- 1二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:42:58
- 2二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:43:55
- 3二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:46:16
建て乙
- 41824/10/24(木) 15:57:40
15年後の大人宇沢に触発されて
前スレ18からSSを書いてたら止まんなくなっちゃった人です。
続きを立てさせてくれてありがとうございます!
あとでざっくりとしたあらすじ書きますか。
深夜になっちゃうけど……。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 15:59:46
10まで埋め
- 6二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:02:51
うめうめ
- 7二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:10:03
このレスは削除されています
- 8二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:28:57
梅
- 9二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 16:58:31
埋
- 10二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 17:17:35
はい10
- 11二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 19:22:11
ファウストの都市伝説のこってるのヤバいな…
ブラックマーケットの銀行強盗とエデン条約の裏で暗躍してた以外にも何かやったのかな… - 12前スレ19924/10/24(木) 19:32:19
たておつ。リンクありがとうございます!
- 13二次元好きの匿名さん24/10/24(木) 23:08:33
このレスは削除されています
- 141824/10/24(木) 23:12:22
ちょっと年齢間違ってたので消しました
サザエさん時空じゃなくなるから誕生日考慮が必要なんだねえ。
私バカだねえ。
年齢に言及してるのはレイサだけだったので、SS上は問題ないですおーるおっけー。
現在までの登場キャラは
杏山カズサ :16才
先生 :42~5歳
黒服 :?才
宇沢レイサ :31才
栗村アイリ :30才
柚鳥ナツ :30才
伊原木ヨシミ:31才
狐坂ワカモ :34才
スケバン :15才
ってな感じになります。
私は15年後にも何人か現在のキャラがキヴォトスに居るって設定で書いてますが、
みんないなくなった世界でカズサが右往左往する概念も好きだぞ。 - 151824/10/24(木) 23:15:38
- 161824/10/25(金) 01:45:42
【簡単なあらすじ】
私は15年、消えていたらしい。
ある秋の夕暮れ。
「見つけましたよ、杏山カズサ!」
コンビニで。ちょっと買い物をした帰り道。背後から声を掛けられ、振り向くと。
一つに縛った髪。ワインレッドのブラウスと、タイトスカート姿の大人。
彼女は叫び、飛びついて来た。
宇沢。彼女は、その大人の女性は、15年後の宇沢だった。
宇沢は卒業して、シャーレで働きながら、私を探し。
てっきり私抜きの青春を過ごして卒業したと思っていたスイーツ部のみんなは――。
ヴァルキューレをはじめとする治安維持組織などなんのその。
スケバンたちと手を組み、銃弾と爆風の中でマイクを握り、ギターをかき鳴らし、ドラムを響かせ、とにかく目立ち、私を探すために。
各自治区に悪名轟かすバンドへと変貌した、SUGAR RUSH。
たった一日。あの文化祭の、たった一回のバンド活動を、糧にして。
「一緒に卒業したかったから!」と言ったアイリは、30才。
トリニティ学園の一年生で停学になったままのスイーツ部。
15年。
同級生だったみんなは30才を迎えていたのに。
なのに、まだ同級生でいてくれた、放課後スイーツ部。
ちょっと老けた先生の隣には、15年を共に過ごした人。
私はあの時のまま。
ある秋の夕暮れ。
私は、15年後の世界で、15年前の私のまま、みんなと再会した。
- 17二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 05:30:30
たとえ実感がなくとも、待っていてくれたと分かれば嬉しくなるもので
- 18二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 10:38:01
遅れて一気読みしちゃった
あまりにもすき - 191824/10/25(金) 16:44:21
『そういえば杏山カズサはアルバムに参加するんですよね? 大丈夫ですか?』
私は顔を上げてヨシミを見た。
