- 1二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:48:51
散りゆく桜の花びらを窓から眺めながら、ぼーっと壁にもたれる。
風は少し強いけれど、ぽかぽかとした陽気で、なんだか眠くなってきそうなほど。
睡魔を振り払うように首を振って、欠伸を隠すように手で覆う。
────その時、隣の扉の内側から、こんこんと小さな音が聞こえて来た。
「……風待ちをさせて申し訳ありません、着替えが終わりましたよ」
「大丈夫、全然待っていないよ、今日はほどほどに暖かいから居心地良かったしね」
「ふふっ、それなら後で、一緒にひかたを浴びに行くのはどうでしょうか?」
「それも良いね……それじゃあ、入るよ?」
「はい、どうぞお入りください」
言葉を聞いてから、俺は小さく深呼吸をして、トレーナー室の扉を開く。
そこには、尻尾を楽しげにゆっくりと振りながら待っている、一人のウマ娘がいた。
後ろで二つ結びにした淡い鹿毛の長い髪、前髪にはふんわりとした大きな流星。
袖やスカートなどにフリルを施したドレスを身に纏い、柔らかな微笑みを浮かべている。
担当ウマ娘のヤマニンゼファーは、くるりとその場でターンを踏んだ。
靡く髪、流れるリボン、ふわりと漂い爽やかでウッディな香り。
彼女は再びこちらへ向き直ると、瞳を期待に輝かせながら、問いかけて来る。
「デザインはそのままですが、新風となった勝負服は、いかがでしょうか?」
「……うん、やっぱりキミには、その勝負服が似合うね」
風になりたいという願いを体現したような、爽やかで華やかなゼファーの勝負服。
自身の言葉に嘘偽りなく、本音で、そう思っていた。
────けれど俺は、その姿を真っ直ぐ見つめることが出来ず、少し目を逸らしてしまう。
ちらりと、横目で彼女の様子を窺う。
「…………むう」
唸り声を漏らすゼファーは、どことなく不満げな表情を浮かべていた。 - 2二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:49:10
この春、ゼファーは高等部へと進級した。
彼女と出会ってから、もうすでに三年以上。
最初の頃に比べれば俺も成長し、一人前のトレーナーになれたと思っている。
そして、成長したのは、彼女も同じこと。
様々なレースを走り抜け、栄光を掴み、時には掴み損ねながら軌跡を刻んで来た。
その中で幾多の好敵手と出会い、共に高め合い、そして別れも経験して。
ヤマニンゼファーというウマ娘は、一回りも二回りも、大きくなったのである。
そして、それは精神面以外でも、同様であった。
「新しい勝負服のどう? まだ直しも間に合うから、遠慮なく聞かせてくれる?」
俺はゼファーの顔、というよりは流星を見つめながら、そう声をかける。
この三年間で、彼女の身長も伸びた。
それまでは少し下を向くようにしなければ目を合わせられなかったが、今は少し視線を落とすだけ。
細かった彼女の腰回りも両脚も、肉付きが良くなって、よりアスリートらしいに。
その辺りの成長もあって勝負服の新調が必要になり、今日はその確認の日だった。
彼女は自らの勝負服を見回しながら、身体を動かして、その具合を確かめる。 - 3二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:49:23
「ええ、まるで軟東風のよう、これなら走るのに弊風はないでしょう」
「そっか、それなら良かった」
「…………えっと、その、ただ、ですね」
「ん? なんか気になることがあった? どんな小さなことでも言ってみて」
勝負服を纏う舞台は、ウマ娘にとって一世一代の大勝負。
走る誰もが勝利を目指して、思考を巡らせて、全力を尽くす。
故に、身を包む勝負服のほんの僅かな違和感が、僅かな着差に繋がってしまうこともあった。
だからこそ、万全の状態にしてあげたかった。
するとゼファーは少し頬を赤らめて、困ったように俯き、そして胸元に手を置いた。
「……………………ここが、少しキツくなってしまって」
「……………………ごめん、無神経だった」
俺は謝罪を口にしながら顔を逸らしつつ、つい、ちらりと見てしまう。
ゼファーの勝負服の、大胆に晒されている、その胸元を。
雪原のように広がっている白い肌、そこに深々と刻まれている、柔らかそうなクレバス。
そよ風というにはあまりにも激しすぎるその膨らみは、今にも溢れんばかりで。
────ヤマニンゼファーというウマ娘は、一回りも二回りも、大きくなったのである。 - 4二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:49:37
先日のレースのことを思い出す。
久しぶりにG1の舞台で一緒になったトウカイテイオーとナイスネイチャ。
その二人の顔が、ゼファーの姿を見た瞬間、衝撃と驚愕と恐怖に歪んでいたことを。
元々同期の中でも小さくはなかったが、この三年で大きく突き放す形となった。
……もちろん、成長自体は喜ばしいことである。
ただ、まあ、その、勝負服を着ている時などは、少し目のやり場に困ってしまうのだった。
俺は再び深呼吸を一つ、心を落ち着けて、彼女へと声をかける。
「じゃっ、じゃあ、サイズの変更をお願いしようか?」
「えっ、ええ、そうしてください」
「了解、あー、自分で測ることは出来る?」
「……トレーナーさんに、お願いしても良いでしょうか?」
「……今度、ちゃんとした人に測ってもらおうね」
「…………はい」
ゼファーは少しだけ残念そうな響きを含ませながら、素直に返事をしてくれた。
一瞬でも動揺してしまった自分に猛省しながら、俺はスマホでスケジュールを確認する。
────女性は、他人から視線に敏感なものだと聞く。
各種感覚がヒトより優れているとされるウマ娘ならば、なおのこと。
それに加えて、彼女らは思春期で、年頃の女の子でもあるのだ。
だからこそ俺は、勝負服姿の彼女には、あまり視線を向けないように心掛けている。
勿論、指導やらの兼ね合いもあるので、離れている場合はその限りではないけれど。
フィッティングの予約を取れたのを確認して、俺は言葉を発する。 - 5二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:49:50
「OK、予約は出来たから、今日はもう着替えて」
「────やはり、私のことを、見てはいただけないのですね」
突然聞こえて来たその声に、俺はぴしりと固まってしまう。
見れば、ゼファーはぎゅっとスカートを掴み、悲しそうな表情で俯いていた。
「この衣装はレースの烈風を、皆の熱風を感じて、私がまことの風になるためのものです」
「……うん、それは知っているよ」
「だから、あなたの凱風もこの身に浴びて、ともに風になりたい……そう思っていたのに」
「……」
「トレーナーさんは、実は、この勝負服にようずを感じて────」
「それは、違うっ!」
気づいたら、手に持っていたスマホを放り投げていた。
足元で重い音が響いたが、構うものか。
俺は彼女に駆け寄って、その小さな両肩を掴む。
しっとりとして吸い付くような肌触り、そしてほんのり伝わってくる温もり。
ゼファーの身体がぴくんと震えて、恐る恐る、大きく開いた、潤んだ瞳を向けて来る。 - 6二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:50:06
「俺は、好きだよ」
「……えっ?」
「咲き誇る花くらい愛らしいと思っているし、降りしきる雪のように美しいと思ってる」
「あっ、やっ、その、とっ、とれーなー、さん?」
「飛び立つ鳥よりも格好良くて、深々とした森みたいに落ち着ける」
「それは、その、あの、そういう……っ!」
「そんなキミの勝負服が、俺はずっと好きなんだ、悪いだなんて思ったことはないよ」
「…………………あっ、はい、そう、そうですよね、私ったら、もう」
ゼファーは、恥ずかしそうにしながら、困ったような表情を浮かべる。
流石の彼女も、勝負服を素直に褒められると、照れてしまうのだろうか、少し意外だった。
────しかし、まさか彼女を、そんな気持ちにさせていたとは。
確かに、相手の顔を見ないで話す、というのは失礼極まりない。
そして普段はそうしない以上、勝負服に問題がある、と考えてしまうのは自然の流れだ。
すなわち、自分の浅はかな行動が、彼女を傷つけてしまったということである。
…………何が、一人前のトレーナーになれたと思う、だろうか。
俺は思い上がっていた自分を恥じながら、正直に、全てのことを彼女に話すことにした。
「ゼファー、実はね」 - 7二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:50:24
「つまり、私の、その、胸の……谷風を、見ないようにしていただいていた、と」
「…………うん、そういうことだね」
頬を染めて、胸の谷間を手のひらで隠しつつ、ゼファーは小さな声でそう言った。
…………包み隠さず話してはみたけれど、なんというか、最低だな俺は。
思わず、大きくため息をつきながら、頭を抱えてしまう。
きっと、彼女も幻滅してしまったことだろう、トレーナーがこんなことを考えていたら。
自己嫌悪にずんとした気分になっている最中、ふと、ぽそりとした呟きが聞こえてくる。
「………………私は、貴方に見られて、悪風には感じていませんよ?」
「へっ?」
「むしろ、好風────それはさておきトレーナーさん、私は帆風に至りました」
「……良い手段がある、ってことだよね」
「はい、少し、真っ直ぐに立っていただいても」
「あっ、ああ、わかった」
俺は言われるがまま、気を付けの姿勢を取った。
それを見てゼファーはおもむろに近づいて来て、俺の目の前に立つ。
そして、くすりと悪戯っぽい笑顔で────正面から、抱き着いて来た。
確かな重みのある、ふんわりと柔らかな感触が押し付けられた。
丸みを帯びた女性らしい肉感と、春の日差しのような温もりに、身体が包まれる。
鼻腔をくすぐるのは、森の香りに入り混じる、微かな汗の匂いと甘ったるい匂い。
ゼファーはしゅるりと俺の足元に尻尾を巻き付けながら、ぎゅっぎゅっと身体を寄せる。 - 8二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:50:44
「なっ、ちょっ、えっ!?」
「……こうすれば、胸元を見ずに、私の顔を見つめられますよね?」
「そうかも、しれないけれども……!」
「ああ……こうしていると、秋嵐巻き起こる、あの時の天皇賞のことを思い出しますね」
「それは今思い出すことなのかなあ!?」
「いつの間にか、こんなにも貴方の息吹を間近に……ふふっ……心地良い……♪」
気持ち良さそうに目を細めるゼファー。
当時、足が着いた状態では俺の胸辺りにあった彼女の顔は、すぐ目の前にある。
少女の愛らしい可憐さを残しながら、大人の華やかな美しさも感じさせる顔つき。
……なんというか、本当に、この子は美人になったな。
俺は抱き締められていることも忘れ、思わず、見惚れてしまう。
そんな視線に気づいた彼女は────口角を吊り上げ、妖艶な微笑みを浮かべた。
どきりと、固まる心臓。
俺が凍り付いているその隙をつくように、彼女は少し背伸びをして、お互いの頬を合わせた。
もちもちとしていて、柔らかく、熱のこもった感触。
そしてゼファーは俺の耳元にふぅ、と息吹きかけてから、蕩けるような甘い声で囁いた。
「…………これからも、私のことをちゃんと、見つめていてくださいね?」 - 9二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:51:44
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- 10二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:52:17
- 11二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:53:22
くそっ!寝る前だったのに神SS見せやがってッ!
- 12二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 01:55:13
- 13二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 02:20:51
飄風…!自覚したゼファーは勁風過ぎるからひよりひよりにすべしって風条約で決まっていたのではないのか!?
- 14二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 02:59:40
中学から12cmも...!?3年と経てばやっぱ大きくなるなぁ
私はゼファーのあの大きな流星もふもふしたいです 前に書いて下さいてたムササビの着ぐるみで流星もふられた?やつめっちゃ良かったです - 15二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 07:16:31
B85+12=97。97!?
W52で多少増えたろうけどそれでも60超えてないであろうWでその腰の細さはイカンですよ - 16二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 11:05:00
- 17二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 12:05:27
"9"と…"7"?!デッッ
それはそうとやっぱり可愛い - 18二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 20:56:20
大きくなった上に柔らかそうだからな
トレーナーはよく耐えてるよ - 19二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 00:57:29
????「『9』と『7』… 互角……だね」
- 20124/11/01(金) 08:50:49