【超閲覧注意】御影玲王という人物は2

  • 11 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:13:43

    御影玲王は、俺の全てでした。
    出逢った時から眩し過ぎて、ずっと近くに居るなんて出来なくて、離れている間も身が焦がすような思いが止まらなくて、それで、─────

  • 21 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:20:35

    前スレ

    【閲覧注意】御影玲王という人物は|あにまん掲示板本当に存在しているのだろうか俺に笑いかけてくれて、俺の手を引いてくれた玲王、俺だけのパートナー最近、不安で仕方無いbbs.animanch.com

    ※流血表現有り、未来捏造有りのSS?スレです

    前スレの続きとなりますので、上記が大丈夫な方は引き続きお付き合いいただけましたら嬉しいです🙏

  • 31 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:20:58

    「玲王!おはよう!」
    「おー、おはよー」
    「玲王、今日も放課後練習できそう?」
    「ああ、しばらくは残るよ」
    「良かった!やっぱ玲王居ないと締まんないからさー」
    「大会まで時間が無いからな。ギリギリまで残りたいけど…付き合ってくれるか?」
    「勿論!玲王が居ないと俺らのバンド始まんないから!」

    いつも通りの日常。
    俺は、音楽活動に夢中になっていた。
    学祭のステージに立ったのがきっかけとなり、校内で仲間を集めて今は全国バンドフェス優勝を狙っている。
    活動は順調、メンバー仲も良好。
    この調子で、大舞台で最高の演奏をしてみせる!


    ……
    ………

  • 41 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:21:19

    スポットライトがステージ上の俺達を光で指し示す。
    大きな歓声が響く中、眩しさに目を細めた。

    「俺■、本■■優勝し■んだ…!」
    「す■■、■■ぇよ俺達!」
    「■■って来■良かっ■■ぁ…!」

    力を出し切った演奏は楽しかった。目標を達成した満足感もある。
    けれど、心が渇いていく。

    「玲■!■■、優■し■■!夢■掴ん■■だ!」

    これが、夢?

    「なぁ、玲■」

    こんな簡単に手に入るものが、俺の欲しかったもの?

    「これ■■も、卒■しても■達で音■続け■■か?」
    「………」

    ああ、この感じ。
    飽きた。つまんねぇ。

  • 51 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:21:34

    「…」
    気付けば、車内に戻っていた。
    心に虚しさが残っている。
    望み通りの世界だったはずなのに。
    喉が乾いた。ステージに立っていた記憶が残っているせいだろうか。
    シャンパングラスが視界に入る。
    グラスを口元に運び、一気に飲み干した。
    渇きは潤わなかった。

  • 61 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:21:50

    試合終了の合図が鳴り響く。
    寸前に俺の手から放たれていたボールが予測通りの軌道を描き、ネットを揺らした。
    大きな歓声が沸き起こる。

    「■■■■」
    「■■■■■■■」
    「■■■」
    仲間達が駆け寄って来て、声をかけ合う。
    喜びを共有し、互いを称える。俺もそれを聞いて、言葉を返している。けれど、そのやり取りが、まるでどうでも良い事かのように脳内からすぐに排除される。
    「■■■■■■」
    試合後の高揚感も、勝利の喜びも確かにあるのに。ここまで共に戦ってきた、仲間への情だってあるというのに。
    酷く思考が冷めている。きっともう、「これ」には熱くなれない。
    飽きた。つまんねぇ。

  • 71 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:22:28

    腕を振り上げ、ラケットを振り抜く。
    鋭い音がコートに響き渡り、審判により判定が下された。
    対戦相手と握手を交わす。血液が循環し、体温が上昇しているはずなのに、自分の指先が冷たく感じた。勝利の喜びに震える気持ちより、冷めていく気持ちが勝っていく。
    飽きた。つまんねぇ。

  • 81 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:22:43

    対局相手が長い思案の末、膝の上で手を握りしめる。
    少しの静寂の後、顔を上げた相手から投了が宣言された。
    張り詰めていた空気と、絶えず稼働していた思考が緩む。盤上を眺め、勝利の余韻に浸りたいのに、目の前の光景は熱を持たず、ただ映し出される映像でしかなかった。
    飽きた。つまんねぇ。

  • 91 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:22:59

    会場の、一番正面で目立つ場所。そこに俺の作品が展示されていた。
    作品の隣には、最優秀賞のプレートが掲げられている。
    長い時間をかけてキャンバスに向き合った。その成果が評価され、讃えられている。
    誇らしく嬉しい気持ちと相反して、完成された作品を視界に入れても、既に終わりを迎えた過去の物としか思えなかった。
    飽きた。つまんねぇ。

  • 101 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:23:24

    「あー!もう、いつまで続くんだよこれ!」
    何度も人生に飽きて、その都度車内に戻される。
    最後のはずの夢は、なかなか終わってくれないようだ。
    何でも出来て、すぐ飽きて、それの繰り返し。
    俺の人生を凝縮すると、こうなるのかな。
    俺の人生は、退屈に満ちていたから。
    あの瞬間までは。
    「…」
    あいつと出逢うまでは。

    背後のシートに寄りかかり、天を仰ぐ。
    どの夢でも、俺は欲しいものを手に入れていた。
    自分を磨いて、仲間と協力して、その果てに得たものは、夢の世界の俺が一度は夢中になったもののはずだ。
    そして、手に入れた途端飽きてしまうのも、以前はありふれた事だった。
    でもそれだけじゃなくて。つまらないと感じてしまうのは、決定的に欠けているものがあるからで。
    どれだけ熱くなっても。どれだけ嬉しくても。きっと隣にあいつが居ないと、もう満足が出来ない。
    「あーあ…」

    視線を運転席の方に向ける。リムジンは走り続けているから、そこには俺が信頼を寄せる人物が居るはずだ。
    遠い昔から、数え切れないくらい助けてくれた、俺の付き人。
    「なぁ、ばぁや。俺、どうしたらいいかな…」
    これは夢で、現実じゃない。だから、彼女から反応があったとしても、それは俺の想像上の彼女でしかない。
    それでも、縋り付きたくなってしまった。
    いつだって、頼りになった大きな背中に。

    「…そうですね。玲王坊ちゃまも誠士郎さまも、素直になってみてはいかがですか?」
    「…え?」

    揺れが止まった。また、目的地に到着したようだった。

  • 111 ※立て直ししました24/11/17(日) 17:26:06

    すみません。前スレ不備が多々あったので立て直しました!
    コメントと♡いただいたのに申し訳ないです。スレ立て慣れてなくてごめん…
    このスレで完結になるかと思いますので、お付き合いいただけますと嬉しいです。よろしくお願いします🙏

  • 12二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 17:32:46

    スレ主おかえりなさい〜続き待ってました!

  • 13二次元好きの匿名さん24/11/17(日) 18:11:50

    やったー!!!続き待ってた!

  • 14124/11/18(月) 01:36:30

    ────────────────
    俺は玲王の居る世界が好きです。
    俺の世界は、玲王が刑務所だって言ってくる位狭い範囲しか無かったし、それで良かったです。
    でも、玲王と出逢って、玲王が色んな所に連れてってくれて、玲王と同じものを見て。玲王となら何処へだって行ってみたいって、そう思いました。
    でも、玲王が隣に居ないだけで、俺の世界はまた狭くて、暗いものになりました。
    玲王が隣に居るだけで、あんなに世界は明るくて、楽しかったのに、今は何も無くて、つまらなくて、寂しいです。
    玲王にあいたいです。
    玲王と一緒に生きていきたいです。
    俺は、玲王の事が

    「駄目だ」
    文章を打っている途中で、ここから先を文字にするのに躊躇い、指が止まった。
    これはここでは書けない。
    これは口に出して、言葉として発したい。
    玲王に、直接伝えたい。
    文章を削って、書き直そう。そう思った時。
    スマホに着信が入った。
    今、俺は極一部を除いて通知をオフにしている。
    その極一部は、連絡を待ち望んでいる相手で──
    心臓がばくばくと脈打つ。頭が真っ白になり、身体の動作が鈍る。
    早く出ないと。
    震える手で、画面をタップした。

    「──誠士郎さまのお電話で、よろしいでしょうか?」
    「…ばぁや、さん…」

    閉じた世界に、ほんの少しだけ、光が差した。

  • 15二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 06:58:12

    ほしゅ

  • 16二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 11:20:13

    続き待ってました
    ありがとう

  • 17二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:05:58

    待ってました!

