の鉄は用意してありますわよ」
「遠慮しときまーす! あっ、それでちょっと相談があるんですけど~……」
「ヨシミ~。その前にどら焼き食べようよ~。冷めちゃう冷めちゃう」
「どら焼きは冷めないから……。レイサが買ってきてくれたんだって?」
「ふっふっふ。百鬼夜行は百夜堂のどら焼きですよ?」
「えー! こないだ雑誌に出てたところだよね!? ってことは……!」
宇沢は「やれやれ」と、演技がかった仕草を見せて。
「限定のチョコミント餡も、もちろんありますとも」
「やったー!!」 - 631824/10/30(水) 00:31:51
- 64二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 05:59:34
学校から落とされたら不良かブラックマーケットくらいしか選択肢が無いし、それらを纏める人が出てくるのも、その人が寄りかかっても壊れないと信じられるだけの強かさを持ってるのは納得できる
- 65二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 08:07:57
基本徒党を組むヘルメット団と違って不良は数人でたむろしてるっぽいし受け皿が必要
大っぴらには支援できないからアケミが間に入ってくれれば円滑に進む - 66二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 16:22:52
パキン、とアケミが指を鳴らすと、待機していたスケバンが、ティータイムの支度を始める。古いポットが取り下げられ、新たなポットで茶葉が蒸らされ、どら焼きがトレイの上に並べられ、取り皿とフォークが各々の前に準備されていく。所作も美しく。さながらティーパーティのお茶会のように。
それに。
私は、アケミを囲み話をしているみんなを見る。
なんだか、スイーツ部のみんながアケミと仲良くしているのが、こう。
違和感がなくて。
今のみんなは輝いている。アルバムを出すことに一生懸命になっていて、それぞれが役目を果たしている。頭をひねり、しっかりビジョンを見据えていて、実行のための準備を組み立てられている。
私は。
いやいや、かぶりを振る。頭から余計な不安を追い払う。
違う。スイーツ部。私は、みんなと同じ。放課後スイーツ部。SUGAR RUSH。
……意見を求められないことに拗ねてるなんて、それこそ。
子ども。
「失礼します」
わたしのカップに紅茶が注がれ……ない。
「……なにこれ」
シェーカー。
「プロテインです」
「紅茶は?」
アイリたちと話をしていたアケミが片目を瞑り、大真面目に言った。
「ゴールデンタイムは過ぎてしまいましたが、杏山カズサ。あなたはタンパク質を摂らなければなりませんの」
「『なりませんの』じゃないんだけど!?」
あんたみたいにゴリゴリになりたいわけでもないし!
シェーカーに入ったどろどろの液体。茶色。「タンパク質30g、BCAA、EAA、HMB、クレアチン。他にも様々な栄養素をまとめて摂れるシロモノですのよ」などと聞いてもないことを、本人は優雅に解説してくれる。
ずっと手を付けずにいれば。
「クッキークリーム味ですわ」
と、諭すように。
ええい、うるさい。何度か振って溶け切っていない粉を攪拌し、一気に流し込む。
……美味しいのがまた腹立つ。ただ、量が多い。腹にも溜まる。これ、水じゃなくて牛乳で溶いてあるな。味が濃い。
飲み終わった私は。
小さくげっぷ。 - 67二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 16:24:49
ほう…流石はアケミ、プロテインも上等ですね
- 68二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 16:25:08
- 69二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 23:48:05
ふとした瞬間に置いていかれた時間に殴られるのおいたわしい
- 701824/10/31(木) 06:11:41
公式で文化祭が今時期に開催されるっていう
いわゆる「公式に轢かれた」状況なのちょっとおもろい
全部食ってやるぅ……
文化祭もハロウィンも、両方トリニティの大イベントとしてあったっていいじゃないか! - 71二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 16:17:33
「ちなみに私は、アケミさんに頼んでプロテイン仕入れてもらってます。ホエイじゃなくて、ソイの方ですけどね。間違いないものを選んでくれるので、とてもありがたいです」
トレーニングに詳しいわけじゃないけど、確かソイの方は美容・ダイエット目的のシロモノ。
宇沢の身体。
気にする必要などないような。にしても、スタイル良くなったな、宇沢。
私の目線に気付き、体を掻き抱くようにして宇沢は言う。
「適度に置き換えしないと、ぶくぶく脂肪を蓄えるもので……。杏山カズサもいずれわかることでしょう。行きたくもないジムに通わねばならない女の哀愁が」
「太るのは私もいっしょだって。てかこれホエイプロテインかい。バルクアップする気はないんだが? ……うぷっ」
なにがいずれわかるだ。華の女子高生が何食べても太らないとでも? こんな夜中に、こんなお茶会なんて。背徳でしかない。お前も通過した道じゃないのか。あんな、お腹出ちゃうような制服の着こなししてたくせに。
幼児みたいな寸胴体型の宇沢が懐かしい。自警団であれだけ動き回ってあの身体だったのだから、もしかすると、痩せにくい体質なのだろう。もしかしてあの頃も、気にしていたり?
自分の体型には気を遣ってきたつもりだけど……。
もしかすると、宇沢から見たら、まだまだ未成熟な身体に見えているのだろうか……?
「――やり方によりますわ。飛行船そのものをジャックするのか、電波をジャックするのか」
アケミの声に私の耳が反応した。物騒な言葉が。今更ではあるけど。
顎に手を当てて考え込むアケミに、三人が視線を寄せている。
二人は前のめりに。一人は頬杖をついて。
「どちらでもいいんです。とにかく、ディスプレイのあるところ全部に特定の映像を流せれば」
「全部。クロノスの飛行船型ディスプレイは仕組みが違うと伺ったことがありますわねぇ。ですが、占拠してしまえば、どうとでもなるでしょう。中は古いテクノロジーでしょうし、アナログを突けばいい。他についてはミレニアムの技術者と話し合わないと何とも言えませんわね。大元を抑える必要があるのか、電波だけでいけるのか……。さすがに一つ一つ押さえるのは現実的ではありません」
「渉外挟むなら適任がいるじゃないか。レイサ~?」
「……私ですか?」
私の隣で宇沢が嫌そうな声を出した。
- 72二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 16:32:22
宇沢。シャーレの宇沢。
懇願するような、甘えるようなみんなの笑顔。
「それは必要なことなんですか?」
「うん。ぜったい必要。ラストライブの時に流したいものがあって」
「少なくとも、中継ならクロノスに手配してありますよ」
「素材渡せば映像流してくれるかなぁ」
「問題ないでしょう。ああ、SNSでクロノスについて言及するのはやめてくださいね。各方面には内密でって言ってあるんで……」
「もしかして、先生にも?」
「……はい。まあ、クロノスの方は数字が取れればペイできる障害でしょうし、大丈夫でしょう。街中の広告ディスプレイのいくつかもクロノスが持っていますけど……。全部となると、権利持っている方を探すところからですかね……。全部じゃなきゃだめですか?」
「主要なところだけでいいんじゃない? さすがに裏通りのテレビまで、とはアイリも言わないでしょ」
「そうだね。駅近くとか、それだけでも……」
「目星だけつけてくださいよ。ビル名がわかれば、こちらで調べて交渉しますので」
「んーっ! ありがとレイサちゃん! 大好き!」
「……物騒なやり方は最終手段にしていただかないと、こっちの身がもちません」
みんなの手元に新しいカップが置かれ、次々にスケバンが紅茶を注いでいく。きちんと温められたカップ。
どこの喫茶店だよ。サービスが行き届き過ぎている。
ふわりと香るセイロンティー。色が濃い。香りも強い。そういう茶葉を使ったのか、そういう淹れ方なのか。私が口を開こうとしたと同時、隣にそっとミルクポットが置かれた。
隙が無い。
しかし、ミルクは先入れ派。
いーっと、歯をむき出してみるも。
ガキか、私は。
「じゃあこの件はレイサちゃんに一任するというお話でいいですわね? 少し残念ですけれど。ねぇ」
紅茶を注いでいるスケバンに、不敵に言うアケミは。決して『やれない』とは言わない。どれだけの規模で物事を動かせるのか。それも、力づくで。
そりゃあ、こんな人とか、ワカモさんっていう人が身近にいたら、いろいろと狂うよね。
それにしても。
「先生にナイショって、それ大丈夫なの?」
- 73二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 22:31:00
すっかり振り回される側だな宇沢
- 74二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 08:58:48
ほし
- 751824/11/01(金) 16:16:45
すみません、今日は投稿できないですぅ……。
保守替わりのごあいさつです。 - 76二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 23:35:13
ほしゅ
- 771824/11/02(土) 09:07:31
そう、私が勝手に。
ちょっと口を挟みづらいと思ってしまっている。
気になったことを口に出す。何の気なしに。それだけでいい。私はみんなと友だちなんだから。
卑屈になるのはおかしい。うん。
答えたのはアケミ。
「このおバカさんたちの話は聞いていますわね」
私はみんなを見る。
頬杖をついたナツ。背もたれに腕を掛けたヨシミ。太ももに手を置いているアイリ。隣でどらやきを自分の皿に移している宇沢。
「えへへ」
えへへじゃないが。
「まあ、こんなのは日常茶飯事というか」
「今更と言いますか……」
「レイサが先生に小言言われるぐらいだし」
「大義の前の些細な犠牲は仕方ないと思わないかね」
「私、些細な犠牲なんですか!?」
テーブルが揺れる。皿が鳴る。
笑い声。
夜。
一瞬。
間をあけて。
「『彩りキャンパス』は、私もやりたいなって思ってて」
アイリが言った。
耳に掛けた髪が落ちる。
落ちた髪をもう一度耳に掛ける。
蒼い耳飾りが――ピアスが、安い照明を反射する。
私を見る。
- 781824/11/02(土) 09:27:50
「始めの頃に、スタジオでは、やってみたの。それこそスリーピースでやってみたり、レイサちゃんにも入ってもらったり。いろいろ構成を変えて、考えて。だけど、やっぱりしっくりこなかった。――だから、封印したみたいな曲になっちゃってて。結局、今のSUGAR RUSHは、新曲を作るところから始まったんだよね」
「そんな『今の私たち』にカズサを入れるならどうしようかって、ずー……っと考えてた。せっかくカズサができるって言ってくれたのに。あれは今の私たちの曲じゃないからって、選択肢から外してた」
「ヨシミちゃんはやることがいっぱいだったんだもん。――私が、ちゃんと言えばよかったんだよね。ごめんなさい」
「まぁまぁ。アイリの遠慮グセはいまに始まったことじゃないし。それに、イノシシは急な方向転換できないんだってね~? ひひひ」
「だぁーれぇーがぁーイノシシだぁ!?」
「あはは……。うん。やっぱり焦るのってダメ。今の私たちに『入ってもらう』んじゃなくて、今の私たちに『繋がってもらう』。これがきっと今の私たちが出せる、最適解……なんだと思う」
「で、話は変わるけど、ライブやるのよ。最後の」
「……昼間にちょっと聞こえた。ラストライブ、だっけ」
「あー……。そう。15年、あんたを探し続けた、今のSUGAR RUSHの、最後のライブ。さっきアイリと話してて、おおよその演出は固まったの。ね?」
「うん。アルバムの曲全部と、プラス一曲。ライブはほぼ歌いどおしで1時間ぐらいになっちゃうんだけど……。その最後の曲を『彩りキャンパス』にすることに決まりました!」
わー。ぱちぱち。
三人と宇沢が拍手をする。アケミも微笑んでいる。スケバンも拍手をする。
「もちろん、フロントマンはカズサちゃん! そしてなんと! アルバムにも入れるのは当然ですが~? この『彩りキャンパス』はスタジオ録音じゃありません! なんとなんとぉ~……ライブ録音です! わー!!」
わー。ぱちぱち。
なんにも聞いていない私。サプライズにもほどがある。
けれど、まあ、それならそれで、程度の気持ちにしかならない。
今は、それ以上の疑問が。むくむくと。
気付いてはいけないなにか。うすら寒いもの。
ああ、この感覚はあれだ。あの時の。
15年の時が過ぎたことを叩きつけられる直前の、あの感覚。
怖いものが。私のすぐ後ろにいる。 - 791824/11/02(土) 09:37:55
「今まで出した楽曲をそのまま使ってって、最後は私たちの一番最初の曲。最初の曲を最後のライブで演奏した音で締める。それこそが、カズサ。あんたが帰って来た証拠になるわ! 15年前の文化祭で録画してた映像も使うの。あの映像から、カズサが帰って来た今のSUGAR RUSHが『彩りキャンパス』をライブで披露することで、全部が完成するの!」
どら焼きを手づかみで取りながら。興奮気味に。実際興奮している。ヨシミの頭の中にはもう、ビジョンが見えているんだ。昔の映像を使って、過去と現在がつながる、その瞬間が。飛行船モニタや街中のディスプレイに流れる15年前のSUGAR RUSHから、今のSUGAR RUSHに。ただの中継ライブから映像演出に切り替わる。そんな瞬間が。
私はここでこうして、みんなと一緒にどら焼きと紅茶でティータイムをしている。みんなカップを掲げて、方向性が定まり、あとは進むだけの状況になったことを祝っている。私もカップを掲げる。みんなと居る。紛れもない事実。夢ではない、はず。あの頃みんなといっしょに文化祭で組んだバンド。私が居なくなっても、ずっと続けてくれていたバンドは。私を探し続けるための手段。
私は。
笑顔が引き攣る。
だから、最後。最後のライブ。私を見つけるためのSUGAR RUSHの、最後の。
……変じゃない?