「MXSTREAMでも聞いたけど、いま、直接聞かせてもらってわかった。私が演奏に入っちゃうと、たぶん、邪魔になる」
「そんなことないわよ」
「そんなことある。いいよ。今回は今まで通りにして。最後って言ってたけどさ、次も出せばいいじゃん。それまでには私も、ちょっとは練習して……」
「それじゃあだめなんだよねぇぃしょっと!」
ごろん。
ナツが寝返りを打つ。私の尻はずり落ちる。
そのまま背もたれを伝うようにして身体を起こし、私の横に座って、私の顔を見て言う。
にこやかに。
「音源発表はこれが最後。EP盤を出したりして、ちょっとはお金にして、活動費にしてた。でも、アルバムはこれが最初。最初で最後。そう決めてるんだ」
「『探す歌』を歌ったSUGAR RUSHは、これで終わり。うん。これ以上は――活動できない。ごめん。これは、まあなんというか、あんたがいない間に勝手に決めた、破れないことなの」
「……そっか」
二人の目は、私を見ながらも、私は映っていない。
私がいない間。私を探している間、三人と宇沢は。
並々ならない決心をしたからこそ、ああいう活動に踏み切っていたことを、私はわかっている。わかってあげたい。
だから、みんながこれ以上できないと言うなら、私は、それに従う。
それでも。
「でも考えてみてよ。二週間ないくらい……で、ベース用の譜面起こして、私が弾けるようになるって、どうなの? 私よりみんなの方が、そういうの詳しいんじゃない?」
「それは……。譜面起こしは、頑張れば2日……。あ、でもナツは収録終わってるし」
「私はドラム譜すら読めないってば。身体で覚える天才肌タイプだからね!」
「威張んな威張んな。アイリも……無理なのよね。あの子はTAB譜は書けないから。だから、私がやるしかない」
「でもヨシミが現状、一番忙しいんじゃない? あと何曲残ってる? 演奏だけで」
「8曲」
「その分のミキシングもマスタリングも残ってる。シューゲイザーにおいて、ヨシミの耳とセンスが一番重要なのは、わかってるでしょ? 全体にエフェクト掛ける塩梅なんて、私にはさっぱりのさっぱり」
「あんなもん、気持ちよくなるようにやれば」 - 201824/10/25(金) 16:47:01
- 21二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 17:07:00
15年の時の流れがじわじわと押し寄せてきて怖いよ
- 22二次元好きの匿名さん24/10/25(金) 22:00:43
最後ってセリフにすごいドキドキする
- 231824/10/26(土) 00:17:00
学校を卒業したあとキヴォトスから出なきゃいけないルールがあったとして。
戻ってくるであろう人って、誰がいるだろか。
一応学園都市だし。
個人的にナギサ様みたいなトップ組は戻ってこなさそうだし、ラビット小隊は護衛で居つきそうだし、キリノは居そうだけどカヤは居なさそう。
コハルたちも多分戻ってこないと思ってる。
ミレニアムも、GKBは多分いないんじゃないかと……。
キヴォトスを青春の舞台と割り切れるであろうキャラはとにかくもどってこないだろうなあ。 - 24二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 00:40:51
エンジニア部は外の技術吸収して戻ってきそうな気もする
- 25二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 01:10:09
なるほろエンジニア部……
ミレニアムが新技術から先の研究が進めやすそうなら戻るだろうね技術者たちは……
戻ってきてなにをする、って考えると難しい、うーむ
アビドス組はそのまま居ついてそうなんだよね
ネフティス役員入りしたノノミとアビドス復興のNPOとか地方創生団体みたいなの立ち上げてそう
美食は戻るとしても一回出たらしばらくは戻らなさそうだしな…… - 26二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 10:36:39
キヴォトスでの常識と外の常識ってかなり乖離がありそうだから外に出ること考えられて無い気もするんだよな
- 27二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 13:47:45
実際外と関係ができれば状況が良くも悪くもかなり変わるだろうからなあ
- 281824/10/26(土) 16:44:08
う……すみません
今日は夜の投稿になります~。
外との関係ってある(っていう設定)じゃかたっけ?
貿易関係とか。
先生とゲマは外の世界の中でも異質な存在みたいな表現見た気がする。
とはいえ、生徒が行って帰って来た描写は一切ないから、あくまで設定として存在する外の世界ってだけではあるんだけど - 29二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 18:15:45
先生が外の人って一目でわかって特に驚きとかも無いしある程度の交流はありそう?
