【SS】勇者「ドラゴンクエスト?」

  • 1二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:42:32

    このスレはRPG『ドラゴンクエスト』が誕生するまでの経緯をSSとして綴ったスレです。
    史実と違う点があるかもしれませんがご了承ください。
    荒らし行為はご遠慮ください。

  • 2二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:43:48

    1982年 夏 【東京都 神保町】


    勇者「ZZZ……」

    戦士「おい!起きろ!」

    勇者「はっ!なんだ戦士さんか」

    戦士「『なんだ戦士さんか』、じゃねーよ」

    勇者「すみません。ゆうべパソコンやりすぎたんですよ」

    戦士「またゲームかよ。そのうち仕事に差しつかえるぞ」

    勇者「はあ…」

    戦士「で、今日は頼みたい仕事があってな」

    勇者「仕事?」

    戦士「エニックスとかいう会社が主催する『ゲームホビー……」

    勇者「『ゲームホビープログラムコンテスト』ですよね?」

    戦士「知っているなら話は早いな。要はその取材記事を書いてほしいんだよ」

    戦士「参考のために応募用紙もやる。〆切厳守で頼むぞ」

    戦士…鳥嶋和彦、少年ジャンプ編集者

  • 3二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:44:48

    【香川県 丸亀市】


    魔法使い「『ゲームホビープログラムコンテスト』か…」

    友人「ねぇチュン※あだ名、またゲームコンテストに応募するの?」

    魔法使い「うん、そのつもりよ。”得られるもの”も多そうだしね」

    友人「確か最優秀賞には100万でしょう?たまには賞金でなんか奢ってよ」

    魔法使い「考えとく」


    魔法使い(確かに賞金額はすごい…)

    魔法使い(でも多分このコンテストの主旨は新たなゲームクリエイターの発掘ね…)

    魔法使い(これに入選すれば長年の夢だったゲーム開発者になれるかもしれない……)

    魔法使い(絶対に最優秀賞を勝ち取るわ!)

  • 4二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:45:28

    【ふたたび東京都 神保町】


    勇者「それにしてもゲームコンテストねぇ…」

    勇者「手元には買ったばかりのパソコンとトリシマさんからもらった応募用紙……」

    勇者「ゲームを作ってみたいと思ってたところだし」

    勇者「応募してみるのもアリかもな…」

  • 5二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:46:54

    【エニックス】


    勇者「こんちはー。少年ジャンプからゲームコンテストの取材に来ました」

    僧侶「ああ、戦士さんから話はうかがってます」

    僧侶「こちらが入賞した作品です」

    勇者「おお…」

    僧侶「1位の作品が『森田のバトルフィールド』、続いて2位の作品が『ドアドア』」

    僧侶「他の入賞はこちらの『マリちゃん危機一髪』、『ラブマッチテニス』……」

    勇者「ラブマッチテニス?」ニヤリ

    僧侶「?」

    勇者「それ、僕のです」

    僧侶「は?」

    社員「僧侶さん、『ラブマッチテニス』応募者『勇者』になってます…」


    僧侶…千田幸信、エニックス社員

  • 6二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:48:13

    時は流れ1982年 冬


    勇者「ってな感じで応募したら、入選しちゃったわけです」

    戦士「俺はコンテストの記事を書けって言ったんだが。なんでお前が参加してるんだよ」

    勇者「まあまあ、固いこと言わないでさ」

    勇者「来月に入賞者の表彰式があるから、その時もちゃんと取材しますよ」

    戦士「この際まあいい…今回のコンテストの注目どころは上位の3人だ」

    戦士「特に『ドア・ドア』の作者は要チェックしとけよ」

    戦士「業界では”天才高校生プログラマー”なんて呼ばれてるらしいからな」

  • 7二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:49:27

    1983年 1月 【表彰式】


    司会「最優秀賞は森田和郎氏の『森田のバトルフィールド』です!」

    魔法使い「天才であるこのわたしが2位なんて…うぅ…」

    勇者「ひょっとして、君が噂の天才少女かい?」

    魔法使い「!?あなたは確か、『ラブマッチテニス』で入賞した……勇者さん?」

    勇者「どうも、僕は少年ジャンプでライターやっててね」

    勇者「今日は受賞のついでに取材をしに来たんだ」

    魔法使い「受賞者が取材?」

    勇者「細かいことは気にしないで…」

    勇者「では魔法使いちゃん、『ドア・ドア』で見事優秀賞を受賞した感想を聞かせてくれ」

    魔法使い「狙いは最優秀賞だったから。正直残念よ」

    勇者(自信家だな…)

    勇者「なるほど、協力ありがとう。僕は他の受賞者のところに行くよ」


    魔法使い(なんだか変な人だったわね…)

