- 1二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:18:50
- 2二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:19:23
『ハロウィン────ですか?』
部屋の外からは、賑やかな喧騒。
スマホのスピーカーからは、穏やかで愛らしい声色。
俺は椅子にもたれながら、スマホに向けて言葉を返した。
「そう、今年は聖蹄祭の日と被ったのもあって、皆の仮装も気合入っててさ」
『ナル、ホド?』
「……もしかして、パークにとってはあまり馴染みのない文化だったり?」
『文化は知っている、してますが、こんなに盛り上がるは、知らない、ですね』
通話先のヴェニュスパークは、少しだけ困惑した様子でそう言う。
ただ、その声色は少しだけ弾んでいて、妙に楽しそうに感じた。
ハロウィンという文化は、文化圏、地域によって大きく扱いの異なる文化だと聞く。
日本で盛り上がっているのは、いわゆるアメリカ式のハロウィン。
フランスに住まう彼女が考えるものとは、また別物なのかもしれない。
『これは、ハロウィンというよりはMardi gras、ですね』
「マルディ……えっと、謝肉祭の最終日、って意味だったっけ?」
『C’est ça、街を飾り付けしたり、学校にも仮装して行く、するんですよ?』
「へえ、それはとっても楽しそうだね」
『貴方たちも来てみませんか? とびっきり歓迎、しちゃいますよ?』
「うーん、興味はあるんだけど、“あの子”にも授業とかがあるからなあ」
『……貴方だけでも歓迎、するですよ?』
「…………それやったら、多分“あの子”に怒られちゃうかな」 - 3二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:19:42
不満げに頬を膨らませる担当のことを想像して、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
同じレースで走り、俺以上にパークと交流のある“あの子”のことだ。
俺だけパークと遊んでした、と非難轟々となることは想像に難くない。
やがて、スマホからはくすくすと悪戯っぽい笑い声が聞こえて来た。
……しかし、さっきから雑音というか、パークの背後が騒がしいような気がするな。
『フフッ、冗談ですよ? もちろん、来るしてくれたら、たっぷりオモテナシしますけど』
「まあそれはまた機会があれば……もしかしてパーク、今、外で電話してる?」
『……Oui、すぐ外、ですよ?』
「……うん?」
『ソンナコトヨリ、日本のハロウィンは何をする、しますか?』
ふとした違和感。
パークはそれを誤魔化すかのような勢い、問いかけを発してきた。
日本のハロウィンは何をするか、か。
この国ならでは、ということは正直なところはあまりなく、伝えられるのは定番の言葉だけ。
すなわち。
「トリックオアトリート、だね」
『とりっくおあとりーと? アー、Des bonbons ou un sort?』
「そそっ、お菓子か悪戯か、ってね…………さっきは、それでひどい目にあったよ」 - 4二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:19:59
それは数時間前、聖蹄祭を軽く見て回り、トレーナー室で昼食を摂っていた時の話。
トリックオアトリートの掛け声とともに、魔女の仮装を身に纏った“あの子”がやってきたのだ。
そして、部屋にあったお菓子を根こそぎ奪い去り、ホクホク顔で出て行ったのである。
…………あれはもはや森に住まう魔女というより、山を縄張りにする山賊の類だったな。
トレーナー室に常備しているお菓子なんて“あの子”用のものだから、構わないのだけれど。
その後、荒らされた部屋を片付けている最中にパークから電話がかかって来たという流れだった。
この話をすると、パークは小さく笑い声を漏らしながら、静かに呟いた。
『Je Vois、アハッ、それはイイコト、聞きました』
「あははっ、キミがハロウィン来る時には、お菓子をたっぷり準備して待ってるからさ」
『期待する、しますよ?』
「任せといてよ、そういえば、パークも仮装とかはするの? さっきの、マルディグラで」
『とっておき、ありますよ…………見たい、ですか?』
「そりゃまあ、見たいかな、キミの仮装ならとっても綺麗で可愛いだろうし」
『D'accord、それじゃあ、ちょっと待つ、してくださいね?』
そう言うと、先ほどまで喋り続けてくれていたパークの言葉が急に止まる。
写真でも見せてくれるのだろうかと待っていると────突然、部屋のドアがノックされた。
こんな日に来客とは珍しい、俺は席を立ちながら、スマホに向けて声をかける。
「ごめんパーク、人が来たからちょっと外すね? ……パーク?」
しかし、パークからの返事はない。
その間にも、とんとんと、小さなノックの音が響き続けている。
あまり待たせるわけにもいかない、彼女のことは気がかりだったが、俺はドアへと向かった。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:20:14
「はい、お待たせしまし────」
そして、扉を開けた瞬間、俺は言葉を詰まらせてしまう。
目の前の光景が、あまりにも信じられなかったから。
「Bonjour! ……えへへ、びっくりする、しましたか?」
栗毛の柔らかそうな髪、凛々しさと愛らしさを両立した碧い瞳、左耳には赤い耳飾り。
目の前には、悪戯を成功させた子どものような無邪気な笑みを浮かべた、ヴェニュスパークが立っていた。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:20:33
「まさか、学園から電話をしていたとはね」
「ダイセイコー、ですね♪ びっくり顔、カワイイ、していましたよ?」
「参った、完敗だよ」
楽しげに目を細めるパークに、俺は両手を上げて、降参を示す。
そうとわかって思い返せば、色々と合点がいく言動がいくつかあった。
それに、彼女の行動力に関しては良く知っているはずだったのだから。
