見つけましたよ、杏山カズサPart3

  • 11824/11/22(金) 02:34:57

    ここだけ15年前に行方不明になった杏山カズサを探し続けていたレイサがいる世界。
    なお、カズサには30分程度道に迷ってたぐらいの認識しかない。

  • 21824/11/22(金) 02:36:56
  • 3二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 02:49:00

    立て乙

  • 4二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 03:17:06

    とりあえず10まで伸ばすぞ

  • 5二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 03:19:12

    加速

  • 6二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 03:20:08

    たておつ

  • 71824/11/22(金) 03:20:35

    うおこんな夜中にすみません
    前スレのコメ返し書いてます。
    あと年齢表と、あらすじを書き直します!

  • 8二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 03:48:12

    たておつです!
    「初代スレ主とPart2・現スレ主は別人」かな?

  • 9二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 03:48:49

    とりゃー!

  • 10二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 03:51:49

    ここのSSが最近の楽しみ
    無理せずご自身のペースで書いてくれれば嬉しい

  • 111824/11/22(金) 04:03:47

    >>2

    日本語になってなくて草

    パズルかな?


    >>8 

    の言う通りにございます……!

  • 121824/11/22(金) 04:33:04

    現在までの登場キャラは

    杏山カズサ  :16才
    宇沢レイサ  :31才
    栗村アイリ  :30才
    柚鳥ナツ   :30才
    伊原木ヨシミ :31才
    狐坂ワカモ  :34才
    栗浜アケミ  :34才
    スケバンちゃん:15才
    先生     :42~5才
    黒服     :?才
    現・ティーパーティ :17,18才

    名前だけ出た人(キヴォトスにいたら)
    クズノハ   :?才
    カヨコ    :34才
    スズミ    :32才

    ってな感じになります。
    計算間違ってたらごめんな。早生まれの計算こんがらがる。

  • 131824/11/22(金) 05:24:53

    【簡単なあらすじ】

     「見つけましたよ、杏山カズサ!」
     ある秋の夕暮れ。コンビニで。ちょっと買い物をした帰り道。背後から声を掛けられ、振り向くと。
     一つに縛った髪。ワインレッドのブラウスと、タイトスカート姿の大人。
     宇沢。彼女は、その大人の女性は、15年後の宇沢だった。
     各自治区に悪名轟かすバンドへと変貌したSUGAR RUSH。
     一緒に卒業したかったからと叫んだアイリは、みんなは、一年生で停学になったまま、30才を超えていて。
     みんなは、この秋の暮れ。15年後の10月の終わりに、SUGAR RUSHの活動を辞めると言った。
     表向きは私が見つかったから。
     だけど、私に教えてくれない、裏の理由。アイリ。ナツ。ヨシミ。スイーツ部の誰も、未来を見ていないかのようにふるまう理由を、私だけ教えてもらえない。
     知りたいならば。
    『クズノハ様にお会いなさいませ』
     そう教えてくれたワカモさんは。
     シャーレの、先生の”力”として15年間、そばにいたワカモさんは。
     宇沢が襲われた。
     ワカモさんに。
     先生のためにしか動かないというワカモさんが襲ったのなら。つまり。
     それはつまり。先生が襲ったも同然で。
     熱血バカの宇沢が、私を探すために自分の正義を曲げてまで、栗浜アケミと手を組んだのが悪かったのか。
     SUGAR RUSHのテロ染みた捜索活動が悪かったのか。
     それともなにか……別の思惑が動いているのだろうか。
     わからない。でも、発端は。ぜんぶ、私がこの世界から、消えたこと。
     ”終わり”を見ているアイリたち。先生。クズノハ様。
     私は、キヴォトスの一生徒。特別なしがらみも、宿命も、なにもない。青春を。ただ青春を過ごす一介の生徒だったはずなのに。
     幕は上がった。
     ショウが始まったのなら止めてはならない。
     カーテンコールが終わり照明が落とされる、その時まで。
     ――終わりはどこに?
     私が求めるエンディングって、どんなもの?

  • 141824/11/22(金) 05:31:34

    10まで埋め、ありがとうございます!
    楽しみしてくだすってると言っていただけるのも、まじのまじでうれしみがふかみ。

    なにより、概念ぶっこみ初代スレ主に感謝を。

    保守もありがとうございます! またお世話になります!
    メンタルクソザコでごめんな。だいぶ落ち着いたやで。

    さあー。
    転がしていきましょー!

  • 15二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 07:48:07

    スレ立てありがとうございます

  • 161824/11/22(金) 16:04:40

    ちな今日は投稿できませぬすみませぬ。
    ほ。

  • 17二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 00:01:58

    ほしゅ

  • 18二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 08:15:56

    わざとではなかったとはいえ、発端が明確だからこそカズサはツラい

  • 19二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 14:50:11

    メチャ良いSS
    ほしゅ

  • 201824/11/23(土) 16:39:42

    「くっくっく……。宇沢さんって、そんな感じだったんです?」
     新しい紅茶を準備するスケバンちゃんと運転手ちゃんがが歯を見せて笑っていた。
     宇沢も歯を見せている。こっちは威嚇のため。その話を繋げるなと。野良犬みたいに歯をむき出している。
     それに気づいたのは私だけ。
    「そうだよ。知らなかった?」
    「知らんかったっス。ウチらからしたらフツーに頼れるお姉さんって感じなんで。シュガラの皆さんの昔の写真とかも見たいっスね!」
    「写真っていうか動画あるけど見る~?」
    「見たいっス!」 
     図らずも話題が変わったことにほっとした宇沢がうんうんと目を瞑ってうなずいていた。
     いくらでもネタがあるからまたほじくり返してやろうと誓う。
     ぽちぽちとスマホをいじり、みんなに見やすいように、テーブルに横向きに画面を倒したナツが再生ボタンを押すと、流れてくるのはコゴソゴソとした雑音。楽器の試し弾きらしき音。雑談。私の緊張したような吐息。『彩りキャンパス』。あの屋上でスマホ撮りしたときのもの。私がフロントに立って、上手にヨシミ。下手にアイリ。背後にナツ。ついこの間、みんなで見返したもの。
     おお、と目を輝かせるスケバンちゃんが、軽く飛び跳ねた。
    「すげー! アイリさんかわええー! ヨシミさんツインテ! ナツさん髪長! すげー、すげー! みんな若いっスね!」
    「誰がババアだぶちのめすわよ! アイリ!」
    「おっけー!」
    「ナツ!」
    「よい――しょぉ!!」
    「ぐぼぁッ!!」
     スケバンちゃんの腹にナツの拳が深々と沈んだ。腕をアイリとヨシミに抑えられたスケバンの身体がくの字に折れる。ちょっと足浮いたけど大丈夫かな。
     腕を離され崩れ落ちるスケバンちゃんと。腕を組みスケバンちゃんを見下ろし囲む3人と。
     でもやっぱり。私にとっても、この動画の中のみんなのイメージは、まだ色が濃い。違和感はなくなったけど。でも、こうしてみるとやっぱり、みんな若いというより、幼く。それは私も一緒、なのかも。実感はない。ないけど、成長したみんなの姿と並ぶとやっぱり、浮いて見える。
     だから。
     崩れ落ちたスケバンちゃんが「そこまで言ってないっス……」と咳き込みながら、その場に胡坐をかいて。
     言った言葉に、深く共感した。

  • 211824/11/23(土) 16:42:22

    「げほっ、げほっ……。いやでも……。なんか、感動するっス。ほんとにカズサ"さん"って、同級生なんスね」
     スケバンちゃんからしてみれば。
     そりゃ、経緯は知らないけど。いつ、みんなを知ったのかも知らないけど。
     スケバンちゃんからしてみれば、みんなはずっと大人で。大人の姿のみんなしか知らなかった。だから、みんなが探している”杏山カズサ”は知っていても、こうしてみんなの中にもう一度入って来た私とみんなは、時間の差があって、言ってることと見た目の差の光景がぐちゃぐちゃに見えていて。
     同い年だった時の、この映像みたいに、馴染めていない。
     ああ、そっか。
     現実が。私たちから見た私たちと、他人から見た私たちの齟齬が、スケバンちゃんの中でやっと繋がったんだ。
     短い動画はすぐに終わる。二分弱の短い動画。
     動いて、声が入って、みんなと一緒に一つの青春の成果が映った短い短い動画。『今の私たちに”入ってもらう”んじゃなくて、今の私たちに”繋がってもらう”』と言ったヨシミの言葉どおり。
     ずっとみんなの近くに居て、みんなの中に入った私を見ていたスケバンちゃんでさえ。
     みんなだけを知っている今のキヴォトスには、この映像を見せることは、私が今のキヴォトスに生きようとするなら、必要な儀式。みんなと同じ時代に生きた私が居た。昔のみんながいたときの。昔のみんなと今の私が同じ時に居た証拠を。
     それはとっても独善的で、独りよがりで、私たちの勝手な思いを、たたきつける行為。
    「なんか街中で映像流すって姐さんからうっすら聞きましたけど、これっスか。めっちゃいいっスね」
    「でしょ? だからこそ、やんなきゃなんないの」
    「やんなきゃなんないっスね。――ウチは全力で協力しますから、やりましょう。めっちゃ楽しみっス」
     隣の運転手ちゃんもうなずく。
     勝手な思いを叩きつけるだけ。
     それはまさしく。
    「いやぁ、青春だったねぇ。あむ」

  • 22二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 19:43:43

    スケバンちゃん不憫かわいい

  • 23二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 05:16:23

    ライブ演出想像するだけでクルものがあるな

  • 24二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 14:40:23

    無理に一つにするのではなく、全部ひっくるめて一つになる
    いかにもらしい

  • 25二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 22:52:50

    保守

  • 26二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 08:22:27

    ほし

  • 271824/11/25(月) 16:31:00

    >>21


     お菓子を。映像みたいに一口で放り込んで。ナツが頭の後ろで手を組んだ。

    「青春なんですよ。いまも」 

     にひ、と。

     背もたれに腕を掛け。後ろを振り返って。ナツが笑った。宇沢の、つぶやきみたいな言葉に。宇沢が自分の言葉に何か言ってくるのが、わかっていたみたいに。

     ピロン。

     テーブルに置いたナツのスマホが通知を鳴らす。

    「お? 誰だろ」

     スマホを手に取ろうとしたところで、あちこちから。

     ピロン。ピロン。ピロン。

     全員のスマホの通知が鳴った。

     もちろん、私のも。

     なんスかね。姐さんでしょうか。スケバンちゃんが言う。

     そのあとすぐ。スケバンちゃんのスマホが鳴る。

     電話。

    「あ、もしもし。お疲れさまです。今シュガラのみなさんのとこで……いえ、姐さんからは。はい。はい。ああちょうど今、なんか来ましたね」

     ヨシミも、アイリも。

     宇沢も、私も。運転手ちゃんも。

     みんな、木板が張り付けられた窓の外を見ている。

    「――了解っス。すぐに出ます」

     通知。

     差出人は。先生。

     というか。運転手ちゃんは「アタシの連絡先教えてねえんだけど!?」と白目を剥いている。

     差出人が先生と言えど。先生がそこに来ているとは考え辛くて。

     ワカモさんか?