  • 8二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:50:39

    1983年 春


    勇者「こんちはー」

    僧侶「勇者さんじゃないですか。また取材ですか?」

    勇者「いや、今日は新作ゲームのアイデアを持ってきたんですよ」

    僧侶「はあ…」

    勇者「題材は現代日本を舞台としたミステリー」

    勇者「プレイヤーは刑事になって殺人事件を解決する……みたいな感じですかね」

    僧侶「……!いいですね。ぜひウチから出させてください!」

    勇者「もちろんです。いい感じに頼みますよ」


    勇者「ところで僧侶さん。天才少女…魔法使いちゃんは今どうしてますか?」

    僧侶「大学に合格して東京に出てきてるらしいですよ。既に新作にも取り組んでるみたいですね」

  • 9二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:51:47

    1983年7月、ファミリーコンピュータが発売。

    ゲーム機本体だけで3, 4万するものも珍しくない時代に、14800円という低価格。

    かつ、先行するどのハードよりはるかに上をいく性能を誇っていた。

    最終的な出荷台数は日本国外版にあたるNESも合わせて、日本で1935万台、全世界累計で6191万台を記録した。


    9月にはpc版『ポートピア連続殺人事件』が発売。

    コンテスト後に商品化された『ラブマッチテニス』に続く、勇者(堀井雄二)によるパソコンゲームの第二作目である。

    総売り上げ本数は6万本を記録。SF・ファンタジーが主流であった当時のアドベンチャーゲームとしては画期的であった。

  • 10二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:52:56

    そして11月、エニックスは勇者(堀井雄二)や魔法使い(中村光一)らコンテスト入賞者を連れ、

    アメリカ市場の見学ツアーを企画した。

  • 11二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:53:45

    【アメリカ サンフランシスコ】


    ワイワイ ガヤガヤ


    魔法使い「にぎわってるわねぇ…さすがコンピュータ先進国のアメリカ」

    勇者「ゲームの展示もいっぱいあるな」

    魔法使い「あっ!あれはまさか『ウルティマ』と『ウィザードリィ』!?」

    勇者「なに!?」


    ウルティマ…コンピュータRPGの元祖。2D見下ろし画面でのゲーム展開を確立した。

    ウィザードリィ…同じくコンピュータRPGの元祖。

  • 12二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:57:04

    ウルティマ

  • 13二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:57:34

    ウィザードリィ

  • 14二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:58:10

    勇者「これがウルティマ…ウィザードリィ…」

    魔法使い「とんでもないポテンシャルを持ってるわ。これを日本で出したらどうなるかしら…」

    勇者「確実にヒットするだろうね」

    魔法使い「………」

    勇者「………」

    勇者「魔法使いちゃん。僕らで『ウルティマ』『ウィザードリィ』を超えるゲームを作ってみないか?」

    魔法使い「もちろんよ!最高のゲームを作りましょう!」

  • 15二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:58:48

    1984年4月、魔法使い(中村光一)はゲームプログラム会社『チュンソフト』を設立。

    魔法使いはかねてから世間に溢れる劣悪なゲームに不満を抱いていた。

    「自分のほうが面白いゲームを作れる」と感じたことがきっかけでゲーム作りを始め、

    数年でただの高校生から、ゲーム会社社長にまで上り詰めた。恐るべき行動力である。

    この会社がのちに『ドラゴンクエスト』を製作し、その後も『かまいたちの夜』『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』など、

    様々なヒット作を生み出すことになる。

  • 16二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 22:59:30

    1885年9月、『スーパーマリオブラザーズ』が発売。

    空前の大ブームを引き起こし、ファミコンの普及度を爆発的に高めた。

    総売り上げ本数は全世界で4000万本を記録し、

    日本国内の単体としてのゲームソフト売上では、30年以上に渡って歴代1位を維持した。

  • 17二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:00:24

    【チュンソフト】


    僧侶「さすがは任天堂、マリオは予想以上の売れ行きですね…」

    勇者「エニックスもアクションゲームに力を入れていくつもりで?」

    僧侶「私としてはもっと新しいゲームに挑戦していきたいんですけどね」

    魔法使い「それならRPGはどう?」

    僧侶「それが……ファミコンのRPGは前例がないんですよ」

    僧侶「文字ばかりの複雑なゲームシステムを子ども達が楽しんでくれるかどうか…」

    魔法使い「確かに…」

    僧侶「そこで、まずアドベンチャーゲームを出そうと思いましてね」

    魔法使い「なるほど。RPGもアドベンチャーもたくさんの文字情報を処理していくという点では同じってことね」

  • 18二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:01:30

    僧侶「ちなみにそのアドベンチャーゲームというのが…」

    勇者「まさか…」

    僧侶「そうです。『ポートピア連続殺人事件』をファミコンに移植することになりました」


    魔法使い「あら、でもそれには問題があるわよ」

    僧侶「問題?」

    魔法使い「”キーボード”。ファミコンにはキーボードがない」

    僧侶「あ……」


    当時のアドベンチャーゲームは「見る」「話す」「取る」などの行動をする際、

    キーボードの文字を一文字ずつ使ってコマンドを入力する必要があった。

    たとえば村人に話しかける場合は毎回キーボードから「ハナス」と打ち込まなければいけなかったのである。

  • 19二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:03:01

    僧侶「全く考えていませんでした…皆さん、何かいい考えはありませんか?」

    魔法使い(うーん…)

    勇者「うーむ…」


    勇者「そうだ、コマンド選択方式というのはどうだろう」

    勇者「あらかじめコマンドを画面に表示させておいて、カーソルを合わせて選択する」

    勇者「これなら十字キーとボタンがあればいいし、ファミコンでもできる」

    魔法使い「………!」

    僧侶「な、なるほど…」



    魔法使い(わたしも負けてられないわ…)

  • 20二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:04:54

    1985年11月。ファミコン初のアドベンチャーゲームとして、勇者(堀井雄二)原作の『ポートピア連続殺人事件』が発売。

    60万本という数字はアドベンチャーというジャンルでみれば破格といっていい本数である。

    ファミコンとしては異色な作品だったこともあり、生産本数も抑えられたために売り切れが続出し、

    なかなか手に入らない作品だったことも知られている。

  • 21二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:05:57

    社員「僧侶さーん!ポートピアのアンケートハガキが大量に届いてますよ!」

    僧侶「ほう、12歳に20歳…40歳…いろんな人が買ってくれたんですねぇ」

    僧侶「ん?この名前は…」





    賢者「いやぁ、エニックスのゲームは面白い」

    賢者「特にこの『森田和郎の将棋』はいい!」

    賢者「でもbgmが無いのが惜しいなぁ…」

    賢者「アンケートハガキを書いたものの、送るべきか否か…」


    電話「プルルルルルルル…」


    妻「あなたー、電話よー」

    賢者「誰だ?人がゆっくりゲームしてるってときに」ガチャ

  • 22二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:07:08

    僧侶「すみません。株式会社エニックスの僧侶と申します。賢者様はいらっしゃいますでしょうか」

    賢者「私が賢者です。エニックスのゲームはいつも遊ばせてもらってます」

    僧侶「……!そうでしたか!どうもありがとうございます」

    僧侶「それでは折り入って話があるのですが今度お会いすることは可能でしょうか」

    賢者「わかりました。予定を空けておきましょう」

  • 23二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:07:37

    -数日後-


    賢者(エニックスの社員さんと会うことになるとは…)

    賢者(まさか妻が勝手に出してしまったハガキでこんなことになるとは思ってなかった)

    僧侶「賢者様は、ゲームがお好きなんですよね?」

    賢者「好きだよ。『ブロック崩し』や『スペースインベーダー』全盛の頃からゲームセンターに通ってたくらいだからね」

    賢者「パソコンも買っちゃったし」

    賢者「ファミコンは2年前の発売直後に買って毎日遊んだよ」

    僧侶「本当に、ゲームがお好きなんですね…」

  • 24二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:08:29

    賢者「それで、やはり次回作はポートピア2なのかい?」

    賢者「手堅く売り上げを狙うなら、それが一番だろうしね」

    僧侶「……」

    賢者「でも、違うんだろう?」

    僧侶「はい、その通りです。我々はRPGに挑戦します」

    賢者「なるほど…」


    賢者「僧侶さんは”子供”だね」

    僧侶「?」

    賢者「長年音楽家なんてやってると人間には2種類のタイプがいることに気づくんだよ」

    賢者「ひとつは”子供”。自分のやりたいことは誰がなんと言おうと実行するタイプ」

    賢者「もうひとつは”大人”。周囲の意見を気にしてやりたいことが出来ないタイプ」

    僧侶「私は”子供”ですか?」

    賢者「そうだね。でも、それがいいのさ」

    賢者「自分の好きなことだけをやっていけばいい、私もそうやって生きてきたしね」

  • 25二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:09:14

    僧侶「……ありがとうございます」

    僧侶「賢者様、私はこれからのゲームは音楽の重要性がより高まるため、プロによる曲が必要不可欠だと考えているのです」

    賢者「……」

    僧侶「それを踏まえて、ひとつお願いがあるのですが」

    賢者「………そうくると思ってたよ」

    僧侶「おお、それじゃあ…」

    賢者「もちろん、やらせていただこう」

    賢者「日本初のコンシューマRPG、ゲーム音楽の作曲はこの私に任せてくれ」

  • 26二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:09:48

    そしていよいよ、勇者(堀井雄二)と魔法使い(中村光一)の日本初のファミコンRPGへの挑戦が始まる。

  • 27二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:10:51

    【チュンソフト】


    僧侶「デザインはどうしましょうか」

    勇者「僕はライターになる前は漫画家志望だったんですよ。ってことで久々に描いてみました」バンッ

    僧侶「ふむ、RPGのモンスターっぽいですけど、ちょっと怖すぎませんか?」

    魔法使い「小さい子どもがこんなの見たら大泣きよ」

    魔法使い「もっと愛嬌のあるデザインにしたほうがいいんじゃない?例えばマリオのクリボーとかノコノコみたいな…」

    僧侶「難しいですね…堀井さんの知り合いでデザインをやってくれそうな漫画家さんはいないでしょうか」

    勇者「うーん、週刊連載してる漫画家には副業してる暇なんてないしなぁ…」

    魔法使い「天下の少年ジャンプだものね。簡単には引き受けてもらえないか」

    勇者「今度、担当さんに相談してみるよ」

  • 28二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:12:50

    【集英社】


    勇者「戦士さん、ゲームのキャラデザインやってくれる漫画家さんはいないですかね」

    戦士「普通ならそんな暇がある漫画家はいないんだが…」

    勇者(だろうな…)

    戦士「………武闘家なら、やってくれるかもしれんな」

    勇者「でも武闘家さんは『ドラゴンボール』の連載で忙しいでしょ?」

    戦士「ああ…あいつ今『ポートピア』にハマってるらしくてな」

    戦士「ゲーム関連の仕事に興味があるらしい」

    勇者「なら今度正式に依頼したいから先にラフ絵だけ渡しておいてくれませんか?」

    戦士「わかった。渡しといてやるよ」


    実は武闘家(鳥山明)は、『ポートピア連続殺人事件』にハマっていたのは事実だが、
    ゲームを作りたいとは考えていなかったことが後に判明する。

    勇者(堀井)曰く、「戦士さんは武闘家さんに何か刺激を与えたかったのでしょう」ということらしい。

  • 29二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:13:57

    戦士「おい武闘家、描け」

    武闘家「は?なんですか、このラフ絵」

    戦士「いいから、いつもみたいに描いてみろ」

    武闘家「はいはい、わかりましたよ」


    -数日後-


    戦士「おい武闘家、客だ」

    武闘家「はぁ…今度は何ですか?」

    勇者「お久しぶりです」

    武闘家「勇者さんじゃないですか。この前一緒にゲームセンターに行って以来ですね」

    武闘家「それで今日はどういった用で」

    勇者「戦士さんからラフ絵もらったでしょ?あれ、僕が描いたやつなんですよ」

    武闘家「これ、勇者さんのだったんですか!?」

    武闘家「急に戦士さんに描けって言われて描いたんですけど」

  • 30二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:14:44

    勇者「おお、すごくいいじゃないですか!」

    勇者(やっぱり武闘家さんにしか描けない絵だ)

    武闘家「は、はあ…」

    勇者「実は今日は折り入って頼みがあって来たんですよ」

    勇者「僕は今とある会社でゲームを作ってる最中なんですが、キャラデザインできる人がいません」

    勇者「武闘家さんさえよければ、やっていただけないでしょうか」

    武闘家「……」

    勇者(ダメか…)

    武闘家「まあ、いいですよ」

    勇者「本当ですか!ありがとうございます!」


    戦士(この仕事がこいつにとって良い刺激になればいいんだが…)


    この時の武闘家(鳥山明)は30年以上続くシリーズになるとは想定していなかったのか、
    後に「そんなに続くなら断っていた」と語っている。

  • 31二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:15:34

    -数日後-


    勇者「こちらがデザインを担当してくれることになった、かの有名な武闘家先生です」

    武闘家「どうも」

    魔法使い「はじめまして、いつも拝見させてもらってます」

    僧侶「引き受けてくださってありがとうございます」

    武闘家「まあ引き受けた分にはしっかりやりますよ」

    僧侶「よろしくお願いします」

  • 32二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:16:19

    1985年 12月 【第一回企画会議】


    武闘家「堀井さん、シナリオの進捗はどうなんですか?それが決まらないと僕の方も動けないですよ」

    勇者「ある程度概要はできてるよ」

    魔法使い「やっぱり『ウルティマ』みたいなSFファンタジー?」

    勇者「いや?『魔王にさらわれたお姫様を勇者が助けに行く』、以上」

    魔法使い「え」

    僧侶「流石に安直すぎませんか?」

    魔法使い「剣と魔法のファンタジーなんてありふれてるわよ」

  • 33二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:16:51

    勇者「確かにありふれたシナリオかもしれない。でも思い出してほしい」

    勇者「このゲームをプレイするのは子ども達だ」

    勇者「複雑な話より、ありふれた話のほうが子ども達は親しみやすいに決まってる」

    勇者「日本初のファミコンRPGにとって重要なのは”わかりやすさ”なんだよ」

    魔法使い「なるほど…RPG初心者に対して凝った設定は敷居をあげるだけってことね」

    武闘家 「まずは王道中の王道で勝負をかけるわけですか」

    僧侶「なら、それでいきましょう」

  • 34二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:18:27

    【東京都 大島 とある旅館】

    勇者「世界観は中世ヨーロッパで決定だな……冒険の舞台は草原…山…海…美しい大地…」

    勇者「ゲームの目的は『魔王を倒し、姫を救出する』」

    勇者「最初に“やるべきこと”をはっきりさせることが重要だ」

    勇者「んー…目的は魔王討伐だが肝心の魔王はどこにいる?」

    勇者「うーむ…」

    勇者「……」

    勇者「それにしても、綺麗な景色だなぁ。短い休暇だけど来てよかった」

    勇者「お?あんなところに小さな島が…」


    勇者「……あの小島に魔王がいるとしたらどうだろう」

    勇者「『眺めることはできても実際に行くことは難しい』、そんな島に魔王がいるとしたら…」

    勇者「魔王はチビのじいさんで」

    勇者「ついに勇者と戦うもあっさり倒されてしまう…」

    勇者「しかし、真の姿、ドラゴンになってそこから本当の戦いが始まる!」

    勇者「なんてな!」

  • 35二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:19:58

    東京都 大島

  • 36二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:21:02

    【第二回企画会議】


    勇者「フィールドマップはこんな感じだよ」

    僧侶「魔王の城がスタート地点のすぐ傍の島にありますけど、これでいいのですか?」

    勇者「こうすればゲーム開始から『魔王の城』をプレイヤーに印象付けることができる」

    魔法使い「『ゲームの目的=魔王を倒す=魔王の城に行く』ってことをプレイヤーにわかりやすく伝えられるわけね」

    勇者「中断、再開は毎回スタート地点で行うからゲームをプレイするたびに魔王の城を眺めることになるからね」

    勇者「だがその実態は謎!なまじ姿が見えている分、最終目的地への期待と渇望が高まるって寸法だよ」

    魔法使い「想像するだけでワクワクしてくるわね!」

  • 37二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:22:19

    僧侶「ふむ、魔王の名は『竜王』…ドラゴンの化身ですか…」

    僧侶「いいですねぇ。やはり怪物の王といえばドラゴンですよ」

    魔法使い「ねえ、勇者さん。ゲームのタイトルはどうするの?」

    勇者「んー…タイトルねぇ…」

    勇者「竜……ドラゴン……冒険……」



    勇者「 『 ド ラ ゴ ン ク エ ス ト 』 なんてどうだろう?」



    僧侶「ドラゴン、クエスト……」

    魔法使い「”竜を探す冒険”、ね……」

    魔法使い「シンプルだけど、カッコいいじゃない」

    僧侶「タイトルは『ドラゴンクエスト』で決定ですね」

  • 38二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:22:38

    『ドラゴンクエスト』の製作は概ね順調に進んでいった。

  • 39二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:23:53

    【チュンソフト】


    勇者「……で、画面の基本構成としてはフィールド、洞窟、城、町で32パターンくらい欲しいんだが」

    魔法使い「うーん、ちょっときついわね」

    勇者「ならダンジョン内部は8パターンくらいにしぼって……」

    社員「社長、ちょっといいですか?」

    魔法使い「どうしたの?」

    社員「メッセージ表記の文字のことなんですが、やはり容量の問題でひらがな・カタカナ全部は使えません」

    社員「ひらがなは全部使うとしてもカタカナは半分くらいしか使えませんね」

    魔法使い「うーん、カタカナのうちどの文字を残すか、ね」

  • 40二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:24:28

    魔法使い「勇者さんならどうする?」

    勇者「実は『ポートピア連続殺人事件』をファミコンに移植するときも同じ問題が出たんだよ」

    勇者「そのときに作ったのが……」


    勇者「勇者作『よく使う20文字のカタカナ』」


      イ  カ  キ  コ  シ  ス  タ  ト  ヘ  ホ 

      マ  ミ  ム  メ  ラ  リ  ル  レ  ロ  ン  
                                   』

    社員「はー、こんなものが」

    魔法使い「さすが、物書きの人は違うわね」

    勇者「これはシャーロックホームズの『踊る人形』から思いついてね」

    勇者「『使用頻度の高いアルファベット』をヒントにして暗号を解読していくって話を応用したんだよ」

  • 41二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:25:19

    勇者「ステータスウィンドウのレベル表示はいらないよね」

    魔法使い「いらないんじゃない?だいたい感覚でわかるし」

    魔法使い「なにより表示が少ないと画面も見やすくなるしね」

    僧侶「そうですかね?私は必要だと思いますが」

    魔法使い「どうして?」

    僧侶「これはポートピアが発売されたばかりの頃」

    僧侶「小学生のプレイヤーから質問の電話がかかってきましてね」

    僧侶「その時電話の向こうでわいわいとにぎやかに楽しんでいる声が聞こえてきたんですよ」

    僧侶「それで私は、ファミコンはパソコンのようにひとりで遊ぶゲームではないと気づきました」

    僧侶「レベル表示があれば『ここに行くにはレベルが足りない』『もっとレベルを上げたら』といった具合に」

    僧侶「友人たちとコミュニケーションをとりながらプレイできるじゃないですか」

    魔法使い「なるほどね…」

    勇者「わかった。僧侶さんの言う通りレベル表示は残しておこうか」

  • 42二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:27:17

    【集英社】


    武闘家「うーん、ここをちょっと尖らせて……こんな感じかな」

    戦士「おう武闘家、なにやってんだ?」

    武闘家「『ドラゴンクエスト』のモンスターデザインですよ」

    戦士「あーあれね…ふーん、モンスター名『スライム』か」

    戦士「これが『スライム』?怪物っていうには可愛すぎるんじゃないか?」

    武闘家「それでいいんですよ。子ども達にゲームを楽しんでもらうには殺伐とした世界観になっちゃいけませんからね」

    武闘家「むしろ愛敬があってユニークなデザインのほうがいいんですよ」

    戦士「『モンスター=恐ろしい怪物』っていう固定観念に囚われちゃダメってことか……」

    戦士(だからといって、『スライム』をこんなデザインで描ける漫画家は日本でこいつだけだろうな)

  • 43二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:30:37

    しかし、最後まで順調というわけではなかった。

  • 44二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:31:16

    1986年 1月 【チュンソフト】


    社員「ほいほい、と…こんな感じですかね」カタカタカタカタカタ

    魔法使い「よし、これで音楽は完成ね」

    勇者「お、もうできたのかい?」

    魔法使い「うちのサウンドプログラマーの自信作よ」

    魔法使い「もう音楽が完成してるって言ったら僧侶さんもきっと驚くわ!」

  • 45二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:31:51

    僧侶「やあこんにちは。今日は音楽のことで少し話があるのですが」

    魔法使い(待ってました)ニヤリ

    魔法使い「もう完成して…」

    僧侶「作曲家の賢者様に頼もうと思うんですよ」

    魔法使い「え?」

    勇者「は?」

    魔法使い「ちょっと待ってよ!ゲーム音楽は特殊ジャンルだから、他の音楽と同じようには行かないわ!」

    勇者「そうだな。ゲームのことをちゃんと分かってる人じゃないと曲作りは任せられない」

    僧侶「その点は問題ないですよ。あの人ほどゲームに精通した音楽家はいないと思います」

  • 46二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:33:01

    魔法使い「だけどもうマスターアップまで時間がない!今から音楽全部作り直すなんて、とてもそんな…」

    僧侶「賢者様は1週間もあれば全部できるとおっしゃっていました」

    魔法使い「はあ?」

    魔法使い「 『ドラゴンクエスト』の全音楽を1週間で作曲する!?舐められてるのよ!『たかがゲームだろw』ってね!」

    僧侶「そんなことはないです。訂正してください」

    魔法使い「そうかしらね?イメージが違ってリテイクのお願いなんかしたら怒り出すんじゃないの?」

    僧侶「………」

    魔法使い「………」

  • 47二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:33:31

    社員「僧侶さん、出ていっちゃいましたね」

    勇者「魔法使いちゃん、さっきのはちょっと言い過ぎだよ」

    魔法使い「なら、勇者さんは納得できるの?」

    魔法使い「『ドラゴンクエスト』はわたし達で作ってきた、わたし達のゲームじゃない」

    魔法使い「なのに今さら他の人間をチームに加えるなんて…」


    『ドラゴンクエスト』の開発スタッフはほとんどが以前からの顔見知りであり、
    仲のいい若者グループといった感覚が強かった。


    魔法使い「それにわたし達は既存の枠に囚われない、まったく新しいゲームを作るのが目標だったはずよね」

    魔法使い「権威主義に凝り固まったお爺さんにでしゃばって来られちゃたまらないわ」

    勇者「まあ、そのへんは僕も心配だが」

  • 48二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:34:19

    社員「ああ、それは大丈夫だと思いますよ。あの賢者様ですよね?」

    社員「『帰ってきたウルトラマン』とか『ガッチャマン』とか…アニメや特撮の主題歌なんか作曲してる人ですよ」

    魔法使い「え、『帰ってきたウルトラマン』?子どもの頃夢中で見てたわ」

    社員「そういえば、昔『ザ・ヒットパレード』って音楽番組がありましたよね?」

    社員「あれを企画したのも賢者様なんですよ」

    社員「作曲家になる前はフジテレビでディレクターやってたとか…」

    魔法使い「へぇ…」

    勇者「魔法使いちゃん、一度賢者様に会ってみないか?」

    魔法使い「………」

  • 49二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:36:59

    -数日後-


    賢者「どうも、はじめまして」

    勇者「本日はご足労いただき大変ありがとうございます」

    魔法使い「………」

    僧侶「魔法使いさん、ちゃんと挨拶してください」

    賢者(なんだか歓迎されてない雰囲気だなぁ…)


    「俺たちのグループによそ者が入ってきやがった、という雰囲気だった」と後に賢者(すぎやま)本人は語っている。


    勇者「賢者様はどんなゲームがお好きなんですか?」

    賢者「ボードゲーム、アーケードゲーム、ビデオゲーム、どれも好きだよ」

    賢者「ゲームセンターも『ブロック崩し』や『インベーダー』の頃によく通ったなぁ」

    魔法使い「賢者様、それじゃあ『インベーダー』で300点取るにはUFOを何発目で撃てばいいか知ってますか?」

    賢者「27発目。で、次から14発目だよね?」

    勇者「おお〜!」

  • 50二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:37:58

    >>21

    賢者…作曲家すぎやまこういち

  • 51二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:38:33

    賢者「君たちみたいな若い子は知らないだろうけど、私が一番好きだったのは『ビンゴゲーム』なんだよ」

    魔法使い「……!賢者様もビンゴがお好きなんですか?」

    賢者「へぇ…最近の子はあんなレトロゲームはやらないと思ってたよ」

    僧侶「『ビンゴ』ってなんです?」

    勇者「ゲーセンのピンボールゲームですよ。僕も大好きです」

    魔法使い「あれはホントに面白いわよね!シンプルでありながらあれほど奥の深いゲームはないわ!」

    賢者「もう20年以上前なんだけど、日本に入ってきた当初は横浜にしか置いてなくてね」

    賢者「だから、わざわざ車飛ばして横浜まで遊びに行ったよ」

    勇者「横浜まで通ってたんじゃ車代が大変だったんじゃないですか?」

    賢者「だからその分元をとろうと思って遊びまくったのさ」


    ワイワイ ガヤガヤ


    社員「なんだかんだ言って話盛り上がってますね」

    僧侶「そうだね…」

  • 52二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:39:34

    僧侶「盛り上がっているところ悪いですが、そろそろ本題に入りましょうか」

    魔法使い「………」

    魔法使い「賢者様。わたし達は『ドラゴンクエスト』の製作をとても大切に考えています」

    魔法使い「本気で世界一のゲームを作りたいと考えているんです」

    魔法使い「失礼な言い方ですが、もし貴方の作られた曲がわたし達のイメージにそぐわなければ」

    魔法使い「書き直しをお願いすることもあるかもしれません」

    魔法使い「それでもよろしければお願いします」

    魔法使い「『ドラゴンクエスト』の音楽を作ってください」

    賢者「こちらこそ、よろしくお願いします」

  • 53二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:40:11

    スタッフ「それで、ゲーム音楽の作曲を引き受けてきたんですか?」

    賢者「そうだよ」

    スタッフ「けど先生…たった一週間で8曲作るなんていくらなんでも無謀ですよ」

    賢者「今は調子が良いからね。さっそく取り掛かるよ」


    ドラゴンクエストのオープニングテーマ「序曲」を賢者(すぎやまこういち)は5分で作曲したという。


    賢者「よし、一曲目完成」

    スタッフ「はやっ!!」

  • 54二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:40:42

    -1週間後-



    賢者「これがオープニングテーマ」


    〜♪ 〜♪ 〜♪


    社員「これ…ゲームの曲なんですか…?」


    僧侶「なんというか…物凄く本格的ですね。まるでクラシックのオーケストラですよ」


    勇者「この曲を本当に5分で作ったんですか?」


    賢者「正確には54年と5分だね」


    賢者「この曲が完成したのはそれまでの54年の人生があったからなんだよ」

  • 55二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:41:16
  • 56二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:41:56

    賢者「次は戦闘曲」


    〜♪ 〜♪ 〜♪


    社員「おお〜、いいですねぇ」


    勇者「どれも最高ですよ」

  • 57二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:42:28

    賢者「最後はフィールド曲『広野を行く』」


    〜♪ 〜♪ 〜♪


    ドラゴンクエスト - 広野を行く (フィールドBGM) [Dragon Quest]

    魔法使い「これをフィールド曲に使うの?」


    賢者「?」


    魔法使い「これはフィールド曲、つまり冒険へと旅立つ曲よね」


    魔法使い「それにしては大人しいというか妙に寂しい感じがしない?」


    魔法使い「もっと力強い派手さがあったほうがいいと思うのよ」

  • 58二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:42:59

    賢者「魔法使いさん。私はゲーム音楽の作曲はレコードのヒット曲作りとはまったく別物だと思ってるんだ」

    魔法使い「どういうこと?」

    賢者「ヒット曲作りで大切なのは一度聴いただけで派手なインパクトを与えることなんだよ」

    賢者「だけど派手な分、しばらくしたらすぐ飽きられてしまう」

    賢者「ゲーム音楽は何度も何時間も聴くことになるからね」

    賢者「大事なのは第一印象の派手さよりも、大人しくても聞き飽きないことなんだよ」

    魔法使い「この『広野を行く』には、長時間でも聴き飽きない魅力があるのね?」

    賢者「自信はあるよ」

  • 59二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:43:53

    魔法使い「賢者様。わたしはこのフィールド曲こそが『ドラゴンクエスト』の要だと思ってるわ」

    魔法使い「だから一切妥協はしたくないのよ」


    巨匠賢者(すぎやまこういち)に対して、若干21歳の魔法使い(中村光一)は一歩も引かなかった。


    賢者「だからこそ、この曲がいいんだよ。妥協したつもりはない」

    魔法使い「………」

    僧侶「なら、とりあえず一度この曲をゲームに乗せて様子を見てみませんか?」

    僧侶「その間に賢者様には別の曲を考えておいてもらいましょう」

    魔法使い「……わかったわ」

  • 60二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:45:08

    武闘家「モンスターデザイン完成しましたよ!」

    勇者「おお、どれもコミカルでかわいい」

    魔法使い「わたし達のイメージ通りよ」

    武闘家「そうですか?いやあ…気に入ってもらえてよかったですよ」

    魔法使い「さっそくモンスターをプログラムするわ!」

    武闘家「頑張ってください。それじゃあ、僕はこれで」

    僧侶「ありがとうございました」

  • 61二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:45:34

    魔法使い「武闘家先生…あんなに凄い人なのに、気さくで丁寧で、偉そうなところがちっともない」

    勇者「賢者様もそうだったな」

    僧侶 「一流のプロっていうのはそういうものなのかもしれないですね」

    僧侶「さあ、仕事に戻りましょう」

  • 62二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:46:14

    社員「賢者様の作った曲をファミコン用の音に再構成して……と。社長、できましたよ」

    魔法使い「じゃあ、ゲームに乗せてみようか」


    〜♪ 〜♪ 〜♪


    社員「これがダンジョンの曲です」

    魔法使い「ダンジョンの中は曲はずっと同じよね」

    魔法使い「地下1階から2階、3階に降りても曲が同じだと臨場感に欠けるわ…」

    社員「洞窟の深く深くに潜っていく、って感じが表現できてないかもしれませんね」

    魔法使い「奥深くに行くにしたがって音程を低くするとか……いや、これだけじゃ弱いか…」

    魔法使い「………」

    魔法使い「ちょっと気分転換してくるわ」

    社員「早く戻ってきてくださいよ、社長」

    魔法使い「はーい」

  • 63二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:46:41

    魔法使い「好きで始めたこととはいえ、困難の連続ね」

    僧侶「………」

    魔法使い「ごめんなさい、僧侶さん。すぐに戻るわ」

    僧侶「いいですよ。特に急ぐ用があるわけじゃありません」

    僧侶「魔法使いさん、最近疲れてるんじゃないですか?」

    魔法使い「そうね。たまに不安になるのよ」

    魔法使い「わたし達の『ドラゴンクエスト』はちゃんと成功するのかなって」

    僧侶「不安ですか…それは私も同じですよ」

    僧侶「ファミコン初のRPGは全てが始めての試みなんです」

    僧侶「なにもかもが前人未到の冒険」

    僧侶「まさに無人の『広野を行く』がごとし、なんですよ」

    僧侶「広野を、行く……」

  • 64二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:47:34

    魔法使い「戻ったわ。ごめんね、長いこと抜けちゃって」

    賢者「おお、おかえり」

    魔法使い「あれ?賢者様、どうしてここに」

    賢者「音楽のチェックに来たんだよ」

    社員「社長。さっきのダンジョンの件ですけど、賢者様がいいアイデアを出してくれたんですよ!」

  • 65二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:48:06

    〜♪ 〜♪ 〜♪


    ドラゴンクエスト - 洞窟 1F~B7 (ダンジョンBGM) [Dragon Quest]

    魔法使い「これは…曲のテンポが変わってる?」


    賢者「ダンジョンの奥へ行くごとにだんだんテンポを遅くしてみたんだ」


    魔法使い「良い…」


    魔法使い「すっごく良いわ!」


    社員「ですよね!さっそくプログラムしますよ!」カタカタカタカタ

  • 66二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:48:44

    社員「〜♪」カタカタカタカタ


    賢者「あっ、その曲『広野を行く』だよね」

    社員「なんかプログラムしてるうちに覚えましてね」

    社員「みんな知らないうちに気付いたら『広野を行く』の鼻歌を歌ってるんですよ」

    賢者「私の狙い通りだよ」

    魔法使い「………」

  • 67二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:49:15

    魔法使い(そうか、冒険ってわくわくする期待感だけじゃない…)

    魔法使い(今わたし達が感じている不安とか苦しさとか)

    魔法使い(そういうのも全部ひっくるめて冒険なのね)

