【二次創作SS】LAST DANCE (2)

  • 1『SOON CRAZY』24/10/28(月) 18:01:12

    面倒臭え。

  • 2124/10/28(月) 18:01:42

    空気が淀んで気味が悪い部屋。舞っているのは綿埃。
    目の前には不愉快なクソ野郎共。

    「手前、いつ帰れるんです?」

    花鳥風月部の活動記録を成金どもから奪い取ってやろうとしたまではよかったが、組む相手を間違えた。
    腕と脚には鎖。文脈も解釈も存在し得ないご都合主義の材質でできている。

    「最早貴様の手を必要としないほどに、あの『噂』が肥大化するまでだ」

    具体的な時間で教えてくださいよ。

  • 3124/10/28(月) 18:02:09
  • 4124/10/28(月) 18:03:36

    プールの変死体に似た絵画が喋っている。
    そいつを持ってるのはスーツの首なし。一向に喋んねえ馬鹿。

    コイツらの盗作に付き合わされるか弱い子供が可哀想でならない。

    「ライブラリー・オブ・ロアは偶発的なもの。猿がシェイクスピアを書き上げるまで待つのは面倒だ」

    手前の百物語の劣化版。
    その癖監禁だけは一丁前に上手いのが腹立たしい。

  • 5124/10/28(月) 18:04:20

    コンセントのないアナログテレビから見える女ども。

    ガスマスクの女の子、って、信じられない程に陳腐な噂。手前の力で実体化し、それがどこぞの木偶人形の複製品の皮を被った、イカれたパチモンども。

    レースクイーンじみた下品な格好をしている奴らを見ると、助平な下衆に良いようにされて怒りが湧いた。

    「ただのテメェの自慰だろうが。ご大層な名前付けてんじゃねぇぞ」

  • 6124/10/28(月) 18:04:51

    じゃらじゃらじゃらじゃら。大層に鳴るだけで、1メートルほども動けない。つまるところここから出ることあたわず。

    「契約の不履行はしない。望む物は与えよう」

    テメェらの心意気が気に食わないんだよ、こっちはよ。

    「加えて。少しばかり、色も付けてやろう」

    切り替わるテレビの画面。一瞬の砂嵐が妙に目にちらつき、分割された光景とご挨拶。
    映っているのは、血まみれの青羽織ども。

    「貴様の敵、桐生キキョウと御稜ナグサはまもなく死を迎える」

    「そういうこったぁ!」

  • 7124/10/28(月) 18:06:31


  • 8124/10/28(月) 18:06:52


  • 9124/10/28(月) 18:14:28

    「あ?」

    馬鹿どもが。
    ここまでこちらを虚仮にしておいて、無意識なのが腹立たしい。

    あの都市伝説の依代は二個。そのうち一つは、手前が持っている古書。

    すぐさま取り出し、止められる前にビリビリに破り捨ててやる。

    手前が百鬼夜行襲撃に使おうとしていた『魔王』も使えなくなるが知ったことじゃない。

  • 10124/10/28(月) 18:16:48

    「何をしている」

    今やってることの意味もわからない。相当頭が悪いらしい。

    「うるせぇ、カスども」

    これで糞女どもの復活は打ち止め。今いるおおよそ500体を倒せばそれで終わり。
    100パーセント純粋な利敵行為。
    お前しか頼れないのは、非常に不本意だが。

    「手前が『黄昏』まで使って左腕しかぶん取れなかった女が! テメェらのしょうもねぇ浅知恵で死ぬかよぉ!」

    この世の悪をぶっ潰してくれ、御稜ナグサ。

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 22:10:43

    ……厄介ファン?

  • 12二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 08:12:30

    良いSSだ
    厄介ファン言われいてみれば...

