【SS】トリック・アンド・トリート【ドトシャカ】

  • 1◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 20:54:46

    「あっ!間違えっ……!」


    ドタバタとハデな騒音で目を覚ます。
    窓からは陽が差し込ンでる。
    もう朝か、だがまだアラームは鳴ってねェ。
    時計を確認するといつも起きる時間より十分早ェ。
    たかだか十分だがルーティンが崩れたせいか、それとも騒音で叩き起こされたせいか、頭が回らねェ。

    「お、おはようございます、シャカールさん。起こしちゃったみたいですみません」
    「あァ……おはよう……」

    既に制服に着替えた同室のドトウが自分のベッドの端に座ってそう言った。
    さっきの騒音はコイツの足音か。
    このまま起きるのもダリィし頭が冴えるまで横になっとくか。

    …………で、目を閉じてしばらく経つと、な~ンか妙な気配がしやがる。
    仕方なく目を開けるといつの間にか部屋の真ン中に突っ立っていたドトウが、足音を殺してこっちに一歩踏み出すところだった。
    オレの視線に気付くと耳と尻尾をおっ立てるほど驚いて後ずさる。

    「そ、そのぉ……シャカールさん、そろそろ食堂に行きませんか?大事なレースが近いんですからちゃんとしたものを食べないと駄目ですよぉ」
    「あ、あァ……」

    ドトウの言うこたァもっともだ、一理も二理もある。
    レース前で体調を崩すワケにゃいかねェ今は時短やコスパよりエネルギーや栄養バランスを優先すンのは当然だ。
    ましてや天下のトレセン学園の食堂、アスリートのことをしっかり考えた食事だ。
    ドトウの提案には文句の付け所がねェ。
    だがそんなロジックが霞ンじまうほどの怪しさが、今のドトウにはあった。

  • 2二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 20:56:34

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  • 3◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 20:57:41

    いつもは猫背気味で手を胸の前に構えてることが多いが、今は胸を張って両手を腰の後ろに回してる。
    目線は合わず出入口の方に向いたままだ。
    ご丁寧に尻尾まで出入口の方に向けてゆらゆらと揺れている。
    おまけに表情も妙に強張ってる感じだ。
    明らかに挙動不審……いや、いつも挙動不審ではあるンだが方向性が違う。
    いい加減、頭も冴えてきたところでふと叩き起こされる直前に聞こえた言葉を思い出す。


    『あっ!間違えっ……!』


    「ドトウ、オマエなにを間違えたンだ?」
    「ななななんの話ですかぁ!?」

    隠すのが下手クソなのにも程があンだろォ……。
    誰がどう見ても動揺してンだろォが。
    コイツはいったい何をやらかしたってンだ?
    頭の回転数もアガってきたしちょいと推測してみるか。
    足音を殺して近付いてきてたところから察するに、オレかオレの周辺に何かした、しようとしたってのが妥当か。
    まず消去法でオレの私物を盗む、データを盗み見るってのは有り得ねェ。
    コイツはそんな悪事を働けるタマじゃねェ。
    じゃあドジってオレの私物か部屋の備品でも壊したか?
    これもねーな。
    バカ正直なコイツのことだ、誤魔化すくらいなら土下座でもするだろう。
    そもそもドトウは善意から行動を起こす可能性が高ェ。
    ついでに今日はハロウィンってのを考慮すっと……。

  • 4◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 20:59:41

    「サプライズの類いか?」

    口に出してから、少ししくじったか……とも思う。
    サプライズを見抜いたからっつって指摘すンのも大人気ねェか?

    「どうしてわかっ……じゃなくてな、なな、何でもないですよぉ!」
    「その態度で何でもねェワケあるかよ」
    「そ、それより朝ごはんを……」

    つってもこンだけ分かりやすけりゃスルーしろって方が無理がある。
    オレのせいじゃねェよな、うン。
    さて、どんな仕込みをしたンだ?
    ドトウの様子を見て昔どこかで聞いた言葉を思い出す。

    ミスディレクション。

    手品をやるときに右手をハデに動かして注目を集めてその隙に左手でタネを仕込む。
    見られたくねェモンを隠すために別のところを目立たせる、極端に言やそンな類いの技法だ。
    無意識にやってンだろうが、ドトウの目線と尻尾は相変わらず出入口の方に向いたまンまだ。
    おまけに食堂に行け、つまり部屋を出ろと促してる。
    ってこたァ反対側に隠したいモンがあるってこったな。

    「よし、オレの机か」
    「ダ、ダメですっ!そっちは……!」
    「あァ?コレは……?」

    机の上には小綺麗にラッピングされたカボチャ色のクッキーが置かれていた。
    ……が、クッキーは割れてたり焦げてたり……お世辞にも上出来とは言えねーシロモノだ。
    なるほど、間違えたっつーのはそういうことか。

  • 5◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 21:02:30

    「うぅ~~……見られちゃいましたぁ……」
    「まあ大方の予想はついたが……タネ明かしをしてもらおうか」
    「そ、そのぉ……シャカールさん、去年のハロウィンはイベントに参加されてましたけど、今年はレースと重なってますので参加できないじゃないですか」
    「あァ、さすがに遊びに現をぬかしてるヒマはねェな」
    「それでハロウィンの気分だけでも味わってもらおうと思ってお菓子を用意したんですけれど……ただ渡すだけだとハロウィンっぽくなくて面白くないんじゃないかな~と考えまして……」
    「そンでこっそり机に置いてサプライズ……トリックとトリートを同時にやろうとしたワケか」
    「そ、その通りなんですが、そのぉ……間違えて失敗した方のお菓子を置いてしまいまして……」
    「ったく、変に気を回しやがって」