- 30二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 23:59:08
- 31二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 05:22:48
- 32二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 07:31:33
確かに
- 331824/10/27(日) 09:51:07
「できる人はそう言うけどさぁ。それに、その期間で、杏山カズサは16曲弾けるようになれる? レコーディングクオリティで」
「16曲!? ムリムリ」
「だよねぇ」
「あー! だから再録じゃなくてリマスターでやろうって言ったじゃない! そうすればほとんど新曲1曲分だけの手間で済んだのよ!」
ダン。
ヨシミが足を踏み鳴らす。
私はちょっとまずいかな、とは思った。なんとなく。勘だけど。
「同じ味を再現するための職人的技法と、同じものを生産する工場作業は違うのだよ。まして、カズサが見つかったのは奇跡みたいなもの。そんな奇跡があったからこそ、SUGAR RUSHのアルバムにカズサをクレジットできるなんて。これ以上ない幕引きじゃーん」
「だーかーらー! そのクレジットするためにどうすんのって話!」
自分で言いながら、何かを思いついたように、私に向って言う。
「――そうだ、一曲。一曲だけならいけるわよね?」
「え? まあ、頑張れば……? みんなほど巧くはできないかもしれないけど」
「決まりね。なら、さっそくどの曲に入ってもらうか相談を――」
空気が。
一瞬張ったはずの空気が緩んだのを感じて、私は内心、胸を撫でおろ……せなかった。
ナツ。ナツが、言った。
「私ははんたーい」
「……は?」
「そんな取ってつけたように入ってもらって『私たちが探してきたカズサが帰ってきました!』ってクレジットするのー? だったら、今から新曲書いた方がよくない?」
「出来ると思ってんの? あんた、曲書けたっけ」
「書けないよ?」
「一から曲作るのがどんだけ大変か知らないくせに、簡単に言わないで!」
- 341824/10/27(日) 09:53:41
ギターをスタンドに投げるように置き、ヨシミは勢いよく立ち上がる。振動した弦が情けない音を立ててる。
釣り目をもっと吊り上がらせて、私の横に座るナツに詰め寄る。
まずい。
「どうするの? 新曲書く以外で、カズサに参加してもらう方法。ほら、考えて。教えてよ」
「それ以外は思いつかないって。でもこのアルバムコンセプトは『カズサを探し続けてくれるもの』だったでしょ? そういう曲ばかり組み込んである。なのに、カズサが歌って大団円ってするのは、物語の結末として、そもそも楽曲として、あまりに雑だな~って思うんだけど~」
「それはそうだけど、でもやりようがないじゃない。……てか、そもそもアルバムの存在意義がなくなったんだから、べつに出さなくても、もう良くない?」
「存在意義がないってさぁ……なにそれ。本気で言ってる?」
何かが。琴線に触れたようで。
すこしのけぞり気味に二人の会話を聞いていた私は、ナツの目つきが変わるのを見る。
なになに。なんでヒートアップしてんの? これが『音楽性の違いで』ってやつ?
見下ろすようにしていたヨシミに。
ナツは前のめりになって、下からにらみつけるように。
「見つかったからこそ作らなきゃ。今の私たちの音と、声で、最高のロマンを遺す。それが礼儀だってヨシミも納得したよね」
「じゃあスタジオのスケジュール押さえてよ。せめてあと一ヶ月追加できれば、あんたの言う通り、一曲追加させてあげるから」
「押さえてどうするの? クズノハちゃんに言われたこと忘れた?」
だれだよクズノハちゃん。私の知らない交友関係が出来てるのはわかるけどさ。
ヨシミは舌打ちして歯を食いしばる。
なんだろ、プロデューサーかなにかかな。
二人はもはや私を見ていない。私は、イレギュラー。
……本来いないはずだった存在。私。
そう考えると、なんだか、とても。
ここに居づらく。
喉が渇いたけれど、目の前のペットボトルを取るのも、なんだか。
「でも、あくまであれは、まだ確定していないことだし」
「今までのことを考えたら、ほぼ確定でしょー。――あ、コーラスだけ録るって手があるねぇ。これが一番現実的な案だと思うな~。ベース弾かなくて済むし。楽譜もいらない。『探していた人がバックコーラスに重なっている』っていうのは、物語としても感動的。うん。一番現実的なまとまり方だと思う」 - 351824/10/27(日) 09:56:16
「……それは」
「ヤだよね。だって『SUGAR RUSHのフロントマンである杏山カズサ』は、ベースボーカル。コーラスなんて演出じゃあ、足りない。それじゃあダメ。『杏山カズサが帰って来た』ことが一発でわからないと、ダメだよね」
「……なら。アイリのレコーディングが終わったら、あの子に頑張って一曲書いてもらう。私も手伝う。作るのに2日、録音に3日、処理に2日……それなら、せめて1週間伸ばせれば、なんとかなるはず。最悪、セーフハウス内でレコーディングすればいいわ。機材はあるんだもの」
「1週間伸ばすってことはさ、ぜんぶ1週間遅れになるってこと。録音だって、私たちはなんとかなるとしても、カズサの負担が大きくない? ラストライブもあるし、こっちはみんなとのすり合わせがあるから、期日も時間もがっちり決まってる。そのセトリも変えなきゃいけないね。それに、ジャケ写も変えなきゃ。初期リリース分のプレス用意するのだって時間がかかるよ。あ、復学の件でティーパーティと交渉もしなきゃ。こんなにやることいっぱいの中、本当に1週間伸ばしただけでぜんぶできる? せっかくカズサが帰って来たのに、やらなきゃいけないことしかないじゃん。どこにも行けない。なんにも楽しくない」
「それこそ……待ってよ。ええと……そんなの、遅れたぶんはレイサがやってくれる。なんとか、なる。しなきゃ。――ていうか数を刷らなくても、手元に一枚あれば」
「……一枚あればいい?」
「そうよ。別に売らなくてもいいし。デザインはいつもの人に任せれば、ちゃちゃっとやってくれるでしょ」
「――今までの私たちはカズサを見つけることがすべてだった。……って、ヨシミに意味がわかるかなぁ」
「はぁ? その通りじゃない。そして、私たちは奇跡を掴んだ。でしょ?」 - 361824/10/27(日) 09:57:07
「カズサを見つけることがすべての私たちだった。そういう、15年だったんだよ。いろいろあったよね。始まりから今まで。アイリの提案で、夜通し。いや、何日も何日も話し合って。宇沢レイサを巻き込んで、あの子の大事にしてたものを変えてもらってまで。先生の言う事に耳を塞いだことだって何度もあった。ミレニアムに協力してもらって、ゲヘナの先輩にサポートされながら、キヴォトス中のあちこちを、ワゴン一台で走りに走って。何週も。何週も。同じところで、違うところで。スケバンの子たちにも声をかけて。ワカモさんを紹介してもらって。いろんなところでいろんなことをした。ここまで言えばわかる? 本当に意味わかんない?」
こんなに流暢に、ロマン論以外を語るナツを、私は知らない。怒るナツすら。
冗談やおふざけではない。
静かに、たしかに、怒っている。
ヨシミもヨシミで。
ヨシミは、とにかく負けない。
「なに、バカにしてんの? その結果がこうして出た。そもそものアルバムの意味だって、カヨコさんに教えてもらった通り、音楽ならずっと残すことができるからってだけでしょ。それなら――」
「わかってない。へえ、ヨシミってそこまで視野の狭い女だったんだね~。そのうっとおしい髪切ってあげようか? 周り見えてないんだからさ~」 - 371824/10/27(日) 09:58:35
ぎょっとした。
ナツが、ヨシミに言う言葉が、あまりに。
とげとげしいなんてもんじゃない。
けんか腰。胸倉をつかみ、相手を攻撃するためだけの言葉遣い。
私は静観を止める。口を挟む。
「ちょっとちょっとお二人さん。なんでケンカになる? ナツ、そういう攻撃の仕方よくないよ」
「あんたこそ髪といっしょに脳みそも切っちゃったの? もっと上手にコミュニケーション取ろうとか思わないわけ?」
聞けよ、人の話。
「コミュニケーション取ってないのはヨシミじゃーん。つんぼさじきなヨシミにもわかるように言うとだね。この15年は。カズサを探すことが全てだった15年は……。私”たち”の15年だったってことだよ」
「だから! 意味わかんないって。国語の勉強して来なさいよ、マジで。復学したら勉強みてあげようか?」
「私たちがずっと活動できたのは、反応を求めて、レスポンスがあったから。お金にだってなったから。じゃあ、その反応をしたのはだれ? お金を私たちにくれたのはだれ? そして、活動したのは、だれ? ――私たちと『みんな』だよ。このアルバムはね、ヨシミ。私たちの15年でもあるし、みんなとの15年でもあるんだよ」
「――……」
黙った。
ヨシミが。
的を得た。
でも、ナツは、勝ち誇るわけでもなく。
静かに。諭すように。
