- 1二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 10:37:05
- 2二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 10:48:34
「ふはははは!この我(オレ)を呼ぶとは運を使い果たしたな雑種!」
不躾な手によってかりそめの肉体へ魂をねじ込まれる不快な感覚に、英雄王は思わず口角を吊り上げた。
果たして人の身でありながら自分を召喚するという不敬を犯した道化はどこの誰だと視線を落とす。
雑種はそこにいた。赤茶けた髪で、つまらない目つきをした痩せた少年だった。血で描かれた召喚用と思しき魔方陣には、切り落とされた手首が転がっている。
まさか本気で召喚するつもりはなかったのか、死んで時間のたった魚のような目を見開いて呆然と佇んでいたが、我に返ったようで深々と平伏する。
「召喚に応じていただき感謝いたします、偉大なる英雄王」
「ウム。殊勝な心掛けよな」
汚物を除けるように片足で手首を蹴り転がした英雄王は「部屋を片付けた後、止血をしておけ。召喚しておいて血を失い死ぬなど道化の片隅にも置けぬぞ」と言いつけておいた。
それから部屋を見て回る。どうやら自分が召喚されたのは、部屋が風呂と便所を足しても四つしかない簡素な丸太小屋のようだ。家具も寝具も、およそ王を出迎えるに相応しくない質素さだったが、手入れは行き届いている。 - 3二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 10:55:20
「して?理由を問うてやろう。貴様は如何なわけを以てして我を呼んだ」
いつの間に片づけを終えたのか、手首に包帯を巻いて戻ってきた雑種に聞いた。
もしもこれが、復讐だの魔術の発展だの、最古の英雄を召喚するに値しないようなつまらない理由だったら座に帰ろうと考えていた。当然、自らを召喚した不敬者を血祭りにあげてから。
赤茶けた髪をした痩せた少年は、再び地面に伏せると床に額をこすりつけた。
そして言う。
「殺してください」
英雄王の、ギルガメッシュの整った眉がぴくりと動いた。
「僕を苦しめて苦しめてから殺してください」
ギルガメッシュは黙って彼を見下ろした。
瞳が光る。
そして、「成る程、そういうことか」とひとりごちた。 - 4二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:02:54
翌日。
ギルガメッシュはコーヒー豆を挽いていた。
雑種の文化に染まるなど笑える話だが、英雄王の柔軟さは広く知れ渡っている。天才であるがゆえになんでもこなしてしまえるというのは、彼の数少ない悩みだった。
トースターからキツネ色の食パンが飛び出して、香ばしい湯気を上げる。
朝食はトーストにハムエッグ、サラダにコーヒー。涙が出るほど簡単なものだ。何ごとも派手を好むギルガメッシュであったが、過剰な豪華は愚かしさの証であるとも自認していた(まあ彼目線の勘定だが!)。なので、こういう質素さも自らが作り出すのであれば割と平気な男だった。
二人前用意したそれをテーブルに並べ、時計を見上げて舌打ちする。まだ起きてこないのか、雑種の癖に生意気な。 - 5二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:10:20
仕方なしに部屋に出向くという王にあるまじき献身を見せて、彼は盛り上がった布団を揺さぶった。
それでも起きてこないので、宝物庫から出した水バケツをひっくり返す。
ザバッ!!と冷えた水が布団にぶちまけられ、「ぐおおっ」とくぐもった声が上がる。
「フン、目覚めているのなら起きればよいのだ。この我に手をかけさせるな」
「・・・・それはすみませんね」
「なんだ?文句があるのならはっきりと言え。許す。この我は道化の戯言にいちいち目くじらを吊り上げる狭器の王ではないぞ」
「別に何も」
言ってる割には不満そうな顔をした彼女はクローゼットに向かい、濡れたパジャマを脱いだ。
一見すると男にも見えるような痩せぎすの体を見ながら、ギルガメッシュは「寝間着は自分で洗え」と言って部屋から去った。 - 6二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:19:26
それから二人で朝食を摂った。ギルガメッシュは食器を使って優雅に食べた。彼女はこの場に居たくないとでも言いたげな顔で手早く平らげ、「畑を耕してきます」と早口に告げて部屋から出ていこうとした。
「待て。貴様は使った食器も洗わず放置するような不潔な雑種か?」
なんの反論もできない正論だった。彼女は渋い顔をして洗い場に立った。
▼
彼女はのたのたした動きで鍬を振り下ろし、畑というにはあまりに小さくて粗雑な掘り起こされた土の跡を掘り返していた。
ギルガメッシュは退屈そうにそれを見つめていたが、やがて着替え、黄金の乗り物に乗ってどこかへと飛んでいった。
片手で種を撒き、水を撒いて、切り株に座って畑の様子を眺める。
そのうち昼になった。その時間帯はギルガメッシュがいなかったので、焼いてないパンに薬という、質素な昼食を摂った。 - 7二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:29:05
それから家の整備をした。まだ片手が残っていた頃建てた丸太小屋は何度も何度も補修したおかげで頑丈になり、今ではどこに出しても恥ずかしくない立派な我が家だ。
部屋を掃除して、洗濯ものを干して、案の定彼女の仕事は日が出ているうちに終わってしまった。
おもむろに台所に向かった彼女は、引き出しから包丁を取り出すとそれで首筋を掻っ切った。
脈動の度に血が噴き出して、流し台を真っ赤に染めていく。
彼女はふらりと崩れ落ちて、流し台にもたれかかる形で気絶した。
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何か納得した顔で戻って来たギルガメッシュは、台所の惨状を見るや心底うんざりしてため息をついた。
「いつまで死んだふりをしておる、雑種」
青ざめた顔で横たわっていた少女が、ぴくりと瞼を震わせた。
「ふむ・・・」
ムクと起き上がる。
「やはり、だめですね」 - 8二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:38:51
「自分で不可能と判っているのならくだらん真似をするな。汚し物ばかり増やしおって。赤子か、貴様は」
それ以外にもぶつぶつ小言を口にしながら、英雄王は金粉が輝く小瓶を取り出して栓を抜いた。
あふれる泡が、血みどろの流しを浄化していく。
「今すぐ風呂に入って身を清めよ。まったく臭くてかなわん」
彼女はぼんやりとそれを聞いていたが、ギルガメッシュに睨みつけられると操り人形のように風呂場へ向かった。
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「雑種」
夜風に吹かれていた彼女は振り向いた。
ナイトガウンを着たギルガメッシュの髪は月夜に煌めいて、溶けた金のようだ。
「我が領地を見て回ったが、貴様以外に人はいなかったぞ」
彼女は黙ったままほほえんだ。
「あるのは白骨。白骨ばかりだ。斬られ、潰され、引き抜かれ、折られ、そのような白骨しかない。この英雄王の到来だと言うに、出迎えるモノ全てがしゃれこうべでは呆れかえって物も言えぬ」
彼女のほほえみは崩れない。
「──・・・貴様、何を隠している?」
口を開く。
「分かってるくせに」 - 9二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:44:59
▼
翌日。
今度は彼女が台所に立った。
不器用な手で釣った魚を捌き、それを煮込んだ水に塩を落として野菜も刻み入れる。
トースターからパンが飛び出して、焦げた湯気を放った。
彼女はスープを器に盛り、こぼしそうになりながら一つずつギルガメッシュの下に運んだ。
挨拶もそこそこに匙を取ったギルガメッシュは、匙を口に含むなり苦虫をかみつぶした顔になった。
「不味い」
「そうですか」
「泥を水で薄めた方がまだましな味だな」
「そうですか」
彼女はもくもくと匙を進めている。
ギルガメッシュはまたため息をついて、スープを平らげた。焦げてないところが無いパンも食べた。 - 10二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:52:09
その後、彼女の姿が見えないので探したところ、彼女はなぜか空瓶を伴って沢釣りをしていた。
よく見ると、水面に薬粒が浮いている。
「おい、不法投棄雑種」
「ここは僕の土地ですから不法にはなりませんよ」
「釣りをするのならマナーを守らんか」
「ああ、すいませんね」
ギルガメッシュは黄金の椅子を顕現させてそこに座り、冷たいルビーの目で少女を見下ろした。
「何を隠している?」
「我が王には言うまでもないことです」
「雑種の分際で我を煩わせる気か」
ギルガメッシュがわずかに殺気を放った。釣り餌に食いつきそうだった魚が、怯えて逃げ出した。
「風情の無い人ですね」彼女は呟いて、遠いものを見る目をする。 - 11二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:57:45
「・・・それは、世界をよりよくしようとした人のもたらした祝福です」
まるで、古いおとぎ話を語るような淡々とした口調で。
「とある魔術師のがんばりで、人々は神になりました。死から解放されたみんなはとても喜んで、争いはやめようと手を取り合いました。誰も彼もが不老不死を楽しんで、誰も彼もが不老不死に飽きて、そのうち誰も彼もが死を望むようになりました」
ピンク色の浮きが一瞬沈んで、また浮き上がった。
「ある日、誰かがこう言いました。『それじゃあぼくらを死なせてくれる誰かを作ろう。その子に全てを任せよう』。そうして僕は生み出されました」
ギルガメッシュは黙っている。
「僕がどうやって生まれたのか、恐ろしくて聞けませんでした。フジマルなんたらの胎盤がどうだとか、脳味噌をこうだとか、培養槽の中で覚えている言葉はみんな怖くて、思い出すだけでも体が震えるからです」
ギルガメッシュは黙っている。 - 12二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 12:04:20
「僕にはある英雄の魂が混ぜ込まれています。この世で最も恐ろしい、殺すことしかできない、世界で一番新しい英雄の魂が」
彼女はそう言って、竿を持つ自らの腕に目をやった。
刺青が生きているようにうねうねと蠢く腕を。
「僕は殺すことしか教わりませんでした。言うことを聞かなければ寝床も食事も融通してもらえませんでしたから。斬って殺すすべを、潰して殺すすべを、引き抜いて殺すすべを、折って殺すすべを学びました」
ギルガメッシュは黙っている。
「ずいぶん殺しました。ただ幸いだったのは、誰も抵抗してこなかったことでしょうかね。みんな死にたかったらしいです」
釣れないことに焦れたのか、彼女は釣竿を引き上げて片付けた。 - 13二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 12:10:05
「偉い人たちから殺すように言い渡された人たちを殺して回ったあと、僕はみんなのところに戻りました。でも駄目でした。褒められたいって考えたのがいけなかったんでしょうね。誰もいませんでした」
「宇宙船の飛び立った痕跡があった」
ようやくギルガメッシュは口を開く気になったようだ。
「笑える話だ。人理のために粉骨砕身働いたあの雑種の末路が、あれが守った雑種どもによって骨を粉にされ、身を砕かれ、都合の良い神の胎盤にされるとはな」
「手厳しい人だ。・・・ええ、もぬけの殻になった部屋を見た時は、しばらくの間笑いが止まりませんでしたよ。殺してほしいと懇願してきた人たちは、あと少しで終われるってところでみんな怖くなって逃げ出したんですから」
彼女は乾いた声で笑った。
「これはただそれだけの話なんです。世界で誰よりも人を殺した女の子孫が、世界でたった一人の人間になって在り続けるなんて面白いでしょう?」
まるで、「そうだと言ってくれ」と懇願しているような響きだった。 - 14二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 12:18:18
昼間はここまで。あとSS注意付けるの忘れたごめん
- 15二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 12:25:43
- 16建て主24/11/02(土) 21:02:57
ごめん!ちょっとごたごたがあって今は描くの難しい
明日書くよー - 17二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 07:52:14
保守
- 18二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 17:49:16
ほしゅ
- 19二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 21:03:50
「だから僕はいつ死んでも平気なんです。悲しむ人は誰もいませんからね」
ギルガメッシュは川を見て、空を見て、「雑種と気が合うとはな」と言った。
川はいつも通り流れている。 - 20二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 08:33:33
ほしゅ
- 21二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 18:25:13
朝になった。
彼女はいつも通り朝食を食べて畑を耕しに出かけた。
ギルガメッシュはコーヒーを飲んでしばらく物思いにふけっていたが、いつもの時間を過ぎても彼女が戻ってこないために畑に出た。
彼女は倒れていた。助け起こすと、体が氷室のように冷たかった。 - 22二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 21:14:45
ほしゅ
- 23二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 08:07:10
ほしゅ