- 1124/10/29(火) 18:51:21
- 2二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 18:52:58
立て乙です
- 3124/10/29(火) 18:53:20初代スレここだけ病弱コハル|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す季節の変わり目でも風邪で熱を出す筋肉つかないし体力もほとんどないので前線張るのはムリ日焼けで黒くなるんじゃなくて赤くなるくらい肌も弱いそれでも憧れは止められないので正実には入るし…bbs.animanch.com
その2
ここだけ病弱コハルその2|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す季節の変わり目でも風邪で熱を出す筋肉つかないし体力もほとんどないので前線張るのはムリ日焼けで黒くなるんじゃなくて赤くなるくらい肌も弱いそれでも憧れは止められないので正実には入るし…bbs.animanch.comその3
ここだけ病弱コハルその3|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。えっちなことにも興味あ…bbs.animanch.com詳しいことは上記参照
- 4124/10/29(火) 18:56:32
【注意事項】
・原作批判、またはそれに繋がりかねないレスはお控えください。原作シナリオに言いたいことがある場合は別スレたててね!
・所詮二次創作であり落書きです。内容を間に受けないでください。展開に多少の粗があっても大目に見てね! - 5124/10/29(火) 18:57:31
工事完了です……ひぃんとりあえず10まで埋めてくれると嬉しいよー
- 6二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 19:14:49
立て乙うめ
- 7二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 19:33:11
建て乙
- 8二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 19:41:52
たておつ
- 9二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 19:59:15
建て乙
- 10二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 20:00:06
立て乙
- 11二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 20:52:26
守りたいこの笑顔(絶対)
- 12前スレ19724/10/29(火) 23:19:49
- 13二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 00:56:33
- 14二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 07:55:53
草ァ!!
- 15二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 08:38:25
是故空中 無色 無受想行識(だから生まれたり、減ったりするものはない。「空」なのだ。「空」とは何か?「空」とは万物全て変化するということだ。)
- 16二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 17:18:44
保守
- 17二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 17:33:39
ばにたす思想に近いと言われる諸行無常ですら意味は
※人が死ぬのも無常ですが、生まれるのも無常、成長するのも無常だというのです。不幸な人が幸福に恵まれるのも無常なのです。
万物ばんぶつは流転るてんしています。だからこそ、努力するのであり、一刻一刻が貴重なのであり、限りある命を大切にするのです。
けっして、「無情」ではありませんぞ。※
だそうで無駄を説くものではないとのこと - 18124/10/30(水) 19:14:52
ひぃん野生のクールポコと仏教関係者が集まってカオスだよ―
前スレの続きから投稿するから、初見の人はちんぷんかんぷんだと思うよー気になった人は>>3の過去スレを見てねー
今回はスレでも心配されてるあの人が出てくるけど、ほとんど原作のワンシーンと変わらないよーぶっちゃけ読み飛ばしてもいいくらいだよー
でもサイ◯リヤの間違い探しくらいにはif要素が散らばってるから、暇な人だけ読んでみてねー
- 19124/10/30(水) 19:17:35
【……】
向かいの部屋へと退散した私は、一人ベッドに腰掛けて考えていた。素材がいいからか、それとも手入れがされているからか。ベッドは妙な音を立てることもなく、大人一人分の体重を優しく支えてくれた。
【……ナギサ……】
思い出されるのは、少し前の記憶。補習授業部の一次試験が終わってからのことだ。
試験後、ティーパーティーに呼ばれていた私は、件の彼女が待つテラスへと向かった。そこは一般生徒が出入りを禁止されている、トリニティの最高責任者たちが集う場所。茶会(ティーパーティー)の名を冠する故か、そこは煌びやかな、されど品を損なわない程度の調度品が置かれていた。少しばかり金細工の施されたティーポットと、茶菓子の乗った皿が幾つか。それらが幾つか乗せられた長テーブル。その奥の椅子に、彼女は一人座っていた。
「こんにちは、先生。……いえ、もう時間的には、"こんばんは"でしょうか」
【こんにちは、ナギサ。なんとも微妙な時間だね】
亜麻色の髪を伸ばした、まさに淑女然とした人物。私の目の前で紅茶を嗜む彼女こそ、このトリニティにおける最上位者。トリニティ総合学園生徒会『ティーパーティー』のホスト……生徒会長、桐藤ナギサだ。 - 20124/10/30(水) 19:18:48
「まずは、お疲れ様でした。先生。補習授業部については……実は、既に聞いております。一次試験は、残念な結果に終わってしまったようですね」
ですが、まだあと二回残っていますので。次は皆さん受かるといいですね。
ナギサはニッコリと微笑みながら、何やら手元を動かしていた。これは……チェス盤?
「これが気になりますか? ただのチェスです。お恥ずかしながら、こうしてチェスを指すのが趣味でして」
【だいぶ盤面に差があるみたいだけど?】
「そうですね。あまり見ない形ではあるかと。黒はキングとクイーン、後はポーンだけ。白はキング、ルーク、ナイト、ビショップがそれぞれ3〜4個ずつ……まあ、手慰みのようなものです」
言いながら、ナギサは一つ駒を動かした。黒のポーンが一つ、盤面から退けられる。指揮に関しては一家言あるが、残念ながら、チェスに関しては門外漢だ。
【一人で指してたのかい?】
「ええ、まあ。今日はうるさいミカさんもいませんし。……外に出た際に、友人と指すことも偶にありますが、まあ稀です。それに……いえ、なんでもありません」
一瞬何かを言いかけたナギサは、途中で言葉を打ち切って笑みで覆い隠した。 - 21124/10/30(水) 19:19:58
「さて、今日は先生にお伝えしたいことがあったのですが……その前に、先生の方が、私に言いたいことがあるようですね。お先にどうぞ?」
【ありがとう。確認したいことがあってね。……もしも、3回とも試験に落ちた場合は、どうなるのかな?】
「……ふむ。ヒフミさん辺りが漏らしたのですかね? 彼女は大分おっちょこちょいなところが見受けられますので。それがいいところでもあるんですが」
【いいや? 私が勝手に気になっただけだよ】
「おや? それは失礼いたしました。流石は先生というべきでしょうか……ともかく。質問にお答えしますと」
――試験で不合格を繰り返し、落第を逃れられそうになく、助け合うこともできなかった……となれば、みなさん一緒に退学していただく他ありませんね。
ナギサは微笑みながらそう告げたのだ。
【……退学、だって?】
退学。キヴォトスにおけるそれは、外の世界における同じ概念とは数段重さが違う。キヴォトスにおいて、学校とはいわば国家そのもの。ここにおいて学籍とは、=で国籍であり、戸籍のようなものなのだ。それを強制的に取り上げてしまう退学は、もはや国外追放と言い換えても差し支えがない措置だ。
必然、そんな措置が下されるのは非常に稀であり。例を挙げれば"災厄の狐"と謳われ、方々で暴れまわっていたとある生徒ですら停学止まりなあたり、いかに退学が重い措置であるかわかるだろう。
想像だにしなかった答えに、思わず冷や汗が流れた私に対し、ナギサは平然とした様子で言葉を返した。 - 22124/10/30(水) 19:20:48
「ふふ。勿論本来は、こんなに簡単に退学にすることなどできません。落第、停学、退学に関しては校則で定められており、長い手続きと、確認と議論の応酬を繰り広げなければなりませんから。我々はゲヘナと違って、手続きを重要視しますので。――ですが、補習授業部はその辺りを無視できるように作ってあります。シャーレの強権を少しばかり組み込ませて頂いたのもあって、このような措置が可能となっているのです」
そもそもこの補習授業部は……生徒を退学させるために作ったものですから。
落ち着いた様子でそんなことをのたまったナギサに、私は凍りつくしか無かった。
【……一体、なぜそんなことを?】
ざわつく心を無理矢理落ち着かせ、私は努めて冷静に疑問を発した。対してナギサは笑顔の仮面を外し、真剣な表情で私を見据えた。
「あの中に、トリニティの裏切り者が潜んでいるからです」
【裏切り者? それは、どういう……】
理解の追いつかない私に対し、構わずナギサは言葉を続ける。
「その裏切り者の目的は、『エデン条約』締結の阻止。……この言葉の重さを理解して頂くためには、『エデン条約』についてまず説明する必要がありますね」 - 23124/10/30(水) 19:21:51
――その後のナギサの説明を要約するとこうだ。
キヴォトスにおいて、トリニティ総合学園と双璧をなすマンモス校。『ゲヘナ学園』。この2校ははるか昔から敵対関係にあり、争いが絶えない状態にある。
そこで、ゲヘナとトリニティ、両校の中核メンバーが全員参加する中立機構を作成。『ETO(エデン条約機構)』と呼ぶべきこの団体が、ゲヘナとトリニティ間の紛争に介入することにより、両校の全面戦争を回避し、無駄な消耗と、キヴォトスのパワーバランスが崩れることを避ける。
共倒れを避ける、ある種の不可侵条約。それこそが、『エデン条約』である。
「長きにわたって続く、ゲヘナとトリニティの争い。『エデン条約』はその唯一の解決手段であり、ひいてはキヴォトスの安定化にも繋がります。……かつて連邦生徒会長が提示したものでしたが、彼女が行方不明になった後、空中分解しかけたものをどうにか私の手でここまで立て直したのです。……ですが」
キッと、ナギサは鋭い目で私を見据えた。その目からは、強い憤りが見て取れた。
「ここまで来て。締結直前まで来たこのタイミングで。……これを妨害しようとする者たちがいると耳にしました。それが誰で、何人いるのかは分かりません。残念ながら特定には至りませんでした……そこで。可能性のある容疑者たちを一箇所に集めたのです」
裏切り者は、必ずあの中にいます。――ならば、一つの箱にまとめてしまいましょう。まとめて捨てられるように、ね。 - 24124/10/30(水) 19:23:28
「ここまで言えばわかるでしょう。補習授業部こそ、その『箱』なのです。……申し訳ありません。こうして先生を血なまぐさい争いに巻き込んでしまって。私のことは罵っていただいて構いません」
そう言って、ナギサは頭を下げてくる。……トリニティの裏切り者を消すための入れ物。それが、補習授業部の正体。……なんというか、パワープレイにもほどがある。それだけナギサがエデン条約締結に力を注いでいるということか。だが……
【私をただ利用するだけなら、こうして話してはいないだろう? 違うかい?】
「……流石ですね。言っても信じてもらえるだろうとは思っていましたが。こうなったら話は簡単です」
ナギサは再び笑みを見せた。何を考えているのかわからない笑みを。
「先生。補習授業部にいる裏切り者を探していただけませんか?」
……やはりか。恐らく今の私の顔は、苦虫を噛み潰していることだろう。
話の流れで予想はしていたが、彼女の伝えたい事とは、トリニティの裏切り者についてと、それを見つけ出すことだった。
「先生を、トリニティを騙し、平和を脅かそうとするテロリストです。ことはキヴォトス全体の平和にも直結します。――如何でしょう? 連邦捜査部『シャーレ』として、ご理解頂けたらと」
……ごめんね、ナギサ。その問に関して、私は一つしか答えを持っていない。
【私は、私のやり方で対処させてもらうよ】
なぜならば、私は『先生』なのだから。あの子たちを、疑ってかかるような真似はできない。 - 25124/10/30(水) 19:24:40
「……」
ナギサの無色透明な笑みに、別の色が混じった。
「……そうですか。分かりました。……しかし先生、ゴミを分別して捨てるのが困難な場合、まとめて捨ててしまうのも一つの手段。……そうは思いませんか?」
【そのゴミこそが、見方を変えれば宝石かもしれない。私がその手段を取ることはないよ】
「……それからもう一つ」
ナギサは笑顔を被ったまま、至極冷静にさらなる事実を付け加えた。
「試験については基本的に、私たちの手の上にあります。例えばですが……急に試験の範囲が変わるとか、試験会場が変わるとか、難易度が変わる、とか。……そういったことが起きないことを願っていますが……」
とてつもなく平坦な願いだった。思わず、【……それは、脅しと捉えていいのかな?】と聞きかけてしまうくらいには。
「失礼しました、良くない言い方でしたね。ですが、可能性としてあり得ますので、一応ご参考までに。――それでは、引き続き補習授業部をよろしくお願いしますね、先生」
ちなみにですが、1次試験の内容については、私たちは何ら手を加えておりません。この部分については、誓って嘘ではないことをお約束します。
そう、ナギサは付け加えた。
……確かに、一次試験の内容は適正範囲、どころかすごく簡単なものだった。アズサがギリギリで落ちる程度であったし、特に妨害はなかったのだろう。
「先生のやり方……それが、トリニティに利するものであることを、願っていますよ」
そう締めくくって、ナギサは静かに紅茶を口に運ぶのであった。 - 26124/10/30(水) 19:25:09
「――ああ、最後に一つだけ、よろしいでしょうか」
【……?】
話は終わりかと、席を立とうとした時だった。口を湿らせたナギサが、不意に声をかけてきた。一体なんだというのだろう。まさかこれ以上何かあるというのか。
「……。――コハルさんは、元気でいますか?」
【……コハル? ああ、見ている側が辛いけど……一応元気、であってるのかな。あれ以降発作も起きてないみたいだし。なかなか体調が良くならないみたいだけどね】
「……そうですか」
【……なぜ気になったのか、聞いても?】
「……。ええ。と言っても、そこまで大袈裟なことではありません。コハルさんは虚弱な正義実現委員として割と有名な方ですので、少々気になっただけです」
【……私からも一つ、聞いていいかい? ――なぜコハルを補習授業部に? あの子が裏切り者とは、とても思えないけれど】
「……」
ナギサは懐から何かを取り出すと、パチンと蓋を開いて中身を見つめていた。あれは……懐中時計?
