再会【ヘリルビ・SS】

  • 1二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:01:58

    「ウチ、決めたよ! ここ飛び出して、世界中でフェスってカマして、地球丸ごと! 全部アゲちゃるわ!!」

     日本ウマ娘トレーニングセンター学園の、卒業証書授与式が閉式した後。校舎を背にした、学園で最も美しく桜舞う道の上で、ヘリオスさんはそう言った。

    「パマちん、ミラてん、バンちゃむ、ゼファっち、シチーにジョーダン、トレぴに……もちろん、お嬢も! ココの皆から受け取ったバイブス、全部載せて、世界に届けてくっから! じゃあ……!」
    「……っ。ヘリオスさ────」
    「またね、ルビー!!」

     嗚呼、眩しい。

     それは、まるで暖かな春の陽のようで。
     それは、まるで煌めく夏の太陽のようで。
     それは、まるで紅葉に映える秋の夕陽のようで。
     それは、まるで雪化粧を際立たせる月光のようで。

     それまでずっと、私の側で輝き続けた太陽は、そのまま振り返る事無く桜の道を駆け抜けていった。その背中を、私は呆然と見守る事しか出来なかった。
     まだ卒業生達で賑わっている学校に急いで戻り、ミラクルさんやパーマーさんにヘリオスさんの行方を尋ねてみる。けれど、彼女は友人達や後輩達との写真撮影を私と二人になる前に既に済ませ、戻ってすぐにいなくなってしまったという。
     それから、私は時間の許す限り学園内を探したが、遂にヘリオスさんの姿を見る事はなかった。

  • 2二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:02:26

     ヘリオスの事だからきっとどこかで皆を元気にしてるよ、とパーマーさんが笑顔でウインクして見せなければ、私は悶々とした想いを抱えたままだったかもしれない。
     それから解散するまでの僅かな時間、ミラクルさんと一緒に、ヘリオスさんが歩む世界への道程に思いを馳せた。

     ミラクルさん達と別れた私は、トレセン学園を後にして真っ直ぐ屋敷へと向かった。これよりは、華麗なる一族の次期当主を担う者として、お母様の元で更なる研鑽を積む日々が待っている。
     まずは、私の卒業を祝う宴席において、お母様とお集まり頂いた皆様にご挨拶をして回る。進行は恙なく、全てのお客様のお見送りを済ませたら、すぐにお母様と今後のスケジュールを確認。一族を担う者としての決意を胸に、これから新たに始まる日々に向けて全身を引き締める。

     そう、切り替えたハズだった。
     
     床に就いて、静かに瞳を閉じた時、そこに映し出されるのは、あの桜の道。そして、私に笑みを向けるヘリオスさんの姿。
     彼女を呼ぶ私の声を覆うように告げられた言葉と、今までで最も眩しく、美しい笑顔が、私が眠りに就くまでずっと瞳の奥に映し出されていた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:03:16



    「明日の予定を」
    「はい。9時より、トレセン学園にて秋川理事長と打合せを。11時30分より、リハビリテーション病院にてケイエスミラクル様とランチミーティング。14時より、メジロ家とURAを交えてトゥインクル・シリーズの今後についての会議。現在の所、予定は以上でございます」
    「ありがとうございます。変更や連絡があれば、随時お知らせ下さい」

     私の言葉に、秘書が恭しく礼をする。新しく私に就いた秘書は若い女性だが、執事が自ら見初め鍛え上げたのだからその腕は推して知るべしと言えよう。私がふう、と小さく息を付くと、すぐさま『そろそろお茶をお淹れ致しましょうか』と柔らかな微笑みを湛える。私の一挙手一投足を精察し、その行動の随所に細やかな気遣いが光る逸材だ。
     彼女が手ずから選んだという香り豊かな紅茶と、それに合う小さな焼き菓子を頂くのが、近頃の楽しみの一つ。今日は、先日ニシノフラワーさんから頂いたフィナンシェと、ストレートのディンブラ。
     ディンブラを一口含めば"華麗なる一族"として社交の場を渡り歩いて蓄積されていたモノが、花のような甘い香りと共に溶けていくようだった。
     
    「ミラクル様、パーマー様と同日にお会いするのは久方振りでございますね」
    「ええ。仕事とは言え、こうして今でも友誼を交わすことができる。トレセン学園の日々で、本当に得難いものを得ました」

     ミラクルさんは、理学療法士として都内のリハビリテーション病院に勤めている。秘書は予定上ランチミーティングと言ったが、一緒に昼食を摂って近況を語り合うのが主だ。ミラクルさんも忙しいようで、いつも予定時間きっかりにランチミーティングはお開きとなるが、彼女の充実した表情を見ていると、胸の奥から安堵の思いが溢れ出す。
     パーマーさんは、トレセン学園でトレーナーとして勤める傍ら、メジロ家と関係各所の調整役のような仕事をしているそうだ。在学中は後輩達に、今は大勢の生徒達に慕われ、間違い無く人誑しの才能を持っている彼女にとっては、どちらも天職だろう。

  • 4二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:04:04

     得難き友に思いを馳せながら暖かい紅茶を一口含むと、それまで張り詰めていた感情がふくよかな香りと共に緩んでいった。そうして、少しだけ瞳を閉じる。

    ────またね、ルビー!!

     そして、開く。あの日の煌めく笑顔が、舞い散る桜が、最後の言葉が。何度でも脳裏に蘇る。
     きっと、卒業式の日もどこかで呼び出され、想いを告げられるタイミングがあるに違いない。事前に執事やトレーナーさんと相談して、ヘリオスさんに声を掛けられた時の為に時間を作っておいて良かった、と初めは思った。
     けれど、そうして呼ばれて行った先で告げられたのは、常日頃から贈られる彼女なりの愛の言葉ではなく、未来への目標と、別れの言葉。以後何年経っても訪れない"また"の機会を待ちながら、私はその言葉を何度もリピートしている。

     そうして、私はようやく気付いたのだ。私にとって、あの無遠慮な太陽のような方と過ごした日々と、共にターフを駆け抜けてきた時間は、想像以上に私の日常の一部となり、そして、愛すべきひと時であったのだと。

     そうでなければ、何度も何度もアポイントメントも無しに私を外出へ誘い、挙句無許可で会見やウィナーズ・サークルに飛び込んでくる彼女の面影を思い出すことなど、ありはしない。今や私も"華麗なる一族"の次期当主として忙しい日々を過ごしているとは言え、あの日以来、彼女に会うどころか話すことも出来ていないのだから、尚更その面影は濃くなっていく。
     そんな時、私は想いに導かれるまま、ウマッターやウマスタグラムで彼女の足跡を追った。そこには、あの日々から少しも変わらない、眩しい太陽のような笑顔があった。今も息災であると知るだけで、安堵の想いが溢れる。
     それでも────。

    「……せめて、もう一度……」

     部屋の外で控えているであろう秘書には聞こえないよう、小さな声で呟いて、私はそっと瞳を閉じた。

  • 5二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:05:27



    「今度の学会、ミラクルが講演するんだって?」
    「ええ、これまでの自身の足跡を踏まえつつ、臨床で得たデータを基にウマ娘の治療およびリハビリについての講演をなさるそうです。詳しい内容はまだ私も聞いておりませんので、当日が待ち遠しく」
    「そっかぁ……凄いよね、今やリハビリテーション病院の主任PTだもん。沢山の患者さんを支えながら、それでも尚大勢の人を助けたいってずっと頑張ってるんだから」
    「トレセン学園、ひいてはトゥインクル・シリーズに挑むウマ娘達の医療体制にも、理学療法の視点からお力添え頂いています」
    「そうそう、ウチのサポート科の子達がずっと噂してるよ。ミラクル先生みたいなスタッフになりたいってね! まあ、あの頑張りすぎる所まで真似られちゃうと、流石のパーマーさんも困っちゃうかな?」
    「その件ですが、先日同僚の方より相変わらず自身より皆様を優先され、医師や看護師どころか患者様からもご心配のお言葉を頂いたと聞きましたので、先程お会いした際に釘を刺して参りました」

     少しばかり語気を強めて、いずれにせよお体を労わる事をお忘れなきよう、と言った私に対し、ミラクルさんはルビーには敵わないや、と返して困ったように笑っていた。
     直後、そうだそうだとミラクルさんを取り囲むスタッフの皆様の様子を思い出し、ふっと口角が上がる。そんなミラクルさんの状況を悟ってか、パーマーさんも目を細めて頷いた。

    「それで落ち着いてくれれば良いんだけどね。まあでも、それだけ沢山の人に慕われるんだもの、やっぱりミラクルは凄いよ」
    「ええ、本当に」

     ミラクルさんの事を思うと、どうしてもあのスプリンターズステークスでの出来事が脳裏を過ぎる。それからもう一度立ち上がり、こうして夢を叶えたミラクルさんの未来を思うと、感慨も一入だ。
     暖かいダージリンでその思いを飲み込み、ふと目線を上げると、パーマーさんがとても嬉しそうな表情でこちらを見ていた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:06:57

    「……? どうかなさいましたか?」
    「ルビー、また笑顔が可愛くなったな、って思って」

     思わず、目を見開いた。こういう事を、何の躊躇いも無く言ってみせるのだから、やはり彼女には人誑しの才能が備わっていると思う。
     そんな想いを小さな溜め息にして流しつつ、彼女の言葉に応える。

    「……そういった意識を向けたことはございませんが」
    「そう? じゃあ、尚のことそう思えて良かった。会議とかは真剣な話だから仕方ないけど、仕事の時はずっと難しい顔してるなって思ってたから、ちょっと心配だったんだよね。でも、ルビーがちゃんと笑顔になれてるって思ったら、安心しちゃった!」

     そう言って、パーマーさんは楽しそうに笑って見せた。私の胸に、嬉しさと、複雑な想いが入り混じる。
     メジロ家とURAを交えての会議の後、パーマーさんにちょっとお茶でも、というお誘いを受けて、私達はこのオープンカフェにやって来ていた。珍しく午後の会議の後に別の予定挟まらなかったのでお言葉に甘えたが、どうやら随分と気を使われていたらしい。
     経験上、パーマーさんにはそういった心の機微を捉えられる事が多いが、こうして心穏やかに過ごす時間を得られるのはとてもありがたいと思う。
     そう思い立った時、よし、という一声と共に、パーマーさんが立ち上がった。

    「私はそろそろ学園に戻るよ。ルビーはどうする?」
    「……そうですね。折角ですので、もう少しだけここに」

     以前の私なら、すぐに屋敷に戻って世界中の情報を集めるか、屋敷にあるトレーニングルームで汗を流すかしていただろう。
     こうして時折、忙しい日々からほんの少し逃げるという選択肢を採る事が出来るようになったのも、ミラクルさんやパーマーさん達のお陰だ。

    「ん、了解! それじゃあ、またね!」
    「ええ、ごきげんよう」

     挨拶を交わし、パーマーさんを見送る。その背中を見つめる内、ふっと未練のような感情が過ぎった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:08:10

    パーマーさんのお誘いに応じたのは、ヘリオスさんの近況を存じ上げないか尋ねようという意図もあったからだ。けれど、互いの近況をあれこれ語り合ったまでは良かったものの、結局私はヘリオスさんの話題を出すことはできなかった。もしも、彼女の動向を知っているのなら、いつかはこの街へと戻ってくるのか、と。

     けれど、それを知ったとて、彼女がこの街に帰ってきた時、互いに忙しい日々を送る私達にかつてのように語り合う時間は訪れるのだろうか。そんな想いが、どうしても去来してしまう。
     それでもし、すれ違うような事になるのなら、寧ろ、このまま────。

     そんな思いを胸に摩天楼を見上げたその時、不意にスマホが鳴った。画面を見ると、電話帳には登録されていない携帯電話である。少なくとも名刺を交換した方の連絡先は入れてあるが、既知の関係ながらこちらが登録していない端末の可能性もある。普段は秘書に出て貰うが、今は致し方ない。
     私は、一瞬瞳を閉じて思考を切り替えると、通話のボタンをタップする。

    「……もしもし」
    「やっほ、お嬢、久しぶり。元気だった?」

     脳裏に、閃光が奔る。あの日以来、SNSの向こう側からしか聞くことのなかった声。幾年もの時を経て多少質感が変わったとて、その声を、その声の主を、心の片隅で焦がれ続けた太陽を、忘れるハズも無い。

    「……ヘリオス、さん?」
    「えへへ、良かった! 覚えててくれた!」

     電話の向こうで、ヘリオスさんはどこか恥ずかしそうに笑った。対して私はと言うと、湧き上がってくる感情の奔流を堪えるのに必死になってしまった。
     今はどこに、近くに居るのか、いつまで居られるのか、会う事は出来るのか────次々と噴き出す感情を努めて抑え込む。

  • 8二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:11:22

    「……お久しぶりです。いつお戻りに? 私の記憶が正しければ、先日はパリにいらっしゃったかと」
    「今日! ついさっき東京に着いたった! と言っても、あんま長居は出来ないんけどね」
    「そうでしたか……まずは、長旅お疲れさまでした」
    「乙あり! ゆーてもう慣れたったけどね……えっ、つかお嬢パリのライブ見ててくれてたん!? いや、ちょ……マジ、感動!! あのフェス、ウチ史上でもめっちゃバイブスアガったから!! 見てくれたん、超嬉しい!!」
    「……態々聞こうとせずとも、ヘリオスさんの声は何処ともなく聞こえて参りますので」

     そう応えた私に、ヘリオスさんはまた嬉しそうな声を上げる。世界のあちこちを飛び回り、大小問わずフェスを開催してその街を盛り上げるヘリオスさんの動向は、自分で探す事もあればミラクルさんやパーマーさんが教えて下さる事も多々あった。
     忙しい日々の中、遠くの国から放たれる歌声と歓声を聴いていると、トレセン学園で過ごした賑やかな日々が蘇るようだった。けれど、あまり感慨に浸る余裕もない。

    「先程、あまり長居は出来ないと仰いましたが……」
    「あーね、今夜ラジオと配信イベやる事になってんだけど、終わったらまた飛んでっちゃうんだ。ホントはお嬢んトコとか、パマちんトコとか、ミラてんとかゼファちとかバンちゃむにも、めっちゃ凸したいんけど……」

     そこで、ヘリオスさんが言いよどむ。同時に、私も感情の奔流を抑え込んだ。本当なら、会って色々な話がしたい。けれど、ヘリオスさんにはヘリオスさんの予定があり、今までのようにバイブスやノリで予定を組み込むことができない事くらい、私にも分かっていた。
     些か後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、ヘリオスさんの言葉を待った。

    「でもちょっとだけ、ちょっとでいいからお嬢と話したくて……ダメぽ?」

     思わず、息を呑む。本来なら忙しい合間の時間に、今も尚私を選んでくれている事に、胸の奥から暖かい想いがこみ上げてくる。
     口元を綻ばせて、私は迷わず応えた。

    「私で良ければ、是非。ヘリオスさんが出会ってきた世界を、教えて頂けますか」

  • 9二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:12:48

    一瞬の静寂の後、再び一瞬でテンションとバイブスが跳ね上がったヘリオスさんを宥めつつ、彼女の見てきた世界の一端を垣間見る。

     あちこちにサイネージが煌めく大都会の中心にDJブースを構え、大勢のファンを盛り上げた夜の事。世界各地を渡り歩き、様々な音楽や踊りに触れて自らの芸術的な感覚を磨いてきた旅の日々の事。
     言葉が通じなくとも、音楽と踊りで喜びを分かち合い、世界中の人々と通じ合う。それこそが、ヘリオスさんの玉条。出会った人々との麗しい日々を、まるで日記をめくるように聞かせてくれた。

     私の胸は、溢れ出した暖かい想いで一杯になった。ヘリオスさんは、あの日からずっと変わらず、誰かの太陽であり続けたのだ。そして、それはこれからもずっと、変わらない。
     その旅の記録を、本当はもっと、ずっと聞いていたかった。けれど、楽しい時間と言うのはあっという間に終わってしまうと、相場が決まっている。

    「あ……ごめん、お嬢。ウチ、よろっと時間がキャパいかも」
    「いえ、素敵なお話をありがとうございました……つい、話し込んでしまいましたね」
    「それな! つか、いきなしお嬢誘ってOK貰うの、初めてじゃね?」
    「そうかもしれません。今日は偶々予定に空きがありましたが、次もそうなる保証はありません。なので……」

     そこでまた、少し逡巡。学園での日々を思い出して、いつか伝えた言葉を、もう一度伝える。
     
    「今度は是非、お帰りの日を教えて頂きたく……次は是非、直接会ってお話したく存じます」

     胸の音が、少しだけ加速したのが分かった。それはきっと、ヘリオスさんも同じ。少しばかりの静寂の後、ヘリオスさんが応える。
     
    「……分かった。ウチ、必ずココに戻ってくる。そんで、ゼッタイ一番にお嬢に会いに行くから!」
    「はい、楽しみにしています。それでは……」
    「あ、お嬢! 最後に一個だけ!」

     不意に、ヘリオスさんが動く気配がした。そう言えば、仕事でこちらに来ていると仰っていたけれど、今どこから電話をかけているのだろう。
     ふっと沸いた疑問に答えるかのように、ヘリオスさんの声が続いた。

  • 10二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:14:20

    「お嬢はそっち派じゃないって、分かってっけど……たまには、逃げも選んでな? 今、ちょっち疲れた顔してるから!」
    「ッ!?」
    「またね、ルビー!」

     刹那、私が引き留める間もなく通話は終わった。慌てて立ち上がり、周囲を見回してみる。
     スーツ姿や流行りの服で、人々は街を往く。周りの席からは、紅茶や珈琲を楽しみながら談笑する声。そして、そびえたつ摩天楼と、都会の音。
     その中に、彼女の姿は無かった。ゆっくりと腰を下ろして、通話の切れたスマホを見つめる。
     そうしている内、ふっと唇から笑みが零れた。

    「全く、仕方のない人」

     そこまでしておいて、顔を見せないなんて。私の胸に、いつか必ず貴方に会うのだという約束だけを残して、貴方はまた世界へと飛び立ってしまう。
     けれど、それでも。例え何年後であったとしても、彼女に会ったその時は、昨日の続きのように話をしよう。私の歩んできた道程と、彼女の道が交わるまでの日々を。
     そして、そこから共に歩む未来の事も、一緒に。

     私は、ポーチからコンパクトを取り出し、鏡に自身の顔を映してみる。そんなに疲れた顔に見えるだろうか。少しばかり一方的で、失礼だと思う。本当に、仕方のない人。
     けれど────。

    「……もしもし。ええ、解散致しましたので、車をお願い致します」

     偶には、何も考えず逃げてみるのも良いかもしれない。そう思える自分を、嬉しく思った。

  • 11二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:15:19



    「お疲れさまでした、ルビー様。この後は、屋敷に戻られますか」
    「……すみませんが、予定の追加を。ホテルを一室押さえて頂けますか」
    「畏まりました。お部屋はシングルでよろしいでしょうか」
    「それについては、返事を待っています」

     詳細が決まる前に部屋を抑える事に、秘書が不思議そうな顔をした、その時。

    「……! もしもし、ミラクルさん。メッセージはご確認頂けましたでしょうか。それで……そうですか、では、その同僚の方に感謝しなくてはいけませんね。はい……お待ちしています」

    「パーマーさん、本日は大変お世話になりました。それで、唐突なお誘いではあるのですが……はい、はい。それは何よりです……バンブーさんもお見えに? ええ、勿論です。折角の機会ですから、偶には全員揃って"爆逃げ"されるのもよろしいかと存じます。ふふ……ええ、ではお待ちしております」

     私が二人分の電話を終えてふう、と息を付くと、それまで驚きの表情だった秘書が、バックミラー越しに何とも楽し気な表情をしていた。

  • 12二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:16:15

    「……ルビー様。もしやトゥインクル・シリーズの同窓会でございますね?」
    「ええ、急ではありますが、皆様都合が付きましたので、ホテルの部屋もそれに合わせたものを。それと、本日はディナーではなく、各自食事その他を持ち寄ることと致しましたので、ホテルにもそうお伝えください」
    「承知致しました。それでは……まずはいつものデパートへ参られますか?」
    「そうですね、よろしくお願いいたします」
    「……僭越ながら、そういった会に持ち込む際に喜ばれる菓子類について、私めからも種々提案させて頂きたく存じますが、如何でしょうか」
    「ええ、是非とも」

     私が笑顔で応えると、彼女が小声で、よし、と言ったのが聞こえた。こんなに楽しそうな表情でハンドルを握る彼女を見るのは初めて見るかもしれない。恐らくは、普段の冷静沈着な態度よりも、こちらが素に近いのだろう。

     そうして地上の星々を眺めながら、この街のどこかに居る彼女に想いを馳せる。この後出演するラジオ番組を、愛すべき仲間達が揃って聴いていると知ったら、彼女はまた、凄まじい勢いで喜びを叫ぶのだろうか。
     パーマーさんの提案に乗って、放送中に全員で番組宛のメッセージを採用されるまで送り続けるのも、悪くないかもしれない。先程の意趣返しとしては、ちょうどいいだろう。

     さて、あの無遠慮な太陽さんを驚かせるために、どんなメッセージを送ろうか。
     あれこれと考えながら、私を乗せた車は地上の星々の煌めく街を、太陽を愛する人達の元へと駆け抜けてゆくのだった。

  • 13二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:19:16

    以上です、ありがとうございました。
    ヘリルビの卒業後を想像すると、お互いの立場も相まって様々な可能性が感じられて大変心が暖まる今日この頃です。
    大人ヘリルビからしか摂取出来ない栄養素がある。この尊さはDNAに素早く届く。

  • 14二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:22:11

    んおあすぎょくよき!!!
    どんなに騒がしい太陽でもいなくなってしまえば寒くなっちゃうよね、SNSで探しちゃうルビーかわいいね

  • 15二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:43:28

    いい…

  • 16二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 23:27:41

    ヘリルビは良いぞ……最高だ

  • 17二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 23:40:31

    なんだよスレ主……けっこうやるじゃ

  • 18二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 00:24:04

    卒業してからも会う間柄良い…
    寝る前に読んだからいい夢見れそうだありがとうスレ主

  • 19二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 00:27:44

    >>17

    し、死んでる……


    素晴らしい作品をありがとう

  • 20二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 07:16:57

    ヘリオスの出るラジオとかお便りの枚数ヤバそうなのに、ヘリオスならルビーの投稿を一瞬で見つけるという信頼感がある

  • 21二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 07:42:32

    とても良いものに出会った
    いなくなって初めて気づく感情…こういうの大好き

  • 22二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 13:29:05

    >たまには、逃げも選んでな? 今、ちょっち疲れた顔してるから!

    この台詞から溢れ出す某ボーン感すき。ヘリオス、ルビーそれぞれを映しつつカッコいいBGMが流れてそう

  • 23124/11/08(金) 21:35:11

    皆様、お読み頂きありがとうございます。


    >>14

    よきのお言葉、嬉しいです。

    ずっと側に居た人の面影を探すルビーは結構絵になると思います(失礼)。


    >>15

    ありがとうございます。ヘリルビは良いぞ。


    >>16

    ヘリルビの尊さはいつか病気にも効くようになる


    >>17              🎀

    召されたか……お前も仲間だ……J( ˘ω˘)し

  • 24124/11/08(金) 21:35:29

    >>18

    ヘリオス周りの交流卒業してからも続いてると素敵ですよね。

    良い夢を見られたならば幸いです!


    >>19

    恐れ入ります、次もそのお言葉を頂けるよう精進します。


    >>20

    ペラペラと捲ったり画面をガンガンスクロールしててもハッとして気付くと個人的に良きです


    >>21

    ありがとうございます。そこから会えない期間で溜まりに溜まった感情を再会した瞬間に爆発させるのも良いですよね。


    >>22

    実はお話を作りながらちょっと意識してました@某ボーン感。あのシーンのBGMの入りは神ですよね。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています