- 1グルーム24/11/01(金) 12:26:14
- 2グルーム24/11/01(金) 12:27:13
イロハ「それは、どのくらいの間?」
イブキ「イロハ先輩がシャーレの当番で、でも先生がいなかった日、あったよね」
イロハ「10日前ね。先生がトリニティの連続飛び降り事件に巻き込まれた日」
イブキ「あの日からずっと……」 - 3グルーム24/11/01(金) 12:27:54
サツキ「つらかったろうに……イブキちゃん、もっと早くに相談してくれていいのよ」
イブキ「うん……ごめんなさい、でも、イブキね」
イブキ「怖い夢のこと、誰かに話しちゃいけないんじゃないかって、そんな気がしたの」
イブキ「話したら……ひぐっ、その夢が……本当のことになっちゃう気がして……!」
マコト「ああ、泣くな泣くなイブキ。怖かったな……よしよし」
イブキ「う……ぐすっ、うん……」
マコト「よし、決めたぞ」
マコト「今日はこの執務室で当直だ。ベッドを手配しろ、今いる全員でイブキの安眠に努める。異論ないな」
イロハ・サツキ・チアキ「「「御意!」」」 - 4グルーム24/11/01(金) 12:33:22
――翌朝8:09 シャーレ事務室――
ヒナ「先生!」
先生『おはようヒナ――大丈夫?』
ノア「ヒナさん?どうされました?」
ヒナ「大変なの、万魔殿が――お願いします先生、来てください、すぐに!」 - 5グルーム24/11/01(金) 12:34:08
―同日11:16 ゲヘナ学園・万魔殿執務室―
事件は多く突然起きる。先のトリニティ連続飛び降り事件もまた、先ぶれはなかった。
しかし、今、いやな考えが頭の隅にちらついている。もしも、あの事件こそが先ぶれだったとしたら。
先生『これは――』
野心にまみれた万魔殿の喧騒は、今ここにはない。持ち込まれた5つのベッド、いかにも思い付きで片づけたように部屋の端へ追いやられたテーブルと椅子。テーブルの上に、置き場に困ったのだろうイブキのクレヨンと自由帳、おもちゃが所在なさげに並んでいる。
そしてベッドの中に、なじみの生徒の姿。
――――全員が、苦悶の表情を浮かべている。 - 6グルーム24/11/01(金) 12:35:58
マコト「う……イブ……手を……」
寝言。眉間には深く皺が刻まれている。
サツキ「にげ……もっと上……」
寝言。どうして、なぜこんなにも。
イロハ「だめです……街……山に火……」
寝言。まるで、全員が。
チアキ「海……もう波が……」
全員が、同じ夢をみているような――。
イブキ「怖いよ……起きられ……」 - 7グルーム24/11/01(金) 12:36:26
―14:23 ゲヘナ学園・救急医学部部室―
先生『セナ……どうかな』
セナ「外傷なし、呼吸と脈拍は、睡眠時にしてはかなりはげしいですが」
セナ「それ以外は、身体的には眠っているだけです。医学的には意識障害と判断します。」
先生『意識障害……』
セナ「先生がおっしゃるように、断続的に寝言の発言がありますね。まるで全員で同じ夢の中にいるようにも見受けられます。」
ヒナ「何か未知のオーパーツに接触したのかしら……突然5人ともこんな……」
セナ「オーパーツ……そうですね、その可能性も排除せずに、これから精密検査致します。」
先生『お願いねセナ。私は類似の事例がないか探してみる、シャーレのデータベースにアクセスしたいから、電源と作業スペースを借りられるかな』
ヒナ「私は不審なものが無いか、ゲヘナの校舎と学区全体を再度巡回して来る。何かあったらすぐに連絡して頂戴。」 - 8グルーム24/11/01(金) 12:38:31
――15:31 ?.??・??????――
冷たい風が頬を撫でるのを感じた。眼下に赤く燃える街が広がっていて――――
先生『あ、ああ―――』
遥か前方。海が、押し寄せてくる。
先生『なんで――』
知っている。知っている。この光景を私は知っている。だって。
私はみんなを×××にして自分だけ、この地獄から生き延びたのだから――。
イブキ「先生!!」
マコト「何してる!?早く逃げるぞ!」
瞬間。地獄を切り裂いて声が聞こえた。そうして思い出す。自分が【今】何者であるか。
先生『マコト!イブキ!!』
確かめるように、すがるように名前を呼ぶ。そして理屈の外側で、心が確信した。
――悪夢。これは、形ある悪い夢だ―― - 9グルーム24/11/01(金) 12:39:09
イブキ「マコト先輩あっちの山にも火が!」
マコト「くそ!どっちに逃げれば――」
――そしてここから、どうすればいいか私は――
先生『マコト!こっちへ!』
マコト「先生!?」
道がわかるのかと問うマコト。間髪入れずにうなずいて見せる。知っている。忘れられなくて、何度も夢に見た逃げ道。
先生『ここは、知ってる場所なんだ』 - 10グルーム24/11/01(金) 12:40:03
――??:?? ???? ??????――
マコト「大丈夫かイブキ?」
イブキ「うう、ひっぐ、怖い、怖いよぉ」
先生『大丈夫だよ。もうここまでは火も波も来ないからね』
走ること数分。どうにか私たちは目的地に到着した。
日が沈むと、燃え盛る街と赤く照らされた黒煙が、海辺の町を二色で染め上げていく。
高台の公園。そう、あの日私はここまで逃げていた。誰一人助けないで。自分、一人だけ。
イロハ「マコト先輩!イブキ!――先生も!?」
サツキ「みんな!ケガしてない!?」
チアキ「よかったあ……私たち、いったいどうしちゃったの……!?」
三人の声にはっと我に返った。
先生『みんな!よかった……私たちは平気、三人は?』
三人がそれぞれ無傷なことを確認して、家々を喰らって燃え続ける禍々しい灯りの元、万魔殿の生徒たちを公園のベンチに座らせる、チアキが再び、この状況がどういうことなのか困惑した顔で言う。同時にマコトとイブキから視線を感じた。深呼吸を一つして、覚悟を決めて口を開く。 - 11グルーム24/11/01(金) 12:40:37
先生『……みんな聞いたことあるかな……外の世界で起きた災害の話』
私がまだ学生だった頃の話。その日の昼下がりに、突然、世界が壊れた。地は裂け、海は空にまで届くほどの海嘯になって街と人を飲み込んだ。押し流された車からガソリンが漏れて瓦礫の出すわずかな火花で次々に燃え上がった。天変地異の前に火を消そうとする手があろうはずもなく、町と、町に接する山々は瞬く間に業火に沈んでいったのだ。
イロハ「――ここは、先生の生まれた町だったんですね」
チアキ「かつての災害の、追体験――」
先生『うん、間違っていなければ、あの日の出来事がそのままここで繰り返されている……私たちはあの日の災害という悪夢の中に入ってしまったんだ』
痛いほどの沈黙が訪れた。私はこれがなんなのかは知っている。けれど、私は肝心の答えを持っていない。どうすればここから抜けられるのか、を。 - 12グルーム24/11/01(金) 12:41:14
イブキ「イブキのせいだ……」
震えた声でイブキがつぶやく。
イブキ「イブキが夢のことをみんなに話したから、だからみんなここに来ちゃったんだ……!」
呆然と自分の肩を抱いてぶるぶる震えながら、イブキは大粒の涙をこぼす。すかさずイロハがイブキを抱きしめた。
イロハ「自分を責めないで。こうなったのはここにいる誰の責任でもありません」
サツキ「うん、そうよ、イブキちゃんは何も悪くない。だからそんなことは今は考えないで。今は――」
チアキ「この悪夢からゲヘナへ帰る。イブキちゃん。今はそれだけ考えよう?」
イブキ「うん……うん」
励まされたイブキが顔を上げると、マコトがその涙をそっと拭った。
マコト「……先生。話を聞いていて思ったことがある。」 - 13グルーム24/11/01(金) 12:41:52
眼下に広がる炎の揺らめきを睨みながらマコトが言う。瞳に炎が映り込んで、心なしか赤く光って見える。
マコト「ここは現実じゃないんだろう?先生の記憶から作り出されたただの夢、恐ろしくタチが悪いが、これはあくまで夢だ。」
マコト「なら――これは《上書き》できるんじゃないのか」
先生『上書き……?』
マコト「ああ。うまく言えなくてすまないが、夢を夢と認識した今なら、私たち全員でこの夢の壁を突破できる。そんな気がする。」
イブキ「……夢の中でこれは夢ってわかったら、あとは思い通りにできる……?」
先生『そうか……!』
そうだ。経験がないわけではない。ごくまれに、夢の中で自覚する。これは夢だと。そのあとは空を飛ぶこともできるし、海の底を歩くこともできる。なら、この悪夢からも。 - 14グルーム24/11/01(金) 12:42:35
先生『……丸を描くんだ。みんなが入れる大きさの!』
靴の踵で地面を削る。砂が払われて堅い地面が顔を出し、それは少しずつ長く線になっていく。
イロハ「どうするんですか!?」
先生『魔法陣だと思って!この丸の中に入って、みんなで一斉にジャンプするんだ!ジャンプと同時に瞬間移動して、みんなゲヘナに帰れる!』
サツキ「本当に帰れるの!?」
チアキ「帰れるって強く思うんです!ここは夢だから、私たちの《もしも》のほうが強ければ思った通りにできる!」
チアキとサツキもはじかれた様に立ち上がる。みんなで地面をえぐり、線をつないで、それはごく簡単な円になる。五人で肩を組み、イブキはマコトが肩車をして――
先生『いくよ!さん、に、いち――』 - 15グルーム24/11/01(金) 12:43:16
――19:22 ゲヘナ学園・救急医学部部室――
先生『はっ、――!』
イブキ「先生!よかった……!」
目が覚める。と同時にほとんど体当たりするような勢いで、イブキが抱き着いてきた。ここが夢でないことを確かめるように抱きしめ返す。知らなかった。子供一人分の重さがこんなにも安心するものだなんて。
マコト「キキッ、一時はどうなることかと思ったな」
普段の不敵な笑みを幾分取り戻したマコトが、そう言って一つ息をついた。
サツキ「みんな……夢じゃないよね、こっちは夢じゃないよね……」
イロハ「はい。サツキ先輩も私たちも、みんな戻ってこれたんです」
チアキ「よかった……よかったあ……」 - 16グルーム24/11/01(金) 12:43:41
「そうして。ゲヘナ学園の万魔殿一同は、無事に日常へと戻れたのでした。めでたし、めでたし。」
誰の声なのか。燃え盛る街の中を、悠然と歩く人影がひとり。そして夢であるからには、どれほどの大火であろうと、彼女の銀の髪一本焦がすことはできない。
「さあ、次は何のお話にしましょう?」
炎の揺らめきが純白のジャケットを照らす。赤と黒に沈み切った夜の街で、その姿はどこまでも白く、決してその地獄には溶け込まず、異物であり続ける。
――A man in the wilderness Asked this of me,
"How many strawberries Grow in the sea?"――
歌う、歌う。口の端には笑み。しかしその瞳だけは、どんな光も宿してはいない。
「楽しみですね、先生?」
彼女は、生塩ノアは。かりそめの地獄の空を仰ぐ。おどけるようにくるりと回って。そしてその姿は、瞬間どこにも見えなくなった。
赤熱凶夢 了 - 17二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 12:47:09
これは一体…?
- 18グルーム24/11/01(金) 12:47:23
終わりです。ホラーっぽいものが書きたかったですがなんかサクッと解決してしまった。
悪夢って鉄板ネタですよね。読んでいただきありがとうございました。 - 19二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 15:29:32
災害の正体は地震なのでは?と思ってしまった。
- 20二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 15:31:27
スレ画は真ん中が主に表示されるから(正方形の場合)真ん中に置かないと見えないぞ
- 21グルーム24/11/01(金) 16:19:31
- 22二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 18:02:01
正方形ならまだ見えるんだけど長方形だと両端が切り捨てられるのよね……
- 23二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 00:59:30
なぜ生塩ノアなんだ