「……。――勿論、コハルさんも容疑者の一人だからですよ。理由は、それだけです」
ここまで何度となく見てきたナギサの笑み。しかし今のそれは、今日一番柔らかくて……何処か、辛そうなものにも感じたのは、私の気のせいだろうか。 - 27124/10/30(水) 19:26:08
かつての記憶を掘り起こしながら、私は思わず呟くのを止められなかった。
【ナギサ……君の行動そのものは、為政者として間違っていないのかもしれない。けど……】
一生徒の決断としては、あまりにも強引すぎるものだ。エデン条約を締結させたい気持ちは汲んであげたいが……それでも、その選択は、多くの犠牲を伴いすぎる。そのような決断は、生徒(子ども)ではなく、大人がすべきものだ。
責任は、本来大人が負うべきものなのだから。
その時だ。コンコン、と控えめなノックが響き、廊下から小さく、しかしはっきりと声が伝わった。
「……すみません先生、今よろしいですか?」
【! ……ああ、大丈夫だよ。おいで、ヒフミ】 - 28124/10/30(水) 19:28:53
今日はここまでだよー
あまりにも原作丸パクリにしかならないから思い切ってカットしようか悩んだよー
けど物語的に必要な場面ではあったから、出来る限り言い回しを変えたりして頑張ってみたよーひぃん石を投げないでー
次回はヒフミからの相談。うまいこと筆が乗ったら合宿二日目突入だよー - 29二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 19:30:49
リアルタイムだとここはヘイトポイントだったけど今となってはもう休め!という感想しか出ない
絶対コハルとも何かある感じじゃん!ナギサだってまだ子供なんだから無理しないでくれ… - 30二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 20:03:13
合宿所にわざわざ空気清浄機置いたり先生との取引シーンでコハルの体調について聞いたり、ナギちゃんもけっこうコハルのこと気にかけてる感じなんだよな
だからこそ作中のキャラ達も言ってるような「なんで合宿強制参加にしたの?」とか「そもそもなんで補習授業部に入れたの?」という疑問が出てくる訳だが - 31二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 20:04:51
どうしたナギサ…錯乱がアスランしてるとでもいうのか…
- 32二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 22:43:00
まずコハルがセイアのところまで出向いて暗殺の工作してなんて無理だしな…
空気清浄機とかもしっかり置いて埃がなくなるまで清掃徹底している辺りナギサもそれは理解しているっぽいけれど - 33二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 23:05:17
この頃のナギサ、親しい人が見たら追い詰められて精神的におかしくなってるのに気が付いてしまうような状態だったのかも。
あそこまでされても原作でヒフミがナギサに文句一つ言わなかったのは、本人の気質もあるけどナギサが痛ましく見えていたからなのかもしれない。
- 34二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 07:42:57
ほ
- 35二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 12:07:55
し
- 36二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 18:13:11
の
- 37124/10/31(木) 20:08:25
ひぃんホシノちゃん助けて私を残業から解放してー!
そんなわけなので今日は更新できないよーごめんねー - 38二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 21:58:01
ホシノ「うへぇ〜・・・。それは自分でなんとかしなよ〜。」
- 39二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 21:59:46
どう考えても途中で体力尽きるしそもそも夜に行動するとストップかかるからなあ
- 40二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 08:01:31
ほ
- 41二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 13:20:14
る
- 42二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 18:15:16
ほ
- 43124/11/01(金) 20:44:30
ひぃん今日は更新するよー
昨日なかった分ちょっと長めだよー
原作ではほとんど触れられなかったサービスシーンも書いたから紳士の人は嬉しいかもねー(なおうちのコハルの状態)
ではどうぞー - 44124/11/01(金) 20:45:05
「あ、えと……失礼します。こんな夜更けにごめんなさい……」
【いや、大丈夫だよ。いつでも来ていいと言ったのは私だからね。で、どうしたんだい?】
「その……先生に相談したいことがありまして……今回の学力試験の話なんですが……」
とても言いづらそうに、重たい口を開くヒフミ。なるほど、学力試験についてか……ならば、あの話以外にないだろう。
「……せ、先生はご存じないと思いますが、その……【待った、ヒフミ】……はい?」
【立ち話もなんだから、奥で話そう。少なくとも、部屋の入口でするような話じゃなさそうだしね】
「あ、はい。そうですね……では、失礼します」
コーヒーは飲めるかい? 生憎紅茶はちょっと切らしててね……。
ああ、いえ! お構いなく。偶にですがコーヒーも飲むので……
そんなやり取りを交わしながら、私は部屋に備え付けの椅子に腰掛けた。ベッドと同じくいい素材を使っているようで、スプリングが跳ねすぎることもなく、かといって弾まないわけでもない絶妙な塩梅だ。
反対側の椅子に恐縮しながらも腰を下ろしたヒフミに、コーヒーを注いだティーカップとミルクポッドを差し出しながら、私は話を促した。 - 45124/11/01(金) 20:45:41
「あ、ありがとうございます。……それで、お話というのは、今回の学力試験についてです。全部で3回あって、いずれか1回でも全員合格するのが目標だと言ったんですが……もしも、3回とも不合格だった場合。私たちは…その…」
【……全員、退学になる】
言いづらかったであろう部分を先に言及すると、ヒフミは一瞬驚いた表情を浮かべ、次の瞬間にはいつもの困ったような笑顔を浮かべた。
「あはは……やっぱり、先生はご存知でしたか。そうなんです。もし3回とも落ちれば、全員まとめて退学になると。……正直、今でも信じられない気持ちで一杯なんですけどね」
【私も最初に聞いた時は驚いたよ。でも……ナギサは本気だ。少なくとも、退学の部分に関してはね】
「あうぅ……」
なんともか細い声をあげて、ヒフミがため息をついた。そのままコーヒーを一口すする。
「……ふぅ。先生も、ナギサ様に会ったんですね」
【うん。一次試験の後に呼ばれてね。そこで退学について知ったよ。……ヒフミは、どこまで知ってる?】
「どこまでと言いますと……先程も言いましたが、3回落ちると退学になることと……あと……うぅ……その……」
退学についてよりも言いづらそうなヒフミを見て大体を察した私は、またも先んじて答えを口にした。
【……トリニティの裏切り者】
「! 先生も、知らされていたんですね。……「誰にも言わないように」と口止めされていたんですが、知っているなら話は早いです。――おっしゃる通り、ナギサ様から、その裏切り者についての話を、私は聞かされました」
この合宿が始まるよりも前の話です。
そう言って、ヒフミは語りだした。 - 46124/11/01(金) 20:49:42
「ヒフミさん。補習授業部にいる裏切り者を探していただけませんか?」
ナギサ様は普段通りの笑顔で、そんなお願いを口にした。対する私は、どう反応していいものか、ただただ困惑するばかりだった。
「ナ……ナギサ様、それは……」
「……実を言うと、今の補習授業部の試験結果について、私は頓着していません。合格できなければ退学とは、最終手段でしかない」
紅茶を一口。それで口を湿らせたナギサ様は、改めて私にこう告げた。
「ヒフミさん。出来る限り早く彼女たちの情報を集め、トリニティに仇なす裏切り者を見つけていただけませんか?」
「ナ、ナギサ様。その……何故、私が? そういったことは、あまり得意では……諜報部の方にお任せするべきでは……」
「……『何故』ですか……その答えは、ヒフミさんがシャーレと繋がっていたからです」
一拍置いて、ナギサ様は淡々と続ける。 - 47124/11/01(金) 20:50:03
「第三勢力であるシャーレの先生が傍にいるなら、裏切り者もむやみには動けません。いわば、ゴミがゴミ箱から飛び出さないための蓋のようなもの……」
「ゴ、ゴミ箱……?」
ちょっと信じがたい表現がナギサ様から飛び出した気がする。えっと、もしかしてその『ゴミ箱』というのは、まさか……
「……失礼しました、失言でした。今のは忘れてください。――とにかく」
「ナ、ナギサ様! その、私には、そんなこと……「ヒフミさん」!」
言葉を濁しつつも断ろうとした私に対し、ナギサ様はセリフを被せてきた。いつものニッコリとした笑みを浮かべたまま。
「他に選択肢はありません。それに……やむを得なかったとは言え、失敗した場合……貴方も、同じ道を辿ることになりますよ?」 - 48124/11/01(金) 20:50:58
「そんなやり取りがコハルちゃんを迎えに行く前にありまして……それでちょっと遅れてしまって、あんな衝突事故を……うぅ、コハルちゃんにはほんとに申し訳ないことをしました……」
【まあまあ。あれについては本人は気にしてないから。もう終わった話だよ。それにしても……】
それにしても、ナギサはヒフミを信用していないのは明らかだ。本当に補習授業部の子たちから裏切り者を見つけ出したいのなら、ヒフミに頼むのではなく適当に理由をつけて諜報員でも送り込めばいい。トリニティの諜報部はそれはそれは優秀だと私ですら耳にしているのだから。
それをせず、ヒフミに任せてきたのは……恐らく、彼女なりの情けか。確かヒフミはナギサのお気に入りの生徒だったはず。恐らく何らかの理由で、ナギサはヒフミにも疑いを持ち……こうして補習授業部に突っ込んでまるごと放逐しようとしているのだろう。
「……私には、裏切り者を見つけるだなんてできません……」
ヒフミは悲しげにそう呟いた。
「今日だって、皆でプールを掃除して、一緒にご飯を食べて……その中に、裏切り者がいるだなんて、そんなこと……そんなこと、私には……」
【……ヒフミは、優しいんだね】
苦悩するヒフミの姿が、眩しいものに感じて思わず目を瞬かせる。今まで共に過ごしてきた人を疑う事ができない。それは、ヒフミの人の良さの証だ。それが間違っていることだとは、私は思わない。 - 49124/11/01(金) 20:51:35
【ヒフミ。この件については、私に任せてくれないかな?】
「え、えぇ……? でも……」
【これについては、私がどうにかするよ。ヒフミには、ヒフミにしかできないことをして欲しいな。補習授業部の子たちのためにも】
本来、こんなドロドロとした暗中なんて、子どもが突っ込むものじゃないと私は思う。こんな後ろ暗いことは、大人がやるべきことだ。――つまり、私が。
「……先生」
ポツリとヒフミが呟いて……表情を変えた。何か決心を固めたようだ。
「……わかりました! といっても、私に何ができるのかはわからないんですが……少し、考えてみようと思います!」
明るさが戻ったヒフミは、「ありがとうございます、先生に相談できてよかったです」と言ってくれた。……ヒフミ。私こそ、君にありがとうを伝えたい。私を、『大人』を頼ってくれてありがとう。 - 50124/11/01(金) 20:52:16
そんなやりとりが繰り広げられていた、ちょうど同時刻……。
「……」
合宿所のロビー。その一角に置かれたソファに腰掛ける人物がひとり。
目を瞑り、思案を拡げている彼女の名は、浦和ハナコ。今は草木も眠る丑三つ時。起きている者が少ない中、窓から差し込む月明かりだけが、静かに彼女を照らしている。
そこへ、もう一人の人影がやって来る。
「ハナコ。まだ起きていたのか」
その名は白洲アズサ。ハナコと同じく、補習授業部の一人。
「……あら? アズサちゃんこそ、まだ起きていたんですね。それも、制服で……」
呼びかけられて目を開いたハナコが、アズサの服装に言及する。消灯前に寝巻きとして着ていたはずの体操着ではなく、彼女は既に制服に着替えていた。繰り返すが、まだ丑三つ時であり、良い子は寝る時間である。
「もうある程度寝た。だから見張りでもしておこうかと」
「……見張り、ですか。いえ、それよりもアズサちゃん。もしかしてですが、全然寝られていないのではありませんか? とてもじゃないですが、しっかり寝れたようには見えませんよ?」
「……慣れない場所だと、あまり寝られなくて」
なるほど確かに、人間誰しも環境が変わると寝つきが悪くなるものではある。 - 51124/11/01(金) 20:52:39
「夜通し動くための訓練も受けているから、5日ほどなら寝なくても問題ない。そう心配しなくてもいい」
「……そういうお話では、ないのですが」
「そういえば、ハナコの方こそどうしたんだ? ヒフミも何処かに散歩しにいったようだし、皆慣れないところで不安なようだから、見張りでもしておこうかと思って外に出たんだが……コハルはぐっすりだったが。よほど疲れていたんだろう」
「そうですね……私たちでも多少疲れるような行程でしたから。コハルちゃんにはやはりキツかったかと。……気丈に振る舞ってこそいましたが、後半はもうフラフラでしたから」
初めてアズサに同意を見せるハナコ。その表情は、何処か憂いを帯びていた。
「……。まあそういうことだから、私のことは気にしないで大丈夫。それじゃ、私はもう寝るから」
「……わかりました。アズサちゃん、あまり無理しないでくださいね」
かける言葉がなかったのか、半ば強引に話を断ち切ったアズサに対し、ハナコは心配の言葉を吐いた。
アズサはこくりと頷いて、そのまま寝室へと消えていく。その背中を、ハナコは見つめ続けていた。――正確には、その肩口のエンブレムを。
合宿初日の夜は、こうして更けていった。 - 52124/11/01(金) 20:53:16
私の友人がすまないね。君にとっては完全にとばっちりだろう。代わりに私が謝ろう。本当に申し訳ない。
だが、どうかナギサを責めないでやってくれないか。彼女は彼女なりに、トリニティ全体を思って行動している。その方向性が少々危ういだけでね。
第一、彼女にとって君は……いや、部外者の私が言っていいことではないな。忘れてくれ。
本当は、私がやるべきことで、負うべき責任なんだ。なにせ本来のティーパーティーのホストは私だからね。生憎こんな状態なので、彼女にお鉢が回ってしまっている。……ナギサは本当によくやってくれているよ。
だがその努力も結局は……。シスターフッド曰く、神は乗り越えられる試練しか与えないという話だが、この先の結末がああである以上は……失礼、これも独り言だ、気にしないでくれ。
ただ、これだけは忘れないで欲しい。ナギサは君を疑っているわけではない。少なくとも、ナギサ個人としては。だが君の所属する組織、『正義実現委員会』には……と、どうやら時間切れのようだ。
尻切れトンボで申し訳ないが、今日はここまでだ。さらばだコハル。……また会おう。 - 53124/11/01(金) 20:54:11
「――ハル。コハル。コハル、大丈夫か?」
「……う、ん……? こ、こは……」
体を揺さぶられて、意識が戻る。……見たことのない天井だ。あれ? ここはどこ?
