- 1二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 17:52:48
- 2124/11/02(土) 17:54:12
作戦は失敗した。
発掘作業中の人員をミユが狙撃し、慌てている隙にサキが切り込む予定だったが、最初の一歩で躓いてはどうしようもない。少数精鋭の悪いところだ。
……精鋭、か。
「ミユ」
私はミユのためにリンゴを剥いている。
「あんな傾きかけのビル、いつ倒れてもおかしくなかった。わかっていたのに、言い出せなかった」
「モエちゃん……」
射線が通りやすく、敵の目はオーパーツが埋まった地面に向いている。ミユの選択は合理的で、理にかなったものだった。だから信じた。
でも、それは右ならえをしただけでしかなかったのかもしれない。
「私たちは少人数だからこそ、10倍……いや、100倍は頭を使って、リスクを考えないといけなかったんだ。作戦区域から一歩離れた位置で俯瞰できる私は、特に……」
「モエちゃんは、悪くないと思う」
ミユは擦り傷だらけの顔を、こちらに向ける。
「落ちたのは地震のせいで、踏まれたのは私のミスだから」
「でも……」
「運が悪かったの。だから、仕方ないよ」 - 3二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 17:55:01
応援してるよ
続けて - 4124/11/02(土) 17:55:27
ミユは誰よりも傷ついた姿で、健気に微笑んでいる。
赤い瞳が、弱々しく揺れ動く。視線の置き場に迷っているのだろう。
私は大人しく、自罰を胸の奥にしまう。
「わかった。反省はこれくらいにするよ」
うさぎの形に切ったリンゴを、皿の上に置く。
ついでに、自分でひとつ食べる。
「甘い! 糖分たっぷりで脳が冴えるねえ!」
「わあ……かわいい……」
しばらく歓談した後、私たちは別れる。
身を粉にして働いていれば、たまには怪我をすることもあるだろう。帰り道を歩く頃には、私はもう吹っ切れていた。 - 5124/11/02(土) 17:56:40
そうして、半月ほど経った。
失敗の後始末は、先生がしてくれている。ビナーとかいうデカブツが掘った穴が地下水と繋がり、長い間地層の中に埋まっていたオーパーツが流されてきたのが、事件の発端らしい。ビルの倒壊も、それが原因だろう。
まあ、それはともかく。
いよいよミユが退院できることになった。
「やれやれ。また数少ない弁当を奪い合う日々が始まるね」
私が冗談めかして肩をすくめると、サキが目を細めてからかってくる。
「ミユがいなくて一番寂しそうにしてたのはモエだろう?」
「えっ?」
寂しそう? 私が?
病室でひとりぼっちのミユはともかく、私が寂しそうだなんて、そんなわけ……。
「こないだなんて傑作だったぞ。カレーを4人分で作って……」
「それはただのうっかりだし」
「隠し味のリンゴはどうしたって聞いたら、ミユにあげちゃった、なんて」
「それも仕方ないし。だいたい、よそのご家庭のあまりものをかき集めて突っ込んだ闇カレーに隠し味だなんて、悪あがきにしかならないでしょ……」
思わず早口になる私を見て、ミヤコが笑っている。
「次も4人分、お願いします」
「ああ、もう!」
当分はこれでからかわれるのだろう。嫌だなあ。
ミユが帰ってきてくれたら、止めてくれるだろうに。 - 6124/11/02(土) 17:58:24
一方。
霞沢ミユは、病室から窓の外を眺めていた。
「みんな……」
病室は居心地が悪い。真っ白な壁と真っ白な布で覆われて、身綺麗にされ続ける。まるでショーケースに入れられたような気分だ。
窓に目を向ければ、遠くまでよく見える。ゴミ箱の中から外を見るように、病室という安全地帯から世界を見る。壁をじっと見つめるより、この方が心地よい。
「あっ。あの石、いいかも……」
普通の石。割れやすいわけでも尖っているわけでもない、名前のない石。
そんな石を見つけて、ミユは暖かい気持ちになる。
「迎えに行きたいな……」
病室を出てからの予定がひとつ決まり、ミユは嬉しくなる。
しかし、次の瞬間……石は無惨にも砕け散る。
「えっ」
遅れて、音と爆風。
遠く彼方で、何かが炸裂したようだ。小石では耐えられないほどの振動が、辺りを駆け巡る。
「ハーッハッハッハ! 秘宝、それすなわち温泉なり! さあ、眠れる竜を起こしに行こう!」
地下水の噂を聞きつけて、温泉開発部が発破を仕掛けたのだ。 - 7124/11/02(土) 18:00:29
ありがとうございます。
- 8124/11/02(土) 18:01:03
ミユは銃を手に取る。
銃は自分の一部だ。小隊員として唯一誇れる特技だ。当然、病室にも連れ込んでいる。ビルから落ちた時にも、踏みつけられた時にも、決して手放さなかった。
ミユは病室の窓から様子を見る。
狙撃の必要があるかどうか。
「!」
ミユの優れた視力が、混沌とした現場を捉える。
仮面をした女性が、温泉開発部の者たちを薙ぎ払っている。
災厄の狐だ。先輩達の活躍と共に、噂はミユの耳に届いている。
「この地に眠るオーパーツ……。その正体は、恋の秘薬だと伺っています」
「ほほう! それがこの温泉の効能かね!」
「いいえ。……どうやら話の通じないお方のようですね。この地の全てを、渡してもらいましょうか」
「ううむ……。ずいぶんと苛烈なことで」
案の定、激しい戦いになった。
温泉開発部の部長と思われる少女は、巧みに逃げ回りながら指示を飛ばしている。災厄の狐は、群がる相手を撫でるように撃ち倒しながら、首魁を追い続ける。
逃げる部長に、追う狐。被害は広がるばかりだ。
巻き込まれた市民たちが、荷物を捨てて逃げ出している。火災が発生し、誰かの財産が燃えている。
「止めないと」
ミユは意を決して、銃口を向ける。 - 9124/11/02(土) 18:02:15
通常、狙撃手は頻繁に居場所を変える。位置を特定されたら、反撃が飛んでくるからだ。隠密による確実な仕事こそ、狙撃の本懐。
しかし、今はこの病室から離れる手段はない。首魁に狙われたら、お陀仏だ。
「危ない人たちは、刺激しないように……」
まず、ミユは市民の避難を助けることにする。
暴れる者を撃ち、ヴァルキューレを援護する。温泉開発部の車両を撃ち、パンクさせる。
見える範囲でできることは、これくらいだ。
「大丈夫かな……」
石ころのように動けない自分を、今だけはもどかしく思う。
ミユは銃を抱きしめながら、見守る。
すると、手駒の減った部長は、恐るべき手段に打って出る。
「うむ。予定通りとはいかなかったか。だが、これだけ掘れば問題あるまい」
硝煙に塗れた災厄の狐を前にして、話術で時間を稼いでいる。彼女もまた、お伽話の悪い狐のような立ち振る舞いだ。 - 10124/11/02(土) 18:04:02
「狐のお嬢さん。君の目的はこの世界のイースターエッグ……すなわち、オーパーツだろう? その細腕では、掘り出すのに苦労するはずだ」
「もう少しのところまで来ているのでしょう? 問題ないと思ったのですが」
「我々の目的は温泉だ。茹った温泉卵は、君にくれてやってもいい。ヴァルキューレの邪魔が入った今、互いの目的のために手を取り合おうじゃないか」
「……ふふふ。案外、話のわかる方ですね。少しだけ、みくびっていました」
2人は手を組んで、更に激しく暴れ始める。
今度は治安維持のために駆けつけた者たちを相手に。 - 11124/11/02(土) 18:05:58
「あ……」
公安局長の姿が見え、ミユの中に焦りが生じる。
事態が大きくなるばかり。どれほどの数で囲んでも、きっとあの2人は逃げおおせるだろう。
こんな時こそ、狙撃するしか……。
「あれだ」
ミユの視力でもギリギリのところに、爆薬が積まれている。発掘のために使う予定だろう。
箱に見覚えがある。以前モエに見せてもらったのだ。強力な割に安価な、粗悪品。管理を怠ればすぐに暴発する危険物。数を揃えるには、あれしか選択肢がなかったのだろう。
「台無しにすれば、掘れなくなる……。きっと、これ以上戦わなくて済むはず」
ミユは戦場の細かな動きを観察する。
公安局長の到着により、ヴァルキューレたちが統率の取れた動きを始めている。避難誘導が終わり、初期対応に当たっていた人員を回収し、盾を持った戦力で首魁を取り囲んでいるところだ。
これから大規模攻勢に出る予兆。市民が包囲の内部にいないことは確認済みなのだろう。今なら、爆破しても被害は出ない。
「私が、やるしか……!」 - 12124/11/02(土) 18:08:25
病室の窓から、ミユは銃を伸ばす。
さっきまでの射撃で、すっかり勘を取り戻している。風もない。当てられる。
「…………!」
ミユは破砕された石ころの恨みと共に、銃を撃つ。
着弾。
危険物を包む箱に穴が空き、銃弾によって火花が散る。
普通の厳重に管理された爆弾なら、それだけでは暴発に至らない。しかし、予期せぬ交戦によって砂や地下水や油に曝された結果、この爆弾は普通ではなくなっていた。
「ん?」
異音に部長が反応した直後。
ミユでなくとも目に入るほど、凄まじい爆風が噴き上がる。
内側にはリンゴのような赤色。外側には綿飴のように膨れる黒色。舞い散る砂塵は、なんだかモエの髪色に似ているかもしれない。
あれこそが、モエがこよなく愛する、破滅の姿。
美しい。ミユはその道の愛好家ではないものの、今だけは彼女の気持ちを理解できる気がする。 - 13124/11/02(土) 18:10:41
「モエちゃん、見てるかな……」
しかし、破滅の美に気を取られたのも束の間。
「うっ」
ミユの胸に、違和感が生まれる。
服の内側に棘でもあったのだろうか。そう思って、撫でてみると……。
「あっ」
ミユはすぐに察した。爆風に乗り、凄まじい勢いで何かが飛んできたのだ。それこそ、天文学的な確率で。
ミユの認識から少し遅れて、出血が始まる。
「あっ、あっ……」
止血を試みる。だが、予想以上に傷が深いらしい。意識が遠のいていく。
「あ、ああ……」
ミユは胸いっぱいの後悔と共に、以前金庫の扉をうっかり閉めてしまったことを思い出す。ヴァルキューレに忍び込んだ時のことだ。
さっきまでヴァルキューレの制服を見ていたせいなのか、それとも後悔の念に釣られて出てきたのか。
……走馬灯とは、こうして生まれるものなのだろう。
「みんな、ごめん。モエちゃん……ごめん……」
広がっていく血溜まりを呆然と眺めながら、ミユは人生最後の無念を噛み締めていた。 - 14124/11/02(土) 18:13:15
ミユがいる病院に駆けつけた私は、手に持った飴を取り落とす。
「んなっ……!?」
温泉開発部と災厄の狐による、未曾有のテロ。それによる被害者が、近隣の病院に押し寄せることが予想されていた。
当然、ミユが入院しているここも、ごった返していると思っていた。
でも、ミユの病室までたどり着けなくて。代わりに、看護師から予想外のことを聞かされた。
「霞沢さんは現在、集中治療室にいます。原因は不明ですが、外傷によるものと思われる出血が……」
膝から崩れ落ちる。
新しい怪我。テロに巻き込まれた?
「どう、して」
私は胸の奥に痛みを覚える。心臓が爆発しそうなほど音を立てている。ショックで気を失いそうだ。
でも、ここで私が倒れるわけにはいかない。事情を聞かなくては。外でミヤコとサキが避難者たちを宥めているのに、私だけ足を引っ張るわけには……。 - 15124/11/02(土) 18:14:55
私はすぐに立ち上がり、心配そうな看護師さんの話を聞く。
「霞沢さんの銃に、使用された形跡があります。高所ですのでありえないとは思いますが、窓から不審者が侵入した可能性があるので、SRTの方々に……」
私はミヤコとサキに連絡し、すぐさま仕事に取り掛かる。
ミユと話したいことが山ほどある。新しい武器が手に入りそうとか、ミユが使っていたスペースに物を置いてしまったとか……。
寂しがりと言われても、構わない。
ミユが隣にいない生活は、もう嫌だ。 - 16124/11/02(土) 18:17:00
ミヤコたちの見回りでも、不審者は見つからなかった。
プライバシーを考慮して病室には防犯カメラがなかったものの、廊下や外には十分すぎるほどあった。しかし、見える範囲の情報では、怪しいものは見当たらなかった。
結論としては、ミユが倒れた原因は不明と言わざるを得ない。
私たちが頭を抱える中、あるヴァルキューレの生徒がおずおずと申し出る。
「実は、誰かに助けられた気がするという人がたくさんいて……」
どうやらミユは、窓からの狙撃で人助けをしていたらしい。大規模なテロだからこそ、放っておけなかったんだ。
ミユは正しいことをした。そのはずなのに。
感謝の言葉を聞けば聞くほど、熱い涙が溢れてくる。
「ミユが死んだら、私は……!」
傷つくことを恐れていては、戦えない。だとしても、こんなのはあんまりだ。理不尽だ。納得がいかない。ミユほど健気で努力している隊員が、こんなにもあっさりと死んでいいはずがない。
