【SS・トレウマ注意】ローレルと「カップル割」

  • 1二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:46:36

    「うわぁ、もうこんな時間か……」

     担当ウマ娘、サクラローレルと行った買い物帰りの道すがら。ふと時計に目を落とすと、もう午後3時を回っていた。昼食は摂ったものの、あちこち歩き回っていたせいで足は重く、そろそろ小腹も空いてくる頃合いだ。

    「ごめん。結構時間経っちゃったな、ローレル。休憩がてら、どこかでお茶でもしないか? 俺が出すからさ」
    「もしかして、デートのお誘いですか? とっても嬉しいです♪」
    「い、いや、そういうわけじゃないけど……」

     そんな軽いやり取りを交わしながら、良さげな喫茶店を探し歩くこと約5分。

    「おっ、この店なんか良いんじゃないか?」

     目の前に現れたのは、茶色を基調とした、シックで落ち着いたデザインのカフェ。中をちらっと覗くと、昼下がりのまどろみを楽しむ客で程よく賑わっているようだ。外観の上品な雰囲気に違わず、店内も閑雅な装いで、若草色の観葉植物がそれを優美に彩っている。

  • 2二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:46:50

    「素敵ですね! ここにしましょう♪」

     ローレルも乗り気な様子だったので、二人で意気揚々と入店する。日差しの差し込む窓際の席に腰を下ろすと、ローレルはほっとしたように微笑んだ。

    「ここ、外から眺めた通り、品があっていい雰囲気だな」
    「そうですね。落ち着いた感じで、ゆっくりできそうですし……。いいお店選んでいただいて、ありがとうございます」

     しばし周囲を見回した後、ローレルはメニューに手を伸ばした。俺もそれに倣い、目に入るメニューの一つ一つに目を走らせる。

    「うーん、結構悩んじゃいますね……。トレーナーさんは何飲むんですか?」
    「いやぁ、どうしようかな……」

     俺はメニューの上に視線を滑らせた。雰囲気に違わず、聞いたこともないような名前のコーヒーも見受けられ、永遠に迷うことができそうだ。だが、初めての店なんだし、ここは無難にホットのブレンドコーヒーで決めてしまおうか。……そういえば、スイーツはどうなっているのだろう。少し気になり始める。

    「俺はこのホットのブレンドで良いかな……。ちょっとスイーツの方も見てみるよ」

     そう言いながらパラパラとメニュー表をめくる。すると、一際目立つ文字が目に飛び込んできた。

    "ペア割 2名でお越しのお客様はドリンク料金が10%OFF"

    「へぇ、こんなのがあるんだな。ローレル、これ使えそうじゃないか?」

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:47:04

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    「今の蹄鉄、すり減ってきてるみたいだし、土曜日に買いに行かないか?」

     そうトレーナーさんに誘われたのは、ほんの二日前。彼は深い意図があって言ったわけではないだろうけど、それでもあなたと出かけられることが、純粋に嬉しくて。

    「はい! 楽しみにしてますね♪」

     その言葉には、ひとさじの偽りもなかった。

     目的の買い物自体はすぐ終わるはずだから、その流れで色々と見て回りたい。そうだ、そのついでに、トレーナーさんの服も選んであげられたら素敵だな……。なんて考えながら、スケジュール帳に印を付ける。普段より、ちょっとだけ大きめの丸を。——それなのに。

    臨時休業。品切れ。また臨時休業。

     何の巡り合わせか、不運に次ぐ不運。気づけば日は傾き始めていて、トレーナーさんの顔にも明らかな疲れの色が見える。……今日はもう、やめておこうかな。ただでさえ彼は激務で疲れ気味なのに、これ以上連れ回すのはあまりにも忍びない。……そう考えていた矢先だった。

    「休憩がてら、どこかでお茶でもしないか? 俺が出すからさ」

     思ってもみなかった、彼からの提案。驚くより先に、嬉しさで胸がいっぱいになってしまった。だから思わず——

    「もしかして、デートのお誘いですか? とっても嬉しいです♪」

    なんて、軽くからかってしまう。普段は真面目で頼りになるトレーナーさんが、こういう時だけに見せる困った表情もまた、私には愛おしい。

  • 4二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:47:26

     そして、彼が選んだカフェで、彼が選んだ席に座る。日差しが柔らかく差し込む、素敵な空間に、思わず息がこぼれた。

    「トレーナーさんは何飲むんですか?」

     そう声をかけながら、メニューに目を通していく。とはいっても、彼と同じものを頼もうかな、なんてぼんやりと考えていた。そんな時。

    「ローレル、これ使えそうじゃないか?」

     そう言ってメニューを見せてきた彼の指は、"ペア割"と書かれた特典に触れていた。でも、私が心を奪われたのは、その右ページの方。

    "カップル割 ペア割の特典に加え、ミニアイスを2つプレゼント"