「ひどくうなされていたので、思わず起こしてしまった。おはようコハル。繰り返すけど、大丈夫?」
そう言って心配そうな顔で覗き込んでくるアズサ。……ああ、そっか。私、今合宿中だったっけ……。
ぼーっとする頭を振って多少意識をはっきりさせると、アズサに笑顔で「大丈夫」と返す。
「……酷く声がかすれてるんだが。少し水を飲んだほうがいいかもしれない。起き上がれる?」
逆に心配させてしまったようだ。アズサの声に反応して体を起こし……起こ……っ。
「ごめん、ちょっとだけ……手を貸してもらえる?」
「わかった。私の手を掴んでいい。……せーの」
アズサの手を掴み、背中にも手を回してもらったことでようやく体を起こせた。薬の切れてる朝はこれだから……我がことながら、本当に情けない。
アズサから手渡されたコップの水を飲んで喉を潤した私は、調子の戻った声で感謝を伝えた。 - 54124/11/01(金) 20:54:39
「ありがとうアズサ。助かったわ」
「……うーん。もしかして、体調が悪いのか?」
無理しないで、正直に言って欲しい。そんなアズサのお願いに、ついポリポリと頬を掻く。ごめんなさい、特に体調が悪いわけじゃなくて、朝は大体こんなもんなの。
そう伝えると、アズサはますます唸ってしまった。
「……そうだ。コハル、よければ私と一緒にシャワーを浴びないか? ここの設備は素晴らしい。お湯が簡単に出てくる上に使い放題だ。少し汗を流せば、体も楽になるかもしれない」
「え、えっと……」
チラと横のベッドを見る。私の一番近くのベッドでは、ハナちゃんが静かに寝息を立てている。正直シャワーを浴びるならハナちゃんについてきてほしいのだが……昨日朝早くから付き合わせて疲れているだろうし、もう少し寝かせてあげたいな。
……よし。アズサも一緒だし、きっと大丈夫だろう。ダメだったら私が謝っておこう。
「……そうね。じゃあ行こっか、アズサ。……申し訳ないんだけど、シャワー室まで支えてもらえる? まだ薬飲んでないから、自力じゃちょっと……」
「わかった。肩を貸すから、掴まって」
「ありがと……」
背丈が私とそう変わらないアズサの肩はとても掴まりやすかった。なんとかベッドから降りて立ち上がった私は、アズサに補助されつつシャワー室へと向かった。 - 55124/11/01(金) 20:56:15
アズサに手伝ってもらってどうにか寝巻きを脱ぎ、シャワー室に入った私はシャワーチェアに腰掛けた。思わずふぅ……とため息が溢れる。まだ移動してきただけだというのに、私はもう疲れ果てていた。
アズサは今シャワーの温度調節のために、出てきた水を手に当ててお湯になるのを待っている。私もそうだが、シャワーを浴びるため当然アズサも裸だ。その肌は翼と同じく真っ白で、なんだかとても神聖なものを見ている気分になった。マリーさんに連れられて、シスターフッドの礼拝堂の像を初めて見たときとおんなじものを感じた。わりと本当にアズサは天使の生まれ変わりなのかもしれない。
シャワー室に裸で二人きり……この状況、日中の私ならどこかえっちに感じてドギマギしていたかもしれないが、今の私にそんな余裕はどこにもない。正直早く汗を流して横になりたい……
「ごめん、待たせた。背中からかけるけど、熱かったら言ってくれ」
「ううん、気にしないで。全部任せてごめんね。……お願いします」
肩口から温かいお湯がかかり、私の体を濡らしていく。背中、腰、翼、おしり、足……朝からシャワーを浴びるのなんて初めてだけど、結構気持ちいい。この体じゃ朝一人では入れないから、こんな機会じゃないと無理だろう。アズサには感謝しなければ。 - 56124/11/01(金) 20:57:23
「……転校する前は、こうやって皆と一緒に入って洗っ子をしていた。水の節約になるからな」
「皆と?」
「ああ。……大事な、家族みたいなものだ」
そう言って微笑むアズサは、とてもじゃないが『氷の魔女』とは思えなかった。この異名をつけた人はアズサのことを何も分かってなかったに違いない。
……まあそういう私も、アズサのことを理解しているとは言えない。恐らく、彼女の転校元はアリウス分派の生き残り……この仮説が正しいなら、ただトリニティに転校してきたわけではないだろう。なんらかの目的があるはず……いや、ダメだ。思い込みは目を曇らせる。何かしらの事情はあるのだろうが、彼女が実際に口に出すまでは、余計な詮索は控えるべきだろう。私は、彼女を信じてあげたい。
「頭を洗うから、少し頭を下げて姿勢を低く……できる? 無理ならこのままでいい」
「……ごめんなさい。体勢変えるのはちょっとキツイかな」
「大丈夫だ。ならこのまま行こう。お湯をかけるから目を瞑っていてくれ」
指示に従って目を閉じると、頭に温かい気配。お湯が髪の毛と頭の羽を湿らせる。……なんだか眠くなってきた。 - 57124/11/01(金) 20:58:03
「さっきシャンプーとボディーソープを発見した。せっかくだから、これを使わせてもらおう。痒いところはない?」
「ないよ。……アズサ、頭洗うの上手いね」
「よくやっていたから」
泡立てた手が私の頭上でワシャワシャと踊り、髪の毛に泡が揉み込まれていく。頭の羽も根本までしっかりと。
「……こんなところだろう。流すから、目を瞑って」
泡が落とされて、大分頭がスッキリした。少しだけ、体が軽くなったような気もする。薬を飲んでいないからそれでも日中と比べるとキツイが。
「次は体だな。じっとしていてくれ」
アズサが白い手を泡立てて、さらに真っ白にしながら近づいてくる。
「少しくすぐったいかもしれない」
そう注意しつつ、アズサは私の体を手のひらで洗い始めた。腰の黒い羽も含めて、泡で白く染まる私の体。言われた通りちょっとくすぐったいかも。
「……コハルの翼は、綺麗だな」
不意に、アズサがそんな事を言ってきた。いや、そういうアズサの翼こそものすごく綺麗だと思うけど。普段つけてるアクセサリー類もそんなに主張せず、元の良さを引き出しているし、かなりセンスがいい。 - 58124/11/01(金) 20:58:44
「ありがと。イチカ先輩から貰ったケア用品のおかげかな。あまりそういうのは持たない様にしてるんだけど、先輩が「せっかく綺麗な濡羽色なんだから、手入れしないと勿体ないっすよ」って、1回羽繕いをしてくれて……せっかくの貰い物だし、それから毎日使ってるの」
イチカ先輩は美容関係とかそういうのにも詳しくて、後輩たちにも髪の手入れとか教えてあげてるらしい。本当になんでもできる人だ。
「アズサにも今日貸してあげる。そんなに綺麗な羽なんだもの、手入れするともっと綺麗になるから」
「いや、私はそういうのはあまり……」
ふるふると頭を振ったアズサは、ふと動きを止め……
「……やっぱり、ちょっとだけ貸してもらえないか? 少し興味がある」
「全然いいよぉ。やってあげるから、どうなるか楽しみにしててね」
体を泡だらけにされながら、私は笑って快諾した。……私の予想が正しければ、アズサは羽の手入れなんてできる環境じゃなかったと思う。だって、『vanitas vanitatum, et omnia vanitas』を、『全てが虚しい』だなんて悲観的な解釈しか教わっていないのだもの。歴史的に見てもユスティナに弾圧されたあとだし、まともな環境を作れているとは到底思えない。
この予想が、私の思い込みであればいいけど……もし真実ならば。願わくば、ここにいる間だけでも、彼女が楽しい時を過ごすことができますように。 - 59124/11/01(金) 21:01:30
その後、全身洗われてピカピカになった私は、予想以上に体力を消費したのか自力で動くことができず。アズサの体を洗ってあげることはおろか、結局体を拭くのも着替えるのも全てアズサに任せきりになってしまった。なんなら寝室へもアズサに背負われて戻ったのだ。……こんなに迷惑かけるならはじめから断ればよかったかも。もう後の祭りだけど。
「……アズサさん」
そして今。私たちは絶賛ハナちゃんに叱られています。アズサは正座して。私はベッドに寝た状態で。
「コハルちゃんをシャワーに連れて行ったのはあなたの優しさからだとわかっていますが……次からは、私を起こしてくださいね! 何かあった場合、アズサさんだけでは対処できない可能性がありますので!」
「……すまない」
ご立腹のハナちゃんを見てアズサがしょぼんとしている。流石にフォローを入れてあげないと可哀想だ。まずかったら私が謝るって決めてたし。
「ごめんねハナちゃん。私がいけるって判断したの。ハナちゃんをもう少し寝かせてあげたいと思って……怒るなら私に怒って」
「……はあぁ。コハルちゃん、その優しさはありがたいんですが……もっと自分にも向けてください! コハルちゃんはもう少し、わがままになっていいんです!」
「わ、わがままって……」
私だいぶわがままなほうだと思うけど……結構周囲の人を振り回してるし。
でもハナちゃんはそうは思っていないみたいで…… - 60124/11/01(金) 21:02:14
「今の私は、貴方のために救護騎士団から派遣されています。この合宿中、貴方の体調をいい方向に維持するのが私の仕事です。――ですのでコハルちゃん、もっと私を頼ってください。私の都合は考えなくていいんです。……それでコハルちゃんが無理するのが、一番辛いですから」
「ハナちゃん……ごめんなさい」
気を遣った結果、逆に苦しめてしまったようだ。ほんとにごめんね、ハナちゃん……
「わかってくれたならいいんです。……さて! 朝ごはん食べて、歯磨きして、お薬飲んだら少し休みましょうか! コハルちゃん疲れてそうですし。 部長さんも、それでよろしいですか?」
「あ、はい! 私は大丈夫です! ……コハルちゃん、ゆっくり休んでくださいね。落ち着いたら、教室に顔を出してください。用意しているものがありますので」
「わかりました、ヒフミ先輩。アズサ、今朝はありがとう。少し寝れば回復するから、気にしないでね」
「コハル……ごめん。次は気をつける」
アズサは申し訳無さそうにしながら、ヒフミ先輩と一緒に寝室を出ていった。今日から勉強合宿本番だし、これから補習授業かな。
「コハルちゃん……」
そして、残る最後の一人。ハナコさんが話しかけてきた。 - 61124/11/01(金) 21:03:06
「……スゥー……フゥー……失礼しますっ!」
「ひゃっ!? ちょ、ハナコさん何を……」
何回か深呼吸を続けたかと思うと、彼女はいきなり私を抱きしめてきた。む、胸元のおっきな果実が当たってる……! 制服で隠れてる分マシだけど、えっちなのはダメなんだってば!