  • 13『LAST DANCE』24/10/29(火) 08:34:40

    「カモミールティーだ。口に合うといいが」

    「うん…とある少女の頼みでね」

    「理由は、言えないことになっているが」

    「街の外れ。トリニティの端から3104番目の曲がり角に足を向けたまえ」

    「君の舞台において、私は端役に過ぎない。こうして一瞬すれ違うだけの者がのたまう事に、耳を貸す必要もないが」

  • 14124/10/29(火) 08:36:15

    「…そうか、ありがとう」

    「全てを諦めたような目をするんだね、君は」

    「大丈夫さ」

    「まだ、終わっていない。分かるんだ。勘が良いものでね」

    「そう、一人でも、無様でも、惨めったらしくても」

    「踊り続ける限り」

  • 15二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 08:36:43

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  • 16124/10/29(火) 08:37:25

    「ダンスは、続くものさ」

  • 17二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 15:28:58

    ひるほ

  • 18124/10/29(火) 22:08:38

    「あのさ、先輩」

    「もう、行く。待たせてる人がいるの」

    立ち上がって走り出す。後ろを振り返らずに。

    2メートルほどで、虚無。世界が途切れている。
    息を吸い込み、先のない暗黒に突っ込んだ。

  • 19124/10/29(火) 22:09:17

    頭を何度も撃たれて、一瞬意識が飛んでいた。

    いつの間にか土砂降り。ミメシスに囲まれているコハル。

    ライフルで一人吹き飛ばして、無理矢理こちらに注目を集めさせる。

    額が切れて雨水に混じる。まるでいちごジュース。震える足。利き手から脳髄に不規則に走る鋭い痛み。

    知ったことじゃない。

    私はまだ死ぬわけにはいかない。だから、止まらない。止められない。

  • 20124/10/29(火) 22:09:42

    ここに来て根性論か。最近ずっと、らしくない。

    人は命の危機を感じると本性が出るという。

    私の根底にあるものがこのどうしようもなく熱血な向こう見ずなら、自分を今より好きになれそうだ。

    「本当の先輩に、会うのよ」

    力の限り吠える。
    私の思い出でもない、私の先入観で歪んでもいない。
    「御稜ナグサ」と、話がしたい。

  • 21二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 07:44:07

    あさほ

  • 22二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 17:21:57

  • 23124/10/30(水) 20:14:34

    トレーラーハウスがどこかから猛スピードで投げられてきた。
    衝撃と轟音。砕ける敷石。消えていく女の子たち。
    遅れて飛び降りてきた、女の人。

    「ええ、これもカスタマーサービスの一環」 

    確か、カフェで注文をとっていた。

    「お待ちのお客様がおりますわ──御稜ナグサ様」

    大きな、店員さん。

  • 24二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 20:15:11

    このレスは削除されています

  • 25124/10/30(水) 20:15:48

    「うふふ。私たち、映画の中の主人公のようではありませんこと?」

    お姫様のように、歌うように笑う店員さん。
    希望に満ち溢れた声色。そのまま機関銃で軽やかに女の子たちを撃ち払う。

    どうして、私を助けるなんてことを。

    「もう、無理だよ。私なんかに、これ以上生きる資格なんてないんだ」

    ぴたりと、機関銃の音が止む。その隙をついて、こちらに向かって大量の弾丸が飛ぶ。
    全て、体で受け止める店員さん。

    「生きているか死んでいるかなんて、それほど価値はありませんわ」

  • 26124/10/30(水) 20:16:17

    ロケットランチャーの弾を放り投げ、殴りつける。
    信じられない程の勢いで向かっていって爆発する。

    「求めてくれる人がいる限り、助け続けるのが人情ではありませんこと?」

    「求めてくれる人、って」

    私にそんな人は、いない。いなくなった。

    「桐生キキョウさんです」

    「え」

  • 27124/10/30(水) 20:17:00

    彼女が。なぜ。どうして。
    私はあの子に、ひどい真似をしてしまったのに。

    店員さんは話を続ける。

    「あなたを探そうとして、この無粋な方々に襲われてボロボロになっています。助けが来なければ、長くはないでしょうね」

    このままでは、キキョウが死んでしまう。それだけは理解できた。
    雨で体が冷えるよりも早く、顔からさあっと暖かさが消え失せていく。

  • 28124/10/30(水) 20:17:30

    「い、いやだっ…だめ、だめ。あの子たち、だけは」

    私のことを先輩と呼んでくれた、強くて優しい正義の味方。
    あの子たちがいなくなってしまったら、今度こそ私は壊れてしまう。

    「ですから、ここは私が引き受けます」

    優しくウィンクして、こちらに微笑む店員さん。

    「いい、の」

    「構いませんわ。大切な人なのでしょう?」

  • 29124/10/30(水) 20:20:31

    たぶん、この人にも大事な人たちがいるんだろう。

    「お行きなさい。後悔しないように」

    「…ありがとう、店員さん」

    「アケミちゃん、といいます。今度からはそう呼んで下さい」

    アケミちゃんに別れを告げて走り出す。

  • 30124/10/30(水) 20:21:05

    失望されたくなくて逃げたのに。
    こんなときだけ都合がいいって、キキョウは怒るかもしれないな。

    でも、嫌われたって構わない。
    自分が何者か、ここにいていいのか。
    そんなことがどうでもよくなるくらい。

    私は、もう大切な人を失いたくない。

  • 31124/10/30(水) 20:21:47

    「さて、こちらも。本業に取り掛かるとしましょうか」

    「…貴方たちからは、何もかもが感じられません」

    「誇り、夢、希望。そして何より、絆」

    「生きているとは到底言えないでしょう。ですが、あえてこう申し上げます」

    「ブッ殺されたい方からかかってきなさい!」

  • 32二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 07:37:18

    ho

  • 33二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 18:55:48

    ほしゅしゅ

  • 34二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 23:52:59

    ねるまえほ

  • 35124/11/01(金) 07:03:20

    通り雨だったようで、雲がきれぎれになってそこら中に光が差す。

    目の前の濡れた壁がてらてらと輝いている。
    たどり着いたその先で、鳴り響いていた火薬の音が一瞬だけ消える。

  • 36124/11/01(金) 07:03:41

    「ごめん、キキョウ。遅くなった」

    こちらを見た血まみれのあの子は、すこしだけ驚いた顔をした後すぐに笑う。

    「…は。先輩が来な、かったら。私たちだけで、倒してた」

    見ると、6人ほどの人たち。

    満身創痍の彼女を庇うように、こちらに来る女の子を一生懸命やっつけている。

  • 37二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 07:04:07

    このレスは削除されています

  • 38124/11/01(金) 07:04:30

    このペースだと、あと10分もしないうちに押し潰されてしまっただろう。
    でもそれは、言わない。
    私だけが情けなくてすむなら、それでいい。

    「そっか。私も戦っていい? 楽しいんだ、キキョウと一緒にいるの」

    「好きにすれば」

  • 39124/11/01(金) 07:04:52

    勝つ見込みなんて一つもないし、軽蔑されるかもしれないほどに技量は衰えてしまっていたけど。

    何もできずにすべてが終わってしまうよりはよっぽどよかった。

  • 40二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 17:40:33

    保守

  • 41二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 17:49:17

    ブランキー、最近サブスク解禁されたと噂のブランキーじゃないか!(宣伝)
    スレ主とは友達になれそうだ……

  • 42124/11/01(金) 19:21:44

    5時間ほど歌った後に似た疲労感。腹の底まで尽き果てた気力。限界が近かった。

    連携はバラバラで、一人もやられてはいけない緊張感で動きもよくない。
    相手はそんなもの意にも介さずに、倒れて空に溶けていく仲間を押しのけながら向かってくる。