なんでラストライブなの?
ナツは言っていた。
『期日も時間もがっちり決まってる』って。
私が見つかることがわかってた?
そんなはずない。
だったら、再会したとき、あんなに取り乱しているはずがない。
宇沢だって。あんなに。今こうして見ていてわかる。隣に居る大人の宇沢を見ていれば。
あの夕暮れ時、宇沢があんなに取り乱していたのは。
あれは、私が本当に偶然。見つかったからだと。
だからおかしい。
ラストライブが決まっていることが。
「ねえ。おかしくない?」
私は口に出す。
気になったことを口に出す。何の気なしに。
「おかしいって」
口に出してはいけない、とか。親しき仲にも礼儀あり、とか。
どうでもいい。関係ない。
口にしなくちゃいけない。
「なんで……。なんで最後なの?」
「えへへ」
「えへへじゃないよ、アイリ!」 - 801824/11/02(土) 09:48:16
皿が鳴る。椅子が床を鳴らす。
あの感覚。
でも今回は、あの怖い何かは、私を捕まえなかった。
代わりに捕まえたのは、誰かの手。
宇沢の手。
私のパーカーの裾を摘まんで。笑顔で。
「今度ちゃんとご説明しますから。今はどら焼きを食べませんか?」
私は言葉を出すことが出来ない。
背中にじんわりと汗をかいている。
「みんなでこうして。――まあ、私とアケミさんたちはイレギュラーですけど。みんなで、こうして。あの頃の皆さんのように。放課後スイーツ部のように。甘いお菓子と紅茶を囲んで。楽しくおしゃべりしませんか?」
私は何も言い返すことが出来ない。
ほんとに大人になっちゃって。
あんたのそんな寂しそうな笑顔、想像すらしたことないって。
なんでよ。
なんで、そんな顔で笑えんの?
ねえ。
私に、何を隠してるの?
夜。
26時を回ったお茶会。
みんな眠そうなのに。
みんなこの場から離れない。
だったら、あの頃みたいにっていうならさ。
もっとみんな、好き勝手やればいいじゃん。
なんでこんな。
時間を惜しむみたいなことしてるわけ? - 81二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 16:38:17
よるまでほ
- 82二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 23:34:13
そろそろ秘密あかされそうでドキドキする
- 831824/11/03(日) 09:39:44
※
10月31日。
お祭り。イベント。
ハロウィン。
人が沢山集まる。トリニティに。
あと何日?
20日。
20日……。
長い? 短い?
あの日の夜。私が気になったことを聞いたとき。
ラストライブが決まっていたことに対して。私が、疑問を口にしたとき。
誰も、なにも教えてくれなかった。
お茶会はアケミが帰るまで続いたのに。朝の4時まで。
ほぼ無理矢理といった体で変わった話題。どら焼きの味の感想という、当たり障りのなさそうな話題で塗り替えられた、私の慟哭。
ラストライブ。期日も時間もかっきり決まっている、という。
その日まで、あと、20日。
誰も、なにも教えてくれなかったあの夜から、3日が経った。
私は。結局、再びあの疑問を口に出すことが憚られたまま。
なぜか決まっていたラストライブに向け、ベースボーカルの勘を取り戻すための練習に精を出さざるを得なかった。忘れるみたいにして。忙しくしていれば、聞く暇がないのだと、自分を納得させることができる。
でも、やっぱり。気になるから。
それに、今日は、ちょっと用があって。
正直、そっちはどうでもよかったりするのだけど。でも、必要なことでもあるし。
「あら……。杏山カズサさん」
シャーレの前。植え込みで花の手入れをしている女性。金糸や銀糸が使われた絢爛な装飾の服。組紐がアクセントになっている独特な意匠。足元の裾やら袖が大きく広がった、動きにくそうな着物。
「ワカモさん、ですっけ」
- 841824/11/03(日) 09:42:55
仮面を外した姿は初めて見た。というか、まだ2回しか会ったことがないけど。
アイリが言っていた。『引くほど美人』だと。
なるほど。
確かに、引くわ。同じ人間とは思えない。
一つ一つのパーツから、造形まで。すべてが整いすぎている。くりくりした目。小さく形のいい鼻。紅の引かれた薄い唇。トリニティじゃ見ない朱のアイラインが、ツンと目を際立たせ。一つ一つが完璧なパーツが、丸めの小さい輪郭に、完璧な配置で収まっている。
大人の女。幼くも見えるし、妖艶にも見える。
でも、私も女だからわかる。
彼女の努力は、並なものではない。
「本日はおひとりですか?」
「あ、いや……。先生と待ち合わせ、です」
「そうですか」
するりと立ち上がる所作すらたおやか。流水のようによどみがなく。
「どのようなお話が?」
スゥっと。細められた目。細くなった瞳孔。
相変わらず独占欲が強いと言うか。
「――私の戸籍情報変えらんないかなって。あと、ちょっと聞きたいことも」
「確かに。あなたの身の上は、杓子定規な世界では少々、複雑ですからね」
「……はい」
私に背を向けシャーレの中に入っていこうとするワカモさんは、階段を上りきってからこちらを見返る。
ついてこないのか? とでも言わんばかりに。 - 851824/11/03(日) 09:54:37
エレベーターの中。
ワカモさんの着物に焚きしめられたお香の香りは、甘くて、上品で。前に嗅いだものと同じ。香水の、アルコールのツンとしたものじゃない。着物に匂いを吸わせた。おだやかで、まろやかな香り方。
ずっと嗅いでいたいと思わせる、そういう。
「なぜ、おひとりで?」
ハッとした。危うく、鼻を鳴らせて嗅いでしまうところだった。
わたしよりおでこ一つ分高い身長のワカモさんは、閉じた扉を見たまま。
どう答えていいかわからず言いよどんでいると、ちらとこちらを見て、言った。
「あの子たちがあなたを一人にするとは思えませんわ」
「みんなまだ寝てるんで。書置きしてきたんで大丈夫のはず、です」
毎晩毎晩。
夜中の2時3時まで。ぎゃあぎゃあ姦しく騒いでいる私たちは、すっかり昼夜逆転の生活になっている。買いだめしたお菓子や宇沢に頼んで買ってきてもらうお菓子をついばみながら。うかつに外に出れば問題になりやすいみんなは、屋内で過ごすことにすっかり慣れていた。泊まり込みが出来るスタジオというのが拍車をかける。なまじ作業がある分、インドア生活に正当な言い訳もある。
まあ、楽しいからいい。いろんな、今までの話を聞けるのは。私からしたらいつものスイーツ部。みんなからすれば、待ち望んだ行為だったにちがいない。
一緒にお風呂に入ったり。着替えを持っていない私にみんなが服を貸してくれたり。アイリの長い髪をみんなでいじったり。ヨシミの作業を見学させてもらったり。ナツが無限に薦めてくるお店の情報を聞いたり。疲れて眠った宇沢の顔で遊んだり。セーフハウスから引っ張り出してきた制服を、みんなで着てみたり。
楽しいからいいんだけど……。
やっぱり、気になることでもあった。
私をずっと探してくれていて、見つかったから。つい勢いが良くなってるだけ。
それならいいんだけど。
たぶん違うんじゃないかって。私の、なにか怖い部分が、そう言っている。
深く考えたくない。けど、知らなきゃいけない焦燥感に追い立てられている。
「――っ。ふわぁ……」 - 861824/11/03(日) 10:03:04
昨夜も寝たのは結局4時。寝たというより、横になっただけ。冷水で無理矢理目をこじあけたようなもの。始発より一本遅い電車に人はまばらで。遮られるものがなかった朝日に目を射され、うたたねすら許されず。
失礼だとわかっていても、出てしまうものは仕方がない。
特に咎められることもなく。リアクションがあるわけでもなく。
目的のフロアに到着する。
扉を押さえてくれたワカモさんにお礼を言って、先に降りる。
「私は百鬼夜行の出身でして」
背後から。
ワカモさんは、エレベーターに乗ったまま。
「おとぎ話がありますの。古い古いおとぎ話。今の子たちはほとんど知らないような、けれど確かに。信仰に近しいものとして一部に語られ続ける、おとぎ話が」
「はぁ」
「クズノハ様にお会いなさいませ。気まぐれなお方ですが、気まぐれであるがゆえ。今のあなたには、きっとご興味を持っていらっしゃるはずです」
「クズノハ……さま?」
どこかで聞いた名前だ。
おとぎ話。
……ナツ。
ナツが言っていた名前。
『――クズノハちゃんに言われたこと忘れた?』
おとぎ話。信仰。
でも、ナツのあの口ぶりは、会ったことがあるような。ていうか、おとぎ話の人に会えって、なに? どうやって?
扉を押さえていた手が離される。
「ちょ」
私がなにかを言う前に、ワカモさんはまた、下の階に降りていってしまった。
「……わけわかんないんだけど」
百鬼夜行のおとぎ話と、ナツたちに、何の関係が?