「どうか、約束してください。コハルちゃん。自分を大事にすると。貴方が自分を虚ろにするのは、私が辛いです」
私、貴方の友達、なんでしょう?
確認するかのように、ハナコさんが言葉を紡いだ。
「ハナコさん……はい。私とハナコさんは友達です。何があっても」
「なら、お友達のお願いを、どうか聞いてください。決して自分をないがしろにしないと。……お願いします」
ハナコさん……。抱きしめられていて顔は見えないが、その体は少し震えていた。……私が発作を起こしたときのことが、尾を引いているのかもしれない。
「……ごめんなさい、ハナコさん。心配かけちゃったみたいで。もう少し、自分を大事にすることにします」
「……ついでに、敬語も結構ですよ。貴方に敬われるような人間ではないので。お友だちだと言うのなら、私たちは対等な関係でしょう?」
「それは……いや、もうヒフミ先輩にも使ってないから今更かな。わかった、その……ハナコ先輩?「敬称も不要です」あ、そうなの……じゃあ……"ハナコ"。改めて、よろしくね」
「! ……いえ、こちらこそ。よろしくお願いします」
ベッドに寝たまま、ハナコさん……ううん。ハナコの方に手を伸ばす。ハナコは察して握手に応じてくれた。……なんだか、久々に奇行のないハナコを見た気がする。 - 62124/11/01(金) 21:03:45
「……あのー。いい話の最中申し訳ないですが。そろそろコハルちゃん薬飲まないとマズイので、お時間頂いてもよろしいですかね?」
「……はっ!? ご、ごめんなさい! というか勢いに任せて私は何を……! ごめんなさいコハルちゃんいきなり抱きついたりしてすいませんでした許してくださいユルシテ……」
あ、もう元に戻った。……もう、仕方ない人だ。そんなところが可愛いのだけど。
「気にしてないから大丈夫。むしろ嬉しかったよ?」
「嬉しかっ……そそそそうですかそれはよかったですはいあのその私あれがあれなのでそろそろ失礼しますね失礼しました失礼致します!」
ハナコは凄まじくギクシャクした動きで足早に寝室を出ていった。油の切れたロボットのほうがもう少しマシな動きをすると思う。
「……話に聞いていたより愉快な人ですね、ハナコさんって。――さ! まずは朝ごはんを済ませましょうか!」
「可愛い人でしょ? ――じゃあ色々とお願いします、ハナちゃん」
その後、朝食を済ませて薬も飲んだ私は、体力回復のため少しばかり床につくのであった。
……確かに『また会おう』とは言ったがね。少しばかり早すぎやしないかい?
なんか狐みたいな子に呆れられる夢を見た気がする。 - 63124/11/01(金) 21:06:23
今日はここまで!
サービスシーンは楽しんでもらえたかなー?
うん? えっちなのとは一言も言ってないよー? このスレ閲覧注意ないしねー
次回は合宿二日目だよー - 64二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 21:15:39
コハルって原作でも肉付き悪いけどこの世界だとアバラ浮いてそう…
- 65二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 21:24:21
オリジナルと比べて仮に身長体重は同じでも全体的に細いんだろうな
- 66二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 21:41:50
ハナコ……お前が癒しだよ
いや、コハルも可愛いから癒しなのに違いはないんだけど……儚さがあって心配のドキマギがあるから - 67二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 21:58:33
原作だとシリアスな雰囲気をコハルが緩めてくれることが多かったから、そのコハル自身が心配要素になるこの世界は中々に緊迫感がある
- 68二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 01:16:17
サービスシーンってそういうことか。・・・癒しか?
- 69二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:17:36
保守
う授業部 - 70二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 16:04:02
そういやハナエって今も付いてるだろうか
ハナコとハナエで混乱しそうになる
これがブルアカ名物似た名前多すぎ問題か… - 71二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 21:42:35
乙
- 72二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 01:58:31
今合宿所にいるのが、補修授業部四人とハナエと先生だっけ?メンバーさらに増えたりするのかな?
- 73124/11/03(日) 11:54:11
ひぃん昨日今日と出かけてて書く暇ないよー
申し訳ないけど次回更新までしばらくかかるよー - 74二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 21:32:38
- 75二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 04:41:07
保守
- 76二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 09:54:03
八年はまてるからゆっくり毎秒更新しておくれ
- 77二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 10:55:12
病弱補正なのか分からんけどここのコハルからはものすごい包容力を感じる
- 78二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 16:29:22
ほ
- 79二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 21:08:35
保守
- 80二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 23:12:10
セイアちゃんは原作通り先生とも夢で会ってるんだろうか
それとも先生と会う代わりにコハルと会ってるのかな? - 81二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 23:13:39
なんかわかる…
- 82二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 08:12:31
ほし
- 83二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 12:17:18
ハナコが弱々な感じだけど、本編のアレらは基本的に自分の心の弱さを誤魔化す為の蓋で、それが出来なくなったらこのスレみたいな言動になる。
覚悟さえ決めたら最終編みたいなサクラコの茶化し以外は真面目って見ると何の気兼ねもありのままで接しれるヒフミやアズサに対して劣等感と羨望を抱いてる節はなくもないという個人感 - 84124/11/05(火) 18:37:56
再び目覚めた時には、時刻はもう正午を過ぎていた。寝る前に飲んだ薬が効いたのか、朝に比べて体が段違いに軽い。うん、これなら動けそうだ。
「あ、コハルちゃん! 目が覚めたんですね、体の具合はどうですか?」
「ハナちゃんおはよ……いや、おそよう? もうお昼過ぎてるし、なんていうのが正解なんだろうね? ……あ、体の方はもう大丈夫。これなら夜まで動けそう」
「……。――うん! だいぶ顔色が良くなりましたね! 念の為にお熱を測って、大丈夫でしたら他の皆さんと合流しましょう!」
黙って私の顔色を確認したハナちゃんは、にっこり笑ってセーフ判定を下すと、体温計を渡してきた。測ってみたところ、35.9度。うん、平均値近い。それをハナちゃんに伝えると、「なら大丈夫ですね!」と改めて両手で丸を作ってきた。
こうして憂いがなくなった私は、ハナちゃんを連れつつ合宿所の教室へと向かったのだった。
「あ! コハルちゃん! 体はもう大丈夫ですか?」
教室に入った途端、中で先生と話していたヒフミ先輩がいち早く反応して駆け寄ってきた。他には中央付近でアズサに勉強を教えているのだろうハナコさ……ハナコの姿が見える。
「薬も効いてきたから、今日の夜までは持つと思う。ご心配おかけしました」
【ヒフミからある程度話は聞いたよ。コハル、あまりとやかくは言わないけれど、誰かを頼るのも大切なことだよ。勿論、ハナエを慮ったコハルの優しさが間違っているわけでは無いけどね】
「はい、先生。ハナちゃんも、改めてごめんね」
「いえ、もういいんです。こうして頼ってくれましたから!」
これからもどんどん頼ってくださいね! なんて、胸を叩いて示すハナちゃん。あわせてかなり大きめの果実も揺れる揺れる。この子、背丈に合わずかなり立派なのを持ってるのよね。栄養全部そっちに行ったのかな。 - 85124/11/05(火) 18:39:13
「じゃあコハルちゃん! 早速ですが、これを解いてほしいんです。できたら先生に見せてくださいね」
そう言ってヒフミ先輩が渡してきたのは、一枚の問題用紙。これは……?
【ヒフミが昨日夜なべして作った模擬試験だよ。私も今朝聞いて驚いたんだけどね】
先生が私の疑問に答えて補足を入れる。なるほど、模試か。確かに、テストの点数をあげるには一番正攻法だ。これを人数分……恐らく明日以降の分もあるのだろう。一人で作るのは大変だっただろうに。
「ヒフミ先輩、ありがとう。これなら皆……特に、アズサが点数をあげるのに役立ちそう。勿論、私も」
「あ、あはは……模試といっても、トリニティの過去の試験用紙から問題を組み合わせただけなんですけどね……。そ、それでも、実際に問題を解いてみるのが一番の近道ですから!」
ハナコちゃんとアズサちゃんにはもう解いてもらって、今はアズサちゃんの分からなかった問題をハナコちゃんに解説してもらっています。コハルちゃんも解いたら、そっちに参加して頂けると……
ヒフミ先輩からのお願いに、私は笑って応えるのだった。
先生に模試を提出してからしばらくして、結果が返ってきた。
【88点。うん、問題ないね。落とした問題だけ軽く復習したら、ハナコと交代してアズサのフォローに回ってもらっていいかな? ハナエはコハルについていて】
「わかりました」
「了解しましたー!」
落としたところは……うん、ちょっと集中が続かなかったのもあって計算を間違えた部分があったみたい。本番では気をつけないと……。
間違えた部分を確認し直した私は、ハナちゃんを連れてアズサとハナコの方へと向かった。現在、アズサは苦戦しているようだった。 - 86124/11/05(火) 18:39:56
「二人共、お疲れ様」
「あ、コハルちゃ……」
「! コハルか。それとハナエも。 ……体の方は、もう大丈夫か?」
声を掛けると、ハナコが、ついでアズサが心配そうにこちらを見つめる。特にアズサは朝の件があったばかりなせいか、どことなくバツが悪そうだ。
「今は大丈夫。薬のおかげでだいぶ楽だから。……だから、朝のことはそんなに気にしなくてもいいよ? 嬉しかったし」
「少なくとも今日一日活動する分には問題ありません! 現状は! 救護騎士団として太鼓判を押せます」
「……そう。それなら、いいんだけど……」
「じゃあ、ここからはハナコの代わりに私がアズサに教えるから。ハナコ、ここまでありがとう。あとは自分の復習とか、ヒフミ先輩のフォローに回ってくれると助かるわ……ハナコ?」
「……へ? ……あ、交代ですねはいわかりました失礼します!」
一瞬話を聞いていなかったのか、ぼーっとこちらを見ていたハナコは、それでも話を理解してヒフミ先輩の方へと足早に向かっていった。こっちはこっちで私を抱きしめたことが尾を引いているみたい。うーん、もっと普通に接してくれていいのにな……え、えっちなのはダメだけど。
「いってらっしゃいハナコ。……じゃあアズサ、どこがわからないのか見せて」
「うん。この問題なんだけど……」
「……えーと、ここは……」 - 87124/11/05(火) 18:45:35
アズサに教え始めてから2時間ほど経った。うん、やっぱりアズサは飲み込みが早い。後は本番まで反復練習を繰り返して、忘れないようにすれば大丈夫だろう。前回はギリギリだったが今回は60点くらい余裕のはずだ。
ちなみに今ハナちゃんはちょっと席を外してお手洗いに行っている。
「コハル、ここは?」
「ここは……ちょっと待ってね。こっちに参考書が……」
ゴソゴソとカバンをあさり、中から一冊の分厚い本を取り出す。それをアズサが見えるように開いた。大体どのページに何が書いてあるか覚えてるのよ、私。ガリ勉みたいであんまり自慢にはならないけど。
「……? コハル、これは何をしているんだ?」
「ん? 何をしているって……っ!?」
よくわからないアズサの疑問に、改めて開いた参考書を見返して……組んず解れつしている男女の絵を見て、そこではじめて、自分の盛大なやらかしに気づいた。こ、こ、これ、参考書じゃない! 押収品の……!
「わ゛ああぁぁぁっ!?」
自分でも引くくらいの大声が出た。開いた参考書……に偽装されたアレを勢いよく閉じ、ひったくるように胸に抱く。み、見られた……! というか見せちゃった! 思いっきり! どどどどうしよういつもカバンにこんなの入れてるえっちな子だって思われたら……! てかなんで入ってるの!? 参考書を入れたはずなのに……あ、もしかして押収品と同じカバーだから取り違えて入れちゃった? つまり本物の参考書は管理室の方に……って今はそんなこと言ってる場合じゃないって!
「ち、ちち違うの! これはその、お、押収品の本で、間違えて紛れ込んじゃったみたいで! 日常的にカバンに入れてるとかそういうわけじゃ!」
「これは……っ! マズい! コハル、わかったから落ち着いて――」
立ち上がって何か言っているアズサに思わず怯んで後ろに下がる。バクバクと心臓が弾む。鼓動がやけに大きく聞こえる。焦りで言葉がうまくまとまらない。ぐるぐると視界が回っている気さえする。……あれ? これホントに回ってるような―― - 88124/11/05(火) 18:47:00
「コハルちゃん!!」
大声が耳に響き、同時にギュッと誰かに抱きしめられる。背中に感じる、私よりも暖かな体温。
「落ち着いてくださいコハルちゃん。大丈夫です。私に合わせて、ゆっくり深呼吸してください。ゆっくり……吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
私の頭を撫でながら落ち着かせようとするヒフミ先輩に息をあわせて、深呼吸。激しく脈動していた心臓が落ち着くと同時、足から力が抜けて、私は床にへたり込んだ。そのまま倒れ込みかけたのを背後のヒフミ先輩が支えてくれる。
「コハル!! 先生! コハルが……!」
【コハル、大丈夫かい?】
アズサに呼ばれると同時に、険しい顔をした先生が傍に寄ってくる。ぐるぐると渦巻いていた視界は、いつしか収まっていた。
「……せん、せ……ごめ……なさ……」
【うん、ダメそうだね。――ハナエ!】
「コハルちゃん、ちょっと肩出させて貰いますね。少しチクッとしますよ」
いつの間に戻ってきていたのか、気づけばハナちゃんが傍にいて、私の肩にアンプルを射し込んでいた。中の薬液がみるみるうちに減っていく。
「――」
「――」
誰かが何か喋っているようだが、朦朧としている今の私では上手く聞きとれない。薄れゆく意識の中、よぎったのは一つの悔恨。……私、また失敗しちゃった。 - 89124/11/05(火) 18:47:26
「……これでよし。発作とは言え軽度なので、ぶっちゃけアンプルも不要なことが多いんですが、まあ念の為です。……先生、一つお願いが」
【なんだい?】
目を閉じて意識を失ったコハル。その胸が静かに上下するのを見ながら、ハナエの呼びかけに応える。教室に戻った瞬間状況を理解したのか、すごい勢いで走ってきて処置を済ませた彼女は、コハルを見ながらも静かに教室の一部を指差した。
「あちらのフォローをお願いできますか? 私はコハルちゃんを見ていますから」
その指先が示しているのは、硬直する一人の少女。何かを思い起こしたのか、その顔は酷く青ざめていた。
【――了解。あっちは私に任せて】
コハルをハナエに託し、私はハナコの下へと向かうのだった。 - 90124/11/05(火) 18:49:49
- 91二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 21:40:25
原作ではあんなにほほえましかったエロ本のシーンが何ともおいたわしい感じに……
- 92二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 00:01:35
ここ最近はここの更新が夜の楽しみになってる 応援してます
- 93二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 07:52:20
待ってるぜ!
- 94二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 16:42:20
ハナコォ!おちちつけぇ!
- 95124/11/06(水) 20:46:19
目覚めた時、まず感じたのは体の気怠さ。お昼ごろの軽さが嘘のように、鉛のような重たさを感じるようになっていた。おかしいな、薬はまだ切れるような時間じゃないはず……というか、なんで寝てるの私?
「――起きましたか。コハル、大丈夫ですか?」
困惑する私に向けて、声がかけられる。まず合宿所にいるはずのない、私の尊敬する人の声。
「……!? ハ、ハスもがっ!」
「落ち着いてください。驚く気持ちはわかりますが、体に障りますから」
正義実現委員会副委員長、羽川ハスミ先輩が、私が寝ているベッドの横で椅子に座っていた。な、なんでここに!? 今は条約前で忙しいはずじゃ……
驚いて叫びかけた私の口をハスミ先輩が即座に、しかし優しく塞ぐ。……この状況、似たようなことが前にもあった気が……
「私がここにいるのは、先生から連絡を受けたからです。貴方が持ってきた参考書の中身が違うものだったから、本物を持ってきてくれないかと。あわせて、貴方が発作を起こして倒れたことも聞きました。なので、心配になった私がこうして参考書を届けに来たのです」
貴方が起きるまで、横でリンゴを剥いていました。食べられますか?
そう言ってハスミ先輩は、フォークに刺したリンゴを私に向けてくる。あ、ウサちゃんだ……可愛い……いやじゃなくて。 - 96124/11/06(水) 20:47:26
「い、頂きます……」
なんとかそれだけ返して、ハスミ先輩からフォークを受け取ろうと……渡してくれない。あれ?
「口を開けてください、コハル。軽度とは言え、発作を起こしたばかりですから、動くのは辛いでしょう?……はい、あーん」
そ、そこまでしてもらえるのは気が引けるんだけど……言っても聞いてもらえなさそうなので、大人しく口を開けた。ウサちゃんカットのリンゴを半分食べる。甘くて美味しい。
だけど、咀嚼すればするほどに、私の気持ちは沈んでいった。落ち着くにつれて、今日の醜態を思い出してしまったからだ。
「……コハル?」
「……ごめんなさい」
色々な意味の籠もった言葉が、自然と口からこぼれた。ぽたり、と水滴が布団に落ちて染みを作る。
「……忙しいのに、ハスミ先輩を巻き込んでしまって。ちゃんと中身を確認していれば、こんなことにはならなかったのに……興奮したらどうなるかなんて、嫌ってほどわかってたのにっ……皆に迷惑かけてっ……」
「コハル……」
ポロポロと、涙がこぼれ落ちては消えていく。目をこするけど、どうにも収まりがつかない。泣くな私。泣いても事態が解決するわけじゃないし、私の体が治ることもない。それこそ昔からわかってることでしょ。だから泣くなって……涙腺までバカになったら、もうおしまいだろうに。 - 97124/11/06(水) 20:48:41
また自分から興奮しにかかっているどうしようもない人間を、ハスミ先輩は静かに抱き寄せた。
「――そう自分を責めないでください、コハル。事情が事情なんです。貴方が悪いわけではありません。そのことは、皆さんもよくわかってくれていると思いますよ」
私の背中をぽんぽんと叩きながら、慰めてくるハスミ先輩。私の知る限り最大の胸部が、私の顔に押し当てられる。普段ならドギマギしてるところだけど……柔らかくて、あったかい……
どこが安心感を覚えた私は、つい口から迸るる言葉を止められなかった。それが、あまりにも不毛な問いかけだと、昔から知っていたというのに。
「――どうして、こんな体に生まれたんでしょう。……どうして、私が」
「――っ」
ハスミ先輩はビクリと硬直して、動きを止めてしまった。……ああ、また困らせてしまった。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「……なんて、神様じゃなきゃわからないですよね。ごめんなさい。気の迷いでした」
「……っ。コハルっ!」
「わぷっ!?」
涙を拭い、精一杯笑顔を浮かべて誤魔化した途端、ハスミ先輩にギューッと抱きしめられる。ハ、ハスミ先輩、力、強……苦し……
「貴方は……貴方は、本当に、よく頑張っています。そんな体で、こうして合宿にだって参加させられて……本当に、よく……!」
ぽたりと、私の肩に水滴が落ちる。ハ、ハスミ先輩……? もしかして、泣いてるの……?
「思えば、貴方の補習授業部入りからしておかしな話なのです! テストを欠席して0点扱いだったとは言え、それを理由に補習授業部にねじ込んで。一次試験に落ちたら全員強制参加の合宿に放り込んで。その上学力試験の癖に一人でも落ちたらまとめて不合格など、非合理の極みです……!」
「ハスミ、先輩……?」 - 98124/11/06(水) 20:49:36
吹き荒れる憤りの表れか、ハスミ先輩の大きな翼がバサッ!と開かれる。いつ見ても大きな翼だ。それを見るといつも思い出す。あのとき、その翼で、私たちを守ってくれた時のことを。……あれは確か、"キリちゃん"と初めて会ったときのことで……
「……フゥー。……コハル。私は心配です」
無理矢理落ち着けたのか、翼を畳んで深呼吸をしたハスミ先輩は、改めて私に話しかけてきた。過去を思い出してる場合じゃなかった。
「次の2次試験は数日後。貴方の実力なら試験そのものは余裕でしょう。問題は……あえて、こう言いましょうか。他の皆さんが、足を引っ張らないか。そして次の試験も落ちてしまったら……3次試験。貴方の体が、果たしてそこまで持つのか」
「それは……」
思わず目を伏せる。……確かに、慣れない環境でかなり体力を使ってるし、その上発作まで起こしてしまった。これで3次試験までもつれ込んだらかなりキツイかもしれない。
でも足を引っ張るのは、どちらかといえば私の方な気がする。現に今も迷惑かけてるんだもの。発作も起こしてしまったし、この先体調が良くなるかはかなり怪しい。
……もし試験当日、体調が悪かったなら……私は、どうすればいいんだろう。
「……コハル。どうか、無理はしないでください。お願いです。もし貴方に何かあったら、私は……」
涙を滲ませて懇願する彼女に、私は何も応えることができなかった。今の状況で無理をしないとは、どうしても確約できなかったから。
寝室に、しばらく嗚咽が響いていた。 - 99124/11/06(水) 20:50:47
合宿所の壁はそこまで厚くはないようで、耳を澄ませれば、話し声がある程度は聞こえる状態だった。
ハスミの嗚咽が響く中、寝室の外、扉の横で、私とハナエは2人並んで待機していた。ハスミに、コハルと2人きりにさせてほしいと頼まれたからだ。
【……ハナエ】
「……」
私の問いかけにも、ハナエは沈み込んだままだった。普段底抜けに明るい彼女がこうも静かだと、どうにもやりづらい。だが……
【一応、聞いていいかい? ――コハルの病気は、治らないものなのかな?】
「……根治できるものではない、と……そう伺っています。病名もなく、生まれつきそういう体なのだと……治すことが出来たなら、どんなにいいか……」
ハナエは、重たそうに口を開いた。その目は無力感に苛まれているように見える。……そんな気はしていたけれど、やっぱりか。医療従事者には酷なことを聞いてしまった。
【ごめんね、いいづらいことを聞いてしまって】
「いえ、気にしないでください。先生なら、生徒の状態は知っておくべきでしょうから」
【……ハナエは、悪くないよ】
思わずそう口にする。ハナエは無言でこちらを見ると……フッと口元を緩ませた。
「わかっています。私は一介の救護騎士団であって、神様ではありません。どうしても手の届かない人が世の中にいることも、わかってはいます。……でも」
友だちに手が届かないのは、悔しいですね。
ポツリと吐かれたその言葉に、私は返す言葉を持たなかった。 - 100124/11/06(水) 20:52:13
しばらくして、寝室の扉が開き、中からハスミが出てきた。
「お二人共、ありがとうございました。私のわがままを聞いていただいて、感謝しています」
【……いや、気にしないで。しばらく会えていなかったんだし、積もる話もあるだろうから】
「そう言って頂けると助かります」
微笑むハスミ。その目尻に、何やら光るものが残っていたが……それを指摘するのは野暮というものだろう。
「……先生。どうか、よろしくお願いします。補習授業部の子たちを導いて……あの子を、解放してあげてください。ティーパーティーが絡む以上、今の私には、できないことですから」
「……ハスミ」
深々と頭を下げるハスミの姿に胸を打たれる。ハスミ……君はそこまで、コハルのことを……
と、隣でハナエが息を呑んだ。
「ハスミさん……! 貴方、その手……!」
【手……? ――っ!?】
ハナエが指差すその先、ハスミの右手は、握りしめられて真っ赤に染まっていた。それはもう、物理的に。ポタポタと、紅い雫が床に垂れ落ちる。
「……。気にしないでください。どうってことありません」
「気にしないでってそういうわけには……!?」
――ハスミの眼光が、動き出そうとしたハナエをその場に釘付けにした。キヴォトスの外の人間だからか、強烈な"圧"に、思わず私の背筋まで凍りつく。
正義実現委員会の活動では、ツルギのインパクトが強すぎて、どうしてもそちらに目を奪われがちだ。だがしかし、ハスミもまた、正義実現委員会の副委員長、No.2なのだ。実力的にはキヴォトスでも上位層である。その片鱗を、今まさに見せつけられた形となった。 - 101124/11/06(水) 20:53:00
「……すみません、ハナエさん。怖がらせるような真似をして。でも本当にいいんです。これは、私の未熟の証ですから」
思わず後ろに一歩下がったハナエに対し、ハスミは申し訳無さそうに謝った。隠すかのように、右手を後ろに回したまま。
「……必ず、治療はしてくださいね」
「はい、必ず。……では先生、ハナエさんも。お騒がせしましたが、私はここで。届け物も済みましたし、そろそろ本校舎に戻らねばなりません」
【……忙しい中、本当にありがとう。助かったよ】
色々と言いたいこと、かけたい言葉が渦巻いて……結局絞り出せたのは、当たり障りのない感謝だった。
実際、エデン条約の前で色々と多忙だろう中、わざわざ管理室から本物の参考書を探して持って来てくれたのだ。ありがたいとしか言えない。
ハスミは口を開かず目で礼をすると、踵を返した。そのまま合宿所から出ようと廊下を進んでいく。キヴォトスの生徒でも一際大きな影が、どんどんと小さくなっていって……
「……あっ!」
ハナエが小さく声を上げた。廊下の先で、ハスミが不意に立ち止まった。その先にいるのは……あれは。 - 102124/11/06(水) 20:54:21
「……ああ、こんばんは。補習授業部の皆さん。うちのコハルがお世話になっているようで、申し訳ありません」
「い、いえ、そんなことは……こんばんは、ハスミさん……」
「……こんばんは」
「ええ、こんばんは。ヒフミさん。アズサさん……そして」
――ああ、出会ってしまった。コハルちゃんと関わる以上、いずれは出会うだろうと思っては居たが……こんなにも早く。しかも、このタイミングで。
不穏な空気を感じとったのか、少しばかり腰が引けているヒフミちゃん。さりげなくだが、腰の愛銃に手を伸ばして警戒するアズサちゃん。その2人を流れるように見やった後――私と目が合った。
心胆を寒からしめる、とはこういう目を言うのだろう。
彼女に見つめられた途端、体感温度が数度ほど下がった気がした。背筋が冷える。じっとりとした汗が出る。まだ夏だと言うのに、私の周りだけ氷河期に入ったかのようだった。
「――浦和ハナコ」
「羽川ハスミ、さん……」
かつて言われた忠告が頭をよぎる。 - 103124/11/06(水) 20:54:50
――ハナコさん。しばらくは気をつけてくださいね。
――コハルさんとの件で、貴方のことをあまり快く思っていない人も……少なからずはいるかと。
――いつも通りに過ごしていれば、各々忙しい方々ですから会うことも早々ないでしょうし、平気ですよ!