  • 18二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 02:30:52

    どうなるのかドキドキ

  • 19二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 11:29:38

    🌵

  • 20二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 21:38:59

    ほしゅ

  • 21二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 01:41:43

    待機

  • 22二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 11:17:34

    🌵

  • 23二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 21:01:14

    ほしゅ

  • 24二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 01:19:45

    続きが気になってしょうがないっ!

  • 25二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 11:59:27

    ほしゅ

  • 26二次元好きの匿名さん24/11/21(木) 22:40:45

    ほしゅ

  • 27124/11/22(金) 08:21:48

    エレベーターを待つ時間が惜しく、階段を駆け下りる。運動にはなるけど危ないって、玲王には怒られそうだけど、逸る気持ちが抑えきれない。
    エントランスを走り抜けて、外に飛び出した。
    待ち人はまだ現れていないようだ。
    呼吸が苦しい。息が上がっている。体を動かしたせいではなくて、精神的動揺が、身体に影響を及ぼしている。酸素が足りないと脳が訴えているのか、くらくらと目眩がする。
    落ち着け。落ち着け。落ち着け。こんな所で倒れている場合じゃない。
    目を閉じて深呼吸をしながら、先程までの会話を思い返す。
    先程の着信。相手は、一方的にメッセージを送り続けて、長い間連絡を待っていたばぁやさんだった。
    電話での会話は簡潔で、要点のみを伝えられた。
    玲王の傍に来て欲しい。可能であれば今すぐに送迎に向かう。
    勿論、二つ返事で承諾した。詳しい事は移動中に話したいとの事で、今は迎えを待っている最中であった。
    だから玲王が今はどういう状況か、分かりかねている。
    関わりが深いわけではないけれど、ばぁやさんとも長い付き合いだ。電話口の彼女の声音がいつもとは違う、焦りを感じさせるものに感じたのはきっと気のせいではない。
    だから、ようやく玲王の傍に行ける。その事を手放しで喜べる状況ではないという事実が心を重くする。
    閉じていた目を開く。久しぶりに外に出たけれど、部屋の中も部屋の外も変わらない。色の無い世界にうんざりとする。そんな中で、見慣れたリムジンが視界に入った。

  • 28124/11/22(金) 08:24:44

    いつもよりかなりスピードを上げている車体が目の前で停まり、ドアが開く。
    「誠士郎さま、どうぞお乗りください」
    「っ、…うん!」
    転がり込むように車内に乗り込む。体制を整える暇も無く、運転が再開された。ばぁやさんらしくもない、荒々しい運転だった。
    そして運転席のばぁやさんから、声がかかる。
    久しぶりに、人と話す。
    「急ぎで向かっておりますゆえ、揺れが激しくなります。ご了承くださいませ」
    「うん、それは大丈夫…」
    「また、…長い間、ご連絡が出来ず、誠に申し訳ございませんでした」
    「それも…大丈夫だから。俺と話すの、ばぁやさんも…パパさんも、ママさんも嫌だっただろうし…」
    正直、自分らしくもなく、気まずさを感じていた。きっと玲王の近くの人達は、俺の事を疎んで、恨んでいると思っていたから。
    だから、労られたり、謝罪をされるのは想定外でしかなかったので、素直にそれを口にした。
    だって、玲王は俺と出逢わなければあんな目に遭わずに済んだし、そんな俺が玲王に会いたいって言うのは、不快であったはずで…
    「…いえ、私共は皆、誠士郎さまと…お会いしたく思っていましたよ」

    「…え?」

    「むしろ…もっと早く、こうしてお迎えに上がれば良かった。そう思っております」

    じゃあ、どうして、誰が俺と玲王を遠ざけていた?

  • 29二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 12:06:53

    待ってました〜

  • 30二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 23:13:31

    ほしゅ

  • 31二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 09:10:49

  • 32二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 12:02:16

  • 33二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 19:04:22

  • 34二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 01:51:56

  • 35二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 09:13:50

    ✩.*˚

  • 36二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 11:21:12

    続きドキドキ

  • 37二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 20:31:21

  • 38二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 00:41:57

    ☆☆

  • 39二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 06:34:59

  • 40二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 11:59:13

    ☆☆

  • 41二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 20:27:36

  • 42二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 03:18:34

  • 43二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 11:29:05

    ☆☆

  • 44二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 20:43:58

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 02:00:53

  • 46二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 11:18:00

  • 47二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 14:46:00

  • 48二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 00:03:50

  • 49二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 03:49:26

    このレスは削除されています

  • 50二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 07:32:34

    このレスは削除されています

  • 51二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 11:26:13

    続き楽しみです
    いつまでも待ってる

  • 52二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 22:38:28

    ほしゅ

  • 53二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 06:47:44

  • 54二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 09:08:10

  • 55二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 11:19:46

    しゅ

  • 56二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 21:38:43

  • 57二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 01:10:01

    いつまでも待ってる

  • 58二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 08:07:27

    スレ主前スレ的に仕事が忙しいみたいだし、そろそろ年末も迫ってるから大変なんやろな

    保守

  • 59二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 11:23:40

    スレ主も無理しないでね
    出来る限り保守しながら待ってるよ

  • 60二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 21:56:47

    保守 良スレすぎて一気読みした

  • 61二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 08:37:13

  • 62124/12/01(日) 17:45:44

    「玲王坊ちゃまについてですが」
    意識がそれかけた所で、ばぁやさんが切り出した。
    何より気になっていて、何より聞くのが恐ろしかった。
    膝の上で手を握る。処理を怠っていた為に長くなってしまっていた爪が手のひらに食い込み、鋭い痛みが走る。
    そして、ばぁやさんが口を開いた。

    「玲王坊ちゃまは、長い間意識が無い状態が続いています」

    「そして、ここ数日、…容態が思わしくない時間が、増えてきています」

    はぁ、と大きく息を吐く。その言葉を聞く数秒間、忘れていた呼吸を整える。

    「思わしくない、って…いうのはさ、つまり」
    「命の危険が高い、ということです」

    想定が出来ていた答えだった。
    こうやってばぁやさんが会いに来てくれて、玲王に会わせてくれようとしている。
    玲王本人じゃなくてばぁやさんが来てくれた時点で、玲王は何かがあって動けない状態という事は分かるし、その理由は少し考えれば想像に容易くて…

  • 63124/12/01(日) 17:46:22

    「…っ…」

    それでも、聞きたくない答えだった。
    哀しみとか、恐怖とか、絶望とか、そんなありきたりな言葉じゃ表せない感情で頭の中がぐちゃぐちゃになる。
    ただ、嫌だ、という子供のような気持ちだけがくっきりと形を成していた。

    「施せる処置は全て行いました。もう、後は見守る事しかできない段階だと診断を受けています」

    ああ、それってつまり…

    「さいごに、俺に立ち会ってくれって事?」

    その為に迎えに来てくれて、
    もう、残りの時間が無いから焦って、こうして急いで向かってるって事?