……思えば。百鬼夜行という自治区は、なんだか最近よく聞く。
私に起きた出来事は神隠しだと言っていた。確か、百鬼夜行のお話にあったとか。
宇沢も、よく百鬼夜行に行ってる気がする。
先生に聞けば、何かわかるかな。大人だし。
……と、期待するのは、ちょっと酷かな。
エレベーターが5階分下がるのを見届けて、私はオフィスに足を向ける。 - 871824/11/03(日) 10:11:02
扉付近のコンクリート壁は、他の部分と色が違っていて。
壊れた跡が生生しく残っている。けど、もう補修は済んでいるみたいだ。扉もついている。
朝早い時間。まだ8時に少し届かないぐらいの時間。当番の開始時間が変わってなければ、誰もいないはず。
ワカモさんは、ちがうんだろう。もう。そういう、当番の子とは。
真新しい扉をノックする。
『”開いてるよ。どうぞ”』
扉の向こうのくもぐった声。
私は、まだ傷がほとんどついていないドアノブをひねる。
ふわり。コーヒーの匂い。
「”おはよ、カズサ。コーヒー飲む? 紅茶もあるけど”」
「おはよ。コーヒーでいいよ。朝からごめんね、先生。お疲れさま、です」
ワイシャツにジャージなんていう奇天烈ファッションではなく。
きちんとした格好の先生が、血色の良い顔で、私を待っていた。 - 88二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 13:30:38
先生が血色いいの無理しなくなってそうでよかった
- 89二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 22:04:05
ほし
- 90二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 05:23:33
なるほど、そこでクズノハか
- 91二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 15:50:36
クズノハといいあの違和感といいどこか不穏な気配がする
- 92二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 22:54:04
ほしゅ
- 93二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 05:58:43
居なくなった間に、神話とか伝承とかその辺りも調べ回ったんだろうね
- 94二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 15:01:48
ほ
- 951824/11/05(火) 16:24:52
※
「ではまた。皆様とお会いできることを楽しみにしておりますわ」
格式と伝統のトリニティ。トリニティ総合学園。
ティーパーティへの謁見。
3人。私の時代と変わらない。ホストが一人と他二人。対面してみると、天上の人だと認識していた私の想像は間違っていたのかもしれない。とどのつまり。ティーパーティも人の子で。青春を謳歌する学生なのだ。
腹立つものは腹立つ。散々イラつかされた相手に優しくする道理はない。
学生だ権力だ云々の前に、人として当たり前。
連絡はあらかじめしていた。小難しい書類にサインだってさせられた。ティーパーティが集まるテラス。寒気を感じる、狙撃のしやすい開かれた場所。確実に狙いを定められていることなんて、バカでもわかる。
注がれた紅茶の質や用意されたお菓子を見ればわかった。
私たちは歓迎されていなかった。最初っから。
帰り道。
アイリの安全運転の車内で。ヨシミは盛大にお気持ちを表明した。
「話が違うじゃない! どうすんのよ、クロノスの中継もあそこで頼んでるんでしょ!?」
「いままではとても協力的だったんですよ? 先代も先々代も、もちろん当代も、ずっと、みなさんのことを心配なさっていましたし……」
こめかみを押さえて眉間にしわを寄せて宇沢はうなった。
「そりゃうちらの動向を宇沢から聞き出してただけじゃない? いつからか忘れたけど、ライブすると正実が一番に到着するようになったからねぇ。にひひ。いよいよトリニティ相手に宣戦布告かな~?」
その場その場でのらりくらりと話を合わせつつ、態度はハッキリと。
ラストライブのために借りられるはずだった建物の屋上。私たちがかつて演奏した校舎の屋上。
初めから。私が見つかる前から決められていた約束事。
そして、復学の相談。
先生が言っていた。私たちを敵視していると。
たしかに『復学を承認する』と書いてあった。ほぼ無条件で。願えば叶う。そういう言葉で。 - 961824/11/05(火) 16:29:36
わずかに色あせたA4サイズの、箔押しで装飾された、私たちの代のティーパーティ3人の署名が入った書類。別紙にはツルギ様やサクラコ様の同意書。さらに捜索に協力してくれた各校の代表のサインが入った正式な書面や、トリニティの各部活の嘆願書が束になったもの。それらの書類が入れられたつづりを閉じて。
『復学については承認いたします』と言った。
そして、青筋を浮かべながら。
『各自治区で発令されている指名手配の件は、そちらで解決していただいても? 我々としてはすぐさま復学してくださることを望んでいるのです。しかし、指名手配されている方々を学生として扱うわけにはいきません。皆さまは自立した活動をされていましたし、今更我々のような子どもに口を出されたくないでしょう』
拒絶ではない。復学させないとは言っていない。トリニティで一度決められたことは、そう柔軟に変えることはできない。
だけど、こちらにも体裁があるのだから。
自分の尻は自分で拭いてこい。
静かに、たぶんぶち切れながら、ホストは言った。
身から出た錆。
私なんかはいいけれど。
「そんな時間ないっつーの! ライブの場所も借りられたって言ったじゃない!」
「前に提案したら『とてもいい催しだからぜひ』って言ってましたもん! 言ってましたもん!」
「頭トリニティな連中だってあんたが一番わかってるはずよね! 書面に書かせないと意味ないのよあいつらは!」
「うあー……油断してましたぁ……」
時間がない。
そういう話。
昨日、先生に相談してみてわかったことは一つ。
私にだけ教えてもらえないことがある。
それだけ。
私にだけ。
みんなはきっと知っている。当事者はもちろん、先生も、宇沢も、アケミも。そしてたぶんワカモさんも、理由を知っている。
みんなが、ラストライブのその先を見ていないことを。見ていない理由を。
誰も教えてくれない。隠している。隠されている。
「とにかくライブは絶対なんだから。アケミさんと先生に相談ね」
ぶつぶつ言いながらノートPCを開いて、ヨシミはヘッドホンをつけてしまう。 - 971824/11/05(火) 16:31:03
復学の話はそれ以降出なかった。
みんな、ライブのことばかり。街中のゲリラライブとはわけが違う。場所が決まっていて、それは自治区の中枢、学園の中。やり逃げが許されない。機材も運ばなければならない。しかも日にちは、トリニティの1大イベント中。正実の警備だって、平日の比ではない。
確かに、目下迫っているものとしてはライブなんだけど、それだって。来年でもいいんじゃないかと第3者的な目線の私は思う。きちんと各校に頭を下げて、罰を受けて。それからでも。みんながこうなった原因は取り除かれたんだから、情状酌量だってあるはずだ。
だけど、誰もそうは言わない。
誰も、来年なんか見ていない。
「ごめんねカズサちゃん。なんかバタバタしてて」
ハンドルを握ったアイリが言う。
ナツが笑いながらお菓子の袋を開ける。
私は口には出さない。口に出したって教えてくれないことはわかった。
クズノハ様。
ワカモさんから教えてもらったその人に会うしかない。 - 981824/11/05(火) 16:35:57
ほしゅありがとうございました……
- 99二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:51:00
トリニティさぁって思ったけどやってること考えたらしょうがないか
- 100二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 06:17:25
トリニティの言ってることも最もだけど、もうちょっとこう、便宜とか……え、現在進行形で何年も暴走してる指名手配犯に掛ける慈悲はない?
そっかぁ - 1011824/11/06(水) 16:40:48
「……で、なんで海!?」
青い海。白い雲。燦燦と照り付ける太陽。
その真下で、ブラックマーケットの処分市の、さらに店舗奥にしまわれていたものを無理言って見せてもらい、購入した水着を着て、いま私たちは砂浜に立っている。太陽は水平線のちょっと上。あと2時間もすれば、美しいサンセットが見られるはずだ。
青い海の前には『クラゲ注意。遊泳禁止』の立て札。人っ子一人おらず。海の家は閑散として砂をかぶっている。
きちんとした名前のない海岸。ちょうど各自治区の狭間にあって、管轄があいまいな土地。特に治安維持部はあまり近寄らない場所で、一般的にはアウトロー・ビーチなんて呼ばれてる場所だという。ガラの悪い連中がたむろするには恰好の場所。
けれど、シーズンオフの今。秋も深まり始めた海には、アウトローすらいない。誰もいない。
貸し切り。プライベート・ビーチ。
贅沢とは思えないけど。
「い、いい、いや、まだみみみみんなで、う、海来たここことないなななって」
「震えてんじゃん! いいからパーカーでもなんでも羽織りなって風邪ひくから!」
身体を掻き抱きながら歯を鳴らすアイリに手あたり次第に布をかぶせ、同じように震えるみんなにも布を投げつける。私も、いつものパーカーをしっかり着ている。それでも寒い。
10月も半ばだ。スポーツショップに赴けば、陳列されているのは厚手のウェットスーツだけ。そんなものじゃ水着じゃないと、スケバンちゃんに頼んで探してもらったのは、この時期でもまだ水着を売っている店。
学園都市の、さらにその薄暗い背景を持つブラックマーケットで買った水着の布面積は少ない。しかも薄い。とにかく寒い。
「じゃ、あたしは車の中でミックスやってるから」
「15曲はそのまま使うんでしょー? 新曲分だけなんだから、よゆーあるだろうがー!」
「やだやだやだ! 寒い! 風強いー!」
海風に前髪をめくりあげたヨシミが車の入口にしがみついていた。
トリニティから帰った3人と宇沢は――ナツとアイリは録り終わっていたようだけど――その日の夜に新曲のレコーディングを終わらせた。 - 1021824/11/06(水) 16:43:13
すみません
夜また投稿します
今日分はかけております一応…… - 103二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 21:24:09
ゆっくりで大丈夫です!楽しみに待ってます!
- 1041824/11/07(木) 00:38:12
ふぇぇ……つかれた……
ちょちょいと見直しつつ今日分投稿させていただきます~ - 1051824/11/07(木) 07:42:36
それまで聴かせてもらっていたものとは趣が違う。ノイジーで轟音なシューゲイザーではなくて、しっとりとした。バラードとも違う。ヨシミかき鳴らすというよりはつま弾くという体で。ドラムもおとなしくて、ピアノは音数が圧倒的に少なく。宇沢がメインボーカルを務めるも、快活な印象を消すみたいな、囁くような歌い方。
『フォーク・ソングだね。言うなれば』とナツは教えてくれた。
これはライブでやる曲じゃない。
アルバムで聴く曲だから、これでいいんだと。
銃撃と爆発の中で歌うものではないのなら、轟音にする必要もない。いたって合理的な考え方。
『ま、カズサがここに居るから、演る必要のなくなった楽曲ではあるんだけどね』。
宇沢のボーカル録りをサポートしながら、ヨシミは言っていた。
『でも、これが私たちの辿った道だから』。
残す曲は『彩りキャンパス』のライブ録音のみ。その間、作業を行えるのはヨシミだけ。ミキシングとマスタリング。しかも、ミキシングは新曲分だけでいい、らしい。
そういう用語がまったくわからない私は、眼鏡を掛け作業に入ろうとするヨシミに聞いてみた。
簡単に言えば、という前置きがあって。
『ミキシング』は一曲を気持ちよく聴かせるための作業。
『マスタリング』はアルバムを心地よくするための作業。
抽象的すぎてよくわかんなかった。
「おお……! 砂の中は温かいよ!」
「ほんと!? スコップスコップ! 早く掘ろう!」
「いやそれ風感じないから暖かいって錯覚してるだけじゃ……?」
しまいには、その辺に転がっていたドラム缶に適当に穴を開け、廃材をぶち込んで火を点け暖を取る。
なぜこんな時期に海に来て、水着姿で、ドラム缶に火を焚いているんだろう。
「あったかー……」
「そこの海の家に鉄板置きっぱなしだったから、食材買って来ればバーベキューもできるよ!」
「宇沢って仕事何時に終わるのかしら。買い物ついでに迎え行く? ナツ、あんたモモトーク送ってよ」
「ういうい~」
誰も海に入ろうとは言わない。
ちょっと海を覗きに言ったら看板通り、クラゲが目測でも数匹浮いていた。あんなところに入ったら、身体中ミミズばれ。
火の匂い。焼けた木の匂い。
ナツが放り込んだ流木だろうか。白い煙をもうもう吹き出している。 - 1061824/11/07(木) 07:50:55
私も。
ブランクがあったとはいえ、一年は開いていないから、ベースの方は。ある程度すぐに形にすることができた。みんなと、あの文化祭のときに演奏したときは、それなりにうまくできたと思っていたけど……。
そこはやっぱり、年数が違う。
あくまで、形になっているだけ。演奏なんておこがましい。音に追い立てられているという表現がぴったり。ためしにみんなで、当時の譜面のまま合わせてみたら。
あ、こいつ素人だな。と。
素人の私が聴いてもわかるぐらい浮いてしまっていた。
リズムはズレる、弾き間違える。途中で自分の場所を見失う。運指に必死で歌が切れる。棒読みになる。後ろで流れるみんなの音が流暢なぶん、置いて行かれる。
ライブなんてそんなもんよ、とヨシミは言ってくれたし、リズムは私が完璧だから、とナツは親指を立てていたけど。あの時できてたんだしすぐに思い出すよ、とアイリも言ってくれたけど。
みんなで必死になってスタジオで練習した思い出しかない私としては。あの頃にスマホ撮りした映像をみんなで見返した時に、この時はよくできたのにと思ったのは私だけ。「うわー……よくもまあ」なんて、はにかむみんなに。ムッとした。
楽器は数か月触らないと、ここまでなまるんだとか、そういうことじゃなく。
悔しかった。
――。
集中が、できないというのも、あった。
クズノハ様。
私は、ワカモさんに教えてもらったその名前がずっと頭を離れないでいる。
先生は言っていた。
『クズノハのことを気にするよりも、目の前の、いま見えているものが大事だよ』
その人を知っているような口ぶりだった。
すぐに話題は変わってしまった。変えられたのかもしれない。
戸籍は変えることになったけど、そっちは正直、本命ではなかった。先生もわかっていたはずなのに。
宇沢も。朝、出勤前の宇沢に、誰もいないときに。みんながいないときに。それとなくクズノハの名前を出してみたけれど、先生と同じような回答が返って来た。
みんなに聞いてみても。
これは、少し勇気が必要だった。
でも案の定、曖昧な笑顔と、曖昧な答えしか返ってこなかった。『ただの知り合いだよ』と困ったように笑って。すぐに違う話題に。
みんな知っている。
わたしは知らない。
でも、たぶん、私の予想は当たっている。 - 1071824/11/07(木) 07:55:09
「あの、さ」
理由は知らない。わからない。
結果はわかる……気がする。
でも。
パチパチと火が爆ぜた。
太陽は水平線に近づいている。
火は人を感傷的にさせるとはだれが言ったか。
「――来年は泳ぎにこよっか」
でも。
直接的な言葉を出すのは、憚られて。
私の言葉に。
みんながいい顔をしないのもわかっていた。うん。予想通り。
わたしたちはスイーツ部。放課後スイーツ部。
ただの生徒。トリニティ総合学園の、いたって普通の生徒。
「アイリ」
ナツが言う。窘めるように。説得するように。懇願するように。
普段は好き勝手やってるくせに、人の気持ちを一番推し量ることが得意なのは、ナツ。
濃密な付き合いをしたわけじゃないけど。入学して、1年も一緒にいなかったけど。
それでも、この3人とは、私が。
スイーツ部というカタマリはスイーツ部である私たちが、世界で一番理解しあっているのだと、胸を張って言える。
みんなが私に教えてくれないのは、きっと楽しみたいから。今を。私が揃った、4人のスイーツ部。SUGAR RUSHを。
こういう話題を出してしまえば楽しい空気はぶち壊し。見たくないものを見なくちゃいけない。それがわかっているのに。口から出てしまうのは、私の幼さゆえ?