     送られてきたのは写真が一枚。閑静な街の、一軒の建物。

     窓には木板が打ち付けられていて、外壁も汚れていて。そのくせ、ガレージのシャッターは、キレイで。

     ここに連れ込まれたのは夜だったから確証はないけど。

     でも、わかる。この建物は――。

  • 281824/11/25(月) 16:32:56

    「皆さん。今すぐ準備をしてください。ここは捨てろと姐さんが――」
     爆音。
    「うわあああっ!」 
     ガシャン。パリン。
     割れものが山のように積んであったアジトには、絶望的なオーケストラが鳴り響く。あちこちから、揺れる瓶の音。落ちる瓶の音。割れる瓶の音。爆風がドアの隙間から吹き込む。埃が舞う。酒の、香しい酒の香りも。強く。ツンと。
     スケバンちゃんも、運転手ちゃんも。
     ヨシミもアイリもナツも。動きが速かった。
     すぐに銃を構えて、廊下に出るスケバンたち。そこらの家具やテーブルを部屋の外に蹴り出して即席の障害物を作って、廊下の奥に銃口を向けるみんな。いや、荒事に慣れすぎでしょ。
     コツコツ。
     じゃりじゃり。
     ぴちゃぴちゃ。
     二人分の足音。
     ああ。
     そういえば、この時代に初めてシャーレに行ったときも、あそこって水浸しだったなあ。
     私は取り回しの悪い自分の銃じゃなくて。宇沢のハンドガンを借りて、宇沢の前に立つ。こんな室内でマシンガンなんてぶっ放せば味方にも被害が――。
     味方。
     味方ということは。私は。
    「すいませんが、そこの角曲がる前に、武装を全部見えるように置いてもらっていいっスかね!」
     廊下の向こうでスケバンちゃんの怒鳴る声が聞こえる。
     一瞬の間。
     コン。
     固いものが転がる音がして、それと同時に。部屋のすぐそこで銃を構えていたみんなが、部屋の中に逆戻りしてきて。
    「カズサちゃん、伏せ――!」
     光。
     爆発。
     前だけじゃない。
     後ろからも。
    「宇ざ――」
     守る前に勢いでベッドから落ちる宇沢が視界の隅に。顔から落ちていた。

  • 291824/11/25(月) 16:34:18

     私の身体は言う事をきかない。後ろからは飛び散る木片。前からは爆風とガラス片。ちくちくと顔や足など、服のないところに当たって、痛痒いイヤな痛み。
     朝日。数日ぶりの。いや、時間的には、もうすぐ昼に掛かる時間で。
     神々しさも感じる陽の光が、饐えた部屋の中に差し込む。映画に出てくるようなワルモノのアジトが。白日の下に。
    「見損ないましたよ、レイサさん」
     凛とした、鉄板でも入れ込まれたかのような声。
     その声に、顔から落ちた宇沢が、痛みを気にせずに腕に力を入れて身体を起こした。
    「あなたは――ぃッづ」
     仰向けになった宇沢の顔面は。陽の光に照らされた宇沢の目は、大きく見開かれて。
     逆光に銀髪を輝かせ。頭に生えたサイドポニーのような片翼。
     灰色の制服。
     制、服……?
    「スズミ、さん……? なん……。え、だって、卒業されて……」
     宇沢が。夢を見たように。寝起きの、まどろみから覚め切らない呂律で。
     ガン、という音に振り返れば。スケバンたち二人が、部屋の中に放りこまれた。
     二人は伸びている。投げられても、指一つ動かない。
    「大事なものがあるならば、もう少し護衛の手を増やした方が良いのではないでしょうか。雑魚じゃあ、手ごたえもありません」
     仮面の下の表情はわからない。ただ、お香の香りは、大量に巻き散らかされたお酒の匂いに混ざっている。
     銃を構えようとしたアイリ達にワカモさんは銃を構えることもせず。
     足音は止まらない。
     目の前の、この時代に、この恰好でいるはずのない人と。
     肩に銃を担いだワカモさんは、その場から動かない。
     だから、もう一人。
    「やあ。みんな。体調はどう?」
     ひょっこりと顔を出したのは。
    「先生……!」
     私はみんなのことを、一瞬。味方だと。
     味方だと思った。
     先生の通知を見て。襲撃だとすぐわかって。すぐに戦闘準備に移るみんなを、味方だと。
     私は。一瞬。
     先生を、敵として見た。

  • 30二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 21:00:16

    本当切るところ上手い

  • 31二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 06:01:29

    うわぁ、これまでの希望が絶望に変わる……

  • 32二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 09:22:31

    先が全く読めないドキドキする

  • 331824/11/26(火) 16:22:44

     ※

     倒れた椅子を起こして「”どっこいしょ”」と腰を下ろした先生は、スケバンちゃんたちや、床に伏したままのアイリ達など意に介さず、にこにこと。スズミさんから目を離せない宇沢にも構わず。
     いつもの優しい笑顔が、差し込む陽に照らされている。
     なんで、なんて。
     そんな初心な問い掛けは。
    「――っ!」
    「甘っちょろい」
     やられたふりをして機会をうかがっていたスケバンちゃんは。身体を跳ね上げた瞬間に、ワカモさんに蹴り飛ばされた。
     部屋の隅まで転がされたあと、トドメとばかりに、ワカモさんの銃が火を噴く。
     ピクリとも動かなくなったスケバンちゃんにアイリが身体を被せる。一言も発さない。ワカモさんを。先生を睨むだけ。
     ああ。みんなも一緒だ。
     みんな。先生を。ワカモさんを。敵として見ている。
     制圧。
     この場は正しく、先生に制圧された。
     私は。
     構えていた銃を下ろす。
     抵抗は無意味。ワカモさんがこの場にいるだけで理屈が成立してしまう。戦ったことはないけど。有無を言わせない威圧感に足が震える。
    「ス、ズミさん……」
     唯一。みんなとは違う方を向いていた宇沢が。
    「どうして居るんですか……? だって、それ。学生時代の……」
     私にだって見覚えがある。記憶の、そのまんまの人。
     ここは。宇沢も、みんなも。先生もワカモさんも。
     15年の時を経ているのに。
     スズミさんは。私たちの一つ上の先輩は。あの時のまま。トリニティ生の恰好をして。
     答えの代わりに宇沢に銃を突きつけた。
    「”ちょうど今はいないからね”」
     先生が言った。
    「”だから、スズミに来てもらったんだ”」

  • 341824/11/26(火) 16:27:53

    「いみがわかりません」
     宇沢が。漏れるような小さな声で、先生の方を見ようと身じろぎする。
     凛とした顔。赤い瞳。火薬のにおいと散らかった酒の芳香。嗅ぎなれない強い匂いに頭がくらくらする。
    「意味が解りません!」
     宇沢が叫ぶ。
    「なんで邪魔するんですか! 先生もわかってるくせに! あと半月もないんですよ、二週間もないんですよ! なんで邪魔するんですか……! 先生は先生じゃなくなっちゃったんですか!?」
     宇沢の慟哭を聞いて。
     先生は、ただ眉根を寄せて。笑顔のままで。
    「”生徒ならなんでも許されるわけじゃないんだよ、レイサ。犯した罪には罰が必要。私は、トリニティの教えみたいに、なんでも赦す神様じゃない”」
    「だからって今じゃなくなって!」
    「”みんないなくなっちゃうから。今じゃないとダメでしょ”」
     ぐっと。歯ぎしりの音が、私にまで聞こえる。
     やっぱりか。
     私は。あんまり衝撃を受けなかった。こうして実際、言葉として聞いても。
     理由はわからずとも、そんな気はしていたから。
     でも。力は抜ける。
     ごとり。
     手から落ちたハンドガンが、固い音を立てる。
    「なんでこないだ聞きに行ったときに教えてくれなかったの?」
     今更。こんな形で。
    「”きみが一人で来たからだよ、カズサ。みんなから話を聞いていないなら、私から言うわけにはいかないからね”」
    「で、今日はなんの用?」
    「”もうすぐヴァルキューレが来る。栗浜アケミとその一味はお酒とか宅建業法違反。恐喝、暴力。いくらでも罪状はあるね。シュガラのみんなは今までのテロ活動の件とトリニティ総合学園でのテロ予告。建物や区画の破壊活動で出された被害届、とんでもないことになってるから。そろそろ年貢の納め時ってやつだと思わない?”」
     シャーレ。連邦捜査部S.C.H.A.L.E。
     自治区の垣根を超えて活動できる唯一の機関。
     学園都市の中で、学園からはみ出し活動するスケバンたちやSUGAR RUSHを追うにはもってこいの部署。連邦生徒会。その手先。キヴォトス内の、特異点。
    「じゃあ……どうしてここがわかったの?」
     先生はゆらゆらと、手に持ったタブレットを揺らす。
    「”優秀な子がいてね。きみたちのスマホが通信した基地局から、だいたいの場所はすぐに割り出せるんだ。……ま、生徒会にはナイショだけど”」

  • 35二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 22:20:38

    大人のカード使うってことはよっぽどなんかあるんだな

  • 36二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 23:10:54

    カズサ以外のスイーツ部三人がいなくなるらしいことと関係してるのかな

  • 37二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 05:59:52

    先生の言い分はむしろもっともだし理解はするけど、もうちょっと待ってあげてなよと思う心もある先生のことだし、このまま続けるとさらに大きな問題があったりするのか?
    彼女らのための行動だと信じたい

  • 38二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 06:29:07

    この方法なら延命できる、とかじゃあないかな
    ただ振る舞いからして先生もカードの使い過ぎでもう…

  • 39二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 12:39:42

    アロプラも大概チートだな

  • 401824/11/27(水) 16:23:10

     舌打ちが聞こえる。誰のものかはわからない。私は、先生が得体のしれない、誰か別の人なんじゃないかって希望を、まだ捨てられない。でも、ワカモさんがそばに仕えている時点で。基地局がどうとか、普通の人にはできないことをしている時点で。スズミさんがあの頃の姿のまま、宇沢に銃をつきつけている現実がある時点で。
     どうしようもなく、目の前で微笑んでいるのは、先生。
     気持ちが悪い。
     宇沢には申し訳ない。15年も一緒に、近くで。あの先生と一緒に過ごしてきた宇沢には申し訳ないけど。
     わたしの、淡い恋心さえ。恋にすらなっていなかった、憧れの気持ちさえ。
     未だに希望を持ってしまう自分にさえ。
     ぜんぶ。ぜんぶ。
    「気持ち悪い」
     私は、私が落としたハンドガンを蹴る。
     狂ったような反射神経で銃を構え、私が蹴りだしたものを撃ちぬこうとしたワカモさんに。
    「ほいきた!」
     ナツが体当たりするように組み付いた。狙いがブレた銃弾は当たらず。天井に一つ穴を開け。すぐに振りほどかれたナツは、あっさり投げ飛ばされた。
     蹴りだされたハンドガンを受け取ったのは、ヨシミ。
    「動か――ぁぐッ!」
     構える前に銃床で腹を殴られ、その場に崩れ落ちるヨシミを横目に見て。
     ワカモさんの顔面に思い切り、脛を叩きつける。
    「はしたない。戦闘は優雅に行うものですよ」
     あっさりと捕らえられた私の足は。
    「勝ちゃいいんだよ、ケンカなんてもんは」
     そのまま全体重を掛けて押し込んでいく。空いた足はワカモさんの軸足に絡ませて。もつれるように倒れこんだ。ワカモさんの仮面に私の股間を押し付ける形。たしかに、はしたないと言われても仕方ない。
     銃ばっか使ってるとこういうとき咄嗟に動けないんだよね。
     髪の毛を引っ掴んで足が枕になるように頭を持ち上げ。もう片足で、肩を潰すように摺り上げ、前傾に体重を掛ける。
     この形になればもう決まり。トライアングルチョーク。三角締め。の、変形。いくら暴れようが逃げられない。
     咳き込むヨシミがこっちに、ハンドガンを投げ渡した。
     こちらはワカモさんの首に座り込む形。体勢は盤石。安定している。
    「さんきゅ。はい。私の勝ち」
     銃口を突きつけてそう宣言する。

  • 411824/11/27(水) 16:29:35

    「あの。私もいますが?」
     目の間に火花が散った。遅れて首が折れそうな衝撃と、側頭部から突き抜けるような痛み。
     足が緩む。すぐさま、私の身体は跳ね飛ばされる。咳き込むワカモさん。完璧に入ったと思ったけど、7秒ってやつだったか。残念。
     でもねスズミさん。なんでここに居るのか知らないけどさ。
     私の勝ちなんだって。
    「うううう、動かないでください!」
     アイリの声が響いた。
     頭がガンガンする。
     その場の誰も動かない。
     舌打ち。
     今度の舌打ちはわかりやすい。ワカモさん。ワカモさんは咳き込んで、立膝をついたまま。
     ぎりぎりと。宇沢のじゃない。仮面の下から聞こえる歯ぎしり。
     とにかく。誰かひとりが注意から逸れればよかった。部屋の隅っこで、スケバンちゃんに覆いかぶさっていたのがたまたまアイリだったから、みんなそのように動いただけ。
     ……荷が重かったかもしれない。
     アイリはもう目を回しそう。膝は笑ってるし、というか、身体中震えてるし。銃口なんかぶるっぶる。そりゃそう。横に居てこんだけ肌が粟立つというか、背筋が凍るというか。そんなおそろしい”気”を発するワカモさんの正面に立っているのだから。
    「”あはは……。まさかワカモが一本取られるとは”」
    「す、すみません……」
    「あいててて……。これで免許皆伝かなぁ、ワカモさん」
     壁際まで吹っ飛ばされていたナツがヨシミの腰をさすりながら言う。お腹を思い切り殴られたヨシミはまだ、立てなさそう。
     スケバンちゃんも。ひっくり返ったまま動かない。運転手ちゃんは……。寝たふりしてんのがバレバレ。気持ちはわかるけど。こんな状況だし。
     宇沢が言う。じっと、正面に向かって、スズミさんに。
    「両手を上げてください。あなたのフラッシュバンは、先生にもダメージがあります」
    「……ですね」
     がしゃり。
     銃を捨て、スズミさんは潔く、負けを認めた。
    「”さすがに二人じゃ無理だったね”」
    「申し訳ありません。せっかくお呼びいただいたのに」
    「”いや。久々にスズミに会えてうれしかったよ。ありがとう”」

  • 421824/11/27(水) 16:34:04

    「……久々。なるほど。レイサさんがそういう姿なのは、ふむ」
     両手を挙げたまま宇沢をじろじろ見、やがて納得したようにうなずいたスズミさんは、寂しそうに笑い。
     そして、顔を引き締めて。
    「それはそれ。これはこれです。レイサさん。あなたはまた勝手なことを……。先生から伺いましたよ。お酒の売買に関わるなんて、自警団としての誇りはどこに置いて来たのですか!」 
    「ぴえっ! で、でもぉ」
    「でももテロもありません!」 
    「はいぃ! ごめんなさい!」
     身体の自由が聞くなら土下座でもしそうな勢いで宇沢が鳴いた。ホールドアップさせた相手に説教を食らっていると。
     その背後ではワカモさんが唸り、唸るワカモさんをナツが煽り。先生の頭にはアイリが銃口を突きつけている。
     ……なんなの、この状況。
    「えーっとさ……」
     むち打ちになったような首の調子を整えつつ、私は立ち上がる。
     体中に付いた埃やコンクリート片やガラス片が、陽に照らされた部屋に舞う。
     どうしよう。立場を逆転させたまではいいけど、この先なにも考えてない。
     とりあえず逃げるか、アケミに連絡を取るか……。
     いや。あいつのことだ。絶対、こっちに様子を見に来るはず。乃至は、応援を寄越す。
     時間を稼いだほうがいい。ヴァルキューレとどっちが早いか勝負だぞ、アケミ。
    「さて……。なんでスズミさんがいるの? これも先生がやった、ていうか、どうなってんの?」
    「”聞いたことない? 『大人のカード』”」
     反応したのは宇沢。
     芋虫のように身体をねじろうとしたので介助する。 
    「奇跡を起こせるカード……」
     ベッドを背もたれに、なるべく関節を動かさなくてもいいように座らせた。
     顔をゆがめながら、宇沢が言う。
    「”そう。このカードで強引な奇跡を起こして、私はいろんな問題を解決してきた。ふふふ……。私の力なんて大したことない。すごいのは、このカードと、このタブレット――アロナとプラナなんだよ”」
     胸ポケットに手を入れた先生が掲げたのは、陽を受けて輝く、一枚の、クレジットカード、みたいなもの。
     ビビり散らかしたアイリは、動く先生に静止を求めることもできず。
    「”レイサの前で『大人のカード』を使うのは初めてだっけ。制約はあるけど、こういうことも出来るんだ”」

  • 431824/11/27(水) 16:37:05

     一瞬。
     陽の光とは違う輝きを放ち。
    「なッ――」
     目の前に、急に現れたのは。
     アイリが口をあんぐり開けて、つい下がった銃口に。
     ワカモさんが見逃すはずがないその隙に、アイリが吹き飛ばされる。
    「免許皆伝には程遠い、ですわね」
     ガン。
     銃声一発。
     アイリの身体がビクリと跳ね、動かなくなった。
    「アイリ! っ!」
     皮一枚。喉元に、銃剣。
    「言葉通り。死にたければ動いてもよろしいですわ」
     目線だけを動かせば。
     スズミさんがいつの間にか、ナツを組み伏せ、ヨシミに銃口を向けていた。
     くそ。やり返された。
     状況はさらに悪く。
    「趣味悪いなぁ……先生」
     汚れた床を舐めながらナツが、本気で不愉快そうな顔をする。
     そりゃそうだ。
     『大人のカード』が輝いて、部屋の真ん中に急に現れたのは。
     大きなリボン。チョコミント色の。スクールバッグにも、チョコミントアイスのキーホルダー。チョコミント色の髪飾り。真っ白い制服。
     アイリだ。
     それも。
     私が良く知る姿。
    「”『いる』子を呼び出すこともできる。これがまた奇妙でさ。本当は、ある程度の自我があるはずなんだ。スズミみたいに。でも、この子にはそれがない。中身がない、って感じがしない?”」
     『いる』とか。奇妙とか。自我とか。中身とか。
     この人、マジで何言ってんの?
     アタマおかしいことやってるって自覚ないの?

  • 441824/11/27(水) 16:38:12

     確かにぼんやりと床を見つめているアイリは、このぶっとんだ状況にも表情一つ変えず。というか、表情がない。
     壊れた壁の向こうで、酒の海の中で。倒れて動かないアイリ。あれはフリじゃない。本当に気を失っている。
     こちらも。目の前で、ただ立っているアイリも。
     アイリ。
    「”ヴァルキューレの子たちが来るまで時間もあるし、ちょっとお話しようか”」
     まるで王であるかのように。
     指を組み、足を組んだ先生は、近くに転がっていたお酒……じゃなくて。私が飲んでいたオレンジジュースのペットボトルのキャップをひねり、一口、二口、飲み下した。
    「いやいや、きっしょ」
     つい、口に出た。
    「”え! あれ! これカズサのだった? ごめん! つい喉が渇いて!”」

  • 45二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 23:34:19

    無理してキャラ作ってたんだな先生

  • 46二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 10:24:10

    素の締まらない先生を見て不覚にも安心が先に来た

  • 471824/11/28(木) 16:25:15

     シャツの袖口で飲み口を拭ったとしても。
    「返されても困るんだけど……」
     もともと貰い物だし。ぬるくなってるし。というか、昨日飲んでそのまま置いといたやつだし。
     別にオレンジジュースにそこまで未練があるというわけじゃないくて。
     口の空いたペットボトルを飲むというのが、ちょっと信じらんない。   
    「”今度ちゃんとお返しするから……。さて、気を取り直して”」
     こほん、と咳払い。
     ああ、ほんと。
    「”カズサはあれから、みんなからは何か教えてもらえた?”」
     気を失っているアイリを。スケバンちゃんを。気にも留めない先生が。せめて、あの酒に浸されたアイリの介抱くらいしたいものだけど。あれくらいじゃ、私たちは死にはしないにしても。
     この人の庇護から外れるというのは、こういうことなんだと、思い知らされる。
     私が答えずにいると。
    「”クズノハの名前はみんなから聞いたと思うけど、あの子は会おうとして会える人じゃない。だからみんなが話さなきゃいけないことだって、みんなはわかっているはずだよ”」
    「それは……」
    「”傷つけない方法なんてないんだ。必ず痛みを伴う。そんなことに今更怯えてちゃだめでしょ”」
    「わかってるわよ……そんなこと……でも」
    「”『でも』。『だから』。『だけど』。いろいろ考えはあったとしても、事実として、カズサは不安を感じてる。そんなものを抱えて残りを過ごすのは。……カズサは薄々わかっているかな。みんなの。なんていうか。余命……みたいなものが、もうすぐ来るってことに”」
    「……ま、あ」
    「”言葉として聞くのは初めてっぽいね。このままならあとせいぜいひと月。なんでかわかる?”」
     知るかそんなもん。
     みんなが10月のその先を見ていないのはわかる。理由も、今、ちゃんと言葉として聞いた。
     なんでそうなるか。
     そんなもん、私がわかるはずがない。
    「”私が呼んだアイリ。この、中身が入っていないような。これがある意味答えと言えば答えなんだよ。――カズサは『神秘』ってなにかわかるかな”」
     授業が始まるように。先生は、アイリを。ぼんやり立っているだけのアイリを横目に見て言った。
     風が吹く。肌寒い風が。
     割れた窓に風が鳴き。
     小さくシャッターが鳴る。

  • 481824/11/28(木) 16:29:23

    ―――
    ――


    「ん……。少し風出てきたね」
    「問題ないわ。そもそもここからじゃ、ええと。なんだっけ。あの灰色の子しか狙えない。当てなくてもいいんでしょ?」
    「うん。まあ、できればあの女狐を狙って欲しいけど」
    「ちょっと無理ね。奥の方にいるから。下に降りる?」
    「いやいいよ。ええと、スケバンの人たちは……。あと5分くらいかな」
    「にしてもあんなちまちました戦い方、ワカモは苦手でしょうに、よく我慢できてるわね」
    「そりゃこの一帯全部壊していいって先生が言うはずないし……。――そっちはどう? あ、声出せなかったらいつも通りスマホ叩いてくれればいいから」
    『(コンコン)』
    『(ガツガツ)』
    「オッケー。じゃあ手筈通り。スケバンたちの現着と同時に、ガレージの車奪取。建物は全部壊していい。現着した車に全員放り込んだら、私たちで先生の足止め。私もそっちに向かうね」
    『(コンコン)』
    『(ガツガツ)』
    「もったいないわねー。5、6本くすねていきましょうよ。高そうなやつ」
    「どうせ飲めないくせに……」 
    「箔が付くのよ! いやはやまさか、退屈でボロい仕事かと思ってたのに。まったく、こうなることが読めてたのだとしたら、ほんと。おっそろしいわ」
    「ふふ。そりゃ、あの怪物、アケミだよ。それはそうと経営顧問に弓引くことになるけどいいの?」
    「もうお金をもらっているもの。それに……。あのやり方は、好きじゃない」
    「同感。じゃ、私もいくから。あとよろしくね、社長」
    「任せなさい。退路は守ってみせるわ。カヨコも気を付けて。……私怨で戦っちゃだめよ」
    「……わかってるって」


    ――
    ―――

  • 49二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 23:06:15

    最高にアウトローだぜ便利屋

  • 50二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 05:19:50

    さっすが便利屋

  • 51二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 08:09:18

    このレスは削除されています

  • 52二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 08:09:35

    便利屋頼りになる

  • 531824/11/29(金) 16:19:03

    ずびばぜん……今日は投稿できないですぅ~

  • 54二次元好きの匿名さん24/11/29(金) 22:26:20

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 06:04:17

    >>53

    ヨシヨシ(。´・ω・)ノ゙

    ええんやで

  • 56二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 14:49:19

    >>53

    大丈夫ですよ

    いつまでも楽しみに待ちます

  • 571824/11/30(土) 16:30:20

    >>48


    「神秘……って、なにが?」

     ぎぃ。

     先生は足組みを辞め、身体を前に倒した。

    「”魂をね、カズサ。『杏山カズサ』っていう入れ物に入れると、今のカズサになる。一つの肉体に一つの魂。これがいわゆる私みたいな――『外の世界』の、『外の』存在なんだけど”」

    「意味わかんない。スピリチュアルな話? 私、そういうのぜんっぜん興味ないよ」

    「”まぁまぁ。そう、『一つの肉体に一つの魂』。そもそも魂なんてものの実証はされていないとしても、あると仮定して。君たちは、神秘っていう一つの魂を、複数の肉体で共有する。イメージとしては……。アロナ。お絵かきソフト出してくれる?”」

     先生がタブレットに話しかけた。

     先生の眼鏡がタブレットの光を反射し、かつかつとタッチペンを動かした後、こちらに見えるよう、画面を回す。

     大きな円が上に。下に、小さな円がいくつか。

     それらが、上から下への矢印でつながっていて。

     大きな円には『神秘』。

     小さな円には『生徒』と。

    「”クラウドが一番近いかも。わかる? クラウド”」

    「ストレージの?」

    「”うん。神秘って言うのは生徒一人ひとりが、必ず一つ持っている。一対一の関係。この一つ一つの小さい円が『生徒』。これは、世代ってやつ。本来は同世代に一つの肉体にしか、宿らない。私が起こす奇跡は、これを強引に、二つに分けるんだ”」

     タッチペンが画面をなぞり、一つの矢印に分岐点が描かれ、丸が一つ追加された。

    「”居るはずのない場所に、居るはずのない人を喚び出す。だから奇跡。とはいえ、決まり事もあってね。この時に神秘に対する肉体が『カズサ』として存在していたなら、私はカズサを喚ぶことになる。神秘と肉体のつながりは、とても強い。けれどもし存在していなかったら――”」 

    「私のように、『過去に存在した肉体』から喚び出される、ということです」

     ナツの身体に膝を突き立てたまま、スズミさんが言った。

     まるで。BDを介した授業のよう。淡々と説明する先生と、つい、受け入れてしまう自分と。

     生まれ変わり? 輪廻転生?

     先生の話は、私が知覚できる範疇を超えている。

     禁忌。

     本来。私が知ってはいけないような話、なのではないか。

  • 581824/11/30(土) 16:32:36

     大の字になって床に顔面をこすり付けてるナツの表情はうかがい知れない。アイリも同じ。仮面を被っているワカモさんはハナからあてにしてない。
     ヨシミ。宇沢。
     ヨシミの表情は、ほとんどなく。
     さも、知った情報の復習を聞いているかのような。
    「”神秘と肉体のつながりを保存するのが、このタブレット。シッテムの箱。俗に言うならタグ付けってやつかな。とある神秘がスズミとして生きた情報を記録しているから、この世界にスズミの神秘が生まれ変わっていなかった場合、私はスズミを喚ぶことが出来る”」
     宇沢は。
     じいっと。話に耳を傾けている。
     けれど動揺はなく。ヨシミと同じく、知っている話であるのは、様子から見て取れる。
     だから私も話を冷静に聞くことができた。
     気持ちの悪い話だとしても。
    「”このアイリを見てどう思う?”」
     いまだぼんやりと立ち尽くす、わたしの親友の形をした何かを一瞥する。
     私は、深呼吸を一つ入れ。
    「人形。神秘が――魂が、入ってない」
    「”さすが”」
     にこりと微笑む先生の顔に唾の一つでも吐きかけてやりたい。
     そんなものを説明するために、私に親友の『人形』を見せたのか。
     ぞわりと。背筋に冷たいものが通る感覚。髪の毛が逆立つ。
     ただ、動きはしない。動けない。私の喉元には未だ、ワカモさんが銃剣を突きつけている。
    「”卒業。カズサたちにとって卒業っていうのは、いわゆる禅譲と一緒でさ”」
    「……禅譲?」
    「山海経の古い言葉です。他人にその位を譲り渡す、という意味ですよ、杏山カズサ」
    「”青春の終わり。主役の交代。青春時代の、禅譲。卒業というプロセスは、神秘を。青春時代を。神秘がまた新しい青春を送るために、神秘が肉体を禅譲する儀式なんだと、私ととある研究者は仮定した。どうやらこの神秘というやつは、『成長する』ということを楽しんでいるらしい、とね”」
    「研究者というのは、黒いスーツを着た方、ですね」
    「”あれ、知ってるんだ。レイサ”」
    「ええ、まあ。ちょっと」
     宇沢は言葉を濁した。

  • 591824/11/30(土) 16:36:41

     どうやらその神秘というやつは、たとえ私にもあるのだとしても。存外、わがままだ。
     一生続く青春があればいいなんて。きっと誰もが思うことで。それを、無理矢理。まるで、おままごとみたいに。次から次へと身体を乗り換えて、終わらない青春を楽しんでいる。
    「だから卒業をしていないアイリ達はそんな風になっちゃうってわけ? そしたら宇沢はどうなるの? 卒業してるんでしょ、宇沢は。それに、ワカモさんだって。人形みたいになってないとおかしいじゃん」
    「”二人とも卒業して一度キヴォトスから出ている。卒業は、この儀式は。神秘を抜くというのと同義。なんだけど……。正直、この辺りは当人に聞いてもわからない。ね、レイサ”」
    「……私は、卒業して。キヴォトスを出るあの飛行機に乗ってから、記憶がありません。気付いたら、キヴォトス行きの飛行機の座席に、座っていましたから」
     遠くにトラックが走る音が聞こえる。低く、唸るような音。
     ナツが一つ、咳をする。
    「ねえ、暴れないから膝どけてよぉ。息が止まりそうなんですけど~」
    「ダメです。あなたが一番信用ならない」
    「ぐぇー」
     いいから、と先生がスズミに言う。
     しぶしぶと言った体で、すこし身体をずらした。
     ナツは二回咳き込む。
     そして、私の目を見る。じいっと。
     左目のウインク。
    「”再びそのままの姿で戻ってくることがある生徒は、実際、神秘が抜けている。例えばそうだね。たぶん今、ワカモを喚ぼうとすると、百鬼夜行の別の子が現れるはず”」
    「……そう、なのですか? まさかあなた様は、私の知らないところでそのカードを……?」
    「”いや、これも仮説。ワカモと同じ神秘を持つ子は、今の百鬼夜行の1年生に居るんだよね。でも、ワカモはワカモとして、ここにいる。これが、神秘が抜けている証拠、なんだと思う。昔に比べたらワカモもだいぶおとなしくなった。レイサも、ちょっと悪いことをすることに抵抗はなくなってる。大人になった、と言えばそうなんだけど、これは、神秘由来の本質が薄まっているとも言い変えられる。……言ったよね。神秘は成長を楽しんでいる。成長、するんだよ。それが、アイリ達がいなくなってしまう理由。アイリ達の神秘は、今や、私が呼び出せないほど、今の肉体に固着してしまっているんだ”」

  • 601824/11/30(土) 16:38:39

    「なるほどね。クズノハの話は難しくてよくわかんなかったけど、先生の説明ならわかりやすいわ。膨張って言うのが、成長なわけね」
     胡坐をかいて、まるで学童のようにヨシミが言った。
     私の知らないこと。知らなかったこと。それらが、どんどん明るみに出てきている。それはアイリ達のことであり。私のことでもある。
     ただ。事実として。
     アイリ達がいなくなることは、変わらない。
    「『世界の例外制御』。ちょっと前に、そう言われたわ。膨張、いや。成長し続けた神秘と身体? 肉体? のバランスが崩れたとき、キヴォトスが大変なことになる。だからその前に――危なくなる前に、制御するような術が、この世界にはかけられているんだって。そのリミットが、たぶん、あとひと月とか、ないぐらい」
     それが。
     だったら!
    「先に卒業してりゃよかったじゃん! なにやってんのほんとに!」
    「だからさー。一緒に卒業したかったんだよ。カズサと一緒に。一緒に入学して、一緒に卒業する。始まりと終わりを、その間の青春を。一緒に過ごしたかったんだ」
    「この……バカ!!」
    「バカとはなんだー!? おー!? 脳筋のキャスパリーグにゃ私らのロマンは理解できないってかぁ!?」
    「できるかバカ! みんながいなくなっちゃったら意味ないじゃんつってんの! どうせアイリが言い出したんでしょ! ああもう、文句言わないと気が済まない!」
     喉元に突きつけられた銃剣を払いのける。手が切れるのもかまわずに。
     憤る私に気圧され……たわけではないだろうけれど、ため息交じりに、銃を弾かれたままにしたワカモさんの横を。ガスガスと。大股に。鼻息荒く通り過ぎる。
     手りゅう弾で穴の開いた壁。破れた扉。ちょっと前のシャーレと同じ光景。その外、廊下の壁際に転がるアイリの襟首を掴んで。
     トラックの音がする。遠くを走っているわけではない。近くを走るトラックの、重低音。割れたガラス片が振動する。
     廊下の、階段の向こうにしゃがみ込む、人影。
     スズミさんは夏の身体に膝を突き立てたまま、眉をひそめる。

  • 611824/11/30(土) 16:40:38

    「ああもうっ……みんなバカ! バカばっか! 一緒に卒業できないんだったら意味ないっつーの! ――だったら、今やるべきは、一緒に卒業する方法を考える! それだけ! 消えることばっか考えて、ほんとバカ! あんたたちが消えたら、私も消えてやるから! そのロマンとスイーツばっか詰まってる頭にねじ込んどけバーカ!」
     ガン、と。小さく。銃声が聞こえた。
     トラックの音はもはや、その銃声をかき消すぐらいの轟音になっている。
    「スナイパー!」 
     スズミさんが床に伏せ防御態勢を取った。
     と、同時にヨシミが動く。すぐさまスズミさんの顔を蹴り上げて、銃を踏みつける。
     ワカモさんが動き出すより早く、爆発音と、ガレージからエンジン音と、シャッターが壊れたような轟音。
     小規模な爆発じゃない。立ってられない。身体が傾いだ。
    「カズサ、アイリを外に投げて!」
     スズミさんが壁に空けた穴を指さした。
     同時に。
     とんでもない衝撃。身体じゃない。建物全体が傾ぐ。壁が、天井になっていく。
     踏ん張りの効かない室内で、先生を守るか、私を止めるか。
     「さ、させませ」
     ワカモさんの一瞬の迷いに、階段に隠れていた人影が、一気に躍り出る。
    「させませんはこっちのセリフ」
    「便利屋――!」
    「久しぶりだね、クソ狐」
    「やっほー☆ これも依頼だから、許してね~? せ・ん・せ?」

  • 62二次元好きの匿名さん24/11/30(土) 22:59:31

    その寿命を受けて先生が何をしようとしてるかだな

  • 63二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 03:48:18

    先生には先生なりに覚悟があった

  • 64二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 09:09:14

    ロマンとスイーツの詰まった頭ってなんかいいな

  • 651824/12/01(日) 09:53:51

    ナツさんが夏になってて草です

    なんだかわたくし、いいところがありませんわね……
    狭いところでちまちま戦うのは得意ではありませんわ

    今日は投稿できるかどうかグレーゾーンです
    年末ということで……ね、年末?
    今年があと1ヶ月で終わるって……先生……ワカモをたばかろうとしてもその手には……

  • 66二次元好きの匿名さん24/12/01(日) 17:22:41

    そ、そういえば、もう12月……なんてこったい
    去年の年末が先週くらいに思える

  • 67二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 00:01:08

    はやめのほ
    え、まだ秋が来てな……雪降ってる…

  • 68二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 05:47:21

    雪だったりみぞれだったり……
    動いてるのに寒いよー

  • 69二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 12:34:39

    時の流れは速い

  • 70二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 22:52:32

    もうあられが降ってくる時期か

  • 71二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 05:47:28

    >>61

    ここの最初の愚痴、お互いの言い分が理解できるからこそつい口に出したくなるのも分かる

  • 72二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 11:33:07

    追いついた!!
    ここの概念のSS……
    卒業生、生徒の親が存在しない理由に説得力あるし続きが気になりすぎる……
    それに便利屋ァァァ!良かった(なのか?)
    アルちゃん達は企業してるから大人と定義されているとかアルちゃんを拠り所に強固な塊になってるとかなんかな

  • 731824/12/03(火) 16:37:11

    すみません今日も投稿できません……!
    三日も空けてしまってすみません……!

  • 74二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 00:14:14

    年末は忙しいからねゆっくりでも続き楽しみにしてる

  • 75二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 05:56:13

    そーねー、気長に待ってますよ
    季節も一気に変わり始めていますし、お体にはお気をつけくださいませ

  • 76二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 14:50:19

    ゆっくりでええのよ

  • 771824/12/04(水) 16:29:04

     私が撃つのをためらったマシンガンという武器。を。
     平然とぶっ放し始めた小柄な女性は、崩れゆく建物をさらに細切れにしていく。
     襟首を掴んだアイリ。未だ意識無く。ぐったりと。
     衝撃。爆発は未だ続き、マシンガン。いきなり現れた2人の女性に援護されながら、宇沢やスケバンたちと一緒に穴から外に飛び降りる、ヨシミとナツ。
    「杏ォ山カズサァアア!」
     穴の向こう。鼓膜が破れそうな轟音を吹き飛ばすような、野太い叫びが聞こえ。
     声が聞こえた穴の向こうへ。
     私はアイリを放り投げた。先生の、ワカモさんの、スズミさんの頭上を。力なく、おとなしく、抵抗なく、投げられたアイリを。
     アケミがいるならとりあえず、いい。穴の先が奈落だろうとあいつなら必ず。どんなノーコンの暴投でも、必ず受け取る。肩にぴしりと痛みが走る。重いぞ、アイリ。
     ワカモさんとにらみ合う白と黒の女性は。けれど、突きつけているのはただのハンドガン。まともに撃つ気もなさそうな。けだるげな構えで。
    「ここはいいから。とりあえず行って」
     と、こちらを見ずに言う。
     ワカモさんは動かない。私も見ない。余裕がなさそうに。いつでも、目の前の白黒さんに飛び掛かれるような体勢をとったまま。
     会釈程度に頭を下げて、走る。
     この銃弾の、一方的な雨あられの中で、困ったように笑う先生に。先生に銃弾は、当たらない。
     目が合う。
     私は。
     先生に。
     あかんべと。
     舌を出した。

  • 781824/12/04(水) 16:30:16

     穴を飛び出す。数日ぶりのシャバの空気は、ここに来るよりももっと、冬の匂いが鼻につく。
     穴のすぐ下には、トラックのコンテナ。仁王立ちするアケミの小脇には抱えられたアイリ。スケバン二人を尻に敷いたヨシミと、宇沢を座布団にしたナツと。
    「あとは頼みますわよ、便利屋68!」
     ガン、とアケミが足を踏み鳴らすと、建物にめり込ませた車体がギギギと耳障りな音を出してバックする。慌てて這いつくばる。転んで落ちて置いて行かれる、なんて間抜けをしないように。
     建物は。通り沿いの壁のほとんどが崩れ落ち、さらに一階部分で続く爆発が、2階の床すら崩し始めていた。
     スズミさんがこちらに飛ぶような体勢を取った瞬間、足元のコンクリートが煙を上げる。
     舌打ちをして奥に下がるスズミさんは最後、こちらに。
     こちらを……宇沢に言うように。
    「また一緒にパトロールをしたいものですね!」
     と言って。
     何かがこちらに放られた。
    「フラッシュ――!」
     言われるまでも無く、私は頭を抱えた。
     パッと。目蓋の向こうが、強烈に明るくな――らない。ガン、と。また一発の銃声が聞こえ。
     なにも、起きなかった。
    「うそでしょ……。あれ撃ち抜いたの?」
     投げられた閃光弾の、しかも爆発を止める部分をピンポイントで?
     偶然だと言ってくれ。
    「ああいうチマっとした仕事が得意なのよ、アルちゃんは。さあ、とりあえず、中に入りましょう。これからのことを考え……。いえ。決めなければなりませんわ」
     唸るエンジン。急加速に身体が転がりそうになるのを、必死に踏ん張る。
     遠ざかる建物。粉塵を上げる建物。
     どんどん遠ざかっていく建物。

  • 791824/12/04(水) 16:32:32

     先生。
     スズミさん。
     ワカモさん。
     アイリ。ナツ。ヨシミ。
     アケミ。スケバン。
     神秘。肉体。禅譲。卒業。例外制御。クズノハさま。私たちの身体。外の世界。キヴォトスの秘密。わたし達。
     余命。
     私は大の字に仰向けに寝転がる。
     荒い運転が全身に伝わるも、路面は穏やか。空は青々と、高い秋の空。
     いわし雲。
     鳥の群れ。雁、だっけ。
    「杏山カズサ、中へ」
     コンテナ上部に銃で開けた穴を引っぺがしながら、アケミが中へと誘う。
     べりべりとめくられる鉄板。
     穴の中に放られる宇沢の叫び声。
     ナツ、ヨシミが、コンテナの中へ飛び降りる。宇沢の潰れる声。
    「んー……もうちょっとだけここにいるわ」
    「そう」
     寝たふりをしていたスケバンを足で小突いたアケミは、アイリと、もう一人のスケバンちゃんを担いで、中に飛び降りる。
     ドスン。重い衝撃。
     寝たふりスケバンも、私に気まずそうに頭を下げて、中にすごすごと降りる。
     ……。
     どうやら。
     事態は相当複雑らしい。
     カバンの中で絡まったイヤホンの線のごとく。
     それでも。
     断線していなければ、問題ない。

  • 80二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 23:14:40

    とりあえず逃げれたけど問題山積みだな

  • 81二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 08:20:58

    逃げることは出来たか

  • 821824/12/05(木) 16:33:37

    >>72

    この概念いいですわよね

    ブルアカ世界で15年が経ってたらもちろん卒業は発生するだろうって書いてたら、思いのほか壮大になってしまいましたが……

    アルちゃんたちは卒業……してる子と退学しそうな子がいる、気がするんですよね……。


    申し訳ありませんが本日は投稿の用意がありません……。

    逃亡生活の始まりですわ。

  • 83二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 00:16:43

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 03:18:54

    さてここからが正念場だ
    どう解決するのか

  • 85二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 11:40:51

    寿命とか考える時間が出来てカズサはどうするんだろう

  • 861824/12/06(金) 15:39:37

    うぐぐ……今日も投稿できません……
    うう……せっかく便利屋68出てきてるのに……

  • 87二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 17:19:18

    えぇんやで……読ませて貰ってる側は
    完結を強く望んでいるぅぅぅ!!

  • 88二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 23:48:25

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 09:52:18

    寿命……子供が考えるには重い話題だな……

  • 90二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 18:53:23

    >>89

    けど目の前に突きつけられてるんだから考えなきゃならない

  • 91二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 02:22:27

    やっぱ15年の壁は大きいな

  • 92二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 10:01:31

    30分道に迷っただけで友達が大人になっててあと1ヶ月で寿命ですなんてこんな理不尽無いよなぁ

  • 93二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 20:03:30

    寿命か...

  • 94二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 02:39:30

    求め始めればきりがないとはいえ、余りにも酷だね……

  • 95二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 11:56:08

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 20:39:40

    これ先生退学で神秘抜こうとしたのか?

  • 97二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 05:49:26

    先生には先生の、生徒には生徒の思惑がある

  • 98二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 07:01:15

    黙って寿命むかえさせるわけにはいかないよね

  • 991824/12/10(火) 16:21:57

    土下座案件ですね……
    すみません、明日には投稿できます……
    保守ありがとうございます;;

    いやあ……急にポンと15年いなくなると理不尽に塗れるよねそうだよね……
    そう考えると初代スレにあったタイムマシンで過去に戻れる概念も読みたくなってくる始末。

  • 100二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 23:22:45

    明日楽しみにしてます

  • 101二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 05:35:16

    青春時代の15年はあまりにも長い

  • 102二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 09:14:15

    このレスは削除されています

  • 1031824/12/11(水) 16:36:30

     一昼夜。
     せいぜいトイレ休憩。時折、車が変わり、先生対策で全員、スマホの電源は切らざるを得なかった。アケミは後で合流することを約束し、運転手ちゃんに指示をしたあと、早々に車から降りていった。私たちと行動しているとスマホが使えない。となれば、組織だった動きが出来なくなる。ならばいったん別行動、となるのは、当たり前のことだった。
     ここはゲヘナか。アビドスか。百鬼夜行かもしれないし、レッドウィンターかもしれない。
     実際どこかわからない。最初はトラック。次もトラック。次はバスで、今はバン。走る道も。交通量の多い道。少ない道。自治区が管理する大通りから、生活道路。暮れる陽。舗装路から時折揺れるようになり、今となってはほぼオフロード。建物よりも自然が目立つ。未舗装でありながら管理はされている。林道。
     ヘッドライトの明かりが点くような時間になって、周りに一本も街灯のない道を走っていることに気付かされた。
     あの時気絶したフリをしていた運転手ちゃんがずっとハンドルを握っているが、そろそろ、疲れが見えている。
     車が揺れるたびにスズミさんに撃たれた側頭部が痛む。軽く触ってみたら、コブ。
     スズミさん。
     私からしたら別に懐かしくもなんともないけれど、なんだか不思議な感覚。私の知っている人が、知っている形で目の前に現れたことだけなのに。私の足に頭を乗せて、眉間にしわを寄せながら眠る宇沢の顔を見る。
     こいつは、あの時どんなことを思ったんだろ。
     長い間車に乗っているけれど、だれも。ほぼ、話さなかった。はじめは調子の外れた話題を振って来たスケバンちゃんと運転手ちゃんだったけど、私たちの反応が悪いのを感じたのか。最後の方は運転手ちゃんの、運転に関する愚痴や独り言だけ。
     真っ暗い道。タイヤが砂利を噛む音。
    「あー……あれだ。着いたぁ。着きましたよ」
     ぐりん、とハンドルが切られて、車が停まる。ヘッドライトが消される。あたりは真っ暗――ではなく、建物に明かりが灯っている。
     玄関の明かりの下。
     一人の女性が、煙草をくわえて立っていた。
     あの人は……白黒の、あの人だ。ハンドガンを構えて、それだけでワカモさんを釘付けにした人。
     助手席に座っていたスケバンちゃんが車を降りる。