「写真にはさ、カメラを構えた人も、人数に含まれると思わない?」
「待って。今整理――待ってて。ひとまずごめん」
「ん……。私も。ごめん」
どすんと、私の横に尻を落として、ヨシミは腕を組む。
ヨシミ。私。ナツ。
こんな空気になってる二人に挟まれた私は気まずいったらありゃしない。
かと言って。『よりによって今、私が見つからなかった方が良かったのでは』などとヒロインぶった発言しようものなら、二人にもみくちゃに怒られることもわかるので、うかつに発言もできない。なにより、私がそんなこと口にしたくない。私はスイーツ部のみんなを一度疑ってしまった罪がある。だから、ことこのことに関して、もう間違えたくない。 - 381824/10/27(日) 09:59:30
静かなスタジオ。
呼吸の音。すこし荒いのは、ヨシミの鼻息。
私はようやくペットボトルに手を伸ばす。
冷えた水。喉を通る。胃に入る。汗を掻いたペットボトルが、私の指を濡らし、雫がスカートに一つ落ちる。
静かなスタジオ。
「ナツ」
「んー?」
「1曲目」
「……ん?」
「何年前?」
「……14年前」
「2曲目」
「13年前。2月頃じゃなかったっけ」
「3曲目」
「あー……13年前? いや12年前だっけ? たしか年明けと同時だったような」
「4曲目」
「11年前」
5曲目、6曲目。
10年前、9年前。
何かを。空中に、ぼんやりと、なにかを見ながら尋ねて。ナツが次々答えていく。
ほとんど一年に一曲ペース。
そして、最後の曲だけは、ついこの間。
たった数週間前。
「CDの容量ってどんぐらいだっけ?」
「ぜんぜんよゆー」
「じゃあ一曲追加」
私の目を。見てヨシミは言う。
手に持ったままのペットボトルから垂れる雫が指を伝い、私のスカートを、さらに濡らしている。
「正直言うわね。カズサ。あんたの意思とか、今は私たちに預けて欲しい。で、ちょっと頑張って欲しい」 - 391824/10/27(日) 10:02:36
「……私がこのアルバムに参加することが大切だっていうのは、わかった。私はみんなの15年に私は口を挟めないし。その一曲に参加すればいいってこと? それなら、まあ、死ぬ気で練習すればいける……いや。やるよ。下手くそなのは覚悟してもらうしかないけどさ」
「そんなのいくらでもカバーできるし、楽譜も簡単にすれば……。うん……ええと……あのままでも……いや……拍を伸ばして、テンポ上げて……あれ、これもしかして……んー……でも音源出してないし……いや、クロノスの気球モニタと街中の広告ディスプレイをジャックすれば……映像は持ってるわけだし……」
ぶつぶつと、ただ考えを口にするヨシミは「まだ決定じゃないけど」と言って、ナツに向って言った。
「全曲リマスターに変更。いや、リマスターなんてもんじゃない。そのまま。今までの音源を、そのまま使ってやるわ。初期のあのクッソひどいガビガビ音割れ曇りまくり録音も、そのまま! 『決定じゃない』じゃない! 決定!」
「だからそれは」
唇を尖らせて、眉根を寄せて。
抗議の表情を隠そうともしないで、言ったナツは。
「……どゆこと?」
と、こんどは怪訝な顔をしたあと。
ふと、了解した。
「ああ、あははっ。そうゆーこと? あーなるほど、確かに、物語だねぇ! それいい、サイコーだよ!」
「ちょっとアイリと話してくる!」
弾かれたように立ち上がったヨシミが部屋から出て行く。
階段を上る音。
私は、もう、あれからずっと。
宇沢に見つけられてから。ずっと、状況に流されるしかない。
呆れたように出る笑い。いや、これは、楽しさからか。
がりがりと、頭の。耳の付け根を掻く。
喧嘩をしていると思った。でも、二人にとってはもしかしたら、たまにあることなのかもしれない。前だったら考えられないけど、ありえなくは……ない、かもしれない。
「アーティストだ……。びっくりした」
「ごめんねー。にひひ。ヨシミがやろうとしてること、わかる?」
「いや、わかんない。未発表音源で使えそうなのあるとか?」
「アイリとヨシミは演出もやるんだよねー」
「……ナツはドラムだけ?」 - 401824/10/27(日) 10:04:34
私の肩を抱いたナツは、もう一度「言うなれば宮廷道化師だね。ひひひ」と不敵に笑う。
薄くアイラインが引かれた目じり。自分の垂れ目を少しでも吊ってやろうという、抵抗が見て取れる。
ナツとは反対。
垂れ目と釣り目。
「15年間、キャスパリーグを探し続けた――」
「ぶちのめすぞ?」
