- 1二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 16:36:32
- 2124/11/22(金) 16:37:06
・ほぼ捏造
・名無しモブしか出てきません
・時系列に矛盾あるかも
・ハッピーエンドではない
・スレ主はスレ立て初心者 - 3124/11/22(金) 16:40:14
1.海軍G-■■支部基地 訓練場にて 一等兵
はい、大尉は私の上司でした。
あの人は、どう言ったらいいのでしょうか、良い意味で海兵らしくない海兵でした。
威厳や迫力は全くと言っていいほどありませんでしたが、いつも礼儀正しく快活で私のような下っ端とも同じ目線で話してくれました。上下関係に厳しい上層部からは苦い顔をされていましたが大尉自身は気にしていないようでした。
若くして本部の大尉という地位にまでなったのにそれを鼻にかけることなく誰にでも優しく接し、しかし戦場に出れば先陣を切って果敢に戦い何よりも市民の安全を第一に行動する。
彼は私の目標でした。
まあ……確かに少々お人好しで、そのくせ不器用で、ちょっとだけ……いや、かなり抜けているところはありましたが。彼の補佐の中尉がそれに手を焼いている様子もしょっちゅう目にしましたが。
同じ「正義」を背負う海軍将校でも、安全圏でふんぞり返って指示を出しているだけの上層部とは正反対です。あの人の海賊に立ち向かう背中に、傷ついても立ち上がる粘り強さに、私は何度勇気を貰ったことでしょうか。
私だけではありません。
彼の下についていた海兵はいつもあの人の姿に背中を押されていたんです。
彼のような人物こそ真に海軍に必要な存在だと思っていました。 - 4二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 16:41:45
面白そう!期待
- 5124/11/22(金) 16:42:03
朝礼であの人の訃報を聞いたときは衝撃で目の間が真っ暗になるようでした。
聞けば、海兵に恨みを持つ海賊に騙し討ちに遭い、子どもを守って殉職したと。犯人はもう捕縛され、別の部隊によってインペルダウンに連行されたそうです。遺品もすでに遠くの親族のもとへ送られました。
大尉を殺したのがどこの何者かは伝えられませんでした。
きっと懸賞金もかかっていないほどくだらない野郎なのでしょう。
そんな奴に大尉を殺されたと思うと、悔やんでも悔やみきれません。
あの人はこんな所で倒れるべき人じゃない。これから先も何人もの命を救い、市民を守るはずだったのに。
本当に惜しい人を亡くしました。
犯人が今も檻の中でのうのうと生きているのかと思うと、はらわたが煮えくり返るような気分です。
そいつが例えどんな恨みや事情を抱えていたとしても、大尉を殺した犯人を私は絶対に許しません。 - 6二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 16:59:51
このレスは削除されています
- 7二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 17:01:21
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- 8二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 17:10:47
とりあえず待機
面白そうだ - 9二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 17:13:13
- 10124/11/22(金) 17:18:04
2.とある港町にて 町の老人
この町出身で海兵になった人……というと、角の食堂の息子さんかな?
懐かしいのう。あの子のことなら小さい頃からよーく知っとるぞ。
大きくなったら海兵になりたいと口ぐせのように言って、毎朝この通りを走ってたんじゃよ。
真面目で優しい、正義感の強い子じゃった。
彼の何が偉いって、ふつうは小さい頃の夢って変わるものじゃろう?
現実を知って諦めたり、自分より才能のある人に出会って挫折してしまったりと。
わしだって昔は世界中を旅する冒険家になって財宝を見つけて愉快に暮らしたいとか思ってたが、今となっちゃこんなどこにでもいるような道具屋のジジイじゃよ。
おっと、話が逸れてしまったな。
歳を取ると自分のことばかり喋るようになっていかんのう。
あの子はな、海兵になるっていう夢をずっと諦めなかったんじゃよ。
毎朝走るのも、チビっ子の一時の気まぐれではなくて本当に毎日毎日、それこそ国を出るまで続けていたのじゃ。
小さい子の他愛もない夢だと思って微笑ましく見守っていた皆も、それが何年も続けば本気だと察するようになる。気づいたらこの近所の連中はみんなあの子の夢を応援しておった。 - 11二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 17:18:35
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- 12124/11/22(金) 17:19:05
彼がこの国を出ていったのは……3年……いや、ありゃあ雨が降った年じゃから2年前のことじゃな。
反乱軍のバカ息子どもが帰ってきて少し経った後、入れ替わるように海軍の船に乗って行ったんじゃよ。
いいや、あの子自身は反乱軍には入っていなかったぞ。国が荒れて危険じゃから子どもたちを保護したいと言っておった。
だから彼は戦場には行かなかったんじゃが、それでも巻き込まれて怪我をしてしまっての。
怪我のせいかしばらくの間は元気がなかったが、それでも治ったらすぐに町の復旧を頑張っておった。海兵になる夢も諦めんで、本当に偉い子じゃよ。
まったくウチのバカ息子にも少しは見倣ってほしいもんじゃ。
今は何をしてるんか気になるな。海軍には入れたかのう?