    「そんなの俺嫌だ、嫌だよ…」

    玲王に会いたい。それは変わらないけど、こんなのは嫌だ。
    どれだけ否定をしても現実は変わらないのに、幼子のように、駄々をこねるしかなかった。

    車内に沈黙が流れる。
    その沈黙は、肯定の意なのだろうか。

  • 64124/12/01(日) 17:47:09

    「もし、坊ちゃまにその時が訪れるとしたら」
    「あなたに傍に居て欲しい、そう思っているのは事実です」
    「他の誰でもない、誠士郎さまに」

    「…誰がそんな事」

    「私共付き人も、お父様もお母様も、皆そう思っています」
    「お二人は、パートナーですから」

    俺達はパートナー。
    他人同士で、公的な繋がりは何も無いけれど。俺達はずっと一緒だった。
    そう約束したから。

    「どんな時でも隣に居たいと、坊ちゃまは思っているはずです」
    「…」
    「そして、それは誠士郎さまも同じでしょう」

    ばぁやさんの言う通りだ。
    隣に居たい。その思いはあの頃から変わらず一途に願い続けている事で。
    でも、こんな形は、こんな現実は嫌だ。

    「それに、まだ私共は諦めていません」
    「…え…?」

  • 65124/12/01(日) 17:49:34

    「重い病で意識の無い人に、親しい者が声をかけ続けていたら病症が回復し、意識を取り戻した…というお話があります」
    「これは作り話でよくある事です。実際にそのような例があっても、声をかける事と意識の回復に医学的な根拠は認められていません」

    「それでも、もしも可能性があるのなら」
    「坊ちゃまを呼び戻す事が出来るのは、あなた以外居りません。誠士郎さま」

    そんな奇跡は、フィクションの世界の出来事だ。定番でありふれていて、それでいて非現実的。
    見知らぬ人間の事だったら、そう一蹴するような話だった。
    パパさん達はきっと本当に力を尽くして、玲王を助けようとした筈だ。でも、今はそんな物に縋るしかない状況で。
    でも、可能性があるなら─

    「誠士郎さまが送って下さったメッセージは、全て目を通していました。あなたがどれだけ玲王坊ちゃまの事を想っていてくれているか、充分に理解しています」

    毎日、送り続けた玲王への気持ち。たどたどしくて、思っていた事を羅列しただけの拙いメッセージ。
    …けれど、ばぁやさんには、伝える事ができたようだった。

    「坊ちゃまにも、伝えて差し上げてほしいのです」
    「誠士郎さまは今、何を願いますか?」

    俺の願い、それは出逢ってからずっと変わらない。
    「玲王と、ずっと一緒に居たい。これからも…ずっと。いつまでも、俺の隣で笑ってて欲しい…です」
    「…坊ちゃまにも是非、伝えて下さい」

    俯いていた顔を上げる。ミラーに映るばぁやさんの表情は、先程見た時よりも柔らかくなっている気がした。

    現実が恐ろしい。とても不快で逃げ出したくて、直面したくないものが迫っていた。
    でも、玲王に逢いたい。玲王に伝えたい事がたくさんある。

    爪が食い込んでいた手の力を緩める。手を開き掌を見ると、赤く跡が残っているだけで、出血はしていなくてほっとした。
    もう、血で汚れた手で玲王の手を握りたくなかったから。

  • 66124/12/01(日) 17:50:45

    「もう少しで到着します。誠士郎さま、良ければお飲み物をどうぞ」

    目に入っていなかったけど、車内のテーブルに飲料水が置いてあった。
    意識をしてみると、緊張と、久しぶりに人と話したせいなのか喉がカラカラに乾いている事に気付いた。

    「ありがと、貰うね」
    ボトルを口元に運び、傾ける。
    喉が潤いを求めて、ごくごくと水を飲み干していく。

    『俺とお前でW杯を獲る!』
    『それが俺の夢になった!』

    あの日の笑顔が脳裏に浮かんだ。
    渇きは潤わなかった。

  • 67124/12/01(日) 17:59:57

    久しぶりの更新になってしまいすみません。仕事が多忙なのと巻き込み規制で書き込めませんでした
    不在の間もコメントと保守レスありがとうございます!とても嬉しいです!
    しかし話が全然進んでなくて申し訳無いです
    またしばらく投下が無かったら規制と仕事で沈んでいると察して頂ければありがたいです…🙏

  • 68二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 18:20:24

    スレ主さま続きありがとうございます!ゆっくりお待ちしてますので無理のないペースでお書きください

  • 69二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 21:11:55

    うおおおおおスレ主いつもありがとう!!!!!!
    年末近いし何かと大変だよな分かるよ!!!

  • 70二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 07:42:20

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 11:52:40

    スレ主も無理しないでね
    保守しながら待機してる

  • 72二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 22:28:20

  • 73二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 09:59:34

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 20:51:05

    ほしゅ

  • 75二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 02:05:25

  • 76二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 11:02:27

  • 77二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 22:31:48

  • 78二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 10:25:07

  • 79二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 22:16:12

  • 80二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 22:16:38

    ✴︎

  • 81二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 10:00:51

  • 82二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 18:17:36

  • 83二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 02:23:06

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 10:50:37

  • 85二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 20:03:01

  • 86二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 01:41:31

  • 87二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 11:00:22

  • 88二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 19:25:43

  • 89124/12/08(日) 23:57:52

    長らく更新出来ておらずすみません
    毎日保守いただきありがとうございます!多分規制解けました!
    ただこの後のエピ凪で解釈が変わってしまうかもしれないので少し書き溜め分を寝かせてます
    明日以降再開していきたいと思いますのでよろしくお願いします🙏

  • 90二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 10:37:40

    やったー!
    楽しみに待ってます

  • 91二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 22:18:09

  • 92二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 00:34:48

    お〜スレ主えがったえがった
    楽しみ〜

  • 93二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 07:30:51

    楽しみに待ってます!

  • 94二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 10:53:46

    ワクワク!

  • 95二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 22:29:12

    ほしゅー

  • 96二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 09:29:45

  • 97二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 21:16:33

  • 98二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 21:17:40

  • 99二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 01:55:37

    🌵

  • 100二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 07:08:16

    ⭐︎

  • 101二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 10:56:52

    念のためホ

  • 102二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 21:37:57

  • 103124/12/12(木) 21:45:46

    ────────────
    「玲王坊ちゃまも誠士郎さまも、素直になってみてはいかがですか?」
    「…え?」

    想定外の返答に反応が遅れる。その回答の意味を尋ねようとした途端、リムジンが停止した。
    ばぁやの話が聞きたい。けれど意志に反して身体が社外へと向かう。
    足を下ろした瞬間、景色が塗り替わった。

    広がった光景は、夕焼けに染まる白宝高校の階段。
    踏み出した足を止める事ができなくて、視界の端に映る影にぶつかってしまう。
    そして──影が跳躍する。ずっと見てきた、華麗な動き。
    そいつは、鮮やかにスマホをトラップしてみせた。
    誰よりも知っている。凪誠士郎。

    ここで声をかけなければ。
    凪は、俺と出逢わずに済んだ。
    俺と出逢わなければ、それなりの大学に進学して、それなりの企業に入って、平穏にのんびりと暮らしていた筈だ。
    人並みの幸せな人生を送れる。

