もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12

  • 1二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 01:07:11

    アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。

    対ロゴス戦争が変え行く世界をミネルバとアグネスは進んで行きます。
    航海のための海図も羅針盤も、勿論、彼らの手元にはありません。多くの人が夢を追い、陰謀を巡らし、安寧を求めています。彼らもまたその一人だと言うだけのこと。

    ブレイク・ザ・ワールドに端を発した戦争は対ロゴスに看板を掛け変え、さらに深刻化しています。

    『戦争のない以上に幸せな世界なんて…ある筈が無い!!』

    アグネスは別の世界線の少年が発した言葉をまだ耳にしてはいません。
    ただ、それに近い感情の欠片を感じ取ってはいるでしょう。周囲の人の心と自分の胸の内に。

    まだ見えぬ夜明け、ミネルバはどこに舵を切り空を駆けるべきなのでしょうか?

    おつきあいをいただければ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 01:17:59

    前スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com

    1スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com

    2スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com

    3スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com

    4スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com

    5スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com

    6スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com

    ※落としてしまった7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com

    再建てされた7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com

    8スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com

    9スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com

    10スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com
  • 3二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 01:51:33

    保守

  • 4二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 01:53:26

    本文投下まで保守。

  • 5二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:15:23

    議長視点だと連合は最早楽勝で後はオーブとラクスをどんな手段使ってもやっちまえば勝ち確なんだろうな

  • 6二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:26:22

    建て乙
    ロゴス関連イベントが結構前倒しになってるからこの戦闘が終わればしばらく休めるといいな…

  • 7二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:37:55

    氷結する大地にへばり付くような木々を踏み砕き着陸、森林地帯に到着後、電源車回収まで含めても3分以内に撤収行動を完結させる。皆本当によくやってくれている。

    アグネス「(省みて自分はどうだったのだろう。自分達の代は…)」

    アカデミー入学時は前大戦が激化している真っ最中だった。自分たちなりに必死だったつもりだ。愛国心も野心も高望みも未熟さもあった-今もある-とは言え。それでも彼らに勝てるところがあるのだろうか。

    アグネス「(今考えることではない)」

    アグネス「充電作業を開始!カオスとバビの充電をどこまで進められるかが勝負よ。今の内に栄養補給飲料を。お腹を満たしておいて。AWACSディンは一時降下せよ。電力補充と休憩。代わりにディン1編隊、哨戒を」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」
    AWACSディンパイロット「ありがとうございます」

    何故かお礼を言われたわ。無理をさせているのは此方なのに。

    アグネス「ゆっくり食事を、とは言えないわ。ただいまの内に、ね」
    AWACSディンパイロット「はい」

    コックピットで手短に彼とのコミュニケーションを済ませる。私は絶食中だから食べられないし、飲まない方が良いだろう。ちょっとだけ唇を湿らすだけに留める。

    アグネス「(充電をどこまで満たせるか。どのタイミングでバラナヴィチに襲撃をかけるか、判断が試されている。状況は…。全体が知りたい)」

  • 8二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:42:23

    思考を巡らせていると突如、地面が揺れ、衝撃波が西南西から樹木を揺らし枯れ枝をへし折っていく。結構太いのまで圧し折れたわ。

    ギーベンラート飛行隊パイロット「わわ…」、「なんだ?!」
    アグネス「慌てるな。おそらくハンニバル級の撃破よ、ミネルバの」
    AWACSディンパイロット「確認を…」
    アグネス「お願い」

    AWACSディンを飛ばそうとした直後にコックピットモニターにグラディス提督の顔が現れドキッとする。取り合えず、離陸しようとした彼を制止する。

    東部戦線全体への放送だわ。モニターの向こうのグラディス提督は敬礼した後、感情をコントロールし、敢えて淡々とメッセージを読み上げる。

    タリア「私は月軌道艦隊司令長官・特務隊長タリア・グラディスです。各戦線の戦友諸君諸姉にお伝えします。月軌道艦隊旗艦ミネルバはベラルーシ軍管区ブレスト市にて、地球連合軍ハンニバル級陸上戦艦を撃破しました。
    当艦はウクライナ・リトアニア・ポーランドにおいて無差別大量殺戮を実行中の大型モビルスーツ、デストロイ。及びそれを支援するファントムペインの母艦でした。母艦を撃破された以上、この戦闘の終わりも近い。皆、ともに己の本分を全うし、一連の人道危機に終止符を打ちましょう」

    敬礼して放送を終える提督にこちらも敬礼する。

    アグネス「全機に通達、ブレスト方面にも注意を。破れかぶれになった敵の暴走の恐れもある。哨戒中のディン編隊、分かったわね」
    ディン編隊「了解!!」
    アグネス「電源車と電源コードの破損は?」
    バビパイロット「ありません」
    アグネス「よろしい。我々もグラディス提督がおっしゃったように各自がその責任を全うしよう。勇気と忍耐を。ここで伏して補充を続けるのも大事、ただ号令時には勇んで勇躍する。心の準備を!」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

    餌として残しておいたハンニバル級を潰したのは此方の支援とポーランド戦線の仕上げのためね。

  • 9二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:45:57

    ブレスト市の北・西、ブク川に沿ってザフト・西ユーラシア・ポーランド合同軍と戦闘中のユーラシア連邦軍を背後から挟み撃ちにして、市の南でウクライナに臨んでいる軍もウクライナ独立派軍と挟撃する。

    ミネルバから見て北・西・南に一応のケリをつけて、返す刀で北東方面に攻勢をかけてくれる、と。グラディス提督の戦略はそんな感じだろうか。

    凡その辺りを着けていると、暫く後にアビーからの入電、文章形式で報告が伝えられる。

    アグネス「(内容は読み通り。それとリトアニア合同軍はビルニュスを奪還。瓦礫だらけになっているけど、住民は良く粘ってくれたわ。リトアニアでは引き続き連邦軍の追撃戦が続行されている、と。ポーランドのビャウィスク方面は国境線の向こう側まで敵を追い出すことに成功した、と)」

    ビルニュスでは流されることに定評のある(私の中で)クレタ基地連合軍派遣救助救援隊が積極的に人道活動をしているらしい。勢力図と上の指揮系統がコロコロ変わる世界で下の部隊はポジションをどうとるかいつも困っている。

    アグネス「(ウクライナ方面でも敵軍の進撃の足はチェルニヒウ手前で完全に止まり、後退の機会をうかがっている節が見られるとのこと。ただ彼方は少ししつこいらしい)」

    ミネルバが来ていないから、というか陸戦では負けていないから不利になったという自覚が此方ほどにはないんだわ。参ったわね。

    ただ、全体としては悪くはない。デストロイはまだ撃破されていないけど、もう直、力尽きる。アスハ代表達も向かっているし、両腕を欠損したあの機体を守っている随伴機はたった3機まで撃ち減らされた。

    ウィンダム隊長機、ストライクノワール、ブルデュエル。一騎当千の強者が乗り込んでいるはずだけど、そろそろ次の脱落者が出る頃じゃないかな。

    ただ、窮鼠は猫を嚙むもの。増してあいつ等は鼠じゃない手負いの象だ。警戒心はどれだけ持っても持ち過ぎと言うことは無いだろう。

    回線をテッサロニキのメイリンに繋ぐ。

    アグネス「メイリン。良い?」
    メイリン「アグネスさん?!どうぞ」

    お疲れ顔が本当にやばそうなメイリン。私の顔も似たようなものだろう。グラディス提督も、きっとルナマリアも。皆、当分、お見合い写真は撮影できそうにない。

  • 10二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 02:57:23

    アグネス「ハンニバル級撃破後の状況変化が知りたい。デストロイはどうなっている?彼らの進路がどちらに向かうかでミネルバも私も行動を微調整する必要になる」
    メイリン「デストロイの足はほぼ止まっています。グラディス提督からも同じようなことを先程。母艦を失ったことで予想外の動きをされることを心配なされていました」

    デストロイの足が止まったなら、ワルシャワは助かるか。でも、どう動くかまだ予断を許さないわ。

    アグネス「戦況は?」
    メイリン「両腕部飛行型ビーム砲『シュトゥルムファウスト』がフリーダムに墜とされた後、デストロイ本体にはザウート部隊の2連キャノン砲の曲射が降り注いでいます。ガズウート部隊のファルコーネSSM地対地対艦ミサイルも断続的に弧を描いて連続命中を繰り返しています。
    丘の向こうのザウート隊とガズウート隊にウィンダム隊長機やストライクノワール、ブルデュエルが対処しようとしています。でも、その度にフリーダムとミネルバから派遣されたアスランさん、セイバーの連携に阻止されています。
    寧ろ、随伴の3機はデストロイの陽電子リフレクター『シュナイドシュッツSX1021』に庇われている側になっていますね。デストロイのビームシールドはほぼ張りっぱなしです。電力の消耗も激しいはず」

    タコ殴り状態ね。まあ仕方ない。使い勝手が良いようで悪い機体ね。
    アグネス「(こんなテロに使うからだわ)」

    アグネス「陽電子リフレクター発生装置もあと一つ。もうちょっとで、アスハ代表やムラサメ隊も来るから、何とかなりそうね。油断した瞬間に焼かれるけど」

    一瞬の、本当に一瞬隙が出来ればゲームオーバーだ。やり直しなど存在しない。デストロイが使い勝手がよくない面があることはあの機体が弱いことを意味しない。

    メイリン「はい。ただ、モビルスーツ形態への変形は阻止できませんでした。なので、もう少し我慢比べが続くかもしれません。電力の残りが分かればいいのですが…。でも、ザウート、ガズウートは遮蔽物となる地形を巧みに生かして頑張ってくれています。現地の人達も」
    アグネス「ええ。彼らが電源と弾薬を絶ってくれたからこそだものね」

    うん。良し。好転してきている。気を抜くわけにはいかないが、ミネルバが背中を向けた瞬間に強襲されるかもしれないと言う不安は解消されたわね。

  • 11二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 03:02:14

    アグネス「(後はデストロイの電力が尽きるのが早いか、中のエクステンデッドが限界を迎えるのが早いか)」

    電力をバカ食いしながら張り続ける大盾を支えているのはバックパック先端に残ったたった一つの発生装置のみ。両腕部を各個撃破されたら、あの機体は途端に弱体化する。

    アグネス「(随伴機は今、3機、必死になってそのリフレクター発生装置を守っていることだろう。アホらしい。もう降伏するしかないのに)」

    降伏か…。

    自分で思っておいてなんだけど…。
    これほどのことをした彼らを果たしてポーランドやリトアニア、ウクライナの人々が見逃すだろうか。彼らが降伏を許すかは…、分からない。

    ザフトの下に降伏すれば、一応裁判を受けられるだろうけど。

    アグネス「あまり聞きたくないけど。戦い前半でフリーダムに不殺戦法で墜とされたスローターダガーのパイロット達はどうなったの?」
    メイリン「5名はザフトが捕縛、残りは『戦死』したとのこと。遺体の数も確認」

    アグネス「(『戦死』ね。あの機体、コックピット部はラミネート装甲だったわね。こじ開けられるまでさぞや後悔したことでしょう。己の所業に。それとも逃げ出したところを?)」

    何にしろ、今自分が考えてどうにかなることでもない。フリーダムの不殺戦法で5名は裁判にかけることができる。それが今は一番重要だ。

    アグネス「ありがとう。もう一つ。ベラルーシでごまかしてくれていた飛行隊50機とリトアニアから逃げ帰って来た中隊の居場所は分かる?」
    メイリン「合流して62機の飛行大隊に。今はミンスク上空、半径50㎞を警戒飛行中です」
    アグネス「セーフだったわ。時間を稼いでくれてありがとう」
    メイリン「いえ。ご武運を」
    アグネス「貴女も」

    ポーランド・リトアニア方面はかなり好転している。ウクライナが微妙、南アフリカは…。考えても無理なものは後回しだ。世界の裏側のことまでは手が回らないし、私に限っては身体が本当にしんどい。

  • 12二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 07:46:36

    >>11

    >私に限っては身体が本当にしんどい。


    おい、いよいよヤバいぞ。元々負傷していて戦闘中の衝撃でさらに悪化、その上内臓をヤッているから水分・栄養補給

    もダメ。睡眠どころか休憩すらロクに取っていない。機体もあっちこちがボロボロでガタガタ。おまけに加えて、まだ

    攻撃しなければならない目標がある……。ブラック通り越してルナティックだわ。

  • 13二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 09:27:14

    あれ、これ下手するとオルドリン自治区諦めることになる?

  • 14二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 13:17:33

    >>12

    戦闘終了後は医務室送りどころか即入院コースですかね。

    安全な病院でしっかり静養…

    できるか?いろんな面で

  • 15二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 13:52:10

    テッサロニキの基地通信を経由して伝わる状況はミネルバの奮戦ぶりを伝え続けている。

    ミネルバは先ず、ブレストから南6時の方向、ブク川沿いにポーランド合同軍と死闘を繰り広げていたユーラシア連邦軍の背後を強襲、味方の巻き添えを防ぐために地上目標にタンホイザーは使えないが艦と随伴の全火力を敵の3個戦車師団と共同する3個機体化歩兵師団に全火力を投射する。

    2連装高エネルギー収束火線砲XM47・トリスタン、一番2番計4門、リニア砲・クルヴェナール、未分離誘導砲塔、そして多数のミサイル発射管から放たれたミサイルが1個戦車師団の主力をまとめて消し飛ばす。

    此方に突撃してくる対MS戦闘ヘリコプター132機にはミネルバのタンホイザーが使える。ラミアス艦長みたいに優しくないグラディス提督は勿論、即使用、敵編隊が一度に吹き飛ぶ!

    そこにグゥルに乗り込んだハイネ先輩のアビスが放つカリドゥス複相ビーム砲、MA-X223E 3連装ビーム砲、M68 連装砲、そしてグゥルの6連装ミサイルランチャー2基12門から飛び出す12本のミサイルが襲い掛かる。

    アビス傍らで同じくグゥルに乗り込んだシンのブラストインパルスのフルバーストも炸裂。ケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲、デリュージー超高初速レール砲、4連装ミサイルランチャーから噴き出すファイヤーフライ・誘導ミサイルそして6連装ミサイルランチャー2基12門から飛び出す12本のミサイルが残敵を消し飛ばし、この方面の6個師団の対モビルスーツ飛行戦力は殲滅される。

    ルナマリア達、ザク隊も負けてはいない。
    各機グゥルから12本のミサイルを吐き出すと同時にブレイズウィザードの持ち味である24本のファイヤーフライ・誘導ミサイルを一度に発射、ビーム突撃銃を乱れ撃ちにして、1機ごとに42の陸上目標を同時に粉砕していく。ザク隊10機で合わせて420だ。ブルドック、自走リニア榴弾砲、リニアガン・タンク、装甲兵員輸送車の残骸が大量生産される。

    甲板のガズウート隊6機からはファルコーネSSM地対地対艦ミサイルが1機に付き4本、計24本降り注ぎレーダー車と指揮車を破壊、ずたずたになった敵陣をガナーウィザードに換装したバクゥハウンドが縦横無尽に駆け回り、生き残っていたリニアガン・タンクと装甲兵員輸送車を消し炭に変え、降車済みの歩兵部隊を文字通り踏みにじり続けている。

  • 16二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 13:56:21

    絶望的な戦況を立て直すべく、ウクライナ方面から飛来するダガーL飛行隊はレイとデイル、ショーンのグフ1個小隊3機がボコボコと撃墜していく。アスランはフリーダムの援軍に行かせている。彼なら大丈夫だろう。

    背後からの月軌道艦隊から逃れたユーラシア連邦軍も幸運とは言い難い。前方からは本来の主力軍たるポーランド合同軍が猛攻を仕掛けている。ある意味、お手本のような包囲殲滅戦だ。約13000×6、78000人の敵軍の未来は-もう大分減ってしまっているけど-明るいとは言えない。

    カオスの充電率は25%、当初の目標に近づいているが、今はまだ仕掛けるべきじゃない。身体的な疲労が限界を迎えている。少しで良いから呼吸を整え体を休める。コックピットの中では休めていると言えるかは分からないけど。

    ミネルバは後から後から届けられる弾薬補充を甲板で受け取り、エレベーターで艦内に納めていく。

    あれを捌き切る中のクルーの働きは尋常じゃないだろう。ミネルバに手隙要員など今は一人も存在しない。引っ切り無しに弾薬補充のため発着艦を繰り返すモビルスーツ隊、アビーと整備班は脳内麻薬だけで体を動かしているのではないかな。それは私も同じだけど。

    ブレスト南にケリをつけると月軌道艦隊は南東ウクライナ方面に転進、ベラルーシ国境の町マロリタ、モクラニからウクライナ北西部にかけて展開する2個戦車師団と機械化歩兵2個師団に攻撃を仕掛ける。

    先程と全く同じ光景が展開され52000人の将兵が妻子と母親の元に帰る望みを絶たれてしまう。降伏すればまだ、何とかなるかな。

    アグネス「(充電率45%)」

    メイリンからミネルバブリッジと私の下に急報が入る。

    メイリン「ミンスク上空のダガーL隊62機がブレスト方面に向かっています!」
    前線の急変に我慢できなくなったか、まあ、ここで動かなければただのアホだからね。

  • 17二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 14:36:58

    少し一考する。この戦況、ポーランド方面の優勢はほぼ確定している。デストロイはアスランとキラ・ヤマト、指呼の間まで迫っているアスハ代表とムラサメ隊でも対処可能だ。それよりもウクライナ方面がまだ苦しい。

    アグネス「(とは言え、あちらの方面もモビルスーツ隊は壊滅している。ポーランド方面というかミネルバに回して返り討ちにあったから。五月雨式にアホかと)」

    中枢の指揮系統が麻痺したせいか、それはどうでも良い。当初の攻撃目標のみに拘泥するべきタイミングは既に過ぎている。

    アグネス「ミネルバブリッジ、アグネスです。カオスは1戦できます。上申、グフ隊とカオス、ディン隊でブレスト市東北東40㎞、コブリン近郊で彼らを迎え撃ちましょう。その間もミネルバはポーランド合同軍とブレスト北側ブク川沿いの敵軍を挟撃を続しけて下さい。敵援軍を上空で撃破した後はミネルバの着艦と補給の許可を」

    タリア「アーサー、指揮を任せる」
    アーサー「はい!」

    ブリッジの副長も相当疲労が溜まっているが、それどころではない。提督と話を続ける。
    タリア「異存はない。でも、それだけという訳では無いでしょう?」

    アグネス「はい。敵援軍の迎撃の間もバビ隊は充電を続けさせます。コブリン近郊で敵の迎撃を終え、補給を終え次第、ギーベンラート飛行隊はバラナヴィチより先にリダを強襲します。ポーランドより今はリトアニアが苦しいはずです。ミネルバも連動してください」
    タリア「適切な狙いね。良いでしょう。リトアニアとポーランドの合同司令本部には?」
    アグネス「今、作戦計画書を」
    タリア「時間がない。私と貴女の連名で特務隊として伝えておきます。健闘を」
    アグネス「はい。ありがとうございます」

    おっと、お互い敬礼を忘れていたわ。
    ハッと思い出したグラディス提督が私に敬礼してくれるので私も返礼する。精神的余裕もすり減っている。思考力の限界を迎えつつあるのが見て取れる。

    アグネス「AWACSディン発進せよ。バビ隊は充電を継続、ただ敵に察知された気配を感じたら確証がなくともその場から撤退、最先任が指揮を。ディン隊はカオスと共に。ミネルバに目がけて進むダガーL隊を背後の上空から襲撃する」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

    地理的にウクライナのことは後で考える。ミネルバの奮戦に勇気づけられたのか少しだけパワーが出てきたわ。

  • 18二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 21:30:39

    11分後、敵モビルスーツ群の通過を確認、56%まで受電が終わったバビをディン6機と共に離陸させ急上昇、奴等の背中を追う。

    コブリン近郊で迎撃に出動していたのはグフ3機。囮隊とは言え、これはどうかと思う。忘れそうになるがミネルバも合同軍もギリギリのところを戦っている。勝敗を分ける天秤は今なお最後の一滴がどちらに落ちるかを意地悪に見定めようとしている。

    62機の敵は大袈裟にもたった3機のグフに翼包囲を仕掛けようとする。彼らの士気は完全に折れている。たった3機のグフが無敵の存在に見えているんだ。月の戦いの勇名は地上まで轟いている。無論クレタや今回の戦いも。

    臆病風に吹かれ、おっかなびっくりレイとショーンとデイルを囲もうとするダガーLの背後に高度を上げて大旋回しつつ回り込むことにする。ディン1個小隊を一時的に先行させチャフを撒かせて敵のレーダーを攪乱する。

    ディンを追い越し作戦開始位置に到着すると、そのままカオスを急降下させる。

    カリドゥス改・複相ビーム砲をダガーL隊の本体2時の方向から上から下に薙ぎ払いつつ照射、10機を焼き落とす。同時に高エネルギービームライフルとビーム突撃砲で大隊長機(推定)とその両脇のダガーL、計3機を撃ち落とす。

    一撃目から敢えて一拍置き、狼狽え棒立ちになりかける烏合の衆にファイヤーフライ・誘導ミサイル24発を発射し、暗闇のロシア平原の上空を24個の火球で照らす。火はたちまち燃え尽き白い平原に散らばって見えなくなる。

    混乱からいち早く立ち直りかけた副隊長機(推定)と中隊長機(推定)を続けざまに高エネルギービームライフルで撃ち落とすと高度を更に下げて敵機に急接近し、両手でビームサーベルを抜刀、2機を斬り捨てる。

    上と後ろから押された機体が注意散漫に前に押し出された瞬間にグフ隊が突進、キャットゥス500mm無反動砲が一番前の3機を吹き飛ばし、抜き放ったテンペスト・ビームソードで三人が3機を斬り捨てる。ドラウプニル4連装ビームガンが他の動作を行っている時も唸りを上げ続け9機を追加で撃墜する。

    宇宙で何度も見たような光景がロシア平原上空でも見られるとは不思議なものだわ。

  • 19二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 21:33:35

    議長「ミネルバ隊はまだまだ余裕そうだね、もっと仕事を回そう」

  • 20二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 21:33:57

    アグネス「レイ、ショーン、デイル。カリドゥス改・複相ビーム砲を撃つ。射線軸より退避!」

    レイ、ショーン、デイル「了解!」


    たった半日ぶりに聞く彼らの声が妙に懐かしい。そんな考えを脳の半分で感じながら引き金は淡々と引く。


    赤く太い光線に9機のダガーLが薙ぎ払われ、それと同時にこの戦闘も集結する。62人が命を散らすのに20秒も掛かっていない。戦闘継続時間とその人の命の価値とは関係ない。今日の戦場の運だ。


    (カウントMS684〈+共同撃破多数〉 デストロイ2(共同)  セカンドシリーズ1(共同) 大型MA21(共同2) 戦闘機46 対MSヘリ160 大型輸送機33 VTOL輸送機33 リニアガン・タンク83〈+共同撃破多数〉 自走リニア榴弾砲113〈+共同撃破多数〉 ブルドック131〈+共同撃破多数〉 工兵車60<+共同撃破多数> レーダー車2 汎用車両・兵站車両・軍用トラック等260〈+共同撃破多数〉 対空砲7 空母11 イージス艦16 フレーザ級3 大型輸送艦1 コルベット艦2 哨戒艇1 軍用艇3 アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)


    暗闇と雪原に全ての音が吸い込まれてしまったようだ。静かすぎる。現実はどこまでも散文的なものだけど、本当にあっけない。


    レイのグフと回線が開く。コックピットモニターに青を通りこして土気色になった彼の顔が映る。


    レイ「ミネルバまで行くぞ」

    アグネス「了解。ディン隊、続け」

    ディン隊「了解」


    大丈夫?とか、しっかりしろとか言いあったりしない。意味なんか無いし、口に出したら緊張感が切れてしまいそうで怖い。


    アグネス「(互いに限界を超えていることぐらい分かっている。でも、それは今、戦っている皆も同じだ。私やこいつは、その中でもかなり負担が重い方だけどね)」

  • 21二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 21:36:21

    ミネルバは北西11時の方向、ポーランドに伸びるP-81線周辺の機械化歩兵師団を掃討中だわ。遠目でも良く分かる。兵員輸送車を捨てた歩兵が逃げ込んだであろう森林地帯が業火に包まれているから。タンホイザーで焼き払ったのか。ベラルーシ側とは言え容赦無しね。

    アグネス「(でも、それが正しい。ここで殲滅しておかないとポーランドに再侵攻を企てられる恐れがある)」

    アグネス「ミネルバブリッジ、アグネス・ギーベンラート、一時帰投します。アビー、デュートリオン・ビームをお願い」
    アビー「了解。デュートリオンチェンバースタンバイ。捉的追尾システム、カオスを捕捉しました。デュートリオンビーム照射」

    電力ゲージが急速回復していくのを横目に見つつ、ディン隊のミネルバ着艦を確認、少しでも電力は補充させる。チャフも補充させる。

    バビ隊にも指示を飛ばす。

    アグネス「バビ隊は現時点を持って充電を終了せよ。電源車は時限装置で自爆、隊は10時の方向132㎞まで移動せよ。AWACSディンと連携しながら敵の偵察を掻い潜れ。合流ポイントを送信する」
    AWACSディンパイロット・バビ隊「了解!」

    順番が逆になったから、避難勧告をこのタイミングで出す。

    アグネス「『国際救難チャンネルの放送を開始します。こちらはリトアニア合同本部航空隊です。今から10分後、リダ空軍基地と同市の軍事利用されている鉄道施設、幹線道路及びその周縁地を攻撃します。民間人は速やかに退避し、地下鉄やシェルターとなる場所、頑丈な建物に避難してください。窓ガラスには決して近寄らず、可能ならカーテンを閉めて下さい。
    繰り返す。リダ空軍基地周辺地域の民間人は速やかに避難・退避せよ。リダ市の民間人も軍事利用されている施設、軍事車両、軍事物資集積地からは速やかに退避し、地下施設か頑丈な建物の中に避難せよ。窓に近寄らずガラスの飛散に注意すること』」
    それだけ言うと途端に力が抜けそうになる。電力ゲージがせっかく満タンになったのに。部下が敵地で飛行している。倒れてなどいられない。

  • 22二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 22:19:12

    操縦桿を手が痛くなるほど握りしめ、開けてもらったカタパルトに着艦する。その間もミネルバは地上部隊との交戦を続けている。私もギブアップするわけにはいかない。一人先に抜けたら皆が倒れてしまう。

    アグネス「(此方の戦車師団3個と機械化歩兵師団3個も月軌道艦隊が背後から強襲、ポーランド合同軍と共に殲滅した。もうあと少しだ)」

    もうちょっと、もうちょっと頑張れ。

    アグネス「(コックピットに緊急入電!)」

    遂にポーランドにストライクルージュとムラサメ隊が到着したらしい。助かった…、訳ではないがデストロイも青息吐息、彼らなら上手く捌けるだろう。

    コックピットから周囲を覗くと整備班もゾンビのよう。ただ仕事はテキパキとこなす。整備班に限らず、クルーの心身の負担は相当なものだ。女性クルーや年少兵は涙を流している者もいるが、泣いて解決するわけもない。泣きながらでも手を動かし続ける。

    ヴィーノやヨウランは泣いていない。辛くないわけではない。単に忙し過ぎて感情も感覚も麻痺しているのだろう。
    ミサイル補給中のザクやグゥルがそこら中、それでもサクサク仕事は進められていく。

    マグロと同じだ。戦闘が続いているから、戦い続けているから何とか立っていられる。少しでも途切れたら皆倒れて動けなくなるだろう。その緊張感とパワーが創造的な分野に向いているなら、まだ救いがある。実際は壊す方に己の全身全霊を傾けている。

    馬鹿な考えはここまでだ。バビ隊が合流ポイントまであと少し、弾薬の補充も済んだ。

    アグネス「ディン隊、発艦します。先ずはカオスから、続け」
    ディン隊「了解!」
    アグネス「ミネルバブリッジ、発艦シークエンスを」
    アビー「了解」

    アビーの声はすっかり枯れている。のど飴何個舐めれば回復するのか。
    アグネス「(そんな無駄なことをするぐらいなら、耳鼻咽喉科に行くべきね)」

    アビー「カタパルト推力正常、進路クリアー、カオス発進どうぞ」
    アグネス「アグネス・ギーベンラート、カオス、出ます!」
    発進時には必死で声を張る。ここでドミノの最初の一枚になるわけにはいかない。

  • 23二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 00:58:33

    アグネスだけにとどまらず、他のMSパイロットもミネルバクルーも戦闘終了したらそのまま気絶してしまいそうだな…

  • 24二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 01:48:19

    議長からすると自分がヒーローって流れに持っていくためにはまだ連合のパンチが足りないかもしれない

  • 25二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 06:59:51

    さーて、誰がファントムペインの指揮官を拘束するんだろうなぁ。

  • 26二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 18:02:42

  • 27二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 19:16:07

    >>19

    タリア「ハア?」ビキビキ

    アグネス(ふざけんなブチ〇すぞこのクソ議長!)