    ずるりと、ひと回り大きな姿が現れる。戦闘機に付いているマシンガンを、そのまま切り出してきたような武器を両手に携えて。

    「あれが、親玉」

  • 43二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 19:22:17

    このレスは削除されています

  • 44二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 19:29:50

    このレスは削除されています

  • 45二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 19:31:23

    このレスは削除されています

  • 46124/11/01(金) 19:32:03

    キキョウの声をかき消すような音とともに、撒き散らされる鉄の塊。防ぎようがない暴力の奔流。
    私たちだけでは、どうにもならない。

  • 47124/11/01(金) 19:32:23

    だから、必要なのは。

    「『バルバラ』複製体の前に到着」

    全てを救って、護ってくれるような。

    「誇りと信念を胸に刻み──救護が必要な場に救護を!」

    騎士団の、団長。

  • 48124/11/01(金) 19:35:05

    「また助けてもらっちゃったね」

    腰を抜かしたポニーテールの子を助け起こす。
    真面目な顔でこちらを見ているミネ。

    「いえ、これも救護騎士団の務めです」

    ひと息おいて。それに、と次ぐ言葉。

    「私だけの力ではありませんので」

  • 49124/11/01(金) 19:35:33

    工事現場のような音が、建物を隔てて聞こえた。
    加えて、きぇえええええ、と狂乱する声。

    「セイアさんのご尽力によって救護騎士団、正義実現委員会。そして、」

    「キャスパリーグとその幹部三銃士〜」

    「…ナツ、アンタ後で『ルワゾー・ブッレ』のパフェ奢ってもらうからね」

    「えっ」

    「当然私もだからね! アンタのせいで仮装考える時間も用意出来なさそうなんだから!」

    「えっ」

    「えっと…ナツちゃん? 私も、三割くらいなら払ってあげるから…」

  • 50124/11/01(金) 19:35:51

    まるで通学路のような会話。その裏で、なぎ倒されていくガスマスクたち。

    少しずつ、戦線が前進していく。
    ここしかない。
    チャンスは一度きり。希望の火を絶やしてはいけない。

  • 51124/11/01(金) 19:36:46

    「ねぇ、ミネ。たぶん、指示を出してる人がいる」

    「ナグサさん」

    次に言うことを読んだのか、咎めるような声をあげる。

    「大丈夫。今度こそは」

    不安そうな目を見つめ返す。安心して、と伝えるために。

    今度こそは間違えない。自分のためじゃなく、皆のために。
    私はすべてを終わらせる。

    「私が行く」

  • 52124/11/01(金) 19:37:20

    「…悪かったよ」

    私の喉を撃ったポニーテールの子が、伏し目がちに言葉を紡ぐ。

    「大丈夫。気にする必要、ないよ」

    街のはずれの、そのまたはずれに走り去る。

    「ありがとな」

    叫ぶような声。振り返ってすこしだけ笑う。

  • 53124/11/01(金) 19:37:59

    たくさんの人が、優しさだけを胸に今この場にいてくれている。

    喧騒と爆音が遠ざかり、聴き心地のいい音楽のように聞こえる。靴が敷石を鳴らす音と重なりあって、混ざりあって。ひとつの音楽になっていく。

    ふわふわと、浮いているような心地で、誰も聞いたことのないダンスナンバーの中にいる。
    歌っているのは、どこかの不良少年。

  • 54124/11/01(金) 19:38:37

    あのガスマスクたちの後ずさる方向はすべて同じだった。
    誰かを、何かを、大切なものを。守るように動いていた。
    それはたぶん、都市伝説を生み出した張本人。最後に残った、孤独な林檎。

    ドアとも呼べないような、蝶番が片方外れた腐った板を蹴り倒す。

    そこには、小さな。ガスマスクの女の子。

  • 55124/11/01(金) 19:39:10

    「ごめんね」

    私には、願う権利もなくて。
    これはただの、わがままだけど。
    私の好きな人たちに、ずっと笑っていてほしい。
    だから、あなたの想いを終わらせる。

    ヘッドショット。仮面が砕ける。霧散する暗い気配。

  • 56124/11/01(金) 19:40:25

    「どう、して」

    目の前の子がガスマスクを脱いでいる。
    統一された仲間の証がなくなり、アンノウンボックスの中身が見える。

    私が感じていた視線と全く同じものをこちらに向ける、ぼさぼさの金髪の。
    ヴァルキューレに連れて行ってくれた、女の子。

    彼女は逃げ出して、私も追いかけようとしたのだけど。

    気が抜けたのか視界がぐるぐる回っていき、真っ暗闇の中でこちらに笑いかけるアヤメが見えたあとに、床もないただの砂利に顔から倒れこんだ。

  • 57二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 03:53:01

    保守

  • 58二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 13:38:29

    アケミかっこよ…

  • 59二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 22:21:01

    通学路みたいな会話しながら敵なぎ倒すのスイーツ部らしくていいな

  • 60二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 09:03:13

    保守

  • 61二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 19:30:54

    アリウスか

  • 62二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 22:23:19

    潜入だったのかな

  • 63『僕はただ悲しいふりをする』24/11/03(日) 22:36:49

    あの子はとってもキレイだった。助けてあげたくなるほどに。

    隠れ家の森に入ってきた、白い女の子。
    暗記はマダムにも褒められるくらいにできたから、どこかで見た緊急通報の番号を思い出して、あの子のケイタイで電話した。

    ホントは私が病院まで連れていきたかったけど、そうすると捕まっちゃう。他のみんなはそうなった。

  • 64124/11/03(日) 22:37:32

    みんながどこに行ったのかは知らない。でもわたしたちがいい目を見れてるとは思えなかった。

    わたしたちはアリウスだから。

    頑張って逃げた。あいつらに復讐するために。
    トリニティは悪い奴らの集まりだから殺さなくちゃいけないんだ。

    あの子からケイタイをもらって、ときどきぎゅっと抱きしめた。ちょっとだけあの子の匂いがして。
    冷たい風が吹いてるときでも、雨でびしょびしょになっちゃったときでも。すこしだけ楽になれた。

  • 65124/11/03(日) 22:37:54

    いっぱいおめかしして、街の中であの子を探した。
    一日で見つかった!これが運命ってやつなのかな。
    困ってるみたいだったから道案内してあげた!