    成功したクッキーと取り替えるためにどうにかオレを部屋から追い出したかった……か。
    相変わらず不器用でお人好しなヤツだ。
    ドトウが腰の後ろに隠していた両手をオレに差し出すと、割れてもいねェ焦げてもいねェクッキーが現れる。

    「こちらが成功した方のお菓子です!どうぞ!」
    「……丁度、糖分補給用のラムネを切らしてたところだ。もらっとくぜ………………ありがとよ」
    「は、はい!それじゃあこっちは……」

    ドトウがそそくさと机の上から失敗作を回収しようとする。
    だがそうはさせねェ。
    労力を割いて作ったモンを無駄にするのはコスパが悪ィ、コスパが悪ィのはオレの主義に反する。

    「待て。そいつも寄越せ」
    「いえ、これはその、失敗したので人に食べさせるような物では……」
    「今日は最後の追い込みだ。いつも以上にエネルギーを使うだろーからコレだけじゃ足りねェかもしれねェ」
    「わ、わかりました。でも、その……美味しくなかったら残してもらっても構いませんので……」
    「腹に入っちまえば一緒だ。さァて、朝飯食いにいくぞ」
    「は、はい!」

    ・・・・・・

  • 6◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 21:04:16

    トレーニングは無事に終わった。
    仕上がりは上々、計算通りだ。
    合間に食ったクッキーは普通に美味かった。
    失敗作も味は悪くなかった。
    クールダウンも終わったし、コンビニにラムネを買いに行くとすっか。
    …………ついでにドトウへの土産もな。
    借りはさっさと返すに限る。
    あとはアレがありゃいいんだが、さすがにわざわざ買うのもなァ。
    まあ今の時期なら誰かしら持ってンだろ。
    なんとか借りて済ますか。


    ・・・・・・

  • 7◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 21:06:36

    「トリック・オア……?」
    「は、はい……?」

    用事をさっさと済ますため、寮の部屋に帰ってすぐにドトウに問いかける。

    「トリック!オア!?」
    「えっ?な、なんですかぁ?」

    が、察しの悪ィコイツはなかなかキーワードを吐かねェ。

    「ト リ ッ ク ! オ ア ! ?」
    「ト、トリート!……で、いいんでしょうかぁ……?」

    「よォし!菓子をくれてやろう。ハッピーハロウィンってヤツだ」
    「いただいちゃってもいいんでしょうかぁ……?」
    「借りはさっさと返しておかねーと寝覚めが悪ィンだ。受け取っとけ」
    「はい!ありがとうございますぅ!」
    「ま、菓子はついでで本命はコッチなンだがな」
    「それは……ジャック・オ・ランタンとニンジンと、茶トラの猫さん……?」
    「……の形の付箋だ。オマエ、前にトレーナーにプレゼント渡すときも今朝と同じような失敗してたろ?」
    「は、はい……」
    「今度から紛らわしいモンを扱う時はこれを貼って見分けやすいようにしとけ」
    「なるほど、さすがシャカールさんです!」
    「ほれ、受け取れ」

    付箋を天井近くまで放り投げてドトウにパスする。

  • 8◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 21:09:20

    「わ、わっとっと!……ありがとうござ……」

    ドトウはそれを慌ててお手玉しながらキャッチし、そんでオレを見る。

    「ひぃぃぃぃぃ!!?ゾゾゾゾンビィ~!?!?」

    ハッ!期待通りの悲鳴が響く。
    ドトウが放り投げた付箋を追って視線を上に向けた隙に隠し持っていたゾンビのマスクをかぶっておいたのさ。
    我ながら見事なミスディレクションだぜ。

    「クククッ!サプライズってなァこうやるンだよ!トリック・アンド・トリートだァ!」
    「はぁ~~…………ビックリしましたぁ~!」

    フッ、想定通りに事が進むってのは気分がイイモンだ。
    ……あァ?隣の部屋がエラく騒がしいな……しかも足音がこっちに近付いてきてねェか?

    「どうしたんですか!?ドトウさん!!」
    「すごい悲鳴だったけど大丈夫!?」

    隣のマチカネ二人組がドトウの悲鳴を聞きつけて部屋に飛び込んできやがった!
    そんで当然オレを見る!

    「フンギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
    「ぎゃああああ!!ゾンビィィィ!!!」
    「うるせェッッ!!」

    チッ!これは想定外だぜ!オレとしたことが計算が甘かったか!?
    こりゃ寮長にコイツらの悲鳴が届いてねェことを祈るしかねェな……。

    おわり

  • 9二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 21:11:40

    おつ
    かわいい

  • 10◆hDzET1f/RE24/10/31(木) 21:11:45

    以上。
    ドトシャカ二人で夜に遊びに来るメトさんのおやつを用意してたりしないだろうか。
    してたらエモいな……と妄想する今日この頃。

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 21:43:15

    ほんわかした

  • 12二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 22:09:34

    ドトシャカはもっと流行れ

  • 13二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 01:50:49

    良きお話だった
    ただドトウのことだから、付箋を貼るのを忘れてしまったりつい落としてしまったりみたいなのが容易に想像できる。その度にシャカールが一緒に探してあげるんだろうな

  • 14二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 12:07:00

    >>9>>11

    ほのぼの日常系を目指して書いてますのでそういう評価をもらえるのは光栄であります。


    >>12

    至極同意。


    >>13

    ドジっ娘としっかり者のコンビいいよね……。

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