  • 104二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 22:09:51

    便利屋合流だな

  • 105二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 08:00:35

    便利屋たちか

  • 106二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 18:05:54

    なかなか味方となると頼もしい

  • 107二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 00:17:09

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 02:07:35

    数日前まで普通に見知っていた自分の知り合いが先生に喚ばれるのを見たら、不思議な気分にもなるわな

  • 109二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 12:10:25

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 22:04:44

    カヨコってタバコ似合うよね

  • 111二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 09:05:08

    >>110

    わかる、何故かオトナに雰囲気が節々にある

  • 112二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 12:47:54

    運転手ちゃん、スケバンちゃんもよく頑張った

  • 1131824/12/14(土) 15:33:15

     スケバンちゃんが白黒の人に駆け寄ると、その人は煙草を消し。スケバンちゃんと一言二言、言葉を交わす。
     戻ってきたスケバンちゃんは後部ドアを開け、私たちに言った。
    「数日ここに滞在させてもらいます。見ての通り周りに何もないんで、ご不便かけるとは思いますが」
    「ぜんぜん大丈夫だよ。運転ありがとね。ナツちゃん、着いたよー」
    「んが。――ふぁあ。あいあい~」
     大口を開けて寝ていたナツが目をこすりながらのそのそと外に出る。ぐいと伸びをすると、こちらにも聞こえるぐらい、骨が鳴った。
     同じく寝息を立てていた宇沢の身体をゆする。
    「宇沢」
    「んぅ……」
    「着いたって」
     2人掛かりで宇沢を車から降ろすと、もう自然の中には、冬の気配がある。張り詰めた空気。乾燥した空気。思わず身体を抱えたくなる寒さ。都市の匂いではない。海の匂いでもない。山の。夜の山のにおい。
     いやそれだけじゃない。ガソリンみたいな匂いもある。それと、やかましい、静寂を突き破るような、エンジンみたいな、機械の音。車じゃ……なさそうだ。
     風が吹く。
    「お疲れさま。災難だったね」
    「カヨコさん! 久しぶり!」
     ヨシミが、その白黒の人の名前を呼んで駆け寄り、そのまま手を握り、ぶんぶん振る。カヨコさんと呼ばれた人はされるがまま。ヨシミの肩越しに「みんなも久しぶり」とほほ笑んだ。
     残念ながらそのみんなに私は入っていない。というか、私は知らない。会ったことない。年齢からして、私ら世代の人なんだろうけど。
    「今朝は本当にありがとうございました」
     アイリが深々と頭を下げる。
    「なんだか巻き込んでしまったみたいですみません」
    「いいよ、仕事だし。アケミさんとこにはお世話になってるしね。……まあ、相手が先生だったっていうのは少し驚いたけど」
    「驚いたのは私たちもよ。ヴァルキューレに突き出そうなんて……」
    「その件に関しては、アルと一緒に話そう。先にお風呂入っちゃって。沸かしてあるからさ」
    「冷たい秋の月を見ながら入る露天風呂……オツですなぁ」
     ナツが何か小さいものを口元に傾けるような仕草をする。
     カヨコさんはため息をついて。
    「普通の室内風呂だよ。露天がいいならドラム缶でも持ってこようか? ここ、素っ裸で外出たって誰にも見られないし」

  • 1141824/12/14(土) 15:36:44

    「うぐぐ……まだ恥じらわせてくれぇ。花は見向きもしてくれないけどさぁ!」
    「三十路越えて何言ってんだか。で、そっちがカズサ? 初めまして。便利屋68っていう会社の、まあ、なんというか。……課長と言ったところで、未だになんの課長なんだかわかってないんだよね」
    「カヨコさんはね、私たちにシューゲイザーっていう音楽を教えてくれた人で、というか、音楽についていろいろ教えてくれた人なのよ。楽器とか、音作りとか、ほんといろいろ。頭が上がんない人の一人ね」
    「そう言うならCDの一枚ぐらいくれればいいのに」
    「お金がありませんので!」
    「同じ同じ」
     談笑するみんなには悪いけど、私は特に面白くない。助けてもらった恩は感じているけど、やっぱりこう、疎外感があるのが。
     煙たいような、鼻をつく匂いの元。
     私から見た、逆光の顔は……。
    「……目つき悪っ」
    「は?」
    「ちょっとカズサちゃん!」
     今朝がた、少しだけ見たときはチラとしか見えなかったけど。
     あれは別に戦ってるときだからというわけじゃないらしい。
     垂れ目のナツとはまたちがう。けだるげに開かれたまぶた。切れ長で、吊り上がった目じりが、ふたりの違い。暗色の唇。じゃらじゃらとついているアクセサリーが目立つ。それでいて全体的に黒い服自体には飾り気がなく。
     山には向かない恰好。
     ある意味。どこかアイリたちと似た雰囲気がある。
     ――バンドマン。
    「すみませんすみません! カズサちゃん。カヨコさんは顔は怖いけど、すっごくいい人だから!」
    「いや、ぜんぜんフォローになってないんだけど……」
     カヨコさんと呼ばれた人が頭を掻くと、ふわりと薫る。煙たいような、鼻をつく匂い。
     これが煙草の匂い。初めて嗅ぐ匂い。鼻につくけど、臭いとは思わなかった。
     あの場になぜいたのかはわからない。アケミのことだから、近くに護衛目的で置いていたんだろうなとは予想がつく。とはいえ、先生が襲撃してくるなんて、本当に想定できたのかは怪しいが。
     最低でも3人。この人と、一緒にいたマシンガンの人と、スナイパーの人。
     いや、ガレージからエンジンの音も聞こえた。あれがこの人たちの仲間だとすれば、4人か。

  • 1151824/12/14(土) 15:39:37

    「はぁ。別にいいよ。慣れてるしね。あんたの目つきも大概だと思うしさ」
    「……は?」
     カヨコさんは胸元から煙草の箱と、イヤホンコードを取り出した。
    「ハルカがそろそろ帰ってくるから、私はもうちょっと外にいるよ」
     100円ライターをいじりながら、カヨコさんはスマホの画面を点ける。
     誰も何も言わないので、私が言った。
    「……あの。先生は、スマホの通信を使って私たちの居場所を特定したんですけど」
    「ああ、先生なら出来るだろうね。心配しなくても、音楽を聴くだけだよ。それに、ここには電波は通ってない。圏外」
     ジャックからイヤホンを抜くと、激しめの音楽がカヨコさんのスマホから流れた。
     見た目通りの好み。
     いや、好みから見た目が出来ているのか。
     私を見て、カヨコさんが言う。
    「もう一つの心配事も大丈夫。あくまで『杏山カズサ』をかすがいにして仲良くなっただけ。別に奪ったりしないよ」
    「なっ」
    「なんだなんだカズサー。焼きもちか? いくらでもすりすりしてやるぞ? お?」
    「んなわけあるか!」
     手をわきわきさせながら近づいてくるナツを避けようとしても、宇沢に肩を貸している手前、あまり動けない。
     だからとりあえず足を出しておいた。
    「……じゃれ合うのはかまわないけど、中入りなよ。関節傷めてるなら、安静にした方がいいだろうし。中にアルとムツキが居るから」
    「そうね。じゃあ、すみません。お世話になります」
    「あ、あとそこのスケバンの子。車は裏に停めてもらっていい?」
    「了解っス!」
     玄関に入る前。
     背中越しに、ライターが擦られる音が聞こえた。

  • 116二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 23:04:33

    大人の余裕だね

  • 117二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 05:49:33

    落ち着いてんなぁ

  • 118二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 07:13:15

    このレスは削除されています

  • 119二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 07:14:23

    追い付けた!!
    あの神秘や卒業についての概念、すごい納得できる内容だった
    にしても宇沢達の神秘の成長...卒業はしてるから神秘は抜かれたはず...でも宇沢達の神秘は残り成長している...奇跡のように神秘が分割されたのだろうか?...ワカモを呼べは別の1年生の子が来る...しかしアイリなどは中身のない人形が召喚される...成長には神秘差があるのだろうか?...卒業も成長を抑え込むシステムのひとつなのだろうか...次々に謎が浮かんでくる良い概念だ
    そしてカヨコさん落ち着いた人だ

  • 120二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:20:43

    やはりカヨコにはタバコが似合う
    百円ライターなのがしっくり来る

  • 121二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:28:36

    アケミから依頼されるほどの立派なアウトローになったんだね

  • 122二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 09:22:43

    保守

  • 1231824/12/16(月) 16:28:50

    「あらためまして、本当にありがとうございました」
     アイリが頭を下げる。
     久しぶりのお風呂に身体と心がほかほかしていても、未だ身体を拭くことしかできない宇沢のことを思うと、心苦しくもある。
     当の宇沢はここ数日で慣れてしまったらしく、されるがままに素っ裸を恥ずかしがりもしなくなったけど。
     相手は足を組み。腕を組み。
     やたら絢爛な外套を肩に羽織って、どこか見下したような、冷たい顔つき。
     社長、だという。アルさん……というらしい。
     椅子に座っているのはアイリとアルさんだけ。「代表者だけ椅子に座りなさい」と言われたのはつまり、これからの話し合いにおいては、アイリとアルさんだけが裁定権を持つということ。アイリが席に着いたとき、少し不満そうな顔をしたように見えたが、初めて会う人の表情はわかりにくいので、口には出していない。
     私の側にはスイーツ部四人とスケバンちゃんたちが二人。宇沢は、こちらに向けられたソファのオットマンに足を乗せて参加している。
     向こうの側には、カヨコさんと、マシンガンの人と、下がり眉が特徴的なロングヘアの女性。予想通り。四人。
     マシンガンをぶっ放していた小柄な、同じぐらいの年齢だろうけど、年齢不詳な女性が。にやにやしながらこちらを――私を見ていた。
    「護衛対象を守るのは当たり前。だからあなたたちに頭を下げられたってしょうがないわ。アケミはまだ来ないの?」
    「姐さんも数日姿を隠す予定ですので……」
    「知ったこっちゃない。今すぐ呼び出しなさい」
    「すみませんが、スマホが使えない以上連絡のつけようがなく――」
     ガン、と耳をつんざくような音。硝煙の匂い。
     片手で撃たれたライフルの弾が壁に穴を開ける。
     スケバンちゃんたち二人は、白目を剥いてしまった。ヨシミとアイリも身を縮こまらせた。
    「だったら隠れ家でもなんでも虱潰しに当たってここに連れてきなさい。あの人を相手にひと悶着起こすなんて知ってたら、こんな仕事引き受けなかった」
     なんだこの人。
     確かに先生という、私からすれば絶対的な人に盾突いたのはマズいとは思う。
     でもなんというか。
     この人の怒り方は、いや、もともとこういう人なのかもしれないけど、ちょっと、怖いと思った。

  • 1241824/12/16(月) 16:32:03

    「まあまあ社長。どう考えてもイレギュラーだよ。いくらアケミさんだって、あの場に先生が来るなんて考えられたはずない」
    「そうだよアルちゃん。まあなんというか、最後の砦が壊れちゃった感あるけどー……。いよいよホンモノだねえ、わたしたち☆」
    「冗談じゃないわ。キヴォトスであの人を敵に回すのがどれだけマズいのか、カヨコならわかるでしょう」
    「ん……まあ、そうだね」
     カヨコさんは顎に手を当てて、難しそうな顔をした。もともとの目つきと相まって、とても険しく見える。
     ふわりと薫る煙草の匂い。同時に薫る香水の匂いと混じっても、不快には感じない。煙草に合う香水を選んでいるのかもしれない。それも、便利屋の人たち全員が。全員の匂いが混ざっても不快に感じない。
    「スマホの通信記録で場所特定されたって言ってたよね。シッテムの箱って私たちでも何が出来るのかわかってなかったけど。”奇跡”以外にも、こういう現実に根差した力を振るえるのなら……。まあ、まともに街場で活動はできなくなるかな」
    「これからずぅーっと私たちが何かするたびにワカモちゃんが来るかもしれないもんね。それはちょっとめんどくさいかなぁ。勝てなくはないだろうけどさー? あーあ、これからお仕事どうしよー」
     にやにやしながら、わざと私を見て。
     アルさんも大概だけど、この人も大概だ。自信があるというか。なんだか、とても嫌な気分になる。嘲笑されている気がする。
    「狙われていたのはSUGAR RUSHの皆さんです。便利屋の皆さんはきっとお咎めありませんよ」
     宇沢は口を挟んだ。
     しかし、アルさんは、凍てつくような目つきで宇沢を横目で睨む。
    「ハルカ」
    「はい」
     ハルカと呼ばれた下がり眉の女性が、持っていた紙を、宇沢に見せる。
     内容を見て宇沢の眉間にしわが寄り始めた。
    「護衛対象って私じゃないですか!」
    「はい。我々がアケミさんから受けた依頼は宇沢レイサさんの護衛です。SUGAR RUSHの皆さんの護衛ではありません」
    「ちょっと待ってください、もっかい。もっかい見せてっ」
     痛む腕を歯を食いしばりながら曲げて、契約書をまじまじと見る宇沢を尻目に。
     ヨシミが言う。
    「でも……先生は確かに私たちをヴァルキューレにって」
     ヨシミの言葉にハルカさんが答えた。
    「その件については社長がお話します」

  • 1251824/12/16(月) 16:34:25

     顔つきが気弱そうに見えるだけで、声も態度も、覇気がある。
     見た目と中身が違うタイプ。こういう人は、他にも何かが隠れている。若しくは、隠している。
     話を戻されたアルさんが、ことさら顎を上げ。まるでこちらを見下すような目つきで言った。
    「あの場にヴァルキューレは来なかったわ。たぶん、最初から呼んでもない」
     は?
    「は?」
     思っていたことが口に出た。
     それはみんなも一緒で、みんながみんな、訝し気な顔をしている。
     カヨコさんがアルさんの言葉に捕捉を入れた。
    「来たには来たよ。ただし、騒ぎを聞きつけて、って感じで」
    「派手にやったもんね。わ・ざ・と♡」
    「それで先生はどうしたと思う? 逃げたよ。ヴァルキューレに見つからないように。あの狐――ワカモに抱えられてね」
    「なんで逃げる必要があったんですか?」
    「知らないよ。でも、少なくとも先生は『呼んだはずのヴァルキューレに見つからないように逃げた』。だから最初から呼んでなかったって考えた方がすっきりする」

  • 126二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 23:18:12

    社長かっこいい

  • 127二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 06:02:12

    やっぱ先生が敵だと色々キツイなぁ

  • 128二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 15:10:33

    アケミはどこまで知ってるんだろ

  • 1291824/12/17(火) 15:43:17

     まるで伸びっぱなしの髪を耳に掛け、カヨコさんはアルさんの腰掛ける椅子の背もたれに肘を乗せた。アルさんは、少しだけ身体を傾げてカヨコさんの肘のスペースを作る。
     アルさんのよく手入れされたふわふわの桃色の髪は、彼女の身体を余計に大きく見せている。派手なファーのついた外套もそう。たしかに、暖房も焚かれていない室内は肌寒く感じるけれど、アルさんはたぶん、別の目的。派手な装飾がされた大きなライフルも。
     険しい顔をさらに険しくして。
     アルさんは言った。
    「『シャーレの宇沢レイサがヘルメット団に襲われて怪我をして動けないからしばらく護衛してほしい。一緒にSUGAR RUSHもいるけれど、あの子たちは戦力としては頼りないから』。私はその言葉を信じて契約を交わした。あなた、ヘルメット団みたいな雑魚に襲われたわけじゃないわよね」
     宇沢はきょとんとして。
    「ワカモさんにやられましたけど」
     宇沢の言葉を聞いてアルさんは舌打ちをして言った。
    「最初にそれを聞いてたらこんな仕事受けなかった。契約違反よ。この代償は高くつくわ」
     ぎろりと。
     白目を剥いていたスケバンちゃんたちを睨みつける。「ヒィ」と。情けない声が漏れる。
     可哀そうに。責められたところで、彼女たちにはなにも知らされていないだろうに。
    「だったらあの場で助けずに、そのまま放っておけばよかったじゃない。正直、こっちはこっちでいくらでも反撃のしようがあったわけだし!」
     少し腰が引けたような声でヨシミが言った。
     よく言うよ。完全に詰んでた。あの場は。それはヴァルキューレが来ないってわかっていればの話だ。こっちはこっちで、時間にも追いつめられていた。人形のようなアイリを出されて。隙を突かれた私たちは、完全に制圧されていた。
     それに答えたのはカヨコさん。
    「レイサの怪我がヘルメット団によるものじゃないって気付いたのはさっき。あの時は知らなかった。それだけだよ」
    「それだけって……。知らなかったとしても、そんな簡単に先生相手に事を構えられるの?」
    「構えるよ。便利屋68を舐めてもらっちゃ困る」
     カヨコさんの雰囲気が変わった。
     部屋の空気が、一段下がった。

  • 1301824/12/17(火) 15:45:43

    「依頼は絶対。受けたからには何があろうと必ず遂行する。それが便利屋68。たとえ相手が先生だろうが化け物だろうが関係ない。だからこそ、依頼人がアルを――私たちを騙したなら。報いは必ず受けさせる。ああ……そこの2人を使ってもいいね」
     ポケットから何気なく銃を取り出しただけ。しかも、私たちにとっては少し痛いぐらいで済むハンドガン。
     なのにカヨコさんが銃を持っているというだけで。なんだか背筋にイヤなものを感じる。モロに意識を向けられているスケバンちゃんたちは、私が感じる比ではない、だろう。
     漏らすんじゃないかというぐらい身体を震わせ、身を寄せ合っていた。
     でも、なんで。
     なんでアケミはそんな嘘をついたのだろう。
     先生もだ。
     ヴァルキューレが来るなんて。なんでわざわざ。
     ああもう、ただでさえこっちの情緒はめちゃくちゃだって言うのに。考えなきゃいけないことをこれ以上増やすな!
    「くふ。カヨコちゃんはとぉーっても怖いんだよ? こないだお仕置きした子なんか、最期ほとんど人の形してなかったし」
     わお。
    「ムツキだっていろいろ試してたじゃん。小さい爆弾食べさせてお腹で爆発させたらどうなるんだろうねーって言って」
    「意外とお腹って破れないものなんだねー」
    「でもすぐ虫の息になっちゃったし……。この子たちはもうちょっと長く楽しめるように、なんか別のことしてよ」
    「おっけー☆ あ、骨を削る音って直接身体に響くらしいし、指先からちょっとずつ削っていくとか? 割ったりもいいかも。ここ、いっぱい工具あるし!」
    「いいね。採用」
    「ヒィィイ!」
    「待った待った! ちょ、さすがにやりすぎ言い過ぎ!」
     えぐい。話が。
     みんなはこんなことしてる人に懐いてんの? ヤバすぎでしょ。系統が違う。アケミや、ワカモさんとは。
     ぶるぶる震えたまま動けないスケバンちゃんたちにゆっくりと近づこうとする便利屋のグロ担当二人の前に私は立ちふさがる。カヨコさんの、静かな笑み。ムツキと呼ばれた人の、狂気じみた笑顔。それらの前に立つと。
     怖っ。
    「邪魔なんだけどー。カズサちゃんだっけ? 若ーい女の子がいやなこと、いくらでも知ってるよ? ちょっとだけ試してみる?」

  • 1311824/12/17(火) 15:48:19

    「あはは……遠慮しときます……。ヨシミ、ヨシミ!」
    「わ、私に振らないでよ」
     ビビんな! ばか!
    「アイリ!」
    「あの……カヨコさん。あんまり暴力とかは……」
    「なに?」
    「アッ……イエ ナンデモナイ デス……」
     カヨコさんのひと睨みで目を逸らすアイリは、もう私も見てくれない。
     あんたもか!
     じりじりと距離を詰められ、にこにこ顔のムツキさんが私の顎をすりすりと撫で「どいて?」と。言う。かわいく、ねだるように。
    「ナ、ナツ……」
     だからこそ怖い。年齢も、これだけ近づいてもわからない。もしかすると同世代じゃないのかも。
     最後の頼みの綱。
     ずっとぽやっと突っ立っているナツは、大きくため息を吐いた。
    「いくらカヨコさんたちが強いからって、数の暴力には勝てないと小生、思うわけだがー」
     ぎぃ、と。音が聞こえるぐらい。
     ムツキさんの唇が吊り上がる。目も。
     瞳孔は小さくなり。狂気じみた顔。
    「有象無象がいくら束になったところで、アルちゃんの敵じゃないよ? 一人でぜーんぶ片付けちゃうんだから。私ら世代の風紀委員長すら従えたアルちゃんなら、それぐらいどうってことないもん」
    「私なら『便利屋の人たちがやべーぐらい怒ってる』ってアケミさんに伝えさせるけどなー。さすがのアケミさんも、子分がおしっこ漏らしながらそんなこと言って来たら、めっちゃ真剣に受け取るだろうしー」
     ナツはそう言いながら、ちらりと目の前のムツキさんから目を逸らした。
     目線の先には、アルさん。
     腕を組み、足を組んだままのアルさんは。
     スケバンちゃんたちを一瞥し。
    「行きなさい」
     と吐き捨てるように言った。

  • 1321824/12/17(火) 15:52:47

     それを合図に。転げる勢いで外に出たスケバンちゃんたち。
     少しの間を置いて。外の車にエンジンがかかる音とふかされる音。
    「きゃははっ。パーキング入れっぱなしー!」
     ムツキさんがけらけら笑うと、とんでもない勢いで車が砂利を噛む音が聞こえた。
     窓の外を、ヘッドライトの明かりが通り過ぎていく。
     音が聞こえなくなるまで、1分もかからなかったと思う。
     少しの間。
     アルさんが、ずりずりと椅子から尻を落としていく。
    「ぶはぁ~……」
    「お疲れさまです、アルさm……アル」
     スケバンちゃんたちじゃないけど、同じように白目を剥きかけたアルさんは。外套が。椅子に引っかかって、その、なんというか。
     だらしない恰好に。
    「くふふ~。お疲れアルちゃん。かっこよかったよぉ?」
    「ふぅ……。まあ、これだけやれば大丈夫でしょ。お疲れ、社長」
     便利屋の人たちが、アルさんにねぎらいの言葉を掛ける。 
     スイーツ部のみんなもきょとんとしている。いや、ナツだけは、いつも通りぽやっとしたままだけど。あ、宇沢は、こめかみを押さえてなんか難しそうな顔をしている。
    「ていうかムツキ、人を拷問大好き女にしないでくれない? そういうのはムツキ担当でしょ」
    「ごめーん☆ ハルカちゃんでもいいなーって思ったんだけどさー」
    「わ、私ですか? 私はそんな……あ、いえ、血とか内臓とか出てくる映画は好きですけど……ふへへ」
    「私も文句あるわよムツキ! ああいう掘ればバレるような嘘は止めて!」
    「えー? 死人に口なしじゃーん」
    「死人じゃないから! 先生がヒナ呼んだら終わりよ終わり!」
     冷たい目つきで、容赦がなさそうなアルさんは。滑り落ち尽くして、地べたにへたりこんで。ずり落ちたせいで革のスカートからはみ出たブラウス。外套がなくなって、小さくなった身体。見た目。
     やっぱり。あの外套は、身体を大きく見せるためのものだった。
     ぱん、と音がして。
     ナツとムツキさんが、なぜかハイタッチをしていた。
    「ナっちゃんナイス―! さすがシュガラ1の頭脳派ー!」
    「その時その時の気温、湿度によってスイーツの作り方は変わるのだよ。最高のパティシエとは最高のアドリブを楽しむ、いわば」
    「なにいってるかわかんなーい! あはっ☆」