元気にしてるといいんじゃが。
最近大きな事件が多いじゃろう? 年寄りには堪えることばかりじゃよ。 - 13二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 17:19:46
- 14124/11/22(金) 17:51:53
3.とある寂れた村にて 少年
知ってるよ。このお兄さん、悪い人なんでしょ?
だから、ぼくお父さんと協力してこの人をやっつけたんだ。
ぼくのお母さんがね、ちょっと前に病気になっちゃったんだ。
むずかしい病気だから村のお医者さんではなおせないんだって。夜も眠れないくらい苦しそうだから1日でも早くなおしてあげたいのに。
病気をなおすためには遠くの国のめずらしい薬がいるらしいんだけど、それを買うためにお父さんは最近ムリばっかりしてるの。
疲れてるはずなのにごはんを食べないし、家に帰ってくる時間もどんどん遅くなってるし。ぼく、お母さんには早くよくなってほしいけどお父さんがそんなふうにムリしてるのも嫌だった。
だからぼくも、毎朝ゴミを拾って食べものや燃やせそうなものを探したり、道においてある缶に入ってるお金を拾ったり、精いっぱいがんばったんだよ。
たまに怖いおじさんに殴られそうになるときもあるけど、それくらいなんてことないよ。
きっとぼくよりお父さんとお母さんの方がずっと辛い思いをしてるんだから。 - 15124/11/22(金) 17:52:59
そうしてたらお父さんに言われたんだ。
海兵のふりをした悪い人をつかまえればお金がもらえるから、お母さんの薬を買ってまた楽しく暮らせるようになるって。
ぼくはお父さんに言われたとおり、路地裏に隠れて大声で泣きまねをしたんだよ。
そしたらこのお兄さんがひとりで来たから、そこをお父さんが後ろからやっつけちゃったんだ!
そいつが倒れたところでお父さんが「家に帰ってなさい」って言うからその通りにしたんだ。だからその後はよくわかんない。
お父さんもあれから家に帰ってこない。
どうしたんだろう。
悪い人をやっつけたんだから、また三人で暮らせると思ったのに。 - 16二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 18:04:46
アラバスタ出身か…?
- 17二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 18:08:00
情報がジワジワ分かっていく感じおもしろいな
先の展開が気になる - 18二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 18:22:52
このレスは削除されています
- 19二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 18:31:37
- 20二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 18:39:33
基本誠実な海軍でもネズミみたいな汚職に手染めてる例外もいるしな
この海兵がそういう支部にいたってだけで済む話だし「っぽい」なんてそもそも曖昧な言葉だからスレ主は気にしなくて大丈夫
合わないスレは何も書かず離れれば良いだけ - 21二次元好きの匿名さん24/11/22(金) 18:40:08
少年これ本当のこと知った時辛いな
- 22124/11/22(金) 18:44:21
4.とある港町にて 食堂の女将
……ええ、ええ。聞きましたよ。先日、海軍から電伝虫がありましたから。
息子は亡くなったのですね。
最後に話したのはいつだったかしら。
ついに大尉になれたんだと、電伝虫越しでも分かる本当に嬉しそうな声で話すのを聞きましたが、まさかあれが最後の会話になるなんて。まだ信じられない。
海軍の方からは、海賊から子どもを守っての名誉の戦死だと聞きました。
名誉と言っていただけるんならあの子も少しは報われるんじゃないかしら。
そうであってほしいもんです。そうであってくれないと。
海兵になるのは息子の昔からの夢でした。
悪い海賊から皆を守りたいんだと言って、暇さえあれば体を鍛えたり航海や武器の本を呼んだりしていました。
我が子ながらその情熱はどこから来るんだと疑問に思いましたね。私も主人も海軍に関わったことなんてないただのコックだし、海兵になれとも一度も言ったことがありませんし。
近所の人には息子は小さい頃から正義感の強い子だと思われていますが、もっと昔はそうじゃなかったんですよ。
泣き虫で気が弱くて、いつも親の後ろに隠れているような子でした。
やっぱりあの日、何かあったんでしょうか。 - 23124/11/22(金) 18:45:34
16年前のことです。
首都アルバーナで大きな市が開かれて外の国の珍しい食材が揃うということなので、私と主人は隣の香水店のご家族に2日間息子を頼んで首都へと行きました。
ご近所さんは家族も同然の信頼のおける方々だし、息子は当時まだ6つだったので砂漠を越えるのは大変だろうと思ったんです。
今思えば、無理をしてでも連れて行けばよかったかもしれません。
私と主人が不在の間に町が海賊の襲撃を受けたそうです。
息子もお隣の家族も無事だったのが不幸中の幸いですが、家や町は半壊していました。
後から聞いたところによると、息子と隣の娘さんがちょうど港の方で遊んでいるときに襲撃が起こってしまったそうです。
子ども二人で海賊に襲われるなんて、どんなに怖かったことでしょうか。
その次の日からでした。あの子が海兵になりたいと言い出したのは。
私は我が子を置いていってしまった負い目もあり理由を詳しく聞けませんでしたが、きっと海軍の方に助けてもらったのでしょう。
それ以来息子は本気で海兵を目指すようになったのですから、よほど強く印象に残ったに違いありません。
……あの子が言っていた言葉、正確には「海兵になりたい」じゃなくて
「海賊を倒して皆を守れるように、強くなりたい」だったかしら。 - 24124/11/22(金) 21:00:23
5.海軍G-■■支部 留置所にて 罪人
彼について、ですか。
すみません、ごめんなさい、償っても償いきれないことをしたとはわかっています。
どうか、どうか妻と息子だけは。
……すみません。分かりました、全て話します。
私は借りた土地で野菜を育てて、それを売って幾ばくかの小銭を得て細々と暮らしていました。
妻は家で針子として働き、息子は私の手伝いをしてやっとその日の食べ物にありつけるような生活でした。
しかし、妻が病気に罹ったのです。
元々私と妻の共働きでなんとか糊口をしのぐような暮らしをしていたものですから、当然稼ぎは減って生活は苦しくなりました。水しか口にできない日々が続きました。
何より、床に伏せる妻に薬どころかまともな食事すら食べさせてやれないのが辛かったのです。
誰にも頼れませんでした。
隣人も皆私たちと同じような、いやもっと苦しい生活をしているのは知っていました。
老いた両親の面倒を見ているふたりきりで見ている若い兄妹や、旦那を亡くして昼も夜も泣いている身重の未亡人にどう頼れというのですか。
金持ちの連中にすがったところで蹴り飛ばされるのが精々です。彼らは所詮私たちのことを家畜か虫としか思っていませんから。
そんな時でした。
息子がクロスギルドのビラを拾ってきたのは。 - 25124/11/22(金) 21:01:03
彼らが海賊だとは分かっています。
しかし、私たちは藁にもすがりたいほどに困窮していました。
彼らが提示する報酬はあまりに魅力的で、しかも相手が何者であれ必ず支払ってくれるというのです。
妻の病状は日に日に悪くなるばかりです。
このまま一家揃って飢えと病で死ぬのなら、海軍に謀反人として罰されて死ぬのも同じこと。
私は悪魔に魂を売る決断をしました。
息子に路地裏で大声を出させ、様子を見に来たあの海兵の頭を私がレンガで殴りつけました。そして息子を帰したあと、彼を動かなくなるまで殴り、首を絞めました。
……あなたに分かりますか。帰ったら病床の妻が首をくくろうとしていた時の私の気持ちが。
息子が腹をふくれさせようと泥水をすする姿を見た私の気持ちが。
あの海兵のことは気の毒ですが、私は私のしたことを悪いとは思いません。
私のことは死罪にでも縛り首にでもすればいいでしょうが、どうか、どうか妻と息子は、助けてください。
お願いです。 - 26124/11/22(金) 21:47:07
6.とある港町にて 香水店の娘
いらっしゃいませえ。……ってあれ、お客さんじゃない? 隣の息子について?
ああ……あいつ、亡くなったみたいね。隣のおばさんが泣いてたの見たよ。……ご愁傷さまです。
まあ家も隣同士だし、そりゃあいつのことは昔からよく知ってるよ。
言っとくけど断じてそういう関係じゃなかったけどね? あんな海兵になることしか考えてないバカ、ただのお隣さんってだけよ。
あいつが海兵を目指すようになったきっかけ、ねえ。たぶんアレじゃないかしら。
ほら、海賊に襲われたとき。
私も小さかったからあんまりはっきりとは覚えてないけどね。
あの時は隣のおじさんとおばさんが市場に行くとかで、あいつが私の家に預けられてたのよ。
それで……、昼間はヒマだったから、私が両親に内緒で港の方に行こうって誘ったのよ。あいつはやめとこうって言ってたのを私がむりやり引っ張って。
そこで、海賊に襲われたの。
……怖かった。乱暴に家もお店も踏み荒らして、刃物をつきつけて大声を出してくるんだもの。
私は怖くて足がすくんで動けなくなってたところを、あいつに手を引かれて死にものぐるいで逃げた。
でも、所詮子どもの足じゃ限界があって。二人まとめて殺されるってところで、
あの男に助けられたの。 - 27124/11/22(金) 21:47:49
あの男が海賊をふっ飛ばしてる間に私たちは壊れかけの家のかげに隠れた。もう走る体力なんて残ってなかったし、腰が抜けてたから。
そのへんに落ちてたボロ布を被って二人でひたすら震えてたっけ。
そうしているうちに、だんだんと騒ぎが小さくなって、海賊たちの悲鳴が聞こえてきて……。
気づいたら夕方になってて、私は両親の腕に抱かれてた。あいつの親も帰ってきたみたいで、二人して親に抱きついて赤ん坊みたいにわんわん泣いたものね。
私もあいつも、その時死ななかったのは奇跡みたいなものよ。
…………あの男、っていったらそりゃあこの国では一人しか居ないでしょ。口に出させないでよ。
まあ、確かに私とあいつが助かったのはあの男のおかげ、ってことになるんだけど……。
それも全部国を騙すための嘘だったわけじゃない!
私のいとこの兄貴は国王さまの軍に勤めてたの。
でも、2年前のあの反乱で戦って死んじゃったのよ。
それもこれも、全部あの男が仕組んだことなんでしょう? 許せるわけない。
そういえば、あの男…………また新世界で動き出したそうじゃない。四皇と組んで、大げさに広告を出したりして。
私たちにとっては国を奪おうとした極悪人よ。 - 28二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 01:17:14
あ…ああああ―――――…
何も言えねえ… - 29二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 12:17:11
保守
- 30二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 12:28:03
このレスは削除されています
- 31二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 12:43:14
2年前の反乱…
なるほど - 32124/11/23(土) 15:35:58
7.海軍G-■■支部 訓練場にて 中尉
大尉について話を?
あの人は……あまり亡くなった者にこういうことを言うのは気が引けるが、手のかかる上司だったな。
自分の立場を理解せずに軽はずみなことばかりするし、そのくせうっかり者だし、おれがいくら前線に突っ込むのはやめろと注意しても耳を貸さずに怪我ばかりするし、迷子を見つけては親を探すとか言って仕事を増やすし、それの始末書を書くのに徹夜して倒れそうになるし。
少しはおれに仕事を分けろと言っても聞かないし。
……良い海兵だったよ。少なくともおれはそう思う。
部下たちからもとても慕われていた。
前線に飛び出していくのだって、一般市民の被害を少しでも減らしたいっていうあの人なりの考えがあってのことだ。
正直、複雑だよ。
大っぴらにはされていないが、あの人を殺したのは海賊でも何でもないいち市民なんだろう?
大体のことは察しがつくよ。
クロスギルドが海兵懸賞金制度を始めたと聞いたときにはどうなることかと思ったが、まさか大尉みたいな優しい海兵が……
いや、優しいからこそ生活に困ってどうしようもなくなった民衆にとっては狙いやすかったんだろうな。
おれたちが配属されたこの国を見ていれば分かるが、犯人もきっと遊ぶ金欲しさにってわけじゃなかったんだろう。
犯人を擁護するわけじゃないが、彼らの事情を考えると……やるせない気分になるよ。 - 33124/11/23(土) 15:36:57
大尉とおれは階級は違うが同期だ。
同じ2年前に軍に入って新兵どうし組まされて、朝から晩まで一緒に行動していれば身の上話もするさ。
故郷はアラバスタ王国だと言っていた。
今も何かと騒ぎの火種になっている国だが、2年前でアラバスタ王国といえばあの事件があるだろう?
スモーカー中将……当時は大佐だったらしいが、彼が王下七武海だったサー・クロコダイルの悪事を暴いて逮捕したっていう。
それでスモーカー中将に憧れて海軍に入ったのかと思ったが、聞いたらもっと昔から海兵になりたかったらしい。
きっかけについては教えてくれなかったがな。
そういう故郷の事情もあって、大尉はクロコダイルのことになると話したくなさそうな顔をするんだ。
頂上戦争に――おれたちはあの現場には召集されなかったから支部の映像電伝虫で戦場の様子を見ていたんだが――インペルダウンの脱獄囚たちが乱入したときも、あの人は震えながら地面に顔を突っ伏して泣いていた。
当然だろう、故郷の国を乗っ取ろうとした大犯罪者が再び海に解き放たれてしまったんだからな。
そんな大尉が、クロスギルドに触発された市民の手で殺された。
どういう巡り合わせだろうか。
運命ってのは残酷すぎるよ。 - 34124/11/23(土) 16:48:59
8.とある港町にて 町の若者
あァ、あいつとは友達だよ。懐かしいな。
今は確か大尉になったらしいじゃねェか。前に食堂のおばちゃんが大騒ぎしてメニュー全品半額!とか言ってたぜ。
いつも海軍に入りたいって言って勉強したりトレーニングしたりしてたな。海兵になりたいなんてクソ真面目で生意気な野郎だと思ったが、話してみれば案外話のわかるやつだったぞ。
あいつとはよくここらのメシ屋で話したもんだ。
最近のすげェ海賊についてとか、幼なじみの娘との仲はどうなんだとか。
そうそう。まァ、あんまりこの国じゃ大声で言わない方が良い名前だが……あいつ、テンションが上がるといつもサー・クロコダイルの話をしてたな。
知ってんだろ? 当時のクロコダイルの人気。
英雄だの砂漠の王だの言われてよ。
おれたち世代のこの国の子どもは、皆一度は彼に憧れて顔にペンで傷を描いたことがあるもんだよ。
その中でも特にあいつの入れ込みようったらすごかったな。
昔の手配書を集めたり新聞記事を切り抜いたりもしてたらしい。
一度マネして葉巻を吸おうとして、椅子ごとぶっ倒れてたのはめちゃくちゃ笑えたぜ。
あいつの何がすごいって、その憧れの勢いのまま本当に海兵になっちまったことだ。 - 35124/11/23(土) 16:49:33
あいつが海兵を目指すきっかけになったのはクロコダイルなんだよ。
何でも小さい頃に助けられたことがあるんだとか。
親とか親戚にはなんとなく気恥ずかしくて言えなかったそうだが、おれや仲間の前ではよく喋ってたぜ。
海賊の襲撃から命を救われて、自分もああいう強くてかっこいい男になりたいって思ったそうだ。
なんで海賊じゃなくて海軍を目指したのかって?
そりゃあお前、あの頃のクロコダイルといえばくせ者揃いの王下七武海の中で政府の命令をちゃんと聞く優等生みてェな扱いだっただろ?
だからあいつも海賊じゃなく海賊を倒す存在に憧れた、ってことだろうよ。
クロコダイルが逮捕されたとき、あいつは相当落ち込んでたぜ。
無理もねェよな。ガキの頃からずっと憧れてた英雄が国を狙う大悪党だったんだからよ。
しばらくは立ち直れないくらいへこんでたみてェだが、数日後には元気を取り戻してたらしい。
本当に立ち直れたのか空元気かは分からねェが。
その頃はおれも町を建て直したりで忙しくて会いに行けなかったし、会えないうちにあいつは海軍の船にむりやり乗り込んで国を出て行っちまったからな。
あいつにとっちゃこの国の思い出が全部汚されたようなもんだろう。
出て行きたくなるのも当然だ。
でも、それでも海兵になったんだからあいつの中で整理はついてるってことじゃねェかな。 - 36124/11/23(土) 21:31:47
7.海軍G-■■支部 訓練場にて 中尉
ひとつ言い忘れていたことがあった。
大尉の遺品整理はおれが担当したんだが、あの人の個人ロッカーの中にサー・クロコダイルの手配書が貼ってあったんだ。
最近新しく発行されたものじゃない。奴が王下七武海に入る前の、懸賞金額が8100万ベリーの手配書だ。古いもので、随分シワが寄っていた。
仇敵の手配書をすぐ目にできる所に貼って怒りを忘れないようにするということだろうが、なんとなく大尉はそんなことをしないイメージだから違和感があってな。
それにしても、よくあんな古い手配書を持っていたと思うよ。 - 37二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 00:25:07
保守
- 38二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 00:36:48
ふむふむ、面白いね
- 39二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 02:49:43
こういう一つのことをいろんな人たちがそれぞれの視点で見てる話好きだわ
- 40二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 08:38:58
保守
- 41124/11/24(日) 16:24:22
――――――――
頭が割れるように痛い。
視界が赤くぼやける。耳鳴りがうるさい。
後頭部を殴られたのだ、と自覚した頃にはもう遅かった。
頬に砂利が突き刺さり、世界が90度横転する。
一瞬前までうずくまって泣いていた少年の嬉しそうな声がした。
「お父さん!」
「ああ、ごめんな、よく頑張った。あとはお父さんに任せて先に家に帰ってなさい」
少年の走り去る足音と父親の嗚咽が聞こえてくる。ごめんなさい、ごめんなさいと震え声で唱えるのも聞こえる。
痛む頭を抱えながらなんとか起き上がろうと仰向けになったとき、男の握りしめるチラシが目に入った。
『CROSS GUILD』
海兵懸賞金制度という恐ろしいものを作り上げた四皇の一大組織。そのビラを持った男に殴られたということは、きっとこの男は――。 - 42124/11/24(日) 16:24:58
立ち上がらなくてはと思った。頭は痛むがこれくらいなら全然耐えられる。身体も動く。こんな所で死ぬわけにはいかない。
何より、この無辜の市民に殺人という罪を犯させてはならない。
彼が掴んでいたチラシが宙に舞う。手から離れた紙はゆっくりと落ち、おれの目の間に着地する。
ふと、チラシの左半分に視線を吸われた。
クロスギルド大幹部、元王下七武海、懸賞金19億6500万ベリーの大海賊。
おれの命を救った恩人にして、故郷をめちゃくちゃにした最低最悪の悪党。
そして、おれの脳裏にこびり付くどうにも振り払えない砂嵐。
サー・クロコダイル。 - 43124/11/24(日) 19:27:30
――――――――
「……やっぱりやめよう。子どもだけであんまり遠くまで行くなって言われてるもん」
「うるさい、弱虫なんだから! 家にいたってなんにも面白いことないでしょ?」
幼なじみの少女に手を引かれ、港への大通りを進む。だんだんと強くなる潮の香りに、来客の多い港特有の賑やかさ。
本当は帰りたくて仕方なかった。
しかしこの強引で勝ち気な幼なじみの手を振り払うわけにもいかず、後ろ向きな足取りで大路を歩くのだった。
不意に大きな音がした。
続いて地響きと、建物が崩れる耳障りな物音が。
そして、海賊の銅鑼声が響いた。
「金目のもんは根こそぎ奪え!! 抵抗する奴は殺せ!! 逃げる奴も殺せ!! この町はおれ達のものだァ!!!」
たちまち港は蜂の巣を突いたような大騒ぎに包まれた。人相の悪い大男たちが家を荒らし、店のカウンターをひっくり返し、通行人の金品を奪っていく。
嵐のような喧騒におれたちはしばらく身動きができないでいた。
繋いでいた手に汗がにじむ。
ついに海賊の一人がおれたちに目を向けた。唾を飛ばしてげらげらと笑いながら、背丈ほどもありそうな刀をこちらに向ける。 - 44124/11/24(日) 19:27:54
――逃げなきゃ!
弾かれたように走り出し、大通りをもと来た方へ駆け抜ける。海賊が追ってきているか、どこに逃げればいいのか考える暇なんて無かった。ただ足を速く動かすことと、左手を絶対に離さないことだけを考えてとにかく走った、走った、走った。
悲鳴と怒声と銃声が止まない。どこにも安全な場所なんてないのだろう。
「手間取らせやがってガキ共が。鬼ごっこはもう十分だろ?」
腕を掴まれた。
痛い。でも、多分これからもっと痛いことをされる。
恐怖で言葉が喉にへばりついて何も言えない。それとは対照的に、髪を掴まれた隣の少女は大声で泣き叫びながらじたばたと抵抗していた。
周囲からも数人の海賊が集まってくる。皆にやにやと下卑た笑みを浮かべ、逃げ道を塞ぐように取り囲む。
「うるせェ女のガキから先にやっちまうか?」
「悲鳴が聞こえなかったらつまらんな」
「ひとり貰いてェなあ。どっちか残しといてくれよ!」
怖かった。
目の前に突きつけられた刃物も、周囲から飛んでくる意味の分からない声も、生まれて初めて向けられる本物の殺意も、何もできずに隣で幼なじみが殺されそうになっていることも。
刀が振り上げられ、周りの野次が大きくなる。
風が吹いた。 - 45二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 03:02:58
保守
- 46二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 14:01:22
保守
- 47二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 20:30:47
保守
- 48124/11/25(月) 21:20:56
この国で生きる人は皆、強い風が吹くと反射的に目を隠す。
砂が巻き上げられて目に入るからだ。
子どもの頃からその動きが身体に染み付いているから、肌で風を感じるだけで目をつぶってしまう。
こんな生死の境でもそれは例外ではなかった。
降ってこない刃を不思議に思いながら、頬を砂粒に撫でられ目を開ける。すると、周囲を取り囲んでいた海賊たちで立っている者は一人もいなかった。
ある者は腰まで砂に埋まり、ある者は腹に大きな穴を開けられ、またある者は上半身だけ干からびたような奇妙な姿で倒れ伏していた。
そして、おれは見た。
毛皮のコートを翻し、砂嵐を操る後ろ姿を。
おれはすぐに幼なじみに手を引かれておぼつかない足取りで家と瓦礫の隙間に身を隠す。彼女は震えながらそこらに落ちていた布に包まり、耳を塞いで泣いていた。
きっとおれも彼女と同じくらい怖かったはずだ。
しかし、その時のおれは恐怖を凌駕するほどの存在に目を奪われていた。
彼女の手を握ったまま、そろそろと瓦礫から顔を出す。
ひときわ大きな砂嵐が見えた。 - 49124/11/25(月) 21:21:36
海賊が太刀を振り下ろすとそこに既に人影はなく、反対に首が黄金のフックに貫かれている。
砂塵の中から砂の刃が次々と現れては海賊を切り裂き、また砂に還っていく。
右手で受け止められた棍棒がその持ち主もろとも枯れ落ちる。
塵旋風で目標を見失った狙撃手の背後で砂が人の形を成す。
ミイラが積み重なり、砂の刃が渦を巻き、フックが煌めく。
海賊たちの怒号が悲鳴と呻き声に置き換わる頃には、
そこに立っているのはただ一人だけだった。
彼は船長らしき人物の半分干からびた亡骸を袋に詰め、大きく煙を吐く。
またひとつ強い風が吹いたかと思うと次の瞬間にはその場に人影はなく。
ただ彼の燻らす葉巻の紫煙が残るばかりだった。
この国で生きている人は皆、強い風が吹くと反射的に目を隠す。
しかし、その本能に逆らってまでおれはその光景から目を離せずにいた。
己の力に絶対の自信を持っているからこその不敵な表情も、
彼自身を縫い留めるかのような顔の傷痕も、
砂漠の太陽を反射して輝く左手も。
すべてが目を焦がすように眩しく、激しく、圧倒的だった。 - 50124/11/25(月) 21:22:31
これが憧れという言葉で表せる感情なのかは分からない。
だが、その日確かにおれの人生が変わった。
彼のようになりたいと、そう思った。 - 51124/11/26(火) 08:06:36
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雨が降っている。
何年ぶりの雨だろう。もうもうと舞っていた砂埃を抑え、誰の頭上にも等しく降り続ける雨。
周りの人々は皆喜び、歌い、天に感謝を伝えている。
そんな歓喜に満ちた空気の中で、おれはどこか胸騒ぎを覚えていた。
その感覚が間違いではないことを知ったのは翌日の朝刊だった。
『王下七武海サー・クロコダイル、国家転覆未遂により逮捕 七武海除名』 - 52124/11/26(火) 08:07:07
幼い頃に見た眩しさが脳裏に焼き付いて離れないままおれは大人になった。
クロコダイルのように強くなりたい。強くなって市民を守って、いつかは彼と並ぶような英雄と呼ばれる存在になりたい。
その一心で海兵を目指した。
ひたすら勉強に没頭し体を鍛えた。彼が海賊を捕縛したと世経に記事が出れば憧憬の思いも増し、どんな苦労も乗り越えられた。周囲も少しずつおれが本気なのだと気付き、だんだんと茶化されることも減っていった。
己の限界を知り悪魔の実の希少さを知り、彼に並ぶなんて夢のまた夢だと理解しても、憧れが消えることはなかった。
せめて彼のように一人でも多くの市民を守れたら。
彼のような素晴らしい人間に近づけたら。
しかし、そうではなかった。
望んだ姿は偽りで、すべては彼の計略の内だったのだ。
おれは何を目標にしていた?
何に憧れていたんだ?
これからどうすればいい? - 53二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 13:37:33
保守
- 54124/11/26(火) 20:24:14
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おれは最低限の荷物をまとめ両親と数少ない知り合いに別れを告げると、頭が地面にめり込むほど頼み込んで海軍の船に乗せてもらい、逃げるように国を出た。
クロコダイルが居た国に住み続けるのも嫌だったし、おれに残された行き場はそれしか無かったからだ。
海賊を倒して市民を守る存在になること、その夢だけがおれの道標だった。
それを捨てて新しい生き方を探すには14年という歳月はあまりにも長く、重い。
きっかけが何であれ海軍になって海賊から人々を守ることが悪なはずはない。そう自分に言い聞かせた。
過去を振り切りたくて任務に打ち込んでいたら、気づけば友人も後輩もできた。階級も上がった。
それでもまだ頭の中の砂埃は消えない。 - 55124/11/26(火) 21:05:20
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映像電伝虫が映す光景に、おれと横の同期は息を呑む。
海が揺れたかと思うとそれが一瞬にして凍りつき、レーザーが閃き、斬撃が飛び、マグマが降る。この世のものとは思えない地獄絵図は、おれ達を震え上がらせるには画面越しでも十分だった。
海軍G-1支部――今まさに戦場となっている海軍本部と、赤い土の大陸を隔ててちょうど反対側に位置するこの場所に警備として召集されたおれたちは、気を張りながらもモニターに大きく映されている戦争の様子に圧倒されていた。
「正直よかったよ……あんな戦場、生きて帰って来られる気がしない」
「おれたちの方も気は抜けないけどな」
隣の同期とそんな言葉を交わしていると周囲からどよめきが聞こえた。
おれたちは映像を見て、目を疑った。
凍った湾のど真ん中に軍艦が降ってきた。
辺りがにわかに騒がしくなる。
「あれは……脱獄囚に乗っ取られた軍艦か!?」
「何故あんな所に!! 確認を急げ!!」
「乗っている者で視認できたのは……麦わらのルフィ! 道化のバギー! 海侠のジンベエ! ……」
ざわめきの最中、おれは映像から目を離すことができなかった。
その面々の中に彼がいたからだ。
「サー・クロコダイル!」 - 56124/11/26(火) 21:05:49
急に足の力が抜け、地面に膝をつく。同期が心配そうに肩を叩くがそれどころではなかった。
ずっと脳内にわだかまっていた砂塵が再び形をとっておれの目の前に現れる。
インペルダウン脱獄囚、元王下七武海、懸賞金8100万ベリーの大海賊。
おれの命を救った恩人にして、故郷をめちゃくちゃにした最低最悪の悪党。
頭の中で様々な感情が渦巻いた。
周りに見られないように顔を両手で覆う。隣の同期には泣いていると思われるかもしれない。
涙すら出ず、掠れた笑いが漏れる。
胸の奥から絞り出すように誰にも聞こえない声で呟いた。
「いい加減にしてくれよ」
もういいだろ、
あんなにおれたちの心を揺さぶってまだ足りないか。 - 57二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 08:13:17
待ってる
- 58124/11/27(水) 19:57:32
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窓から月の光が差し込む凪の夜。相部屋の同僚たちはすでに眠りについているだろう。
おれは固い寝台の中で、本棚の隙間に隠した手配書を取り出す。
新聞の切り抜きも雑誌も国を出る時に全部燃やしたが、一枚だけどうしても捨てられなかった手配書。
眺めるともなしに眺めつつ思考を巡らせる。
彼は国を騙して乗っ取ろうとし、雨を奪い、反乱の火種を焚き付けて多くの人々を死に追いやった最悪の海賊だ。
正義か悪かで言ったら確実に悪。
しかし、それでも彼はおれと幼なじみの命の恩人だった。
市民を守る英雄の姿は偽りでもその強さは確かに本物で、それで救われた命もあるのだ。
悪人だといって簡単に恨むことができたらどんなに楽だったか。 - 59124/11/27(水) 19:59:47
彼がインペルダウンを脱獄しておよそ一ヶ月。表立った動きがないことに上は困惑しているようだが、おれはクロコダイルは再起の時期を待っているのだと直感していた。
できることならこのまま表舞台から消えてほしいという祈りもあったが、そうはいかないだろう。
あいつはどうせまたおれたちを裏切る。そして予想もつかないようなとんでもない大事件を巻き起こす。
もしおれの故国のようなことがまた起こったとして、力も権限もないおれには何もできないだろう。
ならば、せめて手の届く範囲は守り抜こう。
あの日のおれ自身を肯定するためにも。
そう気持ちを新たにし、おれは手配書を畳んで元の場所に戻した。
きっとこの手配書だけは一生捨てられない。