……レイサさん。その筆頭候補の一人が、今目の前にいますよ。
合宿所の廊下で、私は予想通りの人物と、想定外の邂逅を果たしたのだった。 - 104124/11/06(水) 20:56:21
今日も短めだけどここまでだよー
次回はたぶん明後日以降になるよ― - 105二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 21:03:35
……キリちゃん?
……ナギサってきりふじナギサだったよな?
え、出会った時期によるけどコハルとナギサ幼馴染みだったり? - 106二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 23:24:37
本家と同じミスをしたか。コハル。
それはそうとハスミ、何を考えてるのかは分からないがハナコに銃口を向けるのだけはやめてね? - 107二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 23:46:05
無理じゃねーかな?ハスミのブレーキ役がツルギってくらいには正実の中でも断トツの暴走列車だし
有事の際においてはツルギ>>>>>ハスミってくらいに冷静な判断力だから、感情が昂ると1番暴れやすいのがハスミだもの
仮に銃口向けるならハナコ達の背後からツルギ最大の眼光と圧で止めに入るやろさ。
- 108二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 23:53:54
- 109二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 00:08:40
まあハスミから見たハナコって露出欲満たすために大事な後輩の発作引き起こしたやつだしそりゃ怒るよね
- 110二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 00:28:54
初対面時の発作騒動は当人同士で既に解決してる話ではあるけど、ハスミの後輩を傷つけられたことへの怒りはごく当たり前の感情だから何も言えねえ
- 111二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 00:47:55
- 112二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 06:31:49
- 113二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 17:08:22
- 114二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 19:42:31
細工して赤点にしてしまえば補習授業部にはぶち込めるとは思う。
でもミカ相手に細工した事がパテル派にバレたら
内乱状態に陥るだろうし、
そんな事になれば守るどころじゃなくなるので、手が出せなかったとか。
- 115二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:38:52
これがあってる場合
立場を捨ててでも絶対に守りたいって覚悟なのかもね
ミカはまだ強さを信頼してるとしてコハルに対してはミカに対してとはまた違う激重感情
それこそ、コハルを慕ってる人達にどれだけ恨まれようと………みたいな
- 116二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 00:25:17
ここのコハルだいぶコミュ強な上に原作の光属性は据え置きだから関わる人全員脳みそ焼かれてるんだよな
下手したら先生並に人たらし力が高い - 117二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 07:57:40
楽しみに待ってる!
- 118二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 18:23:14
保守
- 119二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 23:14:12
ほ
- 120二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 09:26:45
し
- 121二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 17:17:49
ゅ
- 122二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 23:07:42
保守
- 123124/11/09(土) 23:39:00
ひぃんハスミとハナコのやりとりで過去一苦戦してるよー
明日更新するつもりだけど、進捗次第では無理かもしれないよーごめんねー - 124二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 10:39:19
保守う授業部
- 125二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 17:26:12
ほ
- 126124/11/10(日) 22:29:47
ひぃん風邪引いちゃったよー
おかげで色々やらなきゃいけないことがあったからまだ途中までしか書けてないよ―ほんとにごめんね―
明日は更新できるよう頑張るよー - 127二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 22:37:55
あらま…やっぱり日に日に寒くなって来てるからなぁ
無理しちゃいかんので、ゆっくりやって頂いて大丈夫ですよ - 128二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 07:19:43
いつまでも待つので、どうかお大事に…!
- 129二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 07:45:03
꒰𑁬(⸝⸝ↀᯅↀ⸝⸝)໒꒱「保守よ」
(σヮσ )「保守です」
(ᓀ‸ᓂ)「保守だ」
(˶ᐢ ᐢ˶)「⚪︎⚪︎です♡」 - 130二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 17:39:03
寒さ対策にホットチョコレートを作り保守
コハルの冬服は恐らくもこもこ - 131124/11/11(月) 19:43:00
【WARNING】
この先、ハスミファンの人には解釈違いになるかもしれない展開があるよ―
あとで弁解タイムを設けるけど、読んでみて「ダメだコリャ!」ってなった人はブラウザバックしてねー
ちょうどこの前トリニティのイベントがあったから見返すといいよー
準備はい―い? ではどうぞー - 132124/11/11(月) 19:44:29
【ハナコは悪くないよ】
先生は、私にそう言ってくれました。
……本当に、そうでしょうか。アズサちゃんは咄嗟に止めようと声をかけました。ヒフミちゃんは自ら動いてコハルちゃんを鎮めてくれました。
では、私は?
【今回のは事故だから。突然のことだったし、ハナコが動けなくなるのも仕方がないよ】
……仕方なくなど、ないのです。以前の事件を引き起こしてから、私はずっと心に決めていました。次にコハルちゃんが発作を起こしたら、すぐに助けようと。それが、罪滅ぼしになるだろうと。
でも、実際は……動くことが、できませんでした。あの日の光景が、正義実現委員会の子の言葉がリフレインして、ただ呆然と。
――これでコハルちゃんに何かあったら……全部貴方のせいよ!
私は……コハルちゃんの友だち、失格です。 - 133124/11/11(月) 19:45:33
合宿所の廊下には、静寂が満ちていた。
静かに私を見つめる、羽川ハスミさん。
腰が引けながらも心配そうに私を見る、ヒフミちゃん。
警戒しているアズサちゃん。
「……驚きました。正義実現委員会副委員長自ら、わざわざやって来るとは……条約前でお忙しいのでは?」
機先を制するため、先に私から口を開いた。イニシアチブを握るためなのもある。が、それ以上に……私から喋らないと、彼女の圧力に押し負けてしまいそうだったからだ。
それだけ、今の彼女は煮えたぎっているように見えた。
「大切な後輩の見舞いをする時間くらい作れます。……その子が発作を起こしたと聞いたなら、尚更です」
返事のトーンは、かなり低かった。
ヒフミちゃんが空気に堪えられず、ビクリと身を震わせるのが見える。
しかし意外だ。羽川ハスミは一度怒り出すと手がつけられなくなると聞いていたのだが……
「――意外ですか? 私が暴れ出さないのが」
!? 読まれた……いや、声に出ていた?
「……もしかして、声に出ていましたか?」
「いいえ。ですが貴方の表情だけでわかります。今の貴方が、それだけわかりやすいということです。……話を戻すと、私がここで貴方に銃を突きつけないのは、以前の件が既に当事者間で解決しているからです。コハルが許している以上、私がそこをつつき続けるのはお門違いというものです」
それがなければ、ここで後輩の命を脅かされたぶんは返していました。
そういい切ったハスミさんに、表情に見せないよう努めながらも驚く。
彼女は正義実現委員会の副委員長。治安維持組織の幹部格が、個人的に報復に動くなど、本来許されることではない。仮に実行した場合、彼女は確実に今の立場を失うだろう。
だが、今の言葉からは嘘が感じられなかった。……そこまで、コハルちゃんを大事に思っているということか。今の立場と引き換えられるほどに。 - 134124/11/11(月) 19:47:02
「……ですが。貴方に会ったなら言いたいことがありました。――コハルと友だちになったそうですね?」
……そ、れは……
「あの子が話してくれました。それはもう嬉しそうに。貴方の挙動不審な様子も含めて、可愛らしい友人だと。……私には、とてもそうは思えませんが」
フンと、ハスミさんは鼻を鳴らした。その目に映るのは、私に対する猜疑心。
「貴方の過去は知っています、浦和ハナコさん。あれ以来調べましたから。……かつては、成績優秀、品行方正で、キヴォトス1の『神童』とすら称えられていたようですね。ですが……突然信じられないほどに成績が低下し、例の奇行が目立つようになった。――はっきり言いましょう。私は、貴方を信用できません。まるで周囲を試すような、ともすれば馬鹿にするかのような言動をとる貴方のことは」
そんな人間に、大切な後輩が命を脅かされ、その上友人だと嘯くのです。どうして安心できましょう。
ぽたり、とハスミさんの右手から血が滴り落ちた。 - 135124/11/11(月) 19:47:39
「ハ、ハスミさん! それは言い過ぎです!」
ヒフミちゃんが怯えを振り払い、それはそれは大きな声を上げた。ああ、ヒフミちゃん……今のハスミさんは恐ろしいだろうに、それでも声を上げてくれるなんて、貴方は本当に優しい人だ。
「ハナコちゃんは確かにコハルちゃんに危害を加えてしまいました……! でも、それをずっと後悔して「ヒフミちゃん、いいんです」……うぇっ?」
私を擁護してくれるヒフミちゃんを遮って、ハスミさんと真正面から相対する。……相当な威圧感だ。正義実現委員会の戦力はどうしてもツルギ委員長に目がいってしまうところがあるが、彼女もかなりの実力者だ。正義実現委員会副委員長の肩書は伊達ではないということか。
「確かに、私は周囲を試すような言動をしていました。その上で、コハルちゃんを傷つけた。命を奪いかけた。……全て事実です。おっしゃる通り、返す言葉もありません……ですが」
瞼を閉じれば、浮かぶのはあの日の光景。走るのも辛い体で私に駆け寄り、手を差し伸べてくれた、確かな記憶。
――どうか、私の友達になってくれませんか?
