- 1二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:16:37
「先生、おはようございます。」
「その…」
「本日も先生に守っていただきにきました」
"あ、ああ…うん…"
月影祭の後、レイジョはよくシャーレに『守ってもらいに』来るようになった。頻度としては週に1、2回。生徒が自主的に私に会いに来てくれるのは嬉しい…嬉しいのだが…
「あの…お隣よろしいでしょうか…?」
"あ…うん、もちろん。"
ソファに座って書類をまとめていた私の隣にピッタリとくっついてレイジョが座った。それ自体は問題ない。一部他の子もよくやることだ。距離が近いなと思うことはあるがキヴォトスの子達はそういう行動傾向があるので珍しいことでも、特別なことでもないのだろう。
問題なのは……
「……失礼しますね?」
レイジョが少し遠慮がちに腕を絡めて頭を私の肩に乗せてきた。 - 2二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:19:04
問題なのはこれである。当番以外の日は毎度シャーレに来てはすぐにこの状態になり小一時間。何を話すでもなく、何かを要求するでもなく、ただ密着してなんでもない時間を過ごしている。
この行動に心当たりがないわけではない。以前レイジョと外回りの業務で不良生徒の喧嘩に巻き込まれかけた際、茂みに隠れてレイジョと密着したことがあった。これはその先日の一件以降始まっている
("本人がやりたくてやってるなら…私以外の他人に迷惑をかけてるわけでもないし……")
そう、特に問題はない。この場を他の誰かに見られた時にただでさえ微妙な私の評判がさらに傷つくこと以外は。
まぁこの点はスケジュール調整をすれば問題はない。ありがたいことにレイジョは事前にアポを取ってから来てくれるので調整がしやすい。
しかし、これをこの先ずっと続けるのも健全とは言い難いだろう。
なので… - 3二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:21:08
"一つ質問してもいいかな?"
「はい。なんでしょうか?」
"玄武商会の仕事はお客様対応とか仕入れとかで大変だろうけど…最近ちゃんとストレス発散できてる?"
少し探ってみる。客商売というのはフラストレーションが貯まるもの。立て続けにクレーマーに出くわしでもしたら特殊な行動で発散しようとしてもおかしくない。
「ご心配ありがとうございます先生。」
「でも大丈夫です。カンフーの朝練や映画、ルミ様の美味しい料理などでその辺りの管理は完璧です。」
「マネージャー兼護衛たるもの、その辺の自己管理は心得ています。」
ふむ、どうやらストレス面は問題がなさそうだ。困った、当てが外れた。てっきり学業と商会の仕事の両立が大変なのかと… - 4二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:22:48
さぁ!
- 5二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:23:26
- 6二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:23:40
久々な正統派SSの予感に期待が高まる
- 7二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:25:25
"充実してるって、具体的にどういうことか聞いてもいい?"
いくら考えてもわからなさそうなので地雷を踏み抜く覚悟で聞いてみる。本当に踏み抜いてしまった時はその時だ。少なくとも私が嫌われるくらいで済む
「!?」
「そ……それを私に言わせるのですか…?」
レイジョの顔が一気に赤くなる。声色自体は普段とあまり変わりないが相当恥ずかしがっているのだろう。絡めた腕に入る力が明らかにいつもより強い。いやほんとに強いな…
というか痛い。私の骨がミシミシという音を立てている。腕の曲がっちゃいけないところが曲がり始めている。あれこれまずくないか。まずいめちゃくちゃ痛い。痛いいたいイタイイタい
"ごめんレイジョ!ごめんごめん!不躾なこと聞いたねごめん!お願いだから許して!腕折れちゃうから!!" - 8二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:27:50
数分後
「も…申し訳ありません先生…」
"いやレイジョは悪くないよ!ズケズケ聞いた私がいけない"
なんとか腕が折れる前に解放してもらった。
目の前にはしょぼくれているレイジョ。本当に申し訳ないことをした。レイジョとは萬年参の件からの付き合いだからある程度関係が築けていると思っていたが、それは私の傲慢だったらしい。なんとかフォローとリカバリーを…
「あの…先生…」
「充実してるというのが具体的にどういうことかという件についてですが…」
あれこれ思案しているとレイジョがぽつりと話し出した。
「安心…するんです…」
"……安心?"
「はい。先生に密着していると…もとい守っていただいている間はとても安心できます。」
「だから…その…心安らぐと言いますか…いつもは玄武商会で息を吐く暇もなく動いているので時間がゆったりと流れている感じがして落ち着くと言いますか…」 - 9二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:31:03
これまた意外な言葉だった。
頼りにしてくれるのは私としても嬉しい。先生冥利に尽きる。しかしレイジョは強い子だ。戦闘能力的にも、おそらく精神的にも他の子より成熟している。そんな子が私に密着しているだけで安心感を得られるとは一体…
……一つ、思い当たることがある。かつて別の生徒から受けた相談内容。
『ストーカー被害に遭っている』
あの時は実際のストーカーとは状況が大分違ったが、本当にストーカー被害に遭っているのならストーカー避けに私と密着している間は安心できるというのは納得できる。もしかすると今も監視されているのではないかと不安になっているのかもしれない。素直に言い出さないのもストーカーに聞かれたくないからだろう。
レイジョは山海経の政治問題の中心に近い位置にいる。狙われてもおかしくない。
最近よく来るようになったのも彼女ができる精一杯のSOSだとしたら…
"レイジョ!"
「ひゃいっ!?」
レイジョの両肩を優しく掴み目をしっかり見て言葉をかける - 10二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:33:58
"大丈夫!安心して!君のことは私が必ず守るから!!"
