(トレウマSS)主として、杖として

  • 1◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:13:49

    「お母様、いつもありがとうございます」

    「こちらこそありがとねエアグルーヴ!」

    今日は勤労感謝の日。普段働いている事に対して互いに感謝し合う日という事でエアグルーヴは彼女の母親に感謝の気持ちを伝えていたのである。

    「そういえば貴方のトレーナーさんとはどうなの?」

    「な……ち、違います!私と彼はそんな関係では!」

    感謝を述べ、他愛のない会話をしていると突如母親の方から彼女のトレーナーについての話を切り出された。

    「あらそうなの?でも有名よね。女帝と彼女の杖に憧れるって話をよく聞くわよ?」

    思わず素っ頓狂な声を上げたグルーヴに対して電話越しでもニヤニヤしているのが分かる程の声で母親は続ける。

    「……そうですね、彼は私の事をトレーナーとして支え続けてくれています。……積極的過ぎな所もありますが」

    「本当にあなたの為に頑張ってくれているのね。今日は勤労感謝の日なんだからトレーナーさんにも感謝の気持ちを伝えなくちゃ。きっと喜ぶわよ」

    「え?そ、そうですね」

    (確かにお母様の言う通り、時には労わんとな……)

    そう内心で呟いたグルーヴは母親との通話を終えた後、トレーナー室へと向かうのであった。

  • 2◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:14:09

    所変わってトレーナー室。エアグルーヴのトレーナーはいつものように机に座り仕事に励んでいた。

    「よし、これを終えたから次は……」

    (最近眠れないし食欲もない……だけど好都合だ。その分の時間を彼女の為に費やす事ができる……!)

    これも全ては自身の担当の為……そう思いながら手元にあった栄養剤の蓋を開けて中身を一気に飲み干すと、トレーナーは再びパソコンと対峙する。
    すると後ろからドアの開く音がしたのである。

    「またこんなに散らかして……全く」

    溜め息をつきながら部屋に入ってくるのは彼の担当バであるエアグルーヴ。後ろから不意に聞こえた彼女の声に立ち上がりながら振り向くトレーナーであったが……

    「おっ、丁度いい所に。今後のトレーニングのけ……ん…だ……け……………」

    「お、おい!どうしたんだ貴様!」

    (あれ……? めま…い…い…しきが………え……あ……)

    立ち上がった瞬間襲いかかる強烈な目眩にトレーナーの視界は回り揺れて定まらない。
    足も覚束なくなり、意識が遠のきながら倒れ込む。

    「トレーナー!!!!」

    遠のく意識の中、トレーナーが最後に見た光景は今まで見た事のない青ざめたエアグルーヴの顔であった。

  • 3◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:14:27

    トレーナーが目を覚ますとベットの上にいた。

    「あっ、気が付きましたか!」

    声がしたのでトレーナーが振り向くと保健医がそこにいたのでどうやらここは保健室らしいと彼は理解した。
    そして辺りを見回すと時計が見え、最後に意識があった頃から数時間経っていた事が分かった。

    「ビックリしましたよ、エアグルーヴさんが意識の無い貴方をここまで連れてきた時はどうなる事かと……」

    「彼女はどこに?」

    「確か貴方の部屋を掃除しにいくと言っていましたけど……それにしても貴方は働き過ぎです!」

    強めの口調で指摘する保健医。食欲の低下や眠れなさ、それらは全て過労による症状だと丁寧に伝えられる。
    思い当たる節が多過ぎるトレーナーは真剣に聞きながらも苦笑いをしていたのであった。

    「とにかく、担当の子の為に頑張るのも素晴らしいですけどそれが理由で倒れて悲しませるのなんて以ての外です!」

    「すみません……」

    「ならば気をつけてくださいね? 彼女、凄く心配してたんですから。早く安心させてあげてくださいね」

    「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました……」

    そうトレーナーは保健医にお礼を言い、部屋を出てトレーナー室に向かったのであった。

  • 4◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:14:44

    (掃除に集中できん……)

    エアグルーヴはトレーナー室で掃除をしていたがどこか普段と違い中々進まない。
    保健医からトレーナーについては何も問題は無いとは言われてはいたのだが内心穏やかではなく、掃除どころではなかったのだ。
    積み重なっている栄養剤の空き瓶とまだ開けていない箱。机の上に置かれている大量の書類……見れば彼女の今後の練習内容だけでなく生徒会の仕事のものまでありそれを見たエアグルーヴの動きが止まる。

    「私の生徒会の仕事まで………」

    肩を振るわせながら彼女が唇を噛み締めていると、背後からドアの開く音。
    振り向けばそこにはトレーナーの姿があったのである。

    「……もう大丈夫なのか?」

    「大丈夫さ。心配かけてごめ……」

    「こっちへ来い」

    「え?急にどうし……」

    「いいから来い」

    恐る恐るエアグルーヴの前に移動するトレーナー。叱責されるのだろうか、それともビンタの1発でも貰うのだろうかと覚悟した瞬間———

  • 5◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:15:00

    突然引っ張られたかと思えばトレーナーの視界には天井が広がっていた。

    「全く……大丈夫な訳がないだろう、たわけ」

    呆気に取られるトレーナーの顔を上から覗き込むようにエアグルーヴの顔が見えた。
    今、トレーナーはエアグルーヴに膝枕をされているのである。

    「貴様は働き過ぎだ。少しは身体を労われ……これは特別だからな?」

    そう優しく言い聞かせながらトレーナーの頭を撫でているといつの間にかトレーナーは眠ってしまっていた。
    保健室に運んだ時とは違い穏やかな顔で眠っているトレーナーの寝顔がそこにあった。

  • 6◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:15:15

    「思えば私は貴様の働きをいつしか杖として当然と思ってしまっていた……。もし私が……あの時トレーナー室に向かわなければ……今頃貴様は…………」

    ———ごめんなさい

    そうエアグルーヴが口に出そうとした瞬間、彼女の口元に人差し指が当てられる。

    「はいそこまで。君は悪く無いよ?」

    「……貴様起きて………!?」

    「これは自分の不注意、自分自身で直していけばいいだけの話。それに君のため、君の歩む道のため、君を導けるならどんな事だって…‥」

    「たわけ」

    トレーナーのその言葉を打ち消すようにエアグルーヴの声が優しく静かに響く。その言葉に驚き目を泳がせているトレーナーを見ながら彼女は続ける。

  • 7◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:15:32

    「貴様は私のトレーナー……女帝の杖だろう?」

    「そ、そうだけど……」

    「杖なら私を支えるのが役目だろう? 私の目指す道を、その歩みを支えるのが杖だ。だが貴様は私の生徒会の仕事も……それ以外の全ても背負って独りで道を切り拓こうとした」

    優しく眼差しでトレーナーを見つめ続け、頭を撫で続けるエアグルーヴ。トレーナーの知る限り先輩後輩、そして母親にも見せた事のないその顔に彼は見惚れていた。

    「杖ならば……私を支えて私と共に歩いてくれれば良いんだ。導きなんていらない。共に悩んで…喧嘩して…謝って…理解して…そして道を切り拓けば良い」

    「だからもう独りで抱え込むな。杖が勝手に主の届かない所で……壊れようとするな………」

    優しくも悲しげなエアグルーヴの眼差し。そんな彼女の瞳には涙を流しているトレーナーの姿が映し出されていた。

  • 8◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:15:50

    「ごめんな……ほんとうにごめんな………」

    「分かれば良い。それに私の方こそ気付けずにすまなかった……それと……」

    「いつもありがとう、トレーナー」

    「……! そう言えば今日は確か…………」

    膝枕の状態で顔を少し動かし壁にあるカレンダーを見るトレーナー。仕事のし過ぎでイベント等も忘れる程の人物、やっと今日が何の日か思い出したようだ。

    「やっと思い出したか。だがもう、今日だから伝えるなんてするものか。こうして互いが互いの事を知れたのだ、常に感謝し支え合っていこう………良いな?」

    「分かったよグルーヴ。それとありがとな。お陰で疲れも……」

    そう言って起きあがろうとするトレーナーの頭を押さえつけるエアグルーヴ。少し抵抗したが観念したトレーナーを見て溜め息混じりにいつもの調子で語りかける。

    「なら今日は休め。全く、少しは自らの身体も労わる事を学ぶべきだぞ?」

    「そうだな、ならお言葉に甘えて休むとしますか」

    「丁度休日だ、貴様がまた無理をしないように今日は見張らせて貰うぞ?」

    そう言いながら苦笑し合うエアグルーヴとトレーナー。こうして新たな女帝と杖の第一歩と共に一日が過ぎていったのであった。

  • 9◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:16:08

    後日、トレーナー室———

    「その書類は生徒会で対応しよう、貴様はこちらの書類を頼む」

    「ありがとグルーヴ。そっちのも併せてやっとくよ」

    トレーニングを終えた二人はトレーナー室で書類のチェックを行っていた。
    トレーナーが倒れたあの日、生徒会関連の書類の一部も彼が仕事をしていた事を知ったエアグルーヴは自らトレーニング後に書類のチェックをさせて欲しいと申し出たのである。

    「ごめんな、大の大人が生徒に仕事を手伝わせる形になって……」

    「たわけ、そうやって全て抱え込んだから貴様は倒れたのだろう? それに生徒会関連のものは私に任せておけ。議論や最終的な判断はこちらでするのだからな」

    そんな言葉を交わしながら黙々と仕事を続ける二人。今できる事とそうでは無い事、自分で出来るものか他の人物に任せた方が良いのかどうかを仕分け、あっという間に片付いたのである。

    「これで片付いたか。今までこれ全てを貴様一人でこなしていたのだな……」

    「全部が全部一日で出来てた訳じゃないけどね」

    「全く……」

    照れ隠しに頭をかきながらそう語るトレーナー。
    だがその苦笑いの裏に隠された苦労を知っているグルーヴは溜め息をつく。
    そしてそんな彼を支えていくのだと改めて決意したのである。

  • 10◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:16:25

    「一通り終えたから少し休憩するか。君だって身体を休めなきゃいけないからね」

    そんな彼女の様子を知ってか知らずかトレーナーは語りかける。

    「そうだな……流石にトレーニング後のデスクワークは疲れるからな」

    「それじゃグルーヴに膝枕でもしてあげますか……なんてね」

    「たわけ、そんなものは必要ない……が、貴様が問題ないのであれば膝ではなくこちらを貸してくれ」

    そう言ってソファに座るトレーナーの隣に座り、自身の頭を彼の肩にのせるエアグルーヴ。そしてそのままトレーナーの手を優しく握るとその手を裏返し、まるで恋人繋ぎの様であった。

  • 11◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:16:44

    「グルーヴの手、暖かいな……」

    「貴様こそ」

    そう呟くと彼女の手を握る力が少し強くなる。

    「だからこそ怖かった。あの時貴様が倒れた時、この暖かさが無くなってしまうと………」

    そんな彼女に対してトレーナーは彼女の手を握る力を少し強める。

    「もうあんな事はしないさ。君が自分を必要とするまで……杖の役目を終えるまでは」

    「たわけ……っ、誰が貴様を手放すものか……貴様は……トレーナーは誰にも渡さない、誰にも譲らない。私の杖だ…私だけのトレーナーだ……」

    正面を向きながらエアグルーヴの言葉を黙って聞いているトレーナー。
    凛々しくも震える声……
    彼女の顔は見ていないが彼には今の彼女の様子がしっかりと分かっていた。
    故に今の彼が杖として主にすべき事は一つ———

  • 12◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:17:02

    「大丈夫、俺はずっと君だけの杖のままでいるよ。これまでも、そしてこれからも」

    彼女の頭に自分の頭を傾け、あの時の彼女のように優しく囁くトレーナー。
    エアグルーヴはその言葉に対してすぐには返さなかった。だが彼女の顔を見なくても、呼びかけなくても、その肩の震えだけで今の彼女の様子をトレーナーは理解していた。

    「全く、それでは他のウマ娘を担当する事が出来ないではないか……」

    暫くして揶揄うように、しかし優しい声でそう呟くエアグルーヴ。そんな問いにトレーナーは間髪入れずに彼女の問いに答え始める。

    「トレーナーの仕事は続けるさ。他の子の"担当"として支えていく事を。………でも」

    「『杖』として支えていくのは君だけだ。エアグルーヴ」

    直後エアグルーヴの耳と尻尾がピンと跳ね上がる。そしてそのまま揺れ動きトレーナーの身体にペチペチと当たり続ける。

    「ありがとう、トレーナー」

    トレーナーの言葉にそう返すエアグルーヴ。
    たった一言、だがこの二人にとって互いの思いを伝え合うのにはその一言で十分であった。

  • 13◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:17:21

    気付けば日も暮れ、夜の帳が下りようとする時間。そんな空模様を見てトレーナーはふと思った様に口を開く。

    「忙しいと一日があっという間だな……」

    「そうだな……改めて仕事や働く事の大変さを今回学ぶ事ができた……だからこそ」

    机の上にある片付いた書類の山を見て呟くエアグルーヴ。その後少し深呼吸をして話を続ける。

    「だからこそ特別な日だけではない。毎日が働く者への感謝日なのだと……そう思うのだ」

    「ならいつも頑張ってる君もさ。……ありがとうグルーヴ、いつも俺を支えてくれて、信じてくれて」

    「たわけ……だがそう言われるのも悪くはないな……」

    互いの手を握る力が強くなる。
    ソファの上で互いに寄り添う今の二人には、部屋に響く時計の針の音と互いの心音だけが聞こえていた。

    「それじゃ、明日も頑張ろうか」

    「ああ、これからもよろしく頼むぞ」

    貴様は私の理想なのだからな———

    互いへの感謝の気持ちの大切さを知ることでより深い絆で結ばれた女帝とその杖。
    きっとこれからも互いに支え合いながら長い道のりを共に歩んでいくのだろう。
    そんな未来を指し示す様に寛ぐ二人の手は離れる事なく握られていたのであった。

    そして寄り添い合うその姿をひっそりと見てしまったとある後輩によって二人は学園一のおしどり夫婦の様だと呼ばれる様になるのはまた別の話。

  • 14◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 22:18:06

    今日は勤労感謝の日という事でお話を一つ
    以上になります

  • 15二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 22:18:29

    最近エアグルーヴスレ多くない?
    寒くなってきたことと関係あるのかな

  • 16二次元好きの匿名さん24/11/23(土) 22:41:55

    母親には逆らえない女帝

  • 17◆KCGLc8LihHGd24/11/23(土) 23:02:41

    >>15

    寒い時期にはグルーヴが見せる暖かさが身に染みるのです


    >>16

    尊敬する母親の言葉は大きいものなのかもしれませんね……

  • 18二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 07:51:26

    おつおつ!
    女帝の膝枕とか絶対気持ち良いだろうな

  • 19◆KCGLc8LihHGd24/11/24(日) 08:30:15

    >>18

    正直トレーナーが羨ましい……!

  • 20二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 20:13:36

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