    魔法使い「賢者様、この曲でいきましょう。『広野を行く』で」

    魔法使い「それと、どうかこれからも『ドラゴンクエスト』の製作にご協力お願いします」

    魔法使い「わたし達には、貴方の力が必要なんです」

    賢者「もちろんさ!この私にまかせてくれたまえ」

  • 68二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:49:46

    勇者「みんな、聞いてくれ!」

    僧侶「堀井くん、どうしたんですか?」

    勇者「ついにシナリオが完成したよ!」

    社員「おお、出来ましたか!」

    僧侶「これでデザインも、音楽も、シナリオも、ゲームのパーツは全部揃いましたね」

    魔法使い「なら、あとはこれをプログラムすれば『ドラゴンクエスト第一バージョン』が完成ってわけね!」



    この後まもなく、エニックスは子供達を集めて 「ドラゴンクエスト」試作版のモニタプレイを行うことになる。

  • 69二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:50:10

    社員「うーん…」

    勇者「なんかあった?」

    社員「スタート位置がラダトームの町とラダトームの城の中間地点じゃないですか」

    社員「でも子ども達は町や城に入らずに、フィールド上をウロウロしてるんですよ」

    社員「それじゃあモンスターにやられちゃうんですけど、ヒントを出すタイミングもないんです」

    勇者「うーむ…」


    勇者「そうだ、いっそルールがわかるまでプレイヤーを城に閉じ込めちゃおう」

  • 70二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:50:42

    社員「ど、どういうことですか?」

    勇者「スタート位置を王様の部屋にして扉に鍵をかけるんだよ」

    勇者「ゲームは王様との会話から始める」

    勇者「宝箱から『とる』ことを覚えて」

    勇者「カギがないと扉が開かないことを知り」

    勇者「『かいだん』のコマンドでのぼりおりすることを理解する」

    勇者「こうすれば王様の部屋で重要コマンドの使い方を覚えられる」

    勇者「遊び方を覚えてからきちんとゲームができるってわけだよ」

    社員「なるほど」

  • 71二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:51:16

    Aボタンでウィンドウが開くことも気づかずゲームを進めてしまったプレイヤーを見て、勇者(堀井)はゲーム開始地点にカギをかけ、プレイヤーを閉じ込めることまでした。

    徹底して「プレイヤーを導くこと」にこだわったのである。

  • 72二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:52:58

    完成間近、モニタプレイの中でスタッフの誰もが気付かなかった致命的な誤算が浮き彫りになる…

  • 73二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:53:20

    1986年 5月


    魔法使い「ねぇ…このゲーム、本当に面白い?」

    勇者「何言ってるんだ?」

    勇者「………」

    勇者「魔法使いちゃん、それはいわゆるマリッジブルーってやつだよ」

    勇者「人間いよいよって時になると、意味なく不安になるものさ」

    魔法使い「本当にそう思う?今までテストプレイして、何か違和感を感じなかった?」

    勇者「違和感ねぇ…」

    勇者「……思い出してみると序盤は確かに面白かったけど、後半の戦闘が単調だった気がするな」

    社員「僕もです。後半の戦闘が微妙に作業っぽく感じました」

  • 74二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:53:44

    魔法使い「やっぱりそうよね。後半の戦闘が単調になるのは、モンスターの行動パターンが限られてるからだわ」

    魔法使い「敵側の行動はアタック、ギラ、ホイミ、炎……要するに攻撃か回復しかしてこない」

    魔法使い「プレイヤーが成長しきってしまう後半になると、あとはひたすら同じような戦闘の繰り返しになるのよ」

    勇者「そうだったのか…」

    社員「それで、どうします?」

    魔法使い「対策はあるわ。敵側もラリホーやマホトーンを使えるようにするのよ」

    魔法使い「ただし、そのためにはプログラムを1から組み直す必要がある」

    勇者「攻撃パターンを変えるならモンスターデータも全部作り直しだ」

    勇者「けど、僧侶さんがなんて言うか」

  • 75二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:54:14

    僧侶「プログラムをほとんどやり直す!!??」

    僧侶「なぜですか!?」

    勇者「後半から戦闘がつまらなくなるんだ…」

    魔法使い「モンスターの攻撃が単調で緊張感がなくなるのよ…」

    僧侶「発売日はすぐそこなんですよ!?」

    僧侶「今さらプログラムの大幅変更なんてできません!!」

  • 76二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:54:51

    勇者「僕らは本当に良いゲームを作りたい」

    勇者「今のまま発売なんかしたら絶対後悔する」

    魔法使い「発売日が遅れるのは申し訳ないわ」

    魔法使い「でも、その分完成度の高いゲームができれば子供たちも納得してくれると思うのよ」

    僧侶「………」

  • 77二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:55:16

    僧侶「いいかい?」

    僧侶「我々エニックスはもう発売日を決めて広告を出してしまっています」

    僧侶「任天堂も全国の問屋さんもそのスケジュールで動いているんです」

    僧侶「納期を遅らせるってことは、それに関わる人たち皆に迷惑をかけるってことなんですよ」

    魔法使い「……それでも」

    魔法使い「それでも、お願いします!」

    勇者「お願いします!やらせてください!」


    僧侶「………」

  • 78二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:56:47

    僧侶「一週間です。一週間で全作業を終わらせてください!」

    魔法使い「……!」

    勇者「……!」

    勇者・魔法使い「「ありがとうございます!」」

    僧侶「礼などいりません!一刻も早く作業に取り組んでください!」

  • 79二次元好きの匿名さん24/11/18(月) 23:57:13

    【社長室】


    僧侶「社長、『ドラゴンクエスト』のマスター納入を1週間遅らせてください」

    社長「お前は自分の言ってる意味を理解しているのか?」

    僧侶「すべての責任は私が取ります」

    社長「……」

    社長「1週間だな。それ以上は待てないぞ」

    僧侶「ありがとうございます!」



    マスターアップ間際でのプログラムの大幅変更、開発スタッフは不眠不休の作業が続いたという。

  • 80二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 04:46:08

    見てるぞ

  • 81二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 05:21:00

    お気に入りにいれました
    続き楽しみにしてますね
    社長さんかっこよ

  • 82二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 05:40:25

    「ドラゴンクエストへの道」の展開ほぼそのままね
    だからダメ~なんて言う気はないけれど
    せめてその名前は出すべきじゃないかなぁ

  • 83二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 16:46:22

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:25:36

    更新します

  • 85二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:27:12

    >>82

    本当は昨日書き切るつもりで最後に参考文献として『ドラゴンクエストの道』を載せようと思っていたのですが

    不覚にも規制がかかってしまって書き切ることができませんでした。すみません。

  • 86二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:28:27

    -1週間後-


    魔法使い「できた……!!」

    魔法使い「今度こそ…できた…」