    きっとこれが、本当に最後の夢の世界。
    凪を俺から開放してやれる、最高の夢。
    口を開くな。踵を返せ。

    これだけの事で、終われるんだ。
    ────────────

  • 104124/12/12(木) 21:46:39

    車体がばぁやさんの運転とは思えない位荒々しく停止する。ようやく、目的地に辿り着いた。
    「到着致しました。あちらから入ります」
    頷きながら外に出る。すぐに大きな建物が目に入った。おそらく大病院のようで、少し歩いた先に入り口があった。
    建物に入り、ばぁやさんが慣れた様子で受付の人と会話を交わす。
    少しの会話の後、ばぁやさんが振り返り俺にカードを手渡してきた。
    「こちら、誠士郎さまの入館証になります。お持ち下さい」
    「ん、ありがとう」
    「では、向かいましょう」
    カードを手に、早足で歩き出したばぁやさんの背中を追う。
    歩きながら周囲を見渡す。どこもかしこも真っ白で、清潔感のある病院だ。
    でも、どこか閉塞感を感じてしまう。此処はまるで白い檻のようだった。
    玲王には、似合わない場所だと思った。

  • 105124/12/12(木) 21:47:53

    歩を進め、長い廊下の奥へと向かう。
    奥の部屋が、玲王の病室だそうだ。
    もう少しで玲王に逢える。
    やはり恐怖は拭えない。でも、玲王に逢わなきゃいけない。
    考え込んでる内にふと、疑問が浮かんだ。
    「ねぇばぁやさん。パパさん達も一緒に居るの?」
    「いいえ、お二人は本日はお仕事です」
    「…そうなんだ」
    正直、真っ先に浮かんだのは玲王がこんな時に仕事なんて、という非難じみた感情だった。
    でもパパさんとママさんが玲王の事心配してない訳なんて無くて。
    パパさんはあまりにも大きな会社を背負っている。
    俺には想像もつかないけど、パパさんが仕事を放り出したりしたら、きっとたくさんの人や企業が混乱してしまう。
    玲王は自分のせいで父親が仕事に支障をきたすなんて事は嫌だろうな。
    パパさんはきっとそれも分かっていて、ママさんはそんなパパさんを支えているんだろう。
    …二人は、今の玲王に俺を会わせてくれようしてくれていた。
    それは、親として玲王の事を想い考えた結果なのだろうか。
    考えを巡らせているうちに、廊下の最奥に辿り着く。
    大きなドア。この向こうに、玲王が居る。
    ばぁやさんがドアの横にカードをかざすと、すぐにドアが開いた。
    玲王、玲王、玲王。ようやく、お前に逢いに来れたよ。

  • 106124/12/12(木) 21:48:46

    はやる気持ちを抑えれず、病室に足を踏み入れる。
    そこはとても大きな病室で、広い部屋の一角にあるベッド、そこに──玲王は居た。
    「れ、お…」
    玲王の周りには見たことの無い機械がたくさんあって、何かの管が玲王に繋がれていた。
    それらが邪魔で、近寄らないと、玲王がよく見えない。
    すぐに顔が見たいのに、力が入らず、覚束ない足取りで玲王の側に向かう。
    早く、早く!
    焦燥の中、よろめきながらベッドの横へと辿り着いた。
    心臓がバクバクと鼓動を鳴らす。見下ろし、玲王を真上から視界に入れる。
    玲王は、ベッドに横たわり瞳を閉じていていた。
    顔色は悪く、布団から覗く腕は細く筋肉が落ちているようだった。
    でも、紫の綺麗な髪も、端麗な顔立ちも、変わらない。
    「お元気そうに、見えるでしょう」
    「…うん」
    そう、想像より、ずっと…玲王は玲王のままだった。
    まるで、眠っているだけのようにも見えて。
    今すぐにでも、起きてきてくれそうで…
    でも、そんな考えを否定するかのように、玲王は大仰な機械に囲まれている。
    分からないけど、きっと玲王の命を助けているんだろう。
    そのアンバランスな光景に、言いようの無い不安が込み上げてくる。

  • 107124/12/12(木) 21:49:34

    「…誠士郎さま、どうか手を取って、お気持ちを伝えて差し上げて下さい」
    玲王を見つめ続ける俺に、ばぁやさんがそう声をかけてくれた。
    そうだ、見てるだけじゃなくて、伝えなきゃ。俺の気持ちを──
    恐る恐る、管が刺さっていない方の玲王の手を取り掌で包み込む。
    俺の手が冷え切っているせいなのか、玲王の手は、温かく感じた。
    「…れお、…………」
    言葉が、出てこない。
    伝えたい事がたくさんあるのに、玲王の顔を見て、その身体に触れていると気持ちが溢れて、言葉が紡げない。
    良くないと思いつつ、玲王の手を取る手の力が、強まっていく。
    温かい。玲王が生きている。
    最後に俺が見た玲王は、血塗れで生気を失っていく姿だった。
    あの時はどんどん玲王が冷たくなっていくような気がして、少しでも俺の体温を分けれないかって思ってた。
    今は、玲王の方が温かいかもしれない。
    こんなにも温かいのに、いつもみたいに頭を撫でてほしいのに。玲王はぴくりともしない。
    「………っ……ぅ…」
    駄目だ、こんなんじゃ。玲王に、伝えなきゃ。たくさん話したい事があるのに…

  • 108124/12/12(木) 21:51:57

    「…凪さんは本当に玲王さんの事を大切に思っているのですね」
    「……………」
    見知らぬ声が背後からかかる。
    玲王の手を握りながら、振り向き後ろを見ると、知らない男性が立っていた。
    誰だよ。そんな俺の思考を察知したのか、ばぁやさんが口を開いた。
    「こちら、坊ちゃまを診ていただいているお医者様の一人です。交代制で常に様子を見て頂いています」
    なるほど、確かに常に見てもらう必要がある。
    純粋に、玲王を繋ぎ留めてくれている事に関して感謝の念が湧く。
    きっとこの部屋には最初から居たんだろう。玲王しか見えてなかったから、気が付かなかった。
    「…どうも。凪誠士郎です」
    「お話は色々と伺っております。…玲王さんの事、どうか信じて、傍に居てあげて下さい」
    「…はい」
    この人は恐らくパパさん達の手配した優れた医師で、部外者の俺にも親切に接して来る善良な人間だ。
    そんな人も、もうこれ以上施すことは無いと判断して、俺がここに呼ばれた。
    「……」
    ぎゅっと、優しく玲王の手を握る。
    ほんの少し、冷静になれた。
    思考はまだまだぐちゃぐちゃだけど、そのままを口にしよう。
    とにかく、玲王に言葉をかけよう。
    「玲王、あのね…」
    瞼を固く閉じたままの玲王を見つめながら、口を開いた。

  • 109二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 09:08:24

  • 110二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 10:55:09

    更新されてる!うれしいです

  • 111二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 12:58:02

    うおー!続き来たー!!!

  • 112二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 20:49:35

    続き来たー!!!

  • 113二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 02:14:46

    待ってましたー!

  • 114二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 08:26:59

    更新ありがとうございます!

  • 115二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 10:54:10

    続きも楽しみ

  • 116124/12/14(土) 14:42:22

    ────────────
    唇をきつく噛み、目を背け、身体を翻し凪に背を向ける。
    足を踏み出して、立ち去ろう。これ以上凪を見ていたら駄目だ。足を踏み出して、さよならをしよう。
    そう決めたのに、

    「玲王、あのね…」
    その声を聞いただけで、

    「俺、玲王とずっと一緒に居たい」
    俺の決意は脆く、崩れ落ちてしまう。

    「玲王が居ないと何も楽しくない」
    「玲王が居ないと寂しい」
    「玲王が居ない世界は嫌だよ」

    夢だと分かっていても。都合の良い幻覚だとしても。
    凪に求められるのが嬉しい。そして同時に、俺が欲しい言葉を凪に言わせているという事実に、どうしようもなく自分が嫌になる。
    思いに応えたい気持ちと、幻を否定したい気持ちが混ざり合い、思わず振り返る。そこには──

    「…お前、そんな表情したことあったっけ」

    子供のように涙をぽろぽろと零し、哀しみを堪えているような表情で、こちらを見つめる凪がいた。
    こんな凪は見たことが無かったのに、何故か現実感があって、俺の夢の存在のはずなのに俺の想像の範疇を超えていた。
    そして、夢であってもそんな表情をしている凪を放っておけなくて、階段を降りて凪に駆け寄る。
    でも、なんて声をかければ良いのか分からなくてただ凪の泣き顔を見つめていると、くい、と手を引かれる。
    「…凪?」
    その手は冷たくて、小刻みに震えていた。
    長い間一緒に居て、こんな姿は見たことが無かった。
    一緒に過ごした日々の中で、こんな凪は居なかった。

  • 117124/12/14(土) 14:43:38


    ……
    ………
    「凪ー、おはよ!今日も放課後迎えに行くからな!」
    「…えー、暑いからやだー。こんな日にサッカーなんて溶けちゃう。無理でーす」
    「スポーツはそういうもんなの!逃げないで待ってろよ!」
    「おーぼーだ…。じゃあ何かご褒美ちょーだい、そしたら適度に頑張るから」
    「適度には余計だけど…報酬は大事だな。考えとくわ」

    「…で、ご褒美はこれ?」
    「何だよ、レオリムジンからのコンビニアイス買い放題に文句あんのか?」
    「文句って訳じゃないけど…もっとぶっ飛んだの来るかと思ってた。御影家御用達豪華プールにご招待とかさ」
    「そんなんお前喜ばねーじゃん。いいからアイス選べよ、どれでもいーぞ!」
    「…ありがと。じゃーこれ」
    「何これ、パピコ?こんなんで良いの?」
    「ん、これ一つで良い」
    「ふーん、欲が無いなぁ凪は」
    「…」

    ……
    ………

  • 118二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 22:08:35

    続きが気になる…!

  • 119124/12/14(土) 22:57:28


    ……
    ………
    「なーぎ!ちゃんと仕事してるか見に来たぞー!」
    「れおー、ここ裏方だよ。何で入れてんの?」
    「んー?頼んだら入れてくれた。お前のクラスに仲良い奴多いし」
    「すげーねお前は…もー、俺のシフト終わるまでそこで待っててよ」
    「いや、裏方入れてもらったんだから俺もお前の仕事終わるまでは手伝う。おーい!そこの溜まってる皿洗い入るなー!」
    「…働き者のボスだなぁ」

    「よしっ業務完了!回るぞ!最後の学園祭!」
    「いえすぼーす。…そういえば、今年はバンドしないの?ギリギリまで誘われてたよね」
    「んー?まぁ記念に出ても良いかなって思ったけど、最後だしお前と色々見て回ったりしたいし?断ったよ」
    「…ふーん、…あ、りんご飴屋さん」
    「うまそーじゃん、買おうぜ!なぁぎ、今日は落とすなよ?」
    「落とさないし…でももし落としちゃったらさ、また玲王が拾ってね」
    「しょうがないなぁ、凪くんは…」

    ……
    ………

  • 120124/12/14(土) 22:58:42


    ……
    ………
    「到着ー!めっちゃ良い部屋!」
    「ほぇー、高級そーな部屋。部屋にも露天風呂付いてるじゃん。よく予約取れたねー」
    「お前が年末は人が少ない所が良いって言うからリサーチしてた♪」
    「ありがとー。ダラダラ出来そうで良いね」
    「お前はいっつもダラダラしてるじゃん」
    「ダラダラ最高ー。れおー、このソファめっちゃふわふわ」
    「お、…ほんとだ。うちにも欲しいかも」

    「はー、極楽ですなー」
    「温泉って良いよな…。癒やされるなぁ…」
    「玲王は働き過ぎなんだよ。もっと休みなよ」
    「んー、でも家の事も色々しとかないといけないしなー」
    「……。ねー、お風呂上がったら髪乾かしてね」
    「休めって言った傍からそれかよ!?普段と変わらないし別に良いけど?」
    「わーいレオドライヤー。あ、次はどこの温泉行く?」
    「気がはえーよ…温泉気に入った?」

    ……
    ………

  • 121124/12/14(土) 23:00:32


    ……
    ………
    「なぎー!誕生日おめでとー!!」
    「玲王、それもう今日だけで何回聞いたか分かんないよ。誕生日もう少しで終わるし」
    「今日が終わるまで言い続けてやるから!おめでと!おめでとう!」
    「うー、乗っかられると重いってー。玲王って俺と飲む時だけ酔いやすいよね」
    「はー?別に酔ってないんですけど?」
    「酔っ払いはみんなそう言うんだよ。ほらお水飲んで」
    「…………」
    「え…寝た?」

    「……おはよう」
    「おはよー、体調大丈夫?」
    「大丈夫…ごめん、誕生日だったのに迷惑かけたな…」
    「ベッドに運んだ位しかしてないよ。俺もすぐ寝落ちしたし」
    「うう、お前と居ると気ぃ緩んじゃうのかな…わりーな凪」
    「気にしないでって。嬉しかったし別にいいよ」
    「なぎぃ…」
    「来年はお酒セーブして、誕生日が終わるまで祝ってね」
    「なぎぃ…やっぱちょっと根に持ってる?」

    ……
    ………

    少し思い返すだけで、たくさんの思い出が頭に浮かぶ。
    凪と一緒に居る時間は、楽しくて幸せだった。
    そんな記憶と、目の前で泣いている凪の姿は結びつかなかった。
    そして、それを見ていて漠然と思ったんだ。
    最後に見る凪が、悲しんでる姿なのは嫌だって。

  • 122二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 08:43:31

    続き待機

  • 123二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 10:53:32

    待機待機!!

  • 124二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 19:57:09

  • 125124/12/16(月) 00:24:08

    ────────────
    「玲王、おはよう」
    あれから毎日、玲王に逢いに来ている。
    俺は許される限り、ずっと傍で、玲王に話し掛けていた。
    毎日返事の無い玲王相手に話し掛け続けているけど、話題が尽きることは無い。思っていることを口にしているだけだが、思いが次々に溢れて止まらなかった。
    だけど玲王は時々容態を悪くして…その度に、恐怖で目の前が真っ暗になった。
    部屋の外で震えながら祈る事しか出来ない自分が憎らしかった。
    それでも、玲王は今日も生きている。
    玲王はきっと、頑張って生きようとしてくれている。
    だから、俺に出来るのは玲王を信じて待つことだ。
    今日もまた、玲王の手を取り一方的に語り掛ける。

  • 126124/12/16(月) 00:26:26

    「玲王、今日はね、俺と玲王が初めて旅行に行った日なんだよ。玲王が選んでくれたホテルの広さにびっくりしたの覚えてる。ほら、写真もあるよ」
    毎日眠り続ける玲王に逢いに来て、面会時間が過ぎたら一人の家に帰る。そんな生活をしていたら、家での時間が前よりもずっと孤独に感じるようになってしまった。
    その寂しさを紛らわす為に、一人の時間はスマホのカメラロールを遡って思い出に浸っていた。
    それが更に孤独感を増幅させていることも、理解していたけど止められなかった。
    「あれからたくさん一緒に旅行したね。次はさ、俺に行き先選ばせてよ。いつも玲王に任せきりだったけど、俺も玲王が好きそうな所調べるからさ」
    俺のスマホのカメラロールは、玲王と、玲王と過ごした風景で埋め尽くされていた。
    これからも新しい思い出が増えていくことを、信じたい。
    「玲王は俺好みの静かな所を選んでくれてたけど、俺も玲王の好みに合わせるよ。玲王は賑やかな観光地も好きだよね」
    「俺は人が少ない方が良いけどさ、玲王が居るならどこでも良いよ。何処へだって付き合うから、」

    「…一緒に、…居てよ…」

    未来を、玲王を信じたい。
    なのに、信じきれてないのかな。気持ちが足りてないのかな。叶わないと思ってしまっているのかな。
    溢れる涙が止まらなかった。

    「玲王と一緒ならご飯が美味しいし、どこに行っても、玲王が居るなら楽しいよ。でもさ、玲王が居なかったらなんにも無いんだよ」

    「お前のせいだよ。玲王が全部教えてくれたんだよ」
    「俺の世界を、変えたのはお前なんだから」

    「早く、…早く、俺の隣に帰ってきてよ…」

  • 127二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 08:47:09

    せつない

  • 128二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 09:44:17

    泣ける……

  • 129二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 16:59:22

    ぴえん…

  • 130124/12/16(月) 20:13:14

    ────────────
    涙を流す凪を見て、泣かないで欲しいって、いつものお前に戻って欲しいって、感じた。
    夢の中の存在だとしても、お前のそんな表情は見たくないんだ。
    「泣くなよ、凪」
    頬を伝う涙を拭ってあげたいのに、当の泣いてる本人に両手を掴まれているからそれが叶わない。
    抵抗することは出来るはずだけど、そうする気にはなれなかった。

    「…」
    俺の手を包み込む冷たい手の温度が、頭も冷やしてくれたのかもしれない。
    曇が晴れた思考のおかげで、心の隅に追いやっていた事実に気付くことが出来た。

    俺、凪を言い訳にして逃げ出そうとしていたな。

    自分の不手際で凪に迷惑をかけて、凪の人生を汚した。
    そんな自分が嫌で、そんな現実が嫌だから、凪と出逢わない夢に逃げ込んで。
    それでもやっぱり凪が居ない世界はつまらなくて。
    最後の最後はやっぱり凪に逢いたくて。その上、俺のことを想ってくれる都合の良い夢を描いている始末で。

    「ダッセぇな、俺…」
    こんな自分が嫌いだ。嫌でたまらない、けど…
    だからこそ、これ以上逃げるのはもっと嫌だ。

    『玲王坊ちゃまも誠士郎さまも、素直になってみてはいかがですか?』

    素直に。自分の夢に、エゴに向き合え。それが大事なことだって、ずっと前に思い知っただろ。

  • 131二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 00:56:47

    続きが気になる…!

  • 132二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 08:55:37

  • 133二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 10:46:57

    ドキドキ

  • 134二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 22:05:45

    ふたりともがんばれ…

  • 135二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 07:42:03

    頑張れ! 素直になれ!

  • 136二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 10:47:44

    頑張れ!

  • 137二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 20:30:31

  • 138二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:21:58

    応援してる

  • 139二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 10:50:12

    ほしゅ

  • 140二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 18:13:43

    このレスは削除されています

  • 141二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 23:11:43

    続き待機!

  • 142二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 08:24:40

  • 143二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 10:55:41

    続き気になる〜

  • 144二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 19:33:54

  • 145二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 03:16:39

    信じてるからがんばってくれ

  • 146二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 09:51:32

    ほしゅ

  • 147二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 20:26:37

    続き待ってるよー

  • 148124/12/21(土) 20:53:42

    本当は、夢が叶っても、目標が無くなっても、ただ一緒に居たい。
    でも、また離別が訪れる可能性を考えたら怖くて、傷付きたくなかったからキラキラした思い出のままお別れをしたかった。
    そうやって本当の気持ちに蓋をして、この先も生きていくつもりだった。
    でも、傷付くかもしれなくても、ダサくても格好悪くても、やっぱり諦めたくない。
    凪の顔を見て、そう思ってしまった。

    凪の方へ一歩、歩みを進める。
    そのまま、正面に立つ凪に身体を預けた。
    俺の手を包む凪の手は、冷たいままだ。

    凪は、俺のことどう思ってるかな。
    迷惑だって、出逢ったことを後悔してないかな。
    目の前の凪みたいに、俺が居ないと寂しいって、思ってくれてたり…しないかな。
    怖いけど、確かめたい。そして、俺の気持ちを伝えたい。

    だから──こんな所で、俺は終わりたくない!

    そう決意を固めた途端、世界が眩しく、白い光に包まれ始めた。
    その眩しさに、目を開けていられなくなる。
    瞼を閉じると、凪の小さくすすり泣く声と、冷たい指先の感覚をより鮮明に感じる。

    「凪、…泣くなって、なぎ…」
    ────────────

  • 149二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 21:01:26

    うおああああああああああああ!!!!!!
    来たあああああああああ!!!!!!

  • 150124/12/21(土) 21:32:04

    俺が人生で最も辛いと感じた瞬間。
    それは、俺の言葉で玲王を傷付けてしまった事実に気付いた時だった。
    その時はたくさんの後悔と共に、玲王に逢わなきゃっていう気持ちで前を向けたから、涙は出なかった。
    でも今は、前が向けない。玲王が居なくなってしまうかもしれない未来が怖くて仕方ない。
    俺の感情の源は全部玲王で、この涙を止めることが出来るのは、玲王だけだった。

    「…………れお?」
    震える手で、縋るように握り続けた玲王の手が、僅かに動いた気がした。
    とても小さく弱々しいけれど、俺の手を握り返そうとしてくれている…そんな動きだと思ったのは願望混じりの勘違いではない。
    「…っ玲王!」
    思わず声を荒げる俺の様子に、ばぁやさんや周りの医師がより俺のことを注視した。その時だった。

    「…なぎ…」

    いつもの玲王とは正反対で、か細く、耳を澄ませなければ聞こえない、そんな声。
    でも、俺が玲王の声を聞き漏らす訳が無かった。

    「…なくなって、なぎ…」

    それは確かに、ずっとずっと聞きたくて、これからもずっと聞いていたい、玲王の声だった。

  • 151124/12/21(土) 22:17:54

    その声を聞いた瞬間、止まっていた世界が再び動き出したような、そんな気がした。
    玲王が固く閉じていた瞼を震わせる。
    玲王の様子を見て、周囲の人達がざわめき、各々が何かの行動を起こし始める。けれど、そんな些細なことなんて何も気にならない。玲王のことしか視えない。

    ゆっくりと重たそうに、けれど懸命に…玲王が、その目を開いた。
    キラキラ輝く、綺麗な瞳。
    出逢った時から変わらない美しい虹彩。
    そんな瞳に、俺の姿を映しながら、玲王が小さく口を開いた。

    「…ゆめで、なぎがないてたから、…なきやんでほしくて」
    「でも…ゆめから、さめても…なぎがないてる」
    「…そんなに、…なきむしだっけ…?」

    「…お前のせいだよ。玲王……お前が、居ないから、止め方…分かんなくて」
    「……俺をこんなにしたの、玲王なんだから」
    「責任取って、…ずっと、一緒に居て」

    「……どんなせきにんだよ、ばか」

    固くぎこちないけれど、目を細めて笑う、玲王の姿がそこにあった。

  • 152二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 23:02:59

    おかえり玲王!

  • 153二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 23:18:23

    玲王…!!

  • 154二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 08:10:49

    うおあああああああ!!!
    良かったあああああああ!!!

  • 155二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 09:54:12

    玲王だ

  • 156二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 15:53:37

    待ってたよ玲王!!

  • 157124/12/22(日) 22:55:11

    「お邪魔しまーす。おはよー、玲王」
    「おー、おはよ、凪」
    通い慣れた病室。その扉を今日も開く。
    部屋に入り目線を向けた先には、ベッドの上で上体を起こし、笑顔で俺を出迎えてくれる玲王が居た。

    玲王が目を覚ましてから、2週間が過ぎた。
    あの日、玲王が意識を取り戻した後は、それはそれは大変な騒ぎになった。
    すぐにたくさんの医師が駆け寄り診察を始めて、その時席を外していたパパさん達もばぁやさんが呼び戻してくれたりして、俺は玲王との再会の余韻に浸る間もなく脇に追いやられてしまった。
    その日はそのまま玲王と話す機会が得られず、詳しい検査に入るとのことで家に帰された。
    その日の晩は、玲王が目を覚ましてくれた喜びと同じ位、本当に大丈夫なのか、また眠り続けてしまうのではないかという不安がいっぱいで一睡も出来なかった。
    しかし、その不安は杞憂に終わった。次の日にまた病室に訪れた際、玲王はしっかりと意識を持ち、俺に笑いかけてくれた。
    面会時間は限られてて、長い時間話すことは出来なかったけれど、毎日着実に、玲王は生気を取り戻していっていた。パパさん達の話によると、玲王は驚く程の回復を見せているらしい。

    「玲王、どこか痛い所無い?無理してない?」
    「大丈夫だって。悪い所あったら隠せないから、ここの人たち相手に。毎日心配してくれてありがとな」
    快方に向かっている、とは分かっていてもやはり心配なものは心配で。こうして顔を合わせる度に同じやり取りをしている。
    しかし玲王の言う通りここの病院は要人も利用している病院で、どこか悪い所があったらすぐに察知されるし適切な処置をしてくれるとのことで、信頼の置ける医師達が揃っている。なので体調面に関しては、面会が許されている以上、少しは安心をしても良いのは分かっていた。
    そして、そんな医師達が今日から、面会時間の延長を許可してくれた。
    玲王が目を覚ました日から、ずっとこの日を待っていた。
    俺は、玲王に気持ちを伝えるという、強い決意を持って今日この場所を訪れていた。
    短い時間だと上手く伝えきれる自信が無かったし、ちゃんと玲王と話をしたかった。
    今日はたっぷり、思っていたことを存分に伝える。そして、玲王の思いを聞きたい。

  • 158二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 23:00:40

    うおおおおお
    幸せキター!

  • 159124/12/22(日) 23:01:57

    「れ…」
    「凪、チームには連絡したか?」
    「えっ?あーうん、昨日帰ってからしたよ」
    話を切り出そうとして、先を越されてしまった。
    目を覚まし俺と短いながらも会話を出来るようになって、玲王は真っ先に今の俺の状況を心配してくれた。
    玲王の意識が無い間も毎日ここに通っていたことも、ずっと俺が玲王に逢いたいと言っていたことも、パパさん達から聞いたらしい。そして、そんな俺がまともな生活を送っていないことは想像に容易かっただろう。
    俺は正直に玲王に現状を説明した。今はまだオフシーズンの期間中。しかしオフの間に予定していた小さな仕事やトレーニング等は全てキャンセルして、チームには休養期間として理解をしてもらっていたことを。
    「打ち合わせしてさ、次のシーズンは普通に出場することになったよ」
    「そっか。それで…次のシーズンが終わったら」
    「うん。予定通り引退する」
    俺は次のシーズン限りで引退を予定していた。
    これは元々予定していたことで、これについては少し、不満さえある。
    「玲王が居ないサッカー、続ける気ないから」
    「…ああ。それについては、たくさん話し合ったもんな」
    俺としては、玲王が引退する時に共に一線を退くつもりだった。
    しかし他でもない玲王が、まだ俺のサッカーが見たいと必死にお願いしてくるから折れてしまったのだ。
    「俺が辞めるの、嫌?」
    「…まぁ、正直寂しいよ。俺は天才・凪誠士郎をずっと見ていたからな!」
    「…見ててね。最後まで」
    「………」
    想定外の沈黙が、病室に広がった。
    あれ。いつもだったら、当たり前だろって返してくれるのに。
    玲王の顔色を伺う。体調が悪そうには見えない。しかし、見たことのある表情だ。考えを巡らせれば、すぐに正解が思い浮かんだ。そう、今日の朝、鏡に映った俺の表情と似ている。
    思いを伝えると、決意を秘めた表情──

    玲王が小さく息を吐き、意を決したように口を開いた。
    「俺は…お前が選手を引退して、サッカーって繋がりが無くなっても…一緒に居たい」
    「凪が、嫌じゃなかったら。迷惑じゃなかったら、俺とこれからも…一緒に居てくれないか?」

    「…………は?」

  • 160二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 01:10:29

    続きが気になる引き…!

  • 161二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 08:44:59

  • 162二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 10:45:49

    待ち切れないっ!楽しみすぎる

  • 163二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 21:04:21

    続き待ってます

  • 164二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 02:47:26

  • 165二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 08:01:47

    ほしゅ

  • 166二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 11:46:49

    待機

  • 167二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 20:50:04

    続きが気になるー

  • 168二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 01:04:36

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 08:10:58

    ほしゅ

  • 170二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 10:51:42

    楽しみ

  • 171二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 18:58:06

  • 172124/12/25(水) 21:57:22

    繋がりが無くなる?迷惑?
    玲王の言っていることが、分からない。
    言葉の意味があまりに俺達の関係にそぐわないと感じてしまって、気の抜けた返事をしてしまった。
    そして、その返事を受けて…玲王が傷付いたような表情を浮かべながら、取り繕うように再び口を開く。
    「ごめん、やっぱ、嫌──」
    「ねえ全然分かんない、なんでそうなるの」
    「だって、迷惑かけただろ。嫌なもん見せたし、サッカーにだって影響出てる。…お前の、邪魔してる」
    そう言って俯く玲王の表情は、遠い日の後悔の記憶と重なった。
    どうして、いつもそんな表情をさせてしまうんだろう。
    玲王の笑顔が好きなのに。
    俺は玲王の顔を曇らせてばかりだ。
    嫌だ、嫌だ、嫌だ…

    「でも俺、」
    「玲王ッ!!」
    これ以上、玲王の悲しい表情は見たくない。
    玲王が自分を責める言葉も聞きたくない。
    俺の思いが玲王に届いてないということも…知りたくない。
    悲しさや虚しさ、苛立ち、様々な感情が渦巻き──衝動的に、身体が動いた。

  • 173124/12/25(水) 22:04:05

    「…凪?」
    ベッドに半身を乗り上がらせて、玲王の身体を正面から抱きすくめる。
    玲王の身体は以前より厚みが減っていて、触れ合っているのに、余計に不安を煽られた。
    「ばか、玲王のあほちん、お前って何も分かってない。俺がいつ迷惑だって言ったの?お前が居なかったら、なんにも無いのに!俺の人生は!」
    「ちょ、凪」
    「一人で思い込んで、決め付けて自己完結させるなよ!いつもそうやって、勝手に拗らせて!」
    「…おい」
    「玲王が死んじゃうかもって思って、俺がどれだけ怖かったと思ってるの?毎日、どんな気持ちで目を覚まさないお前を見ていたと思ってるんだよ!」
    「なぁ、凪」
    「なんで…なんで、何も無いと一緒に居れないみたいに言うの、一緒に居るって約束したのに」
    「………」
    「俺達、パートナーでしょ。一緒に居るのは当たり前じゃん、なんで…そんな、不安なの?」
    「…なぎ、」
    「そんなに、俺は信用無い?俺のこと、信じれない?」

    「こんなに、…玲王のこと、好きなのに。俺のこと、信じてよ、玲王…」

    堰を切ったように、思いが溢れて止まらない。
    こんな言い方、したくなかったのに。
    また俺は自分のことばかりで、玲王の気持ちを考えずに言葉を発してしまった。
    こういう所が駄目なのかな。嫌だな、玲王に、嫌われたくない。

  • 174124/12/25(水) 22:04:59

    「…凪、お前やっぱり泣き虫になっちゃったな」
    気付けば、涙が頬を伝っていた。
    俺に抱きしめられてる玲王は、俺の顔を見れないはずなのに。玲王にはお見通しのようだ。
    「…そうだよ。だから責任取ってって、言ったじゃん。まだ、返事聞いてない…」

    玲王が腕を上げ、俺の背中をぽんぽんと優しく叩く。
    まるで子供扱いだが、言いたいことを言って泣き出す俺は、分別の無い子供のようだった。
    「…凪のこと信じてないとかじゃなくてさ、俺が怖がりなだけなんだよ。またお前と離れることになったら、って考えたら怖くて、また予防線貼ってたんだ。ダセーよな」
    「…玲王はかっこいいよ」
    「うんうん、ありがとな。その割には好き勝手言ってくれたけど」
    「……ごめん」
    「ていうか、お前俺の話遮ったろ。まだ続きがあったんだよ!」

    「俺がお前に迷惑かけたのは、変わらない。それでも俺はお前と一緒に居たい、一緒に追う夢が無くても、嫌って言われても、お前を諦めないって、そう言いたかったの!」

    「……ほんとに?」
    「こんな所で嘘つかねーよ、ばか」

    腕の力を緩める。ずるずると預けていた身体を起こし、玲王と顔を見合わせた。
    玲王の瞳に映る俺は情けない表情をしている。
    そんな俺とは反対に、玲王は笑みを浮かべていた。
    俺の好きな、笑顔だった。

  • 175124/12/25(水) 22:07:47

    「俺達の夢は叶って、お前もサッカー辞めるんだろ」
    「…うん」
    「俺はうちの会社の仕事続けるし、お前は…しばらくゆっくりする予定だろうし、俺達何も無かったら疎遠になるコースだよ」
    「そんなコース無いし」
    「一般的にはそーなるの!…でも、そんなの寂しいから、俺は嫌だ」
    「俺もヤダ」
    「ん、言ったな!」

    玲王が目を輝かせ、真っ直ぐに俺を見つめる。
    俺の大好きな、キラキラ輝く笑顔。初めて出逢った時から変わらない。

    「俺達はお互い一緒に居たい!それで間違いないな!?」
    「うん。ずっと一緒が良い」
    「なら、どうやって一緒に居られるか、考えるぞ!んで、即実行!」
    「へ」
    「まず手始めに、お前のSNS動かして凪は元気だってことアピールする。お前知らないかもしれないけど、俺達今ネットでめちゃくちゃ嫌な事言われてるから!んで同時期に俺の現状の報道も許可下ろす!俺の個人アカウントも再開させて嫌な感じの風潮は吹き飛ばすように動いて…」
    「ちょっと、あんまり無理しないでよ…?」

    飛ばし過ぎで体調を崩さないかと心配にはなるものの、いきいきと計画を考案し始めた玲王を見て、しばらく感じる事の出来なかった安心感を感じる。
    強引でマイペースな玲王に、引っ張られるのが好きだ。
    これからも一緒に居られるカタチが欲しい。誰からも認められる、俺達のカタチが。
    俺一人で考えても分からないけど、二人でなら、答えを見つけれると思える。

    「玲王、一緒に頑張ろうね」
    「おう!めんどくさ赤ちゃんの凪がそんなこと言うなんてなー、感激だわ」
    「もー、茶化すな…」

  • 176124/12/25(水) 22:09:01

    レオの退院当日。
    レオは医師やスタッフ達からたくさんのお見送りを受けながら、病院を後にした…らしい。ということを、ママさんから写真が送られてきたので、知ることができた。
    というのも、レオの入院は俺のオフシーズン中に終わらず…遺憾ながら俺はレオの退院日に立ち会うことが出来なかった。
    試合なんて出てる場合じゃない、って駄々をこねようとしたが、レオは今俺達の世間の印象を良くしようと頑張ってくれているので、ぐっと堪えた。俺の行動ひとつで、俺達の関係に文句言う奴だって居るからね。レオはそういうの気にしちゃうし、ずっと一緒に居る将来を見据えて、世間体は大事にしないと。
    という訳で俺は試合後、全速力でシャワーと着替えを済まし、車で自宅へと向かっている。
    発進させる前にメッセージを確認した所、既にレオは帰宅済みらしい。
    早く帰りたい。けど安全運転を心掛けて帰路についた。

  • 177124/12/25(水) 22:14:14

    シェル爺に帰宅の挨拶をして、エレベーターで階を上がる。俺にとっての新居のこの家は、何もかもが整っているけれど…この待ち時間はもどかしく感じる。
    だって、一分一秒でも早く、逢いたかったから。
    そして、エレベーターのドアが開く。
    そこには─

    「凪!おかえり!」
    笑顔で出迎えてくれる、レオが立っていた。

    「退院手続きとか挨拶とかでさ、今日のお前の試合リアタイ出来なかった!飯食いながら配信見ようぜ!」
    「………」
    「つーか、お前の荷物運んどいてもらったけど物少な過ぎね?荷解き秒で終わりそうだわ」
    「………」
    「…おーい凪くん、聞いてる?」
    「…聞いてる」
    「聞いてるなら返事!」

    「…ただいま」
    「おう、おかえり!」
    これから俺達がどういう関係に、どういうカタチに落ち着くのか、どんな困難が待ち受けているのか、分からない。またすれ違うこともあるだろう。喧嘩だってしないはずが無い。
    けれど、一緒に居たいって気持ちは、一生変わらない。
    なら、きっと大丈夫。

    「レオ、約束。さいごまで一緒にいてね」
    真っ直ぐに、レオを見つめる。

    「あぁ、約束な、凪」

    そう返すレオは、俺の大好きな、キラキラの笑顔をしていた。

    end

  • 178二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 22:18:51

    ハッピーエンドだあああ!!
    スレ主忙しい中完結させてくれてありがとう!

  • 179124/12/25(水) 22:28:54

    長い間、迷走電波ポエムSSスレにお付き合いいただきありがとうございます
    こちらハッピーエンドルートになります🎉
    そしてハピエンの後に申し訳無いのですが前スレで🎲にて選ばれなかった凪がメッセージを送らないルート(バッドエンド)も書きたいのでそちらも書いていきます!そっちが当初の想定だったのでハピエン難産だった…
    それだけだと後味最悪過ぎるので、ハピエン後の後日談も書いていこうと思います。幸せな2人が一番やね
    ちなみにバッドエンドの方はガチバッドエンドなので注意書きモリモリにします
    次スレからそんな感じでやって行こうと思うので、お付き合いいただけたら嬉しいです!よろしくお願いします!

  • 180124/12/25(水) 22:31:32

    また、たくさんの♡とレスありがとうございます!
    とっても励みになりました!
    なかなか浮上出来なかった時期も保守していただき感謝です🙏

  • 181二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 22:52:05

    完結お疲れ様でした!そして素晴らしいSSを有難うございました!
    ハピエンの後日談もバドエンルートも楽しみにお待ちしています!

  • 182二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 08:53:43

    ほしゅ

  • 183二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 09:50:12

    うわあああああああ!!!!!
    よかったああああああああ!!!!!
    よかったね2人ともおおおおおおお!!!!!!

  • 184二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 21:04:46

  • 185二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 01:47:22

    お疲れ様でした!
    素晴らしいSSでした

  • 186二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 10:13:58

    約束の念押しをレオがやるのがいいなぁ〜!!

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています