【閲注・SS】もういいですよ。

11◆c0NKnHiGHw24/10/26(土) 19:08:05

『もう、自由になっていいんですよ』

―――
トクトクと清水を墓石に浴びせ丁寧に磨く老齢の男性。
ヨボヨボとした足腰に活を入れ"日課"に精を出す。

「今日も美人さんだなぁ～　スペ」
『私はいつも美人ですよ！むふん！』

彼は墓石の前で線香をあげ手を合わせる。
そこはしん…とした環境ではあるが、まるで時が止まったような静けさになる。

『ねぇトレーナーさん、いつも有難う』
「この日課のおかげでまだしぶとく生きてるよ…」
『私は嬉しいですけどね…えへへっ』
「今日はウニとかイクラ持ってこようと思ったけど、ナマモノはまずいよなぁ」
『それはそうですよ！？下手したらケモノさんたちががっついちゃいます』

思い思いの言葉を紡ぎ、しばしの時が流れる。

2二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 19:08:39

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>>9

31◆c0NKnHiGHw24/10/26(土) 19:08:46

やがて見慣れた緑の帽子が揺れながら男性に走り寄る。

「○○さ～ん、こちらにいらっしゃったのですね」
「おぉやおや"たづな"さん。ご足労おかけしたみたいで…」
「いえ！まだまだお元気そうな顔を見られてうれしいですよ」
『ほんと！何歳になっても律儀なんですから～』
「ふふっ、彼は真面目な人ですから」

"３人"は賑やかに墓地を後にする。
帰りの車中、たづなは男性に話しかけた。

「喜んでいらっしゃいますよ。スペシャルウィークさん…」
「はは、だといいんだけどねぇ。私はちょっとしつこいとこもあったから」
『しつこいなんてそんな…』
「まだ鮮明に覚えとるよ。スぺちゃんに気持ちを"伝えた"…あの時のこと」
『………』

41◆c0NKnHiGHw24/10/26(土) 19:09:09

―――
「あ…あの、トレーナーさん…」
「………」
優しい月明かりの下、トレーナーはスペシャルウィークの身体を抱きしめる。
そこに"好きだ"という気持ち以外は何もない。

「好きだよ」
「…！！」
目の中に溜まる涙を抑えることも出来ず、それは頬を優しく撫でるように流れる。
「わたし―――」
「…これはケジメなんだ」
「え？」

トレーナーも涙を一筋、そして伝えた。
「君の夢を支えるためにね」
「………あ」

彼女はわかってしまった。
彼も伝えずにはいられないから、ここで切ろうとしたんだ。

自分へのキモチを。

51◆c0NKnHiGHw24/10/26(土) 19:10:13

―――
季節は過ぎて、何度目の春。
花びら舞う桜並木の道でスペシャルウィークはたたずむ。
そこからは"墓地"がよく見える高台だった。

『また、春がきましたね。
最近あなたは来てくれないけど…私のことを吹っ切れてくれたのかな』

フッとさみしい顔を浮かべつつ微笑む彼女に

『違うよ

やっと…"また会える"ようになったから』

『……え……』

桜の花びら舞うその道には、抱きしめてくれたあの時と変わらないその姿。
見つめている内に目の奥からぼろぼろと雫があふれて止まらない。

『なん、で』
『待たせてごめんね。また来ちゃった…　大好きだから』
『なんですか、それ、っ　私　言ってるのに』
『何を？』

スペシャルウィークは彼を抱きしめながら言う。

61◆c0NKnHiGHw24/10/26(土) 19:10:53

『もう、自由になっていいんですよ…？って…』

『何言ってるのさ、俺は最初から自由だったよ。

好きな人に自由に告った。
自分勝手にケジメを付けた。

自分勝手に…　君を振り回した…』
『……そう、でずね…　ｸﾞｽｯ』

泣きじゃくる彼女をあの時のように抱きしめてつぶやく。

『だから…　勝手に君に会いに来た』
『……う"ん"……っ」

この先はトレーナーも、ウマ娘も、年齢も、規律も、何も関係ない。
二人だけの未来。

これからは"好き勝手に"二人の未来を。