私は柄にもなく天に祈りながら、日々を過ごす。
ミヤコもサキも、病院から離れていない。当たり前だ。大切な友が死にかけているんだ。 - 17124/11/02(土) 18:19:36
そうして、3日が過ぎた頃。
私たちは先生と共に、医師から詳しい事情を聞く。
「存在が噂されていた、オーパーツです」
テロの終結間際に起きたという、大爆発。それに乗って、窓の外から飛び込んできたらしい。
金色のハート型。指先に乗るほどの、ちっぽけな代物。恋を成就させる効果があると噂されているものの、真偽は不明。
“みんな。お疲れ様”
先生は私たちの顔色を見て、告げる。
“少し、休んだほうがいいよ”
よっぽど酷い顔をしていたのだろう。先生だって、心なしかやつれている。
私たちはお言葉に甘えて、身を寄せ合って睡眠を取ることにした。
ひとり少ないだけで、おしくらまんじゅうにずいぶんと大きな隙間が空くものだ。……寂しいなあ。 - 18124/11/02(土) 18:20:44
何日も何日も経って、病院から人が減って、街の再建が進み始めた頃。
未だ面会謝絶が続くミユを案じて、私たちは交代で病院に顔を出していた。
今日は私の番だ。……いや、今日もと言うべきか。3人の中で、私が一番会いにくる頻度が多い。病院にいても、遠隔で仕事ができるから。
今日も病院の空き部屋を借りる。すっかり宿直の職員みたいな扱いだ。
ミユがいる部屋の方を向いて、ミユの写真を枕に入れて、ミユのことを考えながら眠りに落ちる。 - 19124/11/02(土) 18:22:08
「ん?」
気がつくと、ミユがそこにいた。
暗闇の中で、ぼうっと立っている。いつもは存在感がまるでないのに、今回はやけに強い圧が感じられる。
「いるわけがない」
まぼろし。よくある怪談のたぐい。病院にいるというストレスが生み出す幻覚だ。
そういう話を聞くだけなら嫌いじゃないけど、自分の身に起きると、不愉快だ。ミユが死んで枕元に立ったみたいで、不吉が過ぎる。ミユは生きている。絶対に。
幻覚のミユは異様に赤い顔をこちらに向けて、縋るように覗き込む。
「だいすき」
ぴっとりと、おでこをつけてくる。
熱があるのだろうか。異様に高い体温が伝わってくる。息も深く、しっとりとしている。
丸い瞳が、うるうると輝いている。胸に飾りたくなるほど綺麗な赤色だ。まるで宝石……いや、もっと生物的で生き生きとした色。そう、収穫したばかりのリンゴのように艶めいている。 - 20124/11/02(土) 18:24:45
「だいすき……」
ミユは何度か頬擦りしてから、私に唇を重ねてくる。
柔らかい唇の奥に、生温かい血の味がする。明らかに人の血だとわかるのに、異様に甘い。キャンディに慣れた私の味覚がとても美味しいと感じているのが、むしろ恐ろしい。
……夢じゃない。そう確信して、飛び起きる。
「本物!?」
ナースコールを押しながら、明かりをつける。
夢にまで見たミユが、そこにいる。宵闇のまぼろしではなかった。
ミユは柳の下の幽霊のように長い黒髪を垂らしたまま、こちらに歩み寄ってくる。 - 21124/11/02(土) 18:27:41
「モエのこと、ずっと想ってた。破滅のこと、ずっと考えてた」
浮ついた声。酔っ払ったような足取り。間違いなく、無事ではない。まだ安静にしているべきだ。
なのに、私の胸の奥底は、もう少しミユを見ていたいと叫んでいる。生きているミユを、目の奥に焼き付けたいと願っている。
ミユを、二度と失いたくない。
「目の奥に、すごい炎が焼き付いて……綺麗だった。今も瞼の裏にあるの。はっきりと、そこに」
「奇遇だね、ミユ。私も似たようなことを……えっと、そうじゃなくて……」
なんと声をかけたらいいのか、わからない。
わからないまま、私は病室の隅まで追い詰められる。 - 22124/11/02(土) 18:30:07
「モエ。だいすき。モエのだいすきな破滅、おしえて」
「わ、私も大好きだよ。だから、今は冷静に……」
「うれしい!」
ミユは私に抱きついてくる。
はしゃいでいる。いつになく、眩しい笑顔。不安なんか何ひとつなさそうな、ミユらしくない表情。
でも、そんな笑顔を見て、私も安心してしまう。ミユが苦しそうにしているより、よっぽどいいかなって。