「――私が、コハルちゃんから友だちになろうと手を差し伸べられた事実は、疑われても変わりません」
私がどれだけ人に疑われようと。虚飾を並べ立てようと。これだけは、幾星霜経っても変わらない事実だ。 - 136124/11/11(月) 19:48:35
「いけしゃあしゃあと……!!」
バサッ! と黒い翼が開き、ハスミさんが気炎を吐く。人より大柄な体が何倍にも大きくなって見えた。――そういえば、翼を広げて威嚇するのは一部の鳥の習性であったなと、どうでもいいことが頭に浮かんだ。
アズサちゃんが素早く反応して銃を構えるのが視界の端に映る。
「コハルの友人面をすると言うなら、今回貴方は何をしていましたか!? 先生から聞きましたが、アズサさんはコハルを止めようとし、ヒフミさんは実際に止めてくれました! ――では貴方は? 貴方は何をしていたと言うのですか!」
「それは……」
「何もしなかった分際で! 都合よくコハルの友人を名乗るのならば! そのようなことをするなら、これ以上コハルが傷つく前に……!」
――そこまでだよ、ハスミ。
ポンと、ハスミさんの肩に手が置かれた。同時に、ハスミさんと同じくらいの背丈を持つ体が、私とハスミさんの間に滑り込む。
【ハスミ。君が悪いとは言わない。コハルのことを大事に思っていることもわかった。ただ、これ以上はやり過ぎだよ。何より……このことを聞いたら、コハルが悲しむ】
大事な後輩を泣かせていいのかい?
先生の表情は、私からは背中しか見えないためわからない。ただ、酷く真剣な雰囲気だけは、その背中から伝わってきた。 - 137124/11/11(月) 19:49:41
沈黙が辺りを包む。息を荒げるハスミさん、それを見つめる先生。
「……はぁ……はぁ……ふぅ。――いいでしょう」
やがて息を整えたハスミさんが、とても納得したようには思えないトーンで口火を切った。
「もともとコハルの友人関係はコハル自身が定めること。私が口出しするのは少々問題がありました。それは認めましょう。……ですが、今後も彼女の友人を名乗ると言うなら、これからの行動で示して頂きましょうか」
広がっていた翼が折り畳まれ、ハスミさんは憮然とした表情で歩き出した。合宿所を出るため、必然的に私たちとすれ違う。
「私は、貴方を見ていますよ――次は、ありません」
その刹那、耳元で囁かれた声に、私は必死に身震いを抑え込んだ。 - 138124/11/11(月) 19:51:13
「あ、あんなに怒っているハスミさんは初めて見ました……」
ヒフミちゃんが戦々恐々としながら背後を……たった今、ハスミさんが去っていった方を見送る。
【……ハスミがごめんね、ハナコ。普段はあんなにも辛辣な子じゃないんだ】
「存じ上げています、先生。ハスミさんの怒りは正当なものです。実際、私が成績を落とし奇行に耽っていたのは事実。かつて、天才だのと持て囃されていたのもまた、事実です。……ハスミさんから信用されないのも、致し方ありません」
「ハナコ……」
心配そうに私を見つめるアズサちゃんに、精一杯の虚飾を浮かべる。大丈夫、いつもやってきたことだ。
「大丈夫です。私のことを友人だと、他ならぬコハルちゃんが言ってくれたのですから。それに恥じないようにするまでです」
――あの醜態で、友人を名乗るのはおこがましい。私自身がそう思っていることには蓋をして。
「ハナコちゃん……そんな痛々しい笑顔じゃ、何も誤魔化せませんよ……」
ヒフミちゃんが小さく呟いた言葉は私の耳に届かず、空気に溶けるかのように消えていった。 - 139124/11/11(月) 19:55:07
【弁解タイム】
ひぃん1はハスミが嫌いなわけでもアンチでもないよー
ただ羽川ハスミというキャラの性格上、どうしても彼女が攻撃的になる展開しか書けなかったよー
この世界線ではコハルが原作の3倍位大事な存在だったせいで色々と割を食う役目を背負わせちゃったよー
ハスミは悪くないよー石を投げるなら私にしてー!
現作ではついつい甘いものに舌鼓を打って体重計と日々戦っている可愛い子でもあるんだよー
言い訳になるけど正直今熱が38度近くあるから、後々違和感を覚えたら書き直すかもしれないよー - 140二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 20:01:40
ハナコに問題が多々あるのは事実だからね
今後の成長に期待する所、ハスミは真面目だから誤解が解けたら謝罪するだろうし - 141二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 20:12:24
身分(友人認定)は手に入れた 次は実績作りだ
行くぞ875 - 142二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 21:45:13
ハスミはハスミで後でツルギからデコピン受けてそうだな
奇行やら変態発言を封じられる形になったハナコだけに常に真面目モードになるしかない
というか最上の釘を刺されたからガチで夜に出掛けるのは不可能になったわね。 - 143二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 22:30:30
元々は周囲の自分への評価を下げさせるために奇行に走ってた訳だから、今の状況はある意味当然というか、ハナコの思惑通りになってるだけなんだよね
それはハナコ本人が1番分かってるから余計に苦しいんだけども...... - 144二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 00:55:48
ハナコがトラウマによって動けなくなってしまってた分かるのは神視点だからねー
予想出来る範囲だとしてもあくまで予想
ハスミが怒るのも仕方ないと思うよ - 145二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 08:08:05
念の為保守
- 146二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 16:15:48
- 147二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 23:25:50
保守
- 148二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 04:55:02
抑圧された感情の暴発が怖い
- 149二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 07:53:26
一応保守
- 150二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 10:21:48
今更だけど翼持ちが大きく翼を広げて威嚇するの良いよね
アルバトリオンのエスカトンジャッジメントの構えとか好きだ - 151124/11/13(水) 15:41:06
【悲報】1、入院する
ひぃん風邪かと思ったらもっと凶悪なのだったよー
皆も季節の変わり目にはほんと気をつけようねー
というわけで3日程度更新はないと思ってねーごめんよー - 152二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 15:48:02
こ、ここだけ病弱イッチになってしまうなんて……
- 153二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 16:42:24
お大事になさってください、
- 154二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 20:55:45
つまり保守するかは読者達に委ねられたか
このスレだと他スレみたいにちょっとした小ネタSSで間を繋ぐとか出来ないからアレね。(ネタにするのが難しい - 155二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 00:37:47
保守
- 156二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 07:51:27
保守
- 157二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 17:56:42
保守
- 158二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 19:20:23
- 159二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 20:50:55
- 160二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 01:40:52
保守
- 161二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 07:33:18
保守
- 162二次元好きの匿名さん24/11/15(金) 18:28:37
保守
- 163二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 03:56:59
保守
- 164二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 13:45:39
保守
- 165二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 13:45:43
ほ
- 166二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 20:19:09
し
- 167124/11/16(土) 21:58:36
退院してきたよ―保守ありがとねー
今続きを書いてるから明日あたり投稿する予定だよー
その後は次スレかなー
しばらく浮上しなかったから正直落ちてると思ってたよー本当にありがとう
保守してくれたぶん読者さんがいると思って頑張るよー - 168二次元好きの匿名さん24/11/16(土) 21:59:39
了解
総員、1の復帰祝だ。凱旋だ! - 169二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 03:25:19
おかえり!!!
- 170二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 12:42:10
よっしゃあ!!!
- 171二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 16:20:55
おかえりなさい!
ご無事で何より - 172124/11/17(日) 21:02:46
「ごめんなさい、みんな。また迷惑をかけちゃって……」
「い、いえいえ! 気にしないでくださいコハルちゃん! 私にできることをしたまでですので……」
「私も気にしてないから、大丈夫」
その日の夜。寝室に皆が集まったタイミングで、私は開口一番から謝罪した。ヒフミ先輩とアズサがそれに対して優しい言葉をかけてくれる。うう……罪悪感。
今回の発作は完全に自業自得。参考書の中身を確認せずに持ってきてしまった私のミスだ。
「――だからハナコ。ハスミ先輩の言うことは、あんまり気にしないで。とても尊敬できる先輩だけど、私のことになるとちょっとだけ過剰になるところがあるから……ごめんね」
「! ……聞こえていたんですね」
うん。ここそこまで壁が厚くないから、あそこまで大きな声だと筒抜けだった。
ハスミ先輩……普段は本当に尊敬する、私の憧れの先輩なんだけれど、どうにも感情が昂ると暴走しがちな人でもある。お茶目さんということで許してあげて欲しい。
この前も、確かゲヘナとの条約前の調整で【万魔殿】(パンデモニウム・ソサエティ)に向かって……帰ってきたらすんごく荒れてた。思わず私が抱きしめて落ち着かせないといけないくらいには荒れてた。普段と立場が逆でなんか新鮮だった。
ま、まあ、普段気にしてる体格いじりをされたみたいだし、仕方ないのかもしれない。……なんか小学生のいじり方みたいなことしてくるんだ、万魔殿って。"あの子"の話でも風紀委員会(というよりは風紀委員長個人)よりナメられてるみたいだし、組織として大丈夫なのかな……。 - 173124/11/17(日) 21:03:22
「……私は大丈夫ですよ、コハルちゃん。今の状況は、ある意味、私の自業自得でもありますので。……それよりも、心配なのはコハルちゃんの体調です。大丈夫ですか?」
「う、うん。今は平気。ちょっと体がだるいけど……」
発作を起こした後だから、こればかりはもう仕方がない。そこまで重度のものじゃないから体調不良も長続きするものではないだろう。……2次試験に体調不良が重ならないといいんだけど、そこはもう祈るしかない。お願いだからもってよ、私の体。
「そうですか……ですが、無理は禁物です。今日は早めに寝たほうがいいですね」
「うん。……あっ、そうだ。その前に……アズサ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「ん? 私?」
ちょいちょいと手招きすると、私が寝ているベッドまでてててと走り寄ってくるアズサ。……ちょっとかわいい。
無防備に近寄ってきたところを……てりゃ! 確保! 腕で抱き込んで捕獲する。あ、アズサの体温結構あったかい……。
「こ、コハル? 急にどうした? 寂しくなったのか?」
「ん? いや寂しいとかじゃなくてね、行動事態はただのノリ。……これ、なーんだ?」
心配そうに私の顔を覗き込んでくるアズサにそう返しつつ、手に持ったものを見せる。
「……櫛?」
「そう! ……朝、約束したでしょ?」
「朝……? ! ああ、あの時の……」
いろいろあってすっかり頭から飛んでいたようだが、思い出したのかアズサの顔にも理解の色が浮かんだ。
「そうそれ。……羽繕い、してあげるね」 - 174124/11/17(日) 21:04:51
ふわふわしてる。
アズサの羽を触った時の第一印象がそれだった。いやまあ羽毛の塊だから当たり前と言えば当たり前なんだけど、それを加味してもすっごく手触りがいい。ぶっちゃけ櫛を通さなくてもいいんじゃないかってくらい既に綺麗だ。ゴミが付いている様子もない。