  • 66124/11/03(日) 22:38:15

    あの子が病院に入っていってた。右手にケガしてるもんね。
    こっそり忍びこんで配給の砂糖を置いておいた。
    喜んでくれるかな。

  • 67124/11/03(日) 22:38:44

    あの子のことをじっと見てた。
    ずうっと悲しそうな顔をしてる。
    青い女と一緒だからかもしれない。あいつはトリニティだから、なにか汚いことをしてあの子を脅してるんだ。

    でもあいつと戦って助ける、ってことは考えられなかった。負けるのが、終わりになるのが怖かった。

  • 68124/11/03(日) 22:39:01

    不良たちがあの子をいじめてた。

  • 69124/11/03(日) 22:39:38

    マダムの友達って人からミメシスをもらった。
    ミメシスの指揮権があったのは偉くて頭のいい子だけだったから、なんだか自慢したい気分。

    あの人はトリニティの奴を殺したら、アリウスのみんなを助けてくれるって言ってた。

    特にピンクの奴の持ってる本を奪ったら、もう一度マダムに会わせてくれるらしい。

  • 70124/11/03(日) 22:40:07

    マダムは褒めてくれるかな。
    みんなを連れてトリニティのやつらを皆殺しにしたら、外出許可だって出ちゃうかもしれない。

    そしたら、あの子にもう一度会って友だちになるんだ。
    いっぱい話そう。いっぱい遊ぼう。
    すごく楽しみだった。

  • 71124/11/03(日) 22:40:42

    ずるいじゃないか。
    なんであいつらだけあの子と仲良くなれるんだ。
    わたしたちが正義のはずなのに。
    あいつらは死んで当然のはずなのに。

    わたしはこんなに、こんなに我慢してるのに。

  • 72124/11/03(日) 22:41:08

    涙が止まらなかった。
    どこに向かっているかもわからなかった。
    もう友だちも頼れる大人も、誰もどこにもいなかった。

    もう何日も食べてない。
    頭がぐらぐらしてかぁっと熱くなる。
    手足から力がぬけていく。

  • 73124/11/03(日) 22:42:50

    「いやだ」

    終わりたくない。終わりにされたくない。
    わたしは、まだ。

    「幸せに、なってないのに」

    マダムの笑顔が、ぼやけた目に見えた。
    怖いけど大好きだった、わたしたちのお母さん。

  • 74二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 08:59:22

    ああ...どうすれば

  • 75二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 20:20:30

    スレ主文章上手いなぁ
    応援してます

  • 76124/11/04(月) 22:47:51

    そもそもヴァルキューレに入るなんてことが嫌だった。
    それでもこれも市民のためだと、渋々受け入れた。
    役に立てることはあるはずだ、と思っていた。

    ところが現実はどうだ。白い部屋には私以外なにもない。
    助けを求める声も、他の警官さえも。

    トリニティの人間にとって正義実現委員会や救護騎士団で正義の味方は事足りており、私は添え物扱い。

  • 77124/11/04(月) 22:48:30

    何もないのが幸せ、とは考えられない。私はSRTに、戦ってみんなの平和を守る学校に入ろうとしていたのだ。

    訓練も無しに毎日ここで寝泊まりする日々に嫌気が差していた。

  • 78124/11/04(月) 22:49:12

    それに実際には事件が一つもないわけでもない。むしろその逆。困っている人間は溢れかえっている。

    では何がないのかと言えば、こちらの権限。
    いちいちトリニティの上層部にお伺いを立てなければ拳銃ひとつ抜けやしない。パトロールすらできない。

    もちろん許可は出ない。天下の三大校様が公僕の力を借りるなんてあってはならないから。
    さっきも外では銃声が鳴り響いていたにも関わらず、交戦許可は降りなかった。

    「交通ルールを守りましょう」

    壁面に貼られているありふれた文言にすらわけもなく苛立ちを覚える。

  • 79124/11/04(月) 22:50:03

    いつの間にか雨が止み、ぽたりぽたりと滴り落ちる雫の音だけが残る。

    ここから出ていってどこかでラーメンセットでも食っても、大した影響なんてないんじゃないか。
    近くに中華なんて庶民的な店はない、退屈なこの町には。

    ふと、壁の白さに目がいく。同じような肌と髪の色をしていた、迷子の少女を思い出す。

    私はあの子と蒼森ミネを、恥も外聞もなく叫んで追い出した。ただの八つ当たり。

  • 80124/11/04(月) 22:50:30

    あの子は怯えた顔をしていた。

    「なにが、正義だ」

    争いを求めて、勝手にやる気をなくし。
    挙げ句の果てには守るべき市民の前でわめき散らす。
    私は腐っている。

    思考が負の渦に巻き込まれてしまいそうになった時、とんとん、と戸を叩く音。目の前の扉に移る考え。

  • 81124/11/04(月) 22:51:24

    「はい」

    どうせ正義実現委員会はどこですか、なんて質問をしてくる奴だろう。やる気がなかった。
    プライドを捨て、逆方向だ馬鹿野郎、と答えて寝てしまいたかった。

    ががががが。建て付けの悪い引き戸は素直に開かない。
    どうぞ、と言うと窮屈そうに頭を下げてぬうっと入ってくる。

  • 82124/11/04(月) 22:52:18

    レインコートを被っている。ヘイローはない。
    ロボットか獣人かと思ったが、こんな型は見たことがないし、こんな種族も見たことがない。

    顔にはガスマスクを着けている。もしやアリウスか、と思ったが大人はいるはずがない。

    その背には誰かを背負っていて。

    「なにか、ご用ですか」

    異様な風体に少々面食らったものの、市民であることには違いない。できる限り丁寧に応対する。

  • 83124/11/04(月) 22:54:04

    しかし、答える言葉はなく。
    袖から見える熟れた林檎に似た赤い手が、担いでいた気を失っているらしい粗末な服装の女の子を床に横たえる。
    そのまましずしずと、儀式でも行っているかのように出ていった。

    「ちょっと、あの」

    このままこの子を放っておいてもらっちゃ困りますよ、と声をかけようと、外に出て周りを見渡した。

    影も形もなくなっていた。蝶の見る夢のように。

  • 84二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 08:31:38

    初めてきました
    応援します

  • 85二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 19:08:28

    何者だろうか

  • 86二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 01:38:04

    夜の保守

  • 87二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 07:52:15

    いいなぁ…

  • 88二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 18:57:37

    保守

  • 89124/11/06(水) 20:21:43

    とりあえず目覚めさせなくちゃどうにもならない。すやすや寝ている女の子を、肩を揺すって起こそうとする。
    私の手が近づいていき、手と体の距離が15センチ程になった時、途端に彼女は目を見開いた。
    勢いよく後ずさっていき、怯えた目つきでこちらを見る。