「……それで、どうですか?」
「……えっ」
「私の、見たい、していたんですよね? 感想、どうぞ?」
凱旋門賞などで結果を残したヴェニュスパークは、日本でも有名人である。
こと、この学園においては彼女ほどのウマ娘が突然現れれば、騒ぎになってもおかしくない。
そんな、彼女がすんなりとここまで来れたのは、今日という日と彼女の服装が関係していた。
パークはデスク越しで俺の前に立って、自らを見せつけるように、くるりとターンを踏む。
少しスカートの丈が短い、ドレスのように品のある幻想的なワンピース。
すらりと伸びている両脚は、蛇の鱗を模したタイツに覆われている。
そして背中からは、ぴょこんと小さく、竜の翼のようなものが生えていた。
普段後ろで縛ってある髪は下ろされていて、どこか妖艶な、大人びた雰囲気を感じる。
今日の彼女は────ハロウィンの喧騒に紛れるかのように、仮装をしていたのであった。 - 7二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:20:52
「…………」
「……どう、しました?」
「あっ、いや、ごめん、つい見惚れてしまって……良い、衣装だね、なんの仮装なんだ?」
「……っ! Melusineをモデルにする、しました、フランスの有名な、水の精霊です」
「へえ……上手くはいえないけど、その、なんだか、すごく良いと思う、似合ってるよ」
色気がある、なんてバカ正直に伝えることは、流石に出来なかった。
パークは貧困な語彙による俺の感想を聞いて、嬉しそうに耳を動かして、微笑みを浮かべる。
少しだけ、頬を赤く染めながら。
「Youpi! 貴方から褒める、されると、とってもとっても嬉しくなりますね?」
「キミにそう言ってもらえると、光栄だね」
「…………さて、貴方からの愛を受け取ったところで、定番、しないと」
「定番?」
パークの言葉を聞き、はて、と聞き返してしまう。
しなくてはいけない定番とは、一体何のことだろうか。
彼女は、にんまりとした意地悪そうな満面の笑みを浮かべると、デスクに手を付けて顔を近づける。
そして、少したどたどしい発音で、言葉を紡いだ。 - 8二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:21:10
「とりっく、おあ、とりーと?」
「ああ、なるほど、そりゃ定番だ」
そう、今日はハロウィン。
パークの発したその言葉は、少なくとも日本においては定番中の定番である。
なんだか微笑ましい気分になって、俺はお菓子を常備してあるデスクの引き出しを開けた。
「あれ?」
そこには、何も入っていなかった。
「Oh là là……これが“ネコソギ”ですか」
後ろから聞こえてくる、パークの声。
彼女はいつの間にか俺の背後に回り込んで、引き出しの中身を覗き込んでいた。
何度見直しても、そこにはお菓子の一つも入っていない。
当然だ、つい数時間前、山賊の手によって全て略奪されてしまったのだから。 - 9二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:21:27
「フフフッ♪」
愉しげな笑い声とともに、背中に丸みを帯びた柔らかな感触が押し付けられる。
そして、捕らえるかのように、身体にしなやかな両手が絡みついて来た。
鼻先をくすぐる、華やかで優雅な香りと清潔感のある甘い匂いが、意識を彼女に縛り付ける。
頬が触れ合ってしまいそうな距離、彼女は瞳を妖しく輝かせながら、耳元でそっと囁いた。
「たっぷりのお菓子を用意してない貴方には────たっぷりの悪戯が必要、ですね?」
ぎゅっと、さらに身体を寄せて来る。
そして、パークは小さく舌を出して、ちろりと、柔らかそうな唇を舐めた。
なんだか蛇みたいだなと、俺は何故か他人事のように思ってしまうのであった。 - 10二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:22:06
お わ り
せめてサポカくらい来ないだろうか - 11二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:26:14
また担当ちゃんが知らないうちにイチャついてる!
サポカマジで欲しい...パークちゃんのアクスタ争奪戦れも負けたし... - 12二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 02:43:22
あのヴェキュスパークのやつか
供給ありがてえ - 13二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 03:31:47
ヴェニュスのSSはなんぼあってもええですからね
- 14二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 06:13:45
うおおお続編!
自分が根こそぎお菓子を奪ってしまったせいで、トレーナーがいたずらされる羽目になった担当ちゃんの心境やいかに… - 15二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 07:26:45
あなたを待っていた!!
パークちゃんカワイイヤッター!
相変わらず蛮族みたいな担当ちゃんで草です
素晴らしいSSをありがとうございます…! - 16二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 17:56:29
担当ちゃんの好アシストが光る
おつでした - 17二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 18:51:27
パークちゃんにいたずらされたい
知らないふりをしてこっそり来てるの可愛いね - 18124/10/26(土) 23:05:46
- 19二次元好きの匿名さん24/10/27(日) 03:06:01
担当ちゃんがハロウィンに墓穴を掘ってる…
- 20124/10/27(日) 07:33:14
ハロウィンは死者のお祭りだからセーフ