- 1二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:20:08
土曜日の夕方。遠くに聞こえるインターホンの音でぼんやりと目が覚める。寝ぼけた目で枕元の時計を確認すると、時刻は六時に差しかかろうとしていた。どうやら、休みなのを良いことに、自室でぐっすりと昼寝をしてしまっていたらしい。……いや、それはともかく、こんな休日に一体誰だろうか。配達? いや、あんまり覚えがない。ともかく、早く出よう。寝起きの喉に鞭打って声を返し、急いでドアまで向かう。
「ふあぁ……」
思わず大あくびをしながらドアを開けると、そこにいたのは担当ウマ娘のサクラローレルだった。
「こんにちは、トレーナーさん!」
「ろ、ローレル!? 何でここに……?」
一瞬で脳が覚醒したと同時に、一気に思考が巡る。今日ローレルと何か約束してたっけ……? というか今の俺は寝癖付いてるんじゃ……? あ、あくびしてる顔見られたな……。そう気づいても時すでに遅く、驚きと焦りで体が硬直した。
「えっと、今日は勤労感謝の日なので、トレーナーさんのために晩ご飯を作ってきました♪ ……でも、もしかして起こしちゃいましたか?」
「いや、全然大丈夫だよ。むしろ来てくれて本当に嬉しい。寒いだろうし、とりあえず上がってよ」
「はい、ではお邪魔します♪」
そうはにかむ彼女の手には、大きめの保温バッグが握られていた。彼女がどんな料理を作ってきてくれたのか、一気に期待が高まる。 - 2二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:21:21
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ローレルと二人で食器の準備をし終える頃には、温かい料理の香りが部屋中に満ちていた。その心地よい匂いに包まれるだけで、自然と心がほどけていくようだ。
「「いただきます!」」
二人で声を揃えて手を合わせ、箸を手に取る。まず最初に目を引いたのは、アルミホイルが乗ったお皿。そっと銀色の包みを開くと、現れたのは秋鮭のホイル焼き。開けた瞬間から、熱い蒸気とともにバター醤油の芳醇な香りがふわっと立ち上がり、鼻腔をくすぐった。脂がじんわりと乗った鮭の身が光を受けて艶やかに輝き、周りを取り囲むきのこたち——えのき、しめじ、舞茸は、鮭を引き立てるように寄り添っている。その上には、細かく刻まれた柚子の皮が散りばめられ、見た目にも秋らしさが感じられる一品だ。
「うわ、すごく良い香りだな、ローレル」
「ふふっ、自信作なんですよ♪ トレーナーさんに喜んでもらいたくて、一生懸命作ったんです! さあさあ、冷めないうちにどうぞ」
彼女の言葉に背中を押され、箸を伸ばして鮭をひと口。ふっくらとした身がほろりと舌の上で崩れたかと思うと、噛むたびにじわりと染み出すバター醤油のコクが絶妙に絡み、柚子の爽やかな香りがふわりと残る。口の中いっぱいに広がった秋の風味に、思わず目を見開いた。
「……すごく美味しい。ちょっと、想像以上すぎて言葉が出ないや」
「ありがとうございます♪ 頑張って作った甲斐がありました!」 - 3二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:22:37
鮭に舌鼓を打った後に手を伸ばしたのは、ふんわりと盛られた栗ご飯。ほのかに艷めくご飯に、ほくほくとした栗がたっぷりと混ぜこんであり、その姿は黄金色に染まる秋の田園を思わせる。ご飯を口に運ぶと、栗の自然な甘さと、わずかに効いた出汁や塩味が見事に溶け合い、噛み締める度に心もほぐれていくようだった。
「栗ご飯もたまらないね。鮭が濃厚な味付けの分、控えめな甘さがちょうどいいな」
「えへへ、ありがとうございます♪ たくさんあるので、ゆっくり食べてくださいね!」
ローレルはそう微笑みながら湯呑みを差し出した。口に含むと、茶葉の香ばしい匂いが鼻をすっと通り抜け、口の中をすっきりと洗い流してくれる。
「うん、お茶もすっきりして飲みやすい。ほうじ茶かな?」
「はい、そうです! 今日の料理にはこれが合うかな、と思ったので」
彼女の言う通り、趣のある秋の味覚にほうじ茶は相性抜群。気がつけば、次の料理に箸が伸びていた。付け合わせのきのこはバター醤油がよく染みて、その旨みはまるでお肉を食べているかのよう。かぼちゃのポタージュスープは色合いも綺麗で、優しい甘みが体の隅々まで染み渡る。
ローレルが用意してくれた料理の一つ一つに驚かされながら、食事の一瞬一瞬が小さな幸せに満たされていくのを感じるのだった。 - 4二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:23:51
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「「ごちそうさまでした!」」
食卓には綺麗に空になったお皿が並び、部屋にはまだほんのりと料理の余韻が漂っていた。ほうじ茶を湯呑みに注ぎながら、俺はほっと息をつく。
「いやぁ、全部本当に美味しかったよ。あんな手の込んだ料理を食べたのなんて……もういつぶりだろうな」
「ふふっ、ありがとうございます♪ トレーナーさんが頑張っている姿をいつも見ているので、良いお礼になったみたいで良かったです」
「いくら勤労感謝の日とはいえ、こんな気持ちのこもったお礼が貰えるなんて贅沢すぎるな。俺にはもったいないくらいだよ」
軽く肩をすくめて笑ってみせると、ローレルは優しく微笑み返す。その目線がふと卓上のカレンダーに向かうのを、俺は何となく眺めていた。
「……あれれ? トレーナーさん、今日って何日でしたっけ?」
首を傾げて、困ったように眉を下げるローレル。突然の問いかけに少し動揺しつつも、彼女と一緒にカレンダーを覗く。
「ん? 今日は土曜日だから……って、え?」
「はい、そうですよね?」
ローレルは苦笑しながら、カレンダーを指先でトントンと叩いた。その示す先を見ると、今日は22日。そしてその隣の日曜日に『勤労感謝の日』と書かれていた。
「勤労感謝の日、明日でしたね……」
「あっ、本当だ。言われるまで全然気づかなかったよ。でも、今日の方が明日も休みだし、却って良かったんじゃないか?」
「ふふっ、確かにそうかもしれないですね!」 - 5二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:25:01
彼女は微笑んで頷き、カレンダーを軽く叩きながら続けた。
「今日が22日ってことは、他にも記念日があるんですよね! 知ってますか?」
「え、何かあったっけ?」
「はい、『いい夫婦の日』です♪」
「あー、言われてみれば」
悲しいかな、独身の俺は気にしたことがないが、確かにそんな記念日があったような。
「今日みたいな日に一緒にご飯を食べたり、感謝を伝えあったり……。夫婦でそんな関係性が続けられたら素敵だと思うんです!」
ローレルは軽やかな声でそう言いながら、俺の目を捉えた。その瞳には、どこかいたずらっぽい光が宿っているように感じられる。
「トレーナーさんはどう思います?」
「えっ? ま、まあ……。俺もそういう、素朴な関係性に憧れるよ」
自分でもぎこちない答えだと思うが、ローレルは「そうですよね!」と満足気に頷いた。……その表情の奥に、何か企みのようなものを感じるのは気のせいだろうか。 - 6二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:26:14
「……じゃあ、トレーナーさん。今日みたいな日に夫婦は何をするものなのか、今ここで『練習』してみませんか?」
「へっ?」
思わぬ提案に、間抜けな声が出てしまった。そんな俺の反応を楽しむように、ローレルはくすくすと笑いながら続けた。
「ほら、こういう記念日って、慣れてないと恥ずかしくて結局何もできずに終わる、なんてこともあると思うんです! 一緒に食事を食べるのはもうやったので、感謝の気持ちを伝え合う方も練習しておけば、いつか役に立つかもしれませんよ♪」
「いや、まあそうかもしれないけどさ——」
「じゃあ、決まりですね!」
有無を言わさない笑顔に押し切られ、結局俺は頷くしかなかった。 - 7二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:27:23
「トレーナーさん、いつも私を支えてくれてありがとうございます! ……えへへ、今日何度も感謝は伝えてきましたけど、改めて言うと何だか照れちゃいますね♪」
彼女の頬が、ほんのりと赤く染まる。しかし、その笑顔は、視線は、どこまでも優しくて、真っ直ぐで。どうすべきか少し迷いながらも、しっかりと言葉を返した。
「……ああ、俺の方こそ、本当にいつもありがとう。いつも頑張ってくれて……君のその姿で俺も頑張れてるよ」
「ふふっ、上手くできましたね! これで『本番』の時も安心です♪」
本番——その言葉が妙に引っかかる。
「本番って……どんな状況を想定してるんだ?」
「ふふっ、それは……いつか来る未来のために、です♪」
そう言って、ローレルは茶目っ気たっぷりに笑った。その瞳の奥には、確かに何かを期待しているような光が宿っている。だが、これ以上追及するのが少し怖くて——ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
部屋にほのかに漂う料理とお茶の香りが、少しだけ甘く感じられるのは、俺の錯覚だろうか——。 - 8二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:27:59
以上です。ありがとうございました。
- 9二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:38:19
こんな時間に飯テロはえげつないぞ…栗ご飯いいなあ
- 10二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:44:28
いい夫婦の日に……やはりローレルは策士よのぉ……
- 11二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 21:51:44
良いssをありがとうございます
- 12二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 02:23:53
- 13二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 11:47:43
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- 14二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 23:05:48
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- 15二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 10:07:41
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- 16二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 21:51:32
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