「もうちょっと待ってくれないかな」
アイリは長い髪をそよがせて、揺れる火に目を落した。
「ちゃんとお話しする。だから、もうちょっとだけ。気にしないでっていうのは難しいと思うけど……」
「というか、どうやって説明していいかもわかんないのが正直なところ」
「あはは。たしかに」
でもね、とアイリは言う。
「明日は山に行きたいんだ。しなかったこと、できなかった遊び。みんなでやってね? あと自治区を片っ端から回りたい。変わったところもいっぱいあるし、変わらないところもいっぱいある。昔からあるお店。新しくできたお店。わたしたちがよく隠れた場所。逃げ回った道。そういうのぜんぶ、カズサちゃんと一緒に。もう一回、回りたいなって」 - 1081824/11/07(木) 08:06:03
「あはは。たしかに」
でもね、とアイリは言う。
「明日は山に行きたいんだ。しなかったこと、できなかった遊び。みんなでやってね? あと自治区を片っ端から回りたい。変わったところもいっぱいあるし、変わらないところもいっぱいある。昔からあるお店。新しくできたお店。わたしたちがよく隠れた場所。逃げ回った場所。そういうのぜんぶ、カズサちゃんと一緒に。もう一回、回りたいなって」
「――それはもう、答えだよね。アイリ」
ゆっくり変わっていく世界の色には気付けない。太陽は赤く、水平線に足を付けている。
私からすれば、朝から夕方にいきなり時間が飛んで。だから、世界の色の変化に気付ける。気付ける人がいるから、気付くことができる。
未来を待つばかりだった私たち。アイリ達が――もう未来を見ていないことに。
みんなには来年がない。きっと。
理由はわからないけど、きっとそういう事。
この年月でみんなになにがあったかわからない。病気をしている感じもないし、未来予測が出来るなんて、かつて噂に聞いたセイア様のようなことが、みんなに出来るとも思えない。
不思議と動揺はしなかった。アイリの言葉を聞いても。
多分、現実感がないのが一番の原因。
ピロン、と音が鳴る。
「あ。連絡返って来たんじゃない?」
ナツのスマホ。
短い、初期設定の音。
「この音は宇沢じゃないよぉ」
そして、スマホを凝視したままナツが固まる。
ヨシミが横から覗き込み、そして。
「は……?」
「どしたの? 今日は泊まり込みになっちゃったとか?」
ナツの手からスマホをひったくられる。
そのまま、ヨシミはスマホを耳に当てた。
通話。相手は、すぐに出たらしい。
「もしもし! 細かいことはいいから相手は誰!? 宇沢は大丈夫なの!? あんたも!」 - 1091824/11/07(木) 08:08:18
「なにかあったの?」
アイリがナツに話しかける。訝し気に。
ナツは、ずっと。険しい顔をしている。
「宇沢が襲われたって」
「なにそれ!?」「は? 誰に?」
「ヨシミ。スピーカーにして」
空気が張り詰めていく。
中学時代。ごろつきにもなれなかった、好き勝手暴れてた時代。
どこそこのやつが強いとか。調子に乗ってるとか。
こっちに向かってるとか。
そういう。ケンカの。
大きなケンカの前兆。体中の毛が逆立つような。怖いような、勇むような。
呆然としたヨシミが、スマホを耳から離して、画面をタップする。
通話の音声がスピーカー出力に変わる。
『とにかくこっちに戻らないでください! アタシはみなさんの荷物を回収し――』
雑音。爆音。
悲鳴。雑音。
「スケバンちゃん!」
通話は切れていない。
正義実現委員会? 自警団? ヴァルキューレ?
それとも他の自治区の治安維持部?
思いつく限りの名前が頭に出てくる。
けど。シャーレの所属の人間を襲うなんて度が超えている。あそこを敵に回せば、キヴォトス中が敵に回るのと同じだ。
各校から指名手配をされているのだから。恨みなどいくらでも買っているだろう。ヘルメット団や、他のごろつきたちの仕業も考えられる。
考えたところで意味はなかった。
思いつきもしないところから。
選択肢に上がらないはずの名前が出たから。
通話先の音にも反応を見せなかったヨシミが言う。
ぼそりと。ともすれば、海風に流されて飛んで行ってしまいそうな声で。 - 1101824/11/07(木) 08:09:01
「なんで……」
漏れた言葉は。
「ワカモさんが?」
通話が切れる前。
雑音じゃない。
一発の銃声が確かに。 - 1111824/11/07(木) 08:11:15
- 1121824/11/07(木) 16:20:48
一応ほっしゅ
今回も夕方投稿はむずかしい……リズムが狂っていく - 113二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 18:50:31
- 114二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:38:34
楽しみにしてるので無理のない範囲で更新してもらえれば
- 115二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 05:26:48
通話中に何かあったの、向こうは無事か?
- 116二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 09:10:05
ワカモ皆がカズサに向き合わないのに業を煮やしたか?
- 117二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 12:34:35
ほしゅ
- 1181824/11/08(金) 16:08:31
※
「じゃあ失礼しまーす。お疲れさまでした」
へろへろと退勤していくレイサの背中を見送る。
明日はトリニティに行くと言っていた。カズサたちを連れ、みんなで。復学の件は任せとけ、なんて彼女たちは言っていたけど、難航するだろう。1年や2年どころじゃなく。学校のサイクルでいうならば、何世代にもわたって、延々ゲリラ的で暴力的なライブをしていた彼女たち。戦闘――ライブ――によって街角は破壊され。建物は破壊され。数々のイベントに乱入しては、熱狂をほしいままにして出し物を潰してきた彼女たち。一般生徒からの支持はあるとはいえ、運営を任されるようなトップ層からは、鼻つまみものだとしてもさもありなん。指名手配もやむなし。
けれど、活動の目的も、やむなしだった。どこの学校もそれは理解している。たとえ世代が変わっても。いや、世代が変わっていくからこそ、スイーツ部の三人と宇沢の執念に、畏怖のようなものを見出していく。
無音でしなだれかかってこようとしたワカモを避けた。不満そうに私をいたずらな目で睨んでくる。
レイサが日報を提出する間、身と気配を潜めていたワカモは。
一年でいいからと私の説得で、ひたすらおとなしくしてもらい、なんとか百鬼夜行連合学園を卒業させた。なんでも一つ言う事を聞くからと。彼女の本質を。破壊衝動を我慢してもらって。
ワカモが20になる年に。
晴れて彼女は卒業し、一度キヴォトスを去り。そして、戻って来た。
「”ワカモ”」
「はい、なんでございましょう。あなた様」
そのなんでも、というのは、私にできることならば、という言葉も含んだのだけど。操を貰ってくれと言われても困ってしまうし。莫大な金銭を要求されたところで用意もできない。
ワカモは即答した。
一生おそばに置いて欲しいと。
ワカモの望みは二つ返事で認めた。
もちろん、私に愛想を尽かせば去っていいということも伝えた。
ワカモはここにいる。まだ。私のそばに居てくれる。
まだワカモは、私に人生を賭ける価値を見出してくれている。
「”トリニティに行って欲しいんだ”」
「トリニティ、ですか? かまいませんけれど……」 - 1191824/11/08(金) 16:19:36
- 120二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 23:03:08
やっぱ卒業ってのが重要なのか
- 121二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 08:47:47
ほ
- 1221824/11/09(土) 16:21:04
私はデスクのカギを開け、無記入の書類を一枚取り出す。
彼女たちは格式を重んじる。築いてきた信用を使えばたとえモモトークでの連絡でも良い顔をしてくれる彼女たちではあっても、郷に入っては郷に従え。正式な依頼に関しては、極力公的なやり取りを想起させるような、格式ばったやり方を使う方が、彼女たちも安心してくれる。
それがアイデンティティ。トリニティの。
私は生徒の困りごとを解決する存在。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの顧問。
学園テクスチャにおいての主人公。大人。先生。ジョーカー。
黒服の言うことはときにわかりづらく、ときに吐き気を催すほど説得力がある。
私は役割を果たせなかった。
黒服は言った。
『あなたは失わなければならない』
約束を違えれば信用を失う。
信用。
世界から与えられた役割をまっとうできなかったわたしは何を失えばいい。
ずっと考えていた。答えは出ている。
だれも望んでいないとしても、だ。
大人として責任は負わねばならない。若いころから、ずっと言い聞かせてきたこと。
ワカモの髪がデスクに落ちる。私の背中に重みと柔み。嗅ぎなれたお香の自然な匂い。シャンプーの化学的な匂い。二つが混ざって、ワカモの匂い。
存在しているワカモの。確かにそこにいるワカモの。
『先生。この学園都市が出来たのはいつだと思いますか』
何年前だったかの話。
いつかは重要ではなく、何を話したかが重要で。
カズサの一件で手を組んだ黒服が振って来た、定期報告ついでの何気ない話。研究結果。あくまで仮説。悪魔の証明。
黒服すら実際のところはわからないといった推察の話。誰も、何の確証も持てない、ものの起源。
- 1231824/11/09(土) 16:27:02
キヴォトスにはいろんな事件があった。ここにきて一年目の、ただでさえぺーぺーの時ですら。
アビドスの一連の事件。ミレニアムのアリスの一件。二度失敗したエデン条約。アリウス。キヴォトスが滅びそうになったのも。百花繚乱の内乱も。
たった一年の間に噴出した出来事は。
唐突に発生したものではなく。すべて、事件に至る歴史があった。
被害はいつも、歴史を創った時間の末端。その時を生きていた人が被るもの。
『我々は――私は先生より先にこの世界に来ました。記憶もあります。物的証拠もある。たとえば先生がアビドスのホルスと接触したとき、すでに私は当代のホルスとは接触済みでした。彼女を囲うためにさまざまに交わした契約書を見れば、それは確かにあなたが来る前。未だ見つからぬ過去の連邦生徒会の生徒会長の失踪も、私はキヴォトスの中で知りました』
『”生徒会長、か”』
私は私に画面を向けて沈黙するシッテムの箱を見やる。
『物はある。記憶もある。しかし、証明はできません。できないんです』