「はい!?あ、あああの?先生?それは…」
"今まで気付けなくてごめん。でも先生として、大人として必ず君を守るとここに誓うよ。"
「えっとあの…つまりそれは…」
レイジョの眼には涙が滲んでいる。これはもう間違いない。張り詰めていた気持ちが安心で一気に解けた時の症状だ。怖かっただろう。明らかに今までと行動を変えてSOSを出していたのに気付けなかった自分が腹立たしい。とりあえずはシャーレが安全だと理解してもらって、怖いかもしれないけど色々状況を聞かなければ…
「ふっ」
「ふつっ…」
……ふつ?
「不束者ですがどうぞ末長くよろしくお願いいたしますっ!!」
……
…………
……………………
??????????????? - 11二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:35:49
数 時 間 後
単刀直入に申し上げて私はやらかした。
どうやらストーカーなんて全く関係なかったらしい。
レイジョの『不束者ですが…』発言に違和感を覚え、一から私の考えていたことについてレイジョに説明したところ、レイジョの顔がみるみるうちに曇り、目つきが鋭くなり、そっぽをむかれ、最終的にさっきから口を聞いて貰えない状況に陥ってしまっている。
謝罪…効果無し
ダンベル等のレイジョの好きなもの…効果無し
カンフー映画の話…効果無し
完全に打つ手が無くなってしまっている。
ちなみにさっきから名作カンフー映画をシャーレの無駄に大画面のモニターで流しているが全く興味を示さない。
私が何やっても解決に至らないことを悟りルミに助けを求めようと電話しようとしたがレイジョから無言で携帯を持つ手に掌底を喰らって妨害されてしまった。
どうやら誰かを呼ぶのは状況が悪化するだけらしい。 - 12二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:38:09
"れ…レイジョ?あの〜そろそろ機嫌を…"
我ながら本当に情けない声掛けだ。出来た子であるレイジョをここまで怒らせてしまうのはもはや先生失格だろう。しかしながらこれ以外もう方法がない。
「……先生。」
ようやくレイジョが口を開いた。
「なんで私が怒ってるか、分かってますか?」
"私が勝手に先走ってレイジョの気持ちを考えずに悩みを断定したから……だよね?"
「………」
また黙られてしまった。おそらくレイジョが怒ってる理由が違うのだろうが他の理由が思い当たらない。本当にどうしていいかわからない。
「…先生は」
「いえ、キヴォトスの外では異性に体を密着させる行為は好意の表れではないのですか?」
"へ?いや普通に好意表現だと思うけど…"
「………はぁ」 - 13二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:40:44
- 14二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:41:47
猛アタックだ!
- 15二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:43:44
"?"
"それはあり得ないよ。だって私は守ってもらいたいっていうレイジョのお願いを叶えられてないもの"
"子供からのお願いに応えられない大人が好かれる道理はないからね"
「守るという行為は何も物理的なものや力だけではないと言っていたのは先生ですよね!?」
"うん、そうだね。"
"でも事実、最近レイジョが『守られに来た』時に私はレイジョのことを守れてないよ"
"だって外敵がいないもの"
「………」
レイジョが絶句して頭を抱えている。どうやらまた私は間違えているらしい。
「……はぁ。もういいです。」
レイジョが諦めたように呟く。正直レイジョの悩みを全く解決できてない感じがして私としても不甲斐なさを感じるがこれ以上何か言うと状況が拗れそうなので黙っておく。 - 16二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:45:36
「ですが…何かしら埋め合わせはしていただきたいですね。というか先生にはその義務があります。具体的には先生のオススメのスポットに案内していただくとか」
"それはもちろん。よろこんで。"
「……そうやってすぐデート…ではなく生徒と2人きりで出掛けることを了承するのは良くないと思います。」
「いつか刺されますよ。本当に。」
「まぁ私はいつまでもお守りしますが…」
ははは…と少し困った感じで笑う。最近似たようなことを別の子からも言われた気がする。でもこれで埋め合わせになるのなら、生徒たちが喜んでくれるならそれに越したことはない。
「そうと決まれば早く行きましょう。ここなら門主様から妨害が入ることもないでしょうし。まだ時間はたくさんあります。」
レイジョはそう言って腕を絡めてグイグイと引っ張ってくる。先ほどまで険しい顔つきだったが、心なしか顔が綻んで紅潮しているように見えた。
さてどこへ連れて行こうか。この前カズサから紹介してもらったスイーツ店が良いかもしれない。いやむしろ誰かに見られるとまずいかもしれないから紹介してくれた生徒が来る可能性の高い店はやめた方が良いだろうか。
「先生」
レイジョが私に声をかける。
「外敵なんていなくても私は先生に守られていますよ。」
パッと振り向いた彼女の表情は今日1番の笑顔だった。
おしまい - 17二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:47:27
乙
- 18二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:51:22
えっ急な文豪襲来に言葉を失ってるんだが…
なんか久々に普通の恋愛小説みたいなssを読んだわ - 19二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 22:59:45
レイジョと先生の微妙な感じの距離感が好きなんだよね
遠そうで実はめちゃくちゃ近いという - 20二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 07:14:52
同時実装のキサキに隠れてるけどレイジョも大分なんだよね
- 21二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 09:56:40
(スレ主聞こえますか?他にもSS書いてたら紹介してください)
- 22二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 18:18:44
スタンプラリーイラストみたいな私服で通ってきてそうですね…
- 23二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 06:10:55
正統派のレイジョSS……これは良いものです
全く関係ないけどタイトルを見て醤油の発注が多い曲を連想してしまった