    魔法使い「完成………よ……」

    魔法使い「ZZZ……」




    僧侶「お疲れ様です……」

    僧侶「皆さんよく頑張りましたね」

  • 87二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:28:55

    【エニックス】


    僧侶「社長、『ドラゴンクエスト』完成しました!」

    社長「急げ僧侶!ただちにデバック作業に取り掛かるぞ!!」

    社長「時間がない!エニックス社員、総動員でデバックにあたる!」

    社員一同「「「「「「「はい!」」」」」」」

  • 88二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:29:26

    エニックスのデバッグ作業によって見つかったバグはチュンソフトに報告され、

    修正されたROMが再びエニックスに送られる。

    デバッグ期間中、このやりとりが何度も繰り返された。


    僧侶「魔法使いさん、『虹のしずく』を持っていても16分の1くらいの確率で橋がでないらしいです」

    魔法使い「わかった!すぐ直すわ!」カタカタカタカタ

    勇者「ああ……まだ戦いは終わらないのか…」カタカタカタカタ

  • 89二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:29:53

    そして、ついに………


    魔法使い「……」カタカタカタカタ ッタン!!

    魔法使い「ふぅ…」

    勇者「終わっ……たのか?」

    社員一同「「「「「「「………」」」」」」」

    魔法使い「うん!終わったわ!」

  • 90二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:30:30

    社員一同「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」」」」」」」


    ワイワイ ガヤガヤ


    社員「お疲れ様です、僧侶さん!」

    僧侶「ああ、君達もね。お疲れ様でした…」


    勇者「ようやく……終わった…」

    魔法使い「これで正真正銘、全部完成よ…」

  • 91二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:31:00

    勇者「魔法使いちゃん」

    魔法使い「何?勇者さん」

    勇者「お疲れ様…」

    魔法使い「うん、お疲れ様」

  • 92二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:32:55

    1986年5月27日『ドラゴンクエスト』が発売。

    「ファミコンでRPGなどありえない」それが昭和60年当時の通説であった。

    ゲーム初心者の子供がメインユーザーであるファミコンにおいては操作が単純なアクションゲーム全盛であり、

    複雑なシステムをもつRPGが受け入れられることはないと思われていた。

    また、容量の問題もあり、当時のファミコンのROMカセットの容量はわずか64KBであった。

  • 93二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:33:37

    『ドラゴンクエスト』の売り上げは、最初から芳しかったわけではない。

    ファミコンユーザーの間に、RPGというものの知名度が全くなかった時代である。

    勇者(堀井)や魔法使い(中村)たちの実現した「すごさ」は一目では伝わらなかった。

  • 94二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:33:55

    幸運だったのは、その「すごさ」がわかる人間たちに、ゲームやパソコン雑誌の編集者やライター多かったことだ。

    ゲームや、パソコンの雑誌上で、何度も『ドラゴンクエスト』が取り上げられ、そのすごさが噂になっていった。

    口コミでの伝播は、遅い部類だったといっていい。だが、最終的な売り上げは150万本に達した。

  • 95二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:34:23

    当時のクリエイター達にも大きな衝撃を与えた。

  • 96二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:34:54

    【スクウェア】


    ナイト「ドラゴンクエスト…」

    ナイト「ファミコンでRPGなんて無理だと思ってたな…」

    ナイト「でも、違った」

    ナイト「……」

    黒魔道士「サカグチサン、ドウシタンデスカ?」

    ナイト「ジベリ!次は僕らもファミコンRPGを作ろう!」

  • 97二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:35:25

    【任天堂】


    魔王「家庭用ゲーム機での本格RPGか…」

    魔王「これはやられたな〜」

    魔王「僕らがディスクシステムでやろうと思ってたのに」

    魔王「ROMカセットで実現させちゃったんだもんな〜」

    魔王「まあいっか!ファミコンの売り上げ増加にもつながるしね!」


    後に魔王(宮本茂)は「ドラクエのうまいところは、言葉で生理的な感覚を引っ張り出しているところだ」と語っている。

  • 98二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:35:59

    【東京都 町田】


    魔物使いA「智、どうしたんだ?」

    魔物使いB「建、『ふしぎなぼうし』が取れないんだよ」

    魔物使いA「フッ…俺は2つ持ってるぜ」

    魔物使いB「マジか!1つくれよ!といっても無理だよなぁ…」

    魔物使いA「あげたいのは山々なんだけどな。まあ取れるように祈っといてやるよ」

    魔物使いB「ああ…もう少し頑張ってみるよ」



    魔物使いB(友達同士で『交換』できればもっと面白いのに…)

    魔物使いB(僕がゲームを作るときは、そんなシステムを取り入れたいな)

  • 99二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:36:17

    かくして、『ドラゴンクエスト』はファミコンのみならず、
    ゲーム業界そのものを象徴するビッグタイトルへの道を歩み始めたのである。

  • 100二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:39:41

    @

  • 101二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:40:13

  • 102二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:42:04

    参考
    やる夫はドラゴンクエスト開発者になるようです 
    やるやらで学ぶゲームの歴史
    マンガ『ドラゴンクエストへの道』
    ドラゴンクエストwiki
    ドラゴンクエストとその時代 DRAGONQUEST AGE
    Wikipedia

    他ドラクエ関連のエピソードをまとめたサイト

    曖昧な描写が多いです…(アメリカ視察、鳥山明の参入、堀井雄二の大島旅行等)
    最後はジベリを出したかっただけ

  • 103二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:46:18

    改行多すぎと分割多すぎで100レス近くも使う必要はなかったね

  • 104二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:48:09

    初代ドラクエのヒットはジャンプ(というか名物編集のマシリト)の介入もよかった

    という話は抑えておいてもいいと思う

    ジャンプ誌面でのゲームコーナーの読者ウケがよくなりそうだから

    という理由で鳥山明を送り込んだと本人が明確に言っている

    https://news.denfaminicogamer.jp/projectbook/torishima/2#i-1

  • 105二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:53:54

    >>103

    すみません

    SS初心者なもので

  • 106二次元好きの匿名さん24/11/19(火) 22:57:18

    >>104

    追記ありがとうございます

    ヒットの一因として書いておくべきでしたね

  • 107二次元好きの匿名さん24/11/20(水) 03:39:20

    お疲れさまでした
    面白かったですよ

オススメ

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