物はある。確証はない。しかし、証明はできない。
あの列車の中の血まみれの女性は。それとよく似た幼い姿のOSは。
確証はなく、聞かず。
なぜなら、私は歴史の末端。
『この世界に学園のテクスチャが張られ。あまたの神秘がここキヴォトスに、違和のないよう存在している。そのテクスチャはいつ適用されたのか。ホルスとセトの件は――ああ、あれは以前正式に謝罪したはずです。睨まれるいわれはありませんよ先生。……他者は第三者が認識して初めて存在します。ゆえに、この世界は第三者の観測によって存在が許されている。それは個々の神秘たちであり、個々の神秘はまた、一個人の目線を持っている』
『”――至極当たり前の話だね。”』
当たり前のことをなんども繰り返し。煙に巻くような曖昧な物言い。
『第三者の観測。もともといた神秘たち。そしてキヴォトスにあなたがやってきた。神秘そのものもですが、それそのものを研究するのが、私の至上の悦びだった。過去の卒業生は何処? 生徒たちの親は? 過去は誰が観測した? 新入生はどこから来る? 外の世界とは? ……先生。決して否定できない思考実験。学問を捨てたどうしようもない子供の駄々のような理論。単純であるがゆえに反論を許されない真理のひとつとも言えるお話がありまして』 - 1241824/11/09(土) 16:28:59
必要項目を埋めて行き、最後にシャーレの、公式な依頼である証の判子を押す。名前も、私の実名を。しっかりと。
これは私の依頼。間違いや偽装ではない。これをワカモが彼女たちに渡すことがなによりの証。現実の。歴史の末端。切り口。私や他人が唯一干渉できる、ロールケーキの端。
『”もったいぶらないでいいよ”』
『世界は先生が認識したときにすべてが定義された。生徒たちはそのように。過去はそのように。舞台装置の獣人や機械人もそのように。因果も時間も先生の認識に際してすべてが定義され、用意された。あなたのために。この世界は――あなたのために用意されたのだと』
……。
「よろしいのですか?」
私から封書を受け取ったワカモが困惑した顔で尋ねる。
後ろから私が書く書類を見ていたから。そう言う。そういう顔をする。内容がわかっているから。これをトリニティに渡すことで起きることではなく。私がこれをトリニティに渡すことに困惑している。
珍しい顔。長い付き合いになるけれど、なかなか見れるものじゃない。
空港で。キヴォトスから一度出るための空港で見せた不安げなあの顔も。
わたしはワカモの生い立ちを聞いた。ワカモにはその記憶があるから話すことができた。
でも、過去にはだれも触れられない。証明はできない。
【そのように創られた】中に生まれた者たちは、すべてを定義されている。決して否定できない思考実験。どうしようもない子供の駄々のような理論。単純であるがゆえに反論を許されない真理のひとつ。
けれど。
「”いいんだ。それから――”」
ワカモにモモトークを送る。
アイリ達が使っているセーフハウスの住所。
ナギサ、ミカ、セイア。ごめんねと。この世界のどこかにいる彼女たちに、心の中で謝って。
「”ここを壊してきて。中に一人、たぶんスケバンの子がいると思うから、彼女にはなるべく危害が及ばないように……。あ、でも”」
「連絡手段も絶てばよいのでしょう? 栗浜アケミさんにすぐ動かれては面倒ですもの」
クスりと笑う。
私も笑う。
くすぐったい、なんでもない、日々の雑談の一コマ。
私が失うもの。失うべきもの。 - 1251824/11/09(土) 16:32:08
「それでも、先生」
【そのように創られた】中に生まれた者たちは、すべてを定義されている。決して否定できない思考実験。どうしようもない子供の駄々のような理論。単純であるがゆえに反論を許されない真理のひとつ。
けれど。
「私は、あなた様のおそばにいますわ」
歴史は続く。
新たなしがらみと歴史を、創りつづける。
それが……。私の幸せであり。
望むこと。
独りよがりな私の、独りよがりな結末。結論。
私はもういらない。歴史の切り口に立ち続けるべきじゃない。切り分けられ、食べられるべきもの。消化されるべきものになっているはずだから。
「”ありがとう、ワカモ”」
「……宇沢さんはいかがしますか?」
「”そうだね……”」
わたしはシッテムの箱に目をやる。
この時間だ。眠っているのだろう。
私は仮面を付けて出立の準備が整ったワカモに、笑顔を作って言う。
ワカモは賢い。多くの言葉は、私とワカモの間にはいらない。
そういう時間だ。15年というのは。
「”全治3週間ぐらいで”」
「承知いたしました。では、行ってまいります」
まばたきの間に。
ワカモは私の前から消えていた。
すべてが終わる。
ようやく、キヴォトスは。
ようやく、キヴォトスが、始まろうとしている。
老優は去り行く。
鳴りやまない喝采は、誰のため? - 126二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 20:07:36
先生また生徒のために無茶しようとしてる
- 127二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 06:27:44
ほっしゅ
- 128二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 17:04:40
ほしゅ
- 129二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 00:46:31
ほ
- 130二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 02:51:36
まるで世界五分前仮説みたいな
- 131二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 08:21:23
先生何か背負い込もうとしてるな
- 1321824/11/11(月) 16:06:16
靴を履き替えたのはいつからだったっけ。
私服用のスニーカーだって一応持っている。履く機会は多くない。何年か前に買った一足が、未だほぼ新品状態で残っていることを考えれば、二足目を買う気持ちも薄れる。
やってることは自警団時代とあまり変わらないのだから、スニーカーのままでよかったのに。
背伸びをした。パンプスだなんて、すぐに脱げて運動には向かない。
スニーカーは公的機関には似合わない。
恰好から大人になれば、すぐ大人になれると思っていた若い意識が、だらだらと続いている。
「あー……。痛いですねぇ」
恰好つけのために買った、給料1ヶ月分のバッグ。そんなのがうちにもういくつかある。バッグなんてものはいくつあっても困らない。だからこそ、無限に増えていく。何十万ものバッグが。身体は一つしかなくて、一回に使えるバッグは一つだけなのに。
無駄なものを買うようになった。金で時間と信用を買うようになった。
じゃないと回らなくなっていく。大人の時間は短く、信用は得難い。
肩ひもがちぎれ、中身が散らばったバッグ。片足が涼しい。靴が脱げたんだろう。
スズミさんにもらった化粧ポーチがまた汚れた。もうボロボロだからって、アイリさんたちがくれたポーチは、結局まだ使っていない。
そろそろ替え時なのかも。
いろいろなことを。
頭が痛い。肩が痛い。腹が痛い。両足が痛い。体中が痛い。
私の銃は。シャーレに置きっぱなし。
先生の真似。銃を使いながらシャーレの仕事をするのは、先生っぽくなかったから。
あるのは、ハンドガンが一丁。キヴォトスで生きるなら、銃の一丁は持ち歩かないと、白い目で見られる。
あくまで形だけ。特別なのは先生だけ。
学生たちは気軽に銃を使ってケンカをする。私も昔はそうだった。
今の私の武器は暴力ではない。
だから、お飾りの銃。ハンドガンなんかないのも同じ。銃口を押し付けて撃って、ようやく意味があるようなシロモノ。
あくまでマナーとしての一丁。シャーレで働くと決まったときに、給料が出る前に。貯めたお小遣いで買った一丁。装飾だって、シャーレの紋章を入れてもらったりして。それなりに凝った意匠にしてもらった。一つの意思表示。子供から大人に変わるための。
- 1331824/11/11(月) 16:08:35
足音。
嗅ぎなれた香り。
夕暮れ、夕方、夕間暮れ。
薄暗い町。点き始めた街灯。
人通りのない小径。
――狐面。
「――ワカモさん……ですかぁ……」
救援にしては早すぎる。先生のそばを滅多に離れないワカモさんが、ここに。トリニティまで来ている理由がわからない。
わからない。つまり、変。
またぞろ変なことに巻き込まれたどこかの生徒が、シャーレの下っ端を襲撃しただけだと思った。先生を襲撃すればキヴォトスでは生きていけなくなる。だから下っ端を。なにかしらの主張を叩きつけるために。
でも違う。わからないから。ここにいる理由が。
わかるのは、ワカモさんは、先生の。
武器を持たずにキヴォトスに生きる先生の、武器。
ポケットが漁られる。
スマホが取られる。
壊される。
「なぜです……?」
動かない両足。いくら頑丈な身体とはいえ、関節を。威力の高いワカモさんのライフルで撃たれてはどうしようもない。すこし動かすだけで激痛が走る。曲げるなんてとんでもない。
「なぜ、ですか」
銃剣のついたライフルを担ぐ。夕闇に浮かぶ狐面。私と違い、ワカモさんはずっとあの銃と生きて来た。的確に私の身体の、狙った場所に銃弾を叩きこむことなんて、造作もない。
災厄の狐。
七囚人なんて呼び方は私たち世代特有のもの。今の子たちには通じない。災厄の狐。そう呼ぶ方が。キヴォトスの中でも薄暗い道を歩くような人たちには、そう呼んだ方が通じる。
私がワカモさんに動いてもらうようお願いすれば、街角どころか、区画一つは破壊されてしまう。そういう人。普段の物腰からは想像できないけど、とにかく、頼んだ10倍は被害を大きくして帰ってくる。キラキラした顔で帰ってくる。破壊がなにより好きな人。
私が暴力を捨てて大人になろうとしたのなら。
ワカモさんは暴力を極めて大人になった。
ではいま、そうしないのはなぜ。鼠退治にすら爆薬を使う人なのに。
この人は先生の武器。そのように動かせるのは。
「先生のためです」
熱っぽい声。
そう、こういう人。 - 134二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 23:19:08
カズサが居なくならなければまた違う未来を歩んでたんだろうなレイサ
- 135二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 06:02:55
先生のため、かぁ
- 136二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 15:30:07
ワカモは変わったというべきか言わないべきか...