私はミユを撫でて、優しく腕で抱きしめて、拘束する。
「ミユ。ずっと、そばにいてほしい」
「うん。ずっと、いっしょ……」
真っ赤に染まったミユの眼光。恐ろしいとさえ思ってしまうほど、狂気に満ち溢れた瞳。
ミユの身に何かがあったことは、間違いない。明らかに正気ではない。だけど、心地よく感じてしまう。受け入れてしまう。
ああ。私のよくないところだ。身勝手で、強火が好きで、つい我慢できなくなってしまう。
「ミユ」
病院の人が駆けつけるまで、私はミユの体温を感じ続けた。
どんな火薬よりも暖かく、安心できる熱が、そこにあった。 - 23124/11/02(土) 18:32:04
ミユの体内から、オーパーツが消えていた。
原因不明が相次いだせいで、ずいぶんと治療が長引いてしまったものの、経過観察ののち、退院することになった。
私はミユと腕を組んで、病院を出る。
そばには呆れたようなサキ。
「毎日毎日ベタベタして……。隊の風紀が乱れてしまう」
「別によくね?」
ミヤコが先生に変な目を向けている時点で、今更だ。
私はミユの後頭部に鼻を押し付けて、匂いを嗅ぐ。甘い香りだ。果物みたい。
「よしよし」
「本当に、ミユの意思なのでしょうか」
ミヤコは私たちの愛を疑ってくる。オーパーツの効果でそうなっているだけだと言いたいのだろう。
うん。わかっているよ。きっとそうだ。オーパーツのせいだ。そうでなければ、ミユがこんなに情熱的なことをするはずがない。
……だからなんだというんだ。
「私はミユが好き。ミユは私が好き。それでいいじゃん」
私はもう、一分一秒たりともミユから目を離さないと誓ったんだ。
銃弾だろうとオーパーツだろうと、身を挺して守る盾になりたいから。
そして……破滅する時は、一緒でありたいから。 - 24124/11/02(土) 18:34:55
「共依存だな。まあ、腕が衰えてないなら、許してやってもいいぞ」
「お、話がわかるね」
「正直に言うと、ミユが元気でいてくれるなら、それでいいんだ。流れ弾で死ぬよりは、ずっといい」
サキは諦めたように首を横に振る。
教範頼りだった彼女が、ずいぶんと柔軟になったものだ。
「モエ。何味、たべてる?」
「リンゴだよ」
「ちょうだい」
私は飴玉を口移しで渡す。すっかり慣れたものだ。
「はあ……」
私たちが愛し合う姿を見て心打たれたのか、ミヤコもようやく折れてくれた。
「どのみち、我々は4人でひとつなので……どうなっても、見捨てることはありません」
ミヤコが手をかざすと、ミユは嬉しそうに頭を差し出し、撫でられにいく。
可愛い。本当に可愛い。そのうえ正義感が強くて頼りになるのだから、文句なしの一等賞だ。あの日以来、市民からも応援の声が絶えない。ミユはもう、この街のヒーローだ。
そんなミユに、私は慕われている。
「く、ふふふ……」
私は胸に燻る薄暗い感情に悦びを覚え、己の人生全てをミユに捧げると誓った。
ミユが石ころを蹴飛ばしながら歩くのを、視界の外に追いやりながら。
《完》 - 25二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 18:36:41
- 26124/11/02(土) 18:38:58
以上です。長文失礼しました。
今回登場させたオーパーツは『恋の始まり』に由来するドキッとした心臓の鼓動を感知し、寄生します。既に恋していたワカモには無効。
太古の民は地下水と地層によって、儀式的かつ擬似的な血流を生み出して封印していました。でも解き放たれちゃいましたね。 - 27124/11/02(土) 18:41:15
ありがとうございます。せっかくなのでミユは激しい破滅、モエは静かな破滅を迎えるよう書いてみました。
- 28二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 18:49:16
長え!重い!濃い!
- 29二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 18:51:43
主は他にも書いてたりする?
- 30124/11/02(土) 18:57:36
ご高覧いただきありがとうございます。これで2作目です。通りすがりの一人でありたいので、1作目が何かは伏せておきます。