「――こほん。杏山カズサを探し続けた、私たちのアルバムにふさわしい一曲。本当の完成。ショートケーキに乗った一粒のいちご。いちごの乗っていないショートケーキを、私たちは提供せざるを得なかった。スポンジと生クリームだけでショートケーキと言えるか? 否! そんなものはクリームが挟まれた、ただのスポンジじゃないか!」
ナツは立ち上がり、私の両肩を掴んで、一人で勝手にテンションを上げている。輝いた目。一見、乏しい表情。けれど、たとえば。スイーツの中にロマンを見つけた、あのナツのまんま。
いつも通りと言えば、いつも通り。
見た目が大人な分、そのギャップがちょっと面白い。
けれど、昂揚はその一瞬のことで。
私の肩をさするように、優しく。
穏やかな顔つき。目つき。
いつもの。ナツ。
「私たちの15年が完成するよ。杏山カズサ」
「――なんかさ、私の勘違いだったらいいんだけど」
なんかみんな。
気のせいだったらいいんだけど。
みんな、なんか――。
ふと。
私の肩が跳ねる。心臓が大きく一回飛び跳ねる。
スマホが鳴った。激しいノイズ系の音楽。それこそ、SUGAR RUSHの楽曲、かな。知らない曲。
音の出どころは、ナツのポケット。 - 411824/10/27(日) 10:05:34
「ん……ちょっとごめん、電話だぁ。お。お~」
画面を見て、こちらを見たナツの口角が上がっていく。
知り合いか。
それも、私も知ってる。
私の顔をみたまま、そのニヤけた顔で電話に出たナツは、私に会話を聞かれるのをためらわず、会話を続ける。
自分のスマホを取り出して適当にいじる。聞こえてしまうのは仕方ないけれど、じっとして通話が終わるまで待つのも、聞いてますよ感が出てしまう気がして。苦手な場面の一つ。宇沢に返信は……。いっか。多分、仕事行っちゃっただろうし。
あ。モモトークに先生から友だち追加のリクエストが来てる。
承認。
「やーやーもしもし。どうもお世話になってます~」
「『お世話になってます』……?」
ナツが。敬語を。使っただと?
おどろいて私の指は勢い余って同じ場所を2回タップする。してしまう。
通話している人の話に反応してしまうなんて、失礼極まりないとは思う。
でも。
声。
私のスマホから。
電話がつながっている。
先生に。
「わ、わ、わ。――もしもし、先生。ごめん、間違えた」
同じ部屋で、二人が電話。
奇妙な光景。
いや、驚いたけど……。そうか。さすがにナツも、ずっとあの頃のままではないということだ。
別におかしくない。おかしくない。
『”え? そうなの? なにかあったのかと……”』
「いやいや、どうせスケバンちゃんから連絡行くだろうと思いまして……」
「なんもない。ちょっと驚いて、間違っちゃっただけ。本当にすみません」
「”それならよかった。今はみんなといっしょかな?”」
「あ、はい。……あー、ちょっと誰かと電話中みたいで」
「えっ? ああ、うん。そう。なんかアルバム作ってるみたいでさ。トリニティの端っこの方のスタジオで――」 - 421824/10/27(日) 10:06:35
「わかりました。今晩はスタジオに籠ってますので……。お待ちしてますね~。アケミさん」
「アケミィ!?」
「”――っ。げ、元気だね。アケミがどうしたの?”」
「大声ごめん! ちょっと一回切る、あとでかけ直します!」
こっちが電話を切ると同時にナツも通話を切った。画面をこちらに向けて、にやにやとスマホを振っている。画面は真っ黒。だから、誰と通話していたかはわからない。
いやでも。
「まじ?」
スケバンちゃんから? 連絡が?
スケバン関係者で、アケミと言えば。
そして、ナツが私の顔を見てニヤけた事実からすれば。ニヤけている事実からすれば。
私の消したい過去。
目の上のたんこぶ。だった。
ナツが話していたのは、栗浜アケミ?
「カズサちゃん! ナツちゃん!」
階上から駆け下りて来たのはヨシミと。
手を引かれたアイリが。
顔に喜色を浮かべて。目を輝かせて。
「『彩りキャンパス』録るってほんと!?」
と。
本当にうれしそうなアイリに、ナツがふてぶてしく、親指を立てた。 - 431824/10/27(日) 10:10:29
んおおおおぉ
沼ってましたごめんなさい
夜(翌朝)二度目ですね……
ひさびさにがっつりかけたのでよかったです
保守ありがとうございました! - 44二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 10:20:13
アケミとカズサ、縁がないと考える方が無理があるものね、どう絡むか楽しみ
それ以上にクズノハの名前が出てきて不穏すぎるんだけども! - 451824/10/27(日) 10:37:55