- 1371824/11/12(火) 16:13:44
カツコツ。
足音が小さくなる。
それだけ。
私を襲うだけ襲い、目的はそれだけ。今までの付き合いとか、しがらみとか。仲がいいとか悪いとか。そんなのは、ワカモさんには関係ない。
「――っつぅ」
動かない足。痛む足。我慢して、なんとか上体を起こして壁に寄りかかる。
考えろ。考えろ。考えろ。
ワカモさんが。先生が私を襲ったことにショックなんか受けるな。考えろ。脳みそを止めるな。時間がない。私だけならいい。愛想をつかされただけならいい。でも、先生はそういう人じゃない。底抜けにやさしい人だ。沢山尻ぬぐいをしてもらった。私がいろんなことに目をつむったのなら、先生もまた、いろんなことに目を瞑ってくれていたのだから。
必ず理由がある。物事には因果と言うものが必ずある。
私はシャーレの関係者でSUGAR RUSHの関係者。
先生の部下であり、先生の代わりに生徒を続けた皆さんを見守る役割を任された大人。シャーレに入ったとき、そうして欲しいと、私は頼まれた。
考えろ。
いま考えなければならないのは、優先しなくちゃいけないことは。
一人で考えることじゃない。皆さんのために。最善を。私は、皆さんをハッピーエンドを迎えさせなければいけない。プライドも、正義も、そのために。皆さんのためのプライドと、皆さんのための正義をするのだと。決めたじゃないか。
とにかく連絡を取らなきゃいけない。
アケミさんに。
それから、先手を打たなければ。
理由はわからずとも事実、私はワカモさんに。先生に攻撃された。それが事実。ショックを受けている暇があったら行動しなくちゃいけない。じゃないと、取り返しがつかないことになる。私は。皆さんは。時間がないのだ。ラストライブが一つの刻限だと。黄昏は終わる。夜が来る。それはどうしようもない。世界の決まりは、決して変えることはできない。ハッピーエンドへの条件は厳しく。ただでさえ、ライブの件では予想外のことが起きたのに――。
- 1381824/11/12(火) 16:16:07
――。
……。
そうか。
そっちも、か。
……。
理由はあとで良い。今は、今を解決しなくちゃいけない。
私はわきの下に固定したハンドガンを手に取る。スマホは壊す癖に銃は遠ざけないあたり、いかに戦闘力で見下されているかがわかる。それでいい。そうでよかった。
幸いここは鉄筋の建物に挟まれた細道。こんな威力の弱い銃は、キヴォトスでは脅しにもならないけど。
必要なのは威力じゃない。音。杏山カズサを探すために、音を選んだ3人と同じように。
見つからないなら、音で。見つかるまで。
だから。
大声は得意技だ。
思い切り息を吸い込む。何度かむせる。腹が痛い。
知るか。
思い切り息を吸い込む。
通りに向かって。
「だぁぁあれぇぇええかぁああーーーー!!」
叫びながら銃を撃つ。耳がキンキンと。鼓膜がビリビリ痺れる。
女の声は良く通る。私はそれを知っている。お前の声はうるさいと何度も言われたから。
SUGAR RUSHの臨時ボーカルを舐めないでください。新曲の。最後の新曲のボーカルだって、任されたんですから!
うるさくするのは十八番です。
2度叫ぶだけで。マガジンの残弾も残っているうちに。
通りの向こうに、こちらを覗く人影が、ちらほらと。 - 139二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 23:38:03
変わった宇沢の変わらないもので反撃するのいいね
- 140二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 06:02:05
……アツいね、好きだよそう言うの
- 1411824/11/13(水) 16:14:58
※
セーフハウスもそうだけど。スタジオもそうだけど。
トリニティ郊外というのは、一般の生徒があまり立ち寄らない場所。ここから通う生徒というのは非常に稀で。繁華な場所からも離れているから、店も企業もほとんどなく。挙句、学生が自治権を持つキヴォトス特有の権利の複雑さが浮き彫りになっている。つまり。所有者が曖昧で宙ぶらりんな建物が多い。
そんな場所。そんなところに、彼女たちは根城を構えていた。
セーフハウスに戻るなと言われ。かと言ってスタジオに戻るのもと話し合っていた私たちの前に現れたスケバンたちは。私たちを彼女たちのアジトへと案内してくれた。宇沢も回収され、そこにいると道中話を聞いた。
夕方にビーチを出発して時刻は夜更け。スケバンたちの車は、後部座席が目張りがされていて外をみることはできなかった。それはつまり、外からも中が見えないということ。まるで犯罪者の護送車然とした乗り物。SUGAR RUSHで使っている車で移動は止めた方がいいと言われてしまった。あれはあれで、アウトロービーチの人目がつかない場所に隠しておいてくれるらしい。
「姐さんと宇沢さんは二階にいらっしゃいます」
場所がわからないまま車から降ろされた私たちは待機していたスケバンに案内され階段を上る。明かりが付けられていない階段を、スマホのライトを手掛かりに。いたるところに木箱や段ボールが積み重ねられ、どことなく火薬のにおい。それから、ジュースかなにかの瓶が大量に。
「これ、お酒だね」
ナツが言った。
「お酒ってめちゃくちゃ取り扱い厳しいんじゃなかったっけ」
ブランデー風調味料で漬けたラムレーズンと、ブランデーで漬けたラムレーズンは別物。
学生街であるキヴォトスでは。お酒と煙草の輸入は原則として禁止されている。ここで暮らす大人たちも簡単にお酒を手に入れることはできない。原則購入できるのは飲食店経営者のみで、なおかつ調理にのみ使用が許される。身分証明書や使用用途を示した書類はもちろん、何の料理にどのぐらい使ったなどの細かい報告義務や空き瓶の回収義務があるから、あまりの面倒くささに大抵の飲食店は風味調味料で代用していると、お店の人に聞いたことがある。値段もべらぼうに高い。
- 1421824/11/13(水) 16:28:04
だからこそ、本物のお酒が使われたスイーツなんていうのは、お金に余裕がある生徒ですら、なかなか手が出ない値段になる。泣く泣く諦めたスイーツだって数知れず。
そんなお酒がごろごろと転がっている。
「ここ数年でレベルが上がったお店が増えたと感じていたけど……こういうことなんだねぇ」
密輸。
自治区はもちろん、連邦生徒会すら動きそうな、ルールからの逸脱。
ブランデー。ワイン。ウイスキー。スピリッツ。リキュール。サケ。多種多様な酒。雑誌では見たことがあるけれど、現物を見たのはこれが初めて。
みんなはアケミがどんなことをしているのかは知らなかったらしい。
ただ。
「あ、これ美味しかったよね」
「ウイスキーは香りがきつ過ぎて私は苦手。あ、でもこっちのズブロッカは好きだったわね。お菓子みたいな香りで」
「私はコーヒーリキュールに牛乳一択」
「あんたは牛乳混ぜりゃなんでもいけるじゃない」
「ヨシミだってジュースで割るくせに」
……飲んだことあるんかい。
「カズサも飲んでみる?」
「飲む」
「わーい! カズサちゃんとお酒が飲めるー!」
「いやいや……それ売りモンなんで勘弁してください。姐さーん。商品に手ぇ付けられそうなんですけどー!」
スケバンが叫ぶと思い足音。
それから扉が開く音。ドア枠よりも大きい巨体がかがみ、こちらを見やる。
逆光の顔。形でわかる。アケミ。
「どれでも一本15万ですわ。もってけドロボー」
「たっっっか!!」
「あら。正規な手続きを踏んでも8万はしますもの。煩雑な手続きと時間を買うと考えれば安いものではなくて?」
「ちなみに原価いくらよ」
「ヨシミちゃんが好きなズブロッカは、輸送費込みで2千ってところでしょうか」
「ボッタクリじゃない! ブラマで飲んだ時は一杯一万円もしたのに!」
「そういう場所なんです。キヴォトスは。」
アケミはそう言って、私たちを扉の中に入るように促した。 - 143二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 23:05:01
もうスケバンってレベルじゃないな
- 144二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 06:57:23
このレスは削除されています
- 145二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 07:54:47
キヴォトスでは御法度のアルコール類の密輸...スケバンどころじゃないなマフィアだこれ
- 146二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 08:21:19
原作時空のカイザーとかブラックマーケットで活動してるアウトローの立ち位置に成長した生徒が収まったと考えるとこれぐらいやっててもおかしくはないか?
ただレイサやSUGAR RUSH経由で先生と繋がり強そうだから加工目的や大人への販売のみで生徒には卸して無さそう - 147二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 16:59:44
今日は投稿できませぬ!
すまねえ!ドン - 148二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 23:05:17
ほしゅ
- 149二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 05:11:24
実際お酒はキヴォトスでは扱い厳しそうよね
確か相当に厳しい管理してるんだっけ? - 150二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 07:16:13
ハルナが手に入れられない程度には厳しい
- 1511824/11/15(金) 16:39:49
質素な部屋。
窓には板張りして外に明かりが漏れないようにされていた。廃墟が廃墟であることを守るために。電気も通っていない。あるのはアウトドア用のガス灯。燃焼する音が小さく部屋にある。
薄暗い部屋に置かれた小さいテーブルの上には水差し。椅子が2脚。それから保健室にあるようなパイプベッドが1台。映画に出てくるような犯罪組織のインテリア。
そんな部屋の中で逆光に佇むアケミやスケバン。
ベッドの上には。
「皆さんが無事なようでなによりです」
傷だらけの身体に雑な治療が施された宇沢がいた。
「だい、じょうぶなの?」
上着を脱がされ、下着姿に包帯が巻かれている姿は痛々しく。暗くて見えづらくてもわかる。擦り傷はもちろん、打撲のような跡が、青黒く肌に浮き出ていた。
だらんとさげられた腕。麻布が掛けられた下半身。私の。いや、私たちの目線に気付いた宇沢は。
「あはは……。下は恥ずかしいので勘弁してください」
とはにかんだ。
女だけの場所で恥ずかしいもなにもあったものではないのに。そんなことを言っていられる状況でもないくせに。
お腹を隠そうとする宇沢が腕を動かそうとすると、顔をしかめて唸り声。
「いいから。誰も気にしてないって。見なよナツの身体を」
「おー!? 急に飛び火させるの良くないと思うなぁ!」
ギィ、と木の軋む音。
アケミが、その巨体には小さすぎる椅子に座ってため息を付いた。
「問題は関節です。肩、腕、股関節、膝、足首。抜かりなく関節をやられています。さすがはワカモちゃんと言ったところでしょうか。頑丈なキヴォトスの人と言ったって、痛みは感じますもの」
「病院は?」
肩をすくめて「もちろん連れて行こうとしましたわ」とアケミはそばに立つスケバンの一人を見た。困ったように「へい」と答えたスケバンは、たぶん、宇沢を回収した子なのだろう。
質問に答えたのは宇沢。
「公の目から離れることが優先だと判断しました。幸い出血はありませんし、信頼できる医療関係の子を迎えに行ってくれるよう、アケミさんにお願いしましたから」
「なんで……? なんでそんな、犯罪者みたいに」
こそこそしなければいけないのか。
「理由がわからないからです」
ワカモさんが襲ってきたということは。
シャーレに襲われたも同義なのだと。宇沢は言った。 - 1521824/11/15(金) 16:41:27
キリノいいとこまで書けなかったので今日はこんな感じで……
ちなアケミ達のイメージはもう、完全にマフィアです - 153二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 22:23:31
鈍ってないなワカモ
- 154二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 02:26:20
んー、なかなか大変なことになってきたな
- 155二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 12:11:31
保守
- 1561824/11/16(土) 16:22:50
すみません、今日は夜(Or朝)投稿しまする
- 157二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 23:36:18
保守
- 158二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 08:41:09
シャーレに襲われたも同義、か
- 159二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 17:26:39
保守〜
- 160二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 01:37:04
今追いついた。ドキドキしながら読ませてもらってます。
- 161二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 05:31:09
関節とかって人間や動物問わず明確なダメージが入る箇所だし、集中的に攻められたら痛いだろう
- 162二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 06:59:45
理由がわからなくても覚悟決まってるのは明白だもんな
- 163二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 16:40:22
先ずは相手側の理由を知るのが安牌か?