  • 133二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 22:32:02

    アルちゃんどう話終わらせるか焦ってたんだな

  • 134二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 06:05:51

    アルちゃん笑

  • 135二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 16:48:08

    何年経ってもこういう所は変わらないねw

  • 136二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 22:20:16

    当時の正実トップを失禁させた怪猫キャスパリーグと風紀委員長すら従えた便利屋68社長陸八魔アルが揃うとは最強だなw

  • 137二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 08:39:03

    良かったぁいつものアルちゃんだった

  • 138二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 18:58:01

    なんというか微笑ましいな

  • 139二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 23:56:17

    保守

  • 140二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 08:10:00

    スケバンの子達、次会う時どうなってるかな

  • 141二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 08:15:42

    内心いつもの顔とBGMしてアルちゃん

  • 142二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 19:26:58

    さすが孤高で冷徹なアウトロー()

  • 143二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 06:28:28

    保守

  • 144二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 18:11:10

    保守

  • 145二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 00:28:43

    拷問大好き女は草

  • 146二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 10:53:29

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 16:03:46

  • 148二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 21:00:58

    ほし

  • 149二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 02:10:00

  • 150二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 06:31:37

    なんも考えてないようでなんか考えてるナツ好き

  • 1511824/12/23(月) 15:19:56

    「そんなことだろうとは思いましたよ……」
     ゆっくりゆっくり。刺激を与えないように腕を下ろした宇沢が言う。契約書はハルカさんが回収し。ファイルに綴じられた。
     そして、少し。諫めるように。呆れたように。
    「あんまり子供を脅すものじゃありませんよ」
    「ごめんごめん」
     宇沢の隣にそっと腰を下ろしたカヨコさんは、宇沢の肩に腕を回した。
    「でもさ、レイサ。契約違反は本当でしょ? その分の上乗せはできるだけ多く貰わなきゃ、私たちもやっていけないんだよ」
    「私の目線では、あの契約書がホンモノかわかりませんから」
    「ちぇ。相変わらずお堅いね。あんたはシャーレに入ってから変わっちゃったよ」
    「学生時代に接点ないじゃないですか私たち……」
    「間違いない」
     ニッと唇を吊り上げたカヨコさんは、アルさんのように足を組み。指を組み。
     それがとても様になっていて。
     ベルボトムのジーンズとハイカットのブーツ。
     ぼそりと宇沢がつぶやく。「煙草くさい」って。でも、カヨコさんは何も気にせず。
    「ナツもさんきゅ。あんま長くガチモードやってると、うちの社長いっぱいいっぱいになっちゃって」
    「余計な事言わない!」
    「もーまんたい。聞きたいことは山ほどあるけどねー」
    「答えられることならなんでも。うちの社長から答えさせるよ」
    「はぁ!?」
    「ならばこちらも。聞きたいことはアイリが全部聞いてくれよう」
    「なんでぇ!?」
     ナツはカヨコさんと同じようににたにた笑っている。
     なるほどね。
     力関係がなんとなくわかるというか。
     便利屋の中核はこの2人。それも、意思決定権は実質カヨコさん持ち。
     ……なんて。
     ナツがなんだか遠い。いや、ずっと遠くはあるけど。
     なに言ってるかわかんないことが多かったナツ。自分のことを『宮廷道化師』と言ったけれど、あれは。頭と世渡りが上手くないと務まらない。逆鱗に触れず。真理を突かず。相手を答えに導く。そういう役目。

  • 1521824/12/23(月) 15:23:12

     この場合の答えは。
    「じゃあ、あの。なんで……。なんで、あの2人を追い出したんですか?」
     ナツは腕を組む。
     どうだ、と言わんばかりに。
     追い出した?
     あれ、追い出すためにやってたのと。私は、アイリが口に出して初めてわかった。
     アルさんは”ああ、そんなことなら”みたいな軽い調子で話す。
    「簡単な話ね」
     のっそりとハルカさんの手を借りて立ち上がったアルさんは、自ら、簡易ではあるけれど一通りは用意されているカウンターキッチンに立ち。
    「最も信用ならないのはアケミだから。うち、コーヒーしかないけどそれでいいかしら」
    「――え?」
    「紅茶なんかないわよ。トリニティのお嬢様たちには申し訳ないけれどね」
    「棚の奥に緑茶なかったー?」
    「え? ……あ、あるわね。これいつの? って、賞味期限2年過ぎてるじゃない! 捨てなさいよ知ってるなら!」
    「えー。そういうのって賞味期限ないようなもんじゃーん。このアジト来たのも数か月ぶりだしー」
    「お客さまに出すわけにはいかないでしょこんなの!」
     桃色の髪の奥の金色の瞳になんの意図も見えない。
     ただ、そういう風に。
     ことも何気に言って。
     さすがの宇沢も。先ほど、痛みを考えずに契約書を見たときのように。動揺を隠さなかった。
    「そ、それは交わされた契約が反故にされたということで、ですよね?」
    「違うわよ」
    「どういうこと、ですか……?」
     電気ケトルが音を立てる。さらさらとマグに粉コーヒーが落ちる音。
     手元を見ながらさらりと耳から落ちる髪を角に掛け。
    「私たちにとってアケミはあくまでビジネスパートナー。一定の線の向こう側の存在。あんまり邪魔はしないようにしていたんだけどね。今回は別。線が交わって、私たちの側にはみ出してきたから、こちらも遠慮はしないわ」
     と言う。
     遊んでいる? たばかっている?
    「シュガラとレイサはわかんなくてもしょうがない。餌を与えられている間って、相手を妄信的に信じるからね。子猫と一緒で」

  • 1531824/12/23(月) 15:25:27

     だめだ。カヨコさんとアルさんの表情は、私には読めない。でもナツもなにも言わずに。ぽやっとした顔じゃなくて。少し眉間にしわを寄せて話を聞いている。2人はわからなくてもナツはわかる。年を取っても変わらない。普段ちゃらけているナツが、相手の話を。きちんと、頭に入れている。
    「言ってはなんですが、私はアケミさんたちの行為に目を瞑るという条件で、お互い協力関係を築けていたと……思うのですが」
    「アケミが? レイサの力を借りる? あははっ。アケミほど内と外の境界がハッキリしている奴はいないよ。それに、大抵のことはなんでもできるでしょ、アイツなら」
     私が思っていたことを。アケミに対して感じていたことを、スケバンでもないカヨコさんがズバリと言い当てたことに驚きつつも。
     だからこそ、わたしは口を挟んだ。
    「あいつは一度内に入れた人間を裏切るような奴じゃない」
     裏切る。
     そんなことはない。あってはならない。
     だって、話を聞けば。
     もう何年も、スイーツ部のみんなや宇沢は、アケミと懇意にしてきたはずなのだから。
     そう。先生と同じ。
     ――同じ。
     するりと。ゴシック調の、ともすればコスプレみたいな衣装が嘘みたいに似合っているムツキさんが、その嘲笑したような表情で、私に言う。
    「内に入ってたんだ~?」
     ぞわりと。
     いやきっと。私より、みんなのほうが。
     背筋に氷が入ったような言葉を。
     ほんと、心の底から、楽し気に。ムツキさんが言う。
    「レイ、サちゃん……?」
     アイリが縋るような顔をする。したって意味ないのに。
     シュガラのテロライブの扇動、護衛。プロモーション。機材の手配から身の周りの世話。
     その裏で御法度の酒類の輸入に密売。不動産業への介入。
     それから私の、捜索。
     ただ1つ。ただ1グループ。15年間、熱量の変わらない捜索を続けてくれた一団。
     その橋渡しをしていたのは、間違いなく宇沢。
     顔面蒼白で。わなわなと唇を震わせ。
    「売られた……とでも言いたいんですか。信じる人を間違えたと」
     ごぽごぽとケトルが鳴る。
     カウンターキッチンに手を付いていたアルさんがカップにお湯を淹れると、ふわりと。安っぽいコーヒーの香りが立ちのぼり。

  • 1541824/12/23(月) 15:28:52

    「いいえ。お味方なのは間違いありません。でなければ今朝、みなさまを助けるような真似はしなかったと思います。どうぞ」
     にたり、と言えるような笑顔で渡されたマグカップ。
     わざとらしい泡の浮く、濁った液体から立ちのぼるいい香り。
     味はひどいものであると想像がつくのに。
     便利屋の人たちが何を言いたいのか理解できない。今はなされているのは、すべて想像の産物であるはず。
     と考えたところで。
     それはアケミたちにも言えること。
     みんなにとっては時間と言う信頼に足る絆があるにしても。私にはない。信頼と言う絆すら、貫き通せば真になる。
    「そうよね……。あそこでほっとけば、私たちは終わってた……のかしら? ヴァルキューレが来なかったっていうのは、ちょっと気にかかるけど」
     アケミなら。アイツなら。
     もし、みんなが内に入っていないのだとすれば。
     アケミはなにをしようとしている?
     それがわかれば……。
    「……あ」
     この世界で、アケミと初めて再会した日。バカみたいな筋トレをさせられたあの夜。
     私が考えたこと。
     ”アケミはアケミで、準備期間を放棄したスケバンたちが生き延びることができる場所を、作りたかったのかもしれない。”
     ”私はスケバンの凋落を目の当たりにしていたとき、アイリたちの、日の当たる場所でのきらめきに心を奪われ、スケバンを辞めた。”
     仮定に仮定。憶測の推測。
     もしそれが本当なのだとしたら。
     はじめからそれだけが目的なのだとすれば。
    「自治区を……作ろうとしている……?」
     わたしのつぶやきに。
     マグカップを持った手の人差し指を、私に向けたアルさんは「正解」と言って、一口、コーヒーをすすった。
     ざわ、と。
     アイリも、ヨシミも、ナツも、宇沢も。
     便利屋の人は変わらない。
     まるで最初から知ってたと言わんばかりに。
    「自治区って……そんな簡単に作れるものじゃないわよ」

  • 1551824/12/23(月) 15:32:09

     ヨシミが言う。現実味のない話。
     キヴォトスでずっと生きてきたのだからわかるのだろう。その無謀さが。
     学園は国と言って差し支えないこのキヴォトスで。
     自治区を――学校を立ち上げるということの無謀さが。
    「簡単じゃない……けど、不可能じゃない。連邦生徒会に顔が利き、企業にも強い影響力を持って、街場の人間相手に広く認知度と好意的感情を一手に集める”S.C.H.A.L.E”が味方に付けばね」
     マグカップで指先を温めるようにしていたカヨコさんは、立ち上がり。
     身に着けていたアクセサリーが小さく音を立てる。
    「アケミはね、レイサ。あなたを”S.C.H.A.L.E”のトップに――”先生”に据えようとしているわ。今の先生をその座から引きずり落す形で」
    「そんなの……ク、クーデターじゃない……!」
    「私たちは普段、ブラマを根城にしててさ。あそこほど金の流れがわかる場所もない……。もう、土地は準備が出来ている。それこそ私たちが気付いたころだから……もう何年も前の話。あと必要なのは許可を下す人間だけ。それが――」
    「わ、私……? 私が、”先生”に……? じゃ、じゃあ、そんなの……何年も前って……」
    「私たちはアケミにも恩があるけれど、先生にも恩があるの。アケミが依頼主だとしても。私たちの主義に合わなければ仕事は下りる。依頼主にすら噛みつく。一応、それなりの理由を持って、私たちはアケミに噛みつこうとしている。――ふふ。それに、あなたたちは、あなたたちには、そんなことどうでもいいのでしょう? こんなどろどろした政治劇なんか、どうでも」
    「たしかに。死ぬほど興味ないねえ。もうすぐ死んじゃう身が言うのも変だけどぉ」
     

  • 156二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 22:46:53

    SUGARRUSHによそ見をしている暇はない

スレッドは12/24 10:46頃に落ちます

オススメ

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