「……これ、抜け羽集めて枕にしたらよく眠れそう」
「……考えたことなかった。そんなにいいの? その、私の、羽……」
「うん。ふわふわ……」
私の膝の上で、背中を向けてモジモジしてるアズサを尻目に、私は彼女の羽に指を通す。しかし本当に手触りがいい。ずっと触っていられそう。モミモミ……モミモミ。
「……あ、あの。コハル……ずっとそうされてると、その……変な感じが……」
「……ん? あ、ごめんね! 手触りが良くてつい……! す、すぐやるから!」
我を忘れてモフり続けてると、アズサから消え入るような声で注意が飛んできた。しまった、やりすぎた。
慌てて櫛を掴んで体勢を整える。
「……じゃあ、いれるよ? そんなに力まなくていいから、力抜いて」
「了解した。……んっ」
少し脱力した様子のアズサの羽に、櫛を通す。ふわふわの羽はほとんど抵抗なく櫛の歯を受け入れた。そのまま羽の生えている流れに沿って櫛を滑らせる。 - 175124/11/17(日) 21:06:20
「……ふわぁ」
なんとも言えない声がアズサから漏れた。
「気持ちいい?」
「……うん。……なんか、安心、する……」
「……そっか」
力が抜けてもたれかかってくるアズサをどうにか支えつつ、その翼に櫛を通し続ける。もともと真っ白で汚れ一つない羽は、櫛を通す度にツヤツヤとした輝きを纏っていく。保湿用に特殊な油が入ってるからそのせいだ。
「……ふふふ。なんだか微笑ましい光景ですね。ね、ハナコちゃ……」
「――(GAME OVER……)」
「ハナコちゃん!? 妙な効果音鳴らしながら四散しないでくださいハナコちゃん!!」
「……これは、救護したほうがいいんですかね?」
「眠かったら、寝てもいいからね?」
「うん……なんだか、こっちに来てからずっと、楽園を見つけた気分だ……」
「……楽園?」
ウトウトした様子のアズサは、コクリと頷きを返してから言葉を続けた。 - 176124/11/17(日) 21:07:24
「うん。キヴォトスに伝わる第5の『古則』……」
「……『楽園にたどり着きし者の真実を、証明することはできるのか』……だっけ? 古書館の本で見たことある」
本当ウイ先輩様様だ。あの人が特別に許可をくれたからこそ、一般には公開されていない古書館の本を閲覧できているのだから。図書委員会とは無関係の私に閲覧許可を与えられるなんて、図書委員会委員長の権限ってすごい。
閑話休題。『古則』とは、このキヴォトスに古くから伝わる7つの……まあ、命題、とでも言おうか。今話に出てきたのはその5番目。
――『楽園にたどり着きし者の真実を、証明することはできるのか』
私から言わせると結構ナンセンスな命題だと思うんだけど、まあ昔の言葉だから仕方ないのかも。
私の所感は今重要じゃないから置いておいて、説明するとこれは、この世に楽園(エデン)が本当にあると仮定して、例えそれを探して見つけだしたとしても、その発見者は楽園から出てこないから結局楽園の存在証明も発見者の発見証明もできないよね? どうやって楽園があると証明するの? っていう話。要するに禅問答みたいなものね。
正直知っている人の少ない話だから、アズサの口からこれが飛び出したことにちょっと驚いたんだけど……。
「知っていたんだな……流石は、コハルだ……楽園の発見者が、楽園から出てこない……というのは、最初に聞いたときどうなんだと思ったが……今となっては、わかる。……これは、抜け出せない」
自分の翼のようにふわふわとした心地でそう告げるアズサ。……こんなことで楽園認定してたら、この世の大体が楽園になると思う。でも、この発言の裏、アズサの背景を思うと……何も言えない。
私にできることと言ったら、ただ少しでもアズサが楽になれるように、櫛を動かすことだけだった。 - 177124/11/17(日) 21:08:53
「アズサちゃん……その古則を、どこで……」
「あ、人に戻ったんですねハナコちゃん。おかえりなさい」
その時、横で何やら騒いでいたハナコが急にアズサに話しかけてきた。なんか慣れきってる反応のヒフミ先輩は置いといて……まあ、確かにキヴォトスの古則なんてそうそう聞く言葉じゃない。出どころが気になるのは仕方ないかも。私の推測が正しいのなら、あまり突かないであげてほしいけれど……
「まさか、"セイアちゃん"に会ったことがあるんですか!?」
……セイ、ア? ……ティーパーティーの、一人。サンクトゥス派の代表……違う。そんな一般的な知識じゃなく、何処か別で、聞いたことがあるような……
――『コハル。君は、第5の古則についてどう思う?』
そう。ちょうどこの古則について聞かれたことがある気が……
「セイアって、ティーパーティーの方でしたよね……」
「『百合園セイア』様。本来のティーパーティーホストの方ですね! お体が悪いので今はナギサ様が代行されてますが……」
脳裏に浮かびかけた何かは、周囲の喧騒にかき消されて何処かへと消えていった。
「……いや。わからない。この話は、どこかで聞いたことがあるだけで……」
アズサは少し考えたあと、ハナコに対してそう言った。……まあ、古則なんてその"セイアちゃん"以外も知ってる人は居るだろうし。ってことで納得してくれないだろうか、ハナコ。……それとも、もしかして本当にその"セイアちゃん"に会ったことがあるのかしら。……いや、やめろ私。疑わしきは罰せずだって言ったでしょ。 - 178124/11/17(日) 21:10:06
「……。そうでしたか。そういえばアズサちゃんは転校生、でしたね。……『vanitas vanitatum, et omnia vanitas』……ということは……」
ハナコはブツブツとつぶやきながらも、アズサを凝視していた。……正確には、その肩のエンブレムを。あ、これはまずい。アズサが隠してる秘密に気がついたかも。私と同じ推測に達したかもしれない。
「え、えっと! もう遅いから、そろそろ寝ましょうか! 私も腕が疲れてきたし……」
「コハルちゃん……? ……いえ、確かに、そのとおりです。もう遅いですし、寝たほうがいいでしょう。――では、今日も一日お疲れ様でした」
「……うん。そうだな。ありがとうコハル。とても気持ちよかった」
「それはよかった。またやってあげるから、いつでも言ってね」
なんとか解散の流れまで持って行けて、私は一人安堵していた。……ハナコが私と同じ推測、『アズサがアリウス分派の生き残りで、そこから転校してきた』ことに気づいたとして。ここでそれを詰問されていたら、どう考えてもいい方向には行かない気がした。だから強引にでも話を終わらせたのだ。正直アリウス分派の背景を考えると、アズサを放置するのはろくなことではないんだけど……もしあの子がトリニティに害をなす気ならば、もっと狡猾に立ち回る気がするのだ。
あの子なら、きっといつか、秘密を明かしてくれる。それまで待ってあげたい。 - 179124/11/17(日) 21:10:46
明くる日。ハナちゃんの力も借りてどうにか朝の身支度を済ませ、迎えた勉強合宿3日目。
「昨日は色々あって言いそびれちゃったんですが……今皆さんに解いて頂いている模試ですが、高得点を取れた方にはご褒美も用意しています!」
「ご褒美?」
高得点を取った人……ていうと、私も入ってるのかな。
「はい、こちらの……」
ガサゴソと自身のバッグを探ったヒフミ先輩が取り出したのは、どっかで見たことがある白い変な鳥と、その仲間たち……あ、なんか先の展開が読めた。
「『モモフレンズ』グッズを差し上げちゃいます!」
「「「……はい?」」」
あ、思わず声を上げた私と、ハナコとハナちゃんの疑問符が被った。や、やっぱりかー…… - 180124/11/17(日) 21:12:02
「も、モモフレンズ……?」
「あ、あれ……? 最近流行りの、あの『モモフレンズ』ですが……もしかして、ご存知ありませんか?」
「初めて見ましたね……いえ、何処かで見た気も……?」
いや流行ってない。さすがに流行ってないよヒフミ先輩。だって私そういう流行に詳しい放課後スイーツ部やゲヘナの"あの子"からモモフレンズのモの字も聞いたことないもの。いやどちらも話題が食べ物関係に偏るから仕方ないかもだけど。
「えぇ!?」
心底驚いた様子のヒフミ先輩。その腕の中で、ブタさんなのかカバさんなのか鳥さんなのかよくわからない生き物……ペロロ様? がくたりと身を折り曲げる。……どっちなんだろう? 気になったけど聞いたら最後マシンガントークが始まる気がしたので辞めておいた。と、そんな折。
「こ……これをもらえるのか!?」
一人だけ、すんごい勢いで食いついたのがいた。……ああそうだった。そういえば、総合図書館で沼に突っ込んだのが1人いたんだった。 - 181124/11/17(日) 21:13:01
「……アズサちゃん。アズサちゃんなら、きっとわかってくれると思っていました……! はい! アズサちゃんが頑張ったら、お好きな子のグッズを選んで持っていっていいですよ!」
「この子たちがもらえるなら是非もない。全力を出すとしよう。……いいモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう。必ずや任務を果たして、ペロロ様とスカルマンを手に入れてみせる!」
「は、はい! ファイトですっアズサちゃん!」
妙にキリッとした目でそう宣言するアズサ。一体モモフレンズの何が彼女の琴線に触れたのか。……ま、まあやる気が出るのはいいことだし、この中で一番点数上げてほしいのはアズサだから、そのアズサのモチベが上がるなら下手なことは言うまい。
……いやほんとにどこに触れたんだろ。不思議に思いながらモモフレグッズを見つめる。……どう見ても、人を選ぶキャラクターデザインだけど……あ、でもこの子可愛いかも。ちょっとだけ。
ツンツンと、びっくりするくらい胴の長い猫のぬいぐるみを触る。なかなかにマヌケな顔をした猫は私の指を抵抗なく己の胴体に沈ませた。やわらかい……
「その子が気になりますか!?」
「ひゃわぁっ!?」
気がつくと、ヒフミ先輩が私の背後にいて急に至近距離から声をかけてきた。
び、びっくりしたー! ほんとモモフレンズが絡んだ時のヒフミ先輩の挙動が怖すぎる。心臓に悪いから辞めて欲しい。 - 182124/11/17(日) 21:13:38
「あ、ご、ごめんなさい。興味を持って頂けたのが嬉しくて、つい……」
「ヒフミさん! コハルちゃんに負担をかけるのは辞めてあげてください!」
「あうぅ、ごめんなさい……」
本人もすぐ謝ってきたが、ハナちゃんにも怒られてそっちにも謝っていた。う、ちょっと可哀想になってきた。
「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから……えと、ヒフミ先輩。この子はなんていうの?」
「その子はウェーブキャットさんです! いつもウェーブして踊っている猫さんですね!」
「い、いつも踊ってるんだ……」
思っていたよりなかなかにファンキーな猫さんだった。この胴の長さで踊るのは体壊しそう。まあ本人? 本猫? が楽しいならそれでいいのかな……?
「ちょうどコハルちゃんにオススメしようと思っていたのですが、こんなかんじのネックピローのグッズがありまして……寝るときにどうですか?」
そう言ってヒフミ先輩が取り出したのは、ウェーブキャットの姿をしたネックピロー。あー、確かにこれは気持ちよさそうだ。手に持った感じ、そこまで重くもないから、首に負担がかかることもなさそう。
「……じゃあちょっと試しに使ってみようかな」
「はい、どうぞ! コハルちゃんは昨日の模試でもいい成績でしたから、ここで渡しちゃいます!」
「あ、ありがとう。ヒフミ先輩」
私とヒフミ先輩がそんなやりとりをしている横で、困惑しながらも状況を見ていたハナちゃんがポツリと呟いた
「……あれ? そういえば先生はどこに……?」 - 183124/11/17(日) 21:14:39
「わぁっ、水が入ってるー!」
所変わって、初日に皆で掃除したプール。水の張られたそこに、明るい声が響き渡る。
「あはっ、ここに水が入ってるのなんて久しぶりに見たな―! もしかしてこれから泳いだりするの? それとも皆でプールパーティー?」
【待たせたね。用件を聞いてもいいかな?】
素早く繰り出されるマシンガントークを流しつつ、はしゃいだ様子の彼女を見据える。彼女のトークに付き合っていると日が暮れる勢いなのは最初に会ったときから理解していた。
「……えへへ」
舌をペロッとあざとく突き出し、失敗しちゃったと言わんばかりの彼女は、その場でくるっとターンした。鮮やかなピンクの長髪が夏空になびく。
「先生は上手くやってるかな、って思って」
そう言って、彼女……ティーパーティーの一人、『美園ミカ』は朗らかな笑みを見せるのであった。 - 184124/11/17(日) 21:15:51
今日はここまで! 久々の更新だからそのぶん長くなっちゃったよ―
次回はミカからのある程度の種明かし回。
自スレ立ててくるよ― - 185二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 21:20:34
コハルゥ!?君ゲヘナにも友達居るのかコハルぅ!?
話題が食べ物に偏って、流行に敏感………ゲヘナ生詳しくないがキララかジュンコか? - 186124/11/17(日) 21:22:43
ひぃん自スレ立てるつもりだったけどまだレスに余裕あるから明日にするよ―
- 187二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 23:59:36
初対面での爆死の影響が治まってきてハナコの脳が回りだしたな
しかしミカよろしく周囲も動き始めたから諸々が間に合うか? - 188二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 00:24:24
セイアとナギサはコハルの変化でちょっと本編と違う行動してそうだけど、ミカはどうなってるかな?
- 189二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 08:02:15
了解です!
- 190二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 11:59:28
もしかしてこのままウェーブキャット推しになるのでは・・・?
- 191124/11/18(月) 20:46:09