- 164二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 17:07:59
このレスは削除されています
- 165二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 17:10:34
このレスは削除されています
- 166二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 17:15:51
このレスは削除されています
- 167二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 17:18:43
このレスは削除されています
- 168二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 17:21:22
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- 169二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 17:22:38
このレスは削除されています
- 1701824/11/18(月) 17:26:47
どうも嘘つきです。
いろいろあってメンタル死んでるんや……勘弁してくだちい……。
頑丈なキヴォトス人、関節撃てば無力化できる説推したい。
頑丈な奴らが徒党組んで、大人のずるがしこさを得たら、たぶんアケミ達みたいになるんじゃないかなぁ……と思って書いてます。
ヘルメット団も真似して煙草の利権を獲ろうとして大失敗した説。
まあ向こうにはアケミみたいなのいなさそうだし……。ラブちゃんエンジョイ勢っぽいし……。 - 1711824/11/18(月) 17:27:15
ほしゅ、ありがとうございました!
- 172二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:04:55
ほしゅ。応援しとるで
- 1731824/11/18(月) 22:45:36
ちょっとバカみたいなミス見つけちゃったので修正します……
話の大筋には関係ないとこでしたがァ……直させてェ……くだせぇっ! - 1741824/11/19(火) 04:44:48
小さな諍いはもちろん、かつてあったような大きな事件の際も、一つの戦線を一人で支えられるような人。
スイーツ部のみんなが師匠と崇めているのも、そんなワカモさんの。
少人数で多人数を相手取るためのやり方を教えてもらったから。
初めはシャーレの手伝いとして付いて回り。
徐々に独立して、他のやり方も取り入れていったと。みんなは言っていた。
「理由ならいくらでも考えられます。わたくしと懇意にしていることがそもそも、ですもの」
「でもアケミさんと連絡取り合ってるのは先生も知ってる。カズサの件を手伝ってもらってるってのは報告してたわけだし。だのに見つかったタイミングでこんなことするなんて、あまりにも性格悪すぎよ。先生ってそういう人だっけ」
軽蔑したようなヨシミの物言い。
人間長く付き合えば、憧れのほかにも、どろどろした想いなどいくらでも感じるに違いない。
でも、私としては。なんだかヨシミがそういう風に、言うのは。なんだかもやもやする。
少しの沈黙。
アイリが口を開く。
「……レイサちゃん。このお酒のこと。レイサちゃんは知ってたの?」
宇沢はへへへ、と笑って目を逸らした。漫画的表現をするならば、冷や汗の一滴が光って見えた。かもしれない。
水差しの水を勝手に飲み、半分笑いながら。ナツが言った。
「知ってたどころじゃないでしょ~。こんなの、自治区とか連邦生徒会に顔が利かないとできないって。書類の偽造とか、データの改ざんとか必要になるじゃん? こないだ住民票の件でミレニアムの子に電話してみたらね、連邦生徒会が管理する生徒の情報へのクラッキングは無理って言ってた。よくわかんないけどさぁ~? ”すたんどあろーん”だから、物理的に無理らしいよぉ」と。アケミの隣の椅子に腰を下ろした。
そう。先生ならできる。シャーレならできた。改ざんも、つじつま合わせの偽造も。
先生にできることすべてとは言わないけれど。シャーレ所属の宇沢ならある程度はきっと。
私たちの、スイーツ部の視線が一斉に宇沢に集まる。
やはり、目を逸らす。こちらを見ない。
「宇沢……あんた」
たとえそれが私のためだとしても。だからこそ、心苦しいのはもちろんだけど。清濁併せ持つことが。”それが大人”だと言う人だって、いるかもしれないけど。
けど。けど。けど。
だめなものは、だめじゃん?
- 1751824/11/19(火) 04:48:31
「やっちゃいけないことぐらいわかってるよね? いくら私を探すためだからってこんなことしてたんなら、うれしくない。仮にもシャーレで働いているなら――」
「杏山カズサ」
アケミはこつん、とテーブルを指で叩き、それだけで私の口を一度、閉じさせる。
この一件はアケミが主導しているのは間違いなく。
叱られた子供みたいにしゅんとする宇沢。その宇沢に。
「あんたがやらせたって言うなら、私は許さない」
私の背筋に熱された鉄棒が入れられたように、ぞわぞわする。
鼻から息を漏らして。面倒な態度を隠しもせず。
唇を吊り上げて小さく笑った。笑ったのだ。嗤った。
そのアケミの顔を、わたしはぶんなぐるために。
高級そうな服の。特注だろうシャツの胸倉を掴み拳を振り上げる。私の腰がぶつかってテーブルの上の水差しが倒れる。靴が濡れる。立っていたスケバンが、すぐさま私の身体を掴み、脇腹に銃口を押し付けた。さすがに銃口を押し当てられてそんな場所を撃たれれば、あばらの一本も折れる。でも。そんなもので止まる私じゃない。耐えられる。アケミは、片眉を上げ、抵抗しない。
公の事業に噛むならば。
公の事業の人間がかかわっていれば話は早い。
私は。
うっとおしかった。正義だなんだと、そんなに言うなら正実に入ればよかったのに。自警団なんていう、なんとでも言い訳の利くところに入って、わたしをつけ狙ってくる宇沢が。本来介入すべきではない小さなことにすら口を出せる大義名分。身勝手な正義を振りかざしてくる宇沢。うっとおしかった。
でも。
少し羨ましくもあった。
だって、私には。
何か一つの、確固たるものなんて、持ってなかったから。
スケバンだってやめた。スイーツ部に入ったのだって、アイリに――。結局は他人に憧れて。自分が好きなわけじゃなくて。アイリや、ナツや、ヨシミみたいに。一から十までスイーツまみれな脳みそを持っているわけじゃなくて。
羨ましかった。尊敬していた。みんなを。くすんでいるのは私だけ。羨ましがるだけ。
それを捻じ曲げてまで私を探してくれたのは素直にうれしい。
でも、利用した奴がいるなら。程度を超えた道に。先生の近くに居るのに、先生を裏切らせるようなことを唆したのなら。
私の友だちを深みに堕とした奴がいるなら、私はそいつを、許さない。 - 1761824/11/19(火) 04:49:46
「待ってください!」
宇沢が叫ぶ。
「待ってください、杏山カズサ。アケミさんに取り引きを持ちかけたのは、私です」
「宇沢……!」
「だって、だって……!」
口ごもる宇沢。
次に口を開くのはアケミ。
その顔は、彼女が子飼いのスケバンに向けるようなもので。わたしにもかつて向けられた、”内側の人”にアケミが向ける、優しい顔。
「悪役としてこの身を立てたわたくしです。悪役なりの矜持もあります。その矜持に誓って、わたくしは、杏山カズサ。あなたに言います。取引を提案したのはわたくし。シャーレの身分を持つレイサちゃんに近づいて、杏山カズサ。あなたの捜索の協力を人質に。わたくしはわたくしの夢を叶えるための取引を。原罪を唆した蛇。世界から消えていたなんてクソったれな事実はどうしようもありませんでしたが……。あなたを一番最初に見つけた人を考えれば、レイサちゃんの判断は間違っていなかったと、そう思いませんか?」
「最初に私を見つけたのは宇沢でしょ」
「あの日は、街にたむろしているスケバンの子から連絡を貰ったんです。聞いてください。アケミさんも、言葉で弄するのはやめてください。私が提案されたのは”手段を問わず継続的にお金になること”。ブラックマーケットに頼らない手段で、ということ。そこでお酒を提案したのは私です。アケミさんじゃありません」
アケミが私から目を逸らし、宇沢を睨む。
そして、大きくため息を吐く。
「――そう。で、わたしはどっちを殴ればいいの?」
「これはそんな簡単な話じゃなくですねっ」
「振り上げた拳はどこかに落とさなきゃ気が済まないんでしょ。にひ」
……。
よくわかんない。
私は、体を押さえていたスケバンを振りほどき、アケミの顔面を思い切り殴った。重い。椅子ごともんどり打ったアケミを背に。宇沢の頭にもげんこつを落とす。
「――ッうぉおおいったぁーい! 何するんですか! けが人ですよ私一応!」
「よくわかんないから両方殴ればいいかなって」
久々に直に人を殴った。
拳が痛い。
ぷらぷらと手を振る私に、腕を動かせず頭を抱えられない宇沢はぷるぷると震え。涙目で。
「野蛮人!」
「あ”ぁ?」 - 1771824/11/19(火) 04:51:45
けらけら笑うナツとヨシミはひと睨みしておく。「おーこわ」と冷やかされるのがまた、腹立つ。
どっちが悪いとか、たぶんそういうのじゃなくて。
両方悪いってことでいいだろう。うん。多分。間違ってはいないはず。とりあえず、私の気はこれで晴れた。両成敗。
というか、悪いと言うか。まあ、悪いことをしているというのは間違いがないとしても。
……でも、宇沢とアケミがお互いをかばい合うような状況に、すこし面白みを。感じてしまう。
鼻血を垂らしながら起き上がったアケミの顔をスケバンが拭う。こいつはこいつで、もはや私なんかが手の届かないような組織を作り上げているだろうに。拳を振り上げたとき。アケミは少しだけ、私から目を逸らしていた。見ていたのは、たぶん。私を押さえていたスケバンで。
手を出すなと、口には出さずに。
ため息。今度は、アイリ。
「じゃあ、お酒の取引を止めれば先生は許してくれるってことかな?」
ドタバタをあきれ顔で流し。腰に手を当てながら言った。
いたずらの制裁。
背信行為をした宇沢への教育。
今回の一件がそういうことならば。
それならば話が早い。今すぐ、ここにあるお酒すべてシャーレに持っていき、全員で土下座して、矯正局にでもなんでも入ればいい。
許しがあるなら、素直に従うべきだと、私は思う。
けれど、宇沢の言葉を使うなら。話はそう単純なものでもなく。
なにより。
みんなが。スイーツ部のみんなが来年を見ていないことを考えなければの話で。
「お酒の件は、わたくしたちはもう充分です。売り上げを元手に、不動産業界に食い込むことができましたもの。――ただ。わたくしたちが流通を止めることで、困るお店も出てくるのは確か。長年取引を続けてくださっているお得意様もいますわ。規制の緩和があれば良いのですが」
「キヴォトスに残る生徒が増えたので、カビの生えた規制は変えるべきだという派閥も力をつけています。遠からず動きはあるでしょう。ですが、おそらく。おそらくなんですが……。お酒の一件。これは、関係ないのではないかと、私は思うんです」
「どういうこと?」
「トリニティにもたぶん、手を回されているんです」
口を挟もうとしたヨシミをアケミが抑えた。
間を開けて、宇沢はまた話し始める。 - 1781824/11/19(火) 04:58:21
「本当はぜんぶスムーズに行くはずだったんです。言った通りです。当代のお三方は協力的でした。……セーフハウスの場所を知っているトリニティがなぜ、指名手配をかけている皆さんを比較的自由にさせていたか。買い物ができ、街中を歩くことができたのか。今までを考えていただければ、おのずと、彼女たちは敵ではないと。なかったと。わかっていただけるはずです」
「ん……。まぁ確かにそうね。スタジオだって使えてたし」
「銀行の口座もずっと機能してるし……。直近で言うならカズサちゃんのスマホだって、ナツちゃんの名義ですんなり契約できたし……。よくよく考えたら、変、なのかも?」
「参考までに」とアケミが言う。
ワカモさんもそうならば、アケミだって。指名手配犯の一人。
それも、ただ暴れるだけのSUGAR RUSHとは比べ物にならないほどの凶悪犯の、一人。
「わたくしが人前に姿を出せばすぐにヴァルキューレが飛んできますわ。口座も、このスマホも、ブラックマーケットに流れている幽霊名義です。何年も前に卒業された方のものが売られていますのよ」
「そんなのあるんだ……」
「――他校はともかく、トリニティ内での指名手配は形式上のものだった、ということです。あくまで他校が指名手配をしたから。皆さんを停学中の身として、生徒として擁するトリニティ総合学園としては、特別・特定の生徒に甘いわけじゃないと示さなければならなかった。歩調を合わせなければ、皆さんを他自治区に送り込んでテロ活動させているとも見られかねません。これは直接、少し前のホストから聞いたことです。ここまで……。事情を知っている先生が、今。ここまでする理由。私を襲い、復学を邪魔し、ライブの開催すら危ぶませる。これは多分。お酒だけではないと思うんです。確証はありませんが、先生はそういう人ではありません。というか、制裁にしては話がめちゃくちゃなんです」
「……たし、かに?」
お酒はお酒で、別件として制裁を下せばいい。わざわざ私やみんなの邪魔をするなんて回りくどい方法を採る理由は、確かに、ないのかもしれない。
にしてもと宇沢はくすぐったそうに笑った。 - 1791824/11/19(火) 05:00:14
「あは、あ痛たた。懐かしいですね。その時のホストの子はすんごいお転婆で。しょっちゅう、他のお二人にため息を吐かれていました。『あの人たちに、いい加減にしてって言っといて!』って、ぷりぷり怒りながら他校に頭を下げに行ってましたねぇ。いま思えばあの方は――」
そこまで言って、宇沢は口を閉じた。
目も閉じて。
唇には笑みが浮かんで。
良い思い出なのだと。顔からわかる。
「あの方は?」
「ああ、いえ」
「――ミカ様みたいだった」
アイリが言った。アイリが、宇沢の言葉を繋いだ。
「憶えてる。わたし、一回街中で会ったんだ。背が小っちゃくて、桃髪の、ちょうど今のナツぐらいの髪の子でしょ? すっごい詰め寄られて怒られた。だけど、別れ際には、応援してくれた」
ミカ様。
ミカ様って。
わたしらの代の、なんかとんでもないことしでかした、パテル分派の……。
「そういえば、ナギサ様はセーフハウスを工面してくれたって言ってたけど……卒業後はどうしたの?」
「皆さん外に出て行かれましたよ。三人一緒に。ナギサ様、セイア様、ミカ様。今でこそゲヘナと普通に交流がありますが、その礎を作った方々ですから、普通に名前が上がります。……まぁ、ティーパーティの威信を落としたとして、ときどきネタにされていますが」
「え。ゲヘナと仲いいの? ティーパーティが?」
「あ、はい。今年の春は一緒に温泉旅行してましたよ。何年か前から恒例の親睦会です」
「ああ、そう……」
世界の趨勢は、思ったより変わっている。私たちぐらいの一般生徒には薄い意識だとしても、トップ層にとっては、ゲヘナというのは、敵と言ってもいいほどだったのに。 - 1801824/11/19(火) 05:01:41
修正版です。
話の筋は変わりありませぬ。 - 181二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 06:01:36
修正お疲れ!