     ……私はこちらを使ってみたい。でも、きっと彼は気づいていないんだろうな。私の気持ちにも、この割引の存在そのものにも。だから——

    「……へぇー、やっぱり今日はデートのお誘い、だったんですね! 嬉しいです!」

    ほんの少しだけ声のトーンを甘くして、満面の笑みで喜んで見せた。

    「え?何言って……っ! 違う、こっちこっち! 左の『ペア割』の方だよ!」

     メニューをまじまじと見てようやく気づいた彼が、慌てて否定した。そんな戸惑った様子に、なんだか胸が温かくなる。こうしていると、彼の少し抜けた一面も、愛おしく思えるから不思議。

    「ふふっ、残念だなぁ……♡ じゃあ次は、“こっち”を期待してますね?」

  • 5二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:47:38

    ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

     そう言いながら、ローレルはゆっくりと俺の指に触れたかと思うと、そのままずずっ……と『カップル割』の方へ引き寄せた。その瞬間、彼女の柔らかな指先の温もりが伝わってきて、心臓が一瞬止まってしまったかのような、妙な緊張が走る。

    「ロ、ローレル、ちょっと……!」

     慌てて手を引っ込めると、彼女はその反応を楽しむように、いたずらっぽく目を細めた。

    「あれれ? どうしたんですか? 私はただ、アイスが貰える分お得だな、って思っただけですよ♪」

     ローレルはそうわざとらしく言いながら、俺を見つめる目を更に細めた。

    「そ、そうだけど、俺たちはそんな、カップルとかじゃないし……。多分、頼めないって……。多分だけど……」

     俺は言葉に詰まり、ますます混乱していく。彼女はそんな俺の様子を見て、とうとう堪えきれずに笑いだした。

    「くすっ……。本当に、トレーナーさんはかわいいですね♪ そんなに慌てなくてもいいのに……」
    「……もう、いいから。普通に"ペア割"の方にしよう……。な?」
    「ふふっ、わかりました♪」

     そうして、俺たちは何とか注文を済ませた。しばらくして運ばれてきた、香ばしいコーヒーと甘いスイーツの香りが、テーブルにふわっと漂う。俺たちはスイーツを分け合いながら、何気ない会話を楽しんだ。彼女の軽やかな笑い声に、少しずつ先程の緊張もほぐれていく。……こんな風に、ただリラックスして過ごす時間が心地よいと感じるのは、彼女が近くにいるからだろうか——そんなことを、ふと考えてしまう。

  • 6二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:47:49

    ━━━━━━━━━━━

    「ありがとうございましたー!」

     カランカラン、と乾いたドアベルの音が遠ざかるのを感じながら、学園への帰り道を歩き出す。入店前の疲れはどこへやら、その足取りは軽い。

    「いいお店だったな、ローレル」
    「はい、本当に! また来たいくらいです!」
    「ははっ、気に入ってくれてよかったよ。じゃあまた今度、時間ができたらもう一回来ようか」
    「是非お願いします! ……次来る時には、"カップル割"が使えるようになってたらいいなぁ……♪」

     思わず足が止まる。冗談だと頭ではわかっているつもりなのに、胸の奥で生じた小さな疑念が、波紋のように広がっていく。彼女の言葉がどこまで本気なのか、もしくは全ていつも通りのからかいなのか——その境界がまるで読めず、見えない糸で揺さぶられているかのようだ。

    「……ローレル。そういうことは、冗談でもあまり言っちゃダメだよ」

     俺はようやくそう返すが、自分の声がどこか頼りない響きになっているのを感じる。そんな俺を見て、ローレルはふっと微笑んだ。

    「そうですね、気をつけないといけないかもしれませんね……。でも、どうでしょう……?」

     そう言いながら、彼女は再び歩き出した。その隣を歩きながらも、心の中ではずっと彼女の言葉が引っかかっている。

     二人の距離が、ふと手が触れ合うほどに近づいて、また離れて。そんな微妙な間隔を保ちながら歩く帰り道には、いつもとは違う、不思議な温もりが漂っていた。

  • 7二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:48:00

    以上です。かなり今更な上にレギュ違反ですが、すだちさんのツイート

    から着想を得ました。

  • 8二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:48:29
  • 9二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 21:56:09

    ローレルのトレウマSSは口から砂糖がザーッと噴き出るくらいがちょうどいい

  • 10二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 22:00:36

    クッソ苦いブラックコーヒー欲しくなった
    応援スレに推薦してもいい?

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 22:15:24

    ローレルにタジタジのロレトレかわいいよロレトレ

  • 12二次元好きの匿名さん24/10/26(土) 22:19:28

    >>9

    ありがとうございます!

    ちょっと甘すぎるかなとも思いましたが褒めていただけて嬉しいです!


    >>10

    ありがとうございます!

    ぜひよろしくお願いします!


    >>11

    ローレルは卒業したあともずっと強火でいてほしいです……

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