    アスラン&ハイネ「……」

    シンルナメイetc「ハァ~~~~~~~~~~…」(めっちゃ長いため息)

    レイ「ギル…」


    マジでそんなこと言ってきたらこうなりそう

    レイも流石に擁護できんだろうし

  • 28二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:48:32

    アビー「ご武運を!」

    私の声に何かを感じたらしいアビーが発進と同時に短く励ましの言葉をくれる。嬉しいわ。
    後続したディン6機と編隊飛行を開始する際、モニターを切り替えアビーに敬礼する。

    モニター越しに彼女が慌てて返礼するのを見て、少し面白く感じてしまう。相変わらず性格悪いな、私。

    強い風に抗うようにリダに向け、スラスターをひたすら吹かせ続ける。

    どこまでも広がる暗闇、遠くで鳴り響く砲声、後背で煌めく対地砲火とまばらな対空砲火、凍り付いた大地に吹雪く風…。

    子どもの頃、ナポレオンが冬将軍でロシア遠征に失敗したと聞き、なら春攻めればよかったのに、とそう思った。この平原では冬と同じぐらい春と初夏は恐ろしい。泥土が人と馬の足を飲み込むのだと言う。

    アグネス「(じゃあ戦わなければいい、とはならないんだろうな。歴史的にこの辺りは複雑すぎる)」

    その上、まっ平で森と川以外に障壁がないこの大地、各勢力がおしくら饅頭しないではいられないだろう。せっかくユーラシア連邦が纏めてくれていたのに、いや、纏め切れてないからこうなったのか。

    ユーラシア西側の独立合戦にしても、元からの統治がきちんとしていれば仮に外から突き回したとしても発生しようがなかったはず。誰が突き回した(疑い)かは敢えて言うまい。

    アグネス「(だた…。元から火薬庫が存在したからと言って、火を投げ入れて良い理由にはならない。火をつけようとしている人を見逃していい理由にも決してならない。デュランダル議長が、この西ユーラシア政変にどこまで影響を与えたのか、私は議長が『黒』と言う証拠を掴んでいるわけではない)」

    だが、もうそんなものは必要ないだろう。黒ではなく、完全な善意の結果であったとしても今の状況は犯罪的と言って良い。それに私はザフト情報省の力量を知りようがないが、デストロイの実戦配備一つ(数としては3つ)、見抜けないほど無能とも思っていない。故意にしても過失にしても、あの男にレッドカードを何枚切るべきだろうか。

  • 29二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:56:05

    でも今は…。そのことと今の自分の義務は分けて考えなければならない。

    敵の交戦能力を可能な限り破壊しつつ、部下を生還させ母親(コンプライアンス的に親が無難かな)に返してあげないといけない。

    アグネス「(可能ならウクライナも、出来るなら南アフリカも…。今は身体の苦しさが小康状態みたいになっている。やれるだけはやらないと)」

    ディン6機と共に吹雪を切り裂いて進み、ネマン川左岸の森林公園上空でバビ隊と合流する。北北東1時の方向56㎞先にリダ市がある。

    リダは自動車道と鉄道両方の交差点であり要所、リガ駅のは多数の鉄道路線が束のように集めっている。市の南東にはリダ空軍基地、ベラルーシ軍管区最大の空軍基地の1つだ。

    到着まで後、3分50秒。

    アグネス「AWACSディン、空港の様子を」
    AWACSディンパイロット「ゲルズゲー1、防空大隊-ブルドック8と自走リニア榴弾砲4からなる防空中隊が4個にレーダー車1と指揮車1-が配置についています。
    大型輸送機24、VTOL輸送機46からなる航空輸送部隊が駐留中。陸上に積み込み前の軍事物資多数。積み込み作業を天候悪化で中止した模様です」

    アグネス「分かった。事前作戦の通りに。空港に接近したら、ディンのチャフ散布後、カオスとバビで突入します」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

    3分間と少しの合間時間、ほんの一瞬、アスランのことが頭を掠める。フリーダムと見事な連携を見せているという。流石と思う反面、僅かなほろ苦さを感じる。
    私達はあくまで仮の宿、一時の味方なのだと、分かっていた筈なのに…。私は気が付いたら随分とあの人に入れ込んでいたようだ。

    自分とミネルバの皆を戦友と思っていて欲しい、そんな気持ちは烏滸がましい物だったのだろうか。

    アグネス「(まあ、議長の詐欺から始まった関係だからね。一応、私は身内認定されているみたいだけど…)」

  • 30二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:59:29

    くだらぬ思考は本当に一瞬で吹き飛ぶ。ディンのチャフ散布が終了した。

    アグネス「突入する。続け!」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

    空港上空に8時の方向から時計回りに旋回しつつ突入する。
    第一射目で出来れば敵レーダー車と指揮車を狙いたかったが、ゲルズゲーの傍だ。空港管制塔とレーダーサイトも。吹雪に覆われた大地であの半虫の巨人は何時もより手ごわく立ちはだかっている。

    頑丈な造りの格納庫を複数発見、入っている!?
    空ではない。数と規模からしてモビルスーツが12機~15機と言ったところか。

    当てが外れたが、後続のために取り合えず1個中隊は吹き飛ばす決断を下す。
    カリドゥス改・複相ビーム砲を薙ぎ払いつつ照射、同時に高エネルギービームライフル、ビーム突撃砲を発射、雪が解けるのと同時にブルドック8両と自走リニア榴弾砲4が炎上する。

    警報音が鳴り響く中、後ろに続くバビ2機にアルドール複相ビーム砲を発射させる。目標はゲルズゲー、この一撃で陽電子リフレクターを起動させ…。

    アグネス「え…」

    半虫の巨人は首を胡乱気に見回し、その瞬間に2本の真っ赤な火柱に貫かれる。1泊後には巨大な爆発が発生、傍のレーダーサイト、管制塔、防空部隊がスローモーションのように嫌にゆっくりと吹き飛び誘爆していく。

    アグネス「お手柄だったわね!格納庫の方は始末する。全機攻撃開始せよ。ただし、電力の問題がある。アルドール複相ビーム砲は抑制的に使用せよ」
    ギーベンラート飛行隊一同「りょ…?了解!」

    皆の間の抜けたような嬉しそうな返事を聞く。その声を聞いてやっと思い至る。
    敵も、もう限界なんだ。士気も体力も集中力も。
    突如始まった大義無き殺戮、準備不足の大規模侵攻作戦、優勢から劣勢に急転する戦況、私が逆の立場だったら気が狂っていただろう。

    もう終わりだ。ただ、終わるにしろ何にせよ、まだ続いている、残念ながら。それなら有利に終わらせないといけない。

  • 31二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 00:02:36

    アグネスやシンが何か可愛げあること言ってもアスランは絶妙に腹立つこと言いそう

  • 32二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 00:05:30

    格納庫から慌てて飛び出してきたストライクダガー12機をファイヤーフライ・誘導ミサイル12発で吹き飛ばす。彼らが飛ばされた先は元居た格納庫の中だ。
    恐らく中にいたであろう整備兵や予備パーツ、補機と共に建屋内で燃え尽きていく。頑丈な外部構造のせいで爆発が逃げにくい。防火壁が下りる時間が有ったとも思えない。

    後背ではバビの猛攻がゲルズゲーの爆発を免れた物資、軍用兵器、人員を地獄の大釜に叩き落している。
    バビ8機が翼の左右に12連装航空ミサイルランチャーからミサイルを一斉に解き放ち192の目標を打ち砕く。同時に8カ所の目標がビームライフルの火焔に飲まれる。輸送機などひとたまりもない。誘爆が続いている。

    76mm重突撃機銃が8つ無数の弾丸を放ち、弾丸そのものと砕けた舞い上がるアスファルト舗装、瓦礫、鉄その他が逃げまどう兵士を容赦なく肉片に変えていく。

    仕上げにアルドール複相ビーム砲を地上に照射、8本の巨大な火炎放射器を噴き付けられた空港は地獄の様相を呈している。地上付近で戦っている私にはその有様が嫌なほど見えてします。ボクサーのポーズで焼死できたは幸運な方だった。

    バビ8機は攻撃終了と共に上昇、代わりに降りてきたディン6機もビーム突撃銃で地上の軍事物資を狙撃する。乱射じゃない、私が命じたように狙い定めた射撃を突撃銃で立て続けに行う。出来のいい部下を持てて何よりだわ。

    カオスは地上付近を旋回、撃ち漏らしを高エネルギービームライフルで焼きながらディンを援護する。

    アグネス「(ゲルズゲーがもう1機いるかもと備えていたんだけど、取り越し苦労だったか)」

    攻撃を終えて上昇するディンを先に行かせつつ、最後まで空港を警戒、もう一度カリドゥス改・複相ビーム砲を発射、今更になって接近してきたリニアガン・タンク10両を焼き払って上空の味方と合流する。

    アグネス「次は駅と駅前バスターミナル。集中力を切らさぬよう、敵を他山の石にせよ!」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

  • 33二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 00:09:31

    >>30

    ユーラシア側もザフト側も、同じように疲労をためながらフラフラで戦い続けてるんだもんな。

    余力のあるカガリ&ムラサメ組が加わったら、そのエリアだけとはいえ一気にユーラシア側が崩れるんじゃないか?

  • 34二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 01:47:49

    アグネス「AWACSディン、駅及びバスターミナルには?」
    AWACSディンパイロット「ブルドックが駅に3両、バスターミナルに2両と自走リニア榴弾砲1」
    アグネス「了解。ディン1個小隊は私と共に北東から反時計回りに防空隊を攻撃しながら進む。残りのバビ8機とディン2機は5時の方向から線路、倉庫群、停車している列車群を舐めるように焼き払いながら北上せよ」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

    指示を出した瞬間から高推力スラスターを全開にする。随伴のディン小隊にもスラスターを全開にさせる。

    リダ駅には案の定、立ち往生している列車で溢れていた。貨物倉庫も物資で溢れている。バスターミナルではほとんど無造作に持って来た物資を積み上げている。駅前の大通りには線路両側に軍用輸送車の大渋滞が起こっている。

    市を貫く幹線道路上でも多数の軍用車が立ち往生しているが、優先順位を着けて進めないと直ぐに電力が切れる。

    アグネス「チャフ散布」
    ディン小隊「了解!」

    散布されたチャフを噴き飛ばしながらカリドゥス改・複相ビーム砲を照射、バスターミナルのブルドックを傍の軍事物資ごと焼き払う。弾薬も有ったようで爆発が連続する。何でそこに置いておくんだ!

    ビーム突撃砲も発射、自走リニア榴弾砲を片側で破壊、もう片側でコンテナを貫く。

    バスターミナルと駅前道路は後回しにして駅舎前でスタンバイしている鈍いブルドックに飛びかかり高エネルギービームライフルで1両を撃破、残りの2両はビームサーベルで切り裂く。

    ブルドックの撃破を確認した後、ディンにはバスターミナル前の物資焼き討ちを続けさせ、カオスで駅舎とその周囲の路線に停車していた列車群に誕生日ケーキの蠟燭に息を吹きかけるように満遍なくカリドゥス改・複相ビーム砲を照射していく。

    高エネルギービームライフルとビーム突撃砲も掃射、大きな駅だ。路面が20本近く束になっている。列車を破壊するだけで一苦労だ。爆発誘爆、弾薬も輸送中の戦闘車両も,今更になって持ってきてどうするんだと言うストライクダガー1個大隊50機も、とにかく撃ち続ける。

  • 35二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 01:57:13

    カリドゥス改・複相ビーム砲をもう一発、客車から逃げ出し、這い出す兵ごと燃やし尽くしていく。間に合わないので胸部の20mmCIWSもフル回転させる。

    南東からバビの猛火が列車と倉庫を焼きながら北上してくる。撃ち漏らしはディンがビーム突撃銃で撃ち抜いていく。両脇の道で渋滞中の車列には6機が76mm重突撃機銃を連射している。指示が無くても工夫する彼らに安堵する。

    アグネス「ディン小隊、バスターターミナルは?」
    ディン小隊「あと少しです」
    アグネス「他の機体がかなり弾を使っている。帰り道のお守りに76mm重突撃機銃の弾は温存せよ」
    ディン小隊「了解」

    線路面上の物資を燃やし尽くしたなら、次は駅北側幹線道路で渋滞を起こしている軍用トラック、兵員輸送車、軍用汎用車両に『対処』しなくてはならない。

    カリドゥス改・複相ビーム砲を北側道路に噴射、チャージの間はモビルスーツ形態になって頭部の12.5mmCIWSも回して、軍用車両と飛び出した兵士をひたすら破壊し続ける。

    ある程度、終えたら次は南側道路…。と思ったがバビがアルドール複相ビーム砲で燃やし尽くしてくれていた。

    アグネス「ここまで。帰りの自衛のために電力温存、リダから引き揚げて全機ミネルバへ」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

    リダ上空を旋回しながら上昇すると、地上が怪しくも美しく輝いている。
    暗闇に瞬く窓の光、半分以上は停電してしまっているが、猶美しい。南東に燃え上がる空港は小規模な爆発を繰り返している。花火のようだ。
    今焼き払った駅と路線上の列車、両側道路はお祭りの時の光輝くメインストリートのよう。明るくイルミネーションで道を照らし、お祭りの爆竹が賑やかにパンパン鳴っている。

    あの光の下でどんな惨事が巻き起こされているか私達は知っている。何もしてあげられない。町の人にも今さっき砕き弾け破れさせた無数の人影にも。

    クリスマスは戦時にも訪れる。塹壕の中でも空襲後の町にも、それぞれ必死でお祝いすることになるだろう。私達にしてもそうに違いないが…。

    アグネス「(死にたい。もう楽になりたい)」

    殆んど呆然となりながら、脳裏を物騒な考えが掠める。勿論、許されない、一時の気の迷いだわ。

  • 36二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 02:03:06

    皆に命じて、編隊を組み、整然とミネルバに向かう。

    そんな中、ふと、アスハ代表の正義感が強いお顔が頭に浮かんでくる。獅子の子に相応しいがまだ、未熟な相貌。未熟なのはお互い様だけど。


    それでも彼女は南海から北の果て、西の民を救いに駆けつけて下さった。彼女が今の私を見たらなんと言うだろうか。次、お会いする日が、もし来たら私はどんな顔で彼女を見上げればいいのだろうか。


    アグネス「(卑屈になり過ぎか?彼女と私では立場が違う。何より国家元首は国民の象徴、正義の味方でないといけないから…)」


    突然、コックピットモニターにアビーの顔が映り込む。ビックリしたわ!


    アビー「報告!南アフリカのデストロイに3発目の地雷が炸裂!右足が膝関節より下、大破欠損とのこと」

    アグネス「良し!教えてくれてありがとう。南アフリカの民もオルドリン自治区の人も負けては無いわね!」

    アビー「はい!」


    虚無感に一瞬飲まれかけた心をアビーが伝えてくれた報告が和らげてくれる。地の果てでも仲間は頑張っている。正義の味方は居ても良いが、それは他の物が怠惰で良い理由にはならない。無論、かの地にそんな者は存在しないだろう。


    もしかしたら、私達の助けなどなく南アフリカ共和国(独立派軍)とオルドリン自治区の人々、そしてザフト派遣軍はデストロイを撃破してしまうかもしれない。


    己の手で郷土と家族を守り切るかも知れない。もし、そうなったらそれが一番いいはずだわ。


    アグネス「(ただ、あの機体の足より上となると…。最後の一押しはやはり赴かなければいけないかな)」


    誰がかは分からないが…。


    (カウントMS699〈+共同撃破多数〉 デストロイ2(共同)  セカンドシリーズ1(共同) 大型MA21(共同2) 戦闘機46 対MSヘリ160 大型輸送機33 VTOL輸送機33 リニアガン・タンク93〈+共同撃破多数〉 自走リニア榴弾砲118〈+共同撃破多数〉 ブルドック144〈+共同撃破多数〉 工兵車60<+共同撃破多数> レーダー車2 汎用車両・兵站車両・軍用トラック等260〈+共同撃破多数〉 対空砲7 空母11 イージス艦16 フレーザ級3 大型輸送艦1 コルベット艦2 哨戒艇1 軍用艇3 アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)

  • 37二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 08:42:42

    アグネスさん達もフリーダムがなんでコックピット狙わないかなんとなく気持ち分かっちゃっただろう

  • 38二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 15:45:46

    >>37

    >アグネスさん達もフリーダムがなんでコックピット狙わないかなんとなく気持ち分かっちゃっただろう


    「気持ちは分かるのよ気持ちは。でもねぇ? 行動不能になった後で誰かに攻撃されたり事故に遭ったりしたら

    結局同じでしょうが!! 本気で『不殺』をやり抜きたいって言うんなら、救助して、捕虜にして、手当てして、

    面倒見るとこまでやりなさいよ!! こっちはコクピット外す余裕も無いのに……!! そんな事してたら味方が

    死んじゃうのにッ……(以下言葉にならない涙声」


    アグネス・ギーベンラートさんは、相当にお疲れのようです。

  • 39二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 15:48:15

    准将って暗殺部隊を後で拷問したい時かアスランぶちのめしたい時以外はそもそも行動不能にはしないよな
    自分で帰れるようにはする

  • 40二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 16:05:50

    ザフト相手の時しかやらないとはいえ機動力だけ残して全ての戦闘能力を奪うやり方ディアッカでもやろうと思えば出来ちゃう辺りあの世代のアカデミーのカリキュラムで赤服になれた人達はすごいね

  • 41二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 16:26:15

    アグネスよりレベル上の人達は戦闘中宇宙人みたいな思考してそう

  • 42二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 00:51:04

    リダ市から西南西8時の方向に108㎞進みミネルバに合流、AWACSディンとバビ、ディンよりなる飛行隊全機を着艦させ、弾薬と電力の補給を受けさせる。

    その間もミネルバの戦闘は止まることを知らない。
    グゥルで周囲を飛ぶモビルスーツが発射するミサイルとビーム、ミネルバ甲板のガズウートが吐き出す猛火、ミネルバ本体の嵐のような火線がブク川右岸のユーラシア連邦軍に容赦なく降り注ぎ続けている。

    アグネス「(鉄床戦術もこうも決まると逆に怖くなるわね…。言い出しっぺの一人かも知れないけど)」

    ポーランド合同軍はブク川左岸(ポーランド側国境付近)でユーラシア連邦軍を拘束し続けて『鉄床』の役割を担い、ミネルバが『槌』となって背後から攻撃する。

    私達、ギーベンラート飛行隊は『槌』が振り下ろされる前に、敵の『耳目と脳神経と胃袋』を破壊して、事前に交戦能力と継戦能力を破壊し、士気もへし折っておく。

    これをポーランド東南部・ウクライナ西北部から初めて、遂にグロドノ南60㎞地点まで到達した。

    アグネス「(もう少しでミネルバはポーランド東方北部・南西部の敵に手が届く。朝までにはリトアニア国境沿いの敵軍も殲滅されるはず)」

    問題はウクライナか…。南アフリカには誰を送ることになるのか

    私もデュートリオンビームを照射してもらった後、着艦、安堵の気持ちが胸を満たす。

    格納庫について気が付いたことだが、艦内、皆の表情と顔色が改善している。アスハ代表達の到着、南アフリカ勢の奮戦、リダ強襲の成功、それと溢れ出して止まらない自分自身の脳内麻薬、それらが彼らの精神を盛り立てているのかな。

    アグネス「皆、休めるうちに休む様に。バビの電力補充が終了するまで。コックピットの外に出て深呼吸、体をストレッチして解しなさい。血行不良に要注意せよ。30分後、出撃します」
    ギーベンラート飛行隊一同「了解!」

  • 43二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 00:56:38

    各モビルスーツのコックピットから顔を出した我が飛行隊員たちは大艦ミネルバの中を見回し、しきりに感心したり珍しがったりしている。2度目の者も初回はそれどころではなかったのだろう。

    因みにカオスを合わせた飛行隊16機が着艦できるのは、本来の主たちが皆が出払ってミネルバ周辺を浮遊しつつ戦っているためだ。
    飛行隊が休憩するすぐ隣で、今も忙しくザク隊の補充と充電は続いている。

    それでも最低限の休憩が行える余裕は出来たようで、降りた人同士、早速自己紹介を行っている。

    アグネス「(レイとデイルとショーンは出撃中ね)」

    グフ隊は隙を見ては斬り込みに向かったり、エアカバーを駆けたりと忙しい。飛べる機体が少なくて本当に不便だわ。

    軍医「点滴、持って来ました」

    カオスのコックピット前に軍医1名と女性看護兵1名、昇降機で到着した。車いすまで持ってきてくれたが使う気はない。

    アグネス「ありがとうございます。コックピットに座ったままでお願いします。降りたら倒れそう」

    ヘルメットを脱ぐとドロドロした髪がもさっと広がる。異臭がするのは文字通りの意味で血反吐を吐いたせいだ。

    アグネス「(ああ。なるほど。あれが血反吐を吐くね。うーむ。皆、気軽にあの言葉を使っているのね。なかなか吐きたいと思っても吐けないし、もう吐きたくないわね)」

    実際にその苦しみを味わったこともないのにさも自分が苦労したように語るのはみっともない。その苦労を自分が負うこともなく、負ったつもりになっただけで他人に押し付けるのは醜悪を通りこして害悪だ。

    誰を念頭に置いているかは敢えて言うまい。

    実際にその苦しみを味わったこともないのにさも自分が苦労したように語るのはみっともない。その苦労を自分が負うこともなく、負ったつもりになっただけで他人に押し付けるのは醜悪を通りこして害悪だ。

    アグネス「え…」
    看護兵「えい!どっこいしょ!」
    看護兵が疲れ果てた顔とは裏腹の力強い手つきで、私をコックピットから引きずり下ろして車いすに乗せる。

  • 44二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:01:02

    降ろしたら駄目だと言ったのに!

    車いすに私を乗せると彼女は温かい濡れタオルで私の髪と顔を拭ってくれる。
    文句を言いたいけど、今度は母親のような優しい力加減が心地よくて言葉が出てこない。

    モビルスーツ昇降機上の私を見て整備班が拍手をしている。嬉しいのやらなにやら。でも『ゾンビみたい』だと思っていた人たちが活力を奮い起こして私を歓迎してくれるのは本当に嬉しい。ここには生者しかいない。せっかく今、生きているなら暁の光を見なければ勿体ない。

    ただ、それでも言っておかなければならない。

    アグネス「30分後に出ます。点滴は身体に入られるだけたくさんの願いします。多分、脱水症状と栄養出張気味のはずなので…。あ、ごめんなさい…」

    専門家の前で言うことでは無いわね。

    軍医「分かっています。血圧と脈拍と体温も計っておきます」
    アグネス「ありがとうございます。悪いことは分かっています。輸血が必要なら早いうちにお願いします」
    軍医「はい…」

    少し気まずそうな顔をする軍医殿。シン相手ならもう少し遠慮がなかったはず。異性だと気を使うのかな。

    看護兵「お顔と髪を洗いますね。出撃は35分後です。提督もそう言っていました」
    アグネス「…。はい。ありがとうございます」
    看護兵「着替えも持ってきていますよ」
    アグネス「ありがとうございます」

    看護兵はハキハキしている。うむ、強い。とは言え、介護施設か福祉施設の利用者にはまだなっていないんだけど…。

    キュルルルと音を立ててモビルスーツ格納庫を後にする。担架でもなくベッドでもなく車いすなのは彼らなりの妥協かな。

  • 45二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:03:16

    議長が真心込めて作ったお薬でもみんなに配るか?

  • 46二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:10:19

    >>45

    『偶発的な副作用』でも起こりそうだなそれ…

  • 47二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:11:53

    そのままシャワー室に連行される。手術した当日なので流石にシャワーを直接浴びたりは出来ないが、彼女は可能な限りの全力で私の身繕いをしてくれる。

    そうして新しい服を着て、パイロットスーツを半分上げた状態で点滴が始まる。ついでに輸血も始まる。腹腔内で出血しているらしい。
    出血性ショックになったら墜落する。危ういところだった。感染症と敗血症もショック症状を起こすけど…。心配だが、先ずは今やれることをするべき。

    軍医「肋骨の不全骨折が3か所増えています。幸運にも完全に折れてはいないので肺は無傷です。コルセットを急いで作り直します。何とか30分で。それから縫合した消化器が部分的に裂けてしまったようで…」

    人生は散文的なものだと分かっているけど、帰ってきたらミネルバの日常が地続きに続いていてホッとする。敵に猛攻を仕掛けている最中に日常を感じるのもどうかと思うけど。

    軍医「脾臓の損傷は中程度に…。聞いていますか!?出血しているんですよ。お腹の中で!」
    アグネス「ごめんなさい…」

    頭がショート寸前なのに…。軍医殿は全く、ありがたいけどね。

    ともあれ、状況を整理してみよう。

    アグネス「(ポーランドが一息ついたなら、目標をバラナヴィチからホメリに変えてウクライナを支援するべきか?)」
    ただ、その場合、飛行距離は343㎞以上伸びる。飛行隊の疲労、途中に攻撃されるリスク、何よりバラナヴィチが重要拠点であることには変わりはない。

    一番いいのはその2カ所を連続して叩くことだけど、今の体調は果たしてそれを許してくれるだろうか。

    瞼が落ちそうになって来る。危ない、ここで気を失えばおそらく今夜は戦えなくなってしまう。起きていないと!

  • 48二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:18:38

    アグネス「(デストロイは…。どうなった?レクリエーションルームでテレビを見たい。確認したい)」

    看護兵に目配せして見るが静かに首を振られる。その表情を見て何となく察する。当事者が見て気持ちのいいニュースばかりが流れているはずはない。今は止めておこう。

    彼女はジェスチャーで『ちゃんと休憩しろ』とメッセージを連発してくるから困ったものだわ。お母さんか、この人は。

    やがて、休憩が終わる5分前。艦内放送によると、ミネルバはポーランドとリトアニアの国境に近いベラルーシ軍管区グロドノ市周辺のユーラシア連邦軍を切り崩しにかかり始めた。

    ここが崩壊すれば、ポーランドの危機は一旦去り、リトアニアも南西部が安全圏となる。

    もう少しのところまで来たんだわ。

    点滴と献血が空になったのを確認後、針を抜いてもらう。軍医が何かを言おうと口をもにゅもにゅしていた。取り合えず敬礼してみると向こうは直立不動で敬礼を返してくれる。
    うーむ。名誉勲章パワー恐るべし。本当は向こうが先だったわけだからね。

    彼の思いやりの心だけは素直に頂いておくことにする。

    看護兵に押された車いすがモビルスーツ格納庫に続くエレベーターに乗る。モビルスーツ格納庫の階のボタンを押してもらう。エレベーターが降り始めた、その瞬間、艦内放送が急報を知らせてくる。

    アビー「全艦に通達!!ポーランドにおいてデストロイ撃破、随伴3機は撃墜!繰り返す、ポーランドのデストロイは撃破!デストロイパイロット、ウィンダム隊長機パイロット、ストライクノワールパイロットはアスハ代表等が保護・確保。ブルデュエルパイロットの生存は絶望的、とのことです」

    アグネス「…」

  • 49二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:24:43

    うん?なんだって?

    猫騙しでも食らったような感覚に襲われる。うーん。鎮痛剤のせいか。鈍いな。

    看護兵「やったー!!やりましたよー!」
    エレベーターの中に看護兵の声が木霊する。私とは対照的に後ろの彼女の感情は有頂天とでもいうべきもの。当然だけどね。

    アグネス「(とは言え、耳が痛くなりそうだわ。)」

    看護兵は若い女性特有のはしゃぎ声でやった!やった!と後ろから私に声をかけ、何を考えたのか頭をなでたり、抱きしめたり、キスをしたりし始める。

    テンション上がり過ぎだ。そもそも私の場合、対デストロイ戦は間接参加だし。

    整備班たち「やったー!うぉー!やったー!」

    エレベーターから出ると格納庫の中の皆も大喜びしている。人間いざとなると語彙が少なくなるものなのかしら。

    しかし、それも束の間のこと。皆、直ぐに手元の作業に戻る。まだ、此方では大戦争の真っ最中、気を抜いたら死ぬのは変わらない。

    アグネス「(とは言え、バランスが崩れるのは一瞬ね。あっけないほどに。もっと手間取るかとも思ったけど)」

    既に青息吐息だったデストロイとファントムペイン3機にムラサメ10機とストライクルージュの援軍はダメ押しになったのだろう。

    実際の戦力以上に精神へのダメージが大きすぎる。

    実際の戦闘の経過がどんなものだったのか気に成るところ。ただ、それは後回しだ。結果が分かるだけで今は十分。

    アグネス「(パイロット達の身柄をアスハ代表が抑えてくれたのはファインプレーね。現地の軍を信用していないわけじゃないけど。激高した兵士や市民が士官や当局の制止を振り切って暴走したら…。何が起こるか分かったものではない)」

  • 50二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:38:02

    ユーラシア連邦正規軍ならいざ知らず、ファントムペインやブルーコスモスとなると…。逮捕するように通達してあるし、少なくともデストロイのパイロットは被害者なのだと周知はしてあるけど…。今回の大量殺戮・ジェノサイドは大掛かり過ぎた。

    一度、頭が冷えてからでないとどんな過ちが起こるか予想もつかない。

    アグネス「(私はベラルーシのデストロイのパイロットを助けることが出来なかった。その人が無理やり乗せられていることを知っていた。その行為の正統性を疑ってはいないけど、ポーランドのほうだけでも助かって良かった)」

    一人の命が救われただけではない。彼ないし彼女の証言で多くの犯罪が明らかにされ、また、同じような人道犯罪に直面している人を何人も間接的に救うはずだ。

    アグネス「(エクステンデッドの治療はスピード勝負。いろいろ不味いことは多々あれど、その子だけは早めに引き取らないといけないわね)」

    ただ、ここはポーランドじゃない。ブク川右岸上空のミネルバだ。ここはここの事情があり、此方の時計で世界に対峙するしかない。

    格納庫に着くとまたキュルルル音を立てて進み、やがて2人一緒にモビルスーツ昇降装置に登場する。すると下からマッド・エイブスの声が響く。

    マッド・エイブス「アグネス…隊長、お手柄だったな。クローの内、両膝のビームクローは修理できた。だが、爪先の方は直っていない。足首も無理だ。歩行は出来ない」
    アグネス「いえ。ありがとうございます!」

    お礼をして敬礼を交わす。マッド・エイブスは私の顔を見て一瞬心配そうな顔をするが、顔がヤバいのは彼も同じだ。

    看護兵に頼んでカオスのコックピットに押し込んでもらう。

    アグネス「ありがとうございます」
    看護兵「いえ。気を付けて」

    何と無く敬礼じゃ物足りなかったので右手を差し出す。すると、彼女も包み込むようにしっかり握り返してくれる。
    何かを口にしようとしたが出来なかった。喉元まで出た何かを飲み込み今度は互いに敬礼してコックピットを締める。

    コックピットモニターのスイッチを入れ、各地のニュースを確認。やはり、ポーランドのデストロイ破壊のニュースは世界中を駆け回っている。

    ザフト軍本部がユーラシア連邦軍の無線を傍受、連邦軍内にも動揺が広がっている、と。末端の兵士まで伝わるのに1時間もかからないだろう。

  • 51二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:43:20

    おぉ、デストロイパイロット、ネオ(ムウ)、スウェンは助かったのか
    そしてミューディーはシャムス同様助からなかったと
    まあでも原作よりかはマシ、なのか?

  • 52二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:47:53

    それを確かめた後、ブリッジに回線を繋ぐ。ますます顔色が悪くなったグラディス提督が敬礼してくれるので返礼する。彼女は精一杯の微笑みを浮かべて私に話しかけてくれる。

    タリア「アグネス、出撃するのね」
    アグネス「はい。バラナヴィチへ。申し訳ありませんが、その先は分かりません」

    ミネルバと言う名の『槌』は、リトアニア合同軍が必死押し返している『鉄床』上のユーラシア連邦軍を打ち砕けてはいない。リトアニアに関してはもうすぐそこだ。打ち潰す。

    けれどその先は?

    ウクライナ独立派軍司令部は今頃、デストロイ撃破の報を受け、むしろ脅えていることだろう。
    最大の脅威が去ったことで自分達が切り捨てられるのではないか、見捨てられるのではないか、と。大団円の輪の外に置き去りにされるのではないか。

    南アフリカにしてもそうだ。

    なんだかんだと言って『所詮はアフリカのこと』として見て見ぬふりをされるのではないか。

    ポーランドのデストロイ破壊の『後』を世界は見ているはず。叶うならせめてホメリへの攻撃は…。ウクライナの援護のためには何とか…。

    アグネス「(ただ、正直、今もフラフラだ。最初の約束にバラナヴィチが入っていなければギブアップしていた。今はあそこを攻撃して飛行隊の皆を生かして返すこと以上は何も…)」

    私の迷いを看破したグラディス提督は少し目線に込めた力を強める。ああ、これはお説教モードか。

    タリア「分からないことを分からないと言い、出来ないことは出来ないと言う。軍人の基本よ、アグネス。簡単なことだけどその分勇気が要る。『貴官はバラナヴィチの軍事物資と軍事利用施設、空軍基地攻撃のため、本官に出撃許可を求めているのか?』」
    アグネス「はい。提督」

    ちょっと厳しめに言われてしまった。身体はともかく思考はフラフラして居てはいけない。部下の命が掛かっている。

  • 53二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:49:55

    天使湯に入れたらそのまま帰ってこなくなりそう

  • 54二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:56:32

    タリア「発進を許可します。安心なさい。南アフリカにはシンとアスランを向かわせます。ウクライナのモビルスーツ部隊と対MS攻撃ヘリコプター部隊は我々で殲滅させたのだから、十分義務は果たしています。少なくとも貴女自身は間違いなくね。後は他の部隊とウクライナ独立派軍に任せなさい」
    アグネス「はい!ありがとうございます!」
    タリア「武運を」
    アグネス「提督も」

    そう言って敬礼を交わす。と言うことは、シンとアスランはまた大気圏突破か…。と言うか彼らを送り出すならミネルバも大気圏をシャトルランしてリトアニア戦線に逆戻り。

    頭おかしいわ、本当に。

    アグネス「ギーベンラート飛行隊、点呼!」
    ギーベンラート飛行「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15」

    良し、皆声に力と張りがある。休憩が逆効果にならなかったことに安堵する。

    アグネス「しっかり休憩できたようね。さあ、もうひと踏ん張りよ。これよりバラナヴィチ強襲作戦を開始。ポーランド方面の補給と管制司令を粉砕し、この方面の連合軍冬季攻勢を打ち砕く。まだ、彼らの逆攻勢の可能性が残っている。その芽を完全に摘み取る!」
    ギーベンラート飛行「了解!」

    デストロイ撃破を聞いて気が抜けていたらどうしようかと思ったけど、取り越し苦労だった。元気100倍といったところね。一番、元気がないのは私か、怪我人だから仕方ない。

    アグネス「全機私に続け。アビー、発進する」
    アビー「カタパルト推力正常、進路クリアー、カオス発進どうぞ!」
    アグネス「アグネス・ギーベンラート、カオス、出ます!」

    提督に叱られて混乱しかかった頭がやっと纏まった。そうね。今はただ、今できることをやるのみ。

  • 55二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 08:51:40

  • 56二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 13:54:40

    脚部、歩行はできないけどビームクローは使えるってなると隠者の膝ブレードみたいな蹴り限定か

    部分的にでも直っただけ御の字なんだろうけど重力下だと相当トリッキーな(=パイロットにGがえらいかかりそうな)使い方しかできんな…

  • 57二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 16:52:48

    >>56

    MA形態で押し通すしかないんじゃないかなぁ。変形機能自体損傷しているんじゃないか?

    これは通常なら、この作戦が終わった時点で主人公機乗り換えイベント発生、となる所か。

    エンジェルフォール作戦は仕掛ける口実も余裕も無いのがミネルバ隊の現状だし……。


    つーかここで「AAとフリーダム墜とせ」なんて無茶振りが来たら、反乱が発生しかねんぞ。

    そこんとこ分かってるか? お前の事だぞ議長。

  • 58二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 18:43:32

    ネオを確保したのがカガリなのがなぁ…
    引き渡しを口実に仕掛けてきそう…

  • 59二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:19:52

    かと言って、ネオがマリューと再会してムウに戻らないとファウンデーション戦で詰む
    スレ主がどういう展開にするのか楽しみにしてる

  • 60二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:24:54

    ブク川右岸のミネルバを発艦、ここからバラナヴィチ市まで東南東4時の方向に140㎞、飛行して行けば10分とかからない。

    ただ、バラナヴィチ強襲は容易なものではない。あそこは鉄道と道路の要所、今更言うまでもないが、モスクワ-ミンスク-ワルシャワ-ベルリンを結ぶE-30線もあの都市を通る。

    E-30線上の状況は最悪だ。ポーランドには進めない、ミンスクには簡単には戻れない。そんな残骸のような戦車師団や機械化歩兵師団が延々と渋滞を成している。彼らがホメリに向かっていないのはウクライナで戦う用意がないのか…。

    アグネス「(残骸のようなと言うのはあくまで比喩。引き金を引けば弾は出る。ミサイルも飛ぶ。特にブルドックと自走リニア榴弾砲には気が抜けない)」

    同じような状況がリトアニア、ビルニュスに続くM-11線でも起きている。リダを通っていた道路もこれだ。リトアニアに行けなかった者、撤退してきた者でこの道路も渋滞中。

    アグネス「AWACSディン、M-11線上の状況は?」
    AWACSディンパイロット「夜間かつ悪天候のため、対MS戦闘ヘリコプターは飛んでいません。あるいは全損したのかも。防空隊はブルドックと自走リニア榴弾砲の小隊が1㎞間隔で展開中」
    アグネス「了解」
    うーむ。

    アグネス「全機高度を上げて飛行、ディン小隊は先行してチャフ散布!バラナヴィチへの接近を悟らせたくない。一気に駆け抜けるわよ」
    ギーベンラート飛行「了解!」

    スロニム市北20㎞のM-11線上空を横断する。察知されていなければいいが、どうかな。

    市内突入まで後、44㎞。空港よりも鉄道施設を優先して…。

  • 61二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:28:37

    AWACSディンパイロット「バラナヴィチ市域外延を北東からやや南にカーブして南東に通るE-30沿いに敵防空隊が配置されています!リニアガンタンク24、ブルドック12、自走リニア榴弾砲12、レーダー車1、指揮車1よりなる防空大隊が20個」
    アグネス「了解!師団規模か。やるじゃない」

    敗残の兵とは言え数はある。ここを狙われることも読まれていた。というか事前勧告していたからね。民間人の被害軽減のためだけど、墓穴を掘ったかな。

    アグネス「(鉄道施設直撃ではなく南から回り込むなら、航空基地の連中とぶつかるわね。ゲルズゲーが配備されているかどうか)」

    アグネス「AWACSディン、空港を含む南側の状況は確認できる?」
    AWACSディンパイロット「空港に大型モビルアーマーの姿は確認できません。ただ、ストライクダガーが連隊規模、空港内外に配備されています」

    アグネス「了解」
    ストライクダガーが連隊規模ね。参ったわね。ゲルズゲーどころか、ザムザザー1機を相手にするよりこの場では堪えるかも知れない。

    アグネス「(やはり、間を置きすぎたのが良くなかったか。リダ攻撃を先にしたのはリトアニアのため仕方なかったけ
    ど。今考えても仕方ないけど、戦いが長期化すればE-30線沿いから援軍が来る)」

    ギーベンラート飛行隊「了解!」
    カオスのレーダーで地形図と睨めっこしてみる。

    アグネス「一連の防空隊は…。バラナヴィチ中央駅1時の方向に9、2㎞のE-30線ループで空港から続くストライクダガーの防空隊と結節している。とカオスのレーダーで見えるけど合っている?」
    AWACSディンパイロット「はい。そこが北の端です。リニアガン・タンク12、ブルドック6、自走リニア榴弾砲6、ストライクダガー3機が守っています」

    その継ぎ目を切り裂くしかないわね。

  • 62二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:37:34

    アグネス「よろしい。全機に通達。目的を見失わないように。我々の狙いは空港管制機能と鉄道機能の効率的な破壊と物資の破却、防衛隊の殲滅ではない。順番にテンポよくいくわよ」
    ギーベンラート飛行隊「了解!」

    とは言え、ここまで守りを固められていたのは想定外だわ。決死の覚悟と言うやつを持つべきかもしれない。あくまで自分自身に限定してね。

    アグネス「先ず、中央駅から1時の方向9,2のループから。続け!」

    合図と共にバラナヴィチ外側の雪原上空を時計回りに飛行、彼らの北東方向に回り込む。
    そこには市内に入り切れなかった戦車隊、配備されたと言うより所在なさげに道路上に停車している。
    こいつ等を先に片付けなければ話が進まない。背中を晒すことになるから!
    本体攻撃に先立って、カオスを上空で急旋回させ、2時方向の敵リニアガン・タンク9両を最初にカリドゥス改・複相ビーム砲で焼き払う。

    そのままカオスを水平方向に一回転させると今度は高エネルギービームライフルとビーム突撃砲で7時方向の自走リニア榴弾砲を3両破壊、機体をループに向けて急降下していく。
    同時に胸部の20mmCIWS発射を開始、ブルドックが発射するミサイルを迎撃しつつファイヤーフライ 誘導ミサイルでリニアガン・タンク12両、自走リニア榴弾砲3両を破壊し、地面とすれすれまで降下を終了する。

    すかさずピクウス・76mm近接防御機関砲を連射してブルドック6両を穴だらけにする。ミサイルが誘爆、炎上開始。ストライクダガー3機はチャージが終わった高エネルギービームライフルとビーム突撃砲で撃ち貫き爆発させる。

    アグネス「(対ビームシールドが少しめんどくさいわね。まあ良いわ)」
    アグネス「バビ、6機降下。命令変更、2本足で降りて。2機ずつE-30線、P-2線、バラナヴィチ市外延道路上でアルドール複相ビーム砲を水平照射せよ。そのまま道路上の敵影を順番に掃討しつつ前進せよ」
    バビ隊「了解!」

    彼らは早速降り立つやアルドール複相ビーム砲を2本の道路上の敵に水平発射し始める。赤いビームの先にいる敵は上を向けた警戒を修正する間もなく蒸発するように吹き飛び炎上していく。

    アグネス「(良し。先ずはこれで良い)」

  • 63二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:44:07

    アグネス「バビ隊2機編隊は同じく降下、中央駅に続く線路上でアルドール複相ビーム砲を水平照射、線路上の敵、物資を焼き払いながらバラナヴィチ市・中央駅に向かって歩め。市域に入ってすぐの線路南側にある鉄道格納庫を見落とさないように」
    バビ2機編隊「了解!」

    線路をズカズカ歩き、駆け足しながらアルドール複相ビーム砲を撃ち始めるバビ2機、まさかの平押し。自分で命じながらびっくりだわ。

    無論、この策には決定的な弱点がある。道路からはみ出して、横列になって立ちふさがる敵への対処は無理だ。一応、薙ぎ払うように撃つことである程度は何とかなるけど。

    アグネス「ディン隊は道路外に展開する敵からの攻撃をカオスと共に警戒、襲撃。バビ隊のフォローを。臨機応変に対処せよ。2機は私と共に空港に向かう。続け」
    ディン隊「了解」

    バラナヴィチ市外延道路を北から時計回りにアルドール複相ビーム砲を発射するバビ、案の定、ストライク・ダガーは此方の戦術に即応、最初の一撃で溶け落ちてしまった縦列の仲間の轍を踏むことなく横列でそれに対処しようとする。

    横隊を造ろうとしたストライク・ダガー12機、彼らのビームライフルが此方のバビを射程に捉えるより早く、カオスを急降下させて、上空斜め上からカリドゥス改・複相ビーム砲で一気に薙ぎ払う。

    アグネス「こっちのバビは走りなさい。早く!」
    バビ2機「はい!!」

    手品の種がバレるのはあっという間だ。その間に行けるところまでは行く。

    バラナヴィチ市外延道路を北から時計回りにアルドール複相ビーム砲を発射するバビ、案の定、ストライク・ダガーは此方の戦術に即応、最初の一撃で溶け落ちてしまった縦列の仲間の轍を踏むことなく横列でそれに対処しようとする。

  • 64二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:47:25

    私は仲間を飛び越えて地表すれすれを進む。

    市の北東で『くの字』になっているP-91線とP-4戦、91線の方はバビに任せて4線のほうに展開しているストライク・ダガー中隊に高エネルギービームライフルとビーム突撃砲を発射、中隊長と小隊長と思しき3機を撃ち抜く。

    地面すれすれに飛んでいた機体を僅かに上げるとモビルアーマー形態のまま両膝のクローを展開、引搔けるような要領で6機の頭部を蹴り飛ばして破壊、メインカメラを破壊した瞬間に至近距離からビームサーベルで首から胸部までを切り裂いていく。

    やや離れた位置にいた3機は高エネルギービームサーベルとビーム突撃砲をもう一度発射、一撃で仕留めきれず倒れた機体はピクウス 76mm近接防御機関砲で上から撃って止めを刺す。

    アグネス「こちらのディン2機は地上のバビと連携せよ。直ぐに戻る」
    ディン2機・バビ2機「了解」

    町の『間合い』に入った状態でカオスを上昇させ町を飛び越える。飛び越えざまにバラナヴィチ・ボレッスキエ駅の駅舎とそばのブルドック3両をカリドゥス改・複相ビーム砲で砲撃、炎上誘爆させる。

    線路上の幾つかの列車も引火し炎上を開始、一応これで任務の達成自体は出来たことになる。合格点は取れなくとも赤点は取れた。

    タイトなコンマ単位の攻略、ほとんど邪道だ。危険を承知で町を飛び越えたのはやはり横隊での敵の攻撃が予想されるから。

    北東から南東に町の北側を走るE-30線とP-2線に南北方向で交わるP-5線、連合軍は即応してくるはずだ。

    アグネス「(E-30線とP-2線上のバビとディンはまだ無事、でも危ない)」
    アグネス「北側、カオスがP-5線上の敵を切り裂く。我に構うことなく砲撃を続けよ」
    バビ4機「りょ…了解!?」

    命令を発するや北東方向に攻撃を開始しようとしていたP-5線の指揮車とレーダー車をビーム突撃砲で斜め上から破壊、地面すれすれに下りると高エネルギービームでリニアガン・タンク3両をまとめて撃ち抜く。

  • 65二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 02:55:20

    ビームクローとビームサーベルを振り抜き振り払いながら、南北方向の敵を引搔き、切り裂き、チャージが終わり次第、高エネルギービームライフルを発射する。これを必死に繰り返して…、3、4回ほど繰り返して何とか戦車大隊1個を潰す。

    カオスの前と後ろを掠めるほどの距離でアルドール複相ビーム砲から照射された太い赤いビームが撃ち話されて行くが、今更怖気づかない。同じようなことをタンホイザーで何度もやっている。

    アグネス「(ただ、バビ組はちょっと刺激が強かったかな。モニターで顔を見たら半泣きになっていた)」

    フォローしてあげたいけど時間がない。ディンはよくやってくれている。反応が早いブルドックが発射したミサイルを撃ち落としている。その力量は大したものだ。

    AWACSディンパイロット「南側組が空港前のヤノヴァ区に入ります。空港ではストライク・ダガー1個大隊50、ブルドック12、リニアガン・タンク12、自走リニア榴弾砲12、指揮車・レーダー車各1」
    アグネス「了解」

    体中から嫌な汗が噴き出る。急がないと兵力の分散がこんなに精神を疲弊させるとは…。

    レーダーで他の編隊も確認する。丁度、鉄道組が線路上を焼き尽くしながら真直ぐ中央駅に向かっている。

    アグネス「(市街地は待ち伏せが恐い。どうして最初に気が付かなかった!アホか私は)」

    急いで指示を出す。

    アグネス「北のディン2機編隊を鉄道組へ。急いで回りなさい。上空から市街地の監視、援護。AWACSディンも要注意せよ。鉄道組は少しでも危ないと思ったら迷わず飛行、退避せよ」
    バビ鉄道組・ディン2機・AWACSディンパイロット「了解」

    P-5線上のカオスを急上昇させ、再び町を飛び越える。飛び越えながらバラナヴィチ中央駅目がけてカリドゥス改・複相ビーム砲を発射する。この一撃で中央駅駅施設の一部とバビ隊を狙っていた自走リニア榴弾砲6両、ブルドック3両を焼き払っておく。

  • 66二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 03:04:29

    カオスを上昇させ、あちらを確認すると、空港前の横断道路はバビ隊が焼き払った後だった。焼けこげたリニアガン・タンクとブルドック、自走リニア榴弾砲が点々としている。

    ある意味、それが胸壁代わりにもなったようだわ。まだ、ストライクダガーのビームライフルの餌食になった者はいない。ディンは良くぞ躱して生き残った!偉い。アグネスポイント測定不能だわ。

    町を対空砲火覚悟でまた飛び越え、そのまま空港に北西10時の方向から飛び込む。同時にファイヤーフライ・誘導ミサイル残り9発を惜しむことなく発射、横腹を晒していたストライクダガー9機を撃ち抜く。同時に高エネルギービームライフルとビーム突撃砲も発射、反応が鈍い3機も爆散させる。

    こちらに気が付いたブルドックがミサイルを一斉に発射を仕掛けてくる。ピクウス 76mm近接防御機関砲と20mmCIWSを回し続け、ミサイルを迎撃し続け、さらに、そのままの勢いで自走リニア榴弾砲を6両、ブルドック5両を撃ち抜く。

    地面すれすれを通りこして、機体を雪に擦らせながら敵大隊のど真ん中に降り立つ。モビルアーマー形態のまま、膝のクローを展開、ビームサーベルを両手で引き抜き、ピクウス 76mm近接防御機関砲はそのまま乱射、近接戦に持ち込む。

    ストライクダガーのビームサーベルが一番の脅威だ。ビームライフルも怖いが...、だからこそ乱戦に持ち込んだんだ。

    ストライクダガーを優先的に潰していく。

    膝より下を失くした人がプールで泳ぐ様を何となくイメージしつつ、カオスの両足を捻るように前後し、膝蹴りを彼らの頭や脛に叩き込む。それだけでは倒せないので両手のサーベルを縦横無尽と言うか、もう只々必死に振りかざし先が当たるを幸いに切り裂き爆散させていく。

    ミサイルや榴弾、爆散した金属片がゴッツンゴッツン、カオスに当たったような気もするが知ったことではない。ピクウス 76mm近接防御機関砲は残りの敵戦闘車両をハチの巣にして、次の瞬間には弾切れになる。

  • 67二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 03:09:11

    空港管制搭付近に引きさがって態勢を立て直そうとするストライクダガー、彼らはチャージが終わるたびにビーム突撃砲で撃ち抜き続ける。レーダーサイトも隙を見て高エネルギービームライフルで爆散させる。

    気圧されたように空港南端に追い詰められたストライクダガー共はカリドゥス改・複相ビーム砲を噴きつけ、それでようやく空港での戦いを終わらせる。

    アグネス「はぁ…。はぁ…。うぇぇ…。バビ隊…。南側バビ隊は空港に積まれている物資を全て焼き払え」
    バビ隊「りょ…。了解…」

    口元から胃液と血が溢れてくる。こんなに激しく近接戦をしたのは月以来だ。

    アグネス「(つまり最近ね。まったく何時も通りだわ)」

    ただ、それでも体には相当堪えた。指揮をしながら戦える限界が近い。身体がレッドカードどころかブラックカードを出している。

    そして、カオスの電力の消費も激し過ぎた。カリドゥス改・複相ビーム砲を撃ちまくりだ。バビもアルドール複相ビーム砲を撃ち過ぎている。

    アグネス「鉄道組、中央駅に砲撃は届いたか?」
    鉄道組「はい。かなりの物資を…。60%以上の物資と70%以上の列車を破壊」
    アグネス「十分よ。全機、決して気を抜くことなく撤退を開始せよ。集合地点は今送信する。バビはディンとの連携を重視せよ。いざとなったらディンが頼りよ」
    ギーベンラート飛行隊「了解!!」

    背後のバビとディンに注意を向ける。良し、ちゃんと命令中も休むことなく軍事物資を撃ち抜き、焼いているわね。

    アグネス「そこまででいい。先発しなさい。殿(しんがり)は私が務める」
    バビ・ディン「了解」

    カメラとレーダーで飛行隊と敵の動きを必死で追う。ここまで来て死んだら馬鹿だ。皆を何とか連れ帰らないと。

  • 68二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 03:13:15

    AWACSディンパイロット「空港以外のバビとディン全機の撤退を確認。隊長、もう少しです!」

    励まされてしまった…。まだまだね、私は。

    最後に空港から飛び立つバビとディンを見送り、バラナヴィチ市上空を大きく旋回、ともあれ皆の無事を確認する。

    アグネス「(ミネルバと合流はしない。網を張られているはず。第一、今、提督たちは大気圏を行き来した後、即リトアニア戦線復帰と大忙しだ。こちらに気を配れる状況ではない)」

    飛行隊と落ち合うまでの間に必死でコックピットデバイスを操作して、そのことをミネルバブリッジに伝え、リトアニアとポーランドの合同司令部にも戦果報告を済ませる。帰還先はポーランド国境、ビャウィストク。ワルシャワまでおそらく私は飛べない。

    今更になってE-30線に援軍に集まって来たユーラシア連邦軍を避けるため、集合地点は敢えて南東5時の方向30㎞と定め、無事に合流する。

    アグネス「皆よくやってくれた。最後までやり遂げよう。これより私達はやや大回り、ヴィゴノ・ジャンスコエ森林公園を時計回りに迂回し、軍管区内の町上空を極力避けながらポーランド領ビャウォビエジャまで。味方の制空権内に入ったらビャウィストクまで」
    ギーベンラート飛行隊「了解…。隊長、お体は?」

    ヤバいわよ。気力だけで何とか…。いや、気力と言うよりもう習性で、かな。

    アグネス「平気よ。最後まで気を抜くな」
    ギーベンラート飛行隊「了解。ご無理をせず…」
    アグネス「良いから。続け」

    必死に手元のレーダーを見ながら飛行、光学映像も勿論見ているが、何処までが現実なのか。最先任に指揮を任せるべきか?

  • 69二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 03:19:37

    議長「疲れてる?だが全ての作戦は成功して何もミスはなく誰も撃破されていないではないか、まだまだザフトのために働いてもらいたいね」

  • 70二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 03:28:23

    アグネス「(ダメだわ。依然、カオスがこの飛行隊で最大戦力なのは事実。変に指揮系統を変更してしまえば連携に乱れが出る)」

    アグネス「E-30線を超える要注意」
    そう呼びかけると先頭になって飛び越え、大きく旋回しながら最後の1機が超えるのを待って、もう一度、この忌々しい道路を超える。

    コブリンの方向からとぼとぼとレーダー車とブルドックの中隊が進んできたので、カリドゥス改・複相ビーム砲で薙ぎ払っておく。もうブルドックと自走リニア榴弾砲は当分見たくない。

    9分かけてポーランド国境を遂に到達、眼下には味方の軍勢が闇夜に息を潜めている。まだ、長い夜は明けていない。

    ただ、確かに今日の私の戦いは終わりを告げたようだ。仲間のディンとスカイグラスパーの編隊が出迎えてくれた。エスコートしてくれるとのこと。

    ポーランド合同司令部「ようこそ、ポーランドへ。ギーベンラート飛行隊の活躍に感謝する。本当に…。心から」
    アグネス「光栄です。皆の奮戦有ればこそです」

    ポーランドのデストロイ撃破には間接的支援になってしまった。仕方ないが...。それよりウクライナ、チェルニヒウ北方に攻撃を掛けてあげたかったが...。無理だ。

    ポーランド合同司令部「…。ビエルスク・ポドラスキまで緊急医療チームが到着している。そこに降りて下さい。もう少しです」

    アグネス「ありがとうございます。では、駅前広場に」
    ポーランド合同司令部「分かりました」

    何だか至れり尽くせりね。口調も途中から丁寧になっていたし。私以外にも負傷兵は大勢いるはず。その中にはより重傷な人も。

    アグネス「(あんまり特別待遇を受けすぎるのも感じ悪いわね。他人から見てどうとかじゃなくて…)」

    ただ、現実的に私はかなり苦しい状況にある。ポーランド到着と味方制空権に入った途端、緊張の糸が切れたことを自覚せざるを得ない。

    既にカオスの制御が危うくなっている。操縦桿が上手く握れていないのか、いや。握れてはいる。

    平衡感覚が怪しい。視覚が狭窄しつつある。身体が痛くないのがかえって不気味だ。

  • 71二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 03:39:01

    アグネス「全機、ビエルスク・ポドラスキ駅前広場に着陸せよ」
    ギーベンラート飛行隊「了解!!隊長、もう少しです」

    部下から気を使われるとは…。上官への道は険しいわね。

    アグネス「余計なことは…。いいえ。嬉しいわ。きちんとした形で言いたかったけど、短く別れの挨拶を。諸君と今日一日、全身全霊を賭して戦い抜けたこと。この欧州、そして世界を包もうとした憎悪の業火と対峙し、それを打ち砕くことが-アフリカがまだか-その端緒を掴むことが出来たこと、誇りに思う。この飛行隊のことも」

    何だか締まらない訓示をしつつ、駅前広場に皆で着陸、救急車両が既に到着している。

    アグネス「今後も厳しい戦いが続くことになると思う。明日の夜明けがどの様なものになるか、誠に申し訳ないが私は確信を持って答えることはできない」

    本当に対ロゴス戦を並行で進めるのは勘弁してほしい。じゃあ講和後に始められるのかと言うと無理だから…、どこかと単独講和を。今考えることじゃないか...、今は病院行きだ。

    アグネス「ただ、それでも、剣が鎌となり、槍の穂先が鋤となる日が遠からず来ることを願ってやまない。その日まで私は、隷属を断固として拒絶する怒れる人々の側に、正義を希求するプラントを含む諸国民の傍に決然と立っていたい。どうか諸君もその隣にあって欲しいと願う」

    途中から何を言っているのか自分でもわからなくなってきたわ。ともかくカオスのコックピットを開き、皆に敬礼して見せる。

    慌てた全機がコックピットを開き同じように敬礼してくれる音がかすかに聞こえる。残念ながら皆の表情を見ることは叶わない。視野が暗転したから。

    敬礼の手を下ろすと同時に、私は静かに意識を手放した。

  • 72二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 08:14:50

    …隊長?
    隊長ーーーー!

  • 73二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 12:32:04

    議長、というか上層部視点だと損害あんまり出てなくて大きなミスもないんだから現場の辛さ分かりにくいよな
    議長視点だと多少イレギュラーあったとはいえDPまでの道程マジで順調でネオジェネシスとレクイエムとそれの守護神のシンとアスランを優遇しまくって後はキラとオーブとラクス排除すれば完全勝利に見えるだろう

  • 74二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 15:42:42

    このレスは削除されています

  • 75二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 15:52:17

    >>71 >>72

    ああ、なんと空高くひるがえるデスノボリ(涙。生き延びねばプロパガンダ映像のクライマックスを飾って終わりだぞ~!!


    >>73

    そう言えば、シンとアスラン、このブラック戦闘で体調崩してたりしてないのか? いくら頑丈自慢の二人とは言え、連戦

    連戦また連戦で疲弊しまくっているだろうに。議長が今ノコノコ前線視察に来たりしたら、空気が凄く悪くなりそう……。

    グラディス提督、こういう時こそその肩書と権限に物を言わせて、どんな名目でもいいから休養をもぎ取るべきでは?

  • 76二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 19:56:10

    提督、もういっそのこと議長ぶん殴っちゃいましょう
    そんなことしたら拘束&FAITH剥奪だって?それはそう
    でも情状酌量くらいあったっていいんじゃない?

  • 77二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 22:43:34

    このレスは削除されています

  • 78二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 00:27:17

    ぼぉーっとした意識の中を彷徨っている。不思議な感覚に包まれた時間が私を包んでいる。車に乗ったり、輸送機に乗ったり、緊急救命室に担ぎ込まれたり…。順番は定かではないけど。


    そうして起きているのか、寝ているのかよく分からない、意識を手放したかと思ったら、取り戻したりを繰り返し、集中治療室の管に一杯繋がれた自分に半ば呆れては気を失い―。


    意識は五里霧中、トンネルを抜けて道路を歩き、またトンネルに入る。トンネルとトンネルの間に目に入る光景は散々なものだ。


    砕かれ肉片になった人の残骸。ピンクの肉塊から白い骨がつきだしている。ドロドロした内臓もばら撒かれている。車両の中で口を叫ぶように空けながら黒焦げになっている人影、そんな軍用車を何度も見かける。


    そう言えば、モビルスーツパイロットはどんな最期を遂げる者が多いのだろう?

    体感的には爆発に巻き込まれて、ほぼ即死できる者が多いように思っているけど。本当の所、機体の中の状況なんて分からない。偶に見えてしまう時は凄惨なものだった。

    蒸し焼きになったり、実体剣に真っ二つにされたり、破片や衝撃で人体を破壊され、長時間苦しんだ挙句、と言うことも少なくない。


    アグネス「(と言うか、今の私がそうなりかけているのか。戦場の運と割り切るしかないわね…)」


    (カウントMS773〈+共同撃破多数〉 デストロイ2(共同)  セカンドシリーズ1(共同) 大型MA21(共同2) 戦闘機46 対MSヘリ160 大型輸送機33 VTOL輸送機33 リニアガン・タンク141〈+共同撃破多数〉 自走リニア榴弾砲154〈+共同撃破多数〉 ブルドック174〈+共同撃破多数〉 工兵車60<+共同撃破多数> レーダー車5 汎用車両・兵站車両・軍用トラック等261〈+共同撃破多数〉 対空砲7 空母11 イージス艦16 フレーザ級3 大型輸送艦1 コルベット艦2 哨戒艇1 軍用艇3 アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)


    だけれども、彼らはまだマシなのだ。対等な勝負の結果なのだと、そう自分に言い聞かせる。


    そうして、また、トンネルを潜る。

  • 79二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 00:35:28

    今度は波打ち際に打ち上げられた屍。汚れた港湾内に俯きになって浮かぶ人の群れ。
    ガスで膨れ上がるのはもう少し先だろうか。大抵の者は、吹き飛ばされたときの衝撃で目玉が飛び出している。引き裂かれた顔や着水時の衝撃で奇妙にねじ曲がった手足、死ぬことができた者は幸福だったかもしれない。

    大波の狭間、眼球を失い、服は破れ裂け、手足は捩じれ、おそらく鼓膜は破れ、それでも生存を諦めきれない人の群れが自分の網膜から溢れ出してくる。飛び込んで来るのではない、脳の中から溢れてくるんだ。彼らは、油塗れの海の上で必死に手足をバタつかせ、大声で叫んでいる。『助けてくれ』と。

    この光景をどこで見たのだろう?海と言うだけでは分からない。あっちこっち回って来たから。

    次のトンネルに入って、抜けた先は何処だか分かりやすい。
    凍えるような雪景色、大河や海面でさえ凍結している。敵味方の戦車に引き潰され、雪の中に潜り込み土と一体化していくピンクの塊。

    吹きかけられた火炎放射器のような砲撃で列車ごと焼かれる兵士達。あの列車は何人乗りだったのだろう。戦時のこと、20両編成1200~1500人ならあの『一本』だけで連隊規模の兵士が生きたまま炭に変ったことになる。

    吹きかけられた火炎放射器のような砲撃で列車ごと焼かれる兵士達。あの列車は何人乗りだったのだろう。戦時のこと、20両編成1200~1500人ならあの『一本』だけで連隊規模の兵士が生きたまま炭に変ったことになる。

    無論、一本などで済ませてなどいない。客車も貨車も待合スペースも必死になって焼き払い吹き飛ばした。駅だけでなく空港も。輸送機に乗っていたのが人か物か、そして空港施設の中の様子までは知りようがない。

    アグネス「(軍事利用されていたから…。ほぼ兵士だったはず)」

    狙ってなどいないが、衛生兵や従軍記者も乗り合わせていたことだろう。軍隊と軍属と民間業者が混在する空間も多かった。致し方ない、そう思うと決めた。

    彼らが悪者だったわけでは無いし、私はモンスターではない。いくつもの偶然が-悪い巡り合わせが重なって末のことだ。双方、犯罪を犯したわけでは無い。『あいつ等』と違って。

  • 80二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 00:43:43

    どうであれ…。遺体がどんな形であれ、残ったなら良い方だ。近距離で攻撃を浴びた者はDNAすら採取困難だ。

    タンホイザーなら、跡形も残らない。

    戦死者の遺族は心に折り合いを何時つけることができるのだろう。帰らぬ人を待ち続け、もう残ってなどいない遺体や遺骨を探す日々を何十年と続けるのだろうか。

    アグネス「(それはデストロイの被害者も同じこと。亡くなった人数の何倍も多い人達の人生を不可逆的に破壊したんだ。たった1日と少しの間で)」

    トンネルの向こうで、轟音と閃光で全てが飛び散る爆発の連鎖に直面する。自分には無効なようだが、周囲の人は異なる。
    風圧が彼ら彼女らの目玉を潰し、鼓膜を破り、ガラスは粉々に割れ、建屋の屋根を吹き飛ばしていく。燃え上がる建造物、倒れる石壁、遠くに見える爆心地に至ってはコンクリートまで抉り、鉄骨が千切れてしまっている。

    私は無事だ。吹き飛ばした側の人間だから。傍らの人々は違う。
    彷徨う亡霊のように水を求めて川に向かう彼らを引き留めるすべはない。外傷だけならまだ良い。
    もし、気管熱傷を負っているなら水を飲んだら死ぬ。気管が腫れ上がって呼吸が出来なくなるからだ。だが、もし知っていたとしてもやはり川辺に向かうしかなかったろう。

    凍結した川から水を掬うことが果たして出来るだろうか。

    その後の様子を直視する勇気はない。あるまじきことだと分かっているけど…。

    眼に浮かんだ涙を拭こうと右手を上げようとするが、手が上手く上がらない。おかしい、そう思って何度も上げようとする。

    困惑していると誰かが優しく目元を拭ってくれた。お礼を言いたくて頑張って瞼を開ける。

  • 81二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 00:44:42

    多分何の関係もないニコルトールフレイ死亡の回想シーン流れてる

  • 82二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 00:52:26

    白い病室に赤いツインテール、緑の制服…。

    アグネス「おはよう…。メイリン」
    メイリン「あ…。おはようございます。アグネスさん。看護師さん呼びますね!!」

    そう言いながら彼女はナースコールのボタンを押し、病室内の通話装置に近寄るとそちらからも医師と看護師に声をかけている。

    左手腕を見ると点滴、私の腕穴だらけだわ。薬物常習者みたいで本当に嫌になる。

    アグネス「(メイリンが傍にいてくれた。すごく嬉しい。でも、あんまりビックリしない。何時もの日常が戻って来た、その安心感…。本当にありがたい。それはそうとここは何処であれから何日だろう)」

    目線を上に上げて天井を見上げる。

    アグネス「知らない天井だわ」
    メイリン「私もベルリンの病院は初めてです。あ、ごめんなさい。ここはベルリンです」
    アグネス「ありがとう。ポーランドから移送されたのね」

    名前でしか知らない町、メイリンがカーテンを開けてくれる。窓辺の部屋には雲間から光が差し込む。うーん。北ヨーロッパの冬は気が滅入るって本当なのね。

    アグネス「まあ、それでも助かって良かったわ。手足はついているみたいだし」
    メイリン「臓器も欠けていません。ただ、傷ついてはいます。詳しくは先生に」
    アグネス「分かっているわ。大丈夫よ。…ルナマリアは無事?」

    すごく怖いことを意を決して質問する。これでもしも…。

    メイリン「お姉ちゃん?ピンピンしてますよ。一回倒れてしばらく起きれませんでしたが、もう平気だそうです」

    何か、聞き捨てならないことを聞いた気もするけど…。今生きているなら良し!それを聞いて何か安心しちゃったわ。シン達は…、うーん駄目だ。

  • 83二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 01:00:50

    ただ、ここで彼らの安否を聞かずに昏倒するのは余りに不義理だろう。

    アグネス「うーん…。寝たいけど!シン達は…。と言うか死んだ人は?」
    メイリン「…。ミネルバと月軌道艦隊に限定するなら、全員無事です。アグネスさんが率いた飛行隊の人も」
    アグネス「そう…。良かっ…たわ」

    ガクッとなりかけるが、メイリンがユサユサして起こそうとする。ありがたいけど、医師の話を聞くのは後だ。

    メイリン「もう先生呼んじゃいました。頑張ってください」
    アグネス「疲れた寝たい」

    付き添ってくれたメイリンには本当に悪いけど、仕方ないの。

    アグネス「ごめん。本当に無理、そうお伝えして。でも、これは現実?幻なんかじゃ…」
    メイリン「現実です。うーん。どうやって分かってもらえば…」

    困り顔の彼女を見て確信した。現実だわ。幻の中で友人が『これは現実です』と言って、此方に証明するための証拠を考え始める等、聞いたこともない。

    義理堅いルームメイトに申し訳ないけど…。本当に悪いけど。この状態で医師の説明を聞くのは無理だ。

    閉店まじかの百貨店のシャッターのように重くなり始めた瞼が上から下に落ちた瞬間、また意識がストンと落ちてしまった。

  • 84二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 06:03:42

    >ミネルバと月軌道艦隊に限定するなら、全員無事です。アグネスさんが率いた飛行隊の人も


    良かったー…いやまぁ他は何十万人規模で死んでるんだろうけど……

    関わりの深いメンバーが生還してるのは何よりだわ

  • 85二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 07:18:04

    とりあえず決着か
    これでヘブンズベースまでやるならどうなってしまうんだ…

  • 86二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 17:36:44

    そもそもヘブンズベース戦ができるのかどうか。
    確かにロゴス勢が逃げ込みそうだし、連合サイドからも敵視されてそうだが…
    連合の(ユーラシア?)のMSやデストロイもこの戦いでかなり破壊されてしまったわけだが、これまでのとは別に確保してるのかな…

  • 87二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 19:26:30

    >>86

    確か種運命でヘブンズベース攻防戦に投入されたデストロイは五機ばかり。今回の一連の作戦で撃破されたデストロイが

    四機だったか? これらがヘブンズベースの防衛部隊から引き抜かれたとしたら、最低でも後一機は残っている事になる。

    ましてや、種自由で暴れていたのまで含めれば、さらに予備機が存在する可能性は十分にある。


    ……とはいえ、この一連のヨーロッパ防衛戦で「デストロイ=無敵の最終兵器」というイメージは崩壊したわけで、少な

    くとも「デストロイさえけしかければ勝てる」と思って居たロゴスメンバーは皆顔を青くしているだろう……。

  • 88二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:29:15

    短いが深い眠りの淵から、プカァーと浮き上がるように再び瞼を開く。白い病室に不釣り合いなほど綺麗な花が生けてある。窓辺から見える雲は相変わらず、厚く重たげだ。

    看護師「アグネスさん!?目覚めましたか?ご自分の名前、言えますか?」

    傍には看護師、メイリンの姿はない。彼女もずっと付きっ切りになれるほど暇ではないだろう。

    アグネス「アグネス・ギーベンラートです」
    看護師「良かった。直ぐ先生をお呼びします。手術は成功ですよ」
    アグネス「ありがとうございます」

    私の返事を待たずに、看護師はブザーを鳴らし、医師を呼び出す。左腕を見ると、成程、点滴が無くなっている。交換に来たのか。

    改めて病室を見渡す。部屋は第一印象と異なり、白一色ではなく、ちゃんと緑やピンクも配色されている。患者のストレスを緩和するためだろう。ピンクが多いのは女性用の病室だからかな。

    アグネス「(うーむ。真っピンクと言うよりもう少し濃いめが好きなんだけどな)」

    もっと女の子している人間だったような気もするけど、変わらざるを得ないことが多すぎたわ。

    アグネス「(そう言えば男と縁がない生活しているなぁ。士官学校(ザフトアカデミー)出てから。あの頃は若かったわ)」

    看護師「大丈夫。もう安心してくださいね」
    アグネス「はい。ちょっと考え事をしていただけです」
    看護師「考え事…?」
    アグネス「ええ」

    看護師は私の要領を得ない回答に首を傾げかけるが、怪我人の言うこと、聞き流すことに決めたようだ。

    アグネス「(ミネルバに来てから、本当に忙しかった。周りはアホとコミュ障と『良い人』しかいないから。その人達、皆にお世話になっているから、あんまり強くは言えないけど)」

  • 89二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:40:01

    手柄を上げ始めたあたりから、男性からは避けられがちになったようにさえ感じる。
    男は手柄を上げて出世すれば、トロフィーワイフにトロフィー妾をゲットし放題なのに、女性は引かれてしまう。

    そんな志の低い男など願い下げだと今も思っているけど、何だかなぁ。
    人生思い通りにはなかなか行かない。

    昔と違って、いや昔よりは少しだけマシになって、女性が前に上に行くことへの世間の風当たりは緩やかになった。でも、男女の交際において立場がもたらす作用は明らかに違う。

    アグネス「(私は断じてトロフィーワイフになどならない。私がトロフィー男をゲットしてやる。そう思ってこれまで進んできた。これからも…。でも…)」

    まあ、それをどうこう言っても仕方ない。

    と言うか、ミネルバに、軍艦に乗り込んだ以上、職場恋愛の望みは無きに等しい。私の見通しが甘かったということに過ぎないわね。

    そんな取り留めのないことを考えると、医師がパタパタと駆けつけて来て、術後検査をもう一度受けることになってしまう。確認だと言うから仕方ない。

    病院内を、あっちこっちをたらい回しにされ、ようやく検査が終わったかと思えば、病室で待機、何だかな。

    今日はあの戦いから3日後だった。最後にポーランドに着地した日から数えて3日後、今はちょうど正午ごろ。この間、世界はどうなりミネルバがどうなっているのか疑問は尽きない。

    アグネス「(テレビを見たいわね。良いかしら?)」

    病室内にあるテレビ、視てはいけないものではまさかないだろう。看護師の目を盗む様にスイッチを入れてみる。

    ニュース番組をチャカチャカ変え、病室にメイリンが持ってきてくれたデバイスを操作して情報を搔き集め、整理してみる。フェイス特権も利用、情報は力だ。

  • 90二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:42:40

    こういう世界ならトロフィー男ガンガンお亡くなりになりそう

  • 91二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:46:31

    ふむ。なるほど。

    まず、私が倒れた日の午前中に南アフリカのデストロイは撃破された。陸上戦艦ハンニバル級も撃破され、随伴機も殲滅された。
    セイバーとインパルス、つまりアスランとシンの活躍、そして現地の独立派とザフトが派遣したオルドリン地方防衛隊の協力が有ればこそ、と評されている。

    地球連合軍・ファントムペインの侵攻は何とか中部の大都市ブルームフォンテイン手前で阻止された。オルドリン地区があるイースト・ロンドンやケープタウン、ポートエリザベルは何とか無事だ。

    とは言え、ポロクワネ、プレトリア、ヨハネスブルグと立て続けに3都市を壊滅させられた被害は余りに大きい。

    アグネス「(ポロクワネ市で死者約14300人、負傷者143000人、被災者443000人。プレトリア市で死者約7000人、負傷者70000人、被災者217000人。ヨハネルブルク死者80500人、負傷者800000人、被災者2500000人)」

    ニュースとザフト内部の情報に誤差がほとんどないのは驚くべきことだ。もし、南アフリカ単体での発表なら誇張されているのではないかと勘繰っていただろう。

    デストロイとハンニバル級、スローターダガー一個大隊48機が業火で覆いつくした犠牲者の総計は死者101800人、負傷者884300人、被災者2761300人。

    アグネス「(死者10万、負傷者88万4千3百、被災者276万1千3百人。少し眩暈がする数ね。これにファントムペインとの戦いで戦死した南アフリカ・ザフト軍人の死傷者・行方不明者が更に加わる)」

    アグネス「(ただ、私も相当な数を…。止めよう、不毛だ。南アフリカのことを考えるべき)」

    どうであれ、これほどの破壊、南アフリカ独立後の発展に大きな爪跡を残すのは避けられないだろう。

    ただ、今回の事態を受け、南アフリカ内の世論は独立一色となり、その勢いはもはや南アフリカ統一機構の全力を以てしても抑えきれない。

    プラント最高評議会も『オルドリン地区をオルドリン自治区として自治権を認め、ザフトの防衛隊を駐留させることに同意するなら』南アフリカ共和国を国家承認する見込みと報じられている。

    今回の大量殺戮は結局、南アフリカ独立の最後の決め手になっただけで終わってしまった。完全な藪蛇としか言いようがない。

  • 92二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:53:37

    南アフリカのことは分かった。夜明けの後の世界で南アフリカの民とアスラン、シンはなすべき務めを全うした。

    それはそうとして…。もう一方の地中海戦線を確認してみる。

    ミネルバにボコボコにされたとはいえ、地球連合軍クレタ島司令部は未だにスペングラー級空母14、フォビドゥンヴォ―テクス2、ザムザザー2、ゲルズゲー4、ユークリッド10、 ウィンダム255、ダガーL215を有する大軍団だ。

    もし、彼らが今回の冬季攻勢に途中からでも参戦すれば世界の情勢は一変したかもしれなかったのだが…。
    クレタまで流浪の旅を続け、ミネルバとの決戦で一度、敗北する形で停戦した彼らに戦意は残っていなかった。

    アグネス「(おまけにクレタ島部隊の将兵は西欧・中欧を始めとするユーラシア西側出身者がほとんど。将官でさえ今回の今回のファントムペイン・ブルーコスモスの侵攻、それを奇貨としたユーラシア連邦軍の冬季攻勢に反発していたらしい)」

    だから、武力を用いない人道活動と言う形で対デストロイ戦に事実上加わっていたとのこと。ギリシャ独立を『鎮圧』する意思も消えてしまったらしい。ザフトとギリシャ新政府にイエラペトラ離島部とレティムノ県を既に引き渡し済みだ。

    アグネス「(私やミネルバがベラルーシで必死になっていたころの決定ね。何だったのかしら、この人達の戦争は)」

    偶にロボットアニメで国や勢力図がコロコロ変わり、合従連衡が激しい世界観を舞台としたものがある。よく疑問に思ったものだわ。ああいう世界の真ん中より下の人達は自分の国や勢力、指導者がどこの誰で、彼らのイデオロギーがどんなもので、自分達がどの勢力と戦っているのかちゃんと把握できているのか、と。

    歴史上は稀に良くある現象なんだけどね。うーん。ああなるか。瓦解してないだけ凄いと言うべきか。

    何にしても、クレタ島連合軍の支配地域は、残りソウダ湾海軍基地とハニア国際空港、マレメ空軍基地が存在するクレタ島最西部ハニア県だけと言うことになる。

  • 93二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:59:20

    彼らが集団サボタージュを決め込んでしまったことで、マルタ島沖の地球連合軍北アフリカ諸勢力合同艦隊は当初の戦略目標を喪失、アルジェ、チェニス、トリポリなどに引き返してしまった。それによりマルタの独立と西ユーラシア連邦加入が確定したとのこと。

    アグネス「(ただし、地球連合軍スエズ基地とエジプトの艦隊はまだ諦めておらず、キプロスの情勢は一触即発で予断を許さない。彼ら自身は負けてないんだから当たり前か)」

    南アフリカと地中海戦線の状況を確認していると看護師が入室してきた。テレビとデバイスを消して彼女の案内に従って診察室に進む。
    アグネス「(おぉぉ。そう言えば歩けているぞ!私、流石軍人、鍛えてきたかいがあったわ!)」

    単に3日経っているからかもしれないけど。関節が固まってないのはケアしてくれたのか。

    診察室では几帳面そうな医師が私を待っていた。敬礼ではなく握手を求めてきたところを見ると軍人ではなく文民の医師らしい。ともあれ手を握る。

    医師「ふむ」

    ああ、これも診察の一部だったのかな?

    医師「初めまして、アグネスさん。プラントのフェブラリウス市の大学付属病院からは出向している者です。移送されてきた負傷兵や被災者の治療をここベルリンでも」
    アグネス「心強いことです」

    取り合えず、そう応じると彼は微笑みを浮かべ自分の名前を述べて、その後、すらすらと私の身体の状態を教えてくれる。

    医師「まず、左鎖骨と左の肋骨6カッ所の不全骨折-ヒビ-についてですが。若いので治りも速いでしょう。早期回復のため最新医療も行っています。1か月以内の完治を見越していますが前倒しに出来れば、それに越したことは無いでしょう。骨はコルセットとバンドで固定しているのでしばらくは安静にしてください。リハビリのタイミングは状態を観察して、お伝えします。」

    アグネス「はい」
    右は無事か。良かった。利き手だから。と言うかさっき動かしていたわね。こうして身体は治っていくのか。

  • 94二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 02:04:17

    医師「全身打撲により炎症があります。特に両肩、胸部、両腰骨の上、腹部が酷かったのですが。3日寝ている間にだいぶ良くなっていますね。首と頭が無事だったのは何よりです。ただ、腫れや痛みが完全に引くまで後、4日程度はかかるでしょう」

    アグネス「ありがとうございます」

    ここまでは良い。自分で見えるか把握しやすい部位だ。お腹の中が気になる。

    医師「消化器官の裂傷が広がっていました。脾臓は中程度の損傷、出血していました。なので腹腔内を洗浄し、消化器は再び縫合、脾臓は輸血をしつつ経過観察を行っていました。検査の結果、脾臓は特に合併症を起こしていません。輸血はもう必要ないでしょう。一応、生殖機能に影響がないか調べましたが、問題ありませんでした。安心してください。
    消化器については病院が用意する流動食を食べて下さい。それと点滴を。点滴終了は5~7日後、つまり今から2~4日後を予定しています」

    アグネス「は…。早いですね」
    上手くいけば半年か1年、傷病休暇取れるかと思っていたのに。

    医師「コーディネイターで尚且つお若いですから。軍人さんとしてよく鍛えておいでですし」
    アグネス「ははは…。ありがとうございます」

    何でも国防委員会、ザフト軍本部は惜しみなく資金を投入し、最先端医療を施して全力で私の早期復職をサポートして下さっているとのこと。これは私のみならず、パイロット、特にエースパイロット全体に行われている措置なのだそうだ。

    アグネス「(優秀なパイロットの人材が払底しているのか、ある種の論功行賞か、軍の人命重視アピールか、はたまた何か大規模な作戦を行う積もりでもあるのか)」

    まあ、なんだって良い。3日間休めて今、自分の足でよろよろしながらでも歩けている!流動食でも口から物が食べられる!!それだけで今は十分だわ。

  • 95二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 02:11:52

    短い冬休みを楽しむべきか、ミネルバの皆がどうなっているのか、そんなことを考えて歩いていると顔色の悪い金髪の麗人が私の部屋の前をうろうろしている。

    アグネス「あれ?レイ?病院服なんて着てどうしたの?」
    レイ「どうしたも何も…。入院中だ。俺もこの病院に。それとグラディス提督もアビーも」
    アグネス「え…。負傷したの!!??」
    レイ「二人は過労だ。アビーは今日退院で…」

    フラフラ眩暈がしそうになるが、何とか病室を開けベッドに座り込む。メイリン、何も言っていなかったじゃない?!いや、言えるわけないか…。私がこれじゃあ。

    レイは所在無げにまだ、病室前をウロウロしている。ウザい。

    アグネス「…。入って良いわよ!」
    レイ「失礼する」

    はぁー。何でこいつが来るかな。メイリン早く来て欲しいわ。

    そんなことを思っているとレイが病室内の椅子に座り真直ぐこちらを見つめてくる。彼の瞳を見て、私も姿勢を正す。そうか、その時か。

    レイ「俺は昨日から正式に傷病休暇に入った。明日の便でフェブラリウス市のエルスマン博士の病院に転院する。早老症の治療に入るそうだ」
    アグネス「そう。貴官の奮戦力闘に心底からの感謝を。ありがとう。何度も助けられたわ。これ建前じゃないからね」
    レイ「分かっている。俺の方こそありがとう」

    静かに微笑むレイの顔を無性に引っぱたきたくなる。こいつの存在が知らない間に私の中で随分大きくなってしまっていた。喪失感が胸を深く大きく抉っていく。

    アグネス「(アホか。死ぬわけじゃあるまいし。寧ろ死なないために行くわけだし)」
    恐らく、ここらが彼の身体の限界だろう。回復…、は出来るかどうか分からない。それでも症状の進行が止まったり、緩やかになってくれればと、今は本心から祈る。

    アグネス「皆はもう知っている?と言うかミネルバは今どこ?」
    レイ「ああ、知っている。ミネルバはキールだ」
    まあ、今の情勢ならキールか…。皆はこいつの見送りに来られるのだろうか?

  • 96二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 06:07:25

    遂にレイが戦線離脱か
    とはいえ、これで少しは症状が改善されて欲しいな
    あれ、となるとレジェンドは誰の手に?いや、元々はアスランに渡される予定の機体ではあるけれど

  • 97二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 08:02:55

    もしかしてアークエンジェルの活躍は消しゴムマジックでなかったことにしてる議長?

  • 98二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 08:23:46

    >>96

    機動兵装ポッドとかいう装備を積んだ機体を乗り回して、多数の敵機を撃墜したパイロットがいるらしいですよ?

  • 99二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 08:45:31

    議長「ふむ…先の大戦や此度の多くの戦闘データを見る限り、今のザフトに置いて最も高い技量と空間認識能力を持ち、一番レジェンドを使いこなせる人材は…やはりアスラン・ザラか、彼ならばプロヴィデンスのドラグーンシステムも扱えたかもしれないな」

  • 100二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 10:47:10

    ※2日ほど、多分24日夜まで所用で書き込めないかと思います。よろしければ保守をお願いします。

  • 101二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 19:07:33

    落としはせん、落としはせんぞぉぉぉ!! という事で保守。

  • 102二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:37:27

    このまま原作通りに議長がやらかしたらアスラン脱走時にシンとアグネスも付いて行きそう
    デスティニーとレジェンドも持ってって
    ヘブンズベース戦はデストロイの在庫あっても一機が精々だろうしこれまでの戦いで攻略法も構築されててニーベルングもバレてるからなんとかなるでしょ議長?

  • 103二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 07:34:53

    1さんお疲れ様です
    引き続き楽しみに待ってます

  • 104二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 13:39:04

    保守がてら…
    スレ主さん、いつも楽しみにしてます。
    ありがとう。

  • 105二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 14:09:44

    まだだ、まだ落とさんよ! という事で保守。

  • 106二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 19:12:54

    落とされたって、落ちるもんかと保守。

  • 107二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 23:07:58

    >>101 >>103 >>104 >>105 >>106


    皆さんありがとうございました。

  • 108二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 23:19:47

    これまでになく真摯な目線を送ってくるレイに自分も相応しい眼差しを向けようと努める。

    こんな時、私は何を今話すべきだろう?私までコミュニケーションが下手になってしまったみたいだ。労り、慰め、励まし、言いたいことが多すぎてのどに詰まり、舌がしびれてしまう。

    アグネス「(お別れ会でもするべきか?)ミネルバの皆は何処にいる?」

    やっと口に出た言葉は我ながら間の抜けたものになってしまった。とは言え、これはこれで大事なことであるのは間違いない。

    レイもそのことを最初から話すつもりではあったらしい。勿体ぶらず教えてくれる。

    レイ「大部分はキールに。ミネルバ全クルーは緊急臨時休暇中だ。リトアニアの戦いが終わった時点で、艦内の状況は深刻だった。クルーの体調悪化が連鎖し始め、艦の運用に支障をきたし始めた。その時点でグラディス提督が相当強く国防委員会に上申、投錨先をキールにすることを条件に何とか許可を貰って、やっとのことで辿り着いた」

    話し始めたらすっかりレイの顔が苦くなっていく。流石の彼も閉口せざる終えない状況だったのか。

    アグネス「(大変と言うか壮絶ね。私が倒れた後もそんなことになっているとは…、悪い意味で予想通りね)」

    おまけに地上を目的地に指定されたせいで、またしても大気圏往復行をする羽目になってしまった。国防委員会や軍本部は『精鋭部隊』と煽てれば何でもやってくれるとでも思っているのだろうか?

    最新鋭艦、最新鋭機、様々なフォロー等-。
    いろいろ気を回してくれる代わりに容赦なく元を取ろうとしてくるのは本当に困るわ。現場の状況、腹黒議長が理解できているか正直微妙の所だと思う。軍事素人だし。

    私が眉を顰めるのを目にしたレイが養父のために苦しい言い訳を始める。
    レイ「今は大変な状況で…。議長もきっとお心を痛めていらっしゃるから…」
    アグネス「無理にフォローしなくて良いわよ!毒親を庇うのは止めて、あんたは自分のこと、闘病に集中しなさい!」

    あっ…。しまった!つい勢いで議長の悪口言ってしまったわ…。これで最後まで喧嘩か…。
    後悔が少し心を掠めるが、レイは私の顔色を察したのか、今日は敢えて言い返しては来ない。

    レイ「分かっている。ちゃんと治療に専念する。だから、あまり議長の悪口を言わないでくれ」
    そう優しく返されると私もそれ以上は言えなくなる。

  • 109二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 23:25:23

    よく考えてはいるけど「議長は無能、能力が低い」って考えが前提にあって「愚策に見える采配は全て何か企みがあってのこと」って結論にはやっぱ至れない

  • 110二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 23:30:54

    アグネス「分かったわ。今は言わない」
    レイ「ありがとう」

    会話が終わると不思議な間が空く。居づらいような心地いいような微妙な時間に少し身を任せる。ミネルバに乗り込んでから『穏やかな日々』などなかった。今の瞬間が敢えて言うならそうなのかもしれない。

    アグネス「(互いが負傷と病気で倒れて、やっと日常を実感するとは嫌なものね。戦時とはそう言うものかも知れないけど)」

    ただ、こうならなければ、私とレイが互いを含むところはあれども戦友と見なすこと等、起きようはずがなかった。私も相当だけど、レイもなかなかの問題児だ。

    アグネス「(仮定の話などいい。今が大事なんだ。私もレイも皆も)」

    互いに目線を交わす。少し名残惜しいが、彼はそろそろ部屋を出るみたいだわ。

    レイ「看護師に怒られる。そろそろ自分の病室に戻る」
    アグネス「分かった。明日、何時に?」

    一応お別れの挨拶はちゃんとしたい気持ちがある。私の気持ちを察したらしいレイが頷き答える。

    レイ「12時に病院を出て空港へ」
    アグネス「もう一度、格好つけて挨拶したいから、黙って出発するのは無しね」
    レイ「ふふ…。格好をつける?」

    ツボにはまったらしいレイが笑い出す。無礼な、せっかくだから軍服着て勲章フルセットで送り出してやるわ。

    アグネス「(授与された勲章・記章の殆んどは、あんたと一緒に戦って得たもの。ここで身に着けずにいつ身につけるのか?!)」

    戦友を次の戦いに(闘病)送り出すんだから。
    問題は…。ミネルバの自室から運んでもらえるかな。どうかな。他のクルー・パイロットにも、お別れ会もとい壮行会参加の声をかけるつもりだから、その際に頼んでみるかな。

  • 111二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 01:55:26

    レイ「…。無理しなくてもいい。負傷兵だぞ。お前は。まあ、良い。こちらも多少は格好つけよう。それとアビーは昼食後、しばらくして退院と聞いた。後で、見送りに行こう」
    アグネス「ええ。本当、彼女凄いわ」

    こうして、珍しくノリのいいレイと敬礼を交わし、一旦分かれる。

    部屋から出て廊下を進む彼の背中を見送る。華奢な少年の背中だ。要らんものを背負い過ぎていたんだと今なら理解できる。

    アグネス「(それでも、あいつはまだ、ちゃんと立って歩ける。動けるうちに傷病休暇を自分から取るのはレイにとってきっと大きな決断だったはず。報われて欲しい)」

    報われずに斃れる者が無数にいる時代だからこそだ。虫が良いことかもしれないけど、彼には苦しい思いをした分、救いがあって欲しい。でないとエクステンデッドを使い潰したブルーコスモスとザフトは-いや-私は同類になってしまう。

    アグネス「(違う…。それも多分、半分建前。本当の所…。仲間の幸せを願うのに理由は要らないかな)」

    随分私もお人好しになってしまったようね。

    レイと別れた後、私は再びニュースに目を通し、デバイスをフル稼働させ情報を集める。

    まず、ヨーロッパを荒らしまわったデストロイの被害について。

    中央アジアを通りロシア平原に姿を現したデストロイと母艦のハンニバル級、随伴のスローターダガー1個大隊48機、それにウィンダム隊長機、ガイア、ストライクノワール・ヴェルデバスター・ブルデュエルの1個小隊は勧告無しに都市部への無差別攻撃を開始した。

    この攻撃でウクライナのチェルニヒウとキーウ、リトアニアのビルニュス、ポーランドのビャワ・ポドラスカ、シェドルツェが壊滅。

    また、各地に駐留していたザフト軍と現地軍にも多大な損害が発生、特に準備を整える間もなかったウクライナとリトアニアの部隊の犠牲者は多大なものとなった。

    アグネス「(ウクライナもリトアニアは大損害ね。準備する間があったとはいえ、ポーランドも…)」

  • 112二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 02:03:51

    これ等の第一波の被害を確認していく。

    ウクライナはチェルニヒウで死者約48200人、負傷者約192800人、被災者300000人に及ぶ。チェルニヒウの人口が300500人であることを考えれば、正に壊滅的としか言いようのない数字だ。
    キーフの被害は死者約42000人、負傷者約420000人、被災者約1302000人。避難する時間が僅かなりと有ったと言えどもこれでは…。

    アグネス「(その後、ファントムペインはベラルーシを通過してウクライナの反対側、リトアニアに出現、ビルニュスを破壊した。死者約49000人、負傷者245000人、被災者590000人。被災者数はビルニュス都市圏全体のもの)」

    歴史ある街並みが瓦礫の山だ。第二次世界大戦とスターリン時代の荒波を乗り越えた貴重な文化財も人の営みも。

    ポーランドに関しては民間人の犠牲者は多少マシになっている。ザフトと現地軍が避難を行う時間が多少あったことと、フリーダムの来援が間に合ったためだ。

    それでも推定2000人近い死傷者が報告され、デストロイが通過した地域は壊滅的被害を免れなかったという。

    合計すると死者約140000人、負傷者約859800人、被災者2195000人。『首都』を二つ焼き払われた被害は余りにも大きすぎる。

    これに迎撃に当たった合同軍、ウクライナ独立派軍の死傷者・行方不明者が加わる。

    その後のチェルニヒウ攻防戦では都市防衛に当たった大隊規模のザフト戦車部隊、歩兵部隊が殲滅され、ウクライナ独立派軍は死傷者約5万人を出した。

    キーウ防衛戦ではザフトはジン7機、ゲイツR3機、ディン7機、バビ2機、バクゥ12機、ガズウート8機、大隊規模のザフト戦車部隊と歩兵部隊を持って臨んだが抗し得ず殲滅され、ウクライナ独立派軍は約3万人が死傷した。

    この時点でウクライナの北部戦線は崩壊してしまい、ユーラシア連邦軍に冬季攻勢の開始を決断させることになってしまう。

  • 113二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 02:10:59

    いくら物量が自慢とはいえこんだけやってまだ連合暴れられたらもはや何かの陰謀だな

  • 114二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 02:11:28

    リトアニアのビルニュス攻防戦ではザフト側の損害は更に跳ね上がる。

    郊外で防衛に当たったコンプトン級1隻は撃破され、バクゥ隊11機、ガズウート隊4機、ジン10機、ゲイツR10機、ディン5機、シグー2機、ザク2機、ザフト戦車部隊1個中隊と歩兵部隊が殲滅され、現地軍3万人が死傷、ミネルバがヨーロッパ防衛を命じられたのはこの直後だ。

    アグネス「(月やクレタの戦いですっかり麻痺しているけど、これが本来の大損害。一時は前線を後退させるべきとする意見も最高評議会で話し合われたと言う。因みに後退案を主張したのはシュライバー国防委員長。だが、それを-)」

    何故か議長が反対し、ミネルバに東部戦線行きを命じ、結果的に歴史の大転換に繋がったと言うから驚きだ。

    ハト派-と思わせていた-デュランダル議長が爪を剥き出しにし、タカ派というか常識的な範囲で強硬論を唱えていたシュライバー国防委員長が圧されている。

    良く分からない構図だが、対ロゴス戦自体が議長のフライングで始まっているし、最近の政治状況はあの男に振り回され続けている。

    ただ、今回に限っては-結果論に過ぎない面が大きいが―議長が正しかった。

    アスハ代表・アークエンジェルの決意表明、フリーダムのポーランド到着、そして―ミネルバの大気圏からのベラルーシ降下―歴史の回天が始まることになる。

    その後の戦いも逐一追っておかなければいけないが…。ちょうど看護師が美味しくなさそうな流動食を持ってきてくれた。デバイスを消して受け取る。

    看護師「少しでも嫌な感じがしたら食べるのを止めて下さい」

    確かに。少し食べるのが恐いわね。

  • 115二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 02:16:43

    やらなきゃどのみちDPへのルートに入れないから逆に怖いものがないしいくらでもギャンブルができる議長

  • 116二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 02:27:28

    アグネス「はい。ありがとうございます。ところで、この病院に入院しているアビー・ウィンザーが今日退院と聞きました。同じ艦の仲間です。お見送りに行ってもいいですか?」
    看護師「食事を食べて、少し様子を見て大丈夫ならいいですよ。一声かけて下さいね」

    ああ。食べた後悪化する恐れもあるわね。気を付けよう。アビーとはまた会える。今日、無理すればミネルバを守りに行ける日が遠くなる。

    アグネス「分かりました。それと…。入院中のグラディス提督と面会可能でしょうか?今後のことについて協議したいのですが…」

    こっちに関しては、看護師はかなり迷い始める。彼女の権限を越えているのだろう。

    看護師「看護師長にお話しておきます。もう少し待っていてください」
    アグネス「はい。ありがとうございます」

    看護師長なら軍隊なら曹長クラス、曹長は兵隊の元帥。なるほど、まず、そちらに話を通さなければいけないのね。

    退出する看護師に黙礼した後、皿の上の流動食をじっと見つめる。てっきりチューブ状の者が出てくると思っていたら、お粥的なものだったわ。

    スプーンに掬って、匂いをかぎ少しためらう。唇を開け、息を整え1.2.3で中に入れて唇を閉じ、スプーンから舌に落とす。その後、牛のようにゆっくり咀嚼、嚥下する。

    味がしないほどの水に近い物体を慎重に飲み込んで、時計の針を見つめ、身体の異常に気を配る。

    アグネス「(良し!食べられるわね)」

    私は生きていて、食べられる。幸運だ。

  • 117二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 02:44:52

    両目からじわぁと涙があふれてくる。

    私は生きている。ご飯が食べられる。でも…。

    アグネス「(今はこの世にいない者達。瓦礫と業火の中で倒れた戦友達、数十万の無辜の民も本当なら今頃、仲間や家族と昼食を食べて居たかもしれない)」

    情報省と軍本部と国防委員会を内心で責め立てて、何とか気持ちを立て直そうと試みる。せめて中央アジアからの移送を察知できてさえいれば、あんなことにはならなかった。開発を察知できていれば猶良かった。

    現場が察知していて、情報を活かせていないなどと言うことが、万が一にもあればそいつは打ち首ものだ。

    でも、私が今、悔やんでいることは別のこと。

    アグネス「(月であの兵器を確認した時点で…。きちんと大気圏内での戦闘方法を確立して-。出来ればデストロイ・随伴機・ハンニバル級発見の一報を聞いてチェルニヒウ北方に出撃したザフト部隊に伝えられたら…)」

    何かが変わったのではないか。最初に犠牲になったのはウクライナ北部で奴らを止めようとしたザフトモビルスーツ部隊はコンプトン級地上戦艦1隻、ガズウート5機、バクゥ2機、ゲイツR5機、バビ2機、ディン3機だった。

    正直、この部隊構成ではデストロイ撃退何て不可能、それならそれで、知らせていれば撤退を選べる。そうすれば、せめて彼らの命は…。そもそも迎撃隊の編成を変えることだって…。

    アグネス「(よそう。そんなことを今考えて何になる。私にそんな余力はなかった。ミネルバや月軌道艦隊の皆にも。私が率いた飛行隊がデストロイを撃破できたのも多分に状況に迫られてのものだ。賭けの要素が大きかった)」

    特務隊と言えども何でもできるわけでは無いし、そもそも任命されて即、クレタ行きだ。何時、大気圏内のデストロイ対策なんて考える?

    落ち着け、勝手な罪悪感を抱くな。

    派手な戦いではなく、今はこの流動食を食べきる-食べられないなら食べないなら、そう看護師に伝える-という地味な営みこそが私の戦場と心得るべきだろう。

  • 118二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:35:05

    >>115

    ある意味無敵の人状態なのか議長

  • 119二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 06:35:34

    >>118

    >ある意味無敵の人状態なのか議長


    精神的にもそうだが、物理的にも「無敵の人」になりつつあるぞこ奴。なにしろ「デストロイの大侵攻に対して『果断な

    判断』を下し、結果その全てを撃破する事に成功した」という政治的手柄を挙げてしまったから。正に、「一将功成りて

    万骨枯る」大惨事になっているが……。さて、この他人の屍の上に築いた功名、この男はどう使うつもりだろう?

  • 120二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 16:48:10

    少し早めだけれど、保守。

  • 121二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 17:45:54

    実際に今回ユーラシアの大地に関わった人は将兵も民間人も関係なくあの紫唇とインテリロン毛絶対許さねぇになってそうではある

  • 122二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 01:12:33

    こんだけやってまだジブリール捉えられないのすごいな

  • 123二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 01:56:48

    時間をかけて味がほとんどしない流動食を食べきり、看護師さんに食器を返却する。

    看護師「お変わりはありませんか。お腹に違和感は?」
    アグネス「今は大丈夫です。気分はそれなりに良いです」
    看護師「何かあれば呼んでください」

    そんなやり取りをして、彼女を見送って、病室を閉めようとすると、ひょっこりメイリンが戻って来たわ。

    アグネス「メイリン!おかえり?」
    メイリン「アグネスさん、ただいまです」

    何故か疑問形になってしまったが、まあそれはいい。

    アグネス「仕事(?)は良いの?」
    メイリン「私もお休みです。ちょっとアビーさんの退院のお手伝いをしていました。同僚ですし、助け合わないと」
    アグネス「ああ。オペレーター同士だものね」
    メイリン「はい。ミネルバを少し空けていましたから」

    そう言ってメイリンは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。そう言えば正副のオペレーターだものね。バディとは少し違うけど大事な相手だわ。

    アグネス「アビーの見送りに私も行くわ。今から?」
    メイリン「後、30分後です。キールのミネルバのブリッジにリモートで顔を出しているので。今のミネルバブリッジには副長が残ってくれています」

    副長か、大変ね。そう言う役職も。何時か報われて欲しいわ。それはそうとして。

    アグネス「メイリンもアビーとキールのミネルバに戻るの?」

    そう問いかけるとまた、彼女は申し訳なさそうな顔になってしまう。

  • 124二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 02:02:24

    メイリン「はい。アグネスさんの意識も戻りましたし…。提督にはミネルバから護衛の人達も到着していますから」
    アグネス「そう。誤解しないで私は大丈夫。それより、明日のレイの転院についてだけど、ささやかながら壮行会を開きたいと思っているの。私から声かけしようとも思っていたけど、もしメイリンがキールに戻るのなら…」

    そこまで話すとメイリンも小さくパンっと表掌を打って頷く。

    メイリン「良いですね。そう言うの私もしてあげたいと思っていました。ミネルバの皆に声をかけておきます」
    アグネス「お願い。ただレイの体力も心配だし、病院の負担になってもいけないから…。お見送りの直接参加は20名以内で、残りはリモート参加を。メイリンが良いなら貴女は直接参加で船室から私の制服と勲章・記章(レプリカ)を持ってきてもらえるかしら。宅配業者みたいに使っちゃって申し訳ないけど」

    かなりいろいろ頼んでしまった。ルームメイトを小間使い扱いしているようで気が引ける。

    メイリン「OKです。お着替えや制服、略綬は最初からお届けするつもりでした。ちょっと増えただけなので、気になさらないで下さい。壮行会に限らず、入院中は気に成ることがあったら連絡してください」

    そう言って、メイリンはちょっと諧謔を込めて敬礼してくる。なので、私も少しおふざけの気持ちを混ぜながら綺麗に敬礼を返す。その後はお互い少し笑い合い、彼女は病室の椅子に腰かけ自分のデバイスを開く。同時に両耳にイヤホンを着け、何やら調べ物を始める。

    アグネス「(気を使ってくれているのかな)」

    それならばとテレビをつけ、ニュースを切り替えながら情報を収集、自分のデバイスも操作して現在の東部戦線の戦況を脳内でまとめていく。

    結論から言えば、ユーラシア連邦・連合軍のC.E.73年冬季攻勢は頓挫した。リトアニア・ポーランドは攻め寄せたユーラシア連邦軍を国境線の外に撃退した上で西ユーラシア連邦に加盟を達成していた。ウクライナ北部からもユーラシア連邦軍は撤退に追い込まれた。

    アグネス「(今回の無謀な作戦-ユーラシア連邦・地球連合軍 C.E.73年冬季攻勢-は既に減退しつつあったユーラシア連邦のユーラシア西部における影響力を完全に消滅させ、西ユーラシア連邦独立を決定づける結果に終わった、と)」

  • 125二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 02:15:14

    作戦開始前の戦況図から戦況の移り変わりを確認していく。

    ユーラシア連邦軍を主体とする地球連合軍は作戦開始前にベラルーシ軍管区内に戦車師団50個、機械化歩兵師団50個、計130万人以上と飛行可能モビルスーツ1000機以上と言う大軍を文字通り搔き集めていた。
    破綻寸前の補給はモスクワ軍管区から空路・陸路(鉄道と自動車輸送)で何とかするつもりだったらしい。

    この大軍をもってザフトと決戦し独立を図る西側を鎮圧しようとしていた、かどうかは分からない。

    議長のフライング気味の対ロゴス戦争宣言を自分達に対する最後通牒と早合点し、慌てて大動員をかけ、大軍でザフトとユーラシア西側を威圧しようとした、と言うところが実態に近かったともされている。あくまで『備え』のつもりだった、と。

    そこから先は知っての通り。ファントムペインの侵攻により、ウクライナの北方部隊とザフト派遣部隊は壊滅した。それを千載一遇の好機ととらえた政府と軍首脳部は、準備不足にもかかわらず、冬季攻勢をその場の空気で発動してしまった。

    アグネス「(奇襲の誘惑に勝てなかったという訳ね。反面教師にしないと危ういわね、私達も)」

    100個師団の内、『本命』のウクライナ北部には戦車師団20個、機械化歩兵師団20個、飛行可能モビルスーツ(ダガーL主力)400機を投入した。

    主力部隊はデストロイが焼き払ったチェルニーヒウから同じく壊滅している首都キーウに向け、チェルニーヒウ州北部から侵攻を開始、助攻としてキーウ州、ジトーミル州、リウネ州、ヴォルィーニ州の4州北部からも攻撃を割り振る。

    デストロイの無差別大量殺戮の事後共犯となってウクライナを攻める。その時点で愚か者としか言いようがない。だが、ここで留める手もないわけでは無かった。ウクライナをどう扱うかは西ユーラシア連邦内でも意見が分かれている。

    しかし、ファントムペインがリトアニア首都ビルニュスを焼いたことを知った途端、ユーラシア連邦はそちらにも侵攻を開始してしまう。この振る舞いがバルト海沿岸諸国・東欧諸国を一斉離反に追いやった最大の要因だ。

  • 126二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 02:27:08

    ユーラシア連邦軍は対リトアニア戦線に10個戦車師団と、10個機械化歩兵師団、飛行可能モビルスーツ200機(ダガーL中心)を割り振り、ファントムペインが破壊したヴィリニュス郡に主軸を置きつつ、北のウテナ郡、南のアリートゥス郡にも助攻をかけ始めた。

    デストロイはリトアニアの首都を焼き尽くしたところで止まれば良いものを今度はワルシャワを目指してポーランドに押し入ろうとする。

    既に共同共謀正犯状態のユーラシア連邦・地球連合軍もそれに呼応する。

    アグネス「(とは言えポーランドはそれなりに体力がある。だから全体ではウクライナと同規模の20個戦車師団・20個機械化歩兵師団、飛行可能モビルスーツ400機(ダガーL中心)を投入。北東部ポドラシェ県、東部ルブリン県にそれぞれ半分ずつ)」

    再確認したところ、ストライクダガーの大多数は戦車師団に編入され戦線復帰していた。西側も同じように対処していたとはいえ、手ごわい存在だったろう。

    この状況がミネルバの降下前の状況だった。

    だが、ユーラシア連邦・地球連合の冬季攻勢は最初から予想外の展開続きとなった。まず、侵攻先のウクライナとリトアニアの抵抗が想定よりかなり激しかった。

    ユーラシア連邦・地球連合軍は民衆が都市を壊滅させられたショック状態になっている間に、すんなり侵攻できると思っていた節がある。

    更にファントムペイン・デストロイの無差別殺戮に憤り、恐怖を感じた東欧・バルト諸国が現地部隊ごと離反を始めた。この事実は軍首脳部のみならず、ユーラシア連邦首脳部に強烈なショックを与え、彼らの戦争指導はここから、更に迷走を繰り返すことになる。

    ユーラシア連邦軍の想定外はさらに続く。ポーランド・ルブリン県を破城槌となって進むデストロイと随伴機の進路にフリーダムが舞い降り、彼らの東進を堰き止めてしまう。

  • 127二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 10:12:38

  • 128二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 15:24:13

    >>126

    ポローニアは滅びず。ポーランドの人々にとって、フリーダムはかつての歴史的栄光「ポーランド有翼騎兵(フッサール)」

    を容易く想起させたことだろう。最悪の大損害・大惨事の中で、その雄姿がどれほどの心の支えとなったか……。



    注:「ポーランド有翼騎兵(フッサール)」

      ポーランドでの発音では、フサリアと言う。ベルベット製の真紅の軍服の上に豪奢に装飾された重装鎧を纏い、更

      にその上からヒョウやテンの毛皮を身に着けるという、豪壮華麗な姿であった。特徴的なのは背中(馬の鞍とも言

      われる)につけられた巨大な一対の羽根型の飾りで、これが有翼騎兵と呼ばれる所以である。ポーランド王国の黄

      金時代(AD16~17世紀)におけるヨーロッパ最強の突撃槍騎兵部隊として勇名を誇り、自軍の数倍の敵を粉砕す

      る事すら多々あった。)

  • 129二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 00:53:30

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 01:44:28

    このタイミングでミネルバは大気圏降下作戦を決行する。目標はベラルーシ内軍管区ブレスト市のハンニバル級とスローターダガー12機。真上からの襲撃に虚を突かれた随伴12機は瞬く間に叩き落された。

    こちらの第一目標はあくまでデストロイの母艦であるハンニバル級だ。しかし、ミネルバの降下ポイントはルブリン県で戦闘中のユーラシア連邦・地球連合軍10個戦車師団・10個機械化歩兵師団の背後であり、この方面の敵軍は事実上、ミネルバとポーランド合同軍に挟撃を受ける形になった。

    アグネス「(ブレストからワルシャワに向けE-30線のルートでデストロイは進み、それを追いかけるようにユーラシア連邦軍も進軍していたせいで必然的にそうなった形ね)」

    ルブリン県のブク川右岸のユーラシア連邦軍はハンニバル級ともども早速危機的な状況に陥る。ミネルバは降下後、速やかユーラシア連邦2個戦車師団に対しても攻撃を開始し、これを殲滅した。

    その後は自艦を囮とし、ハンニバル級-そして挟撃されつつあるルブリン方面のユーラシア連邦・地球連合軍-を人質としてモビルスーツ部隊、対MS戦闘ヘリコプター部隊を誘引し、これを撃退・撃破し続ける。

    ミネルバには続々と兵力が集まっていく。アスランのセイバー、ハイネ先輩のアビス、バクゥハウンド3機が合流して周囲を敵を飲み込む溶鉱炉に変えてしまう。

    このブレスト近郊(北東40キロにあるコブリンも含む)での戦いで、最終的にウクライナ北部戦線の航空戦力(ダガーL・対MS戦闘ヘリコプター部隊)の大部分を吊り上げ撃破しているのだ。ミネルバと月軌道艦隊の奮戦は戦史に刻まれて然るべきと思う。

    ただ、耳の痛いことに…。ミネルバの大立ち回りについて、ユーラシア連邦からはプラントに強い非難が寄せられている。
    この降下作戦に端を発した一連の戦闘でブレスト市は郊外のみならず市街地にも甚大な被害が発生した。34万人の市民の内、半数に当たる約17万人が家を失い、民間人の死傷者・行方不明者は1万5千人を超えたという。

    アグネス「(民間人への被害に関しては戦時下におけるプロパガンダもあって多少盛ってはいるだろうけど…。ブレスト市が壊滅的被害を被ったということは間違いないわね)」

  • 131二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 01:51:21

    市民の避難に関しても、プラントには連合から激しい非難と抗議が届いている。

    ミネルバは国際救難チャンネルでブレスト市民に対し、繰り返し退避勧告を発信していた。しかし、ベラルーシ軍管区・行政管区内の通信は全てザフト電子戦部隊(メイリンも出向)に傍受・攪乱・妨害されていた。
    彼らの主張としては、ミネルバの振る舞いはアリバイ作りに過ぎず、ユーラシア連邦軍及び政府当局主導の民間人避難を困難なものにしたという非難は免れないと言う。

    アグネス「(だからどうしろって言うの!分からないわよ…。正解なんて)」

    いずれにしても、知りたくないものを知ってしまった。ここからはもっと知ることになるだろう。

    一方、同時刻ころ、私はようやく手術から起き上がり、国防委員長の命令でベラルーシでもポーランドでもなく、リトアニアにカオスで降下、カウナスを空襲してきたユーラシア連邦・地球連合軍航空隊を殲滅している。

    その直後に、私は敵の補給路と後方拠点の襲撃が現在なら可能と見込み、リトアニア合同司令部から兵力を供出してもらい、ギーベンラート飛行隊を組織した。やがて敵の要領を得ない攻撃を手掛かりに襲撃目標の規模を拡大、ミンスク、バラナヴィチ、リダへの奇襲攻撃を立案する。

    国防委員会、ポーランド・リトアニア両合同司令部、ミネルバの同意との支援の下、ギーベンラート飛行隊は即座に奇襲攻撃作戦を発動、『後手からの一撃』を敵軍に与えるべく飛行を開始する。

    アグネス「(この攻撃はユーラシア連邦・地球連合軍 C.E.73年冬季攻勢を打ち砕く決定打になった、とプラントと親プラント国、同盟諸国・諸勢力の間では高く評価されている。ただ…)」

    私は自己顕示欲と承認欲求の強い人間だ。それを恥ずかしいことだとも思っていない。社会で勝ち残るには必須の本能だと確信している。

    それでも、今回の働きを誇るべきか躊躇いを覚える。と言うか目を背けたいのが正直なところだ

    私が一パイロットとして、そして指揮官として、初めて多数の民間人を死傷させた戦い、それをどう内心で整理するべきか、まだ、分からない。

  • 132二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:00:10

    現にミンスクへの攻撃はユーラシア連邦と地球連合から強く非難されている。曰く100万人以上が被災し、死傷者は10万人を超える、と。

    デストロイの無差別大量殺戮に対する批判を『どっちもどっち論』で打ち消したいと言う気持ちも勿論あるのだろう。ただ、ユーラシア連邦・地球連合があの奇襲を『ミンスクの虐殺』と言い募っていることは把握しておかないといけない。

    今判明している情報と自分の体験をすり合わせていく。何を認め、何を(問われれば)反論するべきか。

    まず、ミンスク奇襲の第一目標はベラルーシ軍管区本部だった。しかし、ミンスク市内突入時に『勝利公園』に敵対空部隊を発見、そこが急遽攻撃ポイントになる。

    森林公園に潜む大隊規模の防空部隊を殲滅、その際に勝利公園のスヴィスロチ川沿いに広がる森林公園は大炎上していた。雪降りしきる中の火災ではあったものの、結局周辺の森林エリアを全焼させてしまった。周辺の病院施設はその時点では無事だったが…。

    悪いことに国の重要式典を執り行う『独立宮殿』が公園に隣接しており、ベラルーシ行政管区知事は慌てて市内の消防車をありったけ現場に急行させたと言う。アホか、セレモニー用の式典会場なんて気にしている場合か。

    アグネス「(この早とちりが後の悲劇を更に破滅的なものにしてしまう…)」

    その後は本来の目的であった軍管区本部に攻撃を敢行、防空隊とゲルズゲーを撃破した。

    ゲルズゲーの墜落と爆発に加え、敷地内の武器の誘爆も起こり、結果として半径300メートル以内の施設は跡形もなくなった。抉られた建物跡地に更にバビ8機でアルドール複相ビーム砲の照射を命じた。地下シェルターに追加ダメージを与えるためだ。

    これらにより、冬季攻勢を担うベラルーシ軍管区の多数の将官、高級将校、一般将校が戦死。中には司令官本人や参謀長も含まれていたという情報もあるけど真偽は不明。ともあれ、冬季攻勢の軍内部の指揮系統はあの時点から深刻な打撃を受けていた。その程度は当時の私が把握しようもないことだけど。

  • 133二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:07:18

    そして、民間人の被害も大量に出ていた。その範囲は少なく見積もっても半径2,4㎞に及ぶ。

    あの時、全壊した保育園、夜間保育の園児30名と保育園長、保育士4名が瓦礫の下敷きとなり、全員死亡が確認されたと報じられている。ギムナジウムに残っていた学生は120名が死傷、結婚式会場では式がタイミング悪く行われており、新郎新婦を含む200名が死亡した。

    ベラルーシ国立ボリショイ・アカデミー劇場は半壊した後炎上、劇団員・観客合わせて2000人以上が死傷した。

    私は衝撃波による目と鼓膜の損傷と、建屋の倒壊を心配していた。後になってガラスの飛散も恐れるようになった。

    だが、真に恐れるべきは火災の方だ。武器弾薬の爆発のみが原因ではない。

    アグネス「(この季節この地方の人々は、時代錯誤なことに『火』を用いた暖房器具を多用している。プラント生まれの私には想像できないことだった…)」

    私達が飛び去った後、家々から出火した炎はこの街区一帯を舐め尽くしていくことになる。破壊された家屋の火が消えることは無く、急いで家を飛び出した人々に暖炉やストーブの火を気にかける余裕などない。悪いことに各家庭が夕食の準備を始めている時間帯だった。

    こうした事態に対処するべき軍の統制能力は既に吹き飛んでしまっている。仮に残っていても戦争指導で手一杯だったかもしれないが…。

    と言うか、今時調理に『火』を使うのか?勿論、プラントでも本格的な料理をする時は使う人もいるけど。感覚が違っていたんだ。取り返しのつかないほどに。

    私達飛行隊はその直後にミンスク中央駅を攻撃、駅北側の建物は半径2㎞以内、南側の建物は2.6㎞以内が全半壊し、直径120mを超える大きさのクレーターが2つ、駅北側のバス停車場だった場所と南バスターミナルだった場所に形成された。

    攻撃時に大量の武器弾薬が誘爆したこと、特に南のバスターミナルの場合はゲルズゲーの爆発がその引き金になったことが原因だ。複数回に及んだ爆発の内、最大の火球は400m以上の立ち込める白煙と黒煙は4000m近くまで上昇した。

  • 134二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:18:26

    ベラルーシ軍管区最大の鉄道駅と最大のバスターミナルが利用中の軍民数万~十数万人ごと、文字通り跡形もなく吹き飛んだ。

    全半壊エリアには旧国会議事堂(現ベラルーシ地方議会議事堂)、ミンスク市庁舎、官庁街、放送局、新聞社本社、鉄道本社等々、この軍管区の中枢機能が全て存在していた。勿論、中央駅以外の重要な駅も含まれる。

    多くの教育機関や美術館、博物館、教会等の宗教施設や文化財、そして病院施設も含まれる。本当に遺憾ながら…、どうしようもない。

    環状道路や基幹道路、橋梁の上は横転し、炎上する自動車で埋まってしまった。空からは爆発時に吹き飛んだ無数の破片や軍事物資の欠片が灼熱の豪雨となって降り注いでくる。

    瞬く間に拡大した大火災はスヴィスロチ川右岸(ミンスク市の南西側)では3つある環状道路の内、2つ目までの範囲を焼き尽くした。スヴィスロチ川左岸(ミンスク市の北東側)でも第1環状線までは炎上した。

    ベラルーシ軍管区・行政管区の地方議員、高級官僚を含む公務員が一度に多数が死傷・行方不明者になり、軍管区の政治・行政機能が短期間とは言え完全に麻痺した。

    次々と舞い込む被害報告が冬季攻勢中のユーラシア連邦軍の士気を動揺させたことは想像に難くない。

    アグネス「(公務員だろうと政治家だろうと彼らは非戦闘員。攻撃対象にしてはいけない。実際してはいなかった。増して、完全に無関係な一般市民まで…)」

    取り返しがつかないことをしたと思う。では、どうすれば良かったのか?私は自分を責めるべきなのか、褒めるべきなのか。苦悶の末命を落とし、死にきれず今も藻掻く人たちの群れを前に聞くだけの勇気はない。

    悲劇の総仕上げはマチュリシ空軍基地のデストロイ撃破だ。
    かの巨大制圧火器集約要塞を私達はミンスク市から南東12,5㎞で撃ち抜き、撃破した。それと共に生じた大誘爆によって空軍基地は地下構造まで壊滅した。

    今日になって知ったことだけど、軍事物資、輸送機・輸送ヘリのみならず、空軍司令部も消滅していた。ダース単位の将官と高級将校が天門を潜ることになった。

  • 135二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:24:55

    デストロイの爆心地から半径800mは壊滅、2.6キロメートル以内の建物が全半壊、基地に隣接した1万人以上のマチュリシチ市は全域が壊滅した。

    被害はそれだけに止まらず、半径15㎞の範囲ではガラスが粉々になる、屋根が飛ぶなどの被害が発生した。地域によっては25㎞ないし35㎞離れたエリアでも。

    それはこの季節において致命的な火災旋風を巻き起こしただろう。あれほどの規模では降雪など意味をなさない。

    あの時、私はまだ認識が甘かった。
    ガラスが粉々になって爆風が家の中を無茶苦茶にするのに、なぜ、ストーブと暖炉とキッチンコンロだけは無事だと言うのだろう?風の精霊はそんなに親切だっただろうか。

    アグネス「(私はプラント生まれプラント育ち、『火』を直接見るのはレジャーの時だけ。それと軍事訓練を受けるようになってから。本物の冬も夏も戦争が始まるまで『本と訓練』の中だけの世界だった…)」

    だから、地球の人達が当たり前のように察知して配慮しなければならないことが分からない。戦争が始まって、各地を転戦して、それでも上手く想像が追いつかず、今になってやっと思い知ることになる。

    マチュリシ空軍基地から半径15㎞とは-放射線状に9つに分かれるミンスク市の行政区の内5つが丸ごと被害半径に含まれるということ。

    マスコフスキ地区、ミンスク中央駅の所在地であるカストリチニツキ地区、市の南中央レーニンスキー地区、ミンスク自動車工場で有名な工業地帯であるザヴォツキ地区、同じく工業地帯を抱えるパルチザン地区、の5つだ。

    それに加えて、市の中央部と北西部に位置するツェントラルニー地区のうち中央部と市内で最も人口の多い西部のフルンジエンスキ地区の南半分も被害は及んでいる。

    アグネス「(つまり9分の7ね…。避難する道路はグチャグチャ、天候は最悪、足元がおぼつかなくなる時間帯、家々から噴き出す火災。更に既に大火になっていた中央駅の炎が基地攻撃時の爆風に煽られる…)」

    そんな中、もし無傷で避難できたとしても、そこで終わりではない。
    支援してくれるはずの軍や行政の機能は麻痺している。その状態で吹きが降りしきるロシア平原の寒風の中、一晩夜を明かさなければならない。燃え上がる首都を虚しく見つめながら。

    アグネス「(私達はそんなことを狙っていたわけではない。絶対に!)」

  • 136二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:31:39

    でも、それを言って何になる?!

    私はあの後、ミンスク第2空港、この地方の最大の空路も潰してしまった。救援隊・救援物資が届いたかもしれない空の玄関をミンスクの市民が一晩明かすのに十分なほどの物資と共に焼き払った。

    ユーラシア連邦・地球連合がその意思を持っていたかどうかは私の道徳的な責めに何ら影響を与えるものではない。

    10万人の死傷者・行方不明者は十分あり得ると理解した。その後の凍死や持病の悪化など、さらに『災害関連死』も含めれば数は増えることはあっても減ることは無いだろう。

    無論、プラントとザフトはユーラシア連邦・地球連合の発表する数字を丸のみにすることはあり得ない。死傷者・行方不明者の定義を出来得る限り狭く小さくしたうえでの人数を発表し、それが止むを得ない犠牲であったと力説することだろう。

    アグネス「(いろいろ『精査』して1万人前後とかかな。当たらずとも遠からずでしょうね)」

    私も祖国と軍と作戦を共にした仲間と-自分の保身のため-その数字を生涯連呼することになる。

    『嘘』を自分と家族と仲間と敵に堂々と何度も主張し、手柄とさえ思わなければならない。

    最悪だ。私はファントムペインとは違う…違うが、法的にはともかく外形的には果たしてどうだろう…。

    その後の展開は、知っての通りだった。

    ミネルバはギーベンラート飛行隊の攻撃と連動して、攻勢を本格化させた。

    手始めにブレスト市周辺、ウクライナのヴォルィーニ州北部、ポーランド東部ルブリン県のユーラシア連邦・地球連合軍から。

    ウクライナ独立派軍やポーランド合同軍が正面から敵軍を『鉄床』となって圧し、背後からミネルバ自身が『槌』となって叩き潰す。

    叩き潰して終わりでなく、『鉄床』となっていたウクライナ独立派軍とポーランド合同軍は当然、敗走する敵を追撃し、一部は互いに背面展開を開始する。

    ミネルバは止まることなく己を『槌』とし、ポーランド・リトアニアにまたがる広い戦線に存在するユーラシア連邦・地球連合軍を時計回りに南からポーランド、リトアニア合同軍と挟撃して回っていく。

  • 137二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:35:49

    ミネルバが去った後も各軍は崩れた敵軍の追撃を止めず、一部は背面に展開した別部隊と手を握っていく。

    そうして、休みなく振るわれ続けた『槌』はリトアニア北東ウテナ郡に攻め寄せていた敵軍の挟撃を終えた時点でようやく停止する。ミネルバクルーとパイロットの疲労は既に極限状態にあった。

    遂にこの段階でグラディス司令官は月軌道艦隊が与えられた任務の達成したこと、これ以上の戦闘継続が不可能であることを国防委員会に訴え出る。

    不思議なことにここでは先程と逆のやり取りが委員会で交わされている。シュライバー国防委員長がグラディス提督の嘆願に同意して休息を命じようとし、反対にデュランダル議長は更なる追加任務を与えたがっている素振りが有ったと言う。

    だが、そのやり取りをしている最中にグラディス提督の体調も悪化、その様子を関知した議長が慌ててミネルバのキール寄港とクルー・パイロットの当面の休暇を即断し、今に至る、と。

    アグネス「(あの男!本当に…。言うまい)」

    ミネルバのキール転進以後も西ユーラシア・ザフト・リトアニア、ポーランド合同軍の追撃は止まることは無かった。

    ベラルーシ軍管区内の都市、ブレスト、コブリン、グロドノ、リダに撤退できた部隊も兵器・物資をすでに失っており、相次いで降伏した。この4都市は現在、合同軍の保障占領下にある。

    事ここに至って、ようやくユーラシア連邦・地球連合軍は作戦中止を内外に発表、追い出されつつあったウクライナ北部から兵を引き上げた。

    彼らは辛うじて生き残った部隊をポーランド・リトアニア方面に再配置し、合同軍もそれ以上の衝突は控えたため、戦線はやっと小康状態を取り戻し今に至る。

  • 138二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:44:51

    ユーラシア連邦・地球連合軍の死傷者・行方不明者は約45万人、捕虜約10万人(ファントムペインは含まず)。

    戦死者と戦傷者は1:3になると言う経験則から言えば、この作戦のユーラシア連邦・地球連合の戦死者は約15万人と言うことになる。

    飛行可能モビルスーツの損害は1000機(輸送中、基地内保管機を合わせればさらに増える可能性もある)。

    冬季攻勢に参加した兵力が約130万人、飛行モビルスーツ1000機だったことを考えれば壊滅的と言って差し支えないだろう。

    一方、ザフト・西ユーラシア連邦(リトアニア・ポーランド加盟済み)・ウクライナ独立派軍の損害も大きい。
    最初のデストロイ侵攻時の損害を差し引いても、猶こちらの死傷者は約18万人。ザフトは110機のモビルスーツとコンプトン級1隻と多数の戦闘車両を撃破され、2500人の陸上部隊が死傷した。

    デストロイ襲来時からの換算なら、ザフト・西ユーラシア連邦・ウクライナ独立派軍の死傷者29万人以上、ザフト軍の損害はモビルスーツ210機、コンプトン級2隻、戦車部隊と歩兵部隊は戦死者2300名、負傷者1700名。1:3の法則にならないのはデストロイ戦での死者が多いためだ。

    双方の民間人の死者の総計は-。正確な数が判明する日が来るのだろうか。眩暈がする。

    また同じ問いが私の内心に沸き起こってしまう。

    アグネス「(デストロイの破壊と私達-いや、私の-破壊。戦争犯罪になるか否かの違いはあれども。『何が違うのか』そう言う気持ちが湧きがってこないと言えば嘘になるわ)」

    無論、そんな内心を口外することは許されない。ただ、胸が苦しい。それだけのことだ。

    すっかり重くなった頭を上げる。すると、メイリンと視線が合う。

    メイリン「整理は着きましたか?」
    アグネス「一応ね」

    無表情に答える私を賢そうな瞳が悲しく見つめる。
    今の気持ちを洗いざらいぶちまけたら、楽になれるだろうか?

    でも、それをメイリンに言ったら、私はただの恩知らずになる。あの作戦はメイリンのサポート有ってのものだ。無論、私が今生きていられるのも。

  • 139二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:58:19

    代わりにもう一つ、気にかかっていることを伝える。

    アグネス「いえ、ね。この戦いの東欧・バルト海諸国の離反…、と言うか助け舟と言うか。すごかったわね。元々、ブレイク・ザ・ワールドと開戦の混乱の中、半独立状態だったとは言え…」

    まだ、西ユーラシアに加盟するかユーラシア連邦に残留するか迷っていたのが本音だったはずだったのに。

    メイリン「やっぱり、ファントムペイン、デストロイの振る舞いが決定打です。あれのせいで『ロゴス≒ブルーコスモスの陰謀』が単なるプラントのプロパガンダでは無い真実だ、と世界に伝わってしまったわけですから」

    それもそうか、水で満たされ零れそうになっていた盃に最後の一滴を彼らは自ら垂らしてしまったわけか。

    私が納得しかかるとメイリンが椅子からスッと立ち上がり、病室のドアに鍵を閉める。それからベッドに近づきと私のもとに顔を寄せてくる。

    内密にしないといけない話題か。

    メイリン「この部屋は監視・盗聴の恐れはありません。ちゃんと事前に。それで…。ファントムペインとデストロイの侵攻、無差別大量殺戮は、ほぼリアルタイムで全世界に中継されていました」

    それはクレタ島の時から知っているけれど…。そうか!

    アグネス「『リアルタイムで全世界に』…。軍本部の作戦会議や最高評議会の審議用に緊急入手とかではなく、どうして全世界同時にと言うことね」

    思わず声を潜めて彼女に答える。渦中にいたせいで考えが及んでいなかった。私も他人の愚行を笑える立場ではない。

    メイリン「現地の悲惨な…。人の心を動かさざるを得ないほどの現状がずっと全世界に中継されていました。地域によっては電波ジャックまで行ったうえで。戦闘中、私達は『ニュースを聞いた民衆が』と聞いても自分が戦っているから大して気に留めていませんでした。でも、よくよく考えてみると…」

    アグネス「仕掛け人がいた…、と言うことね。そいつらの当ては?答えたくないなら言わないで」
    メイリン「かまいません。プラントの放送局が世界放映の際に拠点とされていました。恐らく現地カメラマンや中継もある程度予測して派遣していた筈です」

  • 140二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 03:22:55

    なるほど。波紋を広げた者達がいた。
    石が投げ込まれるや波風を立て『今ここに石が投げ込まれました』と叫ぶ準備をしていた者達が。

    メイリン「一般人がサイバー空間に上げる大量の映像や画像も中継には順次組み込んでいました。でも『仕込み』が要ります。各国から通信を遮断されても映像を流し続けるための準備も。素人達が徒手空拳で力を合わせ世界を突き動かす、という構図はロマンがありますが...。注意しなければいけません」

    アグネス「東欧やバルト海沿岸諸国の動静は『彼ら』にとって棚から牡丹餅に近い。ザフト軍の東部戦線の勝利も賭けの要素が大きかった。でも、どう転んでもその采配により、『ロゴス、ファントムペインが架空の組織などではなく、陰謀を巡らし暴虐を働き得る存在だ』と、明確に世界に示すことは出来た。そいつは敵の自爆を-火薬庫に繋がる導線に火が回るのを-横目に今か今かと待っていた…」

    二人で目線を交わし合い頷き合う。

    誰が、とは言わない。危険すぎるし二人とも分かっているから。それに確証があるわけでもない。

    ただ、いろいろと辻褄が合う。一番の疑問はなぜ愛する人をその渦中に、と言うものだが、答えは簡単だ。そいつが軍事素人で強くて早くて飛べる艦に乗ってもらえばどうにかできるとでも思っているからだろう。

    アグネス「メイリン、そのことは誰に?」
    メイリン「グラディス提督、副長、アビーさん、マリクさん、バートさん、チェンさん、マッド・エイブス、アスランさん、シン、お姉ちゃん、ショーンさん、デイルさん」
    アグネス「ブリッジ組と整備班長、パイロット古参組とメイリンが絶対に信用できる人間ね。賢明だわ」

    ハイネ先輩は尊敬するスーパーエースだけど、政治的ポジションが不明だし、ヨウランやヴィーノまで知らせるべきかはかなり微妙だ。

    それに世界には存外、頭が切れる人間は多い。勘の良い人はもう察し始めているかもしれない。

    ただ、それを勘づいたからと言ってどうにもできないのが実情だ。こちらの思い過ごしなら別段、もし核心をついていた場合、あの男はそれで何を得てどうするつもりなんだ。

    アグネス「(再選?そのためだけこれだけのリスクを取る必要があるのか?)」

    勿論、人間はつまらない動機で大それたことをやってしまうものではあるが...。今一つパズルが合わなくてモヤモヤする。

  • 141二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 03:45:43

    それともう一つ気に成っていることがある。

    アグネス「ポーランドのデストロイのパイロットはどうなった?」
    メイリン「安心してください。彼女-パイロットは女の子でした-は、もうプラントの専用医療施設です」
    アグネス「え…。何時の間に?」

    メイリン「アスランさんがアスハ代表から託されまして。アスランさんはその子を拘束状態でセイバーのコックピットに入れてミネルバに帰還。グラディス提督の指示で、ミネルバがアスランさんとシンを南アフリカに送るため、大気圏を出たタイミングで内火艇に彼女を乗せて発進させました。中には衛生兵と保安要員も。その後は月軌道艦隊のナスカ級が内火艇を収容し、そのままフェブラリウス市の専門病院に直行という訳です」

    アグネス「おお…!命のバトンって感じね。戦火の勇気と言うか、でも、本当に良かったわ」

    10万人以上の民間人を死傷したかも知れない人間が3つの大都市を壊滅させた機体のパイロットを心配する。足元で無数の人々を踏みつぶした大怪獣が相手の命が助かったと言って喜ぶ。悍ましい偽善的な感情だと人に咎められたとしても反論しようがない。

    それでも嬉しいものは嬉しい。

    アグネス「どんな命でも、生きられるものなら生きたいでしょう」
    メイリン「ええ。本当に」

    どうやらメイリンに内心を察せられていたらしい。私もまだまだとしか言いようがない。テレビ報道に関しても当たり前のように見逃すところだった。

    今の言葉、何時だったかレイに言ったんだっけ。すごく驚いていたわね。
    直ぐ最近のことなのに。一度にいろいろなことが押し寄せてくるから対処しきれない。喜怒哀楽が渦巻いて止まらない私にもう一度メイリンは言葉をかけてくれる。

    メイリン「はい。間違いなくそう思います」
    アグネス「うん…。本当にありがとう」

    誰に向けたものか分からない感謝の気持ちを口にする。

    主よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。

    困難は平穏への道として、この罪深い世界をそのままに受け入れさせてください。

  • 142二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 07:34:38

    議長が怪しいってとこまでは行けてもどこまでが素人が故の愚策なのか、どこまでが狙い通りなのか、議長を侮ってないか、根本的な目的は何なのかってレベルのことは考えるだけじゃどうしようもないね

  • 143二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 12:16:12

    勲章授与式での爆弾動画といいリアルタイム中継での映像編集といい、
    議長の指示で動く「実働部隊」が政治・軍事の他、通信社など官・民の現場に近い部分にも点在してるっぽいね

  • 144二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 13:54:30

    >>143

    おそらく軍事素人だが、それなりの煽動家ではある……手下を配置するコネと資金がある……。

    うわー、どこのチョビ髭ヒステリー親父のしっぽだこいつは。軍事関係で思いつきだけで行動

    しそうというかしてるから、さらに危険度倍増だよ。しかも、なんだか怪しげな新興国に矢鱈

    と手厚い援助まで送っているし。プラントの懐事情も苦しいというのに。


    配備された新型MSもろともミネルバも三隻同盟に合流できるよう、今から逃げ支度をしておいた

    方が良くね? こいつに付き合ってたら間違いなく泥船だぞ? つーか何考えてるか分からない上に

    行動力だけはある、という危険人物からはいつでも距離を取れる方が吉であると思われ。

  • 145二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 14:05:37

    『そうだ英雄、お前が殺した』すぎる…

  • 146二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 17:50:00

    >>145

    サンボルの場合個人対個人の悲劇だったけど、こっちは戦術爆撃規模の精密攻撃のはずが結果的に無差別戦略攻撃になっちゃったからね……。

    しかも、思わぬ「常識の壁」まである。オール電化が当たり前のプラントと、ペチカで暖を取って煮炊きまでする東欧。まずそこまで違うと

    いう想像自体がまず思いつかないだろうし。……結局「誰が悪いか」となれば「戦争を始めた奴が悪い」と言う以外無い訳だが、そいつが、ね……。

  • 147二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 18:25:17

    …ひょっとして議長アグネスの謀殺とか特に考えてなくて素でタリアがぶっ倒れるまでミネルバを過労死寸前まで酷使してた自覚が全くなかったという最悪な采配してませんか?

  • 148二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:07:08

    よくよく考えなくてもミーアのプロモとデビュー仕掛けられる時点で議長はプラントのメディア牛耳ってる状態なんだよなぁ
    メディアと政治権力の独立性が担保されてないというかなり不味い事態なんだけどこれはギルが云々以前にザラ政権下でもメディアが完全に統制されててラクスが地下活動してるんでプラントメディアが政権と分離してない状態が是正されてないと見るべきなのか…

  • 149二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:52:02

    >>148

    細かく観察するとメディアに限らずプラントって国として見たら割とありゃ…?てなる部分がそこかしこに…

    新しい国だしその愛嬌かもしれんが

  • 150二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 00:18:01

    >>147

    人間の限界までは分かってなかったんだな

    まあ元々は研究者であって軍人とかではないしな

  • 151二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 00:52:47

    アグネス「じゃあステラもその子と一緒に?」

    シンがずっと気にかけていた金髪の少女、ガイアのパイロットのあどけない顔が脳裏をよぎる。ディオキアで私とメイリンも彼女と出会っている。

    メイリン「いえ。もしも抵抗された場合、エクステンデッド2人は流石に対処できません。二人とも弱ってはいましたが…。ですので、ステラさんは資料に基づいて製薬した応急対処薬を飲ませて医務室で様子見をして居ました。ミネルバのキール到着後、同じく保安兵・衛生兵の付き添いでハンブルク空港からスペースシャトルで専門病院に。イースト・ロンドン(オルドリン自治区)のキング・ファーロ空港から飛びかえってきたシンも何とか見送りに間に合いました」
    アグネス「良かった…。シンも大概、忙しい生き方をしているわね。私やアスランもそうだけど」

    ただ、エクステンデッドの件はこれで一件落着という訳にはいかないだろう。他の部隊に配備済みの人員もいるだろうし、『製造施設』がロドニアのラボだけのはずもない。

    それに助かった人達にも多くの困難が待ち構えている。

    アグネス「(身体の治療、戦争犯罪・人道犯罪に関する取り調べ、恐らく裁判にも証人として関わることを求められる。それに並行して社会復帰のためのリハビリと再教育、社会の偏見から保護するために名前や前歴を秘匿しないといけないし…)」

    本人だけでなく社会の側が準備しなければいけないことが盛りだくさんだ。多分、証人保護プログラムないし、DV・児童虐待被害者保護制度を援用することになるのはず。しかし、『自国民でもない人間になぜそこまで税金を使うのか』という声は絶対に出るだろう。

    難しい問題だけど、だからと言って見殺しにするわけにもいかない。大事な生き証人だし、彼らが幸せな人生を送ってくれて初めて私達はファントムペイン・ブルーコスモスに勝利したと言えるわけなのだから。

    彼女達の踏みにじられた権利が回復されることを祈るばかりだわ。

    そんなことを考えているとメイリンがまだ、傍からじっとこちらを見ていることに気が付く。

    まだ何かあるのね。

  • 152二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:14:12

    アグネス「もしかしてアークエンジェルのこと?そう言えばあの艦は今どこに?」

    アークエンジェルは人道危機の対処のために来たのであって戦争に参戦しに来たわけでは無い。となると救助活動のお手伝いか、そのままスカンジナビア王国に帰ったのか。

    メイリン「はい。アークエンジェルは今、リトアニアのクライペダに停泊しています。デストロイ撃破後、アークエンジェルは先ず、キーウに向かい、艦内に満載した支援物資を被災者に届けました。同時にアスハ代表自ら率先して瓦礫撤去作業をストライクルージュで行い、ムラサメ隊もそれに続きました。72時間経過後の救助活動になりましたが、数十人を救出することに成功したそうです」

    アグネス「なるほど。そして今度はリトアニア、と。それだけなら何ら事前合意違反では無いし、むしろ感謝するべきなのだけど…」

    病室の閉じた鍵に目をやる。ここで話す以上、それだけではないだろう。心当たりもある。

    アグネス「ウィンダム隊長機とストライクノワールのパイロットね」
    メイリン「はい」

    メイリンは神妙な顔で嫌な予感が的中したことを告げてくれる。本当に次から次と…。

    アグネス「(なかなか困った問題になるわね。『軍艦は受入国の警察権、裁判権、臨検捜査権、一切の管轄権に服さない。受入国の犯罪者が艦内に逃げ込んだ場合にも、受入国の官憲が艦内に追跡して逮捕連行することは出来ないものとされる』)」

    アグネス「アークエンジェルのクルーはオーブ軍の制服を着ていたわよね?」
    メイリン「はい」
    アグネス「なら、理屈としては、艦内はオーブの法律とオーブ軍の軍法が適用されている状態ね。彼ら自身のアイデンティティーは分からないけど、外形的には。国家元首まで乗っているわけだし」
    メイリン「そうなりますね」

    あの艦は海賊船ではなく、理屈上はオーブの軍艦。二人がアークエンジェル艦内にいる以上、此方が出来ることは原則ない。

  • 153二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:19:56

    『ない』では済まないので一応は、対処法を考えてみる。

    プラントとオーブは交戦国だ。自然休戦のような状態になっているだけで。だから、アークエンジェルがオーブの軍艦なら、撃沈までは行かなくとも武装と推力を破壊し、突入班を組織して艦内に押し入り、二人を拘束することも出来そうな気がするが...。

    アグネス「(いかに戦時下とは言え、国家元首の乗っている艦にそんな振る舞いをするのは問題になる。事実上不可能と言って良い)」

    それに第一-。

    アグネス「『アークエンジェルとそのクルー及びパイロットは、謂わば『オーブ亡命政府軍』。そしてオーブ亡命政府はオーブの同盟条約締結を承認しておらず、一貫してこの戦争への参戦を拒否している。プラントも亡命政府を敵対勢力と認識していない』。散々試行錯誤をした末、そう言う合意が形成されている。あの艦を攻撃することは準友好国に侵攻するようなもの。大義名分としては軽すぎるわ」

    そう話しを振ると、メイリンも頷き肯定して言い添える。

    メイリン「その延長線上で考えると、西ユーラシア連邦もプラントも2人もパイロット引き渡しを強制できないことになります。向こうも応じる義務はありません。その言い分が、現実的に通るかは別問題ですが…」

    そうね。理屈としては。ただ、今の現実がそれを許すかどうか。

    ふーむ。困ったわ。プラントとオーブは犯罪者引き渡し条約をまだ、締結していないように思う。向こうの亡命者を受け入れているぐらいだし。犯罪者と亡命者と犯罪者引き渡し条約の関係は議論の余地があるけど。ここは議論の場ではない。

    アグネス「引き渡しを要請すればいいじゃない?強制では無く要請。隊長機に乗っていたのは上級指揮官だし。戦争犯罪と人道犯罪の訴追対象者の一角、城砦なら大手門ぐらい重要よ」

    強制ではダメなら要請、このカードはどうだ!

  • 154二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:26:58

    でも前に暗殺されかけたしなぁ…近づきたくないなぁ

  • 155二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:30:55

    そう言ってメイリンに視線を送るとフルフル首を振られる。なに?

    メイリン「回答を留保されています。一応、彼らがアークエンジェル艦内にいることは上層部と攻勢主力を担ったミネルバしか公式には知らないことになっています。ただ、中継にアスハ代表らが彼らを捕獲する様子が映り込んでいましたので…」
    アグネス「公然の秘密という訳ね。でも、なぜ?」

    あの場で引き渡したら虐殺や虐待が危ぶまれたから、あの対応は問題なかったと思うけど。今は、多少は落ち着いているだろう。多分…。病院内だから確信は持てないが…。

    アグネス「(裁判の公平性を心配しているのかな。確かに勝者の裁きになってしまう恐れはあるけれど…)」

    いずれにしろ国際法廷の開廷まではまだ時間がかかる。
    もし、彼らが裁判の公平性を気にしているなら、オブザーバーとしてアークエンジェルの士官に参加してもらう、と言う方法もありかも知れない。隊長機とストライクノワール、ポーランドのデストロイのパイロットを確保した手柄は彼らにあるのだから、それぐらいは融通を効かせるべきだ。

    二人を勝手に開放しない、アークエンジェルは自艦の存在位置を常に明示し続ける等の条件を付した上で暫く様子を見るのもありかも知れない。

    無論、真実の究明は進めないといけないから、例えば、こちらの警察官を逮捕権の無いことを宣誓した上で客人として乗艦させてもらい、アークエンジェルクルーの立会いの下、面会と言う名目で取り調べをする、とかどうかな。

    あれやこれやと考えているとメイリンが驚くべきことを告げてくる。

    メイリン「実はデュランダル議長がミネルバにリトアニア戦後に下そうとしていた命令がアークエンジェルの強襲だった節があるんです。はっきり口に出してはいませんが言外に。名目は二人の奪取と逮捕」
    アグネス「はぁ?!そんなものが通らないわよ?やっぱり研究者に政治を任せたらダメね」

    あの男は自分を大した陰謀家と思っているかもしれないし、実際そうかも知れない。
    でも、このタイミングでそれは悪手の極みだ。欧州もザフトもプラントも彼らには特大の借りがある。今、そんなことをすれば世論を敵に回すし、ミネルバの皆もどう反応するか…。少なくとも私は嫌かな。

    アグネス「(最高評議会と国防委員会をきちんと通した命令じゃなければ手続きの瑕疵を突いて時間稼ぎしよう)」

  • 156二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:39:37

    メイリン「それと関係が有るかわかりませんが…。フリーダムのデストロイ戦の貢献が報道でやや軽んじられている印象があります。流石に大勢の味方、特に外国勢力である西ユーラシア軍や現地のポーランド人が目撃しているので放映されていないわけではありませんが。セイバーやインパルスが映り込んでいる時間の方が明らかに長いんです」

    不吉な兆候ね。議長は最初からアークエンジェルを敵対勢力と見なしていたのか、それともザフトのプロパガンダ放送と言う性質上、自軍の活躍を盛ってしまったのか。

    アグネス「(現状ではどちらとも受け取れる。厄介ね)」

    しかし、アークエンジェルもアークエンジェルだ。めんどくさい2人などさっさと放り出せばいいだろう。別に拷問しようと言うんじゃない。

    いや…。『私は』拷問する気はない。と言うべきか?

    今回のことでロゴス・ファントムペイン・ブルーコスモスへの憎悪は危うい域まで達している。引き渡したとして彼らが人道的に扱われる保証は特務隊の私でさえ出来かねる面は確かにあるが…。

    メイリンは私に耳元に囁くように目玉が飛び出るような情報を伝えてくる。

    メイリン「アスランさんから聞きました。確保したウィンダム隊長機のパイロットは先の大戦でアークエンジェルと共に戦い、ヤキンで戦死したはずのムウ・ラ・フラガ少佐と瓜二つだそうです」

    なに!?え…。どういう意味?

    アグネス「!?アスラン先輩がじかに見たなら他人の空似は無いとして…双子と?いや、無いわね。フラガ家の記録にそんな人はいないはずだし、レイも出自の告白の時、そんなこと言ってなかったし」
    メイリン「はい。長時間みている時間は無かったそうですが、別人とは思えないと。アークエンジェル内にフラガ少佐の生体情報があるそうなので、照合作業をするのではないか、と」

  • 157二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:47:02

    アグネス「仮に本人だとすると…。ヤキンで亡くなったのは誤報で、実は連合の捕虜になっていて…。その先で記憶操作なり洗脳なりされていたってこと?」
    メイリン「そこまでは…」
    アグネス「分かるわけないわね…。ごめん。困ったわ…。もし本人だと。刑事責任能力はただでさえデリケートな問題なのに。と言うか、エクステンデッドや記憶操作、洗脳、薬物投与で戦闘を強いられていた兵士は刑の減免・恩赦の対象にすると布告しちゃってたわね」
    メイリン「はい」

    とは言え、この大破壊の後でそれが通るか、通すべきなのかは倫理と道徳と政治と法の問題だ。私が短兵急にどうこう言って良い話ではない。何より、まだ事実は確定していない。

    アグネス「まさか士官や司令官レベルまでそんなんだとは思わないじゃない…。改めて頭がおかしい組織だったのね」
    メイリン「そうとしか思えません。でも、どうしましょう」
    アグネス「どうもこうも…。事実が分かってから。ちょっと考えるわ。そろそろアビーの見送りね。メイリンもキールに…」
    メイリン「とんぼ返りします。待っていてください」

    胸を張って随分頼もしいことを言ってくれる戦友を物理的にも目の前で見つめる。私が彼女を頼もしく思うのと同程度に私は彼女にとって頼もしい存在だろうか。

    分からない。最近お世話になってばかりな気がする。
    アグネス「本当にありがとう。メイリン。勿論、私のためだけじゃなくて大勢の人のために動いてくれているのは知っているけれど。お礼を言いたい気分なの」

    上手く言葉に気持ちを乗せられない。スピーチコンテストのトロフィーは錆びついてしまったようだ。

    メイリン「こちらこそ…。いつもありがとうございます」
    お互いに大きな声ではなく、囁き合うような静かな声で感謝の気持ちを示し合う。何か、本当に良い出会いが出来た。この子の信頼を裏切るようなことがあっては絶体にならない。そんな気持ちをより強く感じる。

    それはさておき…。
    アグネス「さて、アビーと貴女の見送りに行くわ。準備は?」
    メイリン「できています」
    そう言ってキャリーバックを示して見せる。誰のかと思ったらメイリンのだったか。

    ベッドからヨイショっと立ち上がり背中をぐぅッと伸ばす。メイリンが一瞬手伝おうとしてくれけど、遠慮しておく。ひび割れた肋骨に電気が走り脳の神経を焼く。生きている証だ。これは治りも速いはず。

  • 158二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 06:17:09

    スウェンの方も施設で洗脳教育は受けてたけどエクステンデッド化やネオのような記憶操作はされてなかったよな
    この場合司法判断はどうなるんだろうか…

  • 159二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 06:21:22

    エンジェルダウン発令は避けられなさそうかな…
    この世界だとアスランだけじゃなくミネルバや今回の戦闘に参加したザフト兵全体からも総スカン食らいそうだけど命令は命令だしなぁ

    タリアやアグネスがなんとか交戦避ける言い訳というか建前を見つけるのを期待するしかないのか

  • 160二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 17:56:45

  • 161二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 20:48:36

    メイリンも働き詰めで疲れただろうに、色々と調べて凄いよね。
    凄いけど、尻尾を掴まれて狙われたりしないのか心配だ…
    エキスパートでもミスをしたり細部に行き届かなくなるのが疲労というものだし…

  • 162二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 00:42:54

    途中の売店で何かアビーにプレゼントをと思うが気の利いたものが売っていない。仕方ないのでクッキーとチョコレートをメイリンとお金を出し合って購入する。カカオパワーで元気回復して欲しいわ。

    1階ロビーに着くとアビーとレイが立ち話をしていた。アビーは制服でレイは病院服、この組み合わせは珍しい。病院服と制服コンビなのは私とメイリンも同じだけど。

    ロビーの長椅子にはやはり病院服のグラディス提督が腰掛けられている。

    傍には迎えに来たらしいショーンとデイルが制服姿で佇んでいる。他、見送りに来た看護師3名ほど。

    二人は割と元気なようだ。勿論、疲労で一時はダウンしたんだろうけど。やはり男性はタフなんだと感じてしまう。弱気になっているのかな、私は。

    提督は私を見つけると立ち上がって敬礼して下さる。ショーンとデイルも慌ててそれに倣うので、此方もピシッと返礼する。

    3人の動作で動作でレイとアビーも私とメイリンに気づき、皆で敬礼を交わしていく。もうちょとリラックスしてお見送りしたいと思うけど、加減が難しい。こういう時、自分が新米に過ぎないのだと自覚させられるわ。

    ただ、アビーの顔色が思ってたよりも良さそうで安心した。窶れているけど、退院後に一杯美味しいものを食べればいい。腕に大きな花束を持っているのはショーンとデイルがミネルバ代表として渡したのだろう。

  • 163二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 00:47:09

    グラディス提督にアイサインをして、同意を貰うとレイにも視線を送る。あいつも何か買ってきているらしい。

    アグネス「アビー、これ。つまらないものだけど、メイリンと私から。ごめん。いや、病院の売店が悪いわけでは無く…」

    どの方向にフォローを入れようとしているんだ私は!脳がまだ鈍っているのか。
    ともあれ、メイリンと一緒に手を添え合って、少し気恥しそうにしているアビーに細やかな退院祝いを手渡す。

    アビー「ありがとうございます。本当に…。アグネスさんは怪我が治っていないし、メイリンさんもお疲れなのに…」
    アグネス「私のことはいいわよ」
    メイリン「ちゃんと休んでますから」

    アビーの喉の調子は良好ね。良し、1000000000アグネスポイント!

    アグネス「いつも滞りなく仕事が出来て皆が無事なのは貴女とメイリン二人のおかげだと思っている。今回も二人のおかげで乗り切れた本当にありがとう」

    アビーの目を見て、次はメイリンを見てオペレーター・コンビに改めてお礼を言う。特にカオスはファイヤーフライ・誘導ミサイルを装填する都合上、グフの時より発着艦の頻度が多い。私の命は冗談抜きで彼女達の双肩にかかっている。

    アビー「いえいえ…。そんな」
    メイリン「気にしない、気にしない」

    かえって向こうが気づかわし気な視線を送ってくるのには参ってしまう。確かにこれは良くないわね。

    一旦、さり気なく体を下げてレイに場を譲る。

    レイ「俺からも、アビー。退院祝いだ。つまらないものだが」
    アビー「いえ!ありがとうございます」

    レイがアビーに手渡したのは…。図書券か商品券ね。いや、軍票か…。流石にそれは無いか。

    アグネス「(入退院が急で気が利くものは渡せないわね。止む無し)」

  • 164二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 00:52:42

    レイのプレゼント贈呈が終わると今度はグラディス提督が歩み寄ってアビーに声をかける。

    タリア「アビー、良く戦ってくれたわ。貴女の働きが私達と欧州の大勢の人々を救ったのよ。戦傷病は恥ではない。胸を張ってキールに帰りなさい。短い休暇になってしまうだろうけど、皆と大いに羽を伸ばしなさい」

    提督からのプレゼントはアビーへの感謝状だった。正式な『感状』や表彰とは違うがアビーはとても嬉しそうにしている。

    アビー「はい。ありがとうございます、提督」

    グラディス提督は右手を差し出し、アビーがその手を握る。二人は男性がするような、がっしりとしたものではないが心がこもった握手をする。

    パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。

    何と無くその場の雰囲気で皆で拍手をする。うん、こういう時は雰囲気に流されるべきだ。レイにコソこそっと近づいて小声で訊く。

    アグネス「何を?」
    レイ「高級レストランの予約、キールの。間に合う」
    アグネス「良し」

    気が利いたプレゼントね。アビーはモリモリ食べて回復して欲しい。やつれた顔を見続けるのは心苦しいわ。

    タリア「メイリンもありがとう。貴女も疲れているでしょうに」
    メイリン「いいえ。本当にちゃんと休んでいますので、ご心配なく」
    タリア「苦労を掛けるわ…」

    そんな会話の後、皆が車に乗り込む。メイリンはとんぼ返りするそうだが、それはそれ。

    病院を出ていくアビーとショーンとデイル、メイリンを看護師たちとグラディス提督とレイと私で見送り、一旦、今日のメインイベントは終わりを迎える。

  • 165二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 00:55:29

    彼らの車が見えなくなった頃合いで提督は私達2人にも声をかけてくれる。

    タリア「2人とも体調は…。良いわけないわね。ごめんなさい」
    レイ「いえ。かまいません」
    アグネス「はい。ただ、自分で思っていたよりは良さそうです」

    何やら、キリっとした声でレイは答えているわ。格好がつけられているなら良いことだ。
    私に関しては、次のトラブルが発生して気が休まらない。

    アグネス「(確かに不健康だけど…。何とでもなる筈よ!)」

    目下の状況が休養を許してくれない。普通もっと、いや、言うまい。

    アグネス「提督はその…。いかがですか?」

    さっきから無理をして立ったままの提督に、長椅子に早く座ってもらえるよう目線とジェスチャーで示しながら、会話を振る。いかがも何も体調が優れないのは見ればわかるけど、礼儀と言うか決まり文句だわ。

    私の気持ちを察したのかグラディス提督も椅子に腰を下ろした後、同じ椅子に座るよう私達に促す。

    ここはお断りする方が無礼だろう。

    アグネス、レイ「失礼します」
    タリア「よろしい」

    そうして私たち二人が座ったところで、さっきの問いに答えて下さる。

    タリア「まあまあね。国防委員会のご配慮のおかげでやっと休むことが出来たわ」

    提督なりの精一杯の皮肉を発し、私とレイも思わず苦笑する。

  • 166二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 00:58:10

    本当に国防委員会様様だわ。

    グラディス提督もアビーも私も見事にダイエットに成功してしまった。メイリンもなんか顔がシュッとしてしまっている。レイは持病がヤバい、まあこいつは半分自業自得な面もあるけど。それにしても国防委員会の所業は無慈悲に過ぎる!

    怒りのボルテージが上がってきた私の表情を読んだ彼女は窘めるように言葉を続ける。

    タリア「ただ、それはそれ。指揮官として不甲斐ないわ。キールに着いた後のことはアーサーに任せきりで。疲労を蓄積しているのは彼だって同じなのに…」

    ああ。そうね。それを言われたら私も反省するしかない。そうならざるを得ない状況だったとはいえ。

    アグネス「それは…。私も人のことは何も言えません。ポーランドに着いた途端、昏倒してしまいましたから…」

    そう言って何とも言えない表情で互いを見つめ合う。自分は自分はばっかり言い出したら、下の者にそっぽを向かれるだろう。愚痴はこの場限りで納めなければならない。

    その後、3人で暫くいろいろお話した。
    大体はレイの話だ。レイは改めて自分の持病隠しについてグラディス提督にお詫びを言い、提督は部下の体調変化に気づけなかったことを申し訳なく思っていると応じていた。

    特に大勢の部下に無理をさせてきた自覚のある提督はしばしば顔を曇らせている。

    リトアニア戦終盤の艦内とパイロット達のコンディションは地獄だったらしい。冗談抜きでせん妄状態に陥っている人員が2割を超え、パイロットも危険な状態で次々とドクターストップがかかっていたそうだわ。

    因みにドクターストップは無効である。私がそうであるように。

    レイ「私も戦闘中の記憶が曖昧になっている時間があります。抜け落ちている時も」
    タリア「そう…」

    まあ、戦場ではよくあること、仕方ない。

  • 167二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 01:03:03

    アスラン「みんな大変そうだな」

  • 168二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 01:18:44

    話題は尽きないが、看護師の『点滴のお時間です』を合図にその場はお開きになる。おやつの代わりに点滴、早く終わりたいわ。

    アグネス「(栄養ゼリー生活が続いていたから、同じようなものだけど。だからってね)」

    そう思って病室へ向かおうとすると提督がさりげなく小さなメモの切れ端をレイから見えない角度で私の病院服のポケットに入れてくる。

    何食わぬ顔でそのまま自分の病室に戻ると、メモの切れ端を確認する。病室の番号、院内電話の番号、面会可能な時間帯、盗聴盗撮に注意の文字。

    アグネス「(貰ったからには協議か…。なんかもうグッタリなんだけどね)」

    ベッドに横になると途端に眠気が襲ってくる。看護師が入室して点滴を始め、その時、少し意識が覚醒したので力を振り絞ってタイマーを設定する。

    私は傷病休暇中だぞ!面倒ごとばかり起こさないでよ。

    ピピピピピ…。

    タイマーの音と共に目を覚ます。点滴は抜かれていた。身体全体がじんわり痛い。起きたくなかったな。

    とは言え、アークエンジェルとフラガ少佐の問題は無視できない。今後の世界情勢も戦争の行方も…。どうするつもりなんだ!本当に。

    看護師が点滴を抜きに来てくれたのでお願いし、暫し腕の違和感から解放される。テレビでもつけるべきか、ただ面会すればいいと言うものではない。自分なりの見通しなり見解を持って行かないと。

    アグネス「(フラガ少佐に関しては…。やっぱり犯罪行為を行った時点で責任能力がないなら罪に問われるべきではないわね)」

    ただ、そもそもあの指揮官がフラガ少佐本人なのかさえもハッキリしない。アークエンジェルの問題ではそこが重要な筈。でないと向こうとの協議に差し支える。そもそも協議できるかという問題もある。うーん。困った。

  • 169二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 07:34:21

    そういやスウェンもAAに居るから戦後はひょっとしてコンパス行き?
    ステラもスティングも生き残ってるし原作よりも人員増えるそうか?
    アグネスの指揮能力見てるとキラの副官にするよりアグネス隊率いてもらった方がキラの負担減りそうだし

  • 170二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 12:36:25

    だいたいの物事は綺麗に整理するよりグチャグチャにする方が簡単だからな…
    権力者が事態を荒らそうとしてるんじゃ部下が止めようとするのは難しい。
    全員一致で反対!ボイコット!ぐらいに意思統一しないと、歯止めをかけるタイミングがバラバラじゃ個別に流されかねない。

  • 171二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 23:44:30

    議長(と命令下にある人員)はどの程度ミネルバを注視してるのだろうか。
    アークエンジェル組と共闘、カガリとも接触したアスランやメイリンは原作通り(以上?)に睨まれていそうだが
    独自に部隊を率いて動いたアグネスは…思い通りには動かない奴とか思われてるのだろうか

  • 172二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 00:33:56

    更に言えば、世界情勢は複雑怪奇だ。

    まず、先の戦いの勝利により、西ユーラシア連邦の建国が確定的となった。国土の範囲は西暦時代に比定すれば、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、フランス、イタリア、ドイツ、デンマーク、ギリシャ(クレタ島地球連合軍占領地を除く)、オーストリア、※キプロス(北部を除く・情勢は未だ流動的)、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア22か国に及ぶ。

    広大な領域とGDPを誇る一大勢力が親プラント国になってくれたのだから、これは大きな勝利に違いはない。

    私が倒れていた3日の内に、プラントと西ユーラシア連邦の間では正式な国家承認と国交樹立が宣言・履行されていた。汎ムスリム会議と西ユーラシア連邦間、大洋州連合と西ユーラシア連邦間、アフリカ共同体と西ユーラシア連邦間、ファウンデーション王国と西ユーラシア連邦間も同じくだ。

    能天気なことに記念式典の日程を調整中と言う。

    一方、世界各地で魔女狩りめいたロゴス狩りが各地で発生中だ。大西洋連邦内でも反戦デモの規模が日に日に大きくなっている。デストロイ戦後には良心的な理由による脱走兵が相次いで、彼らを逃がすための地下鉄道(秘密結社)が活発になっているらしい。

    あの国は西暦時代からジャイアニズムと共に良心のためにその身を投げ出す殉教者を確かに多数輩出してきた。黒人奴隷、ベトナム戦争時の若者たちに次いで、今度はこの戦争で地下鉄が始動とは恐れ入るわ。

    ただ、逆にロゴスと地球連合の間の結束が強化される動きもみられると言う。
    己の保身を図りたいロゴスメンバーとザフト優勢(に見える)戦況を打破したい連合強硬派の軍人・政府高官も存在する。ブルーコスモスも負ければ地獄、必死になっているらしい。

    アグネス「(特にユーラシア連邦。彼らにしてみれば身体の半分と内臓と背骨を親プラント派にごっそり持ち去られたように見える。その最後の一滴は彼ら自身が注いだにしても…。到底受け入れられないでしょうね)」

    更に脇腹の中央アジアさえ、独立されそうになっている。今なら彼らは藁にだって葦にだって縋りつこうとするだろう。

  • 173二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 00:45:17

    各地で厭戦感情も高まっているが、その現れ方は様々だ。

    まず、親プラントの諸国・諸勢力は押し並べて、プラントに単独講和に応じないよう強く釘を刺してきている。

    西ユーラシア連邦はユーラシア連邦・地球連合軍の反転攻勢を恐れている。そして、今は厭戦感情以上に驚異の象徴であるデストロイと押し寄せてきた130万の冬季攻勢に打ち勝ったことへの自尊心と自信の方が強い。独立を勝ち取った高揚感に溢れて無敵モードに入っている。キプロス解放作戦を急げとプラント最高評議会をせっつかれているらしい。

    大洋州はせっかく取り返したニュージーランドを断固死守つもりだ。ニュージーランドの大洋州復帰が明記されていない講和条約には絶対に応じないよう最高評議会に強い要請が届いている。

    アフリカ共同体は旧領奪還作戦の開始を強く強くプラントに要請してきている。北アフリカ、スエズ、エジプト方面までは奪還して欲しいらしい。プラントが地理的に不慣れな西南・中央アフリカ方面は此方で受け持つから、と。そう言う条件で協力してもらっているのだから当然だけれども。

    汎ムスリム会議は中央アジアのイスラム教徒多数派地域に進駐したくてしょうがないらしい。元々、そう言う約束で対ロゴス戦の経済戦争に巻き込んで、協力してもらっているのだから仕方ない。

    アグネス「(中央アジアにはファントムペインの本拠地があるともされている。汎ムスリム会議がユーラシア連邦から半独立状態にある中央アジア諸国に進駐し、かの地の自国編入するなら。いっその事、共同出兵して片を付けるべきかな)」

    ファントムペイン・ブルーコスモス討伐は対ロゴス戦のみならず、元々の戦争でも重要な不可避なのだ。それなら友邦がやる気の内に勝負をかけるべきだろう。

    考えてみれば汎ムスリム会議は戦力国力を温存しているから、まだまだやれる感があるのも仕方ないかもしれない。

    ファウンデーション王国からはプラントにユーラシア国境地帯がブルーコスモス色の強い地球連合軍の根城になっているから、討伐に協力して欲しいと要請が来ている。

    そんなもの自力で何とかできないなら独立しないで欲しい、という訳にもいかない。

  • 174二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 00:49:52

    あの国には中央アジアルートから避難してきたコーディネイター難民の一時受け入れ先になってもらっている。国境地帯のブルーコスモス色の強い地球連合軍を追い払って、受け入れきれない難民はプラントが引き受け、保護して本国まで移送しなければいけない。

    中央アジア出兵があるなら、連動してこちらもこなすことになるのか…。恐らくその方が効率自体は良いだろうが、ますます停戦が遠のくことにもなりかねない。

    ウクライナと南アフリカはプラントに自分達を見捨てるなと何度もメッセージが届いている。コーカサス諸国の親プラント国とは安全保障を約した手前、彼らを見捨てるわけにはいかないだろう。

    アグネス「(本国は対ロゴス戦に協力してくれた友好国への経済援助のため、増税に値上げと大変らしい)」

    対ロゴス戦協力国の経済悪化は無視しえないレベルだ。各国はロゴス関係資本を差し押さえて、自国経済に組み込み対処しているが、急転換に100%対応できるわけもない。

    その分はプラントが国に対しては財政支援を、民間に対しては輸出量の増加で補填をしているが…。本国ではそのために増税、飢餓輸出(までは行かないが値上げの嵐)が深刻になっている。

    アグネス「(私の家みたいな場合だと、株式や不動産、貴金属や先物など備えが有るから。値上がり分で埋め合わせたり、もしかしたら得が出たりする場合もあるけど…。一般家庭の懐事情は危ういかもしれないわね)」

    もともと戦争負担は各家庭に重くのしかかっていた。その上でこれだから堪らないだろう。じゃあ、ロゴス戦をやらなければ良かったかと言うと微妙ではあるが…。

    正直、私はうんざりしている。全面講和が無理なら、せめて-。スカンジナビア王国ぐらいとは講和できないものか。勿論、他の友好国と一緒に。あの国は完全に形式参戦状態だし、何なら精神的にも経済的にも西ユーラシア連邦との紐帯の方が強いはず。

    スカンディナビア王国が講和してくれるなら、カリーニングラードとサンクトペテルブルグの軍港を機雷封鎖できれば、最低限、バルト海航路の安定を西ユーラシア連邦にプレゼント出来るだろう。悪い話では無いはずだ。

    そのためにはアークエンジェルへの攻撃は猶の事禁忌だ。寧ろ彼らに-特にアスハ代表に-スカンジナビア王家へのとりなしを頼みたい。

    アグネス「(これで方針は決まりかな)」

  • 175二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 01:38:07

    >>174

    アークエンジェルへの攻撃は猶の事禁忌だ。寧ろ彼らに-特にアスハ代表に-スカンジナビア王家へのとりなしを頼みたい。

    アグネス「(これで方針は決まりかな)」


    ???

    「と、思わせといてぇ…」

  • 176二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 07:04:54

    グラディス艦長とアグネスが連名で大っぴらに発言すれば注目はされそうだけどはたして。

  • 177二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 16:17:44

    >>176

    純粋な戦闘力はともかく、本スレアグネスの戦術・戦略面での影響力はシンどころかアスラン以上かもしれんし、ザフト内での影響はでかそう。

    なんだけど、国防委員会とやらがどこまで現場を把握してるか…そして変なところに目敏い権力者…

  • 178二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 23:23:27

    グラディス提督を訪問する前にレポートを手書きで作成、院内電話を掛ける。

    電話先からは『ザ・副官』なイントネーションの若い女性軍人の声がする。顔を見たことのあるミネルバの女性クルーだわ。入院中の補佐のために出張してきたのか。

    アグネス「(そうだわ。提督、副官がいないものね。副長は『副艦長』だし…)」

    割とこの辺り、ザフトは適当な気がする。幾つかの艦を指揮する司令クラスの人間もモビルスーツパイロットやモビルスーツ隊隊長を兼任していて、いざとなったら自分でホイホイ前に出ていく人もちょくちょくいる。

    『モビルスーツ≒軍用機』、『モビルスーツ隊隊長≒飛行中隊隊長、飛行大隊隊長』と考えれば有と云えば有なのかもしれないが…。戦史上、将官でも自身で航空機に乗り込み戦闘・指揮を執っていた事例もあるし…。

    ただ、その場合も副官なり、参謀なりはちゃんと存在したわけだから、この辺り我がザフト軍はまだまだ『建軍』の途中なのだと実感する。

    有能な副官っぽい雰囲気を醸していたクルーは相手が私だと知ってしょんぼり通常モードに戻ってしまう。彼女が少し気の毒に感じる。別にそのままでも良い。

    ただ、それはそれ、一応予約が取れたのでレポートをもう少し手直ししてみる。わざわざ紙に手書きしているのは話が終わったら高性能シュレッダーで処分するためだ。デバイスだと証拠が残ってしまう。アナログが強い場面はC.E.でも多い。手紙も羊皮紙も未だに滅びてはいない。

    レポート作成が終了したので、鉛筆と消しゴムを入れた筆箱、メモ帳を片手に病室を出る。筆箱、正にアナログね。

    全身痛いので、やはり、鎮痛剤を口に放り込んで出発する。

    グラディス司令官の病棟は渡り廊下の向こうだった。廊下の向こう側は同じ病院とは言え、何となく豪華な雰囲気が漂っている。やはり将官クラスは違うわ。

    アグネス「(実は私も結構、病室や病棟は優遇してもらっているんだけどね。一般兵だったら、こんなに楽々な入院生活は難しかったと思う。残念ながら…)」

    そして、残念ながらその分の働きも期待されている。アホらしい、休日出勤同然だわ。

  • 179二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 23:29:32

    廊下を渡り終わり、進んでいくとナースステーション前の休憩スペースに何やら人が集まり整列している。医師、看護師、将官・佐官クラスの入院患者達とその副官、護衛官、そして―。

    グラディス司令官と先程、電話に出てくれたミネルバクルーが待機していた。提督は私を見た瞬間に敬礼し、周囲もそれに続く。私も敬礼を返し少し急ぎ足で-向かおうとするのを-制止され、スタスタ進んでその場に至る。

    どうやら、何かの賞を頂く雰囲気になっている、私が。何の賞であるかは分からないが…。

    グラディス提督も私も病院服、周囲の高級将校も軒並み同じ格好だ。病院服を着てしまえばその人がザフト軍の人なのか西ユーラシア連邦軍の人なのか見分けがつかない。

    キッチリした身なりなのは医療スタッフと彼らの副官・随員の方だ。副官・随員の制服で初めて所属が分かる。

    アグネス「(入院中の私達は翼に傷を負った者同士。仕方ないことね)」

    グラディス提督の目線に促され、姿勢を正して彼女の前に進む。鎮痛剤を飲んできてよかった。そうでなければ肋骨の痛みでのたうち回るところだわ。

    グラディス提督は皆の前で私に指輪ケースを思わせる小型ケースを差し出すと中を開いて見せてくださる。ケースの中は名誉戦死傷勲章と略綬および略章が入っていた。同時に証明書も手渡される。

    タリア「アグネス・ギーベンラート、貴官はエーゲ海サントリーニ島にて多数の地球連合軍モビルスーツ群と対MS戦闘機ヘリコプター群相手に勇戦を繰り広げ、結果、対MS戦闘ヘリコプターから回避可不能な状況下でミサイル14発以上が自機に着弾、その際、名誉の負傷を受けたと認定されました。プラント最高評議会議長は貴官の祖国への献身と貢献を賞し、ここに名誉戦死傷勲章を授与します。お疲れさまでした」

    パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。

    その場の医師や看護師、列席して下さっている戦傷病中の将官・佐官と副官や御付きの人達が院内なので控えめな分、心のこもった拍手をして下さる。

    アグネス「(ああ。戦傷章ね。そう言えば、貰うのは初だわ)」

  • 180二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 23:35:24

    勲章と略綬および略章が入ったケースと証明書を受け取り、グラディス提督と互いに敬礼して集まった皆様と握手をして回る。

    皆、手や足が欠けてしまっている人や内部負傷を負ったと思しき人ばかり。腕がない人とは目線を同じ高さに下げて(鎮痛剤の靄の向こうで肋骨に電撃が走ったのが分かるが気にしない!)言葉を静かに交わす。

    互いの健闘を称え、祖国の独立にお祝いを述べ、その場はお開きになった。

    とても嬉しいけど、そのために伺った訳ではない。

    それは向こうも良く分かっている。

    タリア「此方にいらっしゃい」
    アグネス「はい」

    グラディス提督と副官役のクルーに導かれ、彼女の病室にお邪魔をする。部屋に入るのは主の彼女と私だけだ。

    タリア「こちらに」
    アグネス「はい」

    私より一ランク豪華な病室の中の方に案内され、提督からもう一つのケースを手渡される。

    ケースの中には同じく名誉戦死傷勲章が複数回受賞時に略綬に付ける小型の金星と共に入っている。

    タリア「アグネス・ギーベンラート、貴官は先の戦いの負傷が癒える間もなく次なる戦いに勇躍参戦し、地球連合軍ベラルーシ軍管区主要基地であるマチュリシ航空基地の戦力、ことに大型モビルスーツデストロイと交戦に及び自らが統率する飛行隊を率いてこれを撃破した。その際に前の戦いに負った傷が再度、悪化し、のみならず、新たな戦傷も負ったものと認定されました。プラント最高評議会議長は貴官の祖国への献身と貢献を賞し、ここに名誉戦死傷勲章を授与します。お疲れさまでした」

    マチュリシ飛行場…、ミンスク!!

    愕然とした感情が後頭部を殴打する。胸が詰まり息が苦しい。受け取った二つ目の勲章が突如、重たくなり少し目が回り始める。『これは要らない』そう言って放り出したい。ミンスク抜きにしても勲章・記章はいっぱい持っている。

  • 181二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 23:39:07

    タリア「アグネス…。『認定された』の。意味は分かるわよね」

    彼女からは証明書が差し出される。この勲章に付随してのものだ。

    アグネス「わかります…。ミンスクの攻撃は正当なもの。勲功として賞されるに足るザフトの一大戦果です」

    そうか。この勲章を貰っておけば私と飛行隊の身はますます安泰と言うことか。何しろその際に負った戦傷で名誉戦死傷勲章をプラントは出したということなのだから。

    元から後ろ暗いところはないつもりだ。ただ、心が苦しい。

    タリア「こちらも…。ブレストの町は酷いものよ。ミネルバのクルーもパイロットも、大気圏外の月軌道艦隊でさえ、動揺していない者は皆無よ。私達が壊して…、殺したのよ。あの町だけではない」

    項垂れた頭に静かな声が落ちてくる。貫禄のある声音がどこか悲しげだ。

    タリア「自分を良い母親とは思わない。それでも息子に誇れる仕事をしているという自負はあった。あの町を見せてウィリアムがそう言ってくれるかは自信がない。直接、標的にしたわけでは無いにしろ民間人を死なせた。あの子と同じ年頃の子供もね」

    顔を上げて彼女と視線を合わす。グラディス提督は優しく悲しい笑みを浮かべた後、再び強い軍人の顔に戻る。

    タリア「これから多くの者が貴女に問うでしょう。『君たちの行いはデストロイやファントムペインと何が違うのか!?』と。きちんと整理して揺らぐことの無いようにせよ」
    アグネス「はい!」

    しっかりした声で返事をすると提督は私に席と机を勧めて下さる。受け取った勲章2つと証明書二枚は机に置かせてもらい、作成してきたレポートを彼女に手渡す。

    タリア「読んでいる間、好きに過ごしなさい」
    アグネス「はい」

    そう言って提督はカーテンを閉めてベッドに戻り枕灯をつけてレポートを読み始める。

  • 182二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 23:47:16

    アグネス「(好きに過ごしなさいね)」

    要は『楽にせよ』か。特にすることも無いので、不躾にならない程度にお宅(病室)拝見。流石、大物!あちらこちらからお見舞いや花束、プレゼント、激励の電報が山のように届いている。鬱陶しいらしく、ベッドから遠ざけたところに纏めて追いやられている。

    一番大きくて立派な花束には『プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダル』、一番高級そうなプレゼントの包みには同じく『プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダル』。アホか!

    アグネス「(あいつ、絶対に私的なメールでもお見舞いを送っているわ。最悪!上司と結婚なんてするものじゃないと思い知らされるわ)」

    と言うか、普通結婚したら、どちらかが移動になるかな。そもそもこの二人は結婚していないし、立場が特殊だから比較対象としてはふさわしくないけれど。

    ただ、どちらにせよ、愛する人をあそこまで酷使するとは!自分の都合の良い駒だからゴリゴリ使い潰したのか?

    いや。

    アグネス「(議長と提督、二人の人柄を私は深くは知らない。ただ、私が思うに単なる駒とか使い潰すとかそう言った類の感情を議長はタリア・グラディスと言う女性に抱いてはいないのではないか)」

    女の勘なんて言えるほど人生の経験はない。議長と直に会ったのもアーモリーワン事変とディオキアと月のダイダロス基地と。あれ?結構会っているわね。まあ、良いわ。

    デュランダル議長がグラディス提督に寄せる感情はともあれ一般的な意味での『軍略政略の道具』の枠を超えている。すると開戦以来の無茶ぶりの連続はマジで天然だったのか?はたまた軍内に基盤が無くてやむを得ずと言うことなのか。

    或いは信頼している者以外には任せられない重要な任務と考えていたのか…。

    うーん。分からん。当事者がカーテンの向こうにいるのだから聞きたいことがあるなら今聞くべきと思うけど…。

  • 183二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 07:42:29

    プレゼントやお見舞は、取り急ぎ功労者の代表である艦長へってことかな?
    山と貰っても困るよね…かといってミネルバの乗員で分けるには足りないかもしれん。

  • 184二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 12:43:48

    >>183

    人員充足状態(当該作戦時は過積載状態)のミネルバの頭数では、一人分のプレゼント程度ではいくら複数人から受け取ったと言っても

    到底行き渡らんでしょう。高級嗜好品の配給とか特別休暇とかを真面目に考えなければいけないレベル。人間、名誉だけではどうしたって

    限界が来るのは避けられない。どこかでガス抜きをしておかないと……。

  • 185二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 00:41:15

    議長はエンジェルダウン強行するかな
    タリアからの進言を受け入れて別方向へ舵を切るか
    それともクライン派を筆頭に議長を訝しんでる組が議長の尻尾をつかむのが早いか
    続きが楽しみです

  • 186二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 01:15:52

    アグネス「(不躾かな…。と言うか読んでいる最中だし)」

    暫く待っているとカーテンが引かれ、グラディス提督はベッドから立ち上がり椅子を持って此方に歩み寄って来る。お持ちしようとすると静かに制止され、そのまま椅子を私の対面に置くと静かに腰を下ろす。

    タリア「『現状、プラントが交戦国・条約締結国全体と休戦条約を結べる可能性は低い。ならば、戦争に非積極的な国から切り崩すように講和を結んでいくしかない。手始めにスカンジナビア王国から。アスハ代表に王家との仲立ちをご依頼したい』と?」
    アグネス「はい」

    お渡ししたレポートの要約の念を押すように問われたので肯定する。口頭試問かな、これ?

    タリア「そうかしら?大西洋連邦もユーラシア連邦も今なら休戦に応じるのでは。ロゴスメンバーの身柄も差し出して」

    彼女は眉を顰め、更に試すような問いかけを私に投げかける。

    アグネス「無論、平和への扉は常にオープンであるべきです。戦争の負担が双方重すぎます。とは言え、大西洋連邦は未だに余力を残しています。本土が戦地から遠く、ブレイク・ザ・ワールドの被害は甚大とは言え、建て直しつつあるでしょう。国家体制も未だ真の国家総動員からは程遠い」
    タリア「確かに。彼らの予備役の動員は部分的でしょうし、学徒動員や勤労奉仕までは行っていないわね。それはプラントも同じことだけど」

    そう。つまり戦争当事国の内、両陣営の『本国』はどちらも余力を残しているんだ。

    反戦世論が盛り上がっているとは聞いている。でも、『反戦』を唱える人達に具体的な講和条件を聞いてみると良い。両方ともかなり自国優位な『勝利の講和』を思い描いているのではないか。

    アグネス「(私も実は大差ない。『勝利の平和』を求めているのは開戦から今まで変わっていない。次の平和がプラントの一方的犠牲の基に成り立つようなものなら断固拒絶する)」

    私がそう思っているのなら、向こうの軍人も同じことを思っているだろう。一般民衆も。

    グレートブリテン島の対岸がオセロの駒のように引っ繰り返り、大西洋連邦はドーバー海峡越しに直接、親プラント国と対峙せざるを得なくなった。緊張は今までの比ではない。

  • 187二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 01:29:50

    その事態を招いたのは彼ら自身なのだが…、少なくともプラント国民の自分はそう思っているのだが、彼らにとってはもう関係ないことだろう。

    低地諸国(ベネルクス3国)が敵対勢力の手に落ちた現状を固定化する形で彼らが休戦条約に応じる、そう考えるほど私は楽観的に慣れない。北海とドーバー海峡、北大西洋の制海権を奪取するか、グレートブリテン島にこちらが橋頭保を築くまでしないと彼らの継戦意思は折れないのではないか。

    そうお伝えするとグラディス提督も同意する。

    タリア「確かに。戦争のきっかけと旗振り役がロゴスであったことを知り、コーディネイターへの差別が倫理に反していたと理解している大西洋連邦人であっても。そして、彼もしくは彼女が反戦感情を抱き現政権の批判をしていたとしても、プラント側優位の現状を丸呑みした休戦条約に同意できるかは別問題でしょうね。ロゴスメンバーのことはともあれ。ではユーラシア連邦は?貴女はそちらと講和を考えるべき、そう議長に主張していなかったかしら?」

    ディオキアの議長との面会のことね。あの時はまだ、引き返すことが出来た。今はもう不可能だろう。

    アグネス「ディオキアの時は、確かに。ですが、今はもう難しいでしょう。
    ユーラシア連邦側にここまで大規模な国境変更を受諾する用意は整っていない筈です。それは反戦的な民衆ですらそうでしょう。一方、余力はまだ存在します。
    彼の国の前身国はかつて勝利のために880万人以上の軍人の死と1900万に達するともされる民間人に死に耐えました。男子の大部分とかなりの数の女性を軍に動員し、身体障碍者まで搔き集めて兵器工場を稼働させ続けました。ユーラシア連邦は理性的なことに未だそこまではしていません」

    しかし、私達は互いにレッドラインを越えてしまった。今回の大敗を受けて今頃、ユーラシア連邦中の生産ラインが総稼働しているだろう。国家全てが工場となり、国民全てが徴兵対象となる日は遠くないように思う。

    もうユーラシア連邦は解体するしかないのか。しかし、解体とはどこまで?これ以上の混乱を押し留める方法は?
    彼らを圧倒する力を誇示して実効支配が及んでいない地域の領土の放棄を認めさせ、成文化された条約にサインさせるしかない。ただ、そのために払うコストは膨大だ。

  • 188二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 01:46:39

    一気呵成に問題を解決しようとモスクワを目指して攻め上がった勢力は過去、皆滅んだ。彼らの列に並ぶのだけは御免だ。対処療法をしていくほかない。

    ロゴスについても、人類社会は『ロゴス対世界』のように綺麗に別れはしなかった。

    議長の一連の政略によりロゴスと言う組織は可視化された。彼らは各国民衆の嫌悪と敵意の対象とされ、排除と魔女狩りとが進んでいる。ただ、幸か不幸かデュランダル議長の実験室より、少しだけ世界は広い。少なくない条約締結国の政権中枢はもはや主客転倒し、彼らを保護し、引き込み、戦争・経済体制維持に強制的に協力させようとしている。

    ロード・ジブリールの本拠地がユーラシア連邦だとする情報もある。本当にそうならユーラシア連邦は彼がボロ雑巾になり、逆さに振っても一銭も落ちなくなるまで出国を許可しないだろう。それは他のロゴスメンバーも同じ。

    民衆にリンチで殺されるか、政府に匿ってもらい馬車馬となるか。あるいはその中間か。何にしろもう彼らは世界が自分達の庭と思うことは金輪際あり得ない。ただ、それで神の園が楽園となるかと言うと、それは別の話だ。

    アグネス「(無論、いよいよとなればどの国も彼らを見捨てるでしょうけど。チキンレースの真っ最中だわ)」

    そして、控えめに言って世界は無茶苦茶だ。もともと無茶苦茶になっていたのに。ロゴス糾弾の歴史的評価が定まるのはずっと先になるかも知れない。

    タリア「だから、スカンジナビア王国とだけでも講和せよ、と。その仲介をアークエンジェル、アスハ代表にご依頼したい、そう言うわけね」
    アグネス「はい。せめて欧州情勢を一息付けなくては身動きが取れません。バルト海航路を安定させることは、西ユーラシア連邦のためにもなります。アスラン先輩も決して骨折りを厭うとは思えません」

    そう『アスラン・ザラ』。彼がザフト、プラント側に居る意味を最大限発揮できるのはこの瞬間ではないか。天の配剤と言うべきだ。『アレックス・ディノ』として雌伏の時を耐えた甲斐が有ったというものだろう。

    アグネス「アスラン先輩-ディノ特使にパイプ役になっていただき、リトアニアのクライペダに現在停泊中のアークエンジェルにこちらから特使を派遣しましょう。アスラン先輩はパイプ役なので-それ以外の高位軍人ないし外交官から、正使・副使・書記官等を選任。威儀を正して交渉に臨むべきです」

  • 189二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 01:59:21

    そうお答えする。提督は話を聞くと手元のレポートに目を落とし、もう一つ質問を追加する。

    タリア「正使の候補にハイネを挙げているのね。なぜ?」

    質問をしながら提督は私に目配せする。そうか、『盗聴盗撮に注意』ね。では、言って良い理由を話そう。

    アグネス「ハイネ・ヴェステンフルス。彼は特務隊として最高評議会・国防委員会と現場の将兵両方の見解を代弁できる立場です。前大戦を跨ぐ歴戦の猛者でその発言は軍内で重みがあります。和平において軍に顔の利く人物を立てることは重要です」

    無論、それが本心全部ではない。ハイネ先輩は少々不気味なのだ。本人の人柄がどうこうじゃない。政治的ポジションが未確定で困っている。そうであればこそ、今回のことで此方に引き込んでおきたい。背後に置いておいて誰かさんから別命が飛ばされてきても困る。

    タリア「なるほど。それで貴女自身は副使か書記を希望と。言いたいことは分かったわ」

    そう言いながら、レポートを閉じると思わぬことを告げられる。

    タリア「良く練られたものだけど、少し現状認識に齟齬があるわね。仕方ないことなのだけど」
    アグネス「と、おっしゃいますと?」

    何か悪い追加情報が入ったのか?もう勘弁してほしい。

    タリア「貴女とアスラン、メイリンが元連合軍士官、ムウ・ラ・フラガ少佐と同一人物である可能性が大としている者の情報がポーランドより届いたわ。彼は地球連合軍第81独立機動群ファントムペイン指揮官。ネオ・ロアノーク大佐よ。降伏したユーラシア連邦軍の師団長が証言したから間違いないわ」

    ネオ-と言うことはやはり。

    タリア「ロアノークは重大な戦争犯罪の嫌疑が掛かっている。宣戦布告無し休戦条約違反のアーモリーワン攻撃、ユニウスセブン破砕作業の妨害、人道犯罪たるエクステンデッドの運用に加担、そして今回のデストロイ。この戦争の勃発と拡大に甚大な影響を与えたわ。正体がどうあれ、本人の責任能力がどうあれね。今は…。簡単じゃないわ」

    あの男はファントムペイン司令官。予想していたこととはいえ、奴等の『大佐』、リクルート能力どうなっているの?

  • 190二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 10:15:16

  • 191二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 11:24:32

    >>189

    うわー、今までのやらかしがここで祟って来たか。議長はここを責めるつもりなのかね。

    ところで今まで以上に影の薄いジブリ、本気でどこに神隠しされた?

  • 192二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 11:51:01

    アークエンジェルとしては身柄引き渡したくないだろうしエンジェルダウンは避けられないな…

  • 193二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 12:01:32

    落ちこぼれとはいえ純度100%のフラガ細胞だ
    生きたエクステンデットより価値がある

  • 194二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 12:03:17

    >>193

    一瞬レイの治療に役立つかな…ってマッドな考えが過った

  • 195二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 12:08:56

    純正フラガ細胞を兵に投与
    純正フラガ細胞で用途を戦闘に限定して生産効率を上げたクローン量産
    純正フラガ細胞を機体に投与

  • 196二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 12:11:59

    使えるものは親でも使え、まして他人はこき使え!
    ってやつですかね。
    人の心…

  • 197二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 18:35:13

    >>195

    柱間細胞じゃないんだからさあw

  • 198二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 22:53:40
  • 199二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 23:03:31

    もう12スレ目に突入か
    エンジェルダウン強行か否か
    ここからどうなるかなwkwk

  • 200二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 08:15:41

    お疲れ様でした

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