SSありがとう……供給嬉しい - 182二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 09:40:35
頭トリカスだと思ってごめんねティーパーティの子
- 183二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 19:40:10
頭トリカスは草
- 184二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:35:37
ほしゅ
- 185二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 06:04:32
やっぱトリニティってプライドの取り合いと策謀渦巻く学校なんだなって
- 1861824/11/20(水) 16:23:44
それから。
推測。憶測。仮説。思料。
考えて、意見を出して。なぜこうなったのか。そうされるのか。
いろいろ話し合っても、あまりに情報がなく。
アケミはあくびをしながらアジトを去って行った。
わたしたちはここで待機という名の軟禁に決まり。それ自体は、いい。
翌朝、百鬼夜行の医療部の子がやってきて。宇沢の怪我はすぐには治せず。外傷はともかく、やはり関節が。ひたすら動かさず、痛み止めでどうにかするしかなく。せいぜい1ヶ月。そんなものだとしても。
今の私たちには、途方もなく長い。
二日。三日。
窓を塞がれた昼でも薄暗い部屋。みんなが今までしていたような、悠々自適なテロリスト生活とは、違う。身体にカビが生えそうな隠遁生活。毎朝4時過ぎに運び込まれる食事とモバイルバッテリー。ガスで沸かしたお湯で身体を拭き。水道だけ生きているのが幸いだった。
幸い。
んなわけが、ない。
たまらずアケミに電話をしても「今はお待ちくださいませ」と電話を切られるだけ。
先生にモモトークを送ってみても。既読すらつかず。宇沢が電話しても。コール音が一生続く。
何もわからない。
そうしている間にも時間は進む。
焦燥感に気がおかしくなりそうな日々に。ヨシミの機嫌はどんどん悪くなり。
スマホの日付は、ここに連れて来られてから四日目を示した。
四日目の朝。いつもの、物資が運び込まれる時間。
四日目の朝に、寝袋の中で、ガレージのシャッターが開く音を聞き。寝ぼけ眼を擦る。
階段を上がって来たのは。
- 1871824/11/20(水) 16:31:53
やたらおそく、不規則で規則的な足音が、私たちの部屋の扉を開ける。
そこには。
「おはよう、ございます」
足を引きずり、頭に包帯を巻いたスケバンが。
あの子だ。
セーフハウスの管理を任されていた、あの子。
スケバンちゃんは、バツがわるそうにもじもじしながら言った。
「無事だった!?」
跳ね起きたアイリが、飛び跳ねるように寝袋から抜け出して、彼女に駆け寄った。
がたがたと。アイリの声と足音で。のこりの寝坊助も、目を覚ます。
「ちっと当たりどころが悪くて……。目ぇ覚めたの昨日なんス」
「撃たれたの?」
「あいや、建物の倒壊に巻き込まれて。すみません、皆さんの私物とか外に出そうとしたんスけど、全部ダメんなっちゃって……」
「いいって。いいんだよ。よかった無事で。――くあぁ。水とってー。身体いったー」
ナツが身体を伸ばしながら言う。肌寒い季節。硬い床の上で雑魚寝する私たち。底冷えのするこんな生活は、なんというか。見られるのは、惨めというか。
私物。
「そんな大事なものはなかったわよ。楽器類はスタジオに運んでもらったし」
「はい。いま、車に積んできました。皆さんのお車はまだしばらくこちらで隠させていただきますので、アンプはないようなもんですが」
「おお! ドラムも?」
「ありますあります。ただ、叩かないでくださいね。一応、隠れていただいているので……。エフェクターやらコードはよくわかんなかったので、それっぽいの全部持ってきちゃいました」
「電源なけりゃエフェクターなんてあっても意味ないもの! それよりPCは?」
「頼まれてたやつっスよね。ありますよ」
「さっすが! すっかり車に置きっぱなしにして忘れてたのよね! やっと作業ができる!」 - 188二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 16:36:44
保守
- 189二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 22:57:45
- 190二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:01:38
ほんと読み応えあってすごいなぁ···師匠と呼ばせてください
- 191二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 06:06:18
まじでそれ
- 192二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 08:22:51
凄いわかる、真面目な子だよね
- 193124/11/21(木) 16:19:30
ふわふわな髪をさらに爆発させて。寝起きの髪が細い、それも人目を気にしなくなった女の寝起きは、宇宙だ。
ヨシミが階下に降りて行く。ガチャンと。多分、体のどこかをぶつけたのだろう。「気ぃ付けてくださいよ!」と叫んだスケバンちゃんは、頭を押さえた。
「あだだ……。いやはや。宇沢さん襲われたって連絡もらったときはびっくりしましたよ。お元気そうでなによりッス」
「この少しも身体動かせない人を見て『お元気そう』は皮肉が利いてますねえ」
乾いた笑いをした宇沢は大きくあくびをした。ナツさん、水をください。そう言うと。ん、とナツが水差しを直接口に当てて傾ける。溺れかける宇沢。濡れるタオルケット。
宇沢の身の周りの世話は私たちが。仕方ない。身じろぐことすらままならないのだから。
「ぷぇっ。げほっ。は、鼻にぃっ」
「あーもう、なにやってんスか……。まあほんと、皆さんお変わりないようでなによりでした」
自分もケガをしているのに、スケバンちゃんはてきぱきと部屋の片づけを始める。
この数日の隠遁生活で、部屋の中は、運び込まれるレトルト食品やインスタント食品、ペットボトルに紙コップなどのゴミで汚れに汚れていた。この子はセーフハウスの管理を、今年から任されていたという。あんなに大きいお屋敷を。手伝いがいたにしても、実質、みんなの生活を一人で整理していた。
それで気付いた。こいつら、今までハウスキーパーが居る環境でしか過ごしていない。とにかく、片付けができない女たちに育っている。食べたら食べっぱなし。脱いだら脱ぎっぱなし。使ったら使いっぱなし。気を遣う人に会うわけでもないからやりたい放題。
たとえ私が自分のゴミを片隅にまとめたところで。誰も、それに倣うやつはいなかった。
……ダメな大人だ。
ものの10分ほどでまとめられたゴミをみんなで車に運びこんで、お茶を淹れてもらって。運転手として付いて来ていたスケバンの子も一緒に、みんなでティータイムをして。
なんというか、それだけで。
人並みの生活を取り戻した気になる。
心臓が痛くなるような焦燥感も、少し、和らぐ。
「――てな感じっス」
- 194124/11/21(木) 16:23:41
スケバンちゃんが襲われたときの詳細を共有してもらったが、やはり。ロクな考察材料にはならなかった。
「あはは……。臨戦態勢のワカモさんがいきなり目の前に降って来たって怖いね、同情するよ……。でも、スマホを壊されたのはレイサちゃんと一緒なんだ」
「私たち側の初動を遅らせようとしたんでしょう。ですが残念でしたね。私の声の大きさを忘れていた先生の落ち度です!」
ぷりぷりと怒る宇沢の口元にカップを運ぶスケバンちゃんが「ほんと、ナイスガッツでした」と称賛を送る。
「ギャーギャー騒ぐことも少なくなったからねぇ。私たちも、昔の宇沢のイメージ、完全にぼやけちゃってるし。どんなんだったっけ」
私はおどけた調子で。宇沢の声を真似て。
「『決闘です! おとなしくこの宇沢レイサの挑戦状を受け取りなさい! キャスパリーグ!』だよ」
「それだ!」
「うわああああっ!」
私の記憶が一番若い。
昨日のことのように、宇沢の。
あのちっこくてちんちくりんでうっざい宇沢が、頭の中でちょこまか騒ぎ立てる。
目の前の宇沢も。すらっとして、なんだかよくわかんないぐらい大人になっちゃった宇沢も。涙目で騒ぐ。
「『わっはっはー。私はトリニティの審判者、宇沢レイサ!』とか言ってたわね、そういえば」
「『みんなのアイドル!』パターンもあったねぇ。なんか思い出してきたよ。人の記憶は斯くも儚いものか」
「わー! わー!」
「私を見つけてくれた時は『トリニティ自警団のスーパースター! 宇沢レイサ! 推参です!』だったっけね?」
「うおおぉおおお!!」
ぶんぶんと上半身を振って拒絶反応を示す宇沢。
イヤでしょ? 自分の黒歴史をひとに言われるのって。
ざまあみろ。
「杏山カズサのはしょうがないじゃないですかぁ! 私だってわかってくれなかったし! あれホント悲しかったんですからね!」
「それはごめんって。いやでもしょうがないでしょ。わかんないって。私15年前で時間止まってんだよ?」
「そんなに変わりましたかねぇ……。うぐぐ……。体中がむずむずする!」 - 195124/11/21(木) 16:27:39
うお。190超えてしまた。
今日夜あたりにPart3立てさせていただきます。
うはぁ……。
なんだかほんと長くなっちゃってるぞぉ……。
ただでさえ文字数多くなる文体なんだ……クセになってんだ……言葉重ねる文体に……。