    「あの」

    「来るなっ」

  • 90124/11/06(水) 20:22:57

    一歩踏み出すと2歩分下がる。しかしここはそこまで大きいわけではなく、したがって逃げられる場所も時間も限界があり。

    「来るなっ、来るなっ…」

    壁際まで追い詰めると、動きも緩慢になってきて。
    きゅるるる、と女の子の腹の虫が鳴る。

    「…なんか、食べますか?」

  • 91124/11/06(水) 20:23:35

    冷凍のチリドッグと、瓶入りのメロンソーダ。オーガニックだのなんだのと気取ったスーパーに反抗するように買ったジャンクフード。レンジに入れて3分。

    皿を出すと、すぐさま飛びつきがつがつと具やパンくずをこぼしながら食べる。
    白い床に赤いソースが落ちて杏仁豆腐のよう。

    身なりや振る舞いから察するに、この子はたぶんアリウスだ。エデン条約をぶち壊した悪人。

    音を鳴らすと気付かれる。DUにいる上司とのトーク画面が映っている、仕事用の携帯を見えないように弄る。

    フードの奴がなんでこいつをここに置いていったのかは知らないが、捕まえて手柄を挙げれば、私はもう少しまともな所に逃げられる。

  • 92124/11/06(水) 20:23:57

    途中まで打ち込んだところで見られてはいないかと顔を上げ、ぎょっとする。

    彼女は泣いていた。

    どこか痛いんですか、と聞くとしゃくり上げながら首を振る。

    「おいしい」

  • 93124/11/06(水) 20:24:32

    自分のぶんも一口食べてみる。そんなにうまくはない。チリソースが妙にべたついて不快だ。

    「ありがとう。こんなおいしいもの、はじめて」

    泣くなよ、と心の中で呟いた。
    お前は悪人のはずだろう。矯正局に連れて行っても、心なんて痛まない。
    それなのに、子供みたいに泣かれては。

    トリニティ支部、アリウス見つけました、まで打ち込んでいた文字を全て消す。

  • 94124/11/06(水) 20:25:04

    「しばらく、ここにいたらどうですか」

    口が勝手に動く。

    「ここ、誰も来ませんし。シャワーも、食事も、用意できますよ」

    「ほんとう?」

    どうなるかは知らない。これが良いことなのかもわからない。ひょっとしたら犯罪者を匿ったと、私も矯正局行きになるかもしれない。

  • 95124/11/06(水) 20:25:22

    「えぇ、本当です」

    でも、今はもう少しだけ。
    何が正義か、考えたかった。

  • 96124/11/06(水) 20:26:19


  • 97124/11/06(水) 21:08:26

    手の先から薄れていき、猶予時間の終わりが告げられる。

    都市伝説と化したこの私を、伝えようとする者が一人もいなくなる。

    あの男は私をただの舞台装置だと言っていた。
    今とどちらがマシかはわからない。なんだっていい。
    私が負けたという事実だけが確かなことなのだ。

  • 98124/11/06(水) 21:08:55

    そして私は偉大な存在になり、全てを救うことができなかった。
    後者については、するつもりもなかったが。

  • 99124/11/06(水) 21:09:31

    ですが、まぁ。

    最後まであなた方は付いてきてくれましたし。

    もう私にとって、全てが虚しいことなら。

    鼻で笑ってしまうような、偽善をやってやるのもやぶさかではない。

    「私が言うのは、図々しいかもしれませんが」

    アリウス分校の生徒会長として。
    大人として。

    「あなたたちの幸せを、祈っていますよ」

  • 100二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:23:47

    ああ…

  • 101『赤いタンバリン』24/11/07(木) 08:30:24

    「アハハハハハハハハハハハッ、ハハッ、ハッ…ヒィ、可ッ笑しい」

    最高の気分だ。

    砂嵐のノイズと、手前の笑い声だけがファンファーレのように響き渡り、浮かぶ埃すら勝利を祝う紙吹雪に見える。
    あっ喉に入った。むせる。

  • 102124/11/07(木) 08:31:05

    「げほっ、ごほっ、見たかよ、クソ野郎」

    絵画の目を見て嘲笑ってやる。表情が変わらないのが残念だ。きっと、滅茶苦茶に面白い顔をしているだろうから。

    「テメェのクソムカつくクソ二次創作のクソショートショート程度にナグサちゃんが負けるわけねぇんだよ、クソボケ」

  • 103124/11/07(木) 08:32:22

    こっちも少なくはない損害を受けたが、癇に障る阿呆に身の程を知らせてやれたという事だけで全てがチャラになったように思えるから不思議だ。

    目の前の阿呆は暗い部屋でじっと動かない。モヤシ栽培の方が動くんじゃねえの。

    「契約は不履行、となった」

    絵画は淡々と当たり前のことだけを述べている。
    つまんねえ野郎だな。御稜ナグサの方が100倍見てて楽しい。

  • 104124/11/07(木) 08:33:50

    「だが、不完全ではあるが噂が顕現したことにより。現実と虚構の境目は曖昧となる」

    「そういうこったぁ!」

    「…これで混沌領域──『地下生活者』へ接触できる。感謝するぞ、噺家」

    と思いきや、にわかに意味が分からねえことをべらべらと話す。

    耳がきんきんする合いの手に虫唾が走る。

    聞き手が知らない情報を出すときは丁寧に話しなさい、と教えられなかったのだろうかこの木偶の坊は。

  • 105124/11/07(木) 08:34:15

    「地下生活者だか路上生活者だか知りませんがね、とっとと手前を帰してくださいよ」

    「そのつもりだ」

    感情の起伏が感じられないのは物語の登場人物としては下の下だが、こういう時に話が早いのは評価できる。
    鎖が外れて霧散する。何週間か満足に運動しておらず、カチコチに固まった体をほぐすために前屈でもしてみる。

    「ああ、そうだ。その前に、今どんな気持ちか教えてもらっても」

  • 106二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:36:50

    このレスは削除されています

  • 107124/11/07(木) 08:37:17

    柔軟を屈伸に変えるついでに煽ってやろうとする。
    もうそこには誰もいない。

  • 108124/11/07(木) 08:37:41

    見渡す限り、砂漠。青空。
    綺麗だね。なんて言ってみても心の底からそう考えてない。ただ暑いだけ。

    どうやら腹いせか何だか知らないが適当な所に飛ばされたらしい。

    「…アビドスか、ここは」

  • 109124/11/07(木) 08:38:24

    口に出して言ったところで場所が変わるわけでもねえし、あのボケどもは戻ってこねえ。

    そして手前はねぐらへの転移もできねぇ。古書を破いちまったもんだから依代がなくて使えねぇ。面倒臭えがここは忍耐。歩いてだいたい2日ほどかなってんだ。

    頑張って帰ろうじゃありませんか。えいえいおう。

    強い風が吹いて砂が目に入った。

  • 110124/11/07(木) 08:38:59

    「ふざけんじゃねえっ、ウジ虫がっ、手前をバカにしやがって、一人じゃ何もできねぇ能無しのくせによぉ、その出来の悪いツラもう一回見せろチンカス野郎、グズでボンクラでろくでなしのジジイどもがっ」

    もう二度とコクリコ様以外は頼らねえ。クソが。

  • 111二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 19:34:19

    やはりシュロ口悪いな

  • 112二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 03:26:49

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 07:54:53

    シュロだな

  • 114二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 19:31:07

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 03:01:24

  • 116二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 12:12:10

  • 117124/11/09(土) 19:59:46

    夕焼けに赤く染まった白い天井。薬剤の匂いに甘い匂いが混じっている。

    背中に柔らかい感触。いつも布団だったので、ベッドは慣れていない。

    「あっ、ナグサさん!」

    体に掛かっていた白い布をどかして半身を上げたところに、明るい声。首を向けると桃色の女の子。

    「セリナさん」

  • 118124/11/09(土) 20:00:34

    「疲れが溜まってしまってたみたいですね。無理しちゃダメですよ?」

    見渡すと、リノリウムの床。横のテーブルにある、高そうなフルーツ籠。

    「セイア様が用意してくださったそうです。伝言として『クズノハによろしく』と」

    どこまで知っているのだろうか、あの子は。

    正面には誰も寝ている人はおらず、左右のベッドはカーテンで隠されている。
    私たちを特別扱いしてくれたらしい。

    「ミネって、今どこにいるか知ってる?」

    「えっと、団長は給湯室にいます。ハーブティーを入れてくると」

    「ちょっと、話してきていいかな」

  • 119124/11/09(土) 20:01:42

    立ち上がり、入り口の方に歩く。使っていなかった筋肉が痛むが、これくらいならどうという事はない。

    「はい、大丈夫ですよ」

    彼女は近くの椅子に座り、カバンの中から鞘付きの小さな包丁とまな板を取り出す。

    「りんご、剥いておきますね。よかったら、戻ってから食べてください」

    ごめんね、と言おうとして、やめた。

    「ありがとう」

    「はい!またいつでも頼ってくださいね!」

    花が咲いたように笑うセリナさん。素敵だった。
    日が目に入る方、くるりと閉じたカーテンの方を向く。

    「それに、キキョウも」

    「えっ」

    驚くセリナさん。

  • 120124/11/09(土) 20:02:48

    「…気付いてたの」

    しゃあああ、という音。開かれる仕切り。
    頭からつま先まで包帯まみれのキキョウ。彼女が一年生だったときを思い出す。
    ひょっとして、隠れていたのだろうか。

    果物に混じってわずかに古本とお香の匂いがしたから、てっきり喋っていないだけで当たり前にいるものだと思っていた。

    「いや、えっと、その」

    カーテンは私と話したくないという意思表示だったのかもしれない。だとすれば、私は余計なことを言ってしまったのではないだろうか。
    自分の短慮を悔いた。

    「ご、ごめ」

    「燈籠祭」

  • 121124/11/09(土) 20:05:02

    燈籠祭。20年ぶりに開かれる、百鬼夜行のお祭り。

    「…ユカリがさ、巫女の家だから。大きな舞台で踊るのよ」

    「ナグサ先輩も来て。きっと喜ぶだろうから」

    勘解由小路ユカリ。「御稜ナグサ」に憧れて百花繚乱に入ってくれた女の子。

    本当の私はあの子に憧れられる価値のない人間だが、百花繚乱をやめて、なお彼女をがっかりさせてしまいたくない。

    それに、祭りに乗じて誰かが暴れたりするのは止められるかもしれない。
    トレーニングも再開しなければいけないだろう。
    大切な人を守るために。

    「わかった。キキョウ」

    「なに?」

    「またね」

    「……うん」

  • 122124/11/09(土) 20:05:39

    セリナに頼んで、一人にしてもらう。

    「ふぐっ…う…ぁ…」

    私の嗚咽だけが誰もいない部屋に響く。

    素直に心の中を全部打ち明けることはできなかったし、分かりあえたことなんて一つもなかったけど。

    「嫌われてなくて、よかった…」

    笑って、またね、と言ってもらえた。
    それだけで、とても嬉しかった。

  • 123二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 05:12:52

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 15:32:29

    保守……

  • 125二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 20:24:17

    ゆうほ

  • 126二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 23:08:33

    初めて来ました
    キレイだった。あの言葉はアリウスの子の言葉だったのか
    エデン条約後だからアリウス分校とも連絡が取れずか...団長たちに助けられてるといいな

  • 127二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 07:53:59

    仲直りできそうでよかった

  • 128二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 19:23:16

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 03:26:02

    和解できそう

  • 130二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 11:57:50

    シュロ砂漠大丈夫かな

  • 131124/11/12(火) 21:46:18

    人工的な光が、ちかちかと点滅している。
    白い部屋の中で、ポットの中の紅茶が蒸れるのを今か今かと待っている背の高い女の子の後ろ姿。

    小犬に似ているな、と思った。彼女にそれを言ったら恥ずかしがるだろう。生真面目な人だから。

    「ミネ」

    振り向く蒼色の髪の少女。
    日の当たる方に臨むエメラルドの瞳の中に、夕暮れ時の光がきらきらと燃え上がっているように揺らめく。
    急に声をかけられて驚いたのか、見開かれたそれはいつもよりますます綺麗に見えた。

  • 132124/11/12(火) 21:46:45

    「ナグサさん。お体に差し障りはないですか」

    「うん、大丈夫。この通り」

    左腕でふんすと力こぶを作っておどけて見せる。

    部屋の外でも感じはしていたが、中に入るとレモンの香りがいっそう強く鼻をくすぐった。

    「それは何よりです。そうだ、これを」

    彼女はスマートフォンを差し出してきた。地味な手帳型のケースに、黒くて小さな体を収めている。
    私のスマートフォンだった。

  • 133124/11/12(火) 21:47:18

    「充電は切れていますが、壊れてはいないそうです。運良く雨風の当たらないところに落としたのでしょう」

    多少合皮のふちが削れて白い肌を見せてはいるものの、ほとんど失くしたときと同様の姿だった。

    「どこで見つけたの」

    そう聞くと、ミネは怪訝そうな顔をする。

    「ナグサさんが倒れた場所のすぐそばに落ちていたのですが。気を失う前に見つけていたのではありませんか」

    今思い返してみるとぼうっとしていて、あまり記憶に自信がない。
    あのガスマスクの群れは誰が率いていたのだったか。

    「どう、だったかな」

  • 134124/11/12(火) 21:48:01

    ぴぴぴぴぴ。タイマーが鳴る音で考えが中断される。空気を震わす元に目をやる。

    ぶどうの形をしたストップウォッチのボタンを押し、ポットの蓋を開けて茶こしを取り出すミネ。

    「…紅茶は淹れたての、熱いうちが一番美味しいのです」

    彼女は観音開きの棚を開け、「救護騎士団」とマジックで書かれたテープが貼ってある場所から胴の長い猫のキャラクターが描かれているカップを二つ取り出す。

    「後輩の方と、セリナには後で新しく淹れ直すとして」

    そして、人差し指を照れくさそうにくちびるに当てて。

    「ふたりで一緒に、お茶会をしませんか」

    願ってもないことで、私は笑顔で頷いた。

  • 135124/11/12(火) 21:48:50

    トリニティの人は、お茶とお茶菓子の用意を銃撃戦の真っ只中でもできるようにしている。

    てきぱきとパイプ椅子を並べ、飾り気のない白い皿に丁寧にスコーンとジャムを盛り付ける姿を見ると、どこかで聞いた噂を信じられそうになる。

    紅茶を一口飲むと、ほどよい苦味と香りが口の中に広がる。
    レモングラス、というハーブを入れているらしい。あまり知識のない私でも、心をこめ、上等なものを使っていないと出ない味だというのはわかった。

    言うべきことは、たくさんあったけど。
    先に口を開いたのはミネだった。

    「自分を大切にしてください、と申し上げたはずですが」

  • 136124/11/12(火) 21:49:29

    そういえば、出会ったときに告げられていた。
    どんなに良い目で見ても、今日の私がその言葉を守った行動をしたとは考えられない。

    「…ごめん」

    私のたった三文字の謝罪に、うろたえる様子を顔いっぱいに見せるミネ。

    「あ、いえ、今のは言葉が悪かったですね」

    苦虫を噛み潰したようで、それでいて噛み潰した汁と肉の中にある小さな命の心臓を探しているような顔と。

    「あなたを責めたいというわけではなく。自分でもわかってはいるのですが、時折高圧的になりすぎてしまうのです」

    こちらをどこか恐れているような声色で。

    「私はただ、無事でよかったと伝えたかったんです」

    そう、告げられた。

  • 137124/11/12(火) 21:57:14

    「ナグサさんは、なぜここに来たのですか?紅茶なら、すぐにでもお持ちしたのですが」

    そういえば、理由を伝えていなかった。
    トレーニングを再開するには、色々な器具が必要で。
    それは自分の寮に残したままだから、というものと。

    いつまでもミネに甘えてはいけないという思いがあって。

    その二つとともに彼女への感謝を伝えるには、私はあまりにも口下手すぎた。

    「百鬼夜行のお祭り、えっと、燈籠祭って知ってるかな。そこに行くから、もう帰らなくちゃいけないんだ。だから、最後にありがとうって伝えたくて。急な話かも、しれないけど」

    ミネはまた驚いた顔をして、すぐに真顔に戻る。いつも冷静なので、一日に二度もこんな表情になる時を見るのは新鮮だった。

    「感謝など、される道理はありません」

  • 138124/11/12(火) 21:57:54

    彼女は人の好意を無碍に扱うわけではないが、かなり遠慮するところがある。

    これで生涯の別れとまではいかないが、同じ屋根の下で生活することはたぶんもうないだろう。
    だから私は、この場はしっかりと気持ちを伝えておきたかった。

    「あなたにとっては救護騎士団の責務かもしれないけど。私は、とても嬉しかったんだ」

    私ですらこの数週間で変わったことがいくつもあったのに、彼女がいつもの彼女であると信じきって。

    「いえ、私は」

    彼女は息を吸う。まるで今から、深い水底まで潜るかのように。

    「私欲の為に、ナグサさんを利用していたかもしれないのです」

  • 139124/11/12(火) 21:58:31

    「私たちの学校は、組織間の対立が激しいです。それは個々人の関係にまで及び、幼い頃からの友人であっても以前のような付き合いはできなくなります」

    ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ彼女が、ひどく小さく見えた。

    「ナグサさんとパフェを食べたり、恋愛小説の感想を語りあったりする時間はとても楽しかったです。しがらみのない友人関係というものはこんなにも清々しいものだっただろうか、と思わせられました」

    しかし、と彼女は続ける。

    「自分の欲望に目がくらむ余り、ナグサさんのことを、慮っていなかった。思い悩んでいることに、気がつけなかった」

    彼女の話す中に、ところどころ言い淀む部分が増えていく。
    はきはきとしたいつもの喋り方が、砂糖を紅茶に入れたようにゆるやかに溶けてなくなっていく。

  • 140124/11/12(火) 21:59:18

    「セイアさんのおっしゃる通り、に、ナグサさんを彼女の元へ連れて行ったことで、かなり精神状態は改善されたと、思います。ですが、わ、私、は」

    彼女の顔から流れた一滴の雫が、白い床に落ちる。

    「あなたを、私の手で救いたいと思ってしまった。救護騎士団というのは、私欲のために存在するものではないのに」

    吐き出すように言って、ミネは俯いて泣き出した。

  • 141124/11/12(火) 22:00:02

    彼女のことを、ちっとも分かっていなかった。

    私はいつも人の気持ちを理解できずに、誰かを傷つけてしまう。そんな自分が嫌だった。

    でも、今は自分を責めるより、彼女に伝えなくちゃいけないことがある。

    「あのね、ミネ」

    顔を上げたミネの顔は、ぐしょぐしょになっていた。
    涙でチークやマスカラが溶け、黒やピンクの染料が顔に広がっている。

    「さっきは嬉しい、って言ったけど。私も、それだけじゃないんだ」

    「楽しかった」

  • 142124/11/12(火) 22:00:32

    ずっと続くと思っていた幸福が、全部なくなって。
    絶望も、諦めたこともいっぱいで。
    それでもいくらか未来が好きになれたのは、彼女のおかげ。

    「あなたが一緒にいてくれたから、私は救われたんだ。ミネはずっと、救護騎士団の団長だよ」

    「ねぇ、また遊ぼう。カフェで食べてなかったスイーツも食べて、小説の話もして。遊園地にも行ってみよう」

    「…はい。ありがとうございます、ナグサさん」

    まだ泣いてはいたものの、ミネは晴れやかに笑う。

    ずっと一緒にいたのに、はじめて彼女と会ったような気持ちだった。憂いも後ろめたさもなくなって、今このときに私たちは友達になれたのだと思った。

  • 143124/11/12(火) 22:01:15

    「一月ほど後に、トリニティでも学園祭が催されるのです。よろしければナグサさんも来ていただけませんか?屋台や、出し物も多くありますし…アイドルコンテストというものも開かれるそうです。きっと面白いものになります」

    「アイドル、かぁ。ミネは参加するの?」

    「い、いえ、私は裏方に徹しようと」

    「そう? 似合ってると思うけどな」

  • 144124/11/12(火) 22:01:35

    日はもう沈む。世界がまた終わりに近づく。

    そしてまだ、ダンスは終わらない。

  • 145124/11/12(火) 22:02:56

    ss『LAST DANCE』はここで終わりです
    ありがとうございました

  • 146二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 22:03:26

    SS執筆お疲れさまでした!

  • 147124/11/12(火) 22:05:42

    ちょっとだけ自我を出します。
    ハートや保守、感想はどれもありがたかったです。
    特に感想はめちゃくちゃ嬉しかったです。
    最初から読んでくれた人も、途中から読んでくれた人も本当に感謝しかないです。
    改めてありがとうございました。

  • 148二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 22:27:19

    最初から読んでました!!!
    めっちゃ良かった……!!!

  • 149二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 22:28:24

    ところで途中、どこかのバンド?の曲になぞらえた小話が出てきてましたけども、あれは主の趣味?

  • 150124/11/12(火) 22:34:08

    >>149

    もうびっくりするほど趣味ですね

  • 151124/11/12(火) 22:34:38


  • 152二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 09:32:34

    保守

  • 153二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 10:36:42

    読んで、バンドの曲聴いてまた読み返してたけど、「何食ったらこの曲からこんな発想に到れるのだろう」ってずっと思ってた……

    勿論褒めてます。すごい発想力です

  • 154二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 21:20:09

  • 155二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 21:28:44

    途中から読ませて頂きました、めちゃくちゃ惹き込まれるSSでした!!
    アリウスの子元気に暮らせてるといいな。作者様に心から感謝申し上げます

  • 156二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 06:33:42

    すごく面白いssでした
    また新たな作品をお待ちしてます

  • 157二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 12:00:06

    あの途中途中に挟まれてた曲から書いていたんですね
    めちゃくちゃ凄い尊敬します!

  • 158二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 22:28:32

    主は本作以外には何かしらSS出してたりする?

  • 159二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 22:29:49

    そういえばあの砂糖アリウスの子が置いておいてくれたんだな
    優しい子だったなあ
    そしてシュロはアビドス砂漠から帰還するの苦労しそうだ
    にしてもベアトリーチェ改心したんだなあ、さようならベアトリーチェ安らかに

  • 160二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 08:03:06

    かんそうほ

  • 161二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 19:19:54

    元SRTの子も前を向けて良かったあ

  • 162二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 05:50:29

    あさかんそほ

  • 163二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 14:04:55

    ミネ団長がめちゃくちゃ優しかった
    あとマスカットをもぐもぐ食べる団長を想像できて良かった
    またいつかナグサ先輩とミネ団長があえて遊べますように

  • 164二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:01:57

    にしてもアケミ先輩が喫茶店の店員やってるとは思わなかったな
    めちゃくちゃ頼れる店員さんだったけどしっかり七囚人だったな

  • 165二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:26:51

    美しいものを見た

  • 166二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 11:45:55

    アケミはビックリだったな……

    七囚人そんな普通に働いててええんか……?

  • 167二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 22:23:05

    アケミやミネ団長、喫茶店の後も救援としてきてくれたのめちゃくちゃカッコよかったな

  • 168二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 09:59:30

    ミネ団長、めちゃくちゃ献身的で可愛かったな
    スイーツ食べてる描写がめちゃくちゃ良かった

  • 169二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 21:26:52

    この作品、描写がすごい良かった
    鮮明に頭の中に光景が思い浮かぶ。紅茶を飲んでるシーンとか感動的だった

  • 170二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 08:17:23

    >>169

    凄い共感できる

    自分はアリウスの子がしっかり料理を食べれたところかな

オススメ

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