- 1二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 18:59:56
「トレーナーさん、今日は何の日か知っていますか?」
トレーナー室でのミーティングが終わった後、キタサンは突然そんなことを言い出した。
はて? 何かあっただろうか?
手を顎に当てて、頭を悩ませてみる……が、特に思い当たるものもない。
「いや、知らないな。何の日なんだ?」
「ふふふ……それはですね……!」
考えるのを諦めて、出題者に答えが何なのかを促す。
俺の声を聞いた後、キタサンは口角を上げて笑みを作る。
そして勢いよく立ち上がったかと思うと、右手をグッと握りしめながらゆっくりと口を開く。
「いいふたりの日、ですよ!」
部屋中に響くキタサンの明るい声。そして左右に忙しなく動く尻尾。
これらを見ると、彼女の感情が喜びに満ちていることがこれでもかと伝わってくる。
伝わってくるのだが……。
「いいふたりの日……」
悲しいかな、俺は記念日というものは祝日以外はあまりよく知らない。
輝かんばかりの瞳でこちらを見るキタサンとは対照的に、俺の方は頭を傾けることしか出来なかった。
だが、キタサンはそんな俺の様子を物ともしない。彼女は赤い瞳を変わらずに輝かせながら、こちらを向いていた。 - 2二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 19:00:17
「いいふたりの日というのはですね、関係性を見直して、お互いの存在に感謝して気持ちを伝えあう日なんですよ! ……まあ、あたしもクラちゃんが教えてくれたから知ってるだけなんですけどね」
「……ふふ、なるほどな」
えへへと笑いながら少しだけ下を向き、照れたように頭をかきながらそう言った。
別にそれは言わなくても良いのに、キタサンは本当に真っ直ぐな娘だな。
キタサンの素直さに思わず笑みがこぼれる。
「だいたいは恋人や夫婦に使われることが多いみたいですけど、担当ウマ娘とそのトレーナーにも当てはまると思うんです!」
「ふむ、確かにな」
彼女の言葉にゆっくりと頷く。
恋人や親子、それに夫婦の関係とは違うが、ウマ娘の走るということを支えるトレーナーとの関係も間違いなく人生に大きく携わっていると言っても過言ではない。
だからこそ、お互いの関係を見直したいとキタサンは思ったのだろう。
その心遣いに、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
「本来ならジュエリーをお互いに渡しながら感謝を伝えるらしいんですけど、それは持ってないので……」
そう言って、彼女は近くにおいていた自分の鞄をゴソゴソと物色する。
どうやらこの日のために何かを持ってきていたらしい。
そうか、本当ならジュエリーを渡すのか……。最初に彼女が言ったように、恋人関係で使われることが多いのもそれならば納得だ。 - 3二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 19:00:47
「あっ!」
そんなことを考えていると、彼女の動きが止まる。どうやら、目的の物は見つかったみたいだ。
キタサンは顔をこちらに向け、素早く両手を後ろに隠す。
ふむ……どうやら手で隠せるくらいの物みたいだな……。
そしてそのまま、彼女はこちらへと歩き始める。
ゆっくり……と言うことはなく、少し早足になっていて、早く渡したい気持ちが伝わってくるようだった。
それに合わせて俺もゆっくりと立ち上がり、彼女が来るのを待つことにした。
「いつもあたしのことを支えてくれて、ありがとうございます、トレーナーさん!」
輝かんばかりの笑顔で言葉を伝え、ゆっくりと両手を俺の前に差し出す。
大切そうに包まれていた両手がゆっくりと開かれ、そこにあったものは。
「…………お守り?」
ところどころが歪んでいて少し不格好だが、それは確かにお守りだった。
この感じはもしかして……。
俺がある可能性に気付く。
「あはは……あたしの手作りです。何回か作ったことはあるんですけど、中々上手に作れないんですよね……」
照れたように笑いながら、キタサンはそう呟く。
両手に支えられているお守りには絆と書いており、その文字もやはり歪んでいる。
だけど。
「だけど、想いだけは神様にだって負けてないつもりです! あなたと出会って本当に感謝してるんです! だからこれからもこの気持ちが伝わるようにって、絆の文字を書きました!」
強い感謝と優しく相手を思っている、このお守りに込められている彼女の想い。
それは間違いなく、俺の心にしっかりと届いていた。 - 4二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 19:01:08
「この絆が長く続いていけるように頑張りますので、どうかこれからもよろしくお願いします!」
彼女は小さく頭を下げる。
俺の方こそだよ、キタサン。君がいたからここまで歩き続けることが出来たんだよ。だからその言葉は勿体ないくらいだ。それなのに何も用意できてなくてごめんな。
今までの感謝とお返しを用意できていない罪悪感。様々なことが頭の中に浮かんでくる。
言いたいことは本当に沢山ある。だけど、今の俺に出来ることといえば……これくらいしか無い。
そう思い、俺はゆっくりと自分の両手を彼女の両手に近づけていき。
「俺の方こそ、これからもよろしくなキタサン」
お守りごと彼女の両手を握り込む。
君にも負けない俺の想いが、どうか心に届きますように。
そんな祈りを捧げながら。
俺の行動に一瞬だけ目を大きくしていたが、すぐに何かを納得した表情に変わり。
「……えへへ♪」
嬉しそうに笑いながら、俺の手を握り返してくれた。
太陽よりも温かいその笑顔で俺の心も一層温かくなる。だからこそ、これからもこの笑顔を守るために、俺は頑張りたい。
心の底からそう思い、彼女の笑顔を見つめ続けた。 - 5124/11/02(土) 19:03:23
11月にはいい〇〇の日が沢山あるので